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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036532
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】操作された細胞溶解性免疫細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240308BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240308BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240308BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240308BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240308BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N5/10 ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/63 Z
A61P35/00
A61K35/17
A61K39/395 N
A61K38/19
A61K48/00
A61P37/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024016241
(22)【出願日】2024-02-06
(62)【分割の表示】P 2020555110の分割
【原出願日】2019-04-09
(31)【優先権主張番号】1805918.8
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】517215973
【氏名又は名称】オートラス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マーティン プーレ
(72)【発明者】
【氏名】ショーン コルドバ
(72)【発明者】
【氏名】シモビ オヌオハ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー キンナ
(72)【発明者】
【氏名】サイモン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ラム ジャー
(57)【要約】
【課題】操作された細胞溶解性免疫細胞を提供すること。
【解決手段】操作された細胞溶解性免疫細胞は、i)目的のポリペプチド(POI)および第1の相互作用ドメインを含む放出性タンパク質;およびii)細胞の細胞内区画内に保持されており、第1のタンパク質相互作用ドメインに結合する第2の相互作用ドメインを含む保持タンパク質を含み、ここで、第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合は、作用因子の存在によって破壊されるため、作用因子の非存在下では、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合し、それにより、細胞内区画内にPOIが保持され;それに対して、作用因子の存在下では、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合せず、POIが細胞内区画から放出されて、細胞の表面に発現されるか、細胞によって分泌される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的のタンパク質を分泌する操作された細胞溶解性免疫細胞に関し;特に、前述の目的のタンパク質の分泌を調節可能に誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
操作された細胞治療は、B細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、および多発性骨髄腫(MM)などの多くのリンパ系悪性疾患の処置においては成功を収めているが、固形がんの処置はあまりうまくいっていない。固形がんがリンパ系がんより操作された細胞治療の標的となり難い理由は多数証明されており、腫瘍への接近、阻害性のシグナルおよび細胞に持続的に直面すること、ならびに腫瘍抗原発現の不均一性が挙げられる。固形がんなどの他のがんの処置を成功させるためには操作された細胞治療の効力を増大させる方法が必要である。
【0003】
操作された細胞は、不利な微小環境に直面する。腫瘍微小環境をモジュレートすることにより、この不利な微小環境を、操作された免疫細胞傷害性細胞が増殖し、生存し、および/または生着できるより好ましい環境に変換することができ、それにより、より有効な操作された細胞治療を提供することができる。
【0004】
インターロイキン12(IL-12)は、腫瘍微小環境をモジュレートして免疫応答をがんに対して向け直すことに特に関心が持たれている強力な免疫調節性サイトカインである。IL-12は全身毒性があるので、IL-12を局所的に産生する方法が作り出されている(例えば、Chmielewskiら,Cancer Res.71,5697-5706(2011)による)。トランスジェニックT細胞のIL-12産生は、全身中毒レベルを高くする可能性がある。Zhangらは、NFATプロモーターによって駆動される単鎖IL-12をコードする遺伝子で形質導入された自己由来黒色腫の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を産生した。IL-12放出を機能的に調節したとしても、重篤な臨床毒性および予測不可能な臨床毒性(IL-12およびインターフェロンγの血清レベルが高くなることが含まれる)、臨床毒性(肝機能障害、高熱、および散発性の生命を脅かす血行力学的不安定が含まれる)が生じた。
【0005】
したがって、腫瘍微小環境を調節可能にモジュレートし、それにより微小環境で増殖し、生存し、および/または生着するように操作された細胞溶解性免疫細胞の有効性を改善することができるアプローチが依然として必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chmielewskiら,Cancer Res.71,5697-5706(2011)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、目的のタンパク質(免疫調節性サイトカインなど)を調節可能に分泌することができる操作された細胞溶解性免疫細胞を開発した。この方法は、他の方法を使用した場合に構成性にまたは全身レベルで分泌されることが望ましくないか安全ではないタンパク質を調節可能に分泌させることが可能である。
【0008】
本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞を、腫瘍微小環境への免疫調節性タンパク質の投与を調節するために使用し、それにより、かかるタンパク質の全身投与に関連し得る毒性作用を回避することができる。
【0009】
本明細書中に記載されるように、第1のタンパク質相互作用ドメインは目的のタンパク質に作動可能に連結されており、第2のタンパク質相互作用ドメインは細胞内保持ドメインに作動可能に連結されている。作用因子の非存在下では、目的のタンパク質は、第1および第2のタンパク質相互作用ドメインとの間のタンパク質:タンパク質相互作用を介して細胞内に保持されている。作用因子の存在下では、作用因子が第1および第2のタンパク質相互作用ドメインとの間のタンパク質:タンパク質相互作用を破壊し、目的のタンパク質が細胞内区画から放出され、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞から分泌される。
【0010】
したがって、1つの態様では、本発明は、操作された細胞溶解性免疫細胞であって、
i)目的のポリペプチド(POI)および第1の相互作用ドメインを含む放出性タンパク質;および
ii)細胞の細胞内区画内に保持されており、第2の相互作用ドメインを含む保持タンパク質;
を含み、
ここで、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインが、作用因子の存在または非存在に応じて条件付きで相互作用することができる、操作された細胞溶解性免疫細胞を提供する。
【0011】
操作された細胞溶解性免疫細胞は、
i)目的のタンパク質(POI)、第1のタンパク質相互作用ドメイン、およびシグナルペプチドを含む放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列;および
ii)第2のタンパク質相互作用ドメイン、細胞内保持ドメイン、およびシグナルペプチドを含む保持タンパク質をコードする第2の核酸配列;
を含むことができ、
ここで、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインが、作用因子の存在または非存在に応じて条件付きで相互作用することができる。
【0012】
第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメイン(second protein interaction)との間の相互作用は、作用因子の存在によって破壊され得るため、作用因子の非存在下では、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合し、それにより、細胞内区画内にPOIが保持され;それに対して、作用因子の存在下では、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合せず、POIが細胞内区画内に保持されない。
【0013】
これに関して、本出願は、操作された細胞溶解性免疫細胞であって、
i)目的のポリペプチド(POI)および第1の相互作用ドメインを含む放出性タンパク質;および
ii)細胞の細胞内区画内に保持されており、第1のタンパク質相互作用ドメインに結合する第2の相互作用ドメインを含む保持タンパク質
を含み、
ここで、第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合は、作用因子の存在によって破壊されるため、作用因子の非存在下では、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合し、それにより、細胞内区画内にPOIが保持され;それに対して、作用因子の存在下では、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合せず、POIが細胞内区画から放出されて、細胞の表面に発現されるか、細胞によって分泌される、操作された細胞溶解性免疫細胞を提供する。
【0014】
作用因子の存在下では、POIが送り出されて、細胞表面で発現され得る。
【0015】
あるいは、作用因子の存在下では、POIは、細胞によって分泌され得る。
【0016】
第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の相互作用は、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方に競合性に結合する作用因子によって低下または破壊され得る。
【0017】
第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の相互作用は、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方に、第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の相互作用よりも高い親和性で結合する作用因子によって破壊され得る。
【0018】
第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方はTet抑制因子タンパク質(TetR)またはそのバリアントを含み得、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方はTetR誘導ペプチド(TiP)またはそのバリアントを含み得る。この場合、作用因子は、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、またはその類似体から選択され得る。
【0019】
適切には、第1のタンパク質相互作用ドメインはTet抑制因子タンパク質(TetR)またはそのバリアントを含み得、第2のタンパク質相互作用ドメインはTetR誘導ペプチド(TiP)またはそのバリアントを含み得る。適切には、第1のタンパク質相互作用ドメインはTetR誘導ペプチド(TiP)またはそのバリアントを含み得、第2のタンパク質相互作用ドメインはTet抑制因子タンパク質(TetR)またはそのバリアントを含み得る。
【0020】
第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインは、作用因子のペプチド模倣物であり得る。
【0021】
第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方は作用因子のペプチド模倣物であり得、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方は作用因子およびペプチド模倣物に結合することができる場合があり、ここで、タンパク質相互作用ドメインは作用因子に結合するよりも低い親和性でペプチド模倣物に結合する。
【0022】
適切には、第1のタンパク質相互作用ドメインは作用因子のペプチド模倣物であり得、第2のタンパク質相互作用ドメインは作用因子およびペプチド模倣物に結合することができる場合があり、ここで、第2のタンパク質相互作用ドメインは、作用因子に結合するよりも低い親和性でペプチド模倣物に結合する。適切には、第1のタンパク質相互作用ドメインは作用因子およびペプチド模倣物に結合することができる場合があり、第2のタンパク質相互作用ドメインは作用因子のペプチド模倣物であり得、ここで、第1のタンパク質相互作用ドメインは、作用因子に結合するよりも低い親和性でペプチド模倣物に結合する。
【0023】
適切には、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方は、作用因子に結合することができる抗体、単一ドメイン抗体(sdAb)、VHH/ナノボディ、ナノボディ、アフィボディ、フィブロネクチン人工抗体足場、アンチカリン、アフィリン、DARPin、VNAR、iBody、アフィマー、フィノマー、ドメイン抗体(DAb)、アブジュリン/ナノ抗体、センチリン、アルファボディ、またはナノフィチンを含み得、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方は作用因子のペプチド模倣物であり得る。
【0024】
適切には、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方は、ミノサイクリンを模倣するペプチドであり得、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方は、ミノサイクリンに結合するVHHであり得、作用因子は、ミノサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはその類似体から選択され得る。
【0025】
作用因子は小分子であり得る。
【0026】
細胞内保持ドメインは、ゴルジ保持ドメインであり得る。適切には、保持ドメインは、SEKDEL(配列番号28)配列、KDEL(配列番号29)配列、KKXX(配列番号30)モチーフ、KXKXX(配列番号31)モチーフ、配列KYKSRRSFIDEKKMP(配列番号32)を含むアデノウイルスE19タンパク質のテール、もしくは配列MHRRRSRSCR(配列番号33)を含むHLAインバリアント鎖のフラグメント、またはそのバリアントからなる群から選択され得る。
【0027】
細胞内保持ドメインは、小胞体保持ドメインであり得る。適切には、小胞体保持ドメインは、リボフォリンI、リボフォリンII、SEC61、もしくはシトクロムb5、またはそのバリアントから選択され得る。
【0028】
細胞内保持ドメインは、原形質膜保持ドメインであり得る。適切には、原形質膜保持ドメインは、Thy-1およびPRNPまたはそのバリアントから選択され得る。
【0029】
細胞内保持ドメインは、保持タンパク質のC末端またはN末端に存在し得る。
【0030】
POIは免疫系調節因子であり得る。
【0031】
POIは、サイトカインまたはケモカインであり得る。適切には、サイトカインまたはケモカインは、活性化T細胞核内因子(NFAT)応答エレメントによって制御され得る。
【0032】
適切には、POIは、IL12、flexiIL12、GM-CSF、IL7、IL15、IL21、およびCCL19から選択され得る。
【0033】
POIは、抗体、抗体断片、またはdAbであり得る。
【0034】
POIは毒素であり得る。適切には、毒素は、ジフテリア毒素またはシュードモナスの毒素であり得る。
【0035】
POIは分泌タンパク質であり得る。POIは、膜タンパク質(例えば、細胞表面膜タンパク質または原形質膜タンパク質)であり得る。
【0036】
放出性タンパク質は、2またはそれを超えるPOIをコードし得る。
【0037】
操作された細胞溶解性免疫細胞は、α-βT細胞、NK細胞、γ-δT細胞、またはサイトカイン誘導性キラー細胞であり得る。
【0038】
操作された細胞溶解性免疫細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)またはトランスジェニックT細胞受容体(TCR)をさらに含み得る。
【0039】
1つの態様では、本発明は、核酸配列のキットであって、
(i)本明細書中に定義の放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列;
(ii)本明細書中に定義の保持タンパク質をコードする第2の核酸配列;および
(iii)CARまたはトランスジェニックTCRをコードする第3の核酸配列
を含む、核酸配列のキットを提供する。
【0040】
別の態様では、本発明は、核酸構築物であって、
(i)本明細書中に定義の放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列;
(ii)本明細書中に定義の保持タンパク質をコードする第2の核酸配列;および
(iii)CARまたはトランスジェニックTCRをコードする第3の核酸配列
を含む、核酸構築物を提供する。
【0041】
1つの態様では、本発明は、本発明の核酸構築物を含むベクターを提供する。
【0042】
1つの態様では、本発明は、ベクターのキットであって、
i)本明細書中に定義の放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列を含む第1のベクター;
(ii)本明細書中に定義の保持タンパク質をコードする第2の核酸配列を含む第2のベクター;および
(iii)CARまたはトランスジェニックTCRをコードする第3の核酸配列を含む第3のベクター
を含む、ベクターのキットを提供する。
【0043】
別の態様では、本発明は、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞を作製する方法であって、細胞溶解性免疫細胞に、本発明の核酸構築物、本明細書中に定義の第1、第2、および第3の核酸配列;本発明のベクター、または本明細書中に定義の第1、第2、および第3のベクターを導入するステップを含む、方法を提供する。
【0044】
1つの態様では、本発明は、細胞からのPOIの分泌を調節する方法であって、細胞に、本発明の核酸構築物、本明細書中に定義の第1、第2、および第3の核酸配列;本発明のベクター、または本明細書中に定義の第1、第2、および第3のベクターを導入するステップ、および本明細書中に定義の作用因子を細胞に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0045】
別の態様では、本発明は、細胞からのPOIの分泌を調節する方法であって、本明細書中に定義の作用因子を、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞または本発明の方法によって得ることができる細胞に投与することを含む、方法を提供する。
【0046】
細胞は、被験体から単離した試料に由来し得る。
【0047】
さらなる態様では、本発明は、本発明の細胞溶解性免疫細胞、本発明の核酸構築物、本明細書中に定義の第1、第2、および第3の核酸配列、本発明のベクター、本明細書中に定義の第1、第2、および第3のベクターを含む医薬組成物を提供する。
【0048】
1つの態様では、本発明は、本発明の細胞または本発明の方法によって得ることができる細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0049】
さらなる態様では、本発明は、疾患の処置および/または予防に使用するための本発明の医薬組成物を提供する。
【0050】
本発明は、さらに、疾患を処置および/または予防する方法であって、本発明の医薬組成物を必要とする被験体に投与するステップを含む、方法に関する。
【0051】
1つの態様では、本発明は、疾患を処置および/または予防する方法であって、本明細書中に定義の作用因子を、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞が投与されている被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0052】
方法は、以下のステップ:
(i)試料を含む細胞を単離するステップ;
(ii)本発明の核酸構築物、本明細書中に定義の第1、第2、および第3の核酸配列、本発明のベクター、または本明細書中に定義の第1、第2、および第3のベクターを細胞に導入するステップ;および
(iii)(ii)由来の細胞を被験体に投与するステップ
を含み得る。
【0053】
核酸構築物またはベクターは、形質導入またはトランスフェクションによって導入され得る。
【0054】
細胞は自己由来であり得る。細胞は同種異系であり得る。
【0055】
本方法は、被験体における毒性活性および/または抗腫瘍活性をモニタリングすることを含んでよく、必要に応じて、有害な毒性作用を低下させるために被験体への本明細書中に定義の作用因子の投与を停止または低減するステップ;または抗腫瘍効果を増大させるために被験体への本明細書中に定義の作用因子の投与を増加させるステップをさらに含んでよい。
【0056】
別の態様では、本発明は、疾患の処置および/または予防のための医薬の製造における本発明の医薬組成物の使用に関する。
【0057】
疾患はがんであり得る。がんは神経芽細胞腫であり得る。がんは前立腺がんであり得る。
【0058】
本発明は、さらに、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞からのPOIの分泌を増加させるための本明細書中に定義の作用因子の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】放出性タンパク質が第1の相互作用ドメインおよび目的のタンパク質を含み、保持タンパク質が第2の相互作用ドメインおよび保持ドメインを含む、本発明の一実施形態を示す概要図。第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは、条件付きで相互作用することが可能である。
図2】本発明の構築物を示す概要図。構築物は、左から右に、シグナルペプチド、第1のタンパク質相互作用ドメイン、および目的のタンパク質を含む放出性タンパク質をコードする核酸配列、ならびに左から右に、シグナルペプチド、第2のタンパク質相互作用ドメイン、および細胞内保持ドメインを含む保持タンパク質をコードする核酸配列を含む。自己切断ペプチドをコードする核酸配列(2Aドメイン)は、放出性タンパク質をコードする核酸配列と保持タンパク質をコードする核酸配列との間に配置されている。
図3】本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞の図解例。第1のタンパク質相互作用ドメインは、TetR相互作用タンパク質(TiP)を含み、目的のタンパク質はIL-12である。第2のタンパク質相互作用ドメインは、Tetリプレッサー(TetR)および小胞体保持ドメイン、KDEL(配列番号29)を含む。A)作用因子の非存在下では、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合し、それにより、小胞体内にIL-12が保持される。B)作用因子の存在下では、TetRとTiPとの間のタンパク質:タンパク質相互作用は破壊され、TiPがTetRから離脱する。IL-12は小胞体内に保持されない。
図4】対照抗体(配列番号13)と比較した配列番号34、配列番号35、配列番号36、および配列番号37のペプチドのミノサイクリンdAb(配列番号8)へのミノサイクリン置換可能な結合を示すグラフ。
図5A】ERに保持されたIL12のミノサイクリン誘導性分泌 HEK293T細胞を、細胞内KDELタグ化抗ミノサイクリンdAbおよびdAb特異的ペプチド(GWARAまたはPWAYS)タグ化IL-12を発現する構築物で一過性にトランスフェクトした(A)。HAマーカー発現についての染色によってトランスフェクション効率を決定し、トランスフェクション効率は50~70%の範囲であった(B)。培養培地を除去し、種々の濃度のミノサイクリン(0、1uM、および10uM)を含む新鮮な培地と置換した。ミノサイクリン添加から2時間後および4時間後に上清を回収し、IL12 ELISAを読み取った(C)。
図5B】ERに保持されたIL12のミノサイクリン誘導性分泌 HEK293T細胞を、細胞内KDELタグ化抗ミノサイクリンdAbおよびdAb特異的ペプチド(GWARAまたはPWAYS)タグ化IL-12を発現する構築物で一過性にトランスフェクトした(A)。HAマーカー発現についての染色によってトランスフェクション効率を決定し、トランスフェクション効率は50~70%の範囲であった(B)。培養培地を除去し、種々の濃度のミノサイクリン(0、1uM、および10uM)を含む新鮮な培地と置換した。ミノサイクリン添加から2時間後および4時間後に上清を回収し、IL12 ELISAを読み取った(C)。
図5C】ERに保持されたIL12のミノサイクリン誘導性分泌 HEK293T細胞を、細胞内KDELタグ化抗ミノサイクリンdAbおよびdAb特異的ペプチド(GWARAまたはPWAYS)タグ化IL-12を発現する構築物で一過性にトランスフェクトした(A)。HAマーカー発現についての染色によってトランスフェクション効率を決定し、トランスフェクション効率は50~70%の範囲であった(B)。培養培地を除去し、種々の濃度のミノサイクリン(0、1uM、および10uM)を含む新鮮な培地と置換した。ミノサイクリン添加から2時間後および4時間後に上清を回収し、IL12 ELISAを読み取った(C)。
図6】ダンプナー(dampener)を含む本発明の一実施形態を示す略図。
図7】エンハンサーを含む本発明の一実施形態を示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0060】
タンパク質相互作用ドメイン
本発明の第1のタンパク質相互作用ドメイン、第2のタンパク質相互作用ドメイン、および作用因子は、作用因子の存在または非存在に応じてタンパク質相互作用ドメインを条件付きで相互作用することが可能な分子/ペプチド/ドメインの任意の組み合わせであり得る。
【0061】
第1および第2のタンパク質相互作用ドメインは、相互に特異的に結合することができる場合がある。
【0062】
第1および第2のタンパク質相互作用ドメインとの間のタンパク質間相互作用は自発的に起こり得るが、作用因子(すなわち、結合の「破壊因子」として作用する個別の分子)の存在下で破壊され得る。
【0063】
第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の相互作用は、作用因子の存在によって破壊され得るため、作用因子の非存在下では、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合し、それにより、細胞内区画内にPOIが保持され;それに対して、作用因子の存在下では、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合せず、POIが細胞内区画内に保持されない。
【0064】
本明細書中で使用される場合、「破壊された」は、第1および第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合が作用因子の添加によって減少するか完全に消失されることを意味する。適切には、第1および第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合は、作用因子の添加によって、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%減少し得る。
【0065】
第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の相互作用は、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方に競合性に結合する作用因子によって破壊され得る。
【0066】
本明細書中で使用される場合、「作用因子の競合的結合」は、第1および第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合を防止する作用因子の結合を指す。作用因子は、一方のタンパク質ドメインの、他方のタンパク質ドメイン上の相互結合部位と相互作用する結合部位に直接結合することによって競合的に結合し得る。あるいは、作用因子は、一方のタンパク質ドメインの、他方のタンパク質ドメイン上の相互結合部位と相互作用する結合部位と重複する領域への結合によって競合的に結合し得る。
【0067】
作用因子は、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインに、第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合よりも高い親和性で特異的に結合できる場合がある。
【0068】
本明細書中で使用される場合、「より高い親和性」は、作用因子が、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方に、第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合親和性の少なくとも5、10、20、50、100、1000、または10000倍の親和性で結合することを意味する。
【0069】
結合親和性および競合的結合の測定のためのアッセイは、当該分野で公知である(放射性リガンド結合アッセイ(飽和結合、スキャッチャードプロットが含まれる)、非放射性リガンド結合アッセイ(蛍光偏光、蛍光共鳴エネルギー移動、および表面プラズモン共鳴/Biacoreが含まれる)、および固相リガンド結合アッセイなど)。
【0070】
例えば、結合システムは、任意のペプチド:ペプチドタンパク質相互作用ドメインシステムに基づき得る。
【0071】
第1または第2のタンパク質相互作用ドメインは、作用因子のペプチド模倣物であり得る。
【0072】
適切には、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちのいずれかは、ペプチドに結合するペプチド結合ドメインを含み得、他方のタンパク質相互作用ドメインは、ペプチドより低い親和性でペプチド結合ドメインに結合するペプチド模倣物を含み得る。これらの実施形態では、作用因子としてペプチドを使用すると、競合的結合を介したペプチド結合ドメインへのペプチド模倣物の結合が破壊され得る。ペプチド模倣物は、「野生型」ペプチドに類似のアミノ酸配列を有し得るが、1またはそれを超える(one of more
)アミノ酸が変化して、ペプチド結合ドメインに対する結合親和性を低下させている。
【0073】
作用因子は、第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインに、第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の親和性の少なくとも5,10、20、50、100、1000、または10000倍の親和性で結合し得る。
【0074】
タンパク質間相互作用を破壊する小分子作用因子は、長きに亘って製薬目的のために開発されてきた(Vassilev et al;Small-Molecule Inhibitors of Protein-Protein Interactions ISBN:978-3-642-17082-9(本明細書中で参考として援用される)で概説されている)。その相互作用が破壊されるタンパク質またはペプチド(またはこれらのタンパク質の関連する断片)を第1および/または第2のタンパク質相互作用ドメインとして使用することができ、小分子は作用因子として使用され得る。
【0075】
小分子などの作用因子を使用してその相互作用が破壊され得るタンパク質/ペプチドのリストを、以下の表に示す。これらの破壊可能なタンパク質間相互作用(PPI)は、本発明で使用され得る。これらのPPIについてのさらなる情報は、White et al 2008(Expert Rev.Mol.Med.10:e8(本明細書中で参考として援用される))から入手可能である。
【表2】
【0076】
上記例示のPPIシステムに加えて、タンパク質に結合する小分子の相互作用を模倣するペプチドを生成するためのペプチド配列のファージディスプレイを使用して、他のPPIシステムを生成することができることが理解される。
【0077】
他の実施形態では、本発明のタンパク質相互作用ドメインとして使用するための小分子に結合する抗体を生成することができる。適切な抗体の生成方法は、当該分野で周知である。
【0078】
本明細書中に記載の放出性タンパク質および保持タンパク質は、リンカーを含み得る。リンカー(またはスペーサー)は、タンパク質内の複数のドメインを分離する短い配列である。リンカーは、隣接タンパク質ドメインが相互に移動できるようにするグリシンおよびセリン反復などの可動性残基を含み得る。適切には、放出性および/または保持タンパク質は、1またはそれを超えるセリン-グリシンリンカードメインを含み得る。リンカーは、十分な可動性が得られる任意の長さであり得る。適切には、リンカーは、2、3、4、5、10、15、20、25、30、またはそれを超える残基長であり得る。
【0079】
Tetリプレッサー(TetR)システム
ポリペプチドの共局在を調節するための小分子システムは当該分野で公知である(例えば、Tetリプレッサー(TetR)、TetR相互作用タンパク質(TiP)、テトラサイクリンシステム)。
【0080】
Tetオペロンは、哺乳動物細胞での使用に適合している周知の生物学的オペロンである。TetRは、ホモ二量体としてテトラサイクリンに結合して高次構造が変化し、次いで、TetR分子のDNA結合をモジュレートする。Klotzscheら(Nucleic Acids Res.2009 Apr;37(6):1778-88(本明細書中で参考として援用される))は、TetRを活性化するファージディスプレイ由来ペプチドを記載していた。このタンパク質(TetR相互作用タンパク質/TiP)は、テトラサイクリン結合部位と重複するが同一ではない結合部位をTetR内に有する。したがって、TiPおよびテトラサイクリンは、TetRの結合について競合する。
【0081】
本発明の細胞では、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方は、TetRまたはTiPを含み得(からなり得)、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方は、対応する相補性結合パートナーまたはそのバリアントであり得る。
【0082】
TetRおよびTIPのアミノ酸配列を以下に示す:
TetRのアミノ酸配列を配列番号1に記載する。
【化1】
【0083】
TiPのアミノ酸配列を配列番号2に記載する-MWTWNAYAFAAP(配列番号2)。
【0084】
いくつかの実施形態では、リンカー(セリン-グリシンリンカーなど)を、別のタンパク質からTiPを分離するために使用することができる。リンカーは、TiPがそれ自体正確に配向し、そして/またはTiPが連結しているタンパク質からTiPを分離する可動性を可能にすることができる。
【0085】
例えば、配列番号3に記載のアミノ酸配列は、TiPおよびセリン-グリシンリンカーのアミノ酸配列を含む((SGGGS)-MWTWNAYAFAAPSGGGS(配列番号3)。
【0086】
第1および第2のタンパク質相互作用ドメインがTetRまたはTiPである場合、作用因子は、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、またはその類似体であり得る。類似体は、TetRに特異的に結合する能力を保持しているか、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリンと比較してTetRへの結合親和性が増大しているかより高いテトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリンのバリアントを指す。
【0087】
TetRおよび/またはTiPのバリアント配列は、配列番号1~3と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得、但し、バリアント配列が、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、またはその類似体の存在下で破壊される有効な結合システムを提供することを条件とする。すなわち、前述の配列が、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、またはその類似体の存在下で破壊され得る本発明のタンパク質相互作用ドメインの共局在を容易にすることを条件とする。
【0088】
2つのポリペプチド配列間の同一性率を、http://blast.ncbi.nlm.nih.govにて無料で利用可能なBLASTなどのプログラムによって容易に決定することができる。適切には、同一性率は、参照配列および/またはクエリー配列全体にわたって決定される。
【0089】
1つの実施形態では、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方は、TetRもしくはTiPまたはそのバリアントを含み得(からなり得)、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方は、対応する相補性結合パートナーまたはそのバリアントであり得、作用因子は、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、またはその類似体であり得、目的のタンパク質は、本明細書中に記載の任意のPOIであり得る。
【0090】
1つの実施形態では、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方は、TetRもしくはTiPまたはそのバリアントを含み得(からなり得)、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方は、対応する相補性結合パートナーまたはそのバリアントであり得、目的のタンパク質は、flexi IL-12であり得る。
【0091】
1つの実施形態では、第1の核酸配列は、flexiIL-12、TiPタンパク質相互作用ドメイン、およびシグナルペプチドを含む放出性タンパク質をコードし得る。適切には、flexiIL-12、TiP(またはそのバリアント)、およびシグナルペプチドをコードする核酸配列は、作動可能に連結されている。適切には、シグナルペプチドは、マウスIgκ鎖V-III領域シグナルペプチド配列であり得る。この実施形態では、第2の核酸配列は、TetR(またはそのバリアント)、細胞内保持ドメイン、およびシグナルペプチドを含む保持タンパク質をコードし得る。適切には、TetR、細胞内保持ドメイン、およびシグナルペプチドをコードする核酸配列は、作動可能に連結されている。適切には、細胞内保持ドメインは、SEKDEL(配列番号28)であり得る。
【0092】
1つの実施形態では、放出性タンパク質は、配列番号5に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化2】
【0093】
配列番号5は、順番に、マウスIgκ鎖V-III領域シグナルペプチド配列(下線で示す)、TIP配列(太字の斜体で示す)、ヒトIL-12βサブユニット(通常の文字で示す)セリングリシンリンカー(太字で示す)、およびヒトIL-12αサブユニット(斜体で示す)を含む。
【0094】
1つの実施形態では、放出性タンパク質は、配列番号6に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化3】
【0095】
配列番号6は、順番に、アミノ酸位置9にリジン変異を有するマウスIgκ鎖V-III領域シグナルペプチド配列(下線で示す)、TIP配列(太字の斜体で示す)、ヒトIL-12βサブユニット(通常の文字で示す)、セリングリシンリンカー(太字で示す)、およびヒトIL-12αサブユニット(斜体で示す)を含む。
【0096】
アミノ酸位置9でのリジン置換により、シグナルペプチドの効率が低下し、それにより、ERに侵入し、細胞から分泌され得るTiP-IL-12の量が減少する。
【0097】
1つの実施形態では、保持タンパク質は、配列番号7に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化4】
【0098】
配列番号7は、順番に、マウスIg重鎖V領域102シグナルペプチド配列(下線で示す)、TetR配列(通常の文字で示す)、セリン-グリシンリンカー(太字で示す)、およびSEKDEL(配列番号28)ER保持ドメイン(斜体で示す)を含む。
【0099】
配列番号5~7のバリアント配列は、配列番号5~7と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得、但し、バリアント配列が、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、またはその類似体の存在下で破壊される有効な結合システムを提供することを条件とする。すなわち、前述の配列が、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、またはその類似体の存在下で破壊され得る本発明のタンパク質相互作用ドメインの共局在を容易にすることを条件とする。
【0100】
別の実施形態では、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方は、小分子などの作用因子に結合するドメイン抗体などの抗体を含み得る。
【0101】
1つの実施形態では、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方は、作用因子に結合することができる抗体、単一ドメイン抗体(sdAb)、VHH/ナノボディ、ナノボディ、アフィボディ、フィブロネクチン人工抗体足場、アンチカリン、アフィリン、DARPin、VNAR、iBody、アフィマー、フィノマー、ドメイン抗体(DAb)、アブジュリン/ナノ抗体、センチリン、アルファボディ、またはナノフィチンを含み、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方は作用因子のペプチド模倣物である。
【0102】
1つの実施形態では、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方は、ミノサイクリンを模倣するペプチドであり、第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方は、ミノサイクリンに結合する抗体であり、作用因子は、ミノサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン(doxocycline)、またはその類似体から選択される。
【0103】
ミノサイクリンペプチド模倣物は、配列番号41に記載のアミノ酸配列を含み得る:ACPXWAXXFC(配列番号41)(ここで、Xは任意のアミノ酸である)。
【0104】
ミノサイクリンを模倣する第1または第2のタンパク質相互作用ドメインは、以下の群から選択されるペプチドであり得る:
ACPGWARAFC(配列番号34);ACPHWAQAFC(配列番号35);ACPQWAMMFC(配列番号36)、およびACPPWAYSFC(配列番号37)。
【0105】
適切には、ミノサイクリンを模倣する第1または第2のタンパク質相互作用ドメインは、配列番号34に記載のアミノ酸配列を含み得る(からなり得る)。適切には、ミノサイクリンを模倣する第1または第2のタンパク質相互作用ドメインは、配列番号35に記載のアミノ酸配列を含み得る(からなり得る)。適切には、ミノサイクリンを模倣する第1または第2のタンパク質相互作用ドメインは、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含み得る(からなり得る)。適切には、ミノサイクリンを模倣する第1または第2のタンパク質相互作用ドメインは、配列番号37に記載のアミノ酸配列を含み得る(からなり得る)。
【0106】
ミノサイクリンに結合するドメイン抗体などの抗体は、配列番号8に記載のアミノ酸配列またはそのバリアントを有し得る。
【化5】
【0107】
ミノサイクリン(またはそのバリアント)に結合するドメイン抗体などの抗体は、配列番号9に記載のアミノ酸配列またはそのバリアントを有し得る。
【化6】
【0108】
ミノサイクリン(またはそのバリアント)に結合するドメイン抗体などの抗体は、配列番号10に記載のアミノ酸配列またはそのバリアントを有し得る。
【化7】
【0109】
ミノサイクリン(またはそのバリアント)に結合するドメイン抗体などの抗体は、配列番号11に記載のアミノ酸配列またはそのバリアントを有し得る。
【化8】
【0110】
ミノサイクリン(またはそのバリアント)に結合するドメイン抗体などの抗体は、配列番号12に記載のアミノ酸配列またはそのバリアントを有し得る。
【化9】
【0111】
ミノサイクリン(またはそのバリアント)に結合するドメイン抗体などの抗体は、配列番号13に記載のアミノ酸配列またはそのバリアントを有し得る。
【化10】
【0112】
配列番号8~13のバリアント配列は、配列番8~13と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得、但し、バリアント配列が、ミノサイクリンまたはその類似体に結合できることを条件とする。
【0113】
本発明は、POIを分泌する操作された細胞溶解性免疫細胞を提供し、ここで、前述のPOIの分泌は「調整可能(tunable)」である。本明細書中で使用される場合、「調整
可能な」は、操作された細胞溶解性免疫細胞によってPOIの分泌を増加させるか、減少させるか、またはオフにすることが可能であることを意味する。
【0114】
分泌を、いくつかの方法で調整することができる。例えば、放出性タンパク質と保持タンパク質の比を、分泌を増加または減少させるように改変することができる。POIと細胞内保持ドメインとの比を、分泌を増加または減少させるように改変することができる。分泌を適切に増加させるために、POIの細胞内保持ドメインに対する比を高くすることができ、その逆も同様である。
【0115】
タンパク質の比は、2つのタンパク質上の1またはそれを超えるシグナルペプチドの効率をモジュレートすることによって改変され得る。シグナルペプチドの効率をモジュレートする方法は、WO2016/174409号(本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0116】
別の実施形態では、作用因子に対するタンパク質相互作用ドメインの親和性を改変することによって分泌を調整することができる。あるいは、タンパク質相互作用ドメインに対する親和性がより高いかより低い作用因子を使用することによって分泌を調整することができる。
【0117】
放出性タンパク質
本明細書中で使用される場合、「放出性タンパク質」は、保持タンパク質から脱離することができるタンパク質を指す。放出性タンパク質は、一方の区画から他方の区画へ移動することができ、例えば、放出性タンパク質は、細胞から分泌されるか、原形質膜に移動することができる場合がある。
【0118】
適切には、放出性タンパク質は、タンパク質を分泌経路に方向づけるシグナルペプチドを含み得る。適切には、放出性タンパク質は、例えばアンカードメインまたは膜貫通ドメインを含む膜タンパク質であり得る。
【0119】
目的のタンパク質(POI)
本明細書中で使用される場合、「目的のタンパク質」、「POI」は、細胞溶解性免疫細胞が発現するか分泌するように操作されたタンパク質を指す。
【0120】
POIは、分泌が調節されることが望ましい(例えば、腫瘍微小環境内での分泌が調節されることが望ましい)任意のタンパク質であり得る。適切には、POIは、免疫系調節因子である。適切には、POIは、腫瘍微小環境をモジュレートすることができる場合がある。
【0121】
本明細書中で使用される場合、「免疫系調節因子」は、POIが免疫系に影響を及ぼすことができることを意味する。
【0122】
POIは、免疫応答を増大させることによって免疫系をモジュレートすることができる。
【0123】
本明細書中で使用される場合、「腫瘍微小環境をモジュレートすることができる」は、POIが腫瘍微小環境に影響を及ぼすか、腫瘍微小環境を変化させることができることを意味する。
【0124】
POIは、腫瘍の成長または腫瘍の生存を抑制するように腫瘍微小環境を改変することができる。
【0125】
適切には、POIは、サイトカイン、ケモカイン、抗体もしくはその断片(scFvまたはFab断片など)、または毒素であり得る。
【0126】
適切には、POIは、免疫調節性であり得る。POIは、阻害シグナル(例えば、プログラム細胞死タンパク質1(PD1))を遮断し得る。POIは、PD1遮断抗体であり得る。POIは、免疫系(例えば、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー4(TNFRSF4またはOXO40)作動薬、41BB作動薬、または誘導性共刺激分子(ICOS)作動薬)を活性化し得る。POIはOXO40アゴニストであり得る。POIは、41BBアゴニストであり得る。POIはICOSアゴニストであり得る。
【0127】
PD1遮断抗体(クローン5C4)の配列を、配列番号14に記載する。適切には、POIは、配列番号14に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化11】
【0128】
OX40アゴニスト(三量体コイルドコイルOX40L)の配列を、配列番号15に記載する。適切には、POIは、配列番号15に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化12】
【0129】
コイルドコイル配列を太字で示す。
【0130】
41BBアゴニスト(三量体コイルドコイル41BBL)の配列を、配列番号16に記載する。適切には、POIは、配列番号16に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化13】
【0131】
コイルドコイル配列を太字で示す。
【0132】
POIはサイトカインであり得る。POIはケモカインであり得る。
【0133】
POIは、インターロイキン-12(IL-12)、flexiIL-12、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-15(インターロイキン-15)、インターロイキン-21、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、およびケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド19(CCL19)から選択され得る。
【0134】
適切には、POIはIL-12であり得る。
【0135】
適切には、POIはIL-12であり得る。適切には、POIは、IL-12αサブユニットおよびIL-12βサブユニットを含み得る。適切には、IL-12αサブユニットおよび/またはIL-12βサブユニットは、UniProtアクセッションP29459および/またはP29460にそれぞれ記載のアミノ酸配列を含み得る。
【0136】
UniProtアクセッションP29459由来のIL-12αサブユニットのアミノ酸配列を、配列番号17に記載する。適切には、POIは、配列番号17に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化14】
【0137】
UniProtアクセッションP29460由来のIL-12βサブユニットのアミノ酸配列を、配列番号18に記載する。適切には、POIは、配列番号18に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化15】
【0138】
適切には、POIはflexi IL-12であり得る。flexi IL-12は、可動性リンカー(セリン-グリシン反復を含むリンカーなど)によって連結されたヒトIL-12のp35およびp40サブユニットを含む。
【0139】
flexi IL-12のアミノ酸配列を、配列番号19に記載する。適切には、POIは、配列番号19に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化16】
【0140】
ヒトIL-12βサブユニットを通常の文字で示し、セリングリシンリンカーを太字で示し、ヒトIL-12αサブユニットを斜体で示す。
【0141】
IL-7のアミノ酸配列を、配列番号20に記載する。適切には、POIは、配列番号20に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化17】
【0142】
IL-15のアミノ酸配列を、配列番号21に記載する。適切には、POIは、配列番号21に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化18】
【0143】
IL-21のアミノ酸配列を、配列番号22に記載する。適切には、POIは、配列番号22に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化19】
【0144】
CCL19のアミノ酸配列を、配列番号23に記載する。適切には、POIは、配列番号23に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化20】
【0145】
POIは抗体であり得る。適切には、POIは、抗体、抗体断片(例えば、scFv、F(ab))、単一ドメイン抗体(sdAb)、VHH/ナノボディ、ナノボディ、アフィボディ、フィブロネクチン人工抗体足場、アンチカリン、アフィリン、設計アンキリン反復タンパク質(DARPin)、VNAR、iBody、アフィマー、フィノマー、ドメイン抗体(DAb)、アブジュリン/ナノ抗体、センチリン、アルファボディ、またはナノフィチンであり得る。
【0146】
POIは毒素であり得る。適切には、毒素はジフテリア毒素であり得る。適切には、毒素はシュードモナス毒素であり得る。適切には、毒素は赤痢菌毒素であり得る。
【0147】
ジフテリア毒素のアミノ酸配列を、配列番号24に記載する。適切には、POIは、配列番号24に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
【化21】
【0148】
配列番号14~24のバリアント配列は、配列番14~24と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得、但し、バリアント配列が、目的のタンパク質として機能できることを条件とする。バリアント配列は、配列番号14~24の少なくとも1つの機能(免疫系調節因子として作用する能力または腫瘍環境をモジュレートする能力など)を保持している。
【0149】
POIは、活性化T細胞核内因子(NFAT)応答エレメントによって制御され得る。
【0150】
NFAT応答エレメントは、配列番号4に記載のヌクレオチド酸配列を含み得る:GGAGGAAAAACTGTTTCATACAGAAGGCGT(配列番号4)。
【0151】
NFAT応答エレメントは、3、4、5、または6個の反復単位などの反復単位を含み得る。適切には、NFAT応答エレメントは、3、4、5、または6個の配列番号4の反復単位を含み得る。NFAT応答エレメントは、プロモーター(例えば、CMVプロモーター)の前に配置され得る。
【0152】
操作された細胞溶解性免疫細胞は、2またはそれを超えるPOI(2個のPOI、3個のPOI、4個のPOI、または5個またはそれを超えるPOIなど)をコードする核酸配列を含み得る。適切には、放出性タンパク質は、2またはそれを超えるPOIを含み得る。
【0153】
2またはそれを超えるPOIは、サイトカイン、ケモカイン、抗体、および/または毒素の組み合わせであり得る。適切には、POIの組み合わせは、相乗作用を示し得る。適切には、組み合わせは、サイトカインおよびケモカイン(IL-7およびCCL19など)の組み合わせであり得る。
【0154】
POIは、本明細書中に定義の第1のタンパク質相互作用ドメインに作動可能に連結され得る。POIは、本明細書中に定義のシグナルペプチドおよび第1のタンパク質相互作用ドメインの両方に作動可能に連結され得る。
【0155】
1つの実施形態では、本明細書中に定義の放出性タンパク質および保持タンパク質は、同一の核酸分子によってコードされる。この実施形態を、図2に示す。
【0156】
本明細書中で使用される場合、「融合タンパク質」は、個別のタンパク質をコードする2またはそれを超える核酸配列の連結によって作製されたタンパク質である。
【0157】
適切には、本明細書中に定義の放出性タンパク質は、融合タンパク質であり得、第1のタンパク質相互作用ドメインに融合したPOIを含み得る。適切には、本明細書中に定義の放出性タンパク質は、第1のタンパク質相互作用ドメインおよびシグナルペプチドの両方に融合したPOIを含み得る融合タンパク質であり得る。
【0158】
POIは分泌タンパク質であり得る。適切には、本発明は、細胞からの分泌タンパク質の放出を調節する方法であって、ここで、POIは分泌タンパク質である、方法を提供する。
【0159】
本明細書中で使用される「膜タンパク質」は、タンパク質を細胞膜に係留するアンカーとして作用する膜係留成分(membrane tethering component)を含むタンパク質を意味する。
【0160】
膜係留成分は、膜局在ドメインを含み得る。これは、原形質膜に近位の位置にタンパク質を付着または保持させる任意の配列であり得る。
【0161】
膜局在ドメインは、新生ポリペプチドを最初にER膜に付着させる配列であり得るか、この配列を含み得る。膜材料がERからゴルジに、最終的には原形質膜に「流れる」ので、タンパク質は、合成/移動プロセスの終了時に膜に会合したままである。
【0162】
膜局在ドメインは、例えば、膜貫通ドメインもしくは膜貫通配列、膜透過停止配列、GPIアンカー、またはミリストイル化/プレニル化/パルミトイル化部位を含み得る。
【0163】
あるいは、膜局在ドメインは、例えば膜近位実体への結合によって細胞膜に存在するタンパク質または他の実体に膜係留成分を方向づけることができる。膜係留成分は、例えば、免疫シナプスに関与する分子(TCR/CD3、CD4、またはCD8など)に結合するドメインを含み得る。
【0164】
ミリストイル化は、ミリスチン酸由来のミリストイル基がアミド結合によって末端グリシン残基のα-アミノ基に共有結合する脂質化修飾である。ミリスチン酸は、n-テトラデカン酸としても公知の14-炭素飽和脂肪酸である。共翻訳的にかまたは翻訳後にのいずれかで修飾を追加することができる。N-ミリストイルトランスフェラーゼ(NMT)は、細胞質内でのミリスチン酸付加反応を触媒する。疎水性ミリストイル基が細胞膜内のリン脂質と相互作用するので、ミリストイル化するとタンパク質が膜を標的にし、膜にタンパク質が付着される。
【0165】
本発明の膜係留成分は、NMT酵素によってミリストイル化され得る配列を含み得る。本発明の細胞の膜係留成分は、細胞内で発現されたときにミリストイル基を含み得る。
【0166】
膜係留成分は、以下などのコンセンサス配列を含み得る:NMT酵素によって認識されるNH2-G1-X2-X3-X4-S5-X6-X7-X8。
【0167】
パルミトイル化は、タンパク質のシステイン残基、それほど多くはないが、セリン残基およびトレオニン残基への脂肪酸(パルミチン酸など)の共有結合による付加(covalent
attachment)である。パルミトイル化は、タンパク質の疎水性を増強し、膜会合を誘導するために使用することができる。プレニル化およびミリストイル化と対照的に、パルミトイル化は、通常は不可逆である(パルミチン酸とタンパク質との間の結合がチオエステル結合であることが多いため)。逆反応は、パルミトイルタンパク質チオエステラーゼによって触媒される。
【0168】
Gタンパク質を介したシグナル伝達では、αサブユニットのパルミトイル化、γサブユニットのプレニル化、およびミリストイル化は、原形質膜の内面へのGタンパク質の係留に関与し、その結果Gタンパク質がその受容体と相互作用することができる。
【0169】
膜係留成分は、パルミトイル化され得る配列を含み得る。膜係留成分は、細胞内で発現されたときに膜局在化させるさらなる脂肪酸を含み得る。
【0170】
プレニル化(イソプレニル化または脂質化としても公知)は、タンパク質または化学化合物への疎水性分子の付加である。プレニル基(3-メチル-ブタ-2-エン-1-イル)は、GPIアンカーのような脂質アンカーに類似して、細胞膜への付着を容易にする。
【0171】
タンパク質プレニル化は、標的タンパク質のC末端システイン(単数または複数)へのファルネシル部分またはゲラニル-ゲラニル部分のいずれかの移行を伴う。細胞内でプレニル化する酵素は3種存在する(ファルネシルトランスフェラーゼ、Caaxプロテアーゼ、およびゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI)。
【0172】
膜係留成分は、プレニル化され得る配列を含み得る。膜係留成分は、細胞内で発現されたときに膜局在化させる1またはそれを超えるプレニル基を含み得る。
【0173】
本明細書中で使用される「膜貫通ドメイン」は、膜にまたがるタンパク質配列である。膜貫通ドメインは、膜内で熱力学的に安定な任意のタンパク質構造物であり得る。これは、典型的には、いくつかの疎水性残基から構成されるαヘリックスである。任意の膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインを、本発明の膜タンパク質に膜貫通部分を供給するために使用することができる。
【0174】
タンパク質の膜貫通ドメインの存在および全長(span)を、当業者がTMHMMアルゴリズム(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)を使用して決定することができる。さらに、タンパク質の膜貫通ドメインが比較的簡潔な構造(すなわち、膜にまたがるのに十分な長さの疎水性αヘリックスを形成すると予測されるポリペプチド配列)であることを考慮すると、人工的に設計されたTMドメインも使用することができる(米国特許第7052906B1号は、合成膜貫通成分を記載している)。
【0175】
POIは、膜タンパク質(例えば、膜係留成分を含むタンパク質、膜貫通ドメインを含むタンパク質)であり得る。適切には、POIは、任意のタイプの膜タンパク質であり得、以下が含まれるが、これらに限定されない:タイプI、II、およびII(一回貫通分子)およびタイプIV(複数回貫通分子)膜タンパク質。適切には、本発明は、膜タンパク質が細胞の原形質膜に移動するように細胞の内側からの膜タンパク質の放出を調節する方法であって、ここで、POIが膜タンパク質である、方法を提供する。
【0176】
本発明で使用することができる膜タンパク質の例には、以下が含まれるが、これらに限定されない:Srcファミリーキナーゼ(例えば、Fyn、Src、Lck)、4-1BBL、CD40L、OX40、CD148、CD45、SHP-1、またはSHP-2、CTLA4、PD-1、LAG-3、2B4、BTLA1、CD28、ICOS.CD33、CD31、CD27、CD30、GITRまたはHVEMまたはSiglec-5、6、7、8、9、10、もしくは11およびキメラ腫瘍壊死因子(TNF)受容体。本発明で使用することができる膜タンパク質の他の例には、膜結合サイトカイン(IL2、IL17、およびIL15など)が含まれる。
【0177】
本明細書中で使用される場合、「エンハンサー」は、本発明の細胞溶解性免疫細胞の活性(例えば、シグナル伝達)および/または持続を増強することができるタンパク質を意味する。例えば、エンハンサーは、本発明の細胞溶解性免疫細胞の細胞活性化、抗原応答性、増殖および/または持続を増強することができる場合がある。
【0178】
適切には、エンハンサーは、膜係留成分およびエンハンサードメインを含み得る。
【0179】
「膜係留成分」は、シグナル増強成分またはシグナル減衰成分を細胞膜の細胞内面に係留するアンカーとして作用する。
【0180】
適切には、エンハンサードメインは、シグナルリン酸化増幅ドメイン(例えば、キナーゼ)であり得る。
【0181】
リン酸化増幅ドメインは、ITAMのリン酸化を直接または間接的に増幅させることができるリン酸化増幅エンドドメインであり得る。例えば、リン酸化増幅エンドドメインは、1またはそれを超えるITAM(単数または複数)のリン酸化を直接または間接的に増幅することができる場合がある。
【0182】
リン酸化の直接増幅の例は、キナーゼによるリン酸化である。SRCファミリーキナーゼ(SRK)タンパク質のチロシンキナーゼドメインは、ITAM上のチロシン残基を直接リン酸化することができる。
【0183】
リン酸化の間接的増幅の例は、キナーゼの動員を介した増幅である。例えば、CD4共受容体およびCD8共受容体の細胞内ドメインは、CAR T細胞抗原複合体とクラスター化し、さらにSRKタンパク質を動員することによってITAMのリン酸化を間接的に増幅し、次いで、ITAMを直接リン酸化する。これらの共受容体はまた、CAR T細胞抗原複合体をさらに安定化し、T細胞活性化に必要なCAR T細胞受容体複合体を介したシグナル伝達を最適にする。
【0184】
リン酸化増幅ドメインは、SRKタンパク質のチロシンキナーゼドメインの全てまたは一部を含み得る。
【0185】
あるいはまたはさらに、リン酸化増幅ドメインは、CD4共受容体またはCD8共受容体の細胞内ドメインの全てまたは一部を含み得る。
【0186】
エンハンサードメインは、腫瘍微小環境から細胞を保護する因子(例えば、4-1BBLまたはCD40L)であり得る。
【0187】
エンハンサードメインは、キメラ腫瘍壊死因子(TNF)受容体であり得る。
【0188】
適切には、キメラTNF受容体は、TNFRリガンドに結合することができる結合ドメインおよびTNFRシグナル伝達ドメインを含み得る。適切には、抗原結合ドメインは、D3R、HVEM、CD27、CD40、RANK、またはFn14のリガンド結合ドメインを含み得る。適切には、シグナル伝達ドメインは、4-1BB、OX40、またはGITRエンドドメインのシグナル伝達部分を含み得る。
【0189】
1つの実施形態では、POI(膜POIなど)はエンハンサーであり得る。
【0190】
本明細書中で使用される場合、「ダンプナー」または「シグナルダンパー」は、細胞膜の細胞内側に配置されたときにシグナル伝達を阻害するタンパク質を意味する。
【0191】
例えば、ダンプナーは、CARエンドドメインまたはTCRエンドドメインの近位に配置されたときにCAR媒介シグナル伝達またはTCR媒介シグナル伝達を阻害し得る。
【0192】
シグナルダンプナーは、CAR媒介細胞シグナル伝達またはTCR媒介細胞シグナル伝達を完全に阻害し、CAR媒介細胞活性化を有効に「オフにする」ことができる。あるいは、シグナルダンプナーは、部分阻害を引き起こし、CAR媒介細胞シグナル伝達を有効に「低下させる」ことができる。
【0193】
シグナルダンプナーが存在すると、シグナル伝達成分を介したシグナル伝達が、シグナルダンプナーの非存在下で生じるシグナル伝達の1/2、1/5、1/10、1/50、1/100、1/1,000、または1/10,000になり得る。
【0194】
CAR媒介シグナル伝達またはTCR媒介シグナル伝達を、当該分野で公知の種々の方法によって決定することができる。かかる方法は、シグナル伝達をアッセイすること(例えば、特定のタンパク質チロシンキナーゼ(PTK)のレベル、ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)の分解、プロテインキナーゼC(PKC)の活性化、および細胞内カルシウムイオン濃度の上昇をアッセイすること)を含む。T細胞クローンの拡大増殖(clonal expansion)、細胞表面上の活性化マーカーの上方制御、エフェク
ター細胞への分化、および細胞傷害性サイトカイン(例えば、IL-2)分泌の誘導などの機能の読み取りも利用することができる。
【0195】
適切には、ダンプナーは、膜係留成分およびシグナル減衰ドメインを含み得る。
【0196】
シグナル減衰ドメインは、ITAMを脱リン酸化することができるホスファターゼなどのホスファターゼを含み得る。
【0197】
シグナルダンプナーのシグナル減衰ドメインは、受容体様チロシンホスファターゼの全てまたは一部を含み得る。ホスファターゼ(phospatase)は、T細胞シグナル伝達に関与するエレメント(PLCγ1および/またはLATなど)のリン酸化および/または機能を干渉し得る。
【0198】
シグナル減衰ドメインは、T細胞活性化の調節に関与する1またはそれを超えるホスファターゼ(CD148、CD45、SHP-1、またはSHP-2など)のホスファターゼドメインを含み得る。
【0199】
適切には、細胞内区画から膜へのダンプナー(例えば、ホスファターゼ)の放出は、CARまたはTCR媒介シグナル伝達を減衰させる。
【0200】
シグナル減衰成分のシグナル減衰ドメインは、T細胞シグナル伝達を阻害する免疫制御性分子の実施形態の全てまたは一部を含み得る。例えば、シグナル減衰ドメインは、T細胞活性化を阻害する免疫抑制受容体由来のエンドドメインを含み得る。抑制性受容体は、CD28またはSiglecファミリーのメンバーであり得る(CTLA4、PD-1、LAG-3、2B4、BTLA1、CD28、ICOS.CD33、CD31、CD27、CD30、GITRもしくはHVEM、またはSiglec-5、6、7、8、9、10、もしくは11)など。
【0201】
シグナル減衰ドメインは、1またはそれを超える免疫受容体抑制性チロシンモチーフ(ITIM)を含み得る。
【0202】
ITIMは、免疫系の多数の抑制性受容体の細胞質側末端に見出されるアミノ酸(S/I/V/LxYxxI/V/L)の保存配列である。ITIMプロセシング抑制性受容体がそのリガンドと相互作用した後、そのITIMモチーフは、Srcキナーゼの酵素によってリン酸化されるようになる。
【0203】
免疫抑制性受容体(PD1、PDCD1、BTLA4、LILRB1、LAIR1、CTLA4、2B4、GP49B、Pir-B、PECAM-1、CD22、Siglec7、Siglec9、KLRG1、ILT2、CD94-NKG2A、CD5、ならびにKiller抑制性受容体ファミリー(KIR)(KIR2DL1、KIR2DL4、KIR2DL5、KIR3DL1、およびKIR3DL3が含まれる)など)は、ITIMを含む。
【0204】
チロシン-プロテインキナーゼCSK(C末端Srcキナーゼ)は、SrcファミリーキナーゼのC末端に存在するチロシン残基をリン酸化する酵素である(UniProtID:P41240(http://www.uniprot.org/uniprot/P41240))。シグナル減衰ドメインは、CSKのチロシンキナーゼドメインを含み得る。
【0205】
1つの実施形態では、POI(膜POIなど)は、ダンプナーであり得る。
【0206】
適切には、POIは、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞がCARまたはトランスジェニックTCRを含むときのダンプナーであり得る。
【0207】
シグナルペプチド
古典的なタンパク質分泌経路は、小胞体(ER)を介する。本明細書中に記載の放出性タンパク質および保持タンパク質は、シグナル配列を含み得るため、タンパク質が細胞の内側で発現されるとき、新生タンパク質がERに方向づけられる。
【0208】
用語「シグナルペプチド」は、「シグナル配列」と同義である。
【0209】
シグナルペプチドは、典型的には新規に合成されたタンパク質の大部分のN末端に存在し、分泌経路に向かう運命にある、一般に5~30アミノ酸長の短いペプチドである。これらのタンパク質には、一定のオルガネラ(例えば、小胞体、ゴルジ、またはエンドソーム)のいずれかの内側に存在し、細胞から分泌されるタンパク質、および膜貫通タンパク質が含まれる。
【0210】
シグナルペプチドは、一般に、一本鎖αヘリックスを形成する傾向がある長鎖疎水性アミノ酸であるコア配列を含む。シグナルペプチドは、短い正電荷のアミノ酸鎖から始まる場合があり、これは、移動中のポリペプチドの適切なトポロジーを堅持するのに役立つ。シグナルペプチドの末端では、典型的には、シグナルペプチダーゼによって認識および切断されるアミノ酸鎖が存在する。シグナルペプチダーゼは、移動中または移動完了後のいずれかにシグナルペプチドを切断して、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成し得る。次いで、遊離シグナルペプチドは、特定のプロテアーゼによって消化される。
【0211】
シグナルペプチドは、いくつかのカルボキシ末端シグナルペプチドが知られているが、一般に、分子のアミノ末端に存在する。
【0212】
シグナル配列は、典型的には、疎水性コア領域(h-領域)、これに隣接するn-領域およびc-領域からなる三部構造を有する。後者は、シグナルペプチダーゼ(SPase)コンセンサス切断部位を含む。通常は、シグナル配列は共翻訳的に切断され、得られた切断シグナル配列はシグナルペプチドと名付けられている。
【0213】
シグナル配列を、ソフトウェア技術(例えば、http://www.predisi.de/を参照のこと)を使用して検出するか予測することができる。
【0214】
非常に多くのシグナル配列が公知であり、データベースから入手できる。例えば、http://www.signalpeptide.de lists 2109では、そのデータベース内に哺乳動物シグナルペプチドが確認される。
【0215】
1つの実施形態では、タンパク質は、タンパク質を小胞体(ER)内に移動させることができるシグナルペプチドに作動可能に連結され得る。タンパク質は、タンパク質をER内に移動させることができるシグナルペプチドに作動可能に連結されるように操作され得る。適切には、タンパク質は、通常は天然では作動可能に連結されないシグナルペプチドに作動可能に連結され得る。適切には、タンパク質とシグナルペプチドの組み合わせは合成であり得る(例えば、天然では見出されない)。
【0216】
いくつかの実施形態では、変化したシグナルペプチド(効率性で劣るシグナルペプチドなど)を使用することができる。変化したシグナルペプチドを使用すると、臨床上の必要性に応じて系が調整される場合がある。例えば、いくつかの実施形態では、効率性で劣るシグナルペプチドを使用すると、系からの漏出が低下する(例えば、作用因子の非存在下での分泌または移動が低下する)
【0217】
タンパク質の比は、2つのタンパク質上の1またはそれを超えるシグナルペプチドの効率をモジュレートすることによって改変され得る。シグナルペプチドの効率をモジュレートする方法は、WO2016/174409号(本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0218】
適切には、シグナルペプチドは、マウスIgκ鎖V-III領域シグナルペプチドまたはそのバリアントであり得る。マウスIgκ鎖V-III領域シグナルペプチドのアミノ酸配列を、配列番号25に記載する。適切には、シグナルペプチドは、配列番号25またはそのバリアントを含み得る。
METDTLLLWVLLLWVPGSTG(配列番号25)。
【0219】
適切には、バリアントマウスIgκ鎖V-III領域シグナルペプチドのアミノ酸配列は、配列番号26に記載の配列を含み得る。
METDTLLLKVLLLWVPGSTG(配列番号26)。
【0220】
このバリアントマウスIgκ鎖V-III領域シグナルペプチド配列は、配列番号26に記載の野生型配列に関してアミノ酸位置番号9(下線)にリジン変異を含む。適切には、このシグナルペプチドは、配列番号26またはそのバリアントを含み得る。
【0221】
アミノ酸位置番号9でのリジン変異によるこの置換は、シグナルペプチドの効率を低下させ、それにより、ERへのタンパク質の侵入量が低下し、膜に分泌または移動されるタンパク質の総量が低下する。
【0222】
適切には、シグナルペプチドは、マウスIg重鎖V領域シグナルペプチド配列であり得る。マウスIg重鎖V領域シグナルペプチドのアミノ酸配列を、配列番号27に記載する。適切には、シグナルペプチドは、配列番号27に記載の配列またはそのバリアントを含み得る。
MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号27)。
【0223】
配列番号25~27のバリアント配列は、配列番25~27と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の配列同一性を有し得、但し、バリアント配列が、シグナルペプチドとして機能できることを条件とする。バリアント配列は、新生タンパク質をERに向かわせる能力を保持している。
【0224】
別の実施形態では、タンパク質は、ER内に移動させることができるシグナルペプチドに作動可能に連結され得る。適切には、タンパク質は、通常天然で作動可能に連結されるシグナルペプチドに作動可能に連結され得る。適切には、タンパク質は、野生型シグナルペプチドを含み得る(例えば、タンパク質とシグナルペプチドの組み合わせは天然に存在する)。
【0225】
いくつかの実施形態では、POIは膜タンパク質であり、膜透過停止アンカー配列(stop-transfer anchor sequence)で脂質膜に係留されている。他の実施形態では、PO
Iは膜タンパク質であり、シグナルアンカー配列で脂質膜に係留されている。他の実施形態では、POIは膜タンパク質であり、そのN末端ドメインはサイトゾルに向かっている。さらなる実施形態では、POIは膜タンパク質(prtein)であり、そのN末端ドメインは内腔に向かっている。
【0226】
作用因子
第1および第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の相互作用は、作用因子の存在または非存在に応じた条件付き相互作用である。
【0227】
作用因子は、細胞の細胞質または細胞内区画に送達され得る場合があり、細胞内結合に利用可能であり得る。
【0228】
適切には、作用因子は小分子であり得る。作用因子は、ステロイド、メトトレキサート、カフェイン、コカイン、または抗生物質などの小分子であり得る。
【0229】
ステロイドは、4つの「縮合」炭素環を有する有機化合物である。ステロイドの例には、食物脂質であるコレステロール、性ホルモンであるエストラジオールおよびテストステロン、ならびに抗炎症薬であるデキサメタゾンが含まれる。
【0230】
ステロイドのコア構造は、以下の4つの「縮合」環に結合した17個の炭素原子から構成される:3つの6員シクロヘキサン環(第1の図中のA、B、およびC環)および1つの5員シクロペンタン環(D環)。ステロイドは、この4環コアに結合した官能基および環の酸化状態によって様々である。ステロールは、3位にヒドロキシル基およびコレスタン由来の骨格を有するステロイドの形態である。
【0231】
メトトレキサート(MTX)は、以前はアメトプテリンとして公知であり、代謝拮抗物質および抗葉酸薬である。
【0232】
カフェインは、プリン環を有するメチルキサンチンアルカロイドである。カフェインは、中枢神経系の刺激薬であるが、食品医薬品局によって一般に安全とみなされている(GRAS)。中毒量は、成人では10グラム超であり、典型的な用量である500ミリグラム/日未満よりはるかに高い。コーヒー一杯には80~175mgのカフェインが含まれている。
【0233】
コカインは、ベンゾイルメチルエクゴニンまたはコークとしても公知であり、強い刺激薬である。コカイン(メチル(1R,2R,3S,5S)-3-(ベンゾイルオキシ)-8-メチル-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-2-カルボキシラート)の種々のアナログが公知である(立体異性体;3β-フェニル環置換類似体;2β-置換類似体;コカインのN修飾類似体;3β-カルバモイル類似体;3β-アルキル-3-ベンジルトロパン;6/7置換コカイン;6-アルキル-3-ベンジルトロパン;およびピペリジンホモログが含まれる。
【0234】
抗生物質または抗細菌薬は、細菌感染の処置および予防で使用される抗菌剤の一形態である。抗菌性抗生物質は、一般に、その作用機序、化学構造、または活性領域に基づいて分類される。そのほとんどが、細菌の機能または成長過程を標的にする。細菌細胞壁を標的にするもの(ペニシリンおよびセファロスポリン)、細胞膜を標的にするもの(ポリミキシン)、または必須細菌酵素を妨害するもの(リファマイシン、リピアルマイシン、キノロン、およびスルホンアミド)は、殺菌活性を有する。タンパク質合成を標的にするもの(マクロライド、リンコサミド、およびテトラサイクリン)は、通常、静菌性を示す(殺菌性アミノグリコシドを除く)。さらなる分類は、その標的特異性に基づく。「狭域スペクトル」抗菌性抗生物質は、特定の細菌タイプ(グラム陰性菌またはグラム陽性菌など)を標的にし、それに対して、広域スペクトル抗生物質は、広範な細菌に影響を及ぼす。以下の4つの新規の抗菌性抗生物質クラスがこの10年で臨床使用されている:環状リポペプチド(ダプトマイシンなど)、グリシルサイクリン(チゲサイクリンなど)、オキサゾリジノン(リネゾリドなど)、およびリピアルマイシン(フィダキソマイシンなど)。
【0235】
作用因子は、例えば、抗生物質(テトラサイクリンなど)またはその誘導体(ドキシサイクリンまたはミノサイクリンなど)であり得る。
【0236】
細胞内保持ドメイン
本明細書中で使用される「保持タンパク質」は、細胞内保持ドメインを含むタンパク質を意味する。
【0237】
適切には、保持タンパク質は、細胞内保持ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインを含み得る。
【0238】
細胞内保持ドメインは、所与の細胞内区画に常在する任意のタンパク質またはタンパク質ドメインであり得る。これは、前述のタンパク質またはドメインの大部分が所与の区画に存在することを意味する。少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の前述のタンパク質またはドメインが、細胞内の前述の区画に存在する。保持ドメインは、本発明の目的のタンパク質が作用因子の非存在下で細胞から分泌されるかまたは原形質膜に移動されるのを防止する。
【0239】
本明細書中で使用される場合、「区画」または「細胞内区画」は、細胞の所与のサブドメインを指す。区画は、オルガネラ(多小胞体、ゴルジ装置、エンドソーム、リソソームなど)またはオルガネラのエレメント(エンドソームの多胞体、ゴルジ装置のシス槽、メディアル槽、またはトランス槽など)または原形質膜もしくは原形質膜のサブドメイン(頂端ドメイン、基底外側ドメイン、軸索ドメインなど)またはマイクロドメイン(接着斑または密着結合など)であり得る。
【0240】
「細胞内区画」は、細胞内の一区画を指す。
【0241】
本発明によれば、POIは、第1および第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の条件付き相互作用によって細胞内または特定の細胞区画内に保持され得、ここで、タンパク質相互作用ドメインのうちの一方は細胞内保持ドメインを含む。
【0242】
古典的なタンパク質分泌経路は、ERを介する。分泌タンパク質は、典型的にはシグナルペプチドを有し、それにより、ER内にタンパク質が移動する。分泌タンパク質は膜貫通ドメインを有さず、ERを通過し続けて細胞表面に出て、そこでそれらは膜に保持されない。
【0243】
1型膜結合タンパク質は、典型的にはシグナルペプチドを含み、膜透過停止アンカー配列で脂質膜に係留されている。膜貫通ドメインは、II型、III型、および複数回膜貫通型膜結合タンパク質を分泌経路に向かわせることができ、これは、切断されず、かつ典型的にはシグナルアンカー配列で係留されていることを除いて、シグナル配列に類似している。
【0244】
いくつかのシグナルペプチドは、ゴルジ保持モチーフを含む。これらのタンパク質はERに侵入するがゴルジ保持モチーフが認識されるため、ゴルジに戻され分泌されない。
【0245】
保持ドメインは、ゴルジに常在するタンパク質またはドメインであり得る。適切には、ゴルジ保持ドメインは、以下を含む群から選択され得る:ギアンチン(GolgB1、GenBank受入番号NM+004487.3)、TGN38/46、Menkes受容体およびゴルジ酵素(ManII(α-1,3-1,6マンノシダーゼ、Genbank受入番号NM_008549)など)、シアリルトランスフェラーゼ(β-ガラクトサミドα2,6-シアリルトランスフェラーゼ(sialytransferae)1、NM_003032)、GalT(β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ1、NM_001497)アデノウイルスE19、HLAインバリアント鎖、または局在化ドメインを含むその断片。
【0246】
細胞内保持ドメインは、ゴルジ保持ドメインであり得る。ゴルジ保持ドメインは、SEKDEL(配列番号28)配列、KDEL(配列番号29)配列、KKXX(配列番号30)モチーフ、KXKXX(配列番号31)モチーフ、配列KYKSRRSFIDEKKMP(配列番号32)を含むアデノウイルスE19タンパク質のテール、または配列MHRRRSRSCR(配列番号33)を含むヒト白血球抗原(HLA)インバリアント鎖のフラグメントからなる群から選択され得る。
【0247】
適切には、保持ドメインはKDEL(配列番号29)配列であり得る。KDEL配列は、タンパク質がERから分泌されるのを防止する。KDEL配列を有するタンパク質は、ER内腔への逆行性輸送によってゴルジ装置から回収される。タンパク質は、KDEL配列が切断された後はERから遊離するのみである。したがって、ERに常在するタンパク質は、KDEL配列を含む限り、ER内に保持される。
【0248】
適切には、保持ドメインは、KKXX(配列番号30)モチーフであり得る。適切には、KKXXドメインは、タンパク質のC末端に存在し得る。KKXXは、コートタンパク質(COPI)複合体との相互作用を介した逆行性輸送によって、ゴルジ装置のシス末端からのER膜タンパク質の回収を担う。
【0249】
適切には、保持ドメインはKXKXX(配列番号31)モチーフであり得る。
【0250】
適切には、保持ドメインは、配列KYKSRRSFIDEKKMP(配列番号32)を含むアデノウイ
ルスE19タンパク質のテールであり得る。
【0251】
適切には、保持ドメインは、配列MHRRRSRSCR(配列番号33)を含むHLAのインバリアント鎖のNの末端フラグメントであり得る。
【0252】
保持ドメインは、ERに常在するタンパク質またはドメインであり得る。
【0253】
ER保持ドメインは、以下を含む群から選択され得る:ERに常在するインバリアント鎖のイソ型(Ii33)、リボフォリンI、リボフォリンII、SEC61、もしくはシトクロムb5、または局在化ドメインを含むその断片。ER局在化ドメインの例は、リボフォリンII(GenbankアクセッションBC060556.1)のER局在化ドメインである。
【0254】
細胞内保持ドメインはER保持ドメインであり得る。
【0255】
保持ドメインは、原形質膜に常在するタンパク質またはドメインであり得る。細胞内保持ドメインは原形質膜保持ドメインであり得る。
【0256】
原形質膜保持ドメインは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)係留タンパク質(Thy-1細胞表面抗原(Thy-1)およびプリオンタンパク質(PRNP)など)から選択され得る。
【0257】
保持ドメインは、タンパク質相互作用ドメインのC末端であり得る。
【0258】
保持ドメインは、タンパク質相互作用ドメインのN末端であり得る。
【0259】
適切には、本明細書中に定義の保持タンパク質は、本明細書中に定義の第2のタンパク質相互作用ドメインに作動可能に連結された細胞内保持ドメインを含み得る。細胞内保持ドメインは、本明細書中に定義のシグナルペプチドおよび第2のタンパク質相互作用ドメインの両方に作動可能に連結され得る。
【0260】
適切には、本明細書中に定義の保持タンパク質は融合タンパク質であり得、第2のタンパク質相互作用ドメインに融合した細胞内保持ドメインを含み得る。適切には、本明細書中に定義の保持タンパク質は、第2のタンパク質相互作用ドメインとシグナルペプチドの両方に融合した細胞内保持ドメインおよび/または膜貫通ドメインを含み得る融合タンパク質であり得る。適切には、本明細書中に定義の保持タンパク質は融合タンパク質であり得、細胞内ドメインとシグナルペプチドの両方に融合した第2のタンパク質相互作用ドメインおよび/または膜貫通ドメインを含み得る。
【0261】
細胞
本発明は、操作された細胞溶解性免疫細胞であって、目的のポリペプチド(POI)および第1の相互作用ドメインを含む放出性タンパク質;および、細胞の細胞内区画内に保持されており、第2の相互作用ドメインを含む保持タンパク質を含み;ここで、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインが、作用因子の存在または非存在に応じて条件付きで相互作用することができる、操作された細胞溶解性免疫細胞に関する。
【0262】
細胞は、目的のタンパク質(POI)、第1のタンパク質相互作用ドメイン、およびシグナルペプチドを含む放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列;および
第2のタンパク質相互作用ドメイン、細胞内保持ドメイン、およびシグナルペプチドを含む保持タンパク質をコードする第2の核酸配列を含むことができ、ここで、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインが、作用因子の存在または非存在に応じて条件付きで相互作用することができる。
【0263】
いくつかの実施形態では、POIは分泌性タンパク質であり、作用因子の存在下で細胞によって分泌される。
【0264】
いくつかの実施形態では、POIは膜タンパク質であり、作用因子の存在下で原形質膜に送り出される。本発明はまた、本発明の方法によって得ることができる(または得た)操作された細胞溶解性免疫細胞に関する。
【0265】
いくつかの実施形態では、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)またはトランスジェニックT細胞受容体(TCR)をさらに含む。
【0266】
本明細書中で使用される「操作された細胞」は、細胞によって天然にコードされない核酸配列を含むか発現するように改変された細胞を意味する。細胞を操作する方法は当該分野で公知であり、例えば、形質導入(レトロウイルスまたはレンチウイルスの形質導入など)、トランスフェクション(DNAまたはRNAベースの一過性トランスフェクションなど)(リポフェクション、ポリエチレングリコール、リン酸カルシウム、およびエレクトロポレーションが含まれる)による細胞の遺伝子改変が含まれるが、これらに限定されない。核酸配列を細胞に導入するのに適切な任意の方法を使用することができる。
【0267】
したがって、放出性タンパク質および保持タンパク質をそれぞれコードする第1および第2の核酸配列は、対応する非改変の細胞(例えば、非改変のα-βT細胞、NK細胞、γ-δT細胞、またはサイトカイン誘導性キラー細胞)によって天然に発現されない。
【0268】
適切には、操作された細胞は、例えば、形質導入またはトランスフェクションによってゲノムが改変されている細胞である。適切には、操作された細胞は、そのゲノムがレトロウイルス形質導入によって改変されている細胞である。適切には、操作された細胞は、そのゲノムがレンチウイルス形質導入によって改変されている細胞である。
【0269】
本明細書中で使用される場合、用語「導入された」は、外来のDNAまたはRNAを細胞に挿入する方法を指す。本明細書中で使用される場合、導入されたという用語には、形質導入法およびトランスフェクション法の両方が含まれる。トランスフェクションは、非ウイルス法によって細胞に核酸を導入するプロセスである。形質導入は、ウイルスベクターを介して細胞に外来のDNAまたはRNAを導入するプロセスである。
【0270】
本発明の操作された細胞は、ウイルスベクターでの形質導入、DNAまたはRNAでのトランスフェクションが含まれる多数の手段のうちの1つによる放出性タンパク質および保持タンパク質をコードするDNAまたはRNAの導入によって生成され得る。
【0271】
放出性タンパク質および保持タンパク質をコードする核酸配列の導入前に、例えば、抗CD3モノクローナル抗体または抗CD3モノクローナル抗体および抗CD28モノクローナル抗体の両方での処置によって、細胞を活性化および/または拡大増殖させることができる。本明細書中で使用される場合、「活性化された」は、増殖するか、分化するか、エフェクター機能を開始するように細胞が刺激されていることを意味する。
【0272】
細胞活性化を測定する方法は、当該分野で公知であり、例えば、フローサイトメトリーによる活性化マーカーの発現(CD69、CD25、CD38、またはHLA-DRの発現など)の測定または細胞内サイトカインの測定が含まれる。
【0273】
本明細書中で使用される場合、「拡大増殖された(expanded)」は、細胞または細胞集団が増殖するように誘導されていることを意味する。
【0274】
細胞集団の拡大増殖を、例えば、集団中に存在する細胞数のカウントによって測定することができる。細胞の表現型を、フローサイトメトリーなどの当該分野で公知の方法によって決定することができる。
【0275】
本明細書中で使用される「細胞溶解性免疫細胞」は、他の細胞を直接死滅させる細胞である。細胞溶解性細胞は、がん性細胞;ウイルス感染細胞、または他の損傷細胞を死滅させることができる。細胞溶解性免疫細胞には、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。
【0276】
細胞溶解性免疫細胞は、細胞性免疫において中心的役割を果たすあるタイプのリンパ球であるT細胞またはTリンパ球であり得る。T細胞を、細胞表面上のTCRの存在によって他のリンパ球(B細胞およびNK細胞など)と区別することができる。
【0277】
細胞溶解性T細胞(TC細胞、またはCTL)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶にも関与する。CTLは、その表面にCD8を発現する。CTLはCD8+T細胞として公知であり得る。これらの細胞は、全ての有核細胞の表面上に存在するMHCクラスIに関連する抗原への結合によってその標的を認識する。IL-10、アデノシン、および制御性T細胞によって分泌される他の分子を介して、CD8+細胞をアネルギー状態に不活性化することができ、それにより実験的自己免疫性脳脊髄炎などの自己免疫疾患を予防する。
【0278】
適切には、本発明の細胞はT細胞であり得る。適切には、T細胞はα-βT細胞であり得る。適切には、T細胞はγ-δT細胞であり得る。
【0279】
ナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)は、先天性免疫系の一部を形成する細胞溶解性細胞の一種である。NK細胞は、ウイルス感染細胞からの先天性シグナルに対してMHC依存性様式で迅速に応答する。
【0280】
NK細胞(自然リンパ球の群に属する)は大顆粒リンパ球(LGL)と定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生成する共通のリンパ系前駆細胞から分化した第3の細胞を構成する。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃腺、および胸腺で分化および成熟し、次いで、循環内に進入することが公知である。
【0281】
適切には、本発明の細胞は、野生型キラー(NK)細胞であり得る。適切には、本発明の細胞はサイトカイン誘導性キラー細胞であり得る。
【0282】
細胞は、患者自身の末梢血(第1のパーティ)、または造血幹細胞移植の状況におけるドナー由来の末梢血(第2のパーティ)、または無関係のドナー由来の末梢血(第3のパーティ)に由来し得る。本発明のポリペプチドをコードする核酸分子(単数または複数)の形質導入前に、例えば、抗CD3モノクローナル抗体での処置によって、T細胞またはNK細胞を、例えば、活性化および/または拡大増殖させることができる。
【0283】
あるいは、細胞は、誘導性前駆細胞または胚性前駆細胞のT細胞へのex vivo分化に由来し得る。あるいは、溶解機能を保持している不死化T細胞株を使用することができる。
【0284】
細胞は造血幹細胞(HSC)であり得る。移植のためのHSCを、適切に適合したドナーの骨髄から、薬理学的用量のサイトカイン(G-CSFなど)の投与による動員後の末梢血の白血球搬出によって(末梢血幹細胞(PBSC))、または出産後の胎盤から回収した臍帯血(UCB)から得ることができる。骨髄、PBSC、またはUCBを無処理で移植することができるか、HSCを、CD34表面抗原に対するモノクローナル抗体での免疫選択によって富化することができる。
【0285】
キメラ抗原受容体(CAR)
古典的なCARは、細胞外抗原認識ドメイン(バインダー)が細胞内シグナル伝達ドメイン(エンドドメイン)に接続しているキメラI型膜貫通タンパク質である。バインダーは、典型的には、モノクローナル抗体(mAb)由来の単鎖可変断片(scFv)であるが、抗体様抗原結合部位を含む他の形式または標的抗原のリガンドに基づき得る。スペーサードメインは、バインダーを膜から隔離し、適切に配向するのに必要であり得る。一般に使用されるスペーサードメインは、IgG1のFcである。抗原に応じて、例えば、CD8α由来のストーク、さらにはIgG1ヒンジのみには、より小型のスペーサーで十分であり得る。膜貫通ドメインは、細胞膜中のタンパク質を係留し、スペーサーをエンドドメインに接続する。
【0286】
初期のCARデザインは、FcεR1のγ鎖またはCD3ζのいずれかの細胞内部分に由来するエンドドメインを有していた。従って、これらの第1世代の受容体は、免疫学的シグナル1を伝達し、同族標的細胞のT細胞死滅を誘発するのに十分であったが、T細胞が増殖および生存するように完全に活性化することはできなかった。この限界を克服するために、化合物エンドドメインが以下のように構築された:T細胞共刺激分子の細胞内部分をCD3ζの細胞内部分と融合することにより、抗原認識後に活性化シグナルおよび共刺激シグナルを同時に伝達することができる第2世代の受容体が得られる。最も一般的に使用される共刺激ドメインは、CD28の共刺激ドメインである。これにより、最も強力な共刺激シグナル(すなわち、T細胞増殖を誘発する免疫学的シグナル2)が供給される。TNF受容体ファミリーエンドドメイン(生存シグナルを伝達する密接に関連するOX40および4-1BBなど)を含むいくつかの受容体も記載されている。活性化シグナル、増殖シグナル、および生存シグナルを伝達することができるエンドドメインを有するさらにより強力な第3世代のCARをここに記載している。
【0287】
CARをコードする核酸を、例えば、レトロウイルスベクターを使用して、T細胞に移入することができる。このようにして、多数の抗原特異的T細胞を、養子細胞移入のために生成することができる。CARが標的抗原に結合するとき、この結合により、CARが発現されるT細胞に活性化シグナルが伝達される。したがって、CARは、T細胞の特異性および細胞傷害性を、標的にされた抗原を発現する細胞に仕向ける。
【0288】
抗原結合ドメイン
抗原結合ドメインは、抗原を認識する古典的CARの一部である。
【0289】
多数の抗原結合ドメインが当該分野で公知であり、抗体、抗体模倣物、およびT細胞受容体の抗原結合部位に基づいた抗原結合ドメインが含まれる。例えば、抗原結合ドメインは、以下を含み得る:モノクローナル抗体由来の単鎖可変断片(scFv);標的抗原の野生型リガンド;標的に対して十分な親和性を有するペプチド;ラクダ科動物などの単鎖ドメイン結合剤;Darpinなどの人工単一結合剤;またはT細胞受容体由来の単鎖。
【0290】
以下の表1に示すように、種々の腫瘍関連抗原(TAA)が公知である。本発明で使用される抗原結合ドメインは、本明細書中に記載のTAAに結合することができるドメインであり得る。
【表1】
【0291】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、膜にまたがる古典的CARの配列である。膜貫通ドメインは、疎水性アルファヘリックスを含み得る。膜貫通ドメインは、受容体に良好な安定性をもたらすCD28に由来し得る。
【0292】
CARまたはTCRシグナルペプチド
本発明で使用するためのCARまたはトランスジェニックTCRは、シグナルペプチドを含み得るため、シグナルペプチドがT細胞などの細胞内で発現される場合、新生タンパク質は小胞体に向かい、その後に細胞表面に向かい、そこで発現される。
【0293】
シグナルペプチドのコアは、単一のアルファ-ヘリックスを形成する傾向がある長いストレッチの疎水性アミノ酸を含み得る。シグナルペプチドは、短い正電荷のアミノ酸ストレッチから始まってよく、このストレッチは、転位置中にポリペプチドの適切なトポロジーを強化するのに役立つ。シグナルペプチドの最後に、典型的には、シグナルペプチダーゼによって認識および切断されるアミノ酸ストレッチが存在する。シグナルペプチダーゼは、転位置中または転位置の完了後のいずれかに切断して、遊離シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を生成し得る。次いで、遊離シグナルペプチドは、特定のプロテアーゼによって消化される。
【0294】
スペーサードメイン
受容体は、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインに接続するスペーサー配列を含み得る。可動性スペーサーにより、抗原結合ドメインを結合が容易になるように異なる方向に配向することが可能である。
【0295】
スペーサー配列は、例えば、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジ、またはヒトCD8ストークもしくはマウスCD8ストークを含み得る。スペーサーは、IgG1 Fc領域、IgG1ヒンジ、またはCD8ストークと類似の長さおよび/またはドメインスペーシング特性を有する代替リンカー配列を代替的に含み得る。ヒトIgG1スペーサーを、Fc結合モチーフを除去するように変更することができる。
【0296】
細胞内シグナル伝達ドメイン
細胞内シグナル伝達ドメインは、古典的CARのシグナル伝達部分である。
【0297】
最も一般的に使用されているシグナル伝達ドメインの成分は、3つのITAMを含むCD3-ゼータエンドドメインの成分である。これは、抗原への結合後にT細胞に活性化シグナルを伝達する。CD3-ゼータは、十分に適格な活性化シグナルを提供しない場合があり、さらなる共刺激シグナル伝達が必要であり得る。例えば、増殖/生存シグナルを伝達するために、キメラのCD28およびOX40をCD3-ゼータと共に使用することができるか、3つ全てを共に使用することができる。
【0298】
細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞シグナル伝達ドメインであり得るか、これを含み得る。
【0299】
細胞内シグナル伝達ドメインは、1またはそれを超える免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を含み得る。ITAMは、免疫系の一定の細胞表面タンパク質の細胞質側尾部中に2回反復された4アミノ酸の保存配列である。このモチーフは、任意の2つの他のアミノ酸によってロイシンまたはイソロイシンから分離されたチロシンを含み、シグネチャーYxxL/Iが与えられる。これらのシグネチャーのうちの2つが、典型的には、分子の尾部中で6アミノ酸と8アミノ酸との間のアミノ酸によって分離されている(YxxL/Ix(6-8)YxxL/I)。
【0300】
ITAMは、免疫細胞におけるシグナル伝達に重要である。それ故、ITAMは、重要な細胞シグナル伝達分子(T細胞受容体複合体のCD3およびζ鎖、B細胞受容体複合体のCD79アルファ鎖およびベータ鎖、ならびに一定のFc受容体など)の尾部に見出される。これらのモチーフ内のチロシン残基は、受容体分子のそのリガンドとの相互作用後にリン酸化されるようになり、細胞のシグナル伝達経路に関与する他のタンパク質のためのドッキング部位を形成する。
【0301】
細胞内シグナル伝達ドメイン成分は、3つのITAMを含むCD3-ζエンドドメインを含み得るか、CD3-ζエンドドメインから本質的になり得るか、CD3-ζエンドドメインからなり得る。古典的には、CD3-ζエンドドメインは、抗原が結合した後に活性化シグナルをT細胞に伝達する。
【0302】
細胞内シグナル伝達ドメインは、さらなる共刺激シグナル伝達を含み得る。例えば、4-1BB(CD137としても公知)をCD3-ζと共に使用するか、CD28およびOX40をCD3-ζと共に使用して、増殖/生存シグナルを伝達することができる。
【0303】
適切には、CARは、以下の一般的な形式を有し得る:抗原結合ドメイン-TCRエレメント。
【0304】
本明細書中で使用される場合、「TCRエレメント」は、TCR受容体複合体の成分のドメインまたはその一部を意味する。TCRエレメントは、細胞外ドメインおよび/または膜貫通ドメインおよび/または細胞内ドメイン(例えば、TCRエレメントの細胞内シグナル伝達ドメイン)を含み得る(例えば、有し得る)。
【0305】
TCRエレメントを、TCRアルファ鎖、TCRベータ鎖、CD3イプシロン鎖、CD3ガンマ鎖、CD3デルタ鎖、CD3イプシロン鎖から選択することができる。
【0306】
適切には、TCRエレメントは、TCRアルファ鎖、TCRベータ鎖、CD3イプシロン鎖、CD3ガンマ鎖、CD3デルタ鎖、またはCD3イプシロン鎖の細胞外ドメインを含み得る。適切には、TCRエレメントは、TCRアルファ鎖、TCRベータ鎖、CD3イプシロン鎖、CD3ガンマ鎖、CD3デルタ鎖、またはCD3イプシロン鎖の膜貫通ドメインを含み得る。適切には、TCRエレメントは、TCRアルファ鎖、TCRベータ鎖、CD3イプシロン鎖、CD3ガンマ鎖、CD3デルタ鎖、またはCD3イプシロン鎖の細胞内ドメインを含み得る。適切には、TCRエレメントは、TCRアルファ鎖、TCRベータ鎖、CD3イプシロン鎖、CD3ガンマ鎖、CD3デルタ鎖、またはCD3イプシロン鎖を含み得る。
【0307】
トランスジェニックT細胞受容体(TCR)
T細胞受容体(TCR)は、抗原のフラグメントを主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子に結合したペプチドとして認識することを担うT細胞表面上に見出される分子である。
【0308】
TCRは、2つの異なるタンパク質鎖から構成されるヘテロ二量体である。ヒトでは、95%のT細胞において、TCRはアルファ(α)鎖およびベータ(β)鎖(それぞれ、TRAおよびTRBによってコードされる)からなるのに対して、5%のT細胞において、TCRはガンマおよびデルタ(γ/δ)鎖(それぞれ、TRGおよびTRDによってコードされる)からなる。
【0309】
TCRが抗原ペプチドおよびMHC(ペプチド/MHC)と会合するとき、シグナル伝達を介してTリンパ球が活性化される。
【0310】
従来の抗体指向標的抗原と対照的に、TCRによって認識される抗原は、プロセシングされてペプチド/MHC複合体として細胞表面に送達される潜在的な細胞内タンパク質のアレイ全体を含み得る。
【0311】
細胞中にTRA遺伝子およびTRB遺伝子を人為的に導入するか;細胞中にベクターを使用してTRG遺伝子およびTRD遺伝子を導入することによって異種(すなわち、非天然)TCR分子を発現するように細胞を操作することが可能である。例えば、操作したTCRの遺伝子を自己由来T細胞に再導入し、T細胞養子療法のために患者に戻すことができる。かかる「異種」TCRを、本明細書中で「トランスジェニックTCR」と呼ぶこともできる。
【0312】
核酸構築物/核酸配列のキット
本発明は、核酸構築物であって、
(i)目的のタンパク質(POI)および第1のタンパク質相互作用ドメインを含み得る本明細書中に定義の放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列;および
(ii)第2のタンパク質相互作用ドメインおよび細胞内保持ドメインを含み得る、保持タンパク質をコードする第2の核酸配列であって;
ここで、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインが、作用因子の存在または非存在に応じて条件付きで相互作用することができる、第2の核酸配列;および
(iii)CARまたはトランスジェニックTCRをコードする第3の核酸配列
を含む核酸構築物を提供する。
【0313】
本発明はまた、本発明の核酸配列を含むキットを提供する。例えば、キットは、
(i)目的のタンパク質(POI)および第1のタンパク質相互作用ドメインを含む本明細書中に定義の放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列;および
(ii)第2のタンパク質相互作用ドメインおよび細胞内保持ドメインを含み得る、保持タンパク質をコードする第2の核酸配列であって;
ここで、第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインが、作用因子の存在または非存在に応じて条件付きで相互作用することができる、第2の核酸配列;および
(iv)CARまたはトランスジェニックTCRをコードする第3の核酸配列
を含み得る。
【0314】
適切には、キットは、本明細書中に定義の作用因子をさらに含み得る。
【0315】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」は、相互に同義であることが意図される。
【0316】
適切には、核酸構築物は、本発明の成分(本発明が提供したPOI、第1および第2のタンパク質相互作用ドメイン、細胞内保持ドメイン、ならびにCARまたはトランスジェニックTCRなど)をコードする複数の核酸配列を含み得る。例えば、核酸構築物は、2つ、3つ、4つ,またはそれを超える、本発明の異なる成分をコードする核酸配列を含み得る。適切には、複数の核酸配列は、本明細書中に定義の共発現部位によって分離され得る。
【0317】
当業者は、多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸が遺伝暗号の縮重の結果として同一のポリペプチドをコードすることができることを理解する。さらに、当業者は、日常的な技術を使用して、ポリペプチドが発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映するように本明細書中に記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチドを置換することができると理解すべきである。適切には、本発明のポリヌクレオチドは、哺乳動物細胞、特に、本明細書中に記載の細胞溶解性免疫細胞中で発現できるようにコドン最適化される。
【0318】
本発明の核酸は、DNAまたはRNAを含み得る。本発明の核酸は一本鎖または二本鎖であり得る。本発明の核酸はまた、本発明の核酸内に合成または改変されたヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであり得る。オリゴヌクレオチドに対するいくつかの異なるタイプの改変が当該分野で公知である。これらの改変には、メチルホスホナート骨格およびホスホロチオアート骨格、分子の3’末端および/または5’末端でのアクリジン鎖またはポリリジン鎖の付加が含まれる。本明細書中に記載の使用のために、当該分野で利用可能な任意の方法によってポリヌクレオチドを改変することができると理解すべきである。かかる改変を、目的のポリヌクレオチドのin vivo活性または寿命を向上させるように行うことができる。
【0319】
ヌクレオチド配列に関連する用語「バリアント」、「ホモログ」、または「誘導体」には、ヌクレオチド配列に対する1(またはそれを超える)核酸の任意の置換、変形、改変、置き換え、欠失、または付加が含まれる。
【0320】
共発現部位
共発現部位は、本発明の放出性タンパク質および保持タンパク質をコードする核酸配列を共発現することができる核酸配列を指すために使用される。
【0321】
適切には、第1の核酸配列と第2の核酸配列との間に共発現部位が存在し得る。適切には、放出性タンパク質をコードする核酸配列と、保持タンパク質をコードする核酸配列と、CARまたはトランスジェニックTCRをコードする核酸配列との間に共発現部位が存在し得る。
【0322】
共発現部位は、操作されたポリヌクレオチドが切断部位(単数または複数)によって連結されたトランスジェニック合成生物経路の酵素をコードするように切断部位をコードする配列であり得る。典型的には、共発現部位は、トランスジェニック合成生物経路の個別の酵素をコードする隣接するポリヌクレオチド配列の間に存在する
【0323】
適切には、複数の共発現部位が操作されたポリヌクレオチド中に存在する実施形態では、同一の共発現部位を使用することができる。
【0324】
好ましくは、共発現部位は切断部位である。切断部位は、2つのポリペプチドが分離するようになることが可能な任意の配列であり得る。切断部位は、ポリペプチドが産生されたときにいかなる外部の切断活性も必要とせずに個別のペプチドに直ちに切断されるように自己切断し得る。
【0325】
用語「切断」を本明細書中で便宜上使用するが、切断部位により、古典的な切断以外の機序によってペプチドを個別の実体に分離することができる。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)2A自己切断ペプチド(以下を参照のこと)について、以下の「切断」活性を説明するための種々のモデルが提案されている:宿主細胞プロテイナーゼによるタンパク質分解活性、自己タンパク質分解活性、または翻訳効果(Donnelly et al(2001)J.Gen.Virol.82:1027-1041)。かかる「切断」の正確な機序は、切断部位がタンパク質をコードする核酸配列の間に配置されたときに個別の実体としてタンパク質を発現する限り、本発明の目的には重要でない。
【0326】
切断部位は、フューリン切断部位であり得る。フューリンは、サブチリシン様プロタンパク質転換酵素ファミリーに属する酵素である。このファミリーのメンバーは、潜在的な前駆体タンパク質をその生物学的に活性な生成物にプロセシングするプロタンパク質転換酵素である。フューリンは、カルシウム依存性セリンエンドプロテアーゼであり、その対となる塩基性アミノ酸プロセシング部位で前駆体タンパク質を効率的に切断することができる。フューリン基質の例には、プロ副甲状腺ホルモン、トランスフォーミング成長因子ベータ1前駆体、プロアルブミン、プロ-ベータ-セクレターゼ、膜1型マトリックスメタロプロテイナーゼ、プロ神経成長因子のベータサブユニット、およびフォンウィルブランド因子が含まれる。フューリンは、塩基性アミノ酸標的配列(規範的に、Arg-X-(Arg/Lys)-Arg’)のすぐ下流のタンパク質を切断し、ゴルジ装置中に豊富に存在する。
【0327】
切断部位は、タバコエッチ病ウイルス(TEV)切断部位であり得る。
【0328】
TEVプロテアーゼは、高度に配列特異的なシステインプロテアーゼであり、キモトリプシン様プロテアーゼである。TEVプロテアーゼは、その標的切断部位に非常に特異的であり、したがって、in vitroおよびin vivoの両方において融合タンパク質の切断を制御するために頻繁に使用される。コンセンサスTEV切断部位は、
【化22】
である。哺乳動物細胞(ヒト細胞など)は、TEVプロテアーゼを発現しない。したがって、本核酸構築物がTEV切断部位を含み、哺乳動物細胞中で発現される実施形態では、外因性TEVプロテアーゼは哺乳動物細胞中でも発現されなければならない。
【0329】
切断部位は、自己切断ペプチドをコードし得る。「自己切断ペプチド」は、タンパク質および自己切断ペプチドを含むポリペプチドが産生されたときに、いかなる外部の切断活性も必要とせずに個別かつ分離した第1および第2のポリペプチドに直ちに「切断される」か分離されるように機能するペプチドを指す。
【0330】
自己切断ペプチドは、アフトウイルスまたはカルジオウイルス由来の2A自己切断ペプチドであり得る。アフトウイルスおよびカルジオウイルスの一次2A/2B切断は、それ自体がC末端で「切断している」2Aによって媒介される。アフトウイルス(apthovirus)(口蹄疫ウイルス(FMDV)およびウマ鼻炎Aウイルスなど)では、2A領域は、約18アミノ酸の短い部分であり、タンパク質2BのN末端残基(保存プロリン残基)と共に、それ自体のC末端での「切断」を媒介することができる自律エレメントを示す(上記のDonelly et al(2001))。
【0331】
「2A様」配列は、アフトウイルス(aptho-)またはカルジオウイルス以外のピコルナウイルス、「ピコルナウイルス様」昆虫ウイルス、タイプCロタウイルス、ならびにTrypanosoma spp内の反復配列および上記の細菌配列(Donnelly et al.,2001)で見出されている。
【0332】
共発現配列は、内部リボソーム進入配列(IRES)であり得る。共発現配列は、内部プロモーターであり得る。
【0333】
ベクター
本発明はまた、1またはそれを超える本発明の核酸配列(単数または複数)または核酸構築物(単数または複数)を含むベクターまたはベクターのキットを提供する。かかるベクターは、本明細書中に定義の放出性タンパク質、保持タンパク質、およびCARまたはトランスジェニックTCRを発現するように核酸配列(単数または複数)または構築物(単数または複数)を宿主細胞に導入するために使用され得る。
【0334】
適切には、ベクターは、本発明が提供する異なる成分をコードする複数の核酸配列を含み得る。例えば、ベクターは、2つ、3つ、4つ、またはそれを超える、本発明の異なる成分(POI、タンパク質相互作用ドメイン、細胞内保持ドメイン、およびCARまたはトランスジェニックTCRなど)をコードする核酸配列を含み得る。適切には、複数の核酸配列は、本明細書中に定義の共発現部位によって分離され得る。
【0335】
ベクターは、例えば、プラスミドまたはウイルスベクター(レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターなど)、またはトランスポゾンベースのベクターまたは合成mRNAであり得る。
【0336】
ベクターは、細胞にトランスフェクトするか形質導入することが可能であり得る。
【0337】
医薬組成物
本発明はまた、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞または本発明の方法によって得ることができる(例えば、得られた)細胞を含む医薬組成物に関する。
【0338】
本発明はまた、本発明の核酸構築物、本明細書中に定義の第1、第2、および第3の核酸配列;本発明のベクター、または本明細書中に記載の第1、第2、および第3のベクターを含む医薬組成物を提供する。特に、本発明は、本発明による細胞を含む医薬組成物に関する。
【0339】
医薬組成物は、さらに、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤を含み得る。医薬組成物は、必要に応じて、1またはそれを超えるさらなる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を含み得る。かかる製剤は、例えば、静脈内注入に適切な形態であり得る。
【0340】
処置方法
本発明は、疾患を処置および/または予防する方法であって、(例えば、上記の医薬組成物中の)本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞もしくは本発明の方法によって得ることができる(例えば、得られた)細胞、または本発明の核酸構築物、または本明細書中に定義の第1、第2、および第3の核酸配列;本発明のベクターもしくは本明細書中に記載の第1、第2、および第3のベクターを被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0341】
適切には、本発明の疾患を処置および/または予防する方法は、(例えば、上記の医薬組成物中の)本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞を被験体に投与することを含み得る。
【0342】
本発明はまた、被験体における疾患を処置および/または予防する方法であって、ここで、被験体は本発明の細胞を含み、方法は、作用因子を被験体に投与するステップを含む、方法を提供する。そのようなものとして、この方法は、本発明の細胞を既に含む被験体に作用因子を投与することを含む。
【0343】
適切には、本発明の疾患を処置および/または予防する方法は、本明細書中に定義の作用因子を、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞が投与されている被験体に投与することを含み得る。
【0344】
疾患を処置する方法は、本発明の細胞の治療的使用に関する。この態様では、疾患に関連する少なくとも1つの症状を緩和、軽減、または改善し、そして/または疾患の進行を遅延、軽減、または遮断するために、既存の疾患または容態を有する被験体に細胞を投与することができる。
【0345】
疾患を予防する方法は、本発明の細胞の予防的使用に関する。この態様では、未だ罹患しておらず、そして/または疾患のいかなる症状も示していない被験体に、疾患の原因を予防するか損なわせるか、疾患に関連する少なくとも1つの症状の発生を軽減または予防するために細胞を投与することができる。被験体は、疾患の素因を有し得るか、発症リスクがあると考えられ得る。
【0346】
本発明は、
(i)細胞含有試料を単離するステップ;
(ii)本発明の核酸構築物、本明細書中に定義の第1、第2、および第3の核酸配列、本発明のベクター、または本明細書中の第1、第2、および第3のベクターを細胞に導入するステップ;および
(v)(ii)由来の細胞を被験体に投与するステップ
を含み得る。
【0347】
適切には、核酸構築物、ベクター(単数または複数)または核酸は、形質導入によって導入され得る。適切には、核酸構築物、ベクター(単数または複数)または核酸は、トランスフェクションによって導入され得る。
【0348】
適切には、細胞は自己由来であり得る。適切には、細胞は同種異系であり得る。
【0349】
本発明によって提供された疾患を処置する方法は、疾患の進行および/または任意の毒性活性をモニタリングすることを含み得る。
【0350】
適切には、本方法は、有害な毒性作用を低下させるために被験体への本明細書中に定義の作用因子の投与を停止または低減すること含んでよく;あるいは、本方法は、抗腫瘍効果を増大させるために被験体への本明細書中に定義の作用因子の投与を増加させることを含んでよい。
【0351】
作用因子は小分子であり得る。いくつかの実施形態では、作用因子は、ミノサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはその類似体から選択され得る。
【0352】
本発明によって提供された疾患を処置する方法は、疾患の進行をモニタリングすることならびに任意の毒性活性をモニタリングすることならびに許容され得るレベルの疾患の進行および毒性活性が得られるように被験体への作用因子の投与用量を調整することを含み得る。
【0353】
「疾患の進行をモニタリングすること」は、疾患に関連する症状が軽減/改善または増大/悪化するかどうかを決定するために、その症状を経時的に評価することを意味する。
【0354】
「毒性活性」は、本発明の細胞を被験体に投与した後の前述の細胞を原因とする有害作用に関する。毒性活性には、例えば、免疫学的毒性、胆汁毒性、および呼吸窮迫症候群が含まれ得る。
【0355】
そのため、被験体への作用因子の投与用量または投与頻度を、疾患の進行および毒性活性の両方を許容され得るレベルにするために変化させることができる。「許容され得る」と決定される具体的な疾患の進行および毒性活性のレベルは、特定の環境に応じて変動し、かかる基準に関して評価すべきである。
【0356】
作用因子は、医薬組成物の形態で投与され得る。医薬組成物は、さらに、薬学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤を含み得る。医薬組成物は、必要に応じて、1またはそれを超えるさらなる薬学的に活性なポリペプチドおよび/または化合物を含み得る。かかる製剤は、例えば、静脈内注入に適切な形態であり得る。
【0357】
本発明は、疾患の処置および/または予防に使用するための本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞、本発明の核酸構築物、本明細書中に定義の第1、第2、および第3の核酸配列、本発明のベクター、または本発明の第1、第2、および第3のベクターを提供する。特に、本発明は、疾患の処置および/または予防に使用するための本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞を提供する。
【0358】
本発明はまた、疾患の処置および/または予防のための医薬の製造における本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞、本発明の核酸構築物、本明細書中に定義の第1、第2、および第3の核酸配列、本発明のベクター、または本発明の第1、第2、および第3のベクターに関する。特に、本発明は、疾患の処置および/または予防のための医薬の製造における本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞の使用に関する。
【0359】
本発明の方法によって処置および/または予防すべき疾患は、がんであり得る。
【0360】
がんは、神経芽細胞腫、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、結腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん(腎細胞癌)、白血病、肺がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、および甲状腺がんなどのがんであり得る。
【0361】
本発明の細胞は、がん細胞などの標的細胞を死滅させることができる場合がある。標的細胞は、TAAの発現、例えば、上記の表1に提供したTAAの発現によって認識できる場合がある。がんは、表1に列挙したがんであり得る。
【0362】
細胞の作製方法
本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞は、多数の手段(ウイルスベクターでの形質導入、DNAまたはRNAでのトランスフェクションが含まれる)のうちの1つによって本明細書中に定義のPOI、タンパク質相互作用ドメイン、および細胞内保持ドメインをコードするDNAまたはRNAを導入することによって生成され得る。
【0363】
本発明の細胞は、
(ii)(例えば、形質導入またはトランスフェクションによって)本発明の核酸構築物もしくはベクター、または上記定義の第1、第2、および第3の核酸配列、または上記定義の第1、第2、および第3のベクターを細胞に導入すること
によって作製され得る。
【0364】
適切には、細胞は、被験体から単離した試料に由来し得る。
【0365】
分泌を調節する方法
本発明はまた、細胞からのPOIの分泌を調節する方法を提供する。
【0366】
方法は、
本発明の核酸構築物、上記定義の第1、第2、および第3の核酸配列;本発明のベクター、または上記定義の第1、第2、および第3のベクターを細胞に導入するステップ、および本明細書中に定義の作用因子を細胞に投与するステップを含み得る。
【0367】
細胞からのPOIの分泌を調節する方法は、本明細書中に定義の作用因子を本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞または本発明の方法によって得ることができる細胞に投与することを含み得る。
【0368】
本発明は、さらに、本発明の操作された細胞溶解性免疫細胞からのPOIの分泌を増大させるための本明細書中に定義の作用因子の使用に関する。
【0369】
発明のさらなる態様
以下の番号をつけたパラグラフは、本発明のさらなる態様に関する。
【0370】
1.以下の群から選択されるペプチド:ACPGWARAFC(配列番号34);ACPHWAQAFC(配列番号35);ACPQWAMMFC(配列番号36)、およびACPPWAYSFC(配列番号37)。
【0371】
2.置換可能な結合系であって、
a)ミノサイクリンに結合し、以下の相補性決定領域:アミノ酸配列GRTFSSYN(配列番号38)を有するCDR1、アミノ酸配列ISWSGART(配列番号39)を有するCDR2;アミノ酸配列AAGRGWGTEAILDY(配列番号40)を有するCDR3を有するドメイン抗体(dAb);および
b)dAbに結合し、dAbへのミノサイクリンの結合によって置き換えられるパラグラフ1に記載のペプチド
を含む置換可能な結合系。
【0372】
3.キメラ抗原受容体(CAR)システムであって、
(i)抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、およびミノサイクリンに結合し、以下の相補性決定領域:アミノ酸配列GRTFSSYN(配列番号38)を有するCDR1、アミノ酸配列ISWSGART(配列番号39)を有するCDR2;アミノ酸配列AAGRGWGTEAILDY(配列番号40)を有するCDR3を有するドメイン抗体(dAb)を含む受容体成分;および
(ii)シグナル伝達ドメインおよび受容体成分のdAbに結合する以下の群:ACPGWARAFC(配列番号34);ACPHWAQAFC(配列番号35);ACPQWAMMFC(配列番号36)、およびACPPWAYSFC(配列番号37)から選択されるペプチドを含む細胞内シグナル伝達成分
を含み、
ここで、dAbおよび環状ペプチドの結合は、標的化合物の存在によって破壊されるため、標的化合物の非存在下では、受容体成分およびシグナル伝達成分はヘテロ二量体化し、抗原結合ドメインが抗原に結合するとシグナル伝達ドメインを介してシグナルが伝達され;それに対して、標的化合物の存在下では、受容体成分およびシグナル伝達成分はヘテロ二量体化されず、抗原結合ドメインが抗原と結合してもシグナル伝達ドメインを介してシグナルは伝達されない、キメラ抗原受容体(CAR)システム。
【0373】
4.キメラ抗原受容体(CAR)システムであって、
(i)シグナル伝達ドメイン、およびミノサイクリンに結合し、以下の相補性決定領域:アミノ酸配列GRTFSSYN(配列番号38)を有するCDR1、アミノ酸配列ISWSGART(配列番号39)を有するCDR2;アミノ酸配列AAGRGWGTEAILDY(配列番号40)を有するCDR3を有するドメイン抗体を含む細胞内シグナル伝達成分;
(ii)抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内シグナル伝達成分のdAbに結合する以下の群:ACPGWARAFC(配列番号34);ACPHWAQAFC(配列番号35);ACPQWAMMFC(配列番号36)、およびACPPWAYSFC(配列番号37)から選択されるペプチドを含む受容体成分
を含み、
ここで、dAbおよび環状ペプチドの結合は、標的化合物の存在によって破壊されるため、標的化合物の非存在下では、受容体成分およびシグナル伝達成分はヘテロ二量体化し、抗原結合ドメインが抗原に結合するとシグナル伝達ドメインを介してシグナルが伝達され;それに対して、標的化合物の存在下では、受容体成分およびシグナル伝達成分はヘテロ二量体化されず、抗原結合ドメインが抗原と結合してもシグナル伝達ドメインを介してシグナルは伝達されない、キメラ抗原受容体(CAR)システム。
【0374】
5.パラグラフ3または4に記載のCARシステムを含む細胞。
【0375】
6.パラグラフ3または4に記載のCARシステムをコードする核酸構築物であって、
受容体成分をコードする第1の核酸配列および細胞内シグナル伝達成分をコードする第2の核酸配列を含む、核酸構築物。
【0376】
7.パラグラフ6に記載の核酸構築物を含むベクター。
【0377】
8.ex vivoにてパラグラフ6の核酸構築物で細胞を形質導入するかトランスフェクトすることを含む、パラグラフ5に記載の細胞を作製する方法。
【0378】
9.パラグラフ5に記載の複数の細胞を含む医薬組成物。
【0379】
10.パラグラフ9に記載の医薬組成物を被験体に投与するステップを含む、がんを処置する方法。
【0380】
11.がんの処置に使用するための医薬組成物の製造におけるパラグラフ5に記載の細胞。
【0381】
12.がんの処置に使用するためのパラグラフ9に記載の医薬組成物。
【0382】
13.ミノサイクリンまたはその誘導体を細胞に投与するステップを含む、パラグラフ5に記載の細胞におけるCARシグナル伝達を阻害する方法。
【0383】
14.ミノサイクリンまたはその誘導体を被験体に投与するステップを含む、パラグラフ5に記載の細胞を含む被験体におけるCARシグナル伝達を阻害する方法。
【0384】
本開示は、本明細書中に開示の例示的な方法および材料に制限されず、本明細書中に記載の方法および材料に類似するか等価な任意の方法および材料を、本開示の実施形態の実施または試験において使用することができる。数値の範囲は、範囲を定義する数字を含む。別段の指示がない限り、それぞれ、任意の核酸配列を、左から右に5’から3’への方向で記載し;アミノ酸配列を、左から右にアミノからカルボキシへの方向に記載する。
【0385】
値の範囲を提供する場合、文脈上明確に別段の指示がない限り、前述の範囲の上限と下限との間の各々の介在値も、最小単位の10分の1まで具体的に開示されていると理解される。任意の所定の値または所定の範囲内の介在値と任意の他の所定の値またはその所定の範囲内の介在値との間の各々のより小さい範囲が本開示に含まれる。これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立して前述の範囲内に含まれても除外されてもよく、限度のいずれかまたは両方がより小さな範囲に含まれるか、含まれない各範囲も本開示内に含まれ、但し、所定の範囲内に任意の具体的に除外される限度があるものとする。所定の範囲が限度の一方または両方を含む場合、含まれる限度のいずれかまたは両方を除外する範囲も本開示に含まれる。
【0386】
本明細書中および添付の特許請求の範囲中で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」には、文脈上そうでないと明確に示されない限り、複数形が含まれることに留意しなければならない。
【0387】
本明細書中で使用される用語「含む(comprising)」、「含む(comprise)」、および「~から構成される」は、「含む(including)」、「含む(include)」、または「含む(containing)」、「含む(contain)」と同義であり、包括的または非制限であり、さらなる列挙されていない部材、要素、方法のステップを排除しない。用語「含む(comprising)」、「含む(comprise)」、および「~から構成される」には、用語「~からなる」も含まれる。
【0388】
本明細書中で考察した刊行物を、本発明の出願日より前の開示のみを目的として提供している。本明細書において、かかる刊行物が添付の特許請求の範囲に対する先行技術を構成することを承認すると解釈されるべきではない。
【0389】
本発明を、ここに、実施例によってさらに説明するが、実施例は本発明の実施において当業者を補助することを意図し、本発明の範囲を制限することを決して意図しない。
【実施例0390】
実施例1-ミノサイクリンdAbに結合するペプチドの生成
ミノサイクリンdAb-Fcをビーズ上に固定した。ミノサイクリンdAbは配列番号8によってコードされた。ファージ-ペプチドコロニースクリーニングを、1μMミノサイクリンを使用するか使用しないで行った。
【0391】
ペプチドライブラリーパニングで配列番号8によってコードされるミノサイクリンdAbに対する置換可能な特異性を有するペプチドを同定した。配列番号13を含む抗体を、対照抗体として使用した(対照抗体は、配列番号8と異なるCDRを含む)。
【0392】
ミノサイクリンdAbに対する置換可能な特異性を有する4つのペプチドを同定した。ペプチドは以下である:ACPGWARAFC(配列番号34);ACPHWAQAFC(配列番号35);ACPQWAMMFC(配列番号36)、およびACPPWAYSFC(配列番号37)。
【0393】
これらのペプチドの各々を使用した結合実験の結果を、図4に示す。
【0394】
実施例2-KDELタグ化dAbおよびミノサイクリン解離ペプチドによるIL12分泌の調節
ミノサイクリンに対する親和性を有するdAbおよびdAbに結合することができるが、ミノサイクリンの存在下で解離するいくつかのペプチド(配列番号34~配列番号37)からなるプラットフォームを生成した。
【0395】
KDELアミノ酸配列を使用して、ER/ゴルジ装置内にタンパク質を保持した。ミノサイクリン特異的dAbをKDEL配列でタグ化したため、ER/ゴルジ内に前述のdAbが係留され、一方でdAbに対する親和性を有するペプチドで目的の分子(IL12)がタグ化され、それにより目的の分子が保持される。ミノサイクリンを添加すると、dAb-ペプチド複合体が解離し、それにより、ペプチドタグ化分子を分泌することができる。
【0396】
ミノサイクリンペプチド模倣物に融合したIL12を使用してこの仮説を試験するために、一連の構築物を設計した。IL12は、それ自体でT細胞に対する増殖効果による目的の分子ならびに細胞上清からのELISA分析によってアッセイすることができる分泌タンパク質の都合の良いモデルの両方を兼ねている。
【0397】
方法
HEK293T細胞を、翌日のトランスフェクションのために50~60%のコンフルエンシーが達成されるように、3×10で96ウェルプレートに播種した。トランスフェクションマスターミックスを、30μLのGeneJuiceトランスフェクション試薬を470μLの普通のIMDMに添加し、5分間インキュベートすることによって作製した。各ウェルについて、次いで、0.13μgのプラスミドDNAを5.2μLのIMDM-Genejuiceマスターミックスに添加し、15分間インキュベートした。次いで、GeneJuice-DNA複合体を含むトランスフェクションミックスを、細胞に添加した。全てのインキュベーションを室温で行った。
【0398】
以下の構築物を試験した:
・対照(NT):構築物なし(すなわち、バックグラウンドレベルのIL12)。
・「WARA-IL12+アミノKDEL」で標識した構築物:ミノサイクリンペプチド模倣物(配列番号34)およびFlexi-IL12(配列番号19)およびミノサイクリンdAB
(配列番号8)をコードし、KDEL配列を有する。
・「WAYS-IL12+アミノKDEL」で標識した構築物:ミノサイクリンペプチド模倣物(配列番号37)およびFlexi-IL12(配列番号19)およびミノサイクリンdAB
(配列番号8)をコードし、KDEL配列を有する。
・「WARA-IL12+アミノ」で標識した構築物:ミノサイクリンペプチド模倣物(配列番号34)およびFlexi-IL12(配列番号19)およびミノサイクリンdAB(配列番
号8)をコードし、KDEL配列を持たない。
・「WAYS-IL12+アミノ」で標識した構築物:ミノサイクリンペプチド模倣物(配列番号37)およびFlexi-IL12およびミノサイクリンdAB(配列番号8)をコードし
、KDEL配列を持たない。
【0399】
トランスフェクションの48時間後、トランスフェクトした細胞を含む犠牲ウェル(sacrificial well)を、FITC抗HA抗体(Biolegend、901507)を使
用した細胞の染色によってトランスフェクション効率について試験した。トランスフェクションの確認の際に、培養培地を細胞から除去し、種々の濃度のミノサイクリンを補充した新鮮な培地を添加した。ミノサイクリン添加の2時間後および4時間後、製造者の指示にしたがってIL12 ELISAを行った(BioLegend、431704)。
【0400】
結果
全ての結果を、ELISAキットの一部として提供されたIL12検量線を使用して正規化した。
【0401】
結果(図5に示す)は、IL12がその高い発現のためにペプチドタグの存在の影響を受けないことを示す。非形質導入細胞は、いかなる条件や時点においてもIL12を産生せず、IL12バックグラウンドを計算して差し引く必要がなく、このアッセイにおけるノイズは最小であった。
【0402】
KDEL係留ミノサイクリンdAbの存在下で2つのペプチドWARA配列番号34(高親和性)およびWAYS配列番号37(低親和性)に融合されたIL12は、全ての時点で0μMから100μMまで濃度依存性にIL12分泌が増加することを示す。
【0403】
実施例3-保持による分泌調節のin vitro試験
T細胞を、CD19 CAR、CD19CAR-2A-flexiIL-12(IL-12を構成性に発現する)、およびCD19CAR-2A-TiP-FlexiIL12-2A-S-TetR-sekdel(IL-12を調整可能に発現する)を発現するように形質導入する。T細胞を、異なる濃度のミノサイクリン中で培養する。48時間後に上清を回収し、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用してIL-12を定量する。
【0404】
異なるCAR T細胞の機能特性を、CD19標的との標準的な共培養法を使用して定量し、フローサイトメトリーおよび異なる濃度のミノサイクリンの存在下でのサイトカイン放出によってその機能を判定した。
【0405】
実施例4-保持による分泌調節のin vivo試験
NODscidγ(NSG)マウスに、尾静脈注射によってRaji細胞を移植する。実施例1で形質導入したT細胞を、尾静脈注射によってマウスに投与する。異なるCAR
T細胞の投与と同様に、マウスをコホートにさらに分け、腹腔内注射によって異なる濃度のミノサイクリンを投与する。尾静脈注射によってマウスから採血し、ELISAを使用して血清IL-12を定量する。
【0406】
上記明細書中に記載の全ての刊行物は、本明細書中で参考として援用される。本発明の記載の方法およびシステムの種々の修正および変形は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に明らかである。本発明を特定の実施形態と併せて記載しているが、特許請求の範囲に記載の発現がかかる特定の実施形態に過度に制限されるべきではないと理解すべきである。実際、分子生物学または関連分野の当業者に明らかな本発明の実施のための記載の様式の種々の修正は、以下の特許請求の範囲の範囲内であることが意図される。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
操作された細胞溶解性免疫細胞であって、
i)目的のポリペプチド(POI)および第1の相互作用ドメインを含む放出性タンパク質;および
ii)前記細胞の細胞内区画内に保持されており、前記第1のタンパク質相互作用ドメインに結合する第2の相互作用ドメインを含む保持タンパク質
を含み、
ここで、前記第1のタンパク質相互作用ドメインと第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合は、作用因子の存在によって破壊されるため、前記作用因子の非存在下では、前記第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合し、それにより、細胞内区画内に前記POIが保持され;それに対して、前記作用因子の存在下では、前記第1のタンパク質相互作用ドメインおよび第2のタンパク質相互作用ドメインは結合せず、前記POIが前記細胞内区画から放出されて、前記細胞の表面に発現されるか、前記細胞によって分泌される、操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目2)
前記作用因子の存在下では、前記POIが、前記細胞の表面に送り出されるか、前記細胞表面で発現される、項目1に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目3)
前記作用因子の存在下では、前記POIが前記細胞によって分泌される、項目1に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目4)
前記第1のタンパク質相互作用ドメインと前記第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合が、前記第1のタンパク質相互作用ドメインまたは前記第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方に競合性に結合する前記作用因子によって破壊される、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目5)
前記第1のタンパク質相互作用ドメインと前記第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の結合が、前記第1のタンパク質相互作用ドメインまた前記第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方に、前記第1のタンパク質相互作用ドメインと前記第2のタンパク質相互作用ドメインとの間の相互作用よりも高い親和性で結合する前記作用因子によって破壊される、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目6)
前記第1のタンパク質相互作用ドメインまた前記第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方がTet抑制因子タンパク質(TetR)またはそのバリアントを含み、前記第1のタンパク質相互作用ドメインまたは第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方がTetR誘導ペプチド(TiP)またはそのバリアントを含み、前記作用因子が、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、またはその類似体から選択される、項目1~5のいずれか1項に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目7)
前記第1のタンパク質相互作用ドメインまたは前記第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方が、前記作用因子のペプチド模倣物である、項目1~5のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目8)
前記第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方が前記作用因子のペプチド模倣物であり、前記第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方が前記作用因子および前記ペプチド模倣物に結合することができ、ここで、前記タンパク質相互作用ドメインが、それが前記作用因子に結合するよりも低い親和性で前記ペプチド模倣物に結合する、項目6に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目9)
前記第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方が、前記作用因子に結合することができる抗体、単一ドメイン抗体(sdAb)、VHH/ナノボディ、ナノボディ、アフィボディ、フィブロネクチン人工抗体足場、アンチカリン、アフィリン、DAR
Pin、VNAR、iBody、アフィマー、フィノマー、ドメイン抗体(DAb)、アブジュリン/ナノ抗体、センチリン、アルファボディ、またはナノフィチンを含み、前記第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方が前記作用因子のペプチド模倣物である、項目7または項目8に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目10)
前記第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの一方が、ミノサイクリンを模倣するペプチドであり、前記第1または第2のタンパク質相互作用ドメインのうちの他方が、ミノサイクリンに結合するVHHであり、前記作用因子が、ミノサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはその類似体から選択される、項目7または項目8に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目11)
前記作用因子が小分子である、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目12)
前記細胞内保持ドメインがゴルジ保持ドメインであり、好ましくは、SEKDEL(配列番号28)配列、KDEL(配列番号29)配列、KKXX(配列番号30)モチーフ、KXKXX(配列番
号31)モチーフ、配列KYKSRRSFIDEKKMP(配列番号32)を含むアデノウイルスE19
タンパク質のテール、または配列MHRRRSRSCR(配列番号33)を含むHLAインバリアント鎖のフラグメントからなる群から選択される、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目13)
前記細胞内保持ドメインが小胞体保持ドメインであり、好ましくは、リボフォリンI、リボフォリンII、SEC61、またはシトクロムb5から選択される、項目1~11のいずれか1項に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目14)
前記細胞内保持ドメインが、前記保持タンパク質のC末端またはN末端に存在する、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目15)
前記POIが免疫系調節因子である、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目16)
前記POIがサイトカインまたはケモカインである、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目17)
前記サイトカインまたはケモカインが、活性化T細胞核内因子(NFAT)応答エレメントによって制御される、項目16に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目18)
前記POIが、IL12、flexiIL12、GM-CSF、IL7、IL15、IL21、およびCCL19から選択される、項目16または項目17に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目19)
前記POIが、抗体、抗体断片、またはdAbである、項目1~17のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目20)
前記POIが毒素である、項目1~17のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目21)
前記POIが分泌タンパク質である、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目22)
前記POIが膜タンパク質(例えば、細胞表面膜タンパク質または原形質膜タンパク質)である、項目1~20のいずれか1項に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目23)
前記放出性タンパク質が2またはそれを超えるPOIを含む、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目24)
前記細胞が、α-βT細胞、NK細胞、γ-δT細胞、またはサイトカイン誘導性キラー細胞である、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目25)
前記細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)またはトランスジェニックT細胞受容体(TCR)をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞。
(項目26)
核酸構築物であって、
(i)項目1~25のいずれか1項に記載の放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列;
(ii)項目1~25のいずれか1項に記載の保持タンパク質をコードする第2の核酸配列;および
(iii)CARまたはトランスジェニックTCRをコードする第3の核酸配列
を含む、核酸構築物。
(項目27)
核酸配列のキットであって、
(i)項目1~25のいずれか1項に記載の放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列;
(ii)項目1~25のいずれか1項に記載の保持タンパク質をコードする第2の核酸配列;および
(iii)CARまたはトランスジェニックTCRをコードする第3の核酸配列
を含む、核酸配列のキット。
(項目28)
項目26に記載の核酸構築物を含むベクター。
(項目29)
ベクターのキットであって、
i)項目1~25のいずれか1項に記載の放出性タンパク質をコードする第1の核酸配列を含む第1のベクター;
(ii)項目1~25のいずれか1項に記載の保持タンパク質をコードする第2の核酸配列を含む第2のベクター;および
(iii)CARまたはトランスジェニックTCRをコードする第3の核酸配列を含む第3のベクター
を含む、ベクターのキット。
(項目30)
項目1~25のいずれかに記載の操作された細胞溶解性免疫細胞を作製する方法であって、細胞溶解性免疫細胞に、項目26に記載の核酸構築物、項目27に記載の第1、第2、および第3の核酸配列;項目28に記載のベクター、または項目29に記載の第1、第2、および第3のベクターを導入するステップを含む、方法。
(項目31)
細胞からのPOIの分泌を調節する方法であって、細胞に、項目26に記載の核酸構築物、項目27に記載の第1、第2、および第3の核酸配列;項目28に記載のベクター、または項目29に記載の第1、第2、および第3のベクターを導入するステップ、および項目1~25のいずれか1項に記載の作用因子を前記細胞に投与するステップを含む、方法。
(項目32)
細胞からのPOIの分泌を調節する方法であって、項目1~25のいずれか1項に記載の作用因子を、項目1~25のいずれか1項に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞または項目30または項目31に記載の方法によって得ることができる細胞に投与することを含む、方法。
(項目33)
前記細胞が、被験体から単離した試料に由来する、項目30~32のいずれかに記載の方法。
(項目34)
項目1~25のいずれか1項に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞、項目26に記載の核酸構築物、項目27に記載の第1、第2、および第3の核酸配列、項目28に記載のベクター、項目29に記載の第1、第2、および第3のベクターを含む、医薬組成物。
(項目35)
項目1~25のいずれかに記載の細胞または項目30~32のいずれかに記載の方法によって得ることができる細胞を含む、医薬組成物。
(項目36)
疾患の処置および/または予防に使用するための項目34または35に記載の医薬組成物。
(項目37)
疾患を処置および/または予防する方法であって、項目34または35に記載の医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目38)
疾患を処置および/または予防する方法であって、項目1~25のいずれか1項に記載の作用因子を、項目1~25のいずれか1項に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞が投与されている被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目39)
以下のステップ:
(i)試料を含む細胞を単離するステップ;
(ii)項目25に記載の核酸構築物、項目26に記載の第1、第2、および第3の核酸配列、項目27に記載のベクター、または項目28に記載の第1、第2、および第3のベクターを前記細胞に導入するステップ;および
(iii)(ii)由来の細胞を被験体に投与するステップ
を含む、項目37に記載の方法。
(項目40)
前記核酸構築物またはベクターを、形質導入またはトランスフェクションによって導入する、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記が自己由来である、項目37~40に記載の方法。
(項目42)
前記細胞が同種異系である、項目37~40に記載の方法。
(項目43)
前記被験体における毒性活性および/または抗腫瘍活性をモニタリングすることを含み、必要に応じて、有害な毒性作用を低下させるために前記被験体への項目1~25のいずれか1項に記載の作用因子の投与を停止または低減するステップ;または抗腫瘍効果を増大させるために前記被験体への項目1~25のいずれか1項に記載の作用因子の投与を増加させるステップをさらに含む、項目37~42のいずれか1項に記載の方法。
(項目44)
疾患の処置および/または予防のための医薬の製造における項目34または35に記載の医薬組成物の使用。
(項目45)
前記疾患ががんである、項目36に記載の使用のための医薬組成物、項目37~43のい
ずれかに記載の方法、または項目44に記載の使用。
(項目46)
項目1~25のいずれか1項に記載の操作された細胞溶解性免疫細胞からのPOIの分泌を増加させるための項目1~25のいずれか1項に記載の作用因子の使用。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
【配列表】
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【外国語明細書】