(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036227
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】信号判定装置、移動体、信号判定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 43/08 20220101AFI20240308BHJP
H04L 12/28 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
H04L43/08
H04L12/28 100A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141038
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】廣野 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】大友 祐一
(72)【発明者】
【氏名】仲田 勇太
【テーマコード(参考)】
5K033
【Fターム(参考)】
5K033AA05
5K033BA06
5K033DA01
5K033EA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】交通の安全性をより一層改善して持続可能な輸送システムに寄与する信号判定装置、移動体、信号判定方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】移動体のECUにおいて、信号判定装置は、通信網において検出された複数の信号の中から異常信号を特定するための基準となる基準信号を特定する特定部と、通信網において検出された複数の信号の検出タイミングに基づいて、通信網に連続して入力される信号の時間間隔を推定する時間間隔推定部と、基準信号の検出タイミング及び時間間隔に基づいて、基準信号より後に通信網において複数の信号が検出されるタイミングを推定するタイミング推定部と、タイミング推定部が推定したタイミングと、基準信号より後に通信網において検出された複数の信号の検出タイミングとに基づいて、基準信号より後に通信網において検出された複数の信号のそれぞれが正常信号であるか否かを判定する判定部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信網に入力された信号が正常信号であるか否かを判定する信号判定装置であって、
前記通信網において検出された複数の信号の中から異常信号を特定するための基準となる基準信号を特定する特定部と、
前記通信網において検出された複数の信号の検出タイミングに基づいて、前記通信網に連続して入力される信号の時間間隔を推定する時間間隔推定部と、
前記基準信号の検出タイミング及び前記時間間隔に基づいて、前記基準信号より後に前記通信網において複数の信号が検出されるタイミングを推定するタイミング推定部と、
前記タイミング推定部が推定したタイミングと、前記基準信号より後に前記通信網において検出された複数の信号の検出タイミングとに基づいて、前記基準信号より後に前記通信網において検出された複数の信号のそれぞれが正常信号であるか否かを判定する判定部と
を備える信号判定装置。
【請求項2】
前記タイミング推定部は、前記時間間隔に正数を乗じた値を前記基準信号の検出タイミングに加算することによって算出されるタイミングを、前記基準信号より後に前記通信網において複数の信号が検出されるタイミングとして算出する
請求項1に記載の信号判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記基準信号より後に前記通信網において検出された信号の検出タイミングと前記タイミング推定部が推定したタイミングとの差が予め定められた値以下である場合に、前記基準信号より後に前記通信網において検出された前記信号が正常信号であると判定する
請求項1又は2に記載の信号判定装置。
【請求項4】
前記時間間隔推定部は、予め定められた期間内に前記通信網において連続して検出された信号の検出タイミングの差の平均値に基づいて、前記時間間隔を推定する
請求項1又は2に記載の信号判定装置。
【請求項5】
前記タイミング推定部は、前記時間間隔に正数を乗じた値を前記基準信号の検出タイミングに加算することによって算出されるタイミングを、前記基準信号より後に前記通信網において複数の信号が検出されるタイミングとして算出し、
前記時間間隔推定部は、前記時間間隔に乗じる前記正数に応じて、前記予め定められた期間の長さを設定する
請求項4に記載の信号判定装置。
【請求項6】
前記時間間隔推定部は、前記正数から予測される前記タイミング推定部によって推定されるタイミングの誤差が予め定められた値以下になるように、前記予め定められた期間の長さを設定する
請求項5に記載の信号判定装置。
【請求項7】
前記時間間隔推定部は、予め定められた時間が経過する前に、前記時間間隔を更新する
請求項1又は2に記載の信号判定装置。
【請求項8】
前記特定部は、予め定められた時間が経過する前に、現在設定されている基準信号より後に検出された信号を新たな基準信号として特定することによって、前記基準信号を更新する
請求項1又は2に記載の信号判定装置。
【請求項9】
前記タイミング推定部は、推定した第1の信号が検出されるタイミングにおいて、正常信号であるか否かの判定対象の信号ではない第2の信号が検出された場合、前記第2の信号の検出タイミングに予め定められた信号長を加算したタイミングを、前記第1の信号が検出されるタイミングとして新たに推定する
請求項1又は2に記載の信号判定装置。
【請求項10】
前記特定部は、現在設定されている前記基準信号より後に前記通信網において検出された第1の信号の検出タイミングと、前記基準信号の検出タイミングから前記時間間隔の正数倍だけ経過したタイミングとの間の差が予め定められた以下である場合に、前記第1の信号を新たな基準信号として特定する
請求項1又は2に記載の信号判定装置。
【請求項11】
前記特定部は、
前記通信網において連続して検出された第1の信号と第2の信号との間の時間間隔が予め定められた間隔以下である場合に、前記第2の信号を前記基準信号として特定せず、
前記通信網において連続して検出された第1の信号と第2の信号との間の時間間隔が予め定められた間隔を超えることを少なくとも要件として、前記第2の信号を前記基準信号として特定する
請求項1又は2に記載の信号判定装置。
【請求項12】
前記通信網はコントロールエリアネットワーク(CAN)規格に準拠した通信網である
請求項1又は2に記載の信号判定装置。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の信号判定装置を備える移動体。
【請求項14】
前記移動体は、車両である。
請求項13に記載の移動体。
【請求項15】
通信網に入力された信号が正常信号であるか否かを判定する信号判定方法であって、
前記通信網において検出された複数の信号の中から異常信号を特定するための基準となる基準信号を特定する段階と、
前記通信網において検出された複数の信号の検出タイミングに基づいて、前記通信網に連続して入力される信号の時間間隔を推定する段階と、
前記基準信号の検出タイミング及び前記時間間隔に基づいて、前記基準信号より後に前記通信網において複数の信号が検出されるタイミングを推定する段階と、
前記タイミングを推定する段階で推定されたタイミングと、前記基準信号より後に前記通信網において検出された複数の信号の検出タイミングとに基づいて、前記基準信号より後に前記通信網において検出された複数の信号のそれぞれが正常信号であるか否かを判定する段階と
を備える信号判定方法。
【請求項16】
コンピュータを、請求項1又は2に記載の信号判定装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号判定装置、移動体、信号判定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、通信網に入力される不正信号を検出する技術が開示されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
特許文献1 特開2021-136631号公報
特許文献2 特開2021-064921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、通信網に入力される不正信号をより適切に検出することが課題である。本願は上記課題の解決のため、安全性の向上を目的としたものである。そして、延いては交通の安全性をより一層改善して持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、信号判定装置が提供される。前記信号判定装置は、通信網に入力された信号が正常信号であるか否かを判定する。前記信号判定装置は、前記通信網において検出された複数の信号の中から異常信号を特定するための基準となる基準信号を特定する特定部を備える。前記信号判定装置は、前記通信網において検出された複数の信号の検出タイミングに基づいて、前記通信網に連続して入力される信号の時間間隔を推定する時間間隔推定部を備える。前記信号判定装置は、前記基準信号の検出タイミング及び前記時間間隔に基づいて、前記基準信号より後に前記通信網において複数の信号が検出されるタイミングを推定するタイミング推定部を備える。前記信号判定装置は、前記タイミング推定部が推定したタイミングと、前記基準信号より後に前記通信網において検出された複数の信号の検出タイミングとに基づいて、前記基準信号より後に前記通信網において検出された複数の信号のそれぞれが正常信号であるか否かを判定する判定部を備える。
【0005】
前記信号判定装置において、前記タイミング推定部は、前記時間間隔に正数を乗じた値を前記基準信号の検出タイミングに加算することによって算出されるタイミングを、前記基準信号より後に前記通信網において複数の信号が検出されるタイミングとして算出してよい。
【0006】
上記いずれかの信号判定装置において、前記判定部は、前記基準信号より後に前記通信網において検出された信号の検出タイミングと前記タイミング推定部が推定したタイミングとの差が予め定められた値以下である場合に、前記基準信号より後に前記通信網において検出された前記信号が正常信号であると判定してよい。
【0007】
上記いずれかの信号判定装置において、前記時間間隔推定部は、予め定められた期間内に前記通信網において連続して検出された信号の検出タイミングの差の平均値に基づいて、前記時間間隔を推定してよい。
【0008】
上記いずれかの信号判定装置において、前記タイミング推定部は、前記時間間隔に正数を乗じた値を前記基準信号の検出タイミングに加算することによって算出されるタイミングを、前記基準信号より後に前記通信網において複数の信号が検出されるタイミングとして算出してよい。前記時間間隔推定部は、前記時間間隔に乗じる前記正数に応じて、前記予め定められた期間の長さを設定してよい。
【0009】
上記いずれかの信号判定装置において、前記時間間隔推定部は、前記正数から予測される前記タイミング推定部によって推定されるタイミングの誤差が予め定められた値以下になるように、前記予め定められた期間の長さを設定してよい。
【0010】
上記いずれかの信号判定装置において、前記時間間隔推定部は、予め定められた時間が経過する前に、前記時間間隔を更新してよい。
【0011】
上記いずれかの信号判定装置において、前記特定部は、予め定められた時間が経過する前に、現在設定されている基準信号より後に検出された信号を新たな基準信号として特定することによって、前記基準信号を更新してよい。
【0012】
上記いずれかの信号判定装置において、前記タイミング推定部は、推定した第1の信号が検出されるタイミングにおいて、正常信号であるか否かの判定対象の信号ではない第2の信号が検出された場合、前記第2の信号の検出タイミングに予め定められた信号長を加算したタイミングを、前記第1の信号が検出されるタイミングとして新たに推定してよい。
【0013】
上記いずれかの信号判定装置において、前記特定部は、現在設定されている前記基準信号より後に前記通信網において検出された第1の信号の検出タイミングと、前記基準信号の検出タイミングから前記時間間隔の正数倍だけ経過したタイミングとの間の差が予め定められた以下である場合に、前記第1の信号を新たな基準信号として特定してよい。
【0014】
上記いずれかの信号判定装置において、前記特定部は、前記通信網において連続して検出された第1の信号と第2の信号との間の時間間隔が予め定められた間隔以下である場合に、前記第2の信号を前記基準信号として特定せず、前記通信網において連続して検出された第1の信号と第2の信号との間の時間間隔が予め定められた間隔を超えることを少なくとも要件として、前記第2の信号を前記基準信号として特定してよい。
【0015】
上記いずれかの信号判定装置において、前記通信網はコントロールエリアネットワーク(CAN)規格に準拠した通信網であってよい。
【0016】
本発明の第2の態様においては、移動体が提供される。移動体は、上記いずれかに記載の信号判定装置を備える。
【0017】
前記移動体は、車両であってよい。
【0018】
本発明の第3の態様においては、信号判定方法が提供される。前記信号判定方法は、通信網に入力された信号が正常信号であるか否かを判定する。前記信号判定方法は、前記通信網において検出された複数の信号の中から異常信号を特定するための基準となる基準信号を特定する段階を備える。前記信号判定方法は、前記通信網において検出された複数の信号の検出タイミングに基づいて、前記通信網に連続して入力される信号の時間間隔を推定する段階を備える。前記信号判定方法は、前記基準信号の検出タイミング及び前記時間間隔に基づいて、前記基準信号より後に前記通信網において複数の信号が検出されるタイミングを推定する段階を備える。前記信号判定方法は、前記タイミングを推定する段階で推定されたタイミングと、前記基準信号より後に前記通信網において検出された複数の信号の検出タイミングとに基づいて、前記基準信号より後に前記通信網において検出された複数の信号のそれぞれが正常信号であるか否かを判定する段階を備える。
【0019】
本発明の第3の態様においては、プログラムが提供される。前記プログラムは、コンピュータを、上記いずれかに記載の信号判定装置として機能させる。
【0020】
上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態における移動体10のシステム構成を概念的に示す。
【
図2】ECU110が備える機能構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】信号の周期を算出する方法を説明するためのである。
【
図4】不正信号を検出するために使用される基準信号を設定する処理を説明するための図である。
【
図5】他の信号との競合によって信号330が10msの周期的な入力タイミングから遅延した状態を模式的に示す。
【
図6】他の信号との競合によらずに信号430が周期的な入力タイミングから遅延した状態を模式的に示す。
【
図7】判定部240が正常信号であるか異常信号であるかを判定する処理を説明するための図である。
【
図8】通信網180への信号の入力が他の信号と競合した場合における判定処理を示す。
【
図9】ECU110が実行する信号判定方法に関する全体的な処理を示すフローチャートである。
【
図10】正常信号であるか異常信号であるかの判定処理に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
図1は、一実施形態における移動体10のシステム構成を概念的に示す。本実施形態において、移動体10は車両である。移動体10は、システム20を備える。システム20は、ECU100、ECU110、ECU111、ECU120及びECU121を含む複数のECU(電子制御ユニット)を備える。移動体10が備えるECUは、例えばエンジン、変速機、操舵装置等のような移動体10の走行に直接的な影響を与える機器を制御するためのECUを含む。移動体10が備えるECUは、例えばエアコンディショナ及びナビゲーション装置等のような移動体10の走行に直接的な影響を与えない機器を制御するためのECUを含む。ECU100、ECU110、ECU111、ECU120及びECU121は、車載機器の一例である。
【0024】
移動体10が備えるECUは、コントローラエリアネットワーク(CAN)通信によって相互に通信を行う。移動体10が備えるECUのそれぞれは、複数の通信網180によって互いに通信可能に接続される。ECU100は、複数の通信網180間の通信を中継するゲートウェイとして機能する。
【0025】
通信網180は、予め定められた時間間隔で信号が入力されることが期待される通信網である。本実施形態において、通信網180は、CAN規格に準拠した通信網である。通信網180は、通信網の一例である。
【0026】
図2は、ECU110が備える機能構成を概略的に示すブロック図である。ECU110は、信号判定装置200と、記憶部280とを備える。ECU110は、通信網180に入力された信号が正常信号であるか異常信号であるかを判定する機能を備える。
【0027】
本実施形態において、異常信号は、第三者が通信網180に対して攻撃を行う場合に入力される不正信号であってよい。通信網180に対する攻撃としては、なりすまし攻撃やDoS攻撃等を例示することができる。異常信号は、ECU110以外のECUが通信網180に不定期に入力する非正常信号であってよい。
【0028】
信号判定装置200は、演算処理を行うCPU等のプロセッサにより実装されてよい。記憶部280は、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶媒体、ランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶媒体を含んでよい。ECU110はコンピュータを含んで構成され得る。ECU110は、不揮発性記憶媒体に記憶されたプログラムに従って信号判定装置200が動作することによって、各種の制御を実行する。
【0029】
信号判定装置200は、特定部210と、時間間隔推定部220と、タイミング推定部230と、判定部240とを備える。
【0030】
特定部210は、通信網180において検出された複数の信号の中から異常信号を特定するための基準となる基準信号を特定する。時間間隔推定部220は、通信網180において検出された複数の信号の検出タイミングに基づいて、通信網180に連続して入力される信号の時間間隔を推定する。例えば、時間間隔推定部220は、通信網180に入力される信号の周期を推定する。
【0031】
タイミング推定部230は、基準信号の検出タイミング及び時間間隔に基づいて、基準信号より後に通信網180において複数の信号が検出されるタイミングを推定する。判定部240は、タイミング推定部230が推定したタイミングと、基準信号より後に通信網180において検出された複数の信号の検出タイミングとに基づいて、基準信号より後に通信網180において検出された複数の信号のそれぞれが正常信号であるか否かを判定する。
【0032】
タイミング推定部230は、時間間隔に正数を乗じた値を基準信号の検出タイミングに加算することによって算出されるタイミングを、基準信号より後に通信網180において複数の信号が検出されるタイミングとして算出してよい。
【0033】
判定部240は、基準信号より後に通信網180において検出された信号の検出タイミングとタイミング推定部230が推定したタイミングとの差が予め定められた値以下である場合に、基準信号より後に通信網180において検出された信号が正常信号であると判定してよい。
【0034】
時間間隔推定部220は、予め定められた期間内に通信網180において連続して検出された信号の検出タイミングの差の平均値に基づいて、時間間隔を推定してよい。
【0035】
タイミング推定部230は、時間間隔に正数を乗じた値を基準信号の検出タイミングに加算することによって算出されるタイミングを、基準信号より後に通信網180において複数の信号が検出されるタイミングとして算出してよい。時間間隔推定部220は、時間間隔に乗じる正数に応じて、予め定められた期間の長さを設定してよい。時間間隔推定部220は、当該正数から予測されるタイミング推定部230によって推定されるタイミングの誤差が予め定められた値以下になるように、予め定められた期間の長さを設定してよい。時間間隔推定部220は、予め定められた時間が経過する前に、時間間隔を更新してよい。特定部210は、予め定められた時間が経過する前に、現在設定されている基準信号より後に検出された信号を新たな基準信号として特定することによって、基準信号を更新してよい。
【0036】
タイミング推定部230は、推定した第1の信号が検出されるタイミングにおいて、正常信号であるか否かの判定対象の信号ではない第2の信号が検出された場合、第2の信号の検出タイミングに予め定められた信号長を加算したタイミングを、第1の信号が検出されるタイミングとして新たに推定してよい。
【0037】
特定部210は、現在設定されている基準信号より後に通信網180において検出された第1の信号の検出タイミングと、基準信号の検出タイミングから時間間隔の正数倍だけ経過したタイミングとの間の差が予め定められた以下である場合に、第1の信号を新たな基準信号として特定してよい。
【0038】
特定部210は、通信網180において連続して検出された第1の信号と第2の信号との間の時間間隔が予め定められた間隔以下である場合に、第2の信号を基準信号として特定せず、通信網180において連続して検出された第1の信号と第2の信号との間の時間間隔が予め定められた間隔を超えることを少なくとも要件として、第2の信号を基準信号として特定してよい。
【0039】
本実施形態においては、予め定められた特定のCAN IDを持つ信号が、正常信号及び異常信号の判定対象であるとする。そのため、特に断りのない限り、本実施形態では、特定のCAN IDが付与された信号を取り上げる。本実施形態の各図面は、通信網180を通じて送信される信号を分かり易く示すことを目的として、一定の時間スケールで縮尺された示すものではない。
【0040】
図3は、信号の周期を算出する方法を説明するためのである。
図3に示されるように、通信網180において、信号判定装置200は、期間T0内でM個の信号を検出する。この場合、時間間隔推定部220は、信号の周期を、T0/(M-1)によって算出する。本実施形態では、分かりやすく説明することを目的として、信号の周期は10msとして算出されたとする。
【0041】
時間間隔推定部220は更に、信号の周期Tの推定誤差を算出する。例えば、時間間隔推定部220は、信号の周期Tの推定誤差として標準誤差を算出してよい。
【0042】
図4は、不正信号を検出するために使用される基準信号を設定する処理を説明するための図である。
図4において、実信号時刻は、信号判定装置200が通信網180において実際に信号を検出した時刻を示す。本実施形態において、信号を検出した時刻は、信号の受信が終了した時刻であるとして説明する。例えば、信号を検出した時刻は、信号判定装置200が信号の全てを受信し終えた時刻であってよい。他の実施形態において、信号を検出した時刻は、信号の受信を開始した時刻であってよい。
【0043】
図4において、実信号周期は、通信網180において連続して検出された信号の時間間隔である。本実施形態において処理対象とする信号は、10msの周期で通信網180に入力されることが期待される信号であるとする。特定部210は、ある信号の検出時刻から周期10msの正数倍だけ経過した時刻と検出時刻との差(遅延時間)が第1閾値以下の信号を、基準信号として特定する。特定部210は、各信号を受信する毎に遅延時間を加算することによって遅延時間累積値を算出する。特定部210は、遅延時間累積値が第1閾値以下の信号を、基準信号として特定する。本実施形態では、基準信号を設定する処理を分かり易く示すため、第1閾値は0.5msであるとする。
【0044】
図4において、時刻t1は、通信網180においてある信号を検出した時刻であるとする。信号判定装置200は、時刻t1から11msの時間が経過した時刻t2で、次の信号を検出する。特定部210は、時刻t2と、時刻t1から周期10msの時間が経過したタイミングとの差を、遅延時間として算出する。したがって、時刻t2における遅延時間は1msとなる。そのため、特定部210は、時刻t2における遅延時間累計値として1msを算出する。遅延時間累計値が第1閾値を超えるため、特定部210は、時刻t2に受信した信号を基準信号として特定しない。
【0045】
続いて、信号判定装置200は、時刻t2から更に11msの時間が経過した時刻t3で、更に次の信号を検出する。特定部210は、時刻t3と、時刻t2から周期10msの時間が経過したタイミングとの差を、遅延時間として算出する。時刻t2における遅延時間は1msとなる。そのため、特定部210は、時刻t3における遅延時間累計値として2msを算出する。遅延時間累計値が第1閾値を超えるため、特定部210は、時刻t3に受信した信号を基準信号には特定しない。
【0046】
続いて、信号判定装置200は、時刻t3から更に8msの時間が経過した時刻t4で、更に次の信号を検出する。特定部210は、時刻t4と、時刻t3から周期10msの時間が経過したタイミングとの差を、遅延時間として算出する。時刻t4における遅延時間は-2msとなる。そのため、特定部210は、時刻t4における遅延時間累計値として0msを算出する。遅延時間累計値が第1閾値以下であるため、特定部210は、時刻t4に受信した信号を基準信号として特定し、時刻t4を基準時刻として設定する。
【0047】
続いて、信号判定装置200は、時刻t4から更に11.02msの時間が経過した時刻t5で、更に次の信号を検出する。特定部210は、時刻t5と、時刻t4から周期10msの時間が経過したタイミングとの差を、遅延時間として算出する。時刻t5における遅延時間は1.02msとなる。そのため、特定部210は、時刻t4における遅延時間累計値として1.02msを算出する。遅延時間累計値が第1閾値を超えるため、特定部210は、時刻t5に受信した信号を基準信号として特定しない。
【0048】
続いて、信号判定装置200は、時刻t5から更に8.5msの時間が経過した時刻t6で、更に次の信号を検出する。特定部210は、時刻t6と、時刻t5から周期10msの時間が経過したタイミングとの差を、遅延時間として算出する。時刻t6における遅延時間は-1.5msとなる。そのため、特定部210は、時刻t6における遅延時間累計値として-0.48msを算出する。遅延時間累計値の絶対値が第1閾値以下であるため、特定部210は、時刻t6に受信した信号を基準信号として設定し、時刻t6を基準時刻として設定する。このとき、特定部210は、遅延時間累積値をリセットして0にする。
【0049】
続いて、信号判定装置200は、時刻t6から更に10.4msの時間が経過した時刻t7で、更に次の信号を検出する。特定部210は、時刻t7と、時刻t6から周期10msの時間が経過したタイミングとの差を、遅延時間として算出する。時刻t6において遅延時間累積値は0にリセットされているため、時刻t7における遅延時間は0.4msとなる。そのため、特定部210は、時刻t7における遅延時間累計値として0.4msを算出する。遅延時間累計値が第1閾値以下であるため、特定部210は、時刻t7に受信した信号を基準信号として特定し、時刻t7を基準時刻として設定する。
【0050】
このように、特定部210は、新たな信号を検出した場合に、当該新たな信号を検出したタイミングと、基準時刻から信号周期の整数倍だけ後のタイミングである基準タイミングとの間のずれが第1閾値以下である場合に、当該新たな信号を基準信号として特定する。そして、特定部210は、当該新たな信号を検出した時刻を、不正信号を検出するために用いられる基準時刻として設定する。
【0051】
次に、
図5及び
図6を参照して、通信網180への信号の入力が他の信号の入力と競合することによって送信遅延が発生する状況について説明する。
【0052】
図5は、他の信号との競合によって信号330が10msの周期的な入力タイミングから遅延した状態を模式的に示す。
図5において、信号310、信号320、及び信号330は、通信網180に連続して入力された信号である。
【0053】
信号310は、時刻t1から通信網180への入力が開始され、時刻t2に通信網180への入力が終了した信号である。信号320は、時刻t3から通信網180に入力が開始され、時刻t5に通信網180への入力が終了した信号である。信号320は、時刻t6から通信網180に入力が開始され、時刻t7に通信網180への入力が終了した信号である。
【0054】
図5において、信号310及び信号330は、周期10msで通信網180に入力される信号群に属する信号である。信号310及び信号330は、同一のCAN IDが付与された信号である。
図5において、信号330は、信号320と競合することによって、通信網180への周期的な入力タイミングから遅延した状態を表す。ここでは、信号320は、信号310及び信号330に付与されたCAN IDとは異なるCAN IDが付与された信号であるとする。しかし、信号320のCAN IDが、信号310及び信号330のCAN IDと同一である場合にも同様の処理を適用できる。
【0055】
一例として、信号330は、信号320と同時に通信網180への入力が開始された結果、通信競合によって、信号320の通信網180への入力が終了した後の時刻t5より後に通信網180への入力が開始される。他の例では、信号330は、信号320が通信網180に入力されている期間内に入力が開始されるべき信号である。この例の場合、信号320の通信網180への入力が終了してバスがアイドル状態になるのを待って、時刻t5より後に通信網180への入力が開始される。
【0056】
信号330が通信網180に入力される場合、通信網180への信号320のデータフレームの入力が終了した後、3ビット分のITM(Intermission)終了後に、バスアイドル状態となる。そのため、信号320と競合した信号330は、時刻t5からITMが終了する時間が経過した時刻t6から、通信網180に入力が開始され得る。ITMに相当する時間間隔は、連続する信号間で空けられるべき予め定められた最小時間間隔である。
【0057】
信号320と信号330との間の時間間隔、すなわち、時刻t5と時刻t7との間の時間間隔が、信号330の信号長とITMの合計値と一致する場合、判定部240は、信号320との競合によって信号330が遅延したと判断し得る。そのため、判定部240は、信号330が競合によって遅延した正常信号であると判定する。一方、信号330は競合によって遅延した信号であるため、特定部210は、信号330を基準信号としては特定しない。
【0058】
このように、判定部240は、通信網180において連続して検出した信号の時間間隔が、信号長とITMの合計値に一致する場合に、信号330が、他の信号と競合することによって遅延した正常信号であると判定し得る。判定部240は、通信網180において連続して検出した信号の時間間隔が、信号長とITMの合計値に予め定められたマージンを設定することに決定された閾値より短い場合に、信号330が他の信号と競合することによって遅延した正常信号であると判定してもよい。
【0059】
図6は、他の信号との競合によらずに信号430が周期的な入力タイミングから遅延した状態を模式的に示す。信号310及び信号430は、同一のCAN IDを含む信号であるとする。
図5に示す状況とは異なり、信号430は、信号320と競合することなく、周期的な入力タイミングから遅延した信号である。
【0060】
図6に示されるように、信号430は、時刻t6より後の時刻t9から通信網180への入力が開始されている。信号320と信号430との間の時間間隔、すなわち時刻t10と時刻t5との間の時間間隔は、信号430の信号長とITMの合計値よりも十分に長いことから、判定部240は、信号320との競合によらずに、信号430が周期的な入力タイミングから遅延したと判断し得る。そのため、判定部240は、信号430が異常信号であると判定する。
【0061】
図7は、判定部240が正常信号であるか異常信号であるかを判定する処理を説明するための図である。
図7を参照して、時刻t11が基準時刻として設定された後に検出した信号が正常信号であるか異常信号であるかを判定する場合を説明する。
【0062】
本実施形態では、判定部240の判定処理を分かり易く示すため、正常信号であるか異常信号であるか判定するための第2閾値は1msであるとする。つまり、判定部240は、信号を検出した時刻と、基準時刻及び周期Tから推定される推定検出時刻との差が1ms以下である場合に、検出した信号が正常信号であると判定する。第2閾値は、周期Tの推定誤差に基づいて算出される推定検出時刻の推定誤差を考慮して設定されてよい。本実施形態では、図示し易さを目的として、第1閾値(0.5ms)が第2閾値(1ms)の1/2であるとして説明するが、第1閾値は第2閾値の1/5以下であってよい。第1閾値は第2閾値の1/10であってよい。
【0063】
図7を参照して、信号判定装置200は、時刻t11から11msが経過した時刻t12において新たな信号を検出する。タイミング推定部230は、基準時刻から周期10msだけ後の時刻を、時刻t11の信号の次の信号が検出されるべき推定検出時刻として推定する。時刻t12と推定検出時刻との差は1msである。つまり、時刻t12と推定検出時刻との差は1ms以下である。そのため、判定部240は、時刻t12で検出された信号が正常信号であると判定する。
【0064】
続いて、信号判定装置200は、時刻t12から10.5msが経過した時刻t13において新たな信号を検出する。タイミング推定部230は、基準時刻から10×2msだけ後の時刻を、時刻t12の信号の次の信号が検出されるべき推定検出時刻として推定する。時刻t13と推定検出時刻との差は1.5msである。つまり、時刻t13と推定検出時刻との差は1msを超える。そのため、判定部240は、時刻t13で検出した信号が異常信号であると判定する。
【0065】
図4等に関連して説明したように、通信網180への信号の入力が他の信号と競合した場合に、信号の検出時刻が推定検出時刻から遅延し得る。したがって、判定部240は、時刻t13で検出した信号が、通信網180への入力時に他の信号と競合することによって遅延したか否かを判定してよい。判定部240は、時刻t13で検出した信号が送信時に他の信号と競合することによって遅延したと判定し得る場合、時刻t13で検出した信号が正常信号であると判定してよい。判定部240は、時刻t13で検出した信号が送信時に他の信号と競合することによって遅延していないと判定した場合、時刻t13で検出した信号が異常信号であると判定してよい。この処理については、
図8に関連して具体的に説明する。
【0066】
続いて、信号判定装置200は、時刻t13から9.5msが経過した時刻t14において新たな信号を検出する。タイミング推定部230は、基準時刻から10×3msだけ後の時刻を、時刻t13の信号の次の信号が検出されるべき推定検出時刻として設定する。時刻t14と推定検出時刻との差は1msである。つまり、時刻t14と推定検出時刻との差は1ms以下である。そのため、判定部240は、時刻t14で検出した信号が正常信号であると判定する。
【0067】
続いて、信号判定装置200は、時刻t14から9.8msが経過した時刻t15において新たな信号を検出する。タイミング推定部230は、基準時刻から10×4msだけ後の時刻を、時刻t14の信号の次の信号が検出されるべき推定検出時刻として設定する。時刻t15と基準タイミングとの差は0.8msである。つまり、時刻t15は基準タイミングを中心とする±1msの範囲内にある。そのため、判定部240は、時刻t15で検出した信号が正常信号であると判定する。
【0068】
このように、タイミング推定部230は、基準時刻から周期10msの正数倍だけ後の時刻を、基準時刻より後に通信網180に入力される複数の信号が検出されるべき推定検出時刻として推定する。判定部240は、新たな信号の検出時刻と対応する推定検出時刻との差が予め定められた値以下である場合に、新たな信号が正常信号であると判定する。一方、判定部240は、新たな信号の検出時刻と対応する推定検出時刻との差が予め定められた値を超える場合に、新たな信号が異常信号であると判定してよい。
【0069】
上述したように、推定検出時刻は、特定の基準時刻に周期を加算することによって推定される。推定検出時刻には周期Tの推定誤差が累積されるため、基準時刻からの経過時間が長くなるほど、推定検出時刻の推定精度が低くなる。そのため、特定部210は、周期の推定誤差と周期の加算回数(周期に乗じる正数)によって生じる累積誤差が予め定められた値に到達する前に、基準時刻を更新することが望ましい。例えば、特定部210は、推定検出時刻の算出に用いる周期の加算回数が予め定められた最大値に到達する前に、基準時刻を更新することが望ましい。更に、時間間隔推定部220は、
図3に関連して説明した期間T0は、推定検出時刻の算出に用いられる周期の加算回数に応じて、設定することが望ましい。例えば、時間間隔推定部220は、推定検出時刻の算出に用いられる周期の加算回数の最大値に応じて、期間T0を設定してよい。一例として、時間間隔推定部220は、推定検出時刻の算出に用いられる周期の加算回数が多いほど、期間T0として長い期間を設定することが望ましい。加えて、時間間隔推定部220は、予め定められた時間が経過する毎に、周期Tを更新することが望ましい。
【0070】
図8は、通信網180への信号の入力が他の信号と競合した場合における判定処理を示す。
図8において、信号800、信号810及び信号820は、特定のECUから通信網180に入力され、ECU110において正常信号であるか否かの判定対象となる信号である。信号811、信号821及び信号822は、通信網180に他のECUから入力された信号である。信号811、信号821及び信号822には、信号800、信号810及び信号820に付与されたCAN IDとは異なるCAN IDが付与されている。
【0071】
信号判定装置200は、時刻t0において信号800を検出する。ここでは、時刻t0が基準時刻であるとする。タイミング推定部230は、基準時刻t0から周期10msだけ後の時刻t01を、通信網180において信号810が検出されるべき推定検出時刻として推定する。更に、タイミング推定部230は、基準時刻t0から2x10msだけ後の時刻t02を、通信網180において信号820が検出されるべき推定検出時刻として推定する。
【0072】
図8に示されるように、信号810は信号811との競合によって遅延することで、推定検出時刻t01から遅延して、時刻t2で検出される。判定部240は、推定検出時刻t01から予め定められた期間だけ前の時刻から推定検出時刻t01までの期間内に、判定対象となるCAN ID以外のCAN IDが付与された信号が検出されているか否かを判定する。一例として、判定部240は、推定検出時刻t01から信号長Lだけ前の時刻から推定検出時刻t01までの期間内に、判定対象となるCAN ID以外のCAN IDが付与された信号が通信網180に入力中である否かを判定してよい。
【0073】
図8に示されるように、推定検出時刻t01から信号長Lだけ前の時刻から推定検出時刻t01までの期間内には、信号811が入力されている。この場合、判定部240は、信号800の次の信号が、信号811との競合によって遅延したと判定する。この場合、判定部240は、信号811の検出時刻t1から信号長Lだけ後の時刻を新たな推定検出時刻t01'とすることによって、推定検出時刻t01を補正する。判定部240は、信号810が検出された時刻t2と推定検出時刻t01'とを比較することによって、時刻t2で検出された信号810が正常信号であるか否かを判断する。
図8の例では、信号810が検出された時刻t2と推定検出時刻t01'との差が1ms以下であるため、判定部240は、時刻t2で検出された信号810が正常信号であると判定する。
【0074】
次に、信号820に対する処理を説明する。
図8に示されるように、信号820は、信号821との競合によって遅延した後、更に信号822との競合によって遅延して、推定検出時刻t02から遅延して、時刻t5で検出される。判定部240は、推定検出時刻t02から予め定められた期間だけ前の時刻から推定検出時刻t02までの期間内に、判定対象となるCAN ID以外のCAN IDが付与された信号が検出されているか否かを判定する。一例として、判定部240は、推定検出時刻t02から信号長Lだけ前の時刻から推定検出時刻t02までの期間内に、判定対象となるCAN ID以外のCAN IDが付与された信号が通信網180に入力中である否かを判定してよい。
【0075】
図8に示されるように、推定検出時刻t02から信号長Lだけ前の時刻から推定検出時刻t02までの期間内には、信号821が入力されている。この場合、判定部240は、信号810の次の信号が、信号821との競合によって遅延したと判定する。この場合、判定部240は、信号821の検出時刻t3から信号長Lだけ後の時刻を新たな推定検出時刻t02'とすることによって、推定検出時刻t02を補正する。
【0076】
図8に示されるように、補正された推定検出時刻t02'から信号長Lだけ前の時刻から推定検出時刻t02までの期間内には、信号822が入力されている。この場合、判定部240は、信号810の次の信号が、信号822との競合によって遅延したと判定する。この場合、判定部240は、信号822の検出時刻t4から信号長Lだけ後の時刻を新たな推定検出時刻t02''とすることによって、推定検出時刻t02'を更に補正する。判定部240は、信号820が検出された時刻t5と推定検出時刻t02''とを比較することによって、時刻t5で検出された信号820が正常信号であるか否かを判断する。
図8の例では、信号820が検出された時刻t5と推定検出時刻t02''との差が1ms以下であるため、判定部240は、時刻t5で検出された信号820が正常信号であると判定する。
【0077】
図9は、ECU110が実行する信号判定方法に関する全体的な処理を示すフローチャートである。S902において、時間間隔推定部220は、正常信号であるか否かの判定対象となる信号の周期を推定する。例えば、時間間隔推定部220は、
図3等に関連した方法により、正常信号であるか否かの判定対象となる信号の周期を推定する。
【0078】
S904において、特定部210は、基準信号を特定する。例えば、特定部210は、
図4等に関連した方法により、基準信号を特定する。
【0079】
S906において、タイミング推定部230は、基準信号より後の複数の信号が検出される時刻を推定する。例えば、タイミング推定部230は、
図7等の推定検出時刻に関連して説明したように、基準信号が検出された時刻である基準時刻から周期10msの正数倍だけ後の時刻を、基準信号より後の複数の信号が検出される時刻として推定する。S908において、判定部240は、基準信号より後に検出される各信号が正常信号であるか異常信号であるかを判定する。S908の処理は、
図10に関連して説明する。
【0080】
図9のフローチャートの処理は、周期又は基準信号を定期的に更新するために、予め定められた時間が経過する毎に実行されてよい。
【0081】
図10は、正常信号であるか異常信号であるかの判定処理に関するフローチャートである。
図10のフローチャートの処理は、
図9のS908に適用できる。
図10の処理は、判定部240によって繰り返し実行される。
【0082】
S1002において、判定部240は、推定検出時刻の近傍で、正常信号であるか否かの判定対象となるCAN ID以外のCAN IDが付与された信号が検出されたか否かを判断する。判定対象となるCAN ID以外のCAN IDが付与された信号が検出された場合、S1004において、タイミング推定部230は、推定検出時刻を補正する。例えば、タイミング推定部230は、
図8等に関連した方法によって、推定検出時刻を補正する。
【0083】
S1002において、判定対象となるCAN ID以外のCAN IDが付与された信号が検出されなかった場合、S1006において、信号の検出時刻と対応する推定検出時刻との差が第2閾値以下であるか否かを判断する。信号の検出時刻と対応する推定検出時刻との差が第2閾値以下である場合、S1008において、判定部240は、検出された信号が正常信号であると判定する。信号の検出時刻と対応する推定検出時刻との差が第2閾値を超える場合、S1010において、判定部240は、検出された信号が異常信号であると判定する。
【0084】
通信網180においては、通信網180に信号を入力する際に競合が生じた場合、通信調停によって優先順位に従って信号が送信されるので、信号が実際に通信網180に入力されるまで遅延が生じ得る。そのため、遅延した信号の検出時刻を基準時刻として異常信号を判定すると、正常信号か否かを誤判定してしまう場合がある。これに対し、信号判定装置200によれば、特定部210は、信号判定装置200で新たな信号が検出された場合に、当該新たな信号の検出時刻と、基準時刻から信号周期の正数倍だけ後の時刻との間の差が第1閾値以下である場合に、当該新たな信号を基準信号として設定し、当該新たな信号を検出した時刻を基準時刻として設定する。これにより、通信網180に不正に入力される信号を検出するための基準時刻を適切に設定することができる。
【0085】
そして、タイミング推定部230は、基準時刻より後に検出される複数の信号のそれぞれについて、それぞれの信号が検出された時刻と基準時刻から信号周期の正数倍だけ後の推定検出時刻と差が第2閾値以下である場合に、当該新たな信号が正常信号であると判定する。本実施形態によれば、直前の信号の検出時刻と最新の信号の検出時刻との間の時間間隔に基づいて判定するのではなく、適正に設定された基準時刻及び実測周期に基づいて推定された推定検出時刻と、基準時刻より後に検出された複数の信号の検出時刻とを比較して判定する。そのため、本実施形態によれば、直前の信号の検出時刻と最新の信号の検出時刻との間の時間間隔に基づいて判定する場合に比べて、通信遅延等によって直前の信号の検出時刻と最新の信号の検出時刻との間の時間間隔が変化し得することで生じる影響を受けにくい。したがって、本実施形態によれば、通信網180において検出された信号が正常信号であるか異常信号であるかを適切に検出することが可能になる。
【0086】
図11は、本発明の複数の実施形態が全体的又は部分的に具現化され得るコンピュータ2000の例を示す。コンピュータ2000にインストールされたプログラムは、コンピュータ2000を、実施形態に係るシステム20等のシステム又はシステムの各部、もしくはECU110等の装置又は当該装置の各部として機能させる、当該システム又はシステムの各部もしくは当該装置又は当該装置の各部に関連付けられるオペレーションを実行させる、及び/又は、実施形態に係るプロセス又は当該プロセスの段階を実行させることができる。そのようなプログラムは、コンピュータ2000に、本明細書に記載の処理手順及びブロック図のブロックのうちのいくつか又はすべてに関連付けられた特定のオペレーションを実行させるべく、CPU2012によって実行されてよい。
【0087】
本実施形態によるコンピュータ2000は、CPU2012、及びRAM2014を含み、それらはホストコントローラ2010によって相互に接続されている。コンピュータ2000はまた、ROM2026、フラッシュメモリ2024、通信インタフェース2022、及び入力/出力チップ2040を含む。ROM2026、フラッシュメモリ2024、通信インタフェース2022、及び入力/出力チップ2040は、入力/出力コントローラ2020を介してホストコントローラ2010に接続されている。
【0088】
CPU2012は、ROM2026及びRAM2014内に格納されたプログラムに従い動作し、それにより各ユニットを制御する。
【0089】
通信インタフェース2022は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。フラッシュメモリ2024は、コンピュータ2000内のCPU2012によって使用されるプログラム及びデータを格納する。ROM2026は、アクティブ化時にコンピュータ2000によって実行されるブートプログラム等、及び/又はコンピュータ2000のハードウエアに依存するプログラムを格納する。入力/出力チップ2040はまた、キーボード、マウス及びモニタ等の様々な入力/出力ユニットをシリアルポート、パラレルポート、キーボードポート、マウスポート、モニタポート、USBポート、HDMI(登録商標)ポート等の入力/出力ポートを介して、入力/出力コントローラ2020に接続してよい。
【0090】
プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、又はメモリカードのようなコンピュータ可読記憶媒体又はネットワークを介して提供される。RAM2014、ROM2026、又はフラッシュメモリ2024は、コンピュータ可読記憶媒体の例である。プログラムは、フラッシュメモリ2024、RAM2014、又はROM2026にインストールされ、CPU2012によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ2000に読み取られ、プログラムと上記様々なタイプのハードウエアリソースとの間の連携をもたらす。装置又は方法が、コンピュータ2000の使用に従い情報のオペレーション又は処理を実現することによって構成されてよい。
【0091】
例えば、コンピュータ2000及び外部デバイス間で通信が実行される場合、CPU2012は、RAM2014にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インタフェース2022に対し、通信処理を命令してよい。通信インタフェース2022は、CPU2012の制御下、RAM2014及びフラッシュメモリ2024のような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り、読み取った送信データをネットワークに送信し、ネットワークから受信された受信データを、記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0092】
また、CPU2012は、フラッシュメモリ2024等のような記録媒体に格納されたファイル又はデータベースの全部又は必要な部分がRAM2014に読み取られるようにし、RAM2014上のデータに対し様々な種類の処理を実行してよい。CPU2012は次に、処理されたデータを記録媒体にライトバックする。
【0093】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、及びデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され、情報処理にかけられてよい。CPU2012は、RAM2014から読み取られたデータに対し、本明細書に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々な種類のオペレーション、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々な種類の処理を実行してよく、結果をRAM2014にライトバックする。また、CPU2012は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。例えば、各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合、CPU2012は、第1の属性の属性値が指定されている、条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し、当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り、それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0094】
上で説明したプログラム又はソフトウエアモジュールは、コンピュータ2000上又はコンピュータ2000近傍のコンピュータ可読記憶媒体に格納されてよい。専用通信ネットワーク又はインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスク又はRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読記憶媒体として使用可能である。コンピュータ可読記憶媒体に格納されたプログラムを、ネットワークを介してコンピュータ2000に提供してよい。
【0095】
コンピュータ2000にインストールされ、コンピュータ2000をECU110として機能させるプログラムは、CPU2012等に働きかけて、コンピュータ2000を、ECU110の各部としてそれぞれ機能させてよい。これらのプログラムに記述された情報処理は、コンピュータ2000に読込まれることにより、ソフトウェアと上述した各種のハードウエア資源とが協働した具体的手段であるECU110の各部として機能する。そして、これらの具体的手段によって、本実施形態におけるコンピュータ2000の使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有のECU110が構築される。
【0096】
様々な実施形態が、ブロック図等を参照して説明された。ブロック図において各ブロックは、(1)オペレーションが実行されるプロセスの段階又は(2)オペレーションを実行する役割を持つ装置の各部を表わしてよい。特定の段階及び各部が、専用回路、コンピュータ可読記憶媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、及び/又はコンピュータ可読記憶媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。専用回路は、デジタル及び/又はアナログハードウエア回路を含んでよく、集積回路(IC)及び/又はディスクリート回路を含んでよい。プログラマブル回路は、論理AND、論理OR、論理XOR、論理NAND、論理NOR、及び他の論理オペレーション、フリップフロップ、レジスタ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックアレイ(PLA)等のようなメモリ要素等を含む、再構成可能なハードウエア回路を含んでよい。
【0097】
コンピュータ可読記憶媒体は、適切なデバイスによって実行される命令を格納可能な任意の有形なデバイスを含んでよく、その結果、そこに格納される命令を有するコンピュータ可読記憶媒体は、処理手順又はブロック図で指定されたオペレーションを実行するための手段をもたらすべく実行され得る命令を含む製品の少なくとも一部を構成する。コンピュータ可読記憶媒体の例としては、電子記憶媒体、磁気記憶媒体、光記憶媒体、電磁記憶媒体、半導体記憶媒体等が含まれてよい。コンピュータ可読記憶媒体のより具体的な例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EPROM又はフラッシュメモリ)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイ(登録商標)ディスク、メモリスティック、集積回路カード等が含まれてよい。
【0098】
コンピュータ可読命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、又はSmalltalk(登録商標)、JAVA(登録商標)、C++等のようなオブジェクト指向プログラミング言語、及び「C」プログラミング言語又は同様のプログラミング言語のような従来の手続型プログラミング言語を含む、1又は複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコード又はオブジェクトコードのいずれかを含んでよい。
【0099】
コンピュータ可読命令は、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、若しくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサ又はプログラマブル回路に対し、ローカルに又はローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のようなワイドエリアネットワーク(WAN)を介して提供され、説明された処理手順又はブロック図で指定されたオペレーションを実行するための手段をもたらすべく、コンピュータ可読命令を実行してよい。プロセッサの例としては、コンピュータプロセッサ、処理ユニット、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を含む。
【0100】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0101】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の序順で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0102】
10 移動体
20 システム
100 ECU
110 ECU
111 ECU
120 ECU
121 ECU
180 通信網
200 信号判定装置
210 特定部
220 時間間隔推定部
230 タイミング推定部
240 判定部
280 記憶部
310、320、330、430、800、810、811、820、821、822 信号
2000 コンピュータ
2010 ホストコントローラ
2012 CPU
2014 RAM
2020 入力/出力コントローラ
2022 通信インタフェース
2024 フラッシュメモリ
2026 ROM
2040 入力/出力チップ