(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003615
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】磁気エンコーダ
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20240105BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240105BHJP
G01D 5/245 20060101ALI20240105BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/18
G01D5/245 110M
B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102868
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 佑亮
【テーマコード(参考)】
2F077
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2F077AA14
2F077AA41
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2F077AA46
2F077CC02
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2F077VV03
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2F077VV12
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2F077VV23
2F077VV31
2F077VV33
3J217JA02
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3J217JA47
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3J701AA02
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3J701BA78
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3J701FA31
3J701FA44
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】円環状磁石部材がプラスチック磁石製である磁気エンコーダにおいて、熱衝撃試験における円環状磁石部材の破損を防止できるとともに、円環状支持部材の円筒部と軸受の内輪との嵌合部の密封性を長期間にわたって保持できる磁気エンコーダを提供する。
【解決手段】自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダ1であり、金属製の円環状支持部材2及びプラスチック磁石製の円環状磁石部材3からなる。円環状支持部材2は、軸受の内輪11に外嵌する円筒部4と外向きフランジ部5とからなる。円筒部4の内周面4Aと外向きフランジ部5のインボードIB側の面5Aとの間にはR面6がある。円環状磁石部材3は、外向きフランジ部5のインボードIB側の面5Aに取り付けられる。円環状磁石部材3の円筒状の内周面3Aが、内輪11の外周面11Bに対して0.15mm以下の隙間Cをあけて対向する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダであって、
金属製の円環状支持部材及びプラスチック磁石製の円環状磁石部材からなり、
前記円環状支持部材は、
前記ホイール支持用軸受装置の軸受の内輪に外嵌する円筒部と、
前記円筒部のインボード側の端部から径方向の外方へ延びる外向きフランジ部と、
からなり、
前記円筒部の内周面と前記外向きフランジ部のインボード側の面との間にはR面があり、
前記円環状磁石部材は、
前記外向きフランジ部のインボード側の面に取り付けられ、
前記円環状磁石部材の径方向の内面である円筒状の内周面が、前記円環状支持部材の前記円筒部が外嵌される、前記内輪の外周面に対して0.15mm以下の隙間をあけて対向する、
磁気エンコーダ。
【請求項2】
前記隙間は、0.01mm以上である、
請求項1に記載の磁気エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
回転体の回転速度(回転数)を検出する際に用いられる磁気エンコーダ装置は、磁気エンコーダと、磁気エンコーダの回転を検知する磁気センサとからなる。磁気エンコーダは回転体に取り付けられ、前記磁気センサは非回転体に取り付けられる。
【0003】
自動車のホイール支持用軸受装置(ハブユニットベアリング)に用いる磁気エンコーダは、円環状支持部材(スリンガ)と円環状磁石部材とからなる。円環状磁石部材は、ゴム磁石製のものとプラスチック磁石製のものとがある。
【0004】
ゴム磁石製の円環状磁石部材とプラスチック磁石製の円環状磁石部材とを比較すると、プラスチック磁石製の方がゴム磁石製よりも磁粉含有量を多くできる。したがって、円環状磁石部材がプラスチック磁石製である磁気エンコーダの方が、円環状磁石部材がゴム磁石製である磁気エンコーダよりも磁力を向上できる。その上、プラスチックの方がゴムよりも成形のサイクルタイムが短い。したがって、円環状磁石部材がプラスチック磁石製である磁気エンコーダの方が、円環状磁石部材がゴム磁石製である磁気エンコーダよりも生産性が高い。
【0005】
磁気エンコーダの円環状支持部材は、金属製であり、軸受の内輪に外嵌する円筒部、及び前記円筒部の一端部から径方向の外方へ延びる外向きフランジ部からなる。磁気エンコーダの円環状磁石部材は、N極とS極を一定間隔で周方向に多極に着磁したものであり、前記円環状支持部材の外向きフランジ部に取り付けられる。
【0006】
自動車のホイール支持用軸受装置において、前記磁気センサは、軸受の外輪に取り付けられており、磁気エンコーダの円環状磁石部材に対して軸方向から対向する。
【0007】
前記ホイール支持用軸受装置では、前記円環状支持部材の円筒部を前記内輪に嵌合させた状態で使用する。したがって、前記円筒部と前記内輪との嵌合部に水分が浸入すると、鉄製である前記内輪の外周面が腐食してしまう。
【0008】
前記嵌合部に水分が浸入しないようにするために、前記円環状磁石部材がゴム磁石製である場合において、前記内輪に対して締め代を有するようにゴム磁石製の円環状磁石部材を径方向の内方へ延長させることで、前記内輪に密接させるものがある(例えば、特許文献1の第1密封部3a,23a、特許文献2の内径端部11参照)。
【0009】
一方、前記円環状磁石部材がプラスチック磁石製である場合において、前記嵌合部に水分が浸入しないようにするために、前記円環状磁石部材を径方向の内方へ延長して円筒状部を形成し、前記円筒状部を加熱しつつ径方向内方へ変形させて前記内輪に密接させるものがある(例えば、特許文献3及び4参照)。
【0010】
すなわち、特許文献3では、前記円環状磁石部材であるプラスチック磁石製のエンコーダ20bの径方向の内側部に、前記円筒状部である短円筒状の突壁25を全周にわたって形成し、前記突壁25を加熱しつつ径方法内方に塑性変形ないしは溶融後固化させてシール用変形部24とし、内輪21の外周面に密接させる。
【0011】
また、特許文献4では、特許文献3における前記加熱による前記内輪の機械的性質の低下を抑制するために、エンコーダ中間体50の径方向の内側部の前記円筒状部であるシール用筒部52に対して放射線を照射して熱収縮性を高くしておき、加熱用工具55でシール用筒部52を内輪11の焼き戻し温度以下の温度で熱収縮させてシール部33とし、内輪11の外周面に密接させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002-139057号公報
【特許文献2】特許第4997520号公報
【特許文献3】特許第5853563号公報
【特許文献4】特開2021-80996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダでは、例えば、120℃の環境に30分保持した後、-40℃の環境に30分保持することを1サイクル(回)とする熱衝撃試験(ヒートサイクル試験)を1000サイクル以上行っても、前記磁気エンコーダの円環状磁石部材に亀裂等の破損が発生しないことが求められる。
【0014】
前記円環状磁石部材がプラスチック磁石製である特許文献3及び4の磁気エンコーダは、プラスチック磁石であるエンコーダ(特許文献3のエンコーダ20b、特許文献4のエンコーダ28)の内周面(特許文献3のシール用変形部24の内周面、特許文献4のシール部33の内周面)が、鉄製の内輪(特許文献3の内輪21、特許文献4の内輪11)の外周面と締め代を持って接触している。そのため、前記熱衝撃試験において、鉄製の内輪(特許文献3の内輪21、特許文献4の内輪11)とプラスチック磁石製のエンコーダ(特許文献3のエンコーダ20b、特許文献4のエンコーダ28)との線膨張係数の差により発生する熱応力により、プラスチック磁石製のエンコーダが破損することが懸念される。
【0015】
また、特許文献3又は4のような円環状磁石部材がプラスチック磁石製である磁気エンコーダでは、プラスチックが熱変形したシール用変形部24及びシール用筒部52は、剛性が高く、ゴム磁石のように弾性変形できないので、温度変化等に伴って密封性が低下することが懸念される。
【0016】
さらに、特許文献3及び4のような円環状磁石部材がプラスチック磁石製である磁気エンコーダは、円環状支持部材の円筒部と軸受の内輪との嵌合部に水分を浸入させないようにするために、プラスチックを加熱して前記内輪に密接させるように変形させる工程等が必要になる。したがって、製造工程が複雑になるので、製造コストが高くなることが懸念される。
【0017】
本発明は、円環状磁石部材がプラスチック磁石製である磁気エンコーダにおいて、前記熱衝撃試験におけるプラスチック磁石製の円環状磁石部材の破損を防止することができるとともに、円環状支持部材の円筒部と軸受の内輪との嵌合部の密封性を長期間にわたって保持できる磁気エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の発明者らは、円環状磁石部材がプラスチック磁石製である磁気エンコーダについて、熱衝撃試験におけるプラスチック磁石製の円環状磁石部材の破損を防止すること、及び、前記磁気エンコーダの円環状支持部材の円筒部を自動車のホイール支持用軸受装置の軸受の内輪に外嵌した状態で、前記円筒部と前記内輪との嵌合部の密封性を長期間にわたって保持することについて鋭意検討を行った。
【0019】
その結果、熱衝撃試験における前記破損を防止しながら、前記密封性の保持を実現するために、プラスチック製である円環状磁石部材と鉄製である内輪との間に微小な隙間を設けることで、前記内輪の外周面に赤錆が発生する前に敢えて黒錆を発生させ、その皮膜により赤錆の進行を抑制するという着想を得、実験による評価を行って本発明を完成するに至った。
【0020】
本発明の第1観点に係る磁気エンコーダは、自動車のホイール支持用軸受装置に用いる磁気エンコーダであって、金属製の円環状支持部材及びプラスチック磁石製の円環状磁石部材からなる。前記円環状支持部材は、前記ホイール支持用軸受装置の軸受の内輪に外嵌する円筒部と、前記円筒部のインボード側の端部から径方向の外方へ延びる外向きフランジ部とからなる。前記円筒部の内周面と前記外向きフランジ部のインボード側の面との間にはR面がある。前記円環状磁石部材は、前記外向きフランジ部のインボード側の面に取り付けられ、前記円環状磁石部材の径方向の内面である円筒状の内周面が、前記円環状支持部材の前記円筒部が外嵌される、前記内輪の外周面に対して0.15mm以下の隙間をあけて対向する。
【0021】
本発明の第1観点に係る磁気エンコーダによれば、プラスチック磁石製の円環状磁石部材の内周面は、鉄製の内輪の外周面と締め代を持って接触しておらず、前記内周面と前記外周面との間には隙間がある。したがって、熱衝撃試験において、前記円環状磁石部材と前記内輪との線膨張係数の差によって前記円環状磁石部材が破損するような熱応力の発生を抑制できるので、プラスチック磁石製の円環状磁石部材の破損を防止できる。
【0022】
前記隙間は0.15mm以下であり、円環状磁石部材の内周面と内輪の外周面とは対向する。前記隙間が小さいことから、その閉鎖性構造により溶存酸素量が限定される。そのため、鉄製である内輪の前記隙間の部分の酸化が酸素不足状態で進行するので、前記内輪の前記隙間の部分には赤錆が発生する前に酸化被膜である黒錆が発生する。
【0023】
黒錆は赤錆に比べ十分に薄く組織が緻密であり、内輪の表面に強固な黒錆の皮膜が形成される。敢えて発生させる黒錆により、内輪のインボード側の端部における赤錆の進行を抑制できる。したがって、軸受の内輪と円環状支持部材の円筒部との嵌合部の密封性を長期間にわたって保持できるので、軸受の内部への水の浸入を長期間にわたって防止できる。
【0024】
本発明の第1観点に係る磁気エンコーダによれば、円環状磁石部材がプラスチック磁石製である磁気エンコーダにおいて、円環状磁石部材の径方向の内面である円筒状の内周面を、軸受の内輪の外周面に対して0.15mm以下の隙間をあけて対向させるように円環状磁石部材を成形すればよいので、製造コストの上昇を抑制できる。
【0025】
本発明の第2観点に係る磁気エンコーダは、第1観点に係る磁気エンコーダにおいて、前記隙間は、0.01mm以上である。
【0026】
本発明の第2観点に係る磁気エンコーダによれば、0.15mm以下の前記隙間を0.01mm以上としている。すなわち、敢えて発生させる黒錆の厚みも考慮して、前記黒錆が発生する前の状態で0.01mm以上の隙間を残している。そのため、前記黒錆が発生しても締め代が大きくならない。したがって、熱衝撃試験においてプラスチック磁石製の円環状磁石部材が破損するような熱応力の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る磁気エンコーダによれば、円環状磁石部材がプラスチック磁石製である磁気エンコーダにおいて、熱衝撃試験におけるプラスチック磁石製の円環状磁石部材の破損を防止することができるとともに、円環状支持部材の円筒部と軸受の内輪との嵌合部の密封性を長期間にわたって保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施の形態に係る磁気エンコーダを備えた自動車のホイール支持用軸受装置を示す縦断面図である。
【
図2】
図1の磁気エンコーダまわりの要部拡大縦断面図である。
【
図3】内輪に取り付けた磁気エンコーダ(C=0.15mm)を示す要部拡大縦断面図である。
【
図4】内輪に取り付けた磁気エンコーダの第1変形例(C=0.1mm)を示す要部拡大縦断面図である。
【
図5】内輪に取り付けた磁気エンコーダの第2変形例(C=0.01mm)を示す要部拡大縦断面図である。
【
図6】内輪に取り付けた磁気エンコーダの比較例(C=1.15mm)を示す要部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0030】
本明細書において、自動車のホイール支持用の軸受装置に磁気エンコーダを装着した状態で、前記軸受装置の回転軸(
図1中の符号O参照)の方向に直交する方向を「径方向」(
図1の矢印R参照)という。「径方向」において、前記回転軸から離れる方向を「径方向の外方」、前記回転軸に近づく方向の「径方向の内方」をいう。前記回転軸の方向に対して「周方向」を定義する。
【0031】
また、自動車の車体から車輪側に向かう方向を「アウトボード」(
図1中の矢印OB参照)、自動車の車輪から車体側へ向かう方向を「インボード」(
図1中の矢印IB参照)という。
【0032】
<自動車のホイール支持用の軸受装置>
図1の縦断面図、及び
図2の要部拡大縦断面図に示すように、本発明の実施の形態に係る磁気エンコーダ1を備えた自動車のホイール支持用軸受装置Aは、車輪ハブとしての内輪11が外輪12に対して回転する軸受Bの他に、アキシャル型の磁気エンコーダ1、軸受BのインボードIB側及びアウトボードOB側に配置したシール部材S1,S2、並びに磁気センサMS等を備える。シール部材S1,S2により、軸受B内への泥水等の浸入を防止するとともに潤滑用グリスの漏出を防止する
【0033】
軸受Bは、外周面に内輪軌道面11Aが形成された内輪11、及び内周面に外輪軌道面12Aが形成された外輪12、並びに、内輪軌道面11A及び外輪軌道面12A間を転動する、ボールである転動体13等を有する。内輪11、外輪12、及び転動体13は、鉄製である。
【0034】
自動車のホイール支持用軸受装置Aにおいて、磁気エンコーダ1は、シール部材S1のインボードIB側(軸受Bの密閉空間外)に配置されるので、外部雰囲気に曝される環境で使用される。
【0035】
<磁気エンコーダ>
図1の縦断面図、
図2の要部拡大縦断面図、及び
図3の要部拡大縦断面図に示す磁気エンコーダ1は、金属製の円環状支持部材2と、プラスチック磁石製の円環状磁石部材3とからなる。
【0036】
(円環状支持部材)
円環状支持部材2は、例えば、厚さ0.6mmのステンレス鋼製の板材からプレス加工により成形される。
【0037】
円環状支持部材2は、内輪11に外嵌する円筒部4と、円筒部4のインボードIB側の端部から径方向Rの外方へ延びる外向きフランジ部5とからなる。円筒部4の内周面4Aと外向きフランジ部5のインボードIB側の面5Aとの間にはR面6がある。円筒部4の内周面4Aの直径は、40mmないし100mmである。
【0038】
(円環状磁石部材)
円環状磁石部材3は、N極とS極を一定間隔で周方向に多極に着磁したものであり、例えば、磁性体粉、バインダ、及び添加剤が含まれた磁石材料によって形成されており、磁性体粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト系磁性粉末の他、ネオジム系やサマリウム系等の希土類磁性粉末が、バインダとしては、ポリアミド(PA6、PA12、PA612等)やポリフェニレンサルファイド(PPS)等の熱可塑性脂材料が、添加剤としては、カーボンファイバー等の有機系添加剤や、ガラスビーズ、ガラスファイバー、タルク、マイカ、窒化珪素(セラミック)、及び結晶性(非結晶性)シリカ等の無機系添加剤が好適に使用できる。
【0039】
円環状磁石部材3は、円環状支持部材2に熱硬化型接着剤による接着剤層を介在させて、これをインサートワークとした射出成形により成形され、円環状支持部材2の外向きフランジ部5のインボードIB側の面5Aに取り付けられる。
【0040】
<磁気エンコーダの形状>
図3の要部拡大縦断面図に示すように、磁気エンコーダ1は、円環状磁石部材3の径方向Rの内面である円筒状の内周面3Aが、内輪11の外周面11Bに対して隙間Cをあけて対向する。
図3の磁気エンコーダ1では、隙間C=0.15mmである。隙間Cを0<C≦0.15mmにすることが、本発明の第1観点に係る磁気エンコーダにおける「隙間」に相当する。
【0041】
<変形例>
(第1変形例)
図4の要部拡大縦断面図に示す第1変形例の磁気エンコーダ1は、
図3の磁気エンコーダ1と同様の構造であり、
図3の磁気エンコーダ1よりも隙間Cを小さく、C=0.1mmにしたものである。
【0042】
(第2変形例)
図5の要部拡大縦断面図に示す第2変形例の磁気エンコーダ1は、
図3及び
図4の磁気エンコーダ1と同様の構造であり、
図4の磁気エンコーダ1よりも隙間Cをさらに小さく、C=0.01mmにしたものである。
【0043】
隙間Cを0<C≦0.15mmにすることにより、プラスチック磁石製の円環状磁石部材3の内周面3Aは、鉄製の内輪11の外周面11Bと締め代を持って接触しておらず、内周面3Aと外周面11Bとの間には隙間Cがある。したがって、熱衝撃試験において、円環状磁石部材3と内輪11との線膨張係数の差によって円環状磁石部材3が破損するような熱応力の発生を抑制できるので、プラスチック磁石製の円環状磁石部材3の破損を防止できる。
【0044】
<塩水噴霧試験による腐食の評価>
(実施例及び比較例)
図3ないし
図5の磁気エンコーダ1を、それぞれ実施例1ないし3とし、
図6の磁気エンコーダ1を比較例とする。実施例1ないし3、及び比較例の磁気エンコーダ1において、外径DOをφ70mm、内径DIをφ60mmとし、円環状磁石部材3の高さEを1.5mmとする。以下のとおり、円環状磁石部材3の円筒状の内周面3Aと、円環状支持部材2の円筒部4が外嵌された下記「試験方法」の軸部材の、前記内周面3Aが対向する外周面との間の隙間Cの大きさが異なる。
【0045】
(1) 実施例1(
図3):隙間C=0.15mm。
(2) 実施例2(
図4):隙間C=0.1mm。
(3) 実施例3(
図5):隙間C=0.01mm。
(4) 比較例 (
図6):隙間C=1.15mm。
【0046】
(試験方法)
磁気エンコーダの円環状支持部材2の円筒部4が嵌合する内輪11の円柱状の部分を模して製作した軸部材(機械構造用炭素鋼S45C)に、実施例1ないし3、及び比較例の磁気エンコーダ1を外嵌したものを試験体とする。実施例及び比較例の各々について4個の試験体を製作して評価する。
【0047】
前記試験体をスガ試験機株式会社製複合サイクル試験機CYP-90の試験槽内に静置し、JIS Z 2371:2015「塩水噴霧試験方法」に準拠した試験を行う。前記試験槽内は、温度35℃、5%濃度の塩化ナトリウム溶液を噴霧する雰囲気とし、前記軸部材の円筒部4との嵌合部である前記軸部材の外周面の錆発生状況を目視で確認する。
【0048】
(試験結果)
試験結果を、比較例における赤錆が発生するまでの時間を1として表1に示す。
【0049】
【0050】
比較例(C=1.15mm)に対して、実施例1(C=0.15mm)、実施例2(C=0.1mm)、及び実施例3(C=0.01mm)の方が、赤錆が発生するまでの時間が、2~5倍長いことが分かる。その理由は、実施例1ないし3の隙間Cは0.15mm以下で小さいことから、赤錆が発生する前に酸化被膜である黒錆が発生するためであると考えられる。すなわち、円環状磁石部材3の内周面3Aと軸部材の外周面とは対向し、その対向面の間に、0.15mm以下の小さな隙間がある。そのため、前記小さな隙間の閉鎖性構造により溶存酸素量が限定されることから、鉄製である軸部材の前記隙間の部分の酸化が酸素不足状態で進行するので、前記軸部材の前記隙間の部分には赤錆が発生する前に酸化被膜である黒錆が発生する。
【0051】
黒錆は赤錆に比べ十分に薄く組織が緻密であり、前記軸部材の表面に強固な黒錆の皮膜が形成される。敢えて発生させる黒錆により、前記軸部材の端部における赤錆の進行を抑制できる。したがって、前記軸部材と円環状支持部材2の円筒部4との嵌合部の密封性を長期間にわたって保持できる。
【0052】
隙間Cは、0.01mm以上にする(0.01mm≦C≦0.15mm)のが好ましい実施態様である。それにより、敢えて発生させる黒錆の厚みも考慮して、前記黒錆が発生する前の状態で0.01mm以上の隙間を残すことができる。そのため、前記黒錆が発生しても締め代が大きくならない。したがって、熱衝撃試験においてプラスチック磁石製の円環状磁石部材3が破損するような熱応力の発生を抑制できる。
【0053】
以上のような本発明の磁気エンコーダ1(例えば、
図3ないし
図5)によれば、円環状磁石部材3がプラスチック磁石製である磁気エンコーダ1において、円環状磁石部材3の円筒状の内周面3Aを、軸受Bの内輪11の外周面11Bに対して0.15mm以下の隙間Cをあけて対向させるように円環状磁石部材3を成形すればよいので、製造コストの上昇を抑制できる。
【0054】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 磁気エンコーダ
2 円環状支持部材
3 円環状磁石部材
3A 円筒状の内周面(径方向の内面)
4 円筒部
4A 内周面
5 外向きフランジ部
5A インボード側の面
6 R面
11 内輪
11A 内輪軌道面
11B 外周面
12 外輪
12A 外輪軌道面
13 転動体
A 自動車のホイール支持用軸受装置
B 軸受
C 隙間
DI 磁気エンコーダの内径
DO 磁気エンコーダの外径
E 円環状磁石部材の高さ
IB インボード
MS 磁気センサ
O 回転軸
OB アウトボード
R 径方向
S1,S2 シール部材