(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036006
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】タイヤの製造方法および成形システム
(51)【国際特許分類】
B29D 30/16 20060101AFI20240308BHJP
B29D 30/10 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B29D30/16
B29D30/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140692
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高梨 雄太
(72)【発明者】
【氏名】飯田 英一
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 怜
【テーマコード(参考)】
4F215
【Fターム(参考)】
4F215AH20
4F215VA02
4F215VD01
4F215VD02
4F215VD07
4F215VK02
4F215VL09
4F215VL13
4F215VP03
4F215VP23
4F215VP38
(57)【要約】
【課題】ベルト層のタイヤ幅方向での周長差が大きいグリーンタイヤを、剛性コアを用いて品質を損なわずに成形できるタイヤの製造方法および成形システムを提供する。
【解決手段】ベルト成形ドラム6の外周面の周長をドラム幅方向で変化が少なく同等と見做せる許容範囲に設定し、このドラム6の外周面に、ドラム6の周方向に対して所定の傾斜角度で延在する補強コード15aが多数本、ドラム6の幅方向に隣接して並列された円筒状のベルト層14aを複数積層してベルト積層体14を成形し、このベルト積層体14に内挿したバント部材13をインフレートさせてバンド部材13の外周面とベルト積層体14の内周面とを接合した一次グリーンタイヤG1を成形し、一次グリーンタイヤG1を外挿した縮径状態の剛性コア2を拡径し、一次グリーンタイヤG1の外周面に残りのタイヤ構成部材17、18を積層してグリーンタイヤGを成形する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性コアの外周面に、複数のベルト層が積層されたベルト積層体を含む複数種類のタイヤ構成部材が円筒状に形成されて積層されたグリーンタイヤを成形し、次いで、前記グリーンタイヤを加硫装置に配置して加硫することによりタイヤを製造するタイヤの製造方法において、
拡縮可能に構成した前記剛性コアの外周面に、前記剛性コアが非拡径完了の縮径状態で、一対のビード部の間にインナーライナの上にカーカス層が積層されている円筒状のバンド部材を成形し、
ベルト成形ドラムの外周面の周長をドラム幅方向で変化が少なく同等と見做せる許容範囲に設定し、前記ベルト成形ドラムの外周面に、このベルト成形ドラムの周方向に対して所定の傾斜角度で延在する補強コードが多数本、このベルト成形ドラムの幅方向に隣接して並列された円筒状の前記ベルト層を複数積層して前記ベルト積層体を成形し、
外周面をベルト層保持機により保持されている前記ベルト積層体を、前記バント部材に外挿した状態にして、前記バンド部材をインフレートさせることにより、前記バンド部材の外周面と前記ベルト積層体の内周面とを接合した一次グリーンタイヤを成形し、
次いで、縮径状態の前記剛性コアに外挿されている前記一次グリーンタイヤを、前記剛性コアを拡径することにより前記剛性コアに外嵌し、
次いで、前記一次グリーンタイヤの外周面に、残りの前記タイヤ構成部材を積層することによりグリーンタイヤを成形するタイヤの製造方法。
【請求項2】
平行に引き揃えられた複数本の前記補強コードが未加硫ゴムでコーティングされているストリップ材を、前記ベルト成形ドラムの外周面に、前記ベルト成形ドラムの幅方向に隣接して並列させることにより、それぞれの前記ベルト層を成形する請求項1に記載のタイヤの製造方法。
【請求項3】
製造された前記タイヤでの最内周の前記ベルト層の幅方向中心での周長が幅方向端での周長の102%~105%である請求項1または2に記載のタイヤの製造方法。
【請求項4】
外周面に、複数のベルト層が積層されたベルト積層体を含む複数種類のタイヤ構成部材が円筒状に形成されて積層されたグリーンタイヤが成形される剛性コアを有するタイヤの成形システムにおいて、
前記剛性コアを拡縮可能に構成し、ベルト成形ドラムと、ベルト層保持機と、を備えて、
非拡径完了の縮径状態の前記剛性コアの外周面に、一対のビード部の間にインナーライナの上にカーカス層が積層されて円筒状のバンド部材が成形される構成にして、
前記ベルト成形ドラムの外周面の周長がドラム幅方向で変化が少なく同等と見做せる許容範囲に設定されていて、前記ベルト成形ドラムの外周面に、このベルト成形ドラムの周方向に対して所定の傾斜角度で延在する補強コードが多数本、このベルト成形ドラムの幅方向に隣接して並列された円筒状の前記ベルト層が複数積層されて前記ベルト積層体が成形される構成にして、
前記ベルト層保持機により、前記ベルト積層体が前記ベルト積層体の外周面で保持される構成にして、
前記ベルト層保持機により保持されている前記ベルト積層体が、前記バント部材に外挿された状態で前記バンド部材をインフレート機構によりインフレートさせることにより、前記バンド部材の外周面と前記ベルト積層体の内周面とが接合された一次グリーンタイヤが成形され、
縮径状態の前記剛性コアに外挿されている前記一次グリーンタイヤが前記剛性コアが拡径されることにより前記剛性コアに外嵌されて、この状態の前記一次グリーンタイヤの外周面に、残りの前記タイヤ構成部材が積層されて前記グリーンタイヤが成形されるタイヤの成形システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤの製造方法および成形システムに関し、さらに詳しくは、ベルト層のタイヤ幅方向での周長差が大きいグリーンタイヤを、剛性コアを用いて品質を損なうことなく成形できるタイヤの製造方法および成形システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造工程で、完成タイヤのタイヤ内周面形状に対応した外周面形状を有する剛性コアを使用する方法が知られている。剛性コアの外周にはタイヤ構成部材が順次積層されてグリーンタイヤが成形される(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の発明では、補強コードがタイヤ周方向に対して実質的にコード角度がゼロではない状態で延在するベルト層を形成するために、平行に引き揃えられた複数本の補強コードが未加硫ゴムでコーティングされたストリップ材が多数本使用される。このストリップ材を剛性コアの周方向に対して所定の傾斜角度で延在させて、幅方向に隣接させて多数本並べて配置することによりベルト層が形成される。
【0003】
成形するグリーンタイヤにおいて、ベルト層のタイヤ幅方向中心での周長とタイヤ幅方向端部での周長との周長差が大きい場合は、このようなストリップ材を幅方向に並列させると、タイヤ幅方向中心部で隣接するストリップ材どうしの幅方向隙間が大きくなる、或いは、タイヤ幅方向端部で隣接するストリップ材どうしの幅方向オーバーラップ量が大きくなる。隣接するストリップ材どうしの幅方向隙間が過大であると、タイヤの耐外傷強度の低下などの不具合につながる。また、隣接するストリップ材どうしの幅方向オーバーラップ量が過大であると、そのオーバーラップ部分およびその周辺部分では補強コードが座屈し易くなり、タイヤの耐久性を低下させるなどの不具合につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、品質の優れたタイヤを製造するには、ベルト層のタイヤ幅方向中心での周長とタイヤ幅方向端部での周長との周長差を、タイヤ品質に影響しないように吸収してグリーンタイヤを成形する必要がある。ベルト層の周長差に起因するこのような不具合は、多数本の上述したストリップ材を用いてグリーンタイヤを成形する場合だけでなく、例えば、ベルト層と同じ幅寸法の帯状のベルト部材を剛性コアに円筒状に巻付けてベルト層を形成する場合にも生じる。
【0006】
そこで本発明の目的は、ベルト層のタイヤ幅方向での周長差が大きいグリーンタイヤを、剛性コアを用いて品質を損なうことなく成形できるタイヤの製造方法および成形システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のタイヤの製造方法は、剛性コアの外周面に、複数のベルト層が積層されたベルト積層体を含む複数種類のタイヤ構成部材が円筒状に形成されて積層されたグリーンタイヤを成形し、次いで、前記グリーンタイヤを加硫装置に配置して加硫することによりタイヤを製造するタイヤの製造方法において、拡縮可能に構成した前記剛性コアの外周面に、前記剛性コアが非拡径完了の縮径状態で、一対のビード部の間にインナーライナの上にカーカス層が積層されている円筒状のバンド部材を成形し、ベルト成形ドラムの外周面の周長をドラム幅方向で変化が少なく同等と見做せる許容範囲に設定し、前記ベルト成形ドラムの外周面に、このベルト成形ドラムの周方向に対して所定の傾斜角度で延在する補強コードが多数本、このベルト成形ドラムの幅方向に隣接して並列された円筒状の前記ベルト層を複数積層して前記ベルト積層体を成形し、外周面をベルト層保持機により保持されている前記ベルト積層体を、前記バント部材に外挿した状態にして、前記バンド部材をインフレートさせることにより、前記バンド部材の外周面と前記ベルト積層体の内周面とを接合した一次グリーンタイヤを成形し、次いで、縮径状態の前記剛性コアに外挿されている前記一次グリーンタイヤを、前記剛性コアを拡径することにより前記剛性コアに外嵌し、次いで、前記一次グリーンタイヤの外周面に、残りの前記タイヤ構成部材を積層することによりグリーンタイヤを成形することを特徴とする。
【0008】
本発明のタイヤの成形システムは、外周面に、複数のベルト層が積層されたベルト積層体を含む複数種類のタイヤ構成部材が円筒状に形成されて積層されたグリーンタイヤが成形される剛性コアを有するタイヤの成形システムにおいて、前記剛性コアを拡縮可能に構成し、ベルト成形ドラムと、ベルト層保持機と、を備えて、非拡径完了の縮径状態の前記剛性コアの外周面に、一対のビード部の間にインナーライナの上にカーカス層が積層されて円筒状のバンド部材が成形される構成にして、前記ベルト成形ドラムの外周面の周長がドラム幅方向で変化が少なく同等と見做せる許容範囲に設定されていて、前記ベルト成形ドラムの外周面に、このベルト成形ドラムの周方向に対して所定の傾斜角度で延在する補強コードが多数本、このベルト成形ドラムの幅方向に隣接して並列された円筒状の前記ベルト層が複数積層されて前記ベルト積層体が成形される構成にして、前記ベルト層保持機により、前記ベルト積層体が前記ベルト積層体の外周面で保持される構成にして、前記ベルト層保持機により保持されている前記ベルト積層体が、前記バント部材に外挿された状態で前記バンド部材をインフレート機構によりインフレートさせることにより、前記バンド部材の外周面と前記ベルト積層体の内周面とが接合された一次グリーンタイヤが成形され、縮径状態の前記剛性コアに外挿されている前記一次グリーンタイヤが前記剛性コアが拡径されることにより前記剛性コアに外嵌されて、この状態の前記一次グリーンタイヤの外周面に、残りの前記タイヤ構成部材が積層されて前記グリーンタイヤが成形されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外周面の周長がドラム幅方向で変化が少なく同等と見做せる許容範囲に設定された前記ベルト成形ドラムを用いて、円筒状の前記ベルト積層体が成形される。そのため、このベルト積層体では、隣接する前記補強コードどうしの幅方向の間隔が過大になることも、オーバーラップ量が過大になることもない。そして、このベルト積層体の内周面をインフレートさせた前記バンド部材の外周面に接合した後、このベルト積層体を前記剛性コアの拡径とともに拡径させる。これにより、このベルト積層体は、製造されるタイヤの横断面のプロファイルに倣うように変形するので、隣接する前記補強コードのどうしの幅方向の間隔が局部的に過大になることも、オーバーラップ量が局部的に過大になることもない。即ち、前記ベルト層の幅方向中心での周長と幅方向端部での周長との周長差を、タイヤ品質に影響しないように吸収することが可能になる。それ故、剛性コアを用いてグリーンタイヤを成形しながらも、ベルト層のタイヤ幅方向での周長差が大きいグリーンタイヤを、品質を損なうことなく成形するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のタイヤの成形システムの構成を正面視で例示する説明図である。
【
図2】成形されたグリーンタイヤの上半分を横断面視で例示する説明図である。
【
図3】製造されたタイヤの上半分を横断面視で例示する説明図である。
【
図4】剛性コアの上半分を横断面視で例示する説明図である。
【
図5】
図4の剛性コアを側面視で例示する説明図である。
【
図6】バンド部材が外周面に成形された剛性コアを横断面視で例示する説明図である。
【
図7】ベルト成形ドラムの上半分を横断面視で例示する説明図である。
【
図8】ベルト層保持機を側面視で例示する説明図である。
【
図9】ストリップ材を用いてベルト成形ドラムの外周面でベルト層を成形する工程を平面視で例示する説明図である。
【
図10】ベルト成形ドラムを用いてベルト層にストリップ材を積層してベルト積層体を成形する工程を平面視で例示する説明図である。
【
図11】帯状のベルト部材を用いてベルト成形ドラムの外周面でベルト層を成形する工程を平面視で例示する説明図である。
【
図12】ベルト層保持機により保持されているベルト積層体を、バント部材に外挿した状態を横断面視で例示する説明図である。
【
図13】バンド部材をインフレートさせてバンド部材の外周面とベルト積層体の内周面とを接合する工程を横断面視で例示する説明図である。
【
図14】縮径状態の剛性コアに一次グリーンタイヤが外挿されている状態を横断面視で例示する説明図である。
【
図15】剛性コアを拡径して一次グリーンタイヤを剛性コアに外嵌した状態を横断面視で例示する説明図である。
【
図16】一次グリーンタイヤの外周面に、残りの前記タイヤ構成部材を積層してグリーンタイヤを成形する工程を横断面視で例示する説明図である。
【
図17】グリーンタイヤを加硫する工程を加硫装置の断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のタイヤの製造方法およびタイヤの成形システムを、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示する成形システム1の実施形態は、剛性コア2と、ベルト成形ドラム6と、ベルト層保持機7とを備えている。この実施形態では、後述するように剛性コア2に配置されるインフレート機構5が備わっている。インフレート機構5は空気などの気体を剛性コア2の内部に噴射する。この成形システム1を用いて、
図2に例示するグリータイヤGが成形される。そして、このグリーンタイヤGを加硫することにより
図3に例示するタイヤTが製造される。
【0013】
図中のW、L、Rの矢印はそれぞれ、グリーンタイヤGおよび完成タイヤTの幅方向、周方向、半径方向を示している。この幅方向W、周方向L、半径方向Rは、剛性コア2、ベルト成形ドラム6、ベルト層保持機7にも対応している。また、図中の一点鎖線CLはタイヤ軸(中心軸4aの軸心)、一点鎖線Zはタイヤの幅方向中心を示している。
【0014】
図3に例示するタイヤT(
図2に例示するグリーンタイヤG)は、最内周にインナーライナ10が配置されていて、その外周側にカーカス層12が積層されている。カーカス層12は、左右一対のビード部材11の間に架装されている。カーカス層12の左右両端部はそれぞれのビード部材11のビードコア11aの周りでタイヤ内側から外側に折り返されている。カーカス層12のタイヤ幅方向中央部の外周側には複数のベルト層14aが積層されて埋設されていて、その外周側にトレッドゴム19が積層されている。ベルト層14aは一般的には2層であるが例えば3層の場合もあり、その積層数は適宜設定される。複数のベルト層14aが積層されてベルト積層体14が形成されている。ベルト積層体14の外周側にはベルト積層体14の両端部を覆うベルトカバー層17が積層されている。
図2、
図3ではベルトカバー層17は、ベルト積層体14の幅方向一方端部から他方端部に連続して延在しているが、タイヤ幅方向中央部に間隔をあけて、ベルト積層体14の幅方向一方端部と他方端部とに配置されることもある。カーカス層12のタイヤ幅方向両側の外側にはサイドゴム18が積層されている。タイヤT(グリーンタイヤG)は、この構造に限定されない。
【0015】
図4~
図6に例示する円筒状の剛性コア2は、主に金属や硬質樹脂など弾性率が高い材質によって形成されていて、完成したタイヤTのタイヤ内周面形状に対応した外周面形状を有している。そのため、剛性コア2の外周面4bは、剛性コア2の幅方向位置によって周方向長さ(周長)が変化するプロファイルになっている。剛性コア2の外周面4bは、幅方向中央部に比して幅方向両端部では周長が短くなっている。インナーライナ10やカーカス層12は実質的に一定厚さの部材なので、ベルト積層体14(ベルト層14a)も外周面4bと同様に幅方向位置で周長が変化するプロファイルを有していることになる。
【0016】
この剛性コア2は、拡縮可能になっている。剛性コア2は例えば中心軸4aを中心にして周方向に分割された複数のセグメント3と、それぞれのセグメント3と中心軸4aとを連結する連結リンク4cとを有している。この実施形態ではセグメント3が10個であるがこれに限定されない。それぞれのセグメント3の外周面が剛性コア2の外周面4bになる。それぞれのセグメント3は、半径方向Rに移動可能な可動外周部3Aを有している。
【0017】
連結リンク4cによる伸縮によってそれぞれの可動外周部3Aが半径方向Rに移動することで剛性コア2が拡縮する。それぞれの可動外周部3Aが半径方向R外側に最大限に移動すると、周方向Lに隣り合う可動外周部3Aどうしが当接して、互いの周方向Lすき間が実質的に無い状態になる(拡径完了状態になる)。この実施形態では、剛性コア2は後述する
図14に例示する縮径した待機状態から、
図15に例示する拡径完了状態まで若干拡径させることが可能になっている。この縮径した待機状態から拡径完了状態までのそれぞれの可動外周部3Aの半径方向Rへの移動量tは例えば2mm~20mm程度である。剛性コア2の拡縮構造(連結リンク4c)は流体シリンダや機械的なリンク構造など公知の種々のものを採用することができる。
【0018】
図7に例示するベルト成形ドラム6の外周面6aの周長は、ドラム幅方向Wで変化が少なく同等と見做せる許容範囲に設定されている。具体的には、ベルト成形ドラム6の外周面6a(ベルト積層体14の成形が行われる範囲)は、ドラム幅方向Wで変化がない単純な円筒体の外周面でもよく、或いは、ベルト積層体14の成形範囲のドラム幅方向両端の周長Leがドラム幅方向中心での周長Lcの98%以上100%未満、より好ましくは99%以上100%未満になっていて、外周面6aがドラム幅方向中央部からドラム幅方向両端に向かって僅かに傾斜している仕様でもよい。
【0019】
図8に例示するベルト層保持機7は、円筒部の内周側に半径方向Rに移動する複数の保持部7aを有している。それぞれの保持部7aの内周面にベルト積層体14の外周面を保持することで、ベルト積層体14を移動可能に保持する。ベルト層保持機7としては、タイヤ成形工程で使用されている公知のトランスファーなどを用いることができる。
【0020】
次に、成形システム1を用いてグリーンタイヤGを成形し、このグリーンタイヤGを加硫してタイヤTを製造する手順の一例を説明する。
【0021】
グリーンタイヤGを成形するには、一次グリーンタイヤG1を成形する。一次グリーンタイヤG1を成形するには、剛性コア2とベルト成形ドラム6を用いる。
図6に例示するように、剛性コア2の外周面4bに、一対のビード部材11の間にインナーライナ10の上にカーカス層12が積層されている円筒状のバンド部材13が成形される。バンド部材13を成形するには公知の種々の方法を採用すればよく、例えば、剛性コア2の外周面4bにインナーライナ10とカーカス層12を順次巻付けて積層して円筒体にし、剛性コア2の側面に向かって一対のビード部材11を移動させてこの円筒体の側面に接合する。その後、この円筒体の幅方向両端部を、それぞれのビード部材11を包み込むように折り曲げる(ターンアップする)ことによりバンド部材13を成形する。必要に応じてその他のタイヤ構成部材をバンド部材13に設けてもよい。この時、剛性コア2は、縮径した待機状態(非拡径完了の収縮状態)にしておく。
【0022】
図7に例示するように、ベルト成形ドラム6ではその外周面6aに、複数のベルト層14aが積層された円筒状のベルト積層体14が成形される。それぞれのベルト層14aでは、
図9~
図11に例示するようにベルト成形ドラム6の周方向Lに対して所定の傾斜角度Aで延在する補強コード15aが多数本、このベルト成形ドラム6の幅方向に隣接して並列されている。傾斜角度Aは例えば20°~60°である。積層されて隣り合うベルト層14aでは、補強コード15aが交差方向に延在している。補強コード15aはタイヤに使用されている公知の種々の材質(樹脂、金属)を用いることができる。
【0023】
それぞれのベルト層14aは
図9~
図10に例示するように、多数のストリップ材15を用いて成形することができる。或いは、
図11に例示するように、帯状のベルト部材16を用いて成形することもできる。ベルト成形ドラム6を用いて円筒状のベルト層14a(ベルト積層体14)を成形できれば、使用する部材の形態は問わない。
【0024】
図9に例示するように、ストリップ材15は、平行に引き揃えられた複数本の補強コード15aが未加硫ゴムで被覆されて形成されている。補強コード15aの延在方向がストリップ材15の長手方向になっている。ストリップ材15の長手方向両端は長手方向に対して所定の傾斜角度Aで切断されて互いが平行になっている(傾斜角度Aは鋭角)。切断された1本のストリップ材15の幅は例えば5mm~50mm、長さは例えば200mm~800mmである。したがって、ストリップ材15は比較的小さくて軽量である。
【0025】
ストリップ材15を補強コード15aがベルト成形ドラム6の周方向Lに対して所定の傾斜角度Aで延在する向きにして、ベルト成形ドラム6の外周面6aに順次、並列させて配置する。これによりベルト成形ドラム6の外周面6aに円筒状のベルト層14aを成形する。次いで、
図10に例示するように、成形したベルト層14aの外周面に、補強コード15aがベルト成形ドラム6の周方向Lに対して所定の傾斜角度Aで延在する向きにして、順次、並列させて配置、積層する。この際に、既に成形されているベルト層14aの補強コード15aに対して、これから積層するストリップ材15の補強コード15aが交差するように延在する向きにして、ストリップ材15を配置、積層する。ベルト層14aの積層数に応じて、以後同様の方法でストリップ材15を配置、積層することで、円筒状のベルト層14aが複数積層されたベルト積層体14が成形される。
【0026】
図11に例示するように、帯状のベルト部材16は、平行に引き揃えられた多数本の補強コード15aが未加硫ゴムで被覆されて形成されて、その幅寸法はベルト層14aの幅寸法と同じであり、その長さ寸法はベルト層14aの周長と同等である。即ち、帯状のベルト部材16は、ベルト層14aに必要な本数のストリップ材15が接合された仕様である。換言すると、ストリップ材15は、帯状のベルト部材16を細分化された仕様である。
【0027】
ベルト部材16を補強コード15aがベルト成形ドラム6の周方向に対して所定の傾斜角度Aで延在する向きにして、ベルト成形ドラム6の外周面に巻付ける。これによりベルト成形ドラム6の外周面に円筒状のベルト層14aを成形する。次いで、成形したベルト層14aの外周面に、別のベルト部材16を補強コード15aがベルト成形ドラム6の周方向に対して所定の傾斜角度Aで延在する向きにして巻付けて積層する。この際に、既に成形されているベルト層14aの補強コード15aに対して、これから積層するベルト部材16の補強コード15a交差するように延在する向きにして、ベルト部材16を巻付けて積層する。ベルト層14aの積層数に応じて、以後同様の方法でベルト部材16を巻付けて積層することで、円筒状のベルト層14aが複数積層されたベルト積層体14が成形される。
【0028】
ベルト成形ドラム6の外周面6aの周長は、上述したようにドラム幅方向Wで変化が少なく同等と見做せる許容範囲に設定されている。そのため、ベルト成形ドラム6を用いて成形された円筒状のベルト積層体14では、補強コード15aどうしの幅方向Wの間隔が過大になることも、オーバーラップ量が過大になることも回避できる。
【0029】
次いで、
図8に例示するように、円筒状のベルト積層体14をベルト層保持機7により保持して剛性コア2に向かって移動させて、
図12に例示するようにベルト積層体14をバント部材13に外挿する。この時、ベルト積層体14の内周面とバント部材13の外周面とは間隔があって接触していない状態である。
【0030】
次いで、
図13に例示するように、ベルト積層体14が外挿されたバント部材13を、インフレート機構5によりインフレートさせることにより、バンド部材13の外周面とベルト積層体14の内周面とを接合して一次グリーンタイヤG1を成形する。この時のインフレート圧力は比較的低圧(例えば、0.01MPa~0.2MPa)にする。バンド部材13を過剰に膨張変形させずに、バンド部材13の外周面をベルト積層体14の内周面に接合させて一次グリーンタイヤG1を成形する。比較的低圧でインフレートさせたバンド部材13の外周面にベルト積層体14の内周面を接合することで、ベルト積層体14およびバンド部材13の変形を抑制しつつ、ベルト積層体14を膨張させたバンド部材13に沿わせて一体化することができる。
【0031】
一次グリーンタイヤG1では、バンド部材13の外周面とベルト積層体14とが剥離せずに仮接合されている状態であればよく、両者を強固に接合しなくてもよい。円筒状のベルト積層体14の外周面は保持部7aに保持されているので、ベルト積層体14の外周側への変形は規制され、タイヤTでのベルト積層体14の外径よりも小径に維持される。
【0032】
その結果、
図14に例示するように、縮径した待機状態の剛性コア2に一次グリーンタイヤG1が外挿された状態になる。その後、
図15に例示するように剛性コア2を拡径完了状態になるまで若干拡径して一次グリーンタイヤG1を剛性コア2に外嵌された状態にする。これにより、ベルト積層体14は、製造されるタイヤTの横断面のプロファイルに倣うように、インナーライナ10およびカーカス層12と一体的に変形するので、隣接する補強コード15aのどうしの幅方向Wの間隔が局部的に過大になることも、オーバーラップ量が局部的に過大になることもない。
【0033】
次いで、この一次グリーンタイヤG1の外周面に、
図16に例示するように、残りのタイヤ構成部材が積層されてグリーンタイヤGが成形される。即ち、剛性コア2上で、一次グリーンタイヤG1の所定の位置に残りのタイヤ構成部材として、ベルトカバー層17、サイドゴム18やトレッドゴム19を積層する。
【0034】
ベルトカバー層17は、平行に引き揃えられた多数本の補強コードが未加硫ゴムで被覆されて形成されていて、これら補強コードはタイヤ周方向Lに実質的に平行に延在している。ベルトカバー層17を積層して形成するには、例えば、平行に引き揃えられた複数本の補強コードが未加硫ゴムで被覆されて形成されているストリップ材をベルト積層体14の外周面に巻き付ける。或いは、幅寸法がベルトカバー層17の幅寸法と同じであり、その長さ寸法がベルトカバー層17の周長と同等であるベルトカバー部材をベルト積層体14の外周面に巻き付けてベルトカバー層17を形成することも、未加硫ゴムで被覆された補強コードをベルト積層体14の外周面に螺旋状に巻き付けてベルトカバー層17を形成することもできる。ベルト積層体14は剛性コア2によって支持されているので、ベルトカバー層17を所定位置に確実に配置してベルト積層体14に強固に接合することができる。また、ベルトカバー層17を螺旋状に巻付けて形成する方法を用いると、プロファイルに沿って任意の張力状態で巻き付けてタイヤTを構成することが可能になるので、ベルトカバー層17の補強コードの弾性領域を有効に利用できる。これにより、特にタイヤTの高速耐久性をより向上させるなどの効果が得られる。
【0035】
このようにして、剛性コア2の外周面4bに、複数のベルト層14aが積層されたベルト積層体14を含む複数種類のタイヤ構成部材10、11、12、17、18、19が円筒状に形成されて積層されたグリーンタイヤGが成形される。必要に応じてその他のタイヤ構成部材を積層してもよい。
【0036】
次いで、
図17に例示するようにグリーンタイヤGを剛性コア2とともに、加硫装置8に設置された加硫用モールド9の内部に配置して加硫用モールド9を閉型する。次いで、閉型した加硫用モールド9の内部でグリーンタイヤGを所定条件で加硫することでグリーンタイヤGの未加硫ゴムが加硫ゴムとなり、
図3に例示するタイヤT(空気入りタイヤ)が完成する。加硫用モールド9から取り出した後で、完成したタイヤTから剛性コア2から分離させる。尚、剛性コア2を取り外したグリーンタイヤGを加硫用モールド9の内部に配置して加硫することもでき、グリーンタイヤGの加硫方法は特に限定されない。
【0037】
この実施形態では上述したように、ベルト積層体14(ベルト層14a)を成形する際に、外周面6aの周長がドラム幅方向Wで変化が少なく同等と見做せる許容範囲に設定されたベルト成形ドラム6を使用し、かつ、インフレートさせたバンド部材13の外周面にベルト積層体14の内周面を接合した後、このベルト積層体14を剛性コア2の拡径とともに若干拡径させる工夫をしている。その結果、隣接する補強コード15aのどうしの幅方向Wの間隔が局部的に過大になることも、オーバーラップ量が局部的に過大になることもなく、ベルト層14aの幅方向中心での周長と幅方向端部での周長との周長差を、タイヤ品質に影響しないように吸収することを可能にしている。それ故、剛性コア2を用いてグリーンタイヤGを成形しながらも、ベルト層14aのタイヤ幅方向での周長差が大きいグリーンタイヤGを、品質を損なうことなく成形するには有利になる。これに伴い、品質の優れたタイヤTを製造することが可能になる。
【0038】
ベルト層14aのタイヤ幅方向Wでの周長差が大きいタイヤT、例えば、最内周のベルト層14aの幅方向中心での周長Lcが幅方向端での周長Leの102%以上(102%~105%程度)のタイヤTも存在する。このようなタイヤTを製造する際に、剛性コア2を使用してグリーンタイヤGを成形すると、ベルト層14aの幅方向中央部で補強コード15aの幅方向Wの間隔が過大になる、或いは、幅方向端部で補強コード15aの幅方向Wのオーバーラップ量が過大になる不具合が特に生じ易くなる。ところが、上述した実施形態を適用することにより、これらの不具合を効果的に回避することが可能になる。
【0039】
また、ベルト層14aのタイヤ幅方向Wでの周長差が大きいタイヤTでは、補強コード15aがアラミド繊維などの極めて高強度で非熱収縮性であると、局所的な座屈損傷が生じ易くなる。この実施形態を適用することで、補強コード15aの局所的な過大な変形を抑制できるので、補強コード15aの座屈損傷を回避するには有利になる。
【符号の説明】
【0040】
1 成形システム
2 剛性コア
3 2A セグメント
3A 可動外周部
4a 中心軸
4b 外周面
4c 連結リンク
5 インフレート機構
6 ベルト成形ドラム
6a 外周面
7 ベルト層保持機
7a 保持部
8 加硫装置
9 モールド
10 インナーライナ
11 ビード部材
11a ビードコア
12 カーカス層
13 バンド部材
14 ベルト積層体
14a ベルト層
15 ストリップ材
15a 補強コード
16 帯状のベルト部材
17 ベルトカバー層
18 サイドゴム
19 トレッドゴム
G1 一次グリーンタイヤ
G グリーンタイヤ
T タイヤ(完成タイヤ)