(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036512
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】結晶化ガラスおよび強化結晶化ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 10/00 20060101AFI20240308BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C03C10/00
C03C21/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015869
(22)【出願日】2024-02-05
(62)【分割の表示】P 2019188957の分割
【原出願日】2019-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2019161899
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 圭介
(72)【発明者】
【氏名】八木 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 康平
(57)【要約】
【課題】新規な組成を有する高屈折率で高硬度な結晶化ガラスと強化結晶化ガラスを得ること。
【解決手段】酸化物換算の質量%で、SiO2成分を20.0%以上40.0%未満、Rn2O成分を0%超20.0%以下(ただしRnはLi、Na、Kから選択される1種類以上)、Al2O3成分を7.0%~25.0%、MgO成分を0%~25.0%、ZnO成分を0%~45.0%、Ta2O5成分を0%~20.0%、含有し、MgO成分とZnO成分とTa2O5成分の合計量が10.0%以上である結晶化ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算の質量%で、
SiO2成分を20.0%以上40.0%未満、
Rn2O成分を0%超20.0%以下(ただしRnはLi、Na、Kから選択される1種類以上)、
Al2O3成分を7.0%~25.0%、
MgO成分を0%~25.0%、
ZnO成分を0%~45.0%、
Ta2O5成分を0%~20.0%、
含有し、
MgO成分とZnO成分とTa2O5成分の合計量が10.0%以上である結晶化ガラス。
【請求項2】
酸化物換算の質量%で、
TiO2成分を0%~15.0%、
CaO成分を0%~15.0%、
BaO成分を0%~15.0%、
SrO成分を0%~10.0%を含有する請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
酸化物換算の質量%で、
ZrO2成分を0%~10.0%、
WO3成分を0%~10.0%、
La2O3成分を0~10.0%、
Gd2O3成分を0~15.0%、
Bi2O3成分を0~15.0%、
P2O5成分を0~10.0%、
Nb2O5成分を0~10.0%、
Sb2O3成分を0~5.0%を含有する請求項1または2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
前記MgO成分とZnO成分とTa2O5成分の合計量が18.0%以上である請求項1から3のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
屈折率(nd)が1.55以上である請求項1から4のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
比重が3.0以上である請求項1から5のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の結晶化ガラスを母材とし、表面に圧縮応力層を有する強化結晶化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラスおよび圧縮応力層を有する強化結晶化ガラスに関する。
【0002】
スマートフォン、タブレット型PCなどの携帯電子機器には、ディスプレイを保護するためのカバーガラスが使用されている。また、車載用の光学機器にも、レンズを保護するためのプロテクターが使用されている。さらに、近年、電子機器の外装となる筐体などへの利用も求められている。そして、これらの機器が過酷な使用に耐えうるよう、高い硬度を有する材料の要求が強まっている。
【0003】
ガラスの強度を高めたものとして、結晶化ガラスがある。結晶化ガラスはガラス内部に結晶を析出させたものであり、アモルファスガラスよりも機械的強度が優れていることで知られている。
【0004】
さらに、ガラスの強度を高める方法として、化学強化が知られている。ガラスの表面層に存在するアルカリ成分を、それよりもイオン半径の大きなアルカリ成分と交換反応させ、表面層に圧縮応力層を形成することで、クラックの進展を抑え機械的強度を高めることができる。
【0005】
特許文献1,2には、強度の高い結晶化ガラスおよびこれらを化学強化した結晶化ガラスが開示されている。しかしながら、さらに、光学部材としての用途を広げるため、硬度に加えて屈折率の高い結晶化ガラスが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-207626
【特許文献2】特開2017-001937
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新規な組成を有する高屈折率で高硬度な結晶化ガラスと強化結晶化ガラスを提供することにある。
【0008】
本発明は以下を提供する。
(構成1)
酸化物換算の質量%で、
SiO2成分を20.0%以上40.0%未満、
Rn2O成分を0%超20.0%以下(ただしRnはLi、Na、Kから選択される1種類以上)、
Al2O3成分を7.0%~25.0%、
MgO成分を0%~25.0%、
ZnO成分を0%~45.0%、
Ta2O5成分を0%~20.0%、
含有し、
MgO成分とZnO成分とTa2O5成分の合計量が10.0%以上である結晶化ガラス。
(構成2)
酸化物換算の質量%で、
TiO2成分を0%~15.0%、
CaO成分を0%~15.0%、
BaO成分を0%~15.0%、
SrO成分を0%~10.0%を含有する構成1に記載の結晶化ガラス。
(構成3)
酸化物換算の質量%で、
ZrO2成分を0%~10.0%、
WO3成分を0%~10.0%、
La2O3成分を0~10.0%、
Gd2O3成分を0~15.0%、
Bi2O3成分を0~15.0%、
P2O5成分を0~10.0%、
Nb2O5成分を0~10.0%、
Sb2O3成分を0~5.0%を含有する構成1または2に記載の結晶化ガラス。
(構成4)
前記MgO成分とZnO成分とTa2O5成分の合計量が18.0%以上である構成1から3のいずれかに記載の結晶化ガラス。
(構成5)
屈折率(nd)が1.55以上である構成1から4のいずれかに記載の結晶化ガラス。
(構成6)
比重が3.0以上である構成1から5のいずれかに記載の結晶化ガラス。
(構成7)
構成1から6のいずれかに記載の結晶化ガラスを母材とし、表面に圧縮応力層を有する強化結晶化ガラス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な組成を有する高屈折率で高硬度な結晶化ガラスと強化結晶化ガラスを提供できる。
【0010】
本発明の結晶化ガラスまたは強化結晶化ガラスは、スマートフォン、タブレット、PCのカバーガラスや筐体、フィルタ、カメラなどの光学用途部材(レンズ、基板など)として利用可能である。具体的には、車載用レンズ、短焦点プロジェクター用レンズ、ウェアラブルデバイス、装飾品(車載、建築物、スマートキーなど)、タッチパネル、誘電フィルタが挙げられる。高屈折率であることによりコンパクト化、高強度であることにより薄膜、軽量化が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態および実施例について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算の質量%で表示する。ここで、「酸化物換算」とは、結晶化ガラス構成成分が全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該酸化物の総質量を100質量%としたときの、結晶化ガラス中に含有される各成分の酸化物の量を、質量%で表記したものである。本明細書において、A~B%はA%以上B%以下を表す。また、0%~C%の0%は、含有量が0%であることを意味する。
【0013】
本発明の結晶化ガラスは、
SiO2成分を20.0%以上40.0%未満、
Rn2O成分を0%超20.0%以下(ただしRnはLi、Na、Kから選択される1種類以上)、
Al2O3成分を7.0%~25.0%、
MgO成分を0%~25.0%、
ZnO成分を0%~45.0%、
Ta2O5成分を0%~20.0%、
含有し、
MgO成分とZnO成分とTa2O5成分の合計量が10.0%以上である。
【0014】
一般に、ガラス形成成分であるSiO2成分が少なく、ZnO成分などの結晶構成成分が増えるとガラス化し難くなる傾向があるが、本発明によれば、上記組成で結晶化ガラスを得ることができる。
さらに、本発明の結晶化ガラスは、ZnO成分、MgO成分、Ta2O5成分などの屈折率を高める成分を所定量含むため、屈折率が高くなる。
即ち、上記組成により、屈折率が高く硬い結晶化ガラスが得られる。
さらに、化学強化してより硬度を高めることができる。
【0015】
結晶化ガラスとは、ガラスセラミックスとも呼ばれ、ガラスを熱処理することでガラス内部に結晶を析出させている材料である。結晶化ガラスは、結晶相とガラス相を有する材料であり、非晶質固体とは区別される。一般的に、結晶化ガラスの結晶相は、X線回折分析のX線回折図形において現れるピークの角度を用いて判別される。
【0016】
本発明の結晶化ガラスは、例えば、主結晶相として、ZnAl2O4、Zn2Ti3O8、Zn2SiO4、ZnTiO3、Mg2SiO4、Mg2Al4Si5O18、NaAlSiO4、Na2Zn3SiO4、Na4Al2Si2O9、LaTiO3およびこれらの固溶体から選ばれる1以上を含有する。
本明細書における「主結晶相」は、X線解析図形のピークから判定される、結晶化ガラス中に最も多く含有される結晶相に相当する。
【0017】
SiO2成分は、ガラスの網目構造を形成するガラス形成成分であり、必須成分である。一方で、SiO2成分が不足すると、得られたガラスの化学的耐久性が乏しく、かつ耐失透性が悪くなる。
従って、SiO2成分の含有量の上限は40.0%未満、39.0%以下、37.0%以下、または35.0%以下とできる。また、SiO2成分の含有量の下限は20.0%以上、23.0%以上、25.0%以上、または30.0%以上とできる。
【0018】
Rn2O成分(RnはLi、Na、Kから選択される1種類以上)は、化学強化の際イオン交換に関与する成分である一方で、過剰に含有すると化学的耐久性の悪化や耐失透性が悪くなる成分である。
従って、Rn2O成分の含有量の上限は20.0%以下、18.0%以下、15.0%以下、または14.0%以下とできる。また、Rn2O成分の含有量の下限は0%超、2.0%以上、4.0%以上、または6.0%以上とできる。
【0019】
特にNa2O成分は、例えば溶融塩中のイオン半径の大きいカリウム成分(K+イオン)と基板中のイオン半径の小さいナトリウム成分(Na+イオン)との交換反応が進行することにより、結果として基板表面に圧縮応力が形成されるため、必須成分とすることが好ましい。
従って、Na2O成分の含有量の上限は20.0%以下、18.0%以下、15.0%以下、または14.0%以下とできる。また、Na2O成分の下限は0%超、2.0%以上、4.0%以上、または6.0%以上とできる。
【0020】
Al2O3成分は、機械的強度を向上させるのに好適な成分である一方で、過剰に含有すると熔融性や耐失透性が悪くなる成分である。
従って、Al2O3成分の含有量の上限は25.0%以下、23.0%以下、22.0%以下、または20.0%以下とできる。また、Al2O3成分の含有量の下限は7.0%以上、9.0%以上、10.0%以上、または11.0%以上とできる。
【0021】
MgO成分は、屈折率を高くすると共に機械的強度に寄与する成分である一方で、過剰に含有すると耐失透性が悪くなる成分である。
従って、MgO成分の含有量の上限は25.0%以下、22.0%以下、20.0%以下、18.0%以下、または15.0%以下とできる。また、MgO成分の含有量の下限は0%以上、1.0%以上、1.5%以上、または2.0%以上とできる。
【0022】
ZnO成分は、屈折率を高くすると共に機械的強度に寄与するだけでなく、ガラスの低粘性化にも有効な成分である一方で、過剰に含有すると耐失透性が悪くなる成分である。
従って、ZnO成分の含有量の上限は45.0%以下、40.0%以下、38.0%以下、または25.0%以下とできる。また、ZnO成分の含有量の下限は0%以上、2.0%以上、5.0%以上、または8.0%以上、10.0%以上とできる。
【0023】
Ta2O5成分は、屈折率を高くする成分である一方で、過剰に含有すると耐失透性が悪くなる成分である。
従って、Ta2O5成分の含有量の上限は20.0%以下、19.0%以下、17.0%以下、または15.0%以下とできる。
また、Ta2O5成分の含有量の下限は0%以上、1.0%以上、3.0%以上、または5.0%以上とできる。さらに、Ta2O5成分の含有量の下限を5.0モル%超、または5.5モル%以上とできる。
【0024】
MgO成分とZnO成分とTa2O5成分の合計量は、調整することで高い屈折率を得ることができる一方で、過剰に含有するとガラスの耐失透性が悪くなる。
従って、MgO成分とZnO成分とTa2O5成分の合計量の下限は好ましくは10.0%以上、15.0%以上、18.0%以上、または20.0%以上とできる。好ましくはMgO成分とZnO成分とTa2O5成分の合計量の上限は45.0%以下、40.0%以下、または38.0%以下とできる。
【0025】
ZnO成分とTa2O5成分の合計量は、調整することで高い屈折率を得ることができる。一方で、過剰に含有するとガラスの耐失透性が悪くなる。
従って、ZnO成分とTa2O5成分の合計量の下限は好ましくは5.0%以上、8.0%以上、または10.0%以上とでき、ZnO成分とTa2O5成分の合計量の上限は好ましくは35.0%以下、30.0%以下、または28.0%以下とできる。
【0026】
TiO2成分は、結晶化の核剤と高屈折率化に寄与する成分である。
従って、TiO2成分の含有量は好ましくは0%~15.0%、より好ましくは1.0%~13.0%、さらに好ましくは2.0%~10.0%とできる。
【0027】
CaO成分、BaO成分、SrO成分は、屈折率向上およびガラスの安定化に寄与する成分である。
従って、CaO成分の含有量は好ましくは0%~15.0%、より好ましくは0.1%~13.0%、さらに好ましくは0.5%~10.0%とできる。
BaO成分の含有量は、好ましくは0%~15.0%、より好ましくは0%~13.0%、さらに好ましくは0%~12.0%とできる。
SrO成分の含有量は、好ましくは0%~10.0%、より好ましくは0%~8.0%、さらに好ましくは0%~7.0%とできる。
【0028】
結晶化ガラスは、ZrO2成分、WO3成分、La2O3成分、P2O5成分、Nb2O5成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。各々の成分の含有量は0~10.0%、0~8.0%、または0~7.0%とできる。
【0029】
結晶化ガラスは、Gd2O3成分、Bi2O3成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。各々の成分の含有量は0~15.0%、0~13.0%、または0~10.0%とできる。
【0030】
また、結晶化ガラスは、B2O3成分、Y2O3成分、TeO2成分をそれぞれ含んでもよいし、含まなくてもよい。各々の成分の含有量は、0%~2.0%、0%以上2.0%未満、または0%~1.0%とできる。
【0031】
結晶化ガラスは、清澄剤として、Sb2O3成分、SnO2成分およびCeO2成分から選択される1以上を0%~5.0%、好ましくは0.03%~2.0%、さらに好ましくは0.05%~1.0%含むことができる。
【0032】
上記の配合量は適宜組み合わせることができる。
【0033】
SiO2成分、Rn2O成分、Al2O3成分、MgO成分、ZnO成分およびTa2O5成分の合計含有量を調整することで、RAl2O4、R2SiO4、(ただし、RはZn、Mgから選択される1種類以上)から選ばれる一種類以上を結晶相として含有しつつ、イオン交換による化学強化が可能となる。同時に、優れた機械的強度および屈折率の高いガラスを得ることができる。
従って、質量和SiO2+Rn2O+Al2O3+MgO+ZnO+Ta2O5の下限は70.0%以上、75.0%以上、80.0%以上、または85.0%以上とすることができる。
【0034】
本発明の結晶化ガラスは、高い屈折率(nd)を有する。好ましくは屈折率の下限は1.55以上、1.58以上、1.60以上、または1.61以上である。通常、屈折率の上限は1.65以下である。
【0035】
本発明の結晶化ガラスは、高いビッカース硬度を有する。通常、ビッカース硬度の下限は500以上、好ましくは600以上、さらに好ましくは700以上である。通常、ビッカース硬度の上限は800以下である。また、化学強化などで強化した結晶化ガラスは、さらに硬度が高くなり、800~900のものもある。
【0036】
本発明の結晶化ガラスは、通常、比重が重く、比重の下限は2.95以上、または3.00以上である。通常、比重の上限は3.40以下である。
【0037】
本発明の結晶化ガラスは、以下の方法で作製できる。すなわち、原料を均一に混合し、熔解成形して原ガラスを製造する。次にこの原ガラスを結晶化して結晶化ガラスを作製する。さらに結晶化ガラスを母材として圧縮応力層を形成して強化してもよい。
【0038】
原ガラスは、熱処理しガラス内部に結晶を析出させる。この熱処理は、1段階でもよく2段階の温度で熱処理してもよい。
2段階熱処理では、まず第1の温度で熱処理することにより核形成工程を行い、この核形成工程の後に、核形成工程より高い第2の温度で熱処理することにより結晶成長工程を行う。
1段階熱処理では、1段階の温度で核形成工程と結晶成長工程を連続的に行う。通常、所定の熱処理温度まで昇温し、当該熱処理温度に達した後に一定時間その温度を保持し、その後、降温する。
2段階熱処理の第1の温度は600℃~750℃が好ましい。第1の温度での保持時間は30分~2000分が好ましく、180分~1440分がより好ましい。
2段階熱処理の第2の温度は650℃~850℃が好ましい。第2の温度での保持時間は30分~600分が好ましく、60分~300分がより好ましい。
1段階の温度で熱処理する場合、熱処理の温度は600℃~800℃が好ましく、630℃~770℃がより好ましい。また、熱処理の温度での保持時間は、30分~500分が好ましく、60分~300分がより好ましい。
【0039】
基板を化学強化するときは、通常、結晶化ガラスから、例えば研削および研磨加工の手段などを用いて、薄板状の結晶化ガラスを作製する。この後、化学強化法によるイオン交換により、結晶化ガラス基板に圧縮応力層を形成する。
【0040】
圧縮応力層の形成方法としては、例えば結晶化ガラスの表面層に存在するアルカリ成分を、それよりもイオン半径の大きなアルカリ成分と交換反応させ、表面層に圧縮応力層を形成する化学強化法がある。また、結晶化ガラスを加熱し、その後急冷する熱強化法、結晶化ガラスの表面層にイオンを注入するイオン注入法がある。
【0041】
化学強化法は、例えば次のような工程で実施することができる。結晶化ガラス母材を、カリウムまたはナトリウムを含有する塩、例えば硝酸カリウム(KNO3)、硝酸ナトリウム(NaNO3)またはその混合塩や複合塩の溶融塩に接触または浸漬させる。この溶融塩に接触または浸漬させる処理(化学強化処理)は、1段階でもよく2段階で処理してもよい。
【0042】
例えば2段階化学強化処理の場合、第1に350℃~550℃で加熱したナトリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分、好ましくは90~800分接触または浸漬させる。続けて第2に350℃~550℃で加熱したカリウム塩またはカリウムとナトリウムの混合塩に1~1440分、好ましくは60~800分接触または浸漬させる。
1段階化学強化処理の場合、350℃~550℃で加熱したカリウムまたはナトリウムを含有する塩、またはその混合塩に1~1440分、好ましくは60~800分接触または浸漬させる。
【0043】
熱強化法については、特に限定されないが、例えば結晶化ガラス母材を、300℃~600℃に加熱した後に、水冷および/または空冷などの急速冷却を実施することにより、ガラス基板の表面と内部の温度差によって、圧縮応力層を形成することができる。なお、上記化学処理法と組み合わせることにより、圧縮応力層をより効果的に形成することもできる。
【0044】
イオン注入法については、特に限定されないが、例えば結晶化ガラス母材表面に任意のイオンを母材表面が破壊しない程度の加速エネルギー、加速電圧にて衝突させることで母材表面にイオンを注入する。その後必要に応じて熱処理を行うことにより、他方法と同様に表面に圧縮応力層を形成することができる。
【実施例0045】
実施例1~35
1.結晶化ガラスの製造
結晶化ガラスの各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物などの原料を選定し、これらの原料を表1~4に記載の組成(質量%)になるように秤量して均一に混合した。
【0046】
次に、混合した原料を白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1300℃~1600℃で、2~24時間溶融した。その後、溶融したガラスを攪拌して均質化してから1000℃~1450℃に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷して原ガラスを作製した。得られた原ガラスを730℃で加熱して結晶化させた。
【0047】
作製した結晶化ガラスを切断および研削し、さらに1mmの厚さとなるように対面平行研磨し、結晶化ガラス基板を得た。次に、結晶化ガラス基板を母材として用いて、420℃のKNO3の溶融塩に500分浸漬して強化結晶化ガラスを得た。
【0048】
2.結晶化ガラスの評価
得られた結晶化ガラスおよび強化結晶化ガラスについて、以下の物性を測定した。結果を表1~4に示す。
【0049】
(1)屈折率(nd)
屈折率(nd)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。
【0050】
(2)比重(d)
アルキメデス法により測定した。
【0051】
(3)ビッカース硬度(Hv)
136°のダイヤモンド四角錘圧子を荷重980.7mNで10秒間押し込み、圧痕のくぼみの長さから算出した表面積(mm2)で割ることにより求めた。(株)島津製作所製マイクロビッカース硬度計HMV-Gを用いて測定した。
【0052】
(4)応力測定
実施例3,5,6,13,20の強化結晶化ガラスについて、表面の圧縮応力値(CS)と圧縮応力層の厚さ(応力深さDOLzero)を、折原製作所製のガラス表面応力計FSM-6000LEシリーズを用いて測定した。CS測定において用いられる測定機の光源は、596nmの波長の光源を選択し測定を行った。CS測定に用いる屈折率は、596nmの屈折率の値を使用した。なお、波長596nmにおける屈折率の値は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じてC線、d線、F線、g線の波長における屈折率の測定値から二次の近似式を用いて算出した。中心圧縮応力値(CT)は、曲線解析(Curve analysis)により求めた。
【0053】
(4)光弾性定数(β)
CS測定条件となる光弾性定数β(nm/cm/105Pa)の値は表1~4に示す値を用いた。CS測定に用いる光弾性定数は、596nmの光弾性定数の値を使用した。
光弾性定数の測定方法は、試料形状を対面研磨して直径25mm、厚さ8mmの円板状とし、側面方向に圧縮荷重0~約100.kgfを加え、ガラスの中心に生じる光路差を測定し、δ=β・d・Fの関係式により求めた。上記式では、光路差をδ(nm)、ガラスの厚さをd(cm)、応力をF(MPa)として表記している。
【0054】
尚、実施例11,14,23,24,26~30は、結晶化温度が高いため失透したので、屈折率は測定できなかった。表1~4に示すように、化学強化によりビッカース硬度が高くなっているので、圧縮応力層は形成されている。実施例29は塩浴中で粉々になり化学強化できなかった。
【0055】
実施例36
結晶化温度を680℃とした他は、実施例24と同様にして、結晶化ガラスを作製した。失透せず屈折率を測定できた。屈折率は1.63、比重は3.16、ビッカース硬度は755であった。
【0056】
実施例37
結晶化温度を700℃とした他は、実施例26と同様にして、結晶化ガラスを作製した。失透せず屈折率を測定できた。屈折率は1.63、比重は3.18であった。
【0057】
実施例38
結晶化温度を760℃とした他は、実施例2と同様にして、結晶化ガラスと強化結晶化ガラスを作製した。結晶化ガラスの屈折率は1.60、比重は3.05、ビッカース硬度は682、強化結晶化ガラスのビッカース硬度は803であった。
【0058】
実施例39
結晶化温度を760℃とした他は、実施例7,8と同様にして、結晶化ガラスと強化結晶化ガラスを作製した。結晶化ガラスの比重はそれぞれ3.17、3.15、強化結晶化ガラスのビッカース硬度はそれぞれ815,834であった。
【0059】
比較例1
比較例1として、特許文献2の実施例26の結晶化ガラスを用いて、実施例と同様に評価した。結果を、表4に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】