(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003626
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】プログラム、劣化推定方法、劣化推定装置及び変圧器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20240105BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20240105BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240105BHJP
G06Q 10/20 20230101ALN20240105BHJP
【FI】
H01F27/00 B
H01F27/00 H
H01F41/00 D
G01M99/00 Z
G06Q10/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102897
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】514105011
【氏名又は名称】株式会社東光高岳
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】出井 和弘
(72)【発明者】
【氏名】栗原 二三夫
【テーマコード(参考)】
2G024
5E059
5L049
【Fターム(参考)】
2G024AD28
2G024BA12
2G024CA17
2G024CA24
2G024FA06
2G024FA15
5E059BB15
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】変圧器の劣化状態を容易に推定することができるプログラム等を提供する。
【解決手段】プログラムは、変圧器に設けられた油温センサから得られる前記変圧器内の絶縁油に係る油温と、前記変圧器に設けられた水分量センサから得られる前記絶縁油中の水分量とを含む検出データを複数取得し、取得した複数の検出データに基づき前記油温の変化と前記水分量の変化との間の関係を表すパラメータを特定し、特定したパラメータと変圧器の劣化度との相関関係に基づき前記変圧器の劣化状態を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器に設けられた油温センサから得られる前記変圧器内の絶縁油に係る油温と、前記変圧器に設けられた水分量センサから得られる前記絶縁油中の水分量とを含む検出データを複数取得し、
取得した複数の検出データに基づき前記油温の変化と前記水分量の変化との間の関係を表すパラメータを特定し、
特定したパラメータと変圧器の劣化度との相関関係に基づき前記変圧器の劣化状態を推定する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項2】
前記パラメータは、前記油温の変化と前記水分量の変化との間の関係を表す関数式における係数である
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記油温及び前記水分量のプロットに対する近似を実行することにより前記パラメータを特定する
請求項1又は請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
取得した複数の検出データのうち前記油温又は前記水分量が所定値未満である検出データを除去する
請求項1又は請求項2に記載のプログラム。
【請求項5】
前記絶縁油中における劣化指標成分に関する所定の劣化基準値を前記劣化度の最大値とする
請求項1又は請求項2に記載のプログラム。
【請求項6】
前記絶縁油中における劣化指標成分はCO2+CO又はフラン類を含む
請求項4に記載のプログラム。
【請求項7】
複数の変圧器に対する前記検出データを取得し、
取得した前記複数の変圧器に対する前記検出データに基づき前記相関関係を導出する
請求項1又は請求項2に記載のプログラム。
【請求項8】
変圧器に設けられた油温センサから得られる前記変圧器内の絶縁油に係る油温と、前記変圧器に設けられた水分量センサから得られる前記絶縁油中の水分量とを含む検出データを複数取得し、
取得した複数の検出データに基づき前記油温の変化と前記水分量の変化との間の関係を表すパラメータを特定し、
特定したパラメータと変圧器の劣化度との相関関係に基づき前記変圧器の劣化状態を推定する
処理をコンピュータが実行する劣化推定方法。
【請求項9】
変圧器に設けられた油温センサから得られる前記変圧器内の絶縁油に係る油温と、前記変圧器に設けられた水分量センサから得られる前記絶縁油中の水分量とを含む検出データを複数取得し、
取得した複数の検出データに基づき前記油温の変化と前記水分量の変化との間の関係を表すパラメータを特定し、
特定したパラメータと変圧器の劣化度との相関関係に基づき前記変圧器の劣化状態を推定する
処理を実行する制御部を備える
劣化推定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の劣化推定装置を備える、変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム、劣化推定方法、劣化推定装置及び変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、受変電機器の高経年化に伴い機器メンテナンスの重要性や高度化への要求が高まっている。そこで受変電機器の状態監視や状態変化のメカニズムに基づく診断又は解析に関する技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、変圧器に用いられる絶縁油の温度及び水分量の経時データに基づいて、変圧器に用いられる絶縁紙の平均重合度(以下、重合度と称する)を推定し、重合度から変圧器の劣化を評価する診断システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の診断システムは、変圧器の劣化状態を容易に推定するという観点において改善の余地がある。
【0006】
本開示の目的は、変圧器の劣化状態を容易に推定することができるプログラム等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るプログラムは、変圧器に設けられた油温センサから得られる前記変圧器内の絶縁油に係る油温と、前記変圧器に設けられた水分量センサから得られる前記絶縁油中の水分量とを含む検出データを複数取得し、取得した複数の検出データに基づき前記油温の変化と前記水分量の変化との間の関係を表すパラメータを特定し、特定したパラメータと変圧器の劣化度との相関関係に基づき前記変圧器の劣化状態を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【0008】
本開示の一態様に係る劣化推定方法は、変圧器に設けられた油温センサから得られる前記変圧器内の絶縁油に係る油温と、前記変圧器に設けられた水分量センサから得られる前記絶縁油中の水分量とを含む検出データを複数取得し、取得した複数の検出データに基づき前記油温の変化と前記水分量の変化との間の関係を表すパラメータを特定し、特定したパラメータと変圧器の劣化度との相関関係に基づき前記変圧器の劣化状態を推定する処理をコンピュータが実行する。
【0009】
本開示の一態様に係る劣化推定装置は、変圧器に設けられた油温センサから得られる前記変圧器内の絶縁油に係る油温と、前記変圧器に設けられた水分量センサから得られる前記絶縁油中の水分量とを含む検出データを複数取得し、取得した複数の検出データに基づき前記油温の変化と前記水分量の変化との間の関係を表すパラメータを特定し、特定したパラメータと変圧器の劣化度との相関関係に基づき前記変圧器の劣化状態を推定する処理を実行する制御部を備える。
【0010】
本開示の一態様に係る変圧器は、上述の劣化推定装置を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、変圧器の劣化状態を容易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の情報処理システムの概要図である。
【
図2】情報処理システムの構成例を示すブロック図である。
【
図3】変圧器の油温及び油中水分量の検出データの一例を示す図である。
【
図4】近似式の係数と劣化度との相関関係の一例を示す図である。
【
図5】相関情報の生成処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】相関情報の生成処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態の情報処理システム100の概要図である。本実施形態の情報処理システム100は、変圧器の劣化状態を推定するシステムである。情報処理システム100は、変圧器1及び情報処理装置2を備える。変圧器1と情報処理装置2とは、例えばインターネット又はLAN(Local Area Network)等のネットワークNを介して通信可能に接続されている。情報処理装置2はさらに、ネットワークNを介して端末装置3と通信接続される。変圧器1及び端末装置3の数はそれぞれ2以上でもよい。
【0015】
変圧器1は、油入変圧器である。変圧器1は、配電用変圧器であってもよく、送電用変圧器であってもよい。変圧器1は、タンク11を備えている。タンク11は、上部に不図示の蓋を備え、当該蓋により密閉されている。タンク11の内部に、鉄心12、鉄心12に巻かれた複数の巻線13、絶縁油14が収容されている。各巻線13は、不図示の絶縁紙に被覆された導体が巻回されたものである。各巻線13は絶縁紙により絶縁されている。鉄心12及び巻線13は、絶縁油14に浸漬されている。タンク11の天井又はタンク11側面に電力を入出力するための不図示のブッシングが形成されており、各巻線13は配線を介してブッシングに接続されている。タンク11内の上部の空間には予め、例えば空気及び窒素等のガスが充填されている。なお上記変圧器1の構成は一例であり、油入変圧器であれば特に限定されない。
【0016】
変圧器1には、油温センサ15及び水分量センサ16を備えるセンサ装置17と、制御装置18とが設けられている。センサ装置17は配管19を介してタンク11に接続されており、センサ装置17の内部を絶縁油14が循環する。センサ装置17と制御装置18とは有線又は無線により通信可能に接続されている。
【0017】
油温センサ15は、絶縁油14の温度を測定するセンサである。油温センサ15は、絶縁油14の温度を時系列的に計測する。水分量センサ16は、絶縁油14中の水分量を測定するセンサである。水分量センサ16は、絶縁油14中の水分量を時系列的に計測する。
【0018】
制御装置18は、油温センサ15及び水分量センサ16から出力される各計測値を随時受け付けることにより、絶縁油14の温度(以下、油温とも称する)に関するデータと、絶縁油14中の水分量(以下、油中水分量とも称する)に関するデータとを含む検出データを取得する。油温データと油中水分量データとの計測時点は同期されている。制御装置18は、取得した検出データを情報処理装置2へ送信する。
【0019】
油温センサ15及び水分量センサ16は、一体で構成されてもよい。油温センサ15及び水分量センサ16の数はそれぞれ2つ以上であってもよい。センサ装置17及び制御装置18は、タンク11内に配置されてもよい。油温センサ15及び水分量センサ16が通信機能を備える場合、制御装置18は省略してもよい。
【0020】
情報処理装置2は、種々の情報処理、情報の送受信が可能な装置であり、例えばサーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ、又は量子コンピュータ等である。情報処理装置2は、制御装置18を介して取得する油温及び油中水分量の検出データに基づき、変圧器1の劣化状態を推定する。情報処理装置2は、取得した推定結果に基づき、顧客又は保全業者等の端末装置3を介して変圧器1の保全に関する情報を提供する。情報処理装置2は、劣化推定装置に対応する。
【0021】
端末装置3は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等の情報端末装置であり、通信機能及び表示機能を有する。端末装置3は、情報処理装置2から得られる保全に関する情報の出力インタフェースとして機能する。
【0022】
変圧器1の絶縁物は、例えば変圧器1に対する熱の影響により経時的に劣化する。また、巻線13及び鉄心12等も例えば短絡事故の影響によりダメージを受けるおそれがある。このように変圧器1は長期間使用することにより各部において劣化が進行する。上述のような変圧器1の劣化状態に関し、例えば定期点検時に変圧器1から絶縁油14を採取して分析試験を行うことで劣化診断を行うことが可能である。しかし、このような劣化診断は時間及びコストを要し、また、点検間隔によって劣化の早期発見性が悪くなるおそれがある。本実施形態では、変圧器1から取得した油温及び油中水分量の検出データに基づきリアルタイムに変圧器1の劣化を推定することのできる、オンラインでの常時監視を実現する。
【0023】
図2は、情報処理システム100の構成例を示すブロック図である。
【0024】
変圧器1の制御装置18は、制御部181、記憶部182、通信部183及び入力部184を備える。制御部181は、CPU(Central Processing Unit )等を用いたプロセッサを備える。制御部181は、内蔵するROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等のメモリを用い、各構成部を制御して処理を実行する。記憶部182は、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを備える。記憶部182は、制御部181が参照する各種プログラム及びデータを記憶する。通信部183は、ネットワークNを介した情報処理装置2との通信を実現する通信インタフェースである。
【0025】
入力部184は、センサ装置17を接続するための入力I/F(Interface)を備える。入力部184とセンサ装置17との間の接続は有線であってもよく、無線であってもよい。制御部181は、入力部184を通して油温センサ15及び水分量センサ16から得られる信号を取得する。
【0026】
情報処理装置2は、制御部21、記憶部22及び通信部23を備える。情報処理装置2は、複数台のコンピュータで構成し分散処理する構成でもよく、1台のサーバ内に設けられた複数の仮想マシンによって実現されていてもよく、クラウドサーバを用いて実現されていてもよい。
【0027】
制御部21は、一又は複数のCPU、GPU(Graphics Processing Unit)等を用いたプロセッサを備える。制御部21は、内蔵するROM又はRAM等のメモリ、クロック、カウンタ等を用い、各構成部を制御して処理を実行する。
【0028】
記憶部22は、例えばハードディスク、フラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性メモリを備える。記憶部22は、情報処理装置2に接続された外部記憶装置であってもよい。記憶部22は、制御部21が参照する各種コンピュータプログラム及びデータを記憶する。
【0029】
本実施形態において記憶部22は、変圧器1の劣化推定に関する処理をコンピュータに実行させるためのプログラム2Pと、このプログラム2Pの実行に必要なデータとして相関情報221とを記憶している。相関情報221とは、変圧器1の油温及び油中水分量の対応関係を表す関数式に含まれる係数と、変圧器1の劣化度との相関関係を示す情報を含む。相関情報221は、変圧器1の劣化状態の推定を行う運用フェーズの前段階において生成され、生成された相関情報221が記憶部22に記憶される。相関情報221の詳細は後述する。
【0030】
プログラム2Pを含むコンピュータプログラム(プログラム製品)は、非一時的な記録媒体2Aにコンピュータ読み取り可能に記録されている態様でもよい。記憶部22は、読出装置によって記録媒体2Aから読み出されたコンピュータプログラムを記憶する。記録媒体2Aは、例えば磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等である。また、通信ネットワークに接続されている外部サーバからコンピュータプログラムをダウンロードし、記憶部22に記憶させてもよい。プログラム2Pは、単一のコンピュータプログラムでも複数のコンピュータプログラムにより構成されるものでもよく、また、単一のコンピュータ上で実行されても通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されてもよい。
【0031】
通信部23は、ネットワークNを介した通信を実現する通信インタフェースを備える。制御部21は、通信部23を通じて制御装置18及び端末装置3との間でデータを送受信する。
【0032】
情報処理装置2の構成は上述の例に限定されず、例えばユーザの操作を受け付けるための操作部、各種情報を表示するための表示部等を備えてもよい。
【0033】
端末装置3は、制御部31、記憶部32、通信部33、表示部34及び操作部35を備える。制御部31は、一又は複数のCPU、GPU等を用いたプロセッサを備える。制御部31は、内蔵するROM又はRAM等のメモリ、クロック、カウンタ等を用い、各構成部を制御して処理を実行する。
【0034】
記憶部32は、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを備える。記憶部32は、制御部31が参照する各種コンピュータプログラム及びデータを記憶する。通信部33は、ネットワークNを介した通信を実現する通信インタフェースを備える。制御部31は、通信部33を通じて情報処理装置2との間でデータを送受信する。
【0035】
表示部34は、例えば液晶ディスプレイ又は有機EL(electroluminescence)ディスプレイ等のディスプレイ装置を備える。表示部34は、制御部31からの指示に従って各種の情報を表示する。操作部35は、ユーザの操作を受け付けるインタフェースである。操作部35は、例えばキーボード、ディスプレイ内蔵のタッチパネルデバイス、スピーカ及びマイクロフォン等を備える。操作部35は、ユーザからの操作入力を受け付け、操作内容に応じた制御信号を制御部31へ送出する。
【0036】
情報処理装置2と制御装置18とは別個の装置に限られず、例えば情報処理装置2と制御装置18とが共通する1台の処理装置であってもよい。情報処理装置2を制御装置18に統合し、変圧器1に備えてもよい。
【0037】
以下、油温と油中水分量との関係性について説明した後、本実施形態における変圧器1の劣化状態の推定方法について詳述する。
【0038】
図3は、変圧器の油温及び油中水分量の検出データの一例を示す図である。
図3では、横軸を油温、縦軸を油中水分量として、複数時点における油温及び油中水分量の検出データをプロットしたグラフを示す。
図3では、検出データにおける油温と油中水分量との最大値を1.0として規格化している。各プロットに対応する検出データはそれぞれ、同一時点において計測された油温及び油中水分量の組み合わせを示している。なお各検出データにおける油温及び油中水分量の計測時点は完全に同一のみでなく、略同一であってもよい。
【0039】
図3では、4つの実変圧器6A、6B、6C、6Dにて検出された検出データの例を示している。実変圧器6A、6B、6C、6Dの順に、使用開始からの経過年数が長くなっている。経過年数が長くなる程、劣化の度合いが高くなると推定される。もしくは、変圧器の負荷が高くなる程、劣化の度合いが高くなると推定される。これらは、重畳される。
【0040】
図3に示すように、油温に対する油中水分量の関係性は変圧器の劣化度に応じて変化しており、劣化の進行に対応して検出データのプロット領域が高油中水分量側へシフトする。
【0041】
本発明者らは、これらの知見を基に鋭意検討を重ねた結果、油温の変化と油中水分量の変化との間の関係性は、係数を含む関数式で表すことができること、前記関数式における係数と劣化の度合いとは所定の相関関係を有することを見出した。この相関関係を利用することで、関数式の係数から変圧器1の劣化状態を推定することができる。
【0042】
図3のグラフ上における太実線は、各実変圧器6A、6B、6C、6Dにおける油温に対する油中水分量のプロットの近似線を示している。近似線は変圧器の劣化の度合いに応じて変化し、劣化の進行に対応して近似線の傾きが大きくなる。近似線の傾きは、油温の変化量に対する油中水分量の変化量を表す。近似線の傾きは、該近似線を関数式(近似式)により示した場合における関数式の係数として示される。関数式における係数は、油温の変化と油中水分量の変化と間の関係を表すパラメータに対応する。
【0043】
本実施形態では、一例として、指数近似により関数式を導出する。具体的には、油温及び油中水分量のプロットを、下記(1)式で表される指数関数を用いて指数近似して、近似関数を導出する。
y=a×exp(bx)…(1)
式中、aは定数、bは係数(油温の変化と油中水分量の変化と間の関係を表すパラメータ)である。
【0044】
上記(1)式に対する決定係数が最も小さくなるように、上記(1)式のa及びbを求めることにより、関数式を導出することができる。決定係数とは、油温及び油中水分量のプロットに基づいて生成された曲線と、これを近似した指数関数との間における近似の程度を示す値である。
【0045】
図3では、一例として、指数近似により係数を含む関数式を導出しているが、検出データに対する近似手法は指数近似に限定されない。関数式は、油温に対する油中水分量の変化量を表す係数を含むものであれば特に限定されない。また、
図3では、横軸を油温、縦軸を油中水分量とするグラフを例示したが、グラフは油温変化率と油中水分量変化率とをプロットしたものであってもよい。この場合、近似線の傾きは、油温変化率の変化量に対する油中水分量変化率の変化量を表す。
【0046】
図4は、関数式の係数と劣化度との相関関係の一例を示す図である。
図4に示すグラフの横軸は関数式の係数、縦軸は劣化度(%)である。
図4中における各プロットは、上記の実変圧器6A、6B、6C、6Dから得られた劣化度と関数式の係数とを示している。
【0047】
ここで劣化度とは、変圧器の劣化の度合いであり、変圧器の劣化状態を示す指標である。劣化度は、例えば、絶縁紙劣化生成物の最終形態のCO2+CO、劣化の途中生成物の形態のフラン類、又はアセチレンの測定値により表されてもよい。CO2+CO、フラン類及びアセチレンは劣化指標成分の一例である。各劣化指標成分の測定値は公知の手法により得られる。
【0048】
劣化度は、上述した劣化指標成分の測定値そのものを用いてもよいが、所定の劣化基準値に対する測定値の割合で表されてもよい。劣化度は、例えば、百分率の値で示され、劣化指標成分に関する所定の劣化基準値を最大値(100%)として、当該劣化基準値に対する測定値の割合を示す値とすることができる。劣化基準値は、例えば「電力用変圧器ガイドライン」(電気協同研究、社団法人電気協同研究会、2009年9月5日、第65巻、第1号)に記載されている「要注意レベル」に対応する劣化指標成分量としてもよい。上述のように劣化基準値を基準として劣化度を算出することで、後述する関数式の係数と劣化度との相関関係を好適に求めることができる。
【0049】
本実施形態の手法による劣化度の推定精度を高める観点から、劣化指標成分としてはCO
2+CO又はフラン類が好ましい。
図4では、実変圧器6A、6B、6C、6DにおけるCO
2+CO量の測定値を用い、CO
2+CO量の実測値を上記ガイドラインにおける要注意レベルのCO
2+CO量で除算することにより得られた劣化度(%)を示す。
【0050】
図4に示すように、関数式の係数は劣化度に依存する。劣化度が高くなる程、関数式の係数が大きくなる。関数式の係数と劣化度との相関関係は、例えば、一次関数にて表されてもよい。関数式の係数と劣化度との相関関係を利用することで、関数式の係数が求まれば、劣化度を推定することが可能である。
【0051】
上述の処理において、検出データのプロットに対する近似を実行する際には、取得した全ての検出データのうち、所定条件を満たさない検出データを除去することが好ましい。具体的には、油温又は油中水分量が所定値未満である検出データを除去し、油温又は油中水分量が所定値以上である検出データのみを用いることが好ましい。
【0052】
絶縁油の油温が比較的低温の場合には、絶縁紙に対する水分の吸脱着性が低下する可能性がある。絶縁紙に対する水分の吸脱着性が低下すると、絶縁油中へ拡散する水分量が変化するため、油温と油中水分量との対応関係に影響する。また各変圧器1に設けられるセンサ装置17のセンサ感度及び設置位置に応じて、得られる検出データの値が変化する。このような一部の検出データを除去することで、油温と油中水分量との対応関係をより好適に表現する関数式の係数を求めることができる。従って、関数式の係数と劣化度との相関関係を適正に定義し、劣化状態の推定精度を向上することが可能となる。
【0053】
検出データを除去するための閾値(下限値)は適宜設定されてよい。一例として、全ての検出データの5%から20%の検出データを除去するように、油温の下限値又は油中水分量の下限値を設定してもよい。
【0054】
本発明者らの検討によれば、全ての検出データを使用した場合よりも、油中水分量が1.0ppm未満である検出データを除去した場合において、近似の程度を示す決定係数が大きい値となることが確認された。決定係数とは、取得した関数式の係数及び劣化度に基づいて生成された近似線と、これを近似した近似式との間における近似の程度を示す値である。具体的には、全ての検出データを用いた場合には決定係数R2=0.6606であり、所定の検出データを除去した場合には、決定係数R2=0.9007であった。決定係数は1に近いほど、両者が近似していることを意味する。
【0055】
情報処理装置2は、複数の変圧器1に対する各種測定データを収集することにより、予め上述のような相関関係を求め、求めた相関関係を示す相関情報221を記憶部22に記憶しておく。そして情報処理装置2は、劣化度が未知の変圧器1から検出データを受け付け、受け付けた検出データ及び相関情報に基づき、変圧器1の劣化度を推定する。
【0056】
図5は、相関情報の生成処理手順の一例を示すフローチャートである。以下の各フローチャートにおける処理は、情報処理装置2の記憶部22に記憶するプログラム2Pに従って制御部21により実行されてもよく、制御部21に備えられた専用のハードウェア回路(例えばFPGA又はASIC)により実現されてもよく、それらの組合せによって実現されてもよい。
【0057】
情報処理装置2の制御部21は、複数の変圧器1について、油温センサ15で計測された油温と、水分量センサ16で計測された油中水分量とを含む検出データを複数取得する(ステップS11)。各変圧器1に対する複数の検出データ(検出データ群)には、例えば、1か月間から3か月間等の所定期間に亘り、10秒毎から1時間毎等の所定間隔毎に取得された時系列の油温及び油中水分量のデータが含まれる。各変圧器1に対する検出期間の長さ及び検出間隔は同じであってもよく、異なるものであってもよい。なお、制御部21は、経過年数の異なる複数の変圧器1に対する検出データの取得に代えて又は加えて、同一の変圧器1について長期的に取得した複数の検出期間における検出データを取得してもよい。
【0058】
また制御部21は、複数の変圧器1について、絶縁油14中における劣化指標成分(例えばCO2+CO)の測定値を取得する(ステップS12)。前記測定値は、検出データ群の検出対象期間中における適宜の時点で測定された値であってよい。上記検出データ及びCO2+COの測定値は、例えば制御装置18を通じて取得してもよく、あるいは検出データ及び測定値を記憶する外部装置との通信を行うことにより、外部装置から取得してもよい。制御部21は、取得したCO2+COの測定値と、CO2+CO量に関する所定の劣化基準値とに基づき、所定の劣化基準値を100%として各変圧器1に対応する劣化度を算出する(ステップS13)。
【0059】
制御部21は、取得した油温及び油中水分量の検出データのうち、油温又は油中水分量が所定値未満である検出データを除去する(ステップS14)。これにより、後述する近似処理に適した検出データのみが抽出される。なお検出データを除去するための閾値は、検出データ群毎に設定されてもよい。ステップS14の処理は省略してもよい。
【0060】
制御部21は、除去後の検出データに基づき、横軸を油温、縦軸を油中水分量とする2次元座標に、油温及び油中水分量の組み合わせを複数プロットすることにより、油温-油中水分量グラフを生成する(ステップS15)。
【0061】
制御部21は、生成した油温-油中水分量グラフのプロットに対して近似を実行することにより、関数式の係数を特定する(ステップS16)。ステップS16では制御部21は、検出データ群毎に、プロットに対し近似線を生成し、生成した近似線の関数式(近似式)を導出することにより、関数式における係数を特定する。制御部21は、例えば、y=a×exp(bx)の指数関数により上記プロットに対する近似を行い、上述した決定係数が最も小さくなるように、a及びbを求める。
【0062】
制御部21は、各検出データ群について取得した関数式の係数及び劣化度に基づき、関数式の係数と劣化度との相関関係を導出する(ステップS17)。ステップS17では制御部21は、例えば関数式の係数と劣化度とのプロットに対し近似を実行することにより、関数式の係数と劣化度との相関関係を示す近似式を導出してもよい。関数式の係数と劣化度との相関関係は近似式に限らず、例えば係数と劣化度とを対応付けたテーブル形式のデータであってもよい。
【0063】
制御部21は、導出した相関関係を示す相関情報を記憶部22に記憶し(ステップS18)、一連の処理を終了する。
【0064】
上述のように生成された相関情報を用いて、運用フェーズにおいて変圧器1の劣化の推定が行われる。
図6は、相関情報の生成処理手順の一例を示すフローチャートである。情報処理装置2の制御部21は、例えば所定間隔で以下の処理を開始する。
【0065】
情報処理装置2の制御部21は、制御装置18を通じて、油温センサ15で計測された油温と、水分量センサ16で計測された油中水分量とを含む検出データを取得する(ステップS21)。検出データには、制御装置18又は制御装置18に対応する変圧器1を識別するための識別情報が関連付けられている。制御部21は、取得した検出データを記憶部22に記憶する(ステップS22)。
【0066】
制御部21は、劣化度の推定を実行するか否かを判定する(ステップS23)。予め設定される推定タイミング(例えば1か月毎、3か月毎等)でないことにより、劣化度の推定を実行しないと判定した場合(ステップS23:NO)、制御部21は、処理をステップS21に戻す。推定タイミングとなるまで検出データの取得が繰り返され、複数の検出データが記憶される。
【0067】
予め設定される推定タイミングであることにより、劣化度の推定を実行すると判定した場合(ステップS23:YES)、制御部21は、処理をステップS24に進める。なお制御部21は、検出データが検出される度に検出データを取得するものに限らず、例えば予め設定される収集時点、劣化度の推定を実行する時点等、適宜のタイミングでまとめて検出データを取得してもよい。
【0068】
制御部21は、記憶部22に記憶する情報に基づき、推定対象となる期間における複数の検出データを読み出し、読み出した検出データの中から油温又は油中水分量が所定値未満である検出データを除去する(ステップS24)。すなわち制御部21は、推定対象となる期間における複数の検出データの中から、油温又は油中水分量が所定値以上である検出データを抽出する。検出データを除去するための閾値は、推定処理の度に設定されてもよい。なおステップS24の処理は省略してもよい。
【0069】
制御部21は、除去後の検出データに基づき、横軸を油温、縦軸を油中水分量とする2次元座標に、油温及び油中水分量の組み合わせを複数プロットすることにより、油温-油中水分量グラフを生成する(ステップS25)。
【0070】
制御部21は、生成した油温-油中水分量グラフのプロットに対して近似を行うことにより、油温及び油中水分量のプロットに対する近似曲線を示す関数式の係数を特定する(ステップS26)。
【0071】
制御部21は、記憶部22に記憶する相関情報を参照して、特定した関数式の係数に対応する劣化度を推定する(ステップS27)。制御部21は、推定した劣化度(劣化状態)に応じた保全情報を特定し、特定した保全情報を端末装置3へ送信する(ステップS28)。なおステップS28において制御部21は、検出データに関連付けられる識別情報に基づき、保全情報を送信すべき変圧器1の顧客又は保全業者等の端末装置3を特定してもよい。
【0072】
情報処理装置2から出力された保全情報は、端末装置3を通じて表示部34へ表示される。保全情報には、例えば、推定した劣化度と、劣化度に応じたアドバイス等が含まれる。例えば劣化度が所定値以上である場合、アドバイスとして点検や絶縁油14の濾過又は交換を促すメッセージが含まれてもよい。
【0073】
上述の各フローチャートにおける各処理の処理主体は限定されるものではない。上述の各フローチャートにおける処理の一部又は全部は、制御装置18で実行されてもよく、又は端末装置3で実行されてもよい。また保全情報は、端末装置3を通じて表示部34へ表示されるものに限られず、情報処理装置2は、端末装置3以外の装置に保全情報を出力し、表示させてもよい。保全情報は、例えば情報処理装置2から制御装置18へ送信され、制御装置18を通じて変圧器1に設けられる表示ランプの点灯、音声の出力等の態様にて報知されてもよい。
【0074】
情報処理装置2は、例えば点検のタイミングで行われる絶縁油14に関する性能試験により、変圧器1に対する劣化指標成分の測定値が得られた場合、取得した劣化指標成分の測定値と、収集した検出データとに基づき、相関情報を更新してもよい。情報処理装置2は、例えば、新たな劣化指標成分の測定値を取得し、取得した劣化指標成分の測定値に基づく劣化度と、収集した検出データに基づく関数式の係数とを用いて再度解析を行う。情報処理装置2は、解析結果に応じて、関数式の係数と劣化度との相関関係を更新する。これにより、本システムの運用を通じて劣化状態の推定精度を向上させることができる。
【0075】
本実施形態によれば、変圧器1における絶縁油の温度及び油中水分量を連続的に計測することにより、変圧器1の劣化状態を容易に推定することができる。劣化状態の推定に要する情報は、変圧器1に設けられるセンサを用いてオンラインにより容易に取得可能である。油温に対する油中水分量の変化を表す係数と劣化度との相関関係を予め設定しておくことで、劣化度を精度よく推定することができる。
【0076】
今回開示した実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。各実施例にて記載されている技術的特徴は互いに組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
各実施形態に示すシーケンスは限定されるものではなく、矛盾の無い範囲で、各処理手順はその順序を変更して実行されてもよく、また並行して複数の処理が実行されてもよい。各処理の処理主体は限定されるものではなく、矛盾の無い範囲で、各装置の処理を他の装置が実行してもよい。
【0077】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0078】
100 情報処理システム
1 変圧器
15 油温センサ
16 水分量センサ
17 センサ装置
18 制御装置
181 制御部
182 記憶部
183 通信部
184 入力部
2 情報処理装置(劣化推定装置)
21 制御部
22 記憶部
23 通信部
221 相関情報
2P プログラム
2A 記録媒体
3 端末装置
31 制御部
32 記憶部
33 通信部
34 表示部
35 操作部