(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036756
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】レーダ装置用カバー
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/42 20060101AFI20240311BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
H01Q1/42
G01S7/03 246
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141206
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パオレッティ ウンベルト
【テーマコード(参考)】
5J046
5J070
【Fターム(参考)】
5J046AA02
5J046AA05
5J046AB01
5J046RA05
5J070AB24
5J070AD03
5J070AF03
5J070AK22
(57)【要約】
【課題】本開示は、レーダ装置のアレイアンテナを覆うように配置され、平面状の平面部と曲面状に湾曲した湾曲部とを有するレーダ装置用カバーであって、レーダ装置による到来角のより正確な推定を可能にするレーダ装置用カバーを提供する。
【解決手段】レーダ装置用カバーC1は、アレイアンテナから放射されて物体に反射されたレーダ波のうち湾曲部142を透過してアレイアンテナへ到達するレーダ波の経路に配置される経路調整部PA1を備える。経路調整部PA1の厚さと誘電率の少なくとも一方が、湾曲部142を透過してアレイアンテナへ到達するレーダ波の到来角の推定誤差を減少させるように変化している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ装置のアレイアンテナを覆うように配置され、平面部と湾曲部を有する外側カバーを備えるレーダ装置用カバーであって、
前記アレイアンテナから放射されて物体に反射されたレーダ波のうち前記湾曲部を透過して前記アレイアンテナへ到達するレーダ波の経路に配置される経路調整部を備え、
前記経路調整部の厚さと誘電率の少なくとも一方が、前記湾曲部を透過して前記アレイアンテナへ到達する前記レーダ波の到来角の推定誤差を減少させるように変化している、
レーダ装置用カバー。
【請求項2】
前記平面部は、前記アレイアンテナに対向して配置される第1平面部と、該第1平面部よりも厚さが小さく前記第1平面部の周囲に前記湾曲部を介して配置される第2平面部と、を有し、
前記経路調整部は、前記第1平面部から前記第2平面部へ向けて前記厚さが漸減する前記湾曲部を含むことを特徴とする、
請求項1に記載のレーダ装置用カバー。
【請求項3】
前記経路調整部は、前記湾曲部の表面に設けられて前記第1平面部から前記第2平面部へ向けて前記誘電率が変化する誘電体層を含むことを特徴とする、
請求項2に記載のレーダ装置用カバー。
【請求項4】
前記平面部は、前記アレイアンテナに対向して配置される第1平面部と、該第1平面部の周囲に前記湾曲部を介して配置される第2平面部と、を有し、
前記経路調整部は、前記湾曲部の表面に設けられて前記第1平面部から前記第2平面部へ向けて前記誘電率が変化する誘電体層を含むことを特徴とする、
請求項1に記載のレーダ装置用カバー。
【請求項5】
前記外側カバーの内側で前記アレイアンテナを覆うレドームをさらに備え、
前記レドームは、前記アレイアンテナに対向する中央部と、該中央部の周囲に設けられ前記中央部よりも厚さが小さい端縁部と、前記中央部と前記端縁部との間に設けられる中間部と、を有し、
前記経路調整部は、前記中央部から前記端縁部へ向けて前記厚さが漸減する中間部を含むことを特徴とする、
請求項1に記載のレーダ装置用カバー。
【請求項6】
前記経路調整部は、前記中間部の表面に設けられて前記中央部から前記端縁部へ向けて前記誘電率が変化する誘電体層を含むことを特徴とする、
請求項5に記載のレーダ装置用カバー。
【請求項7】
前記外側カバーの内側で前記アレイアンテナを覆うレドームをさらに備え、
前記レドームは、前記アレイアンテナに対向する中央部と、該中央部の周囲に設けられる端縁部と、前記中央部と前記端縁部との間に設けられる中間部と、を有し、
前記経路調整部は、前記中間部の表面に設けられて前記中央部から前記端縁部へ向けて前記誘電率が変化する誘電体層を含むことを特徴とする、
請求項1に記載のレーダ装置用カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置用カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からレーダ装置に関する発明が知られている。たとえば、下記特許文献1は、アンテナ面とカバー部とを備え、レーダ波を用いて物体を検知するレーダ装置を開示している。上記アンテナ面は、同一直線である配置直線上に配置された少なくとも1つのアレイアンテナを備える。カバー部は、上記アンテナ面を境界としてレーダ波が放射される側をアンテナ前方として、アレイアンテナのアンテナ前方を覆う。
【0003】
上記少なくとも1つのアレイアンテナはそれぞれ、同じ位相のレーダ波を放射する複数のアンテナ素子が配置直線と同一方向となるように配置された少なくとも1つの単位アンテナを備える。単位アンテナは、配置直線とアンテナ面に沿って直交する方向に配列される。そして、カバー部は、レーダ波の入射角がブリュースター角以下となるように構成される(特許文献1、要約等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなレーダ装置において、アレイアンテナを覆うカバーは、平面状の平面部と、曲面状に湾曲した湾曲部とを有している。このようなレーダ装置では、カバーによって覆われたアレイアンテナからレーダ波が放射され、物体から反射された互いに平行なレーダ波がカバーを透過してアレイアンテナによって受信される。
【0006】
そして、カバーを透過して受信される互いに平行なレーダ波の位相差に基づいて、レーダ波の到来角(Angle of Arrival:AoA)が推定される。そのため、カバーの湾曲部の曲率が大きくなると、湾曲部を透過する互いに平行な電波の位相差と、平面部を透過する互いに平行なレーダ波の位相差と、が異なることで、誤った到来角が推定されるおそれがある。
【0007】
本開示は、レーダ装置のアレイアンテナを覆うように配置され、平面部と湾曲部とを有する外側カバーを備えるレーダ装置用カバーであって、レーダ装置による到来角のより正確な推定を可能にするレーダ装置用カバーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、レーダ装置のアレイアンテナを覆うように配置され、平面部と湾曲部を有する外側カバーを備えるレーダ装置用カバーであって、前記アレイアンテナから放射されて物体に反射されたレーダ波のうち前記湾曲部を透過して前記アレイアンテナへ到達するレーダ波の経路に配置される経路調整部を備え、前記経路調整部の厚さと誘電率の少なくとも一方が、前記湾曲部を透過して前記アレイアンテナへ到達する前記レーダ波の到来角の推定誤差を減少させるように変化している、レーダ装置用カバーである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の上記一態様によれば、レーダ装置による到来角のより正確な推定を可能にするレーダ装置用カバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示のレーダ装置用カバーの実施形態1を示すレーダ装置の断面図。
【
図2】
図1のレーダ装置用カバーの経路調整部の拡大断面図。
【
図3】
図1のレーダ装置による到来角の推定方法を説明する模式図。
【
図4】従来のレーダ装置における到来角の推定誤差を説明する模式図。
【
図5】従来のレーダ装置における到来角の推定誤差を説明するカバーの拡大断面図。
【
図6】
図2に示す実施形態1のレーダ装置用カバーの作用を説明する拡大断面図。
【
図7】本開示のレーダ装置用カバーの実施形態2を示す経路調整部の拡大断面図。
【
図8】本開示のレーダ装置用カバーの実施形態3を示す経路調整部の拡大断面図。
【
図9】本開示のレーダ装置用カバーの実施形態4を示す経路調整部の拡大断面図。
【
図10】本開示のレーダ装置用カバーの実施形態5を示す経路調整部の拡大断面図。
【
図11】本開示のレーダ装置用カバーの実施形態6を示す経路調整部の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態を説明する。
【0012】
[実施形態1]
図1は、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態1を示すレーダ装置の断面図である。本実施形態のレーダ装置用カバーC1は、レーダ装置100のアレイアンテナ120を覆うように配置される外側カバー140を備えている。詳細については後述するが、本実施形態のレーダ装置用カバーC1は、アレイアンテナ120から放射されて物体に反射されたレーダ波のうち、外側カバー140の湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の経路Pに配置される経路調整部PA1を備えることを特徴とする。
【0013】
レーダ装置100は、たとえば、自動車に搭載される中距離レーダ(MRR)である。レーダ装置100は、たとえば、検出範囲(Field of View:FoV)の広いミリ波レーダ装置である。
図1では、レーダ装置100のFoVの境界と角度範囲を二点鎖線で示している。レーダ装置100は、たとえば、ケース110と、アレイアンテナ120と、レドーム130と、外側カバー140と、を備えている。すなわち、本実施形態のレーダ装置用カバーC1は、たとえば、レーダ装置100に用いられ、レーダ装置100の一部を構成する外側カバー140を備えている。
【0014】
ケース110は、たとえば、アレイアンテナ120を支持するとともに、アレイアンテナ120を覆うレドーム130が固定され、レーダ装置100の筐体の一部を構成する。また、ケース110の表面には、たとえば、アンテナ基板111が固定されている。アンテナ基板111は、たとえば、アレイアンテナ120が設けられ、図示を省略するグランド面、送受信回路、および信号処理部などを備えている。
【0015】
アレイアンテナ120は、たとえば、縦横に所定の間隔をあけて配置された複数のアンテナ素子を備えている。アレイアンテナ120の複数のアンテナ素子は、たとえば、各列のアンテナ素子が一つのチャンネルを構成している。レーダ装置100は、たとえば、レーダ波を放射する送信用のアレイアンテナ120と、送信用のアレイアンテナ120から放射されて物体に反射されたレーダ波を受信する受信用のアレイアンテナ120とを備えている。
【0016】
レドーム130は、たとえば、アレイアンテナ120を覆うように配置され、ケース110に固定されている。レドーム130の材質は、たとえば、レーダ波を低損失で透過させる誘電体である。レドーム130は、たとえば、ケース110とともにレーダ装置100の筐体を構成し、アレイアンテナ120、送受信回路、信号処理部などが設けられたアンテナ基板111を収容して保護する。
【0017】
外側カバー140は、たとえば、レドーム130の外側に配置され、レドーム130、アレイアンテナ120、およびケース110を覆うように配置されている。外側カバー140の材質は、たとえば、レドーム130と同様に、レーダ波を低損失で透過させる誘電体である。外側カバー140は、たとえば、自動車の車体に取り付けられる。外側カバー140は、たとえば、自動車のエンブレム、バンパー、または、ボディーなど、自動車の一部を構成していてもよい。
【0018】
外側カバー140は、平面部141と湾曲部142を有している。平面部141は、外側カバー140の平面状の部分であり、湾曲部142は、外側カバー140の曲面状に湾曲した部分である。また、平面部141は、たとえば、全体が同じ厚さを有する平板状の部分である。また、湾曲部142は、たとえば、アレイアンテナ120が配置される外側カバー140の内側とは反対側の外側カバー140の外側へ凸の曲面状の部分である。
【0019】
図1に示す例において、外側カバー140は、第1平面部141aと、第2平面部141bとを有している。第1平面部141aは、たとえば、アレイアンテナ120に対向して配置され、アレイアンテナ120が配置されるアンテナ面と平行になっている。第2平面部141bの厚さT1bは、たとえば、第1平面部141aの厚さT1aよりも小さい。第2平面部141bは、第1平面部141aの周囲に湾曲部142を介して配置され、第1平面部141aに対して傾斜している。
【0020】
経路調整部PA1は、前述のように、アレイアンテナ120から放射されて物体に反射されたレーダ波のうち、外側カバー140の湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の経路Pに配置される。経路調整部PA1の厚さと誘電率の少なくとも一方は、外側カバー140を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の到来角の推定誤差を減少させるように変化している。
【0021】
図2は、
図1のレーダ装置用カバーC1の経路調整部PA1の拡大断面図である。本実施形態のレーダ装置用カバーC1において、経路調整部PA1は、外側カバー140の第1平面部141aから第2平面部141bへ向けて厚さT2が漸減する湾曲部142を含む。より具体的には、本実施形態のレーダ装置用カバーC1において、経路調整部PA1は、外側カバー140の厚さT2が変化する湾曲部142によって構成されている。
【0022】
図3は、
図1のレーダ装置100による到来角αの推定方法を説明する模式図である。レーダ装置100は、たとえば、以下の方法によって到来角αを推定する。なお、到来角αは、アレイアンテナ120の複数のアンテナ素子121が配置されたセンサ面に垂直な方向に対し、アレイアンテナ120から放射されて物体Oに反射されたレーダ波が、アレイアンテナ120へ到達する角度である。
【0023】
図3に示すように、各々のアンテナ素子121が等しい間隔dで配置されているとする。この場合、レドーム130および外側カバー140がなければ、右端のアンテナ素子121とその左隣のアンテナ素子121に到達するレーダ波の経路長の差は、d・sinαとなる。同様に、右端のアンテナ素子121に到達するレーダ波と、右から二番目、三番目のアンテナ素子121に到達するレーダ波の経路長の差は、それぞれ、2d・sinα、3d・sinαとなる。
【0024】
ここで、アンテナ素子121が受信するレーダ波の空気中の波数をk0、波長をλとする。この場合、右端のアンテナ素子121と、その左隣のアンテナ素子121との間のレーダ波の位相差Δφは、以下の式(1)で表される。また、到来角αは、位相差Δφを用いて、以下の式(2)によって表される。
【0025】
Δφ=k0・d・sinα=(2πd/λ)・sinα (1)
α=sin-1{(λ/2πd)・Δφ}=sin-1(Δφ/π) (2)
【0026】
図4は、従来のレーダ装置900における到来角αの推定誤差を説明する模式図である。
図4に示すように、物体Oに反射された互いに平行なレーダ波が、均一な厚さを有するカバー940の湾曲部942を透過して、間隔dで隣り合う二つのアンテナ素子921,921に到達する場合、これらのアンテナ素子921,921に到達するレーダ波の位相差Δφは、以下の式(3)によって表される。
【0027】
Δφ=k・(t2-t1)+k0・(l2-l1+δ2) (3)
【0028】
なお、上記式(3)において、δ2は、アンテナ素子921,921から放射されて物体Oによって反射された互いに平行なレーダ波の、物体Oからカバー940までの経路長の差である。また、t1およびt2は、それぞれ、厚さが均一な湾曲部942を透過する上記レーダ波の経路長であり、l1およびl2は、それぞれ、厚さが均一な湾曲部942を透過した上記レーダ波のカバー940からアンテナ素子921,921までの経路長である。また、kは、上記レーダ波のカバー940中の波数であり、k0は、上記レーダ波の空気中の波数である。
【0029】
このように、物体Oに反射した互いに平行なレーダ波が、
図3に示す隣り合うアンテナ素子121,121に到達するときのレーダ波の経路長の差と、
図4に示す隣り合うアンテナ素子921,921に到達するときのレーダ波の経路長の差との間に、誤差が生じる。この経路長の誤差に起因して、上記式(1)と上記式(3)に示す位相差Δφの間に誤差が生じ、その結果、上記式(2)によって推定される到来角αに誤差が生じる。
【0030】
図5は、従来のレーダ装置900における到来角αの推定誤差Δθを説明するカバー940の拡大断面図である。なお、
図5の横軸と、縦軸は、それぞれ、アレイアンテナが設けられたアンテナ面の中心からの距離を示している。
図5に示すように、物体Oに反射された互いに平行なレーダ波RW1,RW2は、厚さが均一な湾曲部942を透過して、隣り合うアンテナ素子921,921に到達する。この場合、到来角αに約3.9度の推定誤差Δθが生じ、実際の物体Oの方向Daと、従来のレーダ装置900によって推定される物体Oの方向Deとの間に到来角αと同様に約3.9度の推定誤差Δθが生じる。
【0031】
これに対し、
図1および
図2に示す本実施形態のレーダ装置用カバーC1は、レーダ装置100のアレイアンテナ120を覆うように配置され、平面部141と湾曲部142を有する外側カバー140を備える。さらに、本実施形態のレーダ装置用カバーC1は、アレイアンテナ120から放射されて物体Oに反射されたレーダ波のうち、湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の経路に配置される経路調整部PA1を備えている。そして、経路調整部PA1の厚さT2と誘電率の少なくとも一方が、湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の到来角αの推定誤差Δθを減少させるように変化している。
【0032】
このような構成により、本実施形態のレーダ装置用カバーC1は、
図4および
図5に示すように、カバー940の湾曲部942の厚さおよび誘電率が均一である場合に発生する到来角αの推定誤差Δθを低減させ、レーダ装置100による到来角αのより正確な推定を可能にすることができる。
【0033】
より具体的には、本実施形態のレーダ装置用カバーC1において、外側カバー140の平面部141は、アレイアンテナ120に対向して配置される第1平面部141aと、その第1平面部141aよりも厚さT1bが小さく、第1平面部141aの周囲に湾曲部142を介して配置される第2平面部141bと、を有している。そして、経路調整部PA1は、
図2に示すように、第1平面部141aから第2平面部141bへ向けて厚さT2が漸減する湾曲部142を含む。
【0034】
図6は、
図2に示すレーダ装置用カバーC1の作用を説明する拡大断面図である。なお、
図6の横軸と、縦軸は、それぞれ、アレイアンテナ120が設けられたアンテナ面の中心からの距離を示している。
図6に示すように、物体Oに反射された互いに平行なレーダ波RW1,RW2は、外側カバー140の厚さが変化する湾曲部142を透過して、隣り合うアンテナ素子121,121に到達する。この場合、到来角αの推定誤差Δθは約0.5度に低減され、実際の物体Oの方向Daと、レーダ装置100によって推定される物体Oの方向Deとの間の到来角αの推定誤差Δθが約0.5度に低減される。
【0035】
より具体的には、経路調整部PA1としての湾曲部142は、たとえば、上記の式(3)で求められる位相差Δφを、上記式(1)で求められる位相差Δφに可能な限り近付けるように、厚さT2を変化させることが好ましい。上記の式(3)で求められる位相差Δφは、物体Oに反射されたレーダ波が経路調整部PA1を透過してアンテナ素子121に到達する場合の位相差Δφである。上記式(1)で求められる位相差Δφは、物体Oに反射されたレーダ波が、外側カバー140の平面部141およびレドーム130の平面部を透過する場合、または、外側カバー140およびレドーム130がない場合の位相差Δφである。これにより、物体Oに反射されたレーダ波が、外側カバー140の平面部141を透過してアレイアンテナ120に到達する場合と、経路調整部PA1を透過してアレイアンテナ120に到達する場合の上記式(2)に基づく到来角αの推定値を近付けることが可能になる。
【0036】
たとえば、
図4に示す従来のレーダ装置900のカバー940と同様に、本実施形態のレーダ装置用カバーC1においても、物体Oに反射された互いに平行なレーダ波は、外側カバー140の湾曲部142を透過して、隣り合うアンテナ素子121に到達する。この場合、一方のアンテナ素子121に到達するレーダ波の経路長PL1と、他方のアンテナ素子121に到達するレーダ波の経路長PL2との経路長差ΔPLは、以下の式(4)で表される。
【0037】
ΔPL=PL2―PL1=(δ2+t2+l2)-(t1+l1) (4)
【0038】
本実施形態のレーダ装置用カバーC1は、上記式(4)の経路長差ΔPLを、
図3に示す隣り合うアンテナ素子121の間の経路長差d・sinαに近付けるように、
図2に示す経路調整部PA1としての湾曲部142の厚さT2が変化している。このような構成により、前述のように、上記の式(3)で求められる位相差Δφを、上記式(1)で求められる位相差Δφに近付けることができ、到来角αの推定誤差Δθを減少させることができる。
【0039】
なお、レーダ装置用カバーC1では、外側カバー140によるレーダ波の反射を小さくし、また外側カバー140によるレーダ波の透過率を低下させないように、必要に応じて湾曲部142の曲率を小さくするなどの配慮が必要である。一般に、物体Oで反射されたレーダ波が、アレイアンテナ120に対向する外側カバー140の平面部141を透過する厚みは、アレイアンテナが設けられたアンテナ面の中心から遠ざかるほど、レーダ波の角度の増加に伴って増加する。そのため、湾曲部142およびより小さい厚さによってレーダ波の透過率が向上する。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、レーダ装置100による到来角αのより正確な推定を可能にするレーダ装置用カバーC1を提供することができる。なお、外側カバー140の平面部141は、たとえば、到来角αの推定誤差Δθを増大させない範囲で湾曲したり、丸みを帯びたりしてもよい。また、到来角αの推定誤差Δθを減少させるためには、外側カバー140の形状は、レーダ波の波長に対して滑らかに変化していることが好ましい。
【0041】
[実施形態2]
次に、
図1および
図7を参照して、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態2を説明する。
図7は、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態2を示す経路調整部PA2の拡大断面図であり、実施形態1の
図2に相当する拡大断面図である。
【0042】
本実施形態の係るレーダ装置用カバーC2は、前述の実施形態1のレーダ装置用カバーC1と同様に、レーダ装置100のアレイアンテナ120を覆うように配置され、平面部141と湾曲部142を有する外側カバー140を備える。また、本実施形態のレーダ装置用カバーC2は、前述の実施形態1のレーダ装置用カバーC1と同様に、経路調整部PA2を備える。
【0043】
経路調整部PA2は、アレイアンテナ120から放射されて物体Oに反射されたレーダ波のうち、湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の経路に配置される。また、経路調整部PA2の厚さT2と誘電率の両方が、湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の到来角αの推定誤差Δθを減少させるように変化している。
【0044】
より具体的には、本実施形態のレーダ装置用カバーC2においても、湾曲部142は、アレイアンテナ120に対向して配置される第1平面部141aと、その第1平面部141aの厚さT1aよりも厚さT1bが小さく第1平面部141aの周囲に湾曲部142を介して配置される第2平面部141bと、を有している。そして、経路調整部PA2は、第1平面部141aから第2平面部141bへ向けて厚さT2が漸減する湾曲部142を含む。
【0045】
さらに、本実施形態のレーダ装置用カバーC2において、経路調整部PA2は、湾曲部142の表面に設けられて、第1平面部141aから第2平面部141bへ向けて誘電率が変化する誘電体層143を含む。誘電体層143の誘電率は、湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の経路長の誤差を補償し、そのレーダ波の到来角αの推定誤差Δθを減少させるように変化している。
【0046】
より具体的には、本実施形態のレーダ装置用カバーC2は、前述の実施形態1のレーダ装置用カバーC1と同様に、上記式(4)の経路長差ΔPLを、
図3に示す隣り合うアンテナ素子121の間の経路長差d・sinαに近付けるように、
図7に示す経路調整部PA1としての湾曲部142の厚さT2が変化している。さらに、本実施形態のレーダ装置用カバーC2は、上記式(4)の経路長差ΔPLを、
図3に示す隣り合うアンテナ素子121の間の経路長差d・sinαに近付けるように、
図7に示す経路調整部PA2としての誘電体層143の誘電率が変化している。
【0047】
このような構成により、本実施形態のレーダ装置用カバーC2によれば、前述の実施形態1のレーダ装置用カバーC1と同様の効果を奏するだけでなく、誘電体層143によって、到来角αの推定値の誤差をさらに減少させることができる。なお、誘電体層143の誘電率は、第1平面部141aから第2平面部141bへ向けて変化するだけでなく、誘電体層143の厚さ方向または外側カバー140の表面に沿う方向に変化していてもよい。これにより、レーダ波の透過性を向上させ、レーダ波の反射を低減することができる。
【0048】
[実施形態3]
次に、
図1および
図8を参照して、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態3を説明する。
図8は、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態3を示す経路調整部PA3の拡大断面図であり、実施形態1の
図2に相当する拡大断面図である。
【0049】
本実施形態の係るレーダ装置用カバーC3は、前述の実施形態1のレーダ装置用カバーC1と同様に、レーダ装置100のアレイアンテナ120を覆うように配置され、平面部141と湾曲部142を有する外側カバー140を備える。また、本実施形態のレーダ装置用カバーC3は、前述の実施形態1のレーダ装置用カバーC1と同様に、経路調整部PA3を備える。
【0050】
経路調整部PA3は、アレイアンテナ120から放射されて物体Oに反射されたレーダ波のうち、湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の経路に配置される。また、経路調整部PA3としての湾曲部142の厚さT2は一定であるが、経路調整部PA3の誘電率が、湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の到来角αの推定誤差Δθを減少させるように変化している。
【0051】
より具体的には、本実施形態のレーダ装置用カバーC3において、平面部141は、アレイアンテナ120に対向して配置される第1平面部141aと、その第1平面部141aの周囲に湾曲部142を介して配置される第2平面部141bと、を有している。本実施形態のレーダ装置用カバーC3において、第1平面部141aの厚さT1aは、たとえば、第2平面部141bの厚さT1bと等しい。また、経路調整部PA3は、湾曲部142の表面に設けられて、第1平面部141aから第2平面部141bへ向けて誘電率が変化する誘電体層143を含む。
【0052】
このような構成により、本実施形態のレーダ装置用カバーC3によれば、前述の実施形態1のレーダ装置用カバーC1と同様に、到来角αの推定誤差Δθを低減させ、レーダ装置100による到来角αのより正確な推定を可能にすることができる。なお、第2平面部141bの厚さT1bは、必ずしも均一でなくてもよく、たとえば、湾曲部142から離れるほど減少していてもよい。
【0053】
また、誘電体層143の材料は、均一である必要はなく、レーダ波の波長よりも小さい小孔、気体、液体、または微粒子を不均一に含むことができる。これにより、誘電体層143の誘電率を、第1平面部141aから第2平面部141bへ向けて変化させることが可能になる。
【0054】
[実施形態4]
次に、
図1および
図9を参照して、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態4を説明する。
図9は、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態4を示す経路調整部PA4の拡大断面図である。より詳細には、
図9は、
図1に示すレーダ装置100のアレイアンテナ120から放射されて物体Oに反射されたレーダ波のうち、外側カバー140の右側の湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の経路P上のレドーム130の拡大断面図である。
【0055】
本実施形態のレーダ装置用カバーC4は、
図1に示す前述の実施形態1のレーダ装置用カバーC1と同様に外側カバー140を備えるとともに、外側カバー140の内側でアレイアンテナ120を覆うレドーム130をさらに備えている。レドーム130は、
図2に示すように、アレイアンテナ120に対向する中央部131と、その中央部131の周囲に設けられる端縁部133と、中央部131と端縁部133との間に設けられる中間部132と、を有している。端縁部133の厚さTeは、中央部131の厚さTcよりも小さい。
【0056】
本実施形態のレーダ装置用カバーC4において、経路調整部PA4は、レドーム130の中間部132を含む。経路調整部PA4としての中間部132の厚さTmは、外側カバー140の湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の到来角αの推定誤差Δθを減少させるように変化している。より具体的には、経路調整部PA4としての中間部132の厚さTmは、中央部131から端縁部133へ向けて漸減する。
【0057】
以上のように、本実施形態のレーダ装置用カバーC4は、外側カバー140の内側でアレイアンテナ120を覆うレドーム130をさらに備えている。レドーム130は、アレイアンテナ120に対向する中央部131と、その中央部131の周囲に設けられ中央部131よりも厚さTeが小さい端縁部133と、中央部131と端縁部133との間に設けられる中間部132と、を有している。そして、経路調整部PA4は、中央部131から端縁部133へ向けて厚さTmが漸減する中間部132を含む。
【0058】
このような構成により、本実施形態のレーダ装置用カバーC4によれば、前述の実施形態1のレーダ装置用カバーC1と同様の効果を奏することができる。したがって、本実施形態によれば、レーダ装置100のアレイアンテナ120を覆うように配置され、平面状の平面部141と曲面状に湾曲した湾曲部142とを有する外側カバー140を備えるレーダ装置用カバーC4であって、レーダ装置100による到来角αのより正確な推定を可能にするレーダ装置用カバーC4を提供することができる。
【0059】
なお、経路調整部PA4は、経路長差による到来角αの推定誤差Δθを減少させる観点から、レーダ装置100のFoVの境界に近い位置に形成することが好ましい。
【0060】
[実施形態5]
次に、
図1および
図10を参照して、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態5を説明する。
図10は、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態5を示す経路調整部PA5の拡大断面図である。より詳細には、
図10は、
図1に示すレーダ装置100のアレイアンテナ120から放射されて物体Oに反射されたレーダ波のうち、外側カバー140の右側の湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の経路P上のレドーム130の拡大断面図である。
【0061】
本実施形態のレーダ装置用カバーC5において、経路調整部PA5は、厚さと誘電率の双方が、外側カバー140の湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の到来角αの推定誤差Δθを減少させるように変化している。より具体的には、経路調整部PA5は、
図9に示す前述の実施形態4の経路調整部PA4と同様に、レドーム130の中央部131から端縁部133へ向けて厚さTmが漸減する中間部132を含む。
【0062】
さらに、本実施形態のレーダ装置用カバーC5において、経路調整部PA5は、中間部132の表面に設けられて中央部131から端縁部133へ向けて誘電率が変化する誘電体層134を含む。誘電体層134は、たとえば、
図7に示す実施形態2のレーダ装置用カバーC2の誘電体層143と同様の構成を有する。
【0063】
このような構成により、本実施形態のレーダ装置用カバーC5によれば、前述の実施形態4のレーダ装置用カバーC4と同様の効果を奏することができるだけでなく、誘電体層134によって、到来角αの推定値の誤差をさらに減少させることができる。
【0064】
[実施形態6]
次に、
図1および
図11を参照して、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態6を説明する。
図11は、本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態6を示す経路調整部PA6の拡大断面図である。より詳細には、
図11は、
図1に示すレーダ装置100のアレイアンテナ120から放射されて物体Oに反射されたレーダ波のうち、外側カバー140の右側の湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の経路P上のレドーム130の拡大断面図である。
【0065】
本実施形態のレーダ装置用カバーC6は、前述の外側カバー140に加えて、外側カバー140の内側でアレイアンテナ120を覆うレドーム130をさらに備えている。レドーム130は、アレイアンテナ120に対向する中央部131と、その中央部131の周囲に設けられる端縁部133と、中央部131と端縁部133との間に設けられる中間部132と、を有している。なお、中央部131、中間部132、および端縁部133は、
図11に示すように同一の厚さTを有している。本実施形態のレーダ装置用カバーC6において、経路調整部PA6は、誘電率のみが、外側カバー140の湾曲部142を透過してアレイアンテナ120へ到達するレーダ波の到来角αの推定誤差Δθを減少させるように変化している。より具体的には、経路調整部PA6は、レドーム130の中間部132の表面に設けられてレドーム130の中央部131から端縁部133へ向けて誘電率が変化する誘電体層134を含む。
【0066】
このような構成により、本実施形態のレーダ装置用カバーC6によれば、前述の実施形態4と同様の効果を奏することができる。したがって、本実施形態によれば、レーダ装置100のアレイアンテナ120を覆うように配置され、平面状の平面部141と曲面状に湾曲した湾曲部142とを有する外側カバー140を備えるレーダ装置用カバーC6であって、レーダ装置100による到来角αのより正確な推定を可能にするレーダ装置用カバーC6を提供することができる。
【0067】
以上、図面を用いて本開示に係るレーダ装置用カバーの実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
100 レーダ装置
120 アレイアンテナ
130 レドーム
131 中央部
132 中間部
133 端縁部
134 誘電体層
140 外側カバー
141 平面部
141a 第1平面部
141b 第2平面部
142 湾曲部
143 誘電体層
C1 レーダ装置用カバー
C2 レーダ装置用カバー
C3 レーダ装置用カバー
C4 レーダ装置用カバー
C5 レーダ装置用カバー
C6 レーダ装置用カバー
P 経路
PA1 経路調整部
PA2 経路調整部
PA3 経路調整部
PA4 経路調整部
PA5 経路調整部
PA6 経路調整部
T1b 厚さ
T2 厚さ
Tm 厚さ
α 到来角
Δθ 推定誤差