(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036162
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】燃料電池車両の冷却装置
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20240308BHJP
F28F 27/00 20060101ALI20240308BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240308BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20240308BHJP
H01M 8/04694 20160101ALI20240308BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240308BHJP
B60K 8/00 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
B60K11/04 H
F28F27/00 511B
H01M8/00 Z
H01M8/04313
H01M8/04694
H01M8/04 Z
B60K8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140919
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】アマラシンフ スーウイン インヅューラ
【テーマコード(参考)】
3D038
3D235
5H127
【Fターム(参考)】
3D038AA10
3D038AB03
3D038AC03
3D038AC14
3D038AC16
3D235AA06
3D235BB36
3D235BB45
3D235CC22
3D235DD32
3D235FF02
5H127AB04
5H127AB29
5H127AC04
5H127AC07
5H127BA02
5H127BA22
5H127BB02
5H127CC01
5H127DB91
5H127DC91
5H127EE04
5H127EE22
5H127FF12
(57)【要約】
【課題】燃料電池車両の冷却装置で搭載性及び冷却性能を共に確保する。
【解決手段】キャブ21及びシャシフレーム22を備えるとともに燃料電池23の電力でモータ24を駆動する燃料電池車両2の冷却装置1である。冷却装置1は、キャブ21の後方でシャシフレーム22の車幅方向D2の外方に設置された水素ガス貯留部3と、水素ガス貯留部3の車幅方向D2の外方で水素ガス貯留部3に沿って設置された熱交換部4と、熱交換部4と水素ガス貯留部3との間に設けられ、車幅方向D2の外方から内方へ向かう第一方向及び車幅方向D2の内方から外方へ向かう第二方向の双方向に送風可能なファン7を有する外気誘導部5と、車速が所定速度未満の場合、第一方向に外気を誘導する第一モードを選択し、車速が所定速度以上の場合、第二方向に外気を誘導する第二モードを選択する制御部20と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブ及びシャシフレームを備えるとともに燃料電池の電力で走行用のモータを駆動する燃料電池車両の冷却装置であって、
前記キャブよりも後方において前記シャシフレームの車幅方向外方に設置され、前記燃料電池へ供給される水素ガスを貯留する水素ガス貯留部と、
前記水素ガス貯留部の前記車幅方向外方において前記水素ガス貯留部に沿って設置され、少なくとも前記燃料電池を冷却する冷媒と外気との間で熱交換を行なう熱交換部と、
前記熱交換部と前記水素ガス貯留部との間に設けられ、前記外気を前記熱交換部へ誘導するために前記車幅方向外方から車幅方向内方へ向かう第一方向及び前記車幅方向内方から前記車幅方向外方へ向かう第二方向の双方向に送風可能なファンを有する外気誘導部と、
前記燃料電池車両の車速が所定速度未満の場合、前記ファンにより前記第一方向に前記外気を誘導する第一モードを選択し、前記燃料電池車両の車速が前記所定速度以上の場合、前記ファンにより前記第二方向に前記外気を誘導する第二モードを選択する制御部と、を備えている
ことを特徴とする、燃料電池車両の冷却装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記燃料電池車両の車速が前記所定速度未満であり、かつ、前記熱交換部の冷却対象の温度が所定の最大許容温度未満である第一温度条件と前記熱交換部の前記冷媒の時間当たりの温度変化率が所定の閾値未満である第二温度条件との双方を満足する場合には前記第一モードを選択し、前記燃料電池車両の車速が前記所定速度以上の場合には前記第二モードを選択し、前記燃料電池車両の車速が前記所定速度未満であり、かつ、前記第一温度条件又は前記第二温度条件を満足しない場合には、前記ファンにより前記第二方向に前記外気を誘導する第三モードを選択する
ことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池車両の冷却装置。
【請求項3】
前記熱交換部の前記車幅方向外方に設置されたフレームと、前記フレームに囲まれた開口内に設けられており、前記外気を前記第二方向に沿って略水平に排出する水平モード又は前記外気を前記第二方向に沿いかつ上向き又下向きに排出する傾斜モードに変形可能な複数の羽板と、を有するルーバを備え、
前記制御部は、前記第一モード及び前記第二モードでは前記羽板を前記水平モードに設定し、前記第三モードでは前記羽板を前記傾斜モードに設定する
ことを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池車両の冷却装置。
【請求項4】
前記ファンは、正逆回転可能なモータにより正回転及び逆回転の双方向に回転可能な双方向ファンとして構成されており、
前記制御部は、前記ファンを正回転して前記第一方向へ前記外気を誘導する第一制御信号又は前記ファンを逆回転して前記第二方向へ前記外気を誘導する第二制御信号を前記ファンに対して出力する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料電池車両の冷却装置。
【請求項5】
前記ファンは、同一方向の回転に対して前記第一方向へ前記外気を誘導する第一角度又は前記同一方向の回転に対して前記第二方向へ前記外気を誘導する第二角度に取付角度を調整可能なブレードを有しており、
前記制御部は、前記第一角度を指示する第一角度制御信号又は前記第二角度を指示する第二角度制御信号を前記ファンに対して出力する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料電池車両の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、キャブ及びシャシフレームを備えた燃料電池車両の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素と酸素(空気)との化学反応を利用して発電を行なう燃料電池システムが知られている。近年、環境への負荷を低減する観点から、キャブ及びシャシフレームを備えたトラック等の商用車の分野においても、燃料電池システムの開発が行なわれている。
商用車に適用される燃料電池システムは、商用車の重量に応じた大きな出力が要求されることから、大型化しやすい傾向にある。これに伴い、燃料電池を冷却するためのラジエータも、高い冷却性能が求められることで大型化しやすい傾向にある。
これに対し、特許文献1には、燃料電池貨物車において複数のラジエータを使用することにより、燃料電池に対する冷却能力を確保する技術が開示されている。この技術では、複数のラジエータが燃料電池と共にキャブの下方に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般にキャブの下方のスペースには、燃料電池に加えてステアリング装置なども配置されるため、ラジエータの搭載スペースを大きく確保することが難しく、十分な冷却性能を有する大型のラジエータを設置することは特に困難である。
また、燃料電池車両において冷却対象となる冷却対象機器には、燃料電池のほか高電圧バッテリや電動モータなどがある。そのため、燃料電池およびその他の冷却対象機器に対する冷却能力を確保し得るように、冷却装置の設置場所を設定することが求められている。
冷却装置を燃料電池車両の側方(車幅方向外方)に設定した場合、キャブの下方に比べて、スペースを確保しやすい。しかし、この設置場所は、熱交換後に排出される高温の外気が車両の近傍の人物や周辺環境に影響を与えやすい点が懸念される。
【0005】
したがって、特許文献1に開示されるような従来の技術は、冷却装置の搭載性と冷却性能とを共に確保するうえで、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件は上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
【0007】
本適用例に係る燃料電池車両の冷却装置は、キャブ及びシャシフレームを備えるとともに燃料電池の電力で走行用のモータを駆動する燃料電池車両の冷却装置であって、前記キャブよりも後方において前記シャシフレームの車幅方向外方に設置され、前記燃料電池へ供給される水素ガスを貯留する水素ガス貯留部と、前記水素ガス貯留部の前記車幅方向外方において前記水素ガス貯留部に沿って設置され、少なくとも前記燃料電池を冷却する冷媒と外気との間で熱交換を行なう熱交換部と、前記熱交換部と前記水素ガス貯留部との間に設けられ、前記外気を前記熱交換部へ誘導するために前記車幅方向外方から車幅方向内方へ向かう第一方向及び前記車幅方向内方から前記車幅方向外方へ向かう第二方向の双方向に送風可能なファンを有する外気誘導部と、前記燃料電池車両の車速が所定速度未満の場合、前記ファンにより前記第一方向に前記外気を誘導する第一モードを選択し、前記燃料電池車両の車速が前記所定速度以上の場合、前記ファンにより前記第二方向に前記外気を誘導する第二モードを選択する制御部と、を備えている。
【0008】
本適用例によれば、熱交換部が水素ガス貯留部の車幅方向外方において水素ガス貯留部に沿って設置されることで、熱交換部の搭載スペースを大きく確保するとともに、十分な冷却性能を確保できる。
このような水素ガス貯留部の車幅方向外方に熱交換部が設置された構造において、車速が所定速度未満の場合、ファンにより車幅方向外方から内方へ向かう第一方向に外気を誘導する第一モードを選択する。これにより、熱交換器を通過した外気が車幅方向内方へ排出されるため、車両の近傍の人物など周辺環境に対する高温の外気の影響が抑制される。
【0009】
一方、車速が所定速度以上の場合、ファンにより車幅方向内方から外方へ向かう第二方向に外気を誘導する第二モードを選択する。これにより、外気は、車幅方向内方から熱交換部を通過して車幅方向外方へ排出されるため、熱交換器を通過した高温の外気が水素ガス貯留部に当たることはない。そのため、水素ガス貯留部が高温になることを抑制できる。このことは冷却性能の確保に寄与する。
【発明の効果】
【0010】
本件によれば、水素ガス貯留部の車幅方向外方に熱交換部が設置された構造において、熱交換部の搭載スペースを大きく確保するとともに、十分な冷却性能を確保したうえで、ファンによる外気の誘導方向(送風方向)を車速に応じて最適化することができる。
そのため、冷却装置の搭載性と冷却性能とを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一実施形態に係る冷却装置が適用された燃料電池車両の概略的な上面図である。
【
図2】
図1の燃料電池車両の要部を概略的に示す断面図であり、ブレースを分解して示す。
【
図3】
図1の燃料電池車両に設けられる歩行者ガードの斜視図である。
【
図4】
図1の燃料電池車両の要部を概略的に示す断面図であり、第一方向に沿う外気の流れを示している。
【
図5】
図1の燃料電池車両の要部を概略的に示す断面図であり、第二方向に沿う外気の流れを示している。
【
図6】ファンの駆動回路の構成例を説明するブロック図である。
【
図7】送風方向の制御の一例を説明するフローチャートである。
【
図8】第二実施形態に係る冷却装置のファンを説明する斜視図であって、羽根が第一角度に設定された場合である。
【
図9】第二実施形態に係る冷却装置のファンを説明する斜視図であって、羽根が第二角度に設定された場合である。
【
図10】歩行者ガードに付設されたルーバの説明図であって、車幅方向から視た側面図である。
【
図11】羽板が下方傾斜姿勢をなすルーバを
図10のA-A線から視た断面図である。
【
図12】羽板が上方傾斜姿勢をなすルーバを
図10のA-A線から視た断面図である。
【
図13】変形例に係るルーバを説明する断面図である。
【
図14】変形例に係る送風方向の制御の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、本件の実施形態について説明する。以下の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。下記の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせられる。
【0013】
[1.第一実施形態]
[1-1.構成]
<燃料電池車両>
図1に示すように、第一実施形態に係る燃料電池車両の冷却装置1は、トラックである燃料電池車両2に適用されている。以下、「燃料電池車両の冷却装置1」を単に「冷却装置1」ともいい、「燃料電池車両2」を単に「車両2」ともいう。車両2は、キャブ21及びシャシフレーム22を備えるとともに、燃料電池23の電力で走行用のモータ24を駆動する。本実施形態の車両2は、燃料電池23の電力を蓄える高電圧バッテリ25を更に備えており、高電圧バッテリ25に蓄えられた電力でモータ24を駆動する。なお、図面では、キャブ21及び後述の架装物36をいずれも二点鎖線で示す。
【0014】
本実施形態のシャシフレーム22は、ラダーフレーム構造をなす。具体的にいえば、シャシフレーム22は、車長方向(前後方向)D1に延びるとともに車幅方向(左右方向)D2に互いに離隔する一対のサイドレール26と、車幅方向D2に延びてサイドレール26どうしを接続する複数のクロスメンバ27(
図1には二つのみ示す)とを有し、梯子形状をなす。シャシフレーム22の前部は、キャブ21を下方から支持する。一方、シャシフレーム22の車長方向D1の中央部及び後部は、キャブ21の後方に配置される架装物36を下方から支持する。架装物36は、例えば荷箱であって、ボディとも呼ばれる。
【0015】
燃料電池23は、水素と酸素(空気)との化学反応により発電する装置である。燃料電池23は、例えば、キャブ21の下方において、一対のサイドレール26の間に配置される。燃料電池23には、燃料電池23に関するバルブやコンプレッサといった様々な補機28(以下、FC補機28ともいう)が付設される。
【0016】
高電圧バッテリ25は、例えば、キャブ21及び燃料電池23よりも後方において、一対のサイドレール26の間に配置される。また、燃料電池23の後方かつ高電圧バッテリ25の前方には、電動の様々な補機29(以下、E補機29ともいう)と、ヒータ30と、DC/DCコンバータ31とが配置される。E補機29は、具体的には、ウォーターポンプやコンプレッサやバルブである。ヒータ30は、高電圧バッテリ25を温めるための装置である。DC/DCコンバータ31は、直流の電圧を上げ下げする装置である。E補機29,ヒータ30及びDC/DCコンバータ31はいずれも、一対のサイドレール26の間に配置される。
【0017】
モータ24は、例えば、高電圧バッテリ25よりも後方において、一対のサイドレール26の間に配置される。モータ24は、図示しないインバータとモジュール化されている。モータ24の後方には、図示しない減速ギヤを含むアクスル32が配置される。また、高電圧バッテリ25及びモータ24の間には、オイルクーラ33が配置される。オイルクーラ33は、モータ24及びアクスル32の冷却及び潤滑用のオイルを冷却する装置である。本実施形態のオイルクーラ33は、オイルと冷却水との間で熱交換を行なう水冷式のものである。なお、モータ24及びアクスル32がオイルに代えて冷却水で冷却される場合には、オイルクーラ33が省略される。
【0018】
VCU20は、例えば高電圧バッテリ25及びオイルクーラ33の間に車両2が備える各種装置を統括制御するための電子制御装置であり、例えばマイクロプロセッサやROM、RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成されている。
VCU20は、通信ライン(
図1において点線で示す)を介して後述する複数のファン7に接続されている。
【0019】
<冷却装置>
冷却装置1は、キャブ21よりも後方においてシャシフレーム22の車幅方向D2の外方に設置された水素ガス貯留部3と、水素ガス貯留部3の車幅方向D2の外方において水素ガス貯留部3に沿って設置された熱交換部4とを備える。本実施形態では、第一タンク3A及び第二タンク3Bの二つのタンクを含む水素ガス貯留部3を例示する。
【0020】
第一タンク3Aは、ラダーフレーム構造をなすシャシフレーム22において車長方向D1に延びる一対のサイドレール26のうち、一方(
図1では左側)のサイドレール26の車幅方向D2の外方に設けられる。また、第二タンク3Bは、他方(
図1では右側)のサイドレール26の車幅方向D2の外方に設けられる。このように、本実施形態では、左側のサイドレール26の左側に第一タンク3Aが配置され、右側のサイドレール26の右側に第二タンク3Bが配置されている。
【0021】
水素ガス貯留部3(第一タンク3A及び第二タンク3Bの各々)は、燃料電池23へ供給される水素ガスを貯留する容器であって、例えば、円筒の両端を半球面で塞いだような形状をなし、円筒の軸心が車長方向D1に沿って延びる姿勢で搭載される。本実施形態では、互いに等しい形状をなす第一タンク3A及び第二タンク3Bを例示する。ただし、水素ガス貯留部3の形状は上記の例に限定されず、二つのタンク3A,3Bが互いに異なる形状をなしてもよい。
【0022】
水素ガス貯留部3は、車両2の前輪34と後輪35との間のスペースに配置される。また、水素ガス貯留部3は、安全性の観点から、車幅方向D2において車両2の外面37(例えば架装物36の最も外方の面)よりも所定寸法以上内方に配置される。したがって、水素ガス貯留部3よりも車幅方向D2の外方には、所定寸法以上のスペースが設けられている。
【0023】
熱交換部4は、上記のとおり水素ガス貯留部3よりも車幅方向D2の外方に設けられた所定寸法以上のスペースに配置される。換言すれば、熱交換部4は、水素ガス貯留部3の車幅方向D2の外方に存在するデッドスペースを利用して搭載されている。本実施形態の熱交換部4は、水素ガス貯留部3から車幅方向D2に離隔して設けられている。
【0024】
熱交換部4は、少なくとも燃料電池23を冷却する冷媒と外気との間で熱交換を行なう装置である。本実施形態では、燃料電池23を冷却するための第一ラジエータ4Aと、高電圧バッテリ25を冷却するための第二ラジエータ4Bと、モータ24を冷却するための第三ラジエータ4Cとの三つのラジエータを含む熱交換部4を例示する。三つのラジエータ4A,4B,4Cの各々は、冷媒としての冷却水を外気で冷却する空冷式の熱交換器である。本実施形態のラジエータ4A,4B,4Cはいずれも、薄い箱型をなし、面積の最も大きい側面(外気が通過する面)が少なくとも車長方向D1に沿う姿勢で配置される。
【0025】
第一ラジエータ4Aは、燃料電池23を冷却する第一冷媒(冷媒)41と外気との間で熱交換を行なう。本実施形態の第一ラジエータ4Aは、燃料電池23に専用の冷却装置である。したがって、第一冷媒41は、燃料電池23と第一ラジエータ4Aとを循環し、燃料電池23のみを冷却した後、第一ラジエータ4Aで再び冷却される。第一ラジエータ4Aは、第一タンク3Aの車幅方向D2の外方において、第一タンク3Aに沿って設置されている。第一ラジエータ4Aの車長方向D1の寸法は、例えば、第一タンク3Aの円筒状の部位と同程度に設定される。
【0026】
第二ラジエータ4Bは、高電圧バッテリ25を冷却する冷媒であって第一冷媒41とは異なる第二冷媒(冷媒)42と外気との間で熱交換を行なう。本実施形態の第二ラジエータ4Bは、高電圧バッテリ25だけでなくE補機29,ヒータ30及びDC/DCコンバータ31を通る水冷部40の冷却装置である。より具体的にいえば、第二冷媒42は、水冷部40と第二ラジエータ4Bとを循環し、水冷部40において高電圧バッテリ25,E補機29,ヒータ30及びDC/DCコンバータ31を冷却した後、第二ラジエータ4Bで再び冷却される。第二ラジエータ4Bは、第二タンク3Bの車幅方向D2の外方において、第二タンク3Bに沿って設置されている。
【0027】
第三ラジエータ4Cは、モータ24を冷却するための冷媒であって第一冷媒41及び第二冷媒42とは異なる第三冷媒(冷媒)43と外気との間で熱交換を行なう。本実施形態の第三ラジエータ4Cは、FC補機28とモータ24を冷却するオイルとの冷却装置である。したがって、第三冷媒43は、FC補機28とオイルクーラ33と第三ラジエータ4Cとを循環し、FC補機28を冷却してからオイルクーラ33でモータ24の冷却用のオイルを冷却した後、第三ラジエータ4Cで再び冷却される。第三ラジエータ4Cは、第二ラジエータ4Bと共に、第二タンク3Bの車幅方向D2の外方において、第二タンク3Bに沿って設置されている。
【0028】
図1には、第二ラジエータ4Bが第三ラジエータ4Cの前方に設置された例を示す。第二ラジエータ4B及び第三ラジエータ4Cの車長方向D1の各寸法は、例えば、第二タンク3Bの円筒状の部位の半分程度に設定される。
なお、
図1には、冷媒の入口及び出口がいずれも同じ側(前端又は後端)に設けられたラジエータ4A,4B,4Cを例示するが、熱交換部4における冷媒の入口及び出口のレイアウトは適宜変更可能である。例えば、第一ラジエータ4Aにおいて、冷媒の入口を前端に設け、冷媒の出口を後端に設けてもよい。このように冷媒の入口及び出口が熱交換部4の車長方向D1の両側にそれぞれ設けられれば、熱交換部4の車高方向(上下方向)D3(
図2参照)の寸法を抑制できる。
【0029】
本実施形態の冷却装置1は、熱交換部4へ外気を誘導する外気誘導部5を備えている。この外気誘導部5は、熱交換部4の車幅方向D2の内方に設けられており、熱交換部4と水素ガス貯留部3との間に外気の通路を形成するケーシング6(
図1において破線で示す)と、熱交換部4を通過する外気の流れを生成するためのファン7とを含む。
本実施形態の外気誘導部5では、二つのケーシング6が二つのタンク3A,3Bにそれぞれ取り付けられているともに、ファン7が熱交換部4と水素ガス貯留部3との間のスペースに配置されている。
【0030】
図1には、第一ラジエータ4Aと第一タンク3Aとの間のスペースに三つのファン7が車長方向D1に並んで配置され、第二ラジエータ4B及び第三ラジエータ4Cと第二タンク3Bとの間にも三つのファン7が車長方向D1に並んで配置された例を示す。ただし、ファン7の数はこれに限定されない。
これらのファン7は、熱交換部4に正対する姿勢で設置される。これにより、ファン7は、熱交換部4において面積が最も大きい側面に直交する外気の流れを生成する。
【0031】
以下、
図2,3を参照して、第二タンク3Bに取り付けられたケーシング6を例に挙げて説明する。
図2に示すように、本実施形態のケーシング6は、第二タンク3B(水素ガス貯留部3)を車幅方向D2の外方から覆うように設けられており、略箱型をなす。ケーシング6において車幅方向D2の外方を向く側面には、第二ラジエータ4B及び第三ラジエータ4Cをそれぞれ嵌め込むための開口61,62が形成されている。
【0032】
ファン7は、ケーシング6の開口61,62が形成された側面と第二タンク3B(水素ガス貯留部3)の外面との間に設置されている。すなわち、ファン7は、ケーシング6内であって、第二ラジエータ4B及び第三ラジエータ4C(熱交換部4)の車幅方向D2内方、かつ、第二タンク3Bの車幅方向D2の外方に設置されている。
【0033】
ケーシング6,第二ラジエータ4B及び第三ラジエータ4Cは、第二タンク3Bをシャシフレーム22に固定するブラケット38,39に支持されている。
また、ケーシング6の上面及び下面には、ケーシング6の内方と外方とを連通する通気口64が形成されている。そのほか、本実施形態のケーシング6は、ゴム材51を介して第二タンク3Bの外面に隙間なく装着されている。
【0034】
第二ラジエータ4B及び第三ラジエータ4Cの車幅方向D2の外方には、車幅方向D2の外方から衝突しうる歩行者を保護するための歩行者ガード10が配置される。
歩行者ガード10は、第二ラジエータ4B及び第三ラジエータ4Cへの外気の流入を許容するために、車幅方向D2に貫通した多数の孔部11を有する。
【0035】
図3に示すように、歩行者ガード10は、例えば、六角筒状をなす多数の筒部12と、筒部12を支持する格子状のフレーム13と、筒部12の一方の端部に結合されたパネル14とを有する。パネル14には、筒部12の中空部と連通する多数の貫通孔が形成されている。このように、筒部12の中空部とパネル14の貫通孔とが連通することで、車幅方向D2に貫通した上記の孔部11が形成される。
図2に示すように、歩行者ガード10は、パネル14が筒部12よりも車幅方向D2の外方に位置する姿勢で車両2に搭載される。
【0036】
図1,2に示すようにファン7は、回転軸を中心に回転する複数の羽根(プロペラ)を有するプロペラファンである。ファン7は、回転軸が車幅方向D2に沿う姿勢で設置されており、車幅方向D2に沿って外気の流れを生成する。
このファン7は、外気を熱交換部4から吸引する第一方向及び外気を熱交換部4へ誘導する第二方向の双方向に送風可能な双方向送風機として構成されている。
【0037】
第一方向は、
図1に太矢印F1で示すように、車幅方向D2の外方から内方(熱交換部4の車幅方向D2の外方から水素ガス貯留部3)に向かって外気を誘導する送風方向である。
第二方向は、
図1に太矢印F2で示すように、車幅方向D2の内方から外方(水素ガス貯留部3から熱交換部4の車幅方向D2の外方)に向かって外気を誘導する送風方向である。
【0038】
図4を参照して、第一方向F1に沿う外気の流れを説明する。
図4に太矢印F1で示すように、外気は、車幅方向D2の外方から内方へ誘導される。これにより、外気は、歩行者ガード10の孔部11を通じて第二ラジエータ4B及び第三ラジエータ4Cを通過する。そして、外気は、第二タンク3Bの外面に沿って上方及び下方へ流れて、ケーシング6の通気口64を通じて車幅方向D2の内方へ排出される。
【0039】
図5を参照して、第二方向F2に沿う外気の流れを説明する。
図5に太矢印F2で示すように、外気は、車幅方向D2の内方から外方へ誘導される。これにより、外気は、通気口64を通じてケーシング6内に流入し、ケーシング6内を第二タンク3Bの外面に沿って上方及び下方へ流れて、第二ラジエータ4B及び第三ラジエータ4Cを通過する。そして、外気は、歩行者ガード10の孔部11を通じて車幅方向D2の外方へ排出される。
【0040】
本実施形態のファン7は、正逆回転可能なモータを用いて、正回転及び逆回転の双方向に回転可能な双方向ファンとして構成されている。ファン7の回転方向を正逆切り替えることにより、ファン7による送風方向を第一方向F1及び第二方向F2の一方から他方に切り替えることができる。
本実施形態では、ファン7が正回転している場合に、外気が第一方向F1へ誘導される。ファン7が逆回転している場合に、外気が第二方向F2へ誘導される。
【0041】
図6は、ファン7を双方向に回転駆動するためのモータ駆動回路70の構成例のブロック図である。
図1に示す六個のファン7のそれぞれに駆動回路70が内蔵される。モータMは、正回転及び逆回転の双方向に回転可能な三相ブラシレス直流モータである。モータMは、ファン7(
図6で図示省略)の回転軸に接続されている。
【0042】
駆動回路70には、制御回路71と、インバータ回路72とが含まれる。
制御回路71は、モータ制御部71Aと3個のゲートドライバ71Bとを含み、モータ制御部71AにはVCU20(
図1)からの制御信号としてPWM信号が入力されている。
インバータ回路72には、6個のスイッチング素子72A~72Fが含まれており、モータMの三相巻線に接続されている。スイッチング素子72A~72Fは、例えばMOSFETにより構成される。
【0043】
モータMには回転位置を検出するためのホールセンサ73がモータMの巻線の各相に設けられている。ホールセンサ73の検出信号はモータ制御部71Aに入力される。
制御回路71のモータ制御部71A及びゲートドライバ71Bは、VCU20(
図1)から供給されたPWM信号に基づき、スイッチング素子72A~72Fに対する制御信号を生成する。スイッチング素子72A~72Fは、制御信号に従いモータMへ駆動電力を生成する。モータMの巻線に対し駆動電力が印加される。これによりモータMが駆動され、ファン7が正回転又は逆回転する。
上述した構成の駆動回路70では、PWM信号として供給されるPWM値(パルス時間幅)のパターンに応じて、ファン7の回転方向や回転速度を制御することが可能である。なお、かかる駆動回路70には、周知の技術を適用できる。
【0044】
[1-2.制御]
次に、ファン7の送風方向の制御について説明する。
送風方向の制御は、ファン7により外気を誘導する方向を第一方向F1及び第二方向F2の何れか一方に制御するとともに、所定の条件が成立したときに第一方向F1及び第二方向F2の何れか一方から他方へ切り替える制御である。
【0045】
具体的に言えば、VCU20は、車両2の車速が所定速度未満の場合に、第一モードを選択する。第一モードは、ファン7の動作モードであって、ファン7により第一方向F1へ外気を誘導する動作モードである。
一方、車両2の車速が所定速度以上の場合、VCU20は、第二モードを選択する。第二モードは、ファン7の動作モードであって、ファン7により第二方向F2へ外気を誘導する動作モードである。
【0046】
所定速度は、車両2が低速走行中もしくは走行停止中であるか否かを判断する閾値となる車速に設定されている。具体的に言えば、所定速度の一例として30km/hが挙げられる。
「所定速度未満」には、車速が0(ゼロ)km/hの場合、すなわち走行停止中の場合も含まれる。「走行停止中」とは、車両2が起動(キーオン)中であり、かつ、停車中の状態である。
【0047】
第一モードにおいてVCU20は、ファン7の駆動回路70に対し、第一方向F1へ外気を誘導するように指示する第一制御信号(PWM信号)を出力する。第二モードにおいてVCU20は、ファン7の駆動回路70に対し、第二方向へ外気を誘導するように指示する第二制御信号(PWM信号)を出力する。
上述したように、本実施形態のファン7は正回転の場合に第一方向へ送風し、逆回転の場合に第二方向へ送風する。そのため、第一制御信号は、ファン7を正回転に回転することを指示するPWM信号である。第二制御信号は、ファン7を逆回転に回転することを指示するPWM信号である。
【0048】
図7は、送風方向の制御の一例を示すフローチャートである。
図7のフローは、車両2が起動(キーオン)のタイミングで開始し、所定周期ごとに繰り返し実行される。
VCU20は、車両2の車速が所定速度未満か否かを判断する(ステップS1)。車両2の車速が所定速度未満の場合(ステップS1のYes)、VCU20は、第一モードを選択して、ファン7の駆動回路70に第一制御信号を出力する(ステップS2)。
これにより、ファン7は、車両2が所定速度未満の車速で走行している場合に、第一モードで動作する。すなわち、ファン7は正回転して第一方向F1に沿って外気を誘導する。
【0049】
車両2の車速が所定速度以上の場合(ステップS1のNo)、VCU20は、第二モードを選択して、ファン7の駆動回路70に第二制御信号を出力する(ステップS3)。
これにより、ファン7は、車両2が所定速度以上の車速で走行している場合に、第二モードで動作する。すなわち、ファン7は逆回転して第二方向F2に沿って外気を誘導する。
【0050】
[1-3.作用及び効果]
本件の冷却装置1によれば、熱交換部4が車幅方向D2外方において水素ガス貯留部3に沿って設置される。そのため、水素ガス貯留部3の車幅方向D2の外方に存在するデッドスペースを利用して熱交換部4を搭載できる。これにより、従来のように熱交換部(ラジエータ)をキャブの下方に設置する場合と比べて、熱交換部4の搭載スペースを大きく確保できるため、十分な冷却性能を有する大型の熱交換部4を設置することが可能となる。
【0051】
しかしながらファン7を設けない場合には、水素ガス貯留部3の車幅方向D2の外方に熱交換部4が設置された冷却装置1の構造では、以下の点が懸念される。外気が車幅方向D2の外方から内方へ誘導される場合、熱交換部4を通過した高温の外気が水素ガス貯留部3に当たる。その結果、水素ガス貯留部3が高温になるおそれがある。また、外気が車幅方向D2の内方から外方へ誘導される場合、熱交換部4を通過した高温の外気が車幅方向D2の外方へ排出される。その結果、車両2の近傍に存在する作業者や歩行者などの人物に影響を与えるおそれがある。
【0052】
上記の点に関し、本実施形態の冷却装置1によれば、第一方向F1及び第二方向F2の双方向に送風可能なファン7を有する外気誘導部5が設けられている。そして、ファン7の動作モードが、車速に応じて、車幅方向D2の外方から内方へ向かう第一方向F1に沿って外気を誘導する第一モードと、車幅方向D2の内方から外方へ向かう第二方向に沿って外気を誘導する第二モードとに切り替えられる。そのため、以下に挙げる利点がある。
【0053】
車両2の車速が所定速度未満の場合、第一モードが選択される。車速が所定速度未満の低速走行中もしくは走行停止中である場合、車両2の近傍に作業者や歩行者などの人物が存在している可能性が高い。
この点、第一モードでは、熱交換部4を通過した外気は車幅方向D2の内方へ排出される(
図4参照)。そのため、車両2の近傍の人物など周辺環境に対する高温の外気の影響が抑制される。また、熱交換部4を通過した後の外気の温度が比較的低いため外気が水素ガス貯留部3に当たったとしても、冷却性能は十分に確保しうる。
【0054】
車両2の車速が所定速度以上の場合、第二モードが選択される。車両2が所定速度以上の高速走行中である場合、一般的に冷却要求が高い。この点、第二モードにおいて外気は、車幅方向D2の内方から熱交換部4を通過するため、熱交換部4を通過した高温の外気が水素ガス貯留部3に当たることはない。そのため、水素ガス貯留部3が高温になることを抑制できる。このことは冷却性能の確保に寄与する。
また、車速が所定速度以上の場合、車両2の近傍に作業者や歩行者などの人物が存在している可能性が低く、かつ、車両2が高速で移動している。そのため、熱交換部4を通過した高温の外気が車幅方向D2の外方へ排出されても(
図5参照)、車両2の近傍の人物や周辺環境に対する影響が抑制される。
【0055】
以上より、本願発明の冷却装置1によれば、水素ガス貯留部3の車幅方向D2の外方に熱交換部4が設置された構造において、熱交換部4の搭載スペースを大きく確保するとともに、十分な冷却性能を確保できる。そのうえ、ファン7により外気が誘導される方向(送風方向)を車速に応じて最適化することができる。また、水素ガス貯留部3の車幅方向D2の外方に熱交換部4が設置された構造では、燃料電池23のほか高電圧バッテリ25や電動モータ24といった冷却対象の機器に対する冷却性能も確保しやすい。
そのため、冷却装置1の搭載性と冷却性能とを確保することができる。
【0056】
[2.第二実施形態]
[2-1.構成]
第二実施形態に係る冷却装置は、第一実施形態の冷却装置1に対し、ファン7′の構成が異なる。本実施形態のファン7′は、ファン7′の回転軸が同一方向の回転であっても第一方向F1及び第二方向F2の双方向に送風可能な構成である。具体的に言えば、
図8,9に示すように、ファン7′には、ハブ7Cの外周に複数の羽根7A(ブレード)が設けられるとともに、羽根7Aの取付角度を調整するための角度調整機構7Bが内蔵されている。角度調整機構7Bは、羽根7Aの取付角度を
図8に示す第一角度及び
図9に示す第二角度の何れか一方に切り替える機構である。なお、
図8,9において複数の羽根7Aの一部を省略している。なお、
図8,9において複数の羽根7Aの一部を省略している。
【0057】
第一角度は、
図8に示すように、ファン7′の回転により第一方向F1に沿って外気が誘導される取付角度として設定されている。
第二角度は、
図9に示すように、ファン7′の回転により第二方向F2に沿って外気が誘導される取付角度として設定されている。なお、羽根の取付角度の調整により双方向に送風可能なファンの構造は周知技術である。
【0058】
[2-2.制御]
第二実施形態では、VCU20が、制御信号として、羽根7Aの取付角度の切り替えを指示する角度制御信号を角度調整機構7Bへ出力する点が第一実施形態とは異なる。角度制御信号は、
図8に示す第一角度又は
図9に示す第二角度の何れかを指示する信号である。
すなわち、ファン7′の回転方向は一方向のみであり、羽根7Aの取付角度を切り替えることにより送風方向が第一方向及び第二方向の一方から他方に切り替わる。
【0059】
車速が所定速度未満の場合、VCU20は第一角度を指示する角度制御信号を角度調整機構7Bへ出力する。角度調整機構7Bは角度制御信号に基づいて羽根7Aの迎角を第一角度に設定する。この場合、ファン7′の作用により、第一方向F1に沿って外気が誘導される。
車速が所定速度以上の場合、羽根7Aの角度は第二角度に設定され、ファン7′の回転した作用により、第二方向F2に沿って外気が誘導される。この場合、上記の第一実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0060】
[3.変形例]
図10~12に示すように、歩行者ガード10にルーバ46が付設されていてもよい。
本実施形態のルーバ46は、
図10に示すように、歩行者ガード10において車幅方向D2の外側を向いた面に組み込まれている。このルーバ46には、ルーバ46の外枠をなすフレーム46Aと、フレーム46Aに囲まれた開口内に複数の羽板46Bとが設けられている。複数の羽板46Bは、車高方向D3に沿って、車幅方向D2の外方と内方とを連通する隙間を開けて平行に並べられている。ルーバ46は、羽板46Bの傾きにより、第二方向F2に沿って車幅方向D2の外方へ排出される外気を上方又は下方へ制御することができる。
【0061】
図11,12は、
図10をA-A線から視た断面図であって、ルーバ46以外の要素を省略している。
図11に示すルーバ46は、羽板46Bにおいて車幅方向D2の外方の端縁が内方の端縁よりも車高方向D3で下方に位置する傾斜姿勢(下方傾斜姿勢)をなす羽板46Bが配置されている。この場合、
図11に太矢印で示すように第二方向F2に沿って誘導された外気は、ルーバ46から車幅方向D2の外方かつ斜め下方へ排出される。
【0062】
図12に示すルーバ46′は、羽板46B′において車幅方向D2の外方の端縁が内方の端縁よりも車高方向D3で上方に位置する傾斜姿勢(上方傾斜姿勢)をなす羽板46B′が配置されている。この場合、
図12に太矢印で示すように第二方向F2に沿って誘導された外気は、ルーバ46′から車幅方向D2の外方かつ斜め上方へ排出される。
ルーバ46,46′により車幅方向D2の外方への排気が、斜め下方又は上方へ排出されるので、車両2の近傍の人物や周辺環境に対する影響がより一層抑制される。
【0063】
そのほか、VCU20の送風方向の制御において第一モード又は第二モードを選択する条件として、車速が所定速度未満か否かという条件を例に挙げた。この条件は、冷却要求が高い状況か否かと、車両2の近傍に存在する人物への影響が生じ得る状況か否かとの二点を判断し得る条件ともいえる。
そのため、第一モード又は第二モードを選択する条件として、車速が所定速度未満か否かという条件に加えて又は替えて、冷却要求が高い状況か否かという条件や、車両2の近傍に人物(歩行者など)が存在しているか否かという条件を用いることができる。
【0064】
送風方向の制御の変形例として、第一実施形態で上述した「車速が所定速度未満か否か」という速度条件に加えて所定の温度条件を用いて、第一モード、第二モード及び第三モードの何れか1つを選択するようにしてもよい。
以下に説明する送風方向の制御の変形例では第一実施形態に係る双方向ファン7を用いた冷却装置1に適用した場合を例に挙げるが、本変形例に係る送風方向の制御は、第二実施形態に係るファン7′(すなわち、羽根7Aの取付角度を調整可能なファン)を用いた冷却装置1に適用されてもよい。
【0065】
本変形例に係る送風方向の制御において、VCU20(
図1)は、車両2の車速が所定速度未満であり、かつ、所定の第一温度条件と所定の第二温度条件との双方を満足する場合に第一モードを選択し、車両2の車速が所定速度以上の場合に第二モードを選択し、車両2の車速が所定速度未満であり、かつ、所定の第一温度条件又は所定の第二温度条件を満足しない場合に第三モードを選択する。
ここで、第一モード及び第二モードは上述した第一実施形態と共通である。すなわち、第一モードは第一方向F1に沿って外気を誘導するモードであり、第二モードは、第二方向F2に沿って外気を誘導するモードである。
【0066】
第二方向に沿って外気を誘導する第二モードは、第一方向F1に沿って外気を誘導する第一モードに比べて、冷却性能を確保しやすい(冷却性能が高い)傾向がある。この冷却性能の違いに着目して、第三モードが設定されている。すなわち、第三モードは、車両2の車速が所定速度未満であるにも関わらず冷却要求が高い場合に、冷却性能を確保する目的で第二方向F2に沿って外気を誘導するモードと言える。
【0067】
VCU20(
図1)は、車両2の車速が所定速度未満である場合、以下に説明する所定の第一温度条件と所定の第二温度条件とに基づき、第一モード又は第三モードを選択する。
所定の第一温度条件及び所定の第二温度条件は、熱交換部4(
図1)による冷却要求が高い状況か否かを温度に基づき判断するために設定された条件である。
【0068】
所定の第一温度条件は、熱交換部4の冷却対象の温度が所定の最大許容温度未満であること、である。冷却対象として具体的には、燃料電池23(
図1)のほか高電圧バッテリ25(
図1)や電動モータ24(
図1)などの機器が挙げられる。
各機器には図示省略した温度センサが設けられている。各温度センサがVCU20(
図1)の入力側に接続されており、VCU20(
図1)は各機器の温度を常時モニタしている。
【0069】
VCU20(
図1)は、温度センサから取得した温度データに基づき冷却対象の温度が所定の最大許容温度未満であるか否かを判定することができる。
所定の最大許容温度は、冷却対象の温度が、冷却要求の高い状態であるか否かを判断するための基準として予め設定された温度である。冷却対象の温度が高いほど冷却要求が高い状態であり、冷却対象の温度が低いほど冷却要求が低い状態である。この最大許容温度として用いる値は、シミュレーションや実験等の結果に基づいて適宜に設定される。
【0070】
所定の第二温度度条件は、熱交換部4(
図1)の冷媒の時間当たりの温度変化率が所定の閾値未満であることである。
冷媒は、熱交換部4で冷却対象の各機器を冷却するための媒体であり、具体的には
図1に示す第一冷媒41,第二冷媒42及び第三冷媒43のそれぞれである。冷媒の温度変化率は、各冷媒41,42及び43のそれぞれの温度の時間当たりの変化率である。
各冷媒41,42及び43の循環路(
図1)には、図示省略した温度センサが設けられている。各温度センサがVCU20(
図1)の入力側に接続されており、VCU20(
図1)は各冷媒41,42及び43の温度を常時モニタしている。
【0071】
VCU20は、各冷媒41,42及び43の温度に基づき温度変化率を算出し、算出した温度変化率が所定の閾値未満であるか否かを判定することができる。
温度変化率の閾値は、冷却要求の高い状態であるか否かを冷媒の温度変化率により判断するための基準として予め設定された値である。温度変化率の値が大きいほど、冷却要求の高い状態であり、反対に温度変化率の値が小さいほど冷却要求が低い状態である。温度変化率の閾値として用いる値は、シミュレーションや実験等の結果に基づいて適宜に設定される。
【0072】
ところで、上述のとおり、車両2の車速が所定速度未満である場合、車両2の近傍に作業者や歩行者などの人物が存在している可能性が高い。
この点について、本変形例に係る冷却装置1では、
図13に示すルーバ46′′の羽板46B′′の取り付け角度(傾き)により、第三モードが選択された場合に外気が第二方向F2に沿いかつ上向き又下向きに排出されるように構成されている。
【0073】
すなわち、変形例に係る冷却装置1では、
図13のルーバ46′′が歩行者ガード10に付設されている。
図13のルーバ46′′は、複数の羽板46B′′が取り付け角度(傾き)を変更可能に構成されている点が、
図10~
図12のルーバ46とは異なる。
具体的には、各羽板46B′′は、それぞれの傾きに関し、
図13において実線で示す水平モード、又は、
図13において破線で示す傾斜モードに、変形調整可能である。
【0074】
水平モードは、羽板46B′′が車幅方向D2の方向(第二方向F2)に沿って略水平に外気を排出可能な姿勢をなすモードである。傾斜モードは、羽板46B′′が車幅方向D2の方向(第二方向F2)に沿いかつ上向きに外気を排出可能な上方傾斜姿勢をなすモードである。
ルーバ46′′には、図示省略した傾き調整機構が内蔵されており、図示省略した傾き調整機構に対してVCU20(
図1参照)の出力側が接続される。VCU20(
図1参照)からの制御信号に基づき、各羽板46B′′の傾きが水平モード又は傾斜モードに切り替え可能である。
【0075】
図14は、上記の変形例に係る送風方向の制御の一例を示すフローチャートである。
図14のフローは、車両2が起動(キーオン)のタイミングで開始し、所定周期ごとに繰り返し実行される。
VCU20は、車両2の車速が所定速度未満か否かを判断する(ステップS10)。車両2の車速が所定速度未満の場合(ステップS10のYes)、VCU20は、冷却対象の温度が最大許容温度未満であるか否かを判断する(ステップS11)。冷却対象の温度が最大許容温度未満である場合(ステップS11のYes)、VCU20は、冷媒の温度変化率が所定の閾値未満であるか否かを判断する(ステップS12)。
【0076】
冷媒の温度変化率が所定の閾値未満である場合(ステップS12のYes)、VCU20は、第一モードを選択する(ステップS13)。この場合、VCU20は、ファン7の駆動回路70に第一制御信号を出力することで、ファン7を正回転して第一方向F1に沿って外気を誘導する。また、VCU20は水平モードを指示する制御信号を、ルーバ46′′の傾き調整機構(
図13で図示省略)へ出力して、複数の羽板46B′′を水平モード(
図13において実線で示す状態)に設定する。
【0077】
一方、車両2の車速が所定速度以上の場合(ステップS10のNo)、VCU20は、第二モードを選択する(ステップS14)。この場合、VCU20は、ファン7の駆動回路70に第二制御信号を出力することで、ファン7を逆回転して第二方向F2に沿って外気を誘導する。また、VCU20は水平モードを指示する制御信号を、ルーバ46′′の傾き調整機構(
図13で図示省略)へ出力して、複数の羽板46B′′を水平モード(
図13において実線で示す状態)に設定する。
【0078】
また、車両2の車速が所定速度未満であって(ステップS10のYes)、かつ、冷却対象の温度が最大許容温度以上である場合(ステップS11のNo)、又は、冷却対象の温度が最大許容温度未満である場合(ステップS11のYes)で冷媒の温度変化率が所定の閾値以上である場合(ステップS12のNo)、VCU20は、第三モードを選択する(ステップS15)。この場合、VCU20は、ファン7の駆動回路70に第二制御信号を出力することで、ファン7を逆回転して第二方向F2に沿って外気を誘導する。また、VCU20は傾斜モードを指示する制御信号を、ルーバ46′′の傾き調整機構(
図13で図示省略)へ出力して、複数の羽板46B′′を傾斜モード(
図13において破線で示す状態)に設定する。
【0079】
上述した変形例に係る送風方向の制御によれば、車速が遅い場合又は停車中であっても第一温度条件又は第二温度条件を満足しない場合には、第三モードを選択してファン7を逆回転するとともに、複数の羽板46B′′の傾きが傾斜モードに設定されるため、第二方向F2かつ上方へ外気が誘導される。
これにより、車速が遅い場合又は停車中であっても、第二方向F2に沿って外気が誘導されるので、第一方向F1に沿って外気を誘導する第一モードを選択する場合に比べて冷却性能を確保しやすくなる。また、複数の羽板46B′′により第二方向F2に沿って上方へ外気が誘導されるので、車両2の近傍の人物や周辺環境に対する影響が抑制される。
【0080】
第一モードが選択された場合、及び、第二モードが選択された場合は、それぞれ、上記の第一実施形態と同様の作用効果が得られる。
なお、羽板46B′′の傾斜モードは、上記の上方傾斜姿勢に限らず、羽板46B′′が車幅方向D2の方向(第二方向F2)に沿いかつ下向きに外気を排出可能な下方傾斜姿勢をなすモードであってもよい。この場合は、第三モードが選択されたとき、複数の羽板46B′′により第二方向F2に沿って下方へ外気が誘導されるので、車両2の近傍の人物や周辺環境に対する影響が抑制される。
【0081】
[4.付記]
以上の実施形態に関する付記を開示する。
〔付記1〕
キャブ及びシャシフレームを備えるとともに燃料電池の電力で走行用のモータを駆動する燃料電池車両の冷却装置であって、
前記キャブよりも後方において前記シャシフレームの車幅方向外方に設置され、前記燃料電池へ供給される水素ガスを貯留する水素ガス貯留部と、
前記水素ガス貯留部の前記車幅方向外方において前記水素ガス貯留部に沿って設置され、少なくとも前記燃料電池を冷却する冷媒と外気との間で熱交換を行なう熱交換部と、
前記熱交換部と前記水素ガス貯留部との間に設けられ、前記外気を前記熱交換部へ誘導するために前記車幅方向外方から車幅方向内方へ向かう第一方向及び前記車幅方向内方から前記車幅方向外方へ向かう第二方向の双方向に送風可能なファンを有する外気誘導部と、
前記燃料電池車両の車速が所定速度未満の場合、前記ファンにより前記第一方向に前記外気を誘導する第一モードを選択し、前記燃料電池車両の車速が前記所定速度以上の場合、前記ファンにより前記第二方向に前記外気を誘導する第二モードを選択する制御部と、を備えている
ことを特徴とする、燃料電池車両の冷却装置。
〔付記2〕
前記制御部は、前記燃料電池車両の車速が前記所定速度未満であり、かつ、前記熱交換部の冷却対象の温度が所定の最大許容温度未満である第一温度条件と前記熱交換部の前記冷媒の時間当たりの温度変化率が所定の閾値未満である第二温度条件との双方を満足する場合には前記第一モードを選択し、前記燃料電池車両の車速が前記所定速度以上の場合には前記第二モードを選択し、前記燃料電池車両の車速が前記所定速度未満であり、かつ、前記第一温度条件又は前記第二温度条件を満足しない場合には、前記ファンにより前記第二方向に前記外気を誘導する第三モードを選択する
ことを特徴とする、付記1に記載の燃料電池車両の冷却装置。
[付記3]
前記熱交換部の前記車幅方向外方に設置されたフレームと、前記フレームに囲まれた開口内に設けられており、前記外気を前記第二方向に沿って略水平に排出する水平モード又は前記外気を前記第二方向に沿いかつ上向き又下向きに排出する傾斜モードに変形可能な複数の羽板と、を有するルーバを備え、
前記制御部は、前記第一モード及び前記第二モードでは前記羽板を前記水平モードに設定し、前記第三モードでは前記羽板を前記傾斜モードに設定する
ことを特徴とする、付記2に記載の燃料電池車両の冷却装置。
[付記4]
前記ファンは、正逆回転可能なモータにより正回転及び逆回転の双方向に回転可能な双方向ファンとして構成されており、
前記制御部は、前記ファンを正回転して前記第一方向へ前記外気を誘導する第一制御信号又は前記ファンを逆回転して前記第二方向へ前記外気を誘導する第二制御信号を前記ファンに対して出力する
ことを特徴とする、付記1~3の何れか1つ記載の燃料電池車両の冷却装置。
[付記5]
前記ファンは、同一方向の回転に対して前記第一方向へ前記外気を誘導する第一角度又は前記同一方向の回転に対して前記第二方向へ前記外気を誘導する第二角度に取付角度を調整可能なブレードを有しており、
前記制御部は、前記第一角度を指示する第一角度制御信号又は前記第二角度を指示する第二角度制御信号を前記ファンに対して出力する
ことを特徴とする、付記1~3の何れか1つに記載の燃料電池車両の冷却装置。
【符号の説明】
【0082】
1 冷却装置(燃料電池車両の冷却装置)
2 車両(燃料電池車両)
3 水素ガス貯留部
3A 第一タンク
3B 第二タンク
4 熱交換部
4A 第一ラジエータ
4B 第二ラジエータ
4C 第三ラジエータ
5 外気誘導部
6 ケーシング
7 ファン
7A 羽根
7B 角度調整機構
10 歩行者ガード
11 孔部
12 筒部
13 フレーム
14 パネル
20 VCU(制御部)
21 キャブ
22 シャシフレーム
23 燃料電池
24 モータ
25 高電圧バッテリ
26 サイドレール
27 クロスメンバ
28 FC補機
29 E補機
30 ヒータ
31 DC/DCコンバータ
32 アクスル
33 オイルクーラ
34 前輪
35 後輪
36 架装物
37 外面
38 マウント
39 ステー
40 水冷部
41 第一冷媒
42 第二冷媒
43 第三冷媒
44 側突ガード
46 ルーバ
46A フレーム
46B 羽板
51 ゴム材
61 開口
62 開口
63 取込口
64 通気口
70 駆動回路
71 制御回路
71A モータ制御部
71B ゲートドライバ
72 インバータ回路
72A~72F スイッチング素子
73 ホールセンサ
F1 第一方向
F2 第二方向
D1 車長方向(前後方向)
D2 車幅方向(左右方向)
D3 車高方向(上下方向)