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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036747
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】変位測定方法および変位測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20240311BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
G01B11/16 H
G01B11/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141178
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】宮田 和弥
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】脇田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 充宏
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA09
2F065BB28
2F065DD03
2F065EE00
2F065FF05
2F065FF09
2F065JJ03
2F065JJ05
2F065JJ26
2F065PP12
2F065QQ31
(57)【要約】
【課題】DICを用いて試験体の表面の変位を精度良く測定する。
【解決手段】試験体5を収容する試験槽1の内部を減圧し、試験槽1の内部に収容された試験体5の温度を制御し、試験槽1の外側から、試験槽1の内部に収容された試験体5を観測するための窓部4を通して、試験体5の表面の画像を取得し、取得した画像から、デジタル画像相関法を用いて、試験体5の表面の3次元座標の変化を測定し、試験体5の表面の変位を求める。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体を収容する試験槽の内部を減圧し、
前記試験槽の内部に収容された前記試験体の温度を制御し、
前記試験槽の外側から、前記試験槽の内部に収容された前記試験体を観測するための窓部を通して、前記試験体の表面の画像を取得し、
取得した前記画像から、デジタル画像相関法を用いて、前記試験体の表面の3次元座標の変化を測定し、前記試験体の表面の変位を求める、変位測定方法。
【請求項2】
前記試験槽の内部を、1000Pa以下に減圧する、変位測定方法。
【請求項3】
前記画像を取得する直前に、前記試験槽の内部を減圧し、
前記画像を取得した後に、前記試験槽の内部の圧力を大気圧に戻し、前記試験体の温度の制御を継続する、請求項1または2に記載の変位測定方法。
【請求項4】
開口を有し、試験体を収容する試験槽と、
前記試験槽の内部に収容された前記試験体の温度を制御する温度制御部と、
前記試験槽の内部を減圧する減圧部と、
前記開口を覆い、前記試験槽の外側から、前記試験槽の内部に収容された前記試験体を観測するための窓部と、
前記試験槽の外側から、前記窓部を通して、前記試験槽の内部に収容された前記試験体の表面の画像を取得する複数台の撮像装置と、
前記窓部と複数台の前記撮像装置とを一体化する架台と、
一体化した前記窓部および複数台の前記撮像装置に対して、前記試験槽を近接または離間させる移動機構と、を備える変位測定装置。
【請求項5】
前記窓部が、PV値が300nm以下のガラスによって構成される、請求項4に記載の変位測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位測定方法および変位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル画像相関法(Digital Image Correlation、DIC)の概要を説明する。
まず、測定対象物の表面に、ペイント等により、ランダムドットパターンを付与する。
次いで、表面にランダムドットパターンが付与された測定対象物の変形を、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を備える撮像装置を用いて、連続的または断続的に撮像し、デジタル画像を得る。
その後、得られたデジタル画像を画像処理し、解析することにより、解析範囲の全体に渡って、測定対象物の表面の変位(ひいては、変位から求められるひずみ)を高精度で測定できる。
【0003】
更に、図2図3に示すように、複数台(例えば2台)の撮像装置を用いてステレオ撮像をすることにより、測定対象物(試験体)の表面の3次元空間内での座標(3次元座標)の変化を測定し、変位をより高精度に測定できる。
図2は、ステレオ撮像時における2台の撮像装置(撮像装置6aおよび撮像装置6b)と試験体5との幾何学的関係(位置関係)を示す模式図である。
図3は、一方の撮像装置6aの撮像面16aと他方の撮像装置6bの撮像面16bとに、試験体5の表面上の特定点が表示された状態を示す模式図である。
【0004】
図3に示すように、試験体5の表面上の点X(図示せず)が、撮像装置6aの撮像面16aに、点Xaとして表示される場合、点Xは、撮像装置6aの中心点Oaと点Xaとを結ぶ直線上に存在することが分かる。
更に、試験体5の表面上の点Xが、撮像装置6bの撮像面16bに、点Xbとして表示される場合、点Xは、撮像装置6aの中心点Oaと点Xaを結ぶ直線と、撮像装置6bの中心点Obと点Xbとを結ぶ直線との交点Xに存在することが分かる。
このように、交点Xの座標が算出される(非特許文献1を参照)。
【0005】
上記算出のためには、2台の撮像装置について、撮像面上の座標点との関係をあらかじめ求める作業、すなわち、較正(キャリブレーション)が必要である。
較正の方法としては、種々の方法が知られている(非特許文献2~3を参照)。
較正により作成される撮像面上の点と測定対象物の表面上の点との関係式から求められる測定対象物の寸法と、較正に用いられる測定対象物の実寸法とを比較し、あらかじめ誤差を把握する。撮像条件を最適化して、誤差を一定値以下に収める。
【0006】
測定対象物を実際に測定する際には、2台の撮像装置の状態(幾何学的関係、光学的条件(レンズ収差、レンズ絞りなど)等)を、較正時の状態と常に同じにする。これにより、DICを用いた変位の測定結果の精度が、良好に担保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-170828号公報
【特許文献2】特開2013-170830号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Michael A. Sutton、外2名、「Image Correlation for Shape, Motion and Deformation Measurements」、Springer Science+Business Media、2009年、p.70-80
【非特許文献2】加藤章、「画像相関法にルックアップ式を用いた3次元変位の簡易および高精度計測」、実験力学、2013年12月、第13巻、第4号、p.372-379
【非特許文献3】今井洋徳、外3名、「繰り返し計算を用いたステレオ3次元計測による平面物体表面の座標算出法」、実験力学、2009年12月、第9巻、第4号、p.376-381
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
環境の温度が大きく変化しても、複数台(例えば2台)の撮像装置の光路の相対的な変化が無い場合には、較正を再び実施する必要はない。
しかし、測定対象物と周囲の大気との間に温度差がある場合、大気の対流に起因する熱揺らぎが発生する。この熱揺らぎは、局所的な屈折率の不均一を発生させ、較正時の光学的条件(光路)と一致しないことによる測定誤差を生じさせる。
【0010】
この測定誤差は、図3に示されている。
すなわち、上述したように、試験体5の表面上の点X(図示せず)は、本来、撮像装置6bの撮像面16bに、点Xbとして表示されるが、屈折率の変化によって、点Xbとは異なる点として表示される。この場合、点Xは、交点Xとは別の交点(交点X、交点X、交点Xなど)に存在すると誤認される。
この場合、変位の測定結果の精度が不十分となり得る。
【0011】
特許文献1~2には、熱揺らぎを低減する技術が開示されている。
しかし、特許文献1においては、測定対象物と撮像装置との間に断熱体に囲まれた空間が存在し、この空間内の空気の熱揺らぎを無くすことは困難である。
また、特許文献2においては、撮像装置の周囲から吹き出された加熱流体が、測定対象物に到達して跳ね返る可能性が高い。その場合、測定対象物と撮像装置との間の空気が攪拌されて、熱揺らぎが増長する。
【0012】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、DICを用いて試験体の表面の変位を精度良く測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1]試験体を収容する試験槽の内部を減圧し、上記試験槽の内部に収容された上記試験体の温度を制御し、上記試験槽の外側から、上記試験槽の内部に収容された上記試験体を観測するための窓部を通して、上記試験体の表面の画像を取得し、取得した上記画像から、デジタル画像相関法を用いて、上記試験体の表面の3次元座標の変化を測定し、上記試験体の表面の変位を求める、変位測定方法。
[2]上記試験槽の内部を、1000Pa以下に減圧する、変位測定方法。
[3]上記画像を取得する直前に、上記試験槽の内部を減圧し、上記画像を取得した後に、上記試験槽の内部の圧力を大気圧に戻し、上記試験体の温度の制御を継続する、上記[1]または[2]に記載の変位測定方法。
[4]開口を有し、試験体を収容する試験槽と、上記試験槽の内部に収容された上記試験体の温度を制御する温度制御部と、上記試験槽の内部を減圧する減圧部と、上記開口を覆い、上記試験槽の外側から、上記試験槽の内部に収容された上記試験体を観測するための窓部と、上記試験槽の外側から、上記窓部を通して、上記試験槽の内部に収容された上記試験体の表面の画像を取得する複数台の撮像装置と、上記窓部と複数台の上記撮像装置とを一体化する架台と、一体化した上記窓部および複数台の上記撮像装置に対して、上記試験槽を近接または離間させる移動機構と、を備える変位測定装置。
[5]上記窓部が、PV値が300nm以下のガラスによって構成される、上記[4]に記載の変位測定装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、DICを用いて試験体の表面の変位を精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】試験槽を備える変位測定装置を概略的に示す構成図である。
図2】ステレオ撮像時における2台の撮像装置と試験体との幾何学的関係を示す模式図である。
図3】一方の撮像装置の撮像面と他方の撮像装置の撮像面とに、試験体の表面上の特定点が表示された状態を示す模式図である。
図4】試験体の表面を撮像して得られた画像上の位置関係を示す模式図である。
図5】試験槽の内部の圧力が大気圧である場合における、試験体の温度と距離変化との関係を示すグラフである。
図6】試験槽の内部の圧力が20Paである場合における、試験体の温度と距離変化との関係を示すグラフである。
図7】試験体の温度を100℃の一定値に制御した場合における、試験槽の内部の圧力と距離変化の標準偏差との関係を示すグラフである。
図8】試験槽の内部の圧力を経時的に示すグラフである。
図9】試験体の温度を経時的に示すグラフである。
図10】距離変化を経時的に示すグラフである。
図11】変位測定装置を示す斜視図であり、試験槽が上蓋に最も近接した状態を示す。
図12】変位測定装置を示す斜視図であり、試験槽が上蓋から最も離間した状態を示す。
図13】撮像用窓として用いたガラスのPV値と較正偏差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〈変位測定装置〉
図1は、試験槽1を備える変位測定装置を概略的に示す構成図である。
試験槽1は、断熱性を有する部材によって構成され、上面に開口を有する。
試験槽1の開口を覆うように、上蓋2が配置される。上蓋2の中央部には、例えばガラス(光学ガラス)からなる撮像用窓4が設けられている。
【0018】
図1に示すように、試験槽1の内部には、測定対象物である試験体5が収容される。
すなわち、試験槽1の内部には、温度制御用プレート3が配置されており、その上に、試験体5が配置される。
温度制御用プレート3は、例えば、熱媒体循環装置(図示せず)によって温度制御された冷熱用媒体を内部に取り込む。これにより、温度制御用プレート3の上に配置された試験体5の温度を制御できる。
温度制御用プレート3は、冷熱用媒体の代わりに、ペルチエ素子、電気ヒーター等によって、冷熱制御する構成であってもよい。
試験体5そのものが通電により自己発熱する場合は、温度制御用プレート3の構成として、試験体5に対する通電を制御できる構成を採用する。
【0019】
図1に示すように、試験槽1には、バルブ8を経由して、真空ポンプ7が接続している。試験槽1の開口が上蓋2で覆われた状態で、バルブ8を開け、真空ポンプ7を駆動することにより、試験槽1の内部が減圧される。
また、試験槽1には、大気開放バルブ9が設けられている。大気開放バルブ9を開けることにより、試験槽1の内部を大気開放できる。すなわち、試験槽1の内部は、減圧された状態から、大気圧に戻る。
更に、試験槽1には、バルブ10を経由して、ガス温度調節器11およびボンベ12が接続している。ボンベ12には、不活性ガス、低露点空気などの雰囲気ガスが充填されている。バルブ10を開けて、ボンベ12の雰囲気ガスを、試験槽1の内部に供給できる。このとき、ガス温度調節器11を駆動することにより、温度制御された雰囲気ガスを、試験槽1の内部に供給できる。
【0020】
図1に示すように、試験槽1の上面側には、複数台の撮像装置(すなわち、撮像装置6aおよび撮像装置6b)が配置されている。
試験槽1の内部に収容された試験体5の表面は、上蓋2に設けられた撮像用窓4を通して、撮像装置6aおよび撮像装置6bによってステレオ撮像される。ステレオ撮像をすることにより、試験体5の表面の3次元座標の変化を測定でき、変位を高精度に測定できる(図2図3参照)。
なお、撮像装置の台数は、2台に限定されず、3台以上であってもよい。
【0021】
次に、変位測定装置を、図11および図12を用いて、より詳細に説明する。
図11および図12は、変位測定装置を示す斜視図である。図11および図12では、真空ポンプ7、バルブ8、大気開放バルブ9、バルブ10、ガス温度調節器11およびボンベ12(いずれも図1参照)の図示を省略している。
【0022】
図11および図12に示すように、変位測定装置は、架台13を有し、撮像装置6aおよび撮像装置6bは、較正自在な状態で、架台13に取り付けられている。
架台13は、例えば、複数の硬質な柱状部材からなるが、これに限定されない。
架台13には、更に、上蓋2の一部(例えば、上蓋2の上面)が、固定的に取り付けられている。
撮像用窓4を有する上蓋2と、撮像装置6aおよび撮像装置6bとは、架台13に取り付けられることによって、一体化されている。すなわち、架台13によって、撮像装置6aおよび撮像装置6bは、較正自在な状態で、上蓋2と共に、位置固定されている。
【0023】
図11および図12に示すように、変位測定装置は、更に、昇降装置14を有する。
昇降装置14は、一例として、上下方向に伸縮自在な伸縮部材からなり、この伸縮部材の上端が試験槽1の下面に接続している。
昇降装置14の伸縮部材が伸縮することにより、試験槽1が上昇または下降する。すなわち、架台13によって位置固定された上蓋2(ならびに撮像装置6aおよび撮像装置6b)に対して、試験槽1が近接または離間する。
なお、図11は、試験槽1が上蓋2に最も近接した状態(試験槽1が上蓋2と連結した状態)を示しており、このとき、試験槽1の開口は、上蓋2によって覆われている。
一方、図12は、試験槽1が上蓋2から最も離間した状態を示す。この状態では、試験槽1の開口が上蓋2によって覆われていないため、試験槽1の内部に収容された試験体5を、別の試験体に交換でき、更に較正もできる。
【0024】
すなわち、撮像用窓4を有する上蓋2、撮像装置6aおよび撮像装置6bを移動させることなく、試験体5を交換でき、更に較正もできる。
このため、試験体5を交換等する場合であっても、撮像装置6aおよび撮像装置6bと試験体5との幾何学的関係(位置関係)の変動を抑制でき、較正時の幾何学的関係を保持したまま連続的に、精度良く変位を測定できる。
【0025】
なお、試験槽1の内部には、更に、試験体5に引張、圧縮または曲げ変形を付与できる装置(図示せず)が配置されていてもよい。これにより、温度変化による試験体5の表面の変位だけでなく、温度変化および外力付加による試験体5の表面の変位も測定できる。
【0026】
本発明者らは、図1図11および図12に基づいて説明した構成を有する変位測定装置を用いて、以下に説明する試験(試験1~4)を実施した。
以下の試験では、試験体として、表面にランダムパターンを塗布した銅板(板厚1.6mm×長さ100mm×幅80mm)を用いた。
【0027】
〈試験1〉
まず、本発明者らは、試験体の温度を変化させて、試験体の表面をステレオ撮像した。
より詳細には、試験体の温度を0℃から100℃まで変化させ、イメージスケール12μm/pixで、4000pix×3000pixの画角を、露光時間10msecの条件で撮像し、画像を得た。
なお、「イメージスケール12μm/pix」とは、撮像された画像の1画素(pix)当たり試験体の12μmが対応する撮像倍率を意味する。
撮像視野の中心部近傍であって、かつ、試験体の表裏面4か所には、熱電対を取り付けた。熱電対によって、試験体の温度を連続的に測定し、撮像した画像と温度とを対応させた。4か所の熱電対は、いずれも±0.5℃以内の値を指示しており、4か所の平均値を試験体の温度とした。
【0028】
得られた画像を用いて、0℃の画像を初期値として、DICを用いた解析(DIC解析)を実施した。
図4は、試験体の表面を撮像して得られた画像上の位置関係を示す模式図である。
図4に示すように、DIC解析では、撮像視野のほぼ中心部に、仮想点Oを定義した。更に、仮想点Oを中心とする距離5mmの位置に、それぞれ、仮想点A、B、CおよびDを定義した。図4には、仮想点A、B、CおよびDの位置関係が示されている。
仮想点Oから仮想点A、B、CおよびDまでの距離L、L、LおよびLについて、それぞれ、初期値からの距離変化ΔL、ΔL、ΔLおよびΔLを求めた。
【0029】
試験槽の内部の圧力を大気圧または20Paにして、試験体の温度を変化させながら、その表面を撮像し、得られた画像から、距離変化ΔL、ΔL、ΔLおよびΔLを求めた。結果を図5および図6に示す。
図5は、試験槽の内部の圧力が大気圧である場合における、試験体の温度と距離変化との関係を示すグラフである。図6は、試験槽の内部の圧力が20Paである場合における、試験体の温度と距離変化との関係を示すグラフである。どちらのグラフも、横軸が試験体の温度(単位:℃)を示し、縦軸が距離変化(単位:μm)を示す。
図5および図6に示すように、試験体の温度に比例して、距離変化も変化している。
このとき、図5に示すように、試験槽の内部の圧力が大気圧である場合は、試験体の温度が高くなるに従い、距離変化のばらつきは大きくなっている。これに対して、図6に示すように、試験槽の内部の圧力が20Paである場合は、距離変化のばらつきは小さく、精度の良い結果が得られている。
【0030】
〈試験2〉
次に、本発明者らは、試験体の温度を一定値に制御し、かつ、試験槽の内部の圧力を変化させて、試験体の表面をステレオ撮像した。
より詳細には、試験体の温度を一定値(100℃)に制御して、イメージスケール12μm/pixで、4000pix×3000pixの画角を、露光時間10msecの条件で撮像した。10fps(1秒間に10枚)の撮像速度で、30秒間(合計300枚)の撮像を実施した。このとき、試験槽の内部を、大気圧から20Paまでの複数の圧力に変え、それぞれの圧力毎に、撮像を実施し、画像を得た。
得られた画像から、上記試験1と同様にして、初期値からの距離変化ΔL、ΔL、ΔLおよびΔLを求めた。30秒間の距離変化ΔL、ΔL、ΔLおよびΔLの総平均値を算出し、更に、標準偏差を算出した。結果を図7に示す。
【0031】
図7は、試験体の温度を100℃の一定値に制御した場合における、試験槽の内部の圧力と距離変化の標準偏差との関係を示すグラフである。横軸が試験槽の内部の圧力(単位:Pa)を示し、縦軸が距離変化の標準偏差(単位:μm)を示す。
図7に示すように、距離変化の標準偏差は、大気圧(101325Pa)では約2.2μmであったが、試験槽の内部が減圧されるに従って減少し、1000Paでは1/10、20Paでは1/40まで小さくなった。
【0032】
以上のことから、試験槽の内部を減圧する。これにより、距離変化のばらつきが小さくなり、精度の良い測定結果が得られる。これは、試験槽の内部を減圧することにより、測定対象物(試験体)と撮像装置との間において、大気の対流に起因する熱揺らぎが減少し、熱揺らぎの影響を抑制できるためと推測される。
【0033】
精度がより優れるという理由から、試験槽の内部の圧力は、1000Pa以下が好ましく、700Pa以下がより好ましく、500Pa以下が更に好ましく、200Pa以下より更に好ましく、100Pa以下が特に好ましく、20Pa以下が最も好ましい。
【0034】
一方、試験槽の内部を減圧して高真空にするためには、油拡散ポンプ等の高価な装置が必要であり、また、減圧に要する時間もかかる。このため、試験槽の内部の圧力は、比較的安価なロータリーポンプ、ドライポンプ等によって到達可能な1Pa以上が好ましい。
【0035】
〈試験3〉
次に、本発明者らは、試験体の温度を9段階に変化させて、試験体の表面をステレオ撮像した。
試験体の温度変化は、温度制御用プレートを使用しつつ、ガス温度調節器によって温度制御された低露点空気(空気)を試験槽の内部に供給することにより、実現した。
このとき、試験槽の内部の圧力も経時的に変化させた。
【0036】
図8は、試験槽の内部の圧力を経時的に示すグラフであり、温度制御された空気が供給される時間帯(供給の開始から停止まで)もグラフ化されている。
図8に示すように、試験槽の内部の圧力を大気圧にした状態で、試験槽の内部に空気の供給を開始し、試験体が所望する温度になったら、空気の供給を停止し、試験槽の内部を真空ポンプによって200Paまで減圧した。そして、イメージスケール12μm/pixで、4000pix×3000pixの画角を、露光時間10msecの条件で撮像し、画像を得た。
画像を得た後は、試験槽の内部の圧力を再び大気圧に戻しつつ、試験槽の内部に空気の供給を開始した。以降は同様にして、試験体の温度の制御(および、試験槽の内部の圧力の制御)を継続した。
【0037】
ところで、試験槽の内部が減圧された状態では、大気による熱伝達量が減少するため、試験体の温度を変化させる手段は、実質的に、温度制御用プレートによる熱伝達のみとなる。この場合、試験体が所望の温度に到達するのには、長い時間を要する。
このため、熱揺らぎを抑制するために試験槽の内部を減圧するのは、画像を取得するときのみでよい。
すなわち、図8に基づいて説明したように、画像を取得する直前に試験槽の内部を減圧し、画像を取得した後は、試験槽の内部の圧力を大気圧に戻し、試験体の温度の制御を継続することが好ましい。
この場合、試験体の温度を制御するときには、試験槽の内部に大気があるため、試験体の昇温または降温の速度を速めることができる。つまり、試験体が所望の温度に到達するのに要する時間を短縮できる。
【0038】
図9は、試験体の温度を経時的に示すグラフである。
図9には、上述した温度制御(図8参照)によって、試験体の温度が、「20℃」→「80℃」→「20℃」→「-40℃」→「20℃」→「80℃」→「20℃」→「-40℃」→「20℃」の順に、段階的かつ短時間に変化したことが示されている。
【0039】
段階的に変化させた各温度において、得られた画像から、上記試験1と同様にして、初期値からの距離変化ΔL、ΔL、ΔLおよびΔLを求めた。結果を図10に示す。
図10は、距離変化を経時的に示すグラフである。図9を参照しつつ、図10を見ると、試験体の温度の変化に距離変化が追従していることが分かる。このとき、各温度において、距離変化のばらつきは小さく、精度の良い結果が得られている。
【0040】
〈試験4〉
次に、本発明者らは、試験槽の上蓋に設けられた撮像用窓として、PV値の異なるガラスを用いて、試験体の表面をステレオ撮像した。
より詳細には、PV値が異なる複数のガラスを撮像用窓として用い、かつ、イメージスケールを16、20、30μm/pixと変化させ、較正を実施して較正偏差を算出した。結果を図13に示す。
図13は、撮像用窓として用いたガラスのPV値と較正偏差との関係を示すグラフである。横軸がガラスのPV値(単位:nm)を、縦軸が較正偏差(単位:μm)を示す。なお、図13には、ガラス(撮像用窓)無しの結果も、併せて示している。
図13に示すように、較正偏差は、イメージスケールが小さくなるほど悪化する傾向にあったが、PV値が300nm以下のガラスを用いることで、ガラスが無い状態に近づき、0.05μm以下の較正偏差を達成できた。較正精度の悪化は、ガラス表面の凹凸によって生じる局所的な屈折率の変動に起因するが、このようなガラスを用いることにより、これが抑制できたと考えられる。
【0041】
したがって、較正精度が良好となり、より精度の良い測定結果が得られるという理由から、撮像用窓として用いるガラスのPV値は、300nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。
なお、PV値は、JIS R 3252「ガラスのレーザ干渉法による均質度の測定方法」に準拠して、レーザ干渉計を用いて求める。
【符号の説明】
【0042】
1:試験槽
2:上蓋(窓部)
3:温度制御用プレート(温度制御部)
4:撮像用窓(窓部)
5:試験体
6a、6b:撮像装置
7:真空ポンプ(減圧部)
8:バルブ(減圧部)
9:大気開放バルブ
10:バルブ(温度制御部)
11:ガス温度調節器(温度制御部)
12:ボンベ(温度制御部)
13:架台
14:昇降装置(移動機構)
16a、16b:撮像面
図1
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図13