(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036773
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】沸騰冷却装置およびそれに適用される伝熱部の製造方法
(51)【国際特許分類】
F28D 15/04 20060101AFI20240311BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20240311BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
F28D15/04 E
F28D15/02 M
F28D15/04 G
F28D15/02 106Z
F28D15/02 101L
H01L23/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141229
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 公和
(72)【発明者】
【氏名】柴田 上仁
(72)【発明者】
【氏名】河本 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】榎田 晃
(72)【発明者】
【氏名】水田 貴彦
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136CC35
5F136FA02
5F136FA03
(57)【要約】
【課題】冷却性能を向上させることができる沸騰冷却装置を提供する。
【解決手段】電子機器2から冷媒液11への伝熱を促進する伝熱部3を備え、伝熱部3は、径の異なる複数の細孔31、32を有する多孔質材で構成されており、伝熱部3に形成された細孔31、32の径の度数分布では、少なくとも2つの異なるピーク値が形成されており、2つの異なるピーク値のうち、小さい方のピーク値を小ピーク値とするとともに、大きい方のピーク値を大ピーク値としたとき、小ピーク値を形成する小細孔31は、毛細管現象を生じさせる液相冷媒通路310を形成し、大ピーク値を形成する大細孔32は、沸騰した冷媒液を伝熱部の外部へ流出させる気相冷媒通路320を形成している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却対象物(2)から冷媒液(11)への伝熱を促進する伝熱部(3)を備え、
前記伝熱部は、径の異なる複数の細孔(31、32)を有する多孔質材で構成されており、
前記伝熱部に形成された前記細孔の径の度数分布では、少なくとも2つの異なるピーク値が形成されており、
前記2つの異なるピーク値のうち、小さい方のピーク値を小ピーク値とするとともに、大きい方のピーク値を大ピーク値としたとき、
前記小ピーク値を形成する前記細孔(31)は、毛細管現象を生じさせる液相冷媒通路(310)を形成し、
前記大ピーク値を形成する前記細孔(32)は、沸騰した前記冷媒液を前記伝熱部の外部へ流出させる気相冷媒通路(320)を形成している沸騰冷却装置。
【請求項2】
前記度数分布において、前記大ピーク値が前記小ピーク値の5倍以上である請求項1に記載の沸騰冷却装置。
【請求項3】
前記伝熱部の表面には、凹凸部(40)が形成されている請求項1または2に記載の沸騰冷却装置。
【請求項4】
沸騰冷却装置に適用されて、冷却対象物(2)の有する熱を冷媒液(11)へ伝熱させる伝熱部の製造方法であって、
金属粒子と、少なくとも二種類の異なる径のスペーサ粒子とを焼結する焼結工程と、
前記スペーサ粒子を溶解して取り除くスペーサ除去工程と、を有する伝熱部の製造方法。
【請求項5】
前記スペーサ除去工程の前に、前記金属粒子および前記スペーサ粒子の混合体の表面に凹凸部(40)を形成する凹凸部形成工程を有する請求項4に記載の伝熱部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等の発熱体を冷媒液で冷却する沸騰冷却装置およびそれに適用される伝熱部の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属多孔質体で形成された伝熱促進部を有する沸騰冷却装置が開示されている。特許文献1に記載の沸騰冷却装置では、伝熱促進部の表層に他の部分よりも空孔率・空孔径の大きい発泡起点層が設けられている。そして、金属多孔質体の表面、すなわち発泡起点層の表面が、気泡放出面となっている。
【0003】
また、特許文献1に記載の沸騰冷却装置では、金属多孔質体の内部に、毛細管現象で液相冷媒を発熱体側へ導く液相冷媒通路が設けられている。液相冷媒通路は、金属多孔質体の上端面から発熱体側に向かって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の沸騰冷却装置では、液相冷媒通路内の液相冷媒が沸騰した際、沸騰した気相冷媒(すなわち沸騰蒸気)は、空孔率・空孔径の小さい液相冷媒通路を通って気泡放出面から排出される。このため、液相冷媒通路から気相冷媒を流出させる際の圧力損失が大きく、気相冷媒が放出されにくい。これにより、冷却性能が悪化する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記点に鑑みて、冷却性能を向上させることができる沸騰冷却装置およびそれに適用される伝熱部の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の沸騰冷却装置は、冷却対象物(2)から冷媒液(11)への伝熱を促進する伝熱部(3)を備え、
伝熱部は、径の異なる複数の細孔(31、32)を有する多孔質材で構成されており、
伝熱部に形成された細孔の径の度数分布では、少なくとも2つの異なるピーク値が形成されており、
2つの異なるピーク値のうち、小さい方のピーク値を小ピーク値とするとともに、大きい方のピーク値を大ピーク値としたとき、
小ピーク値を形成する細孔(31)は、毛細管現象を生じさせる液相冷媒通路(310)を形成し、
大ピーク値を形成する細孔(32)は、沸騰した冷媒液を伝熱部の外部へ流出させる気相冷媒通路(320)を形成している。
【0008】
これによれば、小ピーク値を形成する細孔(31)により、伝熱部(3)の内部に液相の冷媒液(11)を供給して冷媒液(11)の沸騰起点を形成することができる。そして、大ピーク値を形成する細孔(32)により、沸騰した冷媒液(11)を伝熱部(3)の外部へ流出させることができる。このとき、気相冷媒通路(320)を形成する細孔、すなわち大ピーク値を形成する細孔(32)の径は、小ピーク値を形成する細孔(31)の径よりも大きいので、沸騰した冷媒液(11)を伝熱部(3)の外部へ排出させる際の圧力損失を低減することができる。その結果、冷却性能を向上させることが可能となる。
【0009】
また、請求項4に記載の伝熱部の製造方法は、沸騰冷却装置に適用されて、冷却対象物(2)の有する熱を冷媒液(11)へ伝熱させる伝熱部の製造方法において、
金属粒子と、少なくとも二種類の異なる径のスペーサ粒子とを焼結する焼結工程と、
スペーサ粒子を溶解して取り除くスペーサ除去工程と、を有する。
【0010】
これによれば、少なくとも二種類の異なる径の細孔(31、32)を有する伝熱部(3)を、精度良く製造することができる。そして、当該方法によって製造された伝熱部(3)を沸騰冷却装置に適用することで、沸騰した冷媒液(11)を伝熱部(3)外部へ排出させる際の圧力損失を低減することができる。その結果、冷却性能を向上させることが可能となる。
【0011】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る沸騰冷却装置の全体構成を示す概念図である。
【
図2】第1実施形態における伝熱部を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態における伝熱部を示す顕微鏡写真である。
【
図4】比較例における伝熱部を示す顕微鏡写真である。
【
図5】第2実施形態における伝熱部を示す断面図である。
【
図6】第2実施形態における伝熱部を示す平面図である。
【
図7】第3実施形態に係る沸騰冷却装置の全体構成を示す概念図である。
【
図8】他の実施形態における伝熱部を示す平面図である。
【
図9】他の実施形態における伝熱部を示す平面図である。
【
図10】他の実施形態における伝熱部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明する。
図1では、紙面上下方向が重力方向となっている。
図2において、黒塗り矢印は冷媒液の流れを示し、白抜き矢印は気相冷媒の流れを示し、点ハッチング部分は沸騰で生成した気相冷媒(すなわち気泡)を示している。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の沸騰冷却装置1は、冷却対象物である電子機器2を冷却するための冷却槽10が設けられている。電子機器2は、作動に伴って発熱し、冷却を必要とする発熱体である。電子機器2としては、例えば発熱素子が搭載された電子基板やインバータ等を用いることができる。
【0016】
冷却槽10は、電子機器2を冷却するための冷媒液11が貯蔵されている容器状部材である。冷媒液11は、電子機器2の発熱で気相変化する流体であればよく、例えば水や絶縁流体を用いることができる。絶縁流体としては、例えばフッ素系不活性液体を用いることができる。
【0017】
本実施形態の冷却槽10は、大気と連通していない液密構造とされている。冷却槽10の内部は冷媒液11の相変化によって圧力変動するため、冷却槽10は耐圧構造とされている。
【0018】
本実施形態では、電子機器2は冷却槽10の外部に設けられている。この場合、冷却槽10の壁面を介して電子機器2と冷媒液11との間の熱交換が行われるので、電子機器2は冷却槽10の壁面に接するように配置される。
図1に示す例では、電子機器2は、冷却槽10の下面に接するように配置されている。すなわち、電子機器2は、冷却槽10における下方側の壁部の外面に接するように配置されている。
【0019】
電子機器2と冷却槽10の壁面との間には、図示しない熱伝導シート等を介在させてもよい。熱伝導シートは、電子機器2と冷却槽10の密着性を向上させ、電子機器2と冷却槽10と間の熱伝達率を向上させることができる。
【0020】
冷却槽10は、例えば金属材料や樹脂材料によって構成することができる。本実施形態では、冷却槽10として熱伝導率が高い金属材料を用いている。本実施形態のように、電子機器2を冷却槽10の外部に設ける場合には、冷却槽10として熱伝導率が高い金属材料を用いることで、冷却槽10の壁面を介した電子機器2と冷媒液11との間の熱交換効率を向上させることができる。
【0021】
冷媒液11の沸騰温度は、電子機器2の耐熱温度よりも低くなっている。すなわち、冷媒液11の沸騰温度は、高発熱時の電子機器2の温度よりも低くなっている。このため、電子機器2の発熱で冷媒液11は沸騰可能となっており、冷却槽10では冷媒液11が沸騰して電子機器2から吸熱する沸騰冷却が行われる。
【0022】
冷却槽10は、電子機器2の熱を冷媒液11へ伝熱させる伝熱面13を有している。本実施形態では、伝熱面13は、冷却槽10の壁部のうち、電子機器2が接する面と反対側の面に設けられている。すなわち、伝熱面13は、冷却槽10における下方側の壁部の内面に設けられている。
【0023】
図1および
図2に示すように、伝熱面13には、電子機器2の熱を冷媒液11へ伝熱させる伝熱部3が設けられている。伝熱部3は、電子機器2から冷媒液11への伝熱を促進する伝熱促進部である。伝熱部3は、熱伝導率に優れた材料により構成されている。本実施形態では、伝熱部3は、アルミニウムや銅等の金属により構成されている。
【0024】
図2に示すように、伝熱部3は、径の異なる複数の細孔31、32を有する多孔質材で構成されている。本明細書において、細孔31、32の径とは細孔31、32の円相当直径を意味している。
【0025】
なお、伝熱部3における細孔31、32の径は、断面観察によって得られた断面画像を画像処理する等の方法から求めることができる。 断面観察には、サンプルを切ることで断面を開口させて光学顕微鏡や走査電子顕微鏡で観察する方法が一般的である。画像処理ソフトは市販のものを使用することができる。また、断面写真から手作業で細孔31、32の径を測り、計算しても構わない。断面が楕円の場合には長径と短径の積の平方根を径として取り扱うとよい。本実施形態では、伝熱部3の厚み方向に多数箇所で観察した。
【0026】
伝熱部3に形成された細孔31、32の径の度数分布(以下、細孔径度数分布という)において、少なくとも2つの異なるピーク値が形成されている。本明細書における度数分布は、伝熱部3に形成された複数の細孔31、32の径をいくつかの階級(すなわち区間)に分けたときの、それぞれの階級に所属するデータの分布状況を意味し、度数分布をグラフ化したヒストグラムを含む。細孔径度数分布では、例えば各階級を20μmとしてもよい。
【0027】
細孔径度数分布では、少なくとも2つの異なるピーク値が形成されている。本実施形態の細孔径度数分布では、2つの異なるピーク値が形成されている。ここで、2つの異なるピーク値のうち、小さい方のピーク値を小ピーク値といい、大きい方のピーク値を大ピーク値という。
【0028】
複数の細孔31、32のうち、小ピーク値を形成する細孔31(以下、小細孔31という)は、毛細管現象を生じさせる液相冷媒通路310を形成している。複数の細孔31、32のうち、大ピーク値を形成する細孔32(以下、大細孔32という)は、沸騰した冷媒液11を伝熱部3の外部へ流出させる気相冷媒通路320を形成している。
【0029】
本実施形態では、細孔径度数分布において、小ピーク値は、冷媒液11に対して毛細管現象を生じさせる最大値の径である。そして、大ピーク値は、小ピーク値の5倍以上である。
【0030】
次に、上記構成を備える本実施形態の沸騰冷却装置1の作動について説明する。
【0031】
冷却槽10の内部では、電子機器2の発熱によって冷媒液11が沸騰し、気相冷媒が発生する。本実施形態では、冷却槽10の伝熱面13および伝熱部3を介して電子機器2と冷媒液11が熱交換するため、伝熱部3と接触する冷媒液11が沸騰する。
【0032】
より詳細には、伝熱部3の小細孔31に、伝熱部3の最表面から毛細管力により冷媒液11が吸い込まれる。そして、小細孔31内の冷媒液11が沸騰することにより、気相冷媒が生成される。沸騰で生成した気相冷媒は、気泡として、当該小細孔31の付近に点在する大細孔32へ流出し、伝熱部3の最表面から放出される。
【0033】
次に、本実施形態の沸騰冷却装置1に適用される伝熱部3の製造方法について説明する。伝熱部3は、焼結スペーサ法により形成されている。具体的には、伝熱部3の製造方法は、焼結工程およびスペーサ除去工程を有している。
【0034】
まず、金属粒子と、少なくとも二種類の異なる径のスペーサ粒子とを混ぜ合わせて焼結する焼結工程を行う。以下、二種類の異なる径のスペーサ粒子のうち、径の小さいスペーサ粒子を小スペーサ粒子といい、径の大きいスペーサ粒子を大スペーサ粒子という。
【0035】
本実施形態では、金属粒子として粒径3μmのアルミニウム粉末を用い、大スペーサ粒子として粒径400μmの塩化ナトリウム粒子を用い、小スペーサ粒子として粒径30~50μmの塩化ナトリウム粒子を用いている。また、全粒子中、アルミニウム粉末を20体積パーセント(Vol%)、粒径400μmの塩化ナトリウム粒子を60体積パーセント、粒径30~50μmの塩化ナトリウム粒子を20パーセント含有させている。
【0036】
続いて、スペーサ粒子を溶解して取り除くスペーサ除去工程を行う。本実施形態では、スペーサ粒子として塩化ナトリウム粒子を用いているので、焼結体を水洗することによりスペーサ粒子を溶解させて取り除く。
【0037】
これにより、焼結体において、スペーサ粒子が存在していた部分に細孔31、32が形成される。具体的には、焼結体において、大スペーサ粒子が存在していた部分に大細孔32が形成されるとともに、小スペーサ粒子が存在していた部分に小細孔31が形成される。こうして、径の異なる複数の細孔31、32を有する多孔質材である伝熱部3が完成する。なお、スペーサ除去工程後、伝熱部3の最表面に大細孔32が露出していない場合は、伝熱部3の表面に切削加工を施すことにより、大細孔32を露出させてもよい。
【0038】
上記の製造方法により製造された伝熱部3の顕微鏡写真を
図3に示す。
図3において、灰色部分はアルミニウムを示しており、黒色部分は細孔31、32を示している。
【0039】
図3に示すように、伝熱部3の下方側には、アルミニウムが緻密に焼結された緻密層301が形成されている。緻密層301の上部には、多数の細孔31、32が配置された多孔質層302が形成されている。多孔質層302には、多数の小細孔31および大細孔32が形成されている。
【0040】
ここで、比較例として、焼結工程において金属粒子と一種類の径のスペーサ粒子とを焼結することにより製造した伝熱部3Aの顕微鏡写真を
図4に示す。
【0041】
比較例では、金属粒子として粒径3μmのアルミニウム粉末を用い、一種類の径のスペーサ粒子として粒径30~50μmの塩化ナトリウム粒子を用いている。また、全粒子中、アルミニウム粉末を20体積パーセント(Vol%)、粒径30~50μmの塩化ナトリウム粒子を80パーセント含有させている。
【0042】
比較例では、アルミニウム粉末および粒径30~50μmの塩化ナトリウム粒子を混合して焼結させる焼結工程を行った後、実施例と同様のスペーサ除去工程を行った。これにより、焼結体において、一種類の径のスペーサ粒子が存在していた部分に細孔33が形成される。こうして、単一径の複数の細孔33を有する多孔質材である伝熱部3Aが完成する。
【0043】
図4に示すように、比較例の伝熱部3Aは、多孔質層302に多数の細孔33が形成されている。多数の細孔33の径は均一である。すなわち、比較例の伝熱部3Aに形成された細孔33の径の度数分布において、1つのピーク値が形成されている。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の沸騰冷却装置1では、伝熱部3は、径の異なる複数の細孔31、32を有する多孔質材で構成されている。伝熱部3に形成された細孔31、32の径の度数分布では、少なくとも2つの異なるピーク値が形成されている。そして、細孔径度数分布において、小ピーク値を形成する小細孔31は液相冷媒通路310を形成するとともに、大ピーク値を形成する大細孔32は気相冷媒通路320を形成している。
【0045】
これによれば、小細孔31により、伝熱部3の内部に液相の冷媒液11を供給して冷媒液11の沸騰起点を形成することができる。そして、大細孔32により、沸騰した冷媒液11を伝熱部3の外部へ流出させることができる。このとき、沸騰した冷媒液11が流通する大細孔32の径は、小細孔31の径よりも大きいので、沸騰した冷媒液11を伝熱部3の外部へ排出させる際の圧力損失を低減することができる。その結果、冷却性能を向上させることが可能となる。
【0046】
また、本実施形態における伝熱部3の製造方法は、金属粒子および少なくとも二種類の異なる径のスペーサ粒子を焼結する焼結工程と、スペーサ粒子を溶解して取り除くスペーサ除去工程と、を備えている。これによれば、細孔31、32の径や気孔率について精度の良い伝熱部3を製造することができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態では、上記第1実施形態と比較して、伝熱部3の構成が変更されている。
【0048】
具体的には、
図5および
図6に示すように、伝熱部3には溝部4が形成されている。伝熱部3に溝部4を設けることにより、伝熱部3の表面には凹凸部40が形成されている。本実施形態の伝熱部3には、リング状(すなわち円環状)の溝部4が複数形成されている。複数のリング状の溝部4は、伝熱部3の厚み方向から見たときに、同心円状に配置されている。
【0049】
次に、本実施形態の伝熱部3の製造方法について、上記第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。本実施形態における伝熱部3の製造方法は、スペーサ除去工程前に、金属粒子およびスペーサ粒子の混合体(本例では、金属粒子およびスペーサ粒子の焼結体)の表面に凹凸部40を形成する凹凸部形成工程を有している。
【0050】
本実施形態の凹凸部形成工程では、焼結工程後、金属粒子およびスペーサ粒子の焼結体に対して切削加工を施すことにより、溝部4を形成する。その後、スペーサ除去工程を行い、溝部4が形成された焼結体からスペーサ粒子を除去する。これにより、表面に凹凸部40が形成された伝熱部3が完成する。
【0051】
その他の伝熱部3の構成および製造方法は、第1実施形態と同様である。したがって、本実施形態の沸騰冷却装置1においても、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。すなわち、本実施形態の沸騰冷却装置1によれば、沸騰した冷媒液11を伝熱部3の外部へ排出させる際の圧力損失を低減して、冷却性能を向上させることが可能となる。
【0052】
さらに、本実施形態では、伝熱部3の表面に凹凸部40が形成されているので、伝熱部3の表面積を増大させることができる。これにより、伝熱部3の表面に露出している小細孔31および大細孔32を増加させることができる。このため、伝熱部3の表面から冷媒液11を内部に供給する面積、および、伝熱部3の表面から沸騰した冷媒液11(すなわち気泡)を排出する面積を増大させることができる。その結果、冷却性能をより向上させることが可能となる。
【0053】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態は、上記第1実施形態と比較して、冷却槽10内の冷媒液11を循環させる点が異なる。
【0054】
図7に示すように、冷却槽10には、冷却槽10内の冷媒液11が循環する循環回路20が接続されている。循環回路20には、循環ポンプ21と熱交換器22が設けられている。
【0055】
循環ポンプ21は、冷媒液11を圧送して循環回路20に循環させ、冷媒液11を熱交換器22に供給する。熱交換器22は、冷媒液11の熱を放熱して冷却する。熱交換器22としては、例えば冷媒液11を外気と熱交換して冷却するラジエータ、あるいは冷媒液11を冷凍サイクルの低温冷媒と熱交換して冷却するチラー等を用いることができる。熱交換器22で冷媒液11を冷却することで、冷媒液11の温度上昇を抑制することができ、サブクール状態を維持することができる。
【0056】
循環回路20は、冷媒液出口部23および冷媒液入口部24で冷却槽10と接続されている。冷却槽10の冷媒液11は、冷媒液出口部23を介して循環回路20に流出する。循環回路20を循環した冷媒液11は、冷媒液入口部24を介して冷却槽10に流入する。
【0057】
冷却槽10の内部では、冷媒液入口部24から冷媒液出口部23に向かう冷媒液11の流れが形成される。
図7に示す例では、冷却槽10の左側に冷媒液入口部24が設けられ、冷却槽10の右側に冷媒液出口部23が設けられている。このため、冷却槽10の内部で左側から右側に向かう冷媒液11の流れが形成される。
【0058】
その他の沸騰冷却装置1の構成は、第1実施形態と同様である。したがって、本実施形態の沸騰冷却装置1においても、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。すなわち、本実施形態の沸騰冷却装置1によれば、沸騰した冷媒液11を伝熱部3の外部へ排出させる際の圧力損失を低減して、冷却性能を向上させることが可能となる。
【0059】
さらに、本実施形態によれば、冷却槽10の冷媒液11は、循環回路20を介して熱交換器22に供給され、熱交換器22で冷却される。熱交換器22による冷却で、冷媒液11は積極的にサブクール状態を維持することができる。その結果、冷却性能をより向上させることが可能となる。
【0060】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0061】
(1)上述した実施形態では、電子機器2を冷却槽10の外部に設けた例について説明したが、電子機器2と冷却槽10内の冷媒液11との間で熱交換が可能となっていれば、電子機器2は冷却槽10の内部に設けられていてもよい。すなわち、電子機器2および伝熱部3を冷媒液11に浸漬して、電子機器2の発生させた熱を冷媒液11へ放熱させるように構成してもよい。この場合、冷媒液11としては、絶縁流体を用いてもよい。具体的には、冷媒液としてフッ素系不活性液体を用いてもよい。フッ素系不活性液体は、絶縁性、伝熱特性、安定性に優れた冷媒液である。
【0062】
(2)上述した実施形態では、沸騰冷却装置1を密閉式とした、すなわち冷却槽10を大気と連通していない液密構造とした例について説明したが、沸騰冷却装置1の構成はこの態様に限定されない。例えば、沸騰冷却装置1を大気開放式としてもよい。
【0063】
具体的には、冷却槽10の上部に大気開口部を設けることで、冷却槽10の内部を、大気開口部を介して大気に開放してもよい。この場合、冷却槽10の内部は大気圧に維持される。また、冷却槽10の外部に、冷媒液11を貯蔵するとともに冷却槽10と連通する貯液槽を設け、当該貯液槽に大気開口部を形成してもよい。
【0064】
(3)上述した第2実施形態では、伝熱部3にリング状の溝部4を複数形成した例について説明したが、溝部4の形状はこの態様に限定されない。例えば、
図8に示すように、伝熱部3に、溝部4を格子状(すなわち網目状)に形成してもよい。
図9に示すように、伝熱部3に、円状の溝部4を複数形成してもよい。
図10に示すように、伝熱部3に、矩形状(本例では正方形状)の溝部4を複数形成してもよい。
【0065】
(4)上述した第2実施形態では、凹凸部形成工程において、焼結体に対して切削加工を施すことにより凹凸部40を形成したが、凹凸部40の形成方法はこの態様に限定されない。例えば、焼結工程では、金属粒子とスペーサ粒子とを混ぜ合わせた混合体を、厚み方向から板状部材により押えた状態で加熱炉に搬入することにより焼結を行うが、当該板状部材側に凹凸を形成することにより、焼結体に凹凸部40を形成してもよい。この場合、焼結工程と凹凸形成工程とを同時に行うことができる。
【符号の説明】
【0066】
2 電子機器(冷却対象物)
3 伝熱部
11 冷媒液
31 小細孔(細孔)
32 大細孔(細孔)
310 液相冷媒通路
320 気相冷媒通路