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特開2024-36132炭化ケイ素焼結体、炭化ケイ素焼結体を用いた摺動部品および炭化ケイ素焼結体の製造方法
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  • 特開-炭化ケイ素焼結体、炭化ケイ素焼結体を用いた摺動部品および炭化ケイ素焼結体の製造方法 図1A
  • 特開-炭化ケイ素焼結体、炭化ケイ素焼結体を用いた摺動部品および炭化ケイ素焼結体の製造方法 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036132
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】炭化ケイ素焼結体、炭化ケイ素焼結体を用いた摺動部品および炭化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/577 20060101AFI20240308BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C04B35/577
F16C33/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140870
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】501415752
【氏名又は名称】日本ファインセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 彩乃
【テーマコード(参考)】
3J011
【Fターム(参考)】
3J011AA06
3J011DA01
3J011JA02
3J011KA01
3J011SB19
3J011SD02
3J011SE02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】黒鉛を含まない炭化ケイ素焼結体と比較し、耐摩耗性能を向上させるとともに無潤滑条件における運転および高荷重下における運転にも耐えうる曲げ強度を有する黒鉛含有炭化ケイ素焼結体、該炭化ケイ素焼結体の製造方法および該炭化ケイ素焼結体を含む摺動部品を提供する。
【解決手段】本発明の炭化ケイ素焼結体は平均粒子径が5~20μmの黒鉛および炭化ケイ素を含有する。該炭化ケイ素焼結体の全量に対して、黒鉛は1.5重量%以上4.5重量%以下である。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が5~20μmの黒鉛および炭化ケイ素を含有する炭化ケイ素焼結体であって、
炭化ケイ素100重量部に対して、
黒鉛が1.5重量部以上4.5重量部以下であることを特徴とする
炭化ケイ素焼結体。
【請求項2】
請求項1記載の炭化ケイ素焼結体であって、
曲げ強度が300MPa以上であることを特徴とする
炭化ケイ素焼結体。
【請求項3】
請求項1記載の炭化ケイ素焼結体であって、
無潤滑条件下の比摩耗量が0.18×10-5mm/Nm以下であることを特徴とする
炭化ケイ素焼結体。
【請求項4】
炭化ケイ素100重量部に対して、平均粒子径が5~20μmの黒鉛を1.5重量部以上4.5重量部含む混合物を焼成する工程を含むことを特徴とする、炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項5】
摺動部の一部または全部が、請求項1~3のうちいずれか1項に記載の炭化ケイ素焼結体により、形成されていることを特徴とする摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平均粒子径が5~20μmの黒鉛と、炭化ケイ素と、を含む炭化ケイ素焼結体などに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素が母材である焼結体は、水中において、特に、優れた摺動性能および耐摩耗性能を有することから水潤滑を利用した摺動部品(例えば、軸受、ギヤ、ワッシャ、シャフトおよびメカニカルシール並びにこれらの摺動部品の構成物であるウォーターポンプなど)として利用されている。
【0003】
一方、ウォーターポンプのような水中で用いられる摺動部品は、水が摺動部品における摺動部に到達する以前の時間(先行待機時間)においても円滑な摺動が必要となることがある。このような場合、無潤滑条件においても摺動性能および耐摩耗性能が担保される必要がある。
【0004】
例えば特許文献1には、耐摩耗性能を向上させる方法として、炭化ケイ素粉末に黒鉛を添加した黒鉛複合炭化ケイ素焼結体が提案されている。この炭化ケイ素焼結体は、平均粒子径が8~100μmである鱗状の天然黒鉛を10~30重量%含有し、80~92%の相対密度を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3350394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される黒鉛複合炭化ケイ素焼結体は、黒鉛を含まない炭化ケイ素焼結体と比較して、耐摩耗性能を向上させる一方で、機械的強度を著しく低下させる。このため、無潤滑条件のような高摩擦状態で運転させた場合または高荷重を加えた状態で運転させた場合、破損する問題がある。
【0007】
このような問題に鑑みて、本発明は、黒鉛を含まない炭化ケイ素焼結体と比較し、耐摩耗性能を向上させるとともに無潤滑条件における運転および高荷重下における運転にも耐えうる曲げ強度を有する黒鉛含有炭化ケイ素焼結体を提供する。また本発明は、該黒鉛含有炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供し、該黒鉛含有炭化ケイ素焼結体を用いた摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の炭化ケイ素焼結体は、平均粒子径が5~20μmの黒鉛および炭化ケイ素を含有する焼結体であって、炭化ケイ素100重量部に対して、黒鉛が1.5重量部以上4.5重量部以下であることを特徴とする。
【0009】
かかる構成の炭化ケイ素焼結体によれば、黒鉛の含有量が、炭化ケイ素100重量部に対して、1.5重量部以上4.5重量部以下であるので、曲げ強度を維持させるとともに、摺動性能も向上させる。このため、該炭化ケイ素焼結体を摺動部品としてもちいた場合、無潤滑条件での摺動時において、摺動部品の耐摩耗性能が向上する。さらに、該摺動部品は、高荷重下における摺動にも耐えうる曲げ強度を有する。
【0010】
(2)また、本発明の炭化ケイ素焼結体によれば、300MPa以上の曲げ強度を有することが好ましい。
【0011】
かかる構成の炭化ケイ素焼結体によれば、曲げ強度が300MPa以上であるので、該炭化ケイ素焼結体を摺動部品としてもちいた場合、該摺動部品は高荷重下における摺動にも耐えうる曲げ強度を有する。
【0012】
(3)また、本発明の炭化ケイ素焼結体によれば、無潤滑条件下の比摩耗量が0.18×10-5mm/Nm以下であることが好ましい。
【0013】
かかる構成の炭化ケイ素焼結体によれば、無潤滑条件下の比摩耗量が0.18×10-5mm/Nm以下であるので、無潤滑状態であっても優れた耐摩耗性能を示す。このことから、該焼結体を用いた摺動部品の機能は長期間にわたり維持される。
【0014】
(4)本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、炭化ケイ素100重量部に対して、平均粒子径が5~20μm以下の黒鉛を1.5重量部以上4.5重量部含む混合物を焼成する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
(5)本発明の摺動部品は、摺動部の一部または全部が、(1)~(3)のうちいずれかに記載の焼結体により、形成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本発明の実施例5に対応する炭化ケイ素焼結体のミクロ組織を示す200倍拡大走査型電子顕微鏡写真である。
図1B】本発明の実施例5に対応する炭化ケイ素焼結体のミクロ組織を示す2000倍拡大走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態について、さらに詳しく説明する。
【0018】
(摺動部品の構成)
最初に、本発明の一実施形態としての摺動部品の構成について説明する。
【0019】
本発明の一実施形態としての摺動部品はベアリング、シャフト、スライダ、スライダホルダおよびメカニカルシールなどの任意の摺動部品並びにこれらの摺動部品の組み合わせであるウォーターポンプなどである。
【0020】
本発明の一実施形態としての摺動部品の摺動部の一部は、後述するように、所定の方法により製造された本発明の一実施形態としての炭化ケイ素焼結体によって形成されている。このとき、摺動部品の摺動部の全部に炭化ケイ素焼結体が形成されていてもよく、摺動部に部分的に炭化ケイ素焼結体が形成されていてもよい。また、このとき、摺動部品の全体が炭化ケイ素焼結体によって形成されてもよいし、金属材料または非金属材料によって形成される部品と複合されて、炭化ケイ素焼結体が使用されてもよい。
【0021】
具体的に、本発明の一実施形態の摺動部品がメカニカルシールの場合、メカニカルシールの全部またはメカニカルシールの摺動面(接触面)の一部または全部が本発明の炭化ケイ素焼結体によって形成される。また、例えば、摺動部品がベアリングの場合、摺動部品は略円筒状に形成され、その内周面の一部または全部が本発明の炭化ケイ素焼結体によって形成される。また、例えば、シャフトの場合、摺動部品は略円柱状に形成され、その外周面の一部または全部が本発明の炭化ケイ素焼結体によって形成される。また、例えば、摺動部品がスライダまたはスライダホルダの場合、摺動部品は板状に形成される。このとき、当該板状の摺動部品の全部が炭化ケイ素焼結体であってよいし、板状の摺動部品の一の面である摺動面のみが炭化ケイ素焼結体によって形成されてもよい。
【0022】
本発明の一実施形態の摺動部品は、後述するように摺動性能を担保しながら、優れた耐摩耗性能および優れた曲げ強度を有しているので、様々な状況で使用される。特に、本発明の一実施形態としての摺動部品は水潤滑条件のほかに無潤滑条件において使用される。
【0023】
(炭化ケイ素焼結体の組成)
次に、本発明の一実施形態としての炭化ケイ素焼結体の組成および物理特性について説明する。
【0024】
本発明の一実施形態としての摺動部品の摺動部の一部または全部を構成する炭化ケイ素焼結体は、平均粒子径が5~20μmの黒鉛および炭化ケイ素を含有する炭化ケイ素焼結体であって、炭化ケイ素100重量部に対して、黒鉛が1.5重量部以上4.5重量部以下である。
【0025】
ここで、「平均粒子径」という用語は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される粒子径分布の50体積%の値であるが、これに限らず、炭化ケイ素焼結体の任意の断面を所定の装置(例えば、走査型電子顕微鏡)により観察し、その断面における、黒鉛粒子それぞれの径の和を黒鉛粒子の個数で割った値であってもよい。また、平均粒子径は、炭化ケイ素焼結体の断面図において長手方向または短手方向のいずれかの長さが代表されてもよいし、長手方向および短手方向の長さの相加平均または相乗平均が代表されてもよい。
【0026】
また、ここで、炭化ケイ素焼に対する黒鉛の割合を重量で示したが、これに限らない。例えば、前述した、走査型電子顕微鏡写真を用いて、面積比を算出したうえで、重量比を計算してもよく、炭化ケイ素との混合時における体積比を用いて重量比を計算してもよい。
【0027】
黒鉛の含有量が1.5重量部未満または黒鉛の平均粒子径が5μm未満の場合、炭化ケイ素焼結体の摺動性能が損なわれるとともに耐摩耗性が損なわれことから、このような炭化ケイ素焼結は摺動部品として不適なものとなる。一方で、黒鉛の含有量が4.5重量部を超すまたは黒鉛の平均粒子径が20μmを超す場合、炭化ケイ素焼結体の曲げ強度ひいては機械的強度が損なわれる。したがって、該炭化ケイ素焼結体を摺動部品として用いる場合、短期間で摺動部品としての性能を損ない、長期運用できなくなる。
【0028】
また、本発明の一実施形態としての摺動部品の摺動部の一部または全部を構成する炭化ケイ素焼結体は、炭化ケイ素に前記範囲の量の前記範囲の平均粒子径を有する黒鉛を調整することで、優れた耐摩耗性能を得ることができる。このとき、無潤滑条件下の比摩耗量が0.18×10-5mm/Nm以下であることが好ましいが、これに限定されず、摺動性能および使用条件に応じて所定の比摩耗量となるように選択されてもよい。同様に、本発明の一実施形態としての摺動部品の摺動部の一部または全部を構成する炭化ケイ素焼結体は、炭化ケイ素に前記範囲の量の前記範囲の平均粒子径を有する黒鉛を調整することで、優れた曲げ強度を得ることができる。この時、曲げ強度が300MPa以上であることが好ましいが、これに限定されず、摺動性能および使用条件に応じて所定の強度を有するように選択されてもよい。
【0029】
(炭化ケイ素焼結体の製造方法)
本発明の一実施形態としての摺動部品の摺動部の一部または全部を構成する炭化ケイ素焼結体の製造方法は、炭化ケイ素100重量部に対して、平均粒子径が5~20μmの黒鉛を1.5重量部以上4.5重量部以下で調合してえられた混合物を所望の質量になるように計量し、焼成する工程を含む。混合物の生成時に、炭化ケイ素および黒鉛の他に、焼結助剤、分散剤、造孔剤、離型剤およびバインダーなどの任意の添加物を添加してもよい。
【0030】
本発明の一実施形態で用いる炭化ケイ素は、易焼結性を向上させ、製造コストを抑制する観点からα型の結晶構造を有することが好ましいが、β型の結晶構造を有している炭化ケイ素を用いてもよい。また、α型の炭化ケイ素およびβ型の炭化ケイ素の混合物を用いてもよい。
【0031】
次に、これらの混合物は、スプレードライヤーを用いて造粒され、造粒粉が作製される。造粒後の粒子の粒子径は本発明の構成の範囲に矛盾を与えることがない範囲内で当業者にとって任意の平均粒子径に設定されてもよい。また、スプレードライヤーの条件は特に限定されないが、本発明の構成の範囲に矛盾を与えることがない範囲内で当業者にとって任意の条件に設定されてもよい。
【0032】
次いで、造粒紛を用いて、一軸加圧法または、冷間静水圧加圧法により成形体を得る。成形体は、機械加工により、任意の形状に加工しても良い。
【0033】
次いで、混合物は、所定の温度で焼成される。なお、焼成前に、混合物のバインダーなどに含まれる有機物を分解または除去する目的で、脱脂が行われてもよい。焼成は所定の炉で行われ、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気にて、焼結温度1900℃~2300℃、より好ましくは2000℃~2150℃の条件下で行われる。焼結温度が1900℃未満の場合、得られる焼結体の緻密化が進まず、焼結温度が2300℃を超す場合、焼結体の結晶粒が粗大化する。したがって、いずれの場合も曲げ強度が低下する原因となる。
【0034】
次いで、焼結物の研削および研磨などの機械加工が行われ、所定の形状の摺動部品として、形成される。
【0035】
なお、本発明は上記実施形態に限らず、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有する者によってその変形や改良が可能である。
【実施例0036】
次に、実施例の実験結果を参照しながら本発明の炭化ケイ素焼結体が、さらに詳しく説明される。しかしながら、本発明の炭化ケイ素焼結体は、実施例により限定されるものではない。
【0037】
表1に示される組成の炭化ケイ素焼結体の試験片のそれぞれを製造するために、平均粒子径0.6μmの炭化ケイ素粉末と表1に示される黒鉛とを調合した。また、炭化ケイ素および黒鉛の他に焼結助剤として、平均粒子径24nmのカーボンブラックが炭化ケイ素100重量部に対して1.5重量部および平均粒子径0.5μmの炭化ホウ素が炭化ケイ素100重量部に対して0.2重量部、バインダーとして、アクリル系バインダーが炭化ケイ素100重量部に対して3.1重量部となるように調合された。このとき、上記の混合物は、純水を加えスラリー濃度が45%となるように調合された。
【0038】
【表1】
【0039】
調合後の混合物は、スプレードライヤーによって、造粒粉の平均粒子径が50~70μmとなるように造粒された。その後、冷間静水圧加圧法に基づいて、120MPaの圧力条件下にて加圧成形が行われた。このとき、焼結後の形状が後述する所定の寸法になるように行われた。
【0040】
次いで、混合物は、不活性ガス雰囲気かつ1900~2300℃の温度の条件下で焼結された。その後、焼結後の焼結体を機械加工により後述する所定の寸法の試験片となるように調整された。
【0041】
図1は、得られた本発明の炭化ケイ素焼結体の実施例5のミクロ組織を表す断面図の走査型電子顕微鏡写真図である。図1Aは、200倍に拡大した断面図で、図1Bは、2000倍に拡大した断面図である。ここで、明暗が比較的明るい領域は炭化ケイ素焼結体における炭化ケイ素であり、明暗が比較的暗い領域は炭化ケイ素焼結体における黒鉛である。黒鉛は一般的に軟らかい組織であり、黒鉛が多いと、炭化ケイ素焼結体の強度(曲げ強度)が損なわれる。
【0042】
図1のそれぞれに示すように、実施例5で得られた炭化ケイ素焼結体は、平均粒子径が20μmの黒鉛が母材としての炭化ケイ素に対して均一に分散して析出している。また、当該黒鉛は、炭化ケイ素100重量部換算で3.0重量部である。図示しないが、実施例5同様に実施例1~4および6、7も平均粒子径が5~20μmとなり、黒鉛含有量が1.5重量部以上4.5重量部以下となる範囲内で同様の傾向を示した
【0043】
表1に示す、それぞれの炭化ケイ素焼結体に対して、曲げ強度(三点曲げ強度)および耐摩耗性能についての測定が行われた。表2は、本実施例および比較例の曲げ強度の結果を示した表である。なお、曲げ強度を測定するためにJIS R1601に基づいて、試験片が作製され、三点曲げ試験が実施された。
【0044】
【表2】
【0045】
表2の結果から、本実施例の炭化ケイ素焼結体(実施例1~7)は、比較例の炭化ケイ素焼結体(比較例2~3)に比べ、三点曲げ強度が優れている。このことから、本実施例の炭化ケイ素焼結を摺動部品として用いる場合、十分な機械的強度が提供される。
【0046】
本実施例の炭化ケイ素焼結体の摺動性能を、以下の表3に示す条件において往復摺動式試験機(新東科学株式会社製:トライボギアTYPE―40)によるなじみ試験および本試験を無潤滑条件下で行い、そのときの摩擦係数、摩耗重量および比摩耗量を測定した。また、比較のため、比較例1~3に対して同様の試験を行った。このとき、試験片の摺動先としては、比較例1と同様の組成を有する炭化ケイ素焼結体(日本ファインセラミックス株式会社製、常圧焼結SiC:型番SCP01)を103mm×70mm×6mmの寸法にし、摺動面を研削した板状のものを使用した(以下摺動板)。また、実施例1~7および比較例1~3の組成からなる試験片のそれぞれは、6mm×6mm×6mmの立方体の形態をとる。
【0047】
【表3】
【0048】
往復摺動式試験機では、実施例1~7および比較例1~3からなる炭化ケイ素焼結体のそれぞれを摺動板に接触させた状態で、表3に示す圧力で試験片の底面(摺動面)が摺動板の上面(摺動面)を押圧するように、試験片の底面(摺動面)が摺動板の上面(摺動面)の法線方向の荷重を試験片に加えながら、表3に示す速度で摺動板に対して該法線方向と直交する一の水平方向に複数回揺動運動させ、そのときの試験片の摩擦係数、摩耗重量および比摩耗量を測定した。
【0049】
表4は、実施例1~7および比較例1~3にかかる炭化ケイ素焼結体からなる試験片に対して、表3に示す条件にて行った往復摺動式試験における試験片の摩擦係数、摩耗重量および比摩耗量の試験結果を示す表である。試験片の摺動板に対する摩擦係数は、往復摺動式試験の本試験終了時の摩擦係数であり、試験片の摩耗重量および比摩耗量も往復摺動式試験終了時の値である。
【0050】
【表4】
【0051】
本実施例で用いた実施例1~7の炭化ケイ素焼結体からなる試験片と摺動板との試験終了時の摩擦係数は0.54以下であり、当該炭化ケイ素焼結体は摺動部品として用いることが好適である。また、実施例1~7の炭化ケイ素焼結体からなる試験片の摩耗重量は、0.07mg以下であり、比摩耗量は、0.18mm/Nm×10-5である。したがって、当該炭化ケイ素焼結体は摺動部品として用いる場合、優れた耐久性能および耐摩耗性能が提供される。一方、比較例1によれば、表4に示すように、試験終了時の摩擦係数は0.54以下である一方で、試験片の摩耗重量は、0.07mgを超え、比摩耗量は、0.2mm/Nm×10-5を超える。したがって、比較例1は、本実施例1~7と比較して摩耗重量および比摩耗量が多いため、実施例1~7と比較して耐久性能および耐摩耗性能に課題が残る。そのため、比較例1を摺動部品として用いる場合、無潤滑条件での用途への使用は困難である。
【0052】
以上、実施例に基づいて本発明について説明した。本発明の炭化ケイ素焼結体によれば、高荷重に耐えうる強度を有しつつ、無潤滑条件での摺動時における耐久性能および耐摩耗性能を有する。したがって、本発明の炭化ケイ素焼結体は、無潤滑条件および水潤滑条件に問わず、優れた摺動性能を有するので、メカニカルシールなどの摺動部品として使用することに好適である。
図1A
図1B