IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司の特許一覧

特開2024-36283電池複合材料及びその前駆体の製造方法
<>
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図1
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図2
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図3
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図4
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図5
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図6A
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図6B
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図7A
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図7B
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図8A
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図8B
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図9
  • 特開-電池複合材料及びその前駆体の製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036283
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】電池複合材料及びその前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20240308BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099845
(22)【出願日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】111133528
(32)【優先日】2022-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】517232729
【氏名又は名称】台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Advanced Lithium Electrochemistry Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No. 2-1, Singhua Rd., Taoyuan Dist., Taoyuan City,330,Taiwan,
(74)【代理人】
【識別番号】100185694
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 隆志
(72)【発明者】
【氏名】傅冠穎
(72)【発明者】
【氏名】王瀞諠
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼安鋒
(57)【要約】
【課題】本発明は、プロセスが簡単であるだけでなく、更にリチウム化合物に水酸化リチウムの使用に限定せずに電池複合材料を調製できるようにさせ、プロセスのpH値の感度を低下させ、プロセスの難易度を下げ、全体のプロセス時間を大幅に短縮する電池複合材料及びその前駆体の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の電池複合材料の製造方法は、リン酸イオンを放出できる化合物を鉄粉と反応させて、スラリー状の第1生成物を生成するステップ1と、研磨、乾燥及び焼成を行って、化学式がFePOである前駆体を生成するステップ2と、前記前駆体を、リチウム原子を有する第1反応物及び炭素原子を含む炭素源と反応させて、化学式がLiFePOである電池複合材料を形成するステップ3と、を含み、焼成時に空気又は酸素を直接導入することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸イオンを放出できる化合物を鉄粉と反応させて、スラリー状の第1生成物を生成するステップ1と、
研磨、乾燥及び焼成を行って、化学式がFePOである前駆体を生成するステップ2と、
前記前駆体を、リチウム原子を有する第1反応物及び炭素原子を含む炭素源と反応させて、化学式がLiFePOである電池複合材料を形成するステップ3と、
を含み、
焼成時に空気又は酸素を直接導入する、電池複合材料の製造方法。
【請求項2】
ステップ3において、金属酸化物を添加して反応させて、金属酸化物を有するLiFePO電池複合材料である、ナノミクロン金属酸化物共晶リチウム鉄リン酸塩化合物(LFP‐NCO)を形成する請求項1に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物は、五酸化バナジウム(V)又は酸化マグネシウム(MgO)である請求項2に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記化合物がリン酸であり、且つ前記第1生成物の化学式がa‐FePO・xHOであり、xは0より大きく、
前記第1反応物は、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム(LiOH)、又はリチウム含有化合物の混合物であってよく、
炭素源は、糖、有機化合物、ポリマー又はポリマー材料であってよい請求項1又は2に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記糖類は、単糖のフルクトース、グルコース又はガラクトースであってよく、二糖のマルトース、スクロース、ラクトースであってもよく、ポリマー材料は、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone、PVP)である請求項4に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ2は、
前記第1生成物の平均粒径(D50)が5ミクロン(μm)未満になるまで前記第1生成物を研磨し、
前記研磨後の前記第1生成物を噴霧乾燥して粉末を形成し、
前記空気又は前記酸素を導入して前記粉末を焼成して前記前駆体を形成することを含む請求項1に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項7】
毎分450~650回転(rpm)の回転速度で前記第1生成物を研磨し、
回転ディスク噴霧乾燥機によって噴霧乾燥を行い、前記回転ディスク噴霧乾燥機は、
入口温度は180~230℃であり、
出口温度は80~100℃であり、
前記回転ディスク噴霧乾燥機の回転速度は350Hzであり、
前記粉末の焼成温度は550~700℃であり、焼成時間は30分~1.5時間である請求項5に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記第1生成物の平均粒子径(D50)が2ミクロン(μm)未満であり、
前記回転速度は毎分550回転であり、
前記入口温度は200~220℃であり、
前記出口温度は85~95℃であり、
前記焼成の温度は600~650℃である請求項6に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項9】
化学式がFePOである前駆体を、リチウム原子を有する第1反応物及び炭素原子を含む炭素源と反応させることによって、化学式がLiFePOである電池複合材料を形成する電池複合材料の製造方法。
【請求項10】
リン酸イオンを放出できる化合物と鉄粉を反応させて、スラリー状の第1生成物を生成するステップと、
研磨、乾燥及び焼成により前駆体を生成し、前記前駆体の化学式はFePOであるステップと、
を含む電池複合材料の前駆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池複合材料、特に電池複合材料及びその前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
科学技術の進歩に伴って、電子製品及び交通輸送機器の発展が、現代の生活に大きな利便性をもたらしている。近年、環境保護への意識が世界的に注目されており、生活の利便性を維持しながら、生活の利便性を維持しながら、如何にエネルギー消費量を削減するかが現在の産業の発展の目標となっている。二次電池のエネルギー貯蔵技術は、非常に注目を集めており、急速に発展している。
【0003】
リン酸鉄リチウム(LiFePO、LFP)からなる電池材料が最も広く使用され、低コスト、高い安全性、低い環境汚染、高い電流充放電耐性等の利点を備え、且つ原材料の価格も比較的安価であり、大電流及び大容量を必要とする電気自動車などのハイパワー製品への応用に非常に適している。しかし、一般的なリン酸鉄リチウム電池の低い導電率と不純物が多いという問題を克服するために、リン、リチウム、鉄からなる単一構造を持つナノミクロン金属酸化物共晶リチウム鉄リン酸塩化合物(LFP‐NCO)電池材料が開発されている。
【0004】
LFP‐NCOの製造プロセスでは、多くは、鉄塩(硝酸鉄や硫酸鉄など)を原料としてリン酸塩と混合し、窒素ガスを導入してリン酸鉄を生成し、水酸化リチウム、炭酸リチウム又はその他のリチウム原子を含む複合体と反応を行う。しかし、リン酸鉄の製造過程では、硝酸基や硫酸基などの基の含有や窒素の関与により、往々にして塩類の副生成物や不純物が生成される。従って、別途分離ステップを行い、その塩類の副生成物や不純物をリン酸鉄と分離させ、後続の焼成時に硝酸塩や硫酸塩などの基によって生成されるガス副生成物による装置の腐食を回避する必要があり、且つその塩類の副生成物は、分離後に更に特殊な手順で処理する必要がある。リン酸鉄の製造プロセスでは、反応環境のpH値に注意を払うだけでなく、反応中に生成される塩副生成物を除去する必要があります。除去しないと、製品の品質に影響を及ぼし、副生成物を処理する必要があります。これはコストを増加させるだけでなく、現在の環境保護にも適合しません。。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のナノミクロン金属酸化物共晶リチウム鉄リン酸塩化合物(LFP‐NCO)電池材料の製造プロセスにおいて、pH値の制御と副生成物の処理の必要性によるプロセスの難易度及び廃棄物処理、更には製品の品質への影響の問題を克服するため、本発明は、電池複合材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が提供する電池複合材料の製造方法は、
リン酸イオンを放出できる化合物を鉄粉と反応させて、スラリー状の第1生成物を生成するステップ1と、
研磨、乾燥及び焼成を行って、化学式がFePOである前駆体を生成するステップ2と、
前記前駆体を、リチウム原子を有する第1反応物及び炭素原子を含む炭素源と反応させて、化学式がLiFePOである電池複合材料を形成するステップ3と、
を含み、
焼成時に空気又は酸素を直接導入する。
【0007】
本発明において、ステップ3では、金属酸化物を添加して反応させて、金属酸化物を有するLiFePO電池複合材料である、ナノミクロン金属酸化物共晶リチウム鉄リン酸塩化合物(LFP‐NCO)を形成する。
【0008】
本発明において、前記金属酸化物は、五酸化バナジウム(V)又は酸化マグネシウム(MgO)である。
【0009】
本発明において、前記化合物がリン酸であり、且つ前記第1生成物の化学式がa‐FePO・xHOであり、xは0より大きい。
【0010】
本発明において、前記第1反応物は、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム(LiOH)、又はリチウム含有化合物の混合物であってよい。
【0011】
本発明において、前記炭素源は、糖、有機化合物、ポリマー又はポリマー材料であってよい。
【0012】
本発明において、前記糖類は、単糖のフルクトース、グルコース又はガラクトースであってよく、二糖のマルトース、スクロース、ラクトースであってもよく、ポリマー材料は、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone、PVP)である。
【0013】
更に、前記ステップ2は、
前記第1生成物の平均粒径(D50)が5ミクロン(μm)未満になるまで前記第1生成物を研磨し、
前記研磨後の前記第1生成物を噴霧乾燥して粉末を形成し、
前記空気又は前記酸素を導入して前記粉末を焼成して前記前駆体を形成することを含む。
【0014】
更に、毎分450~650回転(rpm)の回転速度で前記第1生成物を研磨し、
回転ディスク噴霧乾燥機によって噴霧乾燥を行い、前記回転ディスク噴霧乾燥機は、入口温度は180~230℃であり、
出口温度は80~100℃であり、
前記回転式噴霧乾燥機の回転速度は350Hzであり、前記粉末の焼成温度は550~700℃であり、焼成時間は30分~1.5時間である。
【0015】
前記第1生成物の平均粒子径(D50)が2ミクロン(μm)未満であり、
前記回転速度は毎分550回転であり、
前記入口温度は200~220℃であり、
前記出口温度は85~95℃であり、
前記焼成の温度は600~650℃である。
【0016】
本発明は、更に、化学式がFePOである前駆体を、リチウム原子を有する第1反応物及び炭素原子を含む炭素源と反応させることによって、化学式がLiFePOである電池複合材料を形成する電池複合材料の製造方法を提供する。
【0017】
本発明は、更に、リン酸イオンを放出できる化合物と鉄粉を反応させて、スラリー状の第1生成物を生成するステップと、
研磨、乾燥及び焼成により前駆体を生成し、前記前駆体の化学式はFePOであるステップと、
を含む電池複合材料の前駆体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明が提供する電池複合材料及びその前駆体の製造方法は、プロセスが簡単であるだけでなく、更にリチウム化合物に水酸化リチウムの使用に限定せずに電池複合材料を調製できるようにさせ、プロセスのpH値の感度を低下させ、プロセスの難易度を下げ、全体のプロセス時間を大幅に短縮する。また、リン酸、脱イオン水及び鉄粉反応、及び焼成時の空気導入技術により、リン酸水溶液と鉄粉の十分な反応を前提として、原料コストを効果的に低減することができる。完成品に残留する可能性のある追加元素がないため、不純物を分離するための追加の工程が不要であり、原料から完成品に至るまでの原子の利用率が極めて高く、廃棄物処理の問題もなく、環境保護と持続可能な製造を重視する現在の傾向に一致する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の好適実施例の製造方法のフローチャートである。
図2】本発明の好適実施例の第1詳細フローチャートです
図3】本発明の好適実施例の第2詳細フローチャートです
図4】本発明の好適実施例の前駆体のX線回折図である。
図5】本発明の比較例の前駆体のX線回折図である。
図6A】本発明の実施例の前駆体の走査型電子顕微鏡画像である。
図6B】本発明の比較例の前駆体の走査型電子顕微鏡画像である。
図7A】本発明の第1好適実施例の前駆体の走査型電子顕微鏡画像である。
図7B】本発明の第2好適実施例の前駆体の走査型電子顕微鏡画像である。
図8A】本発明の第1比較例の前駆体の走査型電子顕微鏡画像である。
図8B】本発明の第2比較例の前駆体の走査型電子顕微鏡画像である。
図9】本発明の好適実施例の完成品の充放電電気特性図である。
図10】本発明の比較例の完成品の充放電電気特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明が提供する電池複合材料の製造方法のフローチャートである。そのステップは、以下を含む。
【0021】
S1、リン酸(HPO)、鉄粉(Fe)、炭素源及び第1反応物を準備する。前記炭素源は、炭素原子を含む糖類、有機化合物、ポリマーまたはポリマー材料であってよい。前記第1反応物は、リチウム原子を有する化合物である。
【0022】
前記炭素源は前記糖類を例としており、単糖類のフルクトース、グルコース又はガラクトースであってよく、二糖のマルトース、スクロース又はラクトースであってもよい。
【0023】
前記炭素源は、前記ポリマー材料を例とし、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone,PVP)であってよい。
【0024】
前記第1反応物は、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム(LiOH)、又はいくつかのリチウム含有化合物の混合物であってよい。
【0025】
S2、第1生成物の生成:リン酸と鉄粉を反応させて第1生成物を生成し、前記第1生成物はスラリー状であり、化学式はa‐FePO4・xHOであり、xは0より大きい。
【0026】
S3、前駆体の形成:研磨、乾燥及び焼成を通じて、化学式がFePO4である前駆体を生成する。ここで、焼成の際、従来の窒素ガスによる焼成プロセスではなく、空気又は酸素を直接導入し、ステップが簡略化され、コストが低減される。
【0027】
S4、電池複合材料の形成:前記前駆体と前記第1反応物に研磨、乾燥及び焼成等を行って共に反応させ、粉末状であり且つ化学式がLiFePOである電池複合材料を形成する。このステップでは、前記炭素源を同時に添加し、前記電池複合材料に炭素でコーティングされた表面を形成させ、より優れた導電性を達成できる。
【0028】
ステップS4において、五酸化バナジウム(V)や酸化マグネシウム(MgO)などの金属酸化物を一緒に添加して、金属酸化物を有するLiFePO電池複合材料、即ち、ナノ金属酸化物共結晶化リン酸鉄リチウム化合物(LFP‐NCO)を生成することができる。
【0029】
本発明が提供する電池複合材料の製造方法は、直接、鉄粉を反応原料とし、リン酸と反応させて前記電池複合材料を形成する。プロセス全体において、リチウム、鉄、リン及び酸素以外には余分な元素は含まれておらず、反応過程を見るとリン酸の水素イオンだけが水素となって大気中に散逸され、原子利用率が高いだけではなく、現在の環境保護の要求に一致し、副生成物が生成されないため、後続において別途の分離ステップを行う必要がない。
【0030】
本発明が提供する電池複合材料の製造方法は、他の余分な元素が関与しない以外に、さらに前記空気または前記酸素の直接導入を経るため、プロセス中に副生成物を生成することがなく、前記電池複合材料に不純物が混ざるリスクがなく、後続の焼成プロセス時に機器を破壊する状況の発生を回避することができる。
【0031】
更に、図2に示すステップS2の第1詳細フローチャートを併せて参照する。そのステップは、以下のとおりである。
【0032】
S201、第1リン酸溶液の形成:第1温度において、脱イオン水を使用して前記リン酸を定量し、第1リン酸溶液を形成する。ここで、前記第1温度は40~50℃に維持され、好ましくは42℃に維持される。
【0033】
S202、鉄粉反応:第2温度において、前記第1リン酸溶液と鉄粉を反応させ、温度を第3の温度に下げ、第1反応時間保持する。ここで、前記第2温度は60℃以下であり、好ましくは60℃である。前記第3温度は50℃以下であり、好ましくは50℃である。前記第1反応時間は少なくとも3時間である。
【0034】
S203、前記第1生成物の形成:脱イオン水を使用して前記リン酸を定量し、第2リン酸溶液を形成する。第4温度で、ステップS202の後に生成された混合物に前記第2リン酸溶液を添加し、第2反応時間放置して、リン酸鉄スラリーを形成し、前記リン酸鉄スラリーは、少なくともリン酸ラジカル、鉄イオン、及びリン酸、鉄及び水からなる前記第1生成物を含み、化学式は、a‐FePO・xHO(x>0)となる。
【0035】
ここで、前記第4温度は30℃以下、好ましくは30℃であり、前記第2反応時間は少なくとも23時間維持される。
【0036】
ここで、前記第1リン酸溶液と前記第2リン酸溶液の定量後の重量比は3:1であり、即ち、前記第1リン酸溶液の定量後の前記重量が75%である場合、前記第2リン酸溶液は、定量後の前記重量が25%となる。
【0037】
ステップS202及びS203では、リン酸イオンが放出され、鉄粉と反応する。同様に、混合後にリン酸イオンを放出できる他の化合物を、前記第1リン酸溶液又は前記第2リン酸溶液の代わりに使用できる。
【0038】
ステップS202およびS203を通じて、前記鉄粉が異なる濃度のリン酸溶液、異なる温度及び異なる反応時間の条件にさらされた後、前記鉄粉は前記リン酸ラジカルと完全に反応し、前記第1生成物を生成することができる。材料の浪費を効果的に回避する。
【0039】
次に、ステップS2の後、図3に提供されるステップS3の第2詳細フローチャートが組み合わせられる。そのステップは、以下を含む。
【0040】
S301、研磨:第1回転速度を使用して、前記第1生成物の平均粒径(D50)が5ミクロン(μm)未満、好ましくは2ミクロン(μm)未満になるまで前記第1生成物を研磨する。前記第1回転速度は、毎分450~650回転(rpm)であり、好ましくは毎分550回転である。
【0041】
S302、乾燥:回転噴霧乾燥機を通して、研磨された前記第1生成物を噴霧乾燥して粉末を形成する。ここで、これに限定するものではないが、前記回転噴霧乾燥機の入口温度は、180~230℃であり、好ましくは200~220℃であり、出口温度は、80~100℃であり、好ましくは85~95℃であり、回転速度は、350Hzである。
【0042】
S303、通風焼成による前駆体の形成:乾燥後の前記粉末を焼成し、適時に撹拌する手順によって、前記粉末が前記空気又は前記酸素と十分に接触するように確保し、前記前駆体(FePO)を形成する。焼成時に空気又は酸素を直接導入できるため、他の余分な元素を添加する必要がなく、従来の窒素ガスを必要とする焼成プロセスに置き換え、ステップを簡単化し、コストを減少させることに留意されたい。前記焼成の温度は550~700℃であり、好ましくは600~650℃であり、焼成時間は3時間未満であり、好ましくは30分~1.5時間である。このステップでは、前記粉末を前記空気又は前記酸素を通して焼成するため、前記粉末中の前記リン酸ラジカル、前記鉄イオン及び前記第1生成物が十分に結合し、脱水されて純粋な前記前駆体FePOを得ることができる。
【0043】
本発明は、更に、ステップS4で前記前駆体と前記第1反応物を一緒に反応させることによって前記電池複合材料を形成する詳細フローを提供し、そのステップは、以下を含む。
【0044】
研磨:第2回転速度を使用して、前記前駆体と前記第1反応物の混合物の前記平均粒径(D50)が2ミクロン(μm)未満、好ましくは1ミクロン(μm)未満になるまで、前記前駆体と前記第1反応物を研磨する。前記第2回転速度は、毎分450~650回転(rpm)であり、好ましくは毎分550回転である。
【0045】
乾燥:回転式噴霧乾燥機によって、研磨した前記前駆体と前記第1反応物の混合物を噴霧乾燥し、第2粉末を形成する。ここで、これに限定するものではないが、前記回転式噴霧乾燥機の入口温度は、170~250℃であり、出口温度は、70~110℃である。
【0046】
焼結:窒素ガスを導入して前記第2粉末を焼成し、粉末状の前記電池複合材料LiFePOを形成する。
【0047】
上記電池複合材料は、低コストかつステップが簡単であり、特殊且つ高コストな反応原料を使用する必要がないため、コストを低減できる。また、従来の電池材料の製造時に反応環境のpH値と温度を制御するというプロセスの難しさを克服し、原料の過剰な消費を避け、製品の品質を向上させることもできる。
【0048】
図4図8Bを参照し、次に上述のステップを使用して以下の各例示的な実施例を提供し、焼成時に窒素ガスを導入する比較例と比較する。ここで、実施例1は、ステップS303において、前記空気を導入して焼成を行い、実施例2は、ステップS303において、前記空気を導入して焼成を行う以外に、ステップS4において、更に前記金属酸化物五酸化バナジウムを添加して反応させる。比較例1はステップS303において、前記窒素ガスを導入して焼成し、比較例2は、ステップS4において、更に前記金属酸化物五酸化バナジウムを添加して反応させる。
【0049】
<実施例1>
リン酸3196グラム、脱イオン水10リットル及び鉄粉2532グラムを準備する。そして、ステップS2およびS3を実行して、FePO前駆体を得る。この前駆体をさらにX線回折(x-ray Diffraction,XRD)で分析し、その結果を図4に示すとおりであり、標準回折パターン(JCPDS Card)と比較した結果、その構造はFePOであることが確認される。その表面形態の走査型電子顕微鏡(SEM)分析画像を図6Aに示す。次に、上記で得られた1056グラムのFePO前駆体および264グラムの炭酸リチウムLiCOを49グラムのフルクトースおよび25グラムのポリエチレングリコールと反応させて第1実施例LFPである電池複合材料を形成し、その表面形態を走査型電子顕微鏡(SEM)で分析したものを図7Aに示す。
【0050】
<実施例2>
リン酸3196グラム、脱イオン水10リットル及び鉄粉2532グラムを準備する。そして、ステップS2およびS3を実行して、FePO前駆体を得る。次に、上記で得られた1056グラムのFePOおよび264グラムの炭酸リチウムLiCOを、49グラムのフルクトース、25グラムのポリエチレングリコールおよび2.7グラムの五酸化バナジウムVと反応させて、電池複合材料を形成し、第2実施例LFP‐Vと称し、その表面形態の走査電子顕微鏡(SEM)で分析したものを図7Bに示す。
【0051】
<比較例1>
リン酸3196グラム、脱イオン水10リットル及び鉄粉2532グラムを準備する。そしてステップS2とS3に進み、その第1生成物を生成する。実施例との違いは、ステップS3において、焼成により前駆体を形成する際に窒素ガスを導入し、最終的に分子式Fe(POの前駆体を得ることである。この比較例の前駆体のX線回折(X-ray Diffraction,XRD)分析の結果を図6Bに示し、標準回折パターン(JCPDS Card)と比較した結果、その構造はFe(POであることが確認される。その表面形態の走査型電子顕微鏡(SEM)分析画像を図6Bに示す。次に、上記で得られた1056グラムの前駆体Fe(PO及び264グラムの炭酸リチウムLiCOを、49グラムのフルクトース及び25グラムのポリエチレングリコールと反応させて、電池複合材料を形成し、第1比較例LFP‐Nと称する。走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析された表面形態を図8Aに示す。
【0052】
<比較例2>
リン酸3196グラム、脱イオン水10リットル及び鉄粉2532グラムを準備する。そしてステップS2とS3に進み、その第1生成物を生成する。実施例との違いは、ステップS3において、焼成により前駆体を形成する際に窒素ガスを導入し、最終的に分子式Fe(POの前駆体を得ることである。次に、上記で得られた1056グラムの前駆体Fe(POを、49グラムのフルクトース、25グラムのポリエチレングリコールおよび2.7グラムの五酸化バナジウムVと反応させて、電池複合材料を形成し、第2比較例LFP‐V-Nと称する。走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析された表面形態を図8Bに示す。
【0053】
図4図5を比較し、図5で注目すべき点は、標準回折パターン(JCPDS Card)に未収録の複数の波形Xが存在することであり、Fe(POの前駆体に他の鉄化合物が含まれると推測できる。その前駆体を調製する際、前記鉄粉と前記リン酸の原料比は、鉄原子とリン原子のモル比が1:1であり、本発明の実施例の焼結後に生成される前記前駆体の鉄原子とリン原子のモル比と同じである。しかし、比較例では、標準回折パターン(JCPDS Card)からは鉄化合物が何であるかを知ることができない前提において、比較例の前駆体Fe(POの生成量だけでは鉄原子とリン原子のモル比が同様に1:1である結果に到達できないため、比較例によって前駆体Fe(POを生成すると同時に、他の鉄化合物も生成されると推測できるためである。さらに、本発明が提供する電池複合材料の製造方法が優れた原子利用率を達成できることを比較して示すこともできる。
【0054】
図4図8Bおよび以下の表1を参照すると、以下のように観察できる。比較例1および2で生成されたFe(PO前駆体はより小さな粒子で構成され、より多くの細孔を有し、約7.4平方メートル/グラム(m/g)の比表面積を有し、更なる反応によって生成されるこの第1比較例LFP‐N及び第2比較例LFP‐VNの比表面積は、それぞれ17.77平方メートル/グラム(m/g)及び17.50メートル平方/グラム(m/g)である。本発明が提供するFePO前駆体は、粒子が大きく、細孔が少なく、比表面積が約3.5平方メートル/グラム(m/g)であり、更なる反応によって生成される第1実施例LFPおよび第2実施例LFP‐Vの比表面積は8.21平方メートル/グラム(m/g)と9.69平方メートル/グラム(m/g)である。実施例1及び実施例2によって生成された前駆体(FePO)及びその電池複合材料(LFP及びLFP‐V)の比表面積は、比較例1及び比較例2によって生成された前駆体(Fe(PO)及びその電池複合材料(LFP‐N及びLFP‐V‐N)よりも著しく小さい。このことから、前記FePO前駆体の全体的な圧縮密度が比較的大きいため、それから製造された電池複合材料は比較的高いエネルギー密度を提供できることが分かる。
【0055】
【表1】
【0056】
上記実施例1及び比較例1で得られた電池複合材料をそれぞれ第1コインセル(Coin‐Cell)及び第2コインセルとし、充放電機を用いて0.1クーロンの充放電2サイクル及び2クーロンの充放電2サイクルの電気的試験を行っており、前記第1コインセルの試験結果を図9に示し、第2コインセルを図10に示す。FePOで製造された前記第1コインセルとFe(POで製造された前記第2コインセルのカットオフ電圧は両方とも2~4.2ボルトであり、放電率は何れも同じであることがわかる。ただし、前記第1コインセルの放電曲線から、前記第1コインセルの容量が優れていることが明らかであり、エネルギー貯蔵リチウム電池での使用に適しており、より長時間の使用を達成できる。
【0057】
本発明が提供する電池複合材料とその前駆体の製造方法は、プロセスが簡単であるだけでなく、リチウム化合物に水酸化リチウムによるものに制限せずに、電池複合材料を調製させることができ、プロセスのpH値の感度を低下させ、プロセスの難易度を下げ、全体のプロセス時間を大幅に短縮する。
【0058】
また、リン酸、脱イオン水及び鉄粉の反応、及び焼成時の空気導入技術により、リン酸水溶液と鉄粉の十分な反応を前提として、原料コストを効果的に低減することができる。完成品に残留する可能性のある追加元素がないため、不純物を分離するための追加の工程が不要であり、原料から完成品に至るまでの原子の利用率が極めて高く、廃棄物処理の問題も生じることがなく、環境保護と持続可能な製造を追求する今日の傾向と一致している。
【符号の説明】
【0059】
LFP 第1実施例
LFP‐V 第2実施例
LFP‐N 第1比較例
LFP‐V‐N 第2比較例
X 未収録波形
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10