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特開2024-36774OZTによる海域衝突リスク評価方法、海域衝突リスク評価プログラム、及び海域衝突リスク評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036774
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】OZTによる海域衝突リスク評価方法、海域衝突リスク評価プログラム、及び海域衝突リスク評価システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 3/02 20060101AFI20240311BHJP
   B63B 79/20 20200101ALI20240311BHJP
   G16Y 10/40 20200101ALI20240311BHJP
   G16Y 40/10 20200101ALI20240311BHJP
【FI】
G08G3/02 A
B63B79/20
G16Y10/40
G16Y40/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141232
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 里奈
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181BB04
5H181BB13
5H181FF04
5H181FF13
5H181FF22
5H181FF32
5H181LL01
5H181LL02
(57)【要約】
【課題】AISデータに基づいて海域を航行する船舶同士の航行妨害ゾーン(OZT)及び潜在的衝突リスク(OZT占有率)を評価する。
【解決手段】海域を航行する船舶のAISデータを取得し、複数の船舶のうちの1隻を自船と定めてAISデータから自船データを抽出し、複数の船舶のうちの自船以外を自船が遭遇する他船と定めてAISデータから他船データを抽出し、同時刻における自船と他船を組とし、OZTが自船にとって衝突の危険性があるか否かを判定し、複数の船舶のうちの他の1隻を次の自船と定め、上記処理を遭遇する全船舶に対して終えるまで繰り返し、危険性ありと判定されたOZT計算の結果を出力する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海域衝突リスク評価システムを用いて、航行妨害ゾーン(OZT)により複数の船舶が航行する海域の衝突リスクを評価する海域衝突リスク評価方法であって、
評価条件として前記海域と解析期間を取得する評価条件取得ステップと、
前記海域を航行する前記船舶のAISデータを取得するAISデータ取得ステップと、
複数の前記船舶のうちの1隻を自船と定めて前記AISデータから自船データを抽出する自船データ抽出ステップと、
複数の前記船舶のうちの前記自船以外を前記自船が遭遇する他船と定めて前記AISデータから他船データを抽出する他船データ抽出ステップと、
同時刻における前記自船と前記他船を組としたOZT計算を行うOZT計算ステップと、
前記OZT計算の結果から前記OZTが前記自船にとって衝突の危険性があるか否かを判定する危険OZT判定ステップと、
複数の前記船舶のうちの他の1隻を次の前記自船と定め前記自船データ抽出ステップと、前記他船データ抽出ステップと、前記OZT計算ステップと、前記危険OZT判定ステップを遭遇する全船舶に対して終えるまで繰り返す繰返ステップと、
前記危険OZT判定ステップで危険性ありと判定された前記OZT計算の結果を出力するOZT計算結果出力ステップと、を実行することを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法であって、
前記OZT計算ステップで前記OZT計算を行うに当たり、予め取得した計算間隔、
前記自船と前記他船の情報とその2船間距離、及び予め取得した固定値もしくは前記自船と前記他船の前記情報から計算される可変の距離で定義される最小安全航過距離を用いることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法であって、
前記危険OZT判定ステップは、前記OZTが前記自船にとって衝突の危険性があるか否かを判定するに当たり、予め取得した角度と長さで定義される評価エリアの設定条件を用いることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法であって、
前記AISデータとして、取得した前記AISデータに基づいて前記船舶の1隻毎の航跡データを求め、任意時間での前記AISデータを同期した前記航跡データを用いることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項5】
請求項1に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法であって、
前記OZT計算ステップにおける前記自船と前記他船を組とした前記OZT計算は、前記自船と遭遇する前記他船の1隻毎に、遭遇する前記他船の全隻数を終える迄、繰り返して行うことを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項6】
請求項1に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法であって、
前記OZT計算結果出力ステップで出力された危険性ありと判定された前記OZT計算の結果のファイルを取得し、個々の危険なOZTデータを抽出する危険OZTデータ抽出ステップと、
前記危険なOZTデータに基づいて前記海域の危険なOZTが存在する格子を計算する危険OZT格子計算ステップと、
前記格子毎に前記危険なOZTの個数を累積する危険OZT数累積ステップと、
予め取得した前記解析期間で前記危険なOZTの累積値を除算する危険OZT累積値除算ステップと、
前記OZT計算の計算間隔を考慮して所定期間当たりの前記危険なOZTの最大値を求め、前記解析期間で除算した前記危険なOZTの累積値をさらに前記危険なOZTの最大値で除算して潜在的衝突リスクを求める潜在的衝突リスク算出ステップ、を実行することを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項7】
請求項6に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法であって、
前記危険なOZTデータの全てに対して順次、前記危険OZT格子計算ステップと、前記危険OZT数累積ステップを繰り返すことを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項8】
請求項6に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法であって、
前記危険なOZTが存在する前記格子の全てに対して順次、前記危険OZT累積値除算ステップと、前記潜在的衝突リスク算出ステップを繰り返すことを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項9】
請求項6に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法であって、
前記潜在的衝突リスクの算出結果を出力し表示する評価結果可視化ステップを実行することを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項10】
請求項6に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法であって、
前記潜在的衝突リスク算出ステップで得られた前記潜在的衝突リスクに基づいて、前記船舶の最適航路を計画することを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価方法。
【請求項11】
コンピュータに、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法における前記評価条件取得ステップ、前記AISデータ取得ステップ、前記自船データ抽出ステップ、前記他船データ抽出ステップ、前記OZT計算ステップ、前記危険OZT判定ステップ、前記繰返ステップ、前記OZT計算結果出力ステップを実行させることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価プログラム。
【請求項12】
請求項5を引用する請求項11に記載のOZTによる海域衝突リスク評価プログラムであって、
前記OZT計算ステップにおいて、前記自船と遭遇する前記他船の1隻毎に、遭遇する前記他船の全隻数を終える迄、繰り返して行わせることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価プログラム。
【請求項13】
コンピュータに、
請求項6から請求項10のいずれか1項に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法における前記危険OZTデータ抽出ステップ、前記危険OZT格子計算ステップ、前記危険OZT数累積ステップ、前記危険OZT累積値除算ステップ、及び前記潜在的衝突リスク算出ステップを実行させることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価プログラム。
【請求項14】
請求項7を引用する請求項13に記載のOZTによる海域衝突リスク評価プログラムであって、
前記危険なOZTデータの全てに対して順次、前記危険OZT格子計算ステップと、前記危険OZT数累積ステップを繰り返させることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価プログラム。
【請求項15】
請求項8を引用する請求項13に記載のOZTによる海域衝突リスク評価プログラムであって、
前記危険なOZTが存在する前記格子の全てに対して順次、前記危険OZT累積値除算ステップと、前記潜在的衝突リスク算出ステップを繰り返させることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価プログラム。
【請求項16】
請求項10を引用する請求項13に記載のOZTによる海域衝突リスク評価プログラムであって、前記最適航路を計画し、出力させることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価プログラム。
【請求項17】
コンピュータと、入力手段と、出力手段を備え、前記コンピュータに請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のOZTによる海域衝突リスク評価方法を実行させることを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価システム。
【請求項18】
請求項17に記載のOZTによる海域衝突リスク評価システムであって、
前記コンピュータと、前記入力手段及び前記出力手段とを、情報通信網を介して接続することを特徴とするOZTによる海域衝突リスク評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航行妨害ゾーン(OZT)を用いた海域衝突リスク評価方法、海域衝突リスク評価プログラム、及び海域衝突リスク評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体同士の衝突の危険性(リスク)を適切に示すための技術が開示されている。
【0003】
船舶同士の衝突の可能性に対して警告する衝突警告装置が開示されている(特許文献1)。他船の位置及び速度に関する情報を利用して、他船が別の船舶に将来的に衝突する危険性を示す衝突リスクを計算し、所定以上の危険性を示す衝突リスク値をもつ他船と、そうでない他船とを区別として表示する。
【0004】
また、航行妨害ゾーン(OZT:Obstacle Zone by Target)の視認性の向上を図った船舶監視システムが開示されている(特許文献2)。第1船舶の位置及び速度と、第2船舶の位置及び速度とに基づいて、第2船舶の予想針路上の各点について第1船舶が変針して各点に到達すると仮定したときに、第1船舶と第2船舶とが衝突するリスク値を算出し、リスク値が閾値以上の点が2以上連続する範囲をリスク領域として表示する。
【0005】
同様に、第1船舶と第2船舶の衝突リスクを算出する技術が開示されている(特許文献3)。さらに、AIS(Automatic Identification System)データから船舶同士の衝突危険度を算出するアルゴリズムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許出願公開第WO2020/003856号パンフレット
【特許文献2】国際特許出願公開第WO2022/085355号パンフレット
【特許文献3】特表2018/193596号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「OZTを用いた伊豆大島西方海域における衝突危険の遭遇特徴に関する解析」、西崎ちひろ他、日本航海学会論文集 第139巻、第48~54頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、船舶等の潜在的な衝突リスクの推定には、物体群の数、位置、速度から計算される確率論的アプローチと個々の船舶の遭遇から衝突の可能性を判別する決定論的アプローチがある。後者はOZTを含め、様々な指標が海域の安全性評価手法に適用されている。しかしながら、ある一定以上の衝突の危険性を持つ遭遇回数を計数するに留まっており、潜在的な衝突リスクを推定には至っていない。
【0009】
本願発明は、AISデータに基づいて海域を航行する船舶同士のOZT、及び潜在的衝突リスク(OZT占有率)を評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る海域衝突リスク評価方法は、海域衝突リスク評価システムを用いて、OZTにより複数の船舶が航行する海域の衝突リスクを評価する海域衝突リスク評価方法であって、評価条件として前記海域と解析期間を取得する評価条件取得ステップと、前記海域を航行する前記船舶のAISデータを取得するAISデータ取得ステップと、複数の前記船舶のうちの1隻を自船と定めて前記AISデータから自船データを抽出する自船データ抽出ステップと、複数の前記船舶のうちの前記自船以外を前記自船が遭遇する他船と定めて前記AISデータから他船データを抽出する他船データ抽出ステップと、同時刻における前記自船と前記他船を組としたOZT計算を行うOZT計算ステップと、前記OZT計算の結果から前記OZTが前記自船にとって衝突の危険性があるか否かを判定する危険OZT判定ステップと、複数の前記船舶のうちの他の1隻を次の前記自船と定め前記自船データ抽出ステップと、前記他船データ抽出ステップと、前記OZT計算ステップと、前記危険OZT判定ステップを遭遇する全船舶に対して終えるまで繰り返す繰返ステップと、前記危険OZT判定ステップで危険性ありと判定された前記OZT計算の結果を出力するOZT計算結果出力ステップと、を実行することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記OZT計算ステップで前記OZT計算を行うに当たり、予め取得した計算間隔、前記自船と前記他船の情報とその2船間距離、及び予め取得した固定値もしくは前記自船と前記他船の前記情報から計算される可変の距離で定義される最小安全航過距離を用いることが好適である。
【0012】
また、前記危険OZT判定ステップは、前記OZTが前記自船にとって衝突の危険性があるか否かを判定するに当たり、予め取得した角度と長さで定義される評価エリアの設定条件を用いることが好適である。
【0013】
また、前記AISデータとして、取得した前記AISデータに基づいて前記船舶の1隻毎の航跡データを求め、任意時間での前記AISデータを同期した前記航跡データを用いることが好適である。
【0014】
また、前記OZT計算ステップにおける前記自船と前記他船を組とした前記OZT計算は、前記自船と遭遇する前記他船の1隻毎に、遭遇する前記他船の全隻数を終える迄、繰り返して行うことが好適である。
【0015】
また、前記OZT計算結果出力ステップで出力された危険性ありと判定された前記OZT計算の結果のファイルを取得し、個々の危険なOZTデータを抽出する危険OZTデータ抽出ステップと、前記危険なOZTデータに基づいて前記海域の危険なOZTが存在する格子を計算する危険OZT格子計算ステップと、前記格子毎に前記危険なOZTの個数を累積する危険OZT数累積ステップと、予め取得した前記解析期間で前記危険なOZTの累積値を除算する危険OZT累積値除算ステップと、前記OZT計算の計算間隔を考慮して所定期間当たりの前記危険なOZTの最大値を求め、前記解析期間で除算した前記危険なOZTの累積値をさらに前記危険なOZTの最大値で除算して所定期間当たりの潜在的衝突リスクを求める潜在的衝突リスク算出ステップ、を実行することが好適である。
【0016】
また、前記危険なOZTデータの全てに対して順次、前記危険OZT格子計算ステップと、前記危険OZT数累積ステップを繰り返すことが好適である。
【0017】
また、前記危険なOZTが存在する前記格子の全てに対して順次、前記危険OZT累積値除算ステップと、前記潜在的衝突リスク算出ステップを繰り返すことが好適である。
【0018】
また、前記潜在的衝突リスクの算出結果を出力し表示する評価結果可視化ステップを実行することが好適である。
【0019】
また、前記潜在的衝突リスク算出ステップで得られた前記潜在的衝突リスクに基づいて、前記船舶の最適航路を計画することが好適である。
【0020】
請求項11に係る海域衝突リスク評価プログラムは、コンピュータに、上記のOZTによる海域衝突リスク評価方法における前記評価条件取得ステップ、前記AISデータ取得ステップ、前記自船データ抽出ステップ、前記他船データ抽出ステップ、前記OZT計算ステップ、前記危険OZT判定ステップ、前記繰返ステップ、前記OZT計算結果出力ステップを実行させることを特徴とする。
【0021】
ここで、前記OZT計算ステップにおいて、前記自船と遭遇する前記他船の1隻毎に、遭遇する前記他船の全隻数を終える迄、繰り返して行わせることが好適である。
【0022】
また、コンピュータに、上記のOZTによる海域衝突リスク評価方法における前記危険OZTデータ抽出ステップ、前記危険OZT格子計算ステップ、前記危険OZT数累積ステップ、前記危険OZT累積値除算ステップ、及び前記潜在的衝突リスク算出ステップを実行させることが好適である。
【0023】
また、前記危険なOZTデータの全てに対して順次、前記危険OZT格子計算ステップと、前記危険OZT数累積ステップを繰り返させることが好適である。
【0024】
また、前記危険なOZTが存在する前記格子の全てに対して順次、前記危険OZT累積値除算ステップと、前記潜在的衝突リスク算出ステップを繰り返させることが好適である。
【0025】
また、前記最適航路を計画し、出力させることが好適である。
【0026】
また、コンピュータと、入力手段と、出力手段を備え、前記コンピュータに上記のOZTによる海域衝突リスク評価方法を実行させることが好適である。
【0027】
また、前記コンピュータと、前記入力手段及び前記出力手段とを、情報通信網を介して接続することが好適である。
【0028】
例えば、複数のコンピュータ情報通信網を介して前記AISデータを共有接続し、前記複数のコンピュータによってして上記のOZTによる海域衝突リスク評価方法を実行させることが好適である。
【0029】
例えば、複数のコンピュータ情報通信網を介して接続し、前記複数のコンピュータによって海域衝突リスク評価プログラムを共有して上記のOZTによる海域衝突リスク評価方法を実行させることが好適である。
【発明の効果】
【0030】
請求項1に係る海域衝突リスク評価方法は、海域衝突リスク評価システムを用いて、OZTにより複数の船舶が航行する海域の衝突リスクを評価する海域衝突リスク評価方法であって、評価条件として前記海域と解析期間を取得する評価条件取得ステップと、前記海域を航行する前記船舶のAISデータを取得するAISデータ取得ステップと、複数の前記船舶のうちの1隻を自船と定めて前記AISデータから自船データを抽出する自船データ抽出ステップと、複数の前記船舶のうちの前記自船以外を前記自船が遭遇する他船と定めて前記AISデータから他船データを抽出する他船データ抽出ステップと、同時刻における前記自船と前記他船を組としたOZT計算を行うOZT計算ステップと、前記OZT計算の結果から前記OZTが前記自船にとって衝突の危険性があるか否かを判定する危険OZT判定ステップと、複数の前記船舶のうちの他の1隻を次の前記自船と定め前記自船データ抽出ステップと、前記他船データ抽出ステップと、前記OZT計算ステップと、前記危険OZT判定ステップを遭遇する全船舶に対して終えるまで繰り返す繰返ステップと、前記危険OZT判定ステップで危険性ありと判定された前記OZT計算の結果を出力するOZT計算結果出力ステップと、を実行することによって、AISデータに基づいて海域を航行する船舶同士のOZTに基づく衝突リスクを評価することができる。
【0031】
ここで、前記OZT計算ステップで前記OZT計算を行うに当たり、予め取得した計算間隔、前記自船と前記他船の情報とその2船間距離、及び予め取得した固定値もしくは前記自船と前記他船の前記情報から計算される可変の距離で定義される最小安全航過距離を用いることによって、計算の粒度を調整したり(時間間隔が細かい方が回頭等の影響などを考慮した詳細な評価が可能であるが、データ量や計算時間の負荷が大きくなる。)、不要な自船と他船の組み合わせについてOZTを算出することを防いだり、自他船の長さを考慮した衝突危険性を評価したりすることができる。
【0032】
また、前記危険OZT判定ステップは、前記OZTが前記自船にとって衝突の危険性があるか否かを判定するに当たり、予め取得した角度と長さで定義される評価エリアの設定条件を用いることによって、OZTに基づく衝突の危険性を適切に評価することができる。
【0033】
また、前記AISデータとして、取得した前記AISデータに基づいて前記船舶の1隻毎の航跡データを求め、任意時間での前記AISデータを同期した前記航跡データを用いることによって、任意時間について同期されたAISデータに基づくOZTを求めることができる。
【0034】
また、前記OZT計算ステップにおける前記自船と前記他船を組とした前記OZT計算は、前記自船と遭遇する前記他船の1隻毎に、遭遇する前記他船の全隻数を終える迄、繰り返して行うことによって、自船と他船を組とした海域を航行する全船舶についてOZTを求めることができる。
【0035】
また、前記OZT計算結果出力ステップで出力された危険性ありと判定された前記OZT計算の結果のファイルを取得し、個々の危険なOZTデータを抽出する危険OZTデータ抽出ステップと、前記危険なOZTデータに基づいて前記海域の危険なOZTが存在する格子を計算する危険OZT格子計算ステップと、前記格子毎に前記危険なOZTの個数を累積する危険OZT数累積ステップと、予め取得した前記解析期間で前記危険なOZTの累積値を除算する危険OZT累積値除算ステップと、前記OZT計算の計算間隔を考慮して所定期間当たりの前記危険なOZTの最大値を求め、前記解析期間で除算した前記危険なOZTの累積値をさらに前記危険なOZTの最大値で除算して所定期間当たり潜在的衝突リスクを求める潜在的衝突リスク算出ステップ、を実行するによって、AISデータに基づいて海域を航行する船舶同士の潜在的衝突リスク(OZT占有率)を適切に評価することができる。
【0036】
また、前記危険なOZTデータの全てに対して順次、前記危険OZT格子計算ステップと、前記危険OZT数累積ステップを繰り返すことによって、評価対象の領域(海域)を分割した格子に対応する各領域に対してAISデータに基づいて潜在的衝突回数(危険OZT個数)を適切に評価することができる。
【0037】
また、前記危険なOZTが存在する前記格子の全てに対して順次、前記危険OZT累積値除算ステップと、前記潜在的衝突リスク算出ステップを繰り返すことによって、評価対象の領域(海域)を分割した格子のすべてに対応する領域に対してAISデータに基づいて所定期間当たりの潜在的衝突リスク(OZT占有率)を適切に評価することができる。
【0038】
また、前記潜在的衝突リスクの算出結果を出力し表示する評価結果可視化ステップを実行することによって、潜在的衝突リスク(OZT占有率)を視覚的に提示することができる。
【0039】
また、前記潜在的衝突リスク算出ステップで得られた前記潜在的衝突リスクに基づいて、前記船舶の最適航路を計画することによって、潜在的衝突リスク(OZT占有率)に基づいて船舶の最適航路を計画及び設定することができる。
【0040】
請求項11に係る海域衝突リスク評価プログラムは、コンピュータに、上記のOZTによる海域衝突リスク評価方法における前記評価条件取得ステップ、前記AISデータ取得ステップ、前記自船データ抽出ステップ、前記他船データ抽出ステップ、前記OZT計算ステップ、前記危険OZT判定ステップ、前記繰返ステップ、前記OZT計算結果出力ステップを実行させることによって、AISデータに基づいて海域を航行する船舶同士のOZTによる衝突リスクを評価することができる。
【0041】
ここで、前記OZT計算ステップにおいて、前記自船と遭遇する前記他船の1隻毎に、遭遇する前記他船の全隻数を終える迄、繰り返して行わせることによって、自船と他船を組とした海域を航行する全船舶についてOZTを計算することができる。
【0042】
また、コンピュータに、上記のOZTによる海域衝突リスク評価方法における前記危険OZTデータ抽出ステップ、前記危険OZT格子計算ステップ、前記危険OZT数累積ステップ、前記危険OZT累積値除算ステップ、及び前記潜在的衝突リスク算出ステップを実行させることによって、AISデータに基づいて海域を航行する船舶同士の潜在的衝突リスク(OZT占有率)を適切に評価することができる。
【0043】
また、前記危険なOZTデータの全てに対して順次、前記危険OZT格子計算ステップと、前記危険OZT数累積ステップを繰り返させることによって、評価対象の領域(海域)を分割した格子に対応する各領域に対してAISデータに基づいて潜在的衝突回数(危険OZT個数)を適切に評価することができる。
【0044】
また、前記危険なOZTが存在する前記格子の全てに対して順次、前記危険OZT累積値除算ステップと、前記潜在的衝突リスク算出ステップを繰り返させることによって、評価対象の領域(海域)を分割した格子のすべてに対応する領域に対してAISデータに基づいて所定期間当たりの潜在的衝突リスク(OZT占有率)を適切に評価することができる。
【0045】
また、前記最適航路を計画し、出力させることによって、潜在的衝突リスク(OZT占有率)に基づいて船舶の最適航路を計画及び設定することができる。
【0046】
また、コンピュータと、入力手段と、出力手段を備え、前記コンピュータに上記のOZTによる海域衝突リスク評価方法を実行させることによって、入力手段及び出力手段を介してコンピュータにより、評価対象の海域を航行する船舶のOZT及び潜在的衝突リスク(OZT占有率)を評価することができる。
【0047】
また、前記コンピュータと、前記入力手段及び前記出力手段とを、情報通信網を介して接続することによって、コンピュータの入力と出力を遠隔地から情報通信網を介し可能とし、評価対象の海域を航行する船舶同士のOZT、及び潜在的衝突リスク(OZT占有率)を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の実施の形態における海域衝突リスク評価システムの構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における海域衝突リスク評価装置の構成を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における船舶同士のOZTを求める方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施の形態における潜在的衝突リスクを評価する方法を示すフローチャートである。
図5】OZTの計算方法を説明する図である。
図6】本発明の実施の形態における基準情報を用いた衝突の危険性の評価方法を説明する図である。
図7】本発明の実施の形態における潜在的衝突リスク(OZT占有率)の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明の実施の形態における海域衝突リスク評価システム100は、図1に示すように、コンピュータから構成される海域衝突リスク評価装置102と、会社A~機関Cのコンピュータ(102a~102c)及び情報通信網104を含んで構成される。会社A~機関Cのコンピュータ(102a~102c)は、情報通信網104を介してセンターの海域衝突リスク評価装置102に接続される。
【0050】
図1では、海域衝突リスク評価装置102はセンターに配置され、会社A~機関Cのコンピュータ(102a~102c)は、各入力手段、出力手段と接続され、ユーザからの入力手段を介した入力の受け付けと、出力手段への評価結果の出力をするとともに、センターの海域衝突リスク評価装置102との情報のやり取りの役割を果たす。
【0051】
海域衝突リスク評価装置102は、OZT(Obstacle Zone by Target)を計算し、当該OZTに基づいて潜在的衝突リスクを推定及び評価する。OZTは、自船の行動空間の中で他船との存在とその運動により妨げられる空間、すなわち他船による妨害ゾーン(Obstacle Zone)を示す情報である。
【0052】
海域衝突リスク評価装置102は、一般的なコンピュータよって構成することができる。海域衝突リスク評価装置102は、図2に示すように、処理部10、記憶部12、入力部14及び出力部16を含んで構成される。
【0053】
処理部10は、CPU等の演算処理を行う手段を含む。処理部10は、記憶部12に記憶されている海域衝突リスク評価プログラムを実行することによって、本実施の形態における海域衝突リスク評価処理を実現する。記憶部12は、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶手段を含む。記憶部12は、処理部10とアクセス可能に接続され、海域衝突リスク評価プログラム、外部から取得したAISデータ等の海域衝突リスク評価処理に供されるデータを記憶する。入力部14は、海域衝突リスク評価装置102に情報を入力する手段を含む。入力部14は、例えば、ユーザからの入力を受けるタッチパネルやキーボードを備える。また、入力部14は、海域衝突リスク評価装置102の外部から情報を受け取るネットワークインターフェース等を含み、海域衝突リスク評価プログラム、海域衝突リスク評価処理に供されるデータを受信する。出力部16は、海域衝突リスク評価装置102で処理された情報を表示したり、送信したりする手段を含む。出力部16は、例えば、ディスプレイを備える。また、入出力部44は、海域衝突リスク評価装置102と外部との情報を送受信するネットワークインターフェース等を含み、海域衝突リスク評価装置102で処理された情報を外部の装置(コンピュータ 102a、102b、102c)へ送信し、また外部の装置(コンピュータ 102a、102b、102c)からの入力情報等を受信する。
【0054】
なお、海域衝突リスク評価プログラムは、記憶部12に記憶させるのではなく、クラウド等に記憶させて複数のコンピュータで共有し、複数の海域衝突リスク評価装置102として機能させてもよい。例えば、入出力部44に含まれるネットワークインターフェースを用いて情報通信網104を介して処理に必要なデータを送受信し、ウェブ上にて海域衝突リスク評価プログラムを実行するアプリケーションによって処理を行うようにしてもよい。これによって、複数のコンピュータ(海域衝突リスク評価装置102)の各々において海域衝突リスク評価プログラムを更新する必要がなくなり、常に最新の手法にて潜在的衝突リスクを解析することができる。
【0055】
また、AISデータは、記憶部12に記憶させるのではなく、クラウド等に記憶させて複数のコンピュータ(海域衝突リスク評価装置102)において共有するようにしてもよい。この場合、AISデータは、入出力部44に含まれるネットワークインターフェースを用いて情報通信網104を介して取得すればよい。これによって、複数のコンピュータ(海域衝突リスク評価装置102)の各々において潜在的衝突リスクを任意に計算することができる。
【0056】
もちろん、海域衝突リスク評価プログラム及びAISデータの両方をクラウド等に記憶させて複数のコンピュータ(海域衝突リスク評価装置102)において共有するようにしてもよい。
【0057】
海域衝突リスク評価装置102は、図1に示すように、評価条件取得部20、AISデータ取得部22、自船データ抽出部24、他船データ抽出部26、OZT計算部28、危険OZT判定部30、危険OZT格子計算部32、危険OZT数累積部34、危険OZT数累積除算部36、潜在的衝突リスク算出部38、評価結果可視化部40、最適航路計画部42、及び入出力部44として機能する。
【0058】
なお、コンピュータをスタンドアロン型として、入出力は当該コンピュータで行い、海域衝突リスク評価プログラムを用いて、海域の衝突リスク評価を実行することやAISデータのみを情報通信網104を介して取得するなどの構成としてもよい。また、海域衝突リスク評価装置102は、各部の機能を複数のコンピュータを組み合わせて実現したり、一部をハード回路で構成したりすることも可能である。
【0059】
図3及び図4は、本発明の実施の形態における海域衝突リスク評価方法を示すフローチャートである。以下、図3及び図4のフローチャートを参照しつつ、海域衝突リスク評価システム100における海域衝突リスク評価方法について説明する。なお、海域衝突リスク評価方法は、海域衝突リスク評価装置102において海域衝突リスク評価プログラムを実行することによって実現される。まず、図3のフローチャートを参照して、船舶同士のOZTを求める方法について説明する。
【0060】
ステップS10では、船舶自動識別装置(AIS:Automatic Identification System)のデータを取得する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102はAISデータ取得部22として機能する。海域衝突リスク評価装置102では、入力部14を介して、入出力部44の機能によりAISデータを取得する。
【0061】
AISは、船舶の識別符号、種類、位置、針路、速力、航行状態及びその他の安全に関する情報を自動的にVHF帯電波で送受信し、船舶局相互間及び船舶局と陸上局の航行援助施設等との間で情報の交換を行うシステムである。沿岸陸上部にAIS関連施設(AIS送受信所、運用機関)を整備することにより、AIS搭載船舶の船名、船の長さ等の静的情報、位置、速力等の動的情報、仕向港、及び到着予定時刻等の航海関連情報をリアルタイムに把握する。船舶交通が輻輳する海域においては、主として航路及びその付近を航行する船舶に対する円滑な航行管制と効果的な情報提供を行い、また、沿岸海域においては、乗揚げのおそれが船舶や荒天時に走錨のおそれがある船舶に対し注意喚起することができる。また、AIS搭載船舶に海難情報や気象海象情報等の各種航行安全情報を提供することができる。
【0062】
ステップS12では、AISデータの解析条件の取得が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は評価条件取得部20として機能する。海域衝突リスク評価装置102では、入力部14を介して、入出力部44の機能により評価対象とする海域及び評価対象とする解析期間が取得される。潜在的衝突リスクを評価する解析期間は、特に限定されるものではないが、例えば1日とすることができる。評価対象とする海域は、複数の船舶が航行する海域である。
【0063】
ステップS14では、1隻毎の航跡データが求められる。ステップS10において取得されたAISデータに含まれる船舶について1隻毎の航跡データを求める。また、同時に、AISデータに含まれる船舶の全隻数を取得する。ステップS16では、ステップS14において求めた1隻毎の航跡データに対して任意時間についてAISデータの同期処理や異常値の排除処理が行われる。
【0064】
ステップS18では、自船情報(自船データ)が抽出される。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は自船データ抽出部24として機能する。ステップS10において取得され、ステップS16において処理されたAISデータから1隻を自船と決めて、当該自船に関する情報を自船情報(自船データ)として抽出する。
【0065】
自船情報(自船データ)は、動的情報及び静的情報を含む。動的情報は、海上移動業務識別コード(MMSI)、時刻(time)、対地速力(SOG)、緯度経度(LatLon)、対地進路(COG)、船首方位(HDG)を含むことが好適である。静的情報は、海上移動業務識別コード(MMSI)、船名(ship name)、船種(ship type)、船長(Loa)、船幅(Breadth)を含むことが好適である。海上移動業務識別コード(MMSI)は、動的情報と静的情報を紐づけする情報として利用される。船名(ship name)及び船種(ship type)は、OZT計算には不要な情報ではあるが、船舶を特定する情報として利用される。船長(Loa)及び船幅(Breadth)は、AISデータに含まれるGPSアンテナ位置情報でも計算することができる。
【0066】
ステップS20では、他船情報(他船データ)が抽出される。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は他船データ抽出部26として機能する。ステップS10において取得されたAISデータから自船以外の船舶を遭遇する可能性がある他船として、当該他船に関する情報を他船情報(他船データ)として抽出する。他船は、単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0067】
他船情報(他船データ)は、動的情報及び静的情報を含む。動的情報は、海上移動業務識別コード(MMSI)、時刻(time)、対地速力(SOG)、緯度経度(LatLon)、対地進路(COG)、船首方位(HDG)を含むことが好適である。静的情報は、海上移動業務識別コード(MMSI)、船名(ship name)、船種(ship type)、船長(Loa)、船幅(Breadth)を含むことが好適である。海上移動業務識別コード(MMSI)は、動的情報と静的情報を紐づけする情報として利用される。船名(ship name)及び船種(ship type)は、OZT計算には不要な情報ではあるが、船舶を特定する情報として利用される。船長(Loa)及び船幅(Breadth)は、AISデータに含まれるアンテナ位置情報でも計算することができる。
【0068】
ステップS22では、同時刻のデータを抽出する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102はOZT計算部28の一部として機能する。ステップS18において抽出された自船情報及びステップS20において抽出された他船データにおいて同時刻のデータ同士を組み合わせて抽出する。
【0069】
ステップS24では、OZT計算のための条件が取得される。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102はOZT計算部28の一部として機能する。OZT計算のための条件として、計算間隔、2船間距離、及び最小安全航過距離が取得される。計算間隔は、ステップS12において取得した解析期間において計算を行う時間間隔である。計算間隔は、特に限定されるものではないが、例えば5分とすることができる。2船間距離は、AISデータの緯度経度情報から計算される2つの船舶間の距離である。最小安全航過距離は、安全が確保されないと見なす予め取得した固定値又は自船情報と他船情報から計算される可変の距離である。
【0070】
ステップS26では、自船と他船との組み合わせ毎にOZTを計算する。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102はOZT計算部28の一部として機能する。自船と他船を組として、自船情報、他船情報、2船間距離及び最小安全航過距離を用いて同時刻におけるOZTを計算する。
【0071】
OZTは、図5に示すように、従来技術に基づいて計算することができる。(1)自船Oと他船TをAISデータの位置情報に基づいて配置し、自船Oを中心に半径が最小安全航過距離rの円を描く。(2)他船Tの位置から当該円に接線A-A及び接線B-Bを描く。(3)他船Tの位置から他船の速度ベクトルVを描き、その端点Cを確定する。(4)端点Cを中心として半径が自船Oの速度ベクトルVの円を描く。(5)当該円と、接線A-A及び接線B-Bとの交点をそれぞれ交点E及び交点Fとする。(6)端点Cと交点E、及び、端点Cと交点Fとを繋いだラインが自船Oの針路となる。(7)当該2つの針路に挟まれた角度ΔCの領域を自船Oの位置まで平行移動させ、自船Oの位置と交点E’、及び、自船Oの位置と交点F’とを繋いだラインを他船Tの針路の延長線上まで延伸させて挟まれた線分をOZTとする。
【0072】
なお、自船と他船との2船間距離が所定の設定値以下である船舶同士の組については遭遇する船舶であるとして、これに該当するすべての船舶を全船舶としてOZTの計算対象とする。一方、自船と他船との2船間距離が当該設定値より大きい場合には遭遇しない船舶としてOZTの計算対象から外してもよい。例えば、東京湾全体を評価海域に設定した場合、海域を航行するすべての船舶に対して自船対他船とした1対1での組み合わせにすると、東京港内の自船と浦賀水道南端の他船という組み合わせも発生しかねない。このように、現時点において衝突リスクが極めて小さいと見なせる十分に離れた距離にある自船と他船の組み合わせについてもOZTを計算すると無駄に計算量が多くなってしまう。すなわち、所定の設定値より離れている船舶の組については、OZTの計算対象外とすることで計算量を削減しても危険性を評価する際に問題ないと考えられる。そこで、自船と他船の2船間距離が設定値より大きい場合は、全船舶から除外し、OZTの計算を省略することが好適である。設定値は、例えば3.0NMとすればよい。
【0073】
ステップS28では、OZTが危険かを判定するための基準となる基準情報が取得される。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は危険OZT判定部30の一部として機能する。基準情報は、ステップS26において計算されたOZTまでの距離と進路に対して自船が危険であると見なせる基準となる情報であればよい。本実施の形態では、評価エリアを画定するための評価エリア角θと評価エリア長Lを基準情報として取得する。
【0074】
ステップS30では、OZTが危険か否かの判定が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は危険OZT判定部30として機能する。ここでは、ステップS28において取得した基準情報に基づいて、ステップS26において計算されたOZTが自船にとって衝突の危険性があるか否かを判定する。OZTが自船にとって衝突の危険性があると判定した場合にはステップS32に処理を移行させ、そうでなければ出力ファイルの容量軽減のためにステップS32をスキップさせる。
【0075】
基準情報が評価エリア角θである場合、図6に示すように、自船Oの船首方向から片舷が評価エリア角θ、自船Oの速度Vに応じて計算間隔に進む距離を評価エリア長Lとして、評価エリア角θと評価エリア長Lで囲まれる評価エリアX(図6中、ハッチングで示す領域)にOZTが含まれるか否かによってOZTが自船にとって衝突の危険性があるか否かを判定する。評価エリアXにOZTの少なくとも一部が含まれれば自船にとって衝突の危険性があると判定し、評価エリアXにOZTがまったく含まれなければ自船にとって衝突の危険性はないと判定する。
【0076】
なお、評価エリア角θは一定値としてもよい。評価エリア角θは、例えば、10°とすることができる。また、評価エリア長Lは、自船Oの速度Vに応じて計算間隔に進む距離として設定してもよい。
【0077】
また、評価エリアXの設定方法は、評価エリア角θ及び評価エリア長Lに基づく方法に限定されるものではない。例えば、自船の船首方向において一定の形状及び範囲を評価エリアとするようにしてもよい。また、自船の船首方向において自船の大きさに応じた形状及び範囲を評価エリアとするようにしてもよい。
【0078】
ステップS32では、危険と判定されたOZTの計算結果を出力する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は危険OZT判定部30として機能する。ステップS30において危険性ありと判定されたOZTの計算結果を出力する。
【0079】
具体的には、後述する潜在的衝突リスクを評価する方法で用いるために、危険OZTデータベースの内容を危険OZTファイルとして出力する。ここで、OZTの計算結果は、時刻、自船情報、他船情報、OZTの位置情報を1セットとして含むことが好適である。また、例えば、危険性ありと判定されたOZTの計算結果を危険OZTデータベースとして記憶部12に記憶させるようにしてもよい。また、例えば、海域衝突リスク評価装置102の出力部16のディスプレイにおいて地図上に危険性ありと判定されたOZTを表示させるようにしてもよい。
【0080】
なお、自船と他船との1隻対1隻の組について任意時刻についてOZTを計算し、その結果が1セットとして出力されるため、解析期間が長くなるほど、隻数が多いほど、計算間隔が短いほど、危険OZTデータベースに含まれるデータは膨大になる。そこで、データサイズを小さくすることを考慮して、潜在的衝突リスクの評価に最低限必要な情報として危険と判定されたOZTの計算情報のみを出力することが好適である。ただし、これに限定されるものではなく、危険と判定されなかったOZTの計算結果を合わせて出力するようにしてもよい。
【0081】
図3のループ2に示すように、上記のような自船と他船を組としたOZTの計算処理は、自船と遭遇する他船の1隻毎に遭遇する他船の全隻数を終えるまで繰り返して行う。具体的には、自船と他船との2船間距離が所定の設定値以下である船舶同士の組を全船舶として、全船舶についてステップS20~ステップS32を繰り返して行う。さらに、1つの自船について当該自船と遭遇する他船の全船舶に対するOZTの計算が終了すると、図3のループ1に示すように、他の1隻の船舶を次の自船と定めて、当該自船と遭遇する他船との組についてOZTの計算を繰り返して行う。具体的には、新たに自船とした船舶と他船との2船間距離を基準として遭遇する可能性がある全船舶についてステップS18~ステップS32を行う。これらの処理を、全船舶についてOZTの計算が終了するまで繰り返す。
【0082】
次に、図4を参照して、危険性ありと判定されたOZT計算の結果を用いて潜在的衝突リスクを評価する方法について説明する。
【0083】
ステップS40では、危険なOZT計算の結果を示す危険OZTファイルを取得する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は危険OZT格子計算部32の一部として機能する。具体的には、ステップS32において出力された危険OZTファイルを取得する。
【0084】
ステップS42では、個々の危険なOZTデータを取得する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は危険OZT格子計算部32の一部として機能する。具体的には、ステップS42において取得された危険OZTファイルに含まれる個々の危険なOZTデータが抽出される。
【0085】
ステップS44では、評価対象とする海域において危険なOZTが存在する格子を求める処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は危険OZT格子計算部32の一部として機能する。図5に示すように、ステップS12において取得した解析条件に含まれる評価対象とする海域を複数の格子50に分割し、複数の格子50のうちステップS42において抽出された危険なOZTが存在する格子50を求める。例えば、図5では、座標(行2,列2)と座標(行2,列3)の格子50に危険なOZTが存在する。
【0086】
ステップS46では、格子毎に危険なOZTの個数を累積する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は危険OZT数累積部34として機能する。ステップS44において危険なOZTが存在すると判定された格子50について格子50毎の危険なOZTの個数を累積した累積値を算出する。
【0087】
図4のループ3に示すように、ステップS42において取得されたすべての危険なOZTデータについてステップS44及びステップS46の処理を繰り返す。これによって、すべての危険なOZTについて評価対象とする海域を分割した格子毎に危険なOZTの累積値が求められる。
【0088】
ステップS48では、ステップS12で取得したAIS解析期間を取得する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は危険OZT数累積除算部36の一部として機能する。本実施形態では、AIS解析日数が取得される。
【0089】
ステップS50では、AIS解析日数で危険なOZTの累積値を除算する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は危険OZT数累積除算部36の一部として機能する。ステップS44及びステップS46において求められた格子毎に危険なOZTの累積値をステップS48で取得されたAIS解析日数で除算する。これによって、所定期間における計算回数当たりの格子毎に危険なOZTの累積値が算出される。
【0090】
ステップS52では、OZT計算条件とされた計算間隔が取得される。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は潜在的衝突リスク算出部38の一部として機能する。ここでは、ステップS24において取得されたOZT計算のための条件に含まれる計算間隔が取得される。計算間隔は、例えば5分とすることができる。
【0091】
ステップS54では、評価対象とする海域を分割した格子毎に潜在的衝突リスクが算出される。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は潜在的衝突リスク算出部38の一部として機能する。海域を航行する全船舶の見合いにおいて、同一時刻及び同一格子の領域において危険なOZTが複数発生する可能性があることを考慮し、所定期間当たりの潜在的衝突リスクは、所定期間における計算回数当たりの格子毎に危険なOZTの累積値と所定期間当たりに当該格子において起こり得る危険なOZTの最大数の比率とする。すなわち、格子毎に対して所定期間当たりの潜在的衝突リスク=(所定期間における計算回数当たりの危険なOZTの累積値)/(所定期間当たりの危険なOZTの最大数)を算出する。格子毎に対する所定期間当たりの潜在的衝突リスクは、所定期間当たりにOZTが各格子で示される海域を占有する比率(OZT占有率)ともいえる。
【0092】
例えば、任意の格子を処理対象格子として、当該処理対象格子における5分毎1日当たりのOZTの発生個数が50とする。所定期間1日当たり(0時00分から23時59分59秒までの86400秒)に対し、計算期間(5分=300秒)を考慮すると危険なOZTの最大数は86400/300=288となる。この場合、格子毎に対して所定期間当たりの潜在的衝突リスク(OZT占有率)=50/288=0.174=17.4%となる。すなわち、所定期間1日当たり17.4%の時間において当該処理対象格子に該当する海域において危険なOZTが占有することを示す。
【0093】
図4のループ4に示すように、評価対象とする海域を分割したすべての格子についてステップS50~ステップS54の処理を繰り返す。これによって、すべての格子に対応する領域の潜在的衝突リスク(OZT占有率)が算出される。
【0094】
ステップS56では、評価対象とする海域を分割した格子毎に対して算出された所定期間当たりの潜在的衝突リスク(OZT占有率)が出力される。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は潜在的衝突リスク算出部38の一部として機能する。例えば、評価対象とする海域を分割した格子毎に対して算出された所定期間当たりの潜在的衝突リスク(OZT占有率)を潜在的衝突リスクデータベースとして記憶部12に記憶させるようにしてもよい。また、潜在的衝突リスクデータベースの内容を潜在的衝突リスクファイルとして出力するようにしてもよい。
【0095】
ステップS58では、評価対象とする海域を分割した格子毎に対して算出された所定期間当たりの潜在的衝突リスク(OZT占有率)を可視化する処理が行われる。当該ステップにおける処理によって、海域衝突リスク評価装置102は評価結果可視化部40として機能する。例えば、海域衝突リスク評価装置102の出力部16のディスプレイに表示された地図上における評価対象とする海域を分割した格子に該当する領域に当該格子に対して算出された所定期間当たりの潜在的衝突リスク(OZT占有率)の値を重畳させて表示させる。また、図7に示すように、海域衝突リスク評価装置102の出力部16のディスプレイに表示された地図上における評価対象とする海域を分割した格子を当該格子に対して算出された所定期間当たりの潜在的衝突リスク(OZT占有率)の値に応じた濃度や色で表示するようにしてもよい。
【0096】
以上のように、本実施の形態における海域衝突リスク評価システム100によれば、AISデータに基づいて潜在的衝突リスク(OZT占有率)を評価することができる。
【0097】
また、算出された潜在的衝突リスク(OZT占有率)に基づいて、船舶の最適航路を計画してもよい。これによって、例えば、自動運航船の航路を衝突リスクの少ない最適航路として計画することができる。また、当該処理によって、海域衝突リスク評価装置102は最適航路計画部42として機能する。
【0098】
例えば、船舶を運航させるにあたり、上記潜在的衝突リスク評価方法によって得られた潜在的衝突リスク(OZT占有率)が所定の基準リスク値以下である格子に該当する海域のみを通過する航路のうち起点と終点とを最短で繋ぐ航路を船舶の最適航路として設定するようにすればよい。
【0099】
なお、船舶の最適航路を計画方法は、潜在的衝突リスク(OZT占有率)に基づくものであれば特に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、航行妨害ゾーンにより複数の移動体が航行する海域の衝突リスクを評価する目的に利用することができる。また、潜在的衝突リスク(OZT占有率)に基づいて、移動体の衝突リスクの少ない最適航路を計画することができる。
【0101】
本発明の適用範囲は、海洋や湖沼等の船舶の航行に対する衝突リスクの評価に限定されるものではなく、陸上や空中を航行する移動体の衝突リスクの評価にも適用することができる。
【符号の説明】
【0102】
10 処理部、12 記憶部、14 入力部、16 出力部、20 評価条件取得部、22 AISデータ取得部、24 自船データ抽出部、26 他船データ抽出部、28 OZT計算部、30 危険OZT判定部、32 危険OZT格子計算部、34 危険OZT数累積部、36 危険OZT数累積除算部、38 潜在的衝突リスク算出部、40 評価結果可視化部、42 最適航路計画部、44 入出力部、50 格子、100 海域衝突リスク評価システム、102 海域衝突リスク評価装置、102a~102b コンピュータ、104 情報通信網。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7