(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036139
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】軟磁性ナノワイヤーの分散液
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20240308BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240308BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240308BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240308BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20240308BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20240308BHJP
H01F 1/00 20060101ALI20240308BHJP
H01F 1/14 20060101ALI20240308BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B22F9/00 B
C22C38/00 303S
B22F1/00 S ZNM
B22F1/05
B22F1/06
B22F1/107
H01F1/00 172
H01F1/00 190
H01F1/14 130
H01F1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140882
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 菜保
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】三代 真澄
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA08
4K017BA06
4K017BB13
4K017CA04
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA02
4K017DA07
4K018BB01
4K018BB04
4K018BB05
4K018BD01
4K018BD04
4K018KA43
5E040AA11
5E040NN12
5E040NN15
5E041AA11
5E041NN12
5E041NN14
5E041NN15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】飽和磁化と比透磁率が十分に高く、かつ保磁力が十分に低い軟磁性ナノワイヤーを得ることができ、加えて、酸化劣化が抑制され保存安定性に優れた軟磁性ナノワイヤーの分散液を提供する。
【解決手段】鉄とホウ素を含有する軟磁性ナノワイヤーと、SP値が20~45(MPa)
1/2の有機溶媒を含み、前記軟磁性ナノワイヤーが、平均長が5μm以上であり、かつSEM-EDS法により測定した鉄/ホウ素のモル比が5未満である分散液。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄とホウ素を含有する軟磁性ナノワイヤーと、SP値が20~45(MPa)1/2の有機溶媒を含み、
前記軟磁性ナノワイヤーが、平均長が5μm以上であり、かつSEM-EDS法により測定した鉄/ホウ素のモル比が5未満である分散液。
【請求項2】
SEM-EDS法により測定した鉄/ホウ素のモル比が3未満である請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
鉄が、鉄(II)である請求項1または2に記載の分散液。
【請求項4】
真空乾燥して得られるナノワイヤーの振動試料型磁力計を用いて測定した飽和磁化が40emu/g以上である、請求項1または2に記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
【請求項5】
真空乾燥して得られるナノワイヤーの、振動試料型磁力計を用いて測定した保磁力が500Oe未満である、請求項1に記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
【請求項6】
真空乾燥して得られるナノワイヤーの、振動試料型磁力計を用いて測定した比透磁率が5以上である請求項1または2に記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
【請求項7】
6ケ月静置保管前後の鉄の構成比率の維持率が90%以上である請求項1または2に記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
【請求項8】
6ケ月静置保管前後の飽和磁化の維持率が75%以上である請求項1または2に記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
【請求項9】
請求項1または2に記載の分散液を基材上に塗布してなる塗膜を有する積層体。
【請求項10】
請求項9に記載の塗膜を有する積層体から剥離してなるフィルムまたはシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性ナノワイヤーの分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟磁性材料は、モーターのコア、電磁弁、各種センサー、磁界シールドや電磁波吸収材等のさまざまな用途で広く用いられている。一般的に、各用途において良好な性能を得るには、軟磁性材料は、高い透磁率、高い飽和磁化、低い保磁力を有することを有することが好ましい。これらの特性値が良好であるほど、各用途で優れた性能を発揮する。
【0003】
特に、鉄は飽和磁化が高い軟磁性材料であり、センサー、コア材、磁界シールド等に応用されている。さらに、鉄材料の中でも異方性が高い材料は、低い反磁界とパーコレーション閾値を有することから、軟磁性材料として期待されている。
【0004】
軟磁性材料は異方性を付与することにより、反磁界が抑制でき、透磁率が高くなる。そのため、特許文献1や非特許文献1等の軟磁性のナノワイヤーは軟磁性の粒子と比較し、透磁率が優れた材料になることが知られている。
【0005】
異方性を有する軟磁性材料としては、例えば、非特許文献2および3に鉄とホウ素を含むナノワイヤーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2021/107136号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Advanced Powder Technology(2016), 27, p704-710.
【非特許文献2】Journal of Applied Physics (2011), 109, 07B527
【非特許文献3】J. Chin. Chem. Soc. 2012, 59、“Synthesis and Charact
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の分散液は、トルエン等の溶媒を用いているため、酸化劣化しやすく保存安定性が不良であって、それから得られるナノワイヤーは、保磁力が高く、軟磁性材料としての性能が不十分であった。非特許文献1~3の分散液は、ナノワイヤーの製造の際に一時的に作製されているだけであって保存を考えた分散液ではなく、また、得られるナノワイヤーは長さが比較的短く異方性に乏しく、軟磁性材料としての性能(特に透磁率)が不十分であった。
【0009】
本発明は、飽和磁化と比透磁率が十分に高く、かつ保磁力が十分に低い軟磁性ナノワイヤーを得ることができ、加えて、酸化劣化が抑制され保存安定性に優れた軟磁性ナノワイヤーの分散液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定のナノワイヤーと特定の有機溶媒を用いることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
<1>鉄とホウ素を含有する軟磁性ナノワイヤーと、SP値が20~45(MPa)1/2の有機溶媒を含み、
前記軟磁性ナノワイヤーが、平均長が5μm以上であり、かつSEM-EDS法により測定した鉄/ホウ素のモル比が5未満である分散液。
<2>SEM-EDS法により測定した鉄/ホウ素のモル比が3未満である<1>に記載の分散液。
<3>鉄が、鉄(II)である<1>または<2>に記載の分散液。
<4>真空乾燥して得られるナノワイヤーの振動試料型磁力計を用いて測定した飽和磁化が40emu/g以上である、<1>~<3>いずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
<5>真空乾燥して得られるナノワイヤーの、振動試料型磁力計を用いて測定した保磁力が500Oe未満である、<1>~<4>いずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
<6>真空乾燥して得られるナノワイヤーの、振動試料型磁力計を用いて測定した比透磁率が5以上である<1>~<5>いずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
<7>6ケ月静置保管前後の鉄の構成比率の維持率が90%以上である<1>~<6>いずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
<8>6ケ月静置保管前後の飽和磁化の維持率が75%以上である<1>~<7>いずれかに記載の軟磁性ナノワイヤーの分散液。
<9><1>~<8>いずれかに記載の分散液を基材上に塗布してなる塗膜を有する積層体。
<10><9>に記載の塗膜を有する積層体から剥離してなるフィルムまたはシート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、飽和磁化と比透磁率が十分に高く、かつ保磁力が十分に低い軟磁性ナノワイヤーを得ることができ、加えて、酸化劣化が抑制され保存安定性に優れた軟磁性ナノワイヤーの分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の分散液を真空乾燥して得られた軟磁性ナノワイヤーのSEM写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、軟磁性ナノワイヤーと有機溶媒を含有する。
【0015】
[軟磁性ナノワイヤー]
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤーは、鉄を最も多く含み、必要に応じて、コバルトおよび/またはニッケルをさらに含む。
【0016】
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤー中の鉄の含有量は、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、ナノワイヤー全量に対して、70質量%以上とすることが好ましく、85質量%以上とすることがより好ましく、90質量%以上とすることがさらに好ましい。鉄の含有量は通常、ナノワイヤー全量に対して、95質量%以下である。
【0017】
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤー中のホウ素の含有量は、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、ナノワイヤー全量に対して、3質量%以上とすることが好ましく、4質量%以上とすることがより好ましく、5質量%以上とすることがさらに好ましい。ホウ素の含有量は通常、ナノワイヤー全量に対して、15質量%以下である。
【0018】
本発明において、鉄およびホウ素の各元素の含有量は、分散液を、ICP-AES法に基づく多元素同時分析法および単一元素分析法により、検量線法を用いて求めた値を用いている。
【0019】
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤー中の鉄、コバルト、ニッケルおよびホウ素以外の元素の含有量は特に限定されず、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、ナノワイヤー全量に対して、25質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましく、10質量%以下とすることがさらに好ましい。鉄、コバルト、ニッケルおよびホウ素以外の元素の具体例としては、例えば、酸素、炭素、ケイ素が挙げられる。
【0020】
本発明において、鉄、コバルト、ニッケルおよびホウ素以外の元素の含有量は、それらの元素の合計含有量のことであり、ナノワイヤー全量に対する値(質量%)で表されている。当該元素の含有量は、分散液を、ICP-AES法に基づく多元素同時分析法および単一元素分析法により、検量線法を用いて求めた値を用いている。詳しくは、ICP-AES法に基づく単一元素分析法により、検量線法を用いて求めた鉄、コバルト、ニッケルおよびホウ素の含有量を、ナノワイヤー全量から減ずることにより算出された値を用いている。
【0021】
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤー中の鉄/ホウ素のモル比は、5未満であることが必要であり、4未満であることが好ましく、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、3未満であることがより好ましい。前記モル比が5以上である場合、飽和磁化および比透磁率が低下する。前記モル比は通常、1以上である。
【0022】
鉄/ホウ素のモル比は、走査型電子顕微鏡(SEM)-EDS法により測定された値を用いている。詳しくは、当該モル比は、SEMによる任意の10視野において、EDS法により各元素の構成比率を測定することにより、算出された平均値を用いている。
【0023】
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤーの平均長は、5μm以上であることが必要で、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。上記のようにホウ素を含ませることにより、平均長が5μm以上のナノワイヤーを作製することができる。ナノワイヤーは、長いほど、異方性が高まり反磁界を低減することができる。ナノワイヤーの平均長が5μm未満である場合、飽和磁化および比透磁率が低下する。
【0024】
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤーの平均径は特に限定されないが、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、50~300nmであることが好ましく、75~200nmであることがより好ましい。前記平均径は、反応条件により制御することができ、用途に応じて適宜選択することができる。ナノワイヤーは細いほど、アスペクト比が大きくなり、反磁界が低減される。
【0025】
前記ナノワイヤーの平均長および平均径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による撮影に基づく、任意の100点での平均値を用いている。
【0026】
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤーの飽和磁化は、40emu/g以上であることが好ましく、60emu/g以上であることがより好ましく、150emu/g以上であることがさらに好ましい。飽和磁化が40emu/g未満の場合、軟磁性材料として性能が不足し扱いにくい。当該飽和磁化は通常、300emu/g以下である。
【0027】
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤーの比透磁率は、5以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。比透磁率が5未満の場合、軟磁性材料として性能が不足し扱いにくい。当該比透磁率は通常、300以下である。
【0028】
本発明の分散液に用いる軟磁性ナノワイヤーの保磁力は、500Oe未満であることが好ましく、400Oe未満であることがより好ましく、200Oe未満であることがさらに好ましい。保磁力が500Oe以上の場合、磁界への反応が鈍く、軟磁性材料として扱いにくい。一般に、異方性が高い材料ほど、保磁力が高くなるが、ホウ素を含有させることにより保磁力の上昇を抑制することができる。当該保磁力は通常、50Oe以上である。
【0029】
本明細書中、飽和磁化、比透磁率および保磁力は、25℃にて振動試料型磁力計(VSM)により求めた値(2回の測定値)の平均値を用いている。
【0030】
本発明の分散液に用いるナノワイヤーの製造方法は特に限定されないが、例えば、反応溶媒中、原料の金属イオンを、ホウ素原子を含んだ還元剤を用いて、磁場中で還元反応をおこなう方法が挙げられる。金属イオンは鉄イオンを含み、必要に応じてコバルトイオンおよび/またはニッケルイオンをさらに含む。還元反応は、バッチ法でおこなってもよいし、フロー法でおこなってもよい。
【0031】
磁場中で金属イオンを還元する場合、金属塩を反応溶媒に溶解させて金属イオンを供給することが好ましい。金属塩の形態は、用いる反応溶媒に溶解し、還元可能な状態で金属イオンを供給できるものであれば特に限定されない。金属塩としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケルのそれぞれ塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。これらの塩は、水和物でも、無水物でもよい。金属イオンの価数は特に限定されない。例えば、鉄イオンとしては、鉄(II)イオン、鉄(III)イオンいずれであってもよいが、飽和磁化および比透磁率のさらなる増加ならびに保磁力のさらなる低減の観点から、鉄(II)イオンがより好ましい。
【0032】
金属イオンの種類および濃度それぞれは、得られるナノワイヤーが所望の構成比率を有するような種類および濃度であってよい。金属イオンの種類を選択しつつ、各金属イオンの濃度を調整することにより、ナノワイヤーの組成および構成比率を制御することができる。金属イオンの濃度は、鉄、コバルト、ニッケルの合計で、10~1000mmol/Lとすることが好ましく、ナノワイヤーを形成しやすく、収率が向上しやすいことから、30~300mmol/Lとすることがより好ましく、50~200mmol/Lとすることがさらに好ましい。
【0033】
鉄イオンを含む反応溶液は、反応開始前の溶存酸素量を0.5~4.0mg/Lに制御することが好ましく、1.0~3.0mg/Lに制御することがより好ましい。前記溶存酸素量が4.0mg/Lを超える場合、ナノワイヤーの平均長が5μm以上の長さまで成長しない場合がある。一方、前記溶存酸素量が0.5mg/L未満の場合、再イオン化等が起こりやすい不安定なナノワイヤーになる場合がある。溶存酸素量の制御は、不活性ガスによる脱気や脱酸素剤を用いることでおこなうことができる。
【0034】
本発明においては、還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン等のホウ素原子を含んだ還元剤である必要があり、中でも、水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。ホウ素原子を含まない還元剤を用いる場合、ナノワイヤーを得ることができないことがある。
【0035】
還元剤の濃度は特に限定されないが、50~2000mmol/Lとすることが好ましく、100~1000mmol/Lとすることがより好ましく、150~600mmol/Lとすることがさらに好ましい。還元剤の濃度が50mmol/L未満の場合、還元反応が十分進行しない場合があり、還元剤の濃度が2000mmol/Lを超える場合、還元反応の進行により急激な発泡が起こる場合がある。
【0036】
上記した金属イオンおよび還元剤の濃度は、反応液(すなわち金属イオン溶液および還元剤溶液の混合液)中における濃度である。
【0037】
反応溶媒は、金属イオンおよび還元剤が溶解できる限り特に限定されないが、溶解性や塗布時の留去等の観点から、水、メタノール、エタノールが好ましい。
【0038】
還元反応をおこなう温度は特に限定されないが、室温(例えば、25℃)から溶媒の沸点までの温度が好ましく、簡便性の観点から室温でおこなうことがより好ましい。
【0039】
還元反応の時間は軟磁性ナノワイヤーが作製できれば特に限定されない。バッチ法でおこなう場合は、1分~1時間が好ましい。フロー法でおこなう場合、所定の時間が経過すれば反応後の溶液を取り出してもよいし、連続的に反応後の溶液を取り出してもよい。
【0040】
金属イオンを還元する際に印加する磁場は、バッチ法、フロー法いずれの場合であっても、中心磁場を10~200mTとすることが好ましい。中心磁場が10mT未満の場合、軟磁性ナノワイヤーが生成しにくい場合がある。200mTを超える強い磁場は発生させることが困難である。
【0041】
還元反応後、遠心分離、ろ過、磁石による吸着等で軟磁性ナノワイヤーを精製回収することができる。
【0042】
[有機溶媒]
本発明の分散液に用いる有機溶媒は、SP値が20~45(MPa)1/2であることが必要であり、21~30(MPa)1/2であることが好ましく、23.5~30(MPa)1/2であることがより好ましい。SP値が20~45(MPa)1/2である有機溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン(SP値=23.0(MPa)1/2)、イソプロピルアルコール(SP値=23.5(MPa)1/2)、エタノール(SP値=26.6(MPa)1/2)が挙げられる。分散液の有機溶媒のSP値が上記範囲に満たない場合、ナノワイヤー表面が有機溶媒よりも親水的になるため、ナノワイヤー表面に水等が吸着しやくすくなり、酸化劣化が促進され、保存安定性が不良となる。またSP値が上記範囲を超える場合は、溶媒が吸水しやすくなり、酸化劣化が促進され、保存安定性が不良となる。
【0043】
本発明において、SP値はハンセン1次元の溶解度パラメータの値を用いている。
【0044】
本発明の分散液に用いる有機溶媒の沸点は、25~300℃であることが好ましく、50~250℃であることがより好ましい。沸点が25℃未満の場合、室温で揮発する場合があり、沸点が300℃を超える場合、塗布時に留去させるのが困難な場合がある。
【0045】
本発明の分散液に用いる有機溶媒の25℃における粘度は、1cP以上であることが好ましく、1.5cP以上であることがより好ましい。有機溶媒の粘度は、高いほど、ナノワイヤーの分散性が向上しやすい。
【0046】
[軟磁性ナノワイヤーの分散液]
本発明の分散液の製造方法は特に限定されないが、例えば、ナノワイヤーと有機溶媒を混合する方法が挙げられる。混合方法は、撹拌機等を用いて解繊しながら攪拌混合してよいし、ナノワイヤーの塊(二次凝集物)の状態で浸漬混合するだけでもよい。
【0047】
本発明の軟磁性ナノワイヤーの分散液には、バインダー、酸化防止剤、濡れ剤、レベリング剤等の添加剤を含んでもよい。バインダーとしては、例えば、エポキシ等の熱硬化性樹脂;ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等の熱可塑性樹脂;イソプレンゴムやシリコーンゴム等のゴムが挙げられる。
【0048】
本発明においては、平均長が5μm以上であり、かつSEM-EDS法により測定した鉄/ホウ素のモル比が5未満である特定の軟磁性ナノワイヤーと、SP値が20~45(MPa)1/2である特定の有機溶媒を用いることにより、飽和磁化と比透磁率が十分に高く、かつ保磁力が十分に低い軟磁性ナノワイヤーを得ることができ、半年以上、ナノワイヤー中の鉄の構成比率や飽和磁化が維持できる保存安定性に優れた分散液を得ることができる。
【0049】
本発明の軟磁性ナノワイヤーの分散液は、基材上に塗布し乾燥することにより、塗膜を有する積層体を形成することができる。基材は、塗膜を支持し得るものであれば特に限定されない。基材を構成し得る材料としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド等の有機材料;金属箔、セラミック、ガラス等の無機材料または;それらの複合材料が挙げられる。塗布方法は特に限定されないが、例えば、ワイヤーバーコーター塗り、フィルムアプリケーター塗り、スプレー塗り、グラビアロールコーティング法、スクリーン印刷法、リバースロールコーティング法、リップコーティング、エアナイフコーティング法、カーテンフローコーティング法、浸漬コーティング法、ダイコート法、スプレー法、凸版印刷法、凹版印刷法、インクジェット法が挙げられる。
【0050】
本発明の軟磁性ナノワイヤーの分散液は、基材上に塗布し乾燥し、さらに塗膜を基材から剥離することにより、シートやフィルムを形成することができる。基材を構成し得る材料は、シートやフィルムを剥離できる限り特に限定されず、積層体を構成する基材と同様の範囲内の基材から選択することができる。塗布方法は、積層体を形成する場合と同様の範囲内の方法から選択することができる。
【0051】
本発明の軟磁性ナノワイヤーの分散液から得られる積層体やフィルムは、電磁波遮蔽材料として好適に用いることができる。電磁波遮蔽材料には、電界シールド、磁界シールド等の電磁波シールド;および電磁波吸収体等を包含する。電磁波シールドとは、電磁波の透過を抑制し電磁波を反射するものである。電磁波吸収体とは、電磁波の透過や反射を抑制し電磁波を吸収するものである。電磁波遮蔽材料が遮蔽する電磁波の周波数は、例えば、26.5~40GHz、70~80GHz、287.5~312.5GHz等の帯域である。前記電磁波遮蔽材料は、モーターのコア、電磁弁、各種センサー等のさまざまな用途に好適に用いることができる。
【実施例0052】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
A.評価方法
(1)ナノワイヤーの平均長、平均径およびアスペクト比
実施例、比較例で得られた分散液をT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、イソプロピルアルコールで3回洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーを得た。
得られたナノワイヤーを、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10万倍で撮影した。任意の10視野中における任意の100点において、ナノワイヤーの長さおよび径を測定し、それぞれ平均値を算出した。また、平均長を平均径で除算することでアスペクト比を算出した。
繊維長について、以下の基準で評価した。
◎:10μm以上(優良)
○:5μm以上10μm未満(良)
×:5μm未満(実用上問題あり)
【0053】
(2)ナノワイヤーの鉄/ホウ素の構成比率
(1)で得られたナノワイヤーについて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10万倍で撮影した。任意の10視野においてEDS法により各元素の構成比率を測定し、鉄/ホウ素のモル比の平均値を算出した。
ナノワイヤー中の鉄/ホウ素のモル比率について、以下の基準で評価した。
◎◎:3未満(最良)
◎:3以上4未満(優良)
○:4以上5未満(良)
×:5以上(実用上問題あり)
【0054】
(3)ナノワイヤー中の鉄とホウ素の構成比率
(1)で得られたナノワイヤーを、希塩酸と希硝酸との混合溶液に溶解した。得られた溶解液を、ICP-AES法の多元素同時分析法により、鉄、コバルト、ニッケル、ホウ素の含有の有無を確認した。各元素の検出限界値は0.1質量%であった。
含有が確認された元素について、ICP-AES法の単一元素分析法によりそれぞれの元素の標準液を用いて検量線法により、含有量を定量した。各元素の検出限界値は0.1質量%であった。
定量された各元素の含有量から、ナノワイヤー全量(100質量%)に対する鉄とホウ素の含有比率を求めた。
【0055】
(4)磁気特性(飽和磁化、比透磁率および保磁力)
(1)で得られたナノワイヤーについて、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。測定は室温(25℃)でおこなった。なお、測定はナノワイヤーを配向させない状態でおこなった。
【0056】
飽和磁化は、以下の基準により評価した。
◎◎:150emu/g以上(最良)
◎:60emu/g以上150emu/g未満(優良)
○:40emu/g以上60emu/g未満(良)
×:40emu/g未満(実用上問題あり)
【0057】
比透磁率は、以下の基準により評価した。
◎◎:100以上(最良)
◎:40以上100未満(優良)
○:5以上40未満(良)
×:5未満(実用上問題あり)
【0058】
保磁力は、以下の基準により評価した。
◎◎:200Oe未満(最良)
◎:200Oe以上400Oe未満(優良)
○:400Oe以上500Oe未満(良)
×:500Oe以上(実用上問題あり)
【0059】
(5)安定性評価
実施例、比較例で得られた分散液を密閉容器に入れ、室温で6カ月、静置保管した。
静置保管後の分散液について(3)および(4)と同様の操作をおこない、ナノワイヤー中の鉄の構成比率および飽和磁化を求めた。
静置保管前後の鉄の構成比率の維持率を求め、以下の基準により評価した。
◎◎:95%以上(優良)
○:90%以上95%未満(良)
×:90%未満(実用上問題あり)
静置保管前後の飽和磁化の維持率を求め、以下の基準により評価した。
◎◎:90%以上(最良)
◎:85%以上90%未満(優良)
○75%以上85%未満(良)
×:75%未満(実用上問題あり)
【0060】
(6)総合評価
上記した磁気特性(飽和磁化、比透磁率および保磁力)の評価結果および安定性評価(鉄の構成比率、飽和磁化)を総合的に評価した。詳しくは、これらの評価結果のうち、最低の評価結果を総合評価の結果として用いた。
◎◎:最良
◎:優良
○:良
×:不可(実用上問題あり)
【0061】
B.原料
(1)ナノワイヤー
(1-A)ナノワイヤーA
塩化鉄(II)四水和物8.55質量部(43モル部)を水300質量部に溶解し、中心磁場が130mTの磁気回路に入れ、窒素ガスのバブリングを開始した。バブリング開始から10分経過した後、溶存酸素量が2mg/Lであることを確認した後、水素化ホウ素ナトリウム7.00質量部(185モル部)を水175質量部に溶解した水溶液の滴下を開始した。15分かけて滴下後、さらに10分間静置した。反応液中の鉄イオンおよび還元剤の濃度は以下の通りであった:(鉄イオン91mmol/L、還元剤389mmol/L)。
その後、磁場の印加と窒素ガスのバブリングを停止し、反応液を200質量部の水に注いで希釈した。生じた黒色のナノワイヤーをT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、水、イソプロピルアルコールでそれぞれ3回洗浄した。その後、再度ろ過してナノワイヤーのみを回収することにより、ナノワイヤーAを得た。
【0062】
(1-B)ナノワイヤーB
水素化ホウ素ナトリウム水溶液の滴下にかける時間を10分とした以外は、ナノワイヤーAを得る方法と同様の操作をおこなって、ナノワイヤーBを得た。
【0063】
(1-C)ナノワイヤーC
原料の塩化鉄(II)四水和物を塩化鉄(III)六水和物に変更した以外は、ナノワイヤーAを得る方法と同様の操作をおこなって、ナノワイヤーCを得た。
【0064】
(1-D)ナノワイヤーD
塩化鉄(II)四水和物8.55質量部(43モル部)を水300質量部に溶解し、大気に開放した中心磁場が130mTの磁気回路に入れた。溶存酸素量が7mg/Lであることを確認した後、水素化ホウ素ナトリウム7.00質量部(185モル部)を水175質量部に溶解した水溶液の滴下を開始した。15分かけて滴下後、さらに10分間静置した。
その後、磁場の印加を停止し、反応液を200質量部の水に注いで希釈した。生じた黒色の固体をT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、イソプロピルアルコールで3回洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーDを得た。
【0065】
(1-E)ナノワイヤーE
塩化鉄(II)四水和物8.55質量部(43モル部)を水300質量部に溶かし、150mTの磁場を印加した反応容器中に入れた。脱酸素剤としてヒドラジン一水和物を0.5質量部添加し、溶存酸素量が0.2mg/Lであることを確認した後、水素化ホウ素ナトリウム7.00質量部(185モル部)を水175質量部に溶解した水溶液の滴下を開始した。15分かけて滴下後、さらに10分間静置した。その後、磁場の印加を停止し、反応液を200質量部の水に注いで希釈した。
生じた黒色の固体をT100A090CのPTFE製フィルターを用いてろ過回収後、イソプロピルアルコールで3回洗浄し、室温で24時間真空乾燥してナノワイヤーEを得た。
【0066】
(B)溶媒
・N-メチル-2-ピロリドン(NMP): SP値23.0(MPa)1/2、粘度1.89cP
・イソプロピルアルコール(IPA): SP値23.5(MPa)1/2、粘度2.04cP
・エタノール: SP値26.6(MPa)1/2、 粘度1.10cP
・メチルエチルケトン(MEK): SP値19.0(MPa)1/2、粘度0.40cP
・テトラヒドロフラン(THF): SP値18.6(MPa)1/2、粘度0.46cP
・トルエン: SP値18.2(MPa)1/2、粘度0.56cP
・水: SP値47.9(MPa)1/2、粘度0.89cP
【0067】
実施例1
ナノワイヤーA 5質量部と、NMP95質量部を、攪拌装置を用いて混合し、分散液を作製した。
【0068】
実施例2~6、比較例1~6
溶媒、分散液の濃度を変更する以外は実施例1と同様の操作をおこなって、分散液を作製した。
【0069】
実験例1の実施例および比較例で得られた分散液の構成、濃度、ならびに、分散液を真空乾燥して得たナノワイヤーの特性値および6カ月静置保管後の分散液を真空乾燥して得たナノワイヤーの特性値を表1に示す。
【0070】
【0071】
実施例1~6の軟磁性ナノワイヤーの分散液は、鉄/ホウ素のモル比が5未満であり、平均長が5μm以上であって、SP値が20~45(MPa)1/2の有機溶媒を用いていたため、飽和磁化と比透磁率が十分に高く、かつ保磁力が十分に低い軟磁性ナノワイヤーを得ることができ、保存安定性に優れていた。
【0072】
比較例1~3の軟磁性ナノワイヤーの分散液は、SP値が20(MPa)1/2未満の有機溶剤を用いていたため、保存安定性が不良であった。
比較例4の軟磁性ナノワイヤーの分散液は、SP値が45(MPa)1/2を超える水を用いていたため、保存安定性が不良であった。
比較例5の軟磁性ナノワイヤーの分散液は、平均長が5μm未満のナノワイヤーを用いていたため、飽和磁化が不良であった。