(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036226
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】車両の電子制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 63/18 20060101AFI20240308BHJP
F16H 61/00 20060101ALI20240308BHJP
F16H 59/04 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
F16H63/18
F16H61/00
F16H59/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141037
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100182028
【弁理士】
【氏名又は名称】多原 伸宜
(72)【発明者】
【氏名】川澄 匡教
(72)【発明者】
【氏名】神保 宏
(72)【発明者】
【氏名】秋元 豊
【テーマコード(参考)】
3J067
3J552
【Fターム(参考)】
3J067AA13
3J067AB02
3J067AC05
3J067BA14
3J067BA17
3J067BB04
3J067CA02
3J067CA23
3J067CA32
3J067DA36
3J067FB45
3J067GA05
3J552MA01
3J552NA08
3J552NB01
3J552PA54
3J552QC06
3J552QC10
3J552SA23
3J552SB02
3J552TA12
3J552VA62W
(57)【要約】
【課題】ギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値の学習値に、車両毎のばらつきが生じることを抑制することができる車両の電子制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置1では、学習部5aが、シフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の周方向における案内溝33の一方の端部である溝端部33cに位置されるときに、ギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値を学習値として取得する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
前記駆動源に連結されると共に、シフトドラムのドラム部の外周壁から前記ドラム部の径方向に凹みかつ前記ドラム部の周方向に延在する案内溝を有し、前記シフトドラムが回転される際にシフトフォークのピン部が前記案内溝を案内されて移動されることによって前記シフトフォークが移動されることにより、複数の変速段の各々に変速される変速機と、
前記シフトドラムの回転位置に対応した電気信号を出力するギヤポジションセンサと、
を備える車両に搭載され、
前記ギヤポジションセンサから出力される前記電気信号の電圧値を学習値として取得する学習部を有する車両の電子制御装置であって、
前記学習部は、前記ピン部が前記周方向における前記案内溝の一方の端部である溝端部に位置されるときに、前記電気信号の前記電圧値を前記学習値として取得することを特徴とする車両の電子制御装置。
【請求項2】
前記学習部は、前記ピン部が前記溝端部に当接されるときに、前記学習値を、前記シフトドラムの前記回転位置の基準位置に対応する基準位置学習値として取得することを特徴とする請求項1に記載の車両の電子制御装置。
【請求項3】
前記ピン部が当接される前記溝端部は、前記複数の変速段の内の最下段の変速段側の溝端部であることを特徴とする請求項2に記載の車両の電子制御装置。
【請求項4】
前記学習部は、前記基準位置学習値に基づいて、前記複数の変速段に各々対応する複数の変速段学習値を算出することを特徴とする請求項2又は3に記載の車両の電子制御装置。
【請求項5】
前記電気信号の前記電圧値が前記複数の変速段学習値のいずれかに対応する閾値に等しくなるときに、前記駆動源の出力を調整する制御が実行されることを特徴とする請求項4に記載の車両の電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電子制御装置に関し、特に、駆動源に連結された変速機の変速段を検出するギヤポジションセンサを備えた車両に搭載される電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の車両の中には、駆動源に連結された変速機の変速段に応じた電気信号を出力するギヤポジションセンサを備え、ギヤポジションセンサから出力された電気信号の電圧値等を用いて駆動源の出力制御等を実行する構成を採用するものがある。
【0003】
かかる状況下で、特許文献1は、自動二輪車等の車両に搭載された電子制御装置1に関し、このような車両において、駆動源であるエンジン(内燃機関)Eに連結された変速機Tのシフトドラム31のドラムシャフト32周りの回転位置(ドラムシャフト32周りの1周が0度から360度である回転角に対応した位置)を示す電気信号を出力するギヤポジションセンサ13が備えられ、電子制御装置1は、変速機Tの変速段に対応してギヤポジションセンサ13から出力される電気信号の電圧値を学習値として予め取得する学習をしておき、車両の運転時に運転者が変速操作しようと変速操作部材であるシフトペダル21を操作してシフトドラム31を回転させる際に、ギヤポジションセンサ13から出力された電気信号の電圧値が学習値に対応する閾値に達すると、エンジンの出力を調整する出力制御を実行する構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1の構成は、変速機の変速段に対応してギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値を学習値として予め取得して学習する構成を開示するものではあるが、かかる学習値における車両毎のばらつきを抑制することについては何等の開示等をするものではない。
【0006】
ここで、本発明者の更なる検討によれば、シフトドラムを有する変速機においては、ディテント部材がドラムシャフトに連結されたシフトカムの凹部に当接されて押圧されることによりシフトカムを係止して、シフトドラムの回転位置を変速段に対応させて位置決めさせるような構成が採用される場合がある。かかる場合、ディテント部材がシフトカムの凹部に当接され押圧される際の位置関係において、車両毎に、部材精度や組付け精度等に起因したばらつきがあるため、このように位置決めされた変速段に対応するシフトドラムの回転位置にばらつきが生じる傾向が考えられる。その結果、車両毎に、ギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値の学習値にばらつきが生じる可能性が考えられるため、かかる点で、改良の余地があると考えられる。
【0007】
また、このように、車両毎に、ギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値の学習値と変速段との対応関係にばらつきが生じる場合には、運転者が変速操作しようと変速操作部材を操作してシフトドラムを回転させて、ギヤポジションセンサから出力された電気信号の電圧値が学習値に対応する閾値に達するときに実行されるようなエンジンの出力制御の実行タイミングがばらついて、それが適切なタイミングに実行されない事態に繋がり、運転者が変速操作部材を操作する操作フィーリングや、ひいては車両の運転フィーリングやドライバビリティに違和感を生じる可能性も考えられるため、かかる点で、更に改良の余地があると考えられる。
【0008】
本発明は、以上の検討を経てなされたものであり、ギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値の学習値に、車両毎のばらつきが生じることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するべく、本発明の車両の電子制御装置は、駆動源と、前記駆動源に連結されると共に、シフトドラムのドラム部の外周壁から前記ドラム部の径方向に凹みかつ前記ドラム部の周方向に延在する案内溝を有し、前記シフトドラムが回転される際にシフトフォークのピン部が前記案内溝を案内されて移動されることによって前記シフトフォークが移動されることにより、複数の変速段の各々に変速される変速機と、前記シフトドラムの回転位置に対応した電気信号を出力するギヤポジションセンサと、を備える車両に搭載され、前記ギヤポジションセンサから出力される前記電気信号の電圧値を学習値として取得する学習部を有する車両の電子制御装置であって、前記学習部は、前記ピン部が前記周方向における前記案内溝の一方の端部である溝端部に位置されるときに、前記電気信号の前記電圧値を前記学習値として取得することを第1の局面とする。
【0010】
また、本発明は、第1の局面に加えて、前記学習部は、前記ピン部が前記溝端部に当接されるときに、前記学習値を、前記シフトドラムの前記回転位置の基準位置に対応する基準位置学習値として取得することを第2の局面とする。
【0011】
また、本発明は、第2の局面に加えて、前記ピン部が当接される前記溝端部は、前記複数の変速段の内の最下段の変速段側の溝端部であることを第3の局面とする。
【0012】
また、本発明は、第2又は第3の局面に加えて、前記学習部は、前記基準位置学習値に基づいて、前記複数の変速段に各々対応する複数の変速段学習値を算出することを第4の局面とする。
【0013】
また、本発明は、第4の局面に加えて、前記電気信号の前記電圧値が前記複数の変速段学習値のいずれかに対応する閾値に等しくなるときに、前記駆動源の出力を調整する制御が実行されることを第5の局面とする。
【発明の効果】
【0014】
以上の本発明の第1の局面にかかる車両の電子制御装置によれば、学習部が、シフトフォークのピン部がシフトドラムの周方向における案内溝の一方の端部である溝端部に位置されるときに、ギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値を学習値として取得するものであるため、シフトカム等の位置決め機能に依存せず、位置的な公差が小さくなるシフトドラムの部位に対応してギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値を学習値として取得することができ、ギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値の学習値に、車両毎のばらつきが生じることを抑制することができる。なお、かかる学習値は、ギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値をチェックする際や、電子制御装置が実行する制御処理のパラメータを算出する際に、適用されることができる。
【0015】
また、本発明の第2の局面にかかる車両の電子制御装置によれば、学習部が、シフトフォークのピン部がシフトドラムの案内溝の溝端部に当接されるときに、シフトドラムの回転位置の基準位置に対応する基準位置学習値を取得するものであるため、車両毎のばらつきが生じることが抑制された態様の基準位置学習値を取得することができ、かかる基準位置学習値は、電子制御装置が実行する制御処理で、シフトドラムの回転位置の基準値として適用されることができる。
【0016】
また、本発明の第3の局面にかかる車両の電子制御装置によれば、シフトフォークのピン部が当接されるシフトドラムの案内溝の溝端部が、複数の変速段の内の最下段の変速段側の溝端部であるため、典型的には変速機のニュートラル位置に隣接した最下段である1速に関して、シフトフォークのピン部をシフトドラムの案内溝の溝端部に相対的に短いストロークで簡便かつ迅速に当接させることができる。
【0017】
また、本発明の第4の局面にかかる車両の電子制御装置によれば、学習部が、基準位置学習値に基づいて、複数の変速段に各々対応する複数の変速段学習値を算出するものであるため、複数の変速段を示す変速段学習値を、車両毎のばらつきが少なく、かつ演算負荷の少ない態様で、算出することができる。
【0018】
また、本発明の第5の局面にかかる車両の電子制御装置によれば、ギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値が複数の変速段学習値のいずれかに対応する閾値に等しくなるときに、駆動源の出力を調整する制御が実行されるものであるため、車両毎に、運転者が変速操作部材を操作する操作フィーリングや、ひいては車両の運転フィーリングやドライバビリティに違和感を生じることを確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態における車両の電子制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2(a)は、本実施形態における車両の電子制御装置が適用されるドッグ式変速機等の構成を示す模式的な断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示すドッグ式変速機の一部を示す模式的な拡大図である。
【
図3】
図3(a)は、本実施形態における車両の電子制御装置が適用される車両の変速機が1段に変速されている際にギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値を取得するときのディテント部材とシフトカムとの相対的位置関係を主として示す模式図、
図3(b)は、同シフトフォークのピン部とシフトドラムの案内溝との相対的位置関係を示す模式図、及び
図3(c)は、
図3(b)のA-A断面を示す縦断面図である。
【
図4】
図4(a)は、本実施形態における車両の電子制御装置がギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値を学習値として取得するときのディテント部材とシフトカムとの相対的位置関係を主として示す模式図、
図4(b)は、同シフトフォークのピン部とシフトドラムの案内溝との相対的位置関係を示す模式図、及び
図4(c)は、
図3(b)のB-B断面を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を適宜参照して、本発明の実施形態における車両の電子制御装置(以下、単に電子制御装置という)につき、詳細に説明する。
【0021】
〔電子制御装置等の構成〕
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態における電子制御装置及びそれが適用されるドッグ式変速機等の構成について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態における電子制御装置の構成を示すブロック図である。また、
図2(a)は、本実施形態における電子制御装置が適用されるドッグ式変速機等の構成を示す模式的な断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示すドッグ式変速機の一部を示す模式的な拡大図である。
【0023】
図1及び
図2に示すように、本実施形態における電子制御装置(Electronic Control Unit:ECU)1は、典型的には、クランクシャフト61、メインクラッチ51及び変速機としてのドッグ式変速機Tを順に介して、駆動源としての内燃機関(エンジン)Eの出力を駆動力として図示を省略する駆動輪に伝達する自動二輪車等の鞍乗型車両に搭載され、エンジンEの運転状態の制御等を実行するものである。なお、駆動源としては、必要に応じて、エンジンEと電動モータとを組み合わせたもの、又は電動モータを単独で用いるものであってもよい。また、変速機は、必要に応じて、ドッグ機構を有さないでメインクラッチ51に接続されているものあってもよい。また、図中、エンジンEは、4気筒のものとして示すが、気筒数は、4気筒以外のものであってもよい。
【0024】
電子制御装置1は、A/D(Aanalog to Digital)変換器2a及び2b、波形整形回路3、中央演算処理ユニット(Central Processing Unit:CPU)4、点火栓駆動回路6、及び燃料噴射弁駆動回路7を備えている。CPU4は、学習部5a、スロットル開度算出部5b、エンジン回転数算出部5c、及び制御部5dを備えている。かかる学習部5a、スロットル開度算出部5b、エンジン回転数算出部5c、及び制御部5dは、典型的には、CPU4における制御プログラム実行時の機能ブロックとして構成されるが、これらは、必要に応じて、電気回路として構成されてもよい。また、電子制御装置1は、図示を省略するメモリ等を備えており、メモリには、CPU4の演算処理に必要な制御プログラム及び制御データ等が格納されている。
【0025】
具体的には、A/D変換器2aは、ギヤポジションセンサ11から出力されると共にドッグ式変速機Tのシフトドラム31の回転位置(回転角)を示す電気信号を、アナログ形態からデジタル形態に変換し、A/D変換器2bは、スロットル開度センサ12から出力されると共に図示を省略したスロットルバルブの開度を示す電気信号を、アナログ形態からデジタル形態に変換する。A/D変換器2a及び2bは、このようにデジタル形態に変換したこれらの電気信号をCPU4に各々出力する。なお、電子制御装置1内でA/D変換器2a及び2bの前段に各々設けられる入力回路については、便宜上図示を省略している。
【0026】
ここで、ギヤポジションセンサ11は、典型的には、ホール素子を用いたホールセンサである。シフト操作部材であるシフトペダル21が運転者によって踏み降ろしや掻き上げといった操作(シフト操作)されると、シフトペダル21が固設されると共に車両側のその回動軸であるシフトシャフト22が回動する。かかる運転者によるシフト操作に伴うシフトペダル21の回動は、シフトシャフト22に対してそれを回動軸として固設されるシフトアーム23に伝達される。シフトアーム23の一端部には図示を省略するギヤ部が設けられているため、運転者によるシフト操作に伴うシフトペダル21の回動は、シフトアーム23のギヤ部を介して、シフトドラム31の回動軸であるドラムシャフト32に固設されたシフトギヤ24に伝達され、これによりドラムシャフト32、つまりシフトドラム31が回動する。よって、ギヤポジションセンサ11は、ドッグ式変速機Tのギヤポジション(変速段)に応じて、ドラムシャフト32の回転位置(ドラムシャフト32周りの1周の0度から360度の回転角に対応したドラムシャフト32周りの位置)を示す電気信号を出力する。なお、ギヤポジションセンサ11としては、その出力信号が線形な特性を有するセンサであれば好適に使用でき、ホールセンサの他にひずみセンサ等も用い得るものである。
【0027】
また、例えば、ドッグ式変速機Tにおいて、インプットシャフト46に固定変速ギヤ41が装着され、ドライブシャフト47にフリー変速ギヤ42及びスライド変速ギヤ43が装着された構成を代表的に想定すると、シフトドラム31の回動は、そのドラムシャフト32の径が拡大された拡径部であるドラム部31aに形成されたカム溝(案内溝)33に配置されると共に案内溝33に倣って移動されるシフトフォーク34の凸部であるピン部34aに伝達され、これに対応してシフトフォーク34が移動されることにより、スライド変速ギヤ43がドライブシャフト47に対して装着された状態で並進移動されることになる。そしてスライド変速ギヤ43がフリー変速ギヤ42に向かって移動されてこれらが互いに近接するように位置されると、これらのドッグ歯44、45同士が噛合可能な状態をとることになる。ここで、典型的には、シフトフォーク34の移動に伴って互いのドッグ歯44、45同士が噛合可能な状態をとるフリー変速ギヤ及びスライド変速ギヤの対は、符号は省略するが、フリー変速ギヤ42及びスライド変速ギヤ43の対以外にも設けられており、ドッグ式変速機Tは、複数の変速段を有している。また、図中では、案内溝33は、ドラム部31aに3本形成された構成を例示している。なお、ドラムシャフト32の案内溝33やシフトフォーク34のピン部34aは、典型的には切削加工等の機械加工により精度よく形成された構成部分である。
【0028】
つまり、この際、メインクラッチ51が接続状態にあり、かつドッグ歯44、45同士が当接してドッグ歯44がドッグ歯45を押す噛合状態にあるときには、クランクシャフト61の回転力は、メインクラッチ51、インプットシャフト46、固定変速ギヤ41、フリー変速ギヤ42、スライド変速ギヤ43、及びドライブシャフト47を順に介して、最終的には駆動輪に伝達していくことになる。また、メインクラッチ51が接続状態にあり、かつドッグ歯44、45同士が当接してそれらの一方がそれらの他方を押した噛合状態にあるときには、シフトフォーク34でスライド変速ギヤ43をフリー変速ギヤ42から離れるように移動することが困難になるため、他の変速段への変速が困難となる。なお、ドッグ歯44、45は、それらの両方が凸状歯である構成の他に、それらの一方が他方の凸状歯を収容する凹状歯である構成を有していてもよい。また、メインクラッチ51としては、乾式の多板摩擦クラッチが好適に用いられ得る。
【0029】
更に、シフトドラム31のドラム部31aに隣接して、ドラムシャフト32にはシフトカム35が固設され、シフトカム35は、ドラムシャフト32の回転に伴って、ドラムシャフト32の回転軸と同軸にその軸周りに回動する。かかるシフトカム35に対しては、弾性部材37の弾性力が付勢力として印加されるディテント部材36が押圧されながら当接されている。シフトカム35の外周縁には、詳細は後述する凹凸形状が付されており、弾性部材37の付勢力によってディテント部材36がシフトカムの凹部に当接されて押圧されることにより、ドラムシャフト32、ひいてはシフトドラム31の回転位置が所定位置(所定角度)で動かされないにように位置決めされて維持されることが可能である。また、シフトペダル21から弾性部材37までの一連の構成要素が、シフト機構Sを構成している。
【0030】
波形整形回路3は、クランク角センサ13から出力されると共にエンジンEのクランクシャフト61の回転位置を示すクランクパルス信号を整形して、デジタルパルス信号を生成する。波形整形回路3は、このように生成したデジタルパルス信号をCPU4に出力する。なお、電子制御装置1内で波形整形回路3の前段に設けられる入力回路については、便宜上図示を省略している。
【0031】
学習部5aは、詳細は後述するが、シフトフォーク34のピン部34aが、シフトドラム31のドラム部31aの案内溝33において、ドラム部31aの位置精度のよい周方向の溝端部に位置されるときに、ギヤポジションセンサ11から出力されて電子制御装置1に入力されると共にドッグ式変速機Tのシフトドラム31の回転位置を示す電気信号の電圧値を学習値として取得するギヤポジションセンサ出力電圧学習処理を実行する。これにより、ギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値の学習値に、車両毎のばらつきが生じることを抑制することが可能となる。学習部5aがこのようにして学習した学習値は、制御部5dで用いられる。
【0032】
スロットル開度算出部5bは、スロットル開度センサ12からA/D変換器2bを介してCPU4に入力されると共にエンジンEのスロットルバルブの実開度を示す電気信号に基づいて、スロットルバルブの実開度(スロットル開度)を算出する。スロットル開度算出部5bがこのように算出したスロットル開度は、制御部5dで用いられる。
【0033】
エンジン回転数算出部5cは、クランク角センサ13から波形整形回路3を介してCPU4に入力されると共にエンジンEのクランク角(クランクシャフト61の回転角度)を示す電気信号に基づいて、実際のエンジン回転数(エンジン回転数)を算出する。エンジン回転数算出部5cがこのように算出したエンジン回転数は、制御部5dで用いられる。
【0034】
制御部5dは、スロットル開度算出部5bが算出したスロットル開度、及びエンジン回転数算出部5cが算出したエンジン回転数等に基づき、点火栓14及び燃料噴射弁15等の動作を制御することにより、エンジンEの運転状態を制御する。また、これに加えて、制御部5dは、学習部5aが複数の変速段学習値を算出している場合には、ギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値が複数の変速段学習値のいずれかに対応する閾値に達して等しくなるときに、エンジンEの運転状態を制御して、エンジンEの出力を調整することが可能である。これにより、運転者が変速操作部材を操作する操作フィーリングや、ひいては車両の運転フィーリングやドライバビリティに違和感を生じることを確実に抑制することが可能となる。なお、各変速段学習値に対応する閾値は、各変速段学習値そのものに設定される場合に限定されるものではなく、例えば、より円滑な変速を行わせる観点から、上段側への変速の場合、各変速段学習値よりも若干上段側の所定の電圧値に設定することも好ましく、一方、下段側への変速の場合、各変速段学習値よりも若干下段側の所定の電圧値に設定することも好ましい。
【0035】
具体的には、制御部5dは、運転者がメインクラッチ51を接続した状態としながらシフトペダル21を操作することによるドッグ式変速機Tのシフト操作がなされた際に、ギヤポジションセンサ11からA/D変換器2bを介してCPU4に入力される電気信号の電圧値が、学習部5aが算出した複数の変速段学習値のいずれかに対応する閾値に一致する場合には、ドッグ式変速機Tのドッグ歯44、45同士の係合を解除し又は弱めてドッグ式変速機Tの変速が可能となるように、燃料噴射弁15からの噴射燃料量を減少させ、又はその燃料噴射動作を停止させることや、点火栓14の点火時期を遅角側に偏位させ、又はその点火動作を停止させることを、単独で又は組み合わせて、エンジンEの出力を一時的に変化させるようにその運転状態を制御する。かかる場合、詳しくは、ドッグ歯44がドッグ歯45を押しているときには、制御部5dは、ドッグ歯44がドッグ歯45から離れる方向に移動するように固定変速ギヤ41を介してフリー変速ギヤ42を回転させるべくエンジンEの運転状態を制御してその出力を減少方向に変化させる。
【0036】
但し、スロットルモータが別途設けられて、制御部5dがスロットルバルブの開度を調整自在である場合には、制御部5dは、ドッグ式変速機Tのドッグ歯44、45同士の係合を解除し又は弱めてドッグ式変速機Tの変速が可能となるように、点火栓14の点火動作や燃料噴射弁15の燃料噴射動作を協働しながら、スロットルモータの駆動によるエンジンEのスロットル開度を調整して、エンジンEの出力を一時的に変化させるようにその運転状態を制御することが可能である。かかる場合、具体的に、ドッグ歯44がドッグ歯45を押しているときには、制御部5dは、ドッグ歯44がドッグ歯45から離れる方向に移動するように固定変速ギヤ41を介してフリー変速ギヤ42を回転させるべくエンジンEの運転状態を制御してその出力を減少方向に変化させることが可能である。一方で、ドッグ歯45がドッグ歯44を押しているときには、制御部5dは、ドッグ歯44がドッグ歯45から離れる方向に移動するように固定変速ギヤ41を介してフリー変速ギヤ42を回転させるべくエンジンEの運転状態を制御して、その出力を増大方向に変化させることが可能である。
【0037】
点火栓駆動回路6は、制御部5dからの制御信号に従って、図示を省略する2次コイルの起電力を制御することにより、エンジンEの点火栓14によるエンジンへの点火動作、つまり点火の開始、停止及び再開といった一連の点火動作を制御する。
【0038】
燃料噴射弁駆動回路7は、制御部5dからの制御信号に従って、燃料噴射弁15を駆動することにより、エンジンEに燃料を噴射する燃料噴射弁15の燃料噴射動作、つまり燃料噴射の開始、停止及び再開といった一連の燃料噴射動作を制御する。
【0039】
以上のような構成を有する電子制御装置1は、以下に示すギヤポジションセンサ出力電圧学習処理を実行することによって、ギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値の学習値に、車両毎のばらつきが生じることを抑制することに寄与する。以下、更に
図3及び
図4をも参照して、シフトドラム31の案内溝33やシフトカム35等の詳細構成を参照しながら、ギヤポジションセンサ出力電圧学習処理を実行する際の電子制御装置1の動作について、詳細に説明する。なお、かかるギヤポジションセンサ出力電圧学習処理については、ドッグ式変速機Tを正シフト式で変速段が6速のリターン式のものとして説明するが、かかるドッグ式変速機Tは、原理的には、もちろん逆シフト式であって変速段数が6速から異なっていてもよいし、ロータリー式であってもよい。また、かかるギヤポジションセンサ出力電圧学習処理を実行するタイミングとしては、電子制御装置1を搭載した車両が製造される工場における製造ラインの終端での車両毎の作業時、その車両毎のディーラにおけるメンテナンス時、及びその車両毎のユーザ自らのメンテナンス時等が挙げられ、これらのものが学習操作者となって、ギヤポジションセンサ出力電圧学習処理が実行されることになる。
【0040】
〔ギヤポジションセンサ出力電圧学習処理〕
図3(a)は、本実施形態における電子制御装置1が適用される車両の変速機Tが1段に変速されている際にギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値を取得するときのディテント部材36とシフトカム35との相対的位置関係を主として示す模式図、
図3(b)は、同シフトフォーク34のピン部34aとシフトドラム31の案内溝33との相対的位置関係を示す模式図、及び
図3(c)は、
図3(b)のA-A断面を示す縦断面図である。また、
図4(a)は、本実施形態における電子制御装置1がギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値を学習値として取得するときのディテント部材36とシフトカム35との相対的位置関係を主として示す模式図、
図4(b)は、同シフトフォーク34のピン部34aとシフトドラム31の案内溝33との相対的位置関係を示す模式図、及び
図4(c)は、
図4(b)のB-B断面を示す縦断面図である。
【0041】
まず、シフトドラム31の案内溝33やシフトカム35等の構成について詳説する。シフトドラム31のドラム部31aに設けられた案内溝33は、典型的には切削加工等の機械加工により、シフトドラム31のドラム部31aを、ドラム部31aの径方向R(
図3(a)及び
図4(a)中で外側に向かう向きを正の向きで示す)の内側に向かって、ドラム部31aの外周壁31bから凹むと共に、ドラム部31aの周方向C(
図3(a)及び
図4(a)中で右回りの向きを正の向きで示す)に延在する陥設部(凹部)として形成されたもので、凹部の径方向Rの内側の底部である底壁33aと、底壁33aから径方向Rの外側に向かって立設されると共に周方向Cに直交する方向で互いに対向する一対の主縦壁33bと、凹部の周方向Cの一端部である1速側の終端部で底壁33aから径方向Rの外側に向かって立設される1速側端縦壁33cと、図示は省略するが、凹部の周方向Cの他端部である6速側の終端部で底壁33aから径方向Rの外側に向かって立設される6速側端縦壁と、を有する。案内溝33は、それが複数設けられている場合には、シフトフォーク34のピン部34aが倣って移動する各々の溝形状が異なることが一般的であるが、いずれも同様に底壁33a、一対の主縦壁33b、1速側端縦壁33c及び6速側端縦壁を有するもので、いずれにおいても、対応するシフトフォーク34のピン部34aが、1速側端縦壁33cと6速側端縦壁との間を移動される際に、そのシフトドラム31の回転位置に応じて、1速及び6速間の各変速段への変速がなされることになる。
【0042】
シフトカム35においては、ドラムシャフト32の長手方向の中心軸を通る回動軸に対して、シフトドラム31のドラム部31aの周方向Cに互いに60度の間隔で離間して、シフトドラム31のドラム部31aの径方向Rの外側に向かって放射状に突出する6個の凸部p16、pN、p23、p34、p45及びp56が設けられており、凸部p16、p23、p34、p45及びp56の先端は、鋭角部に成形されているが、凸部pNの先端は、鋭角部が消失したような扁平部に成形されている。
【0043】
また、シフトカム35においては、凸部p16及びpNの間には、径方向Rに陥設された凹部d1、凸部pN及びp23の間には、径方向Rに陥設された凹部d2、凸部p23及びp34の間には、径方向Rに陥設された凹部d3、凸部p34及びp45の間には、径方向Rに陥設された凹部d4、凸部p45及びp56の間には、径方向Rに陥設された凹部d5、及び凸部p56及びp16の間には、径方向Rに陥設された凹部d6が設けられている。凹部d1からd6は、各々、弾性部材37によりシフトカム35に向かって付勢されるディテント部材36が凹部d1からd6に押圧されて当接されることにより、シフトカム35、つまりシフトドラム31を変速段における1速から6速に対応して位置決めする位置決め部として機能する。例えば、
図3(a)に示すように、ディテント部材36が凹部d1に押圧されて当接されているときには、シフトドラム31は、1速の変速段に対応する回転位置に位置決めされて、その位置が維持されている。しかし、例えばこのように、ディテント部材36が凹部d1に押圧されて当接されることによって維持されたシフトドラム31の回転位置は、シフトカム35の形状や組付け位置、ディテント部材36の形状や弾性部材37の付勢力等の公差が絡み合って決まるものであり、結果的に車両毎に発生するシフトドラム31の回転位置のばらつきが、相対的に大きなものとなる。また、かかる場合には、
図3(b)及び(c)に示すように、シフトフォーク34のピン部34aは、シフトドラム31のドラム部31aに設けられた案内溝33の1速側端縦壁33cに当接せずに離れた状態にある。
【0044】
一方で、
図4(b)及び(c)に示すように、シフトフォーク34のピン部34aを、シフトドラム31のドラム部31aに設けられた案内溝33の1速側端縦壁33cに当接させた状態にすると、シフトカム35においては、
図4(a)に示すように、ディテント部材36が、凹部d1から凸部p16に向かって偏位した状態となる。このように、シフトフォーク34のピン部34aが、シフトドラム31のドラム部31aに設けられた案内溝33の1速側端縦壁33cに当接された状態に維持され、ディテント部材36が、凹部d1から偏位した状態に維持されると、シフトドラム31の回転位置は、シフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の案内溝33の1速側端縦壁33cに当接された回転位置に維持されることになる。この結果、シフトドラム31の回転位置が、シフトドラム31において典型的には切削加工等の機械加工により精度よく形成された案内溝33の一部である1速側端縦壁33cに対して、シフトフォーク34において典型的には切削加工等の機械加工により精度よく形成されたピン部34aが当接された当接状態が実現され、シフトドラム31の回転位置は、位置精度の高い状態で動かないように維持されることになる。
【0045】
ここで、シフトフォーク34のピン部34aを、シフトドラム31のドラム部31aに設けられた案内溝33の1速側端縦壁33cに当接させた状態にするには、シフトドラム31のドラムシャフト32を機械的に付勢することができる付勢機構を設けてもよいが、学習操作者によりシフトペダル21を操作させることによる人為的な動作によることが簡便で好ましい。というのは、変速機Tの変速段がニュートラルにある状態から、シフトペダル21が踏み降ろされていくと、シフトドラム31のドラムシャフト32が下段側に回転されるため、その変速段は、
図3に示すような1速の状態を経て、更にこの状態を超えていき、実際には変速段が設定されていないが、1速より下段側に接近していくような状態をとるようになり、
図4に示すようなシフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の案内溝33の1速側端縦壁33cに当接された状態に至るからである。つまり、変速段がニュートラルな状態に対応した位置からシフトペダル21が踏み降ろされていくことにより、変速段の1速を超えて更に下段側に向けシフトドラム31が回転されることができるという構成を前提とすれば、付加的な機構を設けることのない簡便な構成で、変速機Tの変速段が1速を超えて更に下段側に向けて変化するように、シフトペダル21を下限まで踏み降ろすという人為的な動作により、シフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の案内溝33の1速側端縦壁33cに当接された状態とすれば足りる。一方で、このようなシフトフォーク34のピン部34aの位置決めは、シフトドラム31の案内溝33の6速側端縦壁においても実現可能であるが、シフトペダル21を変速段の6速を超えた上限まで掻き上げる必要があるため、煩雑なものとなる。よって、シフトペダル21をより短いストロークで踏み降ろせば足りる1速側端縦壁33cを利用して、シフトフォーク34のピン部34aの位置決めを行う方がより利便性があることを考慮して、以下、1速側端縦壁33cを用いてシフトフォーク34のピン部34aの位置決めを行う構成を代表例として説明する。
【0046】
つまり、このようにしてシフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の案内溝33の1速側端縦壁33cに当接された状態を実現したならば、かかる当接状態を、ピン部34aをシフトドラム31の案内溝33の1速側端縦壁33cから離すことなく維持する。そして、かかる当接状態において、学習部5aは、ギヤポジションセンサ出力電圧学習処理において、ギヤポジションセンサ11から電子制御装置1に入力されると共にドッグ式変速機Tのシフトドラム31の回転位置を示す電気信号の電圧値を学習値として取得することになる。このようにして得られた学習値は、シフトカム35等の位置決め機能に依存せず、シフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の案内溝33の1速側端縦壁33cに当接された位置精度のよい当接状態で得られたものであるため、車両毎の学習値のばらつきを抑制することが可能となる。併せて、かかる学習値とシフトドラム31の回転位置との対応関係のばらつきも抑制され得る。なお、かかる場合のギヤポジションセンサ11の電気信号としては、シフトドラム31の回転位置を示すドラムシャフト32の回転位置(回転角)に比例した出力電圧値を呈するギヤポジションセンサ11からの出力信号をそのまま用いることもできるが、検出の精度や利便性等を考慮すれば、ギヤポジションセンサ11から出力された電気信号をA/D変換したA/D変換器2aからの出力信号を用いることが好ましい。
【0047】
また、学習部5aは、ギヤポジションセンサ出力電圧学習処理において、このように取得した学習値を、シフトドラム31の回転位置の基準位置に対応する基準位置学習値として用いることが好ましい。というのは、かかる学習値は、シフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の案内溝33の1速側端縦壁33cに当接された状態でのシフトドラム31の回転位置を精度よく示すものであるため、かかる学習値をシフトドラム31の回転位置の基準として直接的に利用することが可能となるためである。
【0048】
また、学習部5aは、ギヤポジションセンサ出力電圧学習処理において、このように取得した基準位置学習値に基づいて、複数の変速段に各々対応する複数の変速段学習値を算出することが好ましい。詳しくは、一例として、変速段の1速に対応する変速段学習値(1速学習値)は、基準位置学習値に第1の所定値を加算することにより算出することが可能である。ここで、かかる第1の所定値は、変速段の1速に対応するシフトドラム31の回転位置での回転角と、シフトフォーク34のピン部34aを、シフトドラム31のドラム部31aに設けられた案内溝33の1速側端縦壁33cに当接させている状態でのシフトドラム31の回転位置での回転角と、の差分の角度に相当してギヤポジションセンサ11からの出力されるべき電気信号の電圧値とすればよい。また、一例として、変速段の2速に対応する変速段学習値(2速学習値)は、1速学習値に第2の所定値を加算することにより算出することが可能である。ここで、かかる第2の所定値は、変速段の2速に対応するシフトドラム31の回転位置での回転角と、変速段の1速に対応するシフトドラム31の回転位置での回転角と、の差分の角度に相当してギヤポジションセンサ11からの出力されるべき電気信号の電圧値とすればよい。そして、以下同様に、変速段の3速以上に対応する3速学習値等の変速段学習値を算出することが可能である。これにより、シフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の案内溝33の1速側端縦壁33cに当接された状態で取得した基準学習値に基づき、複数の変速段を各々示す複数の変速段学習値を演算負荷の少ない態様で確実に算出することが可能となる。
【0049】
そして、制御部5dは、ギヤポジションセンサ出力電圧学習処理で学習部5aが取得した複数の変速段に各々対応する複数の変速段学習値を用いて、ギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値が複数の変速段学習値のいずれかに対応する閾値に等しくなるときに、エンジンEの運転状態を制御して、エンジンEの出力を調整することが可能となる。なお、シフトフォーク34のピン部34aが、シフトドラム31のドラム部31aに設けられた案内溝33の1速側端縦壁33c又は6速側端縦壁に当接された状態に維持されているときに、ギヤポジションセンサ11から電子制御装置1に入力される電気信号の電圧値を学習した学習値は、制御部5dが変速段学習値を算出する際のみならず、制御部5dがギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値をチェックする際にも、適用されることができる。
【0050】
以上の説明から明らかなように、本実施形態における電子制御装置1では、学習部5aが、シフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の周方向における案内溝33の一方の端部である溝端部33cに位置されるときに、ギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値を学習値として取得するものであるため、シフトカム35等の位置決め機能に依存せず、位置的な公差が小さくなるシフトドラム31の部位に対応してギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値を学習値として取得することができ、ギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値の学習値に、車両毎のばらつきが生じることを抑制することができ、かかる学習値は、ギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値をチェックする際や、電子制御装置1が実行する制御処理のパラメータを算出する際に、適用されることができる。
【0051】
また、本実施形態における電子制御装置1では、学習部5aが、シフトフォーク34のピン部34aがシフトドラム31の案内溝33の溝端部33cに当接されるときに、シフトドラム31の回転位置の基準位置に対応する基準位置学習値を取得するものであるため、車両毎のばらつきが生じることが抑制された態様の基準位置学習値を取得することができ、かかる基準位置学習値は、電子制御装置1が実行する制御処理で、シフトドラム31の回転位置の基準値として適用されることができる。
【0052】
また、本実施形態における電子制御装置1では、シフトフォーク34のピン部34aが当接されるシフトドラム31の案内溝33の溝端部33cが、複数の変速段の内の最下段の変速段側の溝端部であるため、典型的には変速機Tのニュートラル位置に隣接した最下段である1速において、シフトフォーク34のピン部34aをシフトドラム31の案内溝33の溝端部33cに簡便かつ迅速に当接させることができる。
【0053】
また、本実施形態における電子制御装置1では、学習部5aが、基準位置学習値に基づいて、複数の変速段に各々対応する複数の変速段学習値を算出するものであるため、複数の変速段を示す変速段学習値を、車両毎のばらつきが少なく、かつ演算負荷の少ない態様で、算出することができる。
【0054】
また、本実施形態における電子制御装置1では、ギヤポジションセンサ11から出力される電気信号の電圧値が複数の変速段学習値のいずれかに対応する閾値に等しくなるときに、駆動源の出力を調整する制御が実行されるものであるため、車両毎に、運転者が変速操作部材21を操作する操作フィーリングや、ひいては車両の運転フィーリングやドライバビリティに違和感を生じることを確実に抑制することができる。
【0055】
なお、本発明は、部材の種類、形状、配置、個数等は前述の実施形態に限定されるものではなく、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明は、ギヤポジションセンサから出力される電気信号の電圧値の学習値に、車両毎のばらつきが生じることを抑制することができる車両の電子制御装置を提供することができるものであり、その汎用普遍的な性格から車両等の電子制御装置に広く適用され得るものと期待される。
【符号の説明】
【0057】
E…エンジン(内燃機関)
T…ドッグ式変速機
S…シフト機構
1…電子制御装置(ECU)
2a、2b…A/D変換器
3…波形整形回路
4…中央演算処理ユニット(CPU)
5a…学習部
5b…スロットル開度算出部
5c…エンジン回転数算出部
5d…制御部
6…点火栓駆動回路
7…燃料噴射弁駆動回路
11…ギヤポジションセンサ
12…スロットル開度センサ
13…クランク角センサ
14…点火栓
15…燃料噴射弁
21…シフトペダル
22…シフトシャフト
23…シフトアーム
24…シフトギヤ
31…シフトドラム
31a…ドラム部
31b…外周壁
32…ドラムシャフト
33…案内溝(カム溝)
33a…底壁
33b…主縦壁
33c…端縦壁
34…シフトフォーク
34a…ピン部
35…シフトカム
36…ディテント部材
37…弾性部材
41…固定変速ギヤ
42…フリー変速ギヤ
43…スライド変速ギヤ
44、45…ドッグ歯
46…インプットシャフト
47…ドライブシャフト
51…メインクラッチ
61…クランクシャフト