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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000364
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】造形物の製造方法、及び造形物
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/314 20170101AFI20231225BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20231225BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231225BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20231225BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099110
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518205140
【氏名又は名称】株式会社ExtraBold
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】浜本 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】宮田 三紀子
(72)【発明者】
【氏名】山野 俊明
(72)【発明者】
【氏名】原 雄司
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AB12
4F213AB16
4F213AC01
4F213AC08
4F213AR12
4F213AR14
4F213AR15
4F213WA25
4F213WB01
4F213WF21
4F213WL02
4F213WL22
(57)【要約】
【課題】部位によって色調が異なる造形物が得られる造形物の製造方法及び部位によって色調が異なる造形物の提供。
【解決手段】造形物の材料を溶融する工程と、溶融した前記材料をノズルから押し出して基板上に層を形成する工程と、を有し、前記材料はベースポリマーとカラーマスターバッチとを含み、前記カラーマスターバッチの量は前記ベースポリマー100質量部に対して0.1質量部~4質量部であり、前記カラーマスターバッチ中の着色剤の含有率は4質量%~95質量%である、造形物の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形物の材料を溶融する工程と、
溶融した前記材料をノズルから押し出して基板上に層を形成する工程と、を有し、
前記材料はベースポリマーとカラーマスターバッチとを含み、
前記カラーマスターバッチの量は前記ベースポリマー100質量部に対して0.1質量部~4質量部であり、
前記カラーマスターバッチ中の着色剤の含有率は4質量%~95質量%である、造形物の製造方法。
【請求項2】
前記ベースポリマー及び前記カラーマスターバッチはそれぞれ粒子状であり、
ベースポリマーの粒子の長さとカラーマスターバッチの粒子の長さとの比が0.3以上である、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記ベースポリマー及び前記カラーマスターバッチはそれぞれ粒子状であり、
ベースポリマーの粒子の長さとカラーマスターバッチの粒子の長さはそれぞれ1mm~15mmである、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記造形物の体積は20cm以上である、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂と着色剤とを含む層が積層した構造を有し、着色剤の含有率が相対的に高い部位と、着色剤の含有率が相対的に低い部位と、を有する、造形物。
【請求項6】
着色剤の含有率が相対的に高い複数の部位と、着色剤の含有率が相対的に低い複数の部位とが混在した状態である、請求項5に記載の造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、造形物の製造方法、及び造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、立体的な造形物を作製する技術の1つとして、材料押出法(MEX:Material Extrusion)が注目されている(例えば、特許文献1参照)。材料押出法では、例えば、3Dモデルデータを基に、押出ノズルから造形物の材料の溶融物を基板上に押し出して形成される層を積み重ね、立体的な造形物を作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-091220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
造形物の用途の拡大や消費者ニーズの多様化に伴い、色彩を始めとした造形物の外観にも多様性が求められている。
樹脂を材料とする造形技術では、例えば、ベースとなる樹脂に着色剤を混合したものを材料として用いることで、所望の色調の造形物を形成することができる。
従来の材料押出法では、均一な色調の造形物を形成することは可能であるが、部位によって色調が異なる造形物を意図的に形成することは難しい。
【0005】
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、部位によって色調が異なる造形物が得られる造形物の製造方法を提供することを課題とする。本開示の別の実施形態は、部位によって色調が異なる造形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
【0007】
<1>造形物の材料を溶融する工程と、
溶融した前記材料をノズルから押し出して基板上に層を形成する工程と、を有し、
前記材料はベースポリマーとカラーマスターバッチとを含み、
前記カラーマスターバッチの量は前記ベースポリマー100質量部に対して0.1質量部~4質量部であり、
前記カラーマスターバッチ中の着色剤の含有率は4質量%~95質量%である、造形物の製造方法。
<2>前記ベースポリマー及び前記カラーマスターバッチはそれぞれ粒子状であり、
ベースポリマーの粒子の長さとカラーマスターバッチの粒子の長さとの比が0.3以上である、<1>に記載の造形物の製造方法。
<3>前記ベースポリマー及び前記カラーマスターバッチはそれぞれ粒子状であり、
ベースポリマーの粒子の長さとカラーマスターバッチの粒子の長さはそれぞれ1mm~15mmである、<1>に記載の造形物の製造方法。
<4>前記造形物の体積は20cm以上である、<1>に記載の造形物の製造方法。
<5>熱可塑性樹脂と着色剤とを含む層が積層した構造を有し、着色剤の含有率が相対的に高い部位と、着色剤の含有率が相対的に低い部位と、を有する、造形物。
<6>着色剤の含有率が相対的に高い複数の部位と、着色剤の含有率が相対的に低い複数の部位とが混在した状態である、<5>に記載の造形物。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、部位によって色調が異なる造形物が得られる造形物の製造方法が提供される。本開示の他の実施形態によれば、部位によって色調が異なる造形物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で作製された造形物の外観の写真である。
図2】実施例8で作製された造形物の外観の写真である。
図3】比較例1で作製された造形物の外観の写真である。
図4】ボール形状の造形物における色相の測定位置を示す写真である。
図5】平板形状の造形物における色相の測定位置を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0012】
<造形物の製造方法>
本開示の造形物の製造方法は、
造形物の材料を溶融する工程(以下、溶融工程ともいう)と、
溶融した前記材料をノズルから押し出して基板上に層を形成する工程(以下、造形工程ともいう)と、を有し、
前記材料はベースポリマーとカラーマスターバッチとを含み、
前記カラーマスターバッチの量は前記ベースポリマー100質量部に対して0.1質量部~4質量部であり、
前記カラーマスターバッチ中の着色剤の含有率は4質量%~95質量%である、造形物の製造方法である。
【0013】
上記方法によれば、部位によって色調が異なる造形物が得られる。
例えば、材料押出法で製造される造形物はノズルから押し出されたひも状の材料が積み重なった状態である。このため、ひも状の材料の部位によって着色剤の含有率が異なっていると、ひも状の材料からなる層が積み重なって得られる造形物は部位によって異なる色調を呈する。
本開示の方法では、造形物の材料となるベースポリマーとカラーマスターバッチとを上記条件を満たすように配合することで、ノズルから押し出されたひも状の材料の着色剤の含有率が部位によって異なる状態にする。この材料を用いることで、部位によって色調の異なる造形物が得られる。
【0014】
本開示において「ベースポリマー」とは、造形物の母材となる少なくとも熱可塑性樹脂を含む材料を意味する。
本開示において「カラーマスターバッチ」とは、少なくとも熱可塑性樹脂と着色剤とを含み、ベースポリマーと混合されて造形物を着色するために用いられる材料を意味する。
以下、本開示の方法で使用する材料及び各工程について説明する。
【0015】
<造形物の材料>
造形物の材料は、ベースポリマーとカラーマスターバッチとを含む。造形物の材料において、カラーマスターバッチの量はベースポリマー100質量部に対して0.1質量部~4質量部である。
カラーマスターバッチの量がベースポリマー100質量部に対して0.1質量部以上であると、造形物の材料が充分に着色されて、造形物の部位による色調の差が現れやすい。
カラーマスターバッチの量がベースポリマー100質量部に対して4質量部以下であると、造形物の材料が過度に着色されず、造形物の部位による色調の差が維持されやすい。
【0016】
造形物の材料に含まれるベースポリマー及びカラーマスターバッチは、混練性及び取り扱い性の観点からペレット、パウダー等の粒子状であることが好ましい。
【0017】
ベースポリマー及びカラーマスターバッチが粒子状である場合、粒子の形状は特に制限されない。例えば、粒子の形状は円柱、角柱等の柱状であってもよい。柱状の粒子は、例えば、棒状の材料を所定の間隔で切断して得られる。
【0018】
ベースポリマー及びカラーマスターバッチが粒子状である場合、粒子の長さは特に制限されないが、混練性及び取り扱い性の観点からそれぞれ1mm~15mmであることが好ましいく、2mm~10mmであることがより好ましく、3mm~8mmであることがさらに好ましい。
【0019】
ベースポリマー及びカラーマスターバッチが粒子状である場合、粒子の長さは均一であっても異なっていてもよい。粒子の長さが異なる場合は、100個の粒子について測定した長さの算術平均値を粒子の長さとする。
【0020】
本開示において粒子が柱状である場合は、粒子の両端部間の距離を粒子の長さとする。
粒子が柱状以外の形状である場合は、粒子の2次元投影像における最大径を粒子の長さとする。
【0021】
混練性及び取り扱い性の観点からは、ベースポリマー及びカラーマスターバッチの粒子の断面積はそれぞれ0.1mm~200mmであることが好ましい。
本開示において粒子の断面積は、長さ方向と垂直な方向に粒子を切断したときの切断面の面積である。粒子の切断位置によって断面積が異なる場合は、その最大値を粒子の断面積とする。
【0022】
造形物の色調をまだら状にする観点からは、ベースポリマーの粒子の長さとカラーマスターバッチの粒子の長さとの比が0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。
上記の値はベースポリマーの粒子の長さとカラーマスターバッチの粒子の長さのうち短い方の値をA、長い方の値をBとしたときに、A/Bで求められる値である。
A/Bの値が1に近いほど、ベースポリマーの粒子とカラーマスターバッチの粒子が押出装置内で分離しにくく、まだら状の色調が得られやすい
【0023】
本開示において造形物の色調がまだら状であるとは、造形物の表面を観察したときに色調の異なる領域(例えば、色の濃い領域と淡い領域)とが混在している状態を意味する。
例えば、造形時にノズルから押し出されるひも状の材料において着色剤の含有率が相対的に高い部位と低い部位とが交互に現れる状態であると、この材料を用いて得られる造形物はまだら状の色調を呈する傾向にある。
【0024】
ベースポリマーの粒子の長さとカラーマスターバッチの粒子の長さとが上記条件を満たしていると、カラーマスターバッチの粒子がベースポリマーの粒子中に分散しやすい。その結果、ノズルから押し出されるひも状の材料において着色剤の含有率が相対的に高い部位と低い部位とが交互に現れる状態になりやすく、まだら状の色調を呈する造形物が得られやすいと考えられる。
【0025】
本開示においてカラーマスターバッチ中の着色剤の含有率は4質量%~95質量%であり、5質量%~90質量%であることが好ましく、7質量%~85質量%であることがより好ましく、10質量%~80質量%であることがさらに好ましい。
カラーマスターバッチ中の着色剤の含有率が4質量%以上であると、カラーマスターバッチとベースポリマーとの混合物中に発色部位が分散して現れやすく、造形物の部位による色調の差が現れやすい。
カラーマスターバッチ中の着色剤の含有率が95質量%以下であると、造形物の材料が過度に着色されず、造形物の部位による色調の差が維持されやすい。
【0026】
(ベースポリマー)
ベースポリマーに含まれる熱可塑性樹脂は、1種のみでも2種以上であってもよい。
熱可塑性樹脂は、熱可塑性プラスチック及び熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。本開示において、熱可塑性プラスチックは、25℃での引張弾性率が6.0×10Pa以上である熱可塑性樹脂を示す。熱可塑性エラストマーは、25℃での引張弾性率が6.0×10Pa未満である熱可塑性樹脂を示す。
引張弾性率は、JIS K7161-2:2014に準拠した測定値である。
【0027】
ベースポリマーは、熱可塑性樹脂として熱可塑性プラスチックと熱可塑性エラストマーとをそれぞれ含んでもよい。この場合、ベースポリマーは、熱可塑性プラスチックとしてのプロピレン単独重合体と熱可塑性エラストマーとしてのプロピレン系エラストマーとをそれぞれ含んでもよい。
【0028】
熱可塑性プラスチックは、ゴム状弾性が小さく変形しにくい。ゴム状弾性とは、樹脂に荷重が加えられると樹脂の形状が変形し、樹脂に加えられた荷重が除かれると樹脂の形状が元の形状に戻ろうとする性質を示す。
【0029】
熱可塑性プラスチックとしては、汎用プラスチック、エンジニアリング・プラスチック、スーパーエンジニアリング・プラスチック等が挙げられる。
汎用プラスチックとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、プロピレン系重合体(プロピレン単独重合体(PP)等)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、スチレンアクリロニトリルコポリマー(AS樹脂)、アクリル樹脂(PMMA等)などが挙げられる。
エンジニアリング・プラスチックとしては、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、環状ポリオレフィン(COP)等が挙げられる。
スーパーエンジニアリング・プラスチックとしては、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等が挙げられる。
造形物の反りを抑制する観点からは、熱可塑性プラスチックとしては高密度ポリエチレン(HDPE)、プロピレン系重合体、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)及びポリアセタール(POM)からなる群より選択される1種以上が好ましく、プロピレン系重合体がより好ましい。
【0030】
造形物の機械的強度と耐衝撃性とのバランスの観点からは、ベースポリマーは結晶性の熱可塑性プラスチックを含有することが好ましい。
結晶性の熱可塑性プラスチックとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、プロピレン系重合体、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、及びポリアセタール(POM)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、プロピレン系重合体がより好ましい。
熱可塑性プラスチックの「結晶性」とは、示差走査熱量測定において、吸熱ピークを有することを指す。熱可塑性プラスチックの「非晶性」とは、示差走査熱量測定において、明確な吸熱ピークが認められないことを指す。
【0031】
プロピレン系重合体は、少なくともプロピレンを構成単位として有する重合体である。
プロピレン系重合体は、プロピレンの単独重合体であっても、プロピレンと他の単量体との共重合体であってもよい。プロピレン系重合体が共重合体である場合、プロピレン系重合体としては、例えば、プロピレンと炭素数2~20のα-オレフィン(但し、プロピレンを除く。)との共重合体が挙げられる。プロピレンと炭素数2~20のα-オレフィンとの共重合体としては、例えば、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、これらの混合物等が挙げられる。
【0032】
プロピレン系重合体が共重合体である場合、プロピレン系重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0033】
プロピレン系重合体の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック及びこれらの混合体のいずれであってもよい。
【0034】
熱可塑性プラスチックの結晶化温度(Tc)の上限値は、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下である。熱可塑性プラスチックの結晶化温度(Tc)の下限値は、好ましくは90℃以上、より好ましくは110℃以上である。
熱可塑性プラスチックの結晶化温度は、示差走査熱量計(DSC)により降温速度10℃/分の条件で、測定される。
【0035】
熱可塑性プラスチックの結晶化度の上限値は、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下である。熱可塑性プラスチックの結晶化度の下限値は、好ましくは2%以上、より好ましくは5%以上である。
熱可塑性プラスチックの結晶化度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて得られた熱流カーブのうち主成分の融解に由来する融解熱より算出される。熱流カーブは、熱可塑性プラスチックを窒素雰囲気下-40℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られる。具体的には、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC-7)を用い、試料5mgを窒素雰囲気下-40℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより熱流カーブが得られる。得られた熱流カーブのうち主成分の融解に由来する融解熱より下記の式を用いて、融解熱は算出される。
結晶化度=(ΔH/ΔH0)×100(%)
式中、ΔHは熱可塑性プラスチックの主成分の融解に由来する融解熱カーブより求めた融解熱量(J/g)であり、ΔH0は主成分の完全結晶の融解熱量(J/g)である。例えば、主成分がエチレンの場合、ΔH0は293J/gであり、主成分がプロピレンの場合、ΔH0は210J/gである。
【0036】
熱可塑性プラスチックの融点の上限値は、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。熱可塑性プラスチックの融点の下限値は、好ましくは90℃以上、より好ましくは110℃以上である。
融点の測定は、後述する熱可塑性エラストマーの融点の測定方法と同様にして行うことができる。
【0037】
熱可塑性エラストマーとしては、α-オレフィン由来の構成単位と該α-オレフィンと異なる他のオレフィン由来の構成単位とを含む共重合体が好ましい。
【0038】
α-オレフィンとしては、通常、炭素数2~20のα-オレフィンを1種単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。中でも、α-オレフィンは、炭素数が3以上であるα-オレフィンが好ましく、炭素数3~8のα-オレフィンが特に好ましい。
【0039】
α-オレフィンとして、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。α-オレフィンは、1種又は2種以上が用いられる。
中でも、入手の容易さの観点から、α-オレフィンとして、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンが好ましい。
【0040】
α-オレフィンと異なる他のオレフィンとしては、炭素数2~4のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等を挙げることができる。中でも、α-オレフィンと異なる他のオレフィンは、炭素数2~3のオレフィンがより好ましい。
【0041】
熱可塑性エラストマーである共重合体には、例えば、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、ブテン・α-オレフィン共重合体が含まれる。
α-オレフィンは、ランダム共重合体を形成してもよく、ブロック共重合体を形成してもよい。
【0042】
熱可塑性エラストマーである共重合体としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-1-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体(EOR)、プロピレン-1-ブテン共重合体(PBR)、プロピレン-1-ペンテン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体(POR)等が挙げられる。
【0043】
中でも、熱可塑性エラストマーとしては、炭素数2~8のα-オレフィン由来の構成単位と炭素数2~3のオレフィン由来の構成単位とを含む共重合体が好ましく、プロピレン系エラストマーがより好ましい。
プロピレン系エラストマーは、少なくともプロピレンを構成単位として有する熱可塑性エラストマーである。
【0044】
熱可塑性エラストマーの融点Tmは、30℃以上120℃以下であることが好ましい。
熱可塑性エラストマーの融点が30℃以上120℃以下であると、材料押出法で形成された層同士の接着強度に優れる。
熱可塑性エラストマーの融点は、示差走査熱量測定(DSC)によって吸熱曲線に現れる融解ピーク位置の温度Tmとして求められる値である。融点は、試料をアルミパンに詰め、100℃/minで230℃まで昇温し、230℃で5分間保持した後、-10℃/minで-70℃まで降温し、ついで10℃/minで昇温する際の吸熱曲線より求められる。
【0045】
熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(MFR;230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.5g/10min以上、より好ましくは1g/10min以上、さらに好ましくは2g/10min以上、特に好ましくは5g/10min以上である。
熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(MFR;230℃、2.16kg荷重)の上限値は、好ましくは70g/10min以下、より好ましくは35g/10min以下、さらに好ましくは30g/10min以下である。
熱可塑性エラストマーのMFRの上限値及び下限値がこの範囲内であると、第1造形層構造の変形をより効果的に抑制することができる。
メルトフローレート(Melt Flow Rate;MFR)は、ASTM D1238-65Tに準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定される値である。
【0046】
熱可塑性エラストマーのショアD硬度の上限値は、好ましくは60以下である。第1熱可塑性エレストマーのショアD硬度の下限値は、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、さらに好ましくは50以上である。
熱可塑性エラストマーの硬度がショアD硬度で30以上であると、熱可塑性エラストマーは変形し難くなる。換言すると、熱可塑性エラストマーの形状が維持され易くなる。そのため、造形物の製造の際に、熱可塑性エラストマーがシリンダーのスクリューへ入り込みやすくなる。その結果、造形物の材料のノズルからの吐出効率に優れる。これにより、表面が滑らかな造形物が得られる傾向にある。
ショアD硬度は、ASTM D2240に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0047】
熱可塑性エラストマーの具体例としては、三井化学株式会社製のタフマー(登録商標)シリーズ(例:タフマーDF605、タフマーDF610、タフマーDF640、タフマーDF710、タフマーDF740、タフマーDF7350、タフマーDF810、タフマーDF840、タフマーDF8200、タフマーDF940、タフマーDF9200、タフマーDF110、タフマーH-0530S、タフマーH-1030S、タフマーH-5030S、タフマーXM-7070、タフマーXM-7080、タフマーXM-7090、タフマーBL2491M、タフマーBL2481M、タフマーBL3110M、タフマーBL3450M、タフマーMA8510、タフマーMH7010、タフマーMH7020、タフマーMH5020、タフマーPN-2070、タフマーPN-3560)などを挙げることができる。
上記の中でも、熱可塑性プラスチック(特に、プロピレン系重合体)と溶着しやすい点で、プロピレン系エラストマーであるタフマーXMシリーズが好ましい。
タフマーXMシリーズは、熱可塑性プラスチック(特に、プロピレン系重合体)と溶着しやすく、材料押出法で造形される層同士の接着強度が向上する傾向にある。
【0048】
熱可塑性エラストマーは、プロピレン系エラストマーであり、融点が80℃以上120℃以下で、ショアD硬度が40以上60以下で、MFRが2g/10min以上20g/10min以下であることが好ましい。これにより、第1造形層構造は、応力歪がより小さく、より反りにくくなる。
融点が80℃以上120℃で、ショアD硬度が40以上60以下で、MFRが2g/10min以上20g/10min以下であるプロピレン系エラストマーとしては、タフマーXM-7090が挙げられる。
【0049】
ベースポリマーは、無機フィラーを含んでいてもよい。
無機フィラーの材質は、無機化合物であれば特に限定はなく、公知のものが利用できる。無機フィラーとしては、酸化物系フィラー、水酸化物系フィラー、珪酸塩系フィラー、堆積岩系フィラー、粘土鉱物系フィラー、磁性系フィラー、導電性フィラー、熱伝導性フィラー、硫酸塩系フィラー、亜硫酸塩系フィラー、炭酸塩系フィラー、及びチタン酸塩系フィラー等が挙げられる。
無機フィラーは、シランカップリング剤などにより表面処理が施されていてもよい。
【0050】
酸化物系フィラーとしては、カーボンブラック、グラファイト、微粉ケイ酸、シリカ、アルミナ、酸化鉄、フェライト、酸化マグネシウム、酸化チタン、三酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、及び酸化カルシウム等が挙げられる。シリカとしては、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、珪藻土、及び石英等が挙げられる。
水酸化物系フィラーとしては、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウム等が挙げられる。
珪酸塩系フィラーとしては、珪酸アルミニウム(以下、「クレー」ともいう、含水珪酸アルミニウム塩も含む)、珪酸マグネシウム(含水珪酸マグネシウム塩(以下、「タルク」ともいう)を含む)、マイカ、カオリン、珪酸カルシウム(含水珪酸カルシウム塩も含む)、ガラス繊維、ガラスフレーク、及びガラスビーズ等が挙げられる。
堆積岩系フィラーとしては、珪藻土、及び石灰岩等が挙げられる。
粘土鉱物系フィラーとしては、モンモリロン石(モンモリロンナイト)、マグネシアンモンモリロン石、テツモンモリロン石、テツマグネシアンモンモリロン石、バイデライト、アルミニアンバイデライト、ノントロン石、アルミニアンノントロナイト、サポー石(つまりサポナイト)、アルミニアンサポー石、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、及びベントナイト等が挙げられる。
磁性系フィラーとしては、フェライト、鉄、及びコバルト等が挙げられる。
導電性フィラーとしては、銀、金、銅、及びこれらの合金等が挙げられる。
熱伝導性フィラーとしては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、及びシリコーンカーバイト等が挙げられる。
硫酸塩系フィラーとしては、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、及び硫酸カルシウム等が挙げられる。
亜硫酸塩系フィラーとしては、亜硫酸カルシウム等が挙げられる。
炭酸塩系フィラーとしては、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、及びドロマイト等が挙げられる。
チタン酸塩系フィラーとしては、チタン酸バリウム、及びチタン酸カリウム等が挙げられる。
【0051】
ベースポリマーが無機フィラーを含む場合、無機フィラーとしてはタルク、炭酸カルシウム及び硫酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、タルクを含むことがより好ましい。
【0052】
無機フィラーの形状は特に限定されず、例えば、球状、板状、鱗片状、針状、繊維状等が挙げられる。
無機フィラーの体積平均粒径の上限値は、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下である。無機フィラーの体積平均粒径の下限値は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。
無機フィラーの体積平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置等の粒度分布測定装置を用い、無機フィラーを水中に分散した状態で測定した各粒子の粒径に基づく各粒子の体積を小粒径側から積算した場合に積算体積が全体積の50%となるときの粒径の値をいう。
【0053】
ベースポリマーが無機フィラーを含む場合、その含有率は、ベースポリマー全体の1質量%~70質量%であることが好ましく、10質量%~60質量%であることがより好ましく、20質量%~50質量%であることがさらに好ましい。
【0054】
(カラーマスターバッチ)
カラーマスターバッチに含まれる着色剤の種類は特に制限されず、公知の顔料、染料等から選択できる。着色剤は無機材料及び有機材料のいずれであってもよく、耐久性の観点からは無機材料が好ましい。
カラーマスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂は特に制限されず、ベースポリマーに含まれうる熱可塑性樹脂として上述した材料から選択してもよい。
ある実施態様では、カラーマスターバッチは熱可塑性樹脂として低密度ポリエチレン(LDPE)を含む。
カラーマスターバッチは無機フィラーを含んでもよい。無機フィラーは特に制限されず、ベースポリマーに含まれうる無機フィラーとして上述した材料から選択してもよい。
【0055】
(他の材料)
必要に応じ、造形物の材料はベースポリマー及びカラーマスターバッチ以外の材料(他の材料)を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、紫外線吸収剤、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、つや消し剤、衝撃強度改良剤等が挙げられる。
造形物の材料がベースポリマー及びカラーマスターバッチ以外の材料を含む場合、ベースポリマー及びカラーマスターバッチの合計含有率が材料全体の80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0056】
<溶融工程>
溶融工程では、ベースポリマー及びカラーマスターバッチを少なくとも含む造形物の材料を溶融する。
造形物の材料を溶融する手段は、特に制限されず、公知の加熱手段が適用できる。
溶融工程では、例えば電気ヒーター等の加熱手段を備えた3次元造形物製造装置を用いることが好ましい。
造形物の材料を溶融する温度は、特に制限されず、造形物の材料に含まれる熱可塑性樹脂の性質等に応じて設定できる。造形物の材料を溶融する温度は、例えば、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度(Tg)のいずれか高い方の温度をXとしたときに、X+10℃~150℃の範囲内としてもよい。
【0057】
<造形工程>
造形工程では、溶融工程で溶融した材料をノズルから押し出して、基板上に層を形成する。層の形成を繰り返して基板に対して垂直な方向に層を積み重ねると、立体的な造形物が形成される。
具体的には、例えば、溶融された造形物の材料を3次元造形物製造装置のノズルから押し出し、複数の2次元データをもとに、複数の2次元層を基板の上に順次積層する。この工程を繰り返すことで、3次元の造形物を造形することができる。複数の2次元データは、例えば、スライサーソフトウェアによって、対象となる造形物の3次元の座標データが輪切りにされて、生成される。
【0058】
造形工程で得られる造形物は立体的な形状であっても、平面的な形状であってもよい。立体的な形状の造形物は、例えば、ノズルから押し出した材料から形成される層を基板に対して垂直な方向に積み重ねることで作製できる。平面的な形状の造形物は、例えば、ノズルから押し出した材料から形成される層を基板の表面に対して水平な方向に並べることで作製できる。
【0059】
造形工程で得られる造形物の体積は特に制限されず、造形物の大きさ、形状等に応じて設定できる。
造形物の外観をまだら状にする観点からは、造形物の体積は20cm以上とすることが好ましく、50cm以上とすることがより好ましい。
上記体積は、造形物の実体部分の体積(空洞等の体積を除く)である。
【0060】
<造形物の製造装置>
本開示の方法で使用する造形物の製造装置としては、例えば、材料押出方式の3次元造形物製造装置を用いることができる。材料押出方式の3次元造形物製造装置は、特に制限はなく、公知の装置又は公知の装置構成を適用することができる。
【0061】
3次元造形物製造装置は、ホッパー、シリンダー、ノズル及び加熱手段を備えた装置であってもよい。
ホッパーには、造形物の材料が供給される。ホッパーの大きさ(容量)に特に制限はないが、装置がヘッド可動式である場合には、ヘッドの動きを制限しない大きさが好ましい。製造装置は、圧送機を用いて供給する方式であってもよい。
【0062】
シリンダーの大きさに特に制限はないが、L/D(L:シリンダーの長さ、D:スクリューの径)が、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。L/Dの値が小さいほどシリンダーの相対的な長さが短い。シリンダーの相対的な長さが短いと、ノズルから押し出された造形物の材料において着色剤の含有率が相対的に高い部位と低い部位とが混在した状態になりやすい。
【0063】
シリンダー内のスクリューの構造は特に制限されないが、フルフライトのような、造形物の材料にかかる剪断力が比較的小さい構造が好ましい。造形物の材料にかかる剪断力が小さいと、ノズルから押し出された造形物の材料において着色剤の含有率が相対的に高い部位と低い部位とが混在した状態になりやすい。
ノズルは、シリンダーにおける材料の吐出方向下流側の部位に設けられ、溶融された材料を吐出する。ノズルの径は特に制限されないが、0.1mm~10mmから選択してもよい。
加熱手段は、シリンダー内の材料を加熱して溶融する。加熱手段の種類は特に制限されず、公知の加熱手段が適用できる。
【0064】
製造装置は、基板となるテーブル装置をさらに備えていてもよい。テーブル装置は、ノズルに対向して配置される。テーブル装置の上には、ノズルから押し出される溶融状態の材料が積層される。
製造装置は、制御手段をさらに備えていてもよい。制御手段は、例えば、テーブル装置及びノズルの空間座標、並びに、ノズルから押し出される材料の量を制御する。制御手段は、ノズルから押し出される溶融した材料の吐出を制御し、かつ、ノズル及び/又はテーブル装置の、基準面に対するX軸、Y軸及びZ軸方向への移動を制御することが好ましい。
【0065】
<造形物>
本開示の造形物は、熱可塑性樹脂と着色剤とを含む層が積層した構造を有し、着色剤の含有率が相対的に高い部位と、着色剤の含有率が相対的に低い部位と、を有する。
本開示の造形物は、着色剤の含有率が相対的に高い部位と相対的に低い部位とを有するために、部位によって色調が異なる。
【0066】
造形物は、着色剤の含有率が相対的に高い複数の部位と、着色剤の含有率が相対的に低い複数の部位とが混在した状態であってもよい。このような造形物は、まだら状の色調を呈する傾向にある。
【0067】
本開示の造形物は、材料押出法によって製造することができる。例えば、上述した造形物の製造方法によって製造することができる。
【0068】
造形物を構成する層の幅(材料押出法で造形物を製造する場合はノズルからの吐出幅)は特に制限されず、例えば0.1mm~15mmから選択してもよい。
造形物を構成する層の幅は、造形物の製造に使用するノズルの径によって調節できる。
【0069】
造形物は内部が空洞であっても、内部が空洞でなくてもよい。造形物の内部が空洞でない場合、造形物の少なくとも外表面が着色剤の含有率が相対的に高い部位と、着色剤の含有率が相対的に低い部位と、を有する。
造形物は立体的な形状であっても、平面的な形状であってもよい。
【実施例0070】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(1)ベースポリマーの準備
下記に示す熱可塑性エラストマー(40質量部)、熱可塑性プラスチック(20質量部)及び無機フィラー(40質量部)を配合し、押出機(品番 KTX-30、(株)神戸製鋼所製)を用いて混練し、PPコンパウンドを得た。
得られたPPコンパウンドをノズルから押し出し、4mm間隔で切断して4mm×3mm×2mmの粒子状のベースポリマー(以下、BPともいう)を得た。
押出機の条件は、シリンダー温度:C1=50℃、C2=90℃、C3=100℃、C4=120℃、C5=180℃、C6=200℃、C7~C14=200℃、ダイス温度:200℃、スクリュー回転数:500rpm、押出量:40kg/hとした。
【0072】
(熱可塑性エラストマー)
「タフマー(登録商標)XM-7090」、三井化学株式会社製、材質:プロピレン系重合体、融点Tm:98℃、ショアD硬度:58、MFR:7.0g/min、25℃での引張弾性率:6.0×10Pa未満
なお、融点Tm、ショアD硬度、及びMFRの各々の値は、カタログ値である。
【0073】
(熱可塑性プラスチック)
「プライムポリプロ(登録商標)J-105G」、株式会社プライムポリマー製、材質:プロピレン単独重合体、結晶化温度Tc:116.4℃、結晶化度:52.2%、25℃での引張弾性率:6.0×10Pa以上
なお、結晶化温度Tc、及びショアD硬度の各々の値は、カタログ値である。
【0074】
(無機フィラー)
タルク、体積平均粒径:5μm~10μm
【0075】
(2)カラーマスターバッチの準備
(MB1)
グリーンの顔料(35質量部)と低密度ポリエチレン(65質量部)とを含有するカラーマスターバッチ(以下、グリーンMBともいう)を、BPと同様に押出機を用いて混錬し、ノズルから押し出し、4mm間隔で切断して4mm×2mm×2mmの粒子状のMB1(着色剤含有率:35質量%)を得た。
【0076】
(MB2)
MB1(50質量部)をBPの材料であるPPコンパウンド(50質量部)と混合したこと以外はMB1と同様にして、4mm×2mm×2mmの粒子状のMB2(着色剤含有率:12.5質量%)を得た。
【0077】
(MB3)
MB1(12質量部)をBPの材料であるPPコンパウンド(88質量部)と混合したこと以外はMB1と同様にして、4mm×2mm×2mmの粒子状のMB3(着色剤含有率:4.2質量%)を得た。
【0078】
(MB4)
MB1(10質量部)をBPの材料であるPPコンパウンド(90質量部)と混合したこと以外はMB1と同様にして、4mm×2mm×2mmの粒子状のMB4(着色剤含有率:3.5質量%)を得た。
【0079】
(MB5)
MB1(1質量部)をBPの材料であるPPコンパウンド(99質量部)と混合したこと以外はMB1と同様にして、4mm×2mm×2mmの粒子状のMB5(着色剤含有率:0.35質量%)を得た。
【0080】
(MB6)
グリーンMBを用いて17mm×2mm×2mmの粒子状のMB6(着色剤含有率:35質量%)を得た。
【0081】
(MB7)
グリーンMBを用いて1mm×1mm×1mmの粒子状のMB7(着色剤含有率:35質量%)を得た。
【0082】
(MB8)
ブルーの顔料(60質量部)と低密度ポリエチレン(40質量部)とを含有するカラーマスターバッチを用いたこと以外はMB1と同様にして、4mm×2mm×2mmの粒子状のMB8(着色剤含有率:60質量%)を得た。
【0083】
(3)造形物の作製
BPとMB1~8を表1に記載の割合(質量部)でドライブレンドし、造形物の材料を得た。
造形物の作製には、材料押出法(熱溶解積層法)による押出積層堆積システムとして、3Dプリンタ(エス.ラボ(株)製、商品名:GEM-444D)を用いた。3Dプリンタの条件は、造形テーブル温度:60℃、ノズル温度:200℃、造形速度:600mm/min、ノズル径:3mm、内部充填率:0%とした。
実施例1~7及び比較例1~5では、内部が空洞であるボール状の造形物を作製した。実施例8では、平板状の造形物を作製した。
作製した造形物の体積(cm)を表1に示す。
【0084】
(4)造形物の外観評価
得られた造形物の表面を目視で観察し、下記の基準にしたがって評価した。結果を表1に示す。評価がA又はBである造形物は、部位によって色調が異なると判断できる。
A:色の濃い複数の領域と色の薄い複数の領域とが混在した状態(まだら状)である。
B:色の濃い領域と色の薄い領域とに分かれている。
C:色の濃淡差がほぼなく均一である。
【0085】
図1に実施例1で作製された造形物(評価:A)、図2に実施例8で作製された造形物(評価:B)、図3に比較例1で作製された造形物(評価:C)の外観の写真をそれぞれ示す。
【0086】
(5)造形物の色相測定
造形物の色相測定(L*、a*、b*)は、コニカミノルタ(株)製のCM―3700Aを用いて実施した。測定条件は反射測定(SCE)、光源:D65、視野角:2度、測定径:3mm×5mmとした。
図4及び図5にボール状の造形物及び平板形状の造形物における色相の測定位置を示す。図4及び図5に示すように、造形物の造形方向(ノズルの移動方向)に対して垂直な線上に測定のための3点を10mm間隔で決定し、この3点において色相を測定した。3点のうち真中の点の位置は、造形物の表面を目視で観察したときに色の濃い領域と淡い領域の境界付近となるように決定した。
3点の測定値の色相平均値と標準偏差から、L*、a*、b*のそれぞれにおける変動係数(%)を下記式により算出した。
変動係数(%)=標準偏差÷色相平均値×100
色のばらつきの度合いを、L*、a*、b*のそれぞれについて算出した変動係数の絶対値の和と、ベースポリマーのみから作製した比較例5の変動係数の絶対値の和との差として算出した。この値が5を超える場合に、造形物の部位による色調の差が充分に現れていると判断できる。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、ベースポリマーとカラーマスターバッチとを含み、カラーマスターバッチの量がベースポリマー100質量部に対して0.1質量部~4質量部であり、カラーマスターバッチ中の着色剤の含有率が4質量%~95質量%である材料を用いた実施例1~8の造形物は、部位によって色調が異なっていた。
【0089】
実施例の中でも、ベースポリマーの粒子の長さとカラーマスターバッチの粒子の長さとの比が0.3以上であるか、造形物の体積が20cm以上である実施例1~5の造形物は、まだら状の色調を呈していた。
【0090】
カラーマスターバッチの量がベースポリマー100質量部に対して5質量部又は0質量部である比較例1、4、5は、造形物の色調が均一であった。
カラーマスターバッチ中の着色剤の含有率が3.5質量%である材料を使用した比較例2、及び、ベースポリマーを使用せずカラーマスターバッチのみを使用した比較例3は、材料に含まれる着色剤の含有率が実施例2と同じであるにも関わらず、造形物の色調が均一であった。
図1
図2
図3
図4
図5