(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003632
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】ブレーキキャリパ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/02 20060101AFI20240105BHJP
F16D 55/226 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
F16D65/02 C
F16D55/226 104F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102908
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】兼平 康行
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA63
3J058AA69
3J058AA73
3J058AA77
3J058AA87
3J058BA68
3J058CC23
3J058CC25
3J058CC26
3J058DD13
3J058DD28
3J058EA05
3J058EA08
3J058EA13
3J058EA17
3J058EA22
3J058FA06
(57)【要約】
【課題】軽量なブレーキキャリパを提供する。
【解決手段】ブレーキキャリパは、車両(100)の車輪と共に回転するロータ(10)と、ロータを挟み、ロータと対向する内側に位置する第1部(21)が金属を含む材料で形成され、内側と反対側の外側に位置する第2部(22)が樹脂の母材に強化材としての繊維を加えた複合材料で形成されているブリッジ部(20)と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪と共に回転するロータと、
前記ロータを挟み、前記ロータと対向する内側に位置する第1部が金属を含む材料で形成され、前記内側と反対側の外側に位置する第2部が樹脂の母材に強化材としての繊維を加えた複合材料で形成されているブリッジ部と、
を備えていることを特徴とするブレーキキャリパ。
【請求項2】
前記ブリッジ部を駆動するピストン部と、
前記ブリッジ部に取り付けられ、前記ロータと接触して前記車輪に制動力を発生させるブレーキパッドと、を備え、
前記ブリッジ部の前記第2部を形成する前記複合材料の前記繊維は、前記ブリッジ部の前記ピストン部側のピストン側端部から前記ブリッジ部の前記ブレーキパッド側のパッド側端部に向かう方向に配向されている、請求項1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項3】
前記ブリッジ部の前記第1部の一部は、前記ブリッジ部の前記第2部から露出している、請求項1に記載のブレーキキャリパ。
【請求項4】
前記ブリッジ部の前記第1部と前記第2部とは、金属めっきを介して接合されている、請求項1から3のいずれか一項に記載のブレーキキャリパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はブレーキキャリパに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ブレーキキャリパのブリッジ部がアルミニウムまたはアルミニウム合金マトリクスにセラミック粒子を複合した材料により製造されるブレーキキャリパが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ブレーキキャリパに対して、更なる軽量化が望まれている。
本開示は、軽量なブレーキキャリパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るブレーキキャリパは、車両の車輪と共に回転するロータと、前記ロータを挟み、前記ロータと対向する内側に位置する第1部が金属を含む材料で形成され、前記内側と反対側の外側に位置する第2部が樹脂の母材に強化材としての繊維を加えた複合材料で形成されているブリッジ部と、を備えている。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、軽量なブレーキキャリパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係るブレーキキャリパの概略断面図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係るブレーキキャリパの概略上面図である。
【
図3】本開示の変形例に係るブレーキキャリパを構成するブリッジ部の第1部と第2部との接合方法の一例を示す図である。
【
図4】本開示の変形例に係るブレーキキャリパの概略上面図および概略断面図である。
【
図5】本開示の変形例に係るブレーキキャリパの概略断面図であり、めっき接合の方法を示す図である。
【
図6】本開示の変形例に係るブレーキキャリパの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。
図1は、本開示の一実施の形態に係るブレーキキャリパの一構成例を示す概略断面図である。
図2は、ブレーキキャリパ1の上面図である。
【0009】
(ブレーキキャリパの構成)
図1および
図2に例示するブレーキキャリパ1は、浮動型の液圧キャリパである。ブレーキキャリパ1は、ブレーキペダル101と液圧制動装置102と図示しない車輪とを備える車両100に搭載されている。ブレーキキャリパ1は、ディスクロータ10と、ブリッジ部20と、ピストン部30と、ブレーキパッド40Aおよび40Bとを備えている。
【0010】
ディスクロータ10は、回転軸R1を中心に車両100の車輪と共に回転する。
ブリッジ部20は、ディスクロータ10側の第1部21と、その反対側の第2部22と、を有している。ここで
図1において、ブリッジ部20のディスクロータ10側の部分とは、ブリッジ部20のうち、ブレーキパッド40Aおよび40Bならびにディスクロータ10と対向する部分であり、爪側内面27A、ピストン側内面27Bおよび内面27Cならびにこれらの近傍のことである。爪側内面27A、ピストン側内面27Bおよび内面27Cとは、ブレーキパッド40Aおよび40Bならびにディスクロータ10と対向するブリッジ部20の表面のことである。また
図1において、ブリッジ部20の内側の反対側(外側)の部分とは、爪側内面27Aの反対側の爪側外面28Aと、内面27Cの反対側の外面28Bと、それらの近傍の部分のことである。
【0011】
第1部21は、金属を含む材料、例えば、鋳鉄、アルミニウム等で形成されている。
第2部22は、樹脂を母材に強化材として繊維を加えた複合材料、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で形成されている。第2部22を形成する複合材料の母材には、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の他、ポリアミド等の熱可塑性樹脂等を使用することができる。母材に加える繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維等を使用することができる。
【0012】
第2部22を形成する複合材料において母材に加える繊維は、ブリッジ部20のピストン部30側のピストン側端部221からブリッジ部20のブレーキパッド40B側のパッド側端部222に向かう方向D1に配向されている。以降、方向D1を配向方向D1ともいう。
本実施形態では、ブリッジ部20の第1部21と第2部22とは、めっき接合されているものとする。ブリッジ部20の製造工程は後述する。
【0013】
ブレーキパッド40Aおよび40Bならびにディスクロータ10は、第1部21の爪側内面27Aとピストン側内面27Bとの間に挟まれている。
【0014】
図1に示すピストン部30はシリンダ部31とピストン32とを有している。シリンダ部31は、第1部21のピストン側内面27Bに開口している。シリンダ部31の内側には、ピストン32により液室33が区画形成されている。液室33には、液圧制動装置102からポート34を介してブレーキ液が供給される。ピストン32は、液室33の内部の液圧により、回転軸R1と平行な方向に直動させることができる。
【0015】
ブレーキパッド40Aは、第1部21のピストン側内面27Bとディスクロータ10との間に配置されている。また、ブレーキパッド40Bは、第1部21の爪側内面27Aとディスクロータ10との間とに配置されている。
図2に例示されるように、ブリッジ部20には、第2部22の上面から第1部21の下面までブリッジ部20を貫通する貫通孔23が設けられている。ディスクロータ10ならびにブレーキパッド40Aおよび40Bは、この貫通孔23を通して視認することができる。
【0016】
(ブレーキキャリパの作動)
図1のピストン部30は、ブリッジ部20を駆動する。具体的には、車両100の運転者によりブレーキペダル101が踏み込まれると、液室33の液圧が上昇する。液室33の液圧が上昇すると、ディスクロータ10の回転軸R1と平行な方向にピストン32が直動し、ディスクロータ10に近づく。このピストン32の直動により、ブレーキパッド40Aがディスクロータ10に当接する。ブレーキパッド40Aのディスクロータ10への当接した状態で更に液室33の液圧が上昇すると、ブリッジ部20は、ピストン32と反対方向に移動する。このブリッジ部20の移動により、ブレーキパッド40Bがディスクロータ10に当接する。二つのブレーキパッド40Aおよび40Bがディスクロータ10に押し付けられることにより生じた摩擦力により、車両100の車輪に制動力が付与される。
【0017】
(ブリッジ部の第1部と第2部とを接合させる工程)
上述したように、ブリッジ部20を構成する第1部21と第2部22とは、めっき接合されている。以下、
図3を用いて、ブリッジ部20の製造工程について説明する。
図3において、ブリッジ部20の製造工程は、(a)、(b)、(c)の順に進むものとする。
【0018】
図3の(a)に示すように、接合対象である第1部21の面26と、第2部22の面27とを粗化させる。粗化の方法としては、ケミカルエッチング、陽極酸化、及びサンドペーパーによる研磨等が利用可能である。そして、粗化された第1部21の面26と、第2部22の面27とが互いに対向するように、第1部21と第2部22とを配置する。このとき、第1部21の面26と、第2部22の面27との間に所定間隔の隙間Sを設ける。
なお、第1部21の面26と、第2部22の面27とを粗化させた後に面26と面27とに下地めっき膜を形成させることにしてもよい。
【0019】
次に、
図3の(b)に示すように、第1部21の面26にめっき膜51を析出させ、第2部22の面27にめっき膜52を析出させる。めっき膜51および52には、例えば、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、インジウム、白金、金、及び鉛の金属が利用可能である。
次に、
図3の(c)に示すように、めっき膜51および52を成長させて、隙間Sをめっき金属で充填させて接合層53を形成する。
【0020】
(変形例)
上記実施形態に係るブレーキキャリパ1では、ブリッジ部20を貫通する貫通孔23をブリッジ部20に設けた。しかし、ブリッジ部20には貫通孔23を設けなくてもよい。
【0021】
上記実施形態では、第1部21を完全に覆う第2部22を例示した。しかし、第2部22は、第1部21の一部を覆うように設けてもよい。例えば
図4に示すように、第2部22Bの上面から第2部22Bの下面まで第2部22Bのみを貫通する貫通孔24を第2部22Bに設けてもよい。
ここで
図4において、(a)はブレーキキャリパ1Bの上面図であり、(b)は(a)のA-A線におけるブリッジ部20Bの断面図である。
図4では、上記実施形態におけるブレーキキャリパ1の構成要素と実質的に同一のブレーキキャリパ1Bの構成要素に、同一符号が付されている。
図4の第2部22Bには、溝状の貫通孔24が第2部22Bに設けられている。
図4の(b)に示すように、第1部21の接合面B1の一部25が、第2部22Bの接合面B2と接合せずに、第2部22Bから貫通孔24を介して露出している。
【0022】
本変形例では、貫通孔24は配向方向D1に伸びる溝状である。しかし、貫通孔24の形状は溝状に限定されるものではない。貫通孔24の形状は、例えば円形や正方形であってもよい。第2部22Bに円形や正方形の貫通孔24を複数設ける場合は、これらの貫通孔24を、配向方向D1と直交する方向に配列させないことが好ましい。これらの貫通孔24をブリッジ部20Bに、例えば、配向方向D1に配列することや、千鳥に配置することが好ましい。
【0023】
また本変形例では、第2部22Bを第1部21に接合する際、第2部22にめっき膜52を析出させる工程では、
図3の(b)に示す工程と同様に、第2部22Bの第1部21に対向する面のみにめっき膜52を析出させてもよいし、
図5の(a)に示すように、第2部22Bの貫通孔24の側面にもめっき膜52を析出させてもよい。めっき膜52を成長させる工程では、
図3の(c)に示す工程と同様に、第1部21と第2部22との間のみにめっき金属を充填させてもよいし、
図5の(b)に示すように、貫通孔24の少なくとも一部にもめっき金属を充填させてもよい。
【0024】
上記変形例では、貫通孔24にめっき金属を充填する構成を例示した。しかし、
図6に示すブリッジ部20Cのように、第2部22Bの貫通孔24に対応する凸部60を第1部21Bに設け、凸部60が貫通孔24に入り込むようにして、第1部21Bと第2部22Bとを接合してもよい。
【0025】
上記実施形態及び変形例では、ブリッジ部20(20B、20C)の第1部21(21B)と第2部22(22B)とをめっき接合により接合することとした。しかし、第1部21(21B)と第2部22(22B)との接合方法は、めっき接合だけに限定されるものではない。例えば、第1部21(21B)と第2部22(22B)とを、一体成形することにしてもよいし、ボルト等により締結することにしてもよい。第1部21(21B)と第2部22(22B)とを一体成形する場合は、例えば、第1部21(21B)の面26を粗化または面26の表面に粗面構造のめっき膜を形成し、形成された粗面に、樹脂を母材に強化材として繊維を加えた複合材料を充填させて、第1部21(21B)と第2部22(22B)とを一体成形してもよい。
【0026】
上記実施形態では、ブレーキキャリパ1として浮動型のキャリパを例示したが、ブレーキキャリパはこれに限定されるものではない。ブレーキキャリパ1は、ブレーキパッド40B側にもピストン部30を有する対向型キャリパであってもよい。
上記実施形態では、ブレーキキャリパ1として液圧キャリパを例示したが、ブレーキキャリパはこれに限定されるものではない。ブレーキキャリパ1は、ピストン部30を電動モータにより駆動する電動キャリパであってもよい。
【0027】
〔まとめ〕
本開示の一態様に係るブレーキキャリパは、車両の車輪と共に回転するロータと、前記ロータを挟み、前記ロータと対向する内側に位置する第1部が金属を含む材料で形成され、前記内側と反対側の外側に位置する第2部が樹脂の母材に強化材としての繊維を加えた複合材料で形成されているブリッジ部と、を備えている。
【0028】
樹脂を母材とする複合材は金属を母材とする複合材よりも密度が低い。一方、樹脂を母材とする複合材は金属を母材とする複合材よりも耐熱性が低い。ブリッジ部の内側には、ロータとブレーキパッドとの接触により摩擦熱が発生する。そのため、ブリッジ部の内側はブリッジ部の外側よりも高温になる。そこで、ブリッジ部の第1部を、耐熱性の高い金属を含む材料で形成し、ブリッジ部の第2部を、密度の低い樹脂の母材に強化材としての繊維を加えた複合材料で形成することにより、ブレーキキャリパの軽量化を図りつつ、耐熱性の低下を抑制することができる。
【0029】
また、本開示の一態様に係るブレーキキャリパは、前記ブリッジ部を駆動するピストン部と、前記ブリッジ部に取り付けられ、前記ロータと接触して前記車輪に制動力を発生させるブレーキパッドと、を備え、前記ブリッジ部の前記第2部を形成する前記複合材料の前記繊維は、前記ブリッジ部の前記ピストン部側のピストン側端部から前記ブリッジ部の前記ブレーキパッド側のパッド側端部に向かう方向に配向されている。
【0030】
ブリッジ部の第2部を形成する複合材料の繊維を、ピストン側端部からパッド側端部に向かう方向に配向させることにより、ブリッジ部の撓みを抑制することができる。ここでブリッジ部の撓みは、ブリッジ部がディスクロータから受ける力により生じるものである。配向方向はブリッジ部が撓む方向に対応する。これにより、制動に伴う異音の発生を抑制することができる。
【0031】
また、本開示の一態様に係るブレーキキャリパは、前記ブリッジ部の前記第1部の一部は、前記ブリッジ部の前記第2部から露出している。
【0032】
ブレーキキャリパでは、ロータとブレーキパットとの接触による摩擦熱が発生する。ブリッジ部の第1部の一部を第2部から露出させることにより、ブリッジ部の内側で第1部が受熱した摩擦熱を、第2部から露出させた第1部の一部からブリッジ部の外側に効率的に放熱することができる。
【0033】
また、本開示の一態様に係るブレーキキャリパは、前記ブリッジ部の前記第1部と前記第2部とは、金属めっきを介して接合されている。
【0034】
金属を含む材料と樹脂の母材に強化材としての繊維を加えた複合材料とは、金属めっきを介して強力に接合することができる。そのため、ブリッジ部の第1部と第2部とを金属めっきを介して接合することにより、第1部と第2部との接合強度を向上させることができる。また、金属めっきを形成させる面を粗化することにより、第1部と第2部との接合強度を向上させることができる。
【0035】
また、本開示の一態様に係るブレーキキャリパは、前記ブリッジ部の前記第1部と前記第2部とは、一体成形されている。
【0036】
第1部と第2部とを一体成形することによっても、金属を含む材料と樹脂の母材に強化材としての繊維を加えた複合材料とを強力に接合することができる。
【0037】
また、本開示の一態様に係るブレーキキャリパでは、前記ブリッジ部の前記第2部から露出している前記第1部の一部は、前記ブリッジ部の外側に向けて突出している。
【0038】
第2部から露出させた第1部の一部をブリッジ部20の外側に向けて突出させることにより、第1部と第2部との接合面が広がり、接合強度を向上させることができる。
【0039】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1 ブレーキキャリパ
10 ディスクロータ
20、20B ブリッジ部
21、21B 第1部
22、22B、22C 第2部
30 ピストン部
31 シリンダ部
40A、40B ブレーキパッド
100 車両