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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036004
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】水素発生装置、及び水素発生方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/055 20210101AFI20240308BHJP
   C01B 3/02 20060101ALI20240308BHJP
   C01B 15/027 20060101ALI20240308BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240308BHJP
   C25B 1/30 20060101ALI20240308BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240308BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240308BHJP
   C25B 11/073 20210101ALI20240308BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240308BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20240308BHJP
【FI】
C25B11/055
C01B3/02 H
C01B15/027
C25B1/042
C25B1/30
C25B9/00 A
C25B11/052
C25B11/073
H01L41/08 J
H01L41/09
H01L41/18 101D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140690
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山添 誠司
(72)【発明者】
【氏名】吉川 聡一
(72)【発明者】
【氏名】宇野 太喜
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA10
4K011DA01
4K021AA01
4K021AB15
4K021BA02
4K021CA09
4K021DA13
(57)【要約】
【課題】振動に基づいて水素を効率的に生成することができる水素発生装置、及び水素生成方法を提供する。
【解決手段】振動可能な振動部材と、振動部材の少なくとも一面側に圧電材料により形成された触媒層とにより形成された水素発生部と、水素発生部に水を供給する供給部と、を備え、振動部材は、自体が有する固有周波数の振動に共振して振動し、触媒層は、振動に基づいて電圧を発生し、電圧に基づいて接触した水を反応させて水素を発生させる水素発生装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動可能な振動部材と、前記振動部材の少なくとも一面側に圧電材料により形成された触媒層とにより形成された水素発生部と、
前記水素発生部に水を供給する供給部と、を備え、
前記振動部材は、自体が有する固有周波数の振動に共振して振動し、
前記触媒層は、振動に基づいて電圧を発生し、前記電圧に基づいて接触した水を反応させて水素を発生させる、
水素発生装置。
【請求項2】
前記供給部は、前記水素発生部を収容し収容空間が形成された収容容器を有する、
請求項1に記載の水素発生装置。
【請求項3】
前記収容容器は、前記収容空間内に前記水を貯留する、
請求項2に記載の水素発生装置。
【請求項4】
前記収容容器は、前記収容空間内に前記水を水蒸気の状態で収容する、
請求項2に記載の水素発生装置。
【請求項5】
前記収容空間内に気体を供給する気体供給部を備える、
請求項4に記載の水素発生装置。
【請求項6】
前記触媒層は、前記電圧に基づいて、接触した水を反応させて水素及び過酸化水素を発生させる、
請求項5に記載の水素発生装置。
【請求項7】
前記触媒層により生成された前記過酸化水素を回収する回収部を備える、
請求項6に記載の水素発生装置。
【請求項8】
前記振動部材は、梁状又は膜状に形成されている、
請求項1から7のうちいずれか1項に記載の水素発生装置。
【請求項9】
少なくとも一面側に圧電材料により形成された触媒層を備える振動可能な振動部材を水により湿潤させる工程と、
前記振動部材の固有周波数と同じ周波数の振動を前記振動部材に入力し、前記振動部材を共振に基づいて振動させる工程と、
前記振動部材に発生した振動に基づいて前記触媒層に電位を発生させる工程と、
前記電位に基づいて前記触媒層に接触している水を反応させて水素を発生させる工程と、を備える、
水素発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーを用いて水素を発生するための水素発生装置、及び水素発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、未利用エネルギーを有効活用する研究が注目されている。例えば、特許文献1には、発電素子を用いて未利用の振動エネルギーに基づいて発電する技術が記載されている。特許文献2には、水を分解して水素を発生させる光触媒と、廃熱を利用して水を加熱する加熱装置とを備える水素生成システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-136826号公報
【特許文献2】特開2022-021115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術によれば、振動エネルギーを直接的に利用して水から水素を効率的に生成することについてはまだ提案されていなかった。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、低周波の振動に基づいて水素を効率的に生成することができる水素発生装置、及び水素生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、振動可能な振動部材と、振動部材の少なくとも一面側に圧電材料により形成された触媒層とにより形成された水素発生部と、水素発生部に水を供給する供給部と、を備え、振動部材は、自体が有する固有周波数の振動に共振して振動し、触媒層は、振動に基づいて電圧を発生し、電圧に基づいて接触した水を反応させて水素を発生させる水素発生装置を提供する水素発生装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低周波の振動に基づいて水素を効率的に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る水素発生装置の構成を示すブロック図である。
図2】触媒層の構成を示す平面図である。
図3】閉鎖系の試験装置の構成を概略的に示す図である。
図4】閉鎖系の試験装置において発生した水素の測定値を示す図である。
図5】閉鎖系の試験装置において発生した水素の測定値を示す図である。
図6】触媒層においてピエゾ素子の有無による水素の発生結果を示す図である。
図7】閉鎖系の試験装置において発生した水素の測定値を示す図である。
図8】閉鎖系の試験装置において発生した水素の測定値を示す図である。
図9】流通系の試験装置の構成を示す図である。
図10】流通系の試験装置において発生した水素の測定値を示す図である。
図11】流通系の試験装置において発生した水素の測定値を示す図である。
図12】検出部において回収された水の吸光度を示す図である。
図13】検出部において回収された水の吸光度を拡大して示す図である。
図14】水素発生方法に含まれる各工程の処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る水素発生装置、及び水素発生方法について説明する。
【0010】
図1及び図2に示されるように、水素発生装置1は、例えば、水素を発生する水素発生部2と、水素発生部2に水を供給する供給部8とを備えている。水素発生部2は、例えば、振動可能な振動部材3と、振動部材3の少なくとも一面側に圧電材料により形成された触媒層4とにより形成されている。振動部材3は、例えば、樹脂等の弾性材料により矩形の板状体に形成されている。振動部材3は、例えば、長手方向の両端部のうち一端側が固定され、他端側を自由端とする片持ち梁に形成されている。振動部材3は、例えば、他端側が上下方向に振動可能に水平に方向に沿って設置されている。振動部材3は、自体が有する固有周波数の振動に共振して振動する。
【0011】
振動部材3は、片持ち梁だけでなく、両持ち梁に形成されていてもよい。振動部材3は、膜部材を用いた振動膜に形成されていてもよい。即ち、振動部材3は、振動可能な梁状又は膜状に形成される。振動部材3は、振動可能であれば梁状又は膜状だけでなく振動に基づいて歪が生じる起歪部を有していれば他の構成であってもよい。振動部材3は、スパン長などの寸法、ヤング率、錘の設置位置等のパラメータを調整し、固有周波数が調整される。振動部材3の上面側には、触媒層4が設けられている。
【0012】
触媒層4は、板状の基板(第1層4A)、圧電材料(第2層4B)、金属(第3層4C)で構成されている。触媒層4は、例えば、圧電素子(ピエゾ素子)により形成されている。触媒層4は、例えば、振動触媒(THRIVE:商品名)が用いられる。第1層4Aは、例えば、ステンレス鋼により薄膜状の基板に形成されている。第2層4Bは、第1層4Aの上層に圧電素子等の圧電材料により形成されている。第3層4Cは、第2層4Bの上層に銀などの金属により薄膜状に形成されている。第1層4Aと第3層4Cとは、第2層4Bにより発生した電位を伝導する電極である。
【0013】
触媒層4は、振動部材3の振動に基づいて変形し、変形度合いに応じた電圧を発生する。触媒層4は、振動部材3の振動に基づいて変形し、周期的に変化する電圧を発生する。触媒層4は、発生した電圧に基づいて表面(第3層4C)に接触した水を反応させて水素を発生させる。また、触媒層4は、電圧に基づいて水素を発生させるだけでなく、接触した水を反応させて過酸化水素を発生させる。触媒層4は、振動部材3の一面側だけでなく、他面側にも設けられていてもよい。触媒層4は、1層以上の圧電素子が積層されて形成されていてもよい。
【0014】
水素発生部2は、例えば、収容空間5Sが形成された収容容器5に収容されている。収容容器5は、収容空間5Sを密閉する閉鎖系に形成されている。収容容器5には、触媒層4に水を供給する供給部8が設けられている。供給部8は、例えば、収容空間5S内に水を貯留するように形成された容器である。供給部8は、収容空間5S内に水を水蒸気の状態で収容するように設けられていてもよい。供給部8は、収容容器5の外部から収容容器5内に水蒸気を供給するものであってもよい。供給部8は、例えば、超音波振動に基づいて水を霧化する霧化装置であってもよい。供給部8は、水素発生部2に所定量の水を所定のタイミングにおいて滴下する滴下装置であってもよい。供給部8は、触媒層4に水を噴射する噴射装置であってもよい。
【0015】
収容容器5には、収容空間5S内に気体を供給する気体供給部20が設けられている。気体供給部20は、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスを収容空間5S内に供給する。気体供給部20は、例えば、水素発生部2の稼働前に収容空間5S内に不活性ガスを供給し、収容空間5S内に存在する空気と不活性ガスとを置換する。収容容器5には、水素発生部2において発生した水素を回収する回収部30が設けられている。
【0016】
回収部30は、例えば、水上置換法に基づいて水素を回収するように構成されている。回収部30は、例えば、収容容器5に接続された気体流路(不図示)と、気体流路を流通した水素を流通させる水を貯留する水槽(不図示)と水槽を流通した水素を回収する気体容器(不図示)を備えている。回収部30は、水槽において水素発生部2により発生した過酸化水素を回収する。回収部30には、回収した水素を検出する検出部35が設けられていてもよい。
【0017】
検出部35は、例えば、水素濃度、気体流路に流通する水素の流通量、回収した水素の総量等の制御やモニタリングに必要なセンサを備えている。回収部30は、収容容器5から流出する気体の成分を分析するガスクロマトグラフィーであってもよい。この場合、検出部35は、回収部30と一体に設けられていてもよい。検出部35は、水素発生部2により生成された過酸化水素を検出するセンサを備えていてもよい。
【0018】
また、水素発生装置1は、水素発生部2に振動を与える振動源40を備えている。振動源40は、橋梁等の振動源に基づく振動を利用するものであってもよいし、人工的に振動を発生させるものであってもよい。振動源40は、振動部材3の固有周波数と同じ周波数を発生する。振動源40は、振動部材3の1次固有周波数だけでなく、2次以上の固有周波数で振動を発生させてもよい。振動源40は、物理的な振動を発生させ、振動部材3を共振させるものであってもよいし、音波に基づいて振動部材3を共振させるものであってもよい。
【0019】
振動源40は、例えば、圧電素子(不図示)と振動体(不図示)により構成されていてもよい。圧電素子には、振動部材3の固有周波数に応じた周波数の交流電圧が入力され、振動体を振動させる。振動体は、例えば、板状の弾性部材により形成された片持ち梁や両持ち梁、膜状の部材により形成された振動膜であってもよい。振動源40は、電磁コイル(不図示)と磁性体(不図示)とにより構成されたスピーカ、モータ(不図示)と錘(不図示)とにより構成されたバイブレータであってもよい。振動源40は、未利用の振動エネルギー、自然力エネルギーに基づいて発電された電力を用いて駆動されてもよい。振動源40は、振動部材3を共振可能であればどのようなものを用いてもよい。
【0020】
水素発生装置1は、気体供給部20、供給部8、及び振動源40を含む制御対象のうち少なくとも1つを制御する必要がある場合には、これらを制御する制御装置10が設けられていてもよい。制御装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等の情報処理装置により構成されている。制御装置10は、水素発生装置1を制御可能に直接的に接続されていてもよいし、ネットワークを介した通信に基づいて接続されたサーバ装置であってもよい。
【0021】
制御装置10は、例えば、制御対象を制御する制御部12と、制御対象を制御するためのプログラム等のデータが記憶された記憶部14とを備えている。記憶部14は、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ等の非一時的な記憶媒体により構成されている。記憶部14は、制御装置10に内蔵されていてもよいし、外部接続される記憶装置であってもよい。記憶部14は、ネットワークを介して接続されるサーバ装置であってもよい。
【0022】
制御部12は、例えば、供給部8を制御して水素発生部2に水を供給する。制御部12は、例えば、検出部35により検出されたデータに基づいて、供給部8を制御して水の供給量を調整する。制御部12は、例えば、振動源40を制御して振動部材3を振動させる。制御部12は、気体供給部20を制御して不活性ガスの流通量を制御する。
【0023】
制御部12は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
【0024】
図3に示されるように、水素発生装置1の性能を試験するための試験装置100を用い、水素発生部2から発生する水素を測定する。試験装置100は、密閉空間内において水素を検出する閉鎖系の装置に構成されている。試験装置100は、水素発生部2と、水素発生部2の一端側を挟持して固定する台座2Dと、水素発生部2及び台座2Dを密閉して収容する収容容器5と、収容容器5内に不活性ガスを供給する気体供給部20と、水素発生部2を振動させる振動源40と、水素濃度を検出する検出部35と、水素発生部2の触媒層4に生じる電位を測定する測定部50とを備えている。
【0025】
検出部35は、例えば、ガスクロマトグラフィーである。測定部50は、例えば、オシロスコープである。振動源40は、例えば、水素発生部2を収容容器5と共に振動させる振動テーブル41と、振動テーブル41を駆動させる駆動装置42(電源装置)とを備えている。振動テーブル41は、駆動装置42と制御装置10により制御される。例えば、電源装置である駆動装置42は、振動テーブル41の駆動に必要な電圧を振動テーブル41に入力する。
【0026】
試験装置100において、気体供給部20は、例えば、ヘリウムとアルゴンの比率を1:99とする不活性ガスを収容容器5内に供給する。収容容器5内の圧力は、常圧に保持される。振動源40が発生する共振周波数は、例えば、150Hzである。水素発生部2の触媒層4における発生電位Vp-pは、例えば、4-7Vである。水素発生部2の触媒層4には、水が塗布され、湿潤状態にされている。試験装置100には、触媒層4が湿潤状態にされた後、気体供給部20から不活性ガスが供給された。その後、振動源40により振動が加えられ、振動部材3を共振させると共に、触媒層4において水素を発生する反応が開始された。
【0027】
図4に示されるように、試験装置100において、振動源40が発生する振動に基づいて振動部材3を共振させ、6時間の計測時間において水素を計測すると、試験開始から4時間後に水素が発生することが確認された(図中:振動あり)。振動源40を停止して振動部材3を振動させない場合は水素の発生は見られなかった(図中:振動なし)。反応時の試験装置100における条件は、圧力=0.1MPa、ヘリウムとアルゴンの比率=1:99、ヘリウムとアルゴンの導入時間=30min、共振周波数=150Hzである。
【0028】
図5に示されるように、試験装置100において、52時間の計測時間において水素を計測すると、48時間の間に水素の生成が観測され、最終的な水素濃度は14%となった。水素発生後の水素発生速度は、0.3817%/hであった。48時間後、振動を停止した後、水素濃度はほぼ一定となった。反応時の試験装置100における条件は、圧力=0.1MPa、ヘリウムと窒素の比率=1:99、ヘリウムと窒素の導入時間=30min、共振周波数=150Hzである。
【0029】
図6に示されるように、試験装置100において、水素発生部2と、水素発生部2の触媒層4を除去した場合との比較実験が行われた。図示するように、試験装置100において、ピエゾ圧電素子(PZT)により形成された触媒層4を有する水素発生部2においては水素が発生したのに比して、触媒層4を除去し振動部材3を振動させた場合においては、水素の発生は計測されなかった。試験装置100における条件は、反応時間=24h、圧力=0.1MPa、ヘリウムと窒素の比率=1:99、ヘリウムと窒素の導入時間=30min、共振周波数=150Hz、触媒層4における発生電位Vp-p=4.1Vである。触媒層4の有無の比較結果より、触媒層4の存在に基づいて水素が発生することが確かめられた。
【0030】
図7に示されるように、試験装置100において、繰り返し使用された後の水素発生部2から発生する水素を測定するリサイクルテストが行われた。図示するように、繰り返し使用された後の水素発生部2を用いて水素を発生させ、52時間の計測時間において水素を計測すると、48時間の間に水素の生成が観測され、最終的な水素濃度は2.6%程度となった。水素発生後の水素発生速度は、0.0731%/hであった。48時間後、振動を停止した後、水素濃度はほぼ一定となった。
【0031】
反応時の試験装置100における条件は、圧力=0.1MPa、ヘリウムとアルゴンの比率=1:99、ヘリウムとアルゴンの導入時間=30min、共振周波数=150Hzである。発生電位Vp-p=6.44~6.8Vである。図示するように、繰り返し使用後の水素発生部2では、反応活性が低下したものの水素は生成されていることが分かる。
【0032】
図8に示されるように、試験装置100において、他のロットにて製造された触媒層4を有する水素発生部2から発生する水素が測定すされた。図示するように、他のロットにて製造された触媒層4を有する水素発生部2を用いて水素を発生させ、70時間以上の計測時間において水素を計測すると、最終的な水素濃度は5%程度となった。水素発生後の水素発生速度は、0.0696%/hであった。
【0033】
反応時の試験装置100における条件は、圧力=0.1MPa、ヘリウムとアルゴンの比率=1:99、ヘリウムとアルゴンの導入時間=30min、共振周波数=150Hzである。発生電位Vp-p=4.88~2.72Vである。図示するように、他のロットにて製造された触媒層4を有する水素発生部2においても、水素生成量が異なるものの、同様に水素が生成されていることが分かる。
【0034】
図9に示されるように、水素発生装置1の性能を試験するための他の試験装置101を用い、水素発生部2から発生する水素を測定する。試験装置101は、収容容器5内において水を連続的に流入させて水素発生部2において反応させ、発生した水素を収容容器5外に流出させるように構成されている。試験装置101は、水素発生部2と、水素発生部2の一端側を挟持して固定する台座2Dと、水素発生部2及び台座2Dを密閉して収容する収容容器5と、収容容器5内に不活性ガス及び水蒸気を供給する気体供給部21と、水素発生部2を振動させる振動源40と、水素濃度を検出する検出部35と、水素発生部2の触媒層4に生じる電位を測定する測定部50とを備えている。水蒸気を供給する気体供給部21は加熱することができ、温度によって水蒸気の飽和蒸気圧を変えることができる。また、収容容器5は加熱することが可能で、収容容器5に導入した水蒸気が結露することを防ぐことができる。
【0035】
気体供給部21は、不活性ガスの流路の途中において、貯留された水中を通過させ、不活性ガスと共に、水蒸気を収容容器5内に供給するように構成されている。検出部35は、例えば、ガスクロマトグラフィーである。測定部50は、例えば、オシロスコープである。振動源40は、例えば、水素発生部2を収容容器5と共に振動させる振動テーブル41と、振動テーブルを駆動させる駆動装置42とを備えている。駆動装置42は、制御装置10により制御される。収容容器5内には、気体供給部21から不活性ガス及び水蒸気が供給され、触媒層4が湿潤状態に保持される。その後、振動源40により振動が加えられ、振動部材3を共振させると共に、触媒層4において水素を発生する反応が開始された。
【0036】
図10に示されるように、試験装置101において、6時間において水素発生部2を稼働させた後、停止し、水素を計測された。試験装置101において、水素発生速度は、15.68μmol/minであった。反応時の試験装置101における条件は、圧力=0.1MPa、ヘリウムと水とアルゴンの比率=1:3:96、ヘリウムと水とアルゴンとの混合気体を収容容器5内にパージさせる時間=60min、共振周波数=150Hz、発生電位Vp-p=13Vである。図示するように、試験装置101において、水素発生部2の稼働開始後4時間後から水素の発生が確認され、6時間後に振動を停止したところ、水素の水素発生速度が低下した。
【0037】
図11には、試験装置101において、9時間において水素発生部2を稼働させた測定結果が示されている。試験装置101において、水素発生速度は、3μmol/min程度であった。反応時の試験装置101における条件は、圧力=0.1MPa、ヘリウムとアルゴンの比率=1:99、ヘリウムとアルゴンとの混合気体を収容容器5内にパージさせる時間=60min、共振周波数=150Hz、発生電位Vp-p=15.2Vである。図示するように、試験装置101において、水素発生部2の稼働開始後、水素の発生が確認され、6時間後から測定値が横這いとなった。これは、収容容器5内の湿度が飽和したためと推定される。比較例として、水素発生部2における発生電位Vp-pを0にした場合の水素発生量の推移が示されている。この場合、水素発生部2における水素の発生は計測されなかった。比較例によれば、試験装置101は、発生電位に基づいて水素が発生することが分かる。
【0038】
収容容器5内において反応した後のガスを回収部30の水槽にガスをバブリングし、水溶性の生成物を回収した。図12には、回収した水溶性の生成物の分光分析結果が示されている。図示する測定においては、水素の発生時間が4hであり、水素の発生速度は、0.9287μmol/minであった。回収された水には、ヨウ化カリウムが追加され、過マンガン酸カリウム溶液が滴下され、ヨウ素I3-を生成させた。図13には、図12に示される所定波長範囲における水中のヨウ素I3-の吸光度の測定値が示されている。図示する測定値に基づいて過酸化水素濃度が推定される。図13の測定値に基づいて、回収された水には、過酸化水素が含まれていることが分かる。測定値によれば、水素発生部2において、過酸化水素が生成されていることが分かる。
【0039】
図14には、水素発生装置1を用いた水素発生方法の処理に含まれる各工程が示されている。少なくとも一面側に圧電材料により形成された触媒層4を備える振動可能な振動部材3を水により湿潤させる(ステップS100)。振動部材3の固有周波数と同じ周波数の振動を振動部材3に入力し、振動部材3を共振に基づいて振動させる(ステップS102)。振動部材3に発生した振動に基づいて触媒層4に電位を発生させる(ステップS104)。発生した電位に基づいて触媒層4に接触している水を反応させて水素を発生させる(ステップS106)。
【0040】
上述したように、水素発生装置1によれば、振動部材3に振動を入力することにより触媒層4に電位を発生させ、触媒層4に接触する水を反応させて水素を発生させることができる。水素発生装置1によれば、振動部材3を共振させることにより、効率的に水素を発生させることができる。水素発生装置1によれば、未利用の低周波の振動エネルギーを直接的に利用して水素を発生させることができる。水素発生装置1によれば、水素に加えて過酸化水素も発生させることができる。水素発生装置1によれば、未利用の他のエネルギーに基づいて振動部材3を振動させることで水素を発生させることができる。
【0041】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更し、或いは置換してもよい。例えば、振動部材3は、共振に基づいて振動するだけでなく、供給部8により水が噴射される際に、噴射される流体の作用に基づいて自励振動を生じさせて振動するものであってもよい。この場合、振動源40は、設けられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 水素発生装置
2 水素発生部
3 振動部材
4 触媒層
5 収容容器
5S 収容空間
8 供給部
10 制御装置
12 制御部
14 記憶部
20 気体供給部
30 回収部
35 検出部
40 振動源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
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図14