(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036125
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】モータ制御装置、及びモータ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 20/15 20160101AFI20240308BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240308BHJP
B60K 6/26 20071001ALI20240308BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240308BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20240308BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240308BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240308BHJP
【FI】
B60W20/15
B60K6/46 ZHV
B60K6/26
B60W10/08 900
H02P29/00
B60L15/20 J
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140861
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 瞭弥
(72)【発明者】
【氏名】坂本 章
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
5H501
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB05
3D202BB12
3D202CC22
3D202CC42
3D202DD18
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD26
3D202EE02
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125CA02
5H125EE08
5H125EE42
5H125FF01
5H501AA20
5H501BB05
5H501CC04
5H501DD04
5H501EE08
5H501GG03
5H501GG05
5H501GG11
5H501HA08
5H501HA09
5H501HB08
5H501JJ03
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL32
5H501LL35
5H501LL52
(57)【要約】
【課題】制御ゲインの切り替えに伴う回転数の挙動の悪化を抑制可能なモータ制御装置等の提供。
【解決手段】MG-ECUは、エンジンと接続されるモータジェネレータを制御するモータ制御装置として機能する。MG-ECUは、モータジェネレータの回転数を検出した回転数検出値を用いて、回転数が指令値に近づくようにフィードバック制御することで、エンジンのトルク変動に対し逆位相となる制振トルクをモータジェネレータに出力させる。MG-ECUは、フィードバック制御の制御ゲインを、低ゲイン及び高ゲインを含む複数のうちで切り替える。そして、低ゲインから高ゲインへの第1遷移UT、及び高ゲインから低ゲインへの第2遷移DTのうちで、少なくとも第2遷移DTにて、非線形のゲイン遷移が実施される。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(11)と接続される回転電機(12)を制御するモータ制御装置であって、
前記回転電機の回転数を検出した回転数検出値を用いて、前記回転数が指令値に近づくようにフィードバック制御することで、前記エンジンのトルク変動に対し逆位相となる制振トルクを前記回転電機に出力させる制御系(30)と、
前記フィードバック制御の制御ゲインを低ゲイン及び高ゲインを含む複数のうちで切り替え、前記低ゲインから前記高ゲインへの第1遷移(UT)、及び前記高ゲインから前記低ゲインへの第2遷移(DT)のうちで、少なくとも前記第2遷移にて非線形のゲイン遷移を実施するゲイン切替部(70)と、
を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
前記ゲイン切替部は、前記第1遷移及び前記第2遷移のうちで前記第2遷移でのみ非線形のゲイン遷移を実施する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン切替部は、遷移期間での前記制御ゲインの変化を示すゲイン変化線(Lg)において前記遷移期間の前半における傾きよりも前記遷移期間の後半における傾きが大きくなるように前記制御ゲインを遷移させる請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記ゲイン切替部は、前記制御ゲインを線形で遷移させた際に前記フィードバック制御の積分項の超加算によるワインドアップ現象で生じる回転数変動に比して、ワインドアップ現象が抑制されるように、前記制御ゲインを変化させる請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御系は、前記制御ゲインの切り替えに伴うワインドアップ現象の発生に基づき、積分器(42)の動作を変更するアンチワインドアップ制御を適用する請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記制御系は、前記積分器の動作を停止する前記アンチワインドアップ制御を適用する請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記制御系は、前記積分器から出力される積分信号を補正係数により補正する前記アンチワインドアップ制御を適用する請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記制御系は、前記制御ゲインの切り替えに伴うワインドアップ現象の発生に基づき、通常制御器(140a)から異常制御器(140b)への切り替えを適用する請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記制御系は、比例器(41)及び積分器(42)の各前段に接続される微分器(143)を含む請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記制御系は、前記エンジンの出力軸(11c)に直接的に接続される前記回転電機に、前記出力軸に生じる前記トルク変動に対し逆位相となる前記制振トルクを出力させる請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記回転電機は、前記出力軸の前記トルク変動を減衰するダンパ部(DM)を介することなく前記出力軸に接続される請求項10に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
前記回転電機は、前記出力軸の回転を伝達するギヤ部(GR)を介することなく前記出力軸に接続される請求項10に記載のモータ制御装置。
【請求項13】
前記制御系は、車両において発電専用に設けられた前記回転電機に前記制振トルクを出力させる請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項14】
前記制御系は、アウターロータ型の前記回転電機に前記制振トルクを出力させる請求項1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項15】
エンジン(11)と接続される回転電機(12)を制御するモータ制御プログラムであって、
前記回転電機の回転数を検出した回転数検出値を用いて、前記回転数が指令値に近づくようにフィードバック制御することで、前記エンジンのトルク変動に対し逆位相となる制振トルクを前記回転電機に出力させ、
前記フィードバック制御の制御ゲインを、低ゲイン及び高ゲインを含む複数のうちで切り替え(S13,S16)、
前記低ゲインから前記高ゲインへの第1遷移(UT)、及び前記高ゲインから前記低ゲインへの第2遷移(DT)のうちで、少なくとも前記第2遷移にて非線形のゲイン遷移を実施する(S17)、
ことを含む処理を、少なくとも一つの処理部(23)に実行させるモータ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書による開示は、エンジンと接続される回転電機の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハイブリッド車両に搭載され、エンジンと接続されたモータジェネレータ等の回転電機を制御するモータ制御装置が開示されている。このモータ制御装置では、指令値に追従するように、モータジェネレータの回転数制御が実施される。そして、特許文献1では、回転数制御におけるゲインマージンは、所定値に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の発明者らは、回転数制御における制御ゲインを、低ゲイン及び高ゲインを含む複数のうちで切り替えることを想到した。しかし、制御ゲインを切り替える場合、応答性が高ゲインよりも低くなる低ゲインへの切り替えに際し、回転数の挙動が不安定になり易かった。
【0005】
本開示は、制御ゲインの切り替えに伴う回転数の挙動の悪化を抑制可能なモータ制御装置、及びモータ制御プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、開示された一つの態様は、エンジン(11)と接続される回転電機(12)を制御するモータ制御装置であって、回転電機の回転数を検出した回転数検出値を用いて、回転数が指令値に近づくようにフィードバック制御することで、エンジンのトルク変動に対し逆位相となる制振トルクを回転電機に出力させる制御系(30)と、フィードバック制御の制御ゲインを低ゲイン及び高ゲインを含む複数のうちで切り替え、低ゲインから高ゲインへの第1遷移(UT)、及び高ゲインから低ゲインへの第2遷移(DT)のうちで、少なくとも第2遷移にて非線形のゲイン遷移を実施するゲイン切替部(70)と、を備えるモータ制御装置とされる。
【0007】
また開示された一つの態様は、エンジン(11)と接続される回転電機(12)を制御するモータ制御プログラムであって、回転電機の回転数を検出した回転数検出値を用いて、回転数が指令値に近づくようにフィードバック制御することで、エンジンのトルク変動に対し逆位相となる制振トルクを回転電機に出力させ、フィードバック制御の制御ゲインを、低ゲイン及び高ゲインを含む複数のうちで切り替え(S13,S16)、低ゲインから高ゲインへの第1遷移(UT)、及び高ゲインから低ゲインへの第2遷移(DT)のうちで、少なくとも第2遷移にて非線形のゲイン遷移を実施する(S17)、ことを含む処理を、少なくとも一つの処理部(23)に実行させるモータ制御プログラムとされる。
【0008】
これらの態様では、高ゲインから低ゲインへと制御ゲインを切り替える第2遷移において、非線形のゲイン遷移が実施される。これにより、遷移期間から定常期間への接続が滑らかに行われるようになる。その結果、制御ゲインの切り替えに伴う回転数の挙動の悪化が抑制可能となる。
【0009】
尚、上記及び特許請求の範囲における括弧内の参照番号は、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、技術的範囲を何ら制限するものではない。また、特に組み合わせに支障が生じなければ、特許請求の範囲において明示していない請求項同士の組み合せも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の第一実施形態による制御システム及びパワーユニットの全体像を示す図である。
【
図2】モータ制御の内容を等価的に示したブロック図である。
【
図3】速度PI制御器の詳細を示すブロック図である。
【
図4】制御ゲインの切り替えの詳細を説明するための図である。
【
図5】ゲイン切替処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図6】
図4の領域VIの拡大図であって、制御ゲインの切り替えに伴い発生するワインドアップ現象を説明するための図である。
【
図7】第1遷移における制御ゲインの遷移態様を示す図である。
【
図8】第2遷移における制御ゲインの遷移態様を示す図である。
【
図9】非線形ゲイン遷移及びアンチワインドアップ制御の効果を示す図である。
【
図10】第二,第三実施形態の制御ゲインの遷移態様を示す図である。
【
図11】第二実施形態での第2遷移における制御ゲインの遷移態様を示す図である。
【
図12】第三実施形態での第2遷移における制御ゲインの遷移態様を示す図である。
【
図13】第四実施形態の速度PI制御器の詳細を示すブロック図である。
【
図14】第五実施形態の速度PI制御器の詳細を示すブロック図である。
【
図15】第六実施形態の速度PI制御器の詳細を示すブロック図である。
【
図16】変形例1の制御システム及びパワーユニットの全体像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。そして、複数の実施形態及び変形例に記述された構成同士の明示されていない組み合わせも、以下の説明によって開示されているものとする。
【0012】
(第一実施形態)
図1に示す本開示の第一実施形態による制御システム100は、車両に搭載されるパワーユニットに適用される。パワーユニットは、シリーズ方式のハイブリッドシステムであり、走行用の動力を発生させる。パワーユニットは、エンジン11、モータジェネレータ12,14、インバータ13,15、及びバッテリ16等によって構成されている。
【0013】
エンジン11は、燃料を燃焼させて力学的エネルギを取り出す内燃機関である。エンジン11は、モータジェネレータ12と接続されており、発生させた力学的エネルギを、クランク軸11cを通じてモータジェネレータ12に供給する。一例として、エンジン11は、3つのシリンダが直列に並び、各シリンダの燃焼室にてガソリンを順に燃焼させる3気筒のガソリンエンジンである。尚、エンジン11の気筒数、気筒の配列及び排気量等は、適宜変更されてよい。また、軽油を燃焼させるディーゼルエンジン、又はヴァンケル型のロータリーエンジン等が、エンジン11としてパワーユニットに採用されていてもよい。
【0014】
モータジェネレータ12,14は、例えば3相ブラシレスモータである。モータジェネレータ12,14は、コイルを有するステータ、永久磁石を有するロータ、及びロータの回転角度(回転数)を検出する回転角度センサ等によって構成されている。モータジェネレータ12,14は、ステータの外周側にロータが配置されたアウターロータ型の構成である。
【0015】
尚、モータジェネレータ12,14として採用される電動機の態様は、適宜変更されてよい。例えば、モータジェネレータ12,14は、インナーロータ型の回転電機であってもよい。さらに、モータジェネレータ12,14は、永久磁石に替えて界磁巻線をロータに備える巻線界磁型の同期モータであってもよい。また、モータジェネレータ12,14は、上記のような同期モータに限定されず、誘導モータ等であってもよい。さらに、互いに異なる形式の電動機が、モータジェネレータ12,14として採用されてもよい。
【0016】
モータジェネレータ12は、エンジン11から供給される力学的エネルギを電気エネルギに変換する発電用の電動機である。モータジェネレータ12は、発電専用の回転電機として設けられている。モータジェネレータ12は、ロータと一体的に回転する入力軸を有している。入力軸は、走行用の動力を車両のタイヤに伝達する駆動軸19から物理的に切り離されている。これにより、路面等から入力軸への外乱の入力は発生しない。入力軸には、エンジン11のクランク軸11cが直接的に接続されている。即ち、エンジン11とモータジェネレータ12との接続構成は、緩衝機能を有するダンパDMを介在させないダンパレス構成であり、かつ、動力伝達のためのギヤGRを介在させないギヤレス構成である。ダンパDMは、例えばトーショナルスプリングの伸縮によってクランク軸11cのトルク変動を減衰するねじりダンパである。ギヤGRは、例えばクランク軸11cの回転を増速しつつモータジェネレータ12に伝達する増速機である。
【0017】
モータジェネレータ14は、車両を走行させる駆動用の電動機である。モータジェネレータ14は、車両の駆動軸19と直接的又は間接的に接続されている。モータジェネレータ14は、バッテリ16等から供給される電気エネルギを力学的エネルギに変換し、駆動軸19を回転させる。加えて、モータジェネレータ14は、車両が減速する場合、インバータ15と連携し、駆動軸19から入力される力学的エネルギ(車両の運動エネルギ)を電気エネルギに変換する。
【0018】
インバータ13,15は、正極ライン及び負極ライン間に並列に配置されたU相、V相、W相の各アームと、各相のアームに直列接続されたスイッチング素子及び還流ダイオードとを含む3相ブリッジ回路を主体とする駆動回路である。スイッチング素子には、IGBT(Insulated-Gate Bipolar Transistor)又はMOS-FET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等が用いられる。インバータ13,15は、各スイッチング素子のオンオフ動作により、モータジェネレータ12,14の動作を制御する。
【0019】
インバータ13は、モータジェネレータ12と組み合わされ、モータジェネレータ12による発電動作を制御する。インバータ13は、還流回路の形成によってモータジェネレータ12のロータに制動方向のトルクを発生させると共に、ステータのコイルに蓄積されたエネルギをバッテリ16又はインバータ15に直流電力として出力する。バッテリ16への直流電力の供給により、バッテリ16の充電が行われる。一方、インバータ15へ供給される直流電力は、車両の走行に用いられる。
【0020】
インバータ15は、モータジェネレータ14と組み合わされ、モータジェネレータ14による力行及び回生の動作を制御する。インバータ15は、バッテリ16又はインバータ13から供給される直流電力を交流電力に変換し、モータジェネレータ14を駆動する。インバータ15は、交流電力の周波数及び電圧の変更により、モータジェネレータ14の回転速度及びトルクを制御する。
【0021】
バッテリ16は、電気エネルギを蓄積可能なエナジーストアシステムである。バッテリ16は、ニッケル水素2次電池又はリチウムイオン2次電池等の電池セルを多数組み合わせてなる組電池を主体とする構成である。バッテリ16には、キャパシタ等が用いられていてもよい。バッテリ16は、例えば0.5kWh~2kWh程度の蓄電容量を有している。バッテリ16は、インバータ13,15から供給される電力を蓄積すると共に、蓄積された電力をインバータ15に供給する。バッテリ16は、車両外部の充電スタンドから供給される電力を蓄積可能であってもよい。こうした形態では、バッテリ16は、10kWh~20kWh程度の蓄電容量を有していてもよい。
【0022】
制御システム100は、ハイブリッドECU(Electronic Control Unit)21、エンジンECU22、モータジェネレータECU(以下、MG-ECU)23、及びバッテリECU等によって構成されている。各ECU21~23は、相互に通信可能に接続されている。各ECU21~23は、プロセッサ及びRAMを少なくとも含むコントローラを主体とする構成であり、車載された演算装置(コンピュータ)として機能する。各ECU21~23は、コントローラに加えて、プログラムを記憶する記憶部、及び種々の入出力インターフェースを有している。
【0023】
ハイブリッドECU21は、エンジンECU22及びMG-ECU23と連携し、パワーユニットを統合的に制御する。ハイブリッドECU21は、パワートレインの制御に用いる種々の信号(情報)を取得する。例えば、エンジン11の回転数を検出する信号、モータジェネレータ12,14の回転数を検出する回転角度センサの信号、アクセル開度を示す信号、及びバッテリ16の残量を示す信号等がハイブリッドECU21によって取得される。バッテリ16の残量情報は、例えばSOC(State of Charge)等の情報である。ハイブリッドECU21は、取得した信号に基づき、パワーユニットの動作モードを複数(5つ)のモードのうちで切り替える。
【0024】
具体的に、ハイブリッドECU21は、エンジン11を停止してバッテリ16の充電電力のみで車両を走行させるモードと、エンジン11及びモータジェネレータ12の発電電力で走行しつつ、余剰電力をバッテリ16に充電するモードとを実施する。さらに、ハイブリッドECU21は、発電電力を全て走行に利用するモードと、発電電力及び充電電力の両方を使用して走行するモードと、エンジン11を停止して回生エネルギをバッテリ16に回収するモードとを実施する。
【0025】
エンジンECU22は、パワーユニットの動作モードに応じてエンジン11の運転状態を制御する。エンジンECU22は、目標回転数及び目標トルクを演算し、目標回転数及び目標トルクでの運転となるようにエンジン11を制御する。例えば、市街地走行等、要求される駆動力が低いシーンにて、エンジンECU22は、エンジン11を高効率点(
図4 Ne1参照)で定点運転する。高効率点は、エンジン11、モータジェネレータ12及びインバータ13よりなる発電システムの発電効率が最も高くなる動作点の1つである。このとき、発電電力の余剰分は、バッテリ16に充電される。また、追い越しを行う際等、要求される駆動力が高いシーンにおいて、エンジンECU22は、エンジン11を高出力点(
図4 Ne2参照)で定点運転する。
【0026】
MG-ECU23は、各インバータ13,15に対してパルス幅変調制御を実施することで、各インバータ13,15と連携して各モータジェネレータ12,14の動作状態を制御する。具体的に、MG-ECU23は、各モータジェネレータ12,14の目標回転数及び目標トルクを演算し、目標回転数及び目標トルクにて各モータジェネレータ12,14が運転されるように各インバータ13,15を制御する。MG-ECU23の記憶部には、各モータジェネレータ12,14を制御するためのモータ制御プログラムが記憶されている。MG-ECU23は、プロセッサによるモータ制御プログラムの実行により、各モータジェネレータ12,14を制御対象(プラント)とする複数のMG制御系を有する。
【0027】
図2は、MG-ECU23の実施するモータ制御の内容を等価的に示したブロック図であり、MG制御系30を構成する複数の機能ブロックを概念的に示している。MG制御系30は、モータジェネレータ12を制御対象とする制御系である。MG制御系30は、モータジェネレータ12の回転数を検出した回転数検出値を用いて、この回転数が指令値に近づく(追従する)ようにフィードバック制御を実施する。尚、MG-ECU23は、モータジェネレータ14(
図1参照)を制御対象とするMG制御系を、MG制御系30とは別にさらに有している。
【0028】
MG制御系30は、複数の換算器31,33,35,37,38、複数の減算部32,34,36、速度PI(Proportional-Integral)制御器40、及び電流PI制御器60を備えている。
【0029】
換算器31には、MG-ECU23にて生成される機械角速度指令値ωm*が入力される。換算器31は、機械角から電気角への換算を実施する。具体的に、換算器31は、モータジェネレータ12の磁極対数Pmの乗算により、機械角から電気角からへの換算を実施し、機械角速度指令値ωm*から電気角速度指令値ωe*を算出する。換算器31は、算出した電気角速度指令値ωe*を減算部32に出力する。
【0030】
減算部32には、電気角速度指令値ωe*に加えて、最新の電気角速度応答値ωeが入力される。減算部32は、電気角速度指令値ωe*に対する現在の電気角速度応答値ωeの偏差(以下、電気角速度偏差)を算出する。減算部32は、算出した電気角速度偏差を速度PI制御器40に出力する。
【0031】
速度PI制御器40は、減算部32から入力される電気角速度偏差に応じたトルク指令値TM*を演算する。速度PI制御器40は、電気角速度偏差が大きくなるほど、大きな値のトルク指令値TM*を算出することで、電気角速度偏差をゼロに近づけるように動作する。速度PI制御器40は、比例器41、積分器42、及び加算部46を有している(
図3参照)。比例器41は、電気角速度偏差に速度比例ゲインKpsを乗算した値を出力する。積分器42は、電気角速度偏差の累積値(時間積分値)に速度積分ゲインKisを乗算した値を出力する。加算部46は、比例器41の出力値に積分器42の出力値を加算する。速度PI制御器40は、加算部46にて足し合わされた値を、トルク指令値TM*として換算器33に出力する。
【0032】
換算器33は、速度PI制御器40から入力されるトルク指令値TM*と、予め設定されたトルク係数KTとを用いた演算により、d軸の電流指令値id*とq軸の電流指令値iq*とを算出する。d軸電流は、印加される電流のうちで、磁束発生に使用される成分である。q軸電流は、印加される電流のうちで、ロータを回転させるトルクに対応する成分である。換算器33は、算出した電流指令値id*,iq*を、減算部34に出力する。
【0033】
減算部34には、電流指令値id*,iq*に加えて、最新の電流応答値id,iqが入力される。減算部34は、電流指令値id*,iq*に対する現在の電流応答値id,iqの偏差(以下、電流値偏差)を算出する。減算部34は、算出した電流値偏差を電流PI制御器60に出力する。
【0034】
電流PI制御器60は、減算部34から入力される電流値偏差に応じた電圧指令値vd,vqを演算する。電流PI制御器60は、電流値偏差が大きくなるほど、大きな値の電圧指令値vd,vqを算出することで、電流値偏差をゼロに近づけるように動作する。電流PI制御器60は、比例器、積分器、及び加算部を有している。比例器は、電流値偏差に電流比例ゲインKpcを乗算した値を出力する。積分器は、電流値偏差の累積値(時間積分値)に電流積分ゲインKicを乗算した値を出力する。加算部は、比例器の出力値に積分器の出力値を加算する。電流PI制御器60は、加算部にて足し合わされた値を、電圧指令値vd,vqとしてモータジェネレータ12に出力する。
【0035】
モータジェネレータ12に相当するブロック(モデル)は、電機子インダクタンスをL,電機子抵抗をRとした場合に、1/(L・s+R)で表される。モータジェネレータ12からは、d軸の電流応答値idと、q軸の電流応答値iqとが検出される。MG制御系30には、モータジェネレータ12の後部を減算部34と接続する電流制御マイナーループが形成されている。各電流応答値id,iqは、電流制御マイナーループを通じて減算部34に入力される。これにより、電流応答値id,iqを目標値である電流指令値id*,iq*に追従(一致)させるフィードバック制御が実施される。
【0036】
換算器35には、モータジェネレータ12から出力される最新の電流応答値id,iqが入力される。換算器35は、換算器33と同一のトルク係数KTを用いて、換算器33とは真逆の処理を実施する。具体的に、換算器35は、トルク係数KTを用いて、電流応答値id,iqから、モータジェネレータ12のトルク応答値TMを算出する。換算器35は、算出したトルク応答値TMを減算部36に出力する。
【0037】
減算部36には、トルク応答値TMに加えて、最新のエンジントルクTEが入力される。減算部36は、トルク応答値TMに対する現在のエンジントルクTEの偏差(以下、トルク偏差)を算出する。減算部36は、算出したトルク偏差を換算器37に出力する。
【0038】
換算器37は、モータジェネレータ12のうちでクランク軸11cと一体で回転する構成(ロータ等)のイナーシャJMの値を用いて、減算部36から入力されるトルク偏差から機械角速度応答値ωmを算出する。
【0039】
換算器38は、換算器37の後部を減算部32と接続する速度制御アウターループのライン上に設けられている。換算器38は、換算器31と同一の磁極対数Pmを用いて、機械角から電気角からへの換算を実施し、機械角速度応答値ωmを電気角速度応答値ωeに変換する。電気角速度応答値ωeは、速度制御アウターループを通じて減算部32に入力される。尚、機械角速度応答値ωmは、モータジェネレータ12の回転角度センサの出力に基づく値である。
【0040】
以上により、電気角速度応答値ωeを目標値である電気角速度指令値ωe*に追従(一致)させるフィードバック制御であって、モータジェネレータ12の回転数を指令値に近づけるフィードバック制御が実施される。その結果、MG制御系30は、エンジン11のトルク変動に対し逆位相となるカウンタトルク(制振トルク,
図1参照)を、モータジェネレータ12に出力させることができる。以上のMG制御系30においては、電気角速度応答値ωeが「回転数検出値」に相当し、電気角速度指令値ωe*が「指令値」に相当する。
【0041】
<制御ゲインの切替処理>
次に、ゲイン切替部70にて実施されるゲイン切替制御の詳細を、
図1~
図5に基づいて説明する。
【0042】
MG-ECU23は、モータ制御プログラムに基づく機能部として、ゲイン切替部70(
図3参照)をさらに備える。ゲイン切替部70は、ゲイン切替処理(
図5参照)の実施により、MG制御系30のフィードバック制御にて用いられる制御ゲインを、低ゲイン及び高ゲインを含む複数のうちで切り替える。
【0043】
ゲイン切替部70は、低ゲインと高ゲインとを切り替えるゲイン切替処理において、速度PI制御器40の速度比例ゲインKps及び速度積分ゲインKisの各値を少なくとも変更する。ゲイン切替部70は、電流PI制御器60の電流比例ゲインKpc及び電流積分ゲインKicの各値を、速度比例ゲインKps及び速度積分ゲインKisの各値と共に変更してもよい。
【0044】
低ゲインの状態では、エンジントルクTEの脈動に対し、MG制御系30の反応が低応答となる。この場合、モータジェネレータ12の出力する制振トルクは、ごく僅かとなるか又はゼロとなる(
図4 下段左側参照)。この場合、モータジェネレータ12は、実質的に一定のトルクを出力する状態となる。その結果、フィードバック制御によるエンジントルクTEの脈動抑制効果も小さくなる。
【0045】
高ゲインの状態では、エンジントルクTEの脈動に対し、MG制御系30の反応が高応答となる。この場合、モータジェネレータ12の出力する制振トルクは、低ゲインの状態と比較して大きくなる(
図4 下段右側参照)。その結果、フィードバック制御によるエンジントルクTEの脈動抑制効果も大きくなる。
【0046】
ゲイン切替部70は、制御システム100の起動に基づき、ゲイン切替処理を開始する。ゲイン切替部70は、制御システム100の停止までゲイン切替処理を継続し、制御システム100の停止に基づきゲイン切替処理を終了する。ゲイン切替部70は、ゲイン切替処理の開始後、起動後の初期処理を実施し(S11)、低ゲインの状態に設定する。ゲイン切替部70は、エンジントルクTEの脈動が大きくなるシーンの発生を推定した場合、高ゲインへの切替条件を成立させ(S12:YES)、低ゲインから高ゲインへの切り替えを実施する(S13)。
【0047】
一例として、クランキングによってエンジン11の回転数が高効率点の回転数(以下、第1回転数Ne1)となったタイミングにて、ゲイン切替部70は、低ゲインから高ゲインへの切り替えを開始する。これにより、高ゲインの状態下にて、燃料への点火が開始される(
図4 ENG点火参照)。故に、燃焼開始に伴う回転数の急激な上昇(
図4 破線参照)が抑制される。
【0048】
ゲイン切替部70は、第1回転数Ne1から高出力点の回転数(以下、第2回転数Ne2)への遷移タイミングにて、低ゲインから高ゲインへと切り替える。これにより、クランク軸11cの回転数が第2回転数Ne2を大きく超過する事態は、発生し難くなる。さらに、エンジン11を停止させるタイミングにおいても、ゲイン切替部70は、低ゲインから高ゲインへと切り替える。これにより、クランク軸11cの回転が安定的に静止しない事態が、発生し難くなる。
【0049】
ゲイン切替部70は、高ゲインへの切り替え後、低ゲインへの切替条件の成立に基づき(S15:YES)、高ゲインから低ゲインへの切り替えを実施する(S16)。例えば、高ゲインへの切り替え後に所定時間が経過した場合、又はクランク軸11cの回転数が安定した場合に、ゲイン切替部70は、低ゲインへの切替条件を成立させる。以上によれば、高ゲインでの制振制御は、必要最低限のシーンに限って適用され、その他のシーンでは、低ゲインでの制振制御に切り替えられることで、効率重視の動作が実現される。
【0050】
<非線形ゲイン遷移及びアンチワインドアップ制御>
図6に示すように、高ゲインへの切り替えにより、エンジン11の点火開始時において回転数が許容変動範囲TRの上限を超えるオーバーシュートは、抑制され得る(
図6 破線参照)。一方で、高ゲインから低ゲインへと切り替える場合、遷移期間において、回転数のワインドアップ現象が発生し得る。ワインドアップ現象は、速度PI制御器40での積分項の超加算、即ち、積分器42の出力値が過大となることに起因して発生する。ワインドアップ現象が発生した場合、例えば制振トルクの不適切な増大により、回転数が許容変動範囲TRの下限を下回るアンダーシュートが発生し得る。尚、許容変動範囲TRを規定する上限及び下限の各閾値は、ノイズ及びバイブレーションの観点から、車両において許容され得る値に適宜設定されてよい。
【0051】
こうしたワインドアップ現象の発生を抑制するため、ゲイン切替部70は、非線形でのゲイン遷移を実施する。加えて、速度PI制御器40には、積分器42の動作を変更するアンチワインドアップ制御が適用される。以下、非線形ゲイン遷移及びアンチワインドアップ制御の各詳細を、
図1~
図9に基づいて順に説明する。
【0052】
ゲイン切替部70は、ゲイン切替処理(
図5参照)において、速度PI制御器40の速度比例ゲインKps及び速度積分ゲインKisについて、非線形のゲイン遷移を実施する(S14,S17)。ゲイン切替部70は、低ゲインから高ゲインへの遷移(以下、第1遷移UT,
図7参照)、及び高ゲインから低ゲインへの遷移(以下、第2遷移DT,
図8参照)のうちで、少なくとも第2遷移DTにて非線形のゲイン遷移を実施する。第一実施形態のゲイン切替部70は、第1遷移UT及び第2遷移DTの両方において、非線形のゲイン遷移を実施する。尚、線形でのゲイン遷移(
図7,
図8 基準線Lr参照)とは、遷移開始から遷移終了まで、実質同一の変化率で遷移することをいう。一方、非線形でのゲイン遷移とは、遷移開始から遷移終了までの間に、一度でも変化率の増減が生じる遷移のことをいう。
【0053】
ゲイン切替部70は、制御ゲインを線形で遷移させた際にフィードバック制御の積分項の超加算によるワインドアップ現象で生じる回転数変動(
図6参照)に比して、ワインドアップ現象が抑制されるように、制御ゲインを変化させる。具体的に、ゲイン切替部70は、遷移期間での制御ゲインの変化を示すゲイン変化線Lgを、基準線Lrよりも下方(低ゲイン側)に湾曲させた曲線状に規定する。即ち、第1遷移UT及び第2遷移DTの両方において、ゲイン変化線Lgは、下側に凸の曲線状となっている。第1遷移UTでは、特に低ゲイン側となる遷移開始直後において、ゲイン変化線Lgは、基準線Lrよりも下方にあること、言い替えれば、基準線Lrよりも水平に近い傾斜であることが望ましい。同様に、第2遷移DTでも、特に低ゲイン側となる遷移終了直前において、ゲイン変化線Lgは、基準線Lrよりも下方にあること、言い替えれば、基準線Lrよりも水平に近い傾斜であることが望ましい。
【0054】
ゲイン切替部70は、各遷移期間において、高ゲインな状態のときほど、単位時間あたりのゲインの変化率を大きくする。これにより、遷移期間の前半におけるゲイン変化線Lgの傾き(以下、傾きA)よりも、遷移期間の後半におけるゲイン変化線Lgの傾き(以下、傾きB)が大きくされる。詳記すると、第1遷移UTにおいては、遷移期間の前半でのゲインの増加率よりも、遷移期間の後半でのゲインの増加率が大きくなる。故に、傾きA(例えば、1)よりも傾きB(例えば、10)が、大きな値となる。一方、第2遷移DTにおいては、遷移期間の前半でのゲインの減少率よりも、遷移期間の後半でのゲインの減少率が小さくなる。故に、傾きA(例えば、-10)よりも傾きB(例えば、-1)が、大きな値となる。
【0055】
尚、ゲイン切替部70は、電流PI制御器60の電流比例ゲインKpc及び電流積分ゲインKicをゲイン切替の対象に含む場合、これらのゲインに対しても、速度比例ゲインKps及び速度積分ゲインKisと同様の非線形遷移を実施する。
【0056】
速度PI制御器40(
図3参照)は、アンチワインドアップ制御を適用するための構成(以下、アンチワインドアップ制御部50)として、リミッタ51及び積分器停止回路52を有している。
【0057】
リミッタ51は、加算部46の後段に設けられている。リミッタ51は、加算部46から出力されるトルク指令値TM*の上限値及び下限値を設定する。リミッタ51は、トルク指令値TM*が予め設定された上限値又は下限値を超えている場合、トルク指令値TM*に替えて上限値又は下限値を出力する。
【0058】
積分器停止回路52は、トルク指令値TM*がリミッタ51の上限値又は下限値を超えた場合、積分器42を停止するアンチワインドアップ制御を実施する。積分器停止回路52は、比較器53及びスイッチ54を有している。比較器53は、リミッタ51の入出力の一致及び不一致を判別する。リミッタ51の入出力が一致している場合、言い替えれば、リミッタ51が作動していない場合、比較器53は、「1」の値を出力する。一方、リミッタ51の入出力が不一致の場合、言い替えれば、リミッタ51が作動している場合、比較器53は、「0」の値を出力する。
【0059】
スイッチ54は、比較器53から「1」の値が入力される場合、オン状態(True)となる。この場合、電気角速度偏差が積分器42に入力され、積分器42は、通常動作の状態となる。一方、比較器53から「0」の値が入力される場合、スイッチ54は、オフ状態(False)となり、電気角速度偏差の積分器42への入力が停止される。その結果、積分器42は、停止状態となる。
【0060】
尚、リミッタ51は、積分器42と加算部46との間に設けられていてもよい。即ち、比較器53は、速度比例ゲインKps及び速度積分ゲインKisの各出力の合算値について、リミッタ51の前後の値を比較する構成に替えて、速度積分ゲインKis1の出力値について、リミッタ51の前後の値を比較する構成であってよい。
【0061】
以上の非線形ゲイン遷移及びアンチワインドアップ制御の効果を、
図9を用いて説明する。
図9には、
図6と同様に、エンジン11の点火開始から所定時間(n秒)が経過したタイミングにて、高ゲインから低ゲインへと切り替えるシーンでの回転数変動が示されている。
【0062】
線形でゲイン遷移を行った場合、ワインドアップ現象の発生により、回転数の変動範囲を示す変動線Cs0の変動幅F0は、許容変動範囲TRを大きく超えた値となる。一方、非線形でゲイン遷移を行った場合、ワインドアップ現象の発生が抑制される。その結果、変動線Cs1の変動幅F1は、線形でゲイン遷移を行った場合の変動幅F0よりも小さくなる。但し、非線形のゲイン遷移だけでは、変動幅F1は、許容変動範囲TRに収まり難い。
【0063】
対して、非線形でゲイン遷移を行い、かつ、アンチワインドアップ制御を適用した場合、ワインドアップ現象の発生は、顕著に抑制される。その結果、変動線Cs2の変動幅F2は、アンチワインドアップ制御を適用しない場合の変動幅F1よりもさらに小さくなる。その結果、回転数の変動幅F2は、許容変動範囲TRに確実に収まり得る。
【0064】
(実施形態のまとめ)
ここまで説明した第一実施形態では、高ゲインから低ゲインへと制御ゲインを切り替える第2遷移DTにおいて、非線形のゲイン遷移が実施される。これにより、遷移期間から定常期間への接続が滑らかに行われるようになる(
図8参照)。その結果、制御ゲインの切り替えに伴う回転数の挙動の悪化、即ち、オーバーシュート及びアンダーシュート等が、抑制可能となる。
【0065】
加えて第一実施形態では、第1遷移UT及び第2遷移DTの両方で非線形のゲイン遷移が実施される。故に、低ゲインから高ゲインへの切り替えシーン、及び高ゲインから低ゲインへの切り替えシーンの両方において、滑らかなゲイン遷移が実現され得る。その結果、回転数のオーバーシュート及びアンダーシュートが、いっそう抑制可能となる。
【0066】
また第一実施形態では、遷移期間での制御ゲインの変化を示すゲイン変化線Lgにおいて、遷移期間の前半における傾きAよりも遷移期間の後半における傾きBが大きくされる。その結果、遷移期間から定常期間への接続において滑らかなゲイン遷移が実現されるため、オーバーシュート及びアンダーシュート等は、いっそう抑制可能となる。
【0067】
さらに第一実施形態では、制御ゲインを線形遷移させた際にフィードバック制御の積分項の超加算によるワインドアップ現象で生じる回転数変動(
図6 変動線Cs0参照)に比して、ワインドアップ現象が抑制されるように、制御ゲインが変化する。こうした非線形のゲイン遷移の適用によれば、ワインドアップ現象に起因する騒音及び振動の低減が可能となる。
【0068】
加えて第一実施形態では、制御ゲインの切り替えに伴うワインドアップ現象の発生に基づき、積分器42の動作を変更するアンチワインドアップ制御が適用される。その結果、制御ゲインの変更及び回転数の遷移等に伴うオーバーシュート及びアンダーシュートは、さらに抑制可能となる。
【0069】
また第一実施形態では、積分器42の動作を停止するアンチワインドアップ制御が適用される。こうした積分器42の停止によれば、積分項の超加算は、確実に回避され得る。その結果、オーバーシュート及びアンダーシュートがいっそう抑制され、騒音及び振動がさらに低減可能となる。
【0070】
さらに第一実施形態では、クランク軸11cに直接的に接続されるモータジェネレータ12が、クランク軸11cに生じるトルク変動に対し逆位相となる制振トルクを出力する。モータジェネレータ12は、クランク軸11cのトルク変動を減衰するダンパDMを介することなくクランク軸11cに接続されており、かつ、クランク軸11cの回転を伝達するギヤGRを介することなくクランク軸11cに接続されている。
【0071】
こうしたダンパDM及びギヤGR等のレス構成では、ダンパDM及びギヤGRによる回転数脈動の減衰作用が得られない(
図1 左下の下段参照)。故に、ダンパDM及びギヤGRが介在する構成(
図1 左下の上段参照)と比較して、高ゲインな制振制御をモータジェネレータ12にて実施し、大きな制振トルクを発生させる必要がある。しかし、高ゲインな制振制御を継続した場合、制振制御に不要なエネルギが消費され易くなる。故に、ゲイン切替の実施により、必要最低限のシーンに限定して高ゲインな制振制御を行うことが、ダンパDM及びギヤGRのレス構成を採用した形態では特に有効となる。
【0072】
さらに、非線形でのゲイン遷移及びアンチワインドアップ制御が一体的に適用されれば、ゲイン切替に伴うワインドアップ現象は、抑制され得る。その結果、ダンパDM及びギヤGRのレス構成を採用しても、許容変動範囲TRを超えるようなオーバーシュート及びアンダーシュートの抑制が可能になる。
【0073】
以上によれば、騒音及び振動の問題を生じさせることなく、ダンパDM及びギヤGRのレス構成が採用可能になる。これにより、パワーユニットの簡素化及び低コスト化が実現され得る。加えて、ダンパDM及びギヤGRの特性を制振トルクの演算に反映することが不要になるため、制振制御の演算負荷が軽減され得る。また、ダンパDM及びギヤGRのレス構成によれば、パワーユニットの軸長が短縮され得るため、車両への搭載性が向上する。その結果、パワーユニットは、幅方向の空間確保が難しい小型車両のエンジンルーム内にも収容可能となる。
【0074】
加えて第一実施形態では、車両において発電専用に設けられたモータジェネレータ12が制振トルクを出力する。こうした構成では、モータジェネレータ12への路面等からの外乱入力が無くなる。故に、エンジントルクTEの脈動を効果的に抑制可能な制振制御が実施される。
【0075】
また第一実施形態では、アウターロータ型のモータジェネレータ12が制振トルクを出力する。アウターロータ型のモータジェネレータ12は、大トルクを発生させ易いため、発生可能なトルクが同一である場合、インナーロータ型の構成よりも軸長を低減させ易い。故に、アウターロータ型のモータジェネレータ12の採用によれば、パワーユニットの搭載性がいっそう向上し得る。加えて、アウターロータ型のモータジェネレータ12では、インナーロータ型の構成よりもロータ慣性の確保が容易となる。故に、ロータ慣性を利用した脈動低減効果が発揮され易くなる。
【0076】
尚、第一実施形態では、クランク軸11cが「出力軸」に相当し、モータジェネレータ12が「回転電機」に相当し、ダンパDMが「ダンパ部」に相当し、ギヤGRが「ギヤ部」に相当する。また、MG-ECU23が「処理部」及び「モータ制御装置」に相当し、MG制御系30が「制御系」に相当する。
【0077】
(第二,第三実施形態)
図10~
図12に示す本開示の第二,第三実施形態は、第一実施形態の変形例である。第二,第三実施形態のゲイン切替部70(
図3参照)は、
図10に示すように、第1遷移UT及び第2遷移DTのうちで、第2遷移DT(
図5 S17参照)でのみ、非線形のゲイン遷移を実施する。一方、第1遷移UT(
図5 S14参照)では、第一実施形態のような非線形のゲイン遷移(
図7参照)に替えて、線形のゲイン遷移が実施される。
【0078】
図11に示す第二実施形態の第2遷移DTにおけるゲイン変化線Lgは、複数の直線を組み合わせた折れ線状の態様である。遷移期間におけるゲインの減少率は、ゲインの減少に伴って段階的に小さくなる。これにより、第二実施形態でも、遷移後半におけるゲイン変化線Lgの傾きは、遷移前半におけるゲイン変化線Lgの傾きよりも大きい値、言い替えれば、絶対値の小さいマイナスの値となる。
【0079】
図12に示す第三実施形態の第2遷移DTにおけるゲイン変化線Lgは、階段状に規定されている。ゲイン切替部70は、第2遷移DTの遷移期間において、制御ゲインを段階的に減少させる。遷移期間での1回の減少幅Deは、概ね同一であってもよく、又は徐々に小さくされてもよい。一方、遷移期間にて、制御ゲインが一時的に維持される1回の維持期間Peは、概ね同一であってもよく、又は徐々に長くされてもよい。
【0080】
ここまで説明した第二,第三実施形態でも、第2遷移DTにて非線形のゲイン遷移が実施される。故に、第一実施形態と同様の効果を奏し、遷移期間から定常期間への接続が滑らかに行われるようになるため、制御ゲインの切り替えに伴うオーバーシュート及びアンダーシュートが発生し難くなる。
【0081】
加えて第二,第三実施形態では、第1遷移UT及び第2遷移DTのうちで、第2遷移DTでのみ、非線形のゲイン遷移が実施される。低ゲインへの切り替えが行われる第2遷移DTでは、切り替え後の変動抑制効果が弱くなるため、第1遷移UTと比較して、ワインドアップ現象が発生し易くなる。故に、第2遷移DTを非線形のゲイン遷移とすれば、回転数のオーバーシュート及びアンダーシュートが、効果的に抑制され得る。一方で、第1遷移UTを線形のゲイン遷移とすることで、MG-ECU23(
図1参照)の演算負荷が軽減され得る。
【0082】
(第四実施形態)
図13に示す本開示の第四実施形態は、第一実施形態の別の変形例である。第四実施形態の速度PI制御器40は、第一実施形態の積分器停止回路52(
図3参照)に替わる構成として減算部55,57及び補正器56を含むアンチワインドアップ制御部50を有している。速度PI制御器40には、リミッタ51、減算部55,57及び補正器56により、積分器42から出力される積分信号を補正係数Kiaにより補正するアンチワインドアップ制御が適用される。
【0083】
減算部55は、リミッタ51の入力値からリミッタ51の出力値を減算した値を、補正器56に出力する。リミッタ51が作動していない場合、減算部55の出力は、実質的にゼロとなる。この場合、補正器56からの出力もゼロとなるため、減算部57から積分器42には、電気角速度指令値ωe*が入力される。その結果、積分器42から出力される積分信号は、補正されない状態となる。
【0084】
一方、リミッタ51が作動している場合、減算部55は、入出力間の差分に応じた値を出力する。この場合、補正器56は、減算部55の出力値に補正係数Kiaを乗算した値(以下、ワインドアップ補正値)を、減算部57に出力する。減算部57は、電気角速度指令値ωe*からワインドアップ補正値を減算した値を、積分器42に出力する。その結果、積分器42から出力される積分信号が補正される。この場合、積分器42から加算部46への出力が過大となると、ワインドアップ補正値も増加する。故に、積分項の超加算の抑制が可能となる。
【0085】
ここまで説明した第四実施形態でも、第一実施形態と同様の効果を奏し、制御ゲインの切り替えに伴うオーバーシュート及びアンダーシュートが発生し難くなる。加えて第四実施形態では、補正係数Kiaを用いたワインドアップ補正値により積分器42から出力される積分信号を補正するアンチワインドアップ制御が適用される。こうした補正機能の利用によれば、積分項の超加算が発生し難くなる。その結果、ゲイン変更及び回転数遷移に伴うオーバーシュート及びアンダーシュートも発生し難くなるため、騒音及び振動の低減が可能となる。
【0086】
尚、第四実施形態でも、リミッタ51は、積分器42と加算部46との間に配置されてもよい。こうした変形例でも、アンチワインドアップ制御部50は、積分器42の出力(積分信号)を、補正係数Kiaを用いたワインドアップ補正値によって補正し、ワインドアップ現象の発生し難くすることができる。
【0087】
(第五実施形態)
図14に示す本開示の第五実施形態は、第一実施形態のさらに別の変形例である。第五実施形態のMG制御系30には、速度PI制御器40(
図2参照)に替えて、2つの速度PI制御器140a,140bと、制御切替判定部140sとが設けられている。各速度PI制御器140a,140bには、アンチワインドアップ制御部50(
図3参照)に相当する構成は設けられていない。
【0088】
速度PI制御器(以下、通常制御器)140aは、ワインドアップ現象が発生していない通常時に利用され、電気角速度偏差に応じたトルク指令値TM*を演算する。通常制御器140aは、比例器、積分器、及び加算部を有している。比例器は、電気角速度偏差に速度比例ゲインKps1を乗算した値を出力する。積分器は、電気角速度偏差の時間積分値に速度積分ゲインKis1を乗算した値を出力する。加算部は、比例器の出力値に積分器の出力値を加算した値を、トルク指令値TM*として出力する。
【0089】
速度PI制御器(以下、異常制御器)140bは、ワインドアップ現象が発生した異常時に利用され、電気角速度偏差に応じたトルク指令値TM*を演算する。異常制御器140bは、比例器、積分器、及び加算部を有している。比例器は、電気角速度偏差に速度比例ゲインKps2を乗算した値を出力する。積分器は、電気角速度偏差の時間積分値に速度積分ゲインKis2を乗算した値を出力する。速度積分ゲインKis2は、通常制御器140aの速度積分ゲインKis1と比較して、積分項の超加算を抑制する値に設定されている。加算部は、比例器の出力値に積分器の出力値を加算した値を、トルク指令値TM*として出力する。
【0090】
制御切替判定部140sは、制御ゲインの切り替えに伴うワインドアップ現象の発生に基づき、通常制御器140aから異常制御器140bへの切り替えを適用する。制御切替判定部140sは、パワーユニットの動作に関連する信号に基づき、通常制御器140a及び異常制御器140bの切り替えを実施する。一例として、制御切替判定部140sは、機械角速度指令値ωm*と機械角速度応答値ωmとを比較し、これらの差分が所定の閾値を超えた場合に、通常制御器140aから異常制御器140bに切り替える。具体的には、指令値からの回転数の乖離が100rpmを超えた場合に、異常制御器140bへの切り替えが実施される。
【0091】
ここまで説明した第五実施形態でも、第一実施形態と同様の効果を奏し、制御ゲインの切り替えに伴うオーバーシュート及びアンダーシュートが発生し難くなる。加えて第五実施形態では、制御ゲインの切り替えに伴うワインドアップ現象の発生に基づき、通常制御器140aから異常制御器140bへの切り替えが適用される。こうした異常制御器140bへの切り替えによれば、積分項の超加算の発生が抑制され得る。その結果、ゲイン変更及び回転数遷移に伴うオーバーシュート及びアンダーシュートの発生も抑制され得るため、騒音及び振動の低減が可能となる。
【0092】
(第六実施形態)
図15に示す本開示の第六実施形態は、第一実施形態のさらに別の変形例である。第六実施形態の速度PI制御器40は、2つの微分器143を有している。微分器143は、比例器41及び積分器42の各前段に接続されている。微分器143は、電気角速度偏差を時間微分した値を比例器41及び積分器42に出力する。微分器143を含むことにより、速度PI制御器40は、速度形式の制御系となり、微分器143を含まない構成に対して電気角速度偏差に対する応答性を向上させる。
【0093】
このような第六実施形態でも、第一実施形態と同様の効果を奏し、ワインドアップ現象の発生が抑制され得る。加えて第六実施形態では、積分器42の前段に微分器143が接続されることで、ゲイン変更及び回転数遷移に伴う積分項の超加算が発生し難くなる。その結果、オーバーシュート及びアンダーシュートを抑制し、騒音及び振動を低減することが可能となる。
【0094】
(他の実施形態)
以上、本開示による複数の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0095】
上記実施形態の変形例1の制御システム100は、
図16に示すパラレル方式のハイブリッドシステム(パワーユニット)に適用される。変形例1のパワーユニットにおいて、モータジェネレータ12は、駆動軸19と接続されている。こうしたモータジェネレータ12に対しても、上記実施形態にて説明したモータ制御方法が適用可能となる。また、モータジェネレータ12は、スタータ及びオルタネータを兼ねた構成として、動力伝達用のベルト等を介してエンジン11と接続される電動機であってもよい。
【0096】
上記実施形態の変形例2のパワートレインでは、エンジン11が駆動軸19と接続された状態と、エンジン11がモータジェネレータ12と接続された状態とが、相互に切り替え可能である。エンジン11が駆動軸19と接続された状態では、エンジン11の出力による走行が可能になる。こうした変形例2でも、エンジン11が駆動軸19と切り離され、モータジェネレータ12と接続された状態において、上記実施形態にて説明したモータ制御方法が適用可能になる。尚、変形例2においても、モータジェネレータ12は、発電専用の構成となる。
【0097】
さらに、上記実施形態にて説明したモータ制御方法は、シリーズパラレル方式のハイブリッドシステムにおいて、動力分割機構を介してエンジン11と接続されるモータジェネレータ12,14の少なくとも一方にも適用可能である。また、いずれの形式のパワーユニットにおいても、モータジェネレータ12とエンジン11との間、又はモータジェネレータ12と駆動軸19との間に、ダンパ、ギヤ、クラッチ及び変速機等の構成が設けられていてもよい。
【0098】
上記実施形態の変形例3の速度PI制御器40では、アンチワインドアップ制御の適用が省略されている。変形例3では、非線形でのゲイン遷移の実施により、回転数の変動が許容変動範囲TRから外れないように、ワインドアップ現象の発生が抑制される。このように、許容変動範囲TRを超えないようにオーバーシュート及びアンダーシュートを抑制可能であれば、アンチワインドアップ制御の適用は、省略されてよい。
【0099】
上記実施形態の変形例4では、MG制御系30に関連する機能ブロックの一部が、MG-ECU23とは別のECU(例えばハイブリッドECU21等)によって構成される。また、ゲイン切替部70に相当する機能部は、MG-ECU23とは別のECU、又はインバータ13に設けられていてもよい。
【0100】
上記実施形態の変形例5では、MG-ECU23の処理機能は、ハイブリッドECU21又はエンジンECU22に統合されている。また、上記実施形態の変形例6では、ECU21~23の処理機能を全て備えた1つの統合ECUによって制御システム100が構成されている。さらに、上記実施形態の変形例7では、MG-ECU23の処理機能は、インバータに統合されている。こうした変形例5~7のように、制御システム100に含まれるECUの構成は、適宜変更されてよい。
【0101】
上記実施形態にて、各ECUによって提供されていた種々の機能は、ソフトウェア及びそれを実行するハードウェア、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの複合的な組合せによっても提供可能である。こうした機能がハードウェアとしての電子回路によって提供される場合、各機能は、多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によっても提供可能である。
【0102】
上記実施形態の各ECUに設けられるプロセッサは、CPU(Central Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)等の演算コアを少なくとも一つ含む構成であってよい。さらに、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、NPU(Neural network Processing Unit)及び他の専用機能を備えたIPコア等が処理部として各ECUに設けられていてもよい。
【0103】
上記実施形態の各記憶部として採用され、本開示のモータ制御方法を可能にするプログラムを記憶する記憶媒体の形態は、適宜変更されてよい。例えば記憶媒体は、各ECUの回路基板上に設けられた構成に限定されず、メモリカード等の形態で提供され、スロット部に挿入されて、ECUのバスに電気的に接続される構成であってよい。さらに、記憶媒体は、コンピュータへのプログラムのコピー基又は配布元として利用される光学ディスク又はハードディスクドライブ等であってもよい。
【0104】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0105】
(技術的思想の開示)
この明細書は、以下に列挙する複数の項に記載された複数の技術的思想を開示している。いくつかの項は、後続の項において先行する項を択一的に引用する多項従属形式(a multiple dependent form)により記載されている場合がある。さらに、いくつかの項は、他の多項従属形式の項を引用する多項従属形式(a multiple dependent form referring to another multiple dependent form)により記載されている場合がある。これらの多項従属形式で記載された項は、複数の技術的思想を定義している。
【0106】
(技術的思想1)
エンジン(11)と接続される回転電機(12)を制御するモータ制御装置であって、
前記回転電機の回転数を検出した回転数検出値を用いて、前記回転数が指令値に近づくようにフィードバック制御することで、前記エンジンのトルク変動に対し逆位相となる制振トルクを前記回転電機に出力させる制御系(30)と、
前記フィードバック制御の制御ゲインを低ゲイン及び高ゲインを含む複数のうちで切り替え、前記低ゲインから前記高ゲインへの第1遷移(UT)、及び前記高ゲインから前記低ゲインへの第2遷移(DT)のうちで、少なくとも前記第2遷移にて非線形のゲイン遷移を実施するゲイン切替部(70)と、
を備えるモータ制御装置。
(技術的思想2)
前記ゲイン切替部は、前記第1遷移及び前記第2遷移のうちで前記第2遷移でのみ非線形のゲイン遷移を実施する技術的思想1に記載のモータ制御装置。
(技術的思想3)
前記ゲイン切替部は、遷移期間での前記制御ゲインの変化を示すゲイン変化線(Lg)において前記遷移期間の前半における傾きよりも前記遷移期間の後半における傾きが大きくなるように前記制御ゲインを遷移させる技術的思想1又は2に記載のモータ制御装置。
(技術的思想4)
前記ゲイン切替部は、前記制御ゲインを線形で遷移させた際に前記フィードバック制御の積分項の超加算によるワインドアップ現象で生じる回転数変動に比して、ワインドアップ現象が抑制されるように、前記制御ゲインを変化させる技術的思想1~3のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
(技術的思想5)
前記制御系は、前記制御ゲインの切り替えに伴うワインドアップ現象の発生に基づき、積分器(42)の動作を変更するアンチワインドアップ制御を適用する技術的思想1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
(技術的思想6)
前記制御系は、前記積分器の動作を停止する前記アンチワインドアップ制御を適用する技術的思想5に記載のモータ制御装置。
(技術的思想7)
前記制御系は、前記積分器から出力される積分信号を補正係数により補正する前記アンチワインドアップ制御を適用する技術的思想5に記載のモータ制御装置。
(技術的思想8)
前記制御系は、前記制御ゲインの切り替えに伴うワインドアップ現象の発生に基づき、通常制御器(140a)から異常制御器(140b)への切り替えを適用する技術的思想1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
(技術的思想9)
前記制御系は、比例器(41)及び積分器(42)の各前段に接続される微分器(143)を含む技術的思想1~4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
(技術的思想10)
前記制御系は、前記エンジンの出力軸(11c)に直接的に接続される前記回転電機に、前記出力軸に生じる前記トルク変動に対し逆位相となる前記制振トルクを出力させる技術的思想1~9のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
(技術的思想11)
前記回転電機は、前記出力軸の前記トルク変動を減衰するダンパ部(DM)を介することなく前記出力軸に接続される技術的思想10に記載のモータ制御装置。
(技術的思想12)
前記回転電機は、前記出力軸の回転を伝達するギヤ部(GR)を介することなく前記出力軸に接続される技術的思想10又は11に記載のモータ制御装置。
(技術的思想13)
前記制御系は、車両において発電専用に設けられた前記回転電機に前記制振トルクを出力させる技術的思想1~12のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
(技術的思想14)
前記制御系は、アウターロータ型の前記回転電機に前記制振トルクを出力させる技術的思想1~13のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【符号の説明】
【0107】
11 エンジン、11c クランク軸(出力軸)、12,14 モータジェネレータ(回転電機)、23 MG-ECU(モータ制御装置,処理部)、30 MG制御系(制御系)、41 比例器、42 積分器、70 ゲイン切替部、140a 通常制御器、140b 異常制御器、143 微分器、DM ダンパ(ダンパ部)、GR ギヤ(ギヤ部)、Lg ゲイン変化線、UT 第1遷移、DT 第2遷移