(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036786
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】導電性軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20240311BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240311BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/06
F16C33/78 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141253
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】藤島 大亮
【テーマコード(参考)】
3J216
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA12
3J216CB03
3J216CB12
3J216EA01
3J217JA02
3J217JB13
3J217JB63
3J217JC07
3J701AA03
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA77
3J701EA72
3J701FA11
3J701GA01
3J701GA24
3J701XB48
(57)【要約】
【課題】軸受の高速回転時に安定した導電性能を確保して電食を防止することができる導電性軸受を提供する。
【解決手段】本発明にかかる軸受100は、導電性軸受であって、外輪104と、内輪108と、外輪と内輪の間を転動する玉110と、外輪と内輪の間を電気的に導通する導電リング112とを備え、導電リングは、外輪または内輪の一方に固定される固定部114と、外輪または内輪の他方に接触するリップ116と、固定部とリップとを連結する壁部118とを有し、リップは、円周方向に断続的な櫛歯状に形成されていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
内輪と、
前記外輪と前記内輪の間を転動する転動体と、
前記外輪と前記内輪の間を電気的に導通する導電リングとを備え、
前記導電リングは、
前記外輪または前記内輪の一方に固定される固定部と、
前記外輪または前記内輪の他方に接触するリップと、
前記固定部と前記リップとを連結する壁部とを有し、
前記リップは、円周方向に断続的な櫛歯状に形成されていることを特徴とする導電性軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する導電性軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EV車(electric car)やHV車(hybrid car)等の開発の進展もあり、一台の自動車に搭載される高電圧部品の数が増加しつつある。この高電圧部品の電流が軸受に通電すると、軸受の転動体の表面、外輪や内輪の軌道面に電食が生じてしまい、損傷の一因となる。また高電圧部品の数が増えると、部品同士の電磁気的干渉も大きくなる。電磁気的干渉は、コンピュータやナビゲーション装置、通信装置、車載ラジオなどの電子機器に伝搬すると、電磁ノイズとして機器の動作に悪影響を及ぼしかねない。そのため、自動車における電磁ノイズ対策が要望されている。
【0003】
電磁ノイズ対策としてとられる方法は、電磁気的干渉で発生した迷走電流をその周辺ケースにアースさせることであり、その通り道に軸受が使用されることが多い。電気量の小さい電磁ノイズ程度であれば軸受を常時通電状態にしておけば解決することが多いが、電気量が大きい場合は、通電状態が良好でないと電荷が溜まり、それらがある程度になると溜まった電荷が一気に放出してしまうことがある。このようなことが、電荷の通り道である軸受軌道面とボールとの接触面で生じると、接触面に電食が生じ、表層の一部が溶けて柔らかくなった変質層になる。電食が生じると軸受は交換せざるを得なくなる。
【0004】
電磁ノイズも電食も、対策は、電荷を貯めることなく、時間的に連続して外部に通電できる軸受構造にすることである。例えば特許文献1には、通電可能な軸受として通電式転がり軸受が開示されている。この通電式転がり軸受は、主に転動体の電食防止を目的として、導電性のシールリングを備えている。シールリングは、潤滑油の漏洩や異物の侵入を防ぐ部品であり、シールリップの先端部に導電性潤滑剤が封入されることで導電性が高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の通電式転がり軸受では、導電性のシールリング自体のインピーダンスは低いものの、軸受に入っている潤滑油が、軸受の高速回転時にシールリップと内輪または外輪との間に油膜を形成する。このため、特許文献1の通電式転がり軸受では、軸受の高速回転時に形成された油膜によってインピーダンスが増加し、シールリップによる導電性が低下して、転動体の表面、外輪や内輪の軌道面に電食が生じてしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、軸受の高速回転時に安定した導電性能を確保して電食を防止することができる導電性軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる導電性軸受の代表的な構成は、外輪と、内輪と、外輪と内輪の間を転動する転動体と、外輪と内輪の間を電気的に導通する導電リングとを備え、導電リングは、外輪または内輪の一方に固定される固定部と、外輪または内輪の他方に接触するリップと、固定部とリップとを連結する壁部とを有し、リップは、円周方向に断続的な櫛歯状に形成されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成では、導電リングのリップが円周方向に断続的な櫛歯状に形成されて外輪または内輪に接触している。このため、軸受の高速回転時に油膜が形成された場合であっても、櫛歯状に形成されたリップが油膜を連続的にかきわけ続けて、油膜を押しのけることができる。したがって上記構成によれば、軸受の高速回転時にリップによる導電性が低下することがなく、安定した導電性を確保して、転動体の表面、外輪や内輪の軌道面に電食が生じることを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軸受の高速回転時に安定した導電性能を確保して電食を防止することができる導電性軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態における導電性軸受を例示する分解斜視図である。
【
図3】
図2の軸受の高速回転時における導電リングの挙動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態における導電性軸受(以下、軸受100)を例示する分解斜視図である。図中では、軸受100の一部を切り欠いて内部構造を示している。
図2は、
図1の軸受100の要部を示す図である。
図2(a)は、軸受100の側面を示す図である。
図2(b)は、
図2(a)のA-A断面図、
図2(c)はリップ116の部分拡大図である。
【0014】
軸受100は、
図1に示すように内周に軌道面102を有する外輪104と、外周に軌道面106を有する内輪108と、転動体としての玉110と、導電リング112とを備える。玉110は、保持器(不図示)に保持された状態で外輪104と内輪108との間に配置されていて、外輪104の軌道面102と内輪108の軌道面106との間を転動する。
【0015】
導電リング112は、全体的に導電性を有する部材であって、
図2(a)および
図2(b)に示すように外輪104と内輪108との間に配置され、外輪104と内輪108との間を電気的に導通する。導電リング112は、
図1に示すように固定部114と、リップ116と、壁部118と、芯金120とを有する。
【0016】
導電リング112の固定部114は、
図2(b)に示すように外輪104の内周に形成された外輪段部122(
図1参照)に芯金120とともに例えば圧入により固定されている。また芯金120はリップ116に向かって屈曲して壁部118に沿って延びている。壁部118は、芯金120をモールド成形された導電性樹脂からなり、固定部114とリップ116とを連結する。
【0017】
リップ116は、導電性樹脂からなり、
図2(b)に示すように内輪108の外周に形成された内輪肩部124(
図1参照)に接触している。またリップ116は、
図1および
図2(a)に示すように、円周方向に断続的な櫛歯状に形成されている。このため、隣接するリップ116の間には隙間126が形成されている。
図2(c)に示すように、リップ116の各櫛歯は、たわみやすいように、先端部116aが矢じり形状をしていて、また先端部116aの付け根に幅の狭い軸部116bを有している。
【0018】
なお導電リング112は、固定部114により外輪104の外輪段部122に固定され、リップ116が内輪108の内輪肩部124に接触しているものの、リップ116の間に隙間126が形成されていることから、シールとしての機能は有していない。
【0019】
軸受100では、玉110が転動する外輪104の軌道面102と内輪108の軌道面106の間に油(潤滑油)が存在する。このため、軸受100が高速回転して潤滑油の圧力が上がると、導電リング112のリップ116と内輪108の内輪肩部124との間に潤滑油が浸入する場合が想定される。このような場合には、導電リング112のリップ116と内輪108の内輪肩部124との間に油膜が形成されて、導電性が低くなってしまう。
【0020】
そこで軸受100では、導電リング112のリップ116を円周方向に断続的な櫛歯状に形成することによって、高速回転時に導電性が低下することを防止している。以下、具体的に説明する。
【0021】
図3は、
図2の軸受100の高速回転時における導電リング112の挙動を説明する図である。導電リング112において、内輪108が図中の矢印B方向に回転する場合を考える。このとき櫛歯状に形成されたリップ116のリップ先端面128が内輪108の内輪肩部124に接触している。すなわちリップ116のリップ先端面128は、内輪108の内輪肩部124との接触面となる。
【0022】
このため軸受100では、高速回転時に、導電リング112のリップ116と内輪108の内輪肩部124との間に油膜が形成された場合であっても、櫛歯状に形成されたリップ116のリップ先端面128が油膜を連続的にかきわけ続けて、図中の線Cに示すように油膜を押しのけることができる。なお線Cは、リップ116によって押しのけられた油の流れを模式的に示している。
【0023】
したがって軸受100によれば、高速回転時にリップ116による導電性が低下することがなく、安定した導電性を確保して、転動体であるボール110の表面、外輪104の軌道面102や内輪108の軌道面106に電食が生じることを防止することができる。
【0024】
なお導電リング112では、固定部114が外輪104の外輪段部122に固定され、リップ116が内輪108の内輪肩部124に接触するようにしたが、これに限定されず、固定部114を内輪108に固定し、リップ116が外輪104に接触する構成を採用してもよい。このようにすれば、軸受100の高速回転時にリップ116と外輪104との間に油膜が形成された場合であっても、リップ116が油膜を押しのけることにより、導電性の低下を防止し、安定した導電性を確保して電食を防止することができる。またリップ116の櫛歯の数や間隔は図示の例に限られるものではなく、適宜定めることができる。
【0025】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、導電性を有する導電性軸受として利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
100…軸受、102…外輪の軌道面、104…外輪、106…内輪の軌道面、108…内輪、110…玉、112…導電リング、114…固定部、116…リップ、116a…先端部、116b…軸部、118…壁部、120…芯金、122…外輪段部、124…内輪肩部、126…リップ間の隙間、128…リップ先端面