(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036428
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】テラヘルツ波計測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3586 20140101AFI20240308BHJP
【FI】
G01N21/3586
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011693
(22)【出願日】2024-01-30
(62)【分割の表示】P 2022092874の分割
【原出願日】2014-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀樹
(57)【要約】
【課題】比較的簡単な構成で、再帰反射鏡の位置ずれが生じている場合であっても適切な計測結果を得る。
【解決手段】テラヘルツ波計測装置(100)は、レーザ光(LB1)が照射されることでテラヘルツ波(THz)を発生する発生手段(110)と、テラヘルツ波の一部である第1テラヘルツ波(THz1)が計測対象物に照射されない一方でテラヘルツ波の他の一部である第2テラヘルツ波(THz2)が計測対象物に照射されるように、テラヘルツ波の経路を調整する第1調整手段(170)と、レーザ光(LB2)が照射されることで第1及び第2テラヘルツ波を検出する第1検出手段(130)と、レーザ光を再帰反射することでレーザ光の光路長を調整する第2調整手段(120)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光が照射されることで、テラヘルツ波を発生する発生手段と、
(i)前記発生手段が発生した前記テラヘルツ波の一部である第1テラヘルツ波が、第
1経路を伝搬すると共に計測対象物に照射されない一方で、(ii)前記発生手段が発生
した前記テラヘルツ波の他の一部である第2テラヘルツ波が、前記第1経路とは経路長が
異なる第2経路を伝搬すると共に前記計測対象物に照射されるように、前記テラヘルツ波
の経路を調整する第1調整手段と、
前記レーザ光が照射されることで、前記計測対象物に対して照射されていない前記第1
テラヘルツ波及び前記計測対象物に対して照射された前記第2テラヘルツ波を検出する第
1検出手段と、
前記レーザ光を再帰反射することで前記発生手段及び前記第1検出手段の少なくとも一
方に照射される前記レーザ光の光路長を調整する第2調整手段と
を備えることを特徴とするテラヘルツ波計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばテラヘルツ波を用いて計測対象物の特性を計測するテラヘルツ波計測装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波計測装置として、テラヘルツ時間領域分光法(Terahertz Time-Domain Spectroscopy)を利用する装置が知られている。テラヘルツ波計測装置は、以下の手順で、計測対象物の特性を計測する。まず、超短パルスレーザ光(例えば、フェムト秒パルスレーザ光)を分岐することで得られる一のレーザ光であるポンプ光(言い換えれば、励起光)が、バイアス電圧が印加されているテラヘルツ波発生素子に照射される。その結果、テラヘルツ波発生素子は、テラヘルツ波を発生する。テラヘルツ波発生素子が発生したテラヘルツ波は、計測対象物に照射される。計測対象物に照射されたテラヘルツ波は、計測対象物からの反射テラヘルツ波又は透過テラヘルツ波として、超短パルスレーザ光を分岐することで得られる他のレーザ光であって且つポンプ光に対する光学的な遅延(つまり、光路長差)が付与されたプローブ光(言い換えれば、励起光)が照射されているテラヘルツ波検出素子に照射される。その結果、テラヘルツ波検出素子は、計測対象物で反射又は透過したテラヘルツ波の強度に応じた電流信号を検出する。当該検出されたテラヘルツ波(つまり、時間領域のテラヘルツ波であり、電流信号)をフーリエ変換することで、当該テラヘルツ波のスペクトル(つまり、振幅及び位相の周波数応答特性)等が取得される。その結果、当該テラヘルツ波のスペクトルを解析することで、計測対象物の特性が計測される。尚、計測対象物の特性の計測例は、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
ここで、プローブ光(或いは、ポンプ光)に付与される光学的な遅延は、入射する光を再帰反射することが可能な再帰反射鏡を含む光遅延器に対してプローブ光(或いは、ポンプ光)を入射させることで付与されることが多い。尚、ここでいう「再帰反射」とは、入射光を、当該入射光の入射方向と平行な方向に向けて反射する状態を示す。尚、光遅延器の一例として、例えば回転可能な複数の再帰反射鏡(或いは、プリズム)を備える光遅延器があげられる(例えば、特許文献2から4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-225349号公報
【特許文献2】特開2008-515028号公報
【特許文献3】特開2001-228080号公報
【特許文献4】特許第3720335号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数の再帰反射鏡を利用してプローブ光(或いは、ポンプ光)に対して光学的な遅延を付与する場合、再帰反射鏡の位置ずれに起因して、適切な計測結果が得られなくなるという技術的問題点が生じる可能性がある。
【0006】
具体的には、例えば特許文献2では、回転動作及び検出タイミングを調整する機構が設けられていない。このため、配置ずれ等に起因する不具合に対応できない。また特許文献3では、タイミングパルスを生成する構成が記載されているものの、フォトダイオードを別個に配置し調整する必要がある。また、計測時に常に再帰反射鏡の位置を検出するため、単価及び工数が増加してしまう。また2枚の反射鏡を用いて再帰反射鏡を構成する場合には、いずれか一方の反射鏡にしかフォトダイオードによる検出が行えない。更に特許文献4では、透光体による反射光を用いてタイミングパルスを生成している。このため、透光体に対して光軸が垂直に配置される必要があり、工数が増加してしまう。また透光体による反射光がタイミングパルスとして使用に耐え得る必要があり、被計測物に照射されるテラヘルツ波の強度が減少しSNR(Signal-Noise Ratio)が劣化するおそれがある
本発明が解決しようとする課題には上記のようなものが一例として挙げられる。本発明は、比較的簡単な構成で、再帰反射鏡の位置ずれが生じている場合であっても適切な計測結果を得ることが可能なテラヘルツ波計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するテラヘルツ波計測装置は、レーザ光が照射されることで、テラヘルツ波を発生する発生手段と、(i)前記発生手段が発生した前記テラヘルツ波の一部である第1テラヘルツ波が、第1経路を伝搬すると共に計測対象物に照射されない一方で、(ii)前記発生手段が発生した前記テラヘルツ波の他の一部である第2テラヘルツ波が、前記第1経路とは経路長が異なる第2経路を伝搬すると共に前記計測対象物に照射されるように、前記テラヘルツ波の経路を調整する第1調整手段と、前記レーザ光が照射されることで、前記計測対象物に対して照射されていない前記第1テラヘルツ波及び前記計測対象物に対して照射された前記第2テラヘルツ波を検出する第1検出手段と、前記レーザ光を再帰反射することで前記発生手段及び前記第1検出手段の少なくとも一方に照射される前記レーザ光の光路長を調整する第2調整手段とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施例のテラヘルツ波計測装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施例の光遅延器の構成を示す上面図である。
【
図3】テラヘルツ波発生素子及びテラヘルツ波検出素子の夫々の構成を示す斜視図である。
【
図4】光遅延器が備える4つ再帰反射鏡に位置ずれが生じていない場合のテラヘルツ波の波形を、各再帰反射鏡がプローブ光を再帰反射している期間と対応付けて示すグラフ、及び、光遅延器が備える4つ再帰反射鏡に位置ずれが生じていない場合のテラヘルツ波(特に、第2テラヘルツ波)の波形の振幅を濃淡で示すグラフである。
【
図5】光遅延器が備える4つ再帰反射鏡のうちの少なくとも一つに位置ずれが生じている場合のテラヘルツ波の波形を、各再帰反射鏡がプローブ光を再帰反射している期間と対応付けて示すグラフ、及び、光遅延器が備える4つ再帰反射鏡のうちの少なくとも一つに位置ずれが生じている場合のテラヘルツ波(特に、第2テラヘルツ波)の波形の振幅を濃淡で示すグラフである。
【
図6】インデックス信号生成部の構成を示すブロック図である。
【
図7】第1テラヘルツ波の時間波形を示すグラフである。
【
図8】インデックス信号生成部の変形例を示すブロック図である。
【
図9】計測開始信号生成部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のテラヘルツ波の実施形態について説明を進める。
【0010】
<1>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置は、レーザ光が照射されることで、テラヘルツ波を発生する発生手段と、(i)前記発生手段が発生した前記テラヘルツ波の一部である第1テラヘルツ波が、第1経路を伝搬すると共に計測対象物に照射されない一方で、(ii)前記発生手段が発生した前記テラヘルツ波の他の一部である第2テラヘルツ波が、前記第1経路とは経路長が異なる第2経路を伝搬すると共に前記計測対象物に照射されるように、前記テラヘルツ波を分離する第1調整手段と、前記レーザ光が照射されることで、前記計測対象物に対して照射されていない前記第1テラヘルツ波及び前記計測対象物に対して照射された前記第2テラヘルツ波を検出する第1検出手段と、前記レーザ光を再帰反射することで前記発生手段及び前記第1検出手段の少なくとも一方に照射される前記レーザ光の光路長を調整する第2調整手段とを備える。
【0011】
本実施形態のテラヘルツ波計測装置によれば、発生手段、第1調整手段、第1検出手段及び第2調整手段の動作により、テラヘルツ時間領域分光法を用いて、計測対象物に照射されたテラヘルツ波が検出される。検出されたテラヘルツ波は、計測対象物の特性の計測に利用される。尚、テラヘルツ時間領域分光法を用いたテラヘルツ波の検出方法自体は、既存の検出方法を用いてもよい。以下、テラヘルツ時間領域分光法を用いたテラヘルツ波の検出方法の概略について、簡単に説明する。
【0012】
発生手段は、当該発生手段にレーザ光が励起光(例えば、ポンプ光)として照射されることで、テラヘルツ波を発生させる。
【0013】
第1調整手段は、発生手段が発生したテラヘルツ波の経路(つまり、テラヘルツ波が伝搬する経路)を調整する。具体的には、第1調整手段は、発生手段が発生したテラヘルツ波のうちの一部である第1テラヘルツ波が計測対象物に照射されない一方で、発生手段が発生したテラヘルツ波のうちの他の一部である第2テラヘルツ波が計測対象物に照射されるように、テラヘルツ波の経路を調整する。典型的には、第1調整手段は、発生手段が発生したテラヘルツ波を第1テラヘルツ波及び第2テラヘルツ波に分離することで、発生手段が発生したテラヘルツ波の経路を調整してもよい。但し、第1調整手段は、その他の手法を用いて、発生手段が発生したテラヘルツ波の経路を調整してもよい。
【0014】
第1検出手段は、当該第1検出手段にレーザ光が励起光(例えば、プローブ光)として照射されることで、計測対象物によって反射された又は計測対象物を透過したテラヘルツ波(つまり、第2テラヘルツ波)を検出する。
【0015】
第2調整手段は、レーザ光を再帰反射すると共に、再帰反射したレーザ光を発生手段及び第1検出手段の少なくとも一方に導く。このとき、第2調整手段は、発生手段及び第1検出手段のうちの少なくとも一方に照射されるレーザ光の光路長を調整する。例えば、第2調整手段がレーザ光を再帰反射する再帰反射鏡を備えている場合には、第2調整手段は、再帰反射鏡を物理的に移動させることで、レーザ光の光路長を調整してもよい。その結果、第2調整手段は、発生手段に照射されるレーザ光の光路と第1検出手段に照射されるレーザ光の光路との間の光路長差を適宜調整することができる。このような光路長差の調整は、サブピコ秒というオーダーで現れるテラヘルツ波の波形(典型的には、時間波形であり、以下同じ)を好適に検出するために行われる。
【0016】
本実施形態では特に、上述したように、第1調整手段は、第1テラヘルツ波が計測対象物に照射されない一方で第2テラヘルツ波が計測対象物に照射されるように、テラヘルツ波の経路を調整する。このため、第1検出手段は、計測対象物に照射された第2テラヘルツ波のみならず、計測対象物に照射されない第1テラヘルツ波をも検出する。
【0017】
第1調整手段は更に、第1テラヘルツ波の経路(つまり、第1テラヘルツ波が伝搬する経路)の経路長が、第2テラヘルツ波の経路(つまり、第2テラヘルツ波が伝搬する経路)の経路長とは異なるように、テラヘルツ波の経路を調整する。このため、第1検出手段は、第1テラヘルツ波及び第2テラヘルツ波を異なるタイミングで検出することができる。つまり、第1検出手段は、第1テラヘルツ波及び第2テラヘルツ波を連続的に検出することができる。
【0018】
ここで、第2テラヘルツ波が計測対象物に照射されているがゆえに、第1検出手段が検出した第2テラヘルツ波は、計測対象物の特性を計測する目的で利用可能である。一方で、第1テラヘルツ波が計測対象物に照射されていないがゆえに、第1検出手段が検出した第1テラヘルツ波は、計測対象物の特性の計測とは異なる目的で利用可能である。例えば、当該第1テラヘルツ波は、計測対象物の特性を計測するタイミングを調整する目的で使用可能である。
【0019】
特に、第1テラヘルツ波及び第2テラヘルツ波は、同一のテラヘルツ波から実質的に生成されている。このため、発生手段が発生したテラヘルツ波の一部が第1テラヘルツ波となり且つ発生手段が発生したテラヘルツ波の他の一部が第2テラヘルツ波となる限りは、第1テラヘルツ波が第1検出手段に到達するタイミングと第2テラヘルツ波が第1検出手段に到達するタイミングとの間の時間的関係(つまり、時間差)が実質的には固定される又は変動しない。或いは、第2調整手段によるレーザ光の光路長の調整精度のばらつきの有無に依存することなく、第2テラヘルツ波が第1検出手段に到達してから第1テラヘルツ波が第1検出手段に到達するまでに要する時間が固定される又は変動しない。例えば、同一のテラヘルツ波を第1及び第2テラヘルツ波に分離するように第1調整手段がテラヘルツ波の経路を調整する場合には、第1テラヘルツ波が第1検出手段に到達するタイミングと第2テラヘルツ波が第1検出手段に到達するタイミングとの間の時間的関係が実質的には固定される又は変動しない。その結果、第1検出手段の検出結果が示すテラヘルツ波の波形上では、第1テラヘルツ波の波形が現れるタイミングと第2テラヘルツ波の波形が現れるタイミングとの間の時間的関係が実質的に固定される又は変動しない。
【0020】
このように、本実施形態では、発生手段が発生したテラヘルツ波のうちの他の一部である第2テラヘルツ波が計測対象物に照射される。このため、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて、計測対象物の特性を計測することができる。
【0021】
更に、本実施形態では、発生手段が発生したテラヘルツ波のうちの一部である第1テラヘルツ波が計測対象物に照射されない。このため、テラヘルツ波計測装置は、第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて、計測対象物の特性を計測するタイミングを調整することができる。例えば、第2調整手段によるレーザ光の光路長の調整精度のばらつき(例えば、第2調整手段が備える再帰反射鏡の位置ずれに起因するレーザ光の光路長の調整精度のばらつき)により、第1検出手段が第2テラヘルツ波を検出するタイミングがばらつく可能性がある。このように第1検出手段が第2テラヘルツ波を検出するタイミングがばらつく場合であっても、テラヘルツ波計測装置は、第1検出手段が第2テラヘルツ波を検出するタイミングのばらつきが計測対象物の特性の計測に対して与える影響が排除されるように、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。その結果、テラヘルツ波計測装置は、テラヘルツ波を利用して、計測対象物の特性を相対的に高精度に計測することができる。
【0022】
更には、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測するタイミングを調整することができる。つまり、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づく計測対象物の特性の計測と並行して、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて逐次(言い換えれば、リアルタイムに)調整することができる。
【0023】
更には、第1テラヘルツ波が第1検出手段に到達するタイミングと第2テラヘルツ波が第1検出手段に到達するタイミングとの間の時間的関係が実質的には固定される又は変動しないことは上述したとおりである。つまり、第2調整手段によるレーザ光の光路長の調整精度のばらつきの有無に依存することなく、第1テラヘルツ波が第1検出手段に到達してから第2テラヘルツ波が第1検出手段に到達するまでに要する時間が固定される又は変動しない。或いは、第2調整手段によるレーザ光の光路長の調整精度のばらつきの有無に依存することなく、第2テラヘルツ波が第1検出手段に到達してから第1テラヘルツ波が第1検出手段に到達するまでに要する時間が固定される又は変動しない。このため、第1検出手段が第2テラヘルツ波を検出するタイミングのばらつきが生ずる場合であっても、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測するタイミングを調整することができる。
【0024】
<2>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第1調整手段は、前記第1経路と前記第2経路との間の経路長差が固定される又は変動しないように、前記テラヘルツ波の経路を調整する。
【0025】
この態様によれば、第2調整手段によるレーザ光の光路長の調整精度のばらつきの有無に依存することなく、第1テラヘルツ波が第1検出手段に到達するタイミングと第2テラヘルツ波が第1検出手段に到達するタイミングとの間の時間的関係が固定される又は変動しない。このため、第1検出手段が第2テラヘルツ波を検出するタイミングのばらつきが生ずる場合であっても、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。
【0026】
<3>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第1調整手段は、前記第1経路と前記第2経路との間の経路長差が、前記第1検出手段が前記第1及び第2テラヘルツ波の夫々を個別に識別可能な態様で検出することができる程度の経路長差となるように、前記テラヘルツ波の経路を調整する。
【0027】
この態様によれば、第1検出手段は、計測対象物に照射された第2テラヘルツ波のみならず、計測対象物に照射されていない第1テラヘルツ波をも検出することができる。従って、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。
【0028】
<4>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第1調整手段は、前記第1経路と前記第2経路との間の経路長差が、前記第1検出手段が前記第1及び第2テラヘルツ波の夫々を時間的に重複しないタイミングで検出することができる程度の経路長差となるように、前記テラヘルツ波の経路を調整する。
【0029】
この態様によれば、第1検出手段は、計測対象物に照射された第2テラヘルツ波のみならず、計測対象物に照射されていない第1テラヘルツ波をも検出することができる。従って、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。
【0030】
<5>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第2調整手段は、前記検出手段に照射される前記レーザ光の光路長が時間の経過と共に短くなるように、前記検出手段に照射される前記レーザ光の光路長を調整し、前記第1調整手段は、前記第1経路が第2経路よりも長くなるように、前記テラヘルツ波の経路を調整する。
【0031】
この態様によれば、テラヘルツ波計測装置は、第1検出手段による第1及び第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて、相対的に長い第1経路を伝搬してくる第1テラヘルツ波の波形を検出した後に、相対的に短い第2経路を伝搬してくる第2テラヘルツ波の波形を検出することができる。従って、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。
【0032】
<6>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第2調整手段は、前記検出手段に照射される前記レーザ光の光路長が時間の経過と共に長くなるように、前記検出手段に照射される前記レーザ光の光路長を調整し、前記第1調整手段は、第1経路が第2経路よりも短くなるように、前記テラヘルツ波の経路を調整する。
【0033】
この態様によれば、テラヘルツ波計測装置は、第1検出手段による第1及び第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて、相対的に短い第1経路を伝搬してくる第1テラヘルツ波の波形を検出した後に、相対的に長い第2経路を伝搬してくる第2テラヘルツ波の波形を検出することができる。従って、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。
【0034】
<7>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第2調整手段は、前記発生手段に照射される前記レーザ光の光路長が時間の経過と共に短くなるように、前記発生手段に照射される前記レーザ光の光路長を調整し、前記第1調整手段は、第1経路が第2経路よりも短くなるように、前記テラヘルツ波の経路を調整する。
【0035】
この態様によれば、テラヘルツ波計測装置は、第1検出手段による第1及び第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて、相対的に短い第1経路を伝搬してくる第1テラヘルツ波の波形を検出した後に、相対的に長い第2経路を伝搬してくる第2テラヘルツ波の波形を検出することができる。従って、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。
【0036】
<8>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第2調整手段は、前記発生手段に照射される前記レーザ光の光路長が時間の経過と共に長くなるように、前記発生手段に照射される前記レーザ光の光路長を調整し、前記第1調整手段は、第1経路が第2経路よりも長くなる、前記テラヘルツ波の経路を調整する。
【0037】
この態様によれば、テラヘルツ波計測装置は、第1検出手段による第1及び第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて、相対的に長い第1経路を伝搬してくる第1テラヘルツ波の波形を検出した後に、相対的に短い第2経路を伝搬してくる第2テラヘルツ波の波形を検出することができる。従って、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。
【0038】
<9>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第1調整手段は、前記第1経路と前記第2経路との間の経路長差が、前記第2調整手段が前記光路長を調整する所定の調整期間中に前記第1検出手段が前記第1及び第2テラヘルツ波の双方を検出することができる程度の経路長差となるように、前記テラヘルツ波の経路を調整する。
【0039】
この態様によれば、第1検出手段は、ある調整期間中に、第1テラヘルツ波及び第2テラヘルツ波の双方を検出することができる。つまり、ある調整期間中に第1テラヘルツ波及び第2テラヘルツ波のいずれか一方しか第1検出手段が検出することができない状況は殆ど又は全く生じない。従って、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。
【0040】
尚、第2調整手段が複数の再帰反射鏡を備えている場合には、調整期間は、各再帰反射光がレーザ光を再帰反射している期間に相当する。
【0041】
<10>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第1テラヘルツ波の強度と前記第2テラヘルツ波の強度との差分が所定値以下となるように、前記第1及び第2のテラヘルツ波の少なくとも一方の強度を調整する第3調整手段を更に備える。
【0042】
この態様によれば、第1テラヘルツ波の強度と第2テラヘルツ波の強度との差分が所定値以下になるがゆえに、第1検出手段は、第1及び第2のテラヘルツ波の双方を好適に検出することができる。
【0043】
尚、仮に第1テラヘルツ波の強度と第2テラヘルツ波の強度との差分が所定値よりも大きくなる(例えば、過度に大きくなる)場合には、第1検出手段の検出感度(例えば、ダイナミックレンジ)は、第1テラヘルツ波の強度及び第2テラヘルツ波の強度のうち大きい方の強度に合わせられる。その結果、第1検出手段は、検出感度に適した強度を有する第1及び第2のテラヘルツ波のうちいずれか一方を好適に検出することができる一方、検出感度に適していない強度を有する第1及び第2のテラヘルツ波のうちいずれか他方を好適に検出することができない可能性があるという技術的問題が生じえる。しかるに、この態様では、このような技術的問題は殆ど生じない。
【0044】
<11>
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第2検出手段が検出した前記第2テラヘルツ波に基づいて、前記計測対象物の特性を計測する計測手段と、前記第1検出手段による前記第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて、前記計測手段が前記第2テラヘルツ波に基づいて前記計測対象物の特性を計測するタイミングを調整する第4調整手段とを更に備える。
【0045】
この態様によれば、テラヘルツ波計測装置は、第2テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、計測対象物の特性を計測するタイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて調整することができる。
【0046】
<12>
上述の如く第4調整手段を備えるテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第4調整手段は、前記第1検出手段により検出された前記第1テラヘルツ波の特徴点を検出する第2検出手段と、基準時刻から前記特徴点を検出するまでの期間である基準期間を算出する算出手段と、前記基準期間に基づいて定まるタイミングで前記計測対象物の特性の計測を開始するように前記計測手段を制御する制御手段とを備える。
【0047】
この態様によれば、第2検出手段は、第1検出手段で検出される第1テラヘルツ波の特徴点を検出する。尚、本実施形態の「特徴点」とは、第1テラヘルツ波の変動(例えば、時間軸に沿った変動)を精度よく検出し得るポイントである。尚、第1テラヘルツ波が計測対象物に照射されないがゆえに、第2検出手段は、計測対象物に照射された第2テラヘルツ波の第1検出手段による検出と並行して、第1テラヘルツ波の特徴点を検出することができる。つまり、第2検出手段は、計測対象物の特性の計測と並行して、第1テラヘルツ波の特徴点を検出することができる。
【0048】
特徴点が検出されると、算出手段は、基準時刻から特徴点を検出するまでの期間である基準期間が算出される。なお、ここでの「基準時刻」とは、基準期間を算出するための基準となる時刻であり、所定の基準信号等により定められる。このようにして算出される基準期間は、基準時刻に対する特徴点の時間位置を示す値であると言える。
【0049】
基準期間が算出されると、制御手段は、基準期間に応じたタイミングで計測対象物の特性の計測を開始する(典型的には、第2テラヘルツ波の検出結果の解析を開始する)ように計測手段を制御する。その結果、第1検出手段が第2テラヘルツ波を検出するタイミングのばらつきが計測対象物の特性の計測に対して与える影響が好適に排除される。
【0050】
<13>
上述の如く第2検出手段、算出手段及び制御手段を備えるテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第2調整手段は、夫々が前記レーザ光を再起反射する複数の再帰反射手段を備え、前記第2検出手段は、前記複数の再帰反射手段の夫々が前記レーザ光を再起反射する反射期間ごとに、別々に前記特徴点を検出し、前記算出手段は、前記反射期間ごとに、別々に前記基準期間を算出し、前記制御手段は、前記反射期間毎に、前記反射期間に対応する前記基準時間に応じて定まるタイミングで前記計測対象物の特性の計測を開始するように前記計測手段を制御する。
【0051】
この態様によれば、複数の再帰反射手段を用いて、発生手段に照射されるレーザ光の光路と第1検出手段に照射されるレーザ光の光路との間の光路長差が調整される。具体的には、例えば再帰反射手段が物理的に移動することで、発生手段及び第1検出手段の少なくとも一方に照射されるレーザ光に対する再帰反射手段の光軸方向の位置が変化する。その結果、発生手段及び第1検出手段の少なくとも一方に照射されるレーザ光の光路の少なくとも一方の光路長が変化する。
【0052】
第2調整手段は、複数の再起反射手段を円周上で回転するように移動させる回転手段を更に備えていてもよい。この場合、例えば、複数の再帰反射手段が配置された回転基板が回転されることで、発生手段及び第1検出手段の少なくとも一方に照射されるレーザ光に対する再帰反射手段の光軸方向の位置が変化する。その結果、発生手段及び第1検出手段の少なくとも一方に照射されるレーザ光の光路の少なくとも一方の光路長が変化する。
【0053】
更に、複数の再帰反射手段の夫々がレーザ光を再帰反射する反射期間(尚、反射期間は、実質的には、上述した調整期間と同義である)ごとに、別々に特徴点が検出され、別々に基準期間が算出され、計測開始タイミングが調整される。その結果、第2調整手段が複数の再帰反射手段を備えている場合であっても、第1検出手段が第2テラヘルツ波を検出するタイミングのばらつきが計測対象物の特性の計測に対して与える影響が好適に排除される。
【0054】
<14>
上述の如く第2検出手段を備えるテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記特徴点は、前記第1テラヘルツ波の波形の最大値、最小値及び前記最大値と前記最小値との間にあるゼロクロス点の少なくとも1つである。
【0055】
この態様によれば、第2検出手段は、第1テラヘルツ波の特徴点を容易且つ精度よく検出することができる。このため、算出手段は、より適切な基準期間を算出することができる。従って、制御手段は、このような基準期間に基づいて定まるより適切なタイミングが計測対象物の特性を計測するタイミングとなるように、第1検出手段を制御することができる。
【0056】
<15>
上述の如く第2検出手段、算出手段及び制御手段を備えるテラヘルツ波計測装置の他の態様では、前記第2検出手段は、前記特徴点を複数回検出し、前記算出手段は、前記基準期間を複数回算出し、前記制御手段は、複数回算出された前記基準期間の平均値に応じて定まるタイミングで前記計測対象物の特性の計測を開始するように前記計測手段を制御する。
【0057】
この態様によれば、特徴点が複数回検出され、検出された複数の特徴点の各々に基づいて、基準期間が複数回算出される。そして、計測手段による計測開始タイミングが調整される際には、複数回検出された基準期間の平均値が用いられる。このように基準期間の平均値が用いられるがゆえに、例えば計測対象物の特性の計測を開始するタイミングの、特徴点の誤検出に起因した不適切な基準期間に基づく意図せぬ調整が好適に防止される。
【0058】
本実施形態のテラヘルツ波計測装置の作用及び他の利得については、以下に示す実施例において、より詳細に説明する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態のテラヘルツ波計測装置は、発生手段と、第1調整手段と、第1検出手段と、第2調整手段とを備える。従って、比較的簡単な構成で、再帰反射鏡の位置ずれが生じている場合であっても適切な計測結果を得ることができる。
【実施例0060】
以下、図面を参照しながら、本発明のテラヘルツ波計測装置の実施例についての説明を進める。
【0061】
(1)テラヘルツ波計測装置の構成
初めに、
図1を参照しながら、本実施例のテラヘルツ波計測装置100の構成について説明する。
図1は、本実施例のテラヘルツ波計測装置100の構成を示すブロック図である。
【0062】
図1に示すように、テラヘルツ波計測装置100は、テラヘルツ波THzを計測対象物に照射すると共に、計測対象物を透過した又は計測対象物から反射したテラヘルツ波THz(つまり、計測対象物に照射されたテラヘルツ波THz)を検出する。尚、
図1に示す例では、テラヘルツ波計測装置100は、計測対象物から反射したテラヘルツ波THzを検出している。
【0063】
テラヘルツ波THzは、1テラヘルツ(1THz=1012Hz)前後の周波数領域(つまり、テラヘルツ領域)に属する電磁波である。テラヘルツ領域は、光の直進性と電磁波の透過性を兼ね備えた周波数領域である。テラヘルツ領域は、様々な物質が固有の吸収スペクトルを有する周波数領域である。従って、テラヘルツ波計測装置100は、計測対象物に照射されたテラヘルツ波THzの周波数スペクトルを解析することで、計測対象物の特性を計測することができる。
【0064】
計測対象物に照射されたテラヘルツ波THzの周波数スペクトルを取得するために、テラヘルツ波計測装置100は、テラヘルツ時間領域分光法(Terahertz Time-Domain Spectroscopy)を採用している。テラヘルツ時間領域分光法は、テラヘルツ波THzを計測対象物に照射すると共に、計測対象物を透過した又は計測対象物から反射したテラヘルツ波THzの時間波形をフーリエ変換することで、当該テラヘルツ波の周波数スペクトル(つまり、周波数毎の振幅及び位相)を取得する方法である。
【0065】
ここで、テラヘルツ波THzの周期は、サブピコ秒のオーダーの周期であるがゆえに、当該テラヘルツ波THzの波形(典型的には、時間波形であり、以下同じ)を直接的に検出することが技術的に困難である。そこで、テラヘルツ波計測装置100は、時間遅延走査に基づくポンプ・プローブ法を採用する、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出する。
【0066】
図1に示すように、このようなテラヘルツ時間領域分光法及びポンプ・プローブ法を採用するテラヘルツ波計測装置100は、パルスレーザ装置101と、「発生手段」の一具体例であるテラヘルツ波発生素子110と、ビームスプリッタ161と、反射鏡162と、反射鏡163と、「第1調整手段」の一具体例である光路調整器170と、「第2調整手段」の一具体例である光遅延器120と、「第1検出手段」の一具体例であるテラヘルツ波検出素子130と、バイアス電圧生成部141と、I-V(電流-電圧)変換部144と、ロックイン検出部145と、「計測手段」の一具体例である演算処理部150と、基準信号生成部181と、「第2検出手段」の一具体例であるインデックス信号生成部182と、「第4調整手段」の一具体例である計測開始信号生成部183とを備えている。
【0067】
パルスレーザ装置101は、当該パルスレーザ装置101に入力される駆動電流に応じた光強度を有するサブピコ秒オーダー又はフェムト秒オーダーのパルスレーザ光LBを生成する。パルスレーザ装置101が生成したパルスレーザ光LBは、不図示の導光路(例えば、光ファイバ等)を介して、ビームスプリッタ161に入射する。
【0068】
ビームスプリッタ161は、パルスレーザ光LBを、ポンプ光LB1とプローブ光LB2とに分岐する。ポンプ光LB1は、不図示の導光路を介して、テラヘルツ波発生素子110に入射する。一方で、プローブ光LB2は、不図示の導光路及び反射鏡162を介して、光遅延器120に入射する。
【0069】
光遅延器120は、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の差分(つまり、光路長差)を調整する。具体的には、光遅延器120は、プローブ光LB2の光路長を調整することで、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の光路長差を調整する。尚、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の光路長差を調整することで、ポンプ光LB1がテラヘルツ波発生素子110に入射するタイミング(或いは、テラヘルツ波発生素子110がテラヘルツ波THzを発生させるタイミング)と、プローブ光LB2がテラヘルツ波検出素子130に入射するタイミング(或いは、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミング)との間の相対的なずれ量を調整することができる。例えば、光遅延器120によってプローブ光LB2の光路が0.3ミリメートル(但し、空気中での光路長)だけ長くなると、プローブ光LB2がテラヘルツ波検出素子130に入射するタイミングが1ピコ秒だけ遅くなる。この場合、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミングが、1ピコ秒だけ遅くなる。テラヘルツ波検出素子130に対して同一の波形を有するテラヘルツ波THzが数十MHz程度の間隔で繰り返し入射することを考慮すれば、テラヘルツ波検出素子130がテラヘルツ波THzを検出するタイミングを徐々にずらすことで、テラヘルツ波検出素子130は、テラヘルツ波THzの波形を間接的に検出することができる。つまり、後述するロックイン検出部145は、テラヘルツ波検出素子130の検出結果に基づいて、テラヘルツ波THzの波形を検出することができる。
【0070】
ここで、
図2を参照して、光遅延器120の構成について説明する。
図2は、光遅延器120の構成を示すブロック図である。尚、
図2に示す光遅延器120はあくまで一例であり、
図2に示す構成とは異なる構成を有する光遅延器が用いられてもよい。
【0071】
図2に示すように、光遅延器120は、夫々が「再帰反射手段」の一具体例である複数の(
図2では、4つの)再帰反射鏡121(121aから121d)と、回転基板122とを備えている。
【0072】
各再帰反射鏡121は、当該各再帰反射鏡121に入射してくるプローブ光LB2を再帰反射する。つまり、各再帰反射鏡121は、当該各再帰反射鏡121に入射してくるプローブ光LB2を、当該プローブ光LB2の入射方向と平行な方向に向けて反射する。各再帰反射鏡121は、当該各再帰反射鏡121に入射してくるプローブ光LB2を、光遅延器120の外部(例えば、反射鏡163)に向けて反射する。
【0073】
複数の再帰反射鏡121は、回転基板122の回転軸を中心とする円周C上に、等間隔に配置されている。回転基板122は、不図示のモータ等の動作により回転可能である。従って、複数の再帰反射鏡121の夫々は、回転基板122の回転に伴って、円周C上を周回する。このような再帰反射鏡121の移動により、プローブ光LB2の光路長が調整される。
【0074】
図2に示す例では、各再帰反射鏡121は、プローブ光LB2の入射方向に向かって近づくように移動する。その結果、各再帰反射鏡121は、時間の経過と共に(つまり、各再帰反射鏡121の移動と共に)プローブ光LB2の光路が短くなるように移動している。
【0075】
尚、再帰反射鏡121の移動は、演算処理部150の制御の下で行われる。つまり、演算処理部150は、回転基板122を駆動するモータの駆動量を指定する制御信号を出力することで、回転基板122の回転動作を制御する。
【0076】
再び
図1において、光遅延器120から出射したプローブ光LB2は、不図示の導光路及び反射鏡163を介して、テラヘルツ波検出素子130に入射する。
【0077】
ここで、
図3を参照しながら、ポンプ光LB1が照射されるテラヘルツ波発生素子110及びプローブ光LB2が照射されるテラヘルツ検出素子130について更に詳細に説明する。
図3は、テラヘルツ波発生素子110及びテラヘルツ波検出素子130の夫々の構成を示す斜視図である。尚、
図3に示すテラヘルツ波発生素子110及びテラヘルツ波検出素子130の構成はあくまで一例であり、
図3に示す構成とは異なる構成を有する光伝導アンテナ又は光伝導スイッチが、テラヘルツ波発生素子110及びテラヘルツ波検出素子130として用いられてもよい。
【0078】
図3(a)に示すように、テラヘルツ波発生素子110は、基板111と、アンテナ(言い換えれば、伝送線路)112と、アンテナ(言い換えれば、伝送線路)113とを備えている。
【0079】
基板111は、例えば、GaAs(Gallium Arsenide)基板等の半導体基板である。アンテナ112及びアンテナ113の夫々は、長手方向に延在する形状を有するモノポールアンテナである。アンテナ112及びアンテナ113は、短手方向に沿って並列するように基板111上に配置される。アンテナ112とアンテナ113との間には、数マイクロメートル程度のギャップ(つまり、間隙)114が確保される。従って、アンテナ112及びアンテナ113全体として、ダイポールアンテナを構成する。
【0080】
ギャップ114には、アンテナ112及びアンテナ113を介して、バイアス電圧生成部141から出力されるバイアス電圧が印加されている。有効なバイアス電圧(例えば、0Vでないバイアス電圧)がギャップ114に印加されている状態でポンプ光LB1がギャップ114に照射されると、テラヘルツ波発生素子110には、ポンプ光LB1による光励起によってキャリアが発生する。その結果、テラヘルツ波発生素子110には、発生したキャリアに応じたサブピコ秒オーダーの又はフェムト秒オーダーのパルス状の電流信号が発生する。その結果、テラヘルツ波発生素子110には、当該パルス状の電流信号に起因したテラヘルツ波THzが発生する。
【0081】
図3(b)に示すように、テラヘルツ波検出素子130もまた、テラヘルツ波発生素子110と同様の構成を有している。つまり、テラヘルツ波検出素子130は、基板131と、アンテナ(言い換えれば、伝送線路)132と、アンテナ(言い換えれば、伝送線路)133とを備えている。基板131、アンテナ132及びアンテナ133は、夫々、基板111、アンテナ112及びアンテナ113と同様の構成を有している。
【0082】
プローブ光LB2がギャップ134に照射されると、テラヘルツ検出素子130には、プローブ光LB2による光励起によってキャリアが発生する。プローブ光LB2がギャップ134に照射されている状態でテラヘルツ検出素子130にテラヘルツ波THzが照射されると、ギャップ134には、テラヘルツ波THzの光強度に応じた信号強度を有する電流信号が発生する。当該電流信号は、アンテナ132及びアンテナ133を介して、I-V変換部144に出力される。
【0083】
再び
図1において、テラヘルツ波発生素子110から出射したテラヘルツ波THzは、光路調整器170に入射する。光路調整器170は、テラヘルツ波THzを、第1テラヘルツ波THz1と、第2テラヘルツ波THz2とに分離する。更に、光路調整器170は、分離した第1テラヘルツ波THz1及び第2テラヘルツ波THz2の双方をテラヘルツ波検出素子130に導く。
【0084】
このような動作を行うために、光路調整器170は、ビームスプリッタ171と、反射鏡172とを備えている。
【0085】
ビームスプリッタ171には、テラヘルツ波発生素子110が発生させたテラヘルツ波THzが入射する。ビームスプリッタ171は、ビームスプリッタ171に入射してくるテラヘルツ波THzの一部を反射すると共に、テラヘルツ波THzの一部を透過する。ビームスプリッタ171によって反射されたテラヘルツ波THzの一部は、第1テラヘルツ波THz1として、反射鏡172に入射する。一方で、ビームスプリッタ171を透過したテラヘルツ波THzの他の一部は、第2テラヘルツ波THz2として、計測対象物に照射される。
【0086】
反射鏡172に入射した第1テラヘルツ波THz1は、反射鏡172によって反射される。反射鏡172によって反射された第1テラヘルツ波THz1は、再びビームスプリッタ171に入射する。一方で、計測対象物172に照射された第2テラヘルツ波THz2は、計測対象物によって反射される。計測対象物によって反射された第2テラヘルツ波THz2は、再びビームスプリッタ171に入射する。
【0087】
ビームスプリッタ171と反射鏡172との間の距離d1(典型的には、光学的な距離であり、以下同じ)は、ビームスプリッタ171と計測対象物との間の距離d2とは異なる。つまり、ビームスプリッタ171から反射鏡172を経てビームスプリッタ171へと戻る第1テラヘルツ波THz1の伝搬経路の長さ2d1(典型的には、光学的な長さであり、以下同じ)は、ビームスプリッタ171から計測対象物を経てビームスプリッタ171へと戻る第2テラヘルツ波THz2が伝搬経路の長さ2d2とは異なる。更に、テラヘルツ波計測装置100が計測対象物の特性を分析している間は、距離d1及び距離d2が固定されている又は変動しない。つまり、テラヘルツ波計測装置100が計測対象物の特性を分析している間は、距離d1と距離d2との差分が固定されている又は変動しない。従って、ビームスプリッタ171及び反射鏡172は、計測対象物が配置される位置を考慮した上で、上述した条件を満たすことが可能な適切な位置に配置される。
【0088】
本実施例では、各再帰反射鏡121は、時間の経過と共に(つまり、各再帰反射鏡121の移動と共に)プローブ光LB2の光路が短くなるように移動していることは上述したとおりである。この場合、距離d1は、距離d2よりも大きくなることが好ましい。
【0089】
反射鏡172は、当該反射鏡172によって反射された第1テラヘルツ波THz1の強度と計測対象物によって反射された第2テラヘルツ波THzの強度との差分が所定値以下になる程度の反射率で、第1テラヘルツ波THzを反射することが好ましい。例えば、計測対象物の第2テラヘルツ波THz2に対する反射率が概ね100%未満である可能性が高いことを考慮すれば、反射鏡172は、第1テラヘルツ波THz1に対する反射率が100%未満となる反射面を備えていてもよい。
【0090】
ビームスプリッタ171は、反射鏡172によって反射された第1テラヘルツ波THz1を透過する。ビームスプリッタ171を透過した第1テラヘルツ波THz1は、テラヘルツ波検出素子130に入射する。一方で、ビームスプリッタ171は、計測対象物によって反射された第2テラヘルツ波THz2を反射する。ビームスプリッタ171によって反射された第2テラヘルツ波THz2もまた、第1テラヘルツ波THz1と同様に、テラヘルツ波検出素子130に入射する。つまり、ビームスプリッタ171は、実質的には、第1テラヘルツ波THz1と第2テラヘルツ波THz2とを合成した後に、当該合成した第1テラヘルツ波THz1と第2テラヘルツ波THz2をテラヘルツ波検出素子130に入射させているとも言える。以下では、説明の便宜上、ビームスプリッタ171が合成した第1テラヘルツ波THz1及び第2テラヘルツ波THz2を、テラヘルツ波THz0と称する。
【0091】
その結果、テラヘルツ波検出素子130は、テラヘルツ波THz0(つまり、第1テラヘルツ波THz1及び第2テラヘルツ波THz2)を検出する。つまり、テラヘルツ波検出素子130からは、テラヘルツ波THz0(つまり、第1テラヘルツ波THz1及び第2テラヘルツ波THz2)の強度に応じた信号強度を有する電流信号が出力される。
【0092】
ここで、ビームスプリッタ171と反射鏡172との間の距離d1は、ビームスプリッタ171と計測対象物との間の距離d2とは異なることは上述したとおりである。このため、テラヘルツ波検出素子130は、第1テラヘルツ波THz1及び第2テラヘルツ波THz2を、実質的に異なるタイミングで検出する。本実施例では、テラヘルツ波検出素子130が第1テラヘルツ波THz1及び第2テラヘルツ波THz2を時間軸に沿って識別可能な態様で検出するように、距離d1及び距離d2(或いは、距離d1と距離d2との差分)が設定されていることが好ましい。つまり、テラヘルツ波検出素子130から第1テラヘルツ波THz1の強度に応じた信号強度を有する電流信号及び第2テラヘルツ波THz2の強度に応じた信号強度を有する電流信号が時間軸に沿って互いに識別可能な態様で出力されるように、距離d1及び距離d2(或いは、距離d1と距離d2との差分)が設定されていることが好ましい。
【0093】
加えて、本実施例では、各再帰反射鏡121がプローブ光LB2を再帰反射している反射期間中にテラヘルツ波検出素子130が第1テラヘルツ波THz1及び第2テラヘルツ波THz2の双方を検出することができるように、距離d1及び距離d2(或いは、距離d1と距離d2との差分)が設定されていることが好ましい。つまり、再帰反射鏡121aがプローブ光LB2を再帰反射している第1反射期間、再帰反射鏡121bがプローブ光LB2を再帰反射している第2反射期間、再帰反射鏡121cがプローブ光LB2を再帰反射している第3反射期間及び再帰反射鏡121dがプローブ光LB2を再帰反射している第4反射期間の夫々においてテラヘルツ波検出素子130が第1テラヘルツ波THz1及び第2テラヘルツ波THz2の双方を検出することができるように、距離d1及び距離d2(或いは、距離d1と距離d2との差分)が設定されていることが好ましい。
【0094】
第2テラヘルツ波THz2の照射と並行して、計測対象物は移動してもよい。例えば、計測対象物は、第2テラヘルツ波THz2が計測対象物に入射する方向(
図1中の左右方向)に直交する面内を移動してもよい。このような計測対象物の移動は、計測対象物を搭載するステージによって実現されてもよい。その結果、演算処理部150は、計測対象物の特性をいわば3次元的に計測することができる。
【0095】
テラヘルツ波検出素子130から出力される電流信号は、I―V変換部144によって、電圧信号に変換される。その後、ロックイン検出部145は、電圧信号に対して、バイアス電圧を参照信号とする同期検波を行う。その結果、ロックイン検出部145は、テラヘルツ波THz0(つまり、第1テラヘルツ波THz1及び第2テラヘルツ波THz2)のサンプル値を検出する。その後、ポンプ光LB1の光路長とプローブ光LB2の光路長との間の光路長差を適宜調整しながら同様の動作が繰り返されることで、ロックイン検出部145は、テラヘルツ波THz0の波形を検出することができる。その結果、演算処理部150は、ロックイン検出部145の検出結果を取得することで、テラヘルツ波THz0の波形を示す波形信号を取得することができる。合わせて、演算処理部150は、ロックイン検出部145が検出したテラヘルツ波THz0の波形を示す波形信号をフーリエ変換することで、当該テラヘルツ波THz0の周波数スペクトル(つまり、周波数毎の振幅及び位相)を取得する。更に、演算処理部150は、テラヘルツ波THz0の周波数スペクトルを解析することで、計測対象物の特性を計測する。
【0096】
基準信号生成部181は、各再帰反射鏡121の回転に同期した基準信号を生成する。基準信号は、例えば、再帰反射鏡121を搭載する回転基板122が1回転するごとに1つのパルスが現れる信号である。このような基準信号は、演算処理部150による計測対象物の特性を計測する際の基準となる基準時刻を規定するための信号である。基準信号は、例えば、光遅延器120又は演算処理部150からの駆動制御パルス等を用いて生成される。
【0097】
インデックス信号生成部182は、テラヘルツ波検出素子130で検出される第1テラヘルツ波THz1の特徴点を検出する。インデックス信号生成部182は、基準信号により規定される基準時刻に対する特徴点の時間位置を算出する。検出された特徴点の時間位置は、インデックス信号として計測開始信号生成部183に出力される。
【0098】
計測開始信号生成部183は、インデックス信号生成部182から入力されるインデックス信号に応じて、光遅延器120が備える各再帰反射鏡121がプローブ光LB2を再帰反射している各反射期間中の計測開始タイミングを調整するための計測開始信号を生成する。尚、計測開始タイミングは、ロックイン検出部145が検出したテラヘルツ波THz0(特に、第2テラヘルツ波THz2)の波形を示す波形信号を用いて演算処理部150が計測対象物の特性の計測を開始するタイミングである。計測開始信号生成部183で生成された計測開始信号は、演算処理部150に出力される。その結果、演算処理部150は、計測開始信号に応じたタイミングで計測対象物の特性の計測を開始する。
【0099】
(2)再帰反射鏡121の位置ずれによる技術的問題点
続いて、
図4及び
図5を参照しながら、再帰反射鏡121の位置ずれに起因して発生する技術的問題点について説明する。
図4(a)は、光遅延器120が備える4つ再帰反射鏡121に位置ずれが生じていない場合のテラヘルツ波THz0の波形を、各再帰反射鏡121がプローブ光LB2を再帰反射している期間と対応付けて示すグラフである。
図4(b)は、光遅延器120が備える4つ再帰反射鏡121に位置ずれが生じていない場合のテラヘルツ波THz0(特に、第2テラヘルツ波THz2)の波形の振幅を濃淡で示すグラフである。
図5(a)は、光遅延器120が備える4つ再帰反射鏡121の少なくとも一つに位置ずれが生じている場合のテラヘルツ波THz0の波形を、各再帰反射鏡121がプローブ光LB2を再帰反射している期間と対応付けて示すグラフである。
図5(b)は、光遅延器120が備える4つ再帰反射鏡121の少なくとも一つに位置ずれが生じている場合のテラヘルツ波THz0(特に、第2テラヘルツ波THz2)の波形の振幅を濃淡で示すグラフである。
【0100】
図4(a)に示すように、演算処理部150は、各再帰反射鏡121がプローブ光LB2を再帰反射している反射期間に検出されるテラヘルツ波THz0を、
図4(a)に示すような波形信号として取得する。例えば、再帰反射鏡121aがプローブ光LB2を再帰反射し始める時点での回転基板122の回転角度を0°と定義すると、再帰反射鏡121aは、回転基板122の回転角度が0°からX1°(但し、0°<X1<90°)となる第1反射期間中に、プローブ光LB2を再帰反射する。同様に、再帰反射鏡121bは、回転基板122の回転角度が90°からX2°(但し、90°<X2<180°)となる第2反射期間中に、プローブ光LB2を再帰反射する。同様に、再帰反射鏡121cは、回転基板122の回転角度が180°からX3°(但し、180°<X3<270°)となる第3反射期間中に、プローブ光LB2を再帰反射する。同様に、再帰反射鏡121dは、回転基板122の回転角度が270°からX4°(但し、270°<X4<360°)となる第4反射期間中に、プローブ光LB2を再帰反射する。以降、同様の動作が繰り返される。
【0101】
その結果、演算処理部150は、第1反射期間中に、第1テラヘルツ波THz1の波形及び第2テラヘルツ波THz2の波形を含むテラヘルツ波THz0の波形を示す波形信号を取得する。第2反射期間から第4反射期間においても同様である。
【0102】
ここで、上述したように、本実施例では、各再帰反射鏡121は時間の経過と共に(つまり、各再帰反射鏡121の移動と共に)プローブ光LB2の光路が短くなるように移動し、且つ、ビームスプリッタ171と反射鏡172との間の距離d1はビームスプリッタ171と計測対象物との間の距離d2よりも大きい。この場合、演算処理部150は、ロックイン検出部145の検出結果を取得することで、各反射期間中において、第1テラヘルツTHz1の波形を示す波形信号及び第2テラヘルツ波THz2をこの順に取得する。また、第1テラヘルツTHz1の波形と第2テラヘルツTHz2の波形との間の時間的間隔は、距離d1と距離d2との差分に応じて定まる固定値となる。
【0103】
このような第2テラヘルツ波THz2の波形(波形信号)は、例えば計測対象物の特性を計測する(例えば、計測対象物の断層画像を取得する)ために利用される。このため、各反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号のピーク位置は互いに揃っている(例えば、位置ずれが生じていない各再起反射鏡121が再帰反射し始める時点での回転基板122の回転角度である0°、90°、180°及び270°に相当する時間位置からの相対的な位置が互いに揃っている)ことが好ましい。
図4(a)に示す例では、4つ再帰反射鏡121に位置ずれが生じていない。このため、各反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号のピーク位置は互いに揃っている。つまり、0°に相当する時間位置からの第1反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号の相対的なピーク位置、90°に相当する時間位置からの第2反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号の相対的なピーク位置、180°に相当する時間位置からの第3反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号の相対的なピーク位置、及び、270°に相当する時間位置からの第4反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号の相対的なピーク位置は互いに揃っている。従って、
図4(a)に示す第2テラヘルツ波THz2の波形信号を各々縦軸に並べ且つ振幅に応じた濃淡を付すことで得られる
図4(b)に示すように、第2テラヘルツ波THz2の波形信号に基づいて取得される断層画像は、段差のないX-Z断層画像(但し、Z方向は、計測対象物に対する第2テラヘルツ波THz2の入射方向であり、X方向は、計測対象物に対する第2テラヘルツ波THz2の入射方向に直交する面に沿った方向である)となることが分かる。
【0104】
一方で、
図5(a)は、光遅延器120が備える4つ再帰反射鏡121(再帰反射鏡121aから再帰反射鏡121d)のうち再帰反射鏡121b及び121cに位置ずれが生じている場合の、テラヘルツ波THz0の波形を示す。具体的には、再帰反射鏡121bは、再帰反射鏡121bに生じている位置ずれに起因して、回転基板122の回転角度が70°からY2°(但し、70°<Y2<190°)となる第2反射期間中に、プローブ光LB2を再帰反射している。同様に、再帰反射鏡121cは、再帰反射鏡121cに生じている位置ずれに起因して、回転基板122の回転角度が190°からX3°となる第3反射期間中に、プローブ光LB2を再帰反射している。
【0105】
この場合、各反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号のピーク位置は、再帰反射鏡121b及び121cの位置ずれに起因して、互いに揃っていない。つまり、0°に相当する時間位置からの第1反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号の相対的なピーク位置及び270°に相当する時間位置からの第4反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号の相対的なピーク位置は、90°に相当する時間位置からの第2反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号の相対的なピーク位置及び180°に相当する時間位置からの第3反射期間中の第2テラヘルツ波THz2の波形信号の相対的なピーク位置とは異なっている。従って、
図5(a)に示す第2テラヘルツ波THz2の波形信号を各々縦軸に並べ且つ振幅に応じた濃淡を付すことで得られる
図5(b)に示すように、第2テラヘルツ波THz2の波形信号に基づいて取得される断層画像は、段差のあるX-Z断層画像となってしまうことが分かる。
【0106】
他方で、
図5(a)に示す第2テラヘルツ波THz2の波形信号に基づいて段差のないX-Z断層画像を取得するためには、演算処理部150が、第2テラヘルツ波THz2の波形信号の状態が
図4(a)に示す状態にあるように、第2テラヘルツ波THz2の波形信号を取り扱えばよい。例えば、演算処理部150は、
図5(a)に示す第2テラヘルツ波THz2の波形信号のうち第2反射期間及び第3反射期間の波形信号を時間的にシフトすることで、
図5(a)に示す第2テラヘルツ波THz2の波形信号の状態が
図4(a)に示す状態にあるように第2テラヘルツ波THz2の波形信号を取り扱うことができる。つまり、演算処理部150は、再帰反射鏡121に位置ずれが生じている場合に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号の少なくとも一部を時間的にシフトすることで、再帰反射鏡121に位置ずれが生じている場合に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号を、再帰反射鏡121に位置ずれが生じていない場合に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号として取り扱うことができる。
【0107】
そこで、本実施例では、演算処理部150は、第2テラヘルツ波THz2の波形信号の少なくとも一部を時間的にシフトするために、第2テラヘルツ波THz2の波形信号の一部を用いて計測対象物の特性を計測するタイミング(つまり、上述した計測開始タイミングである)を調整する。言い換えれば、演算処理部150は、計測開始タイミングを調整することで、第2テラヘルツ波THz2の波形信号の少なくとも一部を時間的にシフトする状態を間接的に実現している。但し、演算処理部150は、計測開始タイミングを調整することに加えて又は代えて、第2テラヘルツ波THz2の波形信号の少なくとも一部を時間的にシフトしてもよい。つまり、演算処理部150は、計測開始タイミングを調整することに加えて又は代えて、第2テラヘルツ波THz2の波形信号の少なくとも一部を時間的にシフトすることで、第2テラヘルツ波THz2の波形信号の少なくとも一部を時間的にシフトする状態を直接的に実現してもよい。
【0108】
ところで、本実施例では、テラヘルツ波計測装置100が計測対象物の特性を分析している間は距離d1及び距離d2が固定されている又は変動しないことは上述したとおりである。このため、再帰反射鏡121b及び121cに位置ずれが生じている場合であっても、第2及び第3反射期間中に検出される第1テラヘルツTHz1の波形と第2テラヘルツTHz2の波形との間の時間的間隔は、第1及び第4反射期間中に検出される第1テラヘルツTHz1の波形と第2テラヘルツTHz2の波形との間の時間的間隔と同様に、距離d1と距離d2との差分に応じて定まる固定値となる。つまり、再帰反射鏡121に位置ずれが生じているか否かに関わらず、全ての反射期間において、第1テラヘルツTHz1の波形信号が取得されてから第2テラヘルツTHz2の波形信号が取得されるまでの期間は、距離d1と距離d2との差分に応じて定まる固定値となる。
【0109】
そこで、本実施例のテラヘルツ計測装置100は、第2テラヘルツ波THz2との間の時間的関係が常に固定されている第1テラヘルツ波THz1を用いて計測開始タイミングを調整する。具体的には、演算処理部150は、第1反射期間中に取得される第1テラヘルツ波THz1の波形信号に基づいて、第1反射期間中に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号を用いて計測対象物の特性の計測を開始する計測開始タイミングを調整する。同様に、演算処理部150は、第2反射期間中に取得される第1テラヘルツ波THz1の波形信号に基づいて、第2反射期間中に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号を用いて計測対象物の特性の計測を開始する計測開始タイミングを調整する。第3及び第4反射期間においても、演算処理部150は、同様の動作を行う。その結果、演算処理部150は、少なくとも一つの再帰反射鏡121に位置ずれが生じている場合であっても、再帰反射鏡121に位置ずれが生じている場合に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号を、再帰反射鏡121に位置ずれが生じていない場合に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号として取り扱うことができる。以下、このような計測開始タイミングを調整する動作について更に説明を進める。
【0110】
(3)計測開始タイミングを調整する動作
上述したように、計測開始タイミングは、主として、基準信号を生成する基準信号生成部181、インデックス信号を生成するインデックス信号生成部182及び計測開始タイミングを示す計測開始信号を生成する計測開始信号生成部183によって調整される。ここで、基準信号生成部181が、回転基板122が1回転するごとに1つのパルスが現れる基準信号を生成することは上述したとおりである。従って、以下では、インデックス信号生成部182によるインデックス信号の生成動作及び計測開始信号生成部183による計測開始信号の生成動作について更に説明を加えることで、計測開始タイミングを調整する動作についての説明を進める。
【0111】
尚、基準信号生成部181、インデックス信号生成部182及び計測開始信号生成部183は、ハードウェア回路であってもよい。或いは、基準信号生成部181、インデックス信号生成部182及び計測開始信号生成部183は、ソフトウェアにより実現される論理的な処理ブロックであってもよい。
【0112】
(3-1)インデックス信号生成部182によるインデックス信号の生成動作
はじめに、
図6から
図8を参照しながら、インデックス信号生成部182によるインデックス信号の生成動作について説明する。
図6は、インデックス信号生成部182の構成を示すブロック図である。
図7は、第1テラヘルツ波THz1の波形を示すグラフである。
図8は、インデックス信号生成部182の変形例を示すブロック図である。
【0113】
図6に示すように、インデックス信号生成部182は、低域通過フィルタ1821と、「第2検出手段」の一具体例である特徴点検出部1822と、「算出手段」の一具体例である時間位置抽出部1823と、セレクタ1824とを備えて構成されている。
【0114】
低域通過フィルタ1821は、第1テラヘルツ波THz1の波形信号に対してフィルタ処理を施すことで、所定の周波数帯域成分を抽出する。低域通過フィルタ1821は、例えば
図7(a)に示す波形信号を、
図7(b)に示す相対的に滑らかな波形信号に変換することができる。
【0115】
特徴点検出部1822は、第1テラヘルツ波THzの波形信号から特徴点を検出する。特徴点検出部1822は、例えば、最大値検出部1822aと、ゼロクロス検出部1822bと、最小値検出部1822cとを備えていてもよい。最大値検出部1822aは、
図7(b)の点Aで示される“第1テラヘルツ波THz1の瞬時値が最大となる点(最大点)”を特徴点として検出する。最小値検出部1822cは、
図7(b)の点Cで示されるような“第1テラヘルツ波THz1の瞬時値が最小となる点(最小値)”を特徴点として検出する。ゼロクロス検出部1822bは、最大値検出部1822aが検出した最大点及び最小値検出部1822cが検出した最小点を利用して、
図7(b)の点Bで示されるような“ゼロクロス点(つまり、第1テラヘルツ波THz1の瞬時値がゼロになる点)”を特徴点として検出する。
【0116】
時間位置抽出部1823は、特徴点検出部1822が検出した特徴点の時間位置を算出する。時間位置抽出部1823は、最大値検出部1822aに対応する第1時間位置抽出部1823aと、ゼロクロス検出部1822bに対応する第2時間位置抽出部1823bと、最小値検出部1822cに対応する第3時間位置抽出部1823cとを備えている。第1時間位置抽出部1823aは、最大点の時間位置を算出する。第2時間位置抽出部1823bは、ゼロクロス点の時間位置を算出する。第3時間位置抽出部1823cは、最小点の時間位置を算出する。時間位置抽出部1823は、特徴点の時間位置を、基準信号が示す基準時刻から特徴点が検出されるまでの期間として算出する。
【0117】
セレクタ1823は、第1時間位置抽出部1823a、第2時間位置抽出部1823b及び第3時間位置抽出部1823cの夫々が算出した時間位置から、いずれか一つの時間位置を選択する。セレクタ1823は、選択した時間位置を示すインデックス信号を出力する。
【0118】
以上のように、インデックス信号生成部182は、入力された第1テラヘルツ波THz1の波形信号から特徴点を検出すると共に、特徴点の時間位置を示すインデックス信号を出力する。
【0119】
尚、
図8に示すように、テラヘルツ波計測装置100は、夫々が一の反射期間に対応する複数のインデックス信号生成部182を備えていてもよい。例えば、本実施例では光遅延器120が4つの再帰反射鏡121を備えていることを考慮すれば、テラヘルツ波計測装置100は、4つのインデックス信号生成部(
図8中のインデックス信号生成部182-1、インデックス信号生成部182-2、インデックス信号生成部182-3及びインデックス信号生成部182-4)を備えていてもよい。インデックス信号生成部182-1は、再帰反射鏡121aがプローブ光LB2を再帰反射する第1反射期間中にインデックス信号を出力する。インデックス信号生成部182-2は、再帰反射鏡121bがプローブ光LB2を再帰反射する第2反射期間中にインデックス信号を出力する。インデックス信号生成部182-3は、再帰反射鏡121cがプローブ光LB2を再帰反射する第3反射期間中にインデックス信号を出力する。インデックス信号生成部182-4は、再帰反射鏡121dがプローブ光LB2を再帰反射する第4反射期間中にインデックス信号を出力する。
【0120】
上述したようにテラヘルツ計測装置100が複数のインデックス信号生成部182を備えている場合には、各再帰反射鏡121がプローブ光LB2を再帰反射する反射期間毎に別々にインデックス信号が生成される。よって、単一のインデックス信号生成部182が全ての反射期間に渡ってインデックス信号を出力することに起因するインデックス信号生成部182の処理負荷の増加が抑制される。つまり、インデックス信号生成部182の構成の複雑化が抑制される。
【0121】
また、
図8に示すように、各インデックス信号生成部182の後段には、インデックス信号の平均値を算出する平均値算出部185が配置されていてもよい。その結果、インデックス信号が示す時間位置が誤計測等に起因して意図せぬ値となってしまうことが好適に防止される。尚、平均値算出部185は、テラヘルツ計測装置100が複数のインデックス信号生成部182を備える場合のみならず、テラヘルツ計測装置100が単一のインデックス信号生成部182を備える場合においても配置されていてもよい。
【0122】
(3-2)計測開始信号生成部183による計測開始信号の生成動作
続いて、
図9を参照しながら、計測開始信号生成部183の構成について説明する。
図9は、計測開始信号生成部の構成を示すブロック図である。
【0123】
図9(a)に示すように、計測開始信号生成部183は、記憶回路1831aと、RW_CTL部1832aと、オフセット部1833aと、計測開始部1834aを備えている。
【0124】
記憶回路1831aは、インデックス信号生成部182から入力されるインデックス信号を記憶する。記憶回路1831aは、インデックス信号生成部182から入力されるインデックス信号を一時的にバッファリングする。
【0125】
RW_CTL部1832aは、各再帰反射鏡121に付与されたミラー番号に応じて、記憶回路1831aに対する読み出し制御を行う。例えば、現在時刻が再帰反射鏡121aがプローブ光LB2を再帰反射する第1反射期間に含まれる場合には、RW-CTL部1832aは、再帰反射鏡121aに付与されたミラー番号に応じたインデックス信号を読み出す。つまり、RW-CTL部1832aは、第1反射期間中にインデックス信号生成部182が生成したインデックス信号を読み出す。例えば、現在時刻が再帰反射鏡121bがプローブ光LB2を再帰反射する第2反射期間に含まれる場合には、RW-CTL部1832aは、再帰反射鏡121bに付与されたミラー番号に応じたインデックス信号を読み出す。つまり、RW-CTL部1832aは、第2反射期間中にインデックス信号生成部182が生成したインデックス信号を読み出す。第3反射期間から第4反射期間においても同様の動作が行われる。
【0126】
オフセット部1833aは、記憶回路1831aから読み出されたインデックス信号を一定値減算する。一定値が減算されたインデックス信号は、計測開始タイミングの調整量を示す信号として、計測開始部1834aに出力される。
【0127】
一例として、一定値は、各再帰反射鏡121に位置ずれが生じていない場合に検出されるインデックス信号であってもよい。このような一定値は、例えば、動作パラメータとして、テラヘルツ計測装置100が備えるメモリ等に予め格納されていてもよい。この場合、オフセット部1833aは、再帰反射鏡121aがプローブ光LB2を再帰反射する第1反射期間中に読み出したインデックス信号から、再帰反射鏡121aに位置ずれが生じていない場合に検出されるインデックス信号に相当する一定値を減算する。再帰反射鏡121aに位置ずれが生じていない場合には、一定値が減算されたインデックス信号に相当する計測開始タイミングの調整量は、ゼロとなる。従って、この場合には、計測開始タイミングとしてデフォールトの計測開始タイミングが用いられる。再帰反射鏡121aに位置ずれが生じている場合には、一定値が減算されたインデックス信号に相当する計測開始タイミングの調整量は、ゼロとは異なる所望量となる。この調整量は、再帰反射鏡121aの位置ずれに起因した第2テラヘルツ波THz2の時間的なずれ量に相当する(
図5(a)及び
図5(b)参照)。従って、この場合には、計測開始タイミングとして、デフォールトの計測開始タイミングに対して調整量に基づく調整が施された計測開始タイミングが用いられる。
【0128】
尚、第1反射期間中のインデックス信号に限らず、オフセット部1833aは、第2反射期間から第4反射期間中のインデックス信号に対しても同様の処理を行う。つまり、オフセット部1833aは、第2反射期間中に読み出したインデックス信号から、再帰反射鏡121bに位置ずれが生じていない場合に検出されるインデックス信号に相当する一定値を減算する。オフセット部1833aは、第3反射期間中に読み出したインデックス信号から、再帰反射鏡121cに位置ずれが生じていない場合に検出されるインデックス信号に相当する一定値を減算する。オフセット部1833aは、第4反射期間中に読み出したインデックス信号から、再帰反射鏡121dに位置ずれが生じていない場合に検出されるインデックス信号に相当する一定値を減算する。
【0129】
計測開始部1834aは、オフセット部1833aが出力する調整量及び基準信号に基づいて、対応する再帰反射手段121がプローブ光LB2を再帰反射する反射期間中の計測開始タイミングを調整する。例えば、計測開始部1834aは、第1反射期間中にオフセット部1833aが出力する調整量及び基準信号に基づいて、第1反射期間中の計測開始タイミングを調整する。例えば、計測開始部1834aは、第2反射期間中にオフセット部1833aが出力する調整量及び基準信号に基づいて、第2反射期間中の計測開始タイミングを調整する。第3反射期間及び第4反射期間においても同様の動作が行われる。
【0130】
計測開始部1834aは、調整した計測開始タイミングを規定する計測開始信号を演算処理部150に出力する。その結果、演算処理部150は、計測開始部1834aから出力される計測開始信号が規定する計測開始タイミングに同期して、第2テラヘルツTHz2の波形信号に基づく計測対象物の特性の計測を開始する。例えば、演算処理部150は、第1反射期間中には、第1反射期間中に計測開始部1834aから出力される計測開始信号が規定する計測開始タイミングに同期して、第2テラヘルツTHz2の波形信号に基づく計測対象物の特性の計測を開始する。第2反射期間から第4反射期間においても同様の動作が行われる。
【0131】
ここで、
図5(a)に示すように、再帰反射鏡121b及び121cに位置ずれが生じている場合の計測開始タイミングについて説明する。
【0132】
まず、再帰反射鏡121aに位置ずれが生じていないがゆえに、第1反射期間中に検出される第1テラヘルツ波の波形信号に基づいて算出される計測開始タイミングの調整量は、ゼロとなる。このため、演算処理部150は、第1反射期間中には、デフォールトの計測開始タイミングで、第2テラヘルツTHz2の波形信号に基づく計測対象物の特性の計測を開始する。尚、第4反射期間においても同様の動作が行われる。
【0133】
一方で、再帰反射鏡121bに位置ずれが生じているがゆえに、第2反射期間中に検出される第1テラヘルツ波の波形信号に基づいて算出される計測開始タイミングの調整量はゼロとは異なる所望量となる。従って、演算処理部150は、第2反射期間中には、調整済みの計測開始タイミングで、第2テラヘルツTHz2の波形信号に基づく計測対象物の特性の計測を開始する。尚、第3反射期間においても同様の動作が行われる。
【0134】
ここで、再帰反射鏡121bに位置ずれが生じている場合であっても、第2反射期間中に検出される第1テラヘルツTHz1の波形と第2テラヘルツTHz2の波形との間の時間的間隔は固定値となる。このため、再帰反射鏡121bに位置ずれに起因した第1テラヘルツ波THz1の波形の時間的なずれ量は、再帰反射鏡121bに位置ずれに起因した第2テラヘルツ波THz2の波形の時間的なずれ量と等しくなる。従って、第2反射期間中に検出される第1テラヘルツ波の波形信号に基づいて算出される計測開始タイミングの調整量は、再帰反射鏡121bに位置ずれが生じている場合に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号を、再帰反射鏡121bに位置ずれが生じていない場合に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号として取り扱うことが可能な計測開始タイミングを実質的に示している。つまり、第2反射期間中に検出される第1テラヘルツ波の波形信号に基づいて算出される計測開始タイミングの調整量は、再帰反射鏡121bに位置ずれが生じている場合に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号を時間的にシフトさせることで再帰反射鏡121bに位置ずれが生じていない場合に取得される第2テラヘルツ波THz2の波形信号に実質的に変換することが可能な計測開始タイミングを実質的に示している。従って、演算処理部150は、このような調整量に基づいて調整済みの計測開始タイミングで計測対象物の特性の計測を開始することで、再帰反射鏡121bの位置ずれの影響を排除しながら、計測対象物の特性を計測することができる。
【0135】
尚、
図9(b)に示すように、計測開始信号生成部183は、加算部1835bと除算部1836bを更に備えていてもよい。この場合、加算部1835bは、過去n個分のインデックス信号を加算する。加算部1835bが加算した過去n個分のインデックス信号は、除算部1836bによってnで除算される。これにより、過去n個分のインデックス信号の平均値が算出される。従って、インデックス信号の平均値を用いて、計測開始タイミングを規定する計測開始信号が出力される。このようにインデックス信号の平均値が用いられると、誤計測等によって不適切な計測開始信号が生成されてしまうことが防止される。
【0136】
また、
図9(c)に示すように、計測開始信号生成部183は、m個(即ち、再帰反射鏡121と同数)の低域通過フィルタ1837cを備えていてもよい。この場合、m個の低域通過フィルタ1837cにおいてインデックス信号にフィルタ処理が施されるため、ノイズの影響を抑制しつつ計測開始信号が生成される。
【0137】
以上説明したように、本実施例のテラヘルツ波計測装置100は、第2テラヘルツ波THzを計測対象物に照射する。このため、テラヘルツ波計測装置100は、第2テラヘルツ波THzの検出結果に基づいて、計測対象物の特性を計測することができる。
【0138】
更に、テラヘルツ計測装置100は、第1テラヘルツ波THz1を計測対象物に照射しない。このため、テラヘルツ波計測装置100は、第1テラヘルツ波THz1の検出結果に基づいて、第2テラヘルツ波THzの検出結果に基づく計測対象物の特性の計測を開始する計測開始タイミングを調整することができる。例えば、再帰反射鏡121の位置ずれに起因して、テラヘルツ検出素子130が第2テラヘルツ波THz2を検出するタイミングがばらつくことは上述したとおりである(
図5(a)及び
図5(b)参照)。このようにテラヘルツ検出素子130が第2テラヘルツ波THz2を検出するタイミングがばらつく場合であっても、テラヘルツ波計測装置100は、テラヘルツ検出素子130が第2テラヘルツ波THz2を検出するタイミングのばらつきが計測対象物の特性の計測に対して与える影響が排除されるように、計測開始タイミングを第1テラヘルツ波THz1の検出結果に基づいて調整することができる。その結果、テラヘルツ波計測装置100は、テラヘルツ波THzを利用して、計測対象物の特性を相対的に高精度に計測することができる。
【0139】
更には、テラヘルツ波計測装置100は、第2テラヘルツ波THz2の検出結果に基づいて計測対象物の特性を計測しながら、第1テラヘルツ波THz1の検出結果に基づいて計測開始タイミングを調整することができる。つまり、テラヘルツ波計測装置100は、第2テラヘルツ波THz2の検出結果に基づく計測対象物の特性の計測と並行して、計測開始タイミングを第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて逐次(言い換えれば、リアルタイムに)調整することができる。
【0140】
更に、各再帰反射鏡121は時間の経過と共に(つまり、各再帰反射鏡121の移動と共に)プローブ光LB2の光路が短くなるように移動し、且つ、ビームスプリッタ171と反射鏡172との間の距離d1はビームスプリッタ171と計測対象物との間の距離d2よりも大きい。このため、演算処理部150は、ロックイン検出部145の検出結果を取得することで、各反射期間中において、第1テラヘルツTHz1の波形を示す波形信号及び第2テラヘルツ波THz2をこの順に取得する。従って、テラヘルツ計測装置100は、ある反射期間中における第1テラヘルツ波の検出結果に基づいて計測開始タイミングを調整した後に、当該ある反射期間中において、調整した計測開始タイミングで第2テラヘルツ波THz2の検出結果に基づく計測対象物の特性の計測を開始することができる。
【0141】
尚、各再帰反射鏡121が時間の経過と共にプローブ光LB2の光路が長くなるように移動する場合には、距離d1は距離d2よりも小さいことが好ましい。或いは、各再帰反射鏡121がプローブ光LB2に代えてポンプ光LB1を再帰反射する場合であって且つ各再帰反射鏡121が時間の経過と共にポンプ光LB1の光路が短くなるように移動する場合には、距離d1は距離d2よりも小さいことが好ましい。或いは、各再帰反射鏡121がプローブ光LB2に代えてポンプ光LB1を再帰反射する場合であって且つ各再帰反射鏡121が時間の経過と共にポンプ光LB1の光路が長くなるように移動する場合には、距離d1は距離d2よりも大きいことが好ましい。その結果、演算処理部150は、ロックイン検出部145の検出結果を取得することで、各反射期間中において、第1テラヘルツTHz1の波形を示す波形信号及び第2テラヘルツ波THz2をこの順に取得することができる。
【0142】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うテラヘルツ波計測装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。