(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036507
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】人工関節用ステムの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/32 20060101AFI20240308BHJP
A61L 27/30 20060101ALI20240308BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20240308BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20240308BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240308BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61F2/32
A61L27/30
A61L27/04
A61L27/06
A61L27/40
A61L27/54
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015696
(22)【出願日】2024-02-05
(62)【分割の表示】P 2022527456の分割
【原出願日】2020-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】野田 岩男
(57)【要約】
【課題】被膜が剥離するおそれを低減する。
【解決手段】本開示に係る人工関節ステムの製造方法は、基体の表面に粗面を形成する粗面化工程と、前記基体の表面の少なくとも一部にリン酸カルシウム系材料と抗菌材料とを含む被膜を形成する被膜形成工程とを有し、前記被膜形成工程では、前記基体の表面のうち、前記粗面を形成する領域の一部のみと、前記被膜を形成する領域の少なくとも一部が重なるように形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に粗面を形成する粗面化工程と、
前記基体の表面の少なくとも一部にリン酸カルシウム系材料と抗菌材料とを含む被膜を形成する被膜形成工程と、を有し、
前記被膜形成工程では、前記基体の表面のうち、前記粗面を形成する領域の一部のみと、前記被膜を形成する領域の少なくとも一部が重なるように形成する、人工関節用ステムの製造方法。
【請求項2】
前記粗面化工程よりも後に前記被膜形成工程を行う、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項3】
前記被膜形成工程では、前記粗面化工程にて前記粗面を形成した領域の一部のみと、前記被膜を形成する領域の全体が重なるように形成する、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項4】
さらに、金属材料を成形し前記基体を準備する準備工程を含む、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項5】
前記金属材料は、ステンレス合金、コバルト・クロム合金、チタンまたはチタン合金である、請求項4に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項6】
前記粗面化工程は、溶射法、積層造形法、化学エッチング法、およびブラスト法の少なくともいずれか一つの方法によって前記粗面を形成する工程である、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項7】
前記粗面化工程は、溶射法または積層造形法によって前記粗面を形成する、請求項6に記載の人工関節ステムの製造方法。
【請求項8】
前記粗面化工程は、溶射法によって粗面を形成する工程、および、化学エッチング法またはブラスト法によって粗面を形成する工程を含む、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項9】
前記粗面化工程は、前記基体上に層状部材を形成する工程を含む、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項10】
前記の層状部材を形成する工程において、前記層状部材は前記基体と同じ材料で形成される、請求項9に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項11】
前記の層状部材を形成する工程において、前記層状部材はチタン合金で形成される、請求項9に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項12】
前記粗面化工程よりも前に、前記粗面を形成する領域を露出させつつ、前記粗面を形成しない領域を保護する第1保護材を配置する工程を有する、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項13】
前記粗面化工程よりも後で、前記被膜形成工程よりも前に、前記第1保護材を除去する工程を有する、請求項12に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項14】
前記粗面化工程の後に、前記粗面の縁を削る工程を有する、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項15】
前記粗面化工程の後に、前記基体および前記粗面を洗浄する工程を有する、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項16】
前記被膜形成工程よりも前に、前記被膜を形成する領域を露出させつつ、前記被膜を形成しない領域を保護する第2保護材を配置する工程を有する、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【請求項17】
前記抗菌材料は無機系抗菌剤である、請求項1に記載の人工関節用ステムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人工関節用ステムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨の傷害および疾病の双方の治療への生体インプラントの使用は、活動的な人口および老人人口の増加と共に絶えず拡大している。その中で、抗菌性および骨への固着性等の観点から、コーティングを施した生体インプラントが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、医療用インプラントのためのコーティングであって、一部に骨結合剤を含有するとともに、銀を含む抗菌金属剤を含有するコーティングが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被膜が剥離するおそれを低減する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る人工関節用ステムの製造方法は、基体の表面に粗面を形成する粗面化工程と、前記基体の表面の少なくとも一部にリン酸カルシウム系材料と抗菌材料とを含む被膜を形成する被膜形成工程と、を有し、前記被膜形成工程では、前記基体の表面のうち、前記粗面を形成する領域の一部のみと、前記被膜を形成する領域の少なくとも一部が重なるように形成する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、被膜が剥離するおそれを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図2】一実施形態に係る人工関節用ステムの粗面を示す模式図である。
【
図3】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図4】一実施形態に係る人工関節用ステムの粗面を示す模式図である。
【
図5】一実施形態に係る人工関節用ステムの被膜の表面に設けられた穴の断面を示す模式図である。
【
図6】一実施形態に係る人工関節用ステムの断面を示す図であり、
図3のA-A'における断面を示す図である。
【
図7】一実施形態に係る人工股関節を示す模式図である。
【
図8】一実施形態に係る人工関節用ステムの製造方法を示す工程図である。
【
図9】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図10】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図11】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図12】一実施形態に係る人工関節用ステムの断面を示す模式図である。
【
図13】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図14】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図15】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図16】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図17】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図18】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図19】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【
図20】一実施形態に係る人工関節用ステムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0010】
〔1.人工関節用ステム〕
まず、
図1~
図6を参照して、一実施形態に係る人工関節用ステム100および人工関節用ステム101の構成を説明する。人工関節用ステム100および人工関節用ステム101は、本実施形態に係る人工関節用ステムの一例であり、人工関節用ステム100と人工関節用ステム101とでは、人工関節用ステムの外表面における粗面、および表面に配されている被膜の領域が異なる。
図1は、人工関節用ステム100を示す模式図であり、
図2は人工関節用ステム100から被膜20を取り除き、粗面21が見える状態を示す図である。
図1に示すように、人工関節用ステム100は、基体10と、基体10上に位置する被膜20と、を備える。被膜20は、リン酸カルシウム系材料および抗菌材料を含む。リン酸カルシウム系材料は、骨への固着性を向上させる効果がある。また、抗菌材料は、細菌の付着および増殖を低減させる効果がある。
【0011】
また、被膜20の表面は穴200および溝220等の少なくとも1つの凹部2Xを有する。そして、被膜20の表面のうち、凹部2Xが配された領域20Xは、その他の領域20Yよりも小さい。また、凹部2Xは、互いに非連続に配置された複数の穴200を有している。そして、穴200の少なくとも1つは、底面が多角形状の平面形状を有する。
【0012】
また、
図2に示す粗面21に被膜20は配されているとともに、粗面21の一部は、被膜20に覆われておらず露出している。すなわち、粗面21は、被膜20から露出している露出領域211を有する。被膜20が、粗面21上に位置していることによって、被膜20の剥離を低減することができる。
【0013】
また、露出領域211の表面粗さは、被膜20の表面粗さよりも大きい。
【0014】
また、
図2に示すように、露出領域211は、粗面21の被膜が配されている領域よりも小さく、人工関節用ステム100が使用されるときの人体における近位側となる方向を上方向とした場合に、露出領域211は、被膜20の下端側のみに位置している。そして、被膜20の下端部の縁は、粗面21の下端部の縁に沿っている。
【0015】
また、溝220は、複数存在し、そのうちの少なくとも1つの溝(第1溝)220は、一方の先端が露出領域211に位置している。また、他の溝の少なくとも1つの溝(第2溝)は、両端が被膜20上に位置している。
【0016】
次に、
図5を参照して、穴200の詳細について説明する。
図5は、穴200の断面を示す模式図である。
【0017】
また、
図5に示すように、穴200、一方向に沿って深さが大きくなっている。
図5に示す例では、穴200の一方の深さがDA、他方の深さがDBであり、DA<DBとなっている。
【0018】
図3は、人工関節用ステム101を示す模式図であり、
図3は人工関節用ステム101から被膜20Aを取り除き、粗面21Aが見える状態を示す図である。
図3に示す人工関節用ステム101も、
図1に示す人工関節用ステム100と同様に、基体10と、基体10に位置する被膜20Aとを備える。被膜20Aは、リン酸カルシウム系材料および抗菌材料を含む。
【0019】
人工関節用ステム101は、人工関節用ステム100と被膜20および粗面21の形状が異なる。
図3に示すように、人工関節用ステム101における被膜20Aは、鉛直方向の長さが、位置により異なっている。
【0020】
そして、
図3および
図4に示すように、被膜20Aの縁は、粗面21Aの縁と非平行となっている。
【0021】
図6は、
図3のA-A’断面の表層を拡大して示した図である。基体10には、粗面21Aに相当する領域10Aとその他の領域10Bとが含まれ、被膜20Aは、領域10Aおよび領域10Bを跨ぐように形成されている。すなわち、被膜20Aは、隣接する二種類の面の境界部分に、二種類の面を共に被覆するように配される。そして、領域10Bのうち被膜20Aに覆われていない領域は被膜20Aから露出している。
【0022】
上記のように、被膜20Aは、領域10Aおよび領域10Aと異なる外表面である領域10Bを跨いで位置した被覆領域10Cを有している。そして、この被覆領域10Cは、基体10の下端側に位置している。また、被覆領域10Cが位置した外表面の表面粗さは、被覆領域10Cから露出した領域10Bの表面粗さよりも大きい。
【0023】
人工関節用ステム100および人工関節用ステム101において、表面粗さの指標としては、例えば算術平均粗さSa(ISO 25178)が挙げられる。被膜20(20A)の表面粗さ(Sa)は、例えば、10~80μmに設定されてもよいし、20~80μmに設定されてもよいし、30~70μmに設定されてもよい。また、基体10の表面粗さ(Sa)は、例えば、1.0μm未満に設定されていればよい。
【0024】
なお、表面粗さSaは、当該領域(例えば、粗面21、粗面21Aに対応する領域)全体の測定結果から求めることができる。被膜20(20A)の表面粗さ、または基体10の表面粗さは、例えば、触針式または光学式の形式で測定されていればよい。また、表面粗さは、例えば「ISO 25178」に従って、測定されていればよい。なお、表面粗さの測定は、上記の手法に限られない。
【0025】
ここで、従来、抗菌性と、骨への固着性の制御とを両立するという観点から、人工関節用ステムには改善の余地があった。すなわち、例えば、人工関節用ステム表面の全てが、骨結合剤および抗菌金属剤を含むコーティングに覆われている場合、人工関節用ステムと骨との固着性を制御することが難しかった。この場合、術後に人工関節用ステムの抜去が必要となった際に、抜去が困難になる可能性があった。例えば、人工関節用ステム100(101)のうち骨に埋設される部分がコーティングを介して骨へ過度に固着するおそれがあった。
【0026】
本開示に係る人工関節用ステム101であれば、領域10Aおよび領域10Bを跨ぐ被膜20Aを有し、且つ、領域10Aにおける被膜20Aの表面粗さが領域10Bに比べて大きい。それゆえ、骨との固着性および抗菌性を十分に確保することができる。一方、領域10Bは被膜20Aから露出しており、且つ、表面粗さが領域10Aに比べて小さい。よって、骨との過度な固着を低減することができる。以上のことから、人工関節用ステム101によれば、抗菌性と、骨への固着性の制御とを両立することができる。
【0027】
基体10には、金属、セラミックスまたはプラスチックを用いることができる。金属としては、ステンレス合金、コバルト・クロム合金、チタンおよびチタン合金等が挙げられる。チタン合金としては、アルミニウム、スズ、ジルコニウム、モリブデン、ニッケル、パラジウム、タンタル、ニオブ、バナジウムおよび白金等のうちの少なくとも1種をチタンに添加した合金を用いることができる。また、セラミックスとしては、例えば、アルミナ、ジルコニアおよびアルミナ・ジルコニア複合セラミックス等が挙げられる。また、プラスチックとしては、ポリエチレン、フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂およびベークライト等が挙げられる。なお、本実施形態では、基体10は、チタン合金で形成されている。
【0028】
基体10の形状は例えば略棒状であってもよいが、適用する人工関節の形状に応じて適宜変更することができる。
【0029】
人工関節用ステム101は、層状部材30をさらに備えていてもよい。層状部材30は、領域10A上に配され得る。これにより、
図6に示すように、領域10Aは、層状部材30が設けられていない領域よりも高くなる。よって、人工関節用ステム101を骨に埋設した際、主に領域10Aを骨に接触させることができる。本明細書において「層状部材」とは、基体10上に積層された、被膜20とは異なる部材を意味する。例えば、層状部材30の表面を粗面としてもよい。これにより、骨と主に接触する領域を粗面とすることができる。後述のように溶射法によって層状部材30を形成してもよい。または、多孔質構造として層状部材30を形成してもよい。
【0030】
なお、層状部材30の高さは、例えば、下限が100μm以上に設定されていればよく、300μm以上に設定されてもよい。また、上限は、例えば、1000μm以下に設定されていればよく、700μm以下に設定されてもよい。また、層状部材30の表面粗さは、例えば、10~80μmに設定されてもよいし、20~80μmに設定されてもよいし、30~70μmに設定されてもよい。
【0031】
このように、層状部材30の厚みは、被膜20Aの厚みよりも大きい。
【0032】
なお、層状部材30を設けずに、基体10を、主に領域10Aを骨に接触させることができる形状としてもよい。例えば、領域10Aが、領域10Bに対して盛り上がった形状であってもよい。
【0033】
層状部材30の材料としては、基体10の材料として例示した材料を用いることができる。例えば層状部材30は、金属からなってもよい。層状部材30の材料と基体10の材料は、同じ材料を用いてもよいが、異なっていてもよい。これにより、十分な強度を確保できる。なお、本実施形態では、層状部材30は、チタン合金で形成されている。
【0034】
層状部材30は、層状部材30の内部と比較して、高さの低い縁を有していてもよい。本明細書において、「層状部材の内部」とは、層状部材30の面方向における内側を意味する。これにより、層状部材30の縁への応力の集中を低減することができる。
【0035】
被膜20は、リン酸カルシウム系材料および抗菌材料を含む。リン酸カルシウム系材料としては、例えばヒドロキシアパタイト、α-第3リン酸カルシウム、β-第3リン酸カルシウム、第4リン酸カルシウム、リン酸8カルシウム、およびリン酸カルシウム系ガラスからなる群から選択される1種または2種以上の混合物を用いることができる。抗菌材料としては、天然系抗菌剤、有機系抗菌剤、無機系抗菌剤を用いることができる。天然系抗菌剤としては例えばヒノキチオール、有機系抗菌剤としては例えば塩化ベンザルコニウム、無機系抗菌剤としては金属を用いることができ、金属としては、例えば銀、銅、亜鉛などを用いることができる。被膜20はリン酸カルシウム系材料および抗菌材料のほかに、ガラスセラミックスを含んでいてもよく、ペニシリン、バンコマイシンといった抗菌薬を含んでいてもよい。
【0036】
被膜20中の抗菌材料の濃度は、例えば、0.05重量%~3.00重量%、0.05重量%~2.50重量%、0.05重量%~1.00重量%、または0.1重量%~1.00重量%であってもよい。抗菌材料の濃度が0.05重量%以上であれば、十分な抗菌性を得られる。また、抗菌材料の濃度が3.00重量%以下であれば、生体組織に対する負担を低減することができる。
【0037】
被膜20中において抗菌材料の濃度勾配が存在してもよい。例えば被膜20の上端部に含まれる抗菌材料の濃度は、被膜の下端部に含まれる抗菌材料の濃度よりも大きくてもよい。これにより、被膜20の上端部側からの細菌の侵入をより効果的に低減することができる。抗菌材料は、被膜20の上端部にのみ含まれていてもよい。
【0038】
基体10上には、被膜20の有無によって定義された境界線が存在し得る。当該境界線が基体10を一周した長さは、その境界線の上下に位置する基体10の一部の周囲の長さより大きくてもよい。例えば当該境界線の存在する部分が基体10上に節状に盛り上がっていてもよい。
【0039】
被膜20は、層状部材30上に配されていてもよい。上述のように層状部材30は骨と主に接触し得る。層状部材30上に被膜20があることで、骨への固着性および抗菌性をより向上することができる。
【0040】
層状部材30の高さは、被膜20の厚みより大きくてもよい。これにより、層状部材30が形成された領域は、被膜20のみが形成された領域よりも高くなるため、層状部材30が形成された領域を主に骨と接触させることができる。被膜20の厚みは、例えば、100μm未満に設定されていればよく、50μm未満に設定されてもよい。また、被膜20の厚みは、例えば、5μm以上に設定されていればよい。
【0041】
領域10Bは、被膜20Aから露出している。被膜20Aが配されている部分と被膜20Aから露出している部分との識別は、各領域の表面の元素分析によって可能である。元素分析の方法は、例えば一般的な走査電子顕微鏡(SEM)の付属装置であるエネルギー分散型X線分析(EDX)装置による表面元素のマッピングで実施できる。また、X線光電子分光法、オージェ電子分光法、二次イオン質量分析法等の表面分析法を用いてもよい。また、各領域の表面を機械的に削り落として得られた試料を化学分析して、元素を確認してもよい。例えば、被膜20Aが配されている領域10Aの表面では、リン、カルシウム、抗菌成分等が検出される。領域10Bの表面では、基体10を構成する元素が検出され、リン、カルシウム、抗菌成分等は検出されない、または、ノイズレベル以下である。
【0042】
また、上述のような基体10は、本体部と、本体部の上端部に接続したネック部とを備えていてもよい。本体部は、大腿骨部に埋設され得る。ネック部は、大腿骨から露出しており、骨頭が設けられて、人工関節用ステムの対になる寛骨臼カップに設置され得る。
【0043】
本体部は、上下方向に沿って延びた中心軸を有する下部と、下部から連続して上下方向に延びるとともに、上方向に向かうにつれて中心が中心軸から離れるように湾曲した湾曲部を含む形状を有した上部とを有している。なお、基体10に関する上下方向の上は人体における近位側、下は人体における遠位側に対応しているとも言える。また、上部は、中心軸からずれて配された上端面を有しており、上端面には、ネック部が接続している。ネック部は、本体部(上端面)よりも幅が小さい。言い換えれば、ネック部は、本体部から中心軸から傾いた斜めの方向に突出した凸部ともいえる。
【0044】
また、基体10は、本体部とネック部との接続部に設けられたカラーをさらに有していてもよい。カラーは、上端面の面方向に向かって上記接続部から突出した突出部である。カラーは、人工関節用ステムの手術時に、本体部が大腿骨に入り込みすぎるのを低減することができる。
【0045】
図9に示す人工関節用ステム102も本開示に係る人工関節用ステムに包含される。例えば、被膜20の表面に開口した開口部を有する凹部25が設けられていてもよい。被膜20の上端部側に位置する凹部25の開口面積は、被膜20の下端部側に位置する凹部25の開口面積より大きくてもよい。被膜20の上端部のみに凹部25が設けられていてもよい。
【0046】
図10に示す人工関節用ステム103も本開示に係る人工関節用ステムに包含される。例えば、基体10は、溝を有し、前記溝は、被膜20が配された領域および被膜20から露出している領域を跨いで配されていてもよい。前記溝は、被膜20の上端部まで延びていてもよい。粗面に位置した前記溝の中の表面粗さは、粗面に位置した基体10の表面粗さより小さくてもよい。
【0047】
基体10は、凹状に湾曲する内側部13と、凸上に湾曲する外側部14を有していてもよい。ここで、溝は、上下方向に延びており、溝の上端は、湾曲部に位置していてもよい。また、収縮部40´bにおいて、内側部13および外側部14のいずれかに折れていてもよい。例えば溝は、収縮部40´bにおいて、内側部13に折れていてもよい。また、溝の下端部の深さは、溝の上端部の深さよりも小さくてもよい。また、溝の下端部の幅は、溝の上端部の幅よりも小さくてもよい。また、溝の一端は被膜20から露出し、他端は収縮部40´bに位置していてもよい。
【0048】
被膜20が配された領域に位置する前記溝を第1溝11とし、基体10の表面が被膜20から露出している領域に位置する前記溝を第2溝12とする。第1溝11は、第2溝12に接続していてもよく、接続していなくてもよい。すなわち、第1溝11と第2溝12とが一続きの溝として形成されていてもよい。第1溝11の上端部が内側部13側へ折れていてもよい。換言すれば、第1溝11は、基体10の上下方向に延びる第1部11aと、第1部11aに接続して基体10の幅方向に沿う成分を有する第2部1bとを有していてもよい。第2溝12の深さが、第1溝11の深さより小さくてもよい。
【0049】
基体10は複数の溝を有していてもよい。また、基体10は、第1溝11と第2溝12とが接続した第1の溝セット15と、第1溝11と第2溝12とが接続しており、且つ第1の溝セット15よりも第1溝11が被膜20の上端部へ延びている第2の溝セット16とを備えていてもよい。
【0050】
さらに基体10が第1の溝セット15を複数備えていてもよい。複数の第1の溝セット15は基体10の幅方向に並んでいてもよい。複数の第1の溝セット15のうち、外側部14側に位置する第1の溝セット15は、内側部13側に位置する第1の溝セット15よりも上方に位置してもよい。
【0051】
図11に示す人工関節用ステム104も本開示に係る人工関節用ステムに包含される。例えば、基体10は、複数の溝を備え、基体10の上部に位置する溝は、基体10の下部に位置する溝よりも幅が大きくてもよい。当該溝は、基体10の幅方向に沿う成分を有していてもよい。
図12は、
図11のC-C’断面を示している。
図12に示すように基体10の幅方向に沿う溝は、上方に向かって浅くなってもよい。
【0052】
被膜20の下端の縁(第1境界線1)は、前記溝の直線部と交差してもよい。ここで、第1境界線1は、前記溝の直線部と斜めに交差してもよい。すなわち、第1境界線1は、前記溝の直線部と直交していなくてもよい。
【0053】
また、第1境界線1は、前記溝に交差する方向に延びた第1部1aと、前記溝に沿う方向に延びた第2部1bとを有していてもよい。第2部1bは前記溝と離れて配されていてもよい。すなわち、第2部1bは前記溝と接していなくてもよい。被膜20の上端の縁(第2境界線2)も同様である。
【0054】
第1溝11と第2溝12とが接続されており、且つ第1溝11は、基体10の上下方向に延びる第1部11aと、第1部11aに接続して基体10の幅方向に沿う成分を有する第2部11bとを有していてもよい。
図11に示すように、第2境界線2は、第1溝111の第2部11bに沿った方向に延びていてもよい。
【0055】
また、
図11に示すように、第2境界線2は、内側部13から外側部14に向かって上方に傾いて配されていてもよい。また、
図11に示すように、第1境界線1は、内側部13において凹部の頂点13aよりも下方に位置していてもよい。第1境界線1は、外側部14において凸部の頂点14aよりも下方に位置していてもよい。あるいは、第1境界線1は、外側部14において凸部の頂点14aよりも上方に位置していてもよい。
【0056】
図13に示す人工関節用ステム105も本開示に係る人工関節用ステムに包含される。例えば、被膜20の有無によって規定された境界線と前記溝とが鋭角で交わっていてもよい。
図13では、第1境界線1と第2溝12とがなす角のうち、内側部13側の角γが鋭角となっている。
【0057】
図14に示す人工関節用ステム106も本開示に係る人工関節用ステムに包含される。例えば、基体10は、上方から順に粗面領域70、非粗面領域80、溝領域90を備えている。粗面領域70には粗面が配されている。非粗面領域80は粗面が配されていない領域である。溝領域90には溝が配されている。例えば、粗面領域70は粗面が配されているが溝が配されていない領域、非粗面領域80は粗面および溝のいずれも配されていない領域、溝領域90は粗面が配されておらず溝が配されている領域であってもよい。被膜20は粗面領域70、非粗面領域80および溝領域90の少なくともいずれかを覆っていてもよい。粗面領域70の面積は、非粗面領域80の面積より小さくてもよい。基体10の幅方向において、粗面領域70の長さは非粗面領域80の長さよりも大きくてもよい。粗面領域70と非粗面領域80との境界線23は、内側部13から外側部14に向かって上方に傾いていてもよい。粗面領域70の内側部13側の長さL3は、粗面領域70の外側部14側の長さL4より小さくてもよい。ここで、長さL3は、粗面領域70の内側部13側においてY座標が最大になる点と、Y座標が最小になる点との間のY座標の差を表す。長さL4は、粗面領域70の外側部14側においてY座標が最大になる点と、Y座標が最小になる点との間のY座標の差を表す。
【0058】
図15から
図20に示す人工関節用ステム100A~100Fも本開示に係る人工関節用ステムに包含される。例えば、人工関節用ステム100Aのように溝220Aが設けられていてもよいし、人工関節用ステム100Bのように穴200Bが設けられていてもよいし、人工関節用ステム100Cのように溝220Cが設けられていてもよいし、人工関節用ステム100Dのように溝220Dが設けられていてもよいし、人工関節用ステム100Eのように溝220Eが設けられていてもよいし、人工関節用ステム100Fのように穴200Fが設けられていてもよい。また、上記の例では、被膜20の上端および下端に露出領域がある例を説明したが、
図17に示すように、露出領域が、被膜20の上側のみに位置していてもよい。
【0059】
〔2.人工関節用ステムの製造方法〕
一実施形態に係る人工関節用ステムの製造方法は、準備工程と、粗面化工程と、被膜形成工程とを含む。準備工程は、第1領域および第2領域と、第1領域の少なくとも一部と重複した粗面化領域を含む表面を有する基体10を準備する。基体10を準備した後、粗面化工程は、準備した基体10の粗面化領域に対し粗面を形成する工程である。被膜形成工程は、前記基体10上の第1領域に、リン酸カルシウム系材料と抗菌材料とを含む被膜20を形成する工程である。なお、第1領域の少なくとも一部および粗面化領域の一部は、重複させる。これによって、粗面上に被膜20を形成することになり、粗面の一部が被膜20から露出することになる。
【0060】
準備工程において、金型や積層造形法などをよって金属材料を、所望の形状に成形して基体10を準備することができる。なお、基体10において、第2領域が第1領域を上下方向に挟むように位置していることによって、被膜20が形成された後に、第1境界線および第2境界線を形成することができる。また、第1領域の形状によって、被膜の第1境界線および第2境界線の形状を調整することができる。
【0061】
粗面化工程において、溶射法、積層造形法、化学エッチング法、およびブラスト法の少なくともいずれか一つの方法によって粗面を形成することができる。ブラスト法に比べると、溶射法、積層造形法または化学エッチング法は、表面粗さを大きくすることができる。溶射材料、積層造形材料としては、基体10の材料として例示した材料を用いることができる。溶射法、積層造形法により、上述の層状構造を形成してもよい。化学エッチング法としては、アルカリ処理等が挙げられる。ブラスト法としてはサンドブラスト等が挙げられる。なお、粗面の形成は被膜20を形成する前に行うことができる。
【0062】
所望の領域のみに粗面を形成するために、第1保護材を用いてもよい。この場合、粗面化工程の前に、粗面化領域以外に粗面が形成されないよう、粗面化領域を露出させつつ、その他の領域を保護するように第1保護材を配置する工程をさらに有していてもよい。なお、粗面化領域は、その一部が第1領域一部と重複している。すなわち、第1保護材は、第1領域の一部及び第2領域を保護するように配置されていればよい。なお、粗面化工程の後で、被膜形成工程の前に、第1保護材を除去する工程を有していてもよい。
【0063】
第1保護材としては、例えば、マスキングテープまたは衝立を用いてもよい。または、第1保護材として、基体10を覆う治具を用いてもよい。これらの第1保護材の材料としては、金属、ガラス、樹脂およびそれらの複合材料等が挙げられる。なお、第1保護材は、基体10と接触していてもよく、接触していなくてもよい。第1保護材として、基体10を覆う治具を用いる場合、当該治具の形状は特に限定されないが、例えば筒状であってもよい。筒状の治具の断面は多角形であってもよく、円形であってもよい。
【0064】
衝立を配置する場合は、衝立を所定の位置に設置することにより、特定の領域に粗面を形成することができる。治具を用いる場合は、治具を所定の位置に設置することにより、特定の領域に粗面を形成することができる。この場合、例えば、溶射材料、積層造形材料、化学エッチング材料、ブラスト材料、または被覆材料を吐出する吐出ノズルと衝立の位置関係を調整することにより、所望の領域のみに選択的に粗面を形成することもできる。この場合、吐出ノズル先端は、例えば、所望の領域の表面と、衝立を隔てずに一直線に配置すればよい。また、以下では、吐出ノズルから吐出する溶射材料、積層造形材料、化学エッチング材料、ブラスト材料、または被覆材料を吐出材料とも称する。これらに限定されず、基体10、衝立、および吐出ノズルを固定した状態で、粗面を形成させてもよいし、少なくとも一つを動かしながら、粗面を形成させてもよい。また、吐出ノズルの角度は固定してもよいし、変化させながら粗面を形成させてもよい。なお、被膜20と同様に、保護材を用いずに所望の領域のみに粗面を形成してもよい。
【0065】
なお、保護材を用いずに所望の領域のみに粗面を形成することもできる。例えば、吐出材料を吐出する吐出ノズルの形状、角度または位置等を調整することにより、所望の領域のみに選択的に粗面を形成することもできる。例えば、吐出ノズルが、所望の領域の表面より上方向に位置する状態で、吐出材料を吐出させてもよい。この場合、基体10を固定し、吐出ノズルの位置および角度を動かしながら粗面を形成してもよいし、吐出ノズルを固定し、基体10の位置および角度を動かしながら、被膜20を形成してもよい。吐出ノズルは一定速度で動かしてもよいし、速度を変化させて動かしてもよい。また、吐出材料の吐出方向は、吐出ノズルの先端から吐出ノズルの先端に対して最短距離にある基体10または粗面の表面に向けて伸ばしたベクトルと、90°の角度を成していてもよいし、90°未満の角度を成していてもよい。
【0066】
被膜20の形成は、例えば、フレーム溶射、高速フレーム溶射およびプラズマ溶射等の溶射法;スパッタリング、イオンプレーテイング、イオンビーム蒸着およびイオンミキシング法等の物理的蒸着法または化学的蒸着法;ゾルゲル法等の湿式コーティング法によって行うことができる。被膜20は、埋設部の少なくとも一部を覆うように形成されてもよい。
【0067】
第1領域のみに被膜20を形成するために、第2保護材を用いてもよい。この場合、被膜形成工程の前に、第2領域に被膜が形成されないよう、第1領域を露出させつつ第2領域を保護するように第1保護材を配置する工程をさらに有していてもよい。第2保護材としては、例えば、マスキングテープまたは衝立を用いてもよい。または、第2保護材として、基体10を覆う治具を用いてもよい。これらの第2保護材の材料としては、金属、ガラス、樹脂およびそれらの複合材料等が挙げられる。なお、第2保護材は、基体10と接触していてもよく、接触していなくてもよい。第1保護材として、例えばマスキングテーマを使用する場合には、第2保護材を第2領域状に配置すればよい。基体10を覆う治具を用いる場合、当該治具の形状は特に限定されないが、例えば筒状であってもよい。筒状の治具の断面は多角形であってもよく、円形であってもよい。なお、被膜形成工程の後に、第2保護材を除去する工程を有していてもよい。
【0068】
衝立を配置する場合は、衝立を所定の位置に設置することにより、特定の領域に被膜20を形成することができる。治具を用いる場合は、治具を所定の位置に設置することにより、特定の領域に被膜20を形成することができる。この場合、例えば、溶射材料、積層造形材料、化学エッチング材料、ブラスト材料、または被覆材料を吐出する吐出ノズルと衝立の位置関係を調整することにより、所望の領域のみに選択的に被膜20を形成することもできる。この場合、吐出ノズル先端は、例えば、所望の領域の表面と、衝立を隔てずに一直線に配置すればよい。また、以下では、吐出ノズルから吐出する溶射材料、積層造形材料、化学エッチング材料、ブラスト材料、または被覆材料を吐出材料とも称する。これらに限定されず、基体10、衝立、および吐出ノズルを固定した状態で、被膜20を形成させてもよいし、少なくとも一つを動かしながら、被膜20を形成させてもよい。また、吐出ノズルの角度は固定してもよいし、変化させながら被膜20を形成させてもよい。
【0069】
なお、保護材を用いずに所望の領域のみに被膜20を形成することもできる。例えば、吐出材料を吐出する吐出ノズルの形状、角度または位置等を調整することにより、所望の領域のみに選択的に被膜20を形成することもできる。例えば、吐出ノズルが、所望の領域の表面より上方向に位置する状態で、吐出材料を吐出させてもよい。この場合、基体10を固定し、吐出ノズルの位置および角度を動かしながら被膜20を形成してもよいし、吐出ノズルを固定し、基体10の位置および角度を動かしながら、被膜20を形成してもよい。吐出ノズルは一定速度で動かしてもよいし、速度を変化させて動かしてもよい。また、吐出材料の吐出方向は、吐出ノズルの先端から吐出ノズルの先端に対して最短距離にある基体10または粗面の表面に向けて伸ばしたベクトルと、90°の角度を成していてもよいし、90°未満の角度を成していてもよい。
【0070】
例えば、粗面化工程において、基体10に対して、粗面化対象となる領域を露出させつつ、他の領域を保護するように保護材を配置し、露出した領域に粗面を形成してもよい。また、本開示に係る製造方法は、粗面化工程の後で、且つ被膜形成工程の前に、保護材を除去する工程をさらに有していてもよい。また、保護材を除去した後に、粗面の縁、例えば層状部材30の縁を削る工程を行ってもよい。これにより、層状部材30の縁における応力の集中を避け、生体組織への刺激を低減することができる。
【0071】
一実施形態に係る人工関節用ステムの製造方法は、被膜形成工程の前に、さらに凹部形成工程を有していてもよい。凹部形成工程では、例えば切削加工法、圧延加工法およびプレス加工法の少なくともいずれか一つの方法によって、基体10の表面に少なくとも1つの凹部2Xを形成することができる。凹部形成工程によって、基体10の表面に凹部2Xが形成された後、少なくとも1つの凹部2Xの内面を含む基体10の表面に、被膜形成工程によって被膜を形成すればよい。
【0072】
以上の事項を総括すると、例えば
図8に示す順序にて各工程を行うことができる。
図8は、一実施形態に係る人工関節用ステムの製造方法を示す工程図である。まず、保護材を配置し(S101)、次いで粗面化工程を行った後(S102)、保護材を除去することができる(S103)。次いで被膜形成工程を行うことができる(S104)。
【0073】
さらに、本開示に係る製造方法は、各工程の間に洗浄工程を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。例えば、本開示に係る製造方法は、粗面化工程の後に、基体10、または、基体10および層状部材30の洗浄を行う工程を含んでいてもよい。洗浄方法は、特に限定されないが、例えば、水、またはアルコール等の有機溶媒等の液体に浸漬する方法であってもよく、当該液体を用いたシャワリング等であってもよい。あるいは、空気、窒素、またはアルゴン等の気体を吹き付ける方法であってもよい。これにより、粗面化工程によって生じた余分な溶射材料等を除去することができる。
【0074】
なお、粗面化工程は、溶射法によって第1粗面を形成する第1粗面化工程と化学エッチング法またはブラスト法によって第2粗面を形成する第2粗面化工程とを順に含んでいてもよい。ここで、溶射法によって第1粗面が形成される領域を第1粗面化領域、化学エッチング法またはブラスト法によって第2粗面が形成される領域を第2粗面化領域、粗面が形成されない領域を非粗面化領域と称する。
【0075】
第1粗面化工程では、基体10に対して、第1粗面化領域を露出させつつ、第2粗面化領域および非粗面化領域を保護するように保護材を配置し、露出した第1粗面化領域に第1粗面を形成してもよい。また、本開示に係る製造方法は、第1粗面化工程の後で、且つ第2粗面化工程の前に、保護材を除去する工程をさらに有していてもよい。第2粗面化工程では、基体10に対して、第2粗面化領域を露出させつつ、非粗面化領域を保護するように保護材を配置し、露出した第2粗面化領域に第2粗面を形成してもよい。第2粗面化工程で形成する第2粗面の表面は、第1粗面化領域における第1粗面の表面よりも表面粗さが小さくなるように、第2粗面化工程が行われてもよい。また、本開示に係る製造方法は、第2粗面化工程の後で、且つ被膜形成工程の前に、保護材を除去する工程を有していてもよい。保護材としては、例えば、マスキングテープを用いてもよい。本開示に係る製造方法は、第2粗面化工程の前に、第1粗面化領域および第2粗面化領域を露出させつつ、非粗面化領域にマスキングテープを貼り付ける工程をさらに含んでもよい。保護材としては、上述の第1粗面化工程で使用する保護材よりも耐熱性が低いものを用いてもよい。例えば室温で溶解または熱分解しにくい材料を保護材として用いてもよい。具体的には、保護材として樹脂を用いてもよい。
【0076】
第2粗面化工程において、非粗面化領域は、保護材によって覆われていてもよく、覆われていなくてもよい。第1粗面化領域および非粗面化領域を保護して、第2粗面化領域のみに化学エッチング法による加工、およびブラスト法による加工の少なくともいずれか一方を行ってもよい。または、第1粗面化領域を露出させるように、保護材を配置し、露出した第1粗面化領域の粗面および第2粗面化領域に化学エッチング法による加工、およびブラスト法による加工の少なくともいずれか一方を行ってもよい。これにより、第1粗面化領域の粗面に残存する余分な溶射材料等を除去するとともに、第2粗面化領域に粗面を形成することもできる。
【0077】
〔3.人工関節用ステムの利用〕
人工関節用ステム100(101)は、主に人工股関節用ステムを想定した形状であるが、本開示に係る人工関節用ステムが適用される人工関節は人工股関節に限定されない。人工関節としては、例えば人工股関節、人工膝関節、人工足関節、人工肩関節、人工肘関節および人工指関節等が挙げられる。
【0078】
以下に、
図7を参照して人工関節用ステム100(101)を人工股関節1000の一部として利用する例を説明する。人工股関節1000は、人工関節用ステム100(101)に加えて、骨頭110および寛骨臼カップ120を備え得る。骨頭110および寛骨臼カップ120は、人工関節用ステム100(101)の基体10と同じ材料で形成されていてもよく、異なる材料で形成されていてもよい。人工関節用ステム100(101)は、大腿骨91に埋設される。骨頭110は、人工関節用ステム100(101)の露出部50に配置される。寛骨臼カップ120は、寛骨93の寛骨臼94に固定される。寛骨臼カップ120の窪みに骨頭110を嵌め込んで摺動させることにより、股関節として機能する。
【0079】
以上、本開示に係る発明について、諸図面および実施例に基づいて説明してきた。しかし、本開示に係る発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。すなわち、本開示に係る発明は本開示で示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示に係る発明の技術的範囲に含まれる。つまり、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0080】
2 凹部
10 基体
10C 被覆領域
20、20A 被膜
21、21A 粗面
30 層状部材
100、101 人工関節用ステム
200、210 穴
211、211A 露出領域
220 溝
1000 人工股関節