(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036002
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】焼結体用粒子または立体造形用粒子、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/105 20220101AFI20240308BHJP
B22F 10/00 20210101ALI20240308BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240308BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20240308BHJP
C04B 35/628 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B22F1/105
B22F10/00
B33Y70/00
B33Y40/10
C04B35/628 020
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140687
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA10
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC28
(57)【要約】
【課題】高い流動性(取り扱い性などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い結合性(強度や硬度などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い緻密性(充填性に影響)などを発現できる、焼結体用粒子または立体造形用粒子を提供する。また、それらの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態による焼結体用粒子または立体造形用粒子は、焼結体材料または立体造形用材料として用いる粒子であって、該粒子がカーボンコート無機粒子である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結体材料または立体造形用材料として用いる粒子であって、
該粒子がカーボンコート無機粒子である、
焼結体用粒子または立体造形用粒子。
【請求項2】
前記カーボンコート無機粒子が、無機粒子に炭素材料をコーティングさせてなる、請求項1に記載の焼結体用粒子または立体造形用粒子。
【請求項3】
焼結体用粒子または立体造形用粒子の製造方法であって、
無機粒子に炭素材料をコーティングさせてカーボンコート無機粒子を調製する、
焼結体用粒子または立体造形用粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体用粒子または立体造形用粒子、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結は、粒子を加熱することによって該粒子同士が接合し、該粒子間の空隙が小さくなって、全体が縮小して緻密化する現象であり、粉末冶金やセラミックス製造などで利用されている。例えば、粉末冶金では、金属粉末とバインダーとを含む組成物を、所望の形状に成形して成形体を得た後に、該成形体を脱脂して焼結することにより、焼結体が得られる。
【0003】
立体造形は、代表的には、3Dプリンタによって材料を1層1層積み上げていく造形であり、複雑な形状を有する立体造形物を、金型を用いることなく製造可能である。3Dプリンタには、種々の方式が存在し、例えば、樹脂フィラメントを熱溶融して堆積させる材料押出堆積方式(FDM方式)、光硬化性樹脂溶液に光を照射して硬化層を積層させていく光造形方式(SLA方式)、インクジェットヘッドから吐出した樹脂に光を照射して硬化させるマテリアルジェッティング方式、粉末材料の堆積層にCO2レーザを照射して焼結によって造形する選択的レーザ焼結方式(SLS方式)、金属粉末をレーザが層ごとに溶かして目的の形状へと仕上げていく選択的レーザ溶融方式(SLM方式)、金属粉末をレーザが層ごとに焼結して目的の形状へと仕上げていく直接金属レーザ焼結方式(DMLS方式)、粉末材料の堆積層に電子ビームを照射して溶融によって造形する電子ビーム溶解方式(EBM方式)が挙げられる。
【0004】
以上のような焼結体や立体造形に用いられる粒子には、様々な特性が求められる。このような特性としては、例えば、高い流動性(取り扱い性などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い結合性(強度や硬度などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い緻密性(充填性に影響)が挙げられる。
【0005】
立体造形の製造に適した粉体材料の最近の一つの報告例として、熱可塑性樹脂を含む樹脂粉体とナノファイバーとを含み、平均粒子径が特定範囲にあり、ナノファイバーの含有量が特定範囲にある三次元造形用粉体材料が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高い流動性(取り扱い性などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い結合性(強度や硬度などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い緻密性(充填性に影響)などを発現できる、焼結体用粒子または立体造形用粒子を提供することにある。また、それらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明の実施形態による焼結体用粒子または立体造形用粒子は、焼結体材料または立体造形用材料として用いる粒子であって、該粒子がカーボンコート無機粒子である。
[2]上記[1]に記載の焼結体用粒子または立体造形用粒子において、上記カーボンコート無機粒子が、無機粒子に炭素材料をコーティングさせてなるものであってもよい。
【0009】
[3]本発明の実施形態による焼結体用粒子または立体造形用粒子の製造方法は、無機粒子に炭素材料をコーティングさせてカーボンコート無機粒子を調製する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い流動性(取り扱い性などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い結合性(強度や硬度などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い緻密性(充填性に影響)などを発現できる、焼結体用粒子または立体造形用粒子を提供することができる。また、それらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪≪焼結体用粒子および立体造形用粒子≫≫
本発明の実施形態による焼結体用粒子または立体造形用粒子は、焼結体材料または立体造形用材料として用いる粒子であって、該粒子がカーボンコート無機粒子である。
【0012】
本発明の実施形態による焼結体用粒子または立体造形用粒子は、該粒子としてカーボンコート無機粒子を採用することにより、高い流動性(取り扱い性などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い結合性(強度や硬度などに影響)、焼結や加熱後の粒界の高い緻密性(充填性に影響)などを発現し得る。
【0013】
焼結体材料は、焼結することにより焼結体となる材料である。
【0014】
立体造形用材料は、3Dプリンタによる造形によって立体造形物となる材料である。3Dプリンタによる造形の方式としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方式を採用し得る。本発明の効果をより発現させ得る点で、3Dプリンタによる造形の方式としては、好ましくは、粉末材料の堆積層にCO2レーザを照射して焼結によって造形する選択的レーザ焼結方式(SLS方式)、金属粉末をレーザが層ごとに溶かして目的の形状へと仕上げていく選択的レーザ溶融方式(SLM方式)、金属粉末をレーザが層ごとに焼結して目的の形状へと仕上げていく直接金属レーザ焼結方式(DMLS方式)、粉末材料の堆積層に電子ビームを照射して溶融によって造形する電子ビーム溶解方式(EBM方式)が挙げられ、より好ましくは、焼結を利用する、粉末材料の堆積層にCO2レーザを照射して焼結によって造形する選択的レーザ焼結方式(SLS方式)、金属粉末をレーザが層ごとに焼結して目的の形状へと仕上げていく直接金属レーザ焼結方式(DMLS方式)が挙げられる。
【0015】
本発明の実施形態による焼結体用粒子または立体造形用粒子は、カーボンコート無機粒子である。
【0016】
本発明においては、「無機粒子」と「カーボンコート無機粒子」は区別されるので、単に「無機粒子」と称する場合は、カーボンコートされていない無機粒子を意味する。
【0017】
無機粒子としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な無機粒子を採用し得る。無機粒子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
本発明の実施形態による焼結体用粒子に用い得る無機粒子としては、例えば、金属系材料として、アルミニウム、錫、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの金属粒子、2種以上の金属を含む合金(金属間化合物)、鉄鋼(炭素鋼、ステンレス鋼など)、ケイ素などが挙げられ、セラミックス材料として、アルミナ、シリカ、ジルコニア、セリア、チタニア、マグネシアなどの酸化物、アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸鉛、ジルコン酸バリウムなどの複合酸化物、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化クロム、窒化ホウ素などの窒化物、タングステンカーバイド、炭化チタン、炭化ホウ素、炭化ケイ素などの炭化物などが挙げられる。
【0019】
本発明の実施形態による立体造形用粒子に用い得る無機粒子としては、好ましくは、例えば、金属系材料として、アルミニウム、錫、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの金属粒子、2種以上の金属を含む合金(金属間化合物)、鉄鋼(炭素鋼、ステンレス鋼など)、ケイ素などが挙げられ、セラミックス材料として、アルミナ、シリカ、ジルコニア、セリア、チタニア、マグネシアなどの酸化物、アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸鉛、ジルコン酸バリウムなどの複合酸化物、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化クロム、窒化ホウ素などの窒化物、タングステンカーバイド、炭化チタン、炭化ホウ素、炭化ケイ素などの炭化物などが挙げられる。
【0020】
本発明の実施形態による焼結体用粒子または立体造形用粒子に用い得る無機粒子としては、その形状は限定されないが、球状、丸み状が好ましい。
【0021】
本発明の実施形態による焼結体用粒子に用い得る無機粒子の大きさとしては、平均粒子径として、好ましくは0.01μm~10mmであり、より好ましくは0.1μm~1mmであり、さらに好ましくは1μm~500μmであり、特に好ましくは3μm~300μmである。
【0022】
本発明の実施形態による立体造形用粒子に用い得る無機粒子の大きさとしては、平均粒子径として、好ましくは0.01μm~10mmであり、より好ましくは0.1μm~1mmであり、さらに好ましくは1μm~500μmであり、特に好ましくは3μm~300μmである。
【0023】
カーボンコート無機粒子は、表面が炭素材料で被覆された無機粒子である。カーボンコート無機粒子は、好ましくは、無機粒子に炭素材料をコーティングさせてなる。カーボンコート無機粒子は、無機粒子部分と炭素材料部分(カーボンコート部分)を含む。
【0024】
カーボンコート無機粒子は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法によって製造し得る。
【0025】
カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態Aは、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料と無機粒子とを、該溶媒(S)中で混合する工程(混合工程(I))を含む製造方法によって得られるカーボンコート無機粒子である。カーボンコート無機粒子の別の一つの好ましい実施形態Bは、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱して得られるカーボンコート無機粒子である。
【0026】
〔カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態A〕
カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態Aは、炭素材料と無機粒子とを、溶媒(S)中で混合する工程(混合工程(I))を含む製造方法によって得られるカーボンコート無機粒子である。この実施形態Aにおける炭素材料は、好ましくは、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料である。
【0027】
混合の方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合方法を採用し得る。このような混合方法としては、例えば、炭素材料と無機粒子と溶媒(S)とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合する方法が挙げられる。この場合、炭素材料や無機粒子は、任意の適切な処理(例えば、解砕、破砕、粉砕など)を行って混合してもよい。
【0028】
混合の温度としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な混合温度を採用し得る。このような混合温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは0℃~100℃であり、より好ましくは10℃~90℃であり、さらに好ましくは20℃~80℃である。上記の温度範囲にあることで、炭素材料を十分に迅速に溶解して無機粒子と混合し得る。
【0029】
混合の際には、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素材料と無機粒子と溶媒(S)以外の、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、触媒、母材、担体などが挙げられる。
【0030】
炭素材料と無機粒子との配合割合は、無機粒子100質量%に対して、炭素材料が、好ましくは0.01質量%~1000000質量%であり、より好ましくは0.1質量%~100000質量%であり、特に好ましくは1質量%~1000質量%である。炭素材料と無機粒子との配合割合が上記範囲内にあれば、カーボンコート無機粒子をより温和な条件でより簡便に製造し得る。これらの炭素材料と無機粒子との配合割合は、目的とするカーボンコート無機粒子の物性に応じて、任意に調整することができる。
【0031】
炭素材料は、好ましくは、溶媒(S)に可溶な可溶性炭素材料である。ここで、炭素材料が溶媒(S)に可溶である場合とは、従来の炭素材料に比べて溶媒への溶解性に優れ、良好な取り扱い性を実現し得る場合である。
【0032】
炭素材料が溶媒(S)に可溶であるという実施態様としては、好ましくは、下記の実施態様である。
(実施態様1)炭素材料の全てが溶媒(S)に溶解する実施態様。すなわち、炭素材料が、溶媒(S)に溶解する成分(成分A)のみからなる実施態様。
(実施態様2)炭素材料の一部が溶媒(S)に溶解する態様。すなわち、炭素材料が、溶媒(S)に溶解する成分(成分A)と溶媒(S)に溶解しない成分(成分B)からなる実施態様。
【0033】
本発明において「溶媒(S)に可溶」とは、任意の適切な溶媒(S)に溶解する成分がある態様を意味する。このような溶媒(S)としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒を採用し得る。このような溶媒(S)としては、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。すなわち、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、水(酸性、塩基性水を含む)からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒に溶解する成分がある態様が好ましい。溶媒(S)は、1種の溶媒のみからなるものであってもよいし、2種以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0034】
炭素材料が溶媒(S)に可溶である一つの実施形態は、炭素材料が、溶媒(S)に可溶である炭素系化合物を含む実施形態である。
【0035】
溶媒(S)に可溶であるか否かの判定方法としては、例えば、炭素材料を溶媒(S)に対して0.001質量%となるように混合したのち、超音波処理を1時間行い、得られた液をPTFE製濾紙(孔径0.45μm)に通したとき、濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれるか否かで判定することができる。濾紙を通過した液に炭素系化合物が含まれる場合、炭素材料が溶媒に可溶である炭素系化合物を含むと判定される。上記PTFE製濾紙としては、例えば、ジーエルサイエンス株式会社製のGLクロマトディスク(型式13P)を用いることができる。
【0036】
炭素材料は、代表的には、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)を加熱して得られる。
【0037】
化合物(A)の加熱温度は、化合物(A)の縮合反応温度がT℃であるときに、好ましくは(T-150)℃以上であり、より好ましくは(T-150~T+50)℃であり、さらに好ましくは(T-130~T+45)℃であり、さらに好ましくは(T-100~T+40)℃であり、特に好ましくは(T-80~T+35)℃であり、最も好ましくは(T-50~T+30)℃である。
【0038】
化合物(A)の縮合反応温度は、TG-DTA分析によって決定できる。具体的には、下記の通りである。
(1)化合物(A)として1種の化合物を用いる場合には、化合物(A)のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(2)化合物(A)として2種以上の化合物の混合物を用いる場合には、該混合物のTG-DTA分析を、窒素ガス雰囲気下、40℃から、昇温速度10℃/分で昇温し、DTAの最も低温側のピークトップ温度を化合物(A)(2種以上の化合物の混合物)の縮合反応温度(T℃)と決定する。
(3)ただし、1種の化合物や2種以上の化合物の混合物としての化合物(A)に、例えば、溶媒や水分や水和水等の不純物が含まれている場合は、該不純物の脱離に伴うDTAピーク(不純物ピークと称することもある)が縮合反応温度よりも低温で観測されることがある。このような場合には、上記の不純物ピークは無視して、その化合物(A)の縮合反応温度を決定する。通常は、上記の不純物ピークは無視した上で、DTAの最も低温側のピークトップ温度を、その化合物(A)の縮合反応温度と決定する。
【0039】
化合物(A)の加熱温度は、具体的な加熱温度として、好ましくは200℃~500℃であり、より好ましくは220℃~400℃であり、さらに好ましくは230℃~350℃であり、最も好ましくは250℃~300℃である。化合物(A)の加熱温度を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0040】
化合物(A)の加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、溶媒への可溶性により優れる可溶性炭素材料や、構造がより精密に制御された可溶性炭素材料をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0041】
化合物(A)は、好ましくは、23℃環境下で固体であって融点を有する。融点を有することで、焼成の過程で融解し、分子間での反応が良好に進行する。仮に融点を有さない場合、焼成の過程で融解しないので、分子の位置が固定され、分子間での反応が促進されにくく、炭素材料化しにくい。このような化合物(A)を採用することにより、縮合反応を促進し、分解反応を抑制したり、得られる炭素材料の溶媒への溶解性がより優れる(例えば、溶媒に溶解する成分がより多くなったり、溶解できる溶媒の種類がより増えたりする)。
【0042】
化合物(A)は、縮合に寄与しない骨格が芳香族構造であることが好ましい。骨格が芳香族であることによって、得られる可溶性炭素材料の炭素成分がより安定になり得る。このような芳香族構造としては、例えば、ベンゼン、ナフタレンのような炭素原子からなる芳香族構造;ピリジン、ピリミジン、フラン、チオフェンのような炭素原子およびヘテロ原子(窒素や酸素など)からなるヘテロ芳香族構造;などが好ましく、これらの中でも、ベンゼン、ピリジンのような六員環構造をもつ芳香族構造およびヘテロ芳香族構造がより好ましい。
【0043】
化合物(A)の分子量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な分子量を採用し得る。このような分子量としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは500以下であり、より好ましくは75~450であり、さらに好ましくは80~400であり、最も好ましくは100~350である。
【0044】
化合物(A)の縮合反応温度は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応温度を採用し得る。このような縮合反応温度としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは450℃以下であり、より好ましくは400℃以下であり、さらに好ましくは200℃~370℃であり、特に好ましくは250℃~350℃である。
【0045】
化合物(A)の代表的な実施形態は、その縮合反応によって、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離する化合物である。この実施形態においては、1つの化合物(A)が2種以上の基を有している場合であってもよいし、2つ以上の化合物(A)のそれぞれの有する基を組み合わせて2種以上の基となる場合であってもよい。このような化合物(A)が、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応を起こし、炭素材料となり得る。
【0046】
縮合反応としては、2種以上の基から1つの中性分子が形成されて脱離することによる縮合反応であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な縮合反応を採用し得る。このような縮合反応とすることにより、比較的低温で反応を行うことが可能となり得る。このような縮合反応としては、例えば、
(a)-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応、
(b)-H基と-OR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(c)-H基と-X基(XはハロゲンまたはCN)とからHXが形成されて脱離することによる縮合反応、
(d)-H基と-NH2基とからNH3が形成されて脱離することによる縮合反応、
(e)-H基と-NHR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRNH2が形成されて脱離することによる縮合反応、
(f)-H基と-NR1R2基(R1、R2は任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからR1R2NHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(g)-H基と-SH基とからH2Sが形成されて脱離することによる縮合反応、
(h)-H基と-SR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(i)-H基と-OOCR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRCOOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(j)-H基と-OSO(OH)基とからH2SO3が形成されて脱離することによる縮合反応、
(k)-H基と-OSO2R基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRSO2(OH)が形成されて脱離することによる縮合反応、
(l)-H基と-OSO2(OR)基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROSO3Hが形成されて脱離することによる縮合反応、
(m)-H基と-OSO2(OH)基とからH2SO4が形成されて脱離することによる縮合反応、
などが挙げられ、
(a)-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応、
(b)-H基と-OR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからROHが形成されて脱離することによる縮合反応、
(i)-H基と-OOCR基(Rは任意の適切な置換または無置換のアルキル基)とからRCOOHが形成されて脱離することによる縮合反応、
が好ましい。特に、脱離した中性成分が該脱離温度(焼成温度)で気体成分であると、可溶性炭素材料に取り込まれることなく、気相部にあるため、不純物となりにくい。
【0047】
縮合反応として、上記(a)の縮合反応、すなわち、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応を代表例として説明する。
【0048】
上記(a)の縮合反応に好適な化合物(A)の一つの実施形態(実施形態(X)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。
【0049】
実施形態(X)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)である場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)である場合、
の2つの場合のいずれかを採り得る。
【0050】
実施形態(X)において、「骨格の構造形成に寄与していない置換基」とは、上記(i)の場合の「1個の炭素6員環構造からなる骨格」または上記(ii)の場合の「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基を意味する。例えば、上記(i)の場合として、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1-1)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基と6個の-H基であり、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)が後に示す化学式(a1-2)で表される場合、1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は3個の-OH基と3個の-H基である。また、例えば、上記(ii)の場合として、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)が後に示す化学式(a2-1)で表される場合、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基と6個の-H基である。
【0051】
実施形態(X)においては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基であり、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。このような置換基の構成を有することにより、化合物(A)は、加熱により、同一分子同士および/または異なる分子間で効果的に脱水反応が起き得る。
【0052】
実施形態(X)において採用し得る化合物(A)としては、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)であり、該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である化合物であれば、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な化合物を採用し得る。このような化合物(A)としては、例えば、下記のような化合物が挙げられる。
【0053】
【0054】
実施形態(X)において採用し得る化合物(A)の中でも、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、低温で反応が進行しやすいと推察される点で、フロログルシノール(化合物(a1-2))、ヘキサヒドロキシトリフェニレン(HHTP)(化合物(a2-1))が好ましい。
【0055】
上記(a)の縮合反応に好適な化合物(A)の別の一つの実施形態(実施形態(Y)と称することがある)は、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)および/または2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上であり、該化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および該化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計の半数が-OH基であり、もう半数が-H基である。
【0056】
実施形態(Y)においては、
(i)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる2種以上からなる場合、
(ii)化合物(A)が、2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる2種以上からなる場合、
(iii)化合物(A)が、1個の炭素6員環構造からなる骨格を有する化合物(a1)から選ばれる1種以上と2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格を有する化合物(a2)から選ばれる1種以上とからなる場合、
の3つの場合のいずれかを採り得る。
【0057】
実施形態(Y)において、「化合物(a1)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数および化合物(a2)の骨格の構造形成に寄与していない置換基の数の合計」とは、下記のような意味である。すなわち、上記(i)の場合、2種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(ii)の場合、2種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数を、全て合計した数を意味する。上記(iii)の場合、1種以上の化合物(a1)のそれぞれにおける「1個の炭素6員環構造からなる骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数と、1種以上の化合物(a2)のそれぞれにおける「2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格」の該骨格の構造形成に寄与していない置換基の数とを、全て合計した数を意味する。
【0058】
実施形態(Y)において、例えば、上記(i)の場合として、2種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1-5)および化学式(a1-6)で表される場合、化学式(a1-5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と4個の-H基であり、化学式(a1-6)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は4個の-OH基と2個の-H基であり、それらの合計は、6個の-OH基と6個の-H基である。また、例えば、上記(iii)の場合として、1種以上の化合物(a1)が下記の化学式(a1-5)および化学式(a1-7)で表され、1種以上の化合物(a2)が下記の化学式(a2-3)で表される場合、化学式(a1-5)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と4個の-H基であり、化学式(a1-7)で表される化合物の1個の炭素6員環構造からなる骨格の構造形成に寄与していない置換基は6個の-OH基であり、化学式(a2-3)で表される化合物の2個以上の炭素6員環構造が結合および/または縮環した骨格の構造形成に寄与していない置換基は2個の-OH基と6個の-H基である。
【0059】
【0060】
【0061】
このような化合物(A)を用いることにより、反応触媒を必要とすることなく、自身の脱水反応による反応が起こるため、化学反応の副生成物や反応触媒が炭素材料中に存在してしまって致命的な不純物となることを抑制でき、より高品質な炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)を用いることにより、可燃性ガスを使用することなく、比較的温和な温度環境下において、炭素材料を得ることができる。また、このような化合物(A)は、触媒作用を必要としない高反応性を有し得る。
【0062】
上記(a)の縮合反応に好適な化合物(A)の好ましい実施形態として、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
【0063】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な、分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を採用し得る。
【0064】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物において、該フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環は炭化水素芳香環であることが好ましい。フェノール性ヒドロキシル基が結合する芳香環がヘテロ芳香環であっても本発明の効果を発揮し得るが、環構造がより安定な炭化水素芳香環であるほうが、得られる炭素材料がより安定となり得る。なお、ヘテロ芳香環とは、炭素によって環構造が構成されている炭化水素芳香環とは異なり、炭素と炭素以外の元素によって環構造が構成されている芳香環を意味する。
【0065】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、フェノール性ヒドロキシル基以外の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な置換基を採用し得る。このような置換基としては、本発明の効果をより高める点では、ヒドロキシル基のみであることが好ましい。ヒドロキシル基以外の置換基が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、ヒドロキシル基以外の置換基が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。なお、ここにいうフェノール性ヒドロキシル基以外の置換基としての「ヒドロキシル基」は、フェノール性ではないヒドロキシル基を意味する。なお、当然のことであるが、置換基とは、水素基(-H)に代わって置き換えられた基である。
【0066】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物を構成する元素としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な元素を採用し得る。このような元素としては、本発明の効果を高める点では、炭素、酸素、水素のみであることが好ましい。炭素、酸素、水素以外の元素が存在しても本発明の効果は発揮され得るが、炭素、酸素、水素以外の元素が存在しないほうが、副反応を防ぎやすく、より炭素材料化しやすい。
【0067】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、本発明の効果をより発揮させ得るため、該化合物の縮合反応温度が200℃~450℃の範囲であることが好ましく、200~400℃の範囲であることがより好ましい。これにより、効果的に炭素材料化することができる。
【0068】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の場合でも、分子間での縮合反応温度は上述の範囲内であることが好ましい。
【0069】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物としては、例えば、一般式(1)~(11)に示す化合物が挙げられる。
【0070】
【0071】
一般式(1)~(11)のそれぞれにおいて、Xは水素原子または水酸基を表し、Xの中の3つ以上が水酸基(フェノール性ヒドロキシル基)である。
【0072】
ここで、フェノール性ヒドロキシル基とは、芳香環に結合した水酸基を意味する。すなわち、一般式(1)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(2)においては、芳香環に結合した6つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(3)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(4)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(5)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(6)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(7)においては、芳香環に結合した10個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(8)においては、芳香環に結合した11個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(9)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(10)においては、芳香環に結合した9つのXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基であり、一般式(11)においては、芳香環に結合した12個のXの中の3つ以上がフェノール性ヒドロキシル基である。
【0073】
分子内に3つ以上のフェノール性ヒドロキシル基を有する化合物の中でも、-H基と-OH基とからH2Oが形成されて脱離することによる縮合反応が起こりやすいと推察され、反応が進行しやすいと推察される点で、好ましくは、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシトリフェニレンであり、より好ましくは、フロログルシノールである。
【0074】
カーボンコート熱伝導性粒子の製造方法の一つの実施形態Aにおいては、混合工程(I)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な工程を含んでいてもよい。例えば、混合工程(I)の後、
(1)溶媒(S)の少なくとも一部を除去する溶媒除去工程(IIa)、
(2)炭素材料の少なくとも一部を除去する炭素材料除去工程(IIb)、
(3)加熱工程(III)、
からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。これらの順序は、目的に応じて、適宜設定し得る。
【0075】
溶媒除去工程(IIa)においては、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する。代表的には、溶媒除去工程(IIa)においては、溶媒(S)の実質的に全てを除去する。
【0076】
溶媒除去工程(IIa)において、溶媒(S)の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶媒除去手段を採用し得る。このような溶媒除去手段としては、例えば、蒸留、透析などが挙げられる。
【0077】
炭素材料除去工程(IIb)においては、炭素材料の少なくとも一部を除去する。代表的には、炭素材料除去工程(IIb)においては、炭素材料部分の中で、無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分の表面に固着している炭素材料部分(この部分は炭素材料除去工程(IIb)によって除去されない)以外の、炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分の少なくとも一部を除去する。代表的には、炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分の実質的に全てを除去する。
【0078】
炭素材料除去工程(IIb)において、炭素材料の少なくとも一部を除去する手段としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な炭素材料除去手段を採用し得る。このような炭素材料除去手段としては、例えば、任意の適切な溶媒による洗浄などが挙げられる。洗浄は適切な溶媒で可溶部分を溶かし出した後、ろ過や遠心分離を行うことで達成できる。このような溶媒としては、回収した溶媒でもよいが、洗浄効果を上げる点で、フレッシュな溶媒が好ましい。また、洗浄は、1回でもよいし、2回以上の複数回でもよい。
【0079】
加熱工程(III)においては、代表的には、炭素材料部分が高炭素化される。
【0080】
加熱工程(III)における加熱温度としては、具体的な加熱温度として、好ましくは300℃~3000℃であり、より好ましくは400℃~2000℃であり、さらに好ましくは500℃~1200℃である。加熱工程(III)における加熱温度を上記範囲に調整することにより、炭素材料部分を効果的に高炭素化させることができる。上記温度は熱伝導性粒子の耐熱温度以下であることが好ましい。
【0081】
加熱工程(III)における加熱時間は、具体的な加熱時間として、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、炭素材料部分を効果的に高炭素化させることができる。
【0082】
カーボンコート無機粒子の製造方法の一つの実施形態Aにおいては、精製工程が含まれていてもよい。精製工程としては、例えば、精製対象物を、任意の適切な溶媒によって洗浄する工程などが挙げられる。このような溶媒としては、回収した溶媒でもよいが、洗浄効果を上げる点で、フレッシュな溶媒が好ましい。また、洗浄は、1回でもよいし、2回以上の複数回でもよい。なお、このような洗浄は、例えば、前述の各種工程の中で行われてもよい。
【0083】
カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態Aとしては、代表的には、有機無機複合体、コアシェル粒子、高炭素化コアシェル粒子などが挙げられる。もちろん、これら以外の実施形態のカーボンコート無機粒子も、本発明のカーボンコート無機粒子となり得る。
【0084】
実施形態Aにおける有機無機複合体は、代表的には、混合工程(I)の後に溶媒除去工程(IIa)を行って得られるカーボンコート無機粒子であって、無機粒子部分と炭素材料部分(カーボンコート部分)を含み、該炭素材料部分が、該無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分の表面に固着している炭素材料部分のみの態様、または、該炭素材料部分および可溶性炭素材料除去工程(IIb)によって除去し得る炭素材料部分との両方を含む態様とを有するカーボンコート無機粒子である。
【0085】
実施形態Aにおけるコアシェル粒子は、代表的には、上記の有機無機複合体に対して、可溶性炭素材料除去工程(IIb)を行って得られる、無機粒子部分と炭素材料部分(実質的に、該無機粒子部分の最表面と強固に相互作用して該無機粒子部分の表面に固着している炭素材料部分のみ)とを有するカーボンコート無機粒子である。
【0086】
実施形態Aにおける高炭素化コアシェル粒子は、代表的には、上記のコアシェル粒子に対して、加熱工程(III)を行って得られる、カーボンコート無機粒子である。
【0087】
〔カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態B〕
カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態Bは、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱して得られるカーボンコート無機粒子である。
【0088】
化合物(A)と無機粒子との配合割合は、無機粒子100質量%に対して、化合物(A)が、好ましくは0.01質量%~1000000質量%であり、より好ましくは0.1質量%~100000質量%であり、特に好ましくは1質量%~1000質量%である。化合物(A)と無機粒子との配合割合が上記範囲内にあれば、構造がより精密に制御されたカーボンコート無機粒子をより温和な条件でより簡便に製造し得る。無機粒子と化合物(A)の配合割合は、目的とするカーボンコート無機粒子の物性に応じて、任意に調整することができる。例えば、化合物(A)と無機粒子の配合割合を調整することにより、得られるカーボンコート無機粒子の物性、形態(例えば、溶媒への溶解性や、炭素成分または無機成分の形状(粒子状や非粒子状)、炭素成分または無機成分のサイズなど)を制御することができる。
【0089】
化合物(A)と無機粒子を含む組成物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、溶媒、触媒、母材、担体などが挙げられる。
【0090】
化合物(A)と無機粒子を含む組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法で調製すればよい。このような方法としては、例えば、化合物(A)と無機粒子とを、任意の適切な方法(例えば、破砕、粉砕など)で固体状態のまま混合する方法が挙げられる。また、化合物(A)と無機粒子と溶剤と、必要に応じて溶剤以外の他の成分とを、任意の適切な方法(例えば、超音波処理など)で混合し、任意の適切な方法(例えば、真空乾燥)によって溶剤を除去する方法などが挙げられる。また、必要に応じて、解砕を行ってもよい。
【0091】
化合物(A)と無機粒子を含む組成物の加熱温度は、好ましくは200℃~500℃であり、より好ましくは220℃~400℃であり、さらに好ましくは230℃~350℃であり、最も好ましくは250℃~300℃である。加熱温度を上記範囲に調整することにより、構造がより精密に制御されたカーボンコート無機粒子をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0092】
化合物(A)と無機粒子を含む組成物の加熱時間は、好ましくは0.1時間~120時間であり、より好ましくは0.5時間~100時間であり、さらに好ましくは1時間~50時間であり、最も好ましくは2時間~24時間である。加熱時間を上記範囲に調整することにより、構造がより精密に制御されたカーボンコート無機粒子をより温和な条件でより簡便に製造し得る。
【0093】
化合物(A)の詳細については、〔カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態A〕における化合物(A)の説明を援用し得る。
【0094】
カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態Bとしては、代表的には、有機無機複合体、コアシェル粒子、高炭素化コアシェル粒子などが挙げられる。もちろん、これら以外の実施形態のカーボンコート無機粒子も、本発明のカーボンコート無機粒子となり得る。
【0095】
実施形態Bにおける有機無機複合体は、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱して得られ、化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料と無機粒子を含む。炭素材料の詳細については、〔カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態A〕における炭素材料の説明を援用し得る。
【0096】
実施形態Bにおけるコアシェル粒子は、加熱によって同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物(A)と無機粒子を含む組成物を加熱した後に、代表的には、化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料の少なくとも一部を除去することによって得られ得る。化合物(A)の加熱によって生成する炭素材料の少なくとも一部を除去する方法としては、代表的には、〔カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態A〕における可溶性炭素材料除去工程(IIb)の方法を援用し得る。
【0097】
実施形態Bにおける高炭素化コアシェル粒子は、代表的には、コアシェル粒子に対して、さらに加熱を行うことによって得られ得る。このような加熱の方法としては、代表的には、〔カーボンコート無機粒子の一つの好ましい実施形態A〕における加熱工程(III)の方法を援用し得る。
【0098】
本発明の実施形態による焼結体用粒子または立体造形用粒子として用いるカーボンコート無機粒子(上記実施形態Aおよび上記実施形態B)は、有機物と無機粒子の混合前、もしくは混合後に炭素化するが、どちらの場合も、好ましくは、可溶性炭素材料と無機粒子が混合された状態を経由する。このようなカーボンコート技術は、本発明における好ましい技術事項である。
【0099】
上記のようなカーボンコート技術によれば、対象の粒子の形状は問わず、鱗片状、球状、針状、丸み状など種々の形状にコーティングが可能である。
【0100】
上記のようなカーボンコート技術によれば、カーボンコートされた原料を用いて、焼結体や立体造形物としたときに、カーボンコートされていない原料を用いた場合と比べて、粒子同士の界面相互作用が上昇し、結果として密度、硬度、熱・電気伝導性などが上がる。また、製造プロセスにおいても、カーボンコートされた原料は、カーボンコートされていない原料と比べて、潤滑性や流動性が高いことから、配管中の移送性や、型枠への充填性が向上するというメリットや、解砕性がますというメリットがある。また、潤滑性が高いことから、2次凝集(2次粒子の形成)なども抑制できる。
【0101】
上記のようなカーボンコート技術によれば、焼結体や立体造形物の原料としてカーボンコート無機粒子が使用されるが、このようなカーボンコート無機粒子を使用することにより、他の成分(例えば、樹脂や無機物のバインダー)との相互作用を高めることが可能である。樹脂バインダーを例に挙げると、カーボンコートされた無機粒子は、表面の疎水性が向上し、有機樹脂との親和性が高まる。これによりカーボンコートされていない場合と比較して、バインダーとの混合性や充填性が向上し、その結果、焼結体や立体造形物としての特性が向上する。
【0102】
上記のようなカーボンコート技術によれば、カーボンコート無機粒子は、好ましくは、表面導電性を有する。これにより帯電防止がなされ、粉体が舞い上がったり充填しにくかったりなどの、静電気による影響を改善できる。
【0103】
≪≪焼結体≫≫
本発明の実施形態による焼結体用粒子は、焼結することにより焼結体となる。
【0104】
焼結の方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法を採用し得る。このような方法としては、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは、圧粉焼結法、真空焼結法、還元雰囲気焼結法、粉末射出成型法、SPS(放電プラズマ焼結法)である。また、ポスト焼結としてHIP(熱間等方圧加圧)処理などの前処理を行ってもよい。
【0105】
本発明の実施形態による焼結体用粒子を焼結して得られる焼結体は、粒界の高い結合性(強度や硬度などに影響)、粒界の高い緻密性(充填性に影響)などを発現し得る。
【0106】
≪≪立体造形物≫≫
本発明の実施形態による立体造形用粒子は、3Dプリンタによる造形によって立体造形物となる。より具体的には、本発明の実施形態による立体造形用粒子を造形材料として3Dプリンタを用いて造形することにより立体造形物が得られる。
【0107】
3Dプリンタによる造形の方式としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法を採用し得る。本発明の効果をより発現させ得る点で、3Dプリンタによる造形の方式としては、好ましくは、粉末材料の堆積層にCO2レーザを照射して焼結によって造形する選択的レーザ焼結方式(SLS方式)、金属粉末をレーザが層ごとに溶かして目的の形状へと仕上げていく選択的レーザ溶融方式(SLM方式)、金属粉末をレーザが層ごとに焼結して目的の形状へと仕上げていく直接金属レーザ焼結方式(DMLS方式)、粉末材料の堆積層に電子ビームを照射して溶融によって造形する電子ビーム溶解方式(EBM方式)が挙げられ、より好ましくは、焼結を利用する、粉末材料の堆積層にCO2レーザを照射して焼結によって造形する選択的レーザ焼結方式(SLS方式)、金属粉末をレーザが層ごとに焼結して目的の形状へと仕上げていく直接金属レーザ焼結方式(DMLS方式)が挙げられる。
【0108】
本発明の実施形態による立体造形用粒子を造形材料として3Dプリンタを用いて造形して得られる立体造形物は、粒界の高い結合性(強度や硬度などに影響)、粒界の高い緻密性(充填性に影響)などを発現し得る。
【実施例0109】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。また、本明細書において、「質量」は「重量」と読み替えても良い。
【0110】
<密度の測定>
密度は、サンプルの乾燥質量および液中質量(標準物質は精製水、測定温度25℃)を測定し、アルキメデスの原理を用いて、算出した体積と乾燥質量より密度を算出した。
【0111】
<熱伝導率の測定>
熱伝導率は、密度、比熱、熱拡散率の積として求められる。
密度は上記の測定で得られる。
比熱は、示差走査熱量計(DSC-7型、パーキングエルマー製)を用いて、Arガス20mL/minフロー中で昇温速度10℃/minで測定した。
熱拡散率は、熱定数測定装置(TC-3000型、真空理工製)を用いてレーザーフラッシュ法により求めた。
【0112】
<ビッカース硬度の測定>
ビッカース硬度は、下記の装置、条件で分析した。
ビッカース硬度試験機(AVK-C1、アカシ社製)を用い、サンプルの表面にダイヤモンド製四角錐の圧子を用いて10kgfで10秒間の荷重をかけた。これにより生じた圧痕の表面積値を荷重値で割ることで求めた値をビッカース硬度とした。
【0113】
[製造例1]:炭素材料(1)の製造
溶媒に可溶な可溶性炭素材料としてフロログルシノール50gを用い、管状炉を用いて、300℃で1時間加熱して炭素化し、炭素材料(1)を得た。得られた炭素材料(1)はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に可溶であった。
【0114】
[参考例1]:炭素材料(2)の製造
加熱温度を250℃に変更した以外は製造例1と同様に行い、炭素材料(2)を得た。得られた炭素材料(2)はアセトンに可溶であった。炭素材料(2)は、後述するカーボンコートにおいて、使用したい溶媒によって、炭素化温度を変えることで広範な溶媒に適用可能である。
【0115】
[実施例1A-7A]カーボンコート粒子(1A)-(7A)の製造(実施形態A)
原料粉体として、アルミニウム(実施例1A、ECKA GRANULES社製、粒径10μm)、銅(実施例2A、ECKA GRANULES社製、粒径20μm)、鉄(実施例3A、富士フイルム和光純薬社製、粒径45μm)、アルミナ(実施例4A、昭和電工製、粒径5μm)、シリカ(実施例5A、日本触媒製、粒径1μm)、シリカ(実施例6A、日本触媒製、粒径0.1μm)、窒化アルミニウム(実施例7A、東洋アルミニウム製、粒径1μm)を用い、それぞれ10gをDMF30gに懸濁させておき、そこに、あらかじめ10倍量のDMFで溶解させておいた炭素材料(1)(1g相当)を混合し、超音波処理により、粉体表面にコートさせた。シリカ以外の粉体のコーティング時間は5分、シリカはコーティング時間が1時間であった。コート後、粉体をろ過で分離し(遠心分離でも可能であった)、DMF洗浄により精製し、乾燥することで、カーボンコート粒子(1A)-(7A)を得た。
【0116】
[実施例1B-7B]カーボンコート粒子(1B)-(7B)の製造(実施形態B)
原料粉体として、アルミニウム(実施例1B、ECKA GRANULES社製、粒径10μm)、銅(実施例2B、ECKA GRANULES社製、粒径20μm)、鉄(実施例3B、富士フイルム和光純薬社製、粒径45μm)、アルミナ(実施例4B、昭和電工製、粒径5μm)、シリカ(実施例5B、日本触媒製、粒径1μm)、シリカ(実施例6B、日本触媒製、粒径0.1μm)、窒化アルミニウム(実施例7B、東洋アルミニウム製、粒径1μm)を用い、それぞれ10gをアセトン30gに懸濁させておき、そこに、フロログルシノール1gを混合し超音波処理した。エバポレーターにより溶媒除去した後、混合粉体を、管状炉を用いて、300℃で1時間加熱して炭素化し、コートした。炭素化後のコート粉体をろ過で分離し(遠心分離でも可能であった)、DMF洗浄により精製し、乾燥することで、カーボンコート粒子(1B)-(7B)を得た。
【0117】
[評価]
実施例1A-7A,1B-7Bで得られた粉体を用いて、SPS焼結を実施した。焼結温度は表1に示す温度で実施し、焼結体(1A)-(7A)、焼結体(1B)-(7B)を得た。
得られた焼結体の密度、熱伝導率、安息角、ビッカース硬度の評価結果を表1に示した(表1では、それぞれカーボンコートしていないものを比較例1-7(相対値100)とし、相対値として示した)。
カーボンコートにより、密度、熱伝導率、ビッカース硬度が上昇し、流動性が向上(低安息角化)した。実施形態AおよびBでは大きな差はみられず、許容される装置、製造プロセス等により適宜使い分けが可能である。
【0118】