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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036171
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】半導体装置の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20240308BHJP
   H01L 21/67 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
H01L21/52 F
H01L21/68 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140936
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬山 耕平
(72)【発明者】
【氏名】野村 勝利
【テーマコード(参考)】
5F047
5F131
【Fターム(参考)】
5F047FA02
5F047FA04
5F047FA08
5F047FA75
5F047FA81
5F131AA04
5F131BA54
5F131CA32
5F131EC33
5F131EC73
5F131EC74
5F131KA24
5F131KA54
5F131KA72
(57)【要約】
【課題】チップのピックアップに要する時間をより低減できる半導体装置の製造装置を提供する。
【解決手段】半導体装置の製造装置10は、ダイシングテープ120の表面に粘着保持された1以上のチップ100を前記ダイシングテープ120とともに保持するウエハ保持装置12と、対象チップ100をピックアップするピックアップヘッド14と、前記ダイシングテープ120の裏面側から前記対象チップ100に向かって、エネルギを照射して、前記ダイシングテープ120の粘着力を低減させるエネルギ照射装置16と、前記エネルギの照射エリアにおける温度を検出する温度センサ44と、コントローラ22と、を備え、前記コントローラ22は、前記温度センサ44での検出温度に基づいて、前記エネルギ照射装置16の駆動を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップをダイシングテープからピックアップして、接合対象に接合して半導体装置を製造する製造装置であって、
前記ダイシングテープの表面に粘着保持された1以上の前記チップを、前記ダイシングテープとともに保持するウエハ保持部と、
前記1以上のチップのうちピックアップ対象のチップである対象チップをピックアップするピックアップヘッドと、
前記ダイシングテープの裏面側から前記対象チップに向かって、光または熱であるエネルギを照射して、前記ダイシングテープの粘着力を低減させるエネルギ照射部と、
前記エネルギの照射エリアにおける温度を検出する温度センサと、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記温度センサでの検出温度に基づいて、前記エネルギ照射部の駆動を制御する、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記検出温度が、規定の目標温度になるように前記エネルギの強度をフィードバック制御し、
前記目標温度は、前記チップおよび前記ダイシングテープそれぞれの耐熱温度よりも低い、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記検出温度が変化した場合、前記対象チップが前記ダイシングテープから剥離したと判断し、前記エネルギ照射部にエネルギの照射強度を低下させるとともに、前記ピックアップヘッドに対象チップをピックアップさせる、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記エネルギ照射部は、複数の光源を備え、
前記温度センサは、前記対象チップをエリア分けした照射エリアごとに温度を検出し、
前記コントローラは、前記複数の光源を、前記照射エリアに対応する温度に基づいて、互いに独立して制御する、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項5】
チップをダイシングテープからピックアップして、接合対象に接合して半導体装置を製造する製造方法であって、
前記チップがダイシングテープの表面に粘着保持されている状態で、ピックアップ対象のチップである対象チップに向かって、前記ダイシングテープの裏面側から光または熱であるエネルギを照射して、前記ダイシングテープの粘着力を低減させ、
前記エネルギの照射に伴い前記ダイシングテープの粘着層の粘着力が低下した後、ピックアップヘッドで前記対象チップをピックアップする、
方法であり、さらに、
前記エネルギの照射と並行して、その照射エリアにおける温度を検出し、
検出された温度に基づいて、エネルギの照射強度を調整する、
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、チップを基板に接合して半導体装置を製造する製造装置および製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を製造する際には、チップを基板に接合する。基板に接合前のチップは、ダイシングテープと呼ばれるシート体に貼り付けられている。ボンディング工程では、ダイシングテープに貼り付けられたチップを、ピックアップヘッドを用いて、ダイシングテープから剥離したうえでピックアップする。ピックアップされたチップは、ピックアップヘッドにより基板に接合される。
【0003】
ここで、従来、チップをダイシングテープから剥離させるために、チップに機械的な力を付与することが多かった。例えば、従来、剥離のために、チップをダイシングテープから離れる方向に引っ張っていた。しかし、この場合、機械的な力を受けて、チップが損傷するおそれがあった。
【0004】
また、近年、チップに接触することなくチップをピックアップする非接触式ピックアップ装置を用いることが一部で提案されている。しかし、かかる非接触式ピックアップ装置は、吸引力が小さいため、当該非接触式ピックアップ装置では、チップをダイシングテープから剥離できないおそれがあった。
【0005】
そこで、一部では、自己剥離粘着層を有するダイシングテープを利用することが提案されている(例えば特許文献1,2等)。自己剥離粘着層は、光または熱であるエネルギが照射されることで、粘着力が低下する層である。かかるダイシングテープにチップを接着しておき、ピックアップの直前にエネルギを照射すれば、チップに機械的な負荷をかけることなく、また、ピックアップ装置の吸引力が小さくても、チップを自己剥離型テープから剥離できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-194433号公報
【特許文献2】特開2012-199442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、自己剥離型のダイシングテープを利用する場合、当然ながらダイシングテープに光または熱であるエネルギが照射される。この照射を受けて、ダイシングテープまたはチップが過度に温度上昇した場合、チップの損傷を招く。そのため、自己剥離型のダイシングテープを利用する場合には、ダイシングテープおよびチップが過度に高温にならないように、単位時間当たり照射エネルギ量を低く抑える必要があった。その結果、チップの剥離に要する時間、ひいては、チップのピックアップに要する時間が長期化していた。
【0008】
そこで、本明細書では、チップのピックアップに要する時間をより低減できる半導体装置の製造装置および製造方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で開示する半導体装置の製造装置は、チップをダイシングテープからピックアップして、接合対象に接合して半導体装置を製造する製造装置であって、前記ダイシングテープの表面に粘着保持された1以上の前記チップを、前記ダイシングテープとともに保持するウエハ保持部と、前記1以上のチップのうちピックアップ対象のチップである対象チップをピックアップするピックアップヘッドと、前記ダイシングテープの裏面側から前記対象チップに向かって、光または熱であるエネルギを照射して、前記ダイシングテープの粘着力を低減させるエネルギ照射部と、前記エネルギの照射エリアにおける温度を検出する温度センサと、コントローラと、を備え、前記コントローラは、前記温度センサでの検出温度に基づいて、前記エネルギ照射部の駆動を制御する、ことを特徴とする。
【0010】
この場合、前記コントローラは、前記検出温度が、規定の目標温度になるように前記エネルギの強度をフィードバック制御し、前記目標温度は、前記チップおよび前記ダイシングテープそれぞれの耐熱温度よりも低くてもよい。
【0011】
また、前記コントローラは、前記検出温度が変化した場合、前記対象チップが前記ダイシングテープから剥離したと判断し、前記エネルギ照射部にエネルギの照射強度を低下させるとともに、前記ピックアップヘッドに対象チップをピックアップさせてもよい。
【0012】
また、前記エネルギ照射部は、複数の光源を備え、前記温度センサは、前記対象チップをエリア分けした照射エリアごとに温度を検出し、前記コントローラは、前記複数の光源を、前記照射エリアに対応する温度に基づいて、互いに独立して制御してもよい。
【0013】
本明細書で開示する半導体装置の製造方法は、チップをダイシングテープからピックアップして、接合対象に接合して半導体装置を製造する製造方法であって、前記チップがダイシングテープの表面に粘着保持されている状態で、ピックアップ対象のチップである対象チップに向かって、前記ダイシングテープの裏面側から光または熱であるエネルギを照射して、前記ダイシングテープの粘着力を低減させ、前記エネルギの照射に伴い前記ダイシングテープの粘着層の粘着力が低下した後、ピックアップヘッドで前記対象チップをピックアップする、方法であり、さらに、前記エネルギの照射と並行して、その照射エリアにおける温度を検出し、検出された温度に基づいて、エネルギの照射強度を調整する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本明細書で開示する技術によれば、エネルギの照射エリアにおける温度を検出し、検出された温度に基づいてエネルギ照射部の駆動を制御するため、対象チップおよびダイシングテープが過度に高温になることを防止できる。その結果、照射エネルギの強度を強くすることができるため、対象チップのダイシングテープから剥離するために必要な時間、ひいては、ピックアップに要する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】製造装置の構成を示す図である。
図2】エネルギ照射装置の構成を示す図である。
図3】ダイシングテープにエネルギを照射した直後の様子を示すイメージ図である。
図4】エネルギの照射によりチップが剥離する様子を示すイメージ図である。
図5】ピックアップ処理の流れを示すフローチャートである。
図6図5のフローに従ったピックアップ処理のタイミングチャートである。
図7】ピックアップ処理の流れの他の例を示すフローチャートである。
図8図7のフローに従ったピックアップ処理のタイミングチャートである。
図9】エネルギの照射強度の制御の一例を示す図である。
図10】従来例のピックアップ処理のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して半導体装置の製造装置10の構成について説明する。図1は、製造装置10の構成を示す図である。製造装置10は、ダイシングテープ120からチップ100をピックアップし、これを基板110または他のチップ100である接合対象に接合し、半導体装置を製造する。チップ100は、その一面に接合材が設けられており、当該一面を接合対象に押し付けることで接合対象に接合される。なお、以下では、チップ100のうち、接合材が形成される面を、「接合面102」と呼び、その反対側の面を「保持面104」と呼ぶ。また、以下の図面では、接合面102を太線で図示する。
【0017】
チップ100を、接合対象に接合する際、チップ100は、加熱されてもよいし、常温のままでもよい。すなわち、チップ100の接合材を加熱溶融し、当該接合材を接合対象に溶着してもよい。また、別の形態として、チップ100は、原子結合力または分子結合力を利用して、常温で接合対象に接合されてもよい。
【0018】
チップ100を接合対象に接合するために、製造装置10は、実装ヘッド18とステージ20とを有している。ステージ20は、基板110が載置される台である。実装ヘッド18は、ステージ20と対向配置されており、その末端においてチップ100の保持面104を吸引保持する。換言すれば、実装ヘッド18は、チップ100の接合面102がステージ20に向くように、チップ100を保持する。この実装ヘッド18が、ステージ20に対して相対移動することで、チップ100が接合対象に押し付けられる。
【0019】
実装ヘッド18にチップ100を供給するために、製造装置10には、さらに、ウエハ保持装置12と、ピックアップ装置(以下「PU装置」と呼ぶ)14と、エネルギ照射装置16と、が設けられている。ウエハ保持装置12は、ダイシングテープ120とともにウエハを保持する。ウエハは、予め、ダイシングテープ120に貼付されたうえで、ダイシングされ、個々のチップ100に分割されている。そのため、ダイシングテープ120の表面には、複数のチップ100が並んでいる。ダイシングテープ120は、後に詳説するように、基材122と、粘着層124と、を有しており、粘着層124の粘着力で個々のチップ100を保持している。ダイシングテープ120には、ウエハを取り囲むように、ウエハリング130が取り付けられている。複数のチップ100は、保持面104が粘着層124に接触し、接合面102が上側を向く姿勢(いわゆるフェイスアップの姿勢)でダイシングテープ120に保持されている。
【0020】
ウエハ保持装置12は、ダイシングテープ120に、面方向外側の張力を付与した状態で保持するもので、エキスパンドリング24とリング押さえ26とを有している。エキスパンドリング24は、軸方向に貫通する貫通孔が形成された略筒状部材であり、その下端には径方向外側に延びるフランジが設けられている。このエキスパンドリング24の内径は、ウエハの径よりも大きく、ウエハリング130の内径よりも小さい。
【0021】
ダイシングテープ120は、このエキスパンドリング24の上に載置される。また、ダイシングテープ120に取り付けられたウエハリング130は、リング押さえ26により、エキスパンドリング24のフランジに押し付けられて固定される。このとき、ダイシングテープ120は、エキスパンドリング24の貫通孔の上端を覆う状態であり、貫通孔を介して、ダイシングテープ120に下側からアクセスできる。
【0022】
PU装置14は、ダイシングテープ120から、チップ100をフェイスアップ状態で保持及び上昇してピックアップする。ピックアップしたのち、PU装置14は、チップ100をフェイスダウン姿勢に変更して、実装ヘッド18に、直接または間接的に受け渡す。かかるPU装置14は、図1に示すように、チップ100の接合面102に対向して配置されており、ピックアップ対象のチップ100(以下「対象チップ100」と呼ぶ)の接合面102を保持するPUヘッド28を有している。PUヘッド28は、対象チップ100を、ピックアップした後、180度回転し、対象チップ100をフェイスダウン姿勢に変更する。PU装置14は、このフェイスダウン姿勢の対象チップ100を実装ヘッド18に引き渡す。なお、図1では、対象チップ100を、PU装置14から実装ヘッド18に直接、渡しているが、他の装置を介在させて渡すようにしてもよい。
【0023】
エネルギ照射装置16は、ダイシングテープ120の裏面側、すなわち、ダイシングテープ120を挟んでPU装置14の反対側に設けられている。このエネルギ照射装置16は、対象チップ100に向かって、エネルギを照射して、ダイシングテープ120の粘着力を低減させる。エネルギの種類は、ダイシングテープ120の粘着層124の特性に応じて選択される。本例では、エネルギとして光、より具体的には、UV光を照射している。こうしたエネルギ照射装置16を設ける理由については、後述する。
【0024】
図2は、エネルギ照射装置16の構成を示す図である。図2に示す通り、エネルギ照射装置16は、筒体30を有する。筒体30の内部には、回路基板38が取り付けられている。回路基板38の上面には、複数の光源40がマトリクス状に配置されている。光源40は、例えば、UV光を出力するUVLEDである。筒体30の上端には、通過開口32が、形成されている。この通過開口32には、UV光を透過させるレンズ34が、嵌め込まれている。
【0025】
また、筒体30の上端面には、通過開口32の周囲を取り囲むように吸引溝36が、形成されている。この吸引溝36は、吸引ポンプ42に連通されている。対象チップ100にUV光を照射する際、コントローラ22は、筒体30の上面をダイシングテープ120に接触させるとともに吸引ポンプ42を駆動する。これにより、筒体30が、ダイシングテープ120の裏面に密着し、ダイシングテープ120および対象チップ100に生じた熱の一部が、筒体30に伝達され、放熱されやすくなる。
【0026】
エネルギ照射装置16は、さらに、エネルギの照射エリアにおける対象チップ100の温度を検出する温度センサ44を有する。温度センサ44は、ダイシングテープ120または対象チップ100の温度を直接または間接的に検出できるのであれば特に限定されない。図2の例では、温度センサ44は、レンズ34の下面に取り付けられた接触式温度センサ、例えば、熱電対である。こうした温度センサ44は、一つでもよいし、複数設けられてもよい。また、温度センサ44は、非接触で温度を検出する非接触温度センサ、例えば赤外線センサでもよい。この場合、赤外線センサは、例えば、光源40とともに回路基板38に組み付けられてもよい。いずれにしても、こうした温度センサ44を設ける理由については、後に詳説する。
【0027】
なお、エネルギ照射装置16は、UV光をエリア選択的に照射してもよい。エリア選択的な照射を可能にするために、エネルギ照射装置16は、光源40(例えばUVLED)の位置および/または姿勢を変更させてもよい。また、別の形態として、エネルギ照射装置16は、光源40とダイシングテープ120との間に、照射エリアを限定するためのマスク部材を設けてもよい。さらに、別の形態として、エネルギ照射装置16は、光源40から出力されたUV光の照射方向および/または照射範囲を変更する光学部材、例えば、レンズやプリズム等を有してもよい。いずれにしても、エネルギ照射装置16は、対象チップ100の位置に応じて、エネルギの照射位置を変更する。
【0028】
コントローラ22は、上述した実装ヘッド18やPU装置14、エネルギ照射装置16の駆動を制御する。コントローラ22は、物理的には、プロセッサ22aとメモリ22bとを有したコンピュータである。
【0029】
ところで、これまでの説明で明らかな通り、チップ100は、ダイシングテープ120に粘着保持されている。そのため、チップ100をピックアップする際には、当該チップ100をダイシングテープ120から剥離する必要がある。従来、チップ100を剥離するために、チップ100に機械的な力を付与することが多かった。具体的には、剥離前のチップ100をPUヘッド28で吸引保持し、PUヘッド28を上昇させることが多かった。PUヘッド28が上昇することで、チップ100にダイシングテープ120から離れる方向の力が付与され、この力によりチップ100がダイシングテープ120から剥離される。この場合、チップ100に負荷がかかり、チップ100が破損することがあった。
【0030】
また、近年、PUヘッド28と接合面102との機械的接触を防止するために、非接触型のPUヘッド28を使用することがある。非接触型のPUヘッド28は、例えば、放射状またはサイクロン状にエアを噴出してチップ100を吸引するエア噴出式の非接触チャックを有してもよいし、超音波を利用してチップ100を吸引する超音波式の非接触チャックを有してもよい。いずれにしても、非接触型のPUヘッド28を利用することで、チップ100の接合面102の品質低下を抑制できる。しかしながら、こうした非接触型のPUヘッド28の場合、チップ100の吸引力が低いため、チップ100をダイシングテープ120から隔離できないおそれがあった。
【0031】
そこで、本例では、ピックアップに先立って、ダイシングテープ120の粘着力を低減させるために、エネルギ照射装置16を設けている。ここで、本例で取り扱うダイシングテープ120について説明する。図3図4は、エネルギ照射装置16によるチップ100の剥離の様子を示すイメージ図である。
【0032】
図3図4に示すように、ダイシングテープ120は、基材122と、粘着層124と、を積層して構成される。粘着層124は、エネルギ、より具体的には、UV光を照射することで粘着力を失うとともに、対象チップ100が自動的に剥離されるUV自己剥離粘着層である。かかるUV自己剥離粘着層は、例えば、特殊アクリル系ポリマーとUV官能型ガス発生剤と、で構成できる。UV自己剥離粘着層にUV光を照射すると粘着剤中に窒素ガスが発生し、そのガスが粘着剤の外部、粘着面界面に放出され、接着界面にガスが溜まっていくことによって、接着対象物が自然に剥がれていく。基材122は、UV光を透過できればよく、例えば、ポリアクリル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ABS、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド等の透明な樹脂からなるシートで構成されてもよい。また、別の形態として、基材122は、網目状の構造を有するシート、孔が開けられたシート等で構成されてもよい。
【0033】
こうしたダイシングテープ120のうち対象チップ100に対応するエリアに、エネルギ照射装置16によりUV光を照射すると、図4に示すように、当該エリアの粘着力が低減されるとともに、当該エリアにおける粘着層124からガスが発生し、対象チップ100が、自動的に剥離される。そして、対象チップ100がダイシングテープ120から剥離されることで、対象チップ100に大きな負荷をかけることなく、また、小さな吸引力でも、対象チップ100をピックアップできる。
【0034】
しかしながら、UV光を利用した剥離の場合、その処理に時間がかかるという問題が従来あった。これについて、図10を参照して説明する。図10は、従来例のピックアップ処理のタイミングチャートである。図10において、一段目は、PUヘッド28のZ位置を示しており、二段目は、対象チップ100の剥離状況を示している。さらに、三段目は、温度センサ44による検出温度Tdを、四段目は、エネルギ照射装置16によるUV光の照射状況を、それぞれ示している。なお、従来例の製造装置10では、温度センサ44は設けられておらず、検出温度Tdは、検出されていないが、図10では、本例との比較のため、検出温度Tdを図示している。
【0035】
図10の従来例では、チップ100をダイシングテープ120から剥離するために、時刻t1からUV光の照射を開始している。UV光が照射されると、ダイシングテープ120の粘着層124が徐々に変質し、粘着力が低下する。また、UV光を照射することで、ダイシングテープ120およびチップ100において熱が発生する。こうした熱の一部は、直接、または、筒体30を介して外気に放出される。しかし、UV光の強度が高く、放熱レートに比べて、エネルギ供給量が高い場合、対象チップ100が剥離される前に、対象チップ100またはダイシングテープ120が、その耐熱温度を超えてしまい、損傷するおそれがあった。
【0036】
そこで、従来例では、対象チップ100が剥離する前に、対象チップ100およびダイシングテープ120が耐熱温度を超えることが無いように、UV光の強度を低く抑えていた。図10の従来例では、光源40のデューティ比Dを小さくすることで、UV光の強度を低く抑えていた。その結果、図10に示すように、対象チップ100の温度は緩やかに上昇する。一方、対象チップ100が緩やかに温度上昇する間、ダイシングテープ120の粘着層124がUV光により徐々に変質する。その結果、時刻t2において、対象チップ100がダイシングテープ120から剥離する。
【0037】
ただし、従来例では、こうした対象チップ100の剥離を検出できておらず、UV光の照射開始から所定の待機時間が経過するまでピックアップが開始されない。図10の従来例では、時刻t1から所定の待機時間tw2が経過した時刻t3においてピックアップが開始され、UV光の照射が停止される。
【0038】
なお、図10に示す通り、対象チップ100が剥離された時刻t2以降、検出温度Tdの上昇速度が増加している。これは、対象チップ100が剥離することで、粘着層124で生じた熱が、対象チップ100に伝達されにくくなり、その分、ダイシングテープ120の温度上昇速度が増加するためである。
【0039】
以上の通り、従来は、所定の待機時間tw2が経過するまでの間に、対象チップ100が確実に剥離される一方で、対象チップ100およびダイシングテープ120が耐熱温度を超過しないように、UV光の照射強度を低く抑えていた。この場合、当然ながらピックアップ開始までに時間がかかるため、対象チップ100のピックアップひいては半導体装置の製造に要する時間の長期化を招いていた。
【0040】
そこで、本例では、対象チップ100またはダイシングテープ120の温度を、直接または間接的に検出し、その検出温度Tdが、規定の目標温度T*を超えないように、UV光の強度をフィードバック制御している。かかる構成とすることで、UV光の照射強度を高くしても、対象チップ100等の破損を防止できる。また、UV光の照射強度を高くすることで、対象チップ100の剥離に要する時間ひいてはピックアップに要する時間を短縮できる。
【0041】
なお、目標温度T*は、対象チップ100およびダイシングテープ120が、それぞれの耐熱温度を越えないような値が設定される。具体的に説明すると、例えば、対象チップ100の耐熱温度をTa、対象チップ100の実温度に対する検出温度Tdの最大誤差をEa%、ダイシングテープ120の耐熱温度をTb、ダイシングテープ120の実温度に対する検出温度Tdの最大誤差をEb%とする。この場合、目標温度T*は、T*×(1+Ea/100)<TaおよびT*×(1+Eb/100)<Tbの双方を満たす値が設定される。換言すれば、目標温度T*は、Ta/(1+Ea/100)より低く、Tb/(1+Eb/100)より低い。
【0042】
図5は、本例のピックアップ処理の流れを示すフローチャートである。図5に示すとおり、コントローラ22は、まず、エネルギ照射装置16を対象チップ100に対して位置決めする(S10)。エネルギ照射装置16が、対象チップ100に対して適切に位置決めできれば、コントローラ22は、UV光の照射を開始する(S12)。このとき、デューティ比Dは、100%に設定する。
【0043】
その後、コントローラ22は、検出温度Tdを帰還値として、デューティ比Dをフィードバック制御する(S14,S16)。具体的には、コントローラ22は、検出温度Tdと目標温度T*との偏差ΔTを算出し(S14)、その偏差ΔTに比例してデューティ比Dを増減させる(S16)。すなわち、比例ゲインをKp、バイアスをbとした場合、D=ΔT×Kp+bとする。なお、偏差ΔTの値によっては、D>100となることもあるが、デューティ比Dは、100%でクリッピングされる。
【0044】
コントローラ22は、このデューティ比Dの比例フィードバック制御を、UV光の照射開始からの経過時間が所定の待機時間tw1に到達するまで継続する(S18)。一方、経過時間が所定の待機時間tw1に到達すれば、コントローラ22は、UV光の照射を停止するとともに(S20)、PU装置14を駆動してチップ100のピックアップを開始する(S22)。
【0045】
図6は、本例のピックアップ処理のタイミングチャートである。図6の例では、時刻t1にUV光の照射を開始する。本例では、上述した通り、検出温度Tdを帰還値として、デューティ比Dを比例フィードバック制御する。したがって、UV光の照射開始直後は偏差ΔTが大きいため、UV光の照射強度も高く保たれる。図6の例では、検出温度Tdが、目標温度T*に近づくまでは、デューティ比Dは100%となっている。これにより、検出温度Td、ひいては、ダイシングテープ120および対象チップ100は、急激に温度上昇していく。時刻t2において、検出温度Tdが目標温度T*に到達すると、偏差ΔTが小さくなるため、コントローラ22は、光源40のデューティ比Dを低下させ、UV光の照射強度を低下させる。これにより、対象チップ100の温度上昇が抑制され、対象チップ100およびダイシングテープ120が耐熱温度を越えることが防止される。その一方で、目標温度T*に到達するまでは、高強度でUV光を照射するため、対象チップ100は比較的早期にダイシングテープ120から剥離される。図6の例では、時刻t3において、対象チップ100がダイシングテープ120から剥離する。
【0046】
一方、UV光の照射開始から待機時間tw1が経過した時刻t4では、対象チップ100がピックアップされ、UV光の照射が停止される。ここで、待機時間tw1は、対象チップ100が確実に剥離する時間が設定される。上述した通り、本例では、目標温度T*に到達するまでは高強度でUV光を照射するため、待機時間tw1は、従来例の待機時間tw2に比べて大幅に短縮できる。その結果、本例によれば、ピックアップに要する時間を短縮することができる。
【0047】
なお、図5図6の例では、対象チップ100が剥離した後も待機時間tw1が経過するまで対象チップ100のピックアップを開始しない。しかしながら、検出温度Tdの変化に基づいて剥離のタイミングを特定し、剥離が検出されれば即座にピックアップおよびUV光の照射停止を行ってもよい。
【0048】
すなわち、上述した通り、対象チップ100が剥離すると、ダイシングテープ120から対象チップ100への伝熱が阻害され、ダイシングテープ120の温度ひいては検出温度Tdが一時的に急増する。この検出温度Tdの一時的な急増が生じた場合、対象チップ100が剥離したと判断し、ピックアップの開始およびUV光の照射停止を行ってもよい。
【0049】
図7は、この場合のピックアップ処理のフローチャートである。図7において、ステップS10~S16までの処理は、図5の処理と同じである。一方、図7の例では、デューティ比Dを決定した後、コントローラ22は、検出温度Tdの微分値ΔTd=Td[i]-Td[i-1]と所定の基準値Astを比較する(S18´)。比較の結果、微分値ΔTdが基準値Ast以上の場合、コントローラ22は、検出温度Tdの急増、ひいては、対象チップ100の剥離が生じたと判断する。この場合、コントローラ22は、UV光の照射を停止するとともに、PU装置14に対象チップ100のピックアップを開始させる(S20,S22)。
【0050】
図8は、図7のフローに従ったピックアップ処理のタイミングチャートである。図8の例では、時刻t3において、対象チップ100の剥離が発生し、検出温度Tdが急上昇する。コントローラ22は、この検出温度Tdの急上昇が検出されれば、即座に、ピックアップの開始とUV光の照射停止を行う。そして、これにより、ピックアップに要する時間をより短縮できる。
【0051】
以上の説明から明らかな通り、本明細書で開示する技術によれば、対象チップ100およびダイシングテープ120の温度を直接または間接的に検出し、得られた検出温度Tdに応じてUV光の照射強度を調整している。その結果、対象チップ100およびダイシングテープ120の損傷を防止しつつ、対象チップ100のピックアップに要する時間を短縮できる。
【0052】
なお、これまで説明した構成は一例であり、適宜変更されてもよい。例えば、UV光の照射強度の制御形態は適宜変更されてもよい。例えば、光源40の駆動信号のデューティ比Dを、比例制御ではなく、比例積分制御や比例積分微分制御してもよい。また、また、別の形態として、図9の切替チャートに従って、検出温度Tdが増加方向に目標温度T*を跨いだ場合、光源40をOFFし、検出温度Tdが、減少方向に値(T*-α)を跨いだ場合、光源40をONしてもよい。
【0053】
また、複数の光源40を互いに独立して制御してもよい。例えば、複数の光源40それぞれの照射エリアごとに検出温度Tdを取得してもよい。そして、複数の光源40それぞれのON/OFFを、その光源40に対応する検出温度Tdに応じて、独立して制御してもよい。かかる構成とすることで、温度分布のばらつきを抑制できる。この場合、複数の検出温度Tdを取得するために、複数の接触式温度センサを設けてもよいし、一つの赤外センサで、照射エリアにおける温度分布を画像として取得してもよい。
【0054】
また、上述の説明では、エネルギとしてUV光を照射しているが、照射するエネルギの種類は、ダイシングテープ120の特性に応じて適宜、変更されてもよい。例えば、ダイシングテープ120の粘着層124が、熱によって自己剥離する場合、エネルギ照射装置16は、エネルギとして熱を照射してもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 製造装置、12 ウエハ保持装置、14 PU装置、16 エネルギ照射装置、18 実装ヘッド、20 ステージ、22 コントローラ、24 エキスパンドリング、26 リング押さえ、28 PUヘッド、30 筒体、32 通過開口、34 レンズ、36 吸引溝、38 回路基板、40 光源、42 吸引ポンプ、44 温度センサ、100 チップ、102 接合面、104 保持面、110 基板、120 ダイシングテープ、122 基材、124 粘着層、130 ウエハリング。
図1
図2
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図5
図6
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図8
図9
図10