(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024035986
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】タービン翼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F01D 25/00 20060101AFI20240308BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
F01D25/00 V
F01D25/00 W
F01D5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140659
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】泉 岳志
【テーマコード(参考)】
3G202
【Fターム(参考)】
3G202EA04
(57)【要約】
【課題】タービン翼の酸化減肉を目視確認し易くする。
【解決手段】翼部を備えたタービン翼において、上記翼部の減肉により露出する減肉標識を、上記翼部の内部に形成する。上記減肉標識は、例えば上記翼部の先端側部分に設ける。また、例えば、上記翼部の少なくとも一部が溶融凝固組織からなり、上記減肉標識が未焼結粉末からなる。また、例えば、翼部の少なくとも一部と上記減肉標識が溶融凝固組織からなり、上記減肉標識は上記翼部の表面と異なる材料で形成される。また、上記減肉標識は、上記翼部の表面からの距離に応じて露出形状又は露出サイズが変化するように形成しても良い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼部を備えたタービン翼において、
前記翼部の減肉により露出する減肉標識が、前記翼部の内部に形成されているタービン翼。
【請求項2】
請求項1のタービン翼において、
前記減肉標識が、前記翼部の先端側部分に設けられているタービン翼。
【請求項3】
請求項1のタービン翼において、
前記翼部の少なくとも一部が溶融凝固組織からなり、前記減肉標識が未焼結粉末からなるタービン翼。
【請求項4】
請求項1のタービン翼において、
前記翼部の少なくとも一部と前記減肉標識が溶融凝固組織からなり、前記減肉標識は前記翼部の表面と異なる材料で形成されているタービン翼。
【請求項5】
請求項1のタービン翼において、
前記減肉標識が、前記翼部の表面からの距離に応じて露出形状又は露出サイズが変化するように形成されているタービン翼。
【請求項6】
翼部を備えたタービン翼の製造方法において、
前記翼部の減肉により露出する減肉標識を、前記翼部の内部に積層造形により形成するタービン翼の製造方法。
【請求項7】
請求項6のタービン翼の製造方法において、
前記減肉標識と共に前記タービン翼を積層造形により新規製造するタービン翼の製造方法。
【請求項8】
請求項6のタービン翼の製造方法において、
既存のタービン翼の一部を除去し、
前記一部を除去した部分に積層造形により前記減肉標識を形成するタービン翼の製造方法。
【請求項9】
請求項6のタービン翼の製造方法において、
既存のタービン翼の減肉部分に積層造形により前記減肉標識を形成するタービン翼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン翼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンや蒸気タービンにおいては、燃焼ガスや蒸気といった作動流体の主流路にタービン翼(静翼及び動翼)を備えており、タービン翼によって作動媒体のエネルギーから機械仕事を得る(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タービン翼は、運転時に高温の作動流体に晒され、経年使用に伴って酸化し減肉する。このようなタービン翼の減肉損傷の有無は、定期点検等の機会に、タービンケーシングに設けた小さな点検口からボアスコープを挿入し、ボアスコープによる撮影画像を点検者が目視することで確認される。しかし、ボアスコープの操作は難しく、ボアスコープを巧みに操ってタービン翼の目的の部位を明確に撮影することは容易ではない。タービン翼の酸化減肉は、減肉の程度、照明条件、光軸角度、ワーキングディスタンス等によりボアスコープによる撮影画像上の見え方が大きく変化し、画像上で的確に評価することは存外に難しい。例えば、画像上でタービン翼の減肉損傷が確認されてタービンケーシングを開放してみたところ、現実には目的のタービン翼にほとんど酸化減肉がなく、タービンケーシングの開閉に工数を浪費して工期が延びる場合もある。
【0005】
本発明の目的は、酸化減肉を目視確認し易くすることができるタービン翼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、翼部の減肉により露出する減肉標識が上記翼部の内部に形成されたタービン翼を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タービン翼の酸化減肉を目視確認し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るタービン翼を備えたターボ機械の一例であるガスタービンの部分断面図
【
図2】
図1に示したガスタービンのタービンの動翼の模式的な斜視図
【
図3】
図2中の断面線A-A’による動翼の矢視断面図
【
図4】
図2に示した動翼の翼部のコード線に沿った断面図
【
図5】
図2中の断面線A-A’による動翼の矢視断面図の別の例
【
図6】本発明に係るタービン翼の製造方法の工程の一例を示すフロー図
【
図7】本発明の第2実施形態に係るタービン翼の模式的な斜視図
【
図8】
図7中の断面線B-B’による動翼の矢視断面図
【
図9】
図7中の断面線C-C’による動翼の矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
(第1実施形態)
-ターボ機械-
図1は本発明の第1実施形態に係るタービン翼を備えたターボ機械の一例であるガスタービンの部分断面図である。この図に示したガスタービンは、大気A1を吸い込んで圧縮する圧縮機10、圧縮機10からの圧縮空気A2を燃料Fと共に燃焼する燃焼器20、及び燃焼器20からの燃焼ガスG1によって駆動されるタービン30を備えている。
【0011】
圧縮機10のロータ11とタービン30のロータ31は同軸上に連結されている。また、ロータ11又はロータ31には、負荷機器として例えば発電機が連結される。これによってタービン30のロータ31と共に発電機が回転し、ロータ31の回転エネルギーが電気エネルギーに変換される。ロータ31に軸動力を与えた燃焼ガスG2はガスタービンから排出され、例えば浄化装置等を介して放出される。負荷機器としてポンプが連結され、ガスタービンがポンプの原動機として用いられる場合もある。
【0012】
圧縮機10のロータ11は、ガスタービンの外郭をなすケーシング9の内部に回転自在に収容されている。ロータ11は、外周部に動翼12を周方向に複数設けたディスク13を軸方向に交互に複数積層して構成されている。また、ケーシング9の内側には、各段落において動翼12の下流側に対向するように静翼14の環状翼列が固定されている。つまり動翼12の1つの環状列とその下流側に対面する静翼14の1つの環状列とで1つの段落部が形成されている。
【0013】
燃焼器20には、燃料Fと圧縮空気A2を燃焼させる燃焼室を形成する燃焼器ライナ21や、燃焼器ライナ21をタービン30に接続する尾筒22の他、図示していないが、燃焼器ライナ21や尾筒22を包囲するアウタケーシングやバーナ等が備わっている。燃焼器ライナ21及び尾筒22とアウタケーシングの間には円筒状の空気流路が形成される。
【0014】
タービン30のロータ31は、ケーシング9の内部に回転自在に収容されている。ロータ31は、外周部に動翼32を周方向に複数設けたディスク33とスペーサ34とを軸方向に交互に複数積層して構成されている。また、ケーシング9の内側には、各段落において動翼32の上流側に対向するように静翼35の環状翼列が固定されている。つまり動翼32の1つの環状列とその上流側に対面する静翼35の1つの環状列とで1つの段落部が形成されている。
【0015】
図示していないが、ケーシング9には、ボアスコープを挿入する小さな点検口が複数個所に設けられている。これら点検口はプラグで塞がれており、ボアスコープを挿入する際にプラグを取り外して開放される。また、ケーシング9は、上下に二分割された上下半割れ構造であり、上半側ケーシングと下半側ケーシングのフランジを多数のボルトで締結して構成されている。ロータ11,31や動翼12,32、静翼14,35をメンテナンスする際には、上半側ケーシングと下半側ケーシングとの締結を解き、上半側ケーシングを取り外してケーシング9を開放する。
【0016】
図1のガスタービンにおいて、高温の燃焼ガスG2に晒されるタービン30の動翼32及び静翼35が、本発明に係るタービン翼に該当する。また、本例ではガスタービンを例示しているが、蒸気タービンの動翼及び静翼にも本発明は適用可能である。また
図1では単軸のガスタービンを例示しているが、二軸式ガスタービンのタービン翼にも本発明は適用可能である。以下、本発明に係るタービン翼の一例として、タービン30の動翼32について詳細を説明する。
【0017】
-タービン翼-
図2は
図1に示したガスタービンのタービンの動翼の模式的な斜視図、
図3は
図2中の断面線A-A’による動翼32の矢視断面図、
図4は動翼32の翼部41のコード線(翼の前縁と後縁を結んだ線、翼弦線とも称す)に沿った断面図である。
【0018】
図2-
図4に示すように、動翼32は、翼部(翼プロフィル)41、シャンク部42、ルート部43等を含んで構成される。シャンク部42は、プラットフォーム44とラジアルフィン45を備えている。
【0019】
動翼32の翼部41の内部には、翼部41の減肉により露出する減肉標識50が、積層造形(AM)により形成されている。減肉標識50は、動翼32の完成時において、翼部41の表面付近(例えば翼内部において翼表面まで1,2mm程度の場所)に位置しており、動翼32が高温酸化等により減肉した際に翼表面に露出して明確に視認される(顕現する)。翼部41の表面とは、翼部41の先端面、負圧面及び圧力面の少なくとも1つをさす。
【0020】
積層造形の具体的な手法としては、例えば、敷き詰めた金属粉末の造形する部分を熱源となるレーザや電子ビームで溶融させて凝固させるパウダーベッド方式や、溶融した金属材料を所定の場所に積層させ凝固させて造形するメタルデポジッション方式がある。パウダーベッド方式には、例えば、レーザビームを熱源とするレーザビーム方式や、電子ビームを熱源とする電子ビーム方式がある。メタルデポジッション方式には、例えば、金属粉末を噴射すると同時にレーザで溶融するレーザビーム方式や、金属ワイヤーをアーク放電により溶融するアーク放電方式がある。積層造形で動翼32を製造する装置としては、金属3Dプリンタを用いることができる。
【0021】
また、減肉標識50は、積層造形の未焼結粉末、又は翼部41の表面と異なる材料で形成される。未焼結粉末で減肉標識50を形成する場合、例えば動翼32の材料の粉末をレーザ等で溶融させて積層する際に、減肉標識50の形成位置へのレーザ照射を避けることで、翼部41の断面内部に未焼結粉末が封入された減肉標識50を形成することができる。このようにして、翼部の少なくとも一部が溶融凝固組織からなり、減肉標識50が未焼結粉末からなるタービン翼が製造される。動翼32の材料は、例えばニッケル基合金である。翼部41の表面と異なる材料で減肉標識50を形成する場合、動翼32を積層造形で形成する過程で、減肉標識50の形成位置のみ、材料粉末を翼部41の材料(例えばニッケル基合金)から異種材料(例えばコバルト)に切り換える。これにより、翼部の少なくとも一部と減肉標識50が溶融凝固組織からなり、減肉標識50は前記翼部の表面と異なる材料で形成されているタービン翼が製造される。
【0022】
減肉標識50は、動翼32そのものを積層造形する場合には、動翼32を新規に製造する過程で動翼32の所望部に積層造形により形成される。また、既存の動翼32に減肉標識50を形成する場合には、動翼32の所望部を除去し、所望部が除去された部分に減肉標識50を積層造形により形成する。その他、例えば経年の使用により動翼32に肉盛り補修が必要な減肉部分が発生した場合、その減肉部分に積層造形により減肉標識50を形成することもできる。所望部とは、動翼32における減肉が進行し易い場所であり、例えば翼部41の先端側部分である。本実施形態において、動翼32には、翼部41の先端部にのみ減肉標識50を設けてある。
【0023】
本実施形態においては、
図2-
図4に示した通り、翼部41の先端面付近において負圧面付近から圧力面付近まで延びる減肉標識50を、翼コード長方向に複数(
図3では5つ)並べて配置した構成を例示している。この場合、翼部41の先端部において、先端面、負圧面又は圧力面に減肉が生じると(減肉標識50の外側部分がなくなると)減肉標識50が露出する。但し、
図2-
図4に示した減肉標識50の構成例は一例であり、減肉標識50の位置や形状、大きさについては適宜変更可能である。例えば
図5に示したように、個々の減肉標識50の大きさを細分化し、翼コード長方向のみならず、負圧面から圧力面に向かう方向にも小さな減肉標識50が並ぶ構成とすることもできる。なお、
図5は
図3に対応する図であり、
図2中の断面線A-A’による動翼32の矢視断面図に相当する。
【0024】
なお、動翼32には、冷却空気を通す冷却流路が翼内部に設けられることがある。内部に冷却流路を持つ動翼32の場合、翼部41の先端において、翼先端面に最も近い冷却流路と翼先端面との間、負圧面に最も近い冷却流路と負圧面との間、圧力面に最も近い冷却流路と圧力面との間の少なくとも1箇所に、減肉標識50が形成される。
【0025】
-製造方法-
本発明に係るタービン翼の製造方法は、翼部41を備えた動翼32の製造方法であって、翼部41の減肉により露出する減肉標識50を、翼部41の内部に積層造形により形成する。動翼32を新規に製造する場合には、減肉標識50と共に動翼32そのもの(全部)を積層造形により製造することができる。既存のタービン翼を改造して動翼32を製造する場合には、既存のタービン翼の一部を除去し、一部を除去した部分に積層造形により減肉標識50を後付けで形成することができる。また、減肉した既存のタービン翼を補修して動翼32を製造する場合には、既存のタービン翼の減肉部分に積層造形により減肉標識50を後付けで形成することができる。減肉した部分の減肉量によっては、減肉標識50の形成に必要な分だけ動翼32を必要に応じて一部切除し、そこに積層造形により減肉標識50を形成する。減肉量が減肉標識50を形成するのに十分な場合には、動翼32の一部切除は必ずしも必要ない。
【0026】
図6は本発明に係るタービン翼の製造方法の工程の一例を示すフロー図である。
図6に例示する製造方法は、損傷検査工程S1、補修範囲決定工程S2、標識位置決定工程S3、損傷個所下地処理工程S4、積層造形工程S5、整形加工工程S6、溶体化-時効熱処理工程S7、仕上・検査工程S8を含み、この順で行われる。なお、
図6のフローは、既存のタービン翼の損傷箇所を補修して本発明に係るタービン翼を製造する例の工程を表している。以下、各工程について説明する。
【0027】
・損傷検査工程S1
損傷検査工程S1は、例えばガスタービンの定期点検時に、所定時間使用したタービン翼に、損傷(例えば、運転中の振動に起因する接触磨耗、高温の燃焼ガスに晒されることによる酸化減肉、飛来物の衝突に起因するクラック等)の有無を検査する工程である。この損傷検査工程S1では、タービン翼に損傷が見つかった場合に、その損傷が以降の工程で減肉標識50の形成対象となる減肉損傷であるのか否かの判定が併せて行われる。減肉標識50の形成対象となる減肉損傷のないタービン翼は、次の補修範囲決定工程S2以降の工程の施工対象から外される。
【0028】
なお、タービン翼を新規に製造する場合には、この損傷検査工程S1は省略される。
【0029】
・補修範囲決定工程S2
補修範囲決定工程S2は、損傷検査工程S1で減肉標識50の形成対象となる減肉損傷があるタービン翼を対象として、補修する減肉部の減肉量を測定し、減肉部を補修するために必要な翼部の切除量を特定し補修範囲を決定する工程である。補修範囲は、積層造形を施工する範囲に等しい。また、補修範囲決定工程S2において、決定した切除量に基づいて減肉部を含めて翼部41の対象部分を機械加工等により除去する。
【0030】
なお、タービン翼を新規に製造する場合には、補修範囲決定工程S2も省略される。
【0031】
・標識位置決定工程S3
標識位置決定工程S3は、減肉標識50から翼表面までの距離、その他の要素(例えば翼内の冷却流路)と減肉標識50との位置関係等を考慮し、翼部41における減肉標識50の位置、大きさ、形状等を決定する工程である。
【0032】
なお、タービン翼を新規に製造する場合には、減肉標識50の位置、大きさ、形状等は設計により決定されるため、標識位置決定工程S3も省略される。
【0033】
・損傷個所下地処理工程S4
損傷個所下地処理工程S4は、補修範囲の基材(翼部41の材料)の表面に下地処理を行う工程である。この損傷個所下地処理工程S4では、補修範囲の劣化した基材(翼部41の材料)を処理し、補修範囲の表面を薄く削り又は洗浄して補修範囲の表面を清浄化する。下地処理には、種々の方法、例えば、切削、研削、ショットピーニング、酸洗浄等を適宜適用することができる。このように下地処理を行うことにより、後工程で行う積層造形により形成する部分の付着性や固着性が向上する。
【0034】
なお、タービン翼を新規に製造する場合には、損傷個所下地処理工程S4も省略される。
【0035】
・積層造形工程S5
積層造形工程S5は、下地処理された補修範囲に積層造形を適用し、減肉標識50を内蔵する後付け部分を補修範囲に形成し、減肉標識50を内蔵する後付け部分で補修範囲を埋める工程である。この積層造形工程S5は、前述したように金属3Dプリンタを用いて行われる。
【0036】
なお、タービン翼を新規に製造する場合、積層造形工程S5は補修範囲だけでなくタービン翼全体の造形に適用される。
【0037】
・整形加工工程S6
整形加工工程S6は、積層造形した部分に対し、例えば冷間塑性加工や温間塑性加工を施して、積層造形した部分で形成される翼表面の形状を整える工程である。ここで行う整形加工方法に特段の限定はなく、例えば、冷間塑性加工及び温間塑性加工の一方又は双方に代えて又は加えて、機械加工を適用することもできる。
【0038】
・溶体化-時効熱処理工程S7
溶体化-時効熱処理工程S7は、積層造形した部分を調質する工程である。例えば積層造形の材料としてニッケル基合金を用いた場合、溶体化処理では合金中のγ’相をγ相中に固溶させ、時効処理ではγ相の結晶粒内にγ’相を再析出させる。溶体化熱処理及び時効熱処理の条件は、動翼32の材料や、タービン翼の使用環境に合せた条件を適宜適用することができる。熱処理雰囲気は、大気圧以下の非酸化性雰囲気(例えば、窒素ガス中、アルゴンガス中、真空中)が好ましい。
【0039】
・仕上・検査工程S8
仕上・検査工程S8は、溶体化-時効熱処理工程S7の後、積層造形した部分の仕上げ作業や外観検査を行う工程である。この仕上・検査工程S8において、必要な場合には、積層造形した部分の表面に熱遮蔽コーティング(TBC)を施工する。但し、仕上・検査工程S8は、必ずしも必要ではなく、不要な場合には省略可能である。
【0040】
以上の一連の工程を経て、減肉標識50を内蔵した本発明に係るタービン翼を製造することができる。
【0041】
-効果-
(1)上記の通り、本実施形態に係る動翼32(タービン翼)には、翼部41の減肉により露出する減肉標識50が翼部41に内蔵されている。ガスタービンの運転に伴って動翼32に減肉が生じると、翼部41の内部に設けた減肉標識50が露出する。
【0042】
上述した通り、減肉標識50は、積層造形の未焼結粉末、又は翼部41の表面と異なる材料(例えばコバルト)で形成される。減肉標識50を積層造形の未焼結粉末で形成する場合、減肉標識50は粉末の抜けた空洞部(穴)として顕現する。減肉標識50を翼部41の表面と異なる材料(例えばコバルト)で形成する場合、動翼32の基材(ニッケル)が酸化すると緑色になる一方で、コバルトは青色になり、減肉標識50が周囲と異なる色で顕現する。このように減肉標識50は視覚的に明確に顕現するため、ケーシング9の点検口(不図示)から挿入したボアスコープにより、照明条件や光軸角度によらず容易に観察することができる。
【0043】
言い換えれば、ボアスコープを介して減肉標識50が観察される場合には、動翼32には補修が必要な減肉が生じていることが明らかであると言える。そのため、従来のように動翼32が相応に減肉しているように見え、動翼32の補修のためにケーシング9を開放してみたものの、実際には動翼32の補修が不要であるようなケースの発生を抑制できる。
【0044】
反対に、ボアスコープで減肉標識50が観察できない場合、動翼32の減肉が進行しておらず動翼32が健全な状態を維持していると評価できる。この場合、動翼32の減肉捕集のためのケーシング9の開閉そのものが不要になり、工期短縮に対する貢献も大きい。
【0045】
本実施形態によれば、このようにケーシング9を開けずにタービン翼の損傷状態(酸化減肉)を容易に目視確認することができる。
【0046】
(2)本実施形態の場合、減肉標識50が翼部41の先端側部分に設けられている。動翼32は翼部41の先端が最も減肉し易いため、先端部よりも他の部分の酸化減肉が早期に進行することは通常はない。従って、減肉標識50を確認することができれば動翼32のメンテナンスが必要であると明確に評価できると同時に、減肉標識50が確認されない場合には動翼32のメンテナンスが不要であると合理的に評価できる。
【0047】
また、動翼32の減肉し易い場所とし難い場所は凡そ決まっており、仮に動翼32の内部に満遍なく減肉標識50を配置しても、減肉し易い場所にある減肉標識50が先に露出し、減肉し難い場所にある減肉標識50が機能を発揮する機会は基本的にない。従って、減肉し易い必要箇所に限定して減肉標識50を配置することで、減肉標識50を設けることによる効果を必要十分に享受しつつ、減肉標識50を設けることによる動翼32の設計に与える影響を極力抑えることができる。
【0048】
(3)減肉標識50が、積層造形により形成されている。このように積層造形を用いることにより、翼部41の内部に減肉標識50を容易に形成することができる。
【0049】
(4)減肉標識50が、積層造形の未焼結粉末、又は翼部41の表面と異なる材料で形成されているので、動翼32の酸化減肉が進行した場合には、上記の通り減肉標識50を視覚的に明確に顕現させることができる。
【0050】
(5)また、減肉標識50を内蔵する動翼32を製造する方法として、減肉標識50を翼部41の内部に積層造形により形成することにより、減肉標識50を内蔵する動翼32を様々なプロセスで製造することができる。前述した通り、減肉標識50と共に動翼32を積層造形により新規製造することもできるし、既存の動翼32の一部を除去し、一部を除去した部分に積層造形により減肉標識50を形成することもできる。また、既存の動翼32の減肉量が大きい場合には減肉部分を活用し、動翼32の一部を除去することなく(又は除去量を抑えて)減肉部分に積層造形により減肉標識50を形成することもできる。
【0051】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態に係るタービン翼の模式的な斜視図、
図8は
図7中の断面線B-B’による動翼の矢視断面図、
図9は
図7中の断面線C-C’による動翼の矢視断面図である。
【0052】
本実施形態が第1実施形態と相違する点は、減肉標識50が、翼部41の表面からの距離に応じて露出形状又は露出サイズが変化するように形成されている点である。
【0053】
図7から分かる通り、B-B’断面である
図8の翼断面は、C-C’断面である
図9の翼断面よりも翼部41の表面(ここでは翼部41の先端面)に近い。例えば、B-B’断面は翼部41の先端面から1,2mm程度の表層であり、C-C’断面は翼部41の先端面から2,3mm程度に位置する。減肉標識50は、表層のB-B’断面では翼先端側から見て丸い形状をしている。それに対し、翼先端面からB-B’断面よりも若干深い位置にあるC-C’断面では、減肉標識50は翼先端側から見て四角い形状をしている。
【0054】
減肉標識50の製造方法を含め、その他の点について、本実施形態は第1実施形態と同様である。
【0055】
本実施形態においても、積層造形された減肉標識50が動翼32に内蔵されていることで、動翼32の減肉の有無を容易に目視確認できる等、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0056】
また、特に本実施形態の場合、顕現する減肉標識50の形状により減肉の度合いをも目視確認することができる。例えば丸形の減肉標識50(
図8)が見えていれば、減肉量が製造当初の翼先端から1,2mm程度であり、例えば翼部41に内部に冷却流路が存在する場合には、その冷却流路まであと2,3mm程度の余裕があるといったような判断を容易にすることができる。他方、四角形の減肉標識50(
図9)が見えれば、減肉量が当初の翼先端から2,3mm程度まで進行しており、例えば翼部41の内部に冷却流路が存在する場合、あと1,2mm程度でその冷却流路が露出してしまうといったような判断を容易にすることができる。
【0057】
なお、本実施形態においては、翼部41の表面からの距離に応じて減肉標識50の露出形状が変化する構成を例に挙げて説明したが、露出形状に限らず減肉標識50の露出サイズが翼部41の表面からの距離に応じて変化する構成としても良い。例えば、翼部41の表面から離れるほど断面積が増す形状に減肉標識50を形成し、減肉量が少ないうちは減肉標識50の露出面積が小さく、その後減肉量が増加するに従って減肉標識50の露出面積が拡大する構成とすることもできる。
【0058】
また、翼部41の表面からの距離により減肉標識50の構成材料を変えることも考えられる。例えば、翼部41の表層から1,2mm程度の部位と、2,3mm程度の部位とで、酸化時の色が異なる材料で減肉標識50を構成する。これにより、翼表面に露出する減肉標識50の色が減肉量により変化し、減肉標識50の色を観察することで減肉の程度を容易に確認することができる。
【0059】
こうした翼部41の表面からの距離により減肉標識50の露出形状、露出サイズ、又は色が変化する構成は、それぞれ単独で適用することもできるし、適宜組み合わせることもできる。つまり、減肉量に応じて、色は変化しないが減肉標識50の露出形状及び露出サイズが変化する構成が適用可能である。減肉量に応じて、露出サイズは変化しないが減肉標識50の露出形状及び色が変化する構成も適用可能である。減肉量に応じて、露出形状は変化しないが減肉標識50の露出サイズ及び色が変化する構成も適用可能である。減肉量に応じて、減肉標識50の露出形状、露出サイズ及び色が全て変化する構成も適用可能である。
【0060】
(変形例)
以上においては、減肉標識50を翼部41の先端側部分にのみ設けた構成を例示したが、翼部41の先端部に代えて又は加えて先端部以外の部位に減肉標識50を設けても構わない。この場合、何らかの要因により翼部41の先端部よりも減肉が懸念される部位が存在する場合に、その部位に減肉標識50を埋め込んでおくことで、減肉標識50を有効に機能させることができる。
【0061】
また、減肉標識50を積層造形により形成する例を説明したが、積層造形に代わる方法で減肉標識50を容易に或いは合理的に形成することができる場合、積層造形に代わる方法で減肉標識50を形成しても良い。
【0062】
また、減肉標識50を、積層造形の未焼結粉末、又は翼部41の表面と異なる材料で形成する例を説明した。しかし、減肉標識50は、翼部41の減肉により露出した際に視覚的に明確に顕現すれば良く、この特性を備える限りにおいては減肉標識50の材料や構成をその他のものに変更しても良い。
【0063】
前述した通り、動翼32は本発明のタービン翼の一例であり、例えば静翼35も本発明の適用対象に含まれ、静翼35に本発明を適用しても第1実施形態又は第2実施形態と同様の効果を得ることができる。また、ガスタービンの翼に限らず、蒸気タービンの動翼及び静翼も本発明の適用対象に含まれ蒸気タービンの翼に本発明を適用しても第1実施形態又は第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
32…動翼(タービン翼)、35…静翼(タービン翼)、41…翼部、50…減肉標識