(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036143
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】脂質膜構造体含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20240308BHJP
A61K 8/14 20060101ALI20240308BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20240308BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20240308BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/14
A61K8/55
A61Q1/00
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140891
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】越知 貴夫
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB051
4C083AC111
4C083AC112
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC302
4C083AC582
4C083AD492
4C083AD572
4C083BB21
4C083BB26
4C083CC02
4C083DD45
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE12
4C083FF04
(57)【要約】
【課題】脂質膜構造体を製造する際に、簡便な手法によって当該脂質膜構造体の粒子径を制御しうる手段を提供する。
【解決手段】(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、(B)式1で表される化合物と、(C)水と、を含む脂質膜構造体含有組成物の製造方法であって、前記(A)成分と、前記(B)成分と、前記(C)成分とを混合して、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成された分散液を得る分散工程を含み、前記分散工程が、前記脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて、前記分散液に対する前記(A)成分の濃度を決定することを含む、脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、(B)下記式1:
【化1】
上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2~6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3~6のシクロアルキル基であり、
Xは、-O-、-C(=O)O-または-O-C(=O)-であり、
nは、0または1である、
で表される化合物と、(C)水と、を含む脂質膜構造体含有組成物の製造方法であって、
前記(A)成分と、前記(B)成分と、前記(C)成分とを混合して、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成された分散液を得る分散工程を含み、
前記分散工程が、前記脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて、前記分散液に対する前記(A)成分の濃度を決定することを含む、脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記分散液における前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、請求項1に記載の脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記分散液に対する前記(A)成分の濃度が、0.01~15質量%である、請求項1または2に記載の脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記分散液と、前記(C)成分とを混合して前記脂質膜構造体含有組成物を得る濃度調整工程をさらに含む、請求項1または2に記載の脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記分散工程において、前記(A)成分と、前記(B)成分と、前記(C)成分とを、前記(A)成分の相転移温度以上で混合する、請求項1または2に記載の脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の製造方法により脂質膜構造体含有組成物を製造することを含む、化粧料の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の製造方法により脂質膜構造体含有組成物を製造することを含む、皮膚外用剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質膜構造体含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームやバイセルなどの脂質膜構造体は、保湿などのスキンケア効果を有し、また有効成分を内包できることから、化粧品用途や皮膚外用剤用途において有用である。上記用途における脂質膜構造体の原料としては、天然由来であり、安全性が高いことから、リン脂質が主に用いられる。中でも、酸化によって劣化しにくいことから、リン脂質の不飽和炭素結合に水素原子が付加した水素添加リン脂質が好ましく用いられる。
【0003】
これまでに、水素添加リン脂質を用いて脂質膜構造体を形成する技術が検討されている。例えば、特許文献1には、水素添加リン脂質に、セラミド類、分岐型アルコール等を混合した組成物を調製し、大過剰の水に分散させることで、脂質膜の柔軟性および保存安定性の高いリポソームが得られることが記載されている。特許文献2には、水素添加リン脂質、グリコール化合物、脂溶性化合物を含有する油溶性組成物と、水溶性組成物とを混合して多層リポソームを形成した後、変換プロセスで処理することで、微細な単層リポソームが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-32230号公報
【特許文献2】特表2012-504620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化粧品用途や皮膚外用剤用途では、皮膚への浸透性や内包した有効成分の効果発現、保存安定性などの観点から、微細な(例えば、粒子径200nm以下の)脂質膜構造体が求められる。しかし、水素添加リン脂質は、水素添加されていないリン脂質に比べて相転移温度が高いため、微細な脂質膜構造体の形成が困難であった。実際に、特許文献1および2に記載されるような水素添加リン脂質を用いて脂質膜構造体を形成する技術においては、微細な(例えば、粒子径200nm以下の)脂質膜構造体を形成させるために、マイクロフルイダイザー等の微細化手段を用いる必要があった。
【0006】
また、脂質膜構造体は、その用途に応じて、粒子径を調整されたものであることが好ましい。例えば、粒子径が小さいほど、脂質膜構造体含有組成物の塗布時の感触は軽くなり、肌への浸透感が高まり、外観は透明に近づくが、粒子径が大きくなるほど、脂質膜構造体含有組成物の塗布時の感触は重くなり、肌への浸透感が穏やかに感じられ、外観は半透明から白濁状へと近づく。そのため、目的とする感触や外観に応じて粒子径を設計することが求められる。また、見た目の高級感を付与する目的で、外観を半透明とする場合においては、粒子径によって半透明の度合いが異なるため、品質管理の点においても粒子径を適切に調整しうる技術が求められている。マイクロフルイダイザー等の工業的に用いられる微細化手段では、粒子径の制御が難しく、圧力やパス回数など過大な条件検討が必要であり、処方の組成検討と装置の条件検討が適切に組み合わさっていない場合は、粒子径の分散均一性の点で広い分布を持つ脂質膜構造体が得られる傾向にある。また、小規模の製造スケールの場合に用いられる微細化手段(例えば、超音波処理法や押し出し法)であっても、粒子径の制御が難しいか、または粒子径の制御はできるものの、作業が煩雑であった。よって、ある特定の粒子径を持つリポソームを簡便に得ることは難しかった。
【0007】
したがって、本発明は、脂質膜構造体を製造する際に、簡便な手法によって当該脂質膜構造体の粒子径を制御しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、(B)下記式1:
【0009】
【0010】
(上記式1中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数2~6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3~6のシクロアルキル基であり、Xは、-O-、-C(=O)O-または-O-C(=O)-であり、nは、0または1である)
で表される化合物と、(C)水と、を含む脂質膜構造体含有組成物の製造方法において、これらの成分を混合して得られる分散液における上記(A)成分の濃度が、当該製造方法によって製造される脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の粒子径との間で強い正の相関関係を示す(上記濃度を高くするに従って粒子径が大きくなる)ことを見出した(以下、この相関関係を「本発明の関係」と称する)。そして、この知見に基づき、上記分散液を得る際に、脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて当該分散液中の前記(A)成分の濃度を制御することで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の一形態は、前記(A)成分と、前記(B)成分と、前記(C)成分とを含む脂質膜構造体含有組成物の製造方法であって、前記(A)成分と、前記(B)成分と、前記(C)成分とを混合して、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成された分散液を得る分散工程を含み、前記分散工程が、前記脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて、前記分散液に対する前記(A)成分の濃度を決定することを含む、脂質膜構造体含有組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脂質膜構造体を製造する際に、簡便な手法によって当該脂質膜構造体の粒子径を制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】低温電子顕微鏡法(Cryo-TEM)により撮影された実施例の脂質膜構造体の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一形態は、(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、(B)下記式1:
【0015】
【0016】
(上記式1中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数2~6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3~6のシクロアルキル基であり、Xは、-O-、-C(=O)O-または-O-C(=O)-であり、nは、0または1である)
で表される化合物と、(C)水と、を含む脂質膜構造体含有組成物の製造方法であって、前記(A)成分と、前記(B)成分と、前記(C)成分とを混合して、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成された分散液を得る分散工程を含み、前記分散工程が、前記脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて、前記分散液に対する前記(A)成分の濃度を決定することを含む、脂質膜構造体含有組成物の製造方法である。かような本発明の製造方法によれば、脂質膜構造体を製造する際に、簡便な手法によって当該脂質膜構造体の粒子径を制御することができる。
【0017】
本発明に係る脂質膜構造体含有組成物によれば、マイクロフルイダイザー等の微細化手段を要することなく、微細な(具体的には、粒子径10nm以上200nm以下の)、目的とする粒子径を有する脂質膜構造体を形成することができる。
【0018】
上述したように、リポソームやバイセルなどの脂質膜構造体は、化粧品用途や皮膚外用剤用途において有用である。上記用途では、皮膚への浸透性や内包した有効成分の効果発現、保存安定性などの観点から、微細な(例えば、粒子径200nm以下の)脂質膜構造体が求められる。また、上記の観点のどれを目的とするかにより脂質膜構造体の望ましい粒子径が異なるため、用途に応じて粒子径を制御することが求められてきた。
【0019】
上記用途における脂質膜構造体の原料としては、天然由来であり、安全性が高いことから、リン脂質が主に用いられる。中でも、酸化によって劣化しにくいことから、水素添加リン脂質が好ましく用いられる。しかし、水素添加を行っていないリン脂質に比べ、水素添加リン脂質は相転移温度が高く、物性が両者で大きく異なる。このため、特許文献1および2に記載された技術では、相転移温度の高い水素添加リン脂質を用いて微細な(例えば、粒子径200nm以下の)脂質膜構造体を簡便に形成することが困難であり、よって、目的とする粒子径を有する脂質膜構造体を得ることはできなかった。
【0020】
そこで、本発明者は、水素添加リン脂質を用いて微細な脂質膜構造体を簡便に形成する手段について、鋭意検討した。その結果、驚くべきことに、脂質膜構造体含有組成物を製造するにあたって、(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、(B)上記式1で表される化合物(以下、「ポリオール化合物」とも称する)と、(C)水とを混合して分散液を得る際に、脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて、分散液における(A)成分の濃度を変化させることで、微細化手段を要することなく、微細な(具体的には、粒子径10nm以上200nm以下の)、目的とする粒子径の脂質膜構造体が形成される(すなわち、本発明の関係が存在する)ことを見出した。本発明において、脂質膜構造体の目的とする粒子径は、10nm以上200nm以下の範囲内である。
【0021】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。本明細書において、範囲を示す「x~y」は、xおよびyを含み、「x以上y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0022】
<脂質膜構造体含有組成物の製造方法>
本発明の一形態に係る脂質膜構造体含有組成物の製造方法は、(A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、(B)下記式1:
【0023】
【0024】
(上記式1中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数2~6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3~6のシクロアルキル基であり、Xは、-O-、-C(=O)O-または-O-C(=O)-であり、nは、0または1である)
で表される化合物と、(C)水とを混合して、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成された分散液を得る分散工程を含み、前記分散工程が、脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて、分散液に対する(A)成分の濃度を決定することをさらに含む。
【0025】
すなわち、本発明の一形態に係る脂質膜構造体含有組成物の製造方法では、製造すべき脂質膜構造体の所望の粒子径を定め、それを本発明の関係に照らして、分散工程において調製する分散液中の(A)成分の濃度を決定する。本発明に係る製造方法において製造される脂質膜構造体は、その粒子径が10nm以上200nm以下というものである。
【0026】
以下、本発明の製造方法について説明する前に、まず、脂質膜構造体について説明する。
【0027】
[脂質膜構造体]
脂質膜構造体の形態は、脂質分子同士が親水基を外側に向け、疎水基を内側に向き合わせて配列したラメラ(脂質二重膜)構造を有していれば特に制限されず、リポソーム、バイセル、αゲルなどが挙げられる。脂質膜構造体は、ユニラメラまたはシングルラメラと呼ばれる単層ラメラ構造体であってもよく、オリゴラメラと呼ばれる数層(2層~10層)の多層ラメラ構造体であってもよく、より層数の多い多層ラメラ構造体であってもよく、これらが混在していてもよい。
【0028】
脂質膜構造体が単層ラメラ構造体(以下、「単層」とも称する)または多層ラメラ構造体(以下、「多層」とも称する)であることは、例えば低温電子顕微鏡法(Cryo-TEM)を用いて確認することができる。
【0029】
本発明の一実施形態において、脂質膜構造体は単層ラメラリポソームであることが好ましい。単層ラメラリポソームは、微細な粒子径を有しつつ、内水相容積が高いため、水溶性化合物の内包効率および浸透性に優れる単層ラメラ構造体である。ゆえに、水溶性の美容成分を配合する化粧品や皮膚外用剤において有用である。また、本発明の一実施形態において、脂質膜構造体はバイセルであることが好ましい。バイセルは、厚さ3~10nm、直径が15~100nmの微細な円盤状の単層ラメラ構造体であり、脂溶性成分の内包効率および浸透性に優れる。ゆえに、脂溶性の美容成分を配合する化粧品や皮膚外用剤において有用である。
【0030】
本発明の一実施形態において、脂質膜構造体は多層ラメラリポソームであることが好ましい。多層ラメラリポソームは、微細な粒子径を有しつつ、ラメラの容積が高く、ラメラ中に脂溶性化合物を組み込むことができるため、脂溶性化合物の内包効率および浸透性に優れる。ゆえに、脂溶性の美容成分を配合する化粧品や皮膚外用剤において有用である。
【0031】
本発明に係る脂質膜構造体含有組成物において、単層ラメラリポソーム、バイセルまたは多層ラメラリポソームのいずれかひとつのみが存在していてもよく、多層ラメラリポソーム、単層ラメラリポソームおよびバイセルからなる群より選択される2種以上が混在していてもよい。
【0032】
本発明において、脂質膜構造体は、その粒子径が10nm以上200nm以下である。脂質膜構造体の粒子径は、好ましくは20nm以上190nm以下であり、より好ましくは、30nm以上180nm以下であり、さらに好ましくは40nm以上170nm以下であり、特に好ましくは50nm以上160nm以下であり、特に好ましくは50nm以上150nm以下である。脂質膜構造体の粒子径の上限は、分散性、保存安定性、および皮膚への浸透性の観点から特に制限されないが、例えば、200nm以下、190nm以下、180nm以下、170nm以下、160nm以下、150nm以下、140nm以下、135nm以下または130nm以下である。脂質膜構造体の粒子径の下限は、特に制限されないが、脂質膜構造体の形成効率の観点から、例えば10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、または50nm以上である。
【0033】
脂質膜構造体の多分散指数(PDI)の上限は、分散性や、保存安定性、皮膚への浸透性の観点から、特に制限されないが、例えば、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、0.30以下、0.25以下または0.20以下である。脂質膜構造体の多分散指数(PDI)の下限は、特に制限されないが、例えば0.01以上である。
【0034】
本明細書中、脂質膜構造体の粒子径は、平均流体力学径を意味する。なお、脂質膜構造体の粒子径(平均流体力学径)および多分散指数(PDI)は、動的光散乱測定装置(Malvern Instruments社製、ゼータサイザーナノZSP)を用い、キュムラント解析による散乱光強度基準の調和平均径(Z-Average)および多分散指数(PDI)を採用するものとする。なお、ここで用いる粒子径と多分散指数の定義は、「JIS Z8828:2019 粒子径解析-動的光散乱法」における記載に準ずるものとする。
【0035】
本発明の脂質膜構造体含有組成物は、上記脂質膜構造体を含むものである。本明細書では、脂質膜構造体含有組成物について、動的光散乱測定装置、より具体的には、ゼータサイザーナノZSP(Malvern Instruments社製)を用いて粒子径を測定できれば、脂質膜構造体が形成されているものとする。
【0036】
本発明の脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体は、脂質膜構造体を形成する成分が(C)成分(水)に分散されることにより形成される。本発明においては、分散工程において、脂質膜構造体を形成する成分が(C)成分に分散されて、脂質膜構造体が形成される。よって、分散工程により得られる分散液は、脂質膜構造体が形成された溶液である。具体的には、本発明において、分散工程により得られる分散液は、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成されたものである。
【0037】
ここで、本発明の脂質膜構造体含有組成物は、(i)分散工程により得られる分散液の状態、および(ii)分散工程により得られる分散液がさらに(C)成分によって濃度調整された状態を含む。よって、(i)の場合、本発明の分散液はそのまま脂質膜構造体含有組成物となる。また、(ii)の場合、本発明の分散液がさらに(C)成分によって濃度調整されることにより脂質膜構造体含有組成物となる。したがって、(i)の場合、分散工程により脂質膜構造体含有組成物が得られ、(ii)の場合、分散液は、後述する濃度調整工程を経て、脂質膜構造体含有組成物が得られる。なお、脂質膜構造体を形成する成分が分散される(C)成分は、(C)成分以外の成分をともに用いてもよく、例えば、後述の(D)~(F)成分や後述する[他の成分]に記載の成分等とともに用いるか、もしくは予め混合させたものを用いてもよい。また、脂質膜構造体が存在する系における(C)成分(すなわち、後述の(C-2)成分および(C-3)成分)を、「水相」と称する場合がある。例えば、脂質膜構造体を形成する成分が分散される(C-2)成分および(C-3)成分は、脂質膜構造体を形成する成分に対して「水相」をなすものである。
【0038】
本発明の脂質膜構造体含有組成物の製造方法では、(C)成分を、分散工程の他、後述する混和工程および濃度調整工程においても添加成分として用いる。そのため、以下では、混和工程において添加される混和用の(C)成分を「(C-1)成分」または「水(形成剤用)」と称し、分散工程において添加される分散用の(C)成分を、「(C-2)成分」または「水(分散用)」と称し、濃度調整工程で添加される濃度調整用の(C)成分を、「(C-3)成分」または「水(濃度調整用)」と称する。脂質膜構造体含有組成物において含まれる(C)成分は、混和工程において添加される混和用の(C-1)成分と、分散工程において添加される分散用の(C-2)成分と、後述する濃度調整工程で添加される濃度調整用の(C-3)成分と、を合計した量である。なお、本発明の脂質膜構造体含有組成物の製造方法において、混和工程および濃度調整工程は、必要に応じて実施される工程である。
【0039】
以下、本発明の一形態に係る製造方法の好ましい実施形態について説明する。
【0040】
[分散工程]
分散工程は、(A)成分、(B)成分、および(C-2)成分を混合して、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成された分散液を得る工程である。このとき、分散工程では、分散液に対する(A)成分の濃度を、本発明の関係に基づき、脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて決定されたものとする。具体的には、より大きい粒子径の脂質膜構造体を製造したいのであれば、分散液に対する(A)成分の濃度をより高くすればよい。なお、本形態に係る製造方法は、分散液における上記(A)成分の濃度と、脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の粒子径との相関関係(本発明の関係)を求めることをさらに含んでもよい。この相関関係は、所望の脂質膜構造体含有組成物の組成について、分散液における(A)成分の濃度を変化させて種々の粒子径を有する脂質膜構造体含有組成物を得る予備実験を行い、最小二乗法(OLS)等の公知の回帰分析法を用いて求めることが可能である。ここで、公知の回帰分析法によって求められる「本発明の関係」の具体的な表現について特に制限はないが、例えば、近似直線(線形回帰)であってもよいし、近似曲線(多項式近似)であってもよい。さらに、近似曲線(多項式近似)の次数についても特に制限はないが、好ましくは2~5次であり、より好ましくは3~4次である。これらの近似直線や近似曲線については、Microsoft Excel(Microsoft Corporation製)の「近似曲線の書式設定」における「直線近似」や「多項式近似」の機能を用いて取得することができる。また、このような方法によって別途求めておいた「本発明の関係」を入手可能である場合には、これを用いて本形態に係る製造方法を実施することも可能である。この場合、本形態に係る製造方法は、「本発明の関係」を求めることを含まない。脂質膜構造体の目的とする粒子径は、[脂質膜構造体]の欄で述べた粒子径の範囲から適宜設定することができる。例えば、脂質膜構造体の目的とする粒子径は10nm以上200nm以下である。
【0041】
脂質膜構造体の目的とする粒子径を定めると、次に、その粒子径に応じて(これを「本発明の関係」に照らして)、分散液に対する(A)成分の濃度を決定する。脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて決定される(A)成分の濃度は、例えば、分散液(総質量100質量%)に対して、0.01~15質量%であるのが好ましく、0.05~15質量%であるのがより好ましく、0.1~12質量%であるのがさらに好ましく、0.2~10質量%であるのがさらにより好ましく、0.3~7.5質量%であるのが特に好ましく、0.5~5質量%であるのが最も好ましい。脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて決定される(A)成分の濃度は、例えば、分散液(総質量100質量%)に対して、下限としては、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、0.8質量%以上、0.9質量%以上、1.0質量%以上、1.1質量%以上、1.2質量%以上、1.3質量%以上、1.4質量%以上、1.5質量%以上、1.6質量%以上、1.7質量%以上、1.8質量%以上、1.9質量%以上または2.0質量%以上である。また、この場合の(A)成分の濃度の上限としては、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9.5質量%以下、9.0質量%以下、8.5質量%以下、8.0質量%以下、7.5質量%以下、7.0質量%以下、6.5質量%以下、6.0質量%以下、5.5質量%以下または5.0質量%以下である。一実施形態において、脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて決定される(A)成分の濃度は、分散液に対して、0.05質量%以上4.5質量%未満である。(A)成分の濃度を上記範囲にすることにより、得られる脂質膜構造体の粒子径が制御できる。すなわち、本発明は、(A)成分が上記範囲となる濃度を経て脂質膜構造体含有組成物を製造することにより、脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の粒子径の制御が可能であることを見出したことにより完成されたものである。
【0042】
すなわち、脂質膜構造体含有組成物を製造するにあたって、脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて(これを本発明の関係に照らして)、分散工程で得られる分散液における(A)成分の濃度を変化させる。これにより、最終的に得られる脂質膜構造体含有組成物において目的とする粒子径の脂質膜構造体が形成される。このような形態によれば、脂質膜構造体含有組成物において脂質膜構造体の粒子径が制御できるため、目的に応じて粒子径を設定できるという利点がある。
【0043】
ここで、本発明の一形態に係る製造方法によれば、脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の構造も制御できることを本発明者は見出した。実施例において、脂質膜構造体含有組成物の分散工程における(A)成分の濃度が、分散液(総質量100質量%)に対して、2質量%以下の場合、単層ラメラリポソームの構造を有する脂質膜構造体が確認された(実施例1-1、1-2等)。これに対して、脂質膜構造体含有組成物の分散工程における(A)成分の濃度が、分散液(総質量100質量%)に対して、単層の脂質膜構造体が得られ、3質量%以上の場合、多層ラメラリポソームの構造を有する脂質膜構造体が確認された(実施例1-3~1-5等)。すなわち、本発明に係る製造方法によれば、本発明の関係に照らして(A)成分の濃度を調整することにより脂質膜構造体の構造が制御できることも見出したのである。
【0044】
また、本発明の一形態に係る製造方法は、脂質膜構造体を形成させる際に、(A)成分の濃度を、目的とする脂質膜構造体含有組成物中での(A)成分の濃度よりも高い濃度で脂質膜構造体を形成させた後、目的とする(A)成分の濃度まで(C-3)成分を追加して、脂質膜構造体含有組成物を得るものであることが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態としては、分散工程の後に、分散液を(C-3)成分(水)と混合する濃度調整工程をさらに有していてもよい。このような形態によれば、(A)成分の濃度が濃い状態で脂質膜構造体を形成させ、その後、希釈するという工程により、脂質膜構造体含有組成物における組成(各成分の含有量、特に(A)成分の濃度)が同じであったとしても、脂質膜構造体含有組成物中の脂質膜構造体の粒子径を異なるものとすることができる。すなわち、同じ組成の脂質膜構造体含有組成物において、脂質膜構造体の粒子径が制御できるため、目的に応じて粒子径を設定できるという利点がある。
【0045】
分散工程により得られる分散液は、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分((C-2)成分)と、を含み、必要に応じて、(D)~(F)成分や後述の[他の成分]に記載の成分を含む。分散液を構成するこれらの成分を説明する。なお、分散液が(A)~(C-2)成分以外の成分を含む場合であっても、その組成に応じて本発明の関係が存在する。したがって、このような場合についても、上述したのと同様の方法により本発明の関係を利用して本形態に係る製造方法を実施することが可能である。
【0046】
[(A)成分]
本発明に係る分散液は、(A)成分として、酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質を含む。(A)成分は、酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質1種または2種以上であってもよいし、1種以上の酸価5mgKOH/g未満の水素添加リン脂質および1種以上の酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質を組み合わせて酸価5mgKOH/g以上としたものであってもよい。
【0047】
水素添加リン脂質は、従来公知の方法により、リン脂質の不飽和炭素結合に水素原子を付加することで、得ることができる。リン脂質の由来については、特に制限されないが、天然由来であり、化粧品や皮膚外用剤に好適に使用できることから、レシチンが特に好ましい。したがって、本発明の一実施形態において、(A)成分は、水素添加レシチンである。なお、レシチンは、大豆由来、卵黄由来、菜種由来、ヒマワリ由来、トウモロコシ由来等であってもよく、大豆由来、菜種由来、ヒマワリ由来、トウモロコシ由来等の植物由来であることが好ましく、入手の容易性や品質安定性から大豆由来であることがより好ましい。
【0048】
(A)成分の酸価は、5mgKOH/g以上である。酸価が5mgKOH/g未満の水素添加リン脂質を用いた場合は、(B)成分と組み合わせても、微細な脂質膜構造体を形成することができない。より微細な脂質膜構造体を得る観点から、構造体を得る観点から、(A)成分の酸価は、好ましくは12mgKOH/g以上であり、より好ましくは15mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは17mgKOH/g以上であり、さらにより好ましくは20mgKOH/g以上であり、特に好ましくは22mgKOH/g以上である。(A)成分の酸価は、例えば、6mgKOH/g以上、7mgKOH/g以上、8mgKOH/g以上、9mgKOH/g以上、10mgKOH/g以上、11mgKOH/g以上、12mgKOH/g以上、13mgKOH/g以上、14mgKOH/g以上、15mgKOH/g以上、16mgKOH/g以上、17mgKOH/g以上、18mgKOH/g以上、19mgKOH/g以上、20mgKOH/g以上、21mgKOH/g以上、22mgKOH/g以上、23mgKOH/g以上、24mgKOH/g以上、25mgKOH/g以上、26mgKOH/g以上または27mgKOH/g以上である。また、特に制限されないが、(A)成分の酸価は、例えば、70mgKOH/g以下、60mgKOH/g以下、50mgKOH/g以下または40mgKOH/g以下である。リン脂質の種類を適宜選択することで、所望の酸価を有する水素添加リン脂質を得ることができる。なお、(A)成分の酸価は、「医薬部外品原料規格2021 一般試験法 28.酸価測定法」に準拠して測定される値を採用するものとする。
【0049】
(A)成分としては、合成品、市販品のいずれを使用してもよい。市販品の例としては、日本エマルジョン株式会社製のEMALEX(登録商標)SLP、辻製油株式会社製のSLP-ホワイトH等が挙げられる。これらは、1種単独で使用しても2種以上併用してもよい。
【0050】
本発明に係る分散液における(A)成分の含有量は、上記した「脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて決定される(A)成分の濃度」となる。よって、上記した脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて決定される(A)成分の濃度が適用される。
【0051】
[(B)成分]
本発明に係る分散液は、(B)成分として、下記式1で表される化合物を含む。(B)成分は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0052】
【0053】
上記式1中、Rは、置換もしくは非置換の炭素数2~6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3~6のシクロアルキル基である。
【0054】
炭素数2~6のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。炭素数2~6のアルキル基の例としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-アミル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基、3-メチルペンタン-2-イル基、3-メチルペンタン-3-イル基、4-メチルペンチル基、4-メチルペンタン-2-イル基、1,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブタン-2-イル基等が挙げられる。炭素数2~6のアルキル基は、好ましくは直鎖状である。すなわち、炭素数2~6のアルキル基は、好ましくは、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基およびn-へキシル基からなる群より選択される基である。
【0055】
炭素数3~6のシクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基であり、好ましくはシクロヘキシル基である。
【0056】
炭素数2~6のアルキル基および炭素数3~6のシクロアルキル基に存在しうる置換基は、本発明の効果を奏する限り、特に制限されない。置換基の例としては、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基などが挙げられる。ただし、炭素数2~6のアルキル基は、アルキル基で置換されることはない。
【0057】
上記式1中、Xは、-O-、-C(=O)O-または-O-C(=O)-であり、好ましくは-O-である。また、上記式1中、nは、0または1である。上記式1中、Xが-O-であり、かつnが1である場合において、Rとしてのアルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましい。
【0058】
(B)成分は、例えば、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、シクロヘキシルグリセリンおよびヘキシルグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0059】
特に、(B)成分として、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、ヘキシルグリセリンを用いた場合には、きわめて微細な脂質膜構造体を形成することができる。この際、脂質膜構造体はバイセルを形成していると考えられる。バイセルは、円盤状(ディスク)の単層ラメラ構造体となっていることから、同程度の粒子径のリポソームに比べて角層への浸透性に優れる。ゆえに、脂溶性成分の浸透性が高い脂質膜構造体を得る観点からは、(B)成分として、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオールおよびヘキシルグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0060】
(B)成分は、合成品、市販品のいずれであってもよい。
【0061】
本発明に係る分散液における(B)成分の含有量は、好ましくは0.01質量%を超え24質量%以下であり、より好ましくは0.02質量%以上23質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上20質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以上18質量%以下であり、最も好ましくは0.2質量%以上15質量%以下である。分散液における(B)成分の含有量は、例えば、下限として、0.01質量%を超えているのが好ましい。分散液における(B)成分の含有量は、下限として、0.011質量%以上、0.02質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、0.8質量%以上、0.9質量%以上、1.0質量%以上、1.1質量%以上、1.2質量%以上、1.3質量%以上、1.4質量%以上、1.5質量%以上、1.6質量%以上、1.7質量%以上、1.8質量%以上、1.9質量%以上または2.0質量%以上である。分散液における(B)成分の含有量は、上限として、24質量%以下であるのが好ましい。分散液における(B)成分の含有量は、上限として、23質量%以下、22質量%以下、21質量%以下、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9.5質量%以下、9.0質量%以下、8.5質量%以下、8.0質量%以下、7.5質量%以下、7.0質量%以下、6.5質量%以下、6.0質量%以下、5.5質量%以下、5.0質量%以下または4.5質量%以下である。
【0062】
本発明に係る分散液において、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは100質量部を超え、より好ましくは110質量部以上2000質量部以下であり、さらに好ましくは120質量部以上1800質量部以下であり、さらにより好ましくは130質量部以上1500質量部以下であり、特に好ましくは140質量部以上1200質量部以下であり、最も好ましくは150質量部以上1000質量部以下である。(B)成分の含有量が上記範囲である場合には、(A)成分が分散液中でより効率よく脂質膜構造体を形成しやすくなり、分散性に優れた脂質膜構造体を形成することができる。さらに、より微細な脂質膜構造体を得る観点から、(B)成分の含有量としては、(A)成分100質量部に対して、例えば160質量部以上、170質量部以上、180質量部以上、190質量部以上、200質量部以上、210質量部以上、220質量部以上、230質量部以上、240質量部以上、250質量部以上、260質量部以上、270質量部以上、280質量部以上、290質量部以上、300質量部以上、310質量部以上、320質量部以上、330質量部以上、340質量部以上、350質量部以上、360質量部以上、370質量部以上、380質量部以上、390質量部以上または400質量部以上である。一方、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量の上限は、特に制限されないが、2000質量部を超えても、(A)成分の分散液への溶解性または分散性に影響が無く、単に不経済である。このため、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、例えば、2000質量部以下、1900質量部以下、1800質量部以下、1700質量部以下、1600質量部以下、1500質量部以下、1400質量部以下、1300質量部以下、1200質量部以下、1100質量部以下、1000質量部以下、900質量部以下、800質量部以下、700質量部以下、600質量部以下または500質量部以下である。したがって本発明の好ましい実施形態によれば、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは110質量部以上2000質量部以下である。
【0063】
[(C-2)成分)]
本発明に係る分散液は、(C-2)成分として水を含む。(C-2)成分は、脂質膜構造体を形成する成分を分散する媒体の役割を有し、分散液において水相を形成する主要な成分である。また、(C-2)成分は、下記(D)成分(塩基性化合物)および(E)成分(酸性化合物)の分散液への配合を助ける役割を有する。具体的には、(D)成分および/または(E)成分を(C-2)成分に予め溶解させてから、(A)成分および(B)成分に混合することにより、(D)成分および/または(E)成分を分散液に容易に配合することができる。
【0064】
(C-2)成分としては、不純物の少ない水が好ましく、例えば、精製水のような、イオン交換、蒸留、逆浸透又は限外ろ過などを単独あるいは組み合わせたシステムにより、常水より精製したものが好ましい。
【0065】
本発明に係る分散液における(C-2)成分の含有量は、好ましくは50質量%以上99.97質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上99.9質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以上99.8質量%以下であり、特に好ましくは65質量%以上99.7質量%以下であり、最も好ましくは70質量%以上99.6質量%以下である。分散液における(C-2)成分の含有量は、例えば下限として、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上または90質量%以上である。分散液における(C-2)成分の含有量は、例えば上限として、99.97質量%以下、99.9質量%以下、99.8質量%以下、99.7質量%以下または99.6質量%以下である。
【0066】
また、本発明に係る分散液において、(B)成分および(C-2)成分の質量比(「(B)成分:(C-2)成分」)は、下限として、0.01:99.99を超えることが好ましく、0.1:99.9以上、1:99以上、2:98以上または3:97以上である。分散液において、(B)成分および(C-2)成分の質量比は、上限として、25:75未満が好ましく、24:76以下、20:80以下、16:84以下、12.5:87.5以下または10:90以下である。
【0067】
本発明において、(A)成分と、(B)成分と、(C-2)成分(すなわち、(C)成分)とを混合した場合に粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成されたものを「分散液」と称し、(A)成分と、(B)成分と、(C-2)成分とを混合した場合に粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成される工程を「分散工程」と称する。よって、例えば、後述の混和工程において、(A)成分と、(B)成分と、(C-1)成分(すなわち、(C)成分)とを混和することがありうるが、(C-1)成分(すなわち、(C)成分)が存在していたとしても、この混和工程においては「粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成される」ことはない。混和工程において得られる脂質膜形成剤は、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体を有していない。すなわち、本発明に係る分散液か否か(例えば、分散液か脂質膜形成剤か)を識別するには、粒子径を測定し、「粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体」が形成されているか否かを確認すればよい。
【0068】
例えば、「粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成される」を制御する方法としてのひとつは、分散液における(B)成分と(C-2)成分とを所定の割合にすることである。具体的には、分散液における(B)成分と(C-2)成分とが上記質量比(「(B)成分:(C-2)成分」)が0.01:99.98を超え25:75未満である場合は、(A)成分と、(B)成分と、(C-2)成分とを混合させることにより粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成されるため、分散液を得ることができる。
【0069】
[(D)成分]
本発明に係る分散液は、上記(A)成分、(B)成分および(C-2)成分以外に、(D)成分として塩基性化合物をさらに含有していてもよい。酸価が高い(A)成分を使用する場合において、(D)成分を含有させることで、脂質膜構造体の分散性により優れる分散液を得ることができる。(D)成分は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0070】
(D)成分の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機塩基;アルギニン、リシン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(AMPD)、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(トロメタミン)等のアミン化合物等が挙げられる。中でも、アルギニンが好ましい。
【0071】
(D)成分は、合成品、市販品のいずれを使用してもよい。
【0072】
本発明に係る分散液における(D)成分の含有量は、好ましくは0.000005質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましくは0.00001質量%以上1.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.0001質量%以上1.0質量%以下であり、特に好ましくは0.001質量%以上1.0質量%以下であり、最も好ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下である。分散液における(D)成分の含有量は、下限として、0.000005質量%以上、0.00001質量%以上、0.0001質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上または0.02質量%以上である。分散液における(D)成分の含有量は、上限としては、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
本発明に係る分散液において、(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、下限として、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。上限としては、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0074】
[(E)成分]
本発明に係る分散液は、上記(A)成分、(B)成分および(C-2)成分以外に、(E)成分として酸性化合物を含有していてもよい。(E)成分を含有することで、脂質膜構造体の水相への分散性を高めることができる。(E)成分は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0075】
(E)成分の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸等の無機酸;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、酪酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、ピロリドンカルボン酸(PCA)、グルコン酸、安息香酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチドロン酸、ペンテト酸、フィチン酸等の有機酸等が挙げられる。中でも、脂質膜構造体の分散性により優れる分散液を得ることができる観点から、有機酸が好ましい。
【0076】
中でも、より効率的に脂質膜構造体を形成しやすくし、分散性により優れる分散液を得ることができる観点、当該分散液および当該分散液を用いた脂質膜構造体含有組成物の保存安定性を高める観点から、(E)成分は、キレート作用を有する有機酸であることが好ましい。脂質膜構造体を形成する主要な成分である(A)成分は、金属イオンと結合しやすい性質を有する場合がある。この場合、(E)成分としてキレート作用を有する有機酸を添加することで、分散液中の金属イオンが捕捉され、より効率的に脂質膜構造体を形成しやすくなり、脂質膜構造体の分散性により優れる分散液を得ることができるとともに、当該分散液および当該分散液を用いた脂質膜構造体含有組成物の保存安定性を高めることができる。すなわち、分散液において、水相への分散性と保存安定性とに優れた脂質膜構造体を形成できると推測される。キレート作用を有する有機酸としては、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチドロン酸、ペンテト酸が好ましく、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)がより好ましい。
【0077】
(E)成分は、合成品、市販品のいずれを使用してもよい。
【0078】
本発明に係る分散液において、(E)成分の含有量(遊離酸換算)は、下限として、0.00001質量%以上、0.0001質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.02質量%以上または0.04質量%以上であることが好ましい。(E)成分の含有量(遊離酸換算)は、上限としては、3.0質量%以下、2.5質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下または1.0質量%以下であることが好ましい。
【0079】
本発明に係る分散液において、(E)成分の含有量(遊離酸換算)は、(A)成分100質量部に対して、下限として、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましい。(E)成分の含有量(遊離酸換算)は、(A)成分100質量部に対して、上限としては、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0080】
(D)成分および(E)成分双方の分散液への溶解性を高め、分散液のpHを所定の範囲に収める観点から、本発明の分散液は、上記(D)成分および(E)成分の両方を含むことが好ましい。かような分散液は、(D)成分および(E)成分を別々に添加することによって得てもよいし、(D)成分および(E)成分の塩を添加することによって得てもよい。
【0081】
(D)成分および(E)成分の塩としては、特に制限されないが、例えば、リシン塩酸塩;クエン酸三ナトリウム等のクエン酸ナトリウム塩;リン酸水素二ナトリウム等のリン酸ナトリウム塩;安息香酸ナトリウム;エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(EDTA-3Na)等のエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩;ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム(ペンテト酸5Na)等のジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0082】
分散液が(D)成分および(E)成分を含有する場合、(D)成分および(E)成分の質量比(D)/(E)は、0.2~10である。当該質量比(D)/(E)の範囲の下限は、0.3、0.4または0.5であってもよい。また当該質量比(D)/(E)の範囲の上限は、10、9、8、7、6または5であってもよい。当該質量比(D)/(E)の範囲は、例えば、0.5~5であることが好ましい。
【0083】
本発明の分散液において、(D)成分および(E)成分の合計含有量は、下限としては、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。(D)成分および(E)成分の合計含有量は、上限としては、4.5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0084】
[(F)成分]
本発明に係る分散液は、上記(A)成分、(B)成分および(C-2)成分以外に、(F)成分として脂溶性化合物をさらに含有していてもよい。酸価が高い(A)成分を使用する場合、(B)成分および(F)成分を併用することで、(A)成分と(F)成分とが配向した脂質膜構造体が形成しやすくなり、保存安定性の高い脂質膜構造体を形成することができる。さらに、当該(F)成分を上記(D)成分および/または(E)成分と併用することで、より微細な脂質膜構造体を形成することができる。(F)成分は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
【0085】
(F)成分の例としては、フィトステロールズ、コレステロール、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、オレイン酸フィトステリル、フィトステリルグルコシド等のステロール類;γ-オリザノール、グリチルリチン酸、ウルソル酸、ツボクサエキス(アシアチン酸、マデカシン酸およびアシアチコシドの混合物)等のトリテルペン類;レチノール、水添レチノール、コレカルシフェロール、トコフェロール、アスコルビン酸エステル等の脂溶性ビタミン類;アスタキサンチン、β-カロチン等のカロテノイド類;ユビキノン等の補酵素;リモネン、ワセリン、スクワラン等の炭化水素類;セラミドEOS、セラミドNG(セラミド2)、セラミドNP(セラミド3)、セラミドAP(セラミド6II)、セラミドEOP(セラミド1)、ジヒドロキシリグノセロイルフィトスフィンゴシン、セレブロシド、スフィンゴ糖脂質、セチルPGヒドロキシエチルパルミタミド等のセラミド類;テトラヒドロジフェルロイルメタン、プテロスチルベン等のポリフェノール類等が挙げられる。中でも、(F)成分と(A)成分および(B)成分とを組み合わせることで、(A)成分と(F)成分とが配向した脂質膜構造体が形成しやすくなり、保存安定性の良い分散液を得ることができる観点や、当該分散液を用いた脂質膜構造体含有組成物の保存安定性を高める観点から、(F)成分は、フィトステロールズ、コレステロール、γ-オリザノール、グリチルリチン酸、ウルソル酸、ツボクサエキス(アシアチン酸、マデカシン酸およびアシアチコシドの混合物)、水添レチノール、トコフェロール、アスタキサンチン、ユビキノン、セラミドNG、セラミドNP、セラミドAP、セラミドEOP、テトラヒドロジフェルロイルメタンおよびプテロスチルベンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0086】
(F)成分は、合成品、市販品のいずれを使用してもよい。市販品としては、例えば、タマ生化学株式会社製のフィトステロール-SKP、バイエル社製のTECA、DSM株式会社製のdl-α-トコフェロール、日光ケミカルズ株式会社製のNIKKOL(登録商標)レチノール H10、NIKKOL(登録商標)VC-IP、スクワラン、オリザ油化株式会社製のアスタキサンチン-20C、γ-オリザノール、株式会社カネカ製のカネカ・コエンザイムQ10、クローダジャパン株式会社製のCERAMIDE2、株式会社サビンサジャパンコーポレーション製のウルソル酸90%、サビホワイト、プテロホワイト等が挙げられる。
【0087】
本発明に係る分散液における(F)成分の含有量は、例えば、下限として、0.0000005質量%以上、0.000001質量%以上、0.00001質量%以上、0.0001質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上または0.1質量%以上である。(F)成分の含有量は、上限としては、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下または1質量%以下である。
【0088】
また、本発明の分散液において、(F)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、下限として、0.005質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、5質量部以上であることが特に好ましい。上限としては、60質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましく、30質量部以下であることが特に好ましい。
【0089】
[他の成分]
本発明に係る分散液は、上記(A)~(F)成分以外の成分(他の成分)をさらに含有していてもよい。他の成分としては、特に制限されず、(B)成分以外のポリオール化合物、油剤、界面活性剤、保湿剤、美白剤、色材、アルコール類、アミノ酸、糖、ビタミン、粘度調整剤、高分子、着色剤、粉体、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、香料、美容成分、電解質、繊維、植物抽出エキス等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、分散液に保湿剤、美白剤などの美容成分を配合することで、美容成分を内包した脂質膜構造体を形成することができる。なお、美容成分を内包した脂質膜構造体を形成するにあたり、美容成分を配合するタイミングは、特に制限されない。分散液における、目的とする粒子径に応じて決定される(A)成分の濃度に達するまで、脂質膜構造体の粒子径や構造(単層または多層)が変化するということは、すなわち脂質膜構造体が再構築可能な状態にあり、その際、分散液中に存在する美容成分は再構築される脂質膜構造体に取り込まれて内包されるものと考えられる。このことから、該分散液における(A)成分の濃度を適切に設計することによって、浸透感を高めたい美容成分と、浸透感を抑えて徐放性を高めたい美容成分とを、脂質膜構造体の粒子径や構造(単層または多層)の観点で、各々最適な脂質膜構造体に内包させることができる。このようにして、様々な美容成分ごとに最適な浸透感や徐放性などを設計した多種多様な脂質膜構造体を容易に作り分けることができるようになり、それらを組み合わせて、多様な消費者のニーズを満たす機能性の高い製品群を簡便に作り分けることができる。
【0090】
[分散工程における分散方法]
分散工程において、分散液が自発的に10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が形成されるのであれば、(A)成分、(B)成分、および(C-2)成分の混合形態は特に制限されない。例えば、分散工程において、各成分は、一括で混合してもよいし、順次に混合してもよい。各成分を順次に混合する場合、その順序は特に制限されない。例えば、(A)成分および(B)成分を混合した後、(C-2)成分を添加して混合してもよいし、(A)成分および(C-2)成分を混合した後、(B)成分を添加して混合してもよいし、(A)成分に(B)成分および(C)成分を同時に添加して(例えば、(B)成分および(C-2)成分の混合溶媒を添加して)混合してもよい。また、例えば、上記(A)成分、(B)成分および(C-2)成分に加えて、(D)成分および/または(E)成分を用いて分散液を製造する場合、(D)成分および/または(E)成分は、別々に添加してもよいし、予め混合した後にその混合物を添加してもよい。また、例えば、上記(A)成分、(B)成分、(C-2)成分、および(F)成分に加えて、(D)成分および/または(E)成分を用いて分散液を製造する場合、(F)成分の添加順序は特に制限されない。例えば、(A)成分、(B)成分、(C-2)成分および(F)成分を混合した後、(C-2)成分、(D)成分および/または(E)成分を、同時に、もしくは順次に添加してもよい。あるいは、(A)成分、(B)成分、および(C-2)成分に加えて、(D)成分および/または(E)成分を、同時に、もしくは順次に混合した後、最後に(F)成分を添加してもよい。また、さらに上記[他の成分]に記載の成分を用いて分散液を製造する場合、上記[他の成分]に記載の成分の添加順序は特に制限されず、例えば溶解性に応じて適宜選択しうる。例えば、脂溶性であれば(F)成分を添加する際に併せて添加してもよいし、最後に添加してもよい。あるいは、水溶性であれば(D)成分および/または(E)成分を添加する際に併せて添加しても、最後に添加してもよい。
【0091】
分散工程において、(A)成分と、(B)成分と、(C-2)成分とを、(A)成分の相転移温度以上で混合するのが好ましい。この場合、脂質膜構造体の形成効率がより向上し、より一層分散安定性に優れた分散液となる。分散工程における混合温度として、例えば、上限は120℃以下、110℃以下、100℃以下、95℃以下または90℃以下であり、下限は、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上、65℃以上、70℃以上、75℃以上、80℃以上または85℃以上である。分散工程における混合温度は、例えば40~120℃であり、好ましくは40~100℃であり、より好ましくは60~90℃である。水溶性成分として、例えば(D)成分、(E)成分および/またはその他の美容成分を混合する場合は、これら水溶性成分を予め(C-2)成分に均一溶解させてから混合してもよく、その際の水溶性成分の溶解温度は、上述の混合温度に限られず、水溶性成分が溶解するのに適する温度にて加熱溶解してもよい。このように水溶性成分を(C-2)成分で均一溶解させてから混合する際は、どのようなタイミングおよび温度で混合してもよい。例えば、1つの容器で全ての成分を混合する場合は、最初に水溶性成分を(C-2)成分にて加熱溶解した後に、これに(A)成分および(B)成分を添加して混合すればよい。もしくは、一旦別の容器で水溶性成分を(C-2)成分で加熱溶解しておき、(A)成分および(B)成分と混合すればよく、任意のタイミングおよび任意の温度で混合すればよい。また、混合時間も、特に制限されないが、好ましくは10~180分である。
【0092】
(A)成分、(B)成分、および(C-2)成分を混合して得られる分散液は、脂質膜構造体が実質的な機械的剪断力が無くとも自発的に微細な脂質膜構造体を形成することから、これら成分が均一に混合される程度の攪拌力で行えばよい。具体的には、(A)成分および(B)成分を混合して得られた混合液を、撹拌しない状態の(C-2)成分に添加してから、これら成分が均一に混合される程度の攪拌力で混合してもよいし、(C-2)成分を撹拌させながら添加してもよい。この際、撹拌条件は特に制限されないが、例えば、公知の撹拌手段を用いて回転数10~300rpmで行う。また、(A)成分および(B)成分の混合液は、一括で添加してもよいし、分割して添加してもよいし、公知の滴下手段を用いて、任意の添加速度にて順次添加してもよい。撹拌方法は特に制限されないが、高度な機械的剪断力を必要としないことから、マグネチックスターラー(例えばホットスターラーなど)、パドルミキサー、プロペラミキサー、プラネタリーミキサーなどの公知の撹拌手段を用いて行うことができる。
【0093】
本発明において、一実施形態としては、分散工程は、(A)成分および(B)成分を混合して得られた混合液を(A)成分の相転移温度以上(例えば、80℃)に加温し(ただし、この場合の混合液は脂質膜形成剤に相当しない状態)、(A)成分の相転移温度以上(例えば、80℃)に加温した(C-2)成分と混合することにより分散液を得る工程でありうる。また、他の実施形態としては、分散工程は、(A)成分、(B)成分および(C-2)成分を(A)成分の相転移温度以上(例えば、80℃)に加温しながら混合することにより分散液を得る工程でありうる。
【0094】
ここで、分散工程により得られた分散液における脂質膜構造体の粒子径は、上記した脂質膜構造体含有組成物と同様である。これは、本発明において、分散工程において、分散液に含まれる脂質膜構造体の粒子径が決定されるものであるからである。
【0095】
より微細な脂質膜構造体を得る観点からは、分散液のpHは、好ましくは4.0以上であり、より好ましくは5.0以上であり、さらに好ましくは7.0以上であり、さらにより好ましくは8.0以上である。一方、均一な粒子径の脂質膜構造体(すなわち、均一性の高い分散液)を得る観点からは、分散液のpHは、好ましくは10.0以下であり、より好ましくは9.5以下であり、さらにより好ましくは9.0以下である。したがって、本発明の好ましい実施形態に係る分散液は、pHが4.0~10.0である。ここで、「分散液のpH」は、分散液を、ガラス電極法によるpHメータ(HM-25R 東亜ディケーケー株式会社製)を用いて25℃でのpHを測定する。
【0096】
[混和工程]
本発明の脂質膜構造体含有組成物の製造方法において、混和工程は、必要に応じて、分散工程の前に行われる。すなわち、本発明の脂質膜構造体含有組成物の製造方法において、一実施形態では、混和工程を含む。混和工程は、分散工程の前に、(A)成分と(B)成分とを加熱して均一に混和して、脂質膜形成剤を得る工程である。すなわち、混和工程は、脂質膜構造体を形成する成分を予め加熱して均一に混和して、各成分が均一に混和された混和状態の脂質膜形成剤とするものである。ここで、分散工程での混合と混和工程との違いは、(C-2)成分を含まない時点で、均一な混和状態となっているかどうかで区別することができる。例えば、混和工程を経た脂質膜形成剤は、(A)成分の相転移温度以上(例えば80℃以上)で加温溶解した際に均一透明な液状を呈し、その後時間を置いたり冷却したりしても、均一状態を維持し、含有する一部の成分の析出、分離、沈殿を生じない。例えば、分散工程で(A)成分と(B)成分とを(A)成分の相転移温度以上(例えば、80℃)に加熱しても、未溶解の成分があったり、均一ではなく濁った状態であると、その後時間を置いたり冷却した際に、含有する一部の成分の析出、分離、沈殿を生ずることから区別できる。
【0097】
よって、混和工程により得られる脂質膜形成剤は、(A)成分の相転移温度以上となると、均一な透明の溶液となる。(A)成分と(B)成分とを含む溶液、(A)成分と(B)成分と(C-1)成分(すなわち、(C)成分)とを含む溶液が、透明な均一の溶液を経た場合、その溶液は脂質膜形成剤であり、その溶液を得る工程は「混和工程」とみなす。
【0098】
混和工程を含む実施形態の場合、分散工程は、混和工程で得られた脂質膜形成剤と、(C-2)成分とを混合して、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成された分散液を得る工程である。すなわち、この場合の分散工程は、(A)成分および(B)成分を含む脂質膜形成剤と、(C-2)成分とを混合して、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成された分散液を得る工程である。
【0099】
混和工程において得られる脂質膜形成剤は、(A)成分および(B)成分以外に、必要に応じて、(C-1)成分、(D)~(F)成分、[他の成分]の項に記載した成分を含んでいてもよい。脂質膜形成剤における各成分の好ましい含有量は後述するが、含有量以外の各成分の好ましい態様は、それぞれ上述したとおりである。一実施形態において、混和工程は、(A)成分と、(B)成分と、必要に応じて、(C-1)成分、(D)成分、(E)成分および(F)成分からなる群より選択される1種以上と、を混和して、脂質膜形成剤を得る工程である。
【0100】
本発明に係る脂質膜形成剤における(A)成分の含有量は、特に制限されないが、例えば、下限としては5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%以上、11質量%以上、12質量%以上、13質量%以上、14質量%以上、15質量%以上、16質量%以上、17質量%以上、18質量%以上または19質量%以上である。脂質膜形成剤における(A)成分の含有量は、上限としては、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下または20質量%以下である。脂質膜形成剤における(A)成分の含有量は、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは10~20質量%である。
【0101】
本発明に係る脂質膜形成剤における(B)成分の含有量は、特に制限されないが、例えば、下限として、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上または50質量%以上である。脂質膜形成剤における(B)成分の含有量は、上限として、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下または55質量%以下である。脂質膜形成剤における(B)成分の含有量は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは40~80質量%であり、さらにより好ましくは50~70質量%である。
【0102】
本発明に係る脂質膜形成剤において、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える。(A)成分100質量部に対して(B)成分の含有量が100質量部以下である場合は、微細な脂質膜構造体を形成することができない。さらに、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、110質量部以上、120質量部以上、130質量部以上、140質量部以上または150質量部以上である。150質量部以上の場合には、(A)成分が脂質膜形成剤中により均質に混和しやすくなる。当該脂質膜形成剤を用いることで、水相への分散性に優れた脂質膜構造体を形成することができる。さらに、より微細な脂質膜構造体を得る観点から、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、例えば、160質量部以上、170質量部以上、180質量部以上、190質量部以上、200質量部以上、210質量部以上、220質量部以上、230質量部以上、240質量部以上、250質量部以上、260質量部以上、270質量部以上、280質量部以上、290質量部以上、300質量部以上、310質量部以上、320質量部以上、330質量部以上、340質量部以上、350質量部以上、360質量部以上、370質量部以上、380質量部以上、390質量部以上または400質量部以上である。一方、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量の上限は、特に制限されないが、2000質量部を超えても、(A)成分の脂質膜形成剤への溶解性または分散性に影響が無く、単に不経済である。このため、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、例えば、2000質量部以下、1900質量部以下、1800質量部以下、1700質量部以下、1600質量部以下、1500質量部以下、1400質量部以下、1300質量部以下、1200質量部以下、1100質量部以下、1000質量部以下、900質量部以下、800質量部以下、700質量部以下、600質量部以下または500質量部以下である。したがって本発明の好ましい実施形態によれば、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは110~2000質量部である。
【0103】
本発明に係る脂質膜形成剤において、(C-1)成分は必要に応じて添加されるものであり、その含有量の下限は特に制限されないが、脂質膜形成剤における(C-1)成分の含有量は、例えば、下限として、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%以上、11質量%以上、12質量%以上、13質量%以上、14質量%以上、15質量%以上、16質量%以上、17質量%以上、18質量%以上、19質量%以上、20質量%以上、21質量%以上、22質量%以上、23質量%以上、24質量%以上または25質量%以上である。脂質膜形成剤における(C-1)成分の含有量は、上限としては、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下または30質量%以下である。脂質膜形成剤における(C-1)成分の含有量は、好ましくは0.5~70質量%であり、より好ましくは5~60質量%であり、さらに好ましくは15~50質量%であり、特に好ましくは20~40質量%である。
【0104】
また、本発明に係る脂質膜形成剤において、(B)成分および(C-1)成分の質量比(「(B)成分:(C-1)成分」)は、例えば、下限として、25:75以上、30:70以上、35:65以上、40:60以上、45:55以上または50:50以上である。また、脂質膜形成剤において、(C-1)成分は必要に応じて添加されるものであり、その含有量の下限は特に制限されないことから、(B)成分および(C-1)成分の質量比(「(B)成分:(C-1)成分」)の上限は特に制限されないが、(B)成分および(C-1)成分の質量比は、例えば、上限として、99:1以下、90:10以下または80:20以下である。(B)成分および(C-1)成分の質量比は、好ましくは25:75以上99:1以下であり、より好ましくは30:70以上90:10以下であり、さらに好ましくは35:65以上80:20以下である。
【0105】
本発明に係る脂質膜形成剤において、(D)成分は必要に応じて添加されるものであり、その含有量の下限は特に制限されないが、脂質膜形成剤における(D)成分の含有量は、例えば、下限として、0.01質量%以上または0.02質量%以上であり、上限としては、2質量%以下または1質量%以下である。脂質膜形成剤における(D)成分の含有量は、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.02~1質量%である。
【0106】
本発明に係る脂質膜形成剤において、(D)成分は必要に応じて添加されるものであり、その含有量の下限は特に制限されないが、脂質膜形成剤における(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、例えば、下限として、0.05質量部以上または0.1質量部以上であり、上限としては、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下または5質量部以下である。脂質膜形成剤において、(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.05~10質量部であり、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0107】
本発明に係る脂質膜形成剤において、(E)成分は必要に応じて添加されるものであり、その含有量の下限は特に制限されないが、脂質膜形成剤における(E)成分の含有量(遊離酸換算)は、例えば、下限として、0.02質量%以上または0.04質量%以上であり、上限としては、4質量%以下、3質量%以下または2質量%以下である。脂質膜形成剤において、(E)成分の含有量(遊離酸換算)は、好ましくは0.02~4質量%であり、より好ましくは0.04~2質量%である。
【0108】
本発明に係る脂質膜形成剤において、(E)成分は必要に応じて添加されるものであり、その含有量の下限は特に制限されないが、脂質膜形成剤における(E)成分の含有量(遊離酸換算)は、(A)成分100質量部に対して、例えば、下限として、0.1質量部以上または0.2質量部以上であり、上限としては、20質量部以下、19質量部以下、18質量部以下、17質量部以下、16質量部以下、15質量部以下、14質量部以下、13質量部以下、12質量部以下、11質量部以下または10質量部以下である。脂質膜形成剤において、(E)成分の含有量(遊離酸換算)は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.2~10質量部である。
【0109】
本発明に係る脂質膜形成剤が(D)成分および(E)成分を含有する場合、(D)成分および(E)成分の質量比(D)/(E)は、例えば、0.2~10を挙げることができる。当該質量比(D)/(E)の範囲の下限は、例えば、0.2、0.3、0.4または0.5であり、上限は、10、9、8、7、6または5である。当該質量比(D)/(E)の範囲は、例えば、0.5~5であることが好ましい。
【0110】
本発明に係る脂質膜形成剤が(D)成分および(E)成分を含有する場合、(D)成分および(E)成分の合計含有量は、例えば、下限としては、0.05質量%以上または0.1質量%以上であり、上限としては、4.5質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下、3.0質量%以下、2.5質量%以下または2質量%以下である。脂質膜形成剤において、(D)成分および(E)成分の合計含有量は、好ましくは0.05~4質量%であり、より好ましくは0.1~2質量%である。
【0111】
本発明に係る脂質膜形成剤において、(F)成分は必要に応じて添加されるものであり、その含有量の下限は特に制限されないが、脂質膜形成剤における(F)成分の含有量は、例えば、下限として、0.00025質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上または1質量%以上であり、上限としては、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下または6質量%以下である。脂質膜形成剤における(F)成分の含有量は、好ましくは0.001~12質量%であり、より好ましくは0.01~10質量%であり、さらにより好ましくは0.1~8質量%であり、特に好ましくは1~6質量%である。
【0112】
また、本発明に係る脂質膜形成剤において、(F)成分は必要に応じて添加されるものであり、その含有量の下限は特に制限されないが、脂質膜形成剤における(F)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、例えば、下限として、0.005質量部以上、0.05質量部以上、0.5質量部以上または5質量部以上であり、上限として、60質量部以下、50質量部以下、40質量部以下または30質量部以下である。脂質膜形成剤において、(F)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.005~60質量部であり、より好ましくは0.05~50質量部であり、さらにより好ましくは、0.5~40質量部であり、特に好ましくは5~30質量部である。
【0113】
混和工程において、各成分は、一括で混和してもよいし、順次に混和してもよい。各成分を順次に混和する場合、その順序は特に制限されない。例えば、(A)成分および(B)成分を混和した後、(C-1)成分を添加して混和してもよいし、(A)成分および(C-1)成分を混和した後、(B)成分を添加して混和してもよいし、(A)成分に(B)成分および(C-1)成分を同時に添加して(例えば、(B)成分および(C-1)成分の混和物を添加して)混和してもよい。また、例えば、(A)成分、(B)成分および(C-1)成分に加えて、(D)成分および/または(E)成分を用いて脂質膜形成剤を製造する場合、(D)成分および/または(E)成分は、別々に添加してもよいし、予め(C-1)成分に混和した後にその混和物を(A)成分および(B)成分の混和物に添加してもよい。また、例えば、(A)成分、(B)成分、(C-1)成分および(F)成分に加えて、(D)成分および/または(E)成分を用いて脂質膜形成剤を製造する場合、(F)成分の添加順序は特に制限されない。例えば、(A)成分、(B)成分および(F)成分を混和した後、(C-1)成分、(D)成分および/または(E)成分を、同時に、もしくは順次に添加してもよい。あるいは、(A)成分および(B)成分に加えて、(C-1)成分、(D)成分および/または(E)成分を、同時に、もしくは順次に混和した後、最後に(F)成分を添加してもよい。また、さらに上記[他の成分]に記載の成分を用いて脂質膜形成剤を製造する場合、上記[他の成分]に記載の成分の添加順序は特に制限されず、例えば溶解性に応じて適宜選択しうる。例えば、脂溶性であれば(F)成分を添加する際に併せて添加してもよいし、最後に添加してもよい。あるいは、水溶性であれば(C-1)成分、(D)成分および/または(E)成分を添加する際に併せて添加しても、最後に添加してもよい。
【0114】
混和工程において、混和温度は、特に制限されないが、(A)成分と、(B)成分とを、(A)成分の相転移温度以上で混和するのが好ましい。この場合、(B)成分への(A)成分の混和性が向上し、水相となる(C-2)成分への分散性に優れた脂質膜形成剤を得ることができる。例えば、上限は120℃以下、110℃以下、100℃以下、95℃以下または90℃以下を挙げることができ、下限は、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上、65℃以上、70℃以上、75℃以上、80℃以上または85℃以上を挙げることができる。好ましくは25~120℃であり、より好ましくは40~100℃であり、さらにより好ましくは60~90℃である。また、混和時間も、特に制限されないが、好ましくは10~180分である。混和方法は特に制限されないが、高度な機械的剪断力を必要としないことから、マグネチックスターラー(例えばホットスターラーなど)、パドルミキサー、プロペラミキサー、プラネタリーミキサーなどの公知の混合手段を用いて行うことができる。
【0115】
[濃度調整工程]
本発明の脂質膜構造体含有組成物の製造方法は、上記分散工程に加えて、上記分散液と、(C-3)成分とをさらに混合して濃度調整する工程(以下、「濃度調整工程」)を含んでもよい。本発明の製造方法において濃度調整工程を含む場合、濃度調整工程を経て脂質膜構造体含有組成物が得られる。
【0116】
本発明の脂質膜構造体含有組成物の製造方法において、濃度調整工程は、必要に応じて、分散工程の後に行われる。すなわち、本発明の脂質膜構造体含有組成物の製造方法において、一実施形態では、濃度調整工程を含む。濃度調整工程は、分散工程の後に、目的とする脂質膜構造体含有組成物に含まれる(A)成分の濃度になるよう、分散工程で得られた分散液にさらに(C-3)成分を添加する工程である。すなわち、濃度調整工程は、分散工程で得られた分散液と、目的とする脂質膜構造体含有組成物に含まれる(A)成分の濃度になるのに必要な量の(C-3)成分とを混合し、脂質膜構造体含有組成物を得る工程である。
【0117】
濃度調整工程で分散液と混合される(C-3)成分の量は、混和工程を実施しない場合、目的とする脂質膜構造体含有組成物に含まれる(C)成分の量から、分散工程において用いられた(C-2)成分の量とを差し引いた量である。混和工程を実施した場合、(C-3)成分の量は、目的とする脂質膜構造体含有組成物に含まれる(C)成分の量から、混和工程において用いられた(C-1)成分の量と、分散工程において用いられた(C-2)成分の量とを差し引いた量である。または、分散液における(A)成分の濃度を、目的とする脂質膜構造体含有組成物における(A)成分の濃度となるように希釈するための(C-3)成分の量を算出してもよい。
【0118】
濃度調整工程における分散液と(C-3)成分との混合方法は、特に制限されず、分散液に対して(C-3)成分を添加する方法であってもよいし、(C-3)成分に対して上記の分散液を添加する方法であってもよい。脂質膜構造体の分散性向上の観点からは、後者の方法が好ましい。したがって、本発明の一実施形態に係る脂質膜構造体含有組成物の製造方法は、上記分散液を(C-3)成分に添加することを有する。
【0119】
脂質膜構造体含有組成物における(A)~(C)成分の含有量(濃度)は、濃度調整工程を行わない場合があることを踏まえると、上限としては、上記した分散液中の各成分の含有量とそれぞれ同様であるため、ここでは省略する。(A)成分および(B)成分の下限については、濃度調整工程によって分散液が希釈されることから、特に制限されないが、上記した分散液中の各成分の含有量を元に、濃度調整工程に応じて希釈された値として算出することできる。
【0120】
ここで、濃度調整工程により得られた脂質膜構造体含有組成物における脂質膜構造体の粒子径は、上記した分散液における脂質膜構造体の粒子径と同様である。これは、本発明において、分散工程において、分散液に含まれる脂質膜構造体の粒子径が決定され、その後、濃度調整工程により希釈された場合でも粒径を維持するからである。
【0121】
濃度調整工程において、混合温度は、特に制限されず、(A)成分の相転移温度以上で行ってもよく、(A)成分の相転移温度未満で行ってもよい。前者であれば、例えば下限として、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上または65℃以上であり、上限として100℃以下、95℃以下または90℃以下である。後者であれば、例えば上限として、40℃未満であり、35℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、15℃以下または10℃以下であり、下限として、-10℃以上、-5℃以上、0℃以上または5℃以上である。また、混合時間は、特に制限されず、例えば10~60分である。
【0122】
分散液と(C-3)成分との混合は、水相を撹拌しない状態で行って(分散液を(C-3)成分に)添加してもよいし、(C-3)成分を撹拌させながら行ってもよいし、分散液に(C-3)成分を添加してもよい。この際、(C-3)成分および/または分散液の撹拌条件は特に制限されないが、例えば、公知の撹拌手段を用いて回転数10~300rpmで行う。また、分散液および/または(C-3)成分は、一括で添加してもよいし、分割して添加してもよいし、公知の滴下手段を用いて、任意の添加速度にて順次添加してもよい。
【0123】
濃度調整工程において、分散液および(C-3)成分の温度は、特に制限されず、(A)成分の相転移温度以上であってもよく、(A)成分の相転移温度未満であってもよい。前者であれば、例えば下限として、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上または65℃以上であり、上限として100℃以下、95℃以下または90℃以下である。後者であれば、例えば上限として、40℃未満であり、35℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、15℃以下または10℃以下であり、下限として、-10℃以上、-5℃以上、0℃以上または5℃以上である。また、両者の温度は同じ温度であってもよく、異なる温度であってもよい。例えば、分散液または(C-3)成分が(A)成分の相転移温度以上であり、他方の(C-3)成分または分散液が(A)成分の相転移温度未満としてもよい。
【0124】
ここで、濃度調整工程において、(C-3)成分に加えて、(D)成分、(E)成分、および/または(F)成分を分散液と混合してもよい。この場合、(D)成分、(E)成分、および/または(F)成分は、別々に添加してもよいし、予め混合した後にその混合物を添加してもよい。また、さらに上記[他の成分]に記載の成分を用いて脂質膜構造体含有組成物を製造する場合、上記[他の成分]に記載の成分の添加順序は特に制限されず、例えば溶解性に応じて適宜選択しうる。例えば、脂溶性であれば(F)成分を添加する際に併せて添加してもよいし、最後に添加してもよい。あるいは、水溶性であれば(D)成分および/または(E)成分を添加する際に併せて添加しても、最後に添加してもよい。これら(D)~(F)成分、上記の[他の成分]の項に記載した成分の含有量は、濃度調整工程を行わない場合があることを踏まえると、上限としては、分散液における各成分の含有量と同様である。下限については、濃度調整工程によって分散液が希釈されることから、特に制限されないが、上記した分散液中の各成分の含有量を元に、濃度調整工程に応じて希釈された値として算出することできる。
【0125】
ここで、濃度調整工程において、脂質膜構造体の形成が可能である限り、他の成分をさらに添加していてもよい。かような成分としては、例えば、(B)成分以外のポリオール化合物、油剤、界面活性剤、保湿剤、美白剤、色材、アルコール類、アミノ酸、糖、ビタミン、粘度調整剤、高分子、着色剤、粉体、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、香料、美容成分、電解質、繊維、植物抽出エキス等が挙げられる。これらの他の成分も、添加順序は特に制限されず、例えば溶解性に応じて適宜選択しうる。なお、得られる脂質膜構造体の粒子径は、分散工程で得られた分散液中の(A)成分の濃度によって定まっていることから、上記のように濃度調整工程において(C-3)成分に加えて他の成分を混合する場合であっても、脂質膜構造体の粒子径は、濃度調整工程における他の成分の添加の影響を受けることはない。
【0126】
本発明に係る脂質膜構造体含有組成物の製造方法においては、上記分散工程、混和工程および濃度調整工程に加えて、精製(例えば、濾過等)、冷却、保管等の他の工程をさらに行ってもよい。
【0127】
<脂質膜構造体含有組成物の用途>
本発明に係る脂質膜構造体含有組成物は、そのまま用いることもできるし、本発明に係る脂質膜構造体含有組成物をさらに分散媒体に分散させて用いてもよい。この場合の分散媒体は、特に制限されないが、例えば、水、ポリオール化合物またはこれらの混合物等が挙げられる。ポリオール化合物としては、例えば、式(1)で表されるポリオール化合物を含んでいてもよく、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、および1,2-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0128】
本発明に係る脂質膜構造体含有組成物によれば、実質的な機械的剪断力が無くとも自発的に微細な脂質膜構造体を形成することができ、その際に水溶性成分や脂溶性成分を内包することができる。このことから、単に製造工場での製造コストを低減できるだけでなく、化粧品専門店などの店頭において、カウンセリングに基づいて任意の水溶性もしくは脂溶性の美容成分を内包した脂質膜構造体含有組成物を配合した化粧料や皮膚外用剤を要時調製するシステムも可能となり、脂質膜構造体の幅広い活用が期待できる。
【0129】
本発明の脂質膜構造体含有組成物は、このものを化粧料や皮膚外用剤として用いることの他、当該脂質膜構造体含有組成物を化粧料や皮膚外用剤に配合することで、保湿等のスキンケア効果を付与することができる。したがって、本発明の一実施形態は、上記の脂質膜構造体含有組成物を配合してなる化粧料である。また、本発明の一実施形態は、脂質膜構造体含有組成物を配合してなる皮膚外用剤である。よって、本発明によれば、上記に記載の製造方法により脂質膜構造体含有組成物を製造することを含む、化粧料の製造方法が提供される。また、本発明によれば、上記に記載の製造方法により脂質膜構造体含有組成物を製造することを含む、皮膚外用剤の製造方法が提供される。
【0130】
本発明の化粧料または皮膚外用剤の形態は、脂質膜構造体が安定に配合されるのであれば、特に制限されないが、ローション状、ジェル状、乳液状、クリーム状、シャンプー状、洗顔料状などが挙げられる。本発明の微細な(例えば、粒子径200nm以下の)脂質膜構造体を含有することによる、外観の透明感、塗布時の浸透感、安定性の高さを活かす観点から、脂質膜構造体の配合が難しい低粘度ローションへの配合が好ましく挙げられる。
【0131】
本発明の化粧料または皮膚外用剤は、上記の脂質膜構造体含有組成物に加え、本発明の効果を損なわない範囲において、化粧料または皮膚外用剤に通常使用される成分がさらに配合されていてもよい。かような成分としては、(B)成分以外のポリオール化合物、油剤、界面活性剤、保湿剤、美白剤、色材、アルコール類、アミノ酸、ビタミン、粘度調整剤、高分子、着色剤、粉体、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、香料、美容成分、電解質、pH調整剤、繊維、水、植物抽出エキス等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0132】
本発明の脂質膜構造体含有組成物を配合してなる化粧料および皮膚外用剤における脂質膜構造体の濃度は、脂質膜構造体によるスキンケア効果を得る観点から、好ましくは0.0001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。一方、当該濃度の上限としては、特に制限されないが、例えば5質量%未満である。
【0133】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0134】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0135】
[1](A)酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、(B)下記式1:
【0136】
【0137】
上記式1中、
Rは、置換もしくは非置換の炭素数2~6のアルキル基または置換もしくは非置換の炭素数3~6のシクロアルキル基であり、
Xは、-O-、-C(=O)O-または-O-C(=O)-であり、
nは、0または1である、
で表される化合物と、(C)水と、を含む脂質膜構造体含有組成物の製造方法であって、
前記(A)成分と、前記(B)成分と、前記(C)成分とを混合して、粒子径が10nm以上200nm以下の脂質膜構造体が自発的に形成された分散液を得る分散工程を含み、
前記脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて、前記分散液に対する前記(A)成分の濃度を決定することを含む、脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【0138】
[2]前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、100質量部を超える、上記[1]に記載の脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【0139】
[3]前記分散液に対する前記(A)成分の濃度が、0.01~15質量%である、上記[1]または[2]に記載の脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【0140】
[4]前記分散液と、前記(C)成分とを混合して前記脂質膜構造体含有組成物を得る濃度調整工程をさらに含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【0141】
[5]前記分散工程において、前記(A)成分の相転移温度以上で混合する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の脂質膜構造体含有組成物の製造方法。
【0142】
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法により脂質膜構造体含有組成物を製造することを含む、化粧料の製造方法。
【0143】
[7]上記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法により脂質膜構造体含有組成物を製造することを含む、皮膚外用剤の製造方法。
【実施例0144】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0145】
<脂質膜構造体含有組成物の調製>
以下の方法により脂質膜構造体含有組成物を調製した。なお、水素添加レシチンは、複数の酸価が異なる市販の大豆由来水素添加レシチン(酸価0.3~30.8mgKOH/g)を入手し、所望の酸価となるような割合で混合することにより、調製した。なお、実施例、比較例で用いた(A)成分または(A’)成分の水素添加レシチンの相転移温度は、40~50℃だった。
【0146】
[実施例1-0および1-1、実施例2-0および2-1ならびに比較例1-0および1-1、比較例2-0および2-1]
100mLビーカーに、(A)成分:水素添加レシチン(酸価6.1mgKOH/g、13.9mgKOH/g、または17.3mgKOH/g)または(A’)成分:水素添加レシチン(酸価0.3mgKOH/g)0.1質量部または1質量部、および(B)成分:1,2-ペンタンジオール(表1および表2「ペンタンジオール」と表記)または(B’)成分:プロピレングリコール0.4質量部または4質量部を添加し、ホットスターラーを用いて80℃で20分撹拌して、脂質膜形成剤を調製した。次に、200mLビーカーに(C-2)成分:精製水99.5mLまたは95mL(表1または表2「水(分散用)」と表記)を添加し、水相を調製した。水相を80℃に加温し、100rpmで撹拌下、上記調製した80℃の脂質膜形成剤を添加した。添加終了後、80℃で2分撹拌して、分散液を調製した。当該分散液を、実施例1-0および1-1、実施例2-0および2-1ならびに比較例1-0および1-1、比較例2-0および2-1では脂質膜構造体含有組成物とした。
【0147】
[実施例3-0および3-1]
100mLビーカーに、(A)成分:水素添加レシチン(酸価23.1mgKOH/g)0.1質量部または1質量部、(B)成分:1,2-ペンタンジオール0.4質量部または4質量部、および(F)成分:フィトステロールズ0.013質量部または0.13質量部を添加し、ホットスターラーを用いて80℃で20分撹拌した後、80℃に加温した(C-1)成分:精製水0.15質量部または1.49質量部(表1「水(形成剤用)」と表記)、(D)成分:アルギニン0.003質量部または0.03質量部、および(E)成分:クエン酸0.001質量部または0.01質量部を添加し、ホットスターラーを用いて80℃で5分撹拌し、脂質膜形成剤を調製した。次に、200mLビーカーに(C-2)成分:精製水99.33mLまたは93.34mL(表1「水(分散用)」と表記)を添加し、水相を調製した。水相を80℃に加温し、100rpmで撹拌下、上記調製した80℃の脂質膜形成剤を添加した。添加終了後、80℃で2分撹拌して、分散液を調製した。当該分散液を、実施例3-0および3-1では脂質膜構造体含有組成物とした。
【0148】
[比較例3-0および3-1]
100mLビーカーに、(A)成分:水素添加レシチン(酸価13.9mgKOH/g)0.1質量部または1質量部、(B’)成分:プロピレングリコール0.45質量部または4.5質量部、および(B’)成分:グリセリン0.45質量部または4.5質量部を添加し、ホットスターラーを用いて80℃で20分撹拌して、脂質膜形成剤を調製した。次に、200mLビーカーに(C-2)成分:精製水99mLまたは90mL(表2「水(分散用)」と表記)を添加し、水相を調製した。水相を80℃に加温し、100rpmで撹拌下、上記調製した80℃の脂質膜形成剤を添加した。添加終了後、80℃で2分撹拌して、分散液を調製した。当該分散液を、比較例3-0および3-1では脂質膜構造体含有組成物とした。
【0149】
[実施例1-2~1-5および実施例2-2~2-5ならびに比較例1-2~1-5および比較例2-2~2-5]
100mLビーカーに、表1または表2に記載の酸価(単位:mgKOH/g)を有する(A)成分:水素添加レシチンまたは(A’)成分:水素添加レシチン1質量部、および(B)成分:1,2-ペンタンジオール、または(B’)成分:プロピレングリコール4質量部を添加し、ホットスターラーを用いて80℃で20分撹拌して、脂質膜形成剤を調製した。次に、80℃に加温した(C-2)成分:精製水(表1または表2「水(分散用)」と表記の量)を脂質膜形成剤に添加し、ホットスターラーを用いて80℃で5分撹拌して、分散液を調製した。続いて、200mLビーカーに(C-3)成分:精製水(表1または表2「水(濃度調整用)」と表記の量)を添加して、水相を調製した。水相を80℃に加温し、100rpmで撹拌下、上記調製した80℃の分散液を添加した。添加終了後、80℃で2分撹拌して、脂質膜構造体含有組成物を調製した。
【0150】
[実施例3-2~3-5]
100mLビーカーに、表1に記載の酸価(単位:mgKOH/g)を有する(A)成分:水素添加レシチン1質量部、(B)成分:1,2-ペンタンジオール4質量部、および(F)成分:フィトステロールズ0.13質量部を添加し、ホットスターラーを用いて80℃で20分撹拌した後、80℃に加温した(C-1)成分:精製水1.49質量部(表1「水(形成剤用)」と表記)、(D)成分:アルギニン0.03質量部、および(E)成分:クエン酸0.01質量部を添加し、ホットスターラーを用いて80℃で5分撹拌し、脂質膜形成剤を調製した。次に、80℃に加温した(C-2)成分:精製水(表1「水(分散用)」と表記の量)を添加し、ホットスターラーを用いて80℃で5分撹拌して、分散液を調製した。続いて、200mLビーカーに(C-3)成分:精製水(表1「水(濃度調整用)」と表記の量)を添加して、水相を調製した。水相を80℃に加温し、100rpmで撹拌下、上記調製した80℃の分散液を添加した。添加終了後、80℃で2分撹拌して、脂質膜構造体含有組成物を調製した。
【0151】
[比較例3-2~3-5]
100mLビーカーに、(A)成分:水素添加レシチン(酸価13.9mgKOH/g)1質量部、(B’)成分:プロピレングリコール4.5質量部、および(B’)成分:グリセリン4.5質量部を添加し、ホットスターラーを用いて80℃で20分撹拌して、脂質膜形成剤を調製した。次に、200mLビーカーに(C-2)成分:精製水(表2「水(分散用)」と表記の量)を添加し、水相を調製した。水相を80℃に加温し、100rpmで撹拌下、上記調製した80℃の脂質膜形成剤を添加した。添加終了後、80℃で2分撹拌して、分散液を調製した。続いて、200mLビーカーに(C-3)成分:精製水(表2「水(濃度調整用)」と表記の量)を添加して、水相を調製した。水相を80℃に加温し、100rpmで撹拌下、上記調製した80℃の分散液を添加した。添加終了後、80℃で2分撹拌して、脂質膜構造体含有組成物を調製した。
【0152】
<評価方法>
[粒子径・多分散指数]
上記調製した脂質膜構造体含有組成物について、動的光散乱測定装置(Malvern Instruments社製、ゼータサイザーナノZSP)を用い、キュムラント解析により、脂質膜構造体の粒子径(散乱光強度基準)および多分散指数(PDI)を測定した。脂質膜構造体含有組成物の粒子径および多分散指数の測定結果を表1および表2に示す。なお、濃度調整工程を有する脂質膜構造体含有組成物において、分散工程により得られた分散液の脂質膜構造体の粒子径を測定した結果、分散液の脂質膜構造体の粒子径および多分散指数は、濃度調整工程後の脂質膜構造体含有組成物の脂質膜構造体の粒子径および多分散指数と同様であることが確認された。
【0153】
[Cryo-TEM観察]
実施例1-0~1-5、2-0~2-5および3-0~3-5で調製した脂質膜構造体含有組成物について、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 H-7650)を用いてCryo-TEM観察を行った。実施例3-1、3-3で調製した脂質膜構造体含有組成物について、Cryo-TEM観察の結果得られた観察写真を
図1(a)、(b)に示す。
図1(a)に示す観察写真において、リング状の像は単層ラメラリポソーム構造体を示し、棒状の像はバイセル構造体を示しており、単層ラメラ構造の脂質膜構造体の形成が確認された。
図1(b)に示す観察写真において、多層のリング状の像は多層ラメラリポソーム構造体を示しており、多層ラメラ構造の脂質膜構造体の形成が確認された。
【0154】
脂質膜構造体の粒子径、多分散指数、Cryo-TEM観察の結果を下記表1および表2に示す。なお、比較例1-0~1-5の脂質膜構造体含有組成物は分散不良により粒子径が測定できなかった。また、Cryo-TEM観察の結果は、表1中、「脂質膜構造体の膜構造」の欄に、単層ラメラ構造体が確認された場合、「単層」と示し、多層ラメラ構造体が確認された場合、「多層」と示した。なお、比較例で調製した脂質膜構造体含有組成物については、粒子径が200nmを超えているため、Cryo-TEM観察は行わなかった。
【0155】
【0156】
【0157】
表1に示すように、分散工程において分散液中の(A)成分の濃度を、脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて高くすることにより、得られる脂質膜構造体の粒子径が大きくなることがわかった。一方、表2に示すように、脂質膜構造体含有組成物において水素添加リン脂質の酸価が5mgKOH/g未満の場合、または(B)成分の代わりにプロピレングリコールまたはグリセリンを含む場合、分散工程における分散液の濃度を変化させたとしても得られる脂質膜構造体の粒子径に本発明の関係との整合性が見いだせないか、分散液が調製できない(分散不良であり、凝集が生じる)ことがわかった。
【0158】
なお、実施例1-0~実施例1-5、実施例2-0~実施例2-5、および実施例3-0~実施例3-5のそれぞれの系列について、分散工程で得られた分散液における(A)成分の濃度[%]を説明変数(x)とし、最終的に得られた脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の粒子径[nm]を従属変数(y)として、Microsoft Excel(Microsoft Corporation製)の「近似曲線の書式設定」における「多項式近似(3次)」の機能を用いて取得した近似曲線(3次多項式)およびその決定係数(R2)の値を下記の表3に示す。
【0159】
【0160】
以上のことから、酸価5mgKOH/g以上の水素添加リン脂質と、特定の構造を有するポリオール化合物とを組み合わせ、分散工程において分散液中の(A)成分の濃度を、脂質膜構造体含有組成物に含まれる脂質膜構造体の目的とする粒子径に応じて決定することにより、得られる脂質膜構造体の粒子径が制御できることがわかった。