(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036012
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】還元剤供給装置、還元剤供給装置の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20240308BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
F01N3/08 B ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140701
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 光良
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達矢
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
【Fターム(参考)】
3G091AA05
3G091AA18
3G091AB02
3G091AB05
3G091AB13
3G091BA07
3G091CA17
3G091EA17
3G091EA33
3G091HA15
3G091HA36
3G091HA37
3G091HA42
4D148AA06
4D148AB02
4D148AC03
4D148CC61
4D148CD05
4D148DA01
4D148DA08
4D148DA20
(57)【要約】
【課題】簡易な制御で尿素噴射装置内の尿素水の固着を防止することができる還元剤供給装置、還元剤供給装置の制御方法および制御装置を提供する。
【解決手段】還元剤供給装置は、エンジンの排気管内に供給される還元剤を貯蔵するタンクと、前記タンク内の前記還元剤を圧送する圧送手段と、圧送される前記還元剤を供給する還元剤供給通路と、前記還元剤供給通路により供給された前記還元剤を前記排気管内に噴射する噴射ノズルと、前記還元剤供給通路内の前記還元剤を前記タンク側に吸い戻す吸い戻し手段と、前記圧送手段、前記噴射ノズルおよび前記吸い戻し手段の動作を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記吸い戻し手段を動作させている間に、所定の周期で繰り返し前記噴射ノズルに開閉動作を行わせる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気管内に供給される還元剤を貯蔵するタンクと、
前記タンク内の前記還元剤を圧送する圧送手段と、
圧送される前記還元剤を供給する還元剤供給通路と、
前記還元剤供給通路により供給された前記還元剤を前記排気管内に噴射する噴射ノズルと、
前記還元剤供給通路内の前記還元剤を前記タンク側に吸い戻す吸い戻し手段と、
前記圧送手段、前記噴射ノズルおよび前記吸い戻し手段の動作を制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、前記吸い戻し手段を動作させている間に、所定の周期で繰り返し前記噴射ノズルに開閉動作を行わせる
還元剤供給装置。
【請求項2】
前記開閉動作は、前記噴射ノズルが備える弁を全開または全閉させる動作である
請求項1に記載の還元剤供給装置。
【請求項3】
前記開閉動作は、前記周期における開動作の時間が閉動作の時間より長い動作である
請求項2に記載の還元剤供給装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記吸い戻し手段の動作を終了させた後、前記噴射ノズルを閉弁する
請求項1~3のいずれか1項に記載の還元剤供給装置。
【請求項5】
エンジンの排気管内に供給される還元剤を貯蔵するタンクと、
前記タンク内の前記還元剤を圧送する圧送手段と、
圧送される前記還元剤を供給する還元剤供給通路と、
前記還元剤供給通路により供給された前記還元剤を前記排気管内に噴射する噴射ノズルと、
前記還元剤供給通路内の前記還元剤を前記タンク側に吸い戻す吸い戻し手段と、
前記圧送手段、前記噴射ノズルおよび前記吸い戻し手段の動作を制御する制御装置と
を備える還元剤供給装置の制御方法であって、
前記吸い戻し手段を動作させている間に、所定の周期で繰り返し前記噴射ノズルに開閉動作を行わせるステップを
含む還元剤供給装置の制御方法。
【請求項6】
エンジンの排気管内に供給される還元剤を貯蔵するタンクと、
前記タンク内の前記還元剤を圧送する圧送手段と、
圧送される前記還元剤を供給する還元剤供給通路と、
前記還元剤供給通路により供給された前記還元剤を前記排気管内に噴射する噴射ノズルと、
前記還元剤供給通路内の前記還元剤を前記タンク側に吸い戻す吸い戻し手段と、
を備える還元剤供給装置において、
前記圧送手段、前記噴射ノズルおよび前記吸い戻し手段の動作を制御する制御装置であって、
前記吸い戻し手段を動作させている間に、所定の周期で繰り返し前記噴射ノズルに開閉動作を行わせる
制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、還元剤供給装置、還元剤供給装置の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、尿素噴射装置内での尿素水の固着を防止するため、尿素水噴射装置とポンプ間の経路内に圧力の高いガスを充填し、圧縮ガスの放出によって尿素水噴射装置内に残留した尿素水を吹き飛ばして除去する還元剤供給装置が開示されている。特許文献1に記載されている還元剤供給装置では、圧縮ガスが放出し、かつ、尿素水が尿素水噴射装置に供給される前に、尿素水噴射装置の弁を閉じる必要がある。特許文献1に記載されている還元剤供給装置では、予め設定したタイミングで弁を開閉等したり、経路内圧力が予め設定した値となったときに弁を開閉等したりする制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/092665号(特許第6564393号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている還元剤供給装置では、圧力変動によって尿素噴射装置内の尿素水の固着を防止することができる。しかしながら、タイミングや圧力に基づく弁の開閉等を精密に制御することが求められる。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な制御で尿素噴射装置内の尿素水の固着を防止することができる還元剤供給装置、還元剤供給装置の制御方法および制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、エンジンの排気管内に供給される還元剤を貯蔵するタンクと、前記タンク内の前記還元剤を圧送する圧送手段と、圧送される前記還元剤を供給する還元剤供給通路と、前記還元剤供給通路により供給された前記還元剤を前記排気管内に噴射する噴射ノズルと、前記還元剤供給通路内の前記還元剤を前記タンク側に吸い戻す吸い戻し手段と、前記圧送手段、前記噴射ノズルおよび前記吸い戻し手段の動作を制御する制御装置と
を備え、前記制御装置は、前記吸い戻し手段を動作させている間に、所定の周期で繰り返し前記噴射ノズルに開閉動作を行わせる還元剤供給装置である。
【0007】
本開示の一態様は、エンジンの排気管内に供給される還元剤を貯蔵するタンクと、前記タンク内の前記還元剤を圧送する圧送手段と、圧送される前記還元剤を供給する還元剤供給通路と、前記還元剤供給通路により供給された前記還元剤を前記排気管内に噴射する噴射ノズルと、前記還元剤供給通路内の前記還元剤を前記タンク側に吸い戻す吸い戻し手段と、前記圧送手段、前記噴射ノズルおよび前記吸い戻し手段の動作を制御する制御装置とを備える還元剤供給装置の制御方法であって、前記吸い戻し手段を動作させている間に、所定の周期で繰り返し前記噴射ノズルに開閉動作を行わせるステップを含む還元剤供給装置の制御方法である。
【0008】
本開示の一態様は、エンジンの排気管内に供給される還元剤を貯蔵するタンクと、前記タンク内の前記還元剤を圧送する圧送手段と、圧送される前記還元剤を供給する還元剤供給通路と、前記還元剤供給通路により供給された前記還元剤を前記排気管内に噴射する噴射ノズルと、前記還元剤供給通路内の前記還元剤を前記タンク側に吸い戻す吸い戻し手段と、を備える還元剤供給装置において、前記圧送手段、前記噴射ノズルおよび前記吸い戻し手段の動作を制御する制御装置であって、前記吸い戻し手段を動作させている間に、所定の周期で繰り返し前記噴射ノズルに開閉動作を行わせる制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の各態様によれば、簡易な制御で尿素噴射装置内の尿素水の固着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る還元剤供給装置を含む排気ガス後処理装置の構成例を示す構成図。
【
図2】本開示の実施形態に係る還元剤供給装置を含む排気ガス後処理装置の構成例を示す構成図。
【
図3】還元剤供給装置における噴射ノズルを示す構成図。
【
図4】還元剤供給装置における噴射ノズルを示す構成図。
【
図5】還元剤供給装置における噴射ノズルを示す構成図。
【
図6】本開示の実施形態に係る制御装置の構成例を示すブロック図。
【
図7】本開示の実施形態に係る還元剤供給装置の動作例を示すフローチャート。
【
図8】本開示の実施形態に係る還元剤供給装置の動作例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。
図1および
図2は、本開示の実施形態に係る還元剤供給装置を含む排気ガス後処理装置の構成例を示す構成図である。
図3~
図5は、還元剤供給装置における噴射ノズルを示す構成図である。
図6は、本開示の実施形態に係る制御装置の構成例を示すブロック図である。
図7は、本開示の実施形態に係る還元剤供給装置の動作例を示すフローチャートである。
図8は、本開示の実施形態に係る還元剤供給装置の動作例を示すタイミングチャートである。なお、各図において同一または対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0012】
[排気浄化装置の概略構成]
図1および
図2は、本実施形態に係る排気浄化装置10を備える作業車両1の概略構成を模式的に示す。ここで、作業車両1は、例えば、鉱山や道路等の建設現場において、掘削、地均し等の作業や土砂等の運搬を行う作業機械であり、例えば、油圧ショベル、ホイールローダ、ブルドーザ、モータグレーダ、クレーン等の建設機械や、ダンプトラック、フォークリフト等の運搬車両が該当する。なお、本実施形態の排気浄化装置10は、ディーゼルエンジンの排気ガスを浄化するものであるため、作業車両1に限らず、ディーゼルエンジンを備える様々な車両や機器に利用できる。作業車両1は、ディーゼルエンジン2(以下、エンジンともいう)と、ディーゼルエンジン2の排気ガスによってタービンを回転してディーゼルエンジン2に供給する空気を圧縮するターボチャージャ3と、制御装置8と、モニタ9と、排気浄化装置10とを備える。なお、
図1および
図2は、後述する方向切替バルブ42(ポンプ内方向切替バルブともいう)が駆動OFF(オフ)している状態(
図1)と駆動ON(オン)している状態(
図2)を示し、尿素水7が流れる向きを矢印uで示している。
【0013】
ディーゼルエンジン2には、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度検出装置6と、ディーゼルエンジン2に燃料を噴射する図示してない燃料噴射装置とが設けられている。エンジン回転速度検出装置6の検出データは、制御装置8に出力される。また、制御装置8は、アクセル操作などに応じて図示していない燃料噴射装置を制御する。
【0014】
[モニタ]
モニタ9は、表示部と入力部を備える。表示部は、液晶ディスプレイなどで構成される。表示部は、冷却水温、燃料残量等の各種情報、コーションなどを表示する。
【0015】
[排気浄化装置]
排気浄化装置10は、排気ガス中の粒子状物質(Particulate Matter;以下「PM」と略す)やNOx(窒素酸化物)等の残留物質の捕集や還元などの処理を行うものであり、制御装置8によって制御されている。排気浄化装置10は、ディーゼルエンジン2から排出される排気ガスの流れ方向における上流側から順に、燃料噴射装置172と、DPF装置171と、還元剤供給装置4と、選択還元触媒(Selective Catalytic Reduction;以下「SCR」と記す)装置175とを備える。DPF装置171は、ディーゼル酸化触媒(Diesel Oxidation Catalyst;以下「DOC」と略す)装置30と、DPF(Diesel Particulate Filter;ディーゼルパティキュレートフィルタ)170とを備える。これらのDPF装置171、還元剤供給装置4、SCR装置175は、ディーゼルエンジン2からの排気ガスが流通する経路11の途中に設けられる。この経路11は、ディーゼルエンジン2に接続されたターボチャージャ3からの排気ガスをDPF装置171に導入する入口管12と、DPF装置171とSCR装置175とを接続する出口管13と、SCR装置175の出口に接続された出口管14とを備える。また、出口管13の中には、還元剤供給装置4から供給された尿素水を拡散する機構を持つ。経路11は、本開示に係るエンジン2の排気管に対応する。
【0016】
[DPF装置]
DPF装置171は、DOC装置30と、DPF170とを備え、DPF170でPMを捕集し、DOC装置30で変換された二酸化窒素によって下流で捕集されたPMを酸化して二酸化炭素とし、PMを除去する。
【0017】
[DOC装置]
DOC装置30は、ケースを備え、ケースの内部にはディーゼル酸化触媒が収容されている。DOC装置30は、排気ガス中に必要に応じて供給される燃料(以下、ドージング燃料という。また、ドージング燃料を供給することを燃料ドージングという)を酸化、発熱させて、排気ガス温度を所定の高温域まで上昇させる触媒である。この温度が上昇した排気ガスを利用することで、後述する出口管13等に堆積した尿素デポジットを分解除去し、再生させる。ドージング燃料は、例えばエンジン燃料と同じ軽油であり、ドージング燃料をエンジンシリンダ内に供給する場合では、エンジンシリンダ内噴射用の燃料噴射装置によりポスト噴射によってドージング燃料を供給することになる。また、本実施形態では、入口管12に設けたドージング用の燃料噴射装置172によって、排気ガス中に燃料を供給し、排気ガスと共にDOC装置30内に流入させることができる。
【0018】
[還元剤供給装置]
還元剤供給装置4は、排気ガス中に還元剤水溶液としての尿素水7を噴出する装置であり、尿素水7を圧送するポンプユニット40と、尿素水7が貯蔵されるタンク50と、尿素水7を経路11(出口管13)内に噴射する噴射ノズル60と、ポンプユニット40によってタンク50から噴射ノズル60に供給される尿素水7が流れる還元剤供給通路70とを備える。なお、還元剤供給装置4は、制御装置8を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0019】
[ポンプユニット]
ポンプユニット40は、尿素水7を圧送するポンプ41と、方向切替バルブ42と、圧力計43と、逆止弁44と、オリフィス45とを備える。さらに、ポンプユニット40は、3つのポート451、452、および453を備える。ポート451は、ポンプユニット40の入口ポートであり、ポート451および方向切替バルブ42間は第1通路471で接続されている。ポート452は、ポンプユニット40の出口ポートであり、方向切替バルブ42およびポート452間は第2通路472で接続されている。ポート453は、尿素水7をタンク50に還流するためのリターンポートであり、ポート453は第2通路472から分岐された第3通路473に接続されている。ポート451には、ポンプ入口用のスクリーンフィルタ461が設けられ、ポンプ41に異物が侵入することを防止している。第2通路472の途中には、フィルタ462が設けられ、異物が流出することを防止している。ポート453には、スクリーンフィルタ463と、逆止弁44と、オリフィス45とが設けられている。第3通路473には圧力計43が配置されている。第3通路473は第2通路472に連通しているので、圧力計43は、第2通路472、第2の還元剤供給通路72の系内圧力Pを検出する。
【0020】
[還元剤供給通路]
タンク50およびポート451間は、第1の還元剤供給通路71で接続されている。ポート452および噴射ノズル60間は、第2の還元剤供給通路72で接続されている。したがって、第1の還元剤供給通路71および第2の還元剤供給通路72で、タンク50から噴射ノズル60に還元剤である尿素水7を供給する還元剤供給通路70が構成される。また、ポート453およびタンク50間はバイパス通路73で接続されている。そして、第1の還元剤供給通路71、第2の還元剤供給通路72、バイパス通路73は、具体的にはホースで構成されている。
【0021】
第1の還元剤供給通路71のタンク50側の端部は、尿素水7の吸引を可能とするため、タンク50の底面近くに配置されている。また、第1の還元剤供給通路71の端部には、タンク吸込口ストレーナ75が設けられ、還元剤供給通路70内に異物が吸引されることを防止している。バイパス通路73のタンク50側の端部は、タンク50内の尿素水7の液面よりも高い位置に配置されている。さらに、タンク50には、内部の圧力を大気圧に維持するためのブリーザー等が設けられている。
【0022】
[ポンプ]
ポンプ41は、代表的には電動式ポンプが用いられ、制御装置8によって駆動が制御される。このポンプ41の入口側通路411および出口側通路412は、方向切替バルブ42に接続されている。
【0023】
[方向切替バルブ]
方向切替バルブ42は、制御装置8からの制御信号によって、ポンプ41によって圧送される尿素水7が流れる方向を、タンク50から噴射ノズル60に向かう順流方向(
図1)と、噴射ノズル60からタンク50に向かう逆流方向(
図2)とに切り換える電磁方向制御弁である。方向切替バルブ42は、
図1に示すように、制御装置8から制御信号が出力されておらず、ソレノイドに通電されていない場合は、第1通路471を入口側通路411に連通し、第2通路472を出口側通路412に連通して、尿素水7が流れる方向を順流方向に設定する。この場合、ポンプ41が作動すると、第1の還元剤供給通路71から第1通路471を介して入口側通路411に尿素水7が吸い込まれ、出口側通路412から第2通路472を介して第2の還元剤供給通路72に尿素水7が吐出される。したがって、ポンプ41および順流方向に設定された方向切替バルブ42によって、本開示の圧送手段が構成される。
【0024】
一方、方向切替バルブ42は、
図2に示すように、制御装置8から制御信号が出力されてソレノイドに通電されていると、第1通路471を出口側通路412に連通し、第2通路472を入口側通路411に連通して、尿素水7が流れる方向を逆流方向に切り換える。この場合、ポンプ41が作動すると、第2の還元剤供給通路72から第2通路472を介して入口側通路411に尿素水7が吸い込まれ、出口側通路412から第1通路471および第1の還元剤供給通路71を介してタンク50側に尿素水7が戻される。したがって、ポンプ41および逆流方向に設定された方向切替バルブ42によって、本開示の吸い戻し手段が構成される。
【0025】
なお、尿素水7が流れる方向を切り換える構成としては、本実施形態のような方向切替バルブ42を用いるものに限定されない。例えば、2つのポンプを設け、吐出と吸い戻しとを分担させてもよい。この場合、吐出用ポンプを作動し、吸い戻し用ポンプを停止して尿素水7を順流方向に吐出し、吐出用ポンプを停止し、吸い戻し用ポンプを作動して尿素水7を逆流方向に吸い戻せばよい。
【0026】
[噴射ノズル]
噴射ノズル60は、制御装置8によって駆動オン(通電)または駆動オフ(非通電)となるように制御され、ポンプ41によって圧送された尿素水7を経路11(出口管13)内に噴射する尿素水噴射装置(以下では、噴射ノズル60を尿素噴射装置ともいう)である。
図3および
図4に示すように、ケース61内に軸方向に移動可能に配置された針弁62を、噴射孔63に連通する弁座64に対して、電磁石65およびバネ66を用いて進退させて開弁状態および閉弁状態を制御するものである。すなわち、
図4に示すように、制御装置8から制御信号が出力されて電磁石65に通電されると、電磁石65で発生する磁力によって針弁62が弁座64から離れ、針弁62内部の尿素水7が針弁62と弁座64間に流入し、噴射ノズル60は噴射孔63から尿素水7を噴射可能な開弁状態となる。一方、
図3に示すように、制御装置8から制御信号が出力されずに電磁石65に通電されていない場合は、バネ66および尿素水7の圧力によって針弁62が弁座64に当接し、噴射ノズル60は噴射孔63から尿素水を噴射できない閉弁状態となる。そして、噴射ノズル60が開弁状態となって噴射孔63から排気管11内に噴射された尿素水7は、排気ガスの熱によって加水分解されてアンモニアとなり、SCR31で窒素酸化物を還元浄化する。
【0027】
[SCR装置]
SCR装置175は、還元剤供給装置4から排気ガス中に噴射される尿素水7の分解で得られるアンモニアを還元剤とすることで、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元浄化するものである。なお、SCR装置175には、SCR装置175の出口温度を測定する温度センサ51と、SCR装置175の入口温度を測定する図示していない温度センサ、アンモニア濃度を測定するアンモニアセンサ等の図示略の各種センサが設けられる。ただし、これらのセンサの一部は省略することができる。これらの各センサの測定データは、制御装置8に出力され、制御装置8は、各測定データに基づいて還元剤供給装置4を制御して尿素水の噴出制御などを行う。噴射ノズル60から尿素水7を噴射すると、尿素が出口管13中で結晶化して析出する場合がある。このため、排ガス温度を高温にすることで、出口管13内の析出物(尿素デポジット)を分解する再生処理を行う必要がある。再生処理には、例えば、作業車両が作動している時に自動的に行う自動再生制御と、オペレータの手動操作で実行される定置手動再生とがあり、制御装置8によって切り換え選択されて制御される。
【0028】
[尿素水の固着例]
尿素水7は一定温度以下になると、凍結する。そのため、凍結した際、膨張による還元剤供給装置4(噴射ノズル(尿素水噴射装置)60、ポンプ41、第1の還元剤供給通路71、第2の還元剤供給通路72等のホース)の破損を避けるため、エンジン2が停止した後に、タンク50と噴射ノズル60間に存在する尿素水7をタンク50に戻す制御(以下、尿素水戻し制御という)を実施する必要がある。尿素水戻し制御では、特に噴射ノズル60内の流路が複雑な形状をしているため、尿素水7を完全に回収できずに尿素水7が噴射ノズル60内に残留する場合がある。また、
図5に示すように、尿素水戻し制御では、尿素水7の吸い戻し時に噴射孔63からケース61内に出口管13からの排気ガスeが流れ込む期間が発生するため、針弁62と弁座64間で尿素水7が結晶C1に変化したり、針弁62とケース61間の隙間等で尿素水7が結晶C2に変化したりする。結晶C1、C2等は尿素水7の流路に目詰まりを生じさせることがあり、目詰まりが発生すると目詰まりが解消さるまで噴射ノズル60は尿素水7を噴射させることができなくなる場合がある。目詰まりは、上述した再生処理によって解消させることができるが、再生処理は燃費悪化やモニタ9での通知の発生が伴うため、再生処理によらずに目詰まりを防止することが望まれる。そこで、本実施形態では、後述するようにして、尿素水戻し制御時に、針弁62と弁座64間の結晶C1やケース61内の結晶C2等の発生を防止するための制御を実施している。
【0029】
[センサ]
排気浄化装置10には、ディーゼルエンジン2や排気浄化装置10の状況を検出するための各種センサが設けられている。すなわち、入口管12またはDPF装置171の入口部もしくは出口部、出口管13、SCR装置175の入口部等において、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の濃度を検出する図示していないNOxセンサが配置されている。DPF装置171には、DOC装置30の入口温度を測定する入口温度センサ31と、DOC装置30の出口温度を測定する出口温度センサ45と、DPF170の出口温度を測定する出口温度センサ174とが設けられている。SCR装置175には、上述したようにSCR装置175の出口温度を測定するSCR出口温度センサ51が設けられている。SCR装置175に接続された出口管14には、SCR装置175から排出される排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を検出するNOxセンサ52が配置されている。これらのセンサは、Controller Area Network(CAN)18を介して制御装置8に接続され、測定データを制御装置8に出力している。
【0030】
[制御装置]
次に、制御装置8の構成について説明する。制御装置8は、例えばマイクロコンピュータ等のコンピュータを用いて構成することができ、コンピュータ、周辺回路、周辺装置等のハードウェアと、コンピュータが実行するプログラム等のソフトウェアとの組み合わせ等から構成される機能的構成として、
図6に示すように、データ取得部81と、還元剤供給装置制御部82とを備える。
【0031】
[データ取得部]
データ取得部81は、エンジン回転速度検出装置6、入口温度センサ31、出口温度センサ45、NOxセンサ52、圧力計43等の各センサの測定データを所定の周期で繰り返し取得する。
【0032】
[還元剤供給装置制御部]
還元剤供給装置制御部82は、ポンプ41、方向切替バルブ42、噴射ノズル60に制御信号を出力してこれらの動作を制御する。すなわち、還元剤供給装置制御部82は、エンジン2の運転中、圧力計43で検出される圧力値に基づいてポンプ41をフィードバック制御することで、第2通路472や第2の還元剤供給通路72内の圧力を所定値に維持する。具体的には、制御装置8は、ポンプ41で尿素水7を圧送している際に圧力計43で検出される圧力値が予め設定した所定値よりも高くなった場合は、ポンプ41の吐出量を減らし、圧力値が所定値よりも低くなった場合は、ポンプ41の吐出量を増やすことで、第2通路472や第2の還元剤供給通路72の圧力を所定値に維持する。
【0033】
また、還元剤供給装置制御部82は、エンジン2の回転数やSCR装置175の排気下流側に設けられたNOxセンサ52のセンサ値等に基づいて、噴射ノズル60の駆動を制御する。さらに、制御装置8は、エンジン2の停止時に、尿素水7を噴射ノズル60から除去する制御である尿素水戻し制御を実行する。
【0034】
[尿素水戻し制御]
図7および
図8を参照して、尿素水戻し制御について説明する。なお、
図8は、横軸を時間軸として、ポンプ41、方向切替バルブ42および噴射ノズル60の動作状態(ONまたはOFFの駆動状態)と、第2の還元剤供給通路72等の還元剤供給通路70の状態との時間変化の例を示す。オペレータがエンジン2のスタータキーをOFF(オフ)にすると、
図7に示すように、還元剤供給装置制御部82は、ステップS101でYESと判定し、一定時間(閾値T時間)待機する(ステップS102でNOの繰り返しからステップS102でYES)。ステップS102での一定時間の待機は、エンジン停止後にDOC30の温度を一定程度低下させるための待機であり、例えば、温度と待ち時間との対応関係を示すテーブルを用いて閾値Tが決定される。
【0035】
ステップS102でYESとなったタイミングが尿素水戻し制御の開始タイミングである。還元剤供給装置制御部82は、まず、ポンプ41を駆動するとともに、方向切替バルブ42を駆動する(ステップS103、
図8の時刻t0)。なお、時刻t0では、噴射ノズル60は駆動OFFの状態である。
【0036】
次に、還元剤供給装置制御部82は、所定時間T1だけ待機する(ステップS104でNOの繰り返しからステップS104でYES)。所定時間T1は、尿素水7の流れを逆流方向に切り替えた後、一定時間ポンプ41を駆動することで、噴射ノズル60が駆動OFFの状態(閉弁状態)で第2の還元剤供給通路72の圧力を減圧した状態をつくるための時間である。減圧後に噴射ノズル60を開弁することで、減圧しない場合と比較してより高い圧力差で尿素水7を吸い戻すことができる。
【0037】
次に、還元剤供給装置制御部82は、噴射ノズル60をTon時間だけ駆動ON(開弁)する(ステップS105、
図8の時刻t1からTon時間)。次に、還元剤供給装置制御部82は、噴射ノズル60をToff時間だけ駆動OFF(閉弁)する(ステップS106)。次に、還元剤供給装置制御部82は、噴射ノズル60の開閉繰り返し回数が閾値N1より大きいか否かを判定する(ステップS107)。閾値N1は、尿素水戻し制御においてポンプ41に必要な動作時間に基づいて決定される。この場合、(Ton+Toff)×(N1+1)が動作時間となる。噴射ノズル60の開閉繰り返し回数が閾値N1より大きくない場合(ステップS107:NO)、還元剤供給装置制御部82は、再度、噴射ノズル60をTon時間だけ駆動ON(開弁)するとともに(ステップS105)、Toff時間だけ駆動OFF(閉弁)し(ステップS106)、さらに、噴射ノズル60の開閉繰り返し回数が閾値N1より大きいか否かを判定する(ステップS107)。
【0038】
噴射ノズル60の開閉繰り返し回数が閾値N1より大きい場合(ステップS107:YES)、還元剤供給装置制御部82は、ポンプ41の駆動を停止する(ステップS108、
図8の時刻t2)。
【0039】
次に、還元剤供給装置制御部82は、噴射ノズル60をTon時間だけ駆動ON(開弁)する(ステップS109、
図8の時刻t2からTon時間)。次に、還元剤供給装置制御部82は、噴射ノズル60をToff時間だけ駆動OFF(閉弁)する(ステップS110)。次に、還元剤供給装置制御部82は、噴射ノズル60の開閉繰り返し回数が閾値N2より大きいか否かを判定する(ステップS111)。閾値N2は、尿素水戻し制御において方向切替バルブ42に必要な動作時間に基づいて決定される。この場合、(Ton+Toff)×(N2+1)が動作時間となる。噴射ノズル60の開閉繰り返し回数が閾値N2より大きくない場合(ステップS111:NO)、還元剤供給装置制御部82は、再度、噴射ノズル60をTon時間だけ駆動ON(開弁)するとともに(ステップS109)、Toff時間だけ駆動OFF(閉弁)し(ステップS110)、さらに、噴射ノズル60の開閉繰り返し回数が閾値N2より大きいか否かを判定する(ステップS111)。
【0040】
噴射ノズル60の開閉繰り返し回数が閾値N2より大きい場合(ステップS111:YES)、還元剤供給装置制御部82は、方向切替バルブ42の駆動を停止するとともに、噴射ノズル60を駆動OFF(閉弁)する(ステップS112)。ここで、尿素水戻し制御が終了する(ステップS113、
図8の時刻t3)。時刻t3の後は、還元剤供給装置制御部82は、例えば、ポンプ41、噴射ノズル60等を制御して、第2の還元剤供給通路72の圧力等を調整する(時刻t4まで)。ここでの圧力調整は、噴射ノズル60、第2の還元剤供給通路72等への順流方向での尿素水7の流れ込みを防止するために実施される。
【0041】
なお、噴射ノズル60の開閉動作の繰り返しにおける開と閉の時間割合は、例えば、Ton/(Ton+Toff)が90%~95%以上の値に設定することが望ましい。開閉動作の繰り返しは、開閉動作に伴う振動によって尿素水7が結晶化することを防止するためのものである。一方、尿素水の吸い込み動作においては、噴射ノズル60は基本的には開いている方が効率的に尿素水を吸い込むことができる。よって、噴射ノズル60の針弁62の開閉動作は、開閉動作の各周期における開動作の時間が閉動作の時間より少なくとも長い動作とすることが好ましい。
【0042】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、還元剤供給装置4の噴射ノズル60等に存在する尿素水7を尿素水のタンク50に戻す尿素水戻し制御を行いながら、噴射ノズル(尿素水噴射装置)60を可動(開閉)し、噴射ノズル(尿素水噴射装置)60先端および内部の結晶化を防止することができる。すなわち、本実施形態によれば、例えば、結晶化が進む中で、物理的に結晶を粉砕し、目詰まりを防止することができる。その際、噴射ノズル60の制御は、オン(全開)およびオフ(全閉)の繰り返し動作とすることがきる。したがって、本実施形態によれば、簡易な制御で尿素噴射装置内の尿素水の固着を防止することができる。
【0043】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、上述した尿素水戻し制御における噴射ノズル60の開閉動作の周期は、必ずしも同一でなくてもよい(変化させてもよい)。ただし、この場合、ポンプ41や方向切替バルブ42の動作時間は、繰り返しの回数で判定するのではなく、時間で判定するようにする。また、上記実施形態でコンピュータが実行するプログラムの一部または全部は、コンピュータ読取可能な記録媒体や通信回線を介して頒布することができる。
【0044】
[付記]
実施形態に記載の還元剤供給装置4は、次のように把握することができる。
【0045】
(1)本開示の第1の態様に係る還元剤供給装置4は、エンジン2の排気管内(経路11)に供給される還元剤(尿素水7)を貯蔵するタンク50と、前記タンク50内の前記還元剤を圧送する圧送手段(ポンプ41および順流方向に設定された方向切替バルブ42)と、圧送される前記還元剤を供給する還元剤供給通路70と、前記還元剤供給通路70により供給された前記還元剤を前記排気管内に噴射する噴射ノズル60と、前記還元剤供給通路70内の前記還元剤を前記タンク50側に吸い戻す吸い戻し手段(ポンプ41および逆流方向に設定された方向切替バルブ42)と、前記圧送手段、前記噴射ノズルおよび前記吸い戻し手段の動作を制御する制御装置8とを備え、前記制御装置8は、前記吸い戻し手段を動作させている間に、所定の周期で繰り返し前記噴射ノズル60に開閉動作を行わせる。本態様および以下の各態様によれば、噴射ノズル60を繰り返しオン(全開)およびオフ(全閉)する簡易な制御で尿素噴射装置内の尿素水の固着を防止することができる。
【0046】
(2)本開示の第2の態様に係る還元剤供給装置4は、(1)の還元剤供給装置4であって、前記開閉動作は、前記噴射ノズル60が備える弁(針弁62)を全開または全閉させる動作である。この態様によれば、開閉の範囲を全開または全閉より制限する場合と比較して、弁の駆動による物理的な作用を大きくすることができる。
【0047】
(3)本開示の第3の態様に係る還元剤供給装置4は、(1)または(2)の還元剤供給装置4であって、前記開閉動作は、前記周期における開動作の時間が閉動作の時間より長い動作である。この態様によれば、閉動作の時間を設けたことによる吸い戻し動作に対する影響を小さくすることができる。
【0048】
(4)本開示の第4の態様に係る還元剤供給装置4は、(1)~(3)の還元剤供給装置4であって、前記制御装置8は、前記吸い戻し手段の動作を終了させた後、前記噴射ノズル60を閉弁する。この態様によれば、吸い戻し手段の動作を終了させる前に噴射ノズル60を閉弁する場合と比較して、尿素水7をより効率的にタンク50側に戻すことができる。
【符号の説明】
【0049】
1…作業車両、2…ディーゼルエンジン(エンジン)、3…ターボチャージャ、4…還元剤供給装置、6…エンジン回転速度検出装置、7…尿素水、8…制御装置、9…モニタ、10…排気浄化装置、11…経路(排気管)、30…ディーゼル酸化触媒装置(DOC装置)、31…入口温度センサ、40…ポンプユニット、41…ポンプ、42…方向切替バルブ、43…圧力計、44…逆止弁、45…出口温度センサ、50…タンク、52…NOxセンサ、60…噴射ノズル、62…針弁、63…噴射孔、70…還元剤供給通路、71…第1の還元剤供給通路、72…第2の還元剤供給通路、73…バイパス通路、81…データ取得部、82…還元剤供給装置制御部、170…DPF、171…DPF装置、172…燃料噴射装置、174…出口温度センサ、175…選択還元触媒装置(SCR装置)。