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特開2024-36562血小板由来成長因子(PDGF)-BB産生亢進剤、及びそれを含む幹細胞安定化剤、並びにそれらを含む皮膚抗老化剤
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  • 特開-血小板由来成長因子(PDGF)-BB産生亢進剤、及びそれを含む幹細胞安定化剤、並びにそれらを含む皮膚抗老化剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036562
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】血小板由来成長因子(PDGF)-BB産生亢進剤、及びそれを含む幹細胞安定化剤、並びにそれらを含む皮膚抗老化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/28 20060101AFI20240308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240308BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240308BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240308BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
A61K36/28
A61P43/00 105
A61K8/9789
A61Q19/08
A61P17/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016646
(22)【出願日】2024-02-06
(62)【分割の表示】P 2021553970の分割
【原出願日】2019-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雅明
(72)【発明者】
【氏名】内山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 修
(57)【要約】
【課題】PDGF-BBの産生亢進に有効な剤、およびかかる剤を用いて皮膚における間葉系幹細胞の安定化を介し皮膚の賦活化や抗老化に有効な剤を提供する。
【解決手段】ワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物のいずれかを有効成分として含んでなるPDGF-BB産生亢進剤は、間葉系幹細胞の安定化を介し皮膚の賦活化や抗老化に有効である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物の少なくともいずれかを有効成分として含んでなる血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤。
【請求項2】
請求項1に記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる、幹細胞安定化剤。
【請求項3】
請求項1に記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる皮膚抗老化剤であって、皮膚における幹細胞を安定化することにより皮膚の老化を抑制する、皮膚抗老化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤、及び、当該PDGF-BB産生亢進剤を含んでなる幹細胞安定化剤、並びにそれらを含む皮膚抗老化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、間葉系に属するさまざまな細胞(骨細胞、筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)に分化することから、再生医療への応用が研究されている。例えば、間葉系幹細胞の安定化を図ることにより、血管安定化、組織恒常性維持、損傷組織の修復・再生等の各種状態の予防・改善等、各種の用途に有効であり、皮膚における間葉系幹細胞の安定化は、皮膚の賦活化や抗老化に有効であることが報告されている(特許文献1,2)。
【0003】
間葉系幹細胞を安定化する因子として血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)が報告されている(特許文献1,2)。よって、PDGF-BBの産生亢進に有効な成分を見出すことができれば、これを用いて間葉系幹細胞の安定化を図ることができ、ひいては皮膚の賦活化や抗老化といった用途に有効に使用できる。
【0004】
PDGF-BBの産生亢進に有効な成分としては、レチノイン酸、アムラ抽出物及びリンゴンベリー抽出物等が報告されている(特許文献1,2)。PDGF-BB産生亢進効果が高い様々な物質の探索が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5933443号公報
【特許文献2】特許第5496951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたもので、その課題は、PDGF-BBの産生亢進に有効な剤を提供すると共に、これを用いて、皮膚における間葉系幹細胞の安定化を介し皮膚の賦活化や抗老化に有効な剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、多種多様な素材について検討を重ね、PDGF-BBの産生を亢進させる薬剤をスクリーニングした結果、ワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物が、顕著なPDGF-BB産生亢進作用を示すことを見出し、本発明を為すに至った。
【0008】
したがって、本願は下記の発明を包含する:
[1]ワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物の少なくともいずれかを有効成分として含んでなる血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤。
[2][1]に記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる、幹細胞安定化剤。
[3][1]に記載のPDGF-BB産生亢進剤を含んでなる皮膚抗老化剤であって、皮膚における幹細胞を安定化することにより皮膚の老化を抑制する、皮膚抗老化剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、PDGF-BBの産生亢進に有効な剤が提供されるとともに、これを用いることにより、幹細胞の安定化等に有効な剤も提供される。皮膚において幹細胞が安定化されれば、皮膚の老化抑制に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実験2のスクリーニング結果であり、対照(0.5%DSMO)の結果を100.0とした相対値で示す。
図2図2は、実験3における、各種試料のPDGF-BB産生亢進能を15μg/mLリンゴンベリー抽出物及び2μg/mLアムラ抽出物と比較した結果であり、対照(15μg/mLリンゴンベリー抽出物)の結果を100.0とした相対値で示す。
図3図3は、実験3における、各種試料のPDGF-BB産生亢進能を陰性対照(0.5%DSMO)、15μg/mLリンゴンベリー抽出物及び2μg/mLアムラ抽出物と比較した結果であり、陰性対照(0.5%DSMO)の結果を100.0とした相対値で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、ワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物が、顕著なPDGF-BB産生亢進作用及び幹細胞安定化作用を示すことを見出し、本発明は、かかる発見に基づく。
【0012】
ワサビ抽出物は、殺菌作用、抗酸化作用、保湿作用、リパーゼ阻害活性等が報告されている(特開2016-124845号公報)。カミツレ抽出物を発酵させて得られた発酵物には、細胞分化促進作用があることが報告されている(特開2015-157772号公報)。また、カミツレ抽出物には、幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制作用(特開2011-1327号公報)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制作用(特開2011-1328号公報)、幹細胞因子(以下「SCF」)の産生及び/又は放出の抑制作用(特開2003-194809号公報)等が報告されている。テアニンには、表皮幹細胞機能性向上作用(特開2015-178485号公報)、不全角化抑制作用(特開2007-204417号公報)等が報告されている。ハイビスカス抽出物には、ヒアルロニダーゼ活性阻害剤、幹細胞増殖因子mRNA発現上昇抑制作用(特開2014-218476号公報)等が報告されている。しかしながら、これらの物質が、本発明のPDGF-BB産生促進作用や幹細胞安定化作用を有することは、本発明者らによって今回初めて見出された。
【0013】
PDGF-BB産生亢進作用とは、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)タンパク質の産生を向上する作用のことを言う。例えば、産生の亢進されたPDGF-BBは間葉系幹細胞に作用し、その結果間葉系幹細胞を安定化させ皮膚を賦活することで、皮膚の老化を抑制することができる。PDGF-BB産生亢進作用は、例えばPDGF-BBの量を測定してタンパク質量を決定し、評価することができる。この測定は、PDGF-BBに特異的な抗体を利用し、当業界において周知の方法、例えば蛍光物質、色素、酵素等を利用する免疫染色法、ウェスタンブロット法、免疫測定方法、例えばELISA法、RIA法等、様々な方法により実施できる。また、例えば、間葉系幹細胞中の総RNAを抽出し、PDGF-BBをコードするmRNAの量を測定することにより間接的に決定することもできるが実際のタンパク質量を測定する方法のほうが直接的に評価できる。
【0014】
幹細胞安定化作用とは、幹細胞を標的部位に誘引して局在化させる作用、及び/又は幹細胞を標的部位に留めて局在化状態を維持する作用を言う。本明細書において、幹細胞安定化作用は、幹細胞の増殖を促進する作用、及び/又は幹細胞を未分化状態に維持する作用とは区別され、これらの作用を含まない場合がある。幹細胞安定化作用は、限定されないものの、例えば、特許文献1に記載の遊走能や皮膚における局在を測定する方法等によって測定できる。
【0015】
皮膚の賦活とは、限定されないものの、ヒトを含む動物の細胞、例えば、皮膚組織の新陳代謝やターンオーバーの促進、機能の向上、増殖の促進、酸化の抑制、疲労や外部刺激に対する耐性の向上、機能や活性の低下の抑制などが挙げられる。皮膚が賦活されると、しわ、シミ、皮膚老化、光老化等の予防・改善といった効果が期待される。
【0016】
[ワサビ抽出物]
ワサビ(Eutrema属)は、アブラナ科ワサビ属の多年草である。本発明に用いられるワサビの抽出物としては、本ワサビ(Eutrema japonicum (Miq.) Koidz.)が好ましいが、ユリワサビ(Eutrema tenue)や近縁種(Eutrema yunnanense)といった他の種を用いてもよい。また、ワサビの葉の抽出物が好ましいが、種、茎、花、根等にも有効成分が含まれているので、これらのうちいずれか1又は2以上の抽出物を使用することもできる。ワサビの抽出物は、金印株式会社等から市販されており、このような市販品を用いることもできる。
【0017】
[カミツレ抽出物]
カミツレ(学名:Matricaria chamomilla)は、キク科シカギク属に属する一年草である。本発明に用いられるカミツレの抽出物としては、カミツレの頭花の抽出物が好ましいが、カミツレの種、葉、茎、花、根等にも有効成分が含まれているので、これらのうちいずれか1又は2以上の抽出物を使用することもできる。カミツレの抽出物は、丸善製薬株式会社等から市販されており、このような市販品を用いることもできる。
【0018】
[L-テアニン]
L-テアニンは、以下の構造式で表されるアミノ酸の一種である。
【化1】
【0019】
L-テアニンは、緑茶、紅茶などの茶葉に多く含まれるため、これらの茶葉に含まれるL-テアニンを用いてもよく、これらの茶葉の抽出物の形態で用いてもよいが、人工的に合成してもよく、太陽化学等から市販されている市販品を用いることもできる。
【0020】
[ハイビスカス抽出物]
ハイビスカス(Hibiscus属)は、アオイ目アオイ科フヨウ属に属する一年生または多年生の亜灌木である。本発明に用いられるハイビスカスの抽出物としては、ローゼル(Hibiscus sabdariffa)の抽出物が好ましい。ハイビスカスの花の抽出物が好ましいが、ハイビスカスの果実、種、葉、茎、花、根等にも有効成分が含まれているので、これらのうちいずれか1又は2以上の抽出物を使用することもできる。ハイビスカスの抽出物は、日研フード株式会社等から市販されており、このような市販品を用いることもできる。
【0021】
抽出物を用いる場合、抽出方法は特に限定されるものではないが、溶媒を用いた抽出法が好ましい。抽出を行う際には、植物体をそのまま使用することもできるが、顆粒状や粉末状に粉砕して抽出に供した方が、穏和な条件で短時間に高い抽出効率で有効成分の抽出を行うことができる。抽出温度は特に限定されるものではなく、粉砕物の粒径や溶媒の種類等に応じて適宜設定すればよい。通常は、室温から溶媒の沸点までの範囲内で設定される。また、抽出時間も特に限定されるものではなく、粉砕物の粒径、溶媒の種類、抽出温度等に応じて適宜設定すればよい。さらに、抽出時には、撹拌を行ってもよいし、撹拌せず静置してもよいし、超音波を加えてもよい。
【0022】
溶媒の種類は特に限定されるものではないが、水、含水エタノール、エタノール等の低級アルコール、ヘキサン等の有機溶媒、又はヘキサン/エタノールといったこれらの混合溶媒が好ましい。抽出は常温で行ってもよいが、加熱下で(例えば温水や熱水等の加熱した溶媒を用いて)行ってもよい。また、溶媒に酵素を加えて抽出処理を行ってもよい。酵素を加えることによって、植物の細胞組織を崩壊させることができ、これにより抽出効率をより高めることができる。酵素としては、細胞組織崩壊酵素を用いることが好ましい。このような酵素としては、例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α-アミラーゼ、フィターゼが挙げられる。これらの酵素は1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
このような抽出操作により、有効成分が抽出され、溶媒に溶け込む。抽出物を含む溶媒は、そのまま使用してもよいが、滅菌、洗浄、濾過、脱色、脱臭等の慣用の精製処理を加えてから使用してもよい。また、必要により濃縮又は希釈してから使用してもよい。さらに、溶媒を全て揮発させて固体状(乾燥物)としてから使用してもよいし、該乾燥物を任意の溶媒に再溶解してから使用してもよい。
【0024】
また、原料の植物を圧搾することにより得られる圧搾液にも抽出物と同様の有効成分が含まれているので、抽出物の代わりに圧搾液を使用することもできる。
【0025】
本発明のPDGF-BB産生亢進剤は、ワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物の少なくともいずれかを有効成分として含有する。また、本発明の幹細胞安定化剤は、上記の有効成分を含む本発明のPDGF-BB産生亢進剤を含有する。例えば、本発明の幹細胞安定化剤は、PDGF-BBの産生を亢進し、産生の亢進されたPDGF-BBが間葉系幹細胞などの幹細胞に作用し、その結果幹細胞を安定化することができる。本発明の皮膚抗老化剤は、上記の有効成分を含む本発明のPDGF-BB産生亢進剤を含有する。例えば、本発明の皮膚抗老化剤は、PDGF-BBの産生を亢進し、産生の亢進されたPDGF-BBが間葉系幹細胞などの幹細胞に作用し、その結果幹細胞を安定化させ皮膚を賦活化することで、皮膚の老化を抑制する。本発明のPDGF-BB産生亢進剤、幹細胞安定化剤及び皮膚抗老化剤(以降これらを総称して「本発明の剤」という場合がある。)は、上記の有効成分の何れか1種を単独で含有してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で含有してもよい。
【0026】
本発明の剤は、上記の有効成分を、1種又は2種以上の他の成分、例えば賦形剤、担体及び/又は希釈剤等と組み合わせた組成物とすることもできる。組成物の組成や形態は任意であり、有効成分や用途等の条件に応じて適切に選択すればよい。当該組成物は、その剤形に応じ、賦形剤、担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で、常法を用いて製造することができる。
【0027】
本発明の剤は、各種の飲食品、飼料に配合してヒト及び動物に摂取させることができる。また、化粧品等に配合してヒト及び動物に使用し、或いは医薬製剤としてヒト及び動物に投与してもよい。
【0028】
具体的に、本発明の剤を飲食品や飼料等に配合する場合、植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法等に応じて適宜決めることができる。例えば、成人一日当たり植物又はその抽出物の摂取量が、0.5mg~3g(乾燥残分)程度になるように配合できる。特に、保健用飲食品等として利用する場合には、本発明の有効成分による所定の効果が十分発揮されるように、成人一日当たり、抽出物が10mg~1.5g(乾燥残分)摂取できるように含有させることが好ましい。
【0029】
飲食品や飼料の形態としては、任意の形態とすることが可能であり、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、又は、液体状にすることができる。これらの形態には、飲食品等に含有することが認められている公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤等の賦形剤を適宜含有させることができる。
【0030】
本発明を化粧品、医薬品、医薬部外品等の皮膚外用剤に適用する場合、植物体又はその抽出物の配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、化粧料全量中に、ワサビ抽出物では、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物それぞれ0.00001%~50%(乾燥質量換算)を配合でき、中でも0.0001%~5%(乾燥質量換算)が好ましい。
【0031】
上記成分に加えて、さらに必要により、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品、医薬品、医薬部外品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば酸化防止剤、油分、紫外線防御剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0032】
さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸及びその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその誘導体又はその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0033】
本発明の皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等、特に好適には化粧料として適用可能であり、その剤型も皮膚に適用できるものであれば限定されず、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。
【0034】
本発明の剤を化粧品として用いる場合は、化粧水、乳液、ファンデーション、口紅、リップクリーム、クレンジングクリーム、マッサージクリーム、パック、ハンドクリーム、ハンドパウダー、ボディシャンプー、ボディローション、ボディクリーム、浴用化粧品等の形態として用いてもよい。
【0035】
本発明の剤を医薬品や医薬部外品等の製剤として用いる場合であれば、該製剤は経口的にあるいは非経口的(静脈投与、腹腔内投与、等)に適宜使用される。剤型も任意で、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、又は、注射剤などの非経口用液体製剤など、いずれの形態にも公知の方法により適宜調製することができる。外用製剤であれば、ローション剤、懸濁剤・乳剤、液剤、軟膏剤、貼付剤等の各種形態として使用できる。これらの製剤には、通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調整剤などの賦形剤を適宜使用してもよい。
【0036】
しかしながら、本発明の剤の採り得る形態は、上述の剤型や形態に限定されるものではない。
【実施例0037】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0038】
実験1:試料の調製
PDGF-BBの産生亢進作用の評価対象試料として以下を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
その他に、動植物の抽出物といった天然由来成分や合成成分を47種類調製した。実験2ではアムラ抽出物及びリンゴンベリー抽出物を除く上記試料と合わせて合計52種類の試料を用い、更に、陰性対照として0.5%DMSO、陽性対照としてトレチノインを使用した。実験3では、陰性対照として0.5%DMSO、比較対照としてアムラ抽出物及びリンゴンベリー抽出物を使用した。抽出物は乾燥した状態で冷蔵庫に保存し、培地に対して(抽出物の乾燥重量換算で)10μg/mLとなるように使用したが、リンゴンベリー抽出物及びアムラ抽出物については、特許文献2の実施例で効果が見られた値とほぼ同等である15μg/mLおよび2μg/mLとなるようにそれぞれ調製した。L-テアニン、トレチノイン等の化合物は、培地に対して10μg/mLとなるように使用した。
【0041】
実験2:PDGF-BBの産生亢進作用の評価
Thermo Fisher Scientific社のELISAキット(製品名EHCSRP2)を使用し測定を行った。当該キットの内容および量を以下に示す。
【表2】
【0042】
試薬の調製
1. 測定前に、すべての試薬およびサンプルを室温(18~25℃)に戻した。
2. サンプル希釈液(10mL⇒50mL)とアッセイ希釈液(6mL⇒30mL)は、測定前に脱イオン水または蒸留水で5倍に希釈した。細胞ライセート緩衝液は、脱イオン水または蒸留水で2倍に希釈した。
3. 試料の希釈:HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)と評価対象試料との反応液を1×サンプル希釈液で少なくとも5倍に希釈して測定試料を調製した(PDGF-BBのレベルは、サンプルによって異なるので、各サンプルの最適希釈係数は適宜決定した)。
4. 標準の調製:凍結乾燥した標準バイアルに280μLの1×サンプル希釈液を加えて50ng/mLの標準液を調製した。穏やかに混合して粉末を完全に溶解させた。400pg/mLのストック標準溶液を調製するために、496μLのサンプル希釈液を含むチューブに、再構成標準のバイアルから4μLのPDGF-BB標準液を加えた。各チューブに400μLの1×サンプル希釈液をピペットで注入した。下記のように原液標準液を使用して希釈系列を作成した。次の移送の前に各チューブを十分に混合した。1×サンプル希釈液をゼロ標準液(0pg/mL)とした。
【化2】
【0043】
5. 20×洗浄緩衝液に目に見える結晶が含まれている場合は、室温まで暖め、溶解するまで静かに混合した。20mLの洗浄緩衝液の濃縮液を脱イオン水または蒸留水に希釈して、400mLの1×洗浄緩衝液を得た。
6. 使用前に、100μLの1×アッセイ希釈液をバイアルに加えて、ビオチン化抗体濃縮物を調製した。ピペットで上下に軽く混ぜた。ビオチン化抗体濃縮物は、1×アッセイ希釈液で80倍に希釈し(180μL⇒14400μL)、以下に記載のアッセイ手順のステップ4で使用した。
7. ストレプトアビジン-HRP試薬は、1×アッセイ希釈液で800倍に希釈した。HRP-ストレプトアビジン濃縮液20μLを16mLの1×アッセイ希釈液の入ったチューブに加え、800倍希釈HRP-ストレプトアビジン溶液を調製した。
【0044】
アッセイ手順
1. 使用前に、すべての試薬およびサンプルを室温(18~25℃)に戻した。すべての標準とサンプルは、少なくとも2連で実行した。
2. 各標準液100μLを添加し(試薬調製手順のステップ3を参照)、適切なウェルにサンプルを分注した。ウェルを覆い、穏やかに振盪しながら室温で2.5時間インキュベートした。
3. 溶液を捨て、1×洗浄緩衝液で4回洗浄した。マルチチャンネルのピペットを使用して各ウェルに洗浄緩衝液(300μL)を満たして洗浄した。最後の洗浄の後、吸引またはデカントすることによって残りの洗浄緩衝液をすべて除去した。プレートを逆さまにし、きれいな紙タオルで水分を十分に除去した。
4. 100μLの1×調製ビオチン化抗体(試薬調製手順のステップ6を参照)を各ウェルに加えた。穏やかに振とうしながら室温で1時間インキュベートした。
5. 溶液を捨て、ステップ3の洗浄を再び行った。
6. 調製したストレプトアビジン-HRP溶液(試薬調製手順のステップ7を参照)100μLを各ウェルに加えた。穏やかに振とうしながら室温で45分間インキュベートした。
7. 溶液を捨て、ステップ3の洗浄を再び行った。
8. 各ウェルに100μLのTMB基質を加えた。穏やかに振とうしながら暗所・室温で30分間インキュベートした。
9. 50μLの停止液を各ウェルに加えた。
10. プレートは反応を停止してから30分以内に評価した。450nmおよび550nmに設定したELISAプレートリーダーで吸光度を測定した。550nm値を450nm値から差し引いて、マイクロプレートの光学的不完全性を補正した。
【0045】
感受性:1pg/mL
感度または検出の下限(LLD)は、ゼロおよび測定毎の標準曲線によって決定した。標準曲線から読み取ったゼロ+2標準偏差の値がLLDである(95%信頼度でゼロでない最小線量)。
【0046】
上記評価手順に従い、上記52種類の各サンプル(n=4)について得られたPDGF-BBタンパク量を測定し、スクリーニングを行った。陽性対照として10μg/mLのトレチノインを、陰性対照として0.5%DMSOを使用した。
【0047】
結果:
陰性対照(試料無添加の0.5%DMSO)について得られたタンパク量に対する割合を、図1及び下記表3に示す。図1、表3の結果から、52種類のサンプルのうち、ワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物にとりわけ高い効果がみられることが判明し、これらの成分はPDGF-BBの産生を亢進させる作用を有することが分かる。図中、試料A~Cは、ワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物以外の47種類の物質のうち3種の試料を示すが、他の物質も試料A~Cと同様に陰性対照(DMSO)より低いか又は有意な差が見られない等、基準を満たすものではなかった。
【0048】
【表3】
【0049】
実験3:アムラ抽出物及びリンゴンベリー抽出物との比較
実験2において有意なPDGF-BB産生亢進作用が見られたワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物について、上記評価手順に従ってPDGF-BBタンパク量を測定し、PDGF-BB産生亢進作用を有することが知られている15μg/mLリンゴンベリー抽出物および2μg/mLアムラ抽出物と比較した。
【0050】
結果:
対照(15μg/mLリンゴンベリー抽出物)について得られたタンパク量を100.0としてそれに対する割合を図2に示し、陰性対照(試料無添加の0.5%DMSO)について得られたタンパク量を100.0としてそれに対する割合を図3に示す。図2,3より、陰性対照のみならず、従前に高いPDGF-BB産生亢進作用を有することが知られていたリンゴンベリーエキスやアムラエキス(特許文献2)と比較しても有意に高いPDGF-BB産生亢進能を奏することが分かった。
【0051】
以上の結果により、ワサビ抽出物、カミツレ抽出物、L-テアニン、及びハイビスカス抽出物には、PDGF-BB産生を亢進する効果がとりわけ高いことが分かった。これらの物質は、PDGF-BB産生を亢進することにより、間葉系幹細胞を安定化させ、ひいては皮膚を賦活化し老化を抑制することが期待される。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カミツレ抽出物を有効成分として含んでなる血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)産生亢進剤。