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特開2024-36024表面処理剤及びその製造方法、並びに表面処理基材及び表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036024
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】表面処理剤及びその製造方法、並びに表面処理基材及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/02 20060101AFI20240308BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240308BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240308BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20240308BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C09D183/02
C09D7/63
C09D7/61
C03C17/34 A
B32B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140716
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陸
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AG00A
4F100AH06B
4F100AR00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100EJ64C
4F100EJ65B
4F100JB06
4F100JK09
4G059AA01
4G059AC18
4G059AC22
4G059AC24
4G059FA01
4G059FA05
4G059FB06
4G059GA01
4G059GA04
4G059GA11
4J038JC32
4J038NA07
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】撥水性等の機能性を有する機能性膜における当該機能性を向上させることができる、当該機能性膜の下地層を形成するために用いられる表面処理剤及びその製造方法、並びに当該表面処理剤を用いて得られる表面処理基材及び表面処理方法を提供する。
【解決手段】表面処理剤は、アルコキシシラン縮合物と、金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種とを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン縮合物と、金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種とを含有することを特徴とする表面処理剤。
【請求項2】
前記アルコキシシラン縮合物が、テトラエトキシシラン縮合物であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
前記金属塩化物が、塩化アルミニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
前記金属塩化物として、塩化セリウムをさらに含有することを特徴とする請求項3に記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記金属硝酸塩が、硝酸アルミニウム及び硝酸セリウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項6】
アセチルアセトン酸アルミニウムをさらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項7】
前記金属塩化物として、塩化アルミニウム及び塩化セリウムを含有し、
前記塩化アルミニウムと前記塩化セリウムとの含有比(モル比)が、3:1~1:1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項8】
前記表面処理剤は、撥水性表面を有する表面処理膜の下地層を形成するために用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理剤。
【請求項9】
アルコキシシラン縮合物を含有するアルコキシシラン縮合物溶液に金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種を混合し、酸触媒の存在下でゾル化させることを特徴とする表面処理剤の製造方法。
【請求項10】
前記アルコキシシランが、テトラエトキシシランであることを特徴とする請求項9に記載の表面処理剤の製造方法。
【請求項11】
前記金属塩化物が、塩化アルミニウムであることを特徴とする請求項9又は10に記載の表面処理剤の製造方法。
【請求項12】
前記金属塩化物として、塩化セリウムをさらに混合することを特徴とする請求項11に記載の表面処理剤の製造方法。
【請求項13】
前記金属硝酸塩が、硝酸アルミニウム及び硝酸セリウムであることを特徴とする請求項9又は10に記載の表面処理剤の製造方法。
【請求項14】
前記アルコキシシラン縮合物溶液にアセチルアセトン酸アルミニウムをさらに混合することを特徴とする請求項9又は10に記載の表面処理剤の製造方法。
【請求項15】
前記金属塩化物として、少なくとも塩化アルミニウムを混合し、
前記アルコキシシランと前記金属塩化物との比(モル比)が9:1~7.5:2.5となるように、前記アルコキシシラン縮合物溶液に前記金属塩化物を混合することを特徴とする請求項9又は10に記載の表面処理剤の製造方法。
【請求項16】
前記金属塩化物として、塩化アルミニウム及び塩化セリウムを混合し、
前記塩化アルミニウムと前記塩化セリウムとの比(モル比)が3:1~1:1となるように、前記アルコキシシラン縮合物溶液に前記塩化アルミニウム及び前記塩化セリウムを混合することを特徴とする請求項9又は10に記載の表面処理剤の製造方法。
【請求項17】
第1面及び当該第1面に対向する第2面を有する基材と、
少なくとも前記第1面に設けられている第1表面処理層と
を備え、
前記第1表面処理層は、請求項1又は2に記載の表面処理剤を用いた表面処理により形成されたものであることを特徴とする表面処理基材。
【請求項18】
前記基材が、ガラス基材であることを特徴とする請求項17に記載の表面処理基材。
【請求項19】
前記第1表面処理層上に設けられている第2表面処理層をさらに備えることを特徴とする請求項17に記載の表面処理基材。
【請求項20】
前記第2表面処理層は、機能性膜であることを特徴とする請求項19に記載の表面処理基材。
【請求項21】
請求項1又は2に記載の表面処理剤を被処理基材の表面に塗布することで、前記被処理基材に表面処理を施すことを特徴とする表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤及びその製造方法、並びに表面処理基材及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリエーテル等のフッ素を含有する化合物(フッ素含有化合物)は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、防汚性等を発現し得ることが知られている。このようなフッ素含有化合物を含む表面処理剤を用いて形成される表面処理層は、撥水層等の機能性膜として、例えば、ガラス、プラスチック、繊維、建築部材等の多種多様な基材に対し、プライマー層を介して設けられている(特許文献1参照)。例えば、撥水層は、視認性を確保することを目的として、車両のフロントガラス等に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/069642号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撥水層を形成するための表面処理剤等の技術分野においては、優れた撥水性を有する材料が必要となるが、撥水性をさらに向上させる技術の提案に対する要望が高まっている。また、優れた撥水性を有する表面処理層の耐久性(例えば耐摩耗性等)が低いと、短期間のうちに当該表面処理層を形成し直さなければならないため、表面処理層の耐久性をより向上させる技術に対する要望も高まっている。
【0005】
上記課題に鑑みて、本発明は、撥水性等の機能性を有する機能性膜における当該機能性を向上させることができる、当該機能性膜の下地層を形成するために用いられる表面処理剤及びその製造方法、並びに当該表面処理剤を用いて得られる表面処理基材及び表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、アルコキシシラン縮合物と、金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種とを含有することを特徴とする表面処理剤を提供する。
【0007】
本発明は、アルコキシシラン縮合物を含有するアルコキシシラン縮合物溶液に金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種を混合し、酸触媒の存在下でゾル化させることを特徴とする表面処理剤の製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、第1面及び当該第1面に対向する第2面を有する基材と、少なくとも前記第1面に設けられている第1表面処理層とを備え、前記第1表面処理層は、上記表面処理剤を用いた表面処理により形成されたものであることを特徴とする表面処理基材を提供する。
【0009】
本発明は、上記表面処理剤を被処理基材の表面に塗布することで、前記被処理基材に表面処理を施すことを特徴とする表面処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、撥水性等の機能性を有する機能性膜における当該機能性を向上させることができる、当該機能性膜の下地層を形成するために用いられる表面処理剤及びその製造方法、並びに当該表面処理剤を用いて得られる表面処理基材及び表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態における態様1は、アルコキシシラン縮合物と、金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種とを含有することを特徴とする表面処理剤である。
【0012】
本実施形態における態様2は、上記態様1において、前記アルコキシシラン縮合物が、テトラエトキシシラン縮合物であることを特徴とする表面処理剤である。
【0013】
本実施形態における態様3は、上記態様1又は態様2において、前記金属塩化物が、塩化アルミニウムであることを特徴とする表面処理剤である。
本実施形態における態様4は、上記態様3において、前記金属塩化物として、塩化セリウムをさらに含有することを特徴とする表面処理剤である。
【0014】
本実施形態における態様5は、上記態様1~4のいずれかにおいて、前記金属硝酸塩が、硝酸アルミニウム及び硝酸セリウムであることを特徴とする表面処理剤である。
【0015】
本実施形態における態様6は、上記態様1~5のいずれかにおいて、アセチルアセトン酸アルミニウムをさらに含有することを特徴とする表面処理剤である。
【0016】
本実施形態における態様7は、上記態様1~6のいずれかにおいて、前記金属塩化物として、塩化アルミニウム及び塩化セリウムを含有し、前記塩化アルミニウムと前記塩化セリウムとの含有比(モル比)が、3:1~1:1であることを特徴とする表面処理剤である。
【0017】
本実施形態における態様8は、上記態様1~7のいずれかにおいて、前記表面処理剤は、撥水性表面を有する表面処理膜の下地層を形成するために用いられることを特徴とする表面処理剤である。
【0018】
本実施形態における態様9は、アルコキシシラン縮合物を含有するアルコキシシラン縮合物溶液に金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種を混合し、酸触媒の存在下でゾル化させることを特徴とする表面処理剤の製造方法である。
【0019】
本実施形態における態様10は、上記態様9において、前記アルコキシシランが、テトラエトキシシランであることを特徴とする表面処理剤の製造方法である。
【0020】
本実施形態における態様11は、上記態様9又は態様10において、前記金属塩化物が、塩化アルミニウムであることを特徴とする表面処理剤の製造方法である。
本実施形態における態様12は、上記態様11において、前記金属塩化物として、塩化セリウムをさらに混合することを特徴とする表面処理剤の製造方法である。
【0021】
本実施形態における態様13は、上記態様9~12のいずれかにおいて、前記金属硝酸塩が、硝酸アルミニウム及び硝酸セリウムであることを特徴とする表面処理剤の製造方法である。
【0022】
本実施形態における態様14は、上記態様9~13のいずれかにおいて、前記アルコキシシラン縮合物溶液にアセチルアセトン酸アルミニウムをさらに混合することを特徴とする表面処理剤の製造方法である。
【0023】
本実施形態における態様15は、上記態様9~14のいずれかにおいて、前記金属塩化物として、塩化アルミニウム及び塩化セリウムを混合し、前記アルコキシシランと前記塩化アルミニウム及び前記塩化セリウムとの比(モル比)が9:1~7.5:2.5となるように、前記アルコキシシラン縮合物溶液に前記塩化アルミニウム及び前記塩化セリウムを混合することを特徴とする表面処理剤の製造方法である。
【0024】
本実施形態における態様16は、上記態様9~15のいずれかにおいて、前記金属塩化物として、塩化アルミニウム及び塩化セリウムを混合し、前記塩化アルミニウムと前記塩化セリウムとの比(モル比)が3:1~1:1となるように、前記アルコキシシラン縮合物溶液に前記塩化アルミニウム及び前記塩化セリウムを混合することを特徴とする表面処理剤の製造方法である。
【0025】
本実施形態における態様17は、第1面及び当該第1面に対向する第2面を有する基材と、少なくとも前記第1面に設けられている第1表面処理層とを備え、前記第1表面処理層は、上記態様1~8のいずれかの表面処理剤を用いた表面処理により形成されたものであることを特徴とする表面処理基材である。
【0026】
本実施形態における態様18は、上記態様17において、前記基材が、ガラス基材であることを特徴とする表面処理基材である。
【0027】
本実施形態における態様19は、上記態様17又は態様18において、前記第1表面処理層上に設けられている第2表面処理層をさらに備えることを特徴とする表面処理基材である。
【0028】
本実施形態における態様20は、上記態様19において、前記第2表面処理層は、機能性膜であることを特徴とする表面処理基材である。
【0029】
本実施形態における態様21は、上記態様1~8のいずれかの表面処理剤を被処理基材の表面に塗布することで、前記被処理基材に表面処理を施すことを特徴とする表面処理方法である。
【0030】
[表面処理剤]
本実施形態に係る表面処理剤は、アルコキシシラン縮合物と、金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種と、溶媒とを含有する。本実施形態に係る表面処理剤は、撥水性等の機能性を有する機能性膜をガラス等の基材に形成するに際し、当該機能性膜の下地層(プライマー層)を形成するために用いられるものである。
【0031】
本実施形態におけるアルコキシシラン縮合物は、アルコキシシランの加水分解反応及び脱水縮合反応により得られる加水分解・脱水縮合化合物である。アルコキシシランとしては、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピロトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン;ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン等のジアルコキシシラン等が挙げられ、好ましくはテトラアルコキシシラン、特に好ましくはテトラエトキシシランを用いることができる。本実施形態に係る表面処理剤は、アルコキシシラン縮合物を含有するゾルであって、ゾル-ゲル法により基材上に下地層(プライマー層)を形成するために用いられるものであるため、当該表面処理剤がゾルとして存在し得る限りにおいて、アルコキシシラン縮合物は、2量体以上であればよい。なお、本実施形態に係る表面処理剤は、上記アルコキシシラン縮合物とともに、未反応のアルコキシシランを含んでいてもよい。
【0032】
本実施形態における溶媒としては、アルコキシシラン縮合物を分散させ得るように、水と、親水性有機溶媒との混合溶媒であるのが好ましい。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1~5のアルコール類等が挙げられ、好ましくはアルコキシシランを分散させ、かつ金属塩化物や金属硝酸塩の水溶液を分散させ得るアルコール類(イソプロピルアルコール)を用いることができる。溶媒は、水と、少なくとも1種の親水性有機溶媒とを含むものであればよい。
【0033】
本実施形態に係る表面処理剤は、金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種を含有する。金属塩化物としては、例えば、塩化アルミニウム(塩化アルミニウム六水和物,AlCl・6H0)、塩化セリウム(塩化セリウム七水和物,CeCl・7H0)等が挙げられる。金属硝酸塩としては、例えば、硝酸アルミニウム(硝酸アルミニウム九水和物,Al(NO)・9H0)、硝酸セリウム(硝酸セリウム六水和物,Ce(NO)・6H0)等が挙げられる。表面処理剤が金属塩化物として塩化アルミニウム及び塩化セリウムを含有する場合、塩化アルミニウムと塩化セリウムとの含有比(モル比)は、3:1~1:1であるのが好ましく、3:2~1:1であるのが特に好ましい。塩化アルミニウムと塩化セリウムとの含有比(モル比)が上記範囲内、特に3:1~1:1であることで、表面処理剤から形成される下地層(プライマー層)上に機能性膜を形成した場合に、当該機能性膜の奏する機能性(例えば、撥水層が奏する撥水性等)を向上させることができる。
【0034】
本実施形態に係る表面処理剤におけるアルコキシシラン縮合物と金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種との含有比(モル比)は、表面処理剤を調製する際の両者(アルコキシシラン及び金属塩化物等)の混合量(モル比)、アルコキシシランの加水分解反応及び脱水縮合反応の反応進行度等に応じた所定の含有比となる。アルコキシシラン縮合物と金属塩化物及び金属硝酸塩のうちの少なくとも1種との含有比(モル比)が上記所定の含有比であることで、表面処理剤から形成される下地層(プライマー層)上に機能性膜を形成した場合に、当該機能性膜の奏する機能性(例えば、撥水層が奏する撥水性等)を向上させることができる。
【0035】
本実施形態に係る表面処理剤は、アセチルアセトン酸アルミニウム(Al(acac))を含有していてもよい。アセチルアセトン酸アルミニウムを含有することで、機能性膜としての撥水層の撥水効果をより向上させ得る下地層(プライマー層)を形成することができる。アルコキシシラン縮合物に対するアセチルアセトン酸アルミニウムの含有比(モル比)は、特に限定されるものではなく、所望とする効果が得られる表面処理剤を調製する際の両者(アルコキシシラン及びアセチルアセトン酸アルミニウム)の混合量(モル比)、アルコキシシランの加水分解反応及び脱水縮合反応の反応進行度等に応じた所定の含有比となる。
【0036】
本実施形態に係る表面処理剤は、酸触媒を含有していてもよい。酸触媒を含有することで、アルコキシシランの加水分解反応及び脱水縮合反応の進行を促進することができ、表面処理剤における未反応のアルコキシシランの含有量を低減させることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、リン酸、シュウ酸等を挙げることができる。
【0037】
上述した本実施形態に係る表面処理剤は、後述する実施例からも明らかなように、基材(例えば、ガラス基材、金属基材、ゴム基材、樹脂基材等)の表面にゾル-ゲル法により下地層(プライマー層)を形成するために用いることができ、当該下地層上に機能性(例えば、撥水性等)を有する機能性膜を形成することで、当該機能性(撥水性)を向上させることができるとともに、当該機能性膜の耐久性を向上させることができる。ここで、撥水性とは、例えば、基材に形成された上記機能性膜に水滴を滴下し、当該基材を傾斜させたときに水滴が滑り出す角度(転落角,滑落角)を、接触角計(例えば、協和界面科学社製のDropMasterDMo-601(製品名)等)を用いて測定したとき、当該転落角が相対的に小さいことを意味する。具体的には、当該転落角が15°以下であればよく、好適には10°以下であればよい。
【0038】
本実施形態に係る表面処理剤は、ガラス、金属、ゴム、プラスチック、繊維等の基材の表面に撥水性等の機能性を付与するにあたり、当該機能性を有する機能性膜の下地層(プライマー層)を形成するために用いることができる。その結果として、当該基材の表面に形成される機能性膜の撥水性を向上させることができ、また当該機能性膜の耐久性を向上させることができる。
【0039】
[表面処理剤の製造方法]
本実施形態に係る表面処理剤の製造方法は、アルコキシシラン及び酸触媒を溶媒に添加して混合・攪拌することでアルコキシシランの加水分解反応及び脱水縮合反応を進行させてアルコキシシラン縮合物溶液を調製する工程と、金属塩化物としての塩化アルミニウムと酸触媒とを溶媒に添加して混合・攪拌することで塩化アルミニウム溶液を調製する工程と、金属塩化物としての塩化セリウムと酸触媒とを溶媒に添加して混合・攪拌することで塩化セリウム溶液を調製する工程と、アルコキシシラン縮合物溶液と、塩化アルミニウム溶液及び/又は塩化セリウム溶液とを混合・攪拌し、さらにアセチルアセトン酸アルミニウムを添加して混合・攪拌することで、ゾル状の表面処理剤を製造する工程とを有する。
【0040】
上記溶媒としては、アルコキシシラン縮合物を分散させることができ、かつ塩化アルミニウム及び塩化セリウムを分散させることができるものであればよく、例えば、水と親水性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1~5のアルコール類等)との混合溶媒等を用いることができる
【0041】
アルコキシシランと塩化アルミニウム及び/又は塩化セリウムとの混合量(モル比)としては、例えば、9:1~7:3の範囲内であればよく、9:1~7.5:2.5の範囲内であるのが好ましい。
【0042】
塩化アルミニウム及び塩化セリウムを含有する表面処理剤を製造する場合、塩化アルミニウムと塩化セリウムとの混合量(モル比)としては、例えば、3:1~1:1であるのが好ましく、3:2~1:1であるのが特に好ましい。
【0043】
アセチルアセトン酸アルミニウムの混合量(モル比)は、アルコキシシランに対して1~20%程度であればよい。アセチルアセトン酸アルミニウムの混合量が上記範囲内であることで、機能性膜としての撥水層の撥水効果をより向上させ得る下地層(プライマー層)を形成することができる。
【0044】
上記のようにして調製されたアルコキシシラン縮合物溶液、塩化アルミニウム溶液及び塩化セリウム溶液を混合・攪拌し、さらにアセチルアセトン酸アルミニウムを添加して攪拌・混合することで、ゾル状の表面処理剤を製造することができる。このようにして製造された表面処理剤は、溶媒(水と親水性有機溶媒との混合溶媒)を添加して固形分濃度を所望とする範囲に調整してから、後述する表面処理方法において用いられてもよい。なお、アセチルアセトン酸アルミニウムを添加することなく、アルコキシシラン縮合物溶液、塩化アルミニウム溶液及び塩化セリウム溶液を混合・攪拌して、本実施形態に係る表面処理剤を製造してもよい。
【0045】
[表面処理方法]
本実施形態における表面処理方法は、本実施形態に係る表面処理剤(以下「第1表面処理剤」という場合がある。)を被処理基材の表面に塗布することで、被処理基材の表面に第1表面処理層を形成する工程と、第1表面処理層上に表面処理剤(以下「第2表面処理剤」という場合がある。)を塗布することで第2表面処理層を形成する工程とを含む。
【0046】
第1表面処理剤を被処理基材の表面に塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、刷毛、ローラー、スプレー等を用いて塗布する方法、第1表面処理剤に被処理基材を浸漬させる方法、第1表面処理剤を被処理基材上にキャストする方法等が挙げられる。第1表面処理剤に被処理基材を浸漬させる方法において、第1表面処理剤に浸漬させた被処理基材を引き上げる速度は、例えば、6~300mm/min程度であればよく、30~100mm/min程度であるのが好ましい。
【0047】
本実施形態において、第1表面処理剤を被処理基材の表面に塗布することで形成された塗膜を加熱することで、第1表面処理層を形成することができる。この第1表面処理層は、後述する第2表面処理層の下地層(プライマー層)として機能する。塗膜を加熱する方法としては、例えば、オーブンによる加熱等が挙げられるが、特に制限されるものではない。加熱条件としては、例えば、20~600℃の温度範囲で10~120分程度、好ましくは20~500℃の温度範囲で30~100分程度である。この場合において、初期加熱温度を20~30℃の温度範囲とし、昇温速度を5~10℃/minとして塗膜を加熱してもよい。
【0048】
第2表面処理剤としては、撥水性等の機能性を奏し得る第2表面処理層を形成可能なものであればよく、例えば、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルキル等のフッ素含有化合物等を主成分とするもの等であればよい。
【0049】
被処理基材の表面に形成された第1表面処理層に第2表面処理剤を塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、第1表面処理層が形成された被処理基材を第2表面処理剤に浸漬させる方法(ディッピング法)等が挙げられる。この場合において、第2表面処理剤に浸漬させた被処理基材を引き上げる速度は、例えば、20~100mm/min程度であればよく、30~60mm/min程度であるのが好ましい。
【0050】
上述したように、本実施形態に係る表面処理剤を用いた表面処理方法を実施することで、被処理基材の表面(被処理面)に第1表面処理層(下地層、プライマー層)が形成された表面処理基材を製造することができる。かかる表面処理基材において、第1表面処理層は、被処理基材(基材)の表面(第1面)に少なくとも形成されていればよいが、裏面(第2面)に形成されていてもよいし、表面(第1面)及び裏面(第2面)に形成されていてもよい。このようにして製造された表面処理基材の第1表面処理層上に、撥水性等の機能性を奏し得る第2表面処理層を形成することで、第2表面処理層が優れた撥水性を発現することができ、かつ耐久性に優れた撥水表面処理基材を製造することができる。
【0051】
被処理基材(基材)としては、撥水表面が求められるものであれば特に制限されないが、例えば、ガラス基材;PET(polyethylene terephthalate)、PE(polyethylene)、PU(polyurethane)、ポリカーボネート(polycarbonate)、PMMA(polymethylmethacrylic acid)等の樹脂基材;アルミニウム、SUS等の金属基材等を例示することができる。
【0052】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属するすべての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0053】
以下、製造例、試験例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例等に何ら限定されるものではない。
【0054】
[表面処理剤の製造例1]
テトラエトキシシラン、イソプロピルアルコール、水及び60%硝酸水溶液を混合・攪拌することで、ゾル状のテトラエトキシシラン溶液を調製した。当該テトラエトキシシラン溶液における固形分濃度が5%となるようにイソプロピルアルコールを添加することで、表面処理剤(試料1)を製造した。本製造例1における各材料の仕込み量は、表1に示す通りである。
【0055】
[表面処理剤の製造例2]
テトラエトキシシラン、イソプロピルアルコール、水及び60%硝酸水溶液を混合・攪拌してテトラエトキシシラン溶液を調製し、塩化アルミニウム六水和物、イソプロピルアルコール、水及び60%硝酸水溶液を混合・攪拌して塩化アルミニウム溶液を調製した。テトラエトキシシランと塩化アルミニウムとの仕込み量(モル比)が8:2になるようにテトラエトキシシラン溶液及び塩化アルミニウム溶液を混合・攪拌することでゾル状にし、固形分濃度が5%となるようにイソプロピルアルコールを添加して表面処理剤(試料2)を製造した。本製造例2における各材料の仕込み量は、表1に示す通りである。
【0056】
[表面処理剤の製造例3~8]
製造例2において、テトラエトキシシラン溶液及び塩化アルミニウム溶液を混合・攪拌した後、アセチルアセトン酸アルミニウムを添加し、固形分濃度が5%となるようにイソプロピルアルコールを添加することで、表面処理剤(試料3~8)を製造した。本製造例3~8における各材料の仕込み量は、表1に示す通りである。
【0057】
[表面処理剤の製造例9]
テトラエトキシシラン、イソプロピルアルコール、水及び60%硝酸水溶液を混合・攪拌してテトラエトキシシラン溶液を調製し、塩化アルミニウム六水和物、イソプロピルアルコール、水及び60%硝酸水溶液を混合・攪拌して塩化アルミニウム溶液を調製し、塩化セリウム七水和物、イソプロピルアルコール、水及び60%硝酸水溶液を混合・攪拌して塩化セリウム溶液を調製した。テトラエトキシシラン、塩化アルミニウム及び塩化セリウムの仕込み量(モル比)が8:1.5:0.5となるようにテトラエトキシシラン溶液、塩化アルミニウム溶液及び塩化セリウム溶液を混合・攪拌することでゾル状にし、固形分濃度が5%となるようにイソプロピルアルコールを添加して表面処理剤(試料9)を製造した。本製造例9における各材料の仕込み量は、表1に示す通りである。
【0058】
[表面処理剤の製造例10~13]
製造例9において、テトラエトキシシラン溶液、塩化アルミニウム溶液及び塩化セリウム溶液を混合・攪拌した後、アセチルアセトン酸アルミニウムを添加し、固形分濃度が5%となるようにイソプロピルアルコールを添加することで、表面処理剤(試料10~13)を製造した。本製造例10~13における各材料の仕込み量は、表1に示す通りである。
【0059】
[表面処理剤の製造例14~18]
テトラエトキシシラン、塩化アルミニウム及び塩化セリウムの仕込み量(モル比)を8:1:1とした以外は、製造例9~13と同様にして表面処理剤(試料14~18)を製造した。本製造例14~18における各材料の仕込み量は、表1に示す通りである。
【0060】
【表1】
【0061】
[試験例1]
被処理基材としてのスライドガラスを準備し、当該スライドガラスに超音波洗浄処理及び酸洗浄処理を施した。その後、当該スライドガラスを表面処理剤(試料1~18)に浸漬させ、60mm/minの速度で引き上げることで、スライドガラスの表面に表面処理剤の塗膜を形成した。そして、表面処理剤の塗膜が形成されたスライドガラスを焼成処理に付し、スライドガラスの表面に下地層(プライマー層)を形成した。
【0062】
下地層(プライマー層)が形成されたスライドガラスを、パーフルオロポリエーテル(KY-1901,信越化学工業社製)及びハイドロフルオロエーテル(AE-3000,AGC社製)の混合液に浸漬させ、600mm/minの速度で引き上げることで、下地層(プライマー層)上にパーフルオロポリエーテルの塗膜を形成した。そして、当該塗膜が形成されたスライドガラスを加熱処理に付して塗膜を硬化させることで、撥水層を形成した。
【0063】
水平に載置したスライドガラスの撥水層上に水滴(40μL)を滴下し、スライドガラスを1°ずつ傾斜させ、水滴が移動開始するときのスライドガラスの傾斜角度(転落角)を求めた。水滴が移動開始したか否かは、接触角計(製品名:DropMaster DMo-601,協和界面科学社製)を用い、1秒間に3ドット以上移動する否かにより判定した。
【0064】
比較として、下地層(プライマー層)が形成されていないスライドガラスを、パーフルオロポリエーテル(KY-1901,信越化学工業社製)及びハイドロフルオロエーテル(AE-3000,AGC社製)の混合液に浸漬させ、上記と同様にして撥水層を形成したスライドガラス(試料19)を準備し、上記と同様にしてスライドガラスの傾斜角度(転落角)を求めた。
結果を表2に示す。
【0065】
[試験例2]
摩擦摩耗試験機(製品名:FPR-2100,レスカ社製)を用い、試験例1で用いたスライドガラス(試料1~19)の撥水層にスチールウール(#0000)を荷重1kgで押し付けた状態で、速度60mm/secでスチールウールを所定の回数(50回、100回、200回、300回、400回、500回)擦り付けた。スチールウールが擦り付けられた撥水層上に水滴(40μL)を滴下し、スライドガラスを1°ずつ傾斜させ、水滴が移動開始するときのスライドガラスの傾斜角度(転落角)を求めた。水滴が移動開始したか否かは、接触角計(製品名:DropMaster DMo-601,協和界面科学社製)を用い、1秒間に3ドット以上移動する否かにより判定した。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2において、「0(回)」における転落角(deg)が試験例1の結果であり、「50(回)」~「500(回)」における転落角(deg)が試験例2の結果である。表2に示すように、アルコキシシラン縮合物と塩化アルミニウムとを含有する表面処理剤(試料2~8)により形成された下地層上に形成された撥水層は、アルコキシシラン縮合物を含有する表面処理剤(試料1)により形成された下地層上に形成された撥水層よりも優れた撥水性を有することが確認された。また、試料2~8の表面処理剤により形成された下地層上に形成された撥水層は、耐久性(耐摩耗性)にも優れていることが確認された。
【0068】
アルコキシシラン縮合物と塩化アルミニウムと塩化セリウムとを含有し、塩化アルミニウムと塩化セリウムとの仕込み量(モル比)が3:1~1:1の表面処理剤(試料9~18)により形成された下地層上に形成された撥水層は、アルコキシシラン縮合物を含有する表面処理剤(試料1)により形成された下地層上に形成された撥水層と比べて撥水性及び耐久性(耐摩耗性)に優れていることが確認された。
【0069】
また、アルコキシシラン縮合物と塩化アルミニウムとを含有する表面処理剤(試料2~8)及びアルコキシシラン縮合物と塩化アルミニウムと塩化セリウムとを含有する表面処理剤(試料9~18)により形成された下地層上に形成された撥水層は、当該下地層を有さず、スライドガラス上に直接に形成された撥水層(試料19の撥水層)と比べて撥水性及び耐久性(耐摩耗性)に優れていることが確認された。