(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036530
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】情報処理装置及び農作業機
(51)【国際特許分類】
A01B 33/08 20060101AFI20240308BHJP
A01B 33/10 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A01B33/08 A
A01B33/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016237
(22)【出願日】2024-02-06
(62)【分割の表示】P 2020057807の分割
【原出願日】2020-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】390010836
【氏名又は名称】小橋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】平松 賢治
(72)【発明者】
【氏名】中谷 公紀
(72)【発明者】
【氏名】海田 健児
(57)【要約】
【課題】農作業者の目視によらず、作業爪の摩耗の状態を評価すること。
【解決手段】農作業機は、圃場に作用する作業爪と、前記作業爪が取り付けられた爪軸を含み、走行機体から受けた動力を前記作業爪に伝達する動力伝達部と、前記動力伝達部のトルク値を測定するセンサと、前記トルク値、前記走行機体の車速値、及び前記作業爪の種類に基づいて、前記作業爪の摩耗の状態を評価する評価装置を備える。前記センサは、前記爪軸に設けられていてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場に作用する作業爪と、
前記作業爪が取り付けられた爪軸を含み、走行機体から受けた動力を前記作業爪に伝達する動力伝達部と、
前記動力伝達部のトルク値を測定するセンサと、
前記トルク値、前記走行機体の車速値、及び前記作業爪の種類に基づいて、前記作業爪の摩耗の状態を評価する評価装置を備える農作業機。
【請求項2】
前記センサは、前記爪軸に設けられている、請求項1に記載の農作業機。
【請求項3】
圃場に作用する作業爪に走行機体からの受けた動力を伝達する動力伝達部において測定されたトルク値、走行機体の車速値及び前記作業爪の種類に基づいて、前記作業爪の摩耗状態を評価する情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は情報処理装置及び農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
農作業機用の作業爪として、ロータリー作業機に装着される耕耘爪や代かき機に装着される代かき爪などがある。これらの作業爪は、耕耘作業又は代かき作業の際に圃場と接触し、徐々に摩耗が進行する。作業爪の摩耗が進行するに伴い、作業爪の放擲能力、反転能力、又は攪拌能力が低下し、最終的には耕耘性能又は代かき性能が低下して、適切な作業が行えない状態となる。そのため、農作業者は、定期的に作業爪の摩耗の状態を確認し、ある程度まで摩耗が進行したら速やかに交換することで対応している。
【0003】
このような作業爪の交換時期を判断するために、例えば特許文献1には、作業爪の交換の目安となる摩耗後のラインに沿う位置に、両面から視認できるリブを設ける技術が記載されている。
【0004】
また、農作業者は、農作業機による作業中に、目視又は作業爪が圃場に作用する音や振動などの情報に基づいて、耕深などの作業状態を推定していたが、この推定は農作業者の経験や勘に基づくものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術の場合、結局、作業爪の摩耗の状態は農作業者が目視で確認しなければならず、確認を忘れてしまったり、面倒で確認を怠ったりした場合には、作業爪の交換時期を逸してしまう可能性があるという問題があった。
【0007】
また、例えばロータリー作業機や代かき機で耕耘作業を行う際に、耕耘爪に土や泥が付着する場合がある。そのような場合、特許文献1に記載された技術では、土や泥の影響でリブが視認できず、摩耗の状態を判断することができない場合があるという問題があった。
【0008】
また、農作業機による作業中の作業状態は、農作業者の経験や勘に頼らざるを得ず、農作業者に依存しない定量的な評価をすることは困難であった。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、農作業者の目視によらず、作業爪の摩耗の状態を評価することができる情報処理装置及び農作業機を提供することを課題とする。又は、農作業者の経験や勘に頼ることなく、圃場に対する作業状態を評価することができる情報処理装置及び農作業機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態における情報処理装置は、圃場に作用する作業爪が取り付けられた爪軸に走行機体から受けた動力を伝達する動力伝達部において測定されたトルク値、及び前記トルク値が測定されたときの前記走行機体の車速値を受信し、前記トルク値及び前記車速値に基づいて、前記作業爪の摩耗の状態を評価する。
【0011】
第1状態における前記トルク値である第1トルク値を取得し、前記第1状態よりも後であり、前記第1状態から前記作業爪が交換されていない第2状態における前記トルク値である第2トルク値を取得し、前記第1トルク値及び前記第2トルク値に基づいて前記作業爪の摩耗の状態を評価してもよい。
【0012】
本発明の一実施形態における農作業機は、圃場に作用する作業爪と、前記作業爪が取り付けられた爪軸を含み、走行機体から受けた動力を前記爪軸に伝達する動力伝達部と、前記動力伝達部のトルク値を測定するセンサと、を備える。
【0013】
前記動力伝達部は、前記走行機体からの動力が入力される入力軸をさらに含み、前記センサは前記入力軸に設けられていてもよい。
【0014】
前記動力伝達部は、前記走行機体からの動力が入力される入力軸と、前記入力軸に入力された動力を前記爪軸に伝達する駆動軸と、をさらに含み、前記センサは、前記爪軸又は前記駆動軸に設けられていてもよい。
【0015】
前記爪軸又は前記駆動軸は中空構造を有し、前記センサは、前記中空構造の内壁に設けられていてもよい。
【0016】
前記爪軸又は前記駆動軸は中空構造を有し、前記センサは、前記爪軸又は前記駆動軸の外周に設けられており、前記センサに接続された配線は、前記中空構造の内部を通って、外部機器に前記センサで測定されたセンシング信号を出力する出力器に接続されてもよい。
【0017】
前記動力伝達部は、前記走行機体からの動力が入力される入力軸と、前記入力軸に入力された動力が伝達される駆動軸と、前記駆動軸の動力を前記爪軸に伝達する巻掛伝動部と、前記巻掛伝動部に張力を与えるテンショナーと、をさらに含み、前記センサは、前記テンショナーに設けられていてもよい。
【0018】
前記トルク値が測定されたときの前記走行機体の車速値及び前記トルク値に基づいて、前記作業爪の摩耗の状態を評価する評価装置をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、農作業者の目視によらず、作業爪の摩耗の状態を評価することができる。又は、農作業者の経験や勘に頼ることなく、圃場に対する作業状態を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る農作業機の構成を背面側から示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る農作業機の構成を側方から示す側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る農作業機の入力軸部を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る農作業機において、作業爪の摩耗の状態と動力伝達部におけるトルクの変化との関係を調査した結果を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る農作業機において、動力伝達部におけるトルクの変化に基づいて、作業爪の摩耗の状態を評価する方法を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る農作業機の駆動軸、チェーン駆動部、及び爪軸を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る農作業機のチェーンケースの内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る情報処理装置及び農作業機について説明する。但し、これらの情報処理装置及び農作業機は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号又は同一の符号の後にアルファベットを付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0022】
本願の明細書及び特許請求の範囲において、「上」は圃場から垂直に遠ざかる方向を示し、「下」は圃場に向かって垂直に近づく方向を示す。また、「前」は作業機を基準として走行機体が位置する方向を示し、「後」は前とは180°反対の方向を示す。また、「左」は作業機を基準として走行機体が位置する方向に向かったときの左方向を示し、「右」は左とは180°反対の方向を示す。
【0023】
以下の実施形態では、農作業機として耕耘機を例示するが、この構成に限定されない。例えば、以下の実施形態に示す農作業機は、耕耘機以外に代かき機、砕土機、畦塗り機など、作業爪を備えた農作業機であってもよい。また、走行機体から受けた動力を作業爪に伝達する動力伝達部が、入力軸、駆動軸、チェーン駆動部、及び爪軸によって構成されるケースを例示するが、動力伝達部はこれらの一部の部材によって構成されてもよく、上記の部材に加えて他の部材を含んで構成されていてもよい。また、特に技術的な矛盾が生じない限り、異なる実施形態間の技術を組み合わせることができる。
【0024】
〈第1実施形態〉
[農作業機100の構成]
図1~
図3を用いて、本発明の一実施形態に係る農作業機100の構成について説明する。
図1は、第1実施形態の農作業機の構成を背面側から示す図である。
図2は、第1実施形態の農作業機の構成を側方から示す側面図である。具体的には、
図2は、農作業機100のサイドプレート140及びチェーン駆動部160が省略され、耕耘ロータ150が視認できる状態を示している。
【0025】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の農作業機100は、大別して、入力軸部101、フレーム110、シールドカバー120(
図2参照)、エプロン130、サイドプレート140(
図1参照)、耕耘ロータ150、チェーン駆動部160(
図1参照)、及び制御装置170等を含む。
【0026】
入力軸部101は、左右方向におけるフレーム110の中央部に接続されている。シールドカバー120は、フレーム110の下方に設けられ、フレーム110に固定されている。エプロン130は、シールドカバー120の後方の接続部125(
図2参照)において、シールドカバー120に対して回動可能に接続されている。シールドカバー120は後述する耕耘ロータ150の上方を覆うように配置され、エプロン130は、耕耘ロータ150の後方に配置される。
【0027】
サイドプレート140は、フレーム110、シールドカバー120、及びエプロン130の左右方向の両端において、これらの部材に固定されている。チェーン駆動部160を内包するチェーンケースは、上記のサイドプレート140のうちの一方に固定されている。耕耘ロータ150は、上記のサイドプレート140の間において、サイドプレート140に対して回転可能に接続されている。制御装置170はシールドカバー120上に設けられている。
【0028】
図2に示すように、フレーム110は、トラクタ等の走行機体(図示せず)と入力軸部
101、トップマスト135、及びロアリンク連結部136によって接続される。入力軸部101には、トラクタ等の走行機体が有するPTO軸からの動力を受ける入力軸102が備えられている。フレーム110は、例えば円筒形であり、その内部には駆動軸111(
図1参照)が設けられている。入力軸102は駆動軸111に変換部103(
図3参照)を介して接続され、駆動軸111は入力軸102と連動して回転する。駆動軸111は入力軸102と交差する方向に延びている。
【0029】
耕耘ロータ150は、農作業機100の幅方向に延びる爪軸180と、この爪軸180に取り付けられたホルダ190と、ホルダ190に装着された複数の作業爪200とで構成される。つまり、本実施形態における農作業機100は、ホルダタイプの作業機である。
図1に示すように、農作業機100の背面側から見た場合、複数の作業爪200は、左方向に湾曲した作業爪200Lと、右方向に湾曲した作業爪200Rとで構成され、爪軸180の軸方向に間隔をおいて取り付けられる。なお、本実施形態では、作業爪200L及び作業爪200Rは爪軸180の軸方向に一定間隔で取り付けられている。以下の説明において、作業爪200L及び作業爪200Rを特に区別しない場合、単に作業爪200という。
【0030】
駆動軸111及び爪軸180は、以下のような構成で接続されている。チェーン駆動部160Bには巻掛伝動部161B(
図7参照)があり、巻掛伝動部161Bは、駆動軸111に接続された駆動スプロケット162B及び爪軸180に接続された受動スプロケット163Bにそれぞれ巻き掛けられている。このようにして、駆動軸111の回転動力は爪軸180に伝達される。爪軸180が回転することで、作業爪200が爪軸180を中心に回転し、圃場に対する耕耘作業が行われる。本実施形態では、巻掛伝動部161Bとしてチェーンが用いられるが、ベルトなどの他の部材が用いられてもよい。巻掛伝動部161Bとしてベルトが用いられる場合は、上記のスプロケットに代えてプーリを用いることができる。
【0031】
上記のように、PTO軸から入力された動力は、入力軸102、駆動軸111、チェーン駆動部160、及び爪軸180に伝達される。したがって、これらの部材を総じて「動力伝達部」という場合がある。
【0032】
作業爪200が回転して圃場を耕耘すると、作業爪200と接触した圃場が作業爪200の回転運動における抵抗となり、爪軸180のトルクに影響を及ぼす。爪軸180に生じたトルクは、巻掛伝動部161B、駆動軸111、及び入力軸102に伝達される。つまり、作業爪200による圃場の耕耘作業に起因する爪軸180のトルク値は、動力伝達部において測定することが可能である。詳細は後述するが、例えば動力伝達部に歪みセンサを設け、動力伝達部の歪みを検知することで、爪軸180のトルク値を測定することができる。
【0033】
なお、本実施形態では、爪軸180の軸が延びる方向(以下、軸方向という)において略同じ位置に、1つの爪軸180に対して複数のホルダ190及び作業爪200が取付けられる。
図2に示すように、爪軸180の軸方向において略同じ位置に、4つのホルダ190が取り付けられており、これらのホルダ190には、2本の作業爪200L及び2本の作業爪200Rが装着されている。ただし、装着される作業爪の種類や本数はこの構成に限定されない。
【0034】
図1に示すように、農作業機100を背面側から見た場合、互いに向かい合って配置されている作業爪200R、作業爪200Lは、互いの爪先がオーバーラップしている。したがって、個々の作業爪200L、作業爪200Rが土を掘り起こす領域の幅は、隣接する作業爪200L、作業爪200Rの間で一部重複している。なお、本実施形態の農作業
機100においては、耕耘ロータ150は、
図2において矢印Wで示す方向に回転する。
【0035】
エプロン130の重心は、接続部125よりも後方にあるため、エプロン130は自重により下降しようとする。エプロン130の後端にはステンレスの整地板132が取付けられている。整地板132はエプロン130の内側から外側に向かってループを描くように構成されている。この整地板132が耕耘ロータ150によって掘り起こされた圃場を平坦にする。
【0036】
図1に示すように、整地板132の両端には可動式の延長整地板134が設けられている。延長整地板134を開くことによって整地板132とともに広い幅の範囲を整地することが可能になる。
【0037】
制御装置170は、図示しない中央演算処理部(CPU)、記憶部(メモリ)及び通信部を含み、農作業機100の外部から受信した信号(例えば、リモコン信号)を処理する機能、農作業機100で生成された信号(例えば、センサによって取得されたデータ等)を解析する機能、又は当該信号を外部に送信する機能を有する情報処理装置である。記憶部は、各種データ及び各種プログラムを記憶している。中央演算処理部は、記憶部からプログラムを読み出して実行することにより、農作業機100が備えるアクチュエータ等の駆動部の動作を制御し、上記の動力伝達部において測定されたセンサ信号を解析する。具体的には、当該中央演算処理部は、測定されたセンサ信号に基づいて得られるトルク値や車速値を受信し、当該トルク値及び車速値に基づいて作業爪200の摩耗の状態を評価する。
【0038】
通信部は、有線通信又は無線通信を行うための機能部である。例えば、無線通信の場合は、例えば、近距離無線通信を可能とするモジュールやCAN(Controller Area Network)、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等の通信規格に従う無線通信を可能とするモジュールを搭載していてもよい。つまり、制御装置170が備える通信部は、ネットワーク上に接続されるサーバや携帯通信端末等の情報処理装置や走行機体に搭載される通信端末との間の通信を制御する機能を有していてもよい。
【0039】
図3は、本発明の一実施形態に係る農作業機の入力軸部を示す図である。
図3は、入力軸部101を拡大した上面図(A)及び正面図(B)である。説明の便宜上、(A)の上面図において、入力軸102の上方に設けられたセンサ制御部310及び締結具320は省略されている。
図3に示すように、入力軸部101は入力軸102の他に変換部103を有する。変換部103は、入力軸102の回転動力を駆動軸111の回転動力に変換する。変換部103の前には、センサ300が入力軸102を挟むように設けられている。2つのセンサ300は、入力軸102を左右方向から挟んでおり、入力軸102に対して接着剤で貼り付けられている。台座305は、入力軸102を上下方向から挟んでおり、ボルトなどの締結具320によって締めつけられることで、入力軸102に固定される。センサ制御部310は、台座305の上にビスで固定されている。
【0040】
センサ300として、例えば歪みセンサが用いられる。歪みセンサは、入力軸102に生じた歪みに基づく出力値を出力する。歪みセンサとして、2つの歪みゲージをクロスさせて配置するクロスゲージ型の歪みセンサが用いられる。
図3において、入力軸102を挟む2つのセンサ300の各々は歪みセンサである。なお、センサ300として、歪みセンサの他に圧力センサ、加速度センサ、ジャイロセンサ、磁気センサ、又は光センサなどの物理量センサを用いることができる。ただし、センサ300として、上記以外のセンサを用いることができる。また、作業爪200に、土壌の水分を検出するセンサ、土壌の塩分を検出するセンサ、土壌の温度を検出するセンサ、又は土壌のpH(水素イオン指数)
を検出するセンサなどの土壌センサが設けられていてもよい。詳細は後述するが、作業爪200に設けられたセンサによって取得された圃場の状態を示すパラメータを用いて作業爪200の摩耗の状態を評価してもよい。
【0041】
センサ制御部310は、通信機及び給電機を有する。例えば、通信機として、無線通信機を用いることができる。当該通信機には、ブリッジボックスが組み込まれていてもよい。当該通信機は、センサ300によって出力された出力値を受信し、当該出力値を制御装置170又は携帯通信端末など、作業爪200の摩耗の状態を評価する情報処理装置に送信する。給電機は、センサ300に電力を供給する。給電機は、他の電源機器から電力の供給を受けてもよく、発電機を備えていてもよく、蓄電器を備えていてもよい。給電機が発電機を備える場合、入力軸102の回転を利用して発電が行われてもよい。なお、通信機として、有線通信機が用いられてもよい。
【0042】
[作業爪200の摩耗の状態を評価する方法]
図4~
図5を用いて、作業爪200の摩耗の状態を評価する方法について説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係る農作業機において、作業爪の摩耗の状態と動力伝達部におけるトルクとの関係を調査した結果を示す図である。
図4の横軸は、農作業機100を牽引する走行機体の車速値であり、縦軸は、動力伝達部において測定されたトルク値(作業中において測定されたトルク値の平均値)である。なお、
図4のトルク値は、
図3に示すように、入力軸102に設けられたセンサ300の出力値に基づいて計算された値である。トルク値は、エンジンの駆動により耕耘ロータ150の耕耘が開始されると、最初は相対的に大きな値になるが、その後徐々に低下し、細かく変動はするものの、トルク値の平均値は安定した挙動を示す。
図4のトルク値は、安定した挙動を示している期間において約15秒間に測定されたトルク値の平均値を示す。
【0043】
図4では、摩耗の状態が異なる作業爪200に対してトルク値が測定されている。
図4のトルク値は、作業爪200の摩耗の状態が異なる3つの条件について測定されている。1つ目の条件((1)新品爪:●)は作業爪200が新品の状態であり、2つ目の条件((2)摩耗爪A:◆)は作業爪200の摩耗がある程度進んではいるが、まだ作業爪200の交換を要しない状態であり、3つ目の条件((3)摩耗爪B:■)は作業爪200の摩耗がさらに進み、作業爪200を交換する必要があると判断される状態である。
図4において、(1)新品爪~(3)摩耗爪Bのそれぞれについて記載された爪幅は、刃縁部先端位置における作業爪200の刃先から峰までの幅(最短爪幅)である。(1)~(3)の各条件におけるトルク値は、車速値が1.2km/h、1.7km/h、2.1km/hのそれぞれの場合について測定された値である。
【0044】
図4に示すように、いずれの車速値においても、(1)新品爪→(2)摩耗爪A→(3)摩耗爪Bの順でトルク値が徐々に小さくなっている。つまり、作業爪200の摩耗が進むにつれてトルク値が小さくなる傾向がある。また、(1)~(3)の各条件において、車速値に応じてトルク値が変化しているが、各車速値の条件において(1)~(3)には上記と同様の関係がある。具体的には、いずれの車速値の場合であっても、(1)新品爪に対する(3)摩耗爪Bのトルク値は約2/3である。つまり、同じ車速値で測定する場合であって、測定されたトルク値が、作業爪200が新品のときに測定されたトルク値の2/3になった場合に、交換を要する状態まで作業爪200の摩耗が進んでいる可能性があると判断することができる。上記のように、作業爪200の交換を要する状態まで摩耗が進んでいる可能性がある状態におけるトルク値(例えば作業爪200が新品のときに測定されたトルク値の2/3の値)を「しきい値」という。なお、しきい値は、上記のように作業爪200が新品のときに測定されたトルク値の2/3の値に限定されず、農作業機100の種類や作業爪200の種類に応じて適宜調整することができる。
【0045】
上記のように、作業爪200の初期状態(第1状態)におけるトルク値(第1トルク値)及び当該第1トルク値を測定したときの車速値に基づいて、その後の状態(第2状態)のトルク値(第2トルク値)及び当該第2トルク値を測定したときの車速値から作業爪200の摩耗の状態を評価することができる。なお、第1状態と第2状態との間で作業爪200は交換されていないものとする。また、以下の説明において、第1トルク値と第2トルク値とを区別する必要がない場合は、単にトルク値という。作業爪200の摩耗評価は、農作業機100に備えられた制御装置170又はセンサ制御部310と通信可能な携帯通信端末などの情報処理装置で行われる。具体的には、当該摩耗評価は、制御装置170に格納されたプログラム又は携帯通信端末にダウンロードされたアプリケーションによって実現される。作業爪200の摩耗評価が行われる情報処理装置は、少なくとも車速値、トルク値、及びしきい値が互いに関連付けられて記憶されたルックアップテーブル(LUT)を備えており、センサ制御部310からトルク値及びトルク値が測定されたときの車速値を受信し、受信したトルク値及び車速値に基づいて、作業爪200の摩耗の状態を評価する。なお、作業爪200の摩耗評価はセンサ制御部310と通信可能なサーバで行われてもよい。
【0046】
なお、LUTは、上記のパラメータの他に、耕深、作業爪200の回転速度、エプロン130の加圧調整量、シールドカバー120又はサイドプレート140への土付着量(例えば、付着した土が作業爪200と接触するか否か)等の作業条件に関するパラメータ、土質、土中の含水量、圃場の状態(既耕地又は未耕地)、草や株などの残渣の量等の圃場条件に関するパラメータをトルク値と関連付けて記憶していてもよい。つまり、トルク値及び車速値に加えて上記のパラメータを用いて作業爪200の摩耗の状態を評価してもよい。なお、上記LUTは作業爪200の形状(又は品種)ごとに準備されていてもよく、1つのLUTによって、作業爪200の形状(又は品種)ごとに上記のパラメータが設定されていてもよい。
【0047】
作業爪200の摩耗の状態を評価する動作フローを
図5に示す。
図5に示すように、まずはステップS401で作業爪200の交換が行われ、新品の作業爪200が農作業機100に取り付けられる。作業爪200の交換が行われた後に、例えば上記の携帯通信端末によって入力される第1トルク値取得指示に基づいて、次のステップS403に移行する。ステップS403では、初期状態(第1状態)におけるトルク値(第1トルク値)を取得する。トルク値の測定は複数の車速条件について行われる。ステップS403において取得した初期状態のトルク値及びLUTに基づいて、作業爪200の交換が必要なトルク値を算出し、しきい値として設定する。ステップS403で取得されるトルク値は、初期状態のトルク値を取得する専用の動作で取得されたトルク値であってもよく、作業爪200を交換してから所定の期間における通常作業で取得されたトルク値であってもよい。
【0048】
ステップS403において第1トルク値を取得した後に、例えば上記の携帯通信端末によって入力される第2トルク値取得指示に基づいて、次のステップS405に移行する。ステップS405では、上記の初期状態よりも後の状態であり、初期状態から作業爪200が交換されていない作業状態(第2状態)におけるトルク値(第2トルク値)を取得する。作業状態とは、実際に農作業機100を用いて耕耘作業を行う状態を指す。S405で取得されたトルク値を用いて、S403で設定されたしきい値との比較が行われる。S407において、S405で取得されたトルク値がしきい値以上であれば(S407の「No」)、S405のステップに戻り、S405及びS407のステップを繰り返す。一方、S405で取得されたトルク値がしきい値を下回れば(S407の「Yes」)、ユーザに対して、交換を要する状態まで作業爪200の摩耗が進んでいることを示す警告を出す(ステップS409)。
【0049】
なお、
図5の例では、作業爪200が新品の状態で初期状態のトルク値を取得する動作
フローを示したが、初期状態のトルク値の取得は作業爪200が新品ではない状態で行われてもよい。例えば、作業爪200を新品のものに交換後(例えば、第1トルク値取得指示の入力後)に、一定の期間使用された状態を初期状態としてトルク値を取得してもよい。この場合、第2トルク値取得指示の入力を省略することができる。また、車速値に対するトルク値が比例関係にある場合、ある1つの車速条件についてのみ初期状態のトルク値の測定が行われ、測定されたトルク値及び当該トルク値が測定された車速値に基づいて、他の車速におけるしきい値が設定されてもよい。上記の第1トルク値取得指示及び第2トルク値取得指示は、上記のサーバを介して入力されてもよく、農作業機100に直接入力されてもよい。第1トルク値取得指示は、例えば作業爪に備えられたセンサによって、当該作業爪が農作業機100に取り付けられたことを示す信号によって行われてもよい。
【0050】
以上のように、本実施形態に係る農作業機及び情報処理装置によると、農作業機100の動力伝達部(入力軸102)において測定されたトルク値から、作業爪200の摩耗の状態を評価することができ、作業者が作業爪200を直接確認しなくても作業爪200の交換が必要な状態であるか否かを知ることができる。
【0051】
〈第2実施形態〉
図6を用いて、本発明の第2実施形態に係る農作業機100Aについて説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る農作業機の駆動軸、チェーン駆動部、及び爪軸を示す図である。
図6の(A)では、駆動軸111A、チェーン駆動部160A、及び爪軸180Aが示されている。駆動軸111Aにはセンサ400Aが設けられており、爪軸180Aにはセンサ430Aが設けられている。
図6の(B)では、センサ400A、430Aの詳細な構成が示されている。それぞれのセンサの配置について以下に詳細に説明する。なお、
図6には示されていないが、駆動軸111Aは入力軸102Aに接続されている。なお、入力軸102A、駆動軸111A、チェーン駆動部160A(巻掛伝動部)、及び爪軸180Aは動力伝達部に含まれる。説明の便宜上、
図6において、駆動スプロケット162Aと受動スプロケット163Aとに巻き掛けられた巻掛伝動部は省略されている。
【0052】
駆動軸111Aには、センサ401A、403A、配線410A、及び外部出力機420Aが設けられている。また、駆動軸111Aには駆動スプロケット162Aが接続されている。センサ401A、403Aは、駆動軸111Aの外周において、駆動軸111Aを挟むように設けられている。センサ401A、403Aとして、それぞれ歪みセンサを用いることができ、
図6の(B)に示すように、センサ401Aとセンサ403Aとは、互いにクロスして配置される。なお、以下の説明において、センサ401A、403Aを特に区別する必要がない場合は、これらのセンサを合わせて単にセンサ400Aという。
【0053】
センサ400Aは、駆動軸111Aの外周に接着層を介して貼り付けられている。センサ400Aとして、
図3のセンサ300と同様のセンサを用いることができる。駆動軸111Aは、内部に中空部112Aが設けられた中空構造を有している。配線410Aは、当該中空構造の内部(中空部112A)を通って、センサ400Aと外部出力機420Aとを接続する。センサ400A、配線410A、及び外部出力機420Aは駆動軸111A及び駆動スプロケット162Aと共に回転する。外部出力機420Aは、例えば、スリップリングを含み、センサ400Aで測定されたセンシング信号を上述した情報処理装置に出力する。
【0054】
爪軸180Aには、センサ431A、433A、配線440A、及び外部出力機450Aが設けられている。また、爪軸180Aには受動スプロケット163A、耕耘軸183A、及びフランジシャフト185Aが接続されている。爪軸180Aは中空構造を有している。センサ431A、433Aは、爪軸180Aの中空構造の内壁181Aにおいて、互いに対向するように設けられている。センサ431A、433Aとして、それぞれ歪み
センサを用いることができ、
図6の(B)に示すように、センサ431Aとセンサ433Aとは、互いにクロスして配置される。なお、以下の説明において、センサ431A、433Aを特に区別する必要がない場合は、これらのセンサを合わせて単にセンサ430Aという。
【0055】
センサ430Aは、爪軸180Aの内壁181Aに接着層を介して貼り付けられている。センサ430Aとして、
図3のセンサ300と同様のセンサを用いることができる。また、爪軸180Aは、フランジシャフト185Aまでは内壁181Aによって構成される中空構造を有しており、フランジシャフト185Aから爪軸180Aの先端にかけて、内部に中空部182Aが設けられた中空構造を有している。配線440Aは、中空部182Aを通って、センサ430Aと外部出力機450Aとを接続する。センサ430A、配線440A、及び外部出力機450Aは、爪軸180A、受動スプロケット163A、耕耘軸183A、及びフランジシャフト185Aと共に回転する。外部出力機450Aは、例えば、スリップリングを含み、センサ430Aで測定されたセンシング信号を上述した情報処理装置に出力する。
【0056】
なお、本発明は
図6に示した構成に限定されない。駆動軸111Aの構成が爪軸180Aに適用されてもよい。逆に、爪軸180Aの構成が駆動軸111Aに適用されてもよい。また、センサは駆動軸111A及び爪軸180Aのいずれか一方だけに取り付けられていてもよい。つまり、センサ400A及びセンサ430Aのいずれか一方を省略することができる。また、外部出力機420A、450Aは
図3のセンサ制御部310と同様の機能を有している。
【0057】
以上のように、本実施形態に係る農作業機によると、農作業機100Aの動力伝達部(駆動軸111A、爪軸180A)において測定されたトルク値から、作業爪200Aの摩耗の状態を評価することができ、作業者が作業爪200Aを直接確認しなくても作業爪200Aの交換が必要な状態であるか否かを知ることができる。
【0058】
〈第3実施形態〉
図7を用いて、本発明の第3実施形態に係る農作業機100Bについて説明する。
図7は、本発明の一実施形態に係る農作業機のチェーンケースの内部構造を示す図である。
図7の(A)は、チェーンケースのカバーを省略し、チェーンケース内部のチェーン駆動部160Bを示す図である。
図7の(B)は、テンショナー500Bに設けられたセンサ540Bを示す図である。
【0059】
図7に示すように、チェーン駆動部160Bには駆動スプロケット162B及び受動スプロケット163Bが設けられており、これらのスプロケットに巻掛伝動部161Bが巻き掛けられている。2つのスプロケットの間には、巻掛伝動部161Bに張力を付与するテンショナー500Bが設けられている。入力軸102B、駆動軸111B、巻掛伝動部161B、テンショナー500B、及び爪軸180Bは動力伝達部に含まれる。
【0060】
テンショナー500Bは、摺動部材510B及び張力調整部材520Bを有する。摺動部材510Bは、循環する巻掛伝動部161Bと摺動する。また、摺動部材510Bは、回動軸511Bを中心として回動する。張力調整部材520Bは摺動部材510Bを巻掛伝動部161Bに向けて押しつける。
図7の例では、張力調整部材520Bはボルト521B及びナット523Bで構成されている。ただし、張力調整部材520Bの構成はこの構成に限定されない。
【0061】
作業爪200Bが圃場を耕耘することで発生する爪軸180Bのトルクは、巻掛伝動部161Bの張力に影響を及ぼす。したがって、巻掛伝動部161Bの張力を測定すること
で、耕耘作業によって発生しているトルク値を測定することができる。
図7では、張力調整部材520Bにセンサ540Bを取り付けることで、巻掛伝動部161Bの張力を測定する。具体的には、
図7の(B)に示すように、ボルト521Bに設けられた中空部525Bにセンサ540Bが設けられている。センサ540Bとして軸力測定用の歪みセンサを用いることができる。センサ540Bは配線541Bを介して外部出力機に接続される。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る農作業機によると、農作業機100Bの動力伝達部(巻掛伝動部161B)において測定されたトルク値から、作業爪200Bの摩耗の状態を評価することができ、作業者が作業爪200Bを直接確認しなくても作業爪200Bの交換が必要な状態であるか否かを知ることができる。
【0063】
以上、本発明について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本実施形態の情報処理装置及び農作業機を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。さらに、上述した各実施形態は、相互に矛盾がない限り適宜組み合わせが可能であり、各実施形態に共通する技術事項については、明示の記載がなくても各実施形態に含まれる。
【0064】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0065】
100:農作業機、 101:入力軸部、 102:入力軸、 103:変換部、 110:フレーム、 111:駆動軸、 112A:中空部、 120:シールドカバー、 125:接続部、 130:エプロン、 132:整地板、 134:延長整地板、 135:トップマスト、 136:ロアリンク連結部、 140:サイドプレート、 150:耕耘ロータ、 160:チェーン駆動部、 161B:巻掛伝動部、 162:駆動スプロケット、 163:受動スプロケット、 170:制御装置、 180:爪軸、 181A:内壁、 182A:中空部、 183A:耕耘軸、 185A:フランジシャフト、 190:ホルダ、 200:作業爪、 300:センサ、 310:センサ制御部、 320:締結具、 400A:センサ、 401A:センサ、 403A:センサ、 410A:配線、 420A:外部出力機、 430A:センサ、 431A:センサ、 433A:センサ、 440A:配線、 450A:外部出力機、 500B:テンショナー、 510B:摺動部材、 511B:回動軸、 520B:張力調整部材、
521B:ボルト、 523B:ナット、 525B:中空部、 540B:センサ、
541B:配線