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特開2024-36331ポリビニルアルコールフィルム、それにより製造された光学フィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036331
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム、それにより製造された光学フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240308BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240308BHJP
   B29C 41/26 20060101ALI20240308BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20240308BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CEX
B29C41/26
B29C55/06
C08L29/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218618
(22)【出願日】2023-12-25
(62)【分割の表示】P 2022102059の分割
【原出願日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】111111660
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】チーエン、シャオウェン
(72)【発明者】
【氏名】ウー、チョンエン
(57)【要約】
【課題】ポリビニルアルコールフィルム、それにより製造された光学フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリビニルアルコールフィルム、それにより製造された光学フィルム及びその製造方法に関する。水中で当該ポリビニルアルコールフィルムを4.3cm/minの速度で延伸し、長さを2倍にして乾燥した後、延伸・乾燥後のポリビニルアルコールフィルムの秤量値はW3であり、延伸・乾燥後のポリビニルアルコールフィルムを純水内で5分間攪拌してから再び絶乾した後の秤量値はW4であり、(W3-W4)/W3×100%の値は0.50~3.00wt%である。当該ポリビニルアルコールフィルムから作製した光学フィルムは、優れた色相表現と偏光度を具備する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールフィルムであって、下記で定義される膨潤・延伸後の添加剤残留量が0.50~3.00wt%であるポリビニルアルコールフィルム:
前記膨潤・延伸は、前記ポリビニルアルコールフィルムを水中で4.3cm/minの速度で延伸して、長さを2倍にするものであり、
前記添加剤残留量は、計算式:(W3-W4)/W3×100%(式中、W3は、前記ポリビニルアルコールフィルムを膨潤・延伸し、乾燥した後の重量であり、W4は、前記ポリビニルアルコールフィルムを膨潤・延伸し、乾燥した後に、純水内に入れて5分間攪拌してから再び絶乾した後の重量である)から取得したものである。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールフィルムは、膨潤・延伸し、乾燥した後にフーリエ変換赤外分光法により分析した場合に、波長3200cm-1と波長1425cm-1における強度比の値が0.70~1.00である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールフィルムは、膨潤・延伸し、乾燥した後にフーリエ変換赤外分光法により分析した場合に、波長1140cm-1と波長1425cm-1における強度比の値が1.20~1.48である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコールフィルムは、膨潤・延伸し、乾燥した後にフーリエ変換赤外分光法により分析した場合に、波長1140cm-1と波長1425cm-1における強度比の値が1.20~1.45である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
前記添加剤は、可塑剤と界面活性剤を含む、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコールフィルムは、6~15wt%の添加剤初期含有量を有する、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコールフィルムの重合度は、1800~3000である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコールフィルムの含水率は、1.0~5.0wt%である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のポリビニルアルコールフィルムにより製造されたものである、光学フィルム。
【請求項10】
偏光フィルムである、請求項9に記載の光学フィルム。
【請求項11】
前記フィルムが有する偏光度は99.8%以上である、請求項9に記載の光学フィルム。
【請求項12】
直行条件下での波長480nmにおける吸光度と波長700nmにおける吸光度の比の値が1.40~1.60である、請求項9に記載の光学フィルム。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載のポリビニルアルコールフィルムを製造する方法であって、
(a)ポリビニルアルコール系樹脂、可塑剤、界面活性剤及び水を攪拌し、且つ100℃超の溶解温度まで加熱して、ポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する工程と、
(b)前記ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込み、乾燥して予備成形フィルムを調製する工程と、
(c)前記予備成形フィルムを高温から低温へと温度が徐々に下がるn本の加熱ローラに接触させた後、複数のセクションを備えた乾燥器に進入させて乾燥する工程と、
を含み、
第1番目の加熱ローラの温度は84~92℃であり、前記乾燥器の最高温度は115℃以下であり、且つ第n番目の加熱ローラと第1セクション乾燥器との温度差は30℃以下であり、nは10~20の間である、ポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記工程(a)の溶解温度は120~140℃である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記工程(b)の前記ポリビニルアルコール鋳造溶液中の前記ポリビニルアルコール系樹脂濃度は20.0~40.0%である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項16】
前記可塑剤は、前記ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して3~30重量部である、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造、特に偏光フィルムの製造に用い得る、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムは一種の親水性ポリマーであり、透明性、機械的強度、水溶性、良好な加工性などの性能を有し、包装材料又は電子製品の光学フィルムにおいて、特に偏光フィルムにおいて広く用いられている。
【0003】
ポリビニルアルコールフィルムを続く偏光工程で加工して得られる偏光フィルムは、通過する光線の明暗度をコントロールすることができ、ディスプレイデバイスにおいて欠かすことのできない構成要素の一つである。ポリビニルアルコールフィルムから偏光フィルムを製造する工程には膨潤、延伸及び染色などが含まれる。具体的には、PVAフィルムを溶液中に入れて前述の工程を行うが、染料分子をポリビニルアルコールフィルムのポリビニルアルコール分子間に拡散進入させて規則的に配列することで、偏光フィルムがその配列方向に平行な光成分を吸収できるようにし、垂直方向の光成分は透過させて、偏光を有する特性が生じるようにさせる。
【0004】
理想的な偏光フィルムは、色が均一で、色斑が少なく、皺がなく、色相効果が良いなどの特性を有し、優れた光学特性を提供できるものでなければならない。偏光フィルムの光学特性を向上させるため、従来技術では、ポリビニルアルコールの構造を変化させたり、官能基(例えばカチオン基)を加えたりするなどの方法を用いて、粘度や鹸化度を変えることで、光学特性を向上させるのが一般的であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、ポリビニルアルコールフィルムから光学フィルムを製造する際、完成品の色相が全体的に赤寄り又は青寄りになるなど、色相がばらつくという問題がよく生じていた。本発明者は、前述の問題が引き起こされる原因はおそらく、ポリビニルアルコールフィルムを光学フィルムの製造に用いる際に添加剤を混合しなければならないが、添加剤がポリビニルアルコールフィルムの膨潤の工程後に析出され、一部がフィルム上に残留するためであることに気づいた。例えば、添加剤の残留量が多すぎると、フィルム上の不定形(amorphous)領域を占めすぎて、長波長光を吸収するためのペンタヨード陰イオン(I )とポリビニルアルコールとの架橋結合が生じにくくなり、光学フィルムの完成品の色相が赤寄りになってしまう。反対に、添加剤の残留量が少なすぎると、I とポリビニルアルコールの非晶質領域との架橋結合量が過度に多くなり、この場合には偏光フィルムの赤色光に対する吸収量が多くなりすぎて、光学フィルムの完成品の色相が青寄りになってしまう。
【0006】
さらに、本発明者は、特定の理論に限定されるものではないが、上述の状況には数多くの要素も関係しており、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの製造過程中、予備成形フィルムの形成後に接触する加熱ローラの温度や、後続で乾燥を行う乾燥器の温度、加熱ローラと乾燥器の温度差などの要素はいずれもフィルム体が膨潤を経た後に添加剤が析出されて残留する量に少なくとも部分的には影響を与えることに気づいた。
【0007】
そこで、上述の問題を解決するために、本発明は、添加剤の残留量を一定の範囲に調節することによってポリビニルアルコールフィルムを提供するが、それは優れた色相表現を有する光学フィルムの製造に用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、本発明の1実施形態において提供されるポリビニルアルコールフィルムは、膨潤・延伸後の添加剤残留量が0.50~3.00wt%である。上述の膨潤・延伸については、ポリビニルアルコールフィルムを水中で4.3cm/minの速度で延伸して、長さを2倍にした。上述の添加剤残留量は、計算式:(W3-W4)/W3×100%から得た。式中、W3は、ポリビニルアルコールフィルムを膨潤・延伸し、乾燥した後の重量であり、W4は、ポリビニルアルコールフィルムを膨潤・延伸し、乾燥した後に、純水内に入れて5分間攪拌してから再び絶乾した後の重量である。
【0009】
好ましい実施形態において、膨潤・延伸し、乾燥した後のポリビニルアルコールフィルムをフーリエ変換赤外分光法(FTIR)で分析した場合に、波長3200cm-1と波長1425cm-1における強度比の値は0.70~1.00である。
【0010】
好ましい実施形態において、膨潤・延伸し、乾燥した後のポリビニルアルコールフィルムをフーリエ変換赤外分光法で分析した場合に、波長1140cm-1と波長1425cm-1における強度比の値は1.20~1.48の間である。好適には、その強度比の値は1.20~1.45の間である。
【0011】
好ましい実施形態において、ポリビニルアルコールフィルムは、6~15wt%の間の添加剤初期含有量を有する。
【0012】
好ましい実施形態において、ポリビニルアルコールフィルムの重合度は1800~3000の間である。
【0013】
好ましい実施形態において、ポリビニルアルコールフィルムの含水率は1.0~5.0wt%の間である。
【0014】
本発明の別の実施形態において提供される光学フィルムは、上述のポリビニルアルコールフィルムで製造されたものである。
【0015】
好ましい実施形態において、光学フィルムは偏光フィルムである。好適には、偏光フィルムは99.8%以上の偏光度を有する。
【0016】
好ましい実施形態において、光学フィルムは、直行条件下での波長480nmにおける吸光度と波長700nmにおける吸光度の比の値が1.40~1.60である。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態において提供されるポリビニルアルコールフィルムの製造方法は、以下の工程を含む。
(a)ポリビニルアルコール系樹脂、可塑剤、界面活性剤及び水を攪拌し、且つ100℃超の溶解温度まで加熱して、ポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する。
(b)ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込み、乾燥して予備成形フィルムを調製する。
(c)予備成形フィルムを高温から低温へと温度が徐々に下がるn本の加熱ローラに接触させた後、複数のセクションを備えた乾燥器に進入させて乾燥し、
そのうち、第1加熱ローラの温度は84~92℃であり、乾燥器の最高温度は115℃以下であり、且つ第n加熱ローラと第1セクション乾燥器の温度差は30℃以下であり、nは10~20の間である。
【0018】
好ましい実施形態において、工程(a)の溶解温度は120~140℃である。
【0019】
好ましい実施形態において、工程(b)のポリビニルアルコール鋳造溶液中のポリビニルアルコール系樹脂濃度は20.0~40.0%である。
【0020】
好ましい実施形態において、可塑剤は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して3~30重量部である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の上述の特定に基づいて提供されるポリビニルアルコールフィルムを用いて製造した光学フィルムは、優れた色相表現と偏光度を具備する。また、本発明の特定内容は、上述のポリビニルアルコールフィルムをより正確に製造・調節するのに用い得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の1つの実施例に基づくFTIRピークと対応する化学構造の概念図である。
図2】本発明の1つの実施例に基づくポリビニルアルコールフィルム製造工程の概念図である。
図3】本発明の1つの実施例に基づくポリビニルアルコールフィルム製造装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の上述及び他の目的、特徴、優位点並びに実施例をより明解にするため、図面について以下の通り説明する。
【0024】
本明細書において、図における各種特徴や構成要素の比率については実際の比率ではなく、本発明に関する具体的な特徴や構成要素を最適な方式で示すため、慣例の作業方式を基にした作図方式により描いている。また、別々の図において、同一又は類似の構成要素符合は、類似の構成要素や部材を指している。
【0025】
本発明をより詳細且つ不備なく叙述するため、以下に本発明の実施形態及び具体的な実施例について説明した記述を提出するが、それらは本発明を実施又は応用する具体的な実施例の唯一の形態ではない。本明細書及び添付する請求項において、別途文脈に記載がない限り、「1つ」及び「当該」という用語は複数であると解釈し得る。また、本明細書及び添付する請求項において、別途に記載がない限り、「ある物の上に設置される」とは、直接又は間接的にある物の表面と貼り付けられるか、その他の形態で接触すると見なすことができ、表面の画定は明細書の内容の前後/段落の含意及び本明細書が属する分野における通常の知識により判断されるものとする。
【0026】
本発明を特定する数値範囲やパラメータはいずれもおおよその数値ではあるが、具体的な実施例における関連数値は可能な限り精確に示している。しかしながら、如何なる数値であれ、個別の試験方法に起因する標準偏差を含むことは本質的に不可避である。これにおいて、「約」は一般的に、実際の数値が特定の数値又は範囲の±10%、5%、1%又は0.5%以内であることを指す。或いは、「約」という用語は、本発明が属する分野の当業者によって考慮・判断される場合、実際の数値が平均値の許容可能な標準誤差内にあることを意味する。従って、反対の説明がない限り、本明細書及び添付する請求項が開示する数値のパラメータはいずれも近似値であり、必要に応じて変化すると見なし得る。少なくとも、それらの数値のパラメータは、指し示される有効な桁数と通常の桁上げ法方法を適用することによって得た数値であると解釈されるべきである。
【0027】
本発明はポリビニルアルコールフィルムを提供するが、水中で当該ポリビニルアルコールフィルムを4.3cm/minの速度で延伸し、長さを2倍にして乾燥した後、延伸・乾燥後のポリビニルアルコールフィルムの秤量値はW3であり、延伸・乾燥後のポリビニルアルコールフィルムを純水内で5分間攪拌してから再び絶乾した後の秤量値はW4であり、(W3-W4)/W3×100%の値が0.50~3.00wt%である。
【0028】
本発明は、膨潤・延伸後のポリビニルアルコールフィルムの添加剤残留量を調節すること、即ち偏光板に染色を行う前の条件を模して、それが染色槽に進入する前の添加剤残留量をコントロールすることにより、偏光フィルムが赤寄りや青寄りになる問題を解決する。発明者は、実際に偏光板の製造工程を行う際に、ポリビニルアルコールフィルムは膨潤・延伸処理を経るが、膨潤の過程でポリビニルアルコール中の添加剤や他の不純物が析出され、最終的に偏光フィルムに製造されるポリビニルアルコールフィルムの各部分の添加剤が幾らか変化するため、ポリビニルアルコールフィルムの添加剤の初期量のみを測定した場合には、実際に偏光板の製造工程を行ったときの添加剤の残留状態を表すことができず、偏光フィルムが赤寄りや青寄りになる問題を解決し得ないことに気づいた。具体的には、上述のパラメータはポリビニルアルコールフィルムを光学フィルム、特に偏光フィルムに調製する工程に基づいて特定したものである。ポリビニルアルコールフィルムを偏光フィルムに調製する方法は特に限定されないが、好適には、ポリビニルアルコールフィルムを水中に入れて延伸する膨潤処理(本明細書では膨潤・延伸とも呼ぶ)、二色性色素で染色する染色処理、及びフィルム体に一軸延伸を行う延伸処理が含まれる。そのうち、必要に応じてホウ酸架橋処理、固定処理、洗浄処理、加熱処理などの方法をさらに実施してもよい。その場合、各処理の順序は特に限定されないが、好適には、膨潤処理、染色処理及び延伸処理の順で実施する。業界では一般的に、偏光フィルムを調製する際は2倍の長さに延伸することが膨潤槽におけるおおよその延伸倍率となっている。
【0029】
上述の添加剤の残留量は、膨潤・延伸し、乾燥した後のポリビニルアルコールフィルムを純水内で5分間攪拌して、フィルム中の添加剤を析出したものである。添加剤残留量は、計算式:(W3-W4)/W3×100%であり、幅方向に均等に切断した複数のフィルム(例えば5枚以上)の平均値でよい。
【0030】
本明細書で用いる「添加剤」は、可塑剤、界面活性剤、白濁剤、乳化剤又は起泡剤を含むがこれらに限らない。そのうち、「可塑剤」は、材料の柔軟性の増加や、材料の液化が可能であり、例えば、フタル酸エステル(Phthalate)、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)、グリセリン、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンなどであるが、これらに限らない。好適には、可塑剤はグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンである。「界面活性剤」はカチオン、アニオン又は非イオン型界面活性剤に限定されず、それは例えば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸塩型、ラウレス硫酸ナトリウムなどの硫酸エステル塩型、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリエチレングリコールモノオクチルフェニルエーテルなどのアルコール系のフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミンなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイルジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型、又はポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどであるが、これらに限らない。本発明の好ましい実施形態によれば、ポリビニルアルコールフィルムは、6~15wt%の間の添加剤初期含有量を有し、それは例えば、7~14、8~13、9~12又は10~11wt%などである。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、ポリビニルアルコールフィルムが有する添加剤は主に可塑剤と界面活性剤である。可塑剤と界面活性剤は低分子量化合物であり、ポリマーとブレンドすると材料の自由体積が増加する。ポリビニルアルコールフィルムの膨潤過程では、添加剤がポリビニルアルコールフィルム内に一部残留するが、残留量が多すぎると自由空洞(free cavity)が添加剤に占有されてしまい、ポリビニルアルコールフィルムが染色槽に着いたとき、ヨウ化物イオンが自由空洞においてポリビニルアルコールと錯体(例えばI とPVAの錯体)を形成することができず、偏光フィルムの長波長範囲の光を吸収する能力が低下し、色相がばらつく問題を招いてしまう。そのうち、I 錯体は長波長の光を吸収し、I 錯体は短波長の光を吸収するため、錯体が少なすぎると偏光フィルムが赤寄りや青寄りになる問題が生じる可能性がある。
【0032】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、膨潤・延伸し、乾燥した後のポリビニルアルコールフィルムをフーリエ変換赤外分光法で分析した場合に、波長3200cm-1と波長1425cm-1における強度比の値は0.70~1.00であり、例えば、0.71、0.75、0.77、0.79、0.81、0.89、0.90、0.91、0.93、0.95、0.98又は0.99などである。また、波長1140cm-1と波長1425cm-1における強度比の値は1.48以下であり、例えば、1.20、1.26、1.28、1.31、1.32、1.33、1.38、1.42、1.45又は1.48であるが、上述の任意の2つの数値からなる範囲でもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、波長1140cm-1と波長1425cm-1における強度比の値は1.20~1.48の間であり、好適には1.20~1.45の間である。
【0033】
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)は、固体、液体又は気体の赤外吸収スペクトルと発光スペクトルを取得するための技術である。本願について言えば、図1に示すポリビニルアルコールフィルムの構造概念図を参照すると分かるように、波長3200cm-1の吸収ピークはポリビニルアルコールフィルム骨格中のOHと対応することができ、ポリビニルアルコールフィルム内のアルカリ化度に相当するため、膨潤・延伸後のポリビニルアルコールフィルムを測定する際には、波長3200cm-1の吸収ピークがフィルム体内の可塑剤(例えばグリセリン)を表すことができる。波長1140cm-1の吸収ピークはポリビニルアルコールフィルム骨格中の主構造と対応することができ、ポリビニルアルコール結晶化度特徴ピーク(ν(C-C) stretching vibrations)を示す。波長1425cm-1の吸収ピークはポリビニルアルコールフィルム骨格中のC-Hに対応しており、その含有量は固定であるため、確定ピークとすることができる。これによって、波長3200cm-1と波長1425cm-1の強度比の値は、ポリビニルアルコールフィルムの可塑剤残留量と正の相関関係を呈し、OH(3200cm-1)/CH(1425cm-1)のFT-IR比率が高いほど、ポリビニルアルコールフィルム内の可塑剤残留量が多いことを表す。波長1140cm-1と波長1425cm-1の強度比の値は、ポリビニルアルコールフィルムの結晶化度と正の相関関係を呈し、膨潤・延伸後のポリビニルアルコールフィルムの測定において、C-C(1140cm-1)/C-H(1425cm-1)のFT-IR比率が高いほど、ポリビニルアルコールフィルムの結晶化度が高いことを表す。本発明は、上述のFT-IR強度比の値を利用して、膨潤・延伸し、乾燥した後のポリビニルアルコールフィルムの可塑剤残留量と結晶化度を調整することにより、可塑剤残留量を適切な範囲内に維持し、且つ結晶度を低下せしめる。これにより、染色が均一で良好な色相を有するポリビニルアルコールフィルム完成品が得られる。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、ポリビニルアルコールフィルムの重合度は1800~3000の間であり、例えば、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900又は3000などであるが、これらに限定されない。また、本発明の少なくとも1つの実施形態によれば、ポリビニルアルコールフィルムの含水率は1.0~5.0wt%の間であり、例えば、1、1.1、1.3、1.5、1.7、1.9、2.0、2.1、2.3、2.5、2.7、2.9、3.0、3.1、3.3、3.5、3.7、3.9、4.0、4.1、4.3、4.5、4.7、4.9又は5.0wt%などであるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明のポリビニルアルコールフィルムの厚さは20~100μmの間でよく、好適には60~75μmであり、例えば、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74又は75μmなどであるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明は光学フィルムを提供するが、それは上述のポリビニルアルコールフィルムから作製したものである。本明細書に記載の「光学フィルム」とは、偏光フィルム、ブルーライトカットフィルム、フィルターレンズなどを指し得るが、本発明はこれらに限定されない。好適には、本発明のポリビニルアルコールフィルムは偏光フィルムとされる。さらに、本発明が提供する好ましい実施形態の偏光フィルムの偏光度は99.8%以上である。また、本発明が提供する光学フィルムは、直行条件下での波長480nmにおける吸光度と波長700nmにおける吸光度の比の値が1.40~1.60であり、例えば、1.40、1.42、1.44、1.46、1.48、1.50、1.52、1.54、1.56、1.58又は1.60であるが、これらに限定されない。具体的には、波長480nmにおける吸光度と波長700nmにおける吸光度の比の値の測定はその光学フィルムの色相表現と対応し得る。特定の理論に限定されるものではないが、上述のデータ範囲1.4~1.6の間は、良好でばらつきのない色相表現であると見なすことができる。
【0037】
別の態様形態において、本発明はポリビニルアルコールフィルムの製造方法も提供するが、その工程及び製造装置については、ともに図2図3に示す内容を参照することができる。当該製造方法は、以下を含む。工程S100では、ポリビニルアルコール系樹脂、界面活性剤、可塑剤及び水を攪拌し、且つ加熱して、ポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する。工程S102では、ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込み、乾燥して予備成形フィルムを調製する。工程S104では、予備成形フィルムを高温から低温へと温度が徐々に下がるn本の加熱ローラに接触させた後、複数のセクションを備えた乾燥器に進入させて乾燥する。
【0038】
具体的には、工程S100では、ポリビニルアルコール系樹脂、可塑剤、界面活性剤及び水を溶解槽110内に入れて攪拌し、且つ100℃超の溶解温度まで加熱して少なくとも180分間溶解し、ポリビニルアルコール溶液を形成する。そのうち、溶解温度は120~140℃であるのが好ましく、例えば、120、125、130、135又は140℃などである。また、可塑剤の添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、通常は3~30重量部の間、好適には7~20重量部の間であり、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30重量部などである。可塑剤の含有量が不足すると、形成されるポリビニルアルコールフィルムに結晶が生じやすくなり、後続の加工における染色効果に影響を及ぼしてしまう。反対に、可塑剤の含有量が高すぎると、ポリビニルアルコールフィルムの機械的性質が損なわれてしまう。
【0039】
ポリビニルアルコール鋳造溶液を調製する際のポリビニルアルコール系樹脂濃度は10.0~60.0重量%であり、好適には15.0~40.0重量%、より好適には20.0~40.0重量%であり、例えば、10.0、15.0、20.0、25.0、30.0、35.0、40.0、45.0、50.0、55.0又は60.0重量%などである。上述のポリビニルアルコール系樹脂濃度の計算方法は、ポリビニルアルコール系樹脂/(ポリビニルアルコール系樹脂+水+可塑剤+界面活性剤)である。ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が不足すると、ポリビニルアルコール鋳造溶液の粘度が低くなりすぎて、乾燥負荷が過度に大きくなり、ポリビニルアルコールフィルムの調製における成膜効率が悪くなってしまう。反対に、ポリビニルアルコール樹脂の含有量が高すぎると、ポリビニルアルコール系樹脂が全体的に均一に溶解しにくくなり、クラスターが残りやすくなってしまう。
【0040】
具体的には、工程S102では、ポリビニルアルコール鋳造溶液は選択的にフィルタで濾過を行い、ポリビニルアルコール鋳造溶液を定量方法でT型スリットダイに導入し、吐出して鋳造ドラム120上に流延して予備成形フィルムMを調製する。また、鋳造ドラム120の回転速度は約3~12m/minであり、好適には5~10m/minである。鋳造ドラム120の速度が遅すぎると、生産性が低下する恐れがある。反対に、鋳造ドラム120の速度が速すぎると、鋳造溶液の乾燥が不十分となり、剥離性が低下してしまう。また、好ましい実施形態において、鋳造ドラム120の温度は85~95℃に設定し、具体的には、例えば85、87、89、91、93、95℃又は上述の任意の2つの数値の間であり、鋳造ドラム120の温度が高すぎると、鋳造溶液に起泡現象が生じやすくなる。
【0041】
具体的には、工程S104では、予備成形フィルムMは、鋳造ドラム120から剥離した後、複数の加熱ローラ130に接触させて、フィルム体の上下両面を乾燥する。ここで、複数の加熱ローラ130中の1本目はすべての加熱ローラ130の中で最も高温であり、続く加熱ローラ130の温度は徐々に下がるように調節する。続けて、複数のセクションを備えた乾燥器140で乾燥を行う。さらに、第1加熱ローラ130の温度は84~92℃であり、例えば、84、85、86、87、88、89、90、91又は92℃である。乾燥器140の最高温度は115℃以下であり、例えば、80℃、85℃、90℃、95℃、100℃、105℃、110℃又は115℃である。第n加熱ローラ130と乾燥器140の第1セクションとの温度差は30℃以下であり、例えば、1℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃又は30℃である。nは10~20の間であり、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20である。複数セクションの乾燥器は、2~10セクションの乾燥器でよく、好適には3~8セクションであり、例えば、3、4、5、6、7又は8である。
【0042】
ポリビニルアルコール水溶液と添加剤は、鋳造ドラムに吐出する前に均一に混合する。ポリビニルアルコールフィルムの添加剤析出量は、乾燥条件の設計によって一定範囲にコントロールすることができる。偏光フィルムの膨潤・延伸・染色工程を行う際にポリビニルアルコールフィルム内の添加剤残留量が多いと、偏光フィルムが赤寄りになる現象が生じ、偏光フィルムの延伸・染色工程を行う際にポリビニルアルコールフィルム内の添加剤残留量が少ないと、偏光フィルムが青寄りになる現象が生じる。本願発明者は、乾燥器140の最高温度と第1加熱ローラ130の温度が高いほど、又は最後尾の加熱ローラ130と乾燥器140の第1セクションとの温度差が大きいほど、添加剤残留量の平均値が上昇することに気づいた。よって、上述のパラメータをさらに調節すれば、膨潤・延伸後の添加剤析出量を特定の範囲内にコントロールすることが可能であり、より優れた色相のポリビニルアルコールフィルムを取得することができる。
【0043】
上述のポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル系樹脂単量体の重合によりポリビニルエステル系樹脂を形成した後、鹸化反応を行って得たものである。そのうち、ビニルエステル系樹脂単量体は、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ペンタン酸ビニル又はオクタン酸ビニルなどのビニルエステル類を含むが、本発明はこれらに限定されず、好適には酢酸ビニルである。また、オレフィン類化合物又はアクリレート誘導体と上述のビニルエステル系樹脂単量体との共重合により形成された共重合体も使用可能である。オレフィン類化合物は、エチレン、プロピレン又はブチレンなどを含むが、本発明はこれらに限定されない。アクリレート誘導体はアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸n-ブチルなどを含むが、本発明はこれらに限定されない。
【0044】
上述で開示するポリビニルアルコール樹脂の鹸化度/アルカリ化度は、好適には99.00%以上であり、これにより良好な光学特性が得られるが、具体的には、例えば99.00%~100.00%、99.00%~99.99%、99.00%~99.95%、99.00%~99.90%、99.00%~99.85%、99.00%~99.80%、99.00%~99.75%、99.00%~99.70%、99.00%~99.65%、99.00%~99.60%、99.00%~99.55%、99.00%~99.50%、99.00%~99.45%、99.00%~99.40%、99.00%~99.35%、99.00%~99.30%、99.00%~99.25%、99.00%~99.20%、99.00%~99.15%、99.00%~99.10%、99.00%~99.05%、99.20%~100.00%、99.20%~99.99%、99.20%~99.95%、99.20%~99.90%、99.20%~99.85%、99.20%~99.80%、99.20%~99.75%、99.20%~99.70%、99.20%~99.65%、99.20%~99.60%、99.20%~99.55%、99.20%~99.50%、99.20%~99.45%、99.20%~99.40%、99.20%~99.35%、99.20%~99.30%、99.20%~99.25%、99.40%~100.00%、99.40%~99.99%、99.40%~99.95%、99.40%~99.90%、99.40%~99.85%、99.40%~99.80%、99.40%~99.75%、99.40%~99.70%、99.40%~99.65%、99.40%~99.60%、99.40%~99.55%、99.40%~99.50%、99.40%~99.45%、99.60%~100.00%、99.60%~99.99%、99.60%~99.95%、99.60%~99.90%、99.60%~99.85%、99.60%~99.80%、99.60%~99.75%、99.60%~99.70%、99.60%~99.65%、99.80%~100.00%、99.80%~99.99%、99.80%~99.95%、99.80%~99.90%又は99.80%~99.85%などである。
【実施例0045】
以下では、実施例と合わせて本発明についてより詳しく説明する。但し、それらの実施例は本発明をより容易に理解できるよう助けるためのものであり、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
実施例
【0046】
以下で提供する本発明の各態様の非限定的実施例は、主に本発明の各態様及びそれにより達成される効果を明らかにするためのものである。
【0047】
1.ポリビニルアルコールフィルムの調製
以下、ポリビニルアルコールフィルムの非限定的な調製方法を提供する。以下に開示する方法と同様の方法に基づき、非限定的な実施例ポリビニルアルコールフィルムを11種類(実施例1~11)、及び比較例ポリビニルアルコールフィルムを4種類(比較例1~4)調製した。但し、実施例1~11及び比較例1~4を調製する具体的な方法は、通常、1つ以上の面で以下に開示する方法と異なっている。
【0048】
具体的には、ポリビニルアルコールフィルムの調製方法は以下の工程を含む。アルカリ化度が>99.9%で且つ重合度が約2400のポリビニルアルコール系樹脂1800kg、水4000kg、可塑剤のグリセリン207kgを加え、界面活性剤を含有量が最終的に0.15wt%になるよう加えて、攪拌しながら140℃まで昇温させ、140℃に維持しながら180分間溶解を行い、均一に溶解した後のポリビニルアルコール系樹脂溶液に水を加えて樹脂濃度が30.0%になるまで調整し、ポリビニルアルコール鋳造溶液を得た。そのうち、本実施例1~6と比較例1、2で用いた界面活性剤はポリオキシエチレンラウリルエーテルであり、実施例7~11と比較例3、4で用いた界面活性剤はポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムである。ポリビニルアルコール鋳造溶液は消泡後、T型スリットダイから吐出し、回転する高温の鋳造ドラムにカーテンコーティングして乾燥して、予備成形フィルムを調製した。予備成形フィルムを鋳造ドラムから剥離した後、複数の加熱ローラと接触させてフィルムの上下両面を乾燥してから、乾燥器で乾燥させた。乾燥器の最高温度は115℃であり、最終的に含水率が2.3wt%のポリビニルアルコールフィルム完成品を得た。
【0049】
2.分析と測定の方法
試料の調製方法は、先ず、ポリビニルアルコールフィルムを横断(Transverse Direction,TD,幅方向とも呼ぶ)方向に沿って5等分し、等分後のポリビニルアルコールフィルムの中央部をカットした。各片のカット面積はMD5cm*TD10cmとした(MDとはMachine Directionをいう。即ち機械方向又は縦方向、長手方向である)。次に、恒温恒湿器内で23℃、相対湿度(RH)50%の条件で24時間放置した。
【0050】
測定条件は、まず、ポリビニルアルコールフィルムを105℃/10分間で乾燥・脱水し、乾燥後に秤量した(W1)。次に、ポリビニルアルコールフィルムを30℃/2000mlの純水において攪拌機(回転数115~120rpm)で5分間攪拌し、初期添加剤を析出させて、完了後にポリビニルアルコールフィルム表面の水分を脱水し、乾燥器に入れて105℃/1時間で絶乾し、重さを測定した(W2)。すると、添加剤初期含有量は(W1-W2)/W1×100%となる。可塑剤初期含有量に界面活性剤初期含有量を足すと、添加剤初期含有量となる。
【0051】
2-2.膨潤後の添加剤残留量の分析
試料の調製方法は、先ず、ポリビニルアルコールフィルムを横断方向に沿って5等分し、等分後のポリビニルアルコールフィルムの中央部をカットした。各片のカット面積はMD20cm×TD15cmとした。次に、恒温恒湿器内で23℃、50%RHの条件で24時間放置した。次に、ポリビニルアルコールフィルム(MD5cm×TD15cm)を固定し、30℃の純水中でポリビニルアルコールフィルムを4.3cm/minの方式で2倍の長さに延伸し、完了後にポリビニルアルコールフィルム表面の水分を吸い尽くし、恒温恒湿器に23℃、50%RHの条件で24時間放置した。最後に、延伸された部分からMD5cm×TD10cmのポリビニルアルコールフィルムを切り出した。
【0052】
測定条件:
先ず、延伸後のポリビニルアルコールフィルムを105℃/10分間で乾燥・脱水し、乾燥後に秤量した(W3)。次に、ポリビニルアルコールフィルムを30℃/2000mlの純水において攪拌機(回転数115~120rpm)で5分間攪拌し、グリセリンと界面活性剤を析出させて、完了後にポリビニルアルコールフィルム表面の水分を脱水し、乾燥器に入れて105℃/1時間で絶乾し、重さを測定した(W4)。すると、膨潤後の可塑剤残留量は(W3-W4)/W3×100%となる。膨潤・延伸後の可塑剤残留量に膨潤・延伸後の界面活性剤残留量を足すと、膨潤・延伸後の添加剤残留量となる。
【0053】
2-3.FTIRピーク比の分析(3200cm-1/1425cm-1
試料の調製方法は、先ず、ポリビニルアルコールフィルムを横断方向に沿って5等分し、等分後のポリビニルアルコールフィルムの中央部をカットした。各片のカット面積はMD20cm×TD15cmとした。次に、恒温恒湿器内で23℃、50%RHの条件で24時間放置した。次に、ポリビニルアルコールフィルム(MD5cm×TD15cm)を固定し、30℃の純水中でポリビニルアルコールフィルムを4.3cm/minの方式で2倍の長さに延伸し、完了後にポリビニルアルコールフィルム表面の水分を吸い尽くし、恒温恒湿器に23℃、50%RHの条件で24時間放置した。最後に、延伸された部分からMD5cm×TD10cmのポリビニルアルコールフィルムを切り出した。
【0054】
ここで使用した分析計器はPerkin Elmer Spectrum 100である。分析条件は、恒温恒湿器に放置した後、ATR透過モードで650~4000cm-1区間において積算回数を4回としてFTIR分析を行った。FTIRピーク強度比は、測定した[100-(3200cm-1透過値)]/[100-(1425cm-1透過値)]であり、さらに同じTD方向のFTIRピーク比について平均値を求めた。
【0055】
2-4.FTIRピーク比の分析(1140cm-1/1425cm-1
試料の調製方法は、先ず、ポリビニルアルコールフィルムを横断方向に沿って5等分し、等分後のポリビニルアルコールフィルムの中央部をカットした。各片のカット面積はMD20cm×TD15cmとした。次に、恒温恒湿器内で23℃、50%RHの条件で24時間放置した。次に、ポリビニルアルコールフィルム(MD5cm×TD15cm)を固定し、30℃の純水中でポリビニルアルコールフィルムを4.3cm/minの方式で2倍の長さに延伸し、完了後にポリビニルアルコールフィルム表面の水分を吸い尽くし、恒温恒湿器に23℃、50%RHの条件で24時間放置した。最後に、延伸された部分からMD5cm×TD10cmのポリビニルアルコールフィルムを切り出した。
【0056】
ここで使用した分析計器はPerkin Elmer Spectrum 100である。分析条件は、恒温恒湿器に放置した後、ATR透過モードで650~4000cm-1区間において積算回数を4回としてFTIR分析を行った。FTIRピーク強度比は、測定した[100-(1140cm-1透過値)]/[100-(1425cm-1透過値)]であり、同じTD方向のFTIRピーク比についてさらに平均値を求めた。
【0057】
2-5.色相表現の測定
試料の調製方法は、先ず、ポリビニルアルコールフィルムを偏光フィルムに調製する工程である。ポリビニルアルコールフィルムを偏光フィルムに調製する方法は特に限定されないが、好適には、ポリビニルアルコールフィルムを水中に入れて延伸する膨潤処理、二色性色素で染色する染色処理、及びフィルム体に一軸延伸を行う延伸処理が含まれる。そのうち、必要に応じてホウ酸架橋処理、固定処理、洗浄処理、加熱処理などの方法をさらに実施してもよい。その場合、各処理の順序は特に限定されないが、好適には、膨潤処理、染色処理及び延伸処理の順で実施する。
【0058】
また、ここで使用した測定計器はPerkin Elmer Lambda 365(積分球を備える)である。測定条件は、積分球を有する状態において、直行条件に基づき波長480nmの吸光度(A)と波長700nmの吸光度(B)を測定した。最後に、A/Bの比率を色相比データとした。
【0059】
2-6.偏光度表現の測定
試料の調製方法は、ポリビニルアルコールフィルムを偏光フィルムに調製する工程であり、その工程は概ね以下の通りである。先ず、上述の方法に従って調製したポリビニルアルコールフィルムを長手方向9cm×幅方向10cmの試験片に調製した。次に、延伸部分のサイズが長手方向5cm×幅方向10cmとなるように試験片の長手方向沿いの両端を延伸治具に固定して、温度が30℃の水中に70秒間以内で浸漬し、4.3cm/分の延伸速度で元の長さの2倍になるまで長手方向沿いに一軸延伸した。試験片を0.03質量パーセント濃度のヨウ素及び3質量パーセント濃度のヨウ化カリウムを含み、且つ温度が30℃であるヨウ素/ヨウ化カリウム水溶液中に浸漬し、60秒以内に24cm/分の延伸速度で元の長さの3.3倍になるまで長手方向沿いに一軸延伸(第2段階延伸)した。続けて試験片を3質量パーセント濃度のホウ酸及び3質量パーセント濃度のヨウ化カリウムを含み、且つ温度が30℃であるホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に浸漬し、約20秒以内に24cm/分の延伸速度で元の長さの3.6倍になるまで長手方向沿いに一軸延伸(第3段階延伸)した。さらに、試験片を4質量パーセント濃度のホウ酸及び約5質量パーセント濃度のヨウ化カリウムを含み、且つ温度が58℃であるホウ酸/ヨウ化カリウム水溶液中に浸漬し、24cm/分の延伸速度で元の長さの5.5倍になるまで長手方向沿いに一軸延伸(第4段階延伸)した。最後に、試験片を1.5質量パーセント濃度のホウ酸及び3質量パーセント濃度のヨウ化カリウムを含むヨウ化カリウム水溶液中に10秒浸漬して固定処理を行い、60℃の乾燥器で4分間乾燥して、偏光フィルムを得た。
【0060】
また、ここで使用した測定計器はPerkin Elmer Lambda 365である。測定条件は、JIS Z 8722の標準方法に基づき、C光源を用いて2°の可視光領域の視感度補正を行い、次に2枚の偏光フィルムを配向方向が同じ状態で重ね、配向方向が同じ状態で重ね、波長下における光透過率(H)を測定し、別に2枚の偏光フィルムを配向方向が垂直な状態で重ね、波長下における光透過率(H90)を測定した。最後に、偏光度データを偏光度=[(H-H90)/(H+H90)]1/2という式で計算して得た。
【0061】
3.実施例と比較例のデータ内容
先ず、実施例と比較例のポリビニルアルコールフィルム調製工程中の第1加熱ローラ、乾燥器の最高温度、最後尾の加熱ローラと第1セクション乾燥器との温度差の3項目について変数の設定を行い、関係する分析又は測定データをさらに取得した。詳細は表1を参照されたい。
【0062】
【表1】
【0063】
結果から分かるように、実施例1~11のポリビニルアルコールフィルムの膨潤・延伸後の添加剤残留量を一定の範囲に調節した場合、調製した偏光フィルムは良好な色相表現を有していた。これに対して、比較例1~4のポリビニルアルコールフィルムの膨潤・延伸後の添加剤残留量が3.00wt%より大きいか又は0.50wt%未満であり、調製した偏光フィルムは色相表現が良くなかった。また、比較例1~3のOH(3200cm-1)/CH(1425cm-1)のFTIR強度比の値は1.00より大きく、ポリビニルアルコールフィルム内の可塑剤残留量が多いほど、色相表現が悪くなることを表している。比較例4のOH(3200cm-1)/CH(1425cm-1)のFTIR強度比の値は0.70未満であり、ポリビニルアルコールフィルム内の可塑剤残留量が低すぎても色相表現が悪くなることが分かる。
【0064】
次に、実施例と比較例のポリビニルアルコールフィルム調製工程中、ポリビニルアルコール溶解時間及び溶解後に有するポリビニルアルコール系樹脂濃度などの2項目について変数のコントロールを行い、関係する分析又は測定データをさらに取得した。詳細は表2を参照されたい。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示す通り、本発明者は、ポリビニルアルコールフィルムの結晶化度が高いほど、偏光フィルムの調製時に一部未溶解のポリビニルアルコール結晶領域が存在しやすくなり、ポリビニルアルコール結晶領域によってヨウ素がフィルム内に膨潤して進入できなくなることで、偏光度が低下することに気づいた。例えば、実施例8、9及び比較例1~4は、1140cm-1/1425cm-1のFTIR強度比の値が高く(1.45より大きい)、ポリビニルアルコールの結晶化度が高いことを示しており、偏光度は99.9%に達していない。これに対して、実施例1~7、10及び11は、1140cm-1/1425cm-1のFTIR強度比の値がいずれも1.45以下であり、結果は、調製した偏光フィルムの偏光度がいずれも99.9%に達していることを示している。
【0067】
表2の実施例1~11によれば、実施例9、比較例2~4のポリビニルアルコール溶解時間は150分間であり、他の実施例の180~300分間の範囲外にある。実施例8と比較例1、3の溶解後に有するポリビニルアルコール系樹脂濃度は35%であり、25~30%の範囲外にある。本発明者は、上記の変数のコントロールが1140cm-1/1425cm-1のFTIRピーク強度比を理想的な範囲から外れさせていることに気づいた。
【0068】
上述の結果を鑑みて、本発明者は、ポリビニルアルコールフィルムの膨潤・延伸後の添加剤残留量を一定の範囲にコントロールすると、それにより調製した偏光フィルムが良好な色相表現を有するようになることに気づいた。ポリビニルアルコールフィルムの調製過程では、ポリビニルアルコールフィルムの調製工程中の第1加熱ローラの温度、乾燥器の最高温度、最後尾の加熱ローラと第1セクション乾燥器との温度差の3項目の変数は、ポリビニルアルコールフィルム添加剤残留量に影響を与え、それから調製された光学フィルムの光学特性にも影響を与え得る。また、ポリビニルアルコールフィルムの添加剤残留量平均値と添加剤初期含有量との除算結果、FTIRピーク比(3200cm-1/1425cm-1)、及びFTIRピーク比(1140cm-1/1425cm-1)をコントロールすることにより、他の理想的な性質を具備するポリビニルアルコールフィルムの調製にも用い得る。またさらに、本発明者は、ポリビニルアルコール溶解時間と溶解後に有するポリビニルアルコール系樹脂濃度がポリビニルアルコールフィルムの結晶化度とそれにより調製した光学フィルムの偏光度に影響を与えることにも気づいた。
【0069】
上述を要約すると、本発明が上述の特定に基づいて提供されるポリビニルアルコールフィルムは、結晶化度が低く、それにより調製された光学フィルムは優れた色相表現と偏光度を具備する。また、本発明の画定内容は、上述のポリビニルアルコールフィルムの製造、識別及び選別をより正確に行うのに用い得る。
【0070】
本明細書において提供する全ての範囲は、割り当て範囲内における各特定の範囲及び割り当て範囲の間の二次範囲の組み合わせを含むという意味である。また、特段の説明がない限り、本明細書が提供する全ての範囲は、いずれも範囲のエンドポイントを含む。従って、範囲1~5は、具体的には1、2、3、4及び5、並びに2~5、3~5、2~3、2~4、1~4などの二次範囲を含む。
【0071】
本明細書において参照される全ての刊行物及び特許出願はいずれも参照により本明細書に組み込まれ、且つありとあらゆる目的から、各刊行物又は特許出願はいずれも各々参照により本明細書に組み込まれることを明確且つ個々に示している。本明細書と参照により本明細書に組み込まれるあらゆる刊行物又は特許出願との間に不一致が存在する場合には、本明細書に準ずる。
【符号の説明】
【0072】
110 溶解槽
120 鋳造ドラム
130 加熱ローラ
140 乾燥器
M 予備成形フィルム
S100~S104 工程
図1
図2
図3