(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003636
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサおよびウエハ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240105BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20240105BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/64 Z
H03H9/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102914
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 凌平
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA21
5J097BB02
5J097BB11
5J097EE08
5J097EE09
5J097EE10
5J097FF04
5J097FF05
5J097GG03
5J097GG04
5J097GG07
5J097HA03
5J097HA04
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】共振周波数と反共振周波数とのTCFの差を小さくすることが可能な弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、支持基板10と、支持基板10上に設けられ、配列方向に配列する複数の電極指18を備える少なくとも一対の櫛型電極20と、支持基板10上に設けられ、上面に一対の櫛型電極20が設けられ、配列方向における線膨張係数が支持基板10の線膨張係数より大きく、ヤング率が支持基板10のヤング率以下である圧電層14と、支持基板10と圧電層14との間に設けられ、支持基板10の線膨張係数より3ppm/℃以上大きい線膨張係数を有する中間層とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられ、配列方向に配列する複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板上に設けられ、上面に前記一対の櫛型電極が設けられ、前記配列方向における線膨張係数が前記支持基板の線膨張係数より大きく、ヤング率が前記支持基板のヤング率以下である圧電層と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記支持基板の線膨張係数より3ppm/℃以上大きい線膨張係数を有する中間層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記中間層の線膨張係数は前記圧電層の前記配列方向における線膨張係数より小さい請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記支持基板は、サファイア基板、炭化シリコン基板またはスピネル基板であり、
前記圧電層は、単結晶回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または単結晶回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板である請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記中間層は金属層である請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
サファイア基板、炭化シリコン基板またはスピネル基板である支持基板と、
単結晶回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または単結晶回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板であり、前記支持基板上に設けられた圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、銅、ニッケル、鉄、金、コバルト、パラジウムの少なくとも1つを主成分とする中間層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項6】
前記中間層の厚さは前記支持基板の厚さの0.05倍以上かつ1倍以下である請求項1、2および5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記圧電層の厚さは前記複数の電極指の平均ピッチの2倍以下である請求項1、2および5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記中間層と前記圧電層との間に絶縁層を備える請求項1、2および5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
請求項1、2および5のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【請求項11】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられ、線膨張係数が前記支持基板の線膨張係数より大きく、ヤング率が前記支持基板のヤング率以下である圧電層と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記支持基板の線膨張係数より3ppm/℃以上大きい線膨張係数を有する中間層と、
を備えるウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサおよびウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に弾性表面波共振器等の弾性波素子が用いられている。弾性波素子を形成する圧電層を支持基板に接合することが知られている(例えば特許文献1)。弾性表面波共振器において共振周波数と反共振周波数の周波数温度係数(TCF:Temperature Coefficients of Frequency)が異なることが知られている(例えば特許文献2)。圧電層と支持基板との線膨張係数の差に起因した圧電層の上面の応力が大きくなると、共振周波数のTCFと反共振周波数のTCFとの差が大きくなることが知られている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-252550号公報
【特許文献2】特開2017-152868号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Inoue and M. Solal, "Layered SAW Resonators with Near-Zero TCF at Both Resonance and Anti-resonance," 2019 IEEE International Ultrasonics Symposium (IUS), 2019, pp. 2079-2082, doi: 10.1109/ULTSYM.2019.8925592.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
共振周波数と反共振周波数とのTCFの差を小さくすることが求められている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、共振周波数と反共振周波数とのTCFの差を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられ、配列方向に配列する複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板上に設けられ、上面に前記一対の櫛型電極が設けられ、前記配列方向における線膨張係数が前記支持基板の線膨張係数より大きく、ヤング率が前記支持基板のヤング率以下である圧電層と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記支持基板の線膨張係数より3ppm/℃以上大きい線膨張係数を有する中間層と、を備える弾性波デバイスである。
【0008】
上記構成において、前記中間層の線膨張係数は前記圧電層の前記配列方向における線膨張係数より小さい構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記支持基板は、サファイア基板、炭化シリコン基板またはスピネル基板であり、前記圧電層は、単結晶回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または単結晶回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記中間層は金属層である構成とすることができる。
【0011】
本発明は、サファイア基板、炭化シリコン基板またはスピネル基板である支持基板と、単結晶回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または単結晶回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板であり、前記支持基板上に設けられた圧電層と、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、銅、ニッケル、鉄、金、コバルト、パラジウムの少なくとも1つを主成分とする中間層と、を備える弾性波デバイスである。
【0012】
上記構成において、前記中間層の厚さは前記支持基板の厚さの0.05倍以上かつ1倍以下である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記圧電層の厚さは前記複数の電極指の平均ピッチの2倍以下である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記中間層と前記圧電層との間に絶縁層を備える構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0016】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【0017】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられ、線膨張係数が前記支持基板の線膨張係数より大きく、ヤング率が前記支持基板のヤング率以下である圧電層と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記支持基板の線膨張係数より3ppm/℃以上大きい線膨張係数を有する中間層と、を備えるウエハである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、共振周波数と反共振周波数とのTCFの差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、
図1(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図2】
図2は、比較例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図3】
図3は、実験1におけるT4/T0に対するΔTCFを示す図である。
【
図4】
図4は、シミュレーション1における支持基板のヤング率E0に対する圧電層の上面の規格化応力を示す図である。
【
図5】
図5(a)は、シミュレーション2における厚さ比T2/T0に対する圧電層の上面の規格化応力を示す図、および
図5(b)は、厚さ比T2/T0に対する支持基板の反りを示す図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、それぞれ実施例1の変形例1および2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、それぞれ実施例1の変形例3および4に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図8】
図8は、実施例1の変形例5に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、実施例1の変形例6に係るウエハを示す平面図および断面図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図10(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例0021】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、
図1(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板及び圧電層の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向、及びZ方向は、圧電層の結晶方位のX軸方向及びY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電層が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0022】
図1(a)および
図1(b)に示すように、実施例1の弾性波デバイスでは、支持基板10上に圧電層14が設けられている。支持基板10と圧電層14の間に応力緩和層12が設けられている。支持基板10、応力緩和層12および圧電層14の厚さはそれぞれT0、T2およびT4である。圧電層14上に弾性波共振器26が設けられている。弾性波共振器26はIDT22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電層14上に設けられた金属膜16により形成される。
【0023】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極20を備える。櫛型電極20は、複数の電極指18と、複数の電極指18が接続されたバスバー19と、を備える。X方向からみて一対の櫛型電極20の電極指18が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛型電極20は、交差領域25の少なくとも一部において電極指18が1本毎に交互に設けられている。交差領域25において複数の電極指18が主に励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極20のうち一方の櫛型電極20の電極指18のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指18のピッチ(電極指18の中心間のピッチ)をDとすると、一方の櫛型電極20の電極指18のピッチは電極指18の2本分のピッチDとなる。反射器24は、IDT22の電極指18が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0024】
圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)基板または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)基板であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板である。一対の櫛型電極20が主に励振する弾性波がSH(Shear Horizontal)波であるとき、圧電層14は、36°以上かつ50°以下回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板である。圧電層14の厚さT4は、スプリアスおよび損失を抑制する観点から1λ以下が好ましく、0.5λ以下がより好ましい。圧電層14が薄くなりすぎると弾性波が励振されにくくなることから、厚さT4は、0.1λ以上が好ましい。
【0025】
支持基板10は、例えばサファイア基板、スピネル基板または炭化シリコン基板である。サファイア基板は単結晶Al2O3基板であり、スピネル基板は多結晶または非晶質MgAl2O4基板であり、炭化シリコン基板は多結晶または単結晶のSiC基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電層14のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器のTCFを小さくできる。また、支持基板10のヤング率は圧電層14のヤング率より大きい。これにより、支持基板10は、圧電層14を支持する基板として機能し、強度を大きくできる。
【0026】
応力緩和層12は、例えば銅層、ニッケル層、鉄層、金層、コバルト層またはパラジウム層等の金属層である。応力緩和層12の線膨張係数は、圧電層14のX方向の線膨張係数より小さく、支持基板10の線膨張係数より大きい。これにより、共振周波数のTCFと反共振周波数のTCFの差を小さくできる。
【0027】
[比較例1]
図2は、比較例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図2に示すように、比較例1では、支持基板10と圧電層14との間に応力緩和層12が設けられていない。その他の構成は実施例1と同じである。
【0028】
[実験]
比較例1における共振周波数frのTCF@frと反共振周波数faのTCF@faとの差ΔTCFと圧電層14の厚さとの関係を調べた。実験条件は以下である。
支持基板10:厚さT0が125μm~148.7μmの単結晶サファイア基板
圧電層14:厚さT4が1.3μm~25μmの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
電極指18のピッチの2倍λ:略4μm
T0+T4は150μmで一定である。
【0029】
図3は、実験1におけるT4/T0に対するΔTCFを示す図である。ドットは測定点を示し、直線は近似直線を示す。
図3に示すように、支持基板10の厚さT0に対する圧電層14の厚さT4の比T4/T0が大きくなるとΔTCFが小さくなる。これは、非特許文献1に記載されているように、厚さT4が大きくなると、支持基板10と圧電層14との線膨張係数に起因した圧電層14の上面における応力が小さくなるためと考えられる。
【0030】
[シミュレーション1]
比較例1において、支持基板10のヤング率を変え、圧電層14の上面における熱応力を、2次元有限要素法を用いシミュレーションした。シミュレーション条件は以下である。
支持基板10
厚さT0:100μm
線膨張係数α0:7ppm/℃
ヤング率:E0
圧電層14:
材料:42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
厚さT4:3μm
X軸方向線膨張係数α4x:16.1ppm/℃
Z軸方向線膨張係数α4z:10.7ppm/℃
ヤング率E4:230GPa
電極指18は設けられていない
幅:1000μm
温度差:60℃
【0031】
図4は、シミュレーション1における支持基板10のヤング率E0に対する圧電層14の上面の規格化応力を示す図である。ドットは測定点を示す。縦軸は、E0=470GPaのときの圧電層14の上面の応力で規格化した規格化応力である。応力は負になっている。これは応力が圧縮応力であることを示している。
図4に示すように、支持基板10のヤング率E0が200GPa以上では圧電層14の上面における応力はほとんど変わらず-1である。ヤング率E0が200GPaより小さくなると応力の絶対値は小さくなる。以上のように、支持基板10のヤング率E0が大きい場合、圧電層14の表面の応力が大きくなりΔTCFが大きくなる。
【0032】
以上の比較例1の問題点をまとめる。圧電層14のX方向(電極指18の配列方向)の線膨張係数α4xより小さい線膨張係数を有する支持基板10を設けることで、温度が変化したときの、圧電層14の上面における線膨張を小さくできる。これによりTCFを小さくできる。しかし、圧電層14の厚さT4が小さくなると、圧電層14の上面における熱応力は大きくなる。これにより、ΔTCFが大きくなる。ΔTCFが大きくなると、共振周波数におけるTCF@Trと反共振周波数におけるTCF@faとの両方を小さくすることが難しくなる。支持基板10は、圧電層14を支持する機能から圧電層14のヤング率以上のヤング率を有する。このため、
図4のように、圧電層14の上面における応力が大きくなる。よって、ΔTCFが大きくなる。例えばラダー型フィルタでは、通過帯域の高周波端は直列共振器の反共振周波数により形成され、通過帯域の低周波端は並列共振器の共振周波数により形成される。このため、ΔTCFが大きいと通過帯域の温度特性が悪くなる。よって、ΔTCFの小さな弾性波デバイスが求められる。
【0033】
[シミュレーション2]
そこで、実施例1において、支持基板10の厚さT0に対する応力緩和層12の厚さT2の比T2/T0と、応力緩和層12の線膨張係数α2と支持基板10の線膨張係数α0の差Δα=α2-α0と、を変えて、圧電層14の上面における応力と、支持基板10の反りと、を2次元有限要素法を用いシミュレーションした。シミュレーション条件は以下である。
支持基板10
厚さT0:100μm
線膨張係数α0:7ppm/℃
ヤング率E0:470GPa
応力緩和層12
厚さT2:0μm~50μm
線膨張係数α2:2ppm/℃~22ppm/℃
ヤング率E2:200GPa
圧電層14:
材料:42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
厚さT4:0.5μm
X軸方向における線膨張係数α4x:16.1ppm/℃
Z軸方向における線膨張係数α4z:10.7ppm/℃
ヤング率E4:230GPa
電極指18は設けられていない
幅:1000μm
温度差:60℃
α0を7ppm/℃に固定し、α2を変化させている。
【0034】
図5(a)は、シミュレーション2における厚さ比T2/T0に対する圧電層の上面の規格化応力を示す図、
図5(b)は、厚さ比T2/T0に対する支持基板の反りを示す図である。Δαはα2-α0である。規格化応力は、圧電層14の上面における応力を、応力緩和層12を設けないときの応力で規格化している。規格化応力は負になっている。これは圧縮応力であることを示している。反りは、幅1000μmのチップの最小二乗平面を基準とした最大値と最小値との差である。
【0035】
図5(a)に示すように、Δα=0のときは、厚さ比T2/T0が変わっても規格化応力は-1であり変わらない。Δαが正のとき、厚さ比T2/T0が大きくなると規格化応力は-1から正側に変化する。Δα=+15ppm/℃では厚さ比T2/T0が0.43付近で規格化応力が0となる。Δαが+10ppm/℃のとき規格化応力はαが+15ppm/℃のときより負側となる。Δαが+5ppm/℃のとき規格化応力はΔαが+10ppm/℃のときと0のときとの間となる。Δαが負になると、規格化応力の絶対値は大きくなる。以上より、規格化応力を0に近づけるためには、Δαを正に大きくし、厚さ比T2/T0を大きくすることが好ましい。
【0036】
図5(b)に示すように、Δα=0のときは、厚さ比T2/T0が変わっても反りは0であり変わらない。Δαが正のとき、厚さ比T2/T0が大きくなると反りは大きくなる。Δαが大きくなると、同じ厚さ比T2/T0における反りが大きくなる。Δαが負のとき、厚さ比T2/T0が大きくなると反りは大きくなる。Δα=+5ppm/℃とΔα=-5ppm/℃のときとで反りは同程度である。以上より、Δαの絶対値を大きくし、厚さ比T2/T0を大きくすると反りが大きくなる。反りが大きくなると、例えば製造装置においてウエハが吸着できないなどの問題が生じる。反りの観点からはΔαの絶対値は小さく、厚さ比T2/T0は小さいことが好ましい。
【0037】
実施例1によれば、支持基板10の線膨張係数α0を圧電層14のX方向(電極指18が配列する配列方法)における線膨張係数α4xより小さくする。これにより、圧電層14の上面における電極指18のピッチDの温度依存性が小さくなり、TCFの絶対値が小さくなる。また、支持基板10のヤング率E0を圧電層14のヤング率E4以上にする。これにより、支持基板10は圧電層14を支持する機能をより発揮できる。例えば、支持基板10のヤング率が小さい場合、支持基板10と圧電層14との熱応力に起因した支持基板10の反りが大きくなってしまう。ヤング率E0をE4以上とすることで、熱応力に起因する支持基板10の反りを抑制できる。しかし、圧電層14の上面において、支持基板10と圧電層14との線膨張係数の差に起因する熱応力が大きくなる。特に、支持基板10のヤング率が圧電層14のヤング率以上の場合には、
図4のように、圧電層14の上面における熱応力が大きい。このため、ΔTCFが大きくなる。そこで、支持基板10と圧電層14との間に応力緩和層12(中間層)を設ける。応力緩和層12の線膨張係数α2を支持基板10の線膨張係数α0より3ppm/℃以上大きくする。すなわち、線膨張係数α2はα0より大きく、α2とα0との差は3ppm/℃以上である。これにより、
図5(a)のように、圧電層14の上面における熱応力が小さくなる。よって、ΔTCFを小さくできる。
【0038】
TCFの絶対値を小さくする観点から支持基板10の線膨張係数α0は、圧電層14のX方向における線膨張係数α4xの2/3以下が好ましく、1/2以下がより好ましい。線膨張係数α0とα4xとの差は5ppm/℃以上が好ましく、10ppm/℃以上がより好ましい。支持基板10が圧電層14を支持する観点から支持基板10のヤング率E0は圧電層14のヤング率E4の1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましい。ヤング率E0とE4との差は50GPa以上が好ましく、100GPa以上がより好ましい。ヤング率E0は200GPa以上が好ましく、300GPa以上がより好ましく、400GPa以上がさらに好ましい。
【0039】
圧電層14の上面における応力を小さくする観点から、応力緩和層12の線膨張係数α2は支持基板10の線膨張係数α0より5ppm/℃以上大きくすることが好ましい。また、応力緩和層12の線膨張係数α2は支持基板10の線膨張係数α0の1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2倍以上がさらに好ましい。応力緩和層12の線膨張係数α2が大きすぎると、圧電層14の上面における電極指18のピッチDの温度依存性が大きくなり、TCFの絶対値が大きくなる。この観点から、応力緩和層12の線膨張係数α2は圧電層14のX方向における線膨張係数α4xより小さいことが好ましい。線膨張係数α2はα4xの0.9倍以下がより好ましい。線膨張係数α2は、α4より1ppm/℃以上小さいことが好ましく、2ppm/℃以上小さいことがより好ましい。
【0040】
図5(a)のように、圧電層14の上面の応力を小さくするためには、応力緩和層12の厚さT2は支持基板10の厚さT0の0.05倍以上が好ましく、0.1倍以上がより好ましい。
図5(b)のように、支持基板10の反りを小さくする観点から、応力緩和層12の厚さT2は支持基板10の厚さT0の0.5倍以下が好ましく、0.3倍以下がより好ましい。支持基板10の厚さT0は例えば50μm~200μmであり、応力緩和層12の厚さT2は例えば0.5μm~100μmである。
【0041】
スプリアスおよび損失を抑制するために、圧電層14の厚さT4を複数の電極指18の平均ピッチDの2倍以下とする。この場合、
図3のようにΔTCFが大きくなる。よって、応力緩和層12を設けることが好ましい。圧電層14の厚さT4は複数の電極指18の平均ピッチDの1.6倍以下がより好ましく、1.2倍以下がさらに好ましい。弾性表面波が圧電層14に励振する観点から、圧電層14の厚さT4は複数の電極指18の平均ピッチDの0.1倍以上が好ましく、0.2倍以上がより好ましい。電極指18の平均ピッチDは、交差領域25のX方向における長さを電極指18の本数で除することにより算出できる。
【0042】
【0043】
表1のように、圧電層14として単結晶回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または単結晶回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板を用いると、圧電層14の電極指18の配列するX方向の線膨張係数は16.1ppm/℃または15.4ppm/℃である。圧電層14より線膨張係数の小さい支持基板10の材料としては、サファイア基板、炭化シリコン基板、スピネル基板、石英基板、アルミナ基板またはシリコン基板がある。圧電層14よりヤング率の高い支持基板10としては、サファイア基板、炭化シリコン基板またはスピネル基板である。
【0044】
サファイア基板、炭化シリコン基板またはスピネル基板より線膨張係数が3ppm/℃以上大きく、かつ回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板より線膨張係数が小さい材料を、応力緩和層12として用いる場合、応力緩和層12は例えば銅層、ニッケル層、鉄層、金層、コバルト層またはパラジウム層であり、銅、ニッケル、鉄、金、コバルトおよびパラジウムの少なくとも1つの金属元素を主成分とする合金である。なお、ある層がある元素を主成分とするとは、意図的または意図せず不純物を含むことを許容し、ある層内のある元素の濃度は例えば50原子%以上であり、80原子%以上であり、90原子%以上である。応力緩和層12としては、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムを用いてもよい。例えば、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムの結晶方位を適宜選択し、応力緩和層12のX方向における線膨張係数α2が、支持基板10のX方向における線膨張係数α0より3ppm/℃以上大きく、かつ圧電層14のX方向における線膨張係数α4xより小さくなるようにしてもよい。
【0045】
[実施例1の変形例1]
図6(a)は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図6(a)に示すように、実施例1の変形例1では、応力緩和層12と圧電層14との間に絶縁層13が設けられている。絶縁層13は、例えば酸化シリコン層、窒化アルミニウム層、酸化アルミニウム層もしくは窒化アルミニウム層または、これらの積層である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0046】
応力緩和層12が金属層の場合、絶縁層13を設けることで、応力緩和層12を介して電流リークを抑制できる。また、応力緩和層12が誘電率の高い誘電体(例えばタンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムとし、X方向をX軸方向以外とする)の場合、絶縁層13の誘電率を応力緩和層12の誘電率より小さくすることで、寄生容量を抑制し、誘電損を抑制できる。
【0047】
絶縁層13は、例えば温度補償膜である。この場合、絶縁層13の弾性定数の温度係数の符号は圧電層14の弾性定数の符号と反対である。温度補償膜として絶縁層13を設けることで、TCFを抑制できる。絶縁層13を温度補償膜とする場合、絶縁層13は酸化シリコンを主成分とする酸化シリコン層またはフッ素等を含有する酸化シリコン層である。圧電層14と絶縁層13の厚さの合計T3+T4は、例えば電極指18の平均ピッチDの4倍以下であり、3倍以下である。
【0048】
絶縁層13は、例えば高音速膜である。この場合、絶縁層13のバルクの音速は圧電層14のバルクの音速より速い。これにより、弾性波を圧電層14内に閉じ込めることができる。また、応力緩和層12のバルクの音速が圧電層14のバルクの音速より遅い場合、弾性波が応力緩和層12に伝搬しやすくなる。そこで、高音速膜として絶縁層13を設けることで、弾性波を圧電層14に閉じ込めることができる。絶縁層13を高音速膜とする場合、絶縁層13は例えば酸化アルミニウ膜または窒化酸化アルミニウム膜である。
【0049】
[実施例1の変形例2]
図6(b)は、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
図6(b)に示すように、実施例1の変形例2では、絶縁層13として、応力緩和層12上に絶縁層13aが設けられ、絶縁層13a上に絶縁層13bが設けられている。絶縁層13aは、例えば高音速膜であり、酸化アルミニウ膜または窒化酸化アルミニウム膜である。絶縁層13bは、例えば温度補償膜であり、酸化シリコン膜である。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0050】
実施例1の変形例1および2のように、応力緩和層12と圧電層14との間に絶縁層13が設けられていてもよい。絶縁層13の厚さT3が大きいと、応力緩和層12が圧電層14の上面の応力を緩和させる機能が低下する。この観点から、絶縁層13の厚さT3は、例えば応力緩和層12の厚さT2以下が好ましく、厚さT2の1/2倍以下がより好ましく、1/10以下がさらに好ましい。
【0051】
[実施例1の変形例3]
図7(a)は、実施例1の変形例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
図7(a)に示すように、実施例1の変形例3では、支持基板10と応力緩和層12との界面30が粗面である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0052】
[実施例1の変形例4]
図7(b)は、実施例1の変形例4に係る弾性波デバイスの断面図である。
図7(b)に示すように、実施例1の変形例4では、応力緩和層12と絶縁層13との界面32が粗面である。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0053】
[実施例1の変形例5]
図8は、実施例1の変形例5に係る弾性波デバイスの断面図である。
図8に示すように、実施例1の変形例5では、絶縁層13は絶縁層13aと13bとを備えている。支持基板10と応力緩和層12との界面30と、応力緩和層12と絶縁層13との界面32はいずれも粗面である。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0054】
実施例1の変形例3から5のように、支持基板10と応力緩和層12との界面30、および/または応力緩和層12と絶縁層13との界面32は粗面でもよい。これにより、不要波が界面30および32において散乱されるため、不要波に起因したスプリアスを抑制できる。実施例1およびその変形例1、2のように、界面30および/または32は平坦面でもよい。界面30および32が粗面の場合、界面30および32の算術平均粗さRaは例えば0.1μm以上である。界面30および32が平坦面の場合、界面30および32の算術平均粗さRaは例えば0.01μm以下である。
【0055】
弾性波デバイスとして、主に弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave) デバイスを例に説明したが、弾性波デバイスはBAW(Bulk Acoustic Wave)デバイスまたはラム(Lamb Wave)波デバイスでもよい。
【0056】
[実施例1の変形例6]
図9(a)および
図9(b)は、実施例1の変形例6に係るウエハを示す平面図および断面図である。
図9(a)に示すように、ウエハ35の平面形状は略円形状であり、結晶方位を示すオリエンテーション・フラットが設けられている。
図9(b)に示すように、ウエハの断面は、圧電層14上に弾性波共振器が設けられていない以外は実施例1の
図1(b)と同じである。実施例1の変形例6のウエハの圧電層14上にIDT22および反射器24等の金属膜16を形成することで、ウエハ35上に弾性波共振器を形成する。その後、ウエハ35を切断することで実施例1の弾性波デバイスが製造できる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。ウエハは、実施例1の変形例1から5に対応するウエハでもよい。
ラダー型フィルタでは、通過帯域の高周波端は主に直列共振器S1からS3の反共振周波数により形成され、通過帯域の低周波端は主に並列共振器P1およびP2により形成される。よって、直列共振器S1からS3、並列共振器P1およびP2を実施例1およびその変形例の弾性波共振器とすることで、温度変化による通過帯域の特性変化を抑制できる。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。