(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036178
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】コンクリート打設用型枠およびセントル
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
E21D11/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140950
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】599145029
【氏名又は名称】株式会社エムケーエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】源石 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大戸 択哉
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 庄平
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BB02
2D155CA03
2D155DA08
2D155LA05
(57)【要約】
【課題】コンクリートの養生期間が比較的短い場合であっても、優れた離型性をもって離型が可能なコンクリート打設用型枠およびセントルを提供する。
【解決手段】セントルが備える型枠12は、板状の部位であって、+Z側の主面が打設面12cである打設面部12aを有する。打設面部12aは、+Z側の主面(打設面)12cを含む表層部分に、不織布が混在されてなる保護層121を有する。型枠12において、打設面12cは、表面粗さ(算術平均粗さ)Raが3.8μm~20μmの範囲となるよう形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂で形成されたコンクリート打設用の型枠であって、
算術平均粗さが3.8μm~20μmの範囲である打設面を有する、
コンクリート打設用型枠。
【請求項2】
板状の部位であって、一方の主面が前記打設面である打設面部と、
前記打設面部における他方の主面から立設されているとともに、前記打設面部と一体に形成された1または複数のリブ部と、
を備え、
前記打設面部は、当該打設面部の厚み方向における前記一方の主面を含む表層部分に、不織布が混在されてなる保護層を有する、
請求項1に記載のコンクリート打設用型枠。
【請求項3】
前記保護層における前記不織布の繊維目付量は、50g/m2~69.5g/m2の範囲である、
請求項2に記載のコンクリート打設用型枠。
【請求項4】
前記繊維強化樹脂は、ガラス繊維強化樹脂である、
請求項1から請求項3の何れかに記載のコンクリート打設用型枠。
【請求項5】
トンネルのコンクリート覆工に用いるセントルであって、
請求項1または請求項2に記載のコンクリート打設用型枠を備える、
セントル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打設用型枠およびセントルに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル施工におけるトンネル壁面へのコンクリート打設には、セントルが用いられる場合がある。セントルは、トンネルの路盤面に敷設されたレール上を移動できるように構成されており、セントルを用いたコンクリートの打設は、トンネルの長手方向における一定の領域でのコンクリートの打設と、トンネルの長手方向へのセントルの移動とを交互に繰り返して行われる。
【0003】
ところで、コンクリートの打設には、コンクリート打設用の型枠が用いられるが、当該型枠としてFRP(繊維強化樹脂)製のものが用いられる場合がある(特許文献1,2)。FRP製の型枠は、鋼製の型枠に比べて軽量であり、セントルにおける型枠を昇降するためのアクチュエータを小型のものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4416223号公報
【特許文献2】特開2004-84320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セントルを用いたコンクリート打設では、2日のサイクルで打設が行われ、コンクリートの養生期間は十数時間である。このため、セントルの型枠は、コンクリートの強度発現が十分に高くならないうちに離型されることとなる。よって、従来技術に係るセントルを用いたコンクリート打設においては、離型性が十分でなく、コンクリートの強度が不十分となることも考えられる。
【0006】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、コンクリートの養生期間が比較的短い場合であっても、優れた離型性をもって離型が可能なコンクリート打設用型枠およびセントルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るコンクリート打設用の型枠は、繊維強化樹脂で形成され、算術平均粗さ(Ra)が3.8μm~20μmの範囲である打設面を有する。
【0008】
上記態様に係るコンクリート打設用型枠では、打設面の算術平均粗さRaが3.8μm以上に設定されているので、コンクリートの養生期間が十数時間と比較的短い場合であっても、優れた離型性をもって離型が可能であり、コンクリートにひび割れや窪みなどが生じるのを抑制することができる。
【0009】
また、上記態様に係るコンクリート打設用型枠では、打設面の算術平均粗さRaが20μm以下に設定されているので、打設面へのノロ(セメントペースト)の付着を抑制することができる。このため、コンクリート打設用型枠を連続使用する場合においても、薄板状に固化したノロを打設面から除去するための作業を軽減することが可能となる。
【0010】
上記態様に係るコンクリート打設用型枠において、板状の部位であって、一方の主面が前記打設面である打設面部と、前記打設面部における他方の主面から立設されているとともに、前記打設面部と一体に形成された1または複数のリブ部と、を備え、前記打設面部は、当該打設面部の厚み方向における前記一方の主面を含む表層部分に、不織布が混在されてなる保護層を有する、としてもよい。
【0011】
上記態様に係るコンクリート打設用型枠では、不織布が混在されてなる保護層を打設面部が有するので、コンクリート打設時に打設面にコンクリートが衝突しても、打設面部が摩耗するのを抑制することができる。よって、上記態様に係るコンクリート打設用型枠では、コンクリートの打設を繰り返し行っても打設面が摩耗し難く、高い耐久性を確保することができる。
【0012】
上記態様に係るコンクリート打設用型枠において、前記保護層における前記不織布の繊維目付量は、50g/m2~69.5g/m2の範囲である、としてもよい。
【0013】
上記態様に係るコンクリート打設用型枠では、保護層における不織布の繊維目付量が50g/m2~69.5g/m2の範囲に設定されているので、当該不織布の繊維目付量によって打設面の算術平均粗さRaを3.8μm~20μmの範囲に制御しながら、打設時におけるコンクリートの衝突に対して打設面部が摩耗・磨滅するのを抑制することができる。
【0014】
上記態様に係るコンクリート打設用型枠において、前記繊維強化樹脂は、ガラス繊維強化樹脂である、としてもよい。
【0015】
上記態様に係るコンクリート打設用型枠は、ガラス繊維強化樹脂で形成されているので、金属で形成された型枠よりも重量を軽減することができ、また、耐薬品性、耐候性、および耐食性に優れる。
【0016】
本発明の一態様に係るセントルは、トンネルのコンクリート覆工に用いるセントルであって、上記の何れかの態様に係るコンクリート打設用型枠を備える。
【0017】
上記態様に係るセントルは、上記の態様に係るコンクリート打設用型枠を備えるので、上記のような効果をそのまま奏することができる。
【発明の効果】
【0018】
上記の各態様では、コンクリートの養生期間が比較的短い場合であっても、優れた離型性をもって離型が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るセントルの構成を示す正面図である。
【
図5】型枠の製造方法を説明するための模式図である。
【
図6】型枠における外面の表面粗さと脱型応力との関係を示すグラフである。
【
図7】保護層における不織布の繊維目付量と表面粗さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0021】
以下の説明で用いる図面において、X方向は「トンネルの長手方向」、Y方向は「トンネルの左右方向(幅方向)」、Z方向は「トンネルの上下方向」をそれぞれ示す。
【0022】
[実施形態]
1.セントル1の構成
本発明の実施形態に係るセントル1の構成について、
図1を用いて説明する。
【0023】
図1に示すように、セントル本体10と複数の型枠(コンクリート打設用型枠)12とを備える。セントル本体10は、フレーム11と、複数のアクチュエータ13と、4つの走行台車14(
図1では2つの走行台車14のみを図示しているが、紙面の奥側にも2つの走行台車14が配置されている。)とを有する。
【0024】
フレーム11は、横フレーム11bと左右一対の縦フレーム11cとが接合されてなり、全体として正面視で門型形状を有する。そして、フレーム11は、横フレーム11bの下方であって、縦フレーム11c同士の間に空間部11aを有する。空間部11aは、作業者や車両などを通過可能とする部分である。
【0025】
複数の型枠12は、アクチュエータ13の伸長により互いの間の隙間が略なくなり、全体として正面視でアーチ形状をなす。複数の型枠12のそれぞれは、繊維強化樹脂であるGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)で形成されており、トンネル壁面にコンクリートを打設する際に用いられる部材である。型枠12の詳細な構成については、弧述する。
【0026】
4つの走行台車14のそれぞれは、縦フレーム11cの下端部に固定されている。各走行台車14は、走行車輪14aと、走行車輪14aを回転駆動する走行用モータ(図示を省略。)とを有する。走行車輪14aは、路盤面500上に敷設されたレール501に沿って走行することができる。これにより、セントル1がトンネルの長手方向に移動可能となっている。
【0027】
2.型枠12の外観形状
型枠12の外観形状について、
図2を用いて説明する。なお、
図2では、複数の型枠12のうちの1つを示しているが、他の型枠12についても同様の外観形状を有する。
【0028】
図2に示すように、型枠12は、板状の打設面部12aと、複数のリブ12bとを有する。型枠12は、上述のようにGFRPから形成されており、打設面部12aと複数のリブ12bとは一体形成されている。
【0029】
打設面部12aは、Z方向に交差する方向に拡がるように形成されており、緩やかに湾曲した形状を有する。打設面部12aにおける+Z側の主面(一方の主面)が打設面である。
【0030】
複数のリブ12bのそれぞれは、X方向に延びるとともに、+Z側の端面で打設面部12aの-Z側の主面(他方の主面)に接続されている。そして、複数のリブ12bは、Y方向に配列されており、互いの間に間隔を空けて配されている。
【0031】
ここで、複数の型枠12は、アクチュエータ13により拡径された状態で、打設面部12aのY方向端辺同士の間に隙間が生じないように形成されている。
【0032】
3.打設面部12aの構造
打設面部12aの構造について、
図3を用いて説明する。
図3は、
図2のA部を拡大して示す断面図である。
【0033】
図3に示すように、打設面部12aは、厚み方向(Z方向)において、少なくともベース層120と保護層121とを有する。ベース層120は、-Z側(他方の主面側)の層であって、ガラス繊維と樹脂とにより構成されている。
【0034】
保護層121は、+Z側の主面(打設面)を含む表層部分に配されたそうであって、ガラス繊維と不織布と樹脂とにより構成されている。保護層121における不織布の繊維目付量は、50g/m2~69.5g/m2の範囲、望ましくは56g/m2~69.5g/m2の範囲、より望ましくは62g/m2~69.5g/m2の範囲である。なお、本実施形態では、一例として、保護層121における不織布の繊維目付量を68g/m2としている。
【0035】
4.打設面部12aにおける打設面12cの表面粗さ
打設面部12aにおける打設面12cの表面粗さ(算術平均粗さRa)について、
図4を用いて説明する。
図4は、
図3のB部を拡大して示す断面図である。
【0036】
図3に示すように、打設面部12aにおける打設面12c、即ち、保護層121の+Z側の主面は、算術平均粗さRaが3.8μm~20μmの範囲となるように構成されている。打設面12cの算術平均粗さRaについては、より具体的には3.8μm~15μmの範囲、さらに具体的には3.8μm~10μmの範囲となるように設定されており、本実施形態では、一例として5.2μmに設定されている。
【0037】
なお、本実施形態における「算術平均粗さRa」は、キーエンス製レーザー顕微鏡:VK8710・8700(「キーエンス」は、株式会社キーエンスの登録商標)を用いて計測した値である。
【0038】
ここで、打設面部12aにおける打設面12cの表面粗さについては、保護層121に混在している不織布の繊維目付量に応じて規定されている。これについては、後述する。
【0039】
5.型枠12の製造方法
型枠12の製造方法について、
図5を用いて説明する。本実施形態に係る型枠12については、一例として引抜成形法を用いて形成される。
【0040】
図5に示すように、型枠12を製造するのに用いる装置は、レジンバス200と、ダイ201と、ヒータ202と、牽引装置203,204とを備える。レジンバス200には、液状の樹脂251および添加剤が収容されている。樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などを採用することができる。
【0041】
レジンバス200に収容された液状の樹脂251に対しては、複数のガラス繊維250が浸漬される。これにより、ガラス繊維250に液状樹脂251が含浸されてコンパウンド繊維252が形成される。
【0042】
コンパウンド繊維252は、レジンバス200から上げられ、ダイ201およびヒータ202が配された工程へと送られる。なお、コンパウンド繊維252に対しては、繊維ロール253から繰り出された繊維層(繊維マット)が上方側に、繊維ロール254から繰り出された繊維層(繊維マット)が下方側に、それぞれ被着される。
【0043】
ここで、繊維ロール253には、ガラス繊維と不織布とを有するマットが巻回されており、繊維ロール254には、ガラス繊維からなるマットが巻回されている。
【0044】
ダイ201に対しては、コンパウンド繊維252が、繊維ロール253,254からそれぞれ繰り出されたマットで挟まれた状態で投入される。そして、ダイ201において、
図2に示した形状とされた状態で、ヒータ202により加熱されることで硬化される。
【0045】
硬化した後にダイ201から出されたFRP成型品255は、2つの牽引装置203,204の矢印C1~C4で示す駆動により
図5の右手方向へと牽引される。
【0046】
6.型枠12の表面粗さRa
本実施形態に係る型枠12については、上述のように、打設面12cの表面粗さ(算術平均粗さRa)を3.8μm~20μmの範囲内で設定しているが、その理由について、
図6を用いて説明する。
図6は、横軸に表面粗さ(算術平均粗さRa)をとり、縦軸にコンクリート打設時における離型応力σをとったグラフである。
【0047】
まず、上述のように、トンネル施工におけるコンクリート打設での養生期間は十数時間であるが、離型時においては、その時点でのコンクリートの強度よりもコンクリートと型枠との付着力が小さいことが必要となる。これに関して、離型応力σについて、1×10-2N/mm2以下であることが望ましいとされている(萩原 純一,「コンクリート製品技術者のための離型剤入門」,〈令和4年7月6日検索 URL:https://www.con-pro.net/readings/rikeizai/doc0001.html〉)。
【0048】
本願発明者等が上記条件を前提に型枠12における打設面12cの表面粗さ(算術平均粗さRa)と離型応力σとの関係について確認を行った。
図6に示すグラフは、その結果を表すものである。なお、離型応力σとは、離型時の必要となる荷重から型枠12の重量を差し引いて得られる値を型枠12とコンクリートとの接触面積で除した値である。
【0049】
図6に示すように、離型応力σは、表面粗さRaが3.0μmよりも小さい値から5.0μmへと近づくに従って漸減して行く。そして、離型応力σは、表面粗さRaが5.0μm以上の範囲で略変化がないか、表面粗さRaが大きくなるのに従って僅かに上昇している。
【0050】
上記の1×10-2N/mm2を閾値σTHとして横軸に平行な線LN2を引くとき、表面粗さRaと離型応力σとの関係を示す特性線LN1との交点をP1とする。そして、交点P1から推薦を下ろすと、表面粗さRaは3.8μmとなる。
【0051】
表面粗さRaが3.8μmよりも小さい範囲(矢印D2)では、離型応力σが閾値σTHよりも大きくなる(矢印D1)。これに対して、表面粗さRaが3.8μm以上の範囲(矢印D4)では、離型応力σが閾値σTH以下となる(矢印D3)。
【0052】
なお、本実施形態では、型枠12の打設面12cでの領域ごとの表面粗さRaのバラツキを考慮して、打設面12cの表面粗さ(算術平均粗さRa)を5.2μmに設定している。表面粗さRaが5.2μmの箇所に垂線LN3を引くとき、特性線LN1との交点がP2であり、当該交点P2は、矢印D3で示すように閾値σTHに対して余裕を持った状態で小さな離型応力σを実現することができる。
【0053】
次に、型枠12における打設面12cの表面粗さRaの上限値を上記のように設定した理由について、説明する。上述のように、型枠12における打設面12cの表面粗さ(算術平均粗さRa)については、上限値を20μm、望ましくは15μm、より望ましくは10μmとしている。これは、離型時に型枠12の打設面12cに残存するセメントペースト(ノロ)を考慮したものである。
【0054】
本願発明者等が鋭意検討した結果、型枠12における打設面12cの表面粗さRaが20μmよりも大きい場合には、離型時に型枠12の打設面12cに多くのセメントペーストが付着し、次のコンクリート打設のためにセメントペーストを除去するために研磨などの作業が必要となる。このため、型枠12における打設面12cの表面粗さRaが20μmよりも大きい場合には、セントル1を用いたコンクリート打設において、セメントペーストの除去のために作業性が著しく低下してしまう。
【0055】
また、本願発明者等が確認したところ、型枠12における打設面12cの表面粗さRaを15μm以下にすれば布などを用いて拭き取るだけで除去できる程度のセメントペーストしか残存せず、さらに表面粗さRaを10μm以下にすれば水洗いだけで除去できる程度のセメントペーストしか残存しないことを確認している。
【0056】
以上より、型枠12における打設面12cの表面粗さ(算術平均粗さRa)の上限値を20μm、望ましくは15μm、より望ましくは10μmとすることにより、セントル1を用いたコンクリートの打設における作業性を高いものとすることができる。
【0057】
7.保護層121における不織布の繊維目付量と表面粗さRaとの関係
型枠12の打設面部12aにおいては、打設面12cを含む表層部分に保護層121が配設されており、当該保護層121には不織布が混在されている。保護層121における不織布は、コンクリート打設時において、打設面12cに衝突するコンクリートに対して打設面12cが摩耗・磨滅するのを抑制するために混在されている。そして、打設面12cにおける表面粗さ(算術平均粗さRa)は、保護層121に混在される不織布の繊維目付量Bwと密接な関係を有する。これについて、
図7を用いて説明する。
【0058】
図7に示すように、横軸に保護層121における不織布の繊維目付量Bwをとり、縦軸に打設面12cの表面粗さ(算術平均粗さRa)をとる場合に、繊維目付量Bwが多くなるのに従って表面荒れRaが漸減する特性線LN4が得られる。
【0059】
そして、打設面12cの表面粗さRaの下限値である3.8μmと実施形態の5.2μmのそれぞれで横軸に平行な線LN5,LN6を引く。この場合に、LN4に対するLN5,LN6のそれぞれとの交点P3,P4から垂線を下ろすと、不織布の繊維目付量Bwがそれぞれ68g/m2,69.5g/m2となる。
【0060】
以上より、打設面12cにおける表面粗さRaを3.8μm以上とするには(矢印E2)、保護層121における不織布の繊維目付量Bwを69.5g/m
2以下とすればよいことが分かる(矢印E1)。なお、
図7では表していないが、打設面12cにおける表面粗さRaを20μm以下とするのは、保護層121における不織布の繊維目付量Bwを50g/m
2以上とすればよいことを確認している。
【0061】
また、本実施形態では、保護層121における不織布の繊維目付量Bwを68g/m2とし、これにより打設面12cにおける表面粗さ(算術平均粗さRa)を5.2μmとしている。
【0062】
ここで、上述のように、型枠12を用いたコンクリート打設において、打設面12cへのセメントペーストの付着量を少なく抑制するためには、打設面12cにおける表面粗さ(算術平均粗さRa)を15μm以下とすることが望ましく、10μm以下とすることがより望ましい。このような表面粗さRaの上限値を達成するためには、例えば、不織布の繊維目付量Bwを56g/m2以上とすることで表面粗さRaを15μm以下にすることができ、不織布の繊維目付量Bwを62g/m2以上とすることで表面粗さRaを10μm以下にすることができる。
【0063】
8.効果
本実施形態に係る型枠(コンクリート打設用型枠)12では、打設面12cの算術平均粗さRaが3.8μm以上に設定されているので、コンクリートの養生期間が十数時間と比較的短い場合であっても、優れた離型性をもって離型が可能であり、コンクリートにひび割れや窪みなどが生じるのを抑制することができる。
【0064】
また、型枠12では、打設面12cの算術平均粗さRaが20μm以下に設定されているので、打設面12cへのセメントペーストの付着を抑制することができる。このため、型枠12を連続使用する場合においても、薄板状に固化したノロを打設面12cから除去するための作業を軽減することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態に係る型枠12では、不織布が混在されてなる保護層121を打設面部12aが有するので、コンクリート打設時に打設面12cにコンクリートが衝突しても、打設面部12aが摩耗・磨滅するのを抑制することができる。よって、型枠12では、コンクリートの打設を繰り返し行っても打設面12cが摩耗・磨滅し難く、高い耐久性を確保することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る型枠12では、保護層121における不織布の繊維目付量が50g/m2~69.5g/m2の範囲に設定されているので、当該不織布の繊維目付量Bwによって打設面12cの算術平均粗さRaを3.8μm~20μmの範囲に制御しながら、打設時におけるコンクリートの衝突に対して打設面部12aの摩耗・磨滅を抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る型枠12は、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)で形成されているので、金属で形成された型枠よりも重量を軽減することができ、また、耐薬品性、耐候性、および耐食性に優れる。
【0068】
なお、本実施形態に係るセントル1は、それぞれが上記のような構成を有する複数の型枠12を備えるので、上記同様の効果を奏することができる。
【0069】
以上のように、本実施形態に係る型枠12およびこれを備えるセントル1では、コンクリートの養生期間が比較的短い場合であっても、優れた離型性をもって離型が可能である。
【0070】
[変形例]
上記実施形態に係る型枠12では、複数のリブ12bを有する構成を一例として採用したが、必ずしもリブを有する必要はない。また、打設面部12aにおける-Z側の主面にY方向に延びるリブを形成することも可能である。
【0071】
また、型枠12において、複数のリブ12bが突設する方向については、少なくともY方向両側のリブ12bについては打設面12cの法線方向とすることが望ましい。これは、Y方向に隣接する型枠12同士が、拡径時に打設面12c同士の間に隙間を生じないようにして、打設されたコンクリートにバリを生じさせないようにすることができるためである。
【0072】
上記実施形態に係る型枠12では、+Z側の表層部分に不織布が混在されてなる保護層121が配設された構成を一例としたが、必ずしも表層部分に保護層121を配設する必要はない。また、保護層121として混在させる繊維材料としては不織布に限定されるものではなく、例えば、アラミド繊維などからなる編物や織物などを混在させることも可能である。
【0073】
なお、型枠12の表層部分に保護層121を配設させない場合には、型枠12の製造時に用いるダイ201の表面に凹凸を設けておき、当該凹凸を転写して型枠12の打設面12cにおける上記範囲での表面粗さを実現することとしてもよい。
【0074】
上記実施形態に係る型枠12では、繊維強化樹脂の一例としてガラス繊維強化樹脂(GFRP)を採用することとしたが、これ以外にも、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)、AFRP(Aramid Fiber Reinforced Plastics)、DFRP(Dyneema Fiber Reinforced Plastics 〈「Dyneema」はDSM IP ASSETS B.V.の登録商標〉)、ZFRP(Zylon Fiber Reinforced Plastics 〈「Zylon」は東洋紡株式会社の登録商標〉)、BFRP(Boron Fiber Reinforced Plastics)などを採用することもできる。
【0075】
また、上記実施形態では、セントル1に備えられる型枠12を一例としたが、トンネル施工以外のコンクリート打設に用いられる型枠として本発明に係るコンクリート打設用型枠を広く採用することができる。この場合にも、上記同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 セントル
12 型枠(コンクリート打設用型枠)
12a 打設面部
12b 打設面(一方の主面)
121 保護層