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特開2024-365841,2-ジフルオロエチレン又は1,1,2-トリフルオロエチレンと、フッ化水素とを含む共沸様組成物
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  • 特開-1,2-ジフルオロエチレン又は1,1,2-トリフルオロエチレンと、フッ化水素とを含む共沸様組成物 図1
  • 特開-1,2-ジフルオロエチレン又は1,1,2-トリフルオロエチレンと、フッ化水素とを含む共沸様組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036584
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】1,2-ジフルオロエチレン又は1,1,2-トリフルオロエチレンと、フッ化水素とを含む共沸様組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 21/18 20060101AFI20240308BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20240308BHJP
   C07C 19/12 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C07C21/18
C07C19/08
C07C19/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016852
(22)【出願日】2024-02-07
(62)【分割の表示】P 2021018300の分割
【原出願日】2020-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019012369
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019123244
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
(57)【要約】
【課題】新たな共沸様組成物、及び、それを用いた分離方法を提供する。
【解決手段】1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)とフッ化水素とを含む、共沸様組成物。1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)とフッ化水素とを含む、共沸様組成物。トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))及び1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)からなる群より選ばれる少なくとも
1種と、フッ化水素とを含む組成物の分離方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)とフッ化水素と追加的化合物とを含む共沸様組成物であって、
前記追加的化合物は、E-1-クロロ-2-フルオロエチレン(HCFO-1131(E))、Z-1-クロロ-2-フルオロエチレン(HCFO-1131(Z))、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-133a)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-123)及び1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記共沸様組成物全体100質量%に対して、前記追加的化合物を合計で0質量%より多く0.5質量%以下含有する、共沸様組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1,2-ジフルオロエチレン又は1,1,2-トリフルオロエチレンと、フッ化水素とを含む共沸様組成物、及び、当該組成物を利用したフッ化水素との分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)を含むことを特徴とする熱サイクル作動媒体が知られている。この作動媒体は、大気中のOHラジカルによって分解されやすい炭素-炭素二重結合を有するHFO-1132を含むため、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が少ない、と記載されている(特許文献1)。
また、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)の製造方法としては、1,1,1,2-テトラフルオロエタンの脱フッ化水素により製造することが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2012/157765号
【特許文献2】国際公開2009/010472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、新たな共沸様組成物、及び、それを用いた分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)とフッ化水素とを含む、共沸様組成物。
項2.前記HFO-1132がトランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))である、項1に記載の共沸様組成物。
項3.前記HFO-1132がシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))である、項1に記載の共沸様組成物。
項4.圧力185kPa~2480kPaにおいて、-40℃~40℃の沸点を持つ、項2に記載の共沸様組成物。
項5.圧力51kPa~1880kPaにおいて、-40℃~40℃の沸点を持つ、項3に記載の共沸様組成物。
項6.1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)とフッ化水素と、
1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、
フルオロメタン(HFC-41)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)及び1,1,2-トリ
フルオロエタン(HFC-143)からなる群より選ばれる少なくとも1種の追加的化合物と
を含む、項1~5のいずれか一項に記載の共沸様組成物。
項7.1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)とフッ化水素とを含む、共沸様組成物。項8.圧力249kPa~3480kPaにおいて、-40℃~40℃の沸点を持つ、項7に記載の共沸様組成物。
項9.工程(a)及び(b)を含み、必要に応じてさらに工程(c)を含む、
トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))及び1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物の分離方法:
(a)HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物を第1蒸留塔に供給する工程;
(b)HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む共沸様組成物を第1留出物とし、i)HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、ii)フッ化水素のいずれかが、供給した組成物よりも濃度的に富む組成物を、第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出す工程;
(c)第1留出物を第2蒸留塔に供給し、第1蒸留塔とは異なる圧力下において第2蒸留塔で蒸留する工程。
【発明の効果】
【0006】
本開示により、新たな共沸様組成物、及び、それを用いた分離方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】共沸様組成物を用いた分離方法の一例を示す図である。
図2】共沸様組成物を用いた分離方法の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、用語「共沸様組成物」は、共沸組成物と実質的に同様に取り扱うことができる組成物を意味する。具体的には、本明細書において、用語「共沸様組成物」は、実質的に単一物質として振る舞う2つ以上の物質の定沸点の、又は実質的に定沸点の混合物を意味する。共沸様組成物の特徴の一つとして、液体の蒸発又は蒸留によって発生した蒸気の組成が、液体の組成と実質的に変化しないことが挙げられる。すなわち、本明細書においては、ある混合物が、実質的な組成変化なしに沸騰、蒸留又は還流するとき、この混合物のことを、共沸様組成物と呼ぶ。具体的には、ある特定の温度での組成物のバブルポイント蒸気圧と、当該組成物の露点蒸気圧との差が3%以下(バブルポイント圧力を基準として)である場合に、当該組成物は共沸様組成物であると本開示では定義する。
【0009】
ここで、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)の製造方法としては、例えば、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)の脱フッ化水素により製造する方法がある。
本発明者は、従来の方法で得られたトランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))及び1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)は、フッ化水素を副生成物として含むため、その分離が必要であることに着目した。
本発明者は、これら目的物及びフッ化水素の組合せが共沸様組成物を形成すること、さらに、蒸留、抽出又は液液分離等の方法によって分離する場合にこれらの組成物が有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
1.組成物1
組成物1は、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)とフッ化水素(HF)とを含む、共沸様組成物である。
HFO-1132には、HFO-1132(E)及びHFO-1132(Z)の構造異性体が存在する。本明細書においては、特に断らない限り、HFO-1132は、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)からなるものを意味する。組成物1において、HFO-1132としては、HFO-1132(E)単独でも、HFO-1132(Z)単独でも、HFO-1132(E)とHFO-1132(Z)の混合物でも用いることができる。また、HFO-1132としては、HFO-1132(E)又はHFO-1132(Z)であることが好ましい。
組成物1は、分離を効率的に行う点から、HFO-1132とフッ化水素の合計100質量%に対して、HFO-1132を50質量%以上100質量%未満含むことが好ましく、80質量%以上100質量%未満含むことがより好ましい。
【0011】
組成物1は、40℃の場合、HFO-1132とフッ化水素の合計100質量%に対して、HFO-1132を99質量%以上100質量%未満含むときに、共沸様組成物となり;HFO-1132とフ
ッ化水素の合計100モル%に対して、HFO-1132を97モル%以上100モル%未満含むときに、共沸様組成物となる。
【0012】
また、HFO-1132がHFO-1132(E)の場合、組成物1は、圧力185kPa~2480kP
aにおいて、-40℃~40℃の沸点を持つことが好ましく;圧力279kPa~1850kPaにおいて、-30℃~30℃の沸点を持つことがより好ましい。
同様に、HFO-1132がHFO-1132(Z)の場合、組成物1は、圧力51kPa~1880kP
aにおいて、-40℃~40℃の沸点を持つことが好ましく;圧力83kPa~691kPaにおいて、-30℃~30℃の沸点を持つことがより好ましい。
組成物1は、上記の温度及び圧力の範囲で共沸様組成物となりうる。
なお、本明細書において、特に断らない限り、圧力は絶対圧を示す。
【0013】
組成物1は、HFO-1132とフッ化水素以外に、さらに追加的化合物を含んでもよい。
追加的化合物は、特に限定されず、組成物1が共沸様組成物となることを阻害しない範囲内で幅広く選択できる。追加的化合物は、一種であってもよいし、複数種であってもよい。
追加的化合物としては、追加的化合物1及び追加的化合物2が挙げられる。
追加的化合物1としては、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1,2-トリフルオ
ロエチレン(HFO-1123)、フルオロメタン(HFC-41)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)及び1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)が挙げられる。
追加的化合物2としては、例えば、E-1-クロロ-2-フルオロエチレン(HCFO-1131(E))
、Z-1-クロロ-2-フルオロエチレン(HCFO-1131(Z))、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-133a)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133
)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-123)、1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)等が挙げられる。
【0014】
上記追加的化合物としては、組成物とした場合に、より有用な点から、追加的化合物1が好ましい。つまり、上記追加的化合物としては、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a
)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、フルオロメタン(HFC-41)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)及び1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
追加的化合物として追加的化合物1を含む場合、その追加的化合物1の合計含有量は、組成物1全体を100質量%として、0質量%より多く15質量%以下が好ましく、0質量%より多く10質量%以下がより好ましい。
【0015】
また、追加的化合物として追加的化合物2を含む場合、その追加的化合物2の合計含有量は、組成物1全体を100質量%として、0質量%より多く1質量%以下が好ましく、0質量%より多く0.5質量%以下がより好ましく、0質量%より多く0.1質量%以下がさらに好ましい。
さらに、追加的化合物として、追加的化合物1と追加的化合物2の両方を含む場合、追加的化合物1は上記追加的化合物1の合計含有量を満たし、かつ、追加的化合物2は上記追加的化合物2の合計含有量を満たすことが好ましい。
【0016】
組成物1は、HFO-1132とHFとの混合物において、HFをHFO-1132から分離する共沸蒸留を行う際に重要な組成物となりうる。
例えば、HFO-1132とHFとを含む共沸様組成物を、HFO-1132とHFとを少なくとも含む組成物から共沸蒸留によって抜き出すことによって、HFをHFO-1132から分離することができる。
【0017】
共沸蒸留とは、共沸又は共沸様組成物が分離されるような条件下で蒸留塔を運転することにより目的物を濃縮乃至分離する方法である。共沸蒸留によって、分離対象成分のみを蒸留することができる場合もあるが、分離対象成分の1つ以上と共沸混合物を形成する別の成分を外部から添加した場合に初めて共沸蒸留が起こる場合もある。本明細書においては、前者及び後者のいずれも共沸蒸留という。
【0018】
2.組成物2
組成物2は、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)とフッ化水素(HF)とを含む、共沸様組成物である。
組成物2は、分離を効率的に行う点から、HFO-1123とフッ化水素の合計100質量%に対して、HFO-1123を50質量%以上100質量%未満含むことが好ましく、80質量%以上100質量%未満含むことがより好ましい。
【0019】
組成物2は、40℃の場合、HFO-1123とフッ化水素の合計100質量%に対して、HFO-1123を99質量%以上100質量%未満含むときに、共沸様組成物となり;HFO-1123とフッ化水素の合計100モル%に対して、HFO-1123を97モル%以上100モル%未満含むときに、共沸様組成物となる。
【0020】
また、組成物2は、圧力249kPa~3480kPaにおいて、-40℃~40℃の沸点を持つことが好ましく;圧力372kPa~2375kPaにおいて、-30℃~30℃の沸点を持つことがより好ましい。組成物2は、上記の温度及び圧力の範囲で共沸様組成物となりうる。
【0021】
組成物2は、HFO-1123とフッ化水素以外に、さらに追加的化合物を含んでもよい。
追加的化合物は、特に限定されず、組成物2が共沸様組成物となることを阻害しない範囲内で幅広く選択できる。追加的化合物は、一種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0022】
追加的化合物としては、例えば、E-1-クロロ-2-フルオロエチレン(HCFO-1131(E))、Z-1-クロロ-2-フルオロエチレン(HCFO-1131(Z))、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、フル
オロエタン(HFC-161)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、2-クロロ-1,1,1-トリ
フルオロエタン(HCFC-133a)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-123)、1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)等が挙げられる。
【0023】
追加的化合物の合計含有量は、組成物2が共沸様組成物となることを阻害しない範囲内で適宜選択することができる。
追加的化合物を含む場合、その合計含有量は、組成物2全体を100質量%として、0質量%より多く1質量%以下が好ましく、0質量%より多く0.5質量%以下がより好ましく、0質量%より多く0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0024】
組成物2は、HFO-1123とHFとの混合物において、HFをHFO-1123から分離する共沸蒸留を行う際に重要な組成物となりうる。
例えば、HFO-1123とHFとを含む共沸様組成物を、HFO-1123とHFとを少なくとも含む組成物から共沸蒸留によって抜き出すことによって、HFをHFO-1123から分離することができる。
【0025】
3.分離方法
本開示では、上記組成物を利用した各成分の分離方法も開示される。
本開示の分離方法は、工程(a)及び(b)を含み、必要に応じてさらに工程(c)を含む、
トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))及び1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物の分離方法である:
(a)HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物を第1蒸留塔に供給する工程;
(b)HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む共沸様組成物を第1留出物とし、i)HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、ii)フッ化水素のいずれかが、供給した組成物よりも濃度的に富む組成物を、第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出す工程;
(c)第1留出物を第2蒸留塔に供給し、第1蒸留塔とは異なる圧力下において第2蒸留塔で蒸留する工程。
【0026】
上記分離方法において、工程(a)において用いる出発組成物である、HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種とフッ化水素とを含む組成物は、HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種とフッ化水素のみからなる組成物であってもよいし、HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種とフッ化水素以外に他の成分をさらに含む組成物であってもよい。
【0027】
上記工程(b)において、供給した組成物から第1留出物が留出した後の組成物では、i)又はii)のいずれかの濃度が、供給した組成物における濃度よりも高くなる(組成物の全量とその組成が変化するため)。そして、このi)又はii)のいずれかが供給した組成物よりも濃度的に富む組成物を、第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出す。
【0028】
上記分離方法において、工程(c)は必須の工程ではなく、任意に行ってもよい工程である。上記分離方法は、上記工程(a)~(b)のみからなる方法でも、上記工程(a)~(c)のみからなる方法でも、上記工程(a)~(c)以外に他の工程をさらに含む方法でもよい。
また、上記第1及び第2蒸留塔のそれぞれの運転条件は、適宜設定できる。なお、第2蒸留塔の運転条件は、第1蒸留塔の運転条件とは異なるものにすることが、蒸留の効率等の点から好ましい。
【0029】
上記分離方法の一例を図1に示し、他の一例を図2に示す。
図1において、C1は第1蒸留塔を示し;S11からC1に組成物を供給し、S12から第1蒸留塔のボトム組成物を抜き出し、S13から第1留出物を得ることを示す。
図2において、C1は第1蒸留塔、C2は第2蒸留塔を示し;S11からC1に組成物を供給し
、S12から第1蒸留塔のボトム組成物を抜き出し、S13から得られた第1留出物をC2に供給し、S14から第2蒸留塔のボトム組成物を抜き出し、S15から第2留出物を得ることを示す。例えば、第2蒸留塔の運転圧力を第1蒸留塔とは変えることで、各蒸留塔での分離性を変えて、第1留出物中で分離できなかったHFを第2蒸留塔のボトム組成物として抜き出し、更に純度の高いHFO-1132及び/又はHFO-1123を第2留出物として得ることもできる。各蒸留塔での圧力範囲は、HFO-1132及びHFO-1123それぞれが共沸様組成物となる圧力範囲で任意に設定される。当該圧力範囲としては、HFO-1132(E)の場合185kPa~2480
kPaが、HFO-1132(Z)の場合51kPa~1880kPaが、HFO-1123の場合249k
Pa~3480kPaが好ましい。
【0030】
上記分離方法は、HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少な
くとも1種と、フッ化水素とを含む組成物を、HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とに分離する工程を含む、分離方法である。これは、HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)又はHFO-1123と、フッ化水素との共沸様組成物となる性質を利用して、蒸留分離するものである。
当該分離方法は、HFO-1132(E)とフッ化水素とを含む組成物を、HFO-1132(E)とフッ化水素とに分離する場合;HFO-1132(Z)とフッ化水素とを含む組成物を、HFO-1132(Z)とフッ化水素とに分離する場合;HFO-1123とフッ化水素とを含む組成物を、HFO-1123とフッ化水素とに分離する場合;に用いることが好ましい。
【0031】
共沸様組成物として共に抜き出された少量のHFは、一般的な他の方法(水による吸収)を併用して回収することで、ロスを最小限にし、設備の負担を小さくすることもできる。また、H2SO4による吸収や第3成分を添加した抽出や抽出蒸留等の、水を使わないHFの回
収方法を用いれば、各化合物、HFともに反応の原料として再利用することができる。抽出や抽出蒸留等を用いた場合、腐食性のH2SO4を用いた回収設備を極小化することができ、
設備コストを抑えることができる。
このように、本開示の分離方法によれば、効率的にフッ化水素を分離することができる。
【0032】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例0033】
以下に、実施例を挙げてさらに詳細に説明する。ただし、本開示は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)又はHFO-1123と、フッ化水素(HF)との混合物の、40℃での気液平衡データを表1~3に示す。なお、液相及び気相における各化合物の表中の数値単位はモル比率(液相及び気相それぞれにおいて、各化合物とHFの合計モル数を1とする)である。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
表1から、HFO-1132(E)とHFの組成物において、HFO-1132(E)が97モル%以上(99質量%以上)100モル%未満で共沸様組成物となることが示された。
表2から、HFO-1132(Z)とHFの組成物において、HFO-1132(Z)が97モル%以上(99質量%以上)100モル%未満で共沸様組成物となることが示された。
表3から、HFO-1123とHFの組成物において、HFO-1123が97モル%以上(99質量%以上)100モル%未満で共沸様組成物となることが示された。
このように、上記40℃での気液平衡データで、HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)、HFO-1123がそれぞれ、HFとの組成物において97モル%以上100モル%未満である場合は、40℃での当該組成物のバブルポイント蒸気圧と露点蒸気圧との差が3%以下である場合に対応し、共沸様組成物であることが示された。
以上から、HFO-1132(E)、HFO-1132(Z)及びHFO-1123はそれぞれ、HFと共沸様組成物を形成することが判明した。これらはHFとの分離を蒸留塔で行うにあたって、重要な組成物となる。
【0039】
HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)と、フッ化水素(HF)と、HFO-1132a、HFO-1123、HFC-41、HFC-134及びHFC-143からなる群より選ばれる少なくとも1種の追加的化合物とを
含む共沸様組成物は、HFO-1132(E)及び/又はHFO-1132(Z)と、HFと、当該追加的化合物とを分離する際に有用で好ましい組成物である。
また、HFO-1132(E)、HF及びHFO-1132aを含む組成物;HFO-1132(E)、HF及びHFO-1123を
含む組成物;HFO-1132(E)、HF及びHFC-41を含む組成物;HFO-1132(E)、HF及びHFC-134を
含む組成物;HFO-1132(E)、HF及びHFC-143を含む組成物において、特定の温度でのバブルポイント蒸気圧と露点蒸気圧との差が3%以下であった。
【0040】
実施例2:HFO-1132(E)とフッ化水素を分離する方法
図1に共沸様組成物を用いた分離方法の一例を示す。また、図1のS11、S12、S13にお
けるHFO-1132(E)とフッ化水素の流量を、表4に示す。なお、蒸留塔C1の運転圧力は1.01MPa、塔頂温度は7.9℃、塔底温度は98.1℃である。
S11より、HFO-1132(E)とフッ化水素の組成物を蒸留塔C1に供給する。S13より、HFO-1132(E)とフッ化水素の共沸様組成物が流出し、フッ化水素の濃度が低下したHFO-1132(E)が
得られる。S13において微量に残留したフッ化水素は、水洗、吸着、吸収等の方法で除去
することもできる。S12からは、実質的にフッ化水素のみが得られ、反応工程にリサイク
ルされる。
また、HFO-1132(Z)とHFの系、HFO-1123とHFの系についても、それぞれ同様に共沸蒸留
を行うことで両者を分離し、反応工程にリサイクルすることができる。
【0041】
【表4】
図1
図2