(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036239
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】難燃性断熱材
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20240308BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20240308BHJP
【FI】
F16L59/02
H01M10/658
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141065
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 崇
【テーマコード(参考)】
3H036
5H031
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB13
3H036AB15
3H036AC03
3H036AE01
5H031KK02
(57)【要約】
【課題】 効果的に熱を遮断できる高い断熱性と、発火を防止するための難燃性とを併せ持ち、かつ高強度で経済性に優れた難燃性断熱材とその製造方法を提供する。
【解決手段】 鱗片状のマイカ粉末をバインダにより結合してなるシート状のものであって、鱗片状のマイカ粉末はアスペクト比が5~100であり、バインダは無機材料からなる。上記構成において、マイカ粉末が、硬質マイカおよび軟質マイカから選択された少なくとも1種類を用いてもよい。さらに、バインダが、シリコーン系バインダ、シリカ系バインダ、アルミナ系バインダ、および、ジルコニア・シリカ系バインダから選択された少なくとも1種類を用いてもよい。このようなバインダを用いることにより、十分な引張強度、小さな熱伝導率と良好な難燃性を有する難燃性断熱材を得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状のマイカ粉末をバインダにより結合してなるシート状の難燃性断熱材であって、
前記鱗片状のマイカ粉末は、アスペクト比が5~100であり、前記バインダは無機材料からなることを特徴とする難燃性断熱材。
【請求項2】
前記マイカ粉末が、硬質マイカおよび軟質マイカから選択された少なくとも1種類を用いたことを特徴とする請求項1記載の難燃性断熱材。
【請求項3】
前記バインダが、シリコーン系バインダ、シリカ系バインダ、アルミナ系バインダ、および、ジルコニア・シリカ系バインダから選択された少なくとも1種類を用いたことを特徴とする請求項1記載の難燃性断熱材。
【請求項4】
収納部と、
前記収納部内に固定された複数の電池セルと、
前記複数の電池セル間に設けられた難燃性断熱シートとを備え、
前記難燃性断熱シートが、請求項1から3までのいずれか1項に記載の難燃性断熱材を用いたことを特徴とする二次電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性と断熱性とが要求される種々の用途に適用でき、例えば二次電池セルの発火を防ぐ断熱素材などとして好適な難燃性断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
断熱材は、住宅、車両、航空機、あるいは梱包材など、社会の幅広い分野で使われている。さらに、断熱性に加えて難燃性を有する断熱材は、発熱して発火する可能性のある機器の周囲に配置して他の機器への波及を抑えるなどの目的で、幅広い分野で使用されている。例えば、車両用のマット、天井材、ダッシュボード、高温作業用の防護衣料、手袋などや、自動車の二次電池パックのセル間に配置して他のセルの加熱や発火を防ぐなどの目的でも使用されている。
【0003】
例えば、厚さ10~100mmであり、ガラス繊維および炭素繊維に少量の低融点有機繊維を均一に混綿し、嵩高い綿状素材に対して熱風を垂直方向に貫通させることによって全体をシート化した車両用断熱マットが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、繊維とシリカエアロゲルとを含む複合層と当該複合層中で厚み方向に配置された樹脂支柱とを含む断熱材が開示されている。この発明は、圧縮応力に対し、断熱材の構造を保持して熱伝導率の悪化を抑制した断熱材を得ることを目的としており、この断熱材を車載用電池の電池セル間に配置することが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、分散された気泡を有する熱可塑性ポリマーマトリックス、2重量%又はそれ以上で5重量%又はそれ以下で上記マトリックス中に分散された赤外線減衰剤、2.5~3.5重量%で上記マトリックス中に分散された臭素化難燃剤、並びに少なくとも0.1重量%で上記マトリックス中に分散されたエポキシ安定剤を含んでなるポリマーフォームが開示されている。この発明は、建築および建設用途への適用を主な目的としている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
さらに、シリコーン樹脂を接着剤としてアスペクト比100以上の鱗片状マイカ片を積層した断熱制振材が開示されている。この発明は自動車のディスクブレーキの鳴き止めシム用の断熱制振材に使用することを目的としている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
さらに、シリコーン樹脂を含侵した合成集成マイカ層と接着剤層、裏打材層からなり、上記の内少なくとも1つ以上の層に粒径が50μm以下の水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムを含有することを特徴とする高温電気絶縁用マイカシートが開示されている。この発明は、耐火バスダクトや耐火電線などの耐火熱絶縁用として用いることを目的としている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-186857号公報
【特許文献2】特開2017-215014号公報
【特許文献3】特許第5785159号公報
【特許文献4】特開平4-65259号公報
【特許文献5】特許第2790207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の発明の断熱マットは不燃性と断熱性とを兼ね備えているが、鉄道車両用を目的としており、例えばリチウムイオン電池などの二次電池パックのセル間の断熱材として用いることは厚みの点から難しいという課題を有する。さらにこの発明では、無機繊維の織布またはフェルトからなる表面シートを厚さ10~100mmのマット本体に不燃性樹脂で貼り合わせる方法も開示されている。しかし、不燃性樹脂での貼り合わせでは十分な接着強度を保持することができないため、表面シートが容易にはがれてしまうという課題も有する。
【0010】
特許文献2の発明では、複合層の繊維はポリエチレンテレフタレートを用いることができ、また樹脂支柱はポリスチレンやポリプロピレンなどを用いることができるとしているので、難燃性については特に考慮されておらず、発火時に燃焼してしまうという課題を有する。
【0011】
特許文献3の発明は、発泡性ポリマー中に分散された難燃剤として臭素化難燃剤を用いているが、これは燃焼時に表面が炭化し燃焼の進行を防止するというメカニズムに基づいている。しかし、この材料は使用上限温度が100℃前後であるため、100℃以上の高温域では使用できないという課題がある。
【0012】
特許文献4の発明は、シリコーン樹脂を接着剤としてアスペクト比100以上の鱗片状マイカを接着・積層しているが、アスペクト比100以上のマイカは作成が難しく、また、積層も煩雑であるのでコスト的に課題がある。この発明においては、難燃性を付与することについては開示も示唆もない。
【0013】
特許文献5に記載の発明は、シリコーン樹脂を含侵した合成マイカ層、接着剤層、裏打層の3層構造の高温電気絶縁用マイカシートであり、3層の内少なくとも1つ以上の層に粒径50μm以下の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを含有することが特徴である。しかしながら、天然マイカの使用、難燃性については開示も示唆もない。
【0014】
ハイブリッド自動車や電気自動車には、二次電池である複数のリチウムイオン電池セルをモジュール構造とした電池パックが搭載されている。リチウムイオン電池は化学的に不安定であるため、劣化や何らかの原因でショート等が発生した場合、その二次電池セルが発熱して熱暴走することがある。そうすると隣接する二次電池セルにも熱が伝わり、次々に熱暴走して大きな事故になる場合がある。これを防ぐためには、断熱性だけでなく、難燃性も有する断熱材が要求されている。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するもので、効果的に熱を遮断できる高い断熱性と、発火を防止するための難燃性とを併せ持ち、かつ高強度で経済性に優れた難燃性断熱材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明の難燃性断熱材は、鱗片状のマイカ粉末をバインダにより結合してなるシート状のものであって、鱗片状のマイカ粉末はアスペクト比が5~100であり、バインダは無機材料からなることを特徴とする。
【0017】
マイカ粉末のアスペクト比は、(平均粒径/平均厚み)で規定する。平均粒径の測定は、例えばマイクロトラック法やレーザー法などを用いることででき、平均厚みは例えば水面粒子膜法を使って測定することができる。鱗片状マイカ粉末の平均粒径D50付近の粉末におけるアスペクト比は、5~100であることが好ましく、10~85であることがより好ましく、20~80であることがさらに好ましい。アスペクト比が5未満では断熱性が低下し、100を超えると加工性が低下する。
このような構成とすることにより、高い難燃性と断熱性とを兼ね備えた難燃性断熱材を得ることができる。
【0018】
上記構成において、マイカ粉末が硬質マイカおよび軟質マイカから選択された少なくとも1種類を用いたものであってもよい。硬質マイカや軟質マイカをそれぞれ単独で使用してもよいし、これらの混合物を用いてもよい。硬質マイカとは、白雲母(マスコバイト、Muscovite)のことをいい、非膨潤系であり、結晶中の八面体位イオンはAlが大部分を占めるものである。一方、軟質マイカは、金雲母(フロゴパイト、Phlogopite)のことを言い、非膨潤系であり、結晶中の八面体位イオンはMgが大部分を占めるものである。マイカ粉末として、硬質マイカ又は軟質マイカを用いれば、十分な引張強度、小さな熱伝導率と良好な難燃性を有する難燃性断熱材を得ることができる。
【0019】
上記構成において、バインダがシリコーン系バインダ、シリカ系バインダ、アルミナ系バインダおよびジルコニア・シリカ系バインダから選択された少なくとも1種類を用いてもよい。このようなバインダを用いることにより、十分な引張強度、小さな熱伝導率と良好な難燃性を有する難燃性断熱材を得ることができる。無機バインダであれば1種類に限定されず、複数の種類を混合することによりシート状としたときの引張強度をさらに改善できる場合がある。どのような材料を混合するのかは、材料やコストあるいは必要とするシートの引張強度や厚み等を考慮して選択すればよい。
上記構成からなる難燃性断熱材は、引張強度、難燃性及び熱伝導率が所定の目標値をクリアーすることが要求される。
【0020】
引張強度は0.5MPa以上であるようにすることが好ましい。引張強度が0.5MPa以上あれば、例えばリチウムイオン電池などの二次電池セルの周囲に配置する場合に破れることなく安定な作業を行うことができる。引張強度は5MPa以上がより好ましく、10MPa以上がさらに好ましい。引張強度が0.5MPaよりも小さいと、破れやすくなり安定な作業を行うことができない。引張強度は製造方法により変化するが、本発明における引張強度の上限値は25MPa以下である。
【0021】
熱伝導率は、JIS規格のA-1412-2に準拠して測定して、0.20W/m・K以下であればよい。ただし、好ましくは0.15W/m・K以下であり、より好ましくは0.10W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.08W/m・K以下であり、特に好ましくは0.05W/m・K以下、最も好ましくは0.03W/m・Kである。
難燃性は、UL-94で規定されている5V平板状試験片垂直燃焼試験を行い、基準をクリアーすることとした。
【0022】
つぎに、本発明の二次電池パックは、収納部と、この収納部内に固定された複数の電池セルと、複数の電池セル間に設けられた難燃性断熱シートとを備え、難燃性断熱シートが、上記記載の難燃性断熱材を用いたことを特徴とする。
【0023】
このような構成とした二次電池パックは、複数の電池セルのいずれかが何らかの原因で発熱し発火した場合であっても、それらを取り囲んで設けられている難燃性断熱シートが他の電池セルへ熱が伝わるのを防ぎ、発火を防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、アスペクト比が5~100の鱗片状マイカ粉末と無機バインダとをシート状に形成して難燃性断熱材を作製したので、軽量、かつ、耐熱性、難燃性に優れ、しかも必要とする引張強度を確保できるので、難燃性と断熱性とが要求される分野に使用した場合に大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の難燃性断熱材を二次電池パックの断熱シートとして用いた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態に係る難燃性断熱材について、以下詳細に説明する。本発明の難燃性断熱材は、鱗片状のマイカ粉末をバインダにより結合してなるシート状物であって、鱗片状のマイカ粉末はアスペクト比が5~100であり、バインダは無機材料からなることを特徴とする。
【0027】
この場合において、マイカ粉末が硬質マイカおよび軟質マイカから選択された少なくとも1種類を用いたものであってもよい。硬質マイカや軟質マイカをそれぞれ単独で使用してもよいし、これらの混合物を用いてもよい。さらに、バインダがシリコーン系バインダ、シリカ系バインダ、アルミナ系バインダおよびジルコニア・シリカ系バインダから選択された少なくとも1種類を用いもよい。無機バインダであれば1種類に限定されず、複数の種類を混合することによりシート状としたときの引張強度をさらに改善できる場合がある。どのような材料を混合するのかは、材料やコストあるいは必要とするシートの引張強度や厚み等を考慮して選択すればよい。
【0028】
また、本発明の二次電池パックは、収納部と、この収納部内に固定された複数の電池セルと、複数の電池セル間に設けられた難燃性断熱シートとを備えた構成からなり、難燃性断熱シートが上記記載の難燃性断熱材を用いたことを特徴とする。
つぎに、難燃性断熱材について詳細に説明するが、最初に、使用する材料の鱗片状マイカ粉末と無機バインダについて説明する。
(鱗片状マイカ粉末)
【0029】
本発明で使用する鱗片状マイカ粉末は、平均粒子径5~150μmのマイカ粉末を扁平加工して用いる。マイカ粉末の種類は特に制限されない。例えば、白雲母(マスコバイト)、絹雲母(セリサイト)、金雲母(フロゴパイト)、黒雲母(バイオタイト)、フッ素金雲母(人造雲母、合成マイカ)、紅マイカ、ソーダマイカ、バナジンマイカ、イライト、チンマイカ、パラゴナイト、ブリトル雲母、カリ四ケイ素雲母、ナトリウム四ケイ素雲母、ナトリウムテニオライト、リチウムテニオライト未焼成硬質マイカ、焼成硬質マイカ、未焼成軟質マイカ、焼成軟質マイカ、合成マイカ及びフレークマイカが挙げられる。
【0030】
これらの中でも、鱗片状マイカ粉末と無機バインダの接着性の観点からは、硬質マイカまたは軟質マイカが好ましい。マイカ粉末の1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。なお、マイカ粉末を2種類以上併用するとは、例えば、同じ成分で平均粒子径やアスペクト比が異なるマイカを2種類以上用いる場合、平均粒子径やアスペクト比が同じで成分の異なるマイカを2種類以上用いる場合並びに平均粒子径、アスペクト比及び成分の異なるマイカを2種類以上用いる場合が挙げられる。
【0031】
本発明で使用する鱗片状マイカ粉末は所定のアスペクト比になるように扁平加工してもよい。扁平加工は特に制限はないが、アトライター、ボールミル、振動ミルなどを用いて蒸留水もしくは有機溶剤の存在下で実施することができる。有機溶剤としてはトルエン、ヘキサン、アルコール、エチレングリコールなどを使うことができ、加工中は装置内の雰囲気を調整してもよい。また、扁平化助剤としてステアリン酸などを加えてもよい。さらに、扁平加工を行う前にマイカ粉末は熱処理を行ってから使用してもよい。
【0032】
扁平化処理後は、加工中に生じた結晶の歪を取るために、不活性雰囲気中で熱処理することが望ましく、熱処理温度は500~900℃が望ましい。500℃以下では歪取りが十分でなく、900℃を超えると部分的に凝集や焼結が発生するためである。
【0033】
鱗片状マイカ粉末の平均粒径D50付近の粉末におけるアスペクト比は5~100であることが好ましく、10~85であることがより好ましく、20~80であることがさらに好ましい。アスペクト比が5未満では断熱性が低下し、100を超えると加工性が低下する。
【0034】
さらに、嵩密度/真密度は0.03~0.09の範囲であることが望ましい。0.036より小さくなると鱗片状化が進みすぎ、取り扱いが困難となる。一方0.086を超えると鱗片状化が不十分なため、断熱性が低下する。嵩密度の測定はJISZ2504に基づいて実施した。真密度は島津製作所製のAccuPyc1330を用いて測定した。鱗片状マイカ粉末の平均粒子径D50の測定は、Sympatec社製のHELOS/BR-multiでR4を用いて測定を行った。
(無機バインダ)
【0035】
本発明の難燃性断熱材は無機バインダを含有する。無機バインダとしては、皮膜形成性のある無機物質であればいずれのものでもよい。例えば、シリコーン系バインダ、シリカ系バインダ、アルミナ系バインダ、ジルコニア・シリカ系バインダ、サポナイト、ヘクトライト、モンモリロナイトなどのスメクタイト群、バーミキュライト群、カオリナイト、ハロイサイトなどのカオリナイト-蛇紋石群、セピオライトなどの天然粘土鉱物の他、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナおよびこれらの変性物、合成無機高分子化合物、硫酸カルシウム、けい酸カルシウム、水ガラス、ポルトランドセメント、アルミナセメント、アルミナシリケート、酸化カルシウム、粘土などが挙げられ、これらの皮膜形成性のある無機物質を各々単独に、または複数組み合わせて使用することができる。
(難燃性断熱材)
上記した鱗片状マイカ粉末と無機バインダとを用いて難燃性断熱材を製造する方法と製造した難燃性断熱材について説明する。
【0036】
鱗片状マイカ粉末と無機バインダの合計の割合(重量比)は、マイカ粉末/バインダ比が20/80~97/3、好ましくは30/70~95/5、さらに好ましくは25/75~92/8、特に好ましくは30/70~90/10であってもよい。このような割合であれば耐熱性、難燃性に優れた難燃性断熱材を得ることができる。
【0037】
上記のような割合とし、必要に応じて硬化剤を添加し、キャスト(流延塗布)成型法、Tダイ押出し成型法、インフレーション成型法及びカレンダー成型法等の一般的なフィルムの成形方法により製造することができる。
【0038】
製造する難燃性断熱材の厚みは特に限定されるものではなく、その目的や用途に応じて適宜決定することができる。ただし、難燃性断熱材の厚みは、経済性や加工のし易さ等の観点から100mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1~50mm、さらに好ましくは0.3~30mmである。
【0039】
また、難燃性、断熱性、引張強度及び加工性等の観点から、嵩密度が0.01~10g/cm3の範囲内が好ましく、さらに0.05~8g/cm3の範囲内であることがより好ましく、さらに好ましくは0.08~5g/cm3、特に好ましくは0.1~3g/cm3の範囲内であることが望ましい。このように、難燃性断熱材の嵩密度を制御することによって、難燃性断熱材中の空気(酸素)の割合が一定範囲内に制御されて、優れた難燃性、断熱性及び引張強度が付与される。
【0040】
また、本発明の難燃性断熱材は、必要に応じて染料や顔料で着色されていてもよい。なお、本発明の難燃性断熱材には、その難燃性や引張強度を更に向上させるために必要に応じて、アクリル樹脂エマルジョン、リン酸エステル系難燃剤、ハロゲン系難燃剤または水和金属化合物などの公知の難燃剤を配合したアクリル樹脂エマルジョンあるいはアクリル樹脂溶液等をコーティング又は含浸させてもよい。
【0041】
また、本発明の難燃性断熱材には、難燃性と断熱性をさらに向上させるために無機バルーンやシリカナノ粒子を含有させてもよい。上記無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーンおよびガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。上記無機バルーンの平均粒子径は1μm以上、100μm以下が好ましく、3μm以上、70μm以下であることがより好ましい。
【0042】
上記シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカおよびエアロゲル等を使用することができる。シリカナノ粒子とは、球形あるいは球形に近い、平均粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーのシリカの粒子である。シリカナノ粒子の平均粒子径を1nm以上、100nm以下とすると、特に常温での温度領域において、断熱性をより一層向上させることができる。シリカナノ粒子の平均粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることがさらに好ましい。また、シリカナノ粒子の平均粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の難燃性断熱材には、目的に応じて各種の添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維、玄武岩繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリベンズチアゾール繊維、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、ポリアミドイミド繊維、耐炎繊維等の短繊維;有機リン系、チオエーテル系等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系等の光安定剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系等の紫外線吸収剤;帯電防止剤;ビスアミド系、ワックス系、有機金属塩系等の分散剤;アミド系、有機金属塩系等の滑剤;含臭素系有機系、リン酸系、メラミンシアヌレート系、三酸化アンチモン等の難燃剤;低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等の延伸助剤;有機顔料;無機顔料;無機充填剤;有機充填剤;金属イオン系等の無機抗菌剤、有機抗菌剤等が挙げられる。
【0044】
これら組成物の調製は、例えば、鱗片状マイカ粉末と無機バインダに対し、揮発性溶剤、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド等を投入して充分に混練し、これらを均一に分散させることによって行われる。上記混練は、例えば、高速分散機、縦型分散機、ニーダー、ボールミル、3本ロールミル、ジェットミル、インペラー等を用いて行うことができる。
【0045】
本発明の難燃性断熱材は、熱伝導率が0.20W/m・K以下であり、好ましくは0.15W/m・K以下であり、より好ましくは0.10W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.08W/m・K以下であり、特に好ましくは0.05W/m・K以下、最も好ましくは0.03W/m・Kである。上記熱伝導率が上記範囲にあれば、本発明の難燃性断熱材は、高い断熱性を発現し得る。
(実施例)
【0046】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における各特性値の測定方法は次の通りである。
(1)厚み:JIS L-1096に準拠して荷重を1kPaとして測定した。
(2)引張強度:JIS L-1096に準拠して縦方向の引張強度を測定した。引張強度は、加工性、耐久性および耐摩耗性の観点から0.5MPa以上の必要があり、5MPa以上が好ましく、10MPa以上がさらに好ましい。
(3)難燃試験:UL-94 5V平板状試験片垂直燃焼試験に準拠した。
(4)熱伝導度:JIS A-1412-2に準拠して測定した。
【0047】
鱗片状マイカの性状を表1に、無機バインダと硬化剤の詳細は表2~表4に示す。表1に示す鱗片状マイカ粉末である硬質マイカA~Cと軟質マイカAとは、ヤマグチマイカ社製であり、合成マイカAはトピー工業社製を用いた。
【0048】
【0049】
実施例1および実施例2で用いたシリコーン系バインダと硬化剤とは、信越シリコーン社製のKR-242Aと、その硬化剤はD-220を用いた。実施例3に示すシリカ系バインダは、東亜合成社製のアロンセラミックCを用いた。同じく実施例3のアルミナ系バインダは、東亜合成社製のアロンセラミックDを用いた。同じく実施例3のジルコニア・シリカ系バインダは、東亜合成社製のアロンセラミックEを用いた。同じく実施例3のポリウレタン系バインダは、大日精化工業社製のレザミンME-3412LPを用いた。
(実施例1)
【0050】
本実施例では、硬質マイカAとシリコーン系バインダおよびその硬化剤を用い、硬質マイカAとシリコーン系バインダの重量比を変化させた難燃性断熱材を作製して、特性評価を行った。表2に硬質マイカAとシリコーン系バインダとの重量比を示す。難燃性断熱材の製造は、硬質マイカA、シリコーン系バインダおよび硬化剤を表2に示す重量部とし、これにトルエンを180重量部とイソプロピルアルコールを60重量部とを加えて撹拌混合し、離型ライナー上に流延塗布し、乾燥(100℃×5分)、熱硬化(150℃×8時間)して厚さ0.5mmの難燃性断熱材を製造した。得られた難燃性断熱材の物性評価結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表2からわかるように、硬質マイカの混合量を、実施例1-1の40重量部から実施例1-4の93重量部まで混合した難燃性断熱材は、引張強度が12MPa~20MPaとなった。引張強度は、加工性、耐久性および耐摩耗性の観点から0.5MPa以上が要求され、5MPa以上が好ましく、10MPa以上であればさらに好ましい。本実施例では、12MPa以上あるので十分な耐久性や耐摩耗性を得ることができた。
【0053】
難燃性は、UL-94の5V平板状試験片垂直燃焼試験に準拠して調べたが、実施例1-1~実施例1-4までについては難燃性の基準を満たした。また、熱伝導率も実施例1-1~実施例1―4までについては、0.04W/m・K~0.9W/m・Kとなり目標値をクリアーした。
【0054】
比較例1-1は、引張強度と熱伝導率とは目標値をクリアーしたが、熱伝導率が0.4W/m・Kとなり目標値をクリアーしなかった。比較例1-2は、難燃性と熱伝導率とについては目標値をクリアーしたが、引張強度は0.3MPaとなり目標値をクリアーしなかった。
【0055】
これらの結果とさらに追加した試験結果から、硬質マイカAは20重量部~93重量部までの範囲で無機バインダと混合すれば、難燃性断熱材としての特性を満たすことがわかった。
(実施例2)
【0056】
本実施例では、硬質マイカAと比較するために硬質マイカAの代わりに、硬質マイカB、硬質マイカC、軟質マイカAおよび合成マイカAを用いた。これらのマイカ材料の混合割合は90重量部であり、無機バインダはシリコーン系バインダとD-220硬化剤とを用い、実施例1と同様の手順で難燃性断熱材を製作した。
【0057】
評価結果を表3に示す。実施例2-2の硬質マイカCを使用した難燃性断熱材は、熱伝導率が0.15W/m・Kとなったが、目標値はクリアーした。実施例2-4の合成マイカAを使用した難燃性断熱材は、熱伝導率が0.15W/m・Kで、引張強度が8MPaとなり、他の材料に比べると熱伝導率は大きく、引張強度はやや小さな値となったが、目標値は両方ともにクリアーした。
【0058】
この結果から、硬質マイカAに限定されず、硬質マイカC、軟質マイカAや合成マイカAなどを使用しても十分な特性を有する難燃性断熱材を製造できることがわかった。
【0059】
【0060】
本実施例では、無機バインダの材料についての比較を行った。マイカについては、硬質マイカAを90重量部とした。無機バインダは、シリコーン系バインダに代えて、シリカ系バインダ、アルミナ系バインダ、ジルコニア・シリカ系バインダおよびポリウレタン系バインダを用いた。硬化剤は使用せず、熱硬化条件を150℃×1時間とした以外は、実施例1と同様にして難燃性断熱材を製造した。作製した難燃性断熱材の物性評価結果を表4に示す。
【0061】
シリコーン系バインダを用いた実施例1-3に比べると、実施例3-1のシリカ系バインダ、実施例3-2のアルミナ系バインダ、および、実施例3-3のジルコニア・シリカ系バインダともに、引張強度がやや小さな値となったが、引張強度の目標値はいずれもクリアーした。また、難燃性も基準をクリアーし、熱伝導率も目標値をクリアーした。しかし、有機バインダであるポリウレタン系バインダを用いた比較例3-1は、引張強度と熱伝導率はクリアーしたが、難燃性については基準をクリアーしなかった。この結果から、硬質マイカAを用いても、有機バインダを使用すると難燃性の基準を満たすことができないことが確認できた。
【0062】
【0063】
図1は、本発明の難燃性断熱材を二次電池パックの断熱シートとして用いた状態を示す断面図である。本発明の二次電池パック10は、収納部13と、この収納部13内に固定された複数の電池セル11と、複数の電池セル11間に設けられた難燃性断熱シート12とを備えており、難燃性断熱シート12が本発明の難燃性断熱材を用いている。
【0064】
複数の電池セルのいずれかが何らかの原因で発熱し発火した場合であっても、それらを取り囲んで設けられている難燃性断熱シート12が他の電池セル11への熱伝導を防ぎ、発火を防止することができる。
【0065】
本発明の難燃性断熱材はシート状であるので、その目的や用途に合せて公知の方法等を適用して適宜な大きさ、形状等に加工することが容易である。したがって、種々の用途に用いることができる。
【0066】
特に、自動車の二次電池パックに使用した場合、二次電池セル、二次電池パックや二次電池モジュールから何らかの原因で発火した際に、火炎が延焼するのを防止することができるだけでなく、二次電池モジュールから外部への延焼も防ぐことができる。
【0067】
本発明の難燃性断熱材は、難燃性と断熱性とが求められる用途の全てに用いることができる。例えば、自動車、貨車等の車輌、航空機や船舶等の輸送用機器の内装材、土木・建築用の壁用部材、床用部材や天井用部材等の土木・建築用資材、冷凍コンテナ等の梱包材、寝装品、あるいは、吸音部材等に好適に使用することができる。
【0068】
その他、自動車の天井材、リアパッケージ、ドアトリム用途、自動車、電車や航空機などのダッシュボードのインシュレータ用途、各種の保温材、遮熱材、断熱材用途、消防用や高温作業用などの防護衣料、防護手袋、防護帽子などの用途、溶接現場の防護シート用途、防草材用途、スピーカー用振動板用途、電気カーペットの積層材用途等、幅広い用途に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の難燃性断熱材は、シート状であるので、柔軟で、必要な形状に打抜き加工が容易であり、かつ、難燃性と断熱性とを有するので遮熱や断熱性が要求される幅広い分野に有用である。
【符号の説明】
【0070】
10 二次電池パック
11 電池セル
12 難燃性断熱シート
13 収納部