(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036312
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】フツリン酸光学ガラス及びその製造方法、並びに、フツリン酸光学ガラス球面レンズ及びフツリン酸光学ガラス非球面レンズ
(51)【国際特許分類】
C03C 3/247 20060101AFI20240308BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C03C3/247
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143909
(22)【出願日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】202211095206.8
(32)【優先日】2022-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(71)【出願人】
【識別番号】514275462
【氏名又は名称】湖北新華光信息材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】野嶋 浩人
(72)【発明者】
【氏名】フオ ジンロン
(72)【発明者】
【氏名】胡 向平
(72)【発明者】
【氏名】李 攀
(72)【発明者】
【氏名】戎 俊華
(72)【発明者】
【氏名】姜 敬陸
(72)【発明者】
【氏名】譚 晨
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB09
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4G062NN29
4G062NN33
(57)【要約】
【課題】低分散の光学特性を有し、工業的な大量生産に好適であり、且つ異物の析出が低減された光学ガラスを提供する。
【解決手段】フツリン酸光学ガラスは、重量%で、P:7~12.5%、O:12~18%、Al:6~12%、F:24~34%、Ca:2~8%、Sr:10~17%、Ba:12~20%の各元素を含有し、K:0~0.3%、Mg:0~5%、S:0~0.1%であり、屈折率ndが1.46~1.54で、アッベ数νdが78~85である。本発明のフツリン酸光学ガラスでフツリン酸光学ガラス球面レンズ又は非球面レンズを作製することができる。また、本発明のフツリン酸光学ガラスを用いて球体又は類似の形状を作製することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
P:7~12.5%、
O:12~18%、
Al:6~12%、
F:24~34%、
Ca:2~8%、
Sr:10~17%、
Ba:12~20%
の各元素を含有し、
K:0~0.3%、
Mg:0~5%、
S:0~0.1%
であり、
屈折率ndが1.46~1.54で、アッベ数νdが78~85であることを特徴とする、フツリン酸光学ガラス。
【請求項2】
重量%で、
P:7.5~12%、
O:12.5~17.5%、
Al:6~11.5%、
F:24~33%、
Mg:0.5~3%、
Ca:3~6.5%、
Sr:11~17%、
Ba:13~20%
の各元素を含有する、請求項1に記載のフツリン酸光学ガラス。
【請求項3】
重量%で、P元素とAl元素の含有量の合計Σ(P+Al)が13~24%であることを特徴とする、請求項1に記載のフツリン酸光学ガラス。
【請求項4】
重量%で、Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素の合計含有量Σ(Mg+Ca+Sr+Ba)が32~45%であることを特徴とする、請求項1に記載のフツリン酸光学ガラス。
【請求項5】
重量%で、Ba元素の含有量に対する、Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素の含有量の合計の比Ba/Σ(Mg+Ca+Sr+Ba)が0.2~0.6であることを特徴とする、請求項1に記載のフツリン酸光学ガラス。
【請求項6】
アニオン合計量に対するF-のモルパーセント含有量に対する、カチオン合計量に対するP5+のモルパーセント含有量の比F-/P5+が2.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフツリン酸光学ガラス。
【請求項7】
前記フツリン酸光学ガラスの液相温度Ltが725℃以下であり、屈伏点Atが510℃以下であり、かつ、密度ρが3.70g/cm3以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフツリン酸光学ガラス。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフツリン酸光学ガラスの製造方法であって、
フツリン酸光学ガラスを構成する各元素を含む原料を混合する工程を含むことを特徴とする、フツリン酸光学ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記製造方法は、
フツリン酸光学ガラスを構成する各元素を含む原料を白金容器に加え、溶解して溶融ガラスを得る工程と、
前記溶融ガラスの温度をさらに上昇させ、前記溶融ガラスを攪拌し均質化して、均質化液を得る工程と、
前記均質化液の温度を低下させた後、炉内から取り出してブロック材に成形する工程と、を含み、
溶融プロセスの全体にわたって、不活性ガスを用いて保護層を形成していることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフツリン酸光学ガラスを含むことを特徴とする、フツリン酸光学ガラス球面レンズ。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフツリン酸光学ガラスを含むことを特徴とする、フツリン酸光学ガラス非球面レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フツリン酸光学ガラス及びその製造方法、並びに、フツリン酸光学ガラス球面レンズ及びフツリン酸光学ガラス非球面レンズに関するものであり、光学材料の製造分野に属する。
【背景技術】
【0002】
フツリン酸光学ガラスは、フッ化物ガラスとリン酸塩ガラスの利点を組み合わせた光学材料であり、組成を幅広く調整可能であることによる光学性質の調整可能性が、その最も顕著な特徴である。フツリン酸光学ガラスは、超低屈折率、超低分散及び特に高い部分分散比を有し、色消し性に優れている。また、ガラスの分散nF-nCが低いほど、アッベ数νdが高く、光学レンズにおける色消し作用が効果的である。フツリン酸光学ガラスは、特に、アポクロマート望遠レンズにとって不可欠であり、光学設計に欠かせない素子や部品の材料となっている。
【0003】
特許出願CN101514079Aには、屈折率ndが1.45~1.52、アッベ数νdが75~85であるフルオロリン酸塩光学ガラスが開示されている。当該出願では、BaCl2が透明剤として用いられるが、これにより、Ptるつぼの表面構造が壊れやすくなることで、Ptの損失率が高くなるため、製造コストが高くなる。さらには、ガラスに白金が過剰に溶出し、降温時にPtを含有する細かな異物が析出することで、製品が廃棄されることがある。
【0004】
特許出願CN109264991Aには、屈折率ndが1.40~1.60、アッベ数νdが70~90である光学ガラス、光学素子およびプリフォームが開示されている。当該光学ガラスは、必須成分としてZnOを含有している。ZnOは、融点が1975℃と高いため、結晶介在物としてガラスに存在しやすく、ガラスの気泡レベルに影響する可能性がある。
【0005】
特許出願CN101164938Aには、屈折率ndが1.41~1.47、アッベ数νdが90~100である光学ガラスが開示されている。当該出願の技術的範囲は、本発明の技術的範囲と異なる。
【0006】
特許出願CN1931761Aには、光学ガラス、精密プレス成形用プリフォームおよび光学素子が開示されている。光学ガラスの屈折率(nd)が1.40000~1.60000であり、アッベ数(νd)が67以上である。ガラス製造中の揮発が深刻であり、工業的生産には不利である。
【0007】
特許出願CN1854100Aは、光学ガラス、プレス成形用プリフォームとその製造方法、および光学素子とその製造方法を提供している。前記光学ガラスは、屈折率ndが1.40~1.58であり、アッベ数νdが67~90であり、かつガラス転移温度が450℃以下である。しかし、当該光学ガラスには1~30%のLi+が含まれており、Li+の凝集作用により、ガラスの結晶化傾向が大きくなるため、ガラスの工業的生産には不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】中国特許出願公開第101514079号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第109264991号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第101164938号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第1931761号明細書
【特許文献5】中国特許出願公開第1854100号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、低分散の光学特性を有し、工業的な大量生産に好適であり、且つ異物の析出が低減された光学ガラスと、これを用いたフツリン酸光学ガラス球面レンズ及びフツリン酸光学ガラス非球面レンズを提供することにある。
【0010】
このような従来技術に存在する課題に鑑みて、本発明はまず、屈折率ndが1.46~1.54であり、アッベ数νdが78~85であるフツリン酸光学ガラスを提供する。
【0011】
本発明は、また、フツリン酸光学ガラス球面レンズの製造に好適に用いることができるフツリン酸光学ガラスを提供する。
【0012】
本発明は、また、フツリン酸光学ガラス非球面レンズの製造に好適に用いることができるフツリン酸光学ガラスを提供する。
【0013】
本発明はさらに、実施が容易で、原料が入手しやすく、工業的な大量生産を可能にするフツリン酸光学ガラスの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、重量%で、
P:7~12.5%、
O:12~18%、
Al:6~12%、
F:24~34%、
Ca:2~8%、
Sr:10~17%、
Ba:12~20%
の各元素を含有し、
K:0~0.3%、
Mg:0~5%、
S:0~0.1%
であり、
屈折率ndが1.46~1.54で、アッベ数νdが78~85であるフツリン酸光学ガラスを提供する。
【0015】
ここで、本発明に係るフツリン酸光学ガラスは、重量%で、
P:7.5~12%、
O:12.5~17.5%、
Al:6~11.5%、
F:24~33%、
Mg:0.5~3%、
Ca:3~6.5%、
Sr:11~17%、
Ba:13~20%
の各元素を含有するものとしてもよい。
【0016】
また、本発明に係るフツリン酸光学ガラスは、重量%で、P元素とAl元素の含有量の合計Σ(P+Al)が13~24%であるものとしてもよい。
【0017】
また、本発明に係るフツリン酸光学ガラスは、重量%で、Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素の合計含有量Σ(Mg+Ca+Sr+Ba)が32~45%であるものとしてもよい。
【0018】
また、本発明に係るフツリン酸光学ガラスは、重量%で、Ba元素の含有量に対する、Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素の含有量の合計の比Ba/Σ(Mg+Ca+Sr+Ba)が0.2~0.6であるものとしてもよい。
【0019】
また、本発明に係るフツリン酸光学ガラスは、アニオン合計量に対するF-のモルパーセント含有量に対する、カチオン合計量に対するP5+のモルパーセント含有量の比F-/P5+が2.5以下であるものとしてもよい。
【0020】
また、本発明に係るフツリン酸光学ガラスは、液相温度Ltが725℃以下であり、屈伏点Atが510℃以下であり、かつ、密度ρが3.70g/cm3以下であるものとしてもよい。
【0021】
本発明はさらに、上述のフツリン酸光学ガラスの製造方法として、フツリン酸光学ガラスを構成する各元素を含む原料を混合する工程を含む、フツリン酸光学ガラスの製造方法を提供する。
【0022】
また、本発明に係るフツリン酸光学ガラスの製造方法は、フツリン酸光学ガラスを構成する各元素を含む原料を白金容器に加え、溶解して溶融ガラスを得る工程と、前記溶融ガラスの温度をさらに上昇させ、前記溶融ガラスを攪拌し均質化して、均質化液を得る工程と、前記均質化液の温度を低下させた後、炉内から取り出してブロック材に成形する工程と、を含み、溶融プロセスの全体にわたって、不活性ガスを用いて保護層を形成するものとしてもよい。
【0023】
また、本発明は、上述のフツリン酸光学ガラスを含む、フツリン酸光学ガラス球面レンズを提供する。
【0024】
さらに、本発明は、上述のフツリン酸光学ガラスを含む、フツリン酸光学ガラス非球面レンズを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、低分散の光学特性を有し、工業的な大量生産に好適であり、且つ異物の析出が低減された光学ガラスと、これを用いたフツリン酸光学ガラス球面レンズ及びフツリン酸光学ガラス非球面レンズを提供することができる。
【0026】
特に、本発明によれば、屈折率ndが1.46~1.54であり、アッベ数νdが78~85であるフツリン酸光学ガラスを提供することもできる。
【0027】
また、本発明によれば、フツリン酸光学ガラス球面レンズの製造に用いることが可能なフツリン酸光学ガラスを提供することもできる。
【0028】
また、本発明によれば、フツリン酸光学ガラス非球面レンズの製造に用いることが可能なフツリン酸光学ガラスを提供することもできる。
【0029】
また、本発明のフツリン酸光学ガラスの製造方法によれば、実施が容易で、原料が入手しやすく、工業的大量生産を可能にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の様々な例示的な実施形態、特徴、および態様を、以下に詳しく説明する。ここで、「例示的な」という言葉は、本明細書ではもっぱら「例、実施形態、または実例として機能する」ことを意味するために使用される。本明細書で「例示的」として説明される実施形態は、必ずしも他の実施形態よりも優れていると解釈されるべきではない。
【0031】
また、本発明をより良く説明するために、以下の実施形態に数多くの具体的な態様を示している。当業者であれば、本発明は特定の具体的な態様がなくても実施できることを理解されるであろう。場合によっては、本発明の要旨を強調するために、当業者に周知の方法、手段、装置及び工程については、具体的な態様に説明しない。
【0032】
特に断りがない限り、本発明で使用される単位は国際標準単位であり、本発明における数値や数値範囲は、工業的生産に不可避的な系統誤差を含むものであると理解される。
【0033】
以下、本発明の光学ガラスの組成を詳しく説明するが、原料は対応する元素含量の化合物を、導入可能な種々の形態で導入する。以下の説明において、各成分の含有量は重量%で表す。また、以下の説明において、所定値「以下」及び所定値「以上」の場合は、いずれも所定値そのものを含む。
【0034】
本発明は、まず、各元素の含有量が、重量%で、
P:7~12.5%、好ましくは7.5~12%、
O:12~18%、好ましくは12.5~17.5%、
Al:6~12%、好ましくは6~11.5%、
F:24~34%、好ましくは24~33%、
K:0~0.3%、
Mg:0~5%、好ましくは0.5~3%、
Ca:2~8%、好ましくは3~6.5%、
Sr:10~17%、好ましくは11~17%、
Ba:12~20%、好ましくは13~20%、
S:0~0.1%
の範囲にあり、屈折率ndが1.46~1.54、好ましくは1.47~1.50であり、アッベ数νdが78~85、好ましくは79~83である、フツリン酸光学ガラスを提供する。
【0035】
以下、本発明のフツリン酸光学ガラスに含まれる元素の機能及び含有量について詳しく説明する。
【0036】
P元素は、フツリン酸光学ガラスの網目構造の形成に必須な元素であり、O元素に結合した[PO4]又は[P2O7]構造単位は、ガラス中の短距離秩序構造を構成するために必須である。Pは、原子番号が15であり、外部電子配置が3s23p3であり、sp3混成軌道で4つのO原子と4つのσ結合を形成して、[PO4]四面体を構成する。P元素の含有量が多すぎると、2つの[PO4]四面体が1つの頂点O原子を共有し、それにより[P2O7]構造単位を形成する。数多くの実験を行った結果、フツリン酸光学ガラスにおいて、[P2O7]構造単位の含有量が多いほど、ガラスに結晶が析出しやすくなることが判明している。
【0037】
本発明において、重量%で、P元素の含有量が12.5%を超えると、ガラス中の[P2O7]構造単位の含有量が過剰になることで、結晶が発生しやすくなるため、大量生産に不利となる。他方で、P元素の含有量が7%未満であると、[PO4]構造単位の含有量が不足し、失透しやすくなるため、大量生産に不利となる。したがって、本発明のフツリン酸光学ガラス中のP元素の含有量は、7~12.5%であり、好ましくは7.5~12%であり、より好ましくは8~11.5%であり、特に好ましくは9~11%である。
【0038】
O元素は、フツリン酸光学ガラスの網目構造の形成に必須な元素であり、[PO4]又は[P2O7]構造単位を構成するために必要な元素である。[PO4]又は[P2O7]構造単位は、ガラス中の短距離秩序構造を構成するために必須である。本発明において、重量%で、O元素の含有量が18%を超えると、ガラス中の[PO4]構造の含有量が過剰になるため、ガラスが所望のアッベ数に到達できない。他方で、O元素の含有量が12%未満であると、P元素の多くが[P2O7]構造単位として存在するため、[PO4]構造単位の含有量が不足し、ガラスが結晶しやすくなるため、大量生産に不利となる。したがって、本発明のフツリン酸光学ガラス中のO元素の含有量は、12~18%であり、好ましくは12.5~17.5%であり、より好ましくは13~17%であり、特に好ましくは14~16%である。
【0039】
Al元素は、フツリン酸光学ガラスの網目構造の形成に必須な元素であり、[AlF4]構造単位を構成するために必要な元素である。[AlF4]構造単位は、本発明のフツリン酸光学ガラスのアッベ数を増加させるために必須である。Alは原子番号が13であり、価電子配置が3S23P1であり、sp3混成軌道で4つのF原子と結合を形成して、四面体の[AlF4]構造単位又は八面体の[AlF6]構造単位を構成する。本発明者らは数多くの実験を行った結果、フツリン酸光学ガラスにおいて、四面体の[AlF4]構造単位の含有量が多いほど、ガラスのアッベ数が大きくなることと、八面体の[AlF6]構造単位の含有量が多いほど、ガラスの安定性が悪くなることで、大量生産に悪影響を及ぼすことがわかった。本発明において、重量%で、Al元素の含有量が12%を超えると、四面体の[AlF4]構造単位の形成が困難になるため、ガラスが所望のアッベ数に到達できない。他方で、Al元素の含有量が6%未満であると、ガラス構造中の八面体の[AlF6]構造単位の含有量が多くなることで、ガラスに結晶が析出し易くなるため、大量生産の要求を満たすことができない。したがって、本発明のフツリン酸光学ガラス中のAl元素の含有量は、6~12%であり、好ましくは6~11.5%であり、より好ましくは6~10.7%であり、特に好ましくは6~9.5%である。
【0040】
本発明におけるP元素及びAl元素は、いずれもガラスの骨格を形成する元素である。本発明において、重量%で、P元素とAl元素との合計含有量Σ(P+Al)は、24%以下にすることが好ましい。これにより、ガラスの屈折率とアッベ数を所望の範囲内にし易くすることができる。他方で、P元素とAl元素との合計含有量Σ(P+Al)は、13%以上にすることが好ましい。これにより、原料のガラス化をより一層図り易くすることができる。したがって、本発明のフツリン酸光学ガラス中のP元素とAl元素との合計含有量Σ(P+Al)は、13~24%であり、好ましくは14~23%であり、より好ましくは15~22%であり、特に好ましくは16~21%である。特に、P元素とAl元素との合計含有量Σ(P+Al)が19~20.5%である場合、脈理のないフツリン酸光学ガラスをさらに得ることができる。
【0041】
F元素は、フツリン酸光学ガラスの網目構造の形成に必須な元素であり、[AlF4]構造単位を構成するために必要な元素である。ここで、[AlF4]構造単位は、本発明のフツリン酸光学ガラスのアッベ数を増加させるために必須であり、[PO4]構造単位とともに[(PO3)F]長鎖構造単位を構成することで、ガラスに結晶を析出し難くすることができる。本発明において、重量%で、F元素の含有量が34%を超えると、[(PO3)F]長鎖構造単位の形成が困難になるため、ガラスの安定性が大量生産の要求を満たすことができない。他方で、F元素の含有量が24%未満であると、ガラス構造中の四面体の[AlF4]の含有量が多くなるため、ガラスが所望のアッベ数に到達できない。したがって、本発明のフツリン酸光学ガラス中のF元素の含有量は、24~34%であり、好ましくは25~33%であり、より好ましくは26~32%であり、特に好ましくは28~31%である。
【0042】
Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素は、いずれもガラスの屈折率を高めるのに有効な元素である。
【0043】
Mg元素は、ガラスの屈折率を効果的に向上させる元素であるが、F元素と四面体の[MgF4]構造単位を形成してガラスの網目構造に入り込むことで、ガラスに結晶を析出し易くすることができる元素でもある。Mg元素は、900~1200℃の温度で溶融ガラスの粘度を増大させ、900℃未満の温度で溶融ガラスの粘度を低下させる傾向がある。そのため、重量%で、Mg元素の含有量が5%を超えると、ガラスに結晶が析出し易くなるとともに、溶融段階の溶融ガラスの粘度が上昇することでガラス中の気泡の排出が困難になり、また、成形段階の溶融ガラスの粘度が低下することでガラスの成形が困難になる。したがって、Mg元素の含有量は、0~5%であり、好ましくは0.5~3%であり、より好ましくは0.5~2.5%であり、特に好ましくは1.5%である。
【0044】
Ca元素は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの化学的安定性を向上させるのに有効な元素であり、高温でガラスの粘度を低下させ、溶融ガラスにおける気泡の排出を加速する元素であるが、含有量が多いとガラスの晶析傾向を増加させる元素でもある。本発明において、重量%で、Ca元素の含有量が8%を超えると、ガラスの脆性が増加するとともに、ガラスの晶析傾向が増加するため、大量生産が困難になる。他方で、Ca元素の含有量が2%未満であると、本発明の効果を達成できない。したがって、Ca元素の含有量は、2~8%であり、好ましくは3~6.5%であり、より好ましくは4~5.5%であり、特に好ましくは4.5~5.0%である。
【0045】
Sr元素は、ガラスの屈折率の向上に有効な元素である。本発明において、重量%で、Sr元素の含有量が17%を超えると、ガラスに結晶が析出し易くなる。他方で、Sr元素の含有量が10%未満であると、本発明で所望とされる屈折率を満たすことができない。したがって、Sr元素の含有量は、10~17%であり、好ましくは11~16%であり、より好ましくは12~15%であり、特に好ましくは13~14%である。
【0046】
Ba元素は、ガラスの屈折率の向上に有効な元素であり、ガラスの粘度の温度依存性を向上させることができる。本発明において、重量%で、Ba元素の含有量が20%を超えると、温度による粘度変化の幅がかえって小さくなることで、ガラスの成形が困難になり、また、ガラスの密度が3.70g/cm3を超える。他方で、Ba元素の含有量が12%未満であると、所望の屈折率に到達できない。したがって、Ba元素の含有量は、12~20%であり、好ましくは13~19%であり、より好ましくは14~18%であり、特に好ましくは15~16%である。
【0047】
Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素は、いずれもアルカリ土類金属元素であり、ガラスの網目修飾成分となる元素であり、主にフツリン酸光学ガラスの[PO4]、[P2O7]、[AlF4]、[AlF6]、[(PO3)F]などの構造単位の連続性を断って、ガラスの長距離無秩序構造を形成する。また、Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素は、いずれもガラスの屈折率を高める作用を有し、原子番号が大きいほど、屈折率を高める作用が強くなる。そのため、得られるフツリン酸光学ガラスの屈折率とアッベ数を所望の範囲に調整し易くする観点では、重量%で、Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素の合計含有量Σ(Mg+Ca+Sr+Ba)は、32%以上45%以下の範囲であることが好ましい。特に、Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素の合計含有量ΣMg+Ca+Sr+Ba)は、好ましくは32.5~44%であり、より好ましくは33%~43%であり、特に好ましくは34.5~42%である。
【0048】
さらに、本発明において、重量%で、Ba元素の含有量に対する、Mg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素の含有量の合計の比Ba/Σ(Mg+Ca+Sr+Ba)は0.2~0.6であることが好ましい。特に、Ba/Σ(Mg+Ca+Sr+Ba)を0.6以下にすることで、得られるガラスの密度が3.70g/cm3以下になり、また、ガラスに結晶が析出し難くなることで、工業的生産をより一層容易にすることができる。他方で、Ba/Σ(Mg+Ca+Sr+Ba)を0.2以上にすることで、所望の屈折率をより得やすくすることができる。
【0049】
K元素は、アルカリ金属元素であり、ガラスの網目修飾成分となる元素であり、[PO4]、[P2O7]、[AlF4]、[(AlF6]、[(PO3)F]など構造単位の連続性を断って、ガラスの長距離無秩序構造を形成する。K元素は、ガラスの溶融温度を下げることができる。その含有量が0.3%を超えると、ガラスに結晶が析出し易くなる。そのため、K元素の含有量は0~0.3%である。
【0050】
多くの実験によって、次のことを見出した。本発明のフツリン酸光学ガラスは、特に球面レンズや非球面レンズの材料として用いる観点では、アルカリ金属元素であるLi元素及びNa元素は含有しないことが好ましい。アルカリ金属元素であるLi元素及びNa元素は、ガラスの屈折率と分散を所望の値に整合することに用いることができるが、ガラスの耐アルカリ安定性及び耐洗剤安定性を低下することで、リヒートプレスと精密モールドプレスの難易度を高めるため、球面レンズと非球面レンズの工業的生産を困難にしうる。Li元素及びNa元素は、原子半径が比較的小さいため、球面レンズと非球面レンズを製造する際の加熱プロセスにおいて、Li元素及びNa元素が球面レンズと非球面レンズに蓄積することで、レンズの加工及び外観に影響を与える。特に、Li元素は、凝集作用によってガラスの結晶化傾向を大きくし、それによりガラスの工業的生産を難しくする可能性があるため、含有しないことが好ましい。
【0051】
S元素は、高温溶融ガラスの気泡を除去するのに有効な元素である。S元素は、ガラス原料において硫酸塩として導入され、硫酸塩が分解してO2及びSO2が生成されることにより、溶融ガラス中の気泡の成長を加速することで、ガラス中の気泡を除去する目的を達成することができる。本発明において、重量%で、S元素の含有量が0.1%を超えると、SO2及びO2が過剰に生成されることで、ガラス中のフッ素元素の揮発が促進されるため、ガラスのアッベ数が低下する。そのため、S元素の含有量は0~0.1%である。
【0052】
Zn元素は、ガラスにZnOを形成しやすく、ZnOが結晶介在物としてガラスに存在しやすく、かつガラス中の気泡レベルに影響を与える可能性がある。そのため、本発明の光学ガラスは、例えばこれらの結晶介在物や気泡の生成を防ぐ観点から、Zn元素を含有しなくてもよい。
【0053】
さらに、本発明の光学ガラスは、Y、Snなどの元素を含まないことが好ましい。
【0054】
また、本発明者らは、数多くの実験によって、次のことを見出した。本発明のフツリン酸光学ガラスは、アニオン合計量に対するF-のモルパーセント含有量と、カチオン合計量に対するP5+のモルパーセント含有量との比F-/P5+が2.5以下であり、好ましくは0.1~2.5であり、例えば、0.3、0.5、0.8、1、1.2、1.5、1.8、2、2.2、2.5などが挙げられる。F-/P5+が2.5未満であると、ガラスの液相温度が725℃未満になる。一方、F-/P5+が2.5より大きいと、得られるガラスの液相温度が高くなるため、脈理による縞模様の制御が困難になる。
【0055】
本発明におけるP元素は、ガラス状のAl(PO3)3として導入され、P2O5として導入されることは可能な限り回避されている。溶融中にP2O5が白金と接触することで、白金を腐食して白金酸塩を形成し、それによりガラス製品中の金属イオンの含有量が増加するため、金属イオンによる光の散乱が結像光学系の品質に影響を及ぼす。P元素は、ガラス状のAl(PO3)3として導入されることによって、溶融温度の低下及びガラス中の白金酸塩の低減という目的を達成することができる。
【0056】
本発明におけるAl元素は、ガラス状のAl(PO3)3及びAlF3として導入することが好ましく、Al2O3やAl(OH)3として導入されることは可能な限り回避されている。その理由としては、Al(OH)3が140~150℃で脱水し、Fの揮発を加速するため、揮発の制御が困難になる点が挙げられる。また、Al2O3の融点が2000℃以上と高いため、溶融温度の低下が困難になる点も挙げられる。Al元素は、ガラス状のAl(PO3)3及びAlF3として導入されることによって、特に溶融温度の低下及びFの揮発の低減という目的を達成することができる。
【0057】
本発明におけるMg元素、Ca元素、Sr元素及びBa元素は、好ましくはフッ化物として導入される。他方で、炭酸塩又は硝酸塩として導入されることは可能な限り回避されている。これは、炭酸塩と硝酸塩がガラスの溶融中に分解反応を起こし、ガスを生成するからである。分解によって生成されるガスを高温の溶融ガラスから除去する必要があり、これにより、Fの揮発が加速され、揮発の制御が困難になる。
【0058】
本発明におけるK元素及びS元素は、好ましくはK2SO4として導入される。主に硫酸塩が高温で分解してSO2及びO2が生成されることにより、ガラス中の気泡の成長を助長し、ガラス中の気泡をすばやく除去する目的を達成することができる。
【0059】
さらに、本発明におけるフツリン酸光学ガラスの液相温度Ltは、好ましくは725℃以下であり、より好ましくは650~725℃であり、さらに好ましくは645~720℃である。また、本発明におけるフツリン酸光学ガラスの屈伏点Atは、好ましくは510℃以下であり、より好ましくは465~500℃であり、さらに好ましくは470~495℃である。また、本発明におけるフツリン酸光学ガラスの密度ρは、好ましくは3.70g/cm3以下であり、より好ましくは3.55~3.7g/cm3であり、さらに好ましくは3.57~3.67g/cm3である。また、本発明におけるフツリン酸光学ガラスの転移温度は、好ましくは465℃以下であり、より好ましくは430~465℃であり、さらに好ましくは435~460℃である。また、本発明におけるフツリン酸光学ガラスの標準ガラスH-K9に対する研磨硬度FAは、好ましくは425以下であり、より好ましくは375~425であり、さらに好ましくは380~420である。また、本発明におけるフツリン酸光学ガラスの耐アルカリ安定性及び耐洗剤安定性は、ともに2級以上であることが好ましい。また、本発明におけるフツリン酸光学ガラス中のPt含有異物数は、1個/cm3以下であることが好ましい。
【0060】
本発明は、さらに、上述のフツリン酸光学ガラスを構成する各元素を含む原料を混合する工程を含む本発明に係るフツリン酸光学ガラスの製造方法を提供する。
【0061】
さらに、本発明において、前記製造方法は、
フツリン酸光学ガラスを構成する各元素を含む原料を白金容器に加えて溶解し、好ましくは1080~1120℃の温度で溶解して溶融ガラスを得る工程と、
そして、前記溶融ガラスの温度をさらに上昇させ、このとき好ましくは前記溶融ガラスの温度を1180~1220℃に上昇させ、前記溶融ガラスを攪拌し均質化して均質化液を得る工程と、
前記均質化液の温度を低下させ、好ましくは780~820℃に低下させた後、炉内から取り出してブロック材に成形する工程と、を含み、
溶融プロセスの全体にわたって、不活性ガスを用いて保護層を形成し、好ましくは、溶融ガラスの表面における不活性ガスの流通量が8~12L/minであってもよい。ここで、溶融プロセスとしては、原料を溶解して溶融ガラスを得る工程から、溶融ガラスから均質化液を得る工程を経て、均質化液の温度を低下して炉内から取り出すまでのプロセスを挙げることができる。また、不活性ガスは、N2などの化学反応に関与しないいかなる気体であってもよい。本発明者らは、保護層として溶融ガラスの表面上に不活性ガスを導入することにより、ガラス製造中のFの揮発を効果的に抑制できることを見出した。
【0062】
フツリン酸光学ガラスの原料が溶融状態である場合、ガラス中のフッ素が非常に揮発しやすい。このような揮発は、ガラス表層とガラス内部との組成の違いを引き起こしやすく、それにより、ガラスは光学的不均一性、すなわち縞模様を示す。フッ素の揮発は、溶融ガラスの温度と関連しており、溶融ガラスの温度が高いほど揮発度が高くなる。フッ素の揮発により形成される縞模様を減らすために、前記製造方法は、次の工程を含む。フツリン酸光学ガラスを構成する各元素を含む原料を白金るつぼに入れ、これを1080~1120℃の炉内に入れて溶解して溶融ガラスを得た後、1180~1220℃に温度を上昇させて、溶融ガラスを撹拌し均質化する。次いで、780~820℃に温度を低下させた後、炉内から取り出してブロック材に成形する。溶融プロセスの全体にわたって、φ8×6のPtパイプを用い、白金るつぼの口から溶融ガラスの表面に乾燥N2を(8~12)L/minの流量で流して保護層を形成し、Fの揮発を抑制する。
【0063】
さらに、本発明はさらに、上述のフツリン酸光学ガラスを含むフツリン酸光学ガラス球面レンズを提供する。ここで、フツリン酸光学ガラス球面レンズは、好ましくは、上記フツリン酸光学ガラスを所定のプレス成形温度で二次熱間プレスにより球面光学レンズブランクを形成した後、粗研磨を行い、次いで粒径0.5~1μmの酸化セリウムまたは酸化ジルコニウムで3~10分間にわたり仕上げ研磨を行って得ることができる。
【0064】
球面レンズのプレス成形温度は、屈伏点(At)に基づいて決定できる。一般的には、球面レンズのプレス成形温度は、フツリン酸光学ガラスの屈伏点よりも160℃以上高くならない温度であり、即ち、屈伏点より160℃高い温度以下の温度を、球面レンズのプレス成形温度とすることができる。
【0065】
さらに、本発明はさらに、上述のフツリン酸光学ガラスを含むフツリン酸光学ガラス非球面レンズを提供する。ここで、フツリン酸光学ガラス非球面レンズは、好ましくは、上記フツリン酸光学ガラスを球体又は類似の形状に加工して非球面の金型に入れ、モールドプレス成形温度以下の温度に加熱し、350~450kgfの圧力下で50~180秒間にわたり精密モールドプレスして得ることができる。
【0066】
非球面レンズのモールドプレス成形温度も、屈伏点(At)に基づいて決定できる。一般的には、非球面レンズのモールドプレス成形温度は、フツリン酸光学ガラスの屈伏点より10℃~20℃高い温度であり、即ち、屈伏点より10℃~20℃高い温度を非球面レンズのモールドプレス成形温度とすることができる。
【実施例0067】
以下、実施例を参照しながら本発明についてさらに詳しく説明するが、以下の実施例は本発明を例示することのみを意図したものであり、本発明の範囲を限定するものではないことが当業者によって理解される。実施例において、具体的な条件について特に断りがない限り、通常の条件又はメーカーが推奨する条件に従う。メーカーが明記されていない場合、用いる試薬又は機器は、いずれも市場から入手できる一般的な製品である。
【0068】
[実施例1~16]
以下、本発明のフツリン酸光学ガラスの実施例1~16における各元素の重量パーセント単位の含有量を、表3、表4、表5及び表6に示す。各元素の基となるガラス状のAl(PO3)3、AlF3、K2SO4、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2原料を各元素の重量割合に応じて配合し、混合した後、バッチを白金るつぼに入れ、これを(1100±20)℃の炉内に入れて溶解して溶融ガラスを得た。次いで、得られた溶融ガラスの温度を(1200±20)℃に上昇させ、溶融ガラスを攪拌して均質化させた。溶融ガラスの温度を(800±20)℃に低下させた後、溶融ガラスを炉内から取り出してブロック材に成形した。ここで、原料を溶解して溶融ガラスを得る工程から、溶融ガラスから均質化液を得る工程を経て、均質化液の温度を低下して炉内から取り出すまでの溶融プロセスの全体にわたって、φ8×6のPtパイプを用い、白金るつぼの口から溶融ガラスの表面に乾燥N2を(10±2)L/minの流量で流して保護層を形成した。
【0069】
また、実施例1~16のフツリン酸光学ガラスを、表3、表4、表5及び表6に示すプレス成形温度で二次熱間プレスを行って球面光学レンズブランクを形成し、さらに粗研磨を行い、次いで粒度0.5~1μmの酸化セリウムで3~10分間にわたり仕上げ研磨を行って、フツリン酸光学ガラス球面光学レンズを作製した。
【0070】
また、実施例1~16のフツリン酸光学ガラスを、モールドプレスに必要な球体又は類似の形状になるように研磨した後、表3、表4、表5及び表6に示すモールドプレス成形条件(モールドプレス温度、モールドプレス時間、プレス時の圧力)に従って、WC型を用いて精密モールドプレス成形を行い、フツリン酸光学ガラス非球面光学レンズを作製した。
【0071】
[比較例A~D]
表7に示すように元素組成又は元素の重量%を変更した以外、実施例1~16と同様の製造方法で、比較例A~Dの光学ガラス、非球面光学レンズ及び球面光学レンズを作製した。
【0072】
具体的には、比較例A~Dにおいて、各元素の基となるガラス状のAl(PO3)3、AlF3、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、Na3AlF3、YF3、SnF2などの原料を各元素の重量割合に応じて配合し、混合した後、バッチを白金るつぼに入れ、これを(1100±20)℃の炉内に入れて溶解して溶融ガラスを得た。次いで、得られた溶融ガラスの温度を(1200±20)℃に上昇させ、溶融ガラスを攪拌して均質化させた。溶融ガラスの温度を(800±20)℃に低下させた後、溶融ガラスを炉内から取り出してブロック材に成形した。ここで、原料を溶解して溶融ガラスを得る工程から、溶融ガラスから均質化液を得る工程を経て、均質化液の温度を低下して炉内から取り出すまでの溶融プロセスの全体にわたって、φ8×6のPtパイプを用い、白金るつぼの口から溶融ガラスの表面に乾燥N2を(10±2)L/minの流量で流して保護層を形成した。
【0073】
[物性の測定および試験方法]
上記実施例1~16及び比較例A~Dで得られたフツリン酸光学ガラスについて、下記の方法で各性能を測定した。
【0074】
1.屈折率nd、アッベ数νd
GB/T7962.1-2010の測定方法に従って、得られたフツリン酸光学ガラスの屈折率nd及びアッベ数νdを測定した。
【0075】
2.密度
GB/T7962.20-2010の測定方法に従って、得られたフツリン酸光学ガラスの密度を測定した。
【0076】
3.耐アルカリ安定性ROH(s)(表面法)
測定方法は、次の通りである。6面研磨されたサイズが40×40×5mmの試料を、濃度0.01mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、十分に攪拌しながら、50℃±3℃の一定温度で15時間浸漬した。単位面積あたりの浸出質量(単位:mg/(cm2・15h))の平均値に基づいて、光学ガラスの耐アルカリ安定性ROH(s)を5等級に分けた。詳細は下記表1のとおりである。
【0077】
【0078】
4.耐洗剤安定性RP(s)(表面法)
測定方法は、次のとおりである。6面研磨された35mm×35mm×8mmの試料を、濃度が0.01mol/LのNa5P3O10水溶液、十分に攪拌しながら、50℃±3℃の一定温度で1時間浸漬した。単位面積あたりの浸出質量(単位:mg/(cm2・h))の平均値に基づいて、光学ガラスの耐洗剤安定性RP(s)を5等級に分けた。詳細は下記表2のとおりである。
【0079】
【0080】
5.転移温度(Tg)、屈伏点(At)、液相温度(Lt)
【0081】
転移温度(Tg)、屈伏点(At)はアメリカのPE社製TMA測定装置で、GB/T7962.16(「無色の光学ガラス試験方法 第16部分:線膨張係数、転移温度、垂直温度」)で規定されている方法で測定した。また、液相温度(Lt)は、日本の本山社製GM-N16P型勾配炉で測定した。液相温度の測定は、ガラス試料約5gを白金皿に入れ、5℃刻みで510℃~800℃まで昇温して1時間保持した後、自然に放置冷却してから、結晶の析出有無を顕微鏡で観察し、結晶が観察されない最低温度を液相温度とすることで行なった。
【0082】
6.摩耗度FA
【0083】
摩耗度とは、同じ研磨条件下で、標準ガラスH-K9に対する測定ガラス試料の研磨硬度を指す。測定ガラス試料の摩耗量(体積)と標準ガラス試料H-K9の摩耗量(体積)を測定し、その比の100倍を、測定ガラス試料の摩耗度FAとする。
【0084】
測定ガラス試料と標準ガラス試料H-K9の摩耗量(体積)の具体的な測定方法は、次のとおりである。同じサイズの測定ガラス試料と標準ガラス試料H-K9をそれぞれ鋳鉄製研磨ディスクにクランプで固定し、測定試料と標準試料H-K9のそれぞれに1Kgの圧力をかけた後、100mLの40#エメリーと3Lの水からなる懸濁液を連続的に加え、研磨ディスクを60~65回転/分の速度で回転させて試料を研磨し、研磨時間を3分間とした。研磨が完了した後、標準ガラス試料H-K9と測定ガラス試料の研磨重量の損失をそれぞれ測定し、さらにそれを摩耗量(体積)に換算した。
【0085】
7.ガラス中のPt含有異物数(個/100cm3)
【0086】
ガラス中のPtを含有する異物の計数には、鋳込みで成型された300mm×160mm×15mmの大きさのガラス試料を用い、200倍の偏光顕微鏡でガラス試料に含まれるPt含有異物数を計数し、計数されたPt含有異物の数をガラス試料の体積で割って、100立方センチメートルを単位体積とするPt含有異物数を算出した。
【0087】
8.試料の脈理
【0088】
長さが(70±5)mmの光学ガラス試料の両端を研磨し、長さ方向に沿って見たときの画像を、投影スクリーンに映し出して脈理の有無およびその太さを検査した。この検査は、GB/T7962.7(「無色の光学ガラス試験方法 脈理度検査方法」)で規定されている方法で行なった。
【0089】
9.フツリン酸光学ガラスからなる球面および非球面レンズの外観検査
青ヤケについて、黒色を背景に、27Wの蛍光灯を使用し、透過光の下でレンズを回しながら観察したときに、目視により青いヤケが観察された場合は青ヤケがあると判断し、目視により白いヤケが観察された場合は白ヤケがあると判断し、アクリルが観察されなかった場合は、ヤケがないと判断した。
【0090】
表面欠陥について、黒色を背景に、27Wの蛍光灯を使用し、反射光の下で被検レンズを目視により観察し、被検レンズを限度見本と比較して外観を判断した。表面欠陥は、一般的な表面欠陥と長い傷の組み合わせによって判断される。
【0091】
このうち、表面欠陥は、スポットとキズで評価した。国際規格ISO10110を使用して判断した。スポットは5/N×Aで表す。ここで、5は表面欠陥のコードであり、N×Aは許容欠陥度であり、Nは最大許容欠陥数であり、Aは最大許容欠陥面積の平方根である。
【0092】
また、傷は、5/LN×Aで表す。ここで、5は表面欠陥のコードであり、Lは傷のコードであり、Nは傷の許容数であり、Aは傷の最大許容幅である。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
実施例1~16のフツリン酸光学ガラスは、屈折率及びアッベ数が所望な範囲にあり、Pt含有異物数が1個/100cm3未満であるだけでなく、バッチ生産が可能であり、光学素子の要求を満たすことができた。加えて、実施例1~16のフツリン酸光学ガラスは、ガラスの脈理について、いずれも太い縞になるものを有するものではなかった。
【0099】
また、実施例1~16のフツリン酸光学ガラスを、モールドプレスして球面光学レンズブランクを形成し、さらに粗研磨を行い、次いで粒度0.5~1μmの酸化セリウムで3~10分間にわたり仕上げ研磨を行って作製したフツリン酸光学ガラス球面レンズは、外観検査の結果も精密光学部品の要求を満たすことができた。
【0100】
また、実施例1~16のフツリン酸光学ガラスを、モールドプレスに必要な球体又は類似の形状になるように研磨した後、非球面の型に入れ、(At+10)~(At+20)℃の温度に加熱し、350~450kgfの圧力下で、50~180秒間モールドプレスすることで得られたフツリン酸光学ガラスの非球面レンズは、モールドプレス時にヤケ外観や割れが生じることを防止することができ、高精密光学部品の要求を満たすことができた。
【0101】
他方で、比較例A~Dで得られたフツリン酸光学ガラスは、所望な範囲に近い屈折率及びアッベ数を有するものの、Pt含有異物数がいずれも5個/100cm3より多かった。
【0102】
また、比較例A~Dで得られたフツリン酸光学ガラス球面レンズは、外観検査の結果が、表面欠陥と長い傷のいずれの面においても悪く、高精密光学部品の要求を満たすことができなかった。
【0103】
また、比較例A~Dで得られたフツリン酸光学ガラス非球面レンズは、モールドプレス成形時に表面のヤケの問題を解決することができなかった。
本発明のフツリン酸光学ガラス及びその製造方法は、工業的に製造することができる。また、本発明のフツリン酸光学ガラスは、非球面又は球面光学レンズに加工することができ、様々な結像光学系に適用できる。
本発明の上記実施例は、本発明を明確に説明するための単なる例示であり、本発明の実施形態を限定することを意図するものではない。当業者であれば、上記説明に基づいて、他の変形例や異なる形態への変更を行うことができる。本明細書において、すべての実施形態を網羅的に列挙する必要がなく、可能でもない。本発明の精神及び原理の範囲内でなされたいかなる修正、均等な置き換え及び改良は、いずれも本発明の特許請求の範囲の保護範囲に含まれるものとする。