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特開2024-36563筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー
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  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図1
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図2
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図3A
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図3B
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図4
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図5
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図6
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図7
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図8
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図9
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図10
  • 特開-筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036563
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6883 20180101AFI20240308BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240308BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z
C12Q1/06 ZNA
C12M1/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016661
(22)【出願日】2024-02-06
(62)【分割の表示】P 2020538443の分割
【原出願日】2019-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2018155380
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019044885
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】510147776
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】514286871
【氏名又は名称】Repertoire Genesis株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】山村 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和貴郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 紘彦
(72)【発明者】
【氏名】松谷 隆治
(72)【発明者】
【氏名】中村 征史
(72)【発明者】
【氏名】北浦 一孝
(57)【要約】
【課題】本開示において、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断を行う方法が提供される。
【解決手段】本開示は、B細胞受容体(BCR)レパトアを筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の指標とする方法を提供する。対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度、対象におけるBCR多様性指数、および対象における1つ以上の免疫細胞亜集団量からなる群から選択される1つまたは複数の変数を、対象におけるME/CFSの指標として用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、疾患、とりわけ、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は、著しい疲労、労作後の消耗、睡眠障害、認知機能障害、起立不耐症を中核症状とし、痛み、自律神経障害、光、音、食品、化学物質に対する過敏症など様々な症状が付随する疾患である。感染症の後に発症する場合もあるが、病態は未解明であり、発症を識別するバイオマーカーがないため、様々な診断基準があり、診断や研究の障害になっている。また、有効な治療法も確立されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、B細胞受容体(BCR)レパトアを筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の指標とする方法を提供する。BCRのIgGH鎖可変領域における遺伝子の使用頻度が、ME/CFS患者において健常対照と比較して変化することが本明細書において実証され、かかる情報を用いて、ME/CFSの診断を行うことが可能である。BCRのIgGH鎖可変領域における遺伝子に加えて、対象における免疫細胞亜集団(B細胞、制御性T細胞など)の量を指標として用いることもできる。遺伝子の使用頻度が、大規模高効率BCRレパトア解析を含む方法によって決定することができる。
【0004】
本開示の実施形態の例が、以下の項目に示される。
(項目1) 対象におけるB細胞受容体(BCR)レパトアを、該対象における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の指標とする方法。
(項目2) 対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む1つ以上の変数を、該対象における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の指標とする、前記項目に記載の方法。
(項目2A) 前記1つ以上の変数が、前記対象が他の疾患ではなくME/CFSに罹患していることの指標であることをさらに特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目3) 前記1つ以上の遺伝子が、IGHV1-2、IGHV1-3、IGHV1-8、IGHV1-18、IGHV1-24、IGHV1-38-4、IGHV1-45、IGHV1-46、IGHV1-58、IGHV1-69、IGHV1-69-2、IGHV1-69D、IGHV1/OR15-1、IGHV1/OR15-5、IGHV1/OR15-9、IGHV1/OR21-1、IGHV2-5、IGHV2-26、IGHV2-70、IGHV2-70D、IGHV2/OR16-5、IGHV3-7、IGHV3-9、IGHV3-11、IGHV3-13、IGHV3-15、IGHV3-16、IGHV3-20、IGHV3-21、IGHV3-23、IGHV3-23D、IGHV3-25、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-30-5、IGHV3-33、IGHV3-35、IGHV3-38、IGHV3-38-3、IGHV3-43、IGHV3-43D、IGHV3-48、IGHV3-49、IGHV3-53、IGHV3-64、IGHV3-64D、IGHV3-66、IGHV3-72、IGHV3-73、IGHV3-74、IGHV3-NL1、IGHV3/OR15-7、IGHV3/OR16-6、IGHV3/OR16-8、IGHV3/OR16-9、IGHV3/OR16-10、IGHV3/OR16-12、IGHV3/OR16-13、IGHV4-4、IGHV4-28、IGHV4-30-2、IGHV4-30-4、IGHV4-31、IGHV4-34、IGHV4-38-2、IGHV4-39、IGHV4-59、IGHV4-61、IGHV4/OR15-8、IGHV5-10-1、IGHV5-51、IGHV6-1、IGHV7-4-1、IGHV7-81、IGHD1-1、IGHD1-7、IGHD1-14、IGHD1-20、IGHD1-26、IGHD1/OR15-1a/b、IGHD2-2、IGHD2-8、IGHD2-15、IGHD2-21、IGHD2/OR15-2a/b、IGHD3-3、IGHD3-9、IGHD3-10、IGHD3-16、IGHD3-22、IGHD3/OR15-3a/b、IGHD4-4、IGHD4-11、IGHD4-17、IGHD4-23、IGHD4/OR15-4a/b、IGHD5-5、IGHD5-12、IGHD5-18、IGHD5-24、IGHD5/OR15-5a/b、IGHD6-6、IGHD6-13、IGHD6-19、IGHD6-25、IGHD7-27、IGHJ1、IGHJ2、IGHJ3、IGHJ4、IGHJ5、IGHJ6、IGHG1、IGHG2、IGHG3、IGHG4、およびIGHGPからなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目3-1) 前記1つ以上の遺伝子が、IGHV3-73、IGHV1-69-2、IGHV5-51、IGHV4-31、IGHV3-23D、IGHV1/OR15-9、IGHV4-39、IGHD5-12、IGHV3-43D、IGHD4-17、IGHV5-10-1、IGHD4/OR15-4a/b、IGHG4、IGHV1/OR15-5、IGHV3/OR16-9、IGHD1-7、IGHV3-21、IGHD6-6、IGHV3-33、IGHD4-23、IGHV3-30-5、IGHV3-23、IGHD6-13、IGHV3-64D、IGHV3-48、IGHV3-64、IGHG1、IGHV3-49、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHJ6、IGHV3-30、IGHGP、IGHV1-3およびIGHD3-22からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目3-2) 前記1つ以上の遺伝子が、IGHD6-6、IGHV3-33、IGHD4-23、IGHV3-30-5、IGHV3-23、IGHD6-13、IGHV3-64D、IGHV3-48、IGHV3-64、IGHG1、IGHV3-49、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHJ6、IGHV3-30、IGHGP、IGHV1-3およびIGHD3-22からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目3-3) 前記1つ以上の遺伝子が、IGHV3-49、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHJ6、IGHV3-30、IGHGP、IGHV1-3およびIGHD3-22からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目3-4) 前記1つ以上の遺伝子が、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-49、IGHD1-26、およびIGHJ6からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4-1) 前記1つ以上の変数が、1つ以上の免疫細胞亜集団量をさらに含むことを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4-2) 前記1つ以上の変数が、正常対照とME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4-3) 前記1つ以上の変数が、正常対照とME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.8を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目4-4) 前記免疫細胞亜集団量が、B細胞の量、ナイーブB細胞の量、メモリーB細胞の量、プラズマブラストの量、活性化ナイーブB細胞の量、トランジショナルB細胞の量、制御性T細胞の量、メモリーT細胞の量、follicular helper T細胞の量、Tfh1細胞の量、Tfh2細胞の量、Tfh17細胞の量、Th1細胞の量、Th2細胞の量およびTh17細胞の量から選択される前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5-1) 前記1つ以上の変数が、前記対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における2つ以上の遺伝子の使用頻度を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5-2) 前記1つ以上の変数が、正常対照とME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5-2) 前記1つ以上の変数が、正常対照とME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.8を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目5-2) 前記1つ以上の変数が、正常対照とME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.9を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6-1) 前記1つ以上の変数が、前記対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度、前記対象におけるBCR多様性指数、および前記対象における1つ以上の免疫細胞亜集団量からなる群から選択される2つ以上の変数の組み合わせを含み、該1つ以上の変数は、正常対照とME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6-2) 前記1つ以上の変数が、前記群から選択される3つ以上の変数を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6-3) 前記1つ以上の変数が、前記群から選択される4つ以上の変数を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6-4) 前記1つ以上の変数が、前記群から選択される5つ以上の変数を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6-5) 前記1つ以上の変数が、前記群から選択される6つ以上の変数を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6-7) 前記1つ以上の変数が、正常対照とME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.8を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目6-3) 前記1つ以上の変数が、正常対照とME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.9を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目7) 前記1つ以上の遺伝子が、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-49、IGHD1-26、およびIGHJ6を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目8) 前記1つ以上の変数が、前記対象におけるB細胞の量を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目9) 前記1つ以上の変数が、前記対象における制御性T細胞(Treg)の量を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目10) 前記1つ以上の遺伝子の使用頻度が、大規模高効率BCRレパトア解析を含む方法によって決定される、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11) 前記1つ以上の変数が、IGHV3-49、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHV3-30、IGHJ6、IGHGP、IGHV4-31、IGHV3-64、IGHD3-22、IGHV3-33、IGHV3-73、IGHV5-10-1およびIGHV4-34からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の使用頻度を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目12) (a)前記1つ以上の変数のうちの一部を前記対象におけるME/CFSの指標とすることと、
(b)前記1つ以上の変数のうちの一部を前記対象が他の疾患ではなくME/CFSであることの指標とすることと
を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目13) 複数の他の疾患について(b)を複数回行う、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目14) 前記他の疾患が多発性硬化症(MS)を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目15) 対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む1つ以上の変数を、該対象が多発性硬化症(MS)ではなく筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることの指標とする、方法。
(項目15A) 前記項目の1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載の方法。
(項目16) 前記1つ以上の遺伝子が、IGHV1-2、IGHV1-3、IGHV1-8、IGHV1-18、IGHV1-24、IGHV1-38-4、IGHV1-45、IGHV1-46、IGHV1-58、IGHV1-69、IGHV1-69-2、IGHV1-69D、IGHV1/OR15-1、IGHV1/OR15-5、IGHV1/OR15-9、IGHV1/OR21-1、IGHV2-5、IGHV2-26、IGHV2-70、IGHV2-70D、IGHV2/OR16-5、IGHV3-7、IGHV3-9、IGHV3-11、IGHV3-13、IGHV3-15、IGHV3-16、IGHV3-20、IGHV3-21、IGHV3-23、IGHV3-23D、IGHV3-25、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-30-5、IGHV3-33、IGHV3-35、IGHV3-38、IGHV3-38-3、IGHV3-43、IGHV3-43D、IGHV3-48、IGHV3-49、IGHV3-53、IGHV3-64、IGHV3-64D、IGHV3-66、IGHV3-72、IGHV3-73、IGHV3-74、IGHV3-NL1、IGHV3/OR15-7、IGHV3/OR16-6、IGHV3/OR16-8、IGHV3/OR16-9、IGHV3/OR16-10、IGHV3/OR16-12、IGHV3/OR16-13、IGHV4-4、IGHV4-28、IGHV4-30-2、IGHV4-30-4、IGHV4-31、IGHV4-34、IGHV4-38-2、IGHV4-39、IGHV4-59、IGHV4-61、IGHV4/OR15-8、IGHV5-10-1、IGHV5-51、IGHV6-1、IGHV7-4-1、IGHV7-81、IGHD1-1、IGHD1-7、IGHD1-14、IGHD1-20、IGHD1-26、IGHD1/OR15-1a/b、IGHD2-2、IGHD2-8、IGHD2-15、IGHD2-21、IGHD2/OR15-2a/b、IGHD3-3、IGHD3-9、IGHD3-10、IGHD3-16、IGHD3-22、IGHD3/OR15-3a/b、IGHD4-4、IGHD4-11、IGHD4-17、IGHD4-23、IGHD4/OR15-4a/b、IGHD5-5、IGHD5-12、IGHD5-18、IGHD5-24、IGHD5/OR15-5a/b、IGHD6-6、IGHD6-13、IGHD6-19、IGHD6-25、IGHD7-27、IGHJ1、IGHJ2、IGHJ3、IGHJ4、IGHJ5、IGHJ6、IGHG1、IGHG2、IGHG3、IGHG4、およびIGHGPからなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目17) 前記1つ以上の遺伝子が、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHV3-49およびIGHJ6からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目18) 前記1つ以上の変数が、前記対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における2つ以上の遺伝子の使用頻度を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目19) 前記1つ以上の変数が、MSとME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目20) 前記1つ以上の変数が、MSとME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.8を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目21) 前記1つ以上の変数が、MSとME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.9を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目22) 前記1つ以上の変数が、前記対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における3つ以上の遺伝子の使用頻度を含む、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目23) 前記1つ以上の変数が、MSとME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目24) 前記1つ以上の変数が、MSとME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.8を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目25) 前記1つ以上の変数が、MSとME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.9を示す、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目26) 前記(b)が、前記項目のいずれかに記載の方法によって行われることを特徴とする、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A1) 対象が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることを診断する方法であって、対象におけるB細胞受容体(BCR)レパトアを測定することと、該BCRレパトアに基づいて該対象が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることを診断することとを含む、方法。
(項目A1-1) 前記項目の1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載の方法。
(項目A2) 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)を処置する方法であって、対象におけるB細胞受容体(BCR)レパトアを測定することと、該BCRレパトアに基づいて該対象が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることを診断することと、該対象に治療を施すこととを含む、方法。
(項目A2-1) 前記項目の1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載の方法。
(項目A3) 前記対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む1つ以上の変数に基づいて該対象が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることを診断する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A4) 前記対象について前記変数を含む式の値を算出し、該値を閾値と比較することにより、該対象が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることを診断する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A5)
(A)筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に関して、BCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む複数の変数を提供することと、
(B)該変数について多変量解析を行って生成された判別式を提供することと、
(C)対象の該変数の値を、該判別式に当てはめてME/CFSに罹患している確率を算出することと
(D)該ME/CFSに罹患している確率が、所定の値より高い場合に、該対象がME/CFS罹患していると決定すること
を包含する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A6)
(A)筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に関して、BCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む複数の変数を提供することと、
(B)該変数について多変量解析を行って生成された判別式を提供することであって、(B)は、
(B-1)該変数について、患者/健常人の区分を目的変数として単変量または多変量ロジスティック回帰を行うことと、
(B-2)該ロジスティック回帰において生成されたロジットモデル式の定数および偏回帰係数から、判別式の定数および係数を算出することと、
(B-3)B-2の処理で得られた定数および係数をもとに判別式を生成することとを含む、ことと、
(C)対象の該変数の値を、該判別式に当てはめてME/CFSに罹患している確率を算出することと
(D)該ME/CFSに罹患している確率が、所定の値より高い場合に、該対象がME/CFSに罹患していると決定すること
を包含する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A6-A)
(A)変数の組合せを特定することであって、(A)は、
(A-1)筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の患者および健常人を含む被験者について、該健常人と該ME/CFSの患者を比較し、有意な差が検出されたBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む複数の変数を提供すること;および/または
(A-2)該BCRのIgGH鎖可変領域における1つの遺伝子を独立変数として単変量ロジスティック解析を行うか、または該BCRのIgGH鎖可変領域における2つ以上の遺伝子を独立変数として多変量ロジスティック解析を実施し、ロジスティック回帰モデル式を得、該ロジスティック回帰モデル式の適合度を測るROC解析を実施して、所定の値以上のAUC値を示した遺伝子を判別式用の変数として選択することを含む、
ことと、
(B)該判別式用の変数について多変量解析を行って生成された判別式を提供することであって、(B)は、
(B-1)該判別式用の変数について、患者/健常人の区分を目的変数として単変量または多変量ロジスティック回帰を行うことと、
(B-2)B-1の該ロジスティック回帰において生成されたロジットモデル式の定数および偏回帰係数から、判別式の定数および係数を算出することと、
(B-3)B-2の処理で得られた定数および係数をもとに判別式を生成することとを含む、ことと、
(C)対象の該変数の値を、該判別式に当てはめてME/CFSに罹患している確率を算出することと
(D)該ME/CFSに罹患している確率が、所定の値より高い場合に、該対象がME/CFSに罹患していると決定すること
を包含する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A7)
(A)筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に関して、BCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む複数の変数を提供することと、
(B)該変数について多変量解析を行って生成された判別式を提供することと、
(C)対象の該変数の値を、該判別式に当てはめてME/CFSに罹患している確率を算出することと
(AA)筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)以外の疾患のBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む複数の変数を提供することと、
(BB)該変数について多変量解析を行って生成された判別式を提供することと、
(CC)対象の該変数の値を、該判別式に当てはめてME/CFS以外に罹患している確率を算出することと
(D)該ME/CFSに罹患している確率が、所定の値より高い場合で、かつ、該ME/CFS以外に罹患している確率が所定の値より低い場合に、該対象がME/CFSに罹患していると決定すること
を包含する、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A8) 対象が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることを診断するインビトロの方法であって、対象におけるB細胞受容体(BCR)レパトアに基づいて該対象が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることを診断することを含む、方法。
(項目A8-1) 前記項目の1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載の方法。
(項目B1) 1つ以上のプロセッサによって実行されると、プロセッサに、対象のBCRレパトアに関連する変数を含む1つ以上の変数を取得させ、該1つ以上の変数に基づき、該対象がME/CFSであるかを判定させる命令、を含むプログラム。
(項目B1-1) 前記項目の1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載のプログラム。
(項目B2) 1つ以上のプロセッサによって実行されると、プロセッサに、対象のBCRレパトアに関連する変数を含む1つ以上の変数を取得させ、該1つ以上の変数に基づき、該対象がME/CFSであるかを判定させる命令、を含むプログラムを記録した記憶媒体。
(項目B2-1) 前記項目の1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載の記憶媒体。
(項目B2-2) 非一時的記憶媒体である、前記項目のいずれかに記載の記憶媒体。
(項目C1) 対象のBCRレパトアに関連する変数を含む1つ以上の変数の情報を記録するように構成された記録部と、該情報を取得し、該対象がME/CFSであるかを判定するように構成された判定部とを備えた、システム。
(項目C1-1) 前記項目の1つまたは複数に記載の特徴を備える、前記項目に記載のシステム。
【発明の効果】
【0005】
本開示により、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の的確な診断が可能となる。また、本開示は、ME/CFSの発症予測や予後診断にも活用することができ、ME/CFSの治療剤開発時のマーカーとしても活用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、ME/CFS疾患患者および健常人対照者試料から得られた、BCRの各IGHV遺伝子(IGHVファミリー)の使用頻度の比較の結果を示す図である。縦軸は各遺伝子の使用頻度(%)であり、バーは標準誤差を示す。HC:健常人対照者、ME/CFS:ME/CFS疾患患者。
図2図2は、ME/CFS疾患患者および健常人対照者試料から得られた、BCRの各IGHDおよびIGHJファミリーの使用頻度の比較の結果を示す図である。縦軸は各遺伝子の使用頻度(%)であり、バーは標準誤差を示す。HC:健常人対照者、ME/CFS:ME/CFS疾患患者。
図3A図3Aは、ME/CFS疾患患者および健常人対照者試料の、記載されるIGHV遺伝子の使用頻度のドットプロットである。HC:健常人対照者、ME/CFS:ME/CFS疾患患者。
図3B図3Aは、ME/CFS疾患患者および健常人対照者試料の、記載されるIGHV遺伝子の使用頻度のドットプロットである。HC:健常人対照者、ME/CFS:ME/CFS疾患患者。
図4図4は、ME/CFS疾患患者および健常人対照者試料の、記載されるB細胞集団の量のドットプロットである。HC:健常人対照者、ME/CFS:ME/CFS疾患患者。
図5図5は、ME/CFS疾患患者および健常人対照者試料の、制御性T細胞集団の量のドットプロットである。HC:健常人対照者、ME/CFS:ME/CFS疾患患者。
図6図6は、ME/CFS疾患患者および健常人対照者試料の、記載されるT細胞集団の量のドットプロットである。HC:健常人対照者、ME/CFS:ME/CFS疾患患者。
図7図7は、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-49、IGHD1-26、およびIGHJ6の使用頻度と、B細胞細胞量(%)を変数として用いた場合の、回帰分析によるROC曲線を示す図である。
図8図8は、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-49、IGHD1-26、およびIGHJ6の使用頻度と、Treg量(%)を変数として用いた場合の、回帰分析によるROC曲線を示す図である。
図9図9は、ME/CFS患者(n=37)とMS患者(n=10)間のIGH遺伝子使用頻度の差異を示す図である。ME/CFS:ME/CFS疾患患者、MS:MS疾患患者。
図10図10は、ME/CFS患者(n=37)とMS患者(n=10)間の多様性指数の差異を示す図である。ME/CFS:ME/CFS疾患患者、MS:MS疾患患者。いずれの多様性指数についても、ME/CFS患者(n=37)とMS患者(n=10)間では有意差が検出されなかった。
図11図11は、ME/CFS患者(n=37)と非ME/CFS患者(n=33)のIGH遺伝子使用頻度の差異を示す図である。ME/CFS:ME/CFS疾患患者、non-ME/CFS:健常対照+MS疾患患者。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0008】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0009】
(ME/CFS)
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome:ME/CFS)は6か月以上続く説明困難な高度の疲労、労作後の極端な消耗、睡眠障害、認知機能障害を中核症状とし、起立不耐症、痛み、消化器症状、光や音、匂い、化学物質に対する過敏症などをしばしば伴う深刻な慢性疾患であり、国内患者数は10万人以上と推定されるが、病態が未解明で疾患特異的な検査法や有効な治療法がないため、適切な医療が受けられていないのが現状である。
【0010】
近年ノルウェーからリツキシマブによるB細胞除去療法が有効であると報告され、世界的にME/CFSの免疫病態に注目が集まっている。獲得免疫系の中でB細胞は抗体産生を統括しているが、多様な抗原に対応するために遺伝子再構成によるB細胞受容体は極めて多様である。全身性エリテマトーデスのような自己免疫疾患やB細胞系の血液腫瘍においては特定のB細胞受容体(クローン)が増加しており、個体の多様なB細胞受容体の総体(レパトア)における偏りとして検出される。近年次世代シークエンサーを用いてバイアスを排除した方法によるレパトア解析が可能となり、ME/CFSのB細胞系の異常の検出に有用な可能性がある。
【0011】
ME/CFSの診断は、症状・問診などから、Fukuda criteria、Canadian criteriaおよびInternational consensus criteriaなどの基準によって行われている。ME/CFSにおいては、疾患を示すバイオマーカーが今日まで開発されておらず、症状の組合せによって診断する複数の診断基準が存在している。Fukuda criteriaは最も古く(1994年)、次にカナダ基準(2003年)、その後国際基準(2011年)が作成されているが、この間に、疾患の本質的な症状(中核症状)について専門家の共通理解が進み、新たな診断基準の作成が現在も検討されている。診断基準が古い基準も含め併存している理由は、1)研究を推進し疾患の病態理解・治療法開発を進めるための詳細/厳密な基準(リサーチ基準)と、2)一般内科医が診断をつけ、患者への医療的/社会的介入を推進できるようにするための簡易な基準(診療用基準)の両者が必要と考えられているからである。具体的には、Fukuda基準はリサーチ基準として現在も研究用に必須と考えられている一方、新しい基準は診療を意識したものになっている。このようなダブルスタンダードは、通常他の疾患では認められないものだが、ME/CFSにおいては例外的に専門家の間で認知/受容されている。日本の厚生労働省が作成した診断基準はこれら海外の基準を元に、日本の実情に合わせたもの(PSの設定など)となっている。本開示において、ME/CFSは、リサーチ基準であるFukuda criteriaによって規定される疾患を指すことができるが、必要に応じて、他の診療用の基準によって規定される疾患も参照することができる。本開示において、ME/CFSであることの確認は、当技術分野で受け入れられている診断基準のいずれかによって行うことができる。
【0012】
本開示において、ME/CFSであることが示された対象、ME/CFSである可能性が示された対象、ME/CFSを発症する可能性が示された対象、または予後不良のME/CFSに罹患していることが示された対象に対し、適切に処置を行ってもよい。ME/CFSの処置として、免疫調整剤(リツキシマブなど)、非ステロイド系抗炎症剤、抗うつ剤、および抗不安剤などが用いられ得る。
【0013】
(BCRレパトア)
一実施形態において、本開示は、B細胞受容体(BCR)レパトアを、対象における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の指標とする方法を提供する。本明細書において「B細胞レセプター(BCR)」とは、B細胞受容体、B細胞抗原レセプター、B細胞抗原受容体とも呼ばれ、膜結合型免疫グロブリン(mIg)分子と会合したIgα/Igβ(CD79a/CD79b)ヘテロ二量体(α/β)から構成されるものをいう。mIgサブユニットは抗原に結合し、受容体の凝集を起こすが、一方、α/βサブユニットは細胞内に向かってシグナルを伝達する。BCRが凝集すると、チロシンキナーゼのSyk及びBtkと同様に、SrcファミリーキナーゼのLyn、Blk、及びFynを速やかに活性化するといわれる。BCRシグナル伝達の複雑さによって多くの異なる結果が生じるが、その中には、生存、耐性(アネルギー;抗原に対する過敏反応の欠如)またはアポトーシス、細胞分裂、抗体産生細胞または記憶B細胞への分化などが含まれる。TCRの可変領域の配列が異なるT細胞が何億種類も生成し、またBCR(または抗体)の可変領域の配列が異なるB細胞が何億種類も生成する。TCRとBCRの個々の配列はゲノム配列の再構成や変異導入により異なるので、T細胞やB細胞の抗原特異性については、TCR・BCRのゲノム配列またはmRNA(cDNA)の配列を決定することにより手掛かりを得ることができる。
【0014】
本明細書において「V領域」とは、TCR鎖またはBCR鎖の可変領域の可変部(V)領域をいう。
【0015】
本明細書において「D領域」とは、TCR鎖またはBCR鎖の可変領域のD領域をいう。
【0016】
本明細書において「J領域」とは、TCR鎖またはBCR鎖の可変領域のJ領域領域をいう。
【0017】
本明細書において「C領域」とは、TCR鎖またはBCR鎖の定常部(C)領域をいう。
【0018】
本明細書において「可変領域のレパトア(repertoire)」とは、TCRまたはBCRで遺伝子再構成により任意に作り出されたV(D)J領域の集合をいう。TCRレパトア、BCRレパトア等と熟語で使用されるが、これらは例えば、T細胞レパトア、B細胞レパトアなどと称されることもある。レパトアには、全体として多様性がどのくらいかという情報と、個々の遺伝子がどの程度の頻度で用いられているかという情報との2つの側面があるということができる。一実施形態において、対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む1つ以上の変数を、対象における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の指標とする方法が提供される。BCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度は、以下のとおり導出することが可能である。
【0019】
BCRレパトアの決定の方法として、1つには、試料中のB細胞が個々のV鎖をどれくらい使用するかを、特定のVβ鎖特異的抗体を用いて、個々のVβ鎖を発現するT細胞の割合をフローサイトメトリーで解析する方法(FACS解析)がある。その他に、ヒトゲノム配列から入手されるTCR遺伝子の情報をもとに、分子生物学的手法によるTCRレパトア解析が考案されてきた。細胞試料からRNAを抽出し、相補的DNAを合成後、TCR遺伝子をPCR増幅して定量する方法がある。
【0020】
細胞試料からの核酸の抽出は、RNeasy Plus Universal Mini Kit (QIAGEN)などの当技術分野で公知のツールを用いて行うことができる。TRIzol LS試薬に溶解した細胞からRNeasy Plus Universal Mini Kit (QIAGEN)を用いて全RNAの抽出および精製を行うことができる。抽出されたRNAからの相補的DNAの合成は、Superscript IIITM (Invitrogen)などの、当技術分野で公知の任意の逆転写酵素を用いて行うことができる。
【0021】
BCR遺伝子のPCR増幅は、当技術分野で公知の任意のポリメラーゼを用いて、当業者が適宜行うことができる。しかしながら、BCR遺伝子のような変動の大きい遺伝子の増幅においては、「非バイアス」で増幅することができれば、正確な測定のためには有利な効果があるといえる。
【0022】
PCR増幅のために用いるプライマーとしては、個々のBCR V鎖特異的プライマーを多数設計して、別個にリアルタイムPCR法等で定量する方法、あるいはそれら特異的プライマーを同時に増幅する方法(Multiple PCR)法が用いられてきた。しかしながら、各V鎖について内在性コントロールを用いて定量する場合でも、利用するプライマーが多いと正確な解析ができない。さらに、Multiple PCR法ではプライマー間の増幅効率の差が、PCR増幅時のバイアスを引き起こす欠点がある。
【0023】
本開示の好ましい実施形態では、WO2015/075939(Repertoire Genesis Inc.)に記載されているような、1種のフォーワードプライマーと1種のリバースプライマーからなる1セットのプライマーですべてのアイソタイプやサブタイプ遺伝子を含むBCR遺伝子を、存在頻度を変えることなく増幅して、BCR多様性を決定する。以下のようなプライマー設計は、非バイアス的な増幅に有利である。
【0024】
BCR遺伝子の遺伝子構造に着目し、高度な多様性をもつV領域にプライマーを設定することなく、その5’末端にアダプター配列を付加することにより、すべてのV領域を含む遺伝子を増幅する。このアダプターは塩基配列上において任意の長さと配列であり、20塩基対程度が最適であるが、10塩基から100塩基までの配列を使用することができる。3’末端に付加されたアダプターは制限酵素により除去され、20塩基対のアダプターと同一配列のアダプタープライマーと共通配列であるC領域に特異的なリバースプライマーにより増幅することですべてのBCR遺伝子を増幅する。
【0025】
BCR遺伝子メッセンジャーRNAから逆転写酵素により相補鎖DNAを合成し、続いて二本鎖相補的DNAを合成する。逆転写反応や二本鎖合成反応によって異なる長さのV領域を含む二本鎖相補的DNAが合成され、それら遺伝子の5’末端部に20塩基対と10塩基対からなるアダプターをDNAリガーゼ反応によって付加する。
【0026】
BCRに関しては、μ鎖、α鎖、δ鎖、γ鎖、ε鎖の重鎖、κ鎖、λ鎖の軽鎖のC領域にリバースプライマーを設定し、これらの遺伝子を増幅することができる。C領域に設定されるリバースプライマーは、BCRに関しては各Cμ、Cα、Cδ、Cγ、Cε、Cκ、Cλの配列に一致し、かつ他のC領域配列にはプライミングしない程度のミスマッチをもつプライマーを設定する。C領域のリバースプライマーはアダプタープライマーとの増幅ができるように、塩基配列、塩基組成、DNA融解温度(Tm)、自己相補配列の有無を考慮し、最適に作製する。C領域配列におけるアレル配列間で異なる塩基配列を除く領域にプライマーを設定することで、すべてのアレルを均一に増幅することができる。増幅反応の特異性を高めるため、複数段階のnested PCRを行う。
【0027】
いずれのプライマーもアレル配列間で異なる配列を含まない配列に対して、プライマー候補配列の長さ(塩基数)は、特に制限されないが、10~100塩基数であり、好ましくは、15~50塩基数であり、より好ましくは、20~30塩基数である。このような非バイアス的な増幅を用いることは、低頻度(1/10,000~1/100,000またはそれ以下)の遺伝子の同定に有利であり、好ましい。
【0028】
以上のように増幅したBCR遺伝子をシークエンシングすることによって、得られたリードデータからBCRレパトアを決定することができる。
【0029】
シークエンシングの手法は、核酸試料の配列を決定することができる限り限定されず、当技術分野で公知の任意のものを利用することができるが、次世代シークエンシング(NGS)を用いることが好ましい。次世代シークエンシングとしては、パイロシーケンシング、合成によるシークエンシング(シークエンシングバイシンセシス)、ライゲーションによるシーケンシング、イオン半導体シーケンシングなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
得られたリードデータを、V、D、J遺伝子を含む参照配列にマッピングすることで、ユニークリード数を導出して、BCRレパトアを決定することができる。
【0031】
1つの実施形態では、使用される参照データベースは、V、D、J、C遺伝子領域ごとに準備する。典型的にはIMGTより公開されている領域ごと、アリルごとの核酸配列データセットを使用するが、それに限らず、各配列に一意のIDが割り振られているデータセットであれば利用可能である。
【0032】
得られたリードデータ(トリミングなどの適当な処理を必要に応じて行ったものを含む)を入力配列セットとして、遺伝子領域ごとの参照データベースと相同性検索し、最も近しい参照アリルおよびその配列とのアラインメントを記録する。ここで相同性検索には、Cを除きミスマッチ許容性の高いアルゴリズムを使用することになる。例えば相同性検索プログラムとして一般的なBLASTを使用する場合、ウィンドウサイズの短縮、ミスマッチペナルティの低減、ギャップペナルティの低減といった設定を、領域ごとに行うことになる。最も近しい参照アリルの選択においては、相同性スコア、アラインメント長、カーネル長(連続して一致する塩基列の長さ)、一致塩基数を指標とし、これらを定められた優先順位にしたがって適用する。本開示で使用されるVおよびJが確定した入力配列については、参照V上のCDR3先頭および参照J上のCDR3末尾を目印に、CDR3配列を抽出する。これをアミノ酸配列に翻訳することで、D領域の分類に使用する。D領域の参照データベースが準備できている場合は、相同性検索結果とアミノ酸配列翻訳結果の組合せを分類結果とする。
【0033】
上記により、入力セット中の各配列についてV、D、J、Cの各アリルがアサインされる。続いて、入力セット全体でV、D、J、Cの各出現頻度、もしくはその組合せの出現頻度を算出することで、BCRレパトアを導出する。分類に要請される精確さに応じて、出現頻度はアリル単位もしくは遺伝子名単位で算出される。後者は、各アリルを遺伝子名に翻訳することで可能となる。
【0034】
リードデータにV領域、D領域、J領域、C領域がアサインされたのち、一致するリードを集計し、ユニークリード(他に同じ配列をもたないリード)別に、試料中に検出されたリード数および全リード数に占める割合(頻度)を算出することができる。
【0035】
加えて、サンプル数、リード種類、リード数などのデータを使って、ESTIMATESあるいはR(vegan)などの統計解析ソフトウェアを用いて多様性指数あるいは類似性指数を算出することができる。好ましい実施形態では、TCRレパトア解析ソフトウェア(Repertoire Genesis Inc.)を用いる。
【0036】
本明細書において「BCR多様性」とは、ある被験体のB細胞受容体のレパートリー(レパトア)の多様性をいい、当業者は当該分野で公知の様々な手段を用いて測定することができる。BCR多様性を示す指数を「BCR多様性指数」という。BCR多様性指数としては、当該分野で公知の任意のものがあり、例えば、シャノン-ウィーバー指数(Shannon-Weaver index)、シンプソン指数(Simpson index)、逆シンプソン指数(Inverse Simpson index)、Pielou’s均等度指数、標準化シャノン-ウィーバー指数(Normalized Shannon-Weaver index)、DE指数(例えば、DE50指数、DE30指数、DE80指数)またはUnique指数(例えば、Unique50指数、Unique30指数、Unique80指数)などの多様性指数をBCRに適用したものが挙げられる。
【0037】
(大規模高効率BCRレパトア解析)
本開示の好ましい実施形態では、大規模高効率BCRレパトア解析を用いてBCRレパトアを測定する。本明細書において、「大規模高効率レパトア解析」とは、WO2015/075939(この文献の開示は本明細書においてその全体が必要に応じて参考として援用される。)に記載されており、対象がBCRの場合「大規模高効率BCRレパトア解析」と称する。大規模高効率レパトア解析では、データベースを用いて被験体のレパトア(Repertoire)(T細胞レセプター(TCR)またはB細胞レセプター(BCR)の可変領域)を定量的に解析する方法であり、この方法は、データベースを用いて被験体のT細胞レセプター(TCR)またはB細胞レセプター(BCR)の可変領域のレパトア(repertoire)を定量的に解析する方法であって、該方法は、(1)該被験者から非バイアス的に増幅した、T細胞レセプター(TCR)またはB細胞レセプター(BCR)の核酸配列を含む核酸試料を提供する工程;(2)該核酸試料に含まれる該核酸配列を決定する工程;および(3)決定された該核酸配列にもとづいて、各遺伝子の出現頻度またはその組み合わせを算出し、該被験体のTCRもしくはBCRレパトアを導出する工程を包含し、該核酸試料は、複数種類のT細胞レセプター(TCR)またはB細胞レセプター(BCR)の核酸配列を含み、該工程(2)は、共通アダプタープライマーを用いる単一の配列決定により前記核酸配列が決定される、方法によって実現することができ、好ましくは、この方法は、(1)該被験者から非バイアス的に増幅した、T細胞レセプター(TCR)またはB細胞レセプター(BCR)の核酸配列を含む核酸試料を提供する工程;(2)該核酸試料に含まれる該核酸配列を決定する工程;および(3)決定された該核酸配列にもとづいて、各遺伝子の出現頻度またはその組み合わせを算出し、該被験体のレパトアを導出する工程を包含し、前記(1)は、以下の工程(1-1)標的となる細胞に由来するRNA試料を鋳型として相補的DNAを合成する工程;(1-2)該相補的DNAを鋳型として二本鎖相補的DNAを合成する工程;(1-3)該二本鎖相補的DNAに共通アダプタープライマー配列を付加してアダプター付加二本鎖相補的DNAを合成する工程;(1-4)該アダプター付加二本鎖相補的DNAと、該共通アダプタープライマー配列からなる共通アダプタープライマーと、第1のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーとを用いて第1のPCR増幅反応を行う工程であって、該第1のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーは、該TCRまたはBCRの目的とするC領域に十分に特異的であり、かつ、他の遺伝子配列に相同性のない配列を含み、かつ、増幅された場合に下流にサブタイプ間に不一致塩基を含むよう設計される、工程;(1-5)(1-4)のPCR増幅産物と、該共通アダプタープライマーと、第2のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーとを用いて第2のPCR増幅反応を行う工程であって、該第2のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーは、該第1のTCRのC領域特異的プライマーの配列より下流の配列において該TCRまたはBCRのC領域に完全マッチの配列を有するが他の遺伝子配列に相同性のない配列を含み、かつ、増幅された場合に下流にサブタイプ間に不一致塩基を含むよう設計される、工程;および(1-6)(1-5)のPCR増幅産物と、該共通アダプタープライマーの核酸配列に第1の追加アダプター核酸配列を含む付加共通アダプタープライマーと、第2の追加アダプター核酸配列および分子同定(MID Tag)配列を第3のTCRまたはBCRのC領域特異的配列に付加したアダプター付の第3のTCRのC領域特異的プライマーとを用いて第3のPCR増幅反応を行う工程であって、該第3のTCRのC領域特異的プライマーは、該第2のTCRまたはBCRのC領域特異的プライマーの配列より下流の配列において該TCRまたはBCRのC領域に完全マッチの配列を有するが他の遺伝子配列に相同性のない配列を含み、かつ、増幅された場合に下流にサブタイプ間に不一致塩基を含むよう設計され、該第1の追加アダプター核酸配列は、DNA捕捉ビーズへの結合およびemPCR反応に適切な配列であり、該第2の追加アダプター核酸配列は、emPCR反応に適切な配列であり、該分子同定(MID Tag)配列は、増幅産物が同定できるように、ユニークさを付与するための配列である、工程を包含する。この方法の具体的な詳細はWO2015/075939に記載されており、当業者はこの文献および本明細書の実施例等を適宜参照して解析を実施することができる。
【0038】
(診断)
本開示の一実施形態において、対象におけるB細胞受容体(BCR)レパトアを、対象における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の指標とする方法が提供される。この方法は、対象がME/CFSを発症していることの診断を含む他、ME/CFSの発症予測または予後診断、あるいは、ME/CFSの治療剤開発時の指標を提供することを含み得る。方法は、インビトロまたはインシリコのものであってもよい。
【0039】
方法は、BCRレパトアに関連する変数を含む1つ以上の変数を用いることを含み得る。1つ以上の変数を用いてME/CFSの指標とする場合、例えば、当該1つ以上の変数を含む適切な式を用い、ある対象についてその式の値を算出し、かかる値を適切な基準と比較することなどによって行うことができる。式は、ロジスティック回帰等によって求められたものであってよい。用いられる変数として、対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度、対象におけるBCR多様性指数、および対象における1つ以上の免疫細胞亜集団量から選択される1つ以上の変数、または2つ以上の変数の組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
本開示の実施形態において、好ましくは、対象におけるBCRの1つ以上のIGH遺伝子の使用頻度を含む1つ以上の変数を、ME/CFSの指標として用い得る。これにより、当該1つ以上の変数を、対象が他の疾患ではなくME/CFSに罹患していることの指標として用いること(すなわち、鑑別診断)が可能となり得る。理論に拘束されることは望まないが、例えば、免疫細胞亜集団の量およびBCRレパトア多様性指数は、免疫状態全体に影響を与える他の疾患によっても変動し得るため、対象におけるME/CFSの存在を示唆し得るものではあるが、他の疾患であることを排除することができない可能性がある。一方で、IGH遺伝子の使用頻度は、何らかの疾患のメカニズムを反映して変化していると考えられるため、対象が他の疾患ではなくME/CFSに罹患していることの指標となり得、実臨床の診断において非常に有用であると考えられる。
【0041】
ME/CFSに対する「他の疾患」としては、ME/CFSの症状である「6か月以上続く説明困難な高度の疲労、労作後の極端な消耗、睡眠障害、認知機能障害を中核症状とし、起立不耐症、痛み、消化器症状、光や音、匂い、化学物質に対する過敏症など」に類似した症状を呈するあらゆる疾患の他、免疫状態に影響を与え得る任意の疾患が挙げられる。例えば、精神疾患(例えば、うつ病や適応障害、身体表現性障害)、原発性睡眠障害(例えば、睡眠時無呼吸、ナルコレプシー)、内分泌疾患(例えば、下垂体機能低下症、甲状腺疾患)、感染性疾患(例えば、AIDS、B型肝炎、C型肝炎などの慢性感染性疾患)、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群など)、炎症性疾患(例えば、炎症性腸疾患、慢性膵炎などの慢性炎症性疾患)、神経系疾患(例えば、多発性硬化症(MS)、自己免疫性脳炎)が挙げられる。本開示の実施形態において、対象において、ME/CFSを他の疾患と区別する方法が提供される。他の疾患の一例として、多発性硬化症(MS)が挙げられる。本明細書におけるME/CFSを他の疾患と区別する方法の実施において、必要に応じて、対象におけるB細胞受容体(BCR)レパトアを対象における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の指標とする方法について記載されている事項を適用してもよい。
【0042】
ME/CFSの診断は「臨床症状の組み合わせ」によって行われるが、その際、他疾患や他の原因の除外は非常に重要なプロセスである。生活習慣(不規則、過労等)によっても「臨床症状の組み合わせの基準」が満たされる場合があり、その他の原因、例えば悪性腫瘍、代謝性疾患および脳神経疾患等によっても臨床症状の基準が満たされ得る。そのため、本明細書の実施例で示されるように、疾患の原因を反映していると考えられるB細胞レパトアまたはその中の各遺伝子の使用頻度は臨床診断において非常に有用であると考えられる。例えば、臨床的診断プロトコルに、本明細書に記載のBCRレパトア(IGH遺伝子使用頻度)を用いた鑑別法を加えることでより正確な鑑別診断が可能になると考えられる。あるいは、本開示の方法において、必要に応じて、臨床的(臨床所見、MRI画像所見、脳脊髄液所見等)な情報を組み合わせて使用してもよい。1つの実施形態では、ME/CFSを含めた全身症状を呈する患者について、1つ1つの疾患に罹患している可能性を、それぞれIGH遺伝子の使用頻度を用いた判別モデルまたは判別式によって判定し、最終的に1つの疾患を特定することが可能である。
【0043】
本明細書において「感度」とは、陽性と判定されるべきものを正しく陽性と判定する確率をいい、感度が高いと偽陰性が減るという関係にある。感度が高いと除外診断(rule out)に有用である。
【0044】
本明細書において「特異度」とは、陰性のものを正しく陰性と判定する確率をいい、特異度が高いと偽陽性が減るという関係にある。特異度が高いと確定診断に有用である。
【0045】
本明細書において、「ROC曲線」とは、マーカーの回帰式に基づくカットオフ値を媒介変数として変化させた際の、(感度)および(1-特異度)をプロットした曲線を指す。ROC曲線について、当業者は、AUC(曲線下面積)を適切に求めることができる。ROC曲線のAUCは、予測モデルの性能を示しているものと考えられる。本明細書の実施例において、回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7、AUC≧0.8、およびAUC≧0.9といった高い予測性能を示す変数または変数の組合せが多数実証されている。AUCが7程度であれば、診断モデルとしての使用可能性があると考えられる。
【0046】
本開示において、対象においてME/CFSの指標として用いる1以上の変数であって、回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7を示す1以上の変数(必要に応じて、変数の組み合わせであり得る)を用いることによって、今まで診断が難しかったME/CFSの診断が可能になる。
【0047】
方法は、対象においてME/CFSの指標として用いる1以上の変数を取得する工程を含み得る。1つの実施形態において、変数を取得する工程は、対象の試料を分析する工程を含み得、例えば、対象におけるBCRのレパトアを測定する工程、および/または対象における細胞亜集団の量を測定する工程を含み得る。BCRのレパトアを測定する工程は、対象におけるBCR多様性を決定する工程、および/または対象のBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を決定する工程を含み得る。対象における細胞亜集団の量は、フローサイトメトリーを含めた当業者に公知の任意の手法によって測定してよい。また、変数として、以前に対象について決定された値についてのデータを取得することも可能である。
【0048】
方法は、本明細書に記載される1つ以上の変数に基づき、対象がME/CFSであるかを判定する工程を含み得る。判定する工程は、当該1つ以上の変数を含む関数の従属変数の値を、適切な閾値と比較することによって行ってよい。
【0049】
1つの実施形態において、本明細書に記載される方法はインシリコで行うことができる。方法は、対象のBCRレパトアに関連する変数を含む1つ以上の変数を取得する工程と、当該1つ以上の変数に基づき、当該対象がME/CFSであるかを判定する工程を含む。本明細書に記載される任意の方法を実装するプログラム、プログラムを記録した記憶媒体、またはシステムも、本開示の範囲内である。
【0050】
1つの実施形態において、1つ以上のプロセッサによって実行されると、プロセッサに、対象のBCRレパトアに関連する変数を含む1つ以上の変数を取得させ、当該1つ以上の変数に基づき、当該対象がME/CFSであるかを判定させる命令、を含むプログラム、またはそれを記録した記憶媒体が提供される。対象のBCRレパトアに関連する変数を含む1つ以上の変数の情報を記録するように構成された記録部と、かかる情報を取得し、当該対象がME/CFSであるかを判定するように構成された判定部とを備えた、システムも提供され得る。システムは、必要に応じて、コンピュータシステムであり得、本明細書において記載されるプログラムまたはそれを記録した記憶媒体を含み得る。
【0051】
(指標)
(IGH遺伝子)
本開示の1つの実施形態は、対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子(IGH遺伝子)の使用頻度を含む1つ以上の変数を、対象におけるME/CFSの指標とする方法を提供する。IGH遺伝子として、IGHV1-2、IGHV1-3、IGHV1-8、IGHV1-18、IGHV1-24、IGHV1-38-4、IGHV1-45、IGHV1-46、IGHV1-58、IGHV1-69、IGHV1-69-2、IGHV1-69D、IGHV1/OR15-1、IGHV1/OR15-5、IGHV1/OR15-9、IGHV1/OR21-1、IGHV2-5、IGHV2-26、IGHV2-70、IGHV2-70D、IGHV2/OR16-5、IGHV3-7、IGHV3-9、IGHV3-11、IGHV3-13、IGHV3-15、IGHV3-16、IGHV3-20、IGHV3-21、IGHV3-23、IGHV3-23D、IGHV3-25、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-30-5、IGHV3-33、IGHV3-35、IGHV3-38、IGHV3-38-3、IGHV3-43、IGHV3-43D、IGHV3-48、IGHV3-49、IGHV3-53、IGHV3-64、IGHV3-64D、IGHV3-66、IGHV3-72、IGHV3-73、IGHV3-74、IGHV3-NL1、IGHV3/OR15-7、IGHV3/OR16-6、IGHV3/OR16-8、IGHV3/OR16-9、IGHV3/OR16-10、IGHV3/OR16-12、IGHV3/OR16-13、IGHV4-4、IGHV4-28、IGHV4-30-2、IGHV4-30-4、IGHV4-31、IGHV4-34、IGHV4-38-2、IGHV4-39、IGHV4-59、IGHV4-61、IGHV4/OR15-8、IGHV5-10-1、IGHV5-51、IGHV6-1、IGHV7-4-1、IGHV7-81、IGHD1-1、IGHD1-7、IGHD1-14、IGHD1-20、IGHD1-26、IGHD1/OR15-1a/b、IGHD2-2、IGHD2-8、IGHD2-15、IGHD2-21、IGHD2/OR15-2a/b、IGHD3-3、IGHD3-9、IGHD3-10、IGHD3-16、IGHD3-22、IGHD3/OR15-3a/b、IGHD4-4、IGHD4-11、IGHD4-17、IGHD4-23、IGHD4/OR15-4a/b、IGHD5-5、IGHD5-12、IGHD5-18、IGHD5-24、IGHD5/OR15-5a/b、IGHD6-6、IGHD6-13、IGHD6-19、IGHD6-25、IGHD7-27、IGHJ1、IGHJ2、IGHJ3、IGHJ4、IGHJ5、IGHJ6、IGHG1、IGHG2、IGHG3、IGHG4、およびIGHGP、ならびにこれらの任意の組合せからなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子を用いることができる。
【0052】
本明細書の実施例において、種々のIGH遺伝子の使用頻度が、ME/CFSの指標となり得ることが示されている。本開示において、用いられる少なくとも1つのIGH遺伝子の数は特段制限されず、1~117遺伝子の任意の遺伝子数を用いることができる。本開示において指標として用いられる1つ以上の変数は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約15、約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、またはそれら超の数のIGH遺伝子の使用頻度を含み得る。適切な場合には、1つ以上の変数は1つの変数でもあり得る。
【0053】
1つの好ましい実施形態では、1つ以上のIGH遺伝子が、IGHV3-73、IGHV1-69-2、IGHV5-51、IGHV4-31、IGHV3-23D、IGHV1/OR15-9、IGHV4-39、IGHD5-12、IGHV3-43D、IGHD4-17、IGHV5-10-1、IGHD4/OR15-4a/b、IGHG4、IGHV1/OR15-5、IGHV3/OR16-9、IGHD1-7、IGHV3-21、IGHD6-6、IGHV3-33、IGHD4-23、IGHV3-30-5、IGHV3-23、IGHD6-13、IGHV3-64D、IGHV3-48、IGHV3-64、IGHG1、IGHV3-49、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHJ6、IGHV3-30、IGHGP、IGHV1-3およびIGHD3-22からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む。より好ましくは、1つ以上のIGH遺伝子が、IGHD6-6、IGHV3-33、IGHD4-23、IGHV3-30-5、IGHV3-23、IGHD6-13、IGHV3-64D、IGHV3-48、IGHV3-64、IGHG1、IGHV3-49、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHJ6、IGHV3-30、IGHGP、IGHV1-3およびIGHD3-22からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む。さらにより好ましくは、1つ以上のIGH遺伝子が、IGHV3-49、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHJ6、IGHV3-30、IGHGP、IGHV1-3およびIGHD3-22からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む。さらなる実施形態においては、1つ以上の遺伝子が、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-49、IGHD1-26、およびIGHJ6からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む。上述の遺伝子について、本明細書の実施例において、単独で予測に使用可能であることが示唆されている。
【0054】
本開示のさらなる実施形態では、1つ以上の変数として、対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における2つ以上の遺伝子の使用頻度を含む変数を用いる方法が提供される。2つ以上の遺伝子の使用頻度を用いることによって、方法の精度をさらに高めることができると考えられる。当業者は、本明細書の記載に鑑みて、適切な2つ以上の遺伝子の使用頻度の組合せを選択して用いることができる。1つ以上の変数は、回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7、AUC≧0.8、またはAUC≧0.9を示すように選択したものであってよい。遺伝子の組合せの一例としては、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-49、IGHD1-26、およびIGHJ6を挙げることができる。当業者は、ある遺伝子の組合せの、回帰分析によるROC曲線におけるAUCを、本願明細書に記載される方法に従って適切に算出することができ、ある遺伝子の組合せが所望のAUCを示すものであるかを判定することができる。回帰分析は、例えば、正常対照とME/CFSとの判別のためのものであり得る。
【0055】
本明細書の実施例においては、2種のIGH遺伝子の組合せについて、117遺伝子のいずれも、適切な他のIGH遺伝子と組み合わせた場合に、回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7を示す組み合わせを実現することができることが示されている。
【0056】
(多様性指数)
本開示において、対象における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断において、他の変数に換えてもしくは加えて、対象におけるBCR多様性指数を変数として用いることができる。
【0057】
BCR多様性指数としては、当該分野で公知の任意のものを利用することができ、例えば、シャノン-ウィーバー指数(Shannon-Weaver index)、シンプソン指数(Simpson index)、逆シンプソン指数(Inverse Simpson index)、Pielou’s均等度指数、標準化シャノン-ウィーバー指数(Normalized Shannon-Weaver index)、DE指数(例えば、DE50指数、DE30指数、DE80指数)などが挙げられる。
【0058】
本明細書の実施例3-2、表7において、いくつかの多様性指数が、単回帰分析において0.1≦P<0.2の有意性で抽出されている。また、本明細書の実施例6では、複数の変数の組み合わせにおいて、多様性指数を含むいくつかの変数の組み合わせが、ROC解析においてAUC値0.8以上を示すことが見出されている(表18)。
【0059】
(細胞亜集団)
本開示において、対象における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断において、他の変数に換えてもしくは加えて、細胞亜集団量を変数として用いることができる。細胞亜集団量としては、例えば、免疫細胞亜集団量を用いることができる。本明細書において、「細胞亜集団」とは、多様な特性の細胞を含む細胞集団中の、何らかの共通する特徴を有する任意の細胞の集合を指す。特定の名称が当技術分野で知られているものについては、かかる用語を用いて特定の細胞亜集団に言及することもでき、任意の性質(例えば、細胞表面マーカーの発現)を記載して特定の細胞亜集団に言及することもできる。
【0060】
細胞亜集団の例としては、例えば、B細胞、ナイーブB細胞、メモリーB細胞、プラズマブラスト、活性化ナイーブB細胞、トランジショナルB細胞、制御性T細胞、メモリーT細胞、follicular helper T細胞、Tfh1細胞、Tfh2細胞、Tfh17細胞、Th1細胞、Th2細胞、およびTh17細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
細胞亜集団の量は、当業者は、例えば、フローサイトメトリーによって決定することが可能である。例えば、サンプルを採取後、溶血法か比重遠心法にて赤血球を除いた後に蛍光標識抗体(目的とする抗原に対する抗体とそのコントロール抗体)と反応させ、十分に洗浄してからフローサイトメトリーを用いて観察することができる。検出された散乱光や蛍光は電気信号に変換されコンピュータにより解析される。その結果は、FSCの強さは細胞の大きさを表しSSCの強さは細胞内構造を表すことによりリンパ球、単球、顆粒球を区別することが可能である。その後、必要に応じて目的とする細胞集団にゲートをかけて、それらの細胞における抗原発現様式を検討する。本開示の方法の実施において、当業者は、示される細胞の表面マーカーを適切に識別して、細胞を分画または計数することが可能である。
【0062】
特に有用な細胞亜集団としては、B細胞および制御性T細胞(Treg)が挙げられる。本開示において、他の変数に加えてもしくは換えて、B細胞の量および/またはTregの量を含む1つ以上の変数を、ME/CFSの指標として用いることができる。
【0063】
細胞亜集団の量は、適切な基準に対する割合を用いることができる。B細胞の量は、例えば、末梢血単核球細胞におけるB細胞の頻度(%)である。Tregの量は、例えば、全CD4陽性T細胞におけるTregの頻度(%)である。
【0064】
本明細書の実施例3-2、表7において、いくつかの細胞亜集団変数が、単回帰分析において0.1≦P<0.2の有意性で抽出されている。また、本明細書の実施例6では、複数の変数の組み合わせにおいて、細胞亜集団変数を含むいくつかの変数の組み合わせが、ROC解析においてAUC値0.8以上を示すことが見出されている(表18)。
【0065】
(組み合わせ)
本明細書において示されるように、対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む1つ以上の変数を、対象におけるME/CFSの指標として用いることができる。1つ以上の変数は、本明細書に記載される変数の任意の組合せであり得る。好ましくは、対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度、対象におけるBCR多様性指数、および対象における1つ以上の免疫細胞亜集団量からなる群から選択される2つ以上の変数の組み合わせを含む。2つ以上の変数は、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上またはそれら超の任意の数の変数であり得る。
【0066】
本明細書の実施例において、多数の変数の組合せが、正常対照とME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線において高いAUCを示すことが実証されており、当業者は、適切に変数を組み合わせて、特定されるAUCを示す組み合わせを用いて実施することができる。1つの実施形態において、変数の組合せは、回帰分析によるROC曲線において、AUC≧0.7、AUC≧0.8、AUC≧0.85、AUC≧0.9、AUC≧0.95、またはAUC≧0.99を示し得る。当業者は、ある変数の組合せの、回帰分析によるROC曲線におけるAUCを、本願明細書に記載される方法に従って適切に算出することができ、ある変数の組合せが所望のAUCを示すものであるかを判定することができる。変数の組合せの一例としては、対象におけるIGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-49、IGHD1-26、およびIGHJ6の使用頻度と、B細胞の量との組合せ、あるいは、対象におけるIGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHV3-49、IGHD1-26、およびIGHJ6の使用頻度と、Tregの量との組合せなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
必須ではないが、単回帰分析によって予測性能が示された変数をさらに組み合わせることは、より高い予測性能に繋がり得る。本明細書の実施例において、単回帰分析で患者群と対照群の間でP<0.2の有意差を示した変数同士の組合せについて、2変数の組合せでは、組み合わせのうち46%がROC解析においてAUC≧0.7を示し、3変数を組み合わせた場合には、組み合わせのうち81%がROC解析においてAUC≧0.7を示し、4変数を組み合わせた場合には、組み合わせのうち96%がROC解析においてAUC≧0.7を示した。
【0068】
本開示において、対象が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることを診断するには、例えば、以下のような工程によって行い得る。筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に関して、BCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む複数の変数を提供することができる。次いで、当該変数について多変量解析を行って生成された判別式を提供することができる。判別式の提供は、例えば、変数について、患者/健常人の区分を目的変数として単変量または多変量ロジスティック回帰を行うことと、ロジスティック回帰において生成されたロジットモデル式の定数および偏回帰係数から、判別式の定数および係数を算出することと、当該処理で得られた定数および係数をもとに判別式を生成することとを含み得る。次いで、対象の変数の値を、判別式に当てはめてME/CFSに罹患している確率を算出することができる。ME/CFSに罹患している確率が、所定の値より高い場合に、対象がME/CFSに罹患していると決定することができる。
【0069】
より詳細に述べると、本開示において、対象が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることを診断するには、例えば、以下のような工程によって行い得る。方法において、変数の組合せを特定する。変数の組合せの特定は、(1)筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の患者および健常人を含む被験者について、該健常人と該ME/CFSの患者を比較し、有意な差が検出されたBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む複数の変数を提供すること、および/または(2)該BCRのIgGH鎖可変領域における1つの遺伝子を独立変数として単変量ロジスティック解析を行うか、または該BCRのIgGH鎖可変領域における2つ以上の遺伝子を独立変数として多変量ロジスティック解析を実施し、ロジスティック回帰モデル式を得、該ロジスティック回帰モデル式の適合度を測るROC解析を実施してより高いAUC値を示した遺伝子を判別式用の変数として選択することとを含み得る。
【0070】
次いで、判別式用の変数について多変量解析を行って生成された判別式を提供することができる。判別式の提供は、例えば、変数について、患者/健常人の区分を目的変数として単変量または多変量ロジスティック回帰を行うことと、ロジスティック回帰において生成されたロジットモデル式の定数および偏回帰係数から、判別式の定数および係数を算出することと、当該処理で得られた定数および係数をもとに判別式を生成することとを含み得る。次いで、対象の変数の値を、判別式に当てはめてME/CFSに罹患している確率を算出することができる。ME/CFSに罹患している確率が、所定の値より高い場合に、対象がME/CFSに罹患していると決定することができる。
【0071】
(鑑別診断)
本開示の実施形態において、対象において、ME/CFSを他の疾患と区別する方法が提供される。本開示の1つの実施形態においては、正常対照および他の疾患の患者を含む非ME/CFS群と、ME/CFS群との間で差が生じる指標(変数)を含む式を用いることで、鑑別診断を行う。この場合、例えば、健常人+MS疾患を非ME/CFS群として、ME/CFS群との鑑別に有効なIGH遺伝子を選択して含めた1つの判別式を用いることができる。本明細書の実施例におけるME/CFS群と非ME/CFS群間の有意差検定から、有意差のあるIGH遺伝子が挙げられており、1つ以上の変数として、IGHV3-49、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHV3-30、IGHJ6、IGHGP、IGHV4-31、IGHV3-64、IGHD3-22、IGHV3-33、IGHV3-73、IGHV5-10-1およびIGHV4-34からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の使用頻度を含む変数を使用することが可能である。
【0072】
あるいは、他の実施形態において、正常対照とME/CFS患者とを区別する判別式で判別したあと、その他の疾患(例えば、MS)と判別する判別式をそれぞれあてはめて他の疾患である可能性を否定していくといった形が想定される。この場合、本明細書に記載されるME/CFSを正常対照と区別する判別を行い、その後(あるいはその前または同時に)、さらに別の判別式を使用して他の疾患との鑑別を行う。すなわち、(a)1つ以上の変数のうちの一部を前記対象におけるME/CFSの指標とすることと、(b)1つ以上の変数のうちの一部を前記対象が他の疾患ではなくME/CFSであることの指標とすることとを含む、方法が提供され得る。他の疾患は多発性硬化症(MS)を含み得る。複数の他の疾患について(b)を複数回行ってもよい。
【0073】
本開示の1つの実施形態は、対象におけるBCRのIgGH鎖可変領域における1つ以上の遺伝子の使用頻度を含む1つ以上の変数を、対象が他の疾患(例えば、多発性硬化症、MS)ではなく筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることの指標とする、方法である。このような方法を、本明細書に記載されるME/CFSを正常対照と区別する判別を行うことと必要に応じて組み合わせて行い得る。ここで、MSとの区別を行うことが望まれる場合、1つ以上の遺伝子が、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHV3-49およびIGHJ6からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含み得る。その他、前記1つ以上の遺伝子として、MSとME/CFSとの判別のための回帰分析によるROC曲線においてAUC≧0.7、AUC≧0.8、またはAUC≧0.9を示すように選択したものであってよい。本開示において、MSとME/CFSとの判別のために用いられる少なくとも1つのIGH遺伝子の数は特段制限されず、1~117遺伝子の任意の遺伝子数を用いることができる。本開示において指標として用いられる1つ以上の変数は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約15、約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、またはそれら超の数のIGH遺伝子の使用頻度を含み得る。適切な場合には、1つ以上の変数は1つの変数でもあり得る。
【0074】
本明細書において「対象」とは、本開示の診断または検出等の対象となる任意の生物を指す。好ましくは、対象はヒトである。
【0075】
本明細書において「試料」とは、対象から得られた任意の物質をいい、例えば、末梢血、組織生検試料、細胞試料、リンパ液、唾液、尿等が含まれる。当業者は本明細書の記載をもとに適宜好ましい試料を選択することができる。
【0076】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0077】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0078】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0079】
本明細書の以下に記載される実施例において、適宜以下の略語が用いられる。
【0080】
【表A】
【0081】
[実施例1]
ME/CFS疾患患者末梢血単核球を用いた次世代B細胞受容体レパトア解析
1.材料と方法
1.1.末梢血単核球分離とRNA抽出
表1に示すME/CFS疾患患者(37例)および健常人対照者(23例)から10mLの全血をヘパリン含採血管に採取し、Ficoll-Paque PLUS密度勾配遠心分離により末梢血単核球細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cells、PBMCs)を分離した。単離したPBMCからRNeasy Lipid Tissue Mini Kit (Qiagen, Germany)を用いて、全RNAを抽出・精製した。RNAは、Agilent 2100バイオアナライザ(Agilent)を用いて定量した。
【0082】
【表1】
【0083】
1.2.相補的DNAおよび二本鎖相補的DNAの合成
BCR遺伝子の増幅はadaptor-ligation PCR法を用いて実施した。制限酵素消化部位含Oligo dTプライマー(BSL-18E: 表2)と逆転写酵素により相補鎖DNA(cDNA)を合成した。続いて、E.coli DNA Ligase(Invitrogen)、DNA polymerase I(Invitrogen)およびRNaseH(Invitrogen)を用い、二本鎖相補鎖DNA(ds-cDNA)合成を行った。その後、T4 DNA polymeraseによる5’末端平滑化反応を行い、制限酵素NotIで末端を切断した。MinElute Reaction Cleanup Kit(QIAGEN)を用いてカラム精製した後、P20EA/P10EAアダプターをT4 LigaseによるLigation反応にて付加し、アダプター付加ds-cDNAはNotI制限酵素により消化された。
【0084】
1.3.PCR
B細胞受容体(B cell receptor、BCR)の免疫グロブリンγ鎖(IgG)の重鎖(IGH)遺伝子を特異的に増幅するため、KAPA HiFi HS ReadyMix(日本ジェネティクス)によりサーマルサイクラー T100(Bio Rad)を用いNested PCRを3回行った。P20EAとCG1を用いて1st PCRを、続いてP20EAとCG2を用いて2nd PCR反応を行った。さらに、P22EA-ST1-RおよびCG-ST1-Rによりシーケンスに必要なTag配列を付加した。Agencourt AMPureビーズを用いて、残存プライマーの持ち込みを除去した後、Nextera XT Index Kit v2 Set A(Illumina)を用いてindexを付加した。
【0085】
【表2】
【0086】
1.4.次世代シーケンス解析
増幅産物は、Qubit(登録商標) 3.0フルオロメーター(Thermo Fisher Scientific)を用いて濃度測定し、4nMに希釈後、PhiX Control v3(Illumina)を一部混合して最終調製検体とした。Miseq Reagent Kit v3(600Cycle、Illumina)および最終調製検体をillumina社Miseqシーケンサでpaired-endシーケンスを行った。
【0087】
1.5.レパトア解析ソフトウェアによる解析
Miseqシーケンスにより獲得された1対のFastq塩基配列データセットを用いて、レパトア解析ソフトRepertoire Genesisにより、IGH遺伝子V領域配列(IGHV)、D領域配列(IGHD)、J領域配列(IGHJ)およびC領域配列(IGHC)の照合、およびCDR3配列を決定した。同一のIGHV、IGHD、IGHJ、IGHCおよびCDR3アミノ酸配列を持つリードをユニークリードとし、各サンプルにおけるユニークリードのコピー数をカウントした。ユニークリードの集計結果から、各サンプルのIGHV、IGHD、IGHJ、IGHC使用頻度、ならびに多様性指数を算出した。
【0088】
2.結果
ME/CFS疾患患者および健常人対照者試料より20万~30万リードのシーケンスデータを獲得した(表3)。全リード数、アサインリード、in-frameリード数およびユニークリード数はME/CFS疾患患者と健常対照者間で差が見られなかった。リードデータから算出されたIGHV、IGHD、IGHJ、IGHC使用頻度、ならびに多様性指数について、ME/CFS疾患患者と健常対照者間で比較した。IGHVに関し、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3およびIGHV3-49の使用頻度が、健常対照者に比較してME/CFS疾患患者で有意に高かった(図1、Mann-Whitney testの有意水準:P<0.05、P<0.05、P<0.001およびP<0.001)。IGHDに関してはIGHD1-26が、IGHJではIGHJ6が健常対照者に比しME/CFS疾患患者で有意に高い頻度を示した(図2、P<0.01およびP<0.05)。ドットプロットを図3Aおよび図3Bに示した。これらの結果は、次世代BCRレパトア解析により、IGHV1-3、IGHV3-30、IGHV3-30-3、IGHD1-26、IGHV3-49およびIGHJ6の使用頻度の測定が、有効なバイオマーカがないME/CFS疾患の鑑別に利用することができると示唆される(表4)。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
[実施例2]
ME/CFS疾患患者リンパ球のフローサイトメトリーによる比較検討
1.方法
[実施例1]で示した方法により末梢血単核球細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cells、PBMCs)を分離した。その後、各種蛍光色素標識モノクローナル抗体で染色し、フローサイトメーター(FACS Canto II および FACS Aria II flow cytometer (BD Biosciences))にて、以下のリンパ球亜分画の頻度を算出した。(%)B細胞:CD19+細胞/PBMC;ナイーブB細胞(nB):CD19+CD27-/CD19+細胞;メモリーB細胞(mBs),CD19+CD27+CD180+/CD19+;plasmablasts(PBs):CD19+CD27+CD180-CD38high/CD19+;transitional B細胞(TrB):CD19+CD27-CD24+Mito tracker green high/CD19+;メモリーCD4T細胞(mCD4T):CD3+CD4+CD127+CD45RA-/CD3+CD4+;濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh):CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5+/CD3+CD4+;ヘルパーT細胞1(Th1細胞):CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5-CXCR3+CCR6-/CD3+CD4+CD127+CD45RA-;ヘルパーT細胞2(Th2細胞):CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5-CXCR3-CCR6-/CD3+CD4+CD127+CD45RA-;ヘルパーT細胞17(Th17細胞):CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5-CXCR3-CCR6+/CD3+CD4+CD127+CD45RA-;濾胞性ヘルパーT細胞1(Tfh1細胞):CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5+CXCR3+CCR6-/CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5+;濾胞性ヘルパーT細胞2(Tfh2細胞):CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5+CXCR3-CCR6-/CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5+;濾胞性ヘルパーT細胞17(Tfh17細胞):CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5+CXCR3-CCR6+/CD3+CD4+CD127+CD45RA-CXCR5+;制御性T細胞 (Treg):CD3+CD4+CD45RA-CD127-CD25++/CD3+CD4+。得られた頻度について、ME/CFS疾患患者と健常人対象者間でMann Whitney U testを行い、2群間の有意差を検定した。p<0.05を統計学的有意とした。
【0092】
2.結果
図4図5および図6に示すように、疾患群において有意に(%)B細胞が高く、疾患群において有意に制御性T細胞(Treg)の頻度が低く、疾患群において有意に濾胞性ヘルパーT細胞17(Tfh17)の頻度が高かった。
【0093】
[実施例3-1]
2群間で有意な差が観察されたIGH遺伝子と細胞亜集団頻度データを利用したME/CFSの予測鑑別
1.方法
ME/CFS疾患患者(37例)および健常人対照者(23例)の2群間で有意な差が検出された6つのIGH遺伝子(表5)および細胞亜集団の頻度データである(%)B細胞、あるいは(%)制御性T細胞を加えて、ME/CFSの予測が可能かどうかの検討を行った。多変量ロジスティック解析をSPSSソフトウェア(IBM)、を用いて実施し、回帰式の従属変数の予測値を用いて受信者動作特性(Receiver Operating Characteristic、ROC)曲線を作出した。さらに、これら変数の予測判定の性能評価値としてROC曲線下面積(Area Under the Curve、AUC)値を求めた。
【0094】
2.結果
IGH遺伝子6変数と(%)B細胞ではAUC値が0.946と良好な評価が得られた(図7)。また、IGH遺伝子6変数と(%)制御性T細胞を用いた回帰式に基づいた解析ではAUC値が0.957と極めて良好な評価が得られた(図8)。
【0095】
【表5】
【0096】
[実施例3-2]
単回帰分析によるME/CFS疾患の予測性能の高いIGH遺伝子および細胞亜集団変数の抽出
1.方法
IGHV74種、IGHD32種、IGHJ6種、IGHC5種、多様性指数4種、細胞亜集団頻度データ15種のうち1種を独立変数として、ME/CFS疾患と健常人対照の2値変数を従属変数とする単回帰分析を実施した。使用した変数は表6に示す。有意水準P<0.05、0.05≦P<0.1、および0.1≦P<0.2を満たす変数を抽出した。単回帰およびロジスティック回帰分析はRのglm()、ROC解析はRパッケージのpROCを利用した。
【0097】
【表6】
【0098】
2.結果
IGHV74種、IGHD32種、IGHJ6種、IGHC5種、多様性指数4種、細胞亜集団データ15種の計136種の変数から、有意水準P<0.05を満たす変数としてIGH遺伝子8種、細胞亜集団変数2種の計8種が抽出された(表7)。0.05≦P<0.1を満たす変数は、IGH遺伝子10種、細胞亜集団頻度データ4種であった。0.1≦P<0.2を満たす変数は、IGH遺伝子16種、多様性指数3種、細胞亜集団変数2種であった。有意水準P<0.2を満たす変数については、単独でME/CFS疾患の予測に有効であることが示唆される。とりわけ、有意水準P<0.05を満たす変数は単独でもME/CFS疾患の予測に非常に有効であると示唆される(表8)。有意水準P<0.2を満たす変数は、多変数ロジスティック回帰分析による分析に用いた。
【0099】
なお、いくつかの変数単独について、ROC解析を行ったところそれぞれ、IGHV3-49:0.764、IGHV3-30-3:0.759、IGHD1-26:0.731、IGHJ6:0.672、IGHV3-30:0.693、IGHV1-3:0.659、B cell:0.771、Treg:0.817、Shannon:0.617、Inverse:0.636のAUC値が得られている。
【0100】
【表7】
【0101】
【表8】
【0102】
[実施例4]
2種のIGH遺伝子を用いたME/CFS疾患の予測鑑別
1.方法
IGHV74種、IGHD32種、IGHJ6種およびIGHC5種の計117種のIGH遺伝子から任意の2種のIGH遺伝子の組み合わせについて、多変量ロジスティック回帰分析を実施し、各回帰式の従属変数の予測値を用いてROC曲線を作成した。それらROC曲線についてME/CFS疾患の予測性能を示すAUC値を算出し、AUC値が0.7あるいは0.8以上を示したIGH遺伝子の組み合わせ、およびそれら組み合わせに使用されたIGH遺伝子リストを抽出した。ロジスティック回帰分析はRのglm()、ROC解析はRパッケージのpROCを利用した。
【0103】
2.結果
2種の任意のIGH遺伝子を用いたROC解析にて、AUC値が0.8、0.7以上を示したIGH遺伝子の組み合わせはそれぞれ30組、637組であった。2変数ロジスティック回帰およびROC解析によりAUC≧0.7を示す変数の組み合わせについて、表11に示す。また、それら組み合わせに使用されたIGH遺伝子は、AUC値が0.8以上のものは26遺伝子、0.7以上は117遺伝子であった(表9)。また、AUC値が0.8以上を示す30組の遺伝子組み合わせのうち10組(33%)は単回帰分析で有意性が示された変数同士の組み合わせであり、20組(67%)は片方が単回帰分析で有意性が示されたIGHであった(表10)。これらの結果は、IGH遺伝子を任意に組み合わせることでME/CFS患者の予測鑑別が可能であることを示している。
【0104】
【表9】
【0105】
【表10】
【0106】
【表11-1】
【0107】
【表11-2】
【0108】
【表11-3】
【0109】
【表11-4】
【0110】
【表11-5】
【0111】
【表11-6】
【0112】
【表11-7】
【0113】
【表11-8】
【0114】
【表11-9】
【0115】
【表11-10】
【0116】
【表11-11】
【0117】
[実施例5]
複数のIGH遺伝子を用いた多変量ロジスティック回帰分析
1.方法
IGHV74種、IGHD32種、IGHJ6種およびIGHC5種の計117種のIGH遺伝子から任意の2種以上のIGH遺伝子の組み合わせについて、多変量ロジスティック回帰分析を総当たりで実施した。得られた回帰式の従属変数の予測値を用いてROC曲線を作成し、AUC値を算出した。単回帰およびロジスティック回帰分析はRのglm()、ROC解析はRパッケージのpROCを利用した。
【0118】
2.結果
117種のIGHから任意の2変数を用いた多変量ロジスティック回帰分析およびROC分析では、AUC値が0.8以上を示したものは6,786組の組み合わせ総数のうち30組(0.44%)であった(表12)。この組み合わせに使用されたIGH遺伝子は26遺伝子であった(表13)。任意の3変数を用いた場合、AUC値が0.8以上を示したものは260,130組のうち4,469組(1.7%)、0.85以上は349組(0.13%)、0.9以上は4組(0.0015%)であった(表12)。また、これら組み合わせに使用されたIGH遺伝子はそれぞれ117遺伝子(100%)、102遺伝子(87%)、および6遺伝子(5.1%)であった(表13)。4変数を使用した場合は、AUC値0.9以上のものは3,264組(0.044%)、0.85以上は99,458組(1.4%)、0.8以上は489,529組(6.6%)に上った。4変数を使った場合、AUC0.8以上を示す組み合わせに117遺伝子すべてが少なくとも一つ使用されていた。ME/CFS疾患の予測鑑別に活用可能なIGH遺伝子は表14に示した。高い予測性能を示すと考えられるAUC値0.9以上の遺伝子の組み合わせについては表15および表16に示した。
【0119】
【表12】
【0120】
【表13】
【0121】
【表14-1】
【0122】
【表14-2】
【0123】
【表15】
【0124】
【表16-1】
【0125】
【表16-2】
【0126】
【表16-3】
【0127】
[実施例6]
変数の組合せによる多変量ロジスティック回帰分析
1.方法
単回帰分析により有意水準P<0.2を満たす46種の変数(IGH35種、細胞亜集団8種および多様性指数3種)を用いて、2変数、3変数および4変数の組み合わせによる多変量ロジスティック回帰分析を実施した。得られた回帰式の従属変数の予測値を用いてROC曲線を作成し、AUC値を算出した。単回帰およびロジスティック回帰分析はRのglm()、ROC解析はRパッケージのpROCを利用した。
【0128】
2.結果
選抜された46種の変数から任意の2変数を用いた多変量ロジスティック回帰分析およびROC分析によりAUC値が0.8以上のものは102組(9.9%)、0.7以上0.8未満のものは382組(36.9%)であった(表17)。また、3変数を使った場合、AUC値が0.9以上のものは85組(0.6%)、0.8以上0.9未満は3472組(22.9%)、0.7以上0.8未満のものは8826組(58.1%)であった。4変数を使った場合、AUC値が0.9以上のものは5330組(3.3%)、0.8以上0.9未満は63981組(39.2%)、0.7以上0.8未満のものは87291組(53.5%)であった。多くの変数を組み合わせることで、ME/CFS疾患の予測性能が向上すると考えられる。2変数でAUC値0.8以上を示した組み合わせを表18に、3変数でAUC値0.9以上の組み合わせを表19に示した。Tregとの組み合わせが上位を占め、変数にTregを用いることでより予測性能が高くなると推測された。
【0129】
【表17】
【0130】
【表18-1】
【0131】
【表18-2】
【0132】
【表18-3】
【0133】
【表18-4】
【0134】
【表19-1】
【0135】
【表19-2】
【0136】
【表19-3】
【0137】
なお、細胞亜集団変数同士の組合せでは、AUC最高値は0.87(Treg、Tfh17)であったが、細胞亜集団変数とIGH遺伝子とを組み合わせた場合、Treg+IGHV1-3、Treg+IGHV3-23、Treg+IGHGPにおいて、0.87を上回るAUC値が得られた。また、B細胞量について、Tregとの組み合わせた場合の最大値AUC=0.84よりも、IGHV3-49、IGHV3-30-3、IGHD1-26と組み合わせた場合に高いAUC値が得られた。細胞亜集団変数に特定のIGH遺伝子を加えて用いることで、細胞亜集団変数同士の組合せによって得られるものよりも高い予測性能を得ることが可能である。
【0138】
[実施例7]
ME/CFS疾患患者と他の疾患患者からの鑑別
1.方法
実施例1で実施した37例の筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)疾患患者試料に加え、新たに10例の多発性硬化症(MS)患者から全血を採取した。実施例1の1.材料と方法に記載の方法に従ってPBMCの分離とRNAの抽出を行った。次いで、相補鎖DNAおよび二本鎖相補的DNAの合成、PCRおよび次世代シーケンス解析を行った後に、レパトア解析ソフトウェアによって解析を行った。各サンプルのリードデータからIGH遺伝子V領域配列(IGHV)、D領域配列(IGHD)、J領域配列(IGHJ)およびC領域配列(IGHC)の照合とCDR3配列を決定した。各サンプルのユニークリード数の集計とIGHVの74種、IGHDの32種、IGHJの6種およびIGHCの5種について使用頻度を算出した。リードデータ、IGHV、IGHD、IGHJおよびIGHC使用頻度について、ME/CFSとMS群間でMann-Whiteney法で有意差検定を行った。ME/CFS患者とMS患者の使用頻度データを用いて、単回帰およびロジスティック回帰分析はRのglm、ROC解析はRパッケージのpROCを利用した。ROC解析は回帰式の従属変数の予測値を用いて受信者動作特性(ROC)曲線を作出した。これら変数の予測判定の性能評価値としてROC曲線下面積(AUC)値を求めた。
【0139】
2.結果
2-1.ME/CFS患者とMS患者間のIGH遺伝子使用頻度の差異
10例のMS患者試料より14万~28万リードのシーケンスデータを獲得した(表20)。全リード数、アサインリード、in-frameリード数およびユニークリード数はME/CFS患者とMS患者間で有意な差は見られなかった。その結果、IGHV3-7**、IGHV3-33*、IGHV3-73*、IGHV3-NL1*、IGHV4-28*、IGHV4-39*、IGHD4-17*、IGHD5-5*、およびIGHD5-18*においてME/CFS患者に比べMS患者の方が、IGH遺伝子使用頻度が有意に高かった(Mann-Whitney検定:*P<0.05、**P<0.01)。他方、IGHV3-23**およびIGHV3-23D*では、ME/CFS患者に比べMS患者の方が有意に低い使用頻度を示した(図9)。同様に、IGH遺伝子以外の変数である多様性指数(Shannon指数、逆Simpson指数、Pielou‘s指数、DE50指数)について、ME/CFS患者とMS患者間で差があるかどうかを調べた(図10)。いずれの多様性指数もME/CFS患者とMS患者間で有意な差は見られなかった。これらの結果から、多様性指数はME/CFS患者とMS患者との鑑別には有用ではない一方で、IGH遺伝子の使用頻度は疾患特異性を反映しており、鑑別に有効であることが示された。
【0140】
【表20】
【0141】
2-2.多変量ロジスティック解析を用いたME/CFS患者とMS患者間の鑑別
次に、ME/CFS患者とMS患者で有意な差が検出された上記11種のIGH遺伝子について、ME/CFS患者とMS患者を鑑別できるかどうかを、多変量ロジスティック解析を用いて検証した。11種のIGH遺伝子のうち任意の2種のIGH遺伝子、あるいは任意の3種のIGH遺伝子の使用頻度を利用してロジスティック回帰分析を行い、AUC値を算出した。AUC高値の組み合わせを予測性能が優れたIGH遺伝子の組み合わせとして列記した(表21および表22)。
【0142】
【表21】
【0143】
【表22】

健常人とME/CFS患者を鑑別できることが示されたIGH遺伝子の任意の2変数および3変数を用いて、ME/CFS患者とMS患者を鑑別できるかどうかを多変数ロジスティック解析にて調べた(表23~表30)。その結果、高い多変量ロジスティックモデル性能を示すAUC高値の組み合わせが多数獲得され、ME/CFS患者とMS患者を高い特異性と感度で予測できることが分かった。健常人とME/CFS患者間でp<0.2の有意差を示した35種のIGH遺伝子の任意の2変数を使った場合、48の組み合わせがAUC≧0.8を示し、任意の3変数を使った場合は21の組み合わせがAUC≧0.9を示した。また、健常人とME/CFS患者間でp<0.1の有意差を示した18種のIGH遺伝子の任意の2変数および3変数を使った場合は、それぞれ17の組み合わせ(AUC≧0.8)および21の組み合わせ(AUC≧0.875)が高値を示した。健常人とME/CFS患者間でp<0.05の有意差を示した8種のIGH遺伝子の任意の2変数および3変数を使った場合は、それぞれ7の組み合わせ(AUC≧0.8)および22の組み合わせ(AUC≧0.8)が高値を示した。実施例3-1において試験された6種のIGH遺伝子の任意の2変数および3変数を使った場合は、それぞれ1の組み合わせ(AUC≧0.7)および11の組み合わせ(AUC≧0.7)が高値を示した。以上の結果から、単独、あるいは複数のIGH遺伝子使用頻度を用いることでME/CFS患者とMS患者を高精度に鑑別できることが明らかになった。
【0144】
【表23-1】
【0145】
【表23-2】
【0146】
【表24】
【0147】
【表25】
【0148】
【表26】
【0149】
【表27】
【0150】
【表28】
【0151】
【表29】
【0152】
【表30】
【0153】
2-3.任意のIGH遺伝子を用いた多変量ロジスティック解析によるME/CFS患者とMS患者間の鑑別
IGHV74種、IGHD32種、IGHJ6種、IGHC5種の計117種のIGH遺伝子から任意の2種のIGHの組み合わせ(組み合わせ総数6786組)を用いて、多項ロジスティック解析を実施し、高い予測性能を示すAUC高値のものを選抜した(表31)。AUC≧0.9、AUC≧0.8およびAUC≧0.7を示した組み合わせは、それぞれ4組、252組および1879組であった。IGHD3-3およびIGHGPの2変数は最もAUCが高く、0.92を示した。次に、117種のIGH遺伝子から任意の3種のIGHの組み合わせ(組み合わせ総数260130組)を用いて、多項ロジスティック解析を実施し、高い予測性能を示すAUC高値のものを選抜した(表32)。
【0154】
【表31-1】
【0155】
【表31-2】
【0156】
【表32-1】
【0157】
【表32-2】
【0158】
2-4.ME/CFS患者と非ME/CFS患者の比較
ME/CFS患者を非ME/CFS患者から鑑別するIGH遺伝子を調べる目的で、健常人23例に10例のMS患者を加え非ME/CFS群とし、37例のME/CFS患者群とIGH遺伝子の指標頻度を比較した。2群間のMann-Whitney検定から、IGHV3-49(P=0.0013)、IGHV3-30-3(P=0.0022)、IGHD1-26(P=0.0053)、IGHV4-34(P=0.0118)、IGHV3-30(P=0.186)、IGHV4-31(P=0.0205)、IGHV3-64(P=0.0286)、IGHJ6(P=0.0304)、およびIGHD5-10-1(P=0.0373)の9種において、ME/CFS患者が非ME/CFS患者に比べ高いことが明らかになった。一方、IGHGP(P=0.0061)、IGHD3-22(P=0.0313)、IGHV3-33(P=0.0332)、およびIGHV3-73(P=0.0332)では有意に非ME/CFS患者群が高かった(表33、図11)。
【0159】
【表33】
【0160】
2-5.任意のIGH遺伝子を用いた多変量ロジスティック解析によるME/CFS患者と非ME/CFS患者間の鑑別
IGHV74種、IGHD32種、IGHJ6種、IGHC5種の計117種のIGH遺伝子から任意のIGHの2変数(組み合わせ総数6786組)を用いて多項ロジスティック回帰分析を行い、ME/CFS患者と非ME/CFS患者間の鑑別に高い予測性能を示すAUC高値のものを選抜した(表34)。また、3変数(組み合わせ総数260130組)を用いた場合のAUC高値を示すIGHも同様に選抜した(表35)。任意の2変数では、AUC≧0.8およびAUC≧0.7を示した組み合わせは、それぞれ5組および469組であった。任意の3変数を用いた場合は、AUC≧0.85およびAUC≧0.8を示した組み合わせは、それぞれ37組および1164組であった。2変数では、IGHGPおよびIGH3-30-3の組み合わせがAUC=0.820と最も高く、任意の3変数では、IGHGP、IGHV3-30およびIGHV3-49の組み合わせが最も高くAUC=0.889であった。
【0161】
【表34-1】
【0162】
【表34-2】
【0163】
【表35-1】
【0164】
【表35-2】
【0165】
3.ME/CFS鑑別診断のための予測判別モデル
診断時において、BCRレパトア解析から得られるIGH遺伝子の使用頻度データを用いてME/CFS患者を鑑別するための予測モデル式を作出した。2群間の有意差検定あるいは多項ロジスティック解析におけるAUC高値のIGH遺伝子の組み合わせを用いて、ロジスティック回帰式による判別モデルを作成した。鑑別診断の例を以下に示す。
【0166】
変数の組み合わせは、例えば、以下のように特定され得る。
(1)健常人とME/CFS患者を比較し、有意な差が検出された変数(例えば、BCRのIgGH鎖可変領域における遺伝子の使用頻度)を選択する;または
(2)1つの変数(例えば、BCRのIgGH鎖可変領域における1つの遺伝子)を独立変数として単変量ロジスティック解析を、または2つ以上の変数(例えば、2つ以上の遺伝子)を独立変数として多変量ロジスティック解析を実施し、ロジスティック回帰モデル式を得る。この回帰モデルの適合度を測るROC解析を実施してより高いAUC値を示した変数を選択する。
【0167】
変数の組み合わせが提供された場合、各変数(例えば、遺伝子の頻度データ)(x1, x2, x3,…)に対して、ME/CFS患者である(y=1)、あるいは健常人である(y=0)ことを目的変数として単変量あるいは多変量ロジスティック回帰分析を行う。(2)の場合は、複数の変数を使って総当たりでロジスティック解析を行う。
【0168】
ロジスティック回帰分析には、Rパッケージの一般化線形モデル用の関数であるglmを利用できるが、分析はこのパッケージに限定されない。ロジスティック回帰分析では、ME/CFSである確率をπとして以下のロジットモデル式が得られ、同時にb0の定数およびb1~bpに相当する偏回帰係数が求められる。すなわち、患者/健常人区分と変数(遺伝子頻度など)のデータセットを使用して、ロジットモデル式の係数を定めることができる。
【0169】
【数1】
【0170】
ME/CFSである確率πは定数および偏回帰係数が定まれば、以下の式で求めることができる。新たに頻度データが得られた場合にその値を入力することで判別予測することができる(0.5以上をME/CFSとして判別予測する等)。
【0171】
【数2】
【0172】
2ステップでは、ME/CFSと健常人を区別する判別式でME/CFSを予測し、さらにME/CFSとMSを区別する判別式でMS患者を除外するような予測方法が可能である。基本的には上記と同じロジットモデル式に頻度データを入力することでその確率を予測できる。
【0173】
3-1.1ステップ予測モデル
ME/CFSと非ME/CFS(健常人およびMS患者)を1つの判別式により予測する。下記のいずれかの例、または他の予測変数の組み合わせにより1ステップで判別する。
【0174】
【数3】
【0175】
3-2.2ステップ予測モデル
ME/CFSを健常人より判別式1により判別し、次にMSなどの他の疾患患者を判別式2により除外することでME/CFS患者を予測する。下記のいずれかの例、または他の予測変数の組み合わせにより2ステップで判別する。
1)ME/CFS患者と健常人の判別(判別式1)
【0176】
【数4】

2)ME/CFS患者からの他疾患(MS患者)の除外判別(判別式2)
【0177】
【数5】
【0178】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【0179】
(関連出願)
本出願は、2018年8月22日に出願された特願2018-155380号および2019年3月12日に出願された特願2019-44885号の優先権を主張する。これら出願の内容は、その全体が全ての目的のために本明細書において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本開示は、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断・診断薬において利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0181】
配列番号1:BSL18Eプライマー
配列番号2:P20EAプライマー
配列番号3:P10EAプライマー
配列番号4:CG1プライマー
配列番号5:CG2プライマー
配列番号6:P22EA-ST1-Rプライマー
配列番号7:CG-ST1-Rプライマー
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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