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特開2024-36066フィルム、フィルム体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036066
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】フィルム、フィルム体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/022 20190101AFI20240308BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240308BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20240308BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20240308BHJP
   B29C 48/88 20190101ALI20240308BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B32B7/022
B32B7/027
B29C48/21
B29C48/305
B29C48/88
B29C55/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140778
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐貴泰
【テーマコード(参考)】
4F100
4F207
4F210
【Fターム(参考)】
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK07
4F100AK07B
4F100AK42
4F100AK42A
4F100BA02
4F100BA07
4F100DD01
4F100DD01A
4F100DD01B
4F100DD06
4F100DD06A
4F100DD06B
4F100EH20
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100EJ37
4F100EJ42
4F100GB07
4F100GB15
4F100GB41
4F100JB16
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JK02
4F100JK06
4F100JL14
4F100JL14B
4F207AA11
4F207AA24
4F207AG01
4F207AG03
4F207AR01
4F207AR06
4F207AR12
4F207AR20
4F207KA01
4F207KA17
4F207KB26
4F207KK64
4F207KL84
4F207KW42
4F210AA11
4F210AA24
4F210AG01
4F210AG03
4F210AR06
4F210QC01
4F210QG01
4F210QG15
(57)【要約】
【課題】延伸しても凹凸形状を消失させることがない、耐熱性に優れたフィルム、フィルム体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも第一層、第二層の順に異なる熱可塑性樹脂が積層されたフィルムにおいて、前記第一層の表面は第一凸部と第一凹部が交互に並んでおり、前記第一層と前記第二層との界面は、前記第一凸部と前記第一凹部に対応した位置にそれぞれ前記第二層の第二凸部と第二凹部を有しており、前記第一層の延伸温度よりも、前記第二層の融点が高く、前記第一層の延伸温度における前記第二層の破断伸度が200%以上であり、前記第一層の延伸温度における前記第一層と前記第二層の界面剥離強度が0.02N/幅15mm以上であり、常温における前記第一層と前記第二層の界面剥離強度が0.4N/幅15mm以下である、ことを特徴とするフィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一層、第二層の順に異なる熱可塑性樹脂が積層されたフィルムにおいて、前記第一層の表面は第一凸部と第一凹部が交互に並んでおり、
前記第一層と前記第二層との界面は、前記第一凸部と前記第一凹部に対応した位置にそれぞれ前記第二層の第二凸部と第二凹部を有しており、
前記第一層の熱可塑性樹脂の延伸温度よりも、前記第二層の熱可塑性樹脂の融点が高く、
前記第一層の熱可塑性樹脂の延伸温度における前記第二層の熱可塑性樹脂の破断伸度が200%以上であり、
前記第一層の熱可塑性樹脂の延伸温度における前記第一層と前記第二層の界面剥離強度が0.02N/幅15mm以上であり、
常温における前記第一層と前記第二層の界面剥離強度が0.4N/幅15mm以下である、ことを特徴とするフィルム。
【請求項2】
前記第一層の熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレート樹脂、前記第二層の熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂、であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記第一凸部と前記第二凹部が交互に並んだ方向における前記フィルム断面において、前記第一凸部と前記第一凹部の高さの差が60μm以上400μm以下であり、
前記第一層の熱可塑性樹脂のフィルム厚みが、高さの差の15%以上60%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のフィルムから前記第二層を剥離することにより形成される、前記第一層からなる、ことを特徴とするフィルム体。
【請求項5】
それぞれ熱可塑性樹脂からなるフラットな第一層及び第二層を重ねたフラットな積層体を加熱しつつ、凹凸形状を備えた第1の型と、フラット形状を備えた第2の型との間で挟持することにより、前記第一層の表面に凹凸形状を転写形成する第1工程と、
前記凹凸形状が転写形成された積層体に冷却固化を行うことにより、前記第一層の表面に固化したフィルム膜を形成する第2工程と、
前記第一層と前記第二層を、前記第一層に適した延伸温度で延伸する第3工程と、を有し、
前記第一層の延伸温度は、前記第二層の融点よりも低い、ことを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第一層から前記第二層を剥離する工程を有する、ことを特徴とする請求項5に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、フィルム体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチックフィルムは、軽量である、化学的に安定である、加工がしやすい、柔軟で強度がある、大量生産が可能、などの性質がある。このため、プラスチックフィルムは様々なものに利用されている。プラスチックフィルムの用途としては、例えば、食料品や医薬品等を包装する包装材や、輸液バッグ、買い物袋、ポスター、テープ、液晶テレビ等に利用される光学フィルム、保護フィルム、窓に貼合するウィンドウフィルム、ビニールハウス、建装材等々、多岐にわたる。このような用途に対し、用途に応じて適正なプラスチック材料が選択される。更にプラスチックフィルムを複数種類重ね、積層体とすることも行われている。
【0003】
さらに、最近では、フィルムの表裏面の形状を波形つまり蛇腹形状にすることで、一見通常のフィルムに見えつつ伸びる等の特徴的な機能を発現させることが可能なフィルムが提案されている。例えば、特許文献1では、フィルム材質として薬剤バリア性のある材料を用い、かつ、フィルム形状を蛇腹形状にすることで、薬剤バリア性と伸びる機能が両立できることを示している。また、例えば、特許文献2では、フィルム形状を蛇腹形状にすることで、フィルム材質に関わらず、通常のフィルムに見えつつもフィルムとして伸びる機能を付与できること、また、フィルム表面に施したコーティング層や印刷層、印刷配線などにも伸びる機能を付与できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019―88765号公報
【特許文献2】特開2019―90006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにフィルム表面に施したコーティング層にも伸びる機能を付与できることから、例えば、ストレッチャブルなバリアフィルムや導電配線の基材フィルムに期待されているが、フィルム上にこれらのコーティングや印刷を施すには工程上において加熱が必要とされるため、フィルムには一定以上の耐熱性が求められている。耐熱性を付与するためには、蛇腹形状のフィルムを形成する材料に耐熱性材料を用いることや、PETやPPといった材質であれば蛇腹形状のフィルム製膜後にアニール処理などの熱処理や、延伸を施すことが挙げられる。しかしながら耐熱材料を使用する場合には、その耐熱性ゆえに微細形状の成形が困難になってしまう。また、アニール処理や延伸を施すにしても、熱をかける段階で、蛇腹形状が消失してしまう問題があり、耐熱性を付与することが困難であった。また、アニール処理できたとしても結晶化が進むことによってフィルムの透明性が損なわれ使用できる用途が制限されてしまうといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、蛇腹形状のフィルムにおいて、延伸しても、蛇腹形状を消失させることがない、耐熱性に優れたフィルム、フィルム体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、代表的な本発明のフィルムの一つは、少なくとも第一層、
第二層の順に異なる熱可塑性樹脂が積層されたフィルムにおいて、前記第一層の表面は第一凸部と第一凹部が交互に並んでおり、
前記第一層と前記第二層との界面は、前記第一凸部と前記第一凹部に対応した位置にそれぞれ前記第二層の第二凸部と第二凹部を有しており、
前記第一層の熱可塑性樹脂の延伸温度よりも、前記第二層の熱可塑性樹脂の融点が高く、
前記第一層の熱可塑性樹脂の延伸温度における前記第二層の熱可塑性樹脂の破断伸度が200%以上であり、
前記第一層の熱可塑性樹脂の延伸温度における前記第一層と前記第二層の界面剥離強度が0.02N/幅15mm以上であり、
常温における前記第一層と前記第二層の界面剥離強度が0.4N/幅15mm以下である、ことを特徴とするフィルム、であることにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、延伸しても、凹凸形状を消失させることがない、耐熱性に優れたフィルム、フィルム体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態のフィルムにおける一例を示す上面図と断面図である。
図2図2は、本実施形態のフィルム体における一例を示す断面図である。
図3図3は、界面剥離強度を測定するときのフィルムの断面を示す図である。
図4図4は、本実施形態のフィルムにおける一例を示す上面図と断面図である。
図5図5は、本実施形態のフィルムにおける一例を示す断面図である。
図6図6は、本実施形態のフィルムの表面の形状を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態のフィルム10は、図1に示すように、少なくとも2つ以上の層が積層されたフィルムであって、第一層の熱可塑性樹脂1、第二層の熱可塑性樹脂2の順に、異なる熱可塑性樹脂が積層されている。また、第一層熱可塑性樹脂1の表面3は第一凸部4と第一凹部5が交互に並んで蛇腹状の凹凸形状を形成している。第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2との界面6(すなわち第二層の熱可塑性樹脂2の表面)は、第一凸部4と第一凹部5の位置に対応して、第二凸部7と第二凹部8を有している。第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2は隙間なく密着しており、第二層の熱可塑性樹脂2の裏面は図1では平面となっているが、何らかの形状が付与されていても良い。また、凹凸形状は延在方向Yの方向に形状が延在している。
【0011】
本実施形態のフィルム10は、最終的に第一層の熱可塑性樹脂1が、蛇腹状の凹凸形状が失われることなく、延伸によって耐熱性が付与できることを目的としており、第二層の熱可塑性樹脂2はそれを補助する役割を果たす。また、本実施形態のフィルム10は、延伸工程と第二層の熱可塑性樹脂2の剥離工程を経ることで、蛇腹状の凹凸形状による伸び特性などの特徴的な性質と、延伸によって付与される耐熱性を両立した、図2に示すような第一層の熱可塑性樹脂1の単層からなるフィルム体を得ることが可能となる。
【0012】
第一層の熱可塑性樹脂1は、本実施形態において耐熱性を付与したい対象の樹脂となる。第一層の熱可塑性樹脂1に用いる樹脂としては、延伸可能な樹脂を適用することができる。
【0013】
第一層の熱可塑性樹脂1に用いる樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンなどが挙げられる。ただし、これらの材料は特に限定されるものではなく延伸可能な樹
脂であれば、適宜用いることができる。
【0014】
本実施形態のフィルム10において、第二層の熱可塑性樹脂2に用いる樹脂は第一層の熱可塑性樹脂1と異なる樹脂であり、第二層の熱可塑性樹脂2の融点は、第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度よりも高いことを特徴としている。第二層の熱可塑性樹脂2の一つの役割として、延伸中に第一層の熱可塑性樹脂1の凹凸形状を維持する役割がある。したがって、延伸温度の環境中で第二層の熱可塑性樹脂2が一定の硬さを維持することが必要であり、第二層の熱可塑性樹脂2に用いる樹脂の融点が、第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度よりも低い場合には、積層状態で延伸した際に、第二層の熱可塑性樹脂2が溶融し、第一層の熱可塑性樹脂1の凹凸形状を支えることができなくなることから、延伸した際に第一層の熱可塑性樹脂1の凹凸形状が維持できなくなってしまう。すなわち、凹凸形状がフラットなフィルムに近い状態となってしまい、蛇腹状の凹凸形状が形成されていることで得られる伸び特性、衝撃吸収性などの特性が低下してしまう。なお、融点を持たない非晶性樹脂である場合を使用することも可能であり、延伸温度にて第一層の熱可塑性樹脂1の凹凸形状を維持できる樹脂であれば適用することができる。
【0015】
一方で、第二層の熱可塑性樹脂2の融点が高すぎる場合には、そもそも図1に示すフィルム10のような、積層した状態での凹凸形状の形成が困難となってしまう。したがって、積層状態かつ凹凸形状を有するフィルム10を作製する観点から、第二層の熱可塑性樹脂2の融点は、第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度よりも高い温度範囲の中において、なるべく低い温度であることが好ましい。ただし、フィルム10の凹凸形状が形成できるのであれば、上記の限りではない。
【0016】
ここで、第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度とは、第一層の熱可塑性樹脂1に用いる樹脂を延伸する際にフィルムにかける温度を示す。延伸温度は第一層の熱可塑性樹脂1に用いる樹脂によって異なる。もともと結晶化していない樹脂である場合、延伸温度は、第一層の熱可塑性樹脂1のガラス転移温度以上、昇温結晶化ピーク温度未満の温度範囲内に設定される場合が多い。具体的な例としては、非結晶化PETを用いる場合は、PETのグレードにもよるが、80℃以上140℃未満の温度範囲が延伸温度となる。第一層の熱可塑性樹脂1の結晶化が進行している場合は、延伸温度は昇温結晶化ピーク温度以上、融点未満の温度範囲内に設定される場合が多い。具体的な例としては第一層の熱可塑性樹脂1に結晶化しやすいPPのような樹脂を用いる場合、130℃以上160℃未満の範囲が延伸温度となる。上記のように延伸に適用できる温度は、ある程度の範囲を持っており、その中から任意に延伸温度を選ぶことができる。
【0017】
なお、延伸では、細かくは熱をかけた状態でフィルムを引っ張る工程と、熱固定の工程とにわけることができる。通常、熱固定の工程で設定する温度はフィルムを引っ張る工程とは別に高温に設定する場合が多いが、本実施形態における延伸温度とはフィルムを引っ張る工程の温度を示す。
【0018】
また、第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度における第二層の熱可塑性樹脂2の破断伸度が200%以上であることが好ましい。破断伸度が200%以下である場合は、延伸している最中に第二層の熱可塑性樹脂2の破断が発生しやすくなる。第二層の熱可塑性樹脂2が破断してしまうと、第一層の熱可塑性樹脂1が延伸される際の凹凸形状を維持する役割を果たすことができなくなり、結果的に延伸している最中に第一層の熱可塑性樹脂1の凹凸形状が損なわれる。第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度における第二層の熱可塑性樹脂2の破断伸度は更に好ましくは300%以上であり、更に好ましくは400%である。第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度における第二層の熱可塑性樹脂2の破断伸度は、大きい分だけフィルム10の延伸倍率を大きくすることができるため、設定できる延伸倍率の自由度を上げられる。
【0019】
さらに、第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度における第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の界面剥離強度は0.02N/幅15mm以上であることが好ましい。0.02N/幅15mm未満の場合は、延伸中に第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2が剥離してしまうことがある。第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2が剥離してしまうと、第一層の熱可塑性樹脂1が延伸される際の凹凸形状を維持する役割を果たすことができなくなり、結果的に延伸している最中に第一層の熱可塑性樹脂1の凹凸形状が損なわれてしまう。
【0020】
さらに、常温における第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の界面剥離強度が0.4N/幅15mm以下であることが好ましい。フィルム10は、積層状態で延伸した後に第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2を剥離して、図2にしめすような第一層の熱可塑性樹脂1を単層とすることで、第一層の熱可塑性樹脂1はいわゆる蛇腹形状となるため、伸び特性や衝撃吸収性などの特徴的な特性を発現させることが可能となる。
【0021】
常温における第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の界面剥離強度が0.4N/幅15mmよりも大きい場合は、容易に剥離しにくく、無理して剥離しようとする際に第一層の熱可塑性樹脂1に負荷がかかることで、破れの発生や凹凸形状が変形してしまう場合がある。第一層の熱可塑性樹脂1から第二層の熱可塑性樹脂2を剥離することにより、図2に示すような蛇腹状の凹凸形状が形成された第一層の熱可塑性樹脂1からなるフィルム体を得ることができる。したがって、フィルム10から第二層の熱可塑性樹脂2を剥離して第一層の熱可塑性樹脂1のみからなるフィルム体を形成する場合、界面剥離強度が剥離のしやすさを決める重要なファクターとなる。
【0022】
第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の界面剥離強度は一般的な引張試験機を利用することで計測することが出来る。図3に界面剥離強度を測定時のフィルム10の断面を示す。第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2を幅15mm、長さ150mmで切り出した後に、第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の層間界面で50mm剥離する。剥離した端部をそれぞれ引張試験機のチャック21で把持し、チャック間距離50mm、引張速度100mm/minで第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2が離間する方向に引っ張って引張試験を実施する。界面剥離強度は、この試験で得られる荷重の最大値を示すものとする。なお、延伸温度における剥離強度を測定する際には、上記の測定を延伸温度に設定した恒温槽内で行うことで実施できる。
【0023】
第二層の熱可塑性樹脂2に用いる樹脂は、上記のように第一層の熱可塑性樹脂1に対する融点、第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度における破断伸度、第一層の熱可塑性樹脂1との剥離強度を満たすものであれば特に制限されない。上記の条件はいずれも第一層の熱可塑性樹脂1との関係性によって異なってくるものであるから、延伸したい対象となる第一層の熱可塑性樹脂1に合わせて適切な樹脂を選ぶのが好ましい。
【0024】
第二層の熱可塑性樹脂2に用いる樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
【0025】
とりわけ、第一層の熱可塑性樹脂1にポリアミドやポリエチレンテレフタレートを用い
、第二層の熱可塑性樹脂2にポリプロピレンを用いた組み合わせであれば、第一層の熱可塑性樹脂1に対する融点、第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度における破断伸度、第一層の熱可塑性樹脂1との剥離強度の条件を満たすことから樹脂の構成として好ましい。上記のような構成であれば、延伸後にも熱可塑性樹脂1の凹凸形状を維持することができ、さらには第二層の熱可塑性樹脂2との剥離も容易であることから、剥離後の第一層の熱可塑性樹脂1は伸び特性等の効果を発現することが可能となる。
【0026】
第二層の熱可塑性樹脂2は必要に応じて図4に示すように二層構成にすることも可能である。例えば、第一層の熱可塑性樹脂1をブロックポリプロピレンとした場合には、筆者らが研究した限りにおいては第二層の熱可塑性樹脂2に用いる樹脂に適当なものは見つかっていない。例えば、第二層の熱可塑性樹脂2にホモポリプロピレンを用いた場合には延伸温度における融点や、破断伸度の条件を満たすことは可能であるが、同種樹脂であることから界面で密着してしまい、常温における剥離強度の条件を満たすことができない。また、ポリエチレンテレフタレートやポリアミドを第二層の熱可塑性樹脂2に使用する場合には、数値的には延伸温度における融点や、破断伸度の条件、剥離強度の条件いずれも満たすことは可能であるが、フィルム10の凹凸形状の形成がそもそも困難となってしまう。上記のような場合に、図4に示すように、第二層の熱可塑性樹脂2のうち、第一層の熱可塑性樹脂1界面に薄くポリエチレンテレフタレートの層を設け、順にホモポリプロピレンの層を設けることで、フィルム10の凹凸形状の成形性と、延伸温度における融点、破断伸度の条件、剥離強度の条件を満たすことが可能となる。
【0027】
適切な材料で構成されたフィルム10は、凹凸形状の延在方向Yに一軸延伸することが可能となり、延伸時に凹凸形状が消失することなく、耐熱性を付与することができる。なお、凸部と凹部の繰り返し方向Xに延伸してしまうと、本実施形態のフィルム10であっても凹凸形状は消失してしまう。
【0028】
続いて、図5を参照して、延伸、第二層の熱可塑性樹脂2剥離後に第一層の熱可塑性樹脂1が伸びる効果を得るための形状や厚みの寸法について説明する。フィルム10は延伸工程が含まれ、延伸によって断面形状が変化することを考慮に入れたフィルム10の形状や厚みを設計しておくことが必要となる。例えば延伸倍率が2倍である場合は、目安として延伸後の断面は、厚み方向Zに1/2圧縮されたような断面となるし、延伸倍率が4倍の場合は、目安として延伸後の断面は、厚み方向Zに1/4圧縮されたような断面となる。上記を踏まえた上で、延伸後の第一層の熱可塑性樹脂1の高さHが30μm以上100μm以下となり、フィルム厚みT1は高さHの15%以上60%以下となるように、フィルム10の形状や厚みを設計するのが好ましい。そうすることによって、延伸、剥離後の第一層の熱可塑性樹脂1の伸び特性を発現することができる。また、このようなサイズにすることで、凹凸形状を直接目で見ることができないため、一見通常のフィルムと遜色ないにも関わらず、伸びる効果を得ることができる。
【0029】
以上より、延伸前のフィルム10第一凸部4と第一凹部5との高さ差Hは60μm以上400μm以下であると良い。高さHが60μm未満である場合、2倍以上の倍率延伸した際に、高さHが低くなりすぎて、伸び特性が得られなくなってしまう。また、高さHが400μmを超える場合、フィルム10の作製が難しくなる。また、延伸前のフィルム10の第一層の熱可塑性樹脂1のフィルム厚みT1は、高さHの15%以上60%以下であるとよい。フィルム厚みT1が高さHの15%よりも小さい場合は、延伸後のフィルム厚みが薄くなりすぎてしまい、ハンドリングにてフィルムを扱いづらくなってしまう。また、フィルム厚みT1が高さHの60%よりも大きい場合には、伸びる効果が小さくなってしまう。
【0030】
なお、第一層の熱可塑性樹脂1のフィルム厚みT1とは、表面3もしくは界面6と垂直
な方向に対する厚みを示すものとし、場所により不均一となっていても良い。ただし、最薄部と最厚部との比は3倍以下であると良い。厚み比が3倍を超えてしまうと、薄部において形状変化による伸びではなく材料由来の伸びを示す可能性があるためである。
【0031】
第一層の熱可塑性樹脂1の表面3の第一凸部4,第一凹部5、及び、第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の界面6の第二凸部7,第二凹部8の、第一凸部4と第一凹部5が交互に並んだ方向(繰り返し方向X)における断面形状は、図1に示すような台形形状であっても良いし、図6(a)~(g)に示したように、三角形状、半円形状、角部が丸まった形状、平坦部を有して離間した形状、波型の何れであっても問題ないし、これらに限定されるものではない。
【0032】
特に、図6(a)(b)のように、平坦部を有する台形形状や、図6(c)(d)のような平坦部を有して離間した形状であると、印刷適性や他フィルムとの貼合適性が向上するため良い。例えば、このような形状では、グラビア印刷にて上面部のみに印刷することが出来る。こうすることで、伸縮時にも意匠性インクは伸縮せず、クラックや割れなどのダメージを防ぐことができる。また、接着剤なども上面部にしっかり塗布することができるため、他フィルムとの密着性を向上させることができる。上面部の面積により、接触面積を増加できるため、密着強度を制御することも可能となる。
【0033】
一方、図6(f)のような波型形状や図6(b)(g)のような角部が丸まった形状だと、擦れ時に引っかかることがなくなるとともに、伸縮時に特定の部分に負荷がかかるのを低減することができる。例えば、導電性インキを第一層の熱可塑性樹脂1上に印刷した場合、局所的な応力集中も防ぐことができるため、伸縮時の導電性変化を小さくすることができる。また別の例では、金属や酸化物を蒸着した場合についても同様に、伸ばしてもバリア性変化を小さくすることができる。もちろん、本効果は、蛇腹状の凹凸形状により有する効果であるから、別の形状でも保有しているが、角部が丸まっている波型形状であると、より得やすい。
【0034】
本実施形態のフィルム10については、例えば、熱プレスや押出成形により作製することが出来る。
【0035】
(第一工程)
熱プレスによる方法では、フラットな第一層の熱可塑性樹脂1、第二層の熱可塑性樹脂2を重ねたフラットフィルム(フラットな中間積層体)を、凹凸形状を設けた加熱ロール間もしくは加熱した平板状のプレス機に通す(凹凸形状を備えた第1の型とフラット形状を備えた第2の型との間で挟持する)ことで、第一層の熱可塑性樹脂1の表面3に第一凸部4,第一凹部5を付与することが可能である。この際、プレス温度やプレス圧、プレス時間を調整することによって、第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の界面6にも第二凸部7,第二凹部8を付与することができる。
【0036】
また、押出成形による方法では、複数の押出機を使用し、複数種類の別の樹脂をフィードブロック法、又はマルチマニホールド法により共押出することで、二層以上の多層構成のフィルムを得ることができる。フィルム化するための冷却工程において、第一層の熱可塑性樹脂1を配置した面に対し、凹凸が表面に設けられた冷却ロールを用いて、ニップ圧力を付加しながら冷却することで、第一層の熱可塑性樹脂1の表面3に第一凸部4,第一凹部5を付与することが可能である。この際、樹脂温度や冷却ロール温度、第一層の熱可塑性樹脂1の厚みT1に対する高さ差Hの大きさを調整することによって、第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の界面6にも第二凸部7,第二凹部8を付与することができる。
【0037】
(第二工程)
その後、第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2とを積層したフィルム10に、第一層の熱可塑性樹脂1の延伸温度にて延伸を行う。また、フィルム10から第二層の熱可塑性樹脂2を剥離することにより、両面に凹凸形状が付与された第一層の熱可塑性樹脂1からなるフィルム体を得ることができる。
【0038】
さらに、本実施形態にかかるフィルム10は、後工程で表面3、もしくは第二層の熱可塑性樹脂2を剥離後の第一層の熱可塑性樹脂1の裏面6に、印刷層や粘着層などの機能層を積層した積層体とすることもできる。機能層と第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2を積層したフィルム10から、第二層の熱可塑性樹脂2を剥離する場合、フィルム体は凹凸形状を備えた第一層の熱可塑性樹脂1及び機能層からなる。
【0039】
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではないことはいうまでもない。また、以上の実施の形態を組み合わせて用いることは、任意である。
【実施例0040】
以下、本発明者らが作成した実施例を、比較例と比較して詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
第一層の熱可塑性樹脂1の材料として、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製のポリエチレンテレフタレート樹脂「ベルペットEFG70」を用い、第二層の熱可塑性樹脂2の材料としてプライムポリマー株式会社製のホモポリプロピレン樹脂「F-300SP」(融点:160℃)を用い、共押出成形により二層を積層し、第一層の熱可塑性樹脂1側を凹凸の付いたロールにてニップし、表面3に第一凸部4,第一凹部5を付与した二層構造のフィルム10を得た。第一層の熱可塑性樹脂1の厚みT1は50μm、第二層の熱可塑性樹脂2の厚みT2は平均170μmとした。第一凸部4,第一凹部5の形状は、図1のように断面形状を台形形状とし稜線が一方向に直線的に延在した形状とした。第一凸部4,第一凹部5の高さ差Hは100μm、ピッチは425μmとした。このようにして作製したフィルム10は、のちの延伸工程にて延伸温度130℃で延在方向Yに延伸倍率2倍で一軸延伸を行った。
【0042】
(比較例1,2)
比較例1,2は、それぞれ、第二層の熱可塑性樹脂2の材料を、日本ポリエチレン株式会社製の低密度ポリエチレン樹脂「ノバテックLD LC600A」(融点:106℃)、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂「ベルペットEFG70」(融点:255℃)とし、それ以外は、実施例1と同様にした。このようにして作製したフィルム10は、のちの延伸工程にて延伸温度130℃で延在方向Yに延伸倍率2倍で一軸延伸を行った。
【0043】
(実施例2)
実施例2は、比較例1と同様のフィルム10を作製し、のちの延伸工程にて延伸温度100℃で延在方向Yに延伸倍率2倍で一軸延伸を行った。
【0044】
(実施例3)
実施例3は、第一層の熱可塑性樹脂1の材料を、宇部興産株式会社製のナイロン6樹脂「1022B」とし、それ以外は実施例1と同様とした。このようにして作製したフィルム10は、のちの延伸工程にて延伸温度130℃で2倍延伸を行った。
【0045】
(比較例3)
比較例3は、それぞれ、第二層の熱可塑性樹脂2の材料を、日本ポリエチレン株式会社製の低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂「ノバテックLD LC600A」とし、それ以外は、実施例3と同様にした。
【0046】
(実施例4)
第一層の熱可塑性樹脂1の厚みT1は80μm、第二層の熱可塑性樹脂2の厚みTは平均300μmとした。第一凸部4,第一凹部5の形状は、図1のように断面形状を台形形状とし稜線が一方向に直線的に延在した形状とした。第一凸部4,第一凹部5の高さ差Hは200μm、ピッチは600μmとした。このようにして作製したフィルム10は、のちの延伸工程にて延伸温度130℃で延在方向Yに延伸倍率4倍で一軸延伸を行った。
【0047】
(界面剥離強度評価)
第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の界面剥離試験を実施した。株式会社島津製作所製のオートグラフAGS-500NXを用い、第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2を幅15mm、長さ150mmで切り出した後に、第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2の層間界面で50mm剥離し、剥離した端部をそれぞれ引張試験機のチャック21で把持し、チャック間距離50mm、引張速度100mm/minで第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2が離間する方向に引っ張って引張試験を実施した。この試験で得られる荷重の最大値を界面剥離強度とした。測定は、延伸温度環境下および、常温環境下にて行った。
【0048】
(破断伸度評価)
株式会社島津製作所製のオートグラフAGS-500NXを用い、延伸温度において引張試験を実施した。第二層の熱可塑性樹脂2を幅15mm、長さ90mmで切り出したのちに、フィルム両端をチャックで把持し、チャック間距離50mm、引張速度100mm/minで引っ張った際の破断伸度を測定した。
【0049】
(延伸後の形状評価)
延伸後のフィルム10の凹凸形状が維持されているかを確認するため、延伸後のフィルム10の断面観察を行った。ここで、凹凸形状が維持されていたかどうかは、第一凸部4,第一凹部5の高さ差Hが30以上100μm以下の範囲内であり、かつ、フィルム厚みT1が高さHの15%以上60%以下の範囲内に含まれているかどうかを基準とした。評価は基準内に含まれている場合は「〇」を、含まれていないものを「×」とした。
【0050】
(第一層の熱可塑性樹脂1の剥離評価)
延伸後のフィルム10の第一層の熱可塑性樹脂1と第二層の熱可塑性樹脂2をハンドリングにて剥離して、第一層の熱可塑性樹脂1を単層にできるかどうかを評価した。問題なく剥離できる場合は「〇」を、剥離できない、または、剥離した際にフィルムが変形してしまう場合は「×」とした。
【0051】
(総合評価)
上記、延伸後の形状評価、第一層の熱可塑性樹脂1の剥離評価にて、「〇」のものを、総合判定として「〇」とした。どちらか一つでも「×」となったものを、総合判定として「×」とした。
【0052】
各実施例、比較例における条件、及び評価結果の一覧表を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
以上のように、前記第一層の熱可塑性樹脂の延伸温度よりも、前記第二層の熱可塑性樹脂の融点が高く、前記第一層の熱可塑性樹脂の延伸温度における前記第二層の熱可塑性樹
脂の破断伸度が200%以上であり、前記第一層の熱可塑性樹脂の延伸温度における前記第一層と前記第二層の界面剥離強度が0.02N/幅15mm以上であり、常温における前記第一層と前記第二層の界面剥離強度が0.4N/幅15mm以下である、全ての判定で「〇」となり、総合判定も「〇」となった。
【符号の説明】
【0055】
1・・・第一層の熱可塑性樹脂
2・・・第二層の熱可塑性樹脂
3・・・第一層の表面
4・・・第一凸部
5・・・第一凹部
6・・・第一層と第二層の界面
7・・・第二凸部
8・・・第二凹部
10・・・フィルム
21・・・チャック
H・・・第一凸部4と第一凹部5の高さ差
T1・・・第一層1のフィルム厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6