(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036377
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】セルロースビーズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20240308BHJP
C08B 16/00 20060101ALI20240308BHJP
C08B 1/08 20060101ALI20240308BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C08J3/12 101
C08J3/12 CEP
C08B16/00
C08B1/08
A61K8/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005508
(22)【出願日】2024-01-17
(62)【分割の表示】P 2022107237の分割
【原出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(74)【代理人】
【識別番号】100188086
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 五郎
(72)【発明者】
【氏名】岩田 一平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翼
(72)【発明者】
【氏名】山崎 明日香
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
4F070
【Fターム(参考)】
4C083AD261
4C083AD262
4C083CC01
4C083EE06
4C083FF01
4C090AA04
4C090AA08
4C090BA24
4C090BA33
4C090BC10
4C090BD19
4C090BD24
4C090BD35
4C090CA19
4C090CA32
4C090CA33
4C090CA45
4C090DA26
4F070AA02
4F070DA34
4F070DC07
4F070DC11
(57)【要約】
【課題】化粧料での使用に好適な質感とソフトフォーカス性の両立が図られたセルロースビーズ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】化粧料に配合されてなるセルロースビーズであって、平均粒子直径(D50)が1~20μmであり、平均粒子直径(D10)が4.0μm以下であり、平均粒子直径(D20)が6.0μm以下であり、平均粒子直径(D90)が30.0μm以下であり、平均粒子径の標準偏差(SD)を平均粒子直径(D50)で除した値(SD/D50)が0.4~1.5である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧料に配合されてなるセルロースビーズであって、
平均粒子直径(D50)が1~20μmであり、
平均粒子直径(D10)が4.0μm以下であり、
平均粒子直径(D20)が6.0μm以下であり、
平均粒子直径(D90)が30.0μm以下であり、
平均粒子径の標準偏差(SD)を平均粒子直径(D50)で除した値(SD/D50)が0.4~1.5である
ことを特徴とするセルロースビーズ。
【請求項2】
化学的解繊による解繊工程を経ることなく原料パルプから製造されてなる請求項1に記載のセルロースビーズ。
【請求項3】
ハンター白色度(W値)が85以上であって、ハンター黄色度(YI値)が20以下である請求項2に記載のセルロースビーズ。
【請求項4】
トリメチルシロキケイ酸50%、シクロペンタシロキサン50%にセルロースビーズを0.05重量%分散させた分散液のヘーズ値が50%以上である請求項1に記載のセルロースビーズ。
【請求項5】
請求項1に記載のセルロースビーズの製造方法であって、
セルロースをマーセル化してマーセル化セルロースを得るマーセル化工程と、
該マーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させる解重合工程とを経た原料セルロースに、
総濃度が2.5~17.5%となるようアルカリ金属水酸化物を添加し解繊してセルロース微細繊維を得る解繊工程と、
該セルロース微細繊維を酸で中和する中和工程と、
中和されたセルロース微細繊維をエアー圧0.025~0.6MPaで噴霧乾燥させる乾燥工程とを有する
ことを特徴とするセルロースビーズの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のセルロースビーズがII型の結晶構造を有するII型セルロース微細繊維の成形体であることを特徴とするII型セルロースビーズ。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のセルロースビーズが化学修飾されていない未修飾セルロース微細繊維の成形体であることを特徴とする未修飾セルロースビーズ。
【請求項8】
請求項5に記載のセルロースビーズがII型の結晶構造を有するII型セルロース微細繊維の成形体であることを特徴とするII型セルロースビーズの製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載のセルロースビーズが化学修飾されていない未修飾セルロース微細繊維の成形体であることを特徴とする未修飾セルロースビーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースビーズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、持続可能な開発目標(SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(SDGs))と呼ばれる持続可能な開発のために国連が定める国際目標が掲げられ、このうちの環境問題としてプラスチック使用量の削減等がある。石油由来のプラスチックの使用量を削減することによって、GHG削減による気候変動の解決を目指す取り組みがなされている。
【0003】
例えば、ファンデーション等の化粧料に、他の成分との混合性、使用時のノビや感触の向上を目的としてマイクロプラスチック(ビーズ)が使用されることがある。しかしながら、マイクロプラスチック(ビーズ)は、特に海洋環境汚染の深刻化の要因の一つとして問題提起されており、発生量の抑制や回収を目指す取り組みがなされている。
【0004】
これらから、市場においてはマイクロプラスチック(ビーズ)の代替が進んでいる。しかしながら、特に粒子径が100μm以下のマイクロプラスチック(ビーズ)のような微細な樹脂原料は代替材料の普及は進んでおらず、需要の高まりに対して供給が少ないことが知られている。
【0005】
また、マイクロプラスチックの代替原料としては、天然素材で生分解性を有するセルロースが注目されている。一般的にセルロースを成形加工するには、例えばセルロースを化学修飾して溶解させるビスコース法などが用いられる。しかし、本プロセスは環境負荷の高い有機溶剤等の化学薬品を使用するため、環境、製品の安全性に懸念が残る。一方、溶解系ではないが、セルロースナノファイバーやセルロースマイクロファイバー等のセルロース微細繊維からも、成形体を加工することが可能で、ビーズやフィルム状に加工することができ、マイクロプラスチックの代替原料として期待されている。
【0006】
セルロース微細繊維の製造方法としては、水中で触媒を用いてセルロースを酸化処理し、得られた酸化セルロースを解繊することによりセルロースナノファイバー分散体を得る方法(特許文献1参照。)や、セルロースのカルボキシメチル化において、カルボキシメチル化を水と有機溶媒との混合溶媒下で行って、得られたカルボキシメチル化セルロースを解繊することにより透明度の高いカルボキシメチル化セルロースのナノファイバー分散体を得る方法(特許文献2参照。)、アニオン変性セルロースナノファイバー塩に対して、陽イオン交換樹脂を用いた陽イオン交換反応を行うことにより脱塩処理してアニオン変性セルロースナノファイバーを得る製造方法(特許文献3参照。)等が挙げられる。
【0007】
これらの製造方法で得られるセルロース微細繊維は、I型のセルロース微細繊維であって繊維径の小さいセルロース繊維を得るために、化学的解繊及び機械(物理)的解繊が用いられ、化学修飾されたセルロースとなる。つまり、有機溶剤等の化学薬品を用いて解繊がなされることから、脱薬品工程を要して工程が複雑化するのみならず、化学薬品が残留して化粧品等には使用することができなかったりする等、用途が限定されたり使用薬品による安全性や環境的負荷が懸念されるといった課題がある。
【0008】
これに対し、化学的解繊を用いない未修飾セルロースでは、解繊に際して有機溶剤等の化学薬品が使用されず、解繊後のセルロース微細繊維に化学薬品が残留するという問題が生じないため、化粧品等の幅広い用途での活用が期待できる。特に、未修飾セルロースから得られる未修飾セルロースビーズは、化粧料に使用されるマイクロプラスチックの代替となり得る。
【0009】
一般に、化粧料に使用されるマイクロプラスチックは、滑り性等の良好な質感が求められる。マイクロビーズを含む化粧料の質感は、マイクロビーズの粒子の細かさや均一さ等が影響すると考えられていた。一方で、化粧料ではくすみ消し等のソフトフォーカス性も求められるが、従来のマイクロプラスチックを含む化粧料では、質感とソフトフォーカス性の両立は困難であった。そこで発明者らは、化粧料に使用されるマイクロプラスチックの代替として、未修飾セルロースから得られる未修飾セルロースビーズの検討、改良を重ねた。その結果、化粧料での使用に好適な質感とソフトフォーカス性の両立を図ったセルロースビーズ及びその製造方法を発明するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-001728号公報
【特許文献2】特開2019-99758号公報
【特許文献3】国際公開第2019/059079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、化粧料での使用に好適な質感とソフトフォーカス性の両立が図られたセルロースビーズ及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、請求項1の発明は、化粧料に配合されてなるセルロースビーズであって、平均粒子直径(D50)が1~20μmであり、平均粒子直径(D10)が4.0μm以下であり、平均粒子直径(D20)が6.0μm以下であり、平均粒子直径(D90)が30.0μm以下であり、平均粒子径の標準偏差(SD)を平均粒子直径(D50)で除した値(SD/D50)が0.4~1.5であることを特徴とするセルロースビーズに係る。
【0013】
請求項2の発明は、化学的解繊による解繊工程を経ることなく原料パルプから製造されてなる請求項1に記載のセルロースビーズに係る。
【0014】
請求項3の発明は、ハンター白色度(W値)が85以上であって、ハンター黄色度(YI値)が20以下である請求項2に記載のセルロースビーズに係る。
【0015】
請求項4の発明は、トリメチルシロキケイ酸50%、シクロペンタシロキサン50%にセルロースビーズを0.05重量%分散させた分散液のヘーズ値が50%以上である請求項1に記載のセルロースビーズに係る。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1に記載のセルロースビーズの製造方法であって、セルロースをマーセル化してマーセル化セルロースを得るマーセル化工程と、該マーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させる解重合工程とを経た原料セルロースに、総濃度が2.5~17.5%となるようアルカリ金属水酸化物を添加し解繊してセルロース微細繊維を得る解繊工程と、該セルロース微細繊維を酸で中和する中和工程と、中和されたセルロース微細繊維をエアー圧0.025~0.6MPaで噴霧乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とするセルロースビーズの製造方法に係る。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のセルロースビーズがII型の結晶構造を有するII型セルロース微細繊維の成形体であることを特徴とするII型セルロースビーズに係る。
【0018】
請求項7の発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のセルロースビーズが化学修飾されていない未修飾セルロース微細繊維の成形体であることを特徴とする未修飾セルロースビーズに係る。
【0019】
請求項8の発明は、請求項5に記載のセルロースビーズがII型の結晶構造を有するII型セルロース微細繊維の成形体であることを特徴とするII型セルロースビーズの製造方法に係る。
【0020】
請求項9の発明は、請求項5に記載のセルロースビーズが化学修飾されていない未修飾セルロース微細繊維の成形体であることを特徴とする未修飾セルロースビーズの製造方法に係る。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明に係るセルロースビーズによると、化粧料に配合されてなるセルロースビーズであって、平均粒子直径(D50)が1~20μmであり、平均粒子直径(D10)が4.0μm以下であり、平均粒子直径(D20)が6.0μm以下であり、平均粒子直径(D90)が30.0μm以下であり、平均粒子径の標準偏差(SD)を平均粒子直径(D50)で除した値(SD/D50)が0.4~1.5であるため、化粧料での使用に好適な質感とソフトフォーカス性の両立を図ることができる。
【0022】
請求項2の発明に係るセルロースビーズによると、請求項1の発明において、化学的解繊による解繊工程を経ることなく原料パルプから製造されてなるため、化粧品用途での安全性が高まる。
【0023】
請求項3の発明に係るセルロースビーズによると、請求項2の発明において、ハンター白色度(W値)が85以上であって、ハンター黄色度(YI値)が20以下であるため、高純度のセルロースビーズが得られる。
【0024】
請求項4の発明に係るセルロースビーズによると、請求項1の発明において、トリメチルシロキケイ酸50%、シクロペンタシロキサン50%にセルロースビーズを0.05重量%分散させた分散液のヘーズ値が50%以上であるため、優れたソフトフォーカス性が得られる。
【0025】
請求項5の発明に係るセルロースビーズの製造方法によると、請求項1に記載のセルロースビーズの製造方法であって、セルロースをマーセル化してマーセル化セルロースを得るマーセル化工程と、該マーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させる解重合工程とを経た原料セルロースに、総濃度が2.5~17.5%となるようアルカリ金属水酸化物を添加し解繊してセルロース微細繊維を得る解繊工程と、該セルロース微細繊維を酸で中和する中和工程と、中和されたセルロース微細繊維をエアー圧0.025~0.6MPaで噴霧乾燥させる乾燥工程とを有するため、化粧料での使用に好適な質感とソフトフォーカス性の両立を図ったセルロースビーズを得ることができる。
【0026】
請求項6の発明に係るII型セルロースビーズによると、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のセルロースビーズがII型の結晶構造を有するII型セルロース微細繊維の成形体であるため、化粧料での使用により好適な質感が得られる。
【0027】
請求項7の発明に係る未修飾セルロースビーズによると、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のセルロースビーズが化学修飾されていない未修飾セルロース微細繊維の成形体であるため、化粧品用途での安全性がより高められる。
【0028】
請求項8の発明に係るII型セルロースビーズの製造方法によると、請求項5に記載のセルロースビーズがII型の結晶構造を有するII型セルロース微細繊維の成形体であるため、化粧料での使用により好適な質感が得られる。
【0029】
請求項9の発明に係る未修飾セルロースビーズの製造方法によると、請求項5に記載のセルロースビーズが化学修飾されていない未修飾セルロース微細繊維の成形体であるため、化粧品用途での安全性がより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係るセルロースビーズの製造方法に係る概略工程図である。
【
図2】試作例1~4の粒度分布を表すグラフである。
【
図3】試作例5~7及び比較例1の粒度分布を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のセルロースビーズは、化粧料に配合されてなるものであって、例えばマイクロプラスチック(ビーズ)の代替原料として使用される。セルロースビーズは、セルロース微細繊維の成形体であり、化粧料に添加された際の質感等の観点から、強度の高いI型の結晶構造を有するI型セルロース微細繊維よりも柔らかいII型セルロース微細繊維が好ましく用いられる。セルロースビーズは、II型セルロース微細繊維のうち化学修飾されていない未修飾セルロース微細繊維の成形体であって、化粧品用途での安全性等の観点から、特に化学的解繊による解繊工程を経ることなく原料パルプから製造されてなるものが好ましい。
【0032】
パルプは、主に木材を粉砕し、リグニン等の不純物を除去してセルロース成分の純度が高められた原料である。また、綿花からも不純物を除去してセルロース成分の純度が高められたコットンリンターパルプが用いられる。加えて、パルプは繊維状であるため薬品との反応性が高く、セルロース原料として好ましい。パルプの他にも微生物が生成するバクテリアセルロース等の動物性のセルロース等も使用することができる。さらに、これら原料を精製して得られる精製セルロースを用いることができる。
【0033】
本発明のセルロースビーズは、
図1に示すように、マーセル化工程(S1)と、解重合工程(S2)と、解繊工程(S3)と、中和工程(S4)と、乾燥工程(S5)とを有する製造方法により得られる。
【0034】
マーセル化工程(S1)は、セルロースをマーセル化してマーセル化セルロースを得る工程である。マーセル化工程では、苛性ソーダ(NaOH)等のアルカリ金属水酸化物に原料であるセルロースが加えられ、必要に応じて加熱されながら撹拌されて、セルロースの繊維が膨潤化される。セルロース繊維がアルカリ金属水酸化物に浸漬されると、マイナスに帯電してクーロン力が生じ、それぞれの繊維が反発して解繊されやすくなる。マーセル化されたセルロースは、上記の通り解繊されやすくなることから、後の解繊工程(S3)におけるエネルギーを削減することができる。
【0035】
マーセル化工程で用いられるアルカリ金属水酸化物は、苛性ソーダ(NaOH)、水酸化リチウム、水酸化カリウム等が挙げられ、コストや安全性、環境負荷の観点から苛性ソーダが好ましく用いられる。
【0036】
マーセル化工程(S1)の後、必要に応じて余剰のアルカリ金属水酸化物は除去される。固形分濃度を適宜調整して、解重合工程(S2)が行われる。解重合工程(S2)は、マーセル化工程(S1)より得たマーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させる工程である。固形分が調整されたマーセル化セルロースは、適宜粉砕され、空気中の酸素により酸化分解されて老成され、重合度の低下が図られる。この際、重合度は760以下とされる。マーセル化セルロースの重合度を760以下とすると、得られるセルロース微細繊維の分散液の透明性が確保される。また、マーセル化セルロースの重合度が低いほど、後の解繊工程におけるセルロース繊維の解繊が容易となる。
【0037】
解重合工程(S2)におけるマーセル化セルロースの老成は、室温又は加熱条件で行われる。解重合速度を速めるため、原料が乾燥しない程度の加熱条件が好ましく用いられる。また、老成反応を促進する硫酸マンガン(II)のような老成促進剤を添加することもできる。
【0038】
マーセル化工程(S1)及び解重合工程(S2)を経ることにより、微細繊維への解繊が可能な原料セルロースが得られる。セルロースがマーセル化されることによって、原料セルロースはII型の結晶構造を有するII型セルロースとなる。II型セルロースはI型セルロースよりも強度等に劣ると言われているが、本発明により得られるセルロース微細繊維は、化粧品等の分野におけるプラスチックの代替利用を目的とすることから、I型セルロースほどの強度は要求されないため、強度の低下は問題とはならない。
【0039】
そして、解繊工程(S3)では、該原料セルロースにアルカリ金属水酸化物や溶媒(イオン交換水)を添加して、総濃度が2.5~17.5%に調整され、解繊が行われる。ここで用いられるアルカリ金属水酸化物は、上記したように、苛性ソーダ、水酸化リチウム、水酸化カリウム等が挙げられ、コストや安全性の観点から苛性ソーダが好ましく用いられる。原料セルロースの解繊は、機械(物理)的解繊によりなされる。機械(物理)的解繊は、ホモジナイザーやウォータージェット等を用いた公知の方法により行われる。ここで、原料セルロースはマーセル化により繊維が膨潤して解繊されやすい状態とされていること、解重合工程により重合度が低下されていることから、高い圧力がかけられなくとも容易に解繊が可能であり、設備の面でも有意である。
【0040】
アルカリ金属水酸化物の濃度は、2.5%よりも低いとセルロースの膨潤が不十分となり、解繊がされにくくなるおそれがある。また、アルカリ金属水酸化物の濃度が17.5%よりも高くなると、塩濃度が高くなり、セルロースの繊維が凝集しやすくなるため、かえって解繊がされにくくなるおそれがある。アルカリ金属水酸化物が該範囲を外れて解繊が不十分となった場合には、得られるセルロース微細繊維の分散液に未解繊繊維が残留し透明性が低くなり、均一性が不十分であるのでセルロースビーズに繊維形状物が混入したり、セルロースビーズの表面状態が荒れて製品不良となる。
【0041】
解繊は、複数回に分けて行われても良い。例えば、ミキサによる予備解繊の後に、ホモジナイザーを用いて本解繊を行うことによって、均一で繊維径の小さいセルロース微細繊維とすることができる。また、予備解繊によれば、原料セルロースが解繊装置に詰まる等の不具合を回避することができる。予備解繊は、ミキサやリファイナー等が用いられ、公知の方法により行われる。セルロース微細繊維の解繊は、平均繊維径がナノサイズから数百ナノサイズに解繊されればよく、2~800nm程度、より好ましくは100nm以下とされるとセルロース微細繊維の分散液の透明性が向上し、セルロースビーズの加工適性が良好となる。
【0042】
解繊工程(S3)を経て得られたセルロース微細繊維は、中和工程(S4)において、酸で中和される。解繊工程を経て得られたセルロース微細繊維は、強アルカリ性であるため、中和を要する。用いられる酸は、例えば、硫酸や塩酸、乳酸等が挙げられる。中和されたセルロース微細繊維は、適宜洗浄されて再解繊されてII型未修飾セルロース微細繊維が得られる。
【0043】
乾燥工程(S5)は、中和工程(S4)を経て得られたセルロース微細繊維の分散液を噴霧乾燥させて未修飾セルロースビーズを成形する工程である。セルロース微細繊維の分散液は、噴霧乾燥により乾燥とともに凝集されて、粒状(ビーズ)に成形される。噴霧乾燥の条件は、エアー圧0.025~0.6MPaである。噴霧乾燥のエアー圧が不足すると、セルロース微細繊維が微粒化されず粒子径が大きくなり、物性や質感が悪化する。また、エアー圧を0.6MPaよりも高くする場合はエアー発生装置が過大になり現実的ではない。
【0044】
また、本発明のセルロースビーズの製造方法では、必要に応じて乾燥工程(S5)の後に捕集工程(S6)が行われる。捕集工程(S6)は、乾燥工程(S5)にて成形されたセルロースビーズから不要な粒子を除いて適性な粒子のセルロースビーズを回収する工程である。捕集手段としては、適正な粒子の回収が可能であれば特に限定されないが、例えばバグフィルターやサイクロン集塵機等を用いた公知の捕集手段により捕集することができる。このようにして得られたセルロースビーズは、従来のセルロースビーズと比較して環境負荷の高い薬品の使用量を削減することができる。
【0045】
本発明の製造方法により得られるセルロースビーズは、粒度分布における積算値50%の平均粒子径(D50)、積算値10%の平均粒子直径(D10)、積算値20%の平均粒子直径(D20)、積算値90%の平均粒子直径(D90)、平均粒子径の標準偏差(SD)を平均粒子直径(D50)で除した値(CV値:SD/D50)が、以下の通り規定される。なお、平均粒子径(D50)はメディアン径(中央径)であり、平均粒子径(D10),(D20),(D90)及びCV値(SD/D50)は粒度分布の傾向を示し、特にCV値(SD/D50)は粒子径の均一さを表す指標で値が小さくなるほど粒子径が均一であることを示す。
【0046】
粒度分布における積算値50%の平均粒子径(D50)は1~20μm、より好ましくは2.5~10μmである。積算値10%の平均粒子直径(D10)は4.0μm以下、より好ましくは3.0μm以下である。積算値20%の平均粒子直径(D20)は6.0μm以下、より好ましくは4.5μm以下である。積算値90%の平均粒子直径(D90)は30.0μm以下、より好ましくは20.0μm以下である。CV値(SD/D50)は0.4~1.5、より好ましくは0.5~1.0である。
【0047】
本発明のセルロースビーズは、メディアン径(D50)が1~20μmかつD90が30.0μm以下の粒子であって、D10が4.0μm以下やD20が6.0μm以下のような微粒子を多く含み、かつCV値(SD/D50)が0.4~1.5であるように全体として粒子径が比較的不均一であるため、滑り性がよくざらつきやきしみ感が少ない良好な質感が得られる。
【0048】
また、当該セルロースビーズは、優れたソフトフォーカス性を有する。ソフトフォーカス性は高い光拡散効果が要求されるものであるが、セルロースビーズでは粒子径が小さいほどヘーズ値が高くなって、大きな光拡散効果が得られる傾向があることが知られている。本発明のセルロースビーズは、前記のように微粒子を多く含むことから、光拡散効果が高くなって優れたソフトフォーカス性が得られる。具体的には、トリメチルシロキケイ酸50%、シクロペンタシロキサン50%にセルロースビーズを0.05重量%分散させた分散液のヘーズ値が50%以上、より好ましくは60%以上である。したがって、本発明のセルロースビーズでは、質感とソフトフォーカス性の両立を図ることができる。
【0049】
さらに、当該セルロースビーズは、従来のセルロースビーズと比較して高純度である。セルロースビーズの純度の指標としては、白色度が用いられる。従来のセルロースビーズは、例えばセルロースを化学修飾して得られるビスコースから製造されるが、該ビスコースに副生成物等の硫黄化合物(トリチオ炭酸ナトリウム等)が含有されて黄色く着色されており、製造後のセルロースにも硫黄化合物(トリチオ炭酸ナトリウム等)が残留する影響により、黄色味を帯びたものとなって粉体の白色度が悪化する。一方、本発明のセルロースビーズでは、化学薬品を使用しない(化学修飾されていない)ことから、従来のような副生成物等の影響がなく、高い白色度、すなわち高純度のセルロースビーズが得られる。当該セルロースビーズの好ましい純度としては、ハンター白色度(W値)が85以上であって、ハンター黄色度(YI値)が20以下である。
【実施例0050】
[セルロースビーズの作製]
試作例1~7のセルロースビーズについて、
図1の工程図に従って以下の条件で製造した。なお、比較例1は市販のセルロースビーズ(大東化成工業株式会社製:セルロース「CELLOBEADS D-10」)を用いた。
【0051】
<試作例1>
18重量%苛性ソーダを50℃まで加温し、パルプを2重量%となるよう投入してスラリー状になるまで撹拌し、マーセル化を行った(マーセル化工程)。その後、余剰の苛性ソーダを除去して固形分を33重量%に調整した。50℃で老成処理を行ってマーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させて原料セルロースを得た(解重合工程)。処理後の試料にイオン交換水と苛性ソーダを加えて、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて解繊を行った(解繊工程)。調製したスラリー96.0kgを採取し、撹拌しながら20重量%の硫酸を投入して中和した(中和工程)。中和後のサンプルは遠心洗浄機(株式会社松本機械製作所製)にて15Hzで脱水しながら、イオン交換水を5L/min噴射して30min洗浄を行った。洗浄後のサンプルに総重量96.0kgになるようにイオン交換水を加えた後、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて再度解繊を行い、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。本試料をスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製)にて、エアー圧0.25MPa(処理量75kg/hr)で噴霧乾燥した(乾燥工程)。粒子の捕集はサイクロン集塵機(大川原化工機株式会社製)にて集塵した後、バグフィルター(大川原化工機株式会社製)から回収し(捕集工程)、試作例1のセルロースビーズを得た。
【0052】
<試作例2>
18重量%苛性ソーダを50℃まで加温し、パルプを2重量%となるよう投入してスラリー状になるまで撹拌し、マーセル化を行った(マーセル化工程)。その後、余剰の苛性ソーダを除去して固形分を33重量%に調整した。50℃で老成処理を行ってマーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させて原料セルロースを得た(解重合工程)。処理後の試料にイオン交換水と苛性ソーダを加えて、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて解繊を行った(解繊工程)。調製したスラリー96.0kgを採取し、撹拌しながら20重量%の硫酸を投入して中和した(中和工程)。中和後のサンプルは遠心洗浄機(株式会社松本機械製作所製)にて15Hzで脱水しながら、イオン交換水を5L/min噴射して30min洗浄を行った。洗浄後のサンプルに総重量96.0kgになるようにイオン交換水を加えた後、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて再度解繊を行い、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。本試料をスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製)にて、エアー圧0.25MPa(処理量75kg/hr)で噴霧乾燥した(乾燥工程)。粒子の捕集はバグフィルター(大川原化工機株式会社製)の1点捕集で回収し(捕集工程)、試作例2のセルロースビーズを得た。
【0053】
<試作例3>
18重量%苛性ソーダを50℃まで加温し、パルプを2重量%となるよう投入してスラリー状になるまで撹拌し、マーセル化を行った(マーセル化工程)。その後、余剰の苛性ソーダを除去して固形分を33重量%に調整した。50℃で老成処理を行ってマーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させて原料セルロースを得た(解重合工程)。処理後の試料にイオン交換水と苛性ソーダを加えて、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて解繊を行った(解繊工程)。調製したスラリー96.0kgを採取し、撹拌しながら20重量%の硫酸を投入して中和した(中和工程)。中和後のサンプルは遠心洗浄機(株式会社松本機械製作所製)にて15Hzで脱水しながら、イオン交換水を5L/min噴射して30min洗浄を行った。洗浄後のサンプルに総重量96.0kgになるようにイオン交換水を加えた後、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて再度解繊を行い、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。本試料をスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製)にて、エアー圧0.25MPa(処理量75kg/hr)で噴霧乾燥した(乾燥工程)。粒子の捕集はサイクロン集塵機(大川原化工機株式会社製)で回収し(捕集工程)、試作例3のセルロースビーズを得た。
【0054】
<試作例4>
18重量%苛性ソーダを50℃まで加温し、パルプを2重量%となるよう投入してスラリー状になるまで撹拌し、マーセル化を行った(マーセル化工程)。その後、余剰の苛性ソーダを除去して固形分を33重量%に調整した。50℃で老成処理を行ってマーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させて原料セルロースを得た(解重合工程)。処理後の試料にイオン交換水と苛性ソーダを加えて、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて解繊を行った(解繊工程)。調製したスラリー96.0kgを採取し、撹拌しながら20重量%の硫酸を投入して中和した(中和工程)。中和後のサンプルは遠心洗浄機(株式会社松本機械製作所製)にて15Hzで脱水しながら、イオン交換水を5L/min噴射して30min洗浄を行った。洗浄後のサンプルに総重量96.0kgになるようにイオン交換水を加えた後、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて再度解繊を行い、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。本試料をスプレードライヤー(株式会社GF製)にて、エアー圧0.6MPa(処理量2.64kg/hr)で噴霧乾燥した(乾燥工程)。粒子の捕集はバグフィルター(株式会社GF製)で回収し(捕集工程)、試作例4のセルロースビーズを得た。
【0055】
<試作例5>
18重量%苛性ソーダを50℃まで加温し、パルプを2重量%となるよう投入してスラリー状になるまで撹拌し、マーセル化を行った(マーセル化工程)。その後、余剰の苛性ソーダを除去して固形分を33重量%に調整した。50℃で老成処理を行ってマーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させて原料セルロースを得た(解重合工程)。処理後の試料にイオン交換水と苛性ソーダを加えて、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて解繊を行った(解繊工程)。調製したスラリー96.0kgを採取し、撹拌しながら20重量%の硫酸を投入して中和した(中和工程)。中和後のサンプルは遠心洗浄機(株式会社松本機械製作所製)にて15Hzで脱水しながら、イオン交換水を5L/min噴射して30min洗浄を行った。洗浄後のサンプルに総重量96.0kgになるようにイオン交換水を加えた後、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて再度解繊を行い、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。本試料をスプレードライヤー(株式会社GF製)にて、エアー圧0.06MPa(処理量2.40kg/hr)で噴霧乾燥した(乾燥工程)。粒子の捕集はバグフィルター(株式会社GF製)で回収し(捕集工程)、試作例5のセルロースビーズを得た。
【0056】
<試作例6>
18重量%苛性ソーダを50℃まで加温し、パルプを2重量%となるよう投入してスラリー状になるまで撹拌し、マーセル化を行った(マーセル化工程)。その後、余剰の苛性ソーダを除去して固形分を33重量%に調整した。50℃で老成処理を行ってマーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させて原料セルロースを得た(解重合工程)。処理後の試料にイオン交換水と苛性ソーダを加えて、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて解繊を行った(解繊工程)。調製したスラリー96.0kgを採取し、撹拌しながら20重量%の硫酸を投入して中和した(中和工程)。中和後のサンプルは遠心洗浄機(株式会社松本機械製作所製)にて15Hzで脱水しながら、イオン交換水を5L/min噴射して30min洗浄を行った。洗浄後のサンプルに総重量96.0kgになるようにイオン交換水を加えた後、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて再度解繊を行い、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。本試料をスプレードライヤー(株式会社GF製)にて、エアー圧0.025MPa(処理量2.40kg/hr)で噴霧乾燥した(乾燥工程)。粒子の捕集はバグフィルター(株式会社GF製)で回収し(捕集工程)、試作例6のセルロースビーズを得た。
【0057】
<試作例7>
18重量%苛性ソーダを50℃まで加温し、パルプを2重量%となるよう投入してスラリー状になるまで撹拌し、マーセル化を行った(マーセル化工程)。その後、余剰の苛性ソーダを除去して固形分を33重量%に調整した。50℃で老成処理を行ってマーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させて原料セルロースを得た(解重合工程)。処理後の試料にイオン交換水と苛性ソーダを加えて、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて解繊を行った(解繊工程)。調製したスラリー96.0kgを採取し、撹拌しながら20重量%の硫酸を投入して中和した(中和工程)。中和後のサンプルは遠心洗浄機(株式会社松本機械製作所製)にて15Hzで脱水しながら、イオン交換水を5L/min噴射して30min洗浄を行った。洗浄後のサンプルに総重量96.0kgになるようにイオン交換水を加えた後、ホモジナイザー(株式会社SMT製)にて再度解繊を行い、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。本試料をスプレードライヤー(株式会社GF製)にて、エアー圧0.02MPa(処理量2.64kg/hr)で噴霧乾燥した(乾燥工程)。粒子の捕集はバグフィルター(株式会社GF製)で回収し(捕集工程)、試作例7のセルロースビーズを得た。
【0058】
各試作例1~7及び比較例1のセルロースビーズの性能評価として、粒度分布、ヘーズ(%)、白色度を測定し、質感の官能試験を行った。
【0059】
[粒度分布]
試作例1~7及び比較例1のセルロースビーズについて、JIS Z 8825(2013)に準拠して平均粒子径(μm)を測定した。
図2,3は、測定により得られた試作例1~7及び比較例1のセルロースビーズの粒度分布のグラフである。各セルロースビーズの平均粒子径の測定では、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製:「MT3200II」)を使用した。測定に際し、まず各セルロースビーズとイオン交換水とをそれぞれ混合させたスラリーを試料循環器に充填させた。このスラリーの形態は、供給直前に目視で不均一な箇所が見られない程度に撹拌したものである。その後、測定装置に供給し、各計測パラメータを、イオン交換水の屈折率を1.33、測定対象粒子の光透過性を透過、計測時間を10秒として、積算粒度分布(体積基準)の10%に対応した粒子径(D10)、積算粒度分布(体積基準)の20%に対応した粒子径(D20)、積算粒度分布(体積基準)の50%に対応した粒子径(D50)、積算粒度分布(体積基準)の90%に対応した粒子径(D90)、平均粒子径の標準偏差(SD)をそれぞれ測定した。
【0060】
[ヘーズ]
試作例1~7及び比較例1のセルロースビーズについて、各セルロースビーズの0.05質量%分散液を調製し、JIS K 7136(2000)に準拠してヘーズ(%)を測定した。ヘーズ(%)は、透明性の指標であって、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製:「NDH-4000」)を使用した。分散液は、濃度の調整にトリメチルシロキケイ酸50%・シクロペンタシロキサン50%溶液(信越化学工業株式会社製:「KF7312J」)を使用し、光路1cmの液体用ガラスセル(株式会社藤原製作所製:「MG-40」)に入れた。ゼロ点測定は、同ガラスセルにトリメチルシロキケイ酸50%・シクロペンタシロキサン50%溶液を入れて行った。試作例1~7及び比較例1のセルロースビーズでは、測定結果が50%以上の場合に「良(〇)」、50%未満の場合に「不可(×)」として、ヘーズを評価した。
【0061】
[白色度]
試作例1~7及び比較例1のセルロースビーズについて、JIS P 8123に準拠してハンター白色度(W値)、ハンター黄色度(YI値)を算出した。白色度はセルロース純度の指標であって、分光色彩計(日本電色工業株式会社製:「SE7700」)を使用し、標準白色板(X=91.2,Y=96.1,Z=104.5)との比較でCIE(国際照明委員会)の定める色度座標X,Y,Zを求め、下記の式を用いて白色度(W値)及び黄色度(YI値)を算出した。
白色度(W値)=Z/1.18
黄色度(YI値)=(X-0.98×W/0.8)×Y
試作例1~7及び比較例1のセルロースビーズでは、ハンター白色度(W値)が85以上、かつハンター黄色度(YI値)が20以下の場合に「良(〇)」、ハンター白色度(W値)が85未満またはハンター黄色度(YI値)が20より大きい場合に「不可(×)」として、白色度を評価した。
【0062】
[官能試験]
試作例1~7及び比較例1のセルロースビーズを指で皮膚に塗り広げ、その際の滑り性、ざらつき、きしみ感を、10人の試験者がそれぞれ5段階で評価した。各項目について、平均点が5.0~4.5を「◎」、4.4~3.5を「○」、3.5~2.5を「△」、2.4以下を「×」として、各項目の質感を評価した。
【0063】
[総合評価]
試作例1~7及び試作例1のセルロースビーズの測定結果と試験結果とその判定を表1,2に示す。なお、総合評価として、判定に「△」が2つ以上又は「×」が1つでもある場合を「不可(×)」、「×」はないが「△」が1でもある場合を「可(△)」とし、それ以上の判定を「良(〇)」とした。
【0064】
【0065】
【0066】
[結果と考察]
市販品である比較例1のセルロースビーズは、
図3に示すように粒度分布が粒子径10μm付近でシャープに表れ、かつCV値(SD/D50)が0.28であること等から理解されるように、粒子径が約10μm付近で比較的均一となる特徴が表れている。その結果、滑り性やざらつきの質感が良好である反面、粒子径の均一さから来るきしみ感が強く出ており、加えてヘーズ値が低くソフトフォーカス性が不足していた。
【0067】
一方、試作例1~7のセルロースビーズは、
図2,3に示すように、比較例1と比較して粒度分布が比較的フラットに表れ(横に広がったグラフ)、かつCV値(SD/D50)が高くなっており、粒子径のばらつきが大きい、つまり粒子径が比較的不均一であることが示された。この試作例1~7のセルロースビーズでは、比較例1のセルロースビーズと比較してきしみ感の改善が見られた。
【0068】
特に、試作例1~7では、試作例1~6のセルロースビーズにおいて、きしみ感のみならず、滑り性やざらつきも含めていずれの質感も良好であるとともに、ヘーズ値も高くてソフトフォーカス性にも優れた性質が示された。一方、試作例7においては、滑り性やざらつきの質感が劣り、ヘーズが低くソフトフォーカス性に欠けた性質が示された。
【0069】
そこで、試作例1~6と比較例1とを比較すると、試作例1~6のセルロースビーズは、比較例1のセルロースビーズと比較して粒度分布が小さい粒子径寄りでフラットに示されていることから、粒子全体として粒子径が比較的不均一で比較例1より小さい粒子径の粒子(微粒子)が多く含まれる特徴が表れている。従来では粒子径が比較的均一である(粒度分布においてピークがシャープに表れる)ことがよいと考えられていたが、試作例1~6から全体的に不均一な粒子径で微粒子を多く含む(粒度分布において小径寄りでピークがフラット気味に表れる)ことによって、質感とソフトフォーカス性を両立させることができた。
【0070】
なお、試作例7のセルロースビーズは、比較例1と比較して大きい粒子径の粒子を多く含んで全体の粒子径が比較的不均一となる特徴が表れている。試作例7のセルロースビーズでは、比較例1と比較してきしみ感は改善したものの、滑り性やざらつきの他の質感が悪くなり、さらにヘーズが低下してソフトフォーカス性も悪くなっていた。比較例1に対する試作例1~6の特徴と試作例7の特徴との相違点から、質感とソフトフォーカス性との両立では、セルロースビーズの粒子径が不均一で微粒子が多く含まれていることが好ましいことが明らかとなった。
【0071】
また、比較例1のセルロースビーズは、化学修飾されたセルロースビーズであって、ハンター白色度(W値)及びハンター黄色度(YI値)から、白色が弱く黄色が強い傾向が示された。一方、試作例1~7のセルロースビーズは、未修飾のセルロースビーズであって、いずれもハンター白色度(W値)及びハンター黄色度(YI値)が良好であることから、比較例1と比較して高純度であることが示された。
本発明のセルロースビーズ及びその製造方法によれば、化粧品に適した質感とソフトフォーカス性の両立を図ることができる。そのため、従来の化粧品に使用されたマイクロプラスチックや化学修飾されたセルロースビーズ等の代替として有望である。