(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036247
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20240308BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20240308BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20240308BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20240308BHJP
A61K 8/89 20060101ALI20240308BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/06
A61K8/31
A61K8/37
A61K8/89
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141078
(22)【出願日】2022-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】井岡 千紘
(72)【発明者】
【氏名】古勢 美緒
(72)【発明者】
【氏名】寺西 諒真
(72)【発明者】
【氏名】忍田 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】力丸 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】山崎 貴史
(72)【発明者】
【氏名】辻 俊一
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC011
4C083AC012
4C083AC022
4C083AC122
4C083AC302
4C083AC331
4C083AC352
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD151
4C083AD152
4C083AD172
4C083BB11
4C083BB32
4C083BB34
4C083CC05
4C083DD33
4C083EE06
4C083EE07
(57)【要約】
【課題】使用感に優れるとともに、良好な乳化安定性を有する水中油型乳化組成物を提供する。
【解決手段】下記の(a)から(c)の成分を含む水中油型乳化組成物によれば、乳化剤としての界面活性剤を実質的に用いることなく、乳化安定性に優れ、使用感も良好な水中油型乳化組成物提供することができる;
(a)疎水性モノマー単位を含む、カチオン性基を有する疎水性部、及び少なくとも下記式(I)で表される親水性モノマー単位を含む親水性部を有する重合体を含む粒子、(b)水、及び(c)油剤。
【化1】
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)から(c)の成分を含む水中油型乳化組成物;
(a)疎水性モノマー単位を含む、カチオン性基を有する疎水性部、及び少なくとも下記式(I)で表される親水性モノマー単位を含む親水性部を有する重合体を含む粒子、
(b)水、及び
(c)油剤。
【化1】
【請求項2】
前記油剤が、炭化水素油、シリコーン油及びエステル油から選択される一種又は二種以上である、請求項1に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項3】
前記水中油型乳化組成物中に占める、前記油剤の含有量が、55質量%以上80質量%以下である、請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項4】
前記水中油型乳化組成物が、実質的に、乳化剤としての界面活性剤を含まない、請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項5】
前記カチオン性基が、カチオン性ラジカル重合開始剤に由来する、請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項6】
前記カチオン性ラジカル重合開始剤が、2,2’-[ジアゼン-1,2-ジイルビス(プロパン-2,2-ジイル)]ビス(1,3-ジメチル-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム)=ジトリフルオロメタンスルホネート(ADIP)、2,2’-[ジアゼン-1,2-ジイルビス(プロパン-2,2-ジイル)]ビス(1,3-ジメチル-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム)=ジクロライド(ADIP-Cl)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド(V-50)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド(VA-044)及び2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](VA-061)からなる群から選択される一種又は二種以上である、請求項5に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項7】
前記親水性部が、さらに、下記式(II)で表されるモノマー単位を含み、前記式(I)で表されるモノマー単位の数、及び下記式(II)で表されるモノマー単位の数の総量に対する、前記式(I)で表されるモノマー単位の数の割合(けん化度)が70%以上99%以下である、請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた使用感を有する水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水中油型組成物や油中水型組成物のような、乳化組成物(エマルジョン)については、配合される界面活性剤の有する乳化作用により、水性成分と油性成分とが微細に混合され、安定に存在することが一般的である。このような乳化組成物は、日用品、パーソナルケア用品や、生体応用分野において、幅広く使用されている。しかしながら、乳化組成物中に界面活性剤を多量に使用した場合は、皮膚等の人体に直接適用した際に、べたつきや刺激性等の問題を引き起こし得る上、人体に吸収され得る界面活性剤については、人体への影響を懸念する消費者も少なくない。このため、乳化組成物においては、界面活性剤の使用量を極力低減することが望まれる。
【0003】
このような状況を背景に、水中油型乳化組成物において、界面活性剤以外の乳化作用を有する添加物の利用が試みられている。そのような試みの一つに、固体粒子を、油相と水相との界面付近に存在させることにより乳化された水中油型乳化組成物に注目が集まっている。
【0004】
図1は、界面活性剤によるエマルジョンと、上述の、固体粒子を、油相と水相との界面付近に存在させることにより乳化された水中油型乳化組成物(以下、「固体粒子により乳化された水中油型乳化組成物」ともいう)とを模式的に比較した図面である。本発明は如何なる理論にも拘束されるものではないが、一般に、固体粒子により乳化された水中油型乳化組成物は、ピッカリングエマルジョンと言われる場合もあり、鉱物粒子や、両親親媒性の有機系粒子が、水性又は油性の液滴の界面に存在し、当該液滴の構造が安定化された状態となっている、と推察される。
【0005】
上述のように、従来、界面活性剤を使用しない乳化組成物に対する要求が一定程度存在しているが、乳化剤としての界面活性剤を実質的に含まない水中油型組成物の一例としては、例えば、特許文献1に、(1)油相、(2)水相、及び(3)200nm未満の平均粒度を有する両親媒性の金属酸化物からなる群から選択される微細化無機顔料、を含む、水中油型組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された水中油型組成物は、無機顔料で乳化した水中油型組成物であり、使用する無機顔料に由来する異質な使用感が残存することが指摘されており、乳化安定性にも劣ることが指摘されていた。したがって、本発明は、以上の課題にかんがみてなされたものであり、使用感に優れるとともに、良好な乳化安定性を有する水中油型乳化組成物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題にかんがみ鋭意研究を行った。その結果、疎水性モノマー単位を含み、カチオン性基を有する疎水性部、及び所定の親水性モノマー単位を含む親水性部を有する重合体を含む粒子を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
本発明の第1の態様は、
下記の(a)から(c)の成分を含む水中油型乳化組成物である;
(a)疎水性モノマー単位を含む、カチオン性基を有する疎水性部、及び少なくとも下記式(I)で表される親水性モノマー単位を含む親水性部を有する重合体を含む粒子、(b)水、及び(c)油剤。
【化1】
【0011】
本発明の第2の態様は、上記油剤が、炭化水素油、シリコーン油及びエステル油から選択される一種又は二種以上である、第1の態様に記載の水中油型乳化組成物である。
【0012】
本発明の第3の態様は、上記水中油型乳化組成物中に占める、上記油剤の含有量が、55質量%以上80質量%以下である、第1又は2の態様に記載の水中油型乳化組成物である。
【0013】
本発明の第4の態様は、上記水中油型乳化組成物が、実質的に、乳化剤としての界面活性剤を含まない、第1から3のいずれかの態様に記載の水中油型乳化組成物である。
【0014】
本発明の第5の態様は、上記カチオン性基が、カチオン性ラジカル重合開始剤に由来する、第1から4のいずれかの態様に記載の水中油型乳化組成物である。
【0015】
本発明の第6の態様は、上記カチオン性ラジカル重合開始剤が、2,2’-[ジアゼン-1,2-ジイルビス(プロパン-2,2-ジイル)]ビス(1,3-ジメチル-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム)=ジトリフルオロメタンスルホネート(ADIP)、2,2’-[ジアゼン-1,2-ジイルビス(プロパン-2,2-ジイル)]ビス(1,3-ジメチル-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム)=ジクロライド(ADIP-Cl)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド(V-50)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド(VA-044)及び2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](VA-061)からなる群から選択される一種又は二種以上である、第1から5のいずれかの態様に記載の水中油型乳化組成物である。
【0016】
本発明の第7の態様は、上記親水性部が、さらに、下記式(II)で表されるモノマー単位を含み、上記式(I)で表されるモノマー単位の数、及び下記式(II)で表されるモノマー単位の数の総量に対する、上記式(I)で表されるモノマー単位の数の割合(けん化度)が70%以上99%以下である、第1から6のいずれかの態様に記載の水中油型乳化組成物である。
【化2】
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、乳化剤としての界面活性剤を実質的に用いることなく、乳化安定性に優れ、使用感も良好な水中油型乳化組成物提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】界面活性剤によるエマルジョンと、固体粒子によるエマルジョンの模式的比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面も参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、例示的な説明のために記載されるものであって、本実施形態における下記の説明は、特許請求の範囲の文言を限定するものと解釈されるべきではない。
【0020】
<水中油型乳化組成物>
本実施形態の水中油型乳化組成物は、(a)疎水性モノマー単位を含む、カチオン性基を有する疎水性部、及び少なくとも所定の親水性モノマー単位を含む親水性部を有する重合体を含む粒子、(b)水、及び(c)油剤を含む。本実施形態の水中油型乳化組成物は、塗布した後の質感も良好であるとともに、水中油型乳化組成物としての乳化安定性にも優れるので、特に、直接人体に接触する化粧品、医薬品等の分野で、汎用的に利用できる。本実施形態の水中油型乳化組成物は、塗布した後の使用感を良好にする観点から、乳化剤としての界面活性剤又は無機酸化物(通常、平均一次粒子径1nmから200nm程度の微細無機粒子)を実質的に含まないことが好ましい。なお、「実質的に含まない」とは、例えば、本実施形態の水中油乳化型組成物中に占める含有量が1質量%未満である。
【0021】
また、本実施形態の水中油型乳化組成物は、超音波処理装置やホモジェナイザー等の、工業的に強い外力を発生させる装置を使用せずに調製でき、分散状態の安定化のための加熱処理も必ずしも必要ではない。よって、本実施形態によれば、水中油型乳化組成物の調整時の環境負荷低減にも貢献することもできる。しなしながら、本発明は、超音波処理装置やホモジェナイザー等を用いて調製された水中油型乳化組成物も、その権利範囲に含まれるものである。
【0022】
[(a)粒子]
本実施形態の水中油型乳化組成物は、疎水性モノマー単位を含み、カチオン性基を有する疎水性部、及び所定の親水性モノマー単位を含む親水性部を有する重合体を含む粒子を含んでいる。なお、本実施形態の水中油型乳化組成物中に占める、粒子の含有量は、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上4.0質量%以下がより好ましい当該粒子の含有量が上記の範囲内であることにより、本実施形態の水中油型乳化組成物が、界面活性剤を実質的に用いなくても、乳化安定性を有するものとなる。
【0023】
(疎水性部)
上述のとおり、疎水性部は、疎水性モノマー単位を含むが、この「疎水性モノマー単位」としては、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーから得られるモノマー単位を挙げることができる。ここで、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとしては、分子内に炭素-炭素二重結合を有する、重合性のモノマーを挙げることができ、より具体的には、(メタ)アクリル酸系モノマー単位やスチレン系モノマー単位等を挙げることができる。
【0024】
ここで、(メタ)アクリル酸系モノマー単位としては、炭素数1以上6以下のアルキルエステル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルに由来するモノマー単位を挙げることができる。ここで、炭素数1以上6以下のアルキルエステル基としては、メチルエステル基、エチルエステル基、n-プロピルエステル基、n-ブチルエステル基、n-ペンチルエステル基、n-ヘキシルエステル基を挙げることができる。これらのアルキルエステル基は、必要に応じ、上記アルキルエステル基を構成するアルキル基の1以上の水素原子が水酸基により置換されていてもよい。上記アルキルエステル基としては、粒子の保存安定性を十分なものとする観点から、炭素数が1以上4以下のものがより好ましい。
【0025】
そのような(メタ)アクリル酸アルキルとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル(BMA)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)を使用することが好ましく、メタクリル酸メチルの使用がより好ましい。これらのモノマーを使用した場合、得られる粒子の保存安定性が向上するとともに、粒子の乳化能がより優れたものとなる。
【0026】
なお、(メタ)アクリル酸系モノマー単位がカルボキシル基等の酸性基を有する場合、当該カルボキシル基は塩の形態であってもよく、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩であってもよい。
【0027】
スチレン系モノマー単位としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、o-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン等を挙げることができる。これらの中でも、得られる粒子の保存安定性及び乳化能を十分なものとする観点から、スチレンを使用することが好ましい。
【0028】
以上のようなモノマーを用いて、疎水性モノマー単位を含み、カチオン性基を有する疎水性部を調製する場合、一般には、上記モノマーをラジカル重合すればよい。
【0029】
(カチオン性基)
本実施形態の水中油型乳化組成物に含まれる粒子の疎水性部が有するカチオン性基は、カチオン性ラジカル重合開始剤に由来するカチオン性基が一般的に想定されるが、カチオン性ラジカル重合開始剤に由来するカチオン性基のみに限定されるわけではなく、疎水性部の末端、又は疎水性部中に任意のカチオン性基を導入できる任意の化合物又は重合単位に由来するカチオン性基を挙げることができる。このようなカチオン性基の具体例としては、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、第四級アンモニウム基、イミダゾール基、イミダゾリウム基、ピリジル基、ピリジニウム基、ピペリジル基、ピペリジニウム基、ピロリジニル基、ピロリジニウム基、ホスホニウム基等を挙げることができる。しかしながら、本実施形態においては、特に、重合開始剤として、カチオン性ラジカル重合開始剤を用いて、疎水性モノマーを重合させることにより、疎水性部の末端に導入されるカチオン性基を、カチオン性基として採用することが特に好ましい。カチオン性ラジカル重合開始剤を用いることで、カチオン性ラジカル重合開始剤由来の末端構造が、疎水性部の末端のモノマー単位に共有結合的に結合した状態とすることができる。本実施形態においては、コア部が疎水性部を含み、コア部の表面又はその近傍にカチオン性基が配置されることで、粒子の乳化能が優れたものとなりうる。
【0030】
(カチオン性ラジカル重合開始剤)
本実施形態において使用できる、カチオン性ラジカル重合開始剤としては、重合後の安全性とラジカル重合開始剤としての反応性が両立されたものを、一般的に使用することができるが、より具体的には、2,2’-[ジアゼン-1,2-ジイルビス(プロパン-2,2-ジイル)]ビス(1,3-ジメチル-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム)=ジトリフルオロメタンスルホネート(ADIP)、2,2’-[ジアゼン-1,2-ジイルビス(プロパン-2,2-ジイル)]ビス(1,3-ジメチル-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-3-イウム)=ジクロライド(ADIP-Cl)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド(V-50、富士フイルム和光純薬株式会社製)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド(VA-044、富士フイルム和光純薬株式会社製)及び2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](VA-061、富士フイルム和光純薬株式会社製)からなる群から選択される一種又は二種以上を使用することが好ましい。これらのカチオン性ラジカル重合開始剤を用いることにより、得られる粒子の乳化能がより良好なものとなる。
【0031】
なお、本実施形態において使用できるラジカル重合開始剤としては、例えば、一般式(III)で表されるカチオン性ラジカル重合開始剤を挙げることができる。なお、下記のカチオン性ラジカル重合開始剤についての更なる詳細は、例えば、特開2017-051113号公報を参照されたい。当該文献の内容は、参照により本明細書の一部に組み込まれる。なお、一般式(III)により示されるカチオン性ラジカル重合開始剤の具体例としては、上述のADIPやADIP-Clを挙げることができるが、ADIPやADIP-Clを用いることにより、より温和な反応条件で本実施形態の水中油型乳化組成物に含まれる粒子を調製することができ、粒子の調製時における加熱等のダメージによる粒子の保存安定性の低下を抑制することもできる。また、ADIPやADIP-Clを用いることにより、上述のとおり、より温和な反応条件で本実施形態の水中油型乳化組成物に含まれる粒子を調製することができるから、合成時の環境負荷にも貢献し得る。
【化3】
[式中、
Yは、単結合又はCR
85を表し、
Zは、単結合又はCR
86を表し、
R
72、R
73、R
75、R
76、R
77、R
78、R
85及びR
86は、それぞれ独立して、水素原子、C
1-6アルキル、C
1-6アルコキシ、C
1-6アルキルカルボニル、フェニル、及びヒドロキシからなる群から選択され、ここで上記C
1-6アルキル、C
1-6アルコキシ、C
1-6アルキルカルボニル、及びフェニルは、さらにC
1-6アルキル、C
1-6アルコキシ、C
1-6アルキルカルボニル、フェニル、及びヒドロキシからなる群から選択される1又は2個の置換基で置換されていてもよく
R
72及びR
73は、さらに、それぞれ独立して、アダマンチル、又はSi(OCH
3)
2(CH
3)で置換されたC
1-6アルキルを表してもよく、あるいは、R
75及びR
76、又はR
77及びR
78は、一緒になって-(CH
2)
3-5-を形成してもよく、
R
81、R
82、R
83、及びR
84は、C
1-4アルキル、C
1-4アルキルカルボニル、及びC
1-3アルコキシからなる群から選択される置換基であり、ここで上記C
1-4アルキルは一つのC
1-3アルコキシ基で置換されていてもよく、及び
R
71及びR
74は、それぞれ独立して、C
1-3アルキル基であり、X
f
-はカウンターアニオンである]
【0032】
上記式(III)のカチオン性ラジカル重合開始剤における「カウンターアニオン」とは、有機化学の技術分野で有機化合物のカウンターアニオンとして通常用いられるアニオンであれば特に制限されず、例えば、ハロゲン化物アニオン(塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン)、有機酸の共役塩基(例えば酢酸イオン、クエン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン)、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン等が含まれる。本実施形態において好ましいカウンターアニオンとしては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(トリフレート)、塩化物イオン、硝酸イオン等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態の水中油型乳化組成物の乳化安定性を著しく向上させ、本実施形態の水中油型乳化組成物に含まれる粒子の調製の際における当該粒子の収率を高め、製造コストを改善できるという観点から、塩化物イオン、酢酸イオン及びクエン酸イオンが好ましく、塩化物イオンがより好ましい。
【0033】
(親水性部)
本実施形態の水中油型乳化組成物に含まれる粒子が備える親水性部は、より具体的には、下記式(I)で表される親水性モノマー単位を含むものである。
【化4】
【0034】
なお、上記式(I)で表される親水性モノマー単位は、特に限定されるものではないが、一般には、酢酸ビニルをラジカル重合反応により重合し、酢酸エステル基を加水分解(けん化)することにより得ることができる。このため、本実施形態においては、親水性部は、上記式(I)で表される親水性モノマー単位を必ず有しているものの、上記親水性部のすべてのモノマー単位が上記式(I)で表されるものに限定されるものではない。より具体的に、上記親水性部は、酢酸ビニルから誘導される、下記式(II)で表されるモノマー単位と、上記式(I)で表されるモノマー単位と、を含み、下記式(II)で表されるモノマー単位中の酢酸基、及び上記式(I)で表されるモノマー単位中の水酸基の合計数に対する、上記水酸基の割合(本発明において、簡易的に、「けん化度」と言及することがある)が、粒子の保存安定性及び乳化能を高めるともに、この粒子を用いて形成される水中油型乳化組成物の乳化安定性を良好なものとする観点から、70%以上99%以下であることが好ましく、75%以上98%以下であることがより好ましく、78%以上96%以下であることが更に好ましい。この「けん化度」を調整することにより、上記粒子の親水性部における親水性の度合いが調整されるため、上記「けん化度」は、本実施形態の水中油型乳化組成物の使用目的に応じ、適宜、調整することが好ましい。
【化5】
【0035】
(粒子のコア部)
本実施形態の水中油型乳化組成物に含まれる粒子は、少なくとも表面に、有機系の基が露出したものであるが、そのコア部は、有機系のもののみからなっていてもよいが、そのような有機系の基のみからなるものに限定されず、無機系の材料を含んでいてもよい。本実施形態の水中油型乳化組成物に含まれる粒子のコア部が無機系の材料を含む場合、コア部に無機物質の表面に疎水性モノマー単位を含む重合体を結合又は会合させることが挙げられる。
【0036】
(架橋性モノマー)
コア部を構成する有機系のモノマー単位としては、架橋性のモノマー単位を用いてもよいが、そのような態様においては、本実施形態の水中油型乳化組成物に含まれる粒子を調製するモノマーの一つとして、架橋性モノマーを部分的に使用してもよい。そのような架橋性モノマーの具体例としては、分子中に2以上のエチレン性不飽和二重結合を含むモノマーであって、架橋剤として通常使用されているものを挙げることができる。しかしながら、本実施形態において、そのような架橋性モノマーを使用しなくてもよく、使用する場合には、粒子の保存安定性を十分なものとする観点から、疎水性部を構成するモノマー、親水性部を構成するモノマーに対し、それぞれモル換算で、通常0.1%以上20%以下、好ましくは3%以上10%以下、より好ましくは5%以下の範囲でその含有量を設定できる。このような架橋性モノマーの具体的な例としては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-エチレンビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド、N,N’-エチレンビスメタクリルアミド、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。
【0037】
(疎水性部と親水性部の組み合わせ態様)
上記粒子は、疎水性部及び親水性部を有する重合体を含む。上記粒子においては、粒子による乳化能をより良好なものとする観点から、粒子のコア部の表面が疎水性であり、その一部又は全部が親水性モノマー又はその重合体によって直接又は間接的に被覆されることが好ましい。より具体的には、疎水性モノマー単位と、親水性モノマー単位とが、共有結合により結合していてもよいし(「直接的に被覆される」態様)、疎水性モノマー単位と、親水性モノマー単位とが、分子間力により結合してもよい(「間接的に被覆される」態様)。
【0038】
また、疎水性モノマー単位と、親水性モノマー単位とが、共有結合により結合している場合、両者が共有結合した重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、グラフト共重合体であってもよいが、特にグラフト共重合体である場合には粒子の保存安定性がより良好なものとなるため、疎水性モノマー単位と、親水性モノマー単位とが共有結合した重合体はグラフト共重合体であることがより好ましい。
【0039】
さらに、疎水性モノマー単位と、親水性モノマー単位とが、分子間力により結合している場合、分子間力による結合は、粒子の保存安定性及び粒子による乳化能をより良好なものとする観点から、加熱処理によりもたらされるものであることが好ましい。この場合の加熱処理としては、例えば、20℃以上100℃以下、より具体的には、30℃以上80℃以下の温度で、30分以上480分以下の加熱処理を例示することができる。
【0040】
なお、上記の粒子は、疎水性モノマー単位と、親水性モノマー単位とが、共有結合のみで結合している粒子や、分子間力のみにより結合している粒子のみに限定されず、一部の疎水性モノマー単位が、共有結合により親水性モノマー単位と結合し、残る疎水性モノマー単位が、分子間力により、親水性モノマー単位と結合していてもよい。親水性モノマー単位と、共有結合により結合する疎水性モノマー単位の存在割合は、粒子による乳化能を良好なものとする観点から、親水性モノマー単位と結合する疎水性モノマー単位の全体に対して、10%以上90%以下であることが好ましく、30%以上70%以下であることがより好ましく、40%以上60%以下であることが更に好ましい。
【0041】
以上に説明した態様において、本実施形態の水中油型乳化組成物の乳化安定性を良好なものとする観点から、疎水性部及び親水性部の存在割合は、疎水性部に対応する質量100質量部に対して、親水性部に対応する質量が1質量部以上6質量部以下相当であることが好ましく、3質量部以上4質量部以下であることがより好ましい。
【0042】
(キュムラント平均径)
上記の粒子のキュムラント平均径は、当該粒子を含む分散体において、分散媒中でブラウン運動をする粒子からの散乱光強度を測定し、その強度の時間的変動から算出されるものである(動的光散乱法)。本実施形態の粒子のキュムラント平均径は、粒子の保存安定性を高め、粒子による乳化能を良好なものとし、及び乳化組成物の乳化安定性を高める観点から、100nm以上500nm以下であることが好ましく、150nm以上450nm以下であることがより好ましい。
【0043】
[(b)水]
本実施形態の水中油型乳化組成物は、水を含む。また、水に相溶性のある水性溶媒や、水溶性の溶質を適宜添加して水性溶液としてもよい。ここで、「水性溶液」とは、所定の溶質を、水及び/又は水と相溶性を有する溶媒に溶解させた溶液を指す。水と相溶性を有する溶媒としては、特に限定されるものではないが、アルコール系溶媒等を挙げることができる。より具体的には、アルコール系溶媒としては、グリセリン、ジグリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ペンチレングリコール等を挙げることができる。これらの中でも、特に、アルコール系溶媒と水の混合溶媒を用いることが好ましく、1,3-ブチレングリコールと水の混合溶媒を用いることがより好ましい。
【0044】
[(c)油剤]
本実施形態の水中油型乳化組成物は、油剤を含む。なお、本実施形態の水中油型乳化組成物中に占める、油剤の含有量は、55質量%以上80質量%以下であることが好ましく、60質量%以上75質量%以下がより好ましい。油剤の含有量が上記の範囲内のものであることにより、乳化安定性を十分に保ちつつも、水中油型乳化組成物の使用感を良好なものとすることができる。上記油剤は、化粧料等に通常用いられるものであれば、その性状や種類等は特に限定されないが、乳化安定性と使用性の観点から、炭化水素油、シリコーン油及びエステル油から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。
【0045】
より具体的には、炭化水素油としては、ミネラルオイル、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、水添ポリデセン及び水添ポリイソブテンからなる群から選ばれる一種又は二種以上を使用することができる。シリコーン油としては、鎖状ポリシロキサン及び/又は環状ポリシロキサンを使用することができ、鎖状ポリシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンとしては、シクロヘキサシロキサン、シクロペンタシロキサン等を挙げることができる。エステル油としては、エチルヘキサン酸セチル、ジイソノナン酸1,3-ブチレングリコール、ジ2-エチルヘキサン酸1,3-ブチレングリコール、ジイソノナン酸ジプロピレングリコール、ジ2-エチルヘキサン酸ジプロピレングリコール、イソノナン酸イソノニル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、パルミチン酸エチルヘキシル、ネオペンタン酸イソステアリル、ステアロイルオキシステアリン酸オクチルドデシル及びホホバ油からなる群から選ばれる一種又は二種以上を使用することができる。
【0046】
上記に列挙した油剤のうち、どの油剤を使用するか、については、本実施形態の水中油型乳化組成物の用途、想定される使用量や使用状況に応じ、適宜決定することができ、必要に応じて、複数カテゴリーに由来してもよい、複数種の油剤を組み合わせて使用することもできる。しかしながら、これらの中でも、本実施形態の水中油型乳化組成物の乳化安定性を高め、使用感を良好にする観点からは、特に、スクワラン、シクロペンタシロキサン、パルミチン酸エチルヘキシル及びステアロイルオキシステアリン酸オクチルドデシルからなる群から選ばれる一種又は二種以上を使用することが好ましい。
【0047】
[その他の添加剤]
本実施形態の水中油型乳化組成物は、当該組成物の用途に応じ、必要に応じて加えられてもよい各種有効成分(例えば、化粧品有効成分用成分;美白剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、血行促進剤、皮膚収斂剤、抗脂漏剤等)に加え、任意成分として、当該用途に慣用される各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜含有してもよい。当該添加剤としては、例えば、酸化防止剤、防錆剤、ゲル化剤、分散剤、増粘剤、アルコール、エーテル、pH調整剤、安定剤、殺菌剤、防黴剤、防腐剤、着色剤、キレート剤、保湿剤、パール剤、香料、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等が挙げられる。
【0048】
<粒子の製造方法>
本実施形態の水中油型乳化組成物に用いられる、上記粒子の製造方法としては、特に限定されず、疎水性モノマー及び上記親水性モノマーをそれぞれ別々に又は逐次的に重合して(即ち、疎水性モノマーとは別に上記親水性モノマーを重合する;又は疎水性モノマーの重合の完了後に上記親水性モノマーを重合することにより)、粒子化すること等が挙げられる。上記粒子の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す粒子化工程を有し、修飾工程やその他の工程を含んでいてもよい。
【0049】
[(1)粒子化工程]
上記粒子化工程としては、特に限定されるものではいが、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法等、例えば、疎水性モノマー等のモノマー成分を重合しながら粒子化する工程を挙げることができる。なお、この重合の際には、乳化剤の存在下で重合反応が行われることが好ましい。また、上記の粒子化工程は、溶液重合法等によりモノマー成分を重合した後、得られた反応生成物を転相乳化法、懸濁法等により粒子化する工程であってもよい。
【0050】
しかしながら、製造における煩雑さを低減するという観点からは、モノマー成分を重合しながら粒子化する工程が好ましく、乳化重合法、懸濁重合法又は分散重合法がより好ましく、乳化重合法がさらにより好ましい。さらに、乳化重合法の中でも、コア部となる疎水性部の表面に乳化剤などの不純物が混入せず、後続してもよい下記修飾工程に影響を及ぼしにくいという観点から、ソープフリー乳化重合法を採用することが好ましい。このソープフリー乳化重合法の具体的実施手法については、特に限定されず、公知の方法で実施することができる。例えば、界面活性剤、高分子型乳化剤、反応型界面活性剤等の乳化剤を用いずに、モノマー成分を、重合開始剤の存在下で、乳化重合すること等により行うことができる。
【0051】
粒子化工程において、用いる溶媒は、特に限定されないが、水性媒体等が挙げられる。粒子化工程において用いる水性媒体は、粒子の保存安定性を高める観点から、水又はアルコールを含んでいてもよい。粒子化工程を実施する際の反応温度は、溶媒の沸点以下の温度に設定されることが好ましい。
【0052】
[(2)修飾工程]
上記の修飾工程においては、例えば、疎水性部表面の一部又は全部を、親水性モノマー、又は上記親水性モノマーの重合体によって直接的又は間接的に被覆する。或いは、上記の修飾工程においては、例えば、重合した疎水性モノマーと、重合した上記親水性モノマーと、を結合又は会合させる。
【0053】
疎水性部の表面を、上記親水性モノマー等によって、直接に被覆する態様としては、例えば、疎水性部表面に存在する疎水性モノマー単位と、上記親水性モノマー単位とを、共有結合により結合させる態様を挙げることができ、より具体的には、コア部の表面に存在する疎水性モノマー単位に由来する原子団に対して、上記親水性モノマーの重合体に由来する原子団を共有結合させる態様や、コア部の表面に存在する疎水性モノマー単位に由来する原子団に対して、親水性モノマーである酢酸ビニルを共有結合させ、これに酢酸ビニルを更に重合させた後、ポリ酢酸ビニル部分のエステル加水分解を行ってけん化し、親水性部として形成させる態様がある。しかしながら、疎水性部の表面を、上記親水性モノマー等によって、直接に被覆する態様としては、乳化能を良好なものとする観点から、上記親水性モノマー単位を含む重合体を、コア部の表面に存在する疎水性モノマー単位に由来する原子団に対して共有結合させる態様を採用することが好ましく、上記親水性モノマー単位を含む重合体がポリビニルアルコールであることがより好ましく、共有結合はラジカル重合開始剤を用いたラジカル反応により形成される炭素-炭素共有結合等であることが更に好ましい。
【0054】
疎水性部の表面を、上記親水性モノマー等によって、間接的に被覆する態様としては、例えば、コア部(疎水性部)表面に存在する疎水性モノマー単位に含まれる原子団と、上記親水性モノマー単位に含まれる原子団とを、分子間力や製電気的相互作用等により相互作用させる態様が挙げられる。この際、結果的に疎水性部と上記親水性部とが相互作用をすることになるため、両者の相互作用をより容易なものとするため、疎水性部及び/又は上記親水性部に、任意の官能基や原子団を導入してもよい。疎水性部表面に存在する疎水性モノマー単位に含まれる原子団と、上記親水性モノマー単位に含まれる原子団とを、分子間力や製電気的相互作用等により相互作用させるための方法としては、(1)粒子化工程で得られた粒子に対して、上記親水性モノマー単位を含む重合体を添加し、必要に応じて任意の官能基・原子団を導入しつつ、混合液の温度、圧力、濃度条件等を適宜設定する方法を採用することが好ましく、混合液の加温、加圧、又は濃縮を行うことがより好ましい。
【0055】
[その他の工程]
上記粒子の製造方法は、(1)粒子化工程、及び(2)修飾工程以外にその他の工程を有していてもよい。付加される「その他の工程」は、特に限定はされないが、洗浄工程、濃縮工程、及び乾燥工程等が挙げられる。例えば、洗浄工程、濃縮工程、及び乾燥工程は、(1)粒子化工程、及び(2)修飾工程の少なくとも一方の工程の中に、組み込まれていてもよいし、(時間的又は空間的に)(1)粒子化工程、及び(2)修飾工程から独立していてもよい。
【0056】
上記粒子の製造方法は、得られる粒子を含む組成物の刺激性を低減するため、洗浄工程を有していることが好ましい。洗浄工程に用いられる媒体としては、特に限定されず、水性媒体を用いることができる。洗浄工程は、例えば、粒子化工程に用いられる反応溶媒が水性媒体の場合には、上記粒子を遠心分離により沈降させ、その上清を除去した後に、上記水性媒体を加えて再分散を行う操作を繰り返すこと等により行うことができる。また、粒子化工程に用いられる反応溶媒が有機溶媒の場合には、ブライン等、塩を添加した水性媒体を反応溶媒に混合して攪拌し、分液漏斗等を用いて、水相と有機相とを分離することにより行ってもよい。上記粒子の製造方法が、洗浄工程を有することにより、媒体中の未反応のラジカル重合開始剤やその分解生成物、未反応モノマーの残存量を低減(例えば、それらの各濃度を100ppm未満とする)することができる。
【0057】
上記粒子の製造方法は、粒子の有する乳化能を十分に発揮させる観点から、組成物中の粒子の濃度を高めるための濃縮工程を有していることが好ましい。特に限定されるものではないが、この濃縮工程は、上記粒子を遠心分離により沈降させ、その上清を除去した後に、除去した上清の質量及び/又は体積よりも少量の媒体を加えて再分散を行うことにより実施してもよく、上記粒子を乾燥により粉末とした後に、乾燥により除去した媒体の質量及び/又は体積よりも少量の媒体を加えて再分散を行うこと等により実施してもよい。
【0058】
また、上記粒子の製造方法は、上記粒子の状態を粉末状態にするために、乾燥工程を有することが好ましい。当該乾燥工程は、上記粒子が含まれる媒体を蒸発させて乾燥等させることにより実施することができる。乾燥工程において採用する具体的手法としては、特に限定されず、熱風乾燥、赤外線乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
【0059】
なお、上記粒子の製造方法は、粒子化工程の一段階のみを有していてもよいが、粒子化工程以外にも他の工程を含む多工程の製造方法としてもよい。
【0060】
上記粒子の製造方法を粒子化工程の一工程のみを有する方法とする場合には、粒子化工程中において、適宜、疎水性部の修飾等を行うことで、上記粒子のコア部の表面が疎水性となるように構成しつつ、コア部の表面の一部又は全部を親水性モノマー等により、直接的又は間接的に被覆することが好ましい。
【0061】
上記粒子の製造方法を粒子化工程も含めた多工程を有する方法とする場合には、粒子の保存安定性を高め、粒子による乳化能を十分なものとする観点から、(1)粒子化工程と、(2)修飾工程とを含む二工程の方法とすることが好ましい。また、上記粒子の製造方法を粒子化工程も含めた多工程を有する方法とする場合、その他の工程を一工程又は複数工程含む、三工程以上の方法としてもよいが、それぞれの工程の順序は問わず、各工程を、複数回重複させて実施してもよい。上記粒子の製造方法を、(1)粒子化工程と(2)修飾工程とを含む二工程以上の方法とする場合には、(1)粒子化工程において、疎水性部(コア部)を形成し、(2)修飾工程において、その疎水性部(コア部)表面の一部又は全部を親水性モノマー等によって、直接的又は間接的に被覆することが好ましい。
【0062】
なお、より具体的な粒子の製造方法については、以下の実施例に詳細に開示される。
【0063】
<水中油型乳化組成物の用途>
本実施形態の水中油型乳化組成物の用途は、特に限定されるものではなく、化粧品、医薬品、医薬部外品、インキ(筆記具等の文具に含まれるインキや顔料分散体も含む)、塗料等として使用できる。本実施形態の水中油型乳化組成物は、上記用途に応じて、各種主成分/有効成分、及び各種添加剤を適宜組み合わせて配合することができる。
【0064】
本実施形態の水中油型乳化組成物が、例えば、化粧品、医薬品又は医薬部外品の場合においては、当該組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常、慣用される各種添加剤を配合することができる。そのような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、ゲル化剤、増粘剤、アルコール、エーテル、pH調整剤、安定剤、殺菌剤、防黴剤、防腐剤、着色剤、キレート剤、保湿剤、パール剤、香料、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等が挙げられる。
【0065】
なお、念のため、本実施形態の水中油型乳化組成物を化粧品として用いる場合について言及すれば、化粧品有効成分としては、各種の美肌用成分(例えば、美白剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、血行促進剤、皮膚収斂剤、抗脂漏剤等)が挙げられる。
【実施例0066】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、例示による説明のために記載されたものであり、本発明の内容は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
<製造例1;PMMA-PVA分散体1の合成>
300mL邪魔板付きセパラブルフラスコに、メタクリル酸メチル(MMA)を42g加え、アルゴン置換した純水(商品名:Elix Essential UV[Merck Millipore社製]によって精製された水;以下、単に「Elix水」と言及することがある。また、Elix水の比抵抗は5MΩ・cm以上となる。)を166g加えた。密閉攪拌装置(商品名:UZ-SM1、中村科学器械工業株式会社製)及びマントルヒーターにより450rpmで攪拌しながら80℃になるまで加温した。カチオン性ラジカル重合開始剤として、カウンターアニオンが塩化物イオンであるADIP(以下、ADIP-Clという)0.36gを2gのElix水に溶解し全量を加えた。6時間攪拌することで、PMMA分散体を得た。
【0068】
300mL邪魔板付きセパラブルフラスコに、上記PMMA分散体を最終固形分質量が30gとなるように加え、さらに、ポリビニルアルコール(けん化度:86%から89%、重合度:500)を15g加え、全体質量が198gとなるようにElix水を加えた。その後、攪拌速度450rpmで攪拌しながら溶液を60℃まで昇温した。次いで、ADIP-Cl 0.20gを2gのElix水に溶解し全量を加えて、60℃、攪拌速度450rpmで3時間攪拌することで、PMMA-PVA分散体1を得た。
【0069】
<製造例2;PMMA-PVA分散体2の合成>
30mLの透明ガラスバイアル(商品名:SV-30、日電理化硝子株式会社製)に、メタクリル酸メチル(MMA)を4.5g加え、アルゴン置換したElix水を合計容量が29mLになるように加えた。カチオン性ラジカル重合開始剤として、カウンターアニオンが塩化物イオンであるADIP(以下、ADIP-Clという)のメタノール(MeOH)溶液1mL(23mg ADIP-Cl、2mM)を加えて、60℃の湯浴中で14時間強力撹拌子を用いて攪拌することで、PMMA分散体を得た。
【0070】
300mL邪魔板付きセパラブルフラスコに、上記PMMA分散体を最終固形分質量が4.8gとなるように加え、さらに、ポリビニルアルコール(けん化度:86%から89%、重合度:500)を2.7g加え、全体質量が199gとなるようにElix水を加えた。その後、攪拌速度450rpmで攪拌しながら溶液を60℃まで昇温した。次いで、ADIP-Cl水溶液を1mL(38mg ADIP-Cl、3.3mM)加えて、60℃において攪攪拌速度450rpmで3時間攪拌することで、PMMA-PVA分散体を得た。
【0071】
50mLヌンクチューブに20mLの上記PMMA-PVA分散体を分注し、遠心分離機(商品名:MX-305、株式会社トミー精工製、ローター:AR510-04)を用いて15,300×g、15分間の条件で遠心分離した。上清を取り除き20mLのElix水を加えた後にボルテックスミキサーで沈降物が均一に分散するまで混合攪拌した。上記操作を3回繰り返すことで洗浄とした。3回洗浄後のサンプルを再度遠心分離したのちに、固形分質量が25質量%をとなるよう、Elix水を加えて再分散させて、PMMA-PVA濃縮分散体2を得た。
【0072】
<実験例1;水中油型乳化組成物の調製>
表1に示す配合(数値は質量%)にて、水性成分として、PMMA-PVA分散体1、Elix水、1,3-ブチレングリコール(BG)を均一に混合し、水相組成物を得た。そこにシクロペンタシロキサン(製品名:KF-995、信越化学工業株式会社製)を加えた後に、室温にてホモミキサーで4、500rpmで1分間攪拌した。攪拌終了1分後の性状外観観察により、相分離等は認められず、乳化されたことが確認された。
【0073】
<実験例2>
PMMA-PVA分散体1に変えて、PMMA-PVA分散体2を最終の固形分質量が1.6質量%となるように使用し、各成分の量を表1Aのとおりに変更した点以外は、実験例1に準じ、実験例2の水中油型乳化組成物を調製した。
【0074】
<実験例3から6>
表1Aに示すように、PMMA-PVA分散体1に変えて、PMMA-PVA分散体2を最終の固形分質量が1.6質量%となるように使用し、Elix水の配合量を18.4質量%に変更し、油剤として、それぞれ70質量%の、ミネラルオイル(製品名;モレスコホワイトP-70、株式会社MORESCO社製)、スクワラン(製品名;NIKKOL シュガースクワラン、日光ケミカルズ株式会社製)、ステアロイルオキシステアリン酸オクチルドデシル(製品名;リソカスタ ODSHS、高級アルコール工業株式会社製)、パルミチン酸エチルヘキシル(製品名;CRODAMOL OP-LQ-(JP)、クローダジャバン株式会社製)を用いた点以外は、実験例1に準じ、実験例3から6の水中油型乳化組成物を調製した。
【0075】
<実験例7から9>
各成分の量を表1Bのとおりに変更した点以外は、実験例1に準じ、実験例7から9の水中油型乳化組成物を調製した。
【0076】
<実験例10から12>
電解質として、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウムを、それぞれ表1Cに示したとおりに添加した点以外は、実験例1に準じ、実験例10から12の水中油型乳化組成物を調製した。
【0077】
<比較実験例1及び2>
PMMA-PVA分散体1に変えて、シリル化シリカ(製品名:AEROSIL VPNX200、日本アエロジル株式会社製)を表1Dのとおりに変更した点以外は、実験例1に準じ、比較実験例1及び2の水中油型乳化組成物を調製した。
【0078】
<評価>
以上の実験例1から12において調製した水中油型乳化組成物について、初期粘度及び経時粘度、乳化性、乳化安定性、並びに使用感を以下の手法で評価した。
【0079】
[初期粘度及び経時粘度]
得られた水中油型乳化組成物を透明なガラス軽量規格6K瓶に充填後25℃又は50℃に保存し、当日の粘度(25℃のみ)並びに1週後及び2週後の粘度を、B型粘度計(4号ローター、12rpm、30秒、25℃)で測定した。表中の単位はmPasである。
【0080】
[乳化性]
得られた水中油型乳化組成物の油剤と水の混和状態を下記の基準により目視評価した。
〇;良好に乳化している
△;表面に油性成分のにじみがある又は油滴が少し浮いている
×;完全分離または明らかな油滴がある
【0081】
[乳化安定性]
得られた水中油型乳化組成物の経時での乳化安定性を確認するため、室温、及び50℃の恒温室に3ヶ月間静置保管し、外観変化を以下の基準で判定した。なお、下記の評価基準の「分離」とは、静置後、乳化層中の油分が分離してしまっている状態をいう。「固化」とは、静置後、乳化層の一部または全部が固化し、流動性がない状態をいう。なお、乳化性の評価が×だったものは評価を行わなかった。
(評価基準)
〇:問題なし(分離、又は固化がない)
△:極めて軽微な分離又は、若干流動性が低下して固化の傾向が認められる
×:あきらかな分離又は、あきらかな固化のいずれかが発生
【0082】
[使用感]
訓練された、5人の専門パネラーに、実験例及び比較実験例の水中油型乳化組成物を前腕内側部に0.5g塗布してもらい、塗布後の使用感を以下の基準に基づいて評価した。各パネラー間の合議にて、使用感の判定を行った。なお、乳化性の評価が×だったものは評価を行わなかった。
(評価基準)
〇;べたつかず、滑らかな感触である
△:ややべたつく
×;べたつく
【0083】
【0084】
以上の結果を検討すれば、製造例1及び2に記載の粒子を用いた実験例1から12の水中油型乳化組成物では、水相と油相が良好に乳化されて、安定に存在し、離油することもなかった。また、経時での粘度の変化も軽微であり、実使用において問題ない範囲であった。このような特性に対応して、実験例1から12の水中油型乳化組成物では、その使用感も良好なものとなった。一方、製造例1及び2に記載の粒子に代えて、シリル化シリカを用いた比較実験例1及び2では、離油が生じ、十分な乳化がなされず、状態も不安定で、実際の使用に耐えるものではなかった。