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特開2024-36098アンテナ装置、給電装置、及び給電方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036098
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】アンテナ装置、給電装置、及び給電方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/23 20160101AFI20240308BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20240308BHJP
   H01Q 3/30 20060101ALI20240308BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
H02J50/23
H01Q13/08
H01Q3/30
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140825
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
【テーマコード(参考)】
5J021
5J045
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021AB06
5J021DB03
5J021EA04
5J021FA05
5J021HA10
5J045AA05
5J045DA10
5J045JA17
5J045NA01
(57)【要約】
【課題】受電電力が大きくなるように、受電アンテナの位置に応じてアレイアンテナの複数のアンテナ素子における送電信号の位相調節量を容易に計算可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置は、投影仰角を取得し、マーカ画像の第1両端点及び第2両端点の座標と、魚眼レンズの焦点距離とに基づいて、第1両端点及び第2両端点の第3軸に対する第2仰角を求め、マーカ中心点と魚眼レンズとの間の第1距離を求め、第1両端点及び第2両端点の第3軸に対する第2仰角と、第3軸座標とに基づいて、第1両端点及び第2両端点と、魚眼レンズとの間の第2距離を求め、第1距離と、第2距離との経路差に基づいて、第1軸方向及び第2軸方向の各々における3つのアンテナ素子の位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で二次元的に配置される複数のアンテナ素子の位相調節量を設定する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナであって、前記アレイアンテナと平面視で同一サイズを有し前記アレイアンテナに対向して配置されるマーカの中心に配置された受電アンテナに向けて送電信号を送電するアレイアンテナと、
前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節部と、
前記マーカに対向して配置される魚眼レンズを通じて前記マーカの画像を取得する画像取得部と、
前記マーカの画像における前記マーカの中心点であるマーカ画像中心点と前記魚眼レンズの焦点距離とに基づいて、前記マーカのマーカ中心点の第3軸に対する第1仰角と、前記第1仰角を前記第1軸及び前記第3軸を含む平面に投影した投影仰角とを取得する第1仰角取得部と、
前記マーカの画像における前記マーカの前記第1軸方向における第1両端点の座標と、前記マーカの画像における前記マーカの前記第2軸方向における第2両端点の座標と、前記魚眼レンズの焦点距離とに基づいて、前記第1両端点及び前記第2両端点の前記第3軸に対する第2仰角を求める第2仰角取得部と、
前記投影仰角と、前記マーカの画像における前記マーカの中心点であるマーカ画像中心点と、前記第2両端点の射影座標のいずれか一方と、前記第2両端点を結ぶ方向における前記マーカの長さとに基づき、前記マーカの前記第3軸の座標を求める座標取得部と、
前記第1仰角と、前記マーカの前記第3軸の座標とに基づき、前記マーカ中心点と前記魚眼レンズとの間の第1距離を求める第1距離推定部と、
前記第1両端点及び前記第2両端点の前記第3軸に対する第2仰角と、前記マーカの前記第3軸の座標とに基づいて、前記第1両端点及び前記第2両端点と、前記魚眼レンズとの間の第2距離を求める第2距離推定部と、
前記位相調節部が前記送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節量を制御する制御部と
を含み、
前記制御部は、前記第1距離と、前記第2距離との経路差に基づいて、前記第1軸方向における両端の前記アンテナ素子を含む3つの前記アンテナ素子と、前記第2軸方向における両端の前記アンテナ素子を含む3つの前記アンテナ素子との前記位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で前記二次元的に配置される前記複数のアンテナ素子の前記位相調節量を設定する、アンテナ装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1軸方向における両端の中心点における前記アンテナ素子の前記位相調節量を第1基準位相に設定するとともに、前記第1軸方向における両端の前記アンテナ素子の前記位相調節量を、前記第1両端点についての前記第2距離と前記第1距離との経路差に応じた前記位相調節量に設定し、
前記第2軸方向における両端の中心点における前記アンテナ素子の前記位相調節量を第2基準位相に設定するとともに、前記第2軸方向における両端の前記アンテナ素子の前記位相調節量を、前記第2両端点についての前記第2距離と前記第1距離との経路差に応じた前記位相調節量に設定する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第1軸方向における前記中心点における前記アンテナ素子の前記位相調節量を前記第1基準位相に設定するとともに、前記第1軸方向における両端の前記アンテナ素子の前記位相調節量を、前記第1両端点についての前記第2距離と前記第1距離との経路差に応じた前記位相調節量に設定した状態で、前記第1軸方向において、二次関数の放物線補間で前記複数のアンテナ素子の前記位相調節量を設定し、
前記第2軸方向における前記中心点における前記アンテナ素子の前記位相調節量を前記第2基準位相に設定するとともに、前記第2軸方向における両端の前記アンテナ素子の前記位相調節量を、前記第2両端点についての前記第2距離と前記第1距離との経路差に応じた前記位相調節量に設定した状態で、前記第2軸方向において、二次関数の放物線補間で前記複数のアンテナ素子の前記位相調節量を設定する、請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1基準位相及び前記第2基準位相は、ゼロである、請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記二次元的に配置される複数のアンテナ素子は、前記第1軸及び前記第2軸の各々に沿って奇数個配置されている、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記二次関数の放物線補間は、二次関数の内挿補間である、請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナであって、前記アレイアンテナと平面視で同一サイズを有し前記アレイアンテナに対向して配置されるマーカの中心に配置された受電アンテナに向けて送電信号を送電するアレイアンテナと、
電波発生源と、
前記アレイアンテナと前記電波発生源との間に設けられ、前記電波発生源から前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節部と、
前記マーカに対向して配置される魚眼レンズを通じて前記マーカの画像を取得する画像取得部と、
前記マーカの画像における前記マーカの中心点であるマーカ画像中心点と前記魚眼レンズの焦点距離とに基づいて、前記マーカのマーカ中心点の第3軸に対する第1仰角と、前記第1仰角を前記第1軸及び前記第3軸を含む平面に投影した投影仰角とを取得する第1仰角取得部と、
前記マーカの画像における前記マーカの前記第1軸方向における第1両端点の座標と、前記マーカの画像における前記マーカの前記第2軸方向における第2両端点の座標と、前記魚眼レンズの焦点距離とに基づいて、前記第1両端点及び前記第2両端点の前記第3軸に対する第2仰角を求める第2仰角取得部と、
前記投影仰角と、前記マーカの画像における前記マーカの中心点であるマーカ画像中心点と、前記第2両端点の射影座標のいずれか一方と、前記第2両端点を結ぶ方向における前記マーカの長さとに基づき、前記マーカの前記第3軸の座標を求める座標取得部と、
前記第1仰角と、前記マーカの前記第3軸の座標とに基づき、前記マーカ中心点と前記魚眼レンズとの間の第1距離を求める第1距離推定部と、
前記第1両端点及び前記第2両端点の前記第3軸に対する第2仰角と、前記マーカの前記第3軸の座標とに基づいて、前記第1両端点及び前記第2両端点と、前記魚眼レンズとの間の第2距離を求める第2距離推定部と、
前記位相調節部が前記送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節量を制御する制御部と
を含み、
前記制御部は、前記第1距離と、前記第2距離との経路差に基づいて、前記第1軸方向における両端の前記アンテナ素子を含む3つの前記アンテナ素子と、前記第2軸方向における両端の前記アンテナ素子を含む3つの前記アンテナ素子との前記位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で前記二次元的に配置される前記複数のアンテナ素子の前記位相調節量を設定する、給電装置。
【請求項8】
第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナであって、前記アレイアンテナと平面視で同一サイズを有し前記アレイアンテナに対向して配置されるマーカの中心に配置された受電アンテナに向けて送電信号を送電するアレイアンテナと、
電波発生源と、
前記アレイアンテナと前記電波発生源との間に設けられ、前記電波発生源から前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節部と、
前記マーカに対向して配置される魚眼レンズを通じて前記マーカの画像を取得する画像取得部と、
前記マーカの画像における前記マーカの中心点であるマーカ画像中心点と前記魚眼レンズの焦点距離とに基づいて、前記マーカのマーカ中心点の第3軸に対する第1仰角と、前記第1仰角を前記第1軸及び前記第3軸を含む平面に投影した投影仰角とを取得する第1仰角取得部と、
前記マーカの画像における前記マーカの前記第1軸方向における第1両端点の座標と、前記マーカの画像における前記マーカの前記第2軸方向における第2両端点の座標と、前記魚眼レンズの焦点距離とに基づいて、前記第1両端点及び前記第2両端点の前記第3軸に対する第2仰角を求める第2仰角取得部と、
前記投影仰角と、前記マーカの画像における前記マーカの中心点であるマーカ画像中心点と、前記第2両端点の射影座標のいずれか一方と、前記第2両端点を結ぶ方向における前記マーカの長さとに基づき、前記マーカの前記第3軸の座標を求める座標取得部と、
前記第1仰角と、前記マーカの前記第3軸の座標とに基づき、前記マーカ中心点と前記魚眼レンズとの間の第1距離を求める第1距離推定部と、
前記第1両端点及び前記第2両端点の前記第3軸に対する第2仰角と、前記マーカの前記第3軸の座標とに基づいて、前記第1両端点及び前記第2両端点と、前記魚眼レンズとの間の第2距離を求める第2距離推定部と
を含み、
前記位相調節部が前記送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節量を制御し、
前記第1距離と、前記第2距離との経路差に基づいて、前記第1軸方向における両端の前記アンテナ素子を含む3つの前記アンテナ素子と、前記第2軸方向における両端の前記アンテナ素子を含む3つの前記アンテナ素子との前記位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で前記二次元的に配置される前記複数のアンテナ素子の前記位相調節量を設定する、給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナ装置、給電装置、及び給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、受電機器の方向を検出する第1の検出手段と、第1の検出手段によって検出された受電機器の方向に無線で給電電力を放射する第1の放射、及び、給電電力を放射する方向を定められた範囲で変更しながら無線で給電電力を放射する第2の放射を行うよう、給電電力を放射する放射部を制御する制御手段とを有する給電機器がある。放射部は、アレイアンテナである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-083648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、受電アンテナにおける受電電力が大きくなるように、受電機器の受電アンテナの位置に応じて、アレイアンテナに含まれる複数のアンテナ素子が送電する送電信号の位相を調節するためには、膨大な計算量が必要になる。しかしながら、従来の給電機器(給電装置)は、このような問題を解決していない。
【0005】
そこで、受電電力が大きくなるように、受電アンテナの位置に応じてアレイアンテナの複数のアンテナ素子における送電信号の位相調節量を容易に計算可能なアンテナ装置、給電装置、及び給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態のアンテナ装置は、第1軸及び第2軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナであって、前記アレイアンテナと平面視で同一サイズを有し前記アレイアンテナに対向して配置されるマーカの中心に配置された受電アンテナに向けて送電信号を送電するアレイアンテナと、前記複数のアンテナ素子に供給される送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節部と、前記マーカに対向して配置される魚眼レンズを通じて前記マーカの画像を取得する画像取得部と、前記マーカの画像における前記マーカの中心点であるマーカ画像中心点と前記魚眼レンズの焦点距離とに基づいて、前記マーカのマーカ中心点の前記第3軸に対する第1仰角及び第1仰角を前記第1軸及び前記第3軸を含む平面に投影した投影仰角を取得する第1仰角取得部と、前記マーカの画像における前記マーカの前記第1軸方向における第1両端点の座標と、前記マーカの画像における前記マーカの前記第2軸方向における第2両端点の座標と、前記魚眼レンズの焦点距離とに基づいて、前記第1両端点及び前記第2両端点の前記第3軸に対する第2仰角を求める第2仰角取得部と、前記投影仰角と、前記マーカの画像における前記マーカの中心点であるマーカ画像中心点と、前記第2両端点の射影座標のいずれか一方と、前記第2両端点を結ぶ方向における前記マーカの長さとに基づき、前記マーカの前記第3軸の座標を求める座標取得部と、前記第1仰角と、前記マーカの前記第3軸の座標とに基づき、前記マーカ中心点と前記魚眼レンズとの間の第1距離を求める第1距離推定部と、第1両端点及び前記第2両端点の前記第3軸に対する第2仰角と、前記マーカの前記第3軸の座標とに基づいて、前記第1両端点及び前記第2両端点と、前記魚眼レンズとの間の第2距離を求める第2距離推定部と、前記位相調節部が前記送電信号の位相を前記第1軸方向及び前記第2軸方向において調節する位相調節量を制御する制御部とを含み、前記制御部は、前記第1距離と、前記第2距離との経路差に基づいて、前記第1軸方向における両端の前記アンテナ素子を含む3つの前記アンテナ素子と、前記第2軸方向における両端の前記アンテナ素子を含む3つの前記アンテナ素子との前記位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で前記二次元的に配置される前記複数のアンテナ素子の前記位相調節量を設定する。
【発明の効果】
【0007】
受電電力が大きくなるように、受電アンテナの位置に応じてアレイアンテナの複数のアンテナ素子における送電信号の位相調節量を容易に計算可能なアンテナ装置、給電装置、及び給電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の給電装置100の利用態様の一例を示す図である。
図2】実施形態の給電装置100と受電装置50との一例を示す図である。
図3】実施形態の給電装置100の構成の一例を示す図である。
図4A】遠距離送電を想定した各アンテナ素子から同一方向へ電波を放射する場合の二次元的な位相分布を示す図である。
図4B】近距離送電を想定した各アンテナ素子から同一方向へ電波を放射する場合の二次元的な位相分布を示す図である。
図5】X軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、受電アンテナ51との位置関係の一例をXZ座標に示す図である。
図6】X軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子111についての正規化経路差長θiXの設定の仕方の一例を説明する図である。
図7A】アレイアンテナ110及び受電装置50の位置関係の一例を示す図である。
図7B】アレイアンテナ110及び受電装置50の位置関係の一例を示す図である。
図8】アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。
図9A】X方向及びY方向において算出した正規化経路差長の分布の一例を示す図である。
図9B】X方向及びY方向において算出した正規化経路差長の分布の一例を示す図である。
図10A】受電アンテナ51の位置で見た送信アンテナ利得のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図10B】受電アンテナ51の受電電力のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のアンテナ装置、給電装置、及び給電方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の給電装置100の利用態様の一例を示す図である。給電装置100は、アレイアンテナを有し、一例として、AGV(Automatic Guided Vehicle)20に搭載されて移動可能である。給電装置100は、給電対象物10に取り付けられた受電装置50に対向する位置に移動して、受電装置50に対して送電信号を送電する。受電装置50及び給電対象物10の位置は固定されている。
【0011】
給電装置100は、アレイアンテナの中心が受電装置50の受電アンテナの中心に対して、上下左右のいずれかの方向にずれていても、アレイアンテナの各アンテナ素子から放射する電波の位相を調整することで、効率的に送電可能である。
【0012】
また、給電装置100は、例えば、AGV20が受電装置50に対して停止している間だけでなく、接近しているとき、又は、後退しているときにも送電信号を送電すると、特に、受電装置50及び給電対象物10が複数あるような場合に、効率的な送電が可能になる。この場合に、給電装置100と受電装置50との間の距離によって、送電効率が良好になるように、給電装置100のアレイアンテナの各アンテナ素子から放射する電波の位相を調整すれば、さらに効率的な送電が可能になる。
【0013】
図2は、実施形態の給電装置100と受電装置50との一例を示す図である。図3は、実施形態の給電装置100の構成の一例を示す図である。
【0014】
以下では、XYZ座標系を用いて説明する。平面視とはXY平面視のことである。また、X軸は第1軸の一例であり、Y軸は第2軸の一例であり、Z軸は第3軸の一例である。
【0015】
<給電装置100及び受電装置50の構成>
図2には、アレイアンテナ110に対向して配置される受電装置50を示す。アレイアンテナ110は、複数のアンテナ素子111を有し、複数のアンテナ素子111がX軸及びY軸に沿ってアレイ状に配置されている。アレイアンテナ110は、超多素子フェイズドアレイである。超多素子フェイズドアレイとしてのアレイアンテナ110が含むアンテナ素子111の数は、一例として200個から1000個程度である。
【0016】
アレイアンテナ110と受電装置50とのZ方向の距離(対向距離)は、一例として1m~2m程度である。給電装置100は、アレイアンテナ110からマイクロ波ワイヤレス給電で受電装置50に送電信号を送電する。アレイアンテナ110が受電装置50に送電信号を送電することは、アレイアンテナ110が受電装置50に給電することと同義である。
【0017】
受電装置50は、受電アンテナ51及び位置マーカ52を有する。図2では、複数のアンテナ素子111と、受電アンテナ51及び位置マーカ52の配置を見えやすく示すが、実際には、受電アンテナ51及び位置マーカ52は、複数のアンテナ素子111と同様に、X軸及びY軸に沿って配置されている。位置マーカ52の平面視でのサイズは、アレイアンテナ110の平面視でのサイズと同一である。
【0018】
アレイアンテナ110は、複数のアンテナ素子111から出力される電波がビームを形成し、送電信号としてのビームの角度を走査することにより、受電装置50の受電アンテナ51に送電信号を送電する。
【0019】
受電装置50は、アレイアンテナ110から受電アンテナ51で受電した送電信号の電力を給電対象物10に供給する。給電対象物10は、電力を消費する装置等であれば、どのようなものであってもよい。一例として、1つの受電アンテナ51に対して、1つの給電対象物10が接続されている。
【0020】
<給電装置100の構成>
給電装置100は、図3に示すように、アレイアンテナ110、フェーズシフタ120、マイクロ波発生源130、カメラ140、及び制御装置150を含む。実施形態のアンテナ装置100Aは、給電装置100からマイクロ波発生源130を除いたものである。なお、図2では、フェーズシフタ120、及び、マイクロ波発生源130を省略している。
【0021】
<アレイアンテナ110の構成>
アレイアンテナ110は、一例として(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111を含む。Nは2以上の整数である。(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111は、X方向(第1軸方向)に(2N+1)個配列され、Y方向(第2軸方向)に(2N+1)個配列される。すなわち、(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111は、(2N+1)行×(2N+1)列で配列されている。X方向の-N番目(#-N)からN番目(#N)を示す。アンテナ素子111は、平面視で矩形状のパッチアンテナである。アレイアンテナ110は、アンテナ素子111の-Z方向側にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。なお、一例として、(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111の位置の中心は、XYZ座標系の原点と一致している。(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111の位置の中心は、アレイアンテナの基準位置の一例である。
【0022】
<フェーズシフタ120の構成>
フェーズシフタ120は、(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111の各々に対して1個ずつ接続されている。フェーズシフタ120は、位相を調節する位相調節部の一例であり、位相シフタの一例である。各フェーズシフタ120には、同一位相の送電信号が供給される。また、(2N+1)×(2N+1)個のフェーズシフタ120が(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111にそれぞれ出力する送電信号の位相は互いに異なる。このため、(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームの角度を水平方向及び垂直方向に制御することができる。
【0023】
(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111から放射される電波が形成するビームは、アレイアンテナ110が出力するビームと同義である。また、アレイアンテナ110が出力するビームは、アンテナ装置100A及び給電装置100が出力するビームと同義である。ビームは、送電信号である。
【0024】
<マイクロ波発生源130の構成>
マイクロ波発生源130は、(2N+1)×(2N+1)個のフェーズシフタ120に接続されており、所定の電力のマイクロ波を供給する。マイクロ波発生源130は、電波発生源の一例である。マイクロ波の周波数は、一例として準ミリ波の24GHz帯の周波数である。なお、ここでは給電装置100がマイクロ波発生源130を含む形態について説明するが、マイクロ波に限られるものではなく、所定の周波数の電波であればよい。
【0025】
<カメラ140の構成>
カメラ140は、X方向においては-N番目からN番目のアンテナ素子111のうちの0番目のアンテナ素子111の位置に配置され、Y方向においては、-N番目からN番目のアンテナ素子111のうちの0番目のアンテナ素子111の位置に配置される。X方向における0番目のアンテナ素子111と、Y方向における0番目のアンテナ素子111とは同一であり、(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111のうちの中心に位置するアンテナ素子111である。なお、以下では、各アンテナ素子111における位相調節量を求めるために、(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111のうちの中心に位置するアンテナ素子111が存在するものとして説明するが、(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111のうちの中心に位置するアンテナ素子111を設けずに、カメラ140の魚眼レンズ141を配置してもよい。また、各アンテナ素子111における位相調節量を求めるための計算に支障が生じない程度に、(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111、又は、魚眼レンズ141の位置をずらして配置してもよい。また、魚眼レンズ141をアレイアンテナ110からずらした位置に配置して、魚眼レンズ141から見たマーカ52の位置に対して、魚眼レンズ141とアレイアンテナ110との位置ずれ分を考慮した位置にビームを放射してもよい。
【0026】
カメラ140は、魚眼レンズ141及びカメラ本体142を有する。カメラ140は、画像取得部の一例である。カメラ140は、画像処理によって位置マーカ52の位置を推定する際に用いられる。画像処理によって位置マーカ52の位置を推定することをビジョンセンシングと称す。
【0027】
魚眼レンズ141は、等距離射影方式を採用したレンズである。魚眼レンズ141の中心の位置は、一例として、(2N+1)×(2N+1)個のアンテナ素子111の中心及びXYZ座標系の原点と一致している。魚眼レンズ141の中心の位置は、画像取得部の基準位置の一例である。カメラ本体142は、カメラ140のうち魚眼レンズ141以外の部分であり、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを含むカメラ、又は、赤外線カメラであってもよい。
【0028】
カメラ140は、魚眼レンズ141を通じて位置マーカ52を含む画像を取得し、画像データを制御装置150に出力する。位置マーカ52は、アンテナ装置100A及び給電装置100が出力するビームを照射したいターゲットである受電アンテナ50Bを有する受電装置50に取り付けられている。アンテナ装置100A及び給電装置100は、カメラ140で取得した画像に含まれる位置マーカ52の位置を求め、受電アンテナ50Bに向けてビームを照射する。
【0029】
カメラ本体142は、撮像素子を含み、魚眼レンズ141を通じて撮像を行うことによって、画像データを取得する。カメラ本体142は、取得した画像データに対して2値化処理等の画像処理を行い、ピクセルインデックスを制御装置150に出力する。ピクセルインデックスは、位置マーカ52の撮像画面上の位置を示すXY座標値(アドレス)である。
【0030】
また、カメラ本体142は、位置マーカ52の輪郭を求める処理、最大輪郭を求める処理を行い、位置マーカ52の座標を表すデータを制御装置150に出力する。
【0031】
位置マーカ52の輪郭を求める処理は、カメラ本体142が取得した画像データに対して2値化を行って得るピクセルインデックスの分布に基づいて1又は複数の輪郭を抽出する処理である。
【0032】
最大輪郭を求める処理は、ピクセルインデックスの分布に基づいて抽出された1又は複数の輪郭の中から、一番大きい輪郭を求める処理(輪郭内ピクセル数カウントによる最大輪郭抽出処理)である。一番大きい輪郭を求めることにより、ノイズ等の影響を排除することができる。
【0033】
位置マーカ52の座標を読み出す処理は、最大輪郭を求める処理によって求められた一番大きい輪郭から、位置マーカ52の座標を読み出す処理である。カメラ本体142は、読み出した位置マーカ52の座標を制御装置150に出力する。
【0034】
<制御装置150の構成>
制御装置150は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力インターフェース、及び内部バス等を含むコンピュータによって実現される。
【0035】
制御装置150は、二次関数の放物線補間を利用して、すべてのフェーズシフタ120に設定する位相調節量を求め、求めた位相調節量を各フェーズシフタ120に設定する。制御装置150は、メモリ155を有し、求めた位相調節量を格納する。また、制御装置150は、位相調節量を求める過程で生じる正規化経路差長をメモリ155に格納する。正規化経路差長は、位相調節量に相当する物理量であり、詳細については後述する。
【0036】
制御装置150は、仰角取得部151、座標取得部152、距離推定部153、制御部154、及びメモリ155を有する。仰角取得部151、座標取得部152、距離推定部153、制御部154は、制御装置150が実行するプログラムの機能(ファンクション)を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ155は、制御装置150のメモリを機能的に表したものである。仰角取得部151は、第1仰角取得部及び第2仰角取得部の一例である。距離推定部153、第1距離推定部及び第2距離推定部の一例である。
【0037】
仰角取得部151、座標取得部152、距離推定部153、及び制御部154の処理の詳細については、主に図8を用いて後述する。
【0038】
<送電信号位相分布の比較(比較用の説明)>
ここで、図4A図4Bを用いて、遠距離送電と近距離送電で各アンテナ素子から受電アンテナに向けて電波を放射する場合の位相分布を示す図である。ここでは、図2に示す複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110及び受電アンテナ51と同様に、複数のアンテナ素子を有する比較用のアレイアンテナと、比較用の受電アンテナとが対向する場合における、遠距離送電と近距離送電での送電(通信)の違いについて説明する。図4A及び図4Bと、以下で示す式(1)~(6)を用いた説明は、比較用のアレイアンテナと、比較用の受電アンテナとについての説明であり、実施形態には含まれない。
【0039】
図4Aは、遠距離送電を想定した各アンテナ素子から同一方向へ電波を放射する場合の二次元的な位相分布を示す図である。遠距離送電とは、受電アンテナまでの距離が波長に対して十分長く、各アンテナ素子から見た受電アンテナの方向が同一とみなせる場合の送電である。受電アンテナがアレイアンテナの各アンテナ素子の正面方向に位置するため、アンテナ素子間の位相差はゼロとなる。このため、遠距離送電を想定した各アンテナ素子から同一方向へ電波を放射する場合の位相は、同一位相となる。
【0040】
図4Bは、近距離送電を想定した各アンテナ素子から同一方向へ電波を放射する場合の二次元的な位相分布を示す図である。近距離送電とは、各アンテナ素子から受電アンテナまでの経路差がアンテナ素子位置に対して線形に変化しないほど大きく、各アンテナ素子から送電する送電信号の位相を調節する必要がある場合の送電である。受電アンテナがアンテナアレイの中心位置と対向している場合、中心のアンテナ素子に比較して周辺のアンテナ素子から受電アンテナまでの距離が長くなるため、位相調節量が変化していることが分かる。
【0041】
近距離送電では、図4Bに示すように、各アンテナ素子が出力する電波の位相を適切に調節することによって、受電アンテナの位置において、すべてのアンテナ素子から到達する電波の位相が等しくなり、受電アンテナの受電電力が最大化される。
【0042】
アレイアンテナが超多素子フェイズドアレイである場合には、各アンテナ素子から受電アンテナまでの経路差を推定して、各アンテナ素子で電波の位相を調節する位相調節量を設定するには、各アンテナ素子単体からのテスト信号送信、受電アンテナ側での位相測定、位相測定値の送電側への帰還が必要となるため、このような直接的な方法では計算量が膨大となり実現は困難となる。また、アンテナ素子単体からの送電信号は微弱であるため測定精度も十分ではないという問題も生じる。具体的には、次のようにして各アンテナ素子で電波の位相を調節する位相調節量を求めることになる。
【0043】
ここで、超多素子フェイズドアレイが、X方向×Y方向に(2N+1)個×(2N+1)個のアレイアンテナを有する場合に、各アンテナ素子のインデックスを(i,i)とし、その座標点の(X,Y,Z)座標を(di,di,0)とする。アレイアンテナの中心座標は(0,0,0)である。アンテナ素子のインデックス(整数)の範囲は、-N≦i≦N、-N≦i≦Nとなる。Nは1以上の整数である。また、受電アンテナの位置する座標を(T,T,T)とすると、各アンテナ素子から受電アンテナまでの距離は、次式(1)で表される。
【0044】
【数1】
【0045】
アレイアンテナの中心から受電アンテナまでの距離をリファレンス距離Rrefとすると、リファレンス距離Rrefは、次式(2)で表される。
【0046】
【数2】
【0047】
リファレンス距離Rrefに対する経路差長τiXiYは、次式(3)で表される。
【0048】
【数3】
【0049】
経路差長τiXiYを波長λで正規化した正規化経路差長ηiXiYは、次式(4)のようになる。
【0050】
【数4】
【0051】
各アンテナ素子から受電アンテナまでの間では、正規化経路差長ηiXiYに応じた(2π以上の回転を含む)位相変位が得られるので、この位相変位をキャンセルするようにアンテナ素子が出力する電波に位相調節量を与える。アンテナ素子での位相調節量を複素数表示すると、次式(5)で表される。
【0052】
【数5】
【0053】
この複素数の位相ω(i,i)は、次式(6)で表される。
【0054】
【数6】
【0055】
複素数の位相ω(i,i)の範囲は[-π,π]で表される。
【0056】
このような複素数の位相ω(i,i)を超多素子フェイズドアレイとしてのアレイアンテナの各アンテナ素子について求めるのは、計算量が膨大となり実現は困難となる。
【0057】
そこで、実施形態では、受電電力が大きくなるように、受電アンテナの位置に応じてアレイアンテナ110の複数のアンテナ素子111における送電信号の位相調節量を容易に計算可能なアンテナ装置100A、給電装置100、及び給電方法を提供する。以下で詳細について説明する。
【0058】
説明を簡単にするために、X軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子を考える。図5は、X軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110と、受電アンテナ51との位置関係の一例をXZ座標に示す図である。
【0059】
アンテナ素子111のインデックスをiとし、(X,Z)座標を(diX,diZ)とする。diZ=0である。アレイアンテナ110の中心座標は(0,0)である。アンテナ素子111のインデックスi(整数)の範囲は、-N≦i≦Nである。また、受電アンテナ51の(X,Z)座標を(T,T)とする。
【0060】
各アンテナ素子111から受電アンテナ51までの距離RiXは、次式(7)で表される。
【0061】
【数7】
【0062】
アレイアンテナ110の中心から受電アンテナ51までの距離をリファレンス距離Rrefとすると、リファレンス距離Rrefは、次式(8)で表される。
【0063】
【数8】
【0064】
リファレンス距離Rrefに対する経路差長τiXは、次式(9)で表される。
【0065】
【数9】
【0066】
距離RiXとリファレンス距離Rrefをそれぞれ変形すると、次式(10)及び次式(11)が得られる。
【0067】
【数10】
【0068】
【数11】
【0069】
ここで、次式(12)で表されるテーラー展開公式に、式(10)及び式(11)を当て嵌めると、次式(13)及び次式(14)が得られる。
【0070】
【数12】
【0071】
【数13】
【0072】
【数14】
【0073】
式(13)及び式(14)において、2番目の項まで考慮すると、経路差長τiXは、次式(15)で表すことができる。
【0074】
【数15】
【0075】
このように、X軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子111について経路差長τiXを2次関数で表すことができる。したがって、アンテナ素子111のインデックスiに関して、経路差長τiXを波長で正規化した正規化経路差長θiXも2次関数で表すことができる。X軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子111のうちの中心のアンテナ素子111のインデックスiは、0である。X軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子111のうちの中心のアンテナ素子111から受電アンテナ51までの距離は、リファレンス距離Rrefとなるため、インデックスiが0であるアンテナ素子111についての正規化経路差長θ(0)は0である。インデックスiが0であるアンテナ素子111についての正規化経路差長θ(0)に相当する位相は、第1基準位相の一例である。
【0076】
図6は、X軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子111についての正規化経路差長θiXの設定の仕方の一例を説明する図である。図6に示すように、インデックスiが-NとNの両端のアンテナ素子111と、インデックスiが0の中心のアンテナ素子111との3点を用いれば、二次関数の放物線補間でX軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子111の正規化経路差長θiXを設定することができる。3点のアンテナ素子111のインデックスiを(i,i,i)とし、それぞれの正規化経路差長(θis,θim,θie)から、残りのアンテナ素子111に対する正規化経路差長θX(i)を二次関数の放物線補間によって次式(16)のように推定する。
【0077】
【数16】
【0078】
ここで、係数c(i),c(i),及びc(i)は、次式(17)で与えられる。
【0079】
【数17】
【0080】
具体的には、i=-N、i=0、及びi=Nと設定する。リファレンス距離の位置にあるi=0のアンテナ素子111については、正規化経路差長θ(0)が常に0になる。このため、両端の2つのアンテナ素子111について、ビジョンセンシングによって、適切な正規化経路差長を求めて設定する。
【0081】
アレイアンテナ110のX方向及びY方向の対称性から、上述の式(7)~式(17)についての考え方は、Y軸に沿って一次元的に配置される(2N+1)個のアンテナ素子111についても同様である。
【0082】
そして、X方向とY方向の正規化経路差長の和を取ることによって得られる二次元配置のアレイアンテナ110用の正規化経路差長θ(i,i)を次式(18)のように設定する。
【0083】
【数18】
【0084】
さらに、正規化経路差長θ(i,i)を次式(19)で位相調節量wi,iに変換して、二次元的に配置される(2N+1)個×(2N+1)個のアンテナ素子111の各々に接続されるフェーズシフタ120で位相調節量wi,iで電波の位相を調節して、送電信号を送電する。
【0085】
【数19】
【0086】
図7A及び図7Bは、アレイアンテナ110及び受電装置50の位置関係の一例を示す図である。図7A及び図7Bでは、X方向において、アレイアンテナ110の位置が受電装置50に対してずれている。図7A及び図7Bに示すアレイアンテナ110及び受電装置50の位置関係は同一である。ここでは、図7A及び図7Bにおける左右方向の位置関係を用いて説明する。また、ここでは、上下方向の位置関係を用いて説明する。上方向は+Y方向であり、下方向は-Y方向である。
【0087】
アレイアンテナ110の左端、右端、上端、及び下端と、位置マーカ52の左端、右端、上端、及び下端との位置関係について説明する。以下では、アレイアンテナ110の左端点、右端点、上端点、及び下端点と、位置マーカ52の左端点、右端点、上端点、及び下端点とを用いる。アレイアンテナ110の左端点及び右端点のY座標は、アレイアンテナ110の中心のY座標と等しい。また、アレイアンテナ110の上端点及び下端点のX座標は、アレイアンテナ110の中心のX座標と等しい。同様に、位置マーカ52の左端点及び右端点のY座標は、位置マーカ52の中心のY座標と等しい。また、位置マーカ52の上端点及び下端点のX座標は、位置マーカ52の中心のX座標と等しい。
【0088】
アレイアンテナ110の左端点からターゲットである位置マーカ52の中心に位置する受電アンテナ51までの距離R(-N)と、魚眼レンズ141から位置マーカ52の右端点までの距離Rとは同一であり、また、アレイアンテナ110の右端点からターゲットである位置マーカ52の中心に位置する受電アンテナ51までの距離R(N)と、魚眼レンズ141から位置マーカ52の左端点までの距離Rとは同一である。
【0089】
カメラ140で直接的に算出(推定)可能な距離は、魚眼レンズ141から位置マーカ52の右端点までの距離Rと、魚眼レンズ141から位置マーカ52の左端点までの距離Rとである。上述の関係を用いると、アレイアンテナ110の左端点からターゲットである位置マーカ52の中心に位置する受電アンテナ51までの距離R(-N)と、アレイアンテナ110の右端点からターゲットである位置マーカ52の中心に位置する受電アンテナ51までの距離R(N)とを推定することができる。
【0090】
同様に、アレイアンテナ110の上端点から位置マーカ52の中心に位置する受電アンテナ51までの距離と、魚眼レンズ141から位置マーカ52の下端点までの距離とは同一であり、また、アレイアンテナ110の下端点からターゲットである位置マーカ52の中心に位置する受電アンテナ51までの距離と、魚眼レンズ141から位置マーカ52の上端点までの距離とは同一である。
【0091】
カメラ140で直接的に算出(推定)可能な距離は、魚眼レンズ141から位置マーカ52の下端点までの距離と、魚眼レンズ141から位置マーカ52の上端点までの距離とである。上述の関係を用いると、アレイアンテナ110の上端点からターゲットである位置マーカ52の中心に位置する受電アンテナ51までの距離と、アレイアンテナ110の下端点からターゲットである位置マーカ52の中心に位置する受電アンテナ51までの距離とを推定することができる。
【0092】
アレイアンテナ110と、位置マーカ52とは、平面視でのサイズが等しいため、アレイアンテナ110と、位置マーカ52との位置が、X方向、Y方向、又はZ方向のいずれの方向にずれても、上述した距離同士が同一である関係は保たれる。
【0093】
図8は、アレイアンテナ110の極座標系を示す図である。図8には、アレイアンテナ110に含まれるアンテナ素子111と、アレイアンテナ110から出力されるビーム115とを示す。また、図8には、これらに加えて、位置マーカ52を示し、これら以外の構成要素を省略する。また、図8には、XY平面に平行な平面1上における極座標系を示す。平面1は、カメラ本体142によって取得された画像データのxy平面であり、カメラ本体142から出力されるピクセルインデックスについて用いられるxy平面と等しい。x軸、y軸は、それぞれ、XYZ座標のX軸、Y軸に平行であり、向きも等しい。
【0094】
位置マーカ52の中心Cの座標は、(T,T,T)であり、受電アンテナ51の中心の座標と等しい。位置マーカ52の中心Cの座標(T,T,T)は、一例として、Z軸よりも+X方向側かつ+Y方向側にずれている。図8には、位置マーカ52の左端点52L、右端点52R、上端点52T、及び下端点52Bを示す。
【0095】
また、上端点52Tの極座標は、仰角θ、偏角φであり、下端点52Bの極座標は、仰角θ、偏角φであり、中心Cの極座標は、仰角θ、偏角φである。図8では、左端点52L及び右端点52Rの極座標(仰角θ及びθ、偏角φ及びφ)を省略する。
【0096】
また、左端点52L、右端点52R、上端点52T、下端点52B、中心Cを平面1にそれぞれ投影した点をP3、P3、P3、P3、P3とする。点P3、P3、P3、P3、P3の平面1におけるxy座標は、それぞれ、(x,y)、(x,y)、(x,y)、(x,y)、(x,y)である。また、点P3、P3、P3、P3、P3の動径は、それぞれ、r、r、r、r、rである。
【0097】
中心Cの動径rは、魚眼レンズ141の焦点距離fと、中心Cの仰角θとを用いると、r=fθで表される。同様に、左端点52L、右端点52R、上端点52T、下端点52Bの動径r、r、r、rは、r=fθ、r=fθ、r=fθ、r=fθで表される。
【0098】
また、中心Cのxy座標(x,y)は、動径rと、偏角φとを用いると、x=rcosφ、y=rsinφである。左端点52L、右端点52R、上端点52T、下端点52Bのxy座標も、動径及び偏角で同様に表すことができる。
【0099】
3次元空間上の位置マーカ52の中心座標は、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)と等しいこととする。3次元空間上の位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を球面座標(仰角θ,方位角φ)に変換すると、次式(20)のように表される。
【0100】
【数20】
【0101】
魚眼レンズ141を通したカメラ140の画像データのxy平面に、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を射影した座標(x,y)は、焦点距離fの等距離射影により、次式(21)で表される。位置マーカ52の中心座標(T,T,T)は、位置マーカ52の画像の重心点座標である。
【0102】
【数21】
【0103】
動径rはxcとycの二乗和の平方根で表されるため、位置マーカ52の射影座標(x,y)を表す仰角θは、次式(22)で表される。すなわち、仰角θは極座標変換により焦点距離fと射影座標から表すことができる。
【0104】
【数22】
【0105】
XYZ座標の原点から位置マーカ52の中心座標(T,T,T)への直線をXZ平面へ射影した線の投影仰角(水平角)θは、式(22)においてy=0とすると、次式(23)で表される。このように、投影仰角θは簡易に求められる。
【0106】
【数23】
【0107】
ここで、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)のうちのZ座標Tを推定する。位置マーカ52のY方向(高さ方向)の長さをTとすると、位置マーカ52の上端点52TのY座標はT+T/2となるため、式(20)に示す方位角φを利用すると、位置マーカ52の上端点52Tの方位角φは、次式(24)で表すことができる。
【0108】
【数24】
【0109】
同様に、位置マーカ52の下端点52BのY座標はT-T/2となるため、式(20)に示す方位角φを利用すると、位置マーカ52の下端点52Bの方位角φは、次式(25)で表すことができる。
【0110】
【数25】
【0111】
位置マーカ52のY方向(高さ方向)の長さTは、式(24)及び式(25)から、次式(26)で表される。
【0112】
【数26】
【0113】
式(26)を整理すると、位置マーカ52の中心のX座標Tは、次式(27)で表される。
【0114】
【数27】
【0115】
したがって、位置マーカ52の中心のZ座標Tは、次式(28)で表される。このように、式(28)を用いて、画像に基づいて位置マーカ52の中心のZ座標Tを推定することができる。位置マーカ52の中心のZ座標Tは、式(28)のxについてゼロを避けて計算する。なお、投影仰角θは式(23)から求めることができる。
【0116】
【数28】
【0117】
式(20)から、次式(29)の関係を導き出すことができる。
【0118】
【数29】
【0119】
式(29)の両辺を2乗して、両辺にT を加算すると、次式(30)が得られる。
【0120】
【数30】
【0121】
式(30)の両辺の平方根を取ると、リファレンス距離Rrefが得られ、次式(31)で表される。
【0122】
【数31】
【0123】
同様に、位置マーカ52の左端点52Lの座標は(T-T/2,T,T)となる。カメラ140の画像データのxy平面上における位置マーカ52の左端点P3に対応する点P3の座標(x,y)から、位置マーカ52の左端点52Lの仰角θを求めると、位置マーカ52の左端点52Lの経路長である長さRは、次式(32)で表される。
【0124】
【数32】
【0125】
経路長Rとリファレンス距離Rrefの経路長差τLは、次式(33)で表される。
【0126】
【数33】
【0127】
経路長差τLを波長λで除算して得る正規化経路差長ηLは、次式(34)で表される。
【0128】
【数34】
【0129】
ここで、位置マーカ52の射影座標(x,y)を表す仰角θは、式(22)から求めることができる。また、左端点52Lの仰角θは、画像データのxy平面における点P3Lの座標(x,y)から極座標変換により次式(35)で表される。
【0130】
【数35】
【0131】
同様にして、カメラ140の画像データのxy平面上における位置マーカ52の右端点52R、上端点52T、下端点52Bに対応する画像データのxy平面における点P3、P3、P3の座標(x,y)、(x,y)、(x,y)から極座標変換により、位置マーカ52の右端点52R、上端点52T、及び下端点52Bの仰角θ,θ,及びθを求めると、次式(36)~(38)で表される正規化経路差長を算出することができる。
【0132】
【数36】
【0133】
【数37】
【0134】
【数38】
【0135】
したがって、左端点52L及び右端点52Rの正規化経路差長η及びηと、X方向における中心に位置するアンテナ素子111についての正規化経路差長(η=0)とを用いて、左右方向(X方向)におけるすべてのアンテナ素子111に接続されるフェーズシフタ120に二次元的な位相調節量を設定すればよい。
【0136】
また、上端点52T及び下端点52Bの正規化経路差長η及びηと、Y方向における中心に位置するアンテナ素子111についての正規化経路差長(η=0)とを用いて、上下方向(Y方向)におけるすべてのアンテナ素子111に接続されるフェーズシフタ120に二次元的な位相調節量を設定すればよい。
【0137】
より具体的には、左端点52L及び右端点52Rの正規化経路差長η及びηと、X方向における中心に位置するアンテナ素子111についての正規化経路差長(η=0)とを用いて、左右方向(X方向)におけるすべてのアンテナ素子111についての正規化経路差長θX(i)を二次関数の放物線補間で求める。
【0138】
同様に、上端点52T及び下端点52Bの正規化経路差長η及びηと、Y方向における中心に位置するアンテナ素子111についての正規化経路差長(η=0)とを用いて、上下方向(Y方向)におけるすべてのアンテナ素子111についての正規化経路差長θY(i)を二次関数の放物線補間で求める。
【0139】
以上のように図8を用いて説明した処理をまとめると、以下の通りである。
【0140】
<仰角取得部151の処理のまとめ>
仰角取得部151は、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を射影した射影座標(x,y)と魚眼レンズ141の焦点距離fとに基づいて、位置マーカ52のマーカ中心点のZ軸に対する第1仰角θ及び第1仰角θをX軸及びZ軸を含む平面に投影した投影仰角θを取得する。
【0141】
また、仰角取得部151は、画像における位置マーカ52のX軸方向における第1両端点52L、52Rの射影座標と、画像における位置マーカ52のY軸方向における第2両端点52T、52Bの射影座標と、魚眼レンズ141の焦点距離fとに基づいて、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52BのZ軸に対する第2仰角θ、θ、θ、θを求める。
【0142】
<座標取得部152の処理のまとめ>
座標取得部152は、投影仰角θと、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を射影した射影座標(x,y)と、第2両端点52T、52Bの射影座標のいずれか一方と、第2両端点52T、52Bを結ぶ方向における位置マーカ52の長さTとに基づき、位置マーカ52のZ軸の座標Tを求める。
【0143】
<距離推定部153の処理のまとめ>
距離推定部153は、第1仰角θと、位置マーカ52のZ軸の座標Tとに基づき、マーカ中心点と魚眼レンズ141との間の第1距離Rrefを求める。また、距離推定部153は、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52BのZ軸に対する第2仰角θ、θ、θ、θと、位置マーカ52のZ軸の座標Tとに基づいて、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52Bと、魚眼レンズ141との間の第2距離R、R、R、Rを求める。
【0144】
<制御部154の処理のまとめ>
制御部154は、第1距離Rrefと、第2距離R、R、R、Rとの経路差に基づいて、X軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111と、Y軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111との位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で二次元的に配置される複数のアンテナ素子111の位相調節量を設定する。
【0145】
また、制御部154は、X軸方向における両端の中心点におけるアンテナ素子111の位相調節量を第1基準位相に設定するとともに、X軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第1両端点52L、52Rについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定する。また、制御部154は、Y軸方向における両端の中心点におけるアンテナ素子111の位相調節量を第2基準位相に設定するとともに、Y軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第2両端点52T、52Bについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定する。
【0146】
より具体的には、制御部154は、X軸方向における両端の中心点におけるアンテナ素子111の位相調節量を第1基準位相に設定するとともに、X軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第1両端点52L、52Rについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定した状態で、X軸方向において、二次関数の放物線補間で複数のアンテナ素子111の位相調節量を設定する。また、制御部154は、Y軸方向における両端の中心点におけるアンテナ素子111の位相調節量を第2基準位相に設定するとともに、Y軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第2両端点52T、52Bについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定した状態で、Y軸方向において、二次関数の放物線補間で複数のアンテナ素子111の位相調節量を設定する。
【0147】
<正規化経路差長の分布の一例>
図9A及び図9Bは、X方向及びY方向において算出した正規化経路差長の分布の一例を示す図である。
【0148】
図9Aは、X方向における両端に位置するアンテナ素子111について、正規化経路差長θ(-N)=(η)、θ(N)=(η)を設定して、二次関数の放物線補間を行うことで、X方向における-N+1番目から-1番目、及び、1番目~N-1番目までに位置するアンテナ素子111についての正規化経路差長を算出した場合の正規化経路差長の分布の一例を示す図である。
【0149】
図9Bは、Y方向における両端に位置するアンテナ素子111について、正規化経路差長θ(-N)=(η)、θ(N)=(η)を設定して、二次関数の放物線補間を行うことで、Y方向における-N+1番目から-1番目、及び、1番目~N-1番目までに位置するアンテナ素子111についての正規化経路差長を算出した場合の正規化経路差長の分布の一例を示す図である。
【0150】
そして、式(18)に従って、X方向とY方向の正規化経路差長の和を取ることによって得られる二次元配置のアレイアンテナ110用の正規化経路差長θ(i,i)を設定する。さらに、正規化経路差長θ(i,i)を式(19)に従って位相調節量wi,iに変換して、二次元的に配置される(2N+1)個×(2N+1)個のアンテナ素子111の各々に接続されるフェーズシフタ120で位相調節量wi,iで電波の位相を調節して、送電信号を送電すればよい。
【0151】
このようにすれば、位置マーカ52の位置に応じて、受電アンテナ51での受電電力が大きくなる状態で、アレイアンテナ110から送電信号のビーム115を送電することができる。
【0152】
<シミュレーション結果>
図10A及び図10Bを用いて、シミュレーション結果について説明する。ここでは、実施形態の給電装置100と同様に、比較用の給電装置についてシミュレーションを行った。比較用の給電装置は、アレイアンテナ110の各アンテナ素子111における電波の位相調節を行わずに、アレイアンテナ110の中心に対して受電アンテナ51が位置する方向にビームを放射する給電装置である。
【0153】
図10Aは、受電アンテナ51の位置で見た送信アンテナ利得のシミュレーション結果の一例を示す図である。図10Aにおいて、横軸は対向距離(m)を表し、縦軸は、受電アンテナ51の位置で見た送信アンテナ利得(dBi)を表す。
【0154】
対向距離が2m以上離れている状態では、実施形態の給電装置100と比較用の給電装置とについての送信アンテナ利得の差は1dB未満であるが、対向距離が約1m未満になると、比較用の給電装置についての送信アンテナ利得は急激に低下する。これに対して、実施形態の給電装置100についての送信アンテナ利得は、対向距離が0.3mまで短くなっても、殆ど低下せずに一定であった。
【0155】
図10Bは、受電アンテナ51の受電電力のシミュレーション結果の一例を示す図である。図10Bにおいて、横軸は対向距離(m)を表し、縦軸は、受電アンテナ利得が15dBiの受電アンテナ51を用いた場合の受電電力(dBm)を表す。
【0156】
対向距離が2m以上離れている状態では、実施形態の給電装置100と比較用の給電装置とについての受電電力の差は1dB未満であるが、対向距離が約1m未満になると、比較用の給電装置の受電電力の増加率は低下する。これに対して、実施形態の給電装置100についての受電電力は、対向距離が短くなるにつれて受電の距離減衰が低下する為、増加率が増大する傾向であった。
【0157】
以上のように、実施形態の給電装置100は、X方向及びY方向におけるアレイアンテナ110の両端の正規化経路差長に基づく二次関数の放物線補間を行うことで、すべてのアンテナ素子111における電波の位相調節量を最適化でき、受電アンテナ51における受電電力を最大化できる。
【0158】
<効果>
アンテナ装置100Aは、アレイアンテナ110と、フェーズシフタ120と、カメラ140と、仰角取得部151(第1仰角取得部及び第2仰角取得部の一例)と、座標取得部152と、距離推定部153(第1距離推定部及び第2距離推定部の一例)と、制御部154とを含む。アレイアンテナ110は、X軸及びY軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110であって、アレイアンテナ110と平面視で同一サイズを有しアレイアンテナ110に対向して配置される位置マーカ52の中心に配置された受電アンテナ51に向けて送電信号を送電する。フェーズシフタ120は、複数のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相をX軸方向及びY軸方向において調節する。カメラ140は、位置マーカ52に対向して配置される魚眼レンズ141を通じて位置マーカ52の画像を取得する。仰角取得部151は、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を射影した射影座標(x,y)と魚眼レンズ141の焦点距離fとに基づいて、位置マーカ52のマーカ中心点のZ軸に対する第1仰角θ及び第1仰角θをX軸及びZ軸を含む平面に投影した投影仰角θを取得する。また、仰角取得部151は、画像における位置マーカ52のX軸方向における第1両端点52L、52Rの射影座標と、画像における位置マーカ52のY軸方向における第2両端点52T、52Bの射影座標と、魚眼レンズ141の焦点距離fとに基づいて、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52BのZ軸に対する第2仰角θ、θ、θ、θを求める。座標取得部152は、投影仰角θと、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を射影した射影座標(x,y)と、第2両端点52T、52Bの射影座標のいずれか一方と、第2両端点52T、52Bを結ぶ方向における位置マーカ52の長さTとに基づき、位置マーカ52のZ軸の座標Tを求める。距離推定部153は、第1仰角θと、位置マーカ52のZ軸の座標Tとに基づき、マーカ中心点と魚眼レンズ141との間の第1距離Rrefを求める。また、距離推定部153は、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52BのZ軸に対する第2仰角θ、θ、θ、θと、位置マーカ52のZ軸の座標Tとに基づいて、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52Bと、魚眼レンズ141との間の第2距離R、R、R、Rを求める。制御部154は、フェーズシフタ120が送電信号の位相をX軸方向及びY軸方向において調節する位相調節量を制御する。制御部154は、第1距離Rrefと、第2距離R、R、R、Rとの経路差に基づいて、X軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111と、Y軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111との位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で二次元的に配置される複数のアンテナ素子111の位相調節量を設定する。
【0159】
このため、アレイアンテナ110と平面視で同一サイズの位置マーカ52の画像を利用して、第1距離Rrefと、第2距離R、R、R、Rとの経路差を求めることができる。また、経路差に基づいて、X軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111と、Y軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111との位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で二次元的に配置される複数のアンテナ素子111の位相調節量を設定することができる。
【0160】
したがって、受電電力が大きくなるように、受電アンテナ51の位置に応じてアレイアンテナ110の複数のアンテナ素子111における送電信号の位相調節量を容易に計算可能なアンテナ装置100Aを提供することができる。
【0161】
また、制御部154は、X軸方向における両端の中心点におけるアンテナ素子111の位相調節量を第1基準位相に設定するとともに、X軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第1両端点52L、52Rについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定し、Y軸方向における両端の中心点におけるアンテナ素子111の位相調節量を第2基準位相に設定するとともに、Y軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第2両端点52T、52Bについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定する。
【0162】
このため、X軸方向における中心点のアンテナ素子111の位相調節量を第1基準位相に設定するとともに、X軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第1両端点52L、52Rについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定し、Y軸方向における中心点のアンテナ素子111の位相調節量を第2基準位相に設定するとともに、Y軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第2両端点52T、52Bについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定することで、第1距離Rrefと、第2距離R、R、R、Rとの経路差に応じた位相調節量を設定することができる。第1距離Rrefと、第2距離R、Rとの経路差に応じた位相調節量を、X軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量に設定するとともに、第1距離Rrefと、第2距離R、Rとの経路差に応じた位相調節量を、Y軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量に設定するとともに、X軸方向及びY軸方向における中心点のアンテナ素子111の位相調節量を第1基準位相及び第2基準位相に設定することで、より確実に受電電力が大きくなるように、受電アンテナ51の位置に応じてアレイアンテナ110の複数のアンテナ素子111における送電信号の位相調節量を容易に計算可能なアンテナ装置100Aを提供することができる。
【0163】
制御部154は、X軸方向における両端の中心点におけるアンテナ素子111の位相調節量を第1基準位相に設定するとともに、X軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第1両端点52L、52Rについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定した状態で、X軸方向において、二次関数の放物線補間で複数のアンテナ素子111の位相調節量を設定する。また、制御部154は、Y軸方向における両端の中心点におけるアンテナ素子111の位相調節量を第2基準位相に設定するとともに、Y軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量を、第2両端点52T、52Bについての第2距離と第1距離との経路差に応じた位相調節量に設定した状態で、Y軸方向において、二次関数の放物線補間で複数のアンテナ素子111の位相調節量を設定する。第1距離Rrefと、第2距離R、Rとの経路差に応じた位相調節量を、X軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量に設定するとともに、X軸方向における中心点のアンテナ素子111の位相調節量を第1基準位相に設定した状態で、X軸方向において、二次関数の放物線補間で複数のアンテナ素子111の位相調節量を受電電力が大きくなるように最適化された位相調節量に設定することができる。第1距離Rrefと、第2距離R、Rとの経路差に応じた位相調節量を、Y軸方向における両端のアンテナ素子111の位相調節量に設定するとともに、X軸方向及びY軸方向における中心点のアンテナ素子111の位相調節量を第1基準位相及び第2基準位相に設定した状態で、Y軸方向において、二次関数の放物線補間で複数のアンテナ素子111の位相調節量を受電電力が大きくなるように最適化された位相調節量に設定することができる。
【0164】
また、第1基準位相及び第2基準位相は、ゼロであるので、二次関数の放物線補間による計算がさらに容易になり、各アンテナ素子111に供給される送電信号の位相調節量をより容易に求めることができ、受電アンテナ51における受電電力を増大させることができる。
【0165】
また、二次元的に配置される複数のアンテナ素子111は、X軸及びY軸の各々に沿って奇数個配置されている。このため、X方向及びY方向において、中心に位置するアンテナ素子111に対する対称性を利用して、二次関数の放物線補間による計算がより容易になり、各アンテナ素子111に供給される送電信号の位相調節量をより容易に求めることができ、受電アンテナ51における受電電力を増大させることができる。
【0166】
また、二次関数の放物線補間は、二次関数の内挿補間であるので、両端のアンテナ素子111の間に位置するアンテナ素子111に供給される送電信号の位相調節量を内挿補間で容易に求めることができ、受電アンテナ51における受電電力を増大させることができる。
【0167】
給電装置100は、アレイアンテナ110と、マイクロ波発生源130と、フェーズシフタ120と、カメラ140と、仰角取得部151(第1仰角取得部及び第2仰角取得部の一例)と、座標取得部152と、距離推定部153(第1距離推定部及び第2距離推定部の一例)と、制御部154とを含む。アレイアンテナ110は、X軸及びY軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110であって、アレイアンテナ110と平面視で同一サイズを有しアレイアンテナ110に対向して配置される位置マーカ52の中心に配置された受電アンテナ51に向けて送電信号を送電する。フェーズシフタ120は、アレイアンテナ110とマイクロ波発生源130との間に設けられ、マイクロ波発生源130から複数のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相をX軸方向及びY軸方向において調節する。カメラ140は、位置マーカ52に対向して配置される魚眼レンズ141を通じて位置マーカ52の画像を取得する。仰角取得部151は、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を射影した射影座標(x,y)と魚眼レンズ141の焦点距離fとに基づいて、位置マーカ52のマーカ中心点のZ軸に対する第1仰角θ及び第1仰角θをX軸及びZ軸を含む平面に投影した投影仰角θを取得する。また、仰角取得部151は、位置マーカ52の画像における位置マーカ52のX軸方向における第1両端点52L、52Rの座標と、位置マーカ52の画像における位置マーカ52のY軸方向における第2両端点52T、52Bの座標と、魚眼レンズ141の焦点距離とに基づいて、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52BのZ軸に対する第2仰角θ、θ、θ、θを求める。座標取得部152は、投影仰角θと、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を射影した射影座標(x,y)と、第2両端点52T、52Bの射影座標のいずれか一方と、第2両端点52T、52Bを結ぶ方向における位置マーカ52の長さTとに基づき、位置マーカ52のZ軸の座標Tを求める。距離推定部153は、第1仰角θと、位置マーカ52のZ軸の座標Tとに基づき、マーカ中心点と魚眼レンズ141との間の第1距離Rrefを求める。また、距離推定部153は、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52BのZ軸に対する第2仰角θ、θ、θ、θと、位置マーカ52のZ軸の座標Tとに基づいて、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52Bと、魚眼レンズ141との間の第2距離R、R、R、Rを求める。制御部154は、第1距離Rrefと、第2距離R、R、R、Rとの経路差に基づいて、X軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111と、Y軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111との位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で二次元的に配置される複数のアンテナ素子111の位相調節量を設定する。
【0168】
したがって、受電電力が大きくなるように、受電アンテナ51の位置に応じてアレイアンテナ110の複数のアンテナ素子111における送電信号の位相調節量を容易に計算可能な給電装置100を提供することができる。
【0169】
給電方法で用いる給電装置100は、アレイアンテナ110と、マイクロ波発生源130と、フェーズシフタ120と、カメラ140と、仰角取得部151(第1仰角取得部及び第2仰角取得部の一例)と、座標取得部152と、距離推定部153(第1距離推定部及び第2距離推定部の一例)と、制御部154とを含む。アレイアンテナ110は、X軸及びY軸に沿って二次元的に配置される複数のアンテナ素子111を有するアレイアンテナ110であって、アレイアンテナ110と平面視で同一サイズを有しアレイアンテナ110に対向して配置される位置マーカ52の中心に配置された受電アンテナ51に向けて送電信号を送電する。フェーズシフタ120は、アレイアンテナ110とマイクロ波発生源130との間に設けられ、マイクロ波発生源130から複数のアンテナ素子111に供給される送電信号の位相をX軸方向及びY軸方向において調節する。カメラ140は、位置マーカ52に対向して配置される魚眼レンズ141を通じて位置マーカ52の画像を取得する。仰角取得部151は、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を射影した射影座標(x,y)と魚眼レンズ141の焦点距離fとに基づいて、位置マーカ52のマーカ中心点のZ軸に対する第1仰角θ及び第1仰角θをX軸及びZ軸を含む平面に投影した投影仰角θを取得する。また、仰角取得部151は、位置マーカ52の画像における位置マーカ52のX軸方向における第1両端点52L、52Rの座標と、位置マーカ52の画像における位置マーカ52のY軸方向における第2両端点52T、52Bの座標と、魚眼レンズ141の焦点距離とに基づいて、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52BのZ軸に対する第2仰角θ、θ、θ、θを求める。座標取得部152は、投影仰角θと、位置マーカ52の中心座標(T,T,T)を射影した射影座標(x,y)と、第2両端点52T、52Bの射影座標のいずれか一方と、第2両端点52T、52Bを結ぶ方向における位置マーカ52の長さTとに基づき、位置マーカ52のZ軸の座標Tを求める。距離推定部153は、第1仰角θと、位置マーカ52のZ軸の座標Tとに基づき、マーカ中心点と魚眼レンズ141との間の第1距離Rrefを求める。また、距離推定部153は、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52BのZ軸に対する第2仰角θ、θ、θ、θと、位置マーカ52のZ軸の座標Tとに基づいて、第1両端点52L、52R及び第2両端点52T、52Bと、魚眼レンズ141との間の第2距離R、R、R、Rを求める。給電方法は、第1距離Rrefと、第2距離R、R、R、Rとの経路差に基づいて、X軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111と、Y軸方向における両端のアンテナ素子111を含む3つのアンテナ素子111との位相調節量を設定して、二次関数の放物線補間で二次元的に配置される複数のアンテナ素子111の位相調節量を設定する。
【0170】
したがって、受電電力が大きくなるように、受電アンテナ51の位置に応じてアレイアンテナ110の複数のアンテナ素子111における送電信号の位相調節量を容易に計算可能な給電方法を提供することができる。
【0171】
以上、本開示の例示的な実施形態のアンテナ装置、給電装置、及び給電方法について説明したが、本開示は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0172】
50 受電装置
51 受電アンテナ
52 位置マーカ
100A アンテナ装置
100 給電装置
110 アレイアンテナ
111 アンテナ素子
120 フェーズシフタ
130 マイクロ波発生源
140 カメラ
141 魚眼レンズ
142 カメラ本体
150 制御装置
150A メモリ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B