(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036130
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】アーク溶接用治具
(51)【国際特許分類】
B23K 9/16 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
B23K9/16 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140868
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】520200584
【氏名又は名称】株式会社キーレックス・ワイテック・インターナショナル
(71)【出願人】
【識別番号】500213915
【氏名又は名称】株式会社ワイテック
(71)【出願人】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 英範
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 克幸
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001CA01
4E001DA05
4E001DD01
4E001QA03
(57)【要約】
【課題】簡単な設備とし、かつ、工程や処理を増やすことなく、ワークの裏面にアーク溶接時の酸化皮膜が生成されないようにする。
【解決手段】ワークの被溶接部101bの表面101dに溶接ワイヤW及びシールドガスGを供給するガスシールドアーク溶接に用いられるアーク溶接用治具は、ワークの被溶接部101bの裏面101eとの間に所定の間隔をあけて対向するように配設されるとともに、被溶接部101bの一縁部よりも突出し、一縁部を超えて流れるシールドガスを被溶接部101bの裏面に向けて案内する案内部材11を備えている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの被溶接部の表面に溶接ワイヤ及びシールドガスを供給するガスシールドアーク溶接に用いられるアーク溶接用治具であって、
前記ワークの前記被溶接部の裏面との間に所定の間隔をあけて対向するように配設される本体部を有するとともに、前記被溶接部の一縁部よりも突出する突出部を有し、当該一縁部を超えて流れる前記シールドガスを前記被溶接部の裏面に向けて案内する案内部材を備えていることを特徴とするアーク溶接用治具。
【請求項2】
請求項1に記載のアーク溶接用治具において、
前記案内部材の前記本体部は、前記被溶接部の表面に形成される溶接ビードの真裏に対応するように配置され、当該溶接ビードよりも長く形成されていることを特徴とするアーク溶接用治具。
【請求項3】
請求項1に記載のアーク溶接用治具において、
前記案内部材の前記本体部は、前記ワークの前記被溶接部を構成している縦板部と同方向に延びていることを特徴とするアーク溶接用治具。
【請求項4】
請求項1に記載のアーク溶接用治具において、
前記突出部の前記本体部からの突出寸法は5mm以上に設定されていることを特徴とするアーク溶接用治具。
【請求項5】
請求項1に記載のアーク溶接用治具において、
前記所定の隙間は1.0mm以上2.5mm以下に設定されていることを特徴とするアーク溶接用治具。
【請求項6】
請求項1に記載のアーク溶接用治具において、
前記ワークを構成する一の部材が他の部材に突き当てられて溶接される突き当て溶接に使用されることを特徴とするアーク溶接用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスシールドアーク溶接に用いられるアーク溶接用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば溶接トーチを用いた消耗電極式のガスシールドアーク溶接では、溶接トーチの先端から溶接ワイヤが供給されるとともに、溶接部位を大気から遮断して保護するためのシールドガスも供給される。
【0003】
アーク溶接中は、ワークの表面(溶接トーチが接近する側の面)だけでなく、裏面(溶接トーチが接近する側とは反対側の面)も高温になる。ワークの表面には、溶接トーチの先端から吹き出したシールドガスが供給されるので、酸化皮膜の生成が抑制されるが、ワークの裏面については、一般的なガスシールドアーク溶接ではシールドガスが供給されないので、酸化皮膜が生成されやすい環境にある。酸化皮膜が生成されると、ワークの見栄えが悪いだけでなく、例えば塗装した時に塗膜がワークに密着しにくくなり、十分な防錆性能を得ることができなくなる。
【0004】
特許文献1、2には、ワークの裏面に酸化皮膜が生成されることの対策として、酸化防止剤をワークの裏面に予め塗布しておき、その後、アーク溶接することが開示されている。
【0005】
また、特許文献3では、ワークの裏面にシールドガスを供給するバックガス供給配管を設けている。具体的には、溶接トーチを支持するロボットのアームには、バックガス供給配管を支持するためのアーム部が取り付けられており、このアーム部の先端には、バックガス噴出治具が設けられている。バックガス噴出治具はワークの裏面に対向するように配置され、アーク溶接時にはバックガス供給配管を流通したシールドガスがバックガス噴出治具からワークの裏面へ向けて供給される。
【0006】
また、特許文献4では、ワークが載置される治具にバックシールドガス用通路を形成し、シールドガスホースの先端をバックシールドガス用通路に接続している。バックシールドガス用通路に流入したシールドガスはワークの裏面へ向けて供給される。
【0007】
また、特許文献5では、ワークを拘束するための治具にバックシールドガス挿入管を設け、バックシールドガス挿入管を流通したシールドガスがワークの裏面へ向けて供給されるようになっている。
【0008】
また、特許文献6では、アーク溶接時に、ワークの表面及び裏面にそれぞれ二酸化炭素の凝結固体粒子を吹き付けるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-184224号公報
【特許文献2】特開昭51-86041号公報
【特許文献3】特開2015-208772号公報
【特許文献4】特開平5-208285号公報
【特許文献5】特開2011-173124号公報
【特許文献6】特開平8-155650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的なガスシールドアーク溶接では、ワークの裏面にシールドガスが供給されないので、裏面に酸化皮膜が生成されてしまうという問題がある。この問題に対して、生成された酸化皮膜を除去する工程を追加する方法、特許文献1、2のように酸化防止剤をワークの裏面に予め塗布しておき、その後、アーク溶接する方法によって対応することが考えられるが、いずれの方法も、工程や処理の増設が必要となり、ひいては製造コストが増大してしまう。
【0011】
そこで、特許文献3~5のようにバックシールドガスをワークの裏面に供給することや、特許文献6のように二酸化炭素の凝結固体粒子をワークの裏面に吹き付けるようにすれば、工程や処理を増やすことなく、ワークの裏面の酸化皮膜の生成を抑制できる。
【0012】
しかしながら、バックシールドガスや二酸化炭素の凝結固体粒子をワークの裏面に供給するためには、バックシールドガスや二酸化炭素の凝結固体粒子の通路をワークの裏面側に設けなければならず、その通路の取り回しが複雑化し、設備が大がかりなものになるので、この方法も製造コストの増大を招く。
【0013】
また、ワークの形状が複雑な3次元形状である場合、溶接トーチの移動経路が複雑化し、その溶接トーチの移動経路に沿ってバックシールドガスや二酸化炭素の凝結固体粒子を供給していかなければならないので、バックシールドガスや二酸化炭素の凝結固体粒子の供給構造がより一層複雑化して大がかりなものになってしまう。
【0014】
本開示は、かかる点に鑑みたものであり、その目的とするところは、簡単な設備とし、かつ、工程や処理を増やすことなく、ワークの裏面にアーク溶接時の酸化皮膜が生成されないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様では、ワークの被溶接部の表面に溶接ワイヤ及びシールドガスを供給するガスシールドアーク溶接に用いられるアーク溶接用治具であって、前記ワークの前記被溶接部の裏面との間に所定の間隔をあけて対向するように配設される本体部を有するとともに、前記被溶接部の一縁部よりも突出する突出部を有し、当該一縁部を超えて流れる前記シールドガスを前記被溶接部の裏面に向けて案内する案内部材を備えているものである。
【0016】
この構成によれば、ワークの被溶接部をアーク溶接する際には、被溶接部の表面に溶接ワイヤ及びシールドガスが供給される。溶接トーチから噴出したシールドガスは、被溶接部の表面に沿って流れるとともに、表面の一縁部を超えて流れることになる。被溶接部の表面の一縁部を超えて流れたシールドガスは、被溶接部に対して交差する方向の流れであるとともに溶接中は連続して供給されているので、裏面側に位置している案内部材の突出部に達することになり、突出部によって受けることができる。突出部で受けたシールドガスは、案内部材の本体部によって被溶接部の裏面に向けて案内される。従って、被溶接部の裏面もシールドガスによって大気と遮断されて保護されるので、酸化皮膜の生成が抑制される。つまり、被溶接部の表面に供給されたシールドガスが、その自然な流れによって被溶接部の裏面に供給されるので、酸化皮膜の除去工程及び酸化防止剤の事前塗布工程が不要になるとともに、従来例のようなバックガス供給配管やバックシールドガス挿入管といった配管部材も不要になり、簡単な設備で済む。
【0017】
本開示の第2の態様に係る案内部材の本体部は、前記被溶接部の表面に形成される溶接ビードの真裏に対応するように配置され、当該溶接ビードよりも長く形成されている。すなわち、溶接ワイヤ及びシールドガスは少なくとも溶接ビードが形成される範囲に供給されるが、溶接時の熱は溶接ビードが形成される範囲を超えて伝達するので、溶接ビードが形成される範囲外も酸化皮膜が生成されるおそれがある。本態様では、案内部材が溶接ビードよりも長く形成されているので、溶接ビードが形成される範囲外にもシールドガスを供給することができ、酸化皮膜の生成を抑制可能な範囲が拡大する。
【0018】
本開示の第3の態様に係る案内部材の本体部は、前記ワークの前記被溶接部を構成している縦板部と同方向に延びている。この構成によれば、ワークの縦板部の裏面に酸化皮膜が生成されるのを抑制できる。
【0019】
本開示の第4の態様に係る突出部の本体部からの突出寸法は5mm以上に設定することができる。すなわち、突出部の突出寸法が5mm未満であると、突出部で受けることが可能なシールドガスの量が減少して被溶接部の裏面の保護効果が低下することになるが、本態様のように5mm以上確保することで、突出部で受けることが可能なシールドガスの量が十分に確保されるので、被溶接部の裏面の保護効果が向上する。
【0020】
本開示の第5の態様では、被溶接部の裏面と案内部材の本体部との隙間は1.0mm以上2.5mm以下に設定することができる。すなわち、被溶接部の裏面と案内部材との隙間が1.0mm未満であると、突出部で受けたシールドガスが被溶接部の裏面と案内部材との隙間に流れ込み難くなり、被溶接部の裏面の保護効果が低下することになる。一方、被溶接部の裏面と案内部材との隙間が2.5mmを超えると、被溶接部の裏面と案内部材との隙間に流れ込んだシールドガスが被溶接部の裏面から離れた所を流れてしまう。よって、被溶接部の裏面と案内部材との隙間を1.0mm以上2.5mm以下に設定することで、裏面側に流れてくるシールドガスの量が少なくても、効率よく被溶接部の裏面に供給できる。
【0021】
本開示の第6の態様に係るアーク溶接用治具は、ワークを構成する一の部材が他の部材に突き当てられて溶接される突き当て溶接に使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、ワークの被溶接部の表面に供給されたシールドガスを、被溶接部の裏面と対向するように配設された案内部材によって被溶接部の裏面に向けて案内するようにしたので、簡単な設備とし、かつ、工程や処理を増やすことなく、ワークの裏面にアーク溶接時の酸化皮膜が生成されないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るアーク溶接用治具の使用状態を示す斜視図である。
【
図3】アーク溶接用治具の使用状態を示す正面図である。
【
図4】アーク溶接用治具の使用状態を示す平面図である。
【
図5】アーク溶接用治具の使用状態を示す右側面図である。
【
図8】溶接時の被溶接部近傍を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るアーク溶接用治具1の使用状態を示す斜視図であり、また、
図2は、ワーク100が載置される前のアーク溶接用治具1の斜視図である。また、
図3~
図6は、アーク溶接用治具1の使用状態を示す正面図、平面図、右側面図、断面図である。
【0026】
この実施形態の説明では、アーク溶接用治具1の構造を説明する前に、ワーク100の構造について説明する。ワーク100は、
図7に示しているように、自動車のサスペンションアームであるが、これは一例であり、ワーク100はサスペンションアームに限定されるものではなく、溶接可能なワークであればどのようなものであってもよい。
【0027】
ワーク100は、サスペンションアームであることから複雑な三次元形状を有している。ワーク100における車体に取り付けられる側(車体側)は車両前後方向に2つに分岐しており、それぞれが車体に対して回動自在に取り付けられる。一方、ワーク100における車輪を支持する側(車輪側)は上下方向に貫通する貫通孔103を有しており、この貫通孔103に車輪を支持するための部材が取り付けられるようになっている。
【0028】
ワーク100は、鋼板をプレス成形してなる第1アーム構成部材101と、第2アーム構成部材102とが組み合わされて構成されている。第1アーム構成部材101及び第2アーム構成部材102は、共に鋼板等をプレス成形してなる部材である。ワーク100の断面を
図6に示している。ワーク100が車体に取り付けられた状態では、
図7に示すように上下方向の向きが設定されていてもよいし、
図7に示す向きとは反対向きであってもよい。以下の説明では、便宜上、
図7に示す溶接時の姿勢を基準として上下方向を定義するが、上下逆であってもよい。
【0029】
図6に示すように、第1アーム構成部材101は、底板部101aと、底板部101aの外側の縁部から上方へ延びる外側縦板部101bと、底板部101aの内側の縁部から上方へ延びる内側縦板部101cとを有している。
図7に示すように、底板部101aにおける車輪側に、上記貫通孔103が形成されている。
【0030】
第2アーム構成部材102は、第1アーム構成部材101の外側縦板部101bと内側縦板部101cとの間に配置される蓋状の部材である。第2アーム構成部材102は、第1アーム構成部材101の底板部101aから上方に離れており、
図6に示すように第1アーム構成部材101の外側縦板部101bの上下方向中間部から内側縦板部101cの上下方向中間部まで延びるとともに、外側縦板部101b及び内側縦板部101cを連結するように形成されている。第2アーム構成部材102の外側の縁部は、第1アーム構成部材101の外側縦板部101bの上下方向中間部に対して突き当てられて溶接され、また、第2アーム構成部材102の内側の縁部は、第1アーム構成部材101の内側縦板部101cの上下方向中間部に対して突き当てられて溶接される。従って、第1アーム構成部材101及び第2アーム構成部材102によって閉断面が形成される。溶接時には、第2アーム構成部材102の上面と第1アーム構成部材101の外側縦板部101bとに亘って溶接ビードAが形成され、また、第2アーム構成部材102の上面と第1アーム構成部材101の内側縦板部101cとに亘って溶接ビードAが形成される。溶接ビードAは、断続していてもよいし、連続していてもよい。
【0031】
(アーク溶接用治具1の構成)
アーク溶接用治具1は、第1アーム構成部材101及び第2アーム構成部材102をガスシールドアーク溶接する際に用いられる治具であり、具体的には、第2アーム構成部材102の外側の縁部が第1アーム構成部材101の外側縦板部101bの上下方向中間部に突き当てられて溶接される突き当て溶接、及び第2アーム構成部材102の内側の縁部が第1アーム構成部材101の内側縦板部101cの上下方向中間部に突き当てられて溶接される突き当て溶接に使用される。
【0032】
アーク溶接用治具1は、第1アーム構成部材101及び第2アーム構成部材102を所定の位置に位置決めした状態で保持し、両構成部材101、102を動かないように拘束する。ガスシールドアーク溶接では、例えば産業用ロボット等のロボットアーム(図示せず)に把持された溶接トーチT(
図8に示す)を用いて、被溶接部の表面に溶接ワイヤW及びシールドガスGを供給する。例えば、溶接条件等に応じて事前に設定された送り速度で、消耗電極としての溶接ワイヤWが送られてくるとともに、例えばアルゴンガス、炭酸ガス等のシールドガスが溶接トーチTの先端に開口する開口部から噴出する。シールドガスの流量も溶接条件等に応じて事前に設定されている。図示しないが、溶接装置は所定の溶接電流及び電圧を供給する電源部を備えている。電源部は、パルス電流と、非パルス電流とのうち、一方を選択して供給可能に構成されている。パルス電流の場合、溶接電流が脈動電流となり、例えばベース電流時に生じた溶滴をピーク電流時に溶接ワイヤWから切り離して母材(ワーク)へ移行させることができる。
【0033】
本実施形態では、第1アーム構成部材101及び第2アーム構成部材102を溶接する例について説明するが、アーク溶接用治具1は、他の溶接可能な部材を溶接する場合に利用することもできる。第1アーム構成部材101の外側縦板部101bが第2アーム構成部材102の外縁部に溶接される部分であり、また、第1アーム構成部材101の内側縦板部101cが第2アーム構成部材102の内縁部に溶接される部分である。したがって、被溶接部は、外側縦板部101b及び内側縦板部101cとなる。
図8では、第1アーム構成部材101の外側縦板部101bが第2アーム構成部材102の外縁部に溶接される様子を示しており、この図に示すように、溶接ワイヤW及びシールドガスGは、外側縦板部101bの表面101dに供給される。
【0034】
図2~
図5に示すように、アーク溶接用治具1は、例えば工場内の溶接設備の一部に固定される基台10を備えている。基台10は、高剛性な鋼板等が複数組み合わされてなるものであり、
図4に示す平面視でワーク100よりも大きく形成されている。ワーク100がアーク溶接用治具1に保持された状態で、ワーク100の車体側がアーク溶接用治具1の奥側に位置し、ワーク100の車輪側がアーク溶接用治具1の手前側に位置するようになっている。図示しないが、基台10には、第1アーム構成部材101を保持するクランプ等が設けられている。
【0035】
アーク溶接用治具1は、詳細は後述するが、シールドガスGを被溶接部の裏面に向けて案内する第1外側案内部材11と、第2外側案内部材12と、第3外側案内部材13と、第4外側案内部材14と、第1内側案内部材21と、第2内側案内部材22とを備えている。すなわち、基台10には、第1外側案内部材11を支持する第1外側ブラケット31と、第2外側案内部材12を支持する第2外側ブラケット32と、第3外側案内部材13を支持する第3外側ブラケット33と、第4外側案内部材14を支持する第4外側ブラケット34と、第1内側案内部材21を支持する第1内側ブラケット41と、第2内側案内部材22を支持する第2内側ブラケット42とが設けられている。
【0036】
第1外側ブラケット31の基部は、基台10に締結されている。第1外側ブラケット31の先端に第1外側案内部材11が締結されている。第1外側ブラケット31の基台10に対する相対位置は調整可能になっており、第1外側案内部材11を上下方向や水平方向に移動させ、所望の位置で固定することができる。また、第1外側案内部材11が、第1外側ブラケット31の先端に対して位置調整可能に取り付けられていてもよい。
【0037】
第2外側ブラケット32の基部は基台10に締結されており、第2外側ブラケット32の先端に第2外側案内部材12が締結されている。第2外側案内部材12の位置調整も可能になっている。また、第3外側ブラケット33の基部は基台10に締結されており、第3外側ブラケット33の先端に第3外側案内部材13が締結されている。第3外側案内部材13の位置調整も可能になっている。また、第4外側ブラケット34の基部は基台10に締結されており、第4外側ブラケット34の先端に第4外側案内部材14が締結されている。第4外側案内部材14の位置調整も可能になっている。また、第1内側ブラケット41の基部は基台10に締結されており、第1内側ブラケット41の先端に第1内側案内部材21が締結されている。第1内側案内部材21の位置調整も可能になっている。さらに、第2内側ブラケット42の基部は基台10に締結されており、第2内側ブラケット42の先端に第2内側案内部材22が締結されている。第2内側案内部材22の位置調整も可能になっている。尚、位置調整機構は必要に応じて設ければよく、形状が定まったワーク100のみにアーク溶接用治具1を使用する場合は省略してもよい。
【0038】
第1外側案内部材11は、ワーク100の車体側において
図4の左側に対応するように配置されている。第2外側案内部材12は、ワーク100の車輪側において
図4の左側に対応するように配置されている。第3外側案内部材13は、ワーク100の車輪側において
図4の右側に対応するように配置されている。第4外側案内部材14は、ワーク100の車体側において
図4の右側に対応するように配置されている。第1内側案内部材21及び第2内側案内部材22は、ワーク100の車体側においてその内側に対応するように配置されている。
【0039】
図8に示すように、第1外側案内部材11は、例えば鋼板等の板材で構成されており、本体部11aと突出部11bとを有している。第1外側案内部材11の厚みは、ワーク100を構成する第1アーム構成部材101及び第2アーム構成部材102の厚みのよりも厚く設定されている。尚、第1外側案内部材11の厚みは、ワーク100を構成する第1アーム構成部材101及び第2アーム構成部材102の厚みと同じであってもよいし、薄くてもよい。
【0040】
第1外側案内部材11の本体部11aは、被溶接部の表面101dに形成される溶接ビードAの真裏に対応するように配置されており、溶接ビードAよりも長く形成されている。尚、第1外側案内部材11と溶接ビードAとは同じ長さであってもよいし、溶接ビードAの方が長くてもよい。
【0041】
本体部11aは、ワーク100の被溶接部の裏面101eとの間に所定の間隔Bをあけて対向するように配設される部分であり、ワーク100の被溶接部を構成している外側縦板部101bと同方向に延びている。間隔Bは、1.0mm以上2.5mm以下に設定されている。この理由については後述する。
【0042】
図8に示す破線L1は、ワーク100の外側縦板部101bの上縁部(一縁部)を通る水平面を示している。本体部11aの上端部は、ワーク100の外側縦板部101bの上縁部と同じ高さ、即ち破線L1で示す水平面上に位置している。第1外側案内部材11における破線L1よりも上の部分が突出部11bとなっている。すなわち、突出部11bは、ワーク100の外側縦板部101bの上縁部よりも上方へ突出する部分である。突出部11bの本体部11aからの突出寸法Cは、破線L1と突出部11bの上縁部との距離であり、5mm以上に設定されている。突出部11bの突出寸法Cは、8mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましい。突出寸法Cがあまりに大きいとワークをアーク溶接用治具1にセットする際に突出部11bが邪魔になって作業性が低下することから、突出寸法Cの上限値を100mm以下とするのが好ましい。
【0043】
尚、第2外側案内部材12、第3外側案内部材13、第4外側案内部材14、第1内側案内部材21及び第2内側案内部材22は、それぞれ、第1外側案内部材11と同様に、ワーク100の被溶接部の裏面との間に所定の間隔をあけて対向するように配設される本体部12a、13a、14a、21a、22aと、突出部12b、13b、14b、21b、22bとを有している。
【0044】
(溶接時)
次に、アーク溶接用治具1を用いてガスシールドアーク溶接を行う場合について説明する。第1アーム構成部材101及び第2アーム構成部材102は、アーク溶接用治具1の所定位置に保持しておく。第2アーム構成部材102は第1アーム構成部材101に仮溶接していてもよい。また、第1外側案内部材11、第2外側案内部材12、第3外側案内部材13、第4外側案内部材14、第1内側案内部材21及び第2内側案内部材22は、それぞれ、ワーク100に対する相対的な位置関係が
図8に一例として示すような位置関係となるように位置調整しておく。
【0045】
その後、溶接トーチTを移動させて溶接を開始する。溶接を開始すると、溶接トーチTの先端部から溶接ワイヤW及びシールドガスGが外側縦板部101bの表面101dに供給される。溶接トーチTから噴出して外側縦板部101bの表面101dに供給されたシールドガスGは、外側縦板部101bの表面101dに沿って流れるとともに、矢印Dで示すように、外側縦板部101bの表面101dの上縁部を超えて流れることになる。外側縦板部101bの表面101dの上縁部を超えて流れたシールドガスは、外側縦板部101bに対して交差する方向の流れであるとともに溶接中は連続して供給されているので、裏面101e側に位置している第1外側案内部材11の突出部11bに達することになり、突出部11bによって受けることができる。突出部11bで受けたシールドガスは、第1外側案内部材11の本体部11aによって外側縦板部101bの裏面101eに向けて案内される。従って、外側縦板部101bの裏面101eもシールドガスによって大気と遮断されて保護されるので、酸化皮膜の生成が抑制される。
【0046】
つまり、外側縦板部101bの表面101dに供給されたシールドガスが、その自然な流れによって外側縦板部101bの裏面101eに供給されるので、酸化皮膜の除去工程及び酸化防止剤の事前塗布工程が不要になるとともに、従来例のようなバックガス供給配管やバックシールドガス挿入管といった配管部材も不要になり、簡単な設備で裏面101eへの酸化皮膜の生成が抑制される。
【0047】
第1外側案内部材11の突出部11bの突出寸法Cが5mm未満であると、突出部11bで受けることが可能なシールドガスの量が減少して外側縦板部101bの裏面101eの保護効果が低下することになるが、本態様のように突出部11bの突出寸法Cを5mm以上確保することで、突出部11bで受けることが可能なシールドガスの量が十分に確保されるので、外側縦板部101bの裏面101eの保護効果が向上する。また、突出寸法Cを8mm以上確保することで、突出部11bで受けることが可能なシールドガスの量をより多くすることができ、外側縦板部101bの裏面101eの保護効果が高まる。さらに、突出寸法Cを10mm以上確保することで、外側縦板部101bの裏面101eの保護効果をより一層高めることができる。
【0048】
また、外側縦板部101bの裏面101eと第1外側案内部材11の本体部11aとの隙間Bが1.0mm未満であると、突出部11bで受けたシールドガスが外側縦板部101bの裏面101eと第1外側案内部材11の本体部11aとの隙間に流れ込み難くなり、外側縦板部101bの裏面101eの保護効果が低下することになる。一方、外側縦板部101bの裏面101eと第1外側案内部材11の本体部11aとの隙間Bが2.5mmを超えると、外側縦板部101bの裏面101eと第1外側案内部材11の本体部11aとの隙間に流れ込んだシールドガスが外側縦板部101bの裏面101eから離れた所を流れてしまう。よって、外側縦板部101bの裏面101eと第1外側案内部材11の本体部11aとの隙間Bを1.0mm以上2.5mm以下に設定することで、外側縦板部101bの裏面101e側に流れてくるシールドガスの量が少なくても、シールドガスを効率よく外側縦板部101bの裏面101eに供給できる。
【0049】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明したように、本発明に係るアーク溶接用治具は、ガスシールドアーク溶接に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 アーク溶接用治具
11 第1外側案内部材
11a 本体部
11b 突出部
101b 外側縦板部(被溶接部)
101d 表面
101e 裏面
G シールドガス
T トーチ
W 溶接ワイヤ