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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036617
(43)【公開日】2024-03-15
(54)【発明の名称】病原体検出方法およびキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20240308BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20240308BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017293
(22)【出願日】2024-02-07
(62)【分割の表示】P 2020015569の分割
【原出願日】2020-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(71)【出願人】
【識別番号】515281156
【氏名又は名称】日本テクノサービス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
(72)【発明者】
【氏名】二宮 健二
(72)【発明者】
【氏名】清水 則夫
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】望月 學
(72)【発明者】
【氏名】外丸 靖浩
(72)【発明者】
【氏名】中野 聡子
(72)【発明者】
【氏名】杉田 直
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇
(57)【要約】
【課題】単一の容器の中で組織片に含まれる病原体の核酸分離工程とPCR緩衝液の調製工程を同時に行う、簡便なPCR法による分析方法、および該分析方法に用いられるキットを提供すること。
【解決手段】下記(1)から(5)の工程を含む病原体の検出方法。
(1)病原体を含む組織片を、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液に添加し検体混合液を得る工程(1)
(2)前記検体混合液を、第1の温度で加熱する工程(2)
(3)さらに第2の温度で加熱する工程(3)
(4)前記工程(3)で得られた液の一部をDNAポリメラーゼおよび1種また
は2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加し、PCRを実行する工程(4)
(5)前記工程(4)で生成したPCR産物を検出する工程(5)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)から(5)の工程を含む病原体の検出方法。
(1)病原体を含む組織片を、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液に添加し検体混合液を得る工程(1)
(2)前記検体混合液を、第1の温度で加熱する工程(2)
(3)さらに第2の温度で加熱する工程(3)
(4)前記工程(3)で得られた液の一部をDNAポリメラーゼおよび1種また
は2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加し、PCRを実行する工程(4)
(5)前記工程(4)で生成したPCR産物を検出する工程(5)
【請求項2】
前記工程(2)の第1の温度が、37℃以上60℃以下である請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記工程(3)の第2の温度が、90℃以上95℃以下である請求項1に記載の検出方法。
【請求項4】
前記組織片が角膜または眼脂である請求項1に記載の検出方法。
【請求項5】
病原体が、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、アデノウイルス(ADV)、クラミジア、淋菌およびアカントアメーバからなる群より選ばれる、請求項1に記載の病原体の検出方法。
【請求項6】
前記タンパク質分解酵素がプロテイナーゼKである請求項1に記載の病原体の検出方法。
【請求項7】
前記工程(5)のPCR産物の測定がリアルタイムPCRで行われる請求項1に記載の病原体の検出方法。
【請求項8】
下記(1)および(2)を含む病原体の検出用キット。
(1)タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液を備えた検体採取容器
(2)DNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を備えた少なくとも1以上のPCR反応容器

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織片中に存在する病原体の検出方法に関する。また本発明は病原体の検出に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
病原体の増幅および検出に関する技術には、様々な方法が用いられている。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと称する場合がある)を利用するPCR法の他、転写-逆転写協奏反応(以下、TRCと称する場合がある)法、転写媒介性増幅(以下、TMAと称する場合がある)法、核酸配列ベース増幅(以下、NASBAと称する場合がある)法、ループ媒介性等温増幅(以下、LAMPと称する場合がある)法、スマート増幅プロセス(以下、SMAPと称する場合がある)法、等温キメラプライマー開始核酸増幅(以下、ICANと称する場合がある)法などが知られている。
【0003】
なかでもPCR法は、特定のDNA断片だけを選択的に増幅させることができること、極めて微量な検体溶液でも実施が可能なこと、増幅に要する時間が比較的短いこと、および、プロセスが単純で、例えば全自動の卓上用装置で増幅できること、等の利点から、広く研究や臨床に応用されている方法である。
【0004】
例えば、ぶどう膜炎の診断においても、PCR法が活用されている。ぶどう膜炎は眼内に炎症を起こす疾患の総称であり、重症例では、高率に失明などの視覚障害を引き起こす。しかし、感染性ぶどう膜炎と非感染性ぶどう膜炎との鑑別は、臨床所見のみでは困難である場合があり、診断の遅れまたは不適切な治療により症状が重篤化する症例が存在する。
【0005】
感染性ぶどう膜炎の原因となる病原体としては、ウイルス、細菌、真菌、原虫などが挙げられるが、ウイルスを原因とする感染性ぶどう膜炎の発症頻度が最も高い。これらの病原体を個別に検出するために、微量でかつ迅速なPCR法が利用されている。
【0006】
被験者から採取した生体試料中の病原体の有無や遺伝子型の検出をPCR法により行う際に用いられる、プライマー、DNAポリメラーゼ、プローブを同一容器に収容したキットが知られている(例えば、特許文献1)。このようなキットを用いることで、生体試料から精製した核酸を当該容器に分注することで簡便かつ迅速にPCR法を行うことができる。
【0007】
しかしながら、被験者から採取した生体試料には酵素反応を阻害する物質が多量に存在している。この酵素反応を阻害する物質はPCRを阻害するため、事前に酵素反応を阻害する物質を除く必要がある。PCR法により病原体の検出を行うためには、生体試料中の酵素反応を阻害する物質を除いたり、生体試料中のDNAを精製したりする前処理が必要であった。
【0008】
上記前処理を行う煩雑さを低減させ、生体試料の前処理なしでもPCRが阻害されず、PCR法により病原体の検出を可能とする技術として、Ampdirect(登録商標)技術も知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6082141号公報
【非特許文献1】Ann Clin Biochem 37,674-680 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記方法は通常、病原体が血液や体液等、液体中に存在する場合に適用される。一方、角膜炎のように角膜のような組織片中に病原体が存在している場合、検体試料は組織片と一緒に採取される。したがって、組織片中の病原体をPCR法により分析するためには、まず組織片から病原体の核酸を分離する必要がある。
【0011】
組織片から病原体の核酸を分離する方法として、組織片の主成分はタンパク質であることからタンパク質を分解するタンパク質分解酵素、たとえばプロテイナーゼKを含む緩衝液に組織片を添加し、組織片のタンパク質を消化する方法が知られている。しかしながらタンパク質分解酵素はタンパク質を分解すると同時にDNAポリメラーゼも分解するため、タンパク質分解酵素とDNAポリメラーゼとを共存させることはできない。またPCRを実施する前にタンパク質分解酵素を失活させる必要があるが、DNAポリメラーゼが共存しているとDNAポリメラーゼも失活してしまう可能性がある。
【0012】
したがってタンパク質分解酵素とDNAポリメラーゼとは別々の反応器に入れておく必要があり、上記の方法のようにDNAポリメラーゼを含むPCR緩衝液に直接検体試料である組織片を添加しPCR法による病原体の核酸の分析を行うことはできない。
【0013】
また、組織片をタンパク質分解酵素で分解して病原体の核酸を分離し、その後タンパク質分解酵素を失活させ、失活させた緩衝液を、DNAポリメラーゼを含むPCR緩衝液に添加するが、タンパク質分解酵素を含む緩衝液とDNAポリメラーゼを含むPCR緩衝液とは組成が異なるため、添加後のDNAポリメラーゼを含むPCR緩衝液の組成に変化が生じ、後のPCRが上手く進行しない場合がある。
そのため、DNAポリメラーゼを含むPCR緩衝液への添加量は限られ、病原体の核酸量を増やすためには、検体試料として使用する試験片の量を増やしたりする必要がある。
【0014】
本発明の目的は、組織片から病原体の核酸を分離するために使用するタンパク質分解酵素を含む緩衝液と、PCR緩衝液を別々にせず共通化し(PCR緩衝液にタンパク質分解酵素を入れる)、単一の容器の中で組織片中の病原体の核酸分離工程とPCR緩衝液の調製工程を同時に行うことで、簡便にPCR法により組織片に含まれる病原体の核酸を簡便に分析する分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、下記(1)から(5)の工程を含む病原体の検出方法に関する。
(1)病原体を含む組織片を、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液に添加し検体混合液を得る工程(1)
(2)前記検体混合液を、第1の温度で加熱する工程(2)
(3)さらに第2の温度で加熱する工程(3)
(4)前記工程(3)で得られた液の一部をDNAポリメラーゼおよび1種また
は2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加し、PCRを実行する工程(4)
(5)前記工程(4)で生成したPCR産物を検出する工程(5)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単一の容器の中で組織片に含まれる病原体の核酸分離工程とPCR緩衝液の調製工程を同時に行う、簡便なPCR法による分析方法、および該分析方法に用いられるキットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法は病原体を含む組織片に適用される。組織片とは、角膜または眼脂である。
【0018】
また病原体とは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、アデノウイルス(ADV)、クラミジア、淋菌およびアカントアメーバからなる群より選ばれる。
【0019】
上記病原体を含む組織片を綿棒等で擦り採り、擦り採った病原体を含む組織片をPCR緩衝液およびタンパク質分解酵素を含む液(以下、前処理溶液と称する場合がある、DNAポリメラーゼは含まない)へ添加する(以下、工程(1)と称する場合がある)。病原体を含む組織片が付着した綿棒等を上記前処理用液内へ浸すことにより、病原体を含む組織片を前処理溶液に添加することができる。
【0020】
PCR緩衝液の組成は、KCl、MgCl2およびdNTPミックス(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)を含むトリス緩衝液である。
KClの濃度範囲は好ましくは35~75mM、より好ましくは約50mM程度である。MgCl2の濃度範囲は好ましくは1~4mM、より好ましくは約1.5mM程度である。dNTPミックスに含まれるdATP、dGTP、dCTPおよびdTTPの濃度範囲はそれぞれ、好ましくは50~500μMであり、より好ましくは約200μMである。
【0021】
病原体を含む組織片の添加量は好ましくは0.5mg~5mgであり、より好ましくは0.5mg~3mgであり、さらに好ましくは約1mg程度である。
【0022】
上記工程(1)により得られた検体混合液を第1の温度で加熱する(以下工程(2)と称する場合がある)。第1の温度で加熱することによりタンパク質分解酵素によりタンパク質が分解される。タンパク質を効率的に分解する観点から第1の温度は 37℃以上 60℃以下が好ましい。
【0023】
工程(2)は、組織片のタンパク質がほぼ完全に分解するまで行えばよく、例えば、30分から60分程度が好ましい。
【0024】
工程(2)の後、上記第1の温度で加熱された液を、さらに第2の温度で加熱する(以下、工程(3)と称する場合がある)。第2の温度で加熱することによりタンパク質分解酵素が失活する。タンパク質分解酵素を効率的に失活する観点から第2の温度は 90℃以上 95℃以下が好ましい。
【0025】
工程(3)は、タンパク質分解酵素がほぼ完全に失活するまで行えばよく、例えば、5分から10分程度が好ましい。
【0026】
工程(3)で第2の温度で加熱された液の一部は、別途用意されたDNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加され、PCR反応が実行される(以下、工程(4)と称する場合がある)。
【0027】
上記工程(4)により被検体である病原体のDNAが増幅される。前記DNAポリメラーゼは、好熱性細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼであり、例えば、Taq、Tth、KOD、Pfuおよびこれらの変異体が挙げられる。DNAポリメラーゼによる非特異的増幅を避けるという観点から、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用してもよい。ホットスタートDNAポリメラーゼとしては、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼまたは酵素活性部位を熱感受性化学修飾したDNAポリメラーゼが挙げられ、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼが好ましい。
【0028】
複数の病原体のDNAを同時に検出できるという観点から、1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を2以上用意し、前記工程(3)で得られたタンパク質分解酵素を失活した液の一部をそれぞれのPCR反応用固体組成物に添加する方法が好ましい。例えば前記工程(3)で得られたタンパク質分解酵素を失活した液を、PCRプライマー対を含む複数のPCR反応用固体組成物に添加し、PCRを行うことにより、複数の病原体のDNAを同時に検出することができる。
【0029】
工程(4)で用いられるPCRプライマー対の例として、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、アデノウイルス(ADV)、クラミジア、淋菌およびアカントアメーバを検出するためのPCRプライマー対が挙げられる。
【0030】
上記PCR反応用固体組成物は2種以上を組み合わせたPCRプライマーを含んでいてもよい。これにより、一つのPCR反応用個体組成物で2種以上の病原体のDNAを検出することができる。検出の迅速性の観点から、2種以上のPCRプライマー対を組み合わせたPCR反応用固体組成物を用いることが好ましい。
【0031】
検体量を節約し、複数の病原体のDNAを同時に増幅する方法としてマルチプレックスPCRが提案されている(Sugita S, et al. Br J Ophthalmol. 2008;92:928-932.およびSugita S, et al. Ophthalmology. 2013;120:1761-1768.)。マルチプレックスPCRは、ひとつのPCR反応系において複数のPCRプライマー対を使用することにより、複数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。この方法では、検体量の節約ができることに加えて、複数の病原体を同時に検出することができるという利点がある。しかしながら、PCRを実施する前に、検体から核酸を抽出する必要がある。また、マルチプレックスPCRにおいては、それぞれのPCRプライマー対による標的遺伝子領域の増幅が、ひとつのPCR反応系において良好に進行するように、使用するプライマーの設定および反応条件の検討が必要である。
【0032】
上記工程(4)で用いられるPCR反応用固体組成物は、通常、凍結乾燥により調製されるが、これら固体組成物に含まれる酵素などの活性が維持される限りにおいて、凍結乾燥に限定されない。固体組成物とすることにより、前記工程(3)で得られたタンパク質分解酵素を失活させた液を添加するだけで、PCRを開始することができるので、測定操作が簡便なものとなる。また、使用する前の保管も簡易なものとなる。
【0033】
上記工程(4)におけるPCR反応用固体組成物は、PCR増幅産物を蛍光検出するための1種または2種以上の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含むことが、検出精度の観点から好ましい。PCR反応用固体組成物が1種のPCRプライマー対を含む場合には、後述するようなリアルタイム測定するための蛍光色素は1種類でよいが、2種以上のPCRプライマー対を含む場合は、2種以上の異なる蛍光色素が必要となる。この蛍光色素の例としては、6-carboxyfluorescein(以下、FAMと称する場合がある)、6-carboxy-X-rhodamine(以下、ROXと称する場合がある)、Cyanine系色素(以下、Cy5と称する場合がある)および4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxyfluorescein(以下、HEXと称する場合がある)が挙げられる。オリゴヌクレオチドプローブの塩基配列は、PCR増幅産物の配列データーベース(GenBank等)の塩基配列情報に基づいて適宜、設計することができる。
【0034】
上述したPCR反応用固体組成物に、工程(3)で得られた第2の温度で加熱された液を添加すると、PCR反応用固体組成物が溶解し、サーマルサイクリングを行うことでPCRが進行する。PCR条件(温度、時間およびサイクル数)の設定は、想定される病原体のDNAの種類等により、適宜設定される。PCRが進行し病原体のDNAが工程(3)で得られた第2の温度で加熱された液に入っていれば、後述のPCR産物を検出する工程で陽性の結果が得られ、疾患の診断や、疾患の発症リスクの判定などが行われる。
【0035】
前記工程(4)の結果生成したPCR産物を検出する(以下、工程(5)と称する場合がある)。
PCR産物を検出する方法は、例えば、アガロースゲルを用いた電気泳動法、熱融解曲線による検出、蛍光検出等の方法が挙げられる。また検出の迅速性の観点からリアルタイム測定と呼ばれる検出方法が好ましい。
【0036】
PCR産物のリアルタイム測定は、リアルタイムPCRとも呼ばれる。リアルタイムPCRでは、通常PCR増幅産物を蛍光により検出する。蛍光検出方法には、インターカレーター性蛍光色素を用いる方法および蛍光標識プローブを用いる方法がある。インターカレーター性蛍光色素の例は、SYBR(登録商標)Green Iが挙げられる。インターカレーター性蛍光色素は、PCRによって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、PCR増幅産物の生成量を測定することができる。
【0037】
蛍光標識プローブとしては、加水分解プローブ、Molecular Beacon、サイクリングプローブなどが挙げられる。加水分解プローブは、5'末端が蛍光色素で、また3'末端がクエンチャー物質で修飾されたオリゴヌクレオチドである。加水分解プローブは、PCRのアニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。その後の伸長反応ステップで、例えば、Taq DNAポリメラーゼのもつ5'→3'エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型DNAにハイブリダイズした加水分解プローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる蛍光の発生の抑制が解除されて蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、増幅産物の生成量を測定することができる。
【0038】
前記蛍光色素の例としては、上述した蛍光色素と同様な蛍光色素が挙げられる。前記クエンチャーの例としては、TAMRA(登録商標)、Black Hole Quencher(BHQ、登録商標)1、BHQ2、MGB-Eclipse(登録商標)およびDABCYLなどが挙げられる。2種以上の標的核酸を区別して検出するためには、それぞれ異なる蛍光色素で標識した2種以上のオリゴヌクレオチドプローブ(例えば加水分解プローブ)を用いてPCRを行うことが、検出精度の観点から好ましい。
【0039】
PCR産物のリアルタイム測定の場合、使用する蛍光色素に対応した蛍光フィルターを用いてPCR産物の増幅曲線をモニターすることで、PCRの進行状況をリアルタイムで確認することができる。PCRサイクル数に応じて蛍光強度が増加する場合には、病原体のDNAの存在が陽性であると判定され、一方、PCRにおいて蛍光強度が増加しない場合は陰性であると判定される。
【0040】
PCR法の場合、試薬の入れ間違いなどのヒューマンエラーが生じる可能性が高くなり、誤った検出結果を与えることが指摘されている。ヒューマンエラー以外にも、以前に行った核酸増幅反応の増幅産物が、新たに行う核酸増幅反応の容器内に混入する(コンタミネーション)ことにより、偽陽性等が生じる場合がある。
【0041】
また核酸の増幅および検出を行うとき、実際には陽性であるにもかかわらず、何らかの原因で陰性の結果(偽陰性)が出る場合がある。このような偽陰性の結果は本来検出すべき核酸が検出されていないということから、偽陰性をできるだけ防止する必要がある。
【0042】
上記偽陽性や偽陰性を防止する観点から、本発明の病原体の検出方法において、前記工程(3)で得られた液の一部を、DNAポリメラーゼ、陽性コントロール核酸およびPCR反応コントロール核酸を含むPCRコントロール用固体組成物に添加し、PCRを実行する工程(以下、工程(6)と称する場合がある)、および前記工程(6)で生成したPCR産物を検出する工程(以下、工程(7)と称する場合がある)をさらに含むことが好ましい。
【0043】
上記工程(6)で用いる陽性コントロール核酸は、被検病原体の定量(絶対定量や相対定量)にも有用である。絶対定量に用いる場合は、例えば、既知濃度の陽性コントロール核酸の測定結果に基づいて検量線を作成することにより、未知濃度の病原体の定量を精度よく行うことができる。また、相対定量に用いる場合は、例えば、一定濃度に達するまでに要するサイクル数を、陽性コントロール核酸と被検病原体の間で比較し、1サイクルで2倍に増幅するPCR原理に基づいて、相対的な濃度差を算出することもできる。
【0044】
上記陽性コントロール核酸は被検病原体から、予め抽出、増幅させたものでもよいし、別途、異なる生物種から抽出したものでもよい。また陽性コントロール核酸は人工的に合成した核酸であってもよい。
【0045】
上記陽性コントロール核酸は、検体病原体に含まれていると考えられる核酸が好ましく、ハウスキーピング遺伝子が上記効果の観点からより好ましい。
ハウスキーピング遺伝子としては、TATA-binding protein(以下、TBPと称する場合がある)遺伝子、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(以下、GAPDHと称する場合がある)遺伝子、β-アクチン遺伝子、β2-マイクログロブリン遺伝子、hypoxanthine phosphoribosyl transferase 1(以下、HPRT 1と称する場合がある)、18SrRNA遺伝子、5-aminolevulinate synthase(以下、ALASと称する場合がある)遺伝子、βグロンビン(β-globin)遺伝子、Glucose-6-phosphate dehydrogenase(以下、G6PDと称する場合がある)遺伝子、β-glucuronidase(以下、GUSBと称する場合がある)遺伝子、importin8(以下、IPO8と称する場合がある)遺伝子、porphobilinogen deaminase(以下、PBGDと称する場合がある)遺伝子、phosphoglycerate kinase 1(以下、PGK1と称する場合がある)遺伝子、peptidylprolyl isomerase A(以下、PPIAと)遺伝子、ribosomal protein L13a(以下、RPL13Aと称する場合がある)遺伝子、ribosomal protein large P0(以下、RPLP0と称する場合がある)遺伝子、succinate dehydrogenase subunit A(以下、SDHAと称する場合がある)遺伝子、transferrin receptor(以下、TFRCと称する場合がある)遺伝子、3-monooxygenase/tryptophan 5-monooxygenase activationprotein, zeta(以下、YWHAZと称する場合が)遺伝子などが挙げられる。
【0046】
上記工程(6)で用いられるPCR反応コントロール核酸は、陽性の増幅曲線を示すことで分析が正しく行われた、すなわち、被検病原体が上記PCR反応用固体組成物に正しく添加されたことを示す指標となる。
PCR反応コントロール核酸は被検病原体から、予め抽出、増幅させたものでもよいし、別途、異なる生物種から抽出したものでもよい。またPCR反応コントロール核酸は人工的に合成した核酸であってもよい。
【0047】
上記PCRコントロール核酸は、被検病原体に含まれている核酸が好ましく、ハウスキーピング遺伝子が上記効果の観点からより好ましい。
ハウスキーピング遺伝子としては、上記陽性コントロール核酸と同じ核酸が例示できるが、陽性コントロール核酸とは異なる核酸を用いるのが、被検病原体が正しくPCR反応用固体組成物に添加されたことを確認するという観点から好ましい。
【0048】
上記工程(6)で用いられるPCRコントロール用固体組成物は上述のPCR個体組成物と同様に、凍結乾燥により調製されるが、これら固体組成物に含まれる酵素などの活性が維持される限りにおいて、凍結乾燥に限定されない。固体組成物とすることにより、前記工程(3)で得られたタンパク質分解酵素を失活させた液を添加するだけで、PCRを開始することができるので、測定操作が簡便なものとなる。また、使用する前の保管も簡易なものとなる。
【0049】
上記工程(7)でPCR産物を検出する方法は、上記工程(5)と同様、例えば、アガロースゲルを用いた電気泳動法、熱融解曲線による検出、蛍光検出等の方法が挙げられる。
また検出の迅速性の観点からリアルタイム測定と呼ばれる検出方法が好ましい。工程(5)と工程(7)のPCR産物を検出する方法は同じであることが、操作の簡略化から好ましい。
【0050】
たとえば工程(5)、工程(7)ともリアルタイムPCRで行った場合、PCRサイクル数に応じて上記陽性コントロール核酸の蛍光強度が増加すれば、病原体が間違いなく工程(4)に供されていると判断される。
またPCRサイクル数に応じて上記PCR反応コントロール核酸の蛍光強度が増加すれば、病原体が間違いなく工程(4)に供されているとともに、DNAポリメラーゼおよびPCRプライマー対が正常に働いていると判断できる。したがって、病原体の存在が陰性であるとの判定の信頼性が向上する。
【0051】
検出精度の観点から、陽性コントロール核酸とPCR反応コントロール核酸の組み合わせとして、GAPDHおよびTBPの組み合わせが好ましい。GAPDHは、ハウスキーピング遺伝子として、多くの組織や細胞中に共通して一定量発現する遺伝子であり、PCRの進行を確認する陽性コントロールとして使用する。TBPは、TATAボックスと呼ばれるDNA配列に結合する基本転写因子であり、細胞数を反映するので、細胞が採取され、検体に含まれることを確認するPCR反応コントロールとして使用する。
【0052】
上記検出方法を効率的に行うために、本発明はさらに、下記(1)および(2)を含む病原体の検査用キットを提供する。
(1)PCR緩衝液およびタンパク質分解酵素を備えた検体採取容器
(2)DNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を備えた少なくとも1以上のPCR反応容器
上記検査用キットは、ごく少量の検体を採取し、上述した各工程に従って複数の標的核酸を検査する場合に、効率的に検査を行うことを可能とする。
【0053】
本発明の検査用キットはPCR緩衝液およびタンパク質分解酵素を備えた検体採取容器を含む。含まれるPCR緩衝液およびタンパク質分解酵素は上記したとおりである。検体検出容器の形状、大きさ等については特に制限はなく、取り扱いが簡便で耐薬品性に優れる材質が好ましい。また視認性に優れる材質が好ましい。取扱性の観点から蓋付の容器が好ましい。
【0054】
上記検体採取容器内に病原体を含む組織片を擦り採った綿棒等を浸漬し、検体採取容器内の液と病原体を含む組織片とを混合することで、検体混合液が得られる。得られた検体混合液を含む検体採取容器は、そのまま第1の温度で加熱され、続いて第2の温度で加温される。
【0055】
本発明の検査用キットは、DNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を備えたPCR反応容器を少なくとも一つ以上含む。前記検体採取容器で第2の温度で加熱された液の一部を採取し、前記PCR反応容器に必要量滴下し、上述のとおりサーマルサイクリングを行うことで、PCR反応容器内でPCR反応が進行し、病原体が検体中に存在していれば、病原体の増幅が行われる。
【0056】
PCR反応用固体組成物に含まれるDNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対は上述のとおりである。またPCR反応用固体組成物についても上述のとおりである。
また上記PCR反応容器は、上述のPCR増幅産物を蛍光検出するための1種または2種以上の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含むPCR反応用固体組成物を含んでいてもよい。検体の量を削減できるという観点から、複数のPCRプライマー対、および/または2種以上の蛍光色素を含有するPCR反応用固体組成物を用いることが好ましい。
【0057】
PCR反応容器の数は、検体病原体、PCR反応用固体組成物に含まれるPCRプライマー対の種類の数によって、適宜、設定される。取扱性の観点から蓋付の容器が好ましい。
【0058】
本発明の検査用キットは、偽陽性や偽陰性を防止する観点から、さらにDNAポリメラーゼ、陽性コントロール核酸およびPCR反応コントロール核酸を含むPCRコントロール用固体組成物を備えたPCR反応コントロール容器を含んでもよい。前記検体採取容器で第2の温度で加熱された液の一部を採取し、前記PCR反応コントロール容器に必要量滴下し、上述のとおりサーマルサイクリングを行うことで、PCR反応コントロール容器内でPCR反応が進行し、陽性コントロール核酸およびPCR反応コントロール核酸の増幅が行われる。
【0059】
PCR反応コントロール用固体組成物に含まれるDNAポリメラーゼ、陽性コントロール核酸およびPCR反応コントロール核酸は上述のとおりである。またPCR反応コントロール用個体組成物についても上述のとおりである。
PCR反応コントロール容器は1つでも2以上でもよい。操作の簡便性の観点から、PCR反応コントロール容器は1つであることが好ましい。一方、PCR反応の結果をより確度の高いものとするという観点から、PCR反応コントロール容器は2つ以上が好ましい。標的核酸の種類の数、検体の量等からPCR反応コントロール容器の数は適宜設定される。また上記PCR反応コントロール容器は、上述のPCR増幅産物を蛍光検出するための1種または2種以上の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含むPCRコントロール用固体組成物を含んでいてもよい。
【0060】
上記検査用キットにより得られたPCR産物は、電気泳動法、熱融解曲線による検出、蛍光検出等の分析方法に供され、分析される。
【0061】
上記検体採取容器、PCR反応容器、PCR反応コントロール容器は材質、形状、容量等が互いに異なっていてもよいし、同じでもよい。材質については取り扱いが簡便で耐薬品性に優れる材質が好ましい。また視認性に優れる材質が好ましい。これら材質の例としては、ガラス、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0062】
形状、容量等は例えば、取り扱いの観点からすべて同じであることが好ましいが、色彩、符号、番号等により各容器を識別できるようしておくことが検体や各混合物の添加漏れ等のヒューマンエラーを抑制する観点から好ましい。
各容器に使用されるものとしては、複数のチューブを連結したチューブストリップが挙げられ、ウェルが連結されたチューブストリップが好ましい。数は通常、2から12、好ましくは2から10、より好ましくは2から8である。
【実施例0063】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されない。
【実施例0064】
[感染性角膜炎陽性検体の検出]
感染性角膜炎が疑われる患者から得られた検体の角膜または眼脂を、180μLの前処理液(タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液)と混合した。混合後の前処理液の組成は、200μg/mL ProteinaseK、0.05%(w/v)非イオン性界面活性剤、1.5mM MgCl2、35mM KClおよびそれぞれ200μM dNTP(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTP)とした。前処理後の液をPCR反応用固体組成物を含む8連チューブストリップの各チューブに20μLずつ分注した。ストリップチューブ内のPCR反応用固体組成物は、DNAポリメラーゼ、およびチューブ毎に異なるPCR増幅産物を蛍光検出するための蛍光色素標識したオリゴヌクレオチドプローブおよびPCRプライマー対を含む。
【0065】
病原体の検出用PCRプライマー対として、以下の塩基配列のものを使用した。
GAPDH遺伝子検出用プライマー対
(フォワード)5'-tgtgctcccactcctgatttc-3'(配列番号1)
(リバース)5'-cctagtcccagggctttgatt-3'(配列番号2)
TBP遺伝子検出用プライマー対
(フォワード)5'-gcaccactccactgtatccc-3'(配列番号3)
(リバース)5'-cccagaactctccgaagctg-3'(配列番号4)
HSV-1検出用プライマー対
(フォワード)5'-cgcatcaagaccacctcctc-3'(配列番号5)
(リバース)5'-gtcagctcgtgRttctg-3'(配列番号6)
増幅する標的遺伝子:UL27
VZV検出用プライマー対
(フォワード)5'-tcactaccagtcatttctatccatctg-3'(配列番号7)
(リバース)5'-gaaaacccaaaccgttctcgag-3'(配列番号8)
増幅する標的遺伝子:ORF29
アデノウイルス検出用プライマー対
(フォワード1)5'-tgggcgtacatgcacatc-3'(配列番号9)
(フォワード2)5'-gtggtcttacatgcacatc-3'(配列番号9)
(フォワード3)5'-atggtcttacatgcacatc-3'(配列番号9)
(フォワード4)5'-tgggcatacatgcacatc-3'(配列番号9)
(フォワード5)5'-tgggcttacatgcacatc-3'(配列番号9)
(リバース1)5'-cgggcgaactgcacca-3'(配列番号10)
(リバース2)5'-cgggcaaactgcacca-3'(配列番号10)
(リバース3)5'-cgggcgaattgcacca-3'(配列番号10)
(リバース4)5'-cgggcaaattgcacca-3'(配列番号10)
(リバース5)5'-cgggcaaactgcacga-3'(配列番号10)
増幅する標的遺伝子:
クラミジア検出用プライマー対
(フォワード)5'-gaaaagaacccttgttaagggag-3'(配列番号11)
(リバース)5'-cttaactccctggctcatcatg-3'(配列番号12)
増幅する標的遺伝子:
淋菌検出用プライマー対
(フォワード)5'-ggaaagtaatcagatgaaaccagttc-3'(配列番号13)
(リバース)5'-ggatcggtatcactcgctct-3'(配列番号14)
増幅する標的遺伝子:
アカントアメーバ検出用プライマー対
(フォワード1)5'-tcaaagcaggcagatYcaatt-3'(配列番号17)
(フォワード2)5'-tcaaagcaggcagatttaacca-3'(配列番号17)
(リバース)5'-gtcctattccattatcccatgctaa-3'(配列番号18)
増幅する標的遺伝子:
【0066】
PCRによる増幅産物を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブは、5'末端が蛍光色素ROXで標識されたものを使用した。使用したすべてのオリゴヌクレオチドプローブは、3'末端がクエンチャー物質BHQで修飾されたものを使用した。プローブの塩基配列は以下のものを使用した。
GAPDH遺伝子検出用プローブ
5'-aaaagagctaggaaggacaggcaacttggc-3'(配列番号23)(ROX標識)
TBP遺伝子検出用プローブ
5'-acccccatcactcctgccacgc-3'(配列番号24)(ROX標識)
HSV-1検出用プローブ
5'-tggcaacgcggcccaac-3'(配列番号25)(ROX標識)
VZV検出用プローブ
5'-tgtctttcacggaggcaaacacgt-3'(配列番号26)(ROX標識)
アデノウイルス検出用プローブ
5'-caggaYgcYtcggagta-3'(配列番号27)(ROX標識)
クラミジア検出用プローブ
5'-caaaaggcacgccgtcaac-3'(配列番号28)(ROX標識)
淋菌検出用プローブ
5'-gaaacacgccaatgaggggcatgat-3'(配列番号29)(ROX標識)
アカントアメーバ検出用プローブ
5'- ctgccaccgaatac-3'(配列番号31)(ROX標識)
【0067】
検体を処理したPCR緩衝液により溶解したPCR反応用固体組成物を含む8連チューブストリップは、リアルタイムPCR装置を用いて、加水分解プローブ法によりPCR反応をモニターした。PCR条件として、95℃/10秒間の初期変性を行い、次いで95℃/5秒間-60℃/20秒間のPCRを45サイクル行った。対象とする病原微生物の存在(陽性)または非存在(陰性)は、Cq値(増幅曲線が閾値線(Threshold Line)と交差するサイクル数)を基に判断した。また、対照として、各検体よりDNAを精製した後、リアルタイムPCR(qPCR)法によってコピー数を定量した。
【0068】
本発明の方法により測定した病原体について、リアルタイムPCR(qPCR)法と比較した。また、リアルタイムPCR(qPCR)法による定量値と本発明の方法により測定したCq値との相関を調べた。
【0069】
以上の結果、リアルタイムPCR(qPCR)法で定量することのできた陽性検体は、本発明の方法を用いて測定した場合でもすべて陽性であった。また、HSV-1、VZV、アデノウイルス、クラミジア、淋菌およびアカントアメーバが同定されていることが示された。また、定量値とCq値の間に相関性があることが示された。
【実施例0070】
〔非感染性ぶどう膜炎と診断された検体の分析〕
非感染性ぶどう膜炎と診断された患者から得られた検体について、リアルタイムPCR(qPCR)法および本発明の方法により測定を行った。リアルタイムPCR(qPCR)法ではすべての検体において陰性であったが、本発明の方法においてもすべて陰性であった。すなわち、両法から得られる測定結果は一致することが示された。
[態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0071】
[1]下記(1)から(5)の工程を含む病原体の検出方法。
(1)病原体を含む組織片を、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液に添加し検体混合液を得る工程(1)
(2)前記検体混合液を、第1の温度で加熱する工程(2)
(3)さらに第2の温度で加熱する工程(3)
(4)前記工程(3)で得られた液の一部をDNAポリメラーゼおよび1種また
は2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加し、PCRを実行する工程(4)
(5)前記工程(4)で生成したPCR産物を検出する工程(5)
【0072】
上記[1]の発明によれば、単一の容器の中で組織片に含まれる病原体の核酸分離工程とPCR緩衝液の調製工程を同時に行う、簡便なPCR法による分析方法を提供することができる。
【0073】
[2]前記工程(2)の第1の温度が、37℃以上60℃以下である上記[1]に記載の検出方法。
【0074】
上記[2]の発明によればタンパク質を効率的に分解することができる。
【0075】
[3]前記工程(3)の第2の温度が、90℃以上95℃以下である上記[1]に記載の検出方法。
【0076】
上記[3]の発明によれば、タンパク質分解酵素を効率的に失活することができる。
【0077】
[4]前記組織片が角膜または眼脂である上記[1]に記載の検出方法。
【0078】
[5]病原体が、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、アデノウイルス(ADV)、クラミジア、淋菌およびアカントアメーバからなる群より選ばれる、上記[1]に記載の病原体の検出方法。
【0079】
上記発明[4]および[5]によれば角膜または眼脂における様々な病原体を簡便に検出することができる。
【0080】
[6]前記タンパク質分解酵素がプロテイナーゼKである上記[1]に記載の病原体の検出方法。
【0081】
上記発明[6]によればタンパク質を効率的に分解することができる。
【0082】
[7]前記工程(5)のPCR産物の測定がリアルタイムPCRで行われる上記[1]に記載の病原体の検出方法。
【0083】
上記発明[7]によれば、病原体の検出を迅速に行うことができる。
【0084】
[8]下記(1)および(2)を含む病原体の検出用キット。
(1)タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液を備えた検体採取容器
(2)DNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を備えた少なくとも1以上のPCR反応容器
【0085】
上記発明[8]によれば単一の容器の中で組織片に含まれる病原体の核酸分離工程とPCR緩衝液の調製工程を同時に行うことのできるキットを提供することができる。

【手続補正書】
【提出日】2024-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)から(5)の工程を含む病原体の検出方法であって、
(1)病原体を含む組織片を、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液に添加し検体混合液を得る工程(1)
(2)前記検体混合液を、37℃以上60℃以下の第1の温度で加熱する工程(2)
(3)さらに90℃以上95℃以下の第2の温度で加熱する工程(3)
(4)前記工程(3)で得られた液の一部をDNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加し、PCRを実行する工程(4)
(5)前記工程(4)で生成したPCR産物を検出する工程(5)
前記病原体が、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)であり、
前記PCR反応用固体組成物は1種または2種以上の蛍光色素で標識された、オリゴヌクレオチドプローブを含み、
前記PCRプライマー対がVZV検出用プライマー対を含む病原体の検出方法。
【請求項2】
前記組織片が角膜または眼脂である請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記タンパク質分解酵素がプロテイナーゼKである請求項1に記載の病原体の検出方法。
【請求項4】
下記(1)および(2)を含む病原体の検出用キットであって、
(1)タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液を備えた検体採取容器
(2)DNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を備えた少なくとも1以上のPCR反応容器、
前記病原体が、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)であり、
前記PCR反応用固体組成物は1種または2種以上の蛍光色素で標識された、オリゴヌクレオチドプローブを含み、
前記PCRプライマー対がVZV検出用プライマー対を含む病原体の検出用キット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0071
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0071】
[1]下記(1)から(5)の工程を含む病原体の検出方法であって、
(1)病原体を含む組織片を、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液に添加し検体混合液を得る工程(1)
(2)前記検体混合液を、37℃以上60℃以下の第1の温度で加熱する工程(2)
(3)さらに90℃以上95℃以下の第2の温度で加熱する工程(3)
(4)前記工程(3)で得られた液の一部をDNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加し、PCRを実行する工程(4)
(5)前記工程(4)で生成したPCR産物を検出する工程(5)
前記病原体が、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)であり、
前記PCR反応用固体組成物は1種または2種以上の蛍光色素で標識された、オリゴヌクレオチドプローブを含み、
前記PCRプライマー対がVZV検出用プライマー対を含む病原体の検出方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0084
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0084】
[8]下記(1)および(2)を含む病原体の検出用キットであって、
(1)タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液を備えた検体採取容器
(2)DNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を備えた少なくとも1以上のPCR反応容器、
前記病原体が、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)であり、
前記PCR反応用固体組成物は1種または2種以上の蛍光色素で標識された、オリゴヌクレオチドプローブを含み、
前記PCRプライマー対がVZV検出用プライマー対を含む病原体の検出用キット。