(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036807
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】アモルファスジルコニアナノシートの合成
(51)【国際特許分類】
C01G 25/02 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
C01G25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141288
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 瑛祐
(72)【発明者】
【氏名】長田 実
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮
(72)【発明者】
【氏名】山田 諭
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AC04
4G048AD02
4G048AE05
4G048AE08
(57)【要約】
【課題】本発明は、新たに、アモルファスジルコニアナノシートの合成技術を提供する事を目的とする。
【解決手段】アモルファスジルコニアナノシートの合成技術。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアシートであって、
アモルファスジルコニアから成り、
厚みは略1nm以下である、
ジルコニアシート。
【請求項2】
前記ジルコニアシートは、ナノシートである、請求項1に記載のジルコニアシート。
【請求項3】
前記ジルコニアシートは、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体の単層から成る、請求項1又は2に記載のジルコニアシート。
【請求項4】
前記ジルコニアシートは、ラテラルサイズは100nm~5μmである、請求項1~3の何れかに記載のジルコニアシート。
【請求項5】
前記ジルコニアシートは、理論的な比表面積は100m2/g~500m2/gである、請求項1~4の何れかに記載のジルコニアシート。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載のジルコニアシートを含む、コロイド溶液。
【請求項7】
請求項1~5の何れかに記載のジルコニアシートの製造方法であって、
(1)溶媒中で、ジルコニウム化合物、界面活性剤、及び加水分解により塩基を放出する化合物を混合し、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を製造する工程、及び
(2)前記界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する工程、
を含む、ジルコニアシートの製造方法。
【請求項8】
前記工程(1)は、
前記溶媒は、塩酸、硝酸、及び硫酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の酸性化合物を含む酸性水溶液であり、
前記ジルコニウム化合物は、オキシ塩化ジルコニウム、及びジルコニウムアルコキシドから成る群から選ばれる少なくとも1種のジルコニウム化合物であり、
前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウムから成る群から選ばれる少なくとも1種の陰イオン性界面活性剤であり、
前記加水分解により塩基を放出する化合物は、ヘキサメチレンテトラミン、及び尿素から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、
請求項7記載のジルコニアシートの製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)は、
溶媒中で、ジルコニウム化合物、界面活性剤、及び加水分解により塩基を放出する化合物を混合し、水熱合成に依り、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を製造する工程である、
請求項7又は8記載のジルコニアシートの製造方法。
【請求項10】
前記工程(2)は、
前記界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を濾過に依り回収し、当該界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を、ジメチルスルホキシド、及びN,N-ジメチルホルムアミドから成る群から選ばれる少なくとも1種の溶媒中で、超音波処理を施し、前記界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する工程である、
請求項7~9の何れかに記載のジルコニアシートの製造方法。
【請求項11】
前記ジルコニアシートの製造方法は、
ジルコニアシートのコロイド溶液を得る事である、
請求項7~10の何れかに記載のジルコニアシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファスジルコニアナノシートの合成に関する。
【背景技術】
【0002】
アモルファスジルコニアは、触媒担体、イオン伝導体等として機能し、燃料電池の電解質、酸素センサー、光学材料等として活用出来る。
【0003】
特許文献1は、酸化物イオン伝導性酸化物ナノシート、酸化物イオン伝導性酸化物ナノシートの製造方法及び固体酸化物形燃料電池用電解質を開示する。
【0004】
しかし、従来、原子の数個分の厚みを有するナノシートの合成方法は確立されておらず、その特許文献1が開示する技術においても、積層ナノシートを構成する単層ナノシートのシート厚み方向の長さ(厚み)は、精々3nmの厚みとする事が限界であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新たに、アモルファスジルコニアナノシートの合成技術を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。
【0008】
即ち、本発明は、次のアモルファスジルコニアナノシートの合成技術等に関する。
【0009】
本発明は、次のジルコニアナノシート及びコロイド溶液を包含する。
【0010】
項1.
ジルコニアシートであって、
アモルファスジルコニアから成り、
厚みは略1nm以下である、
ジルコニアシート。
【0011】
項2.
前記ジルコニアシートは、ナノシートである、前記項1に記載のジルコニアシート。
【0012】
項3.
前記ジルコニアシートは、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体の単層から成る、前記項1又は2に記載のジルコニアシート。
【0013】
項4.
前記ジルコニアシートは、ラテラルサイズは100nm~5μmである、前記項1~3の何れかに記載のジルコニアシート。
【0014】
項5.
前記ジルコニアシートは、理論的な比表面積は100m2/g~500m2/gである、前記項1~4の何れかに記載のジルコニアシート。
【0015】
項6.
前記項1~5の何れかに記載のジルコニアシートを含む、コロイド溶液。
【0016】
本発明は、次のジルコニアナノシートの製造方法を包含する。
【0017】
項7.
前記項1~5の何れかに記載のジルコニアシートの製造方法であって、
(1)溶媒中で、ジルコニウム化合物、界面活性剤、及び加水分解により塩基を放出する化合物を混合し、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を製造する工程、及び
(2)前記界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する工程、
を含む、ジルコニアシートの製造方法。
【0018】
項8.
前記工程(1)は、
前記溶媒は、塩酸、硝酸、及び硫酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の酸性化合物を含む酸性水溶液であり、
前記ジルコニウム化合物は、オキシ塩化ジルコニウム、及びジルコニウムアルコキシドから成る群から選ばれる少なくとも1種のジルコニウム化合物であり、
前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウムから成る群から選ばれる少なくとも1種の陰イオン性界面活性剤であり、
前記加水分解により塩基を放出する化合物は、ヘキサメチレンテトラミン、及び尿素から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、
前記項7記載のジルコニアシートの製造方法。
【0019】
項9.
前記工程(1)は、
溶媒中で、ジルコニウム化合物、界面活性剤、及び加水分解により塩基を放出する化合物を混合し、水熱合成に依り、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を製造する工程である、
前記項7又は8記載のジルコニアシートの製造方法。
【0020】
項10.
前記工程(2)は、
前記界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を濾過に依り回収し、当該界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を、ジメチルスルホキシド、及びN,N-ジメチルホルムアミドから成る群から選ばれる少なくとも1種の溶媒中で、超音波処理を施し、前記界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する工程である、
前記項7~9の何れかに記載のジルコニアシートの製造方法。
【0021】
項11.
前記ジルコニアシートの製造方法は、
ジルコニアシートのコロイド溶液を得る事である、
前記項7~10の何れかに記載のジルコニアシートの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、新たに、アモルファスジルコニアナノシートの合成技術を提供する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明のアモルファスジルコニアナノシートの合成技術、及び利用の例を表す。合成ステップでは、界面活性剤を鋳型に利用し、アモルファスジルコニアナノシートの合成を行う。先ず、(1)酸性水溶液中、加水分解により塩基を放出する化合物の存在下、ジルコニウム化合物と界面活性剤とを混合し、水熱合成を行う事に依り、界面活性剤-ジルコニア複合体(界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体)を得る事が出来る。次に、(2)界面活性剤-ジルコニア複合体を、溶媒中、超音波処理する事に依り、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離し、ナノシートコロイド溶液を得る事が出来る。本発明のアモルファスジルコニアナノシートの利用では、(3)基板上に、アモルファスジルコニアナノシートを転写して、二次元集積膜を作製する事が出来る。
【
図2】
図2は、本発明で合成したアモルファスジルコニアナノシート(界面活性剤-ジルコニア層状複合体)の評価結果(XRDパターン、及びTEM像)を表す。
【
図3】
図3は、本発明で合成したアモルファスジルコニアナノシート(界面活性剤-ジルコニア層状複合体)の評価結果(動的光散乱測定、TEM像、及びXPSスペクトル)を表す。
【
図4】
図4は、本発明で合成したアモルファスジルコニアナノシート((界面活性剤-ジルコニア層状複合体))の剥離後のナノシートの評価結果(AFM像)を表す。
【
図5】
図5は、本発明のアモルファスジルコニアナノシートの利用の例を表す。基板上に、アモルファスジルコニアナノシートを転写して、二次元集積膜(共焦点レーザー顕微鏡像、及びAFM像)を作製する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみから成る(consist essentially of)」、及び「のみから成る(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0026】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上、B以下を意味する。
【0027】
[1]アモルファスジルコニアナノシート
本発明のジルコニアシートは、アモルファスジルコニアから成り、厚みは略1nm以下である、アモルファスジルコニアである。
【0028】
本発明のアモルファスジルコニアナノシート(コロイダルジルコニアナノシート)は、シーズ材料として、ナノシートの比表面積が高い事から、助触媒、触媒担体、燃料電池触媒等への用途に有用である。本発明のアモルファスジルコニアナノシートは、コロイダルジルコニアの新規な用途開発に有用である。本発明のアモルファスジルコニアナノシートは、溶液プロセスに依り、数nmの極薄膜を形成する事を可能とする。
【0029】
本発明は、アモルファスジルコニアを、原子の数個分の厚みのナノシート化し、イオン伝導率を向上させたり、触媒担体として、表面露出に依る触媒活性を向上させたりする高機能性材料(アモルファスジルコニアナノシート)を提供する事が出来る。
【0030】
本発明は、界面活性剤ミセルと水酸化ジルコニウムの水溶液とを混合し、水熱合成する事に依り、層状ジルコニウム界面活性剤複合体を合成する事が出来る。本発明は、更に、得られた層状ジルコニウム界面活性剤複合体を、適切な溶媒中に分散させる事に依り、ジルコニウムのナノシートを、剥離し、合成する事が出来る。本発明は、pH条件、界面活性剤濃度等を適切に調整する事に依り、ジルコニウム界面活性剤複合体の層状構造を作り出す事が出来る。
【0031】
本発明は、厚みが略1nmであり、特異機能を発揮するアモルファスジルコニアナノシートを提供する事が出来る。本発明の製造方法に依れば、アモルファスジルコニアナノシートを、選択的に、また高い収率で得る事が出来る。本発明の製造方法に依り得られたアモルファスジルコニアナノシートは、溶媒中で、安定に分散しており、アモルファスジルコニアナノシートを用いて、集積を制御する事に依り、二次元集積膜、高比表面積の粉末を作製する事が出来る。本発明のアモルファスジルコニアナノシートは、触媒、イオン伝導体等として実装が可能なナノシート集合体の作製に有用である。
【0032】
(1)ジルコニアシートの厚み、及び大きさ
本発明のジルコニアシートは、アモルファスジルコニアから成り、厚みは略1nm以下である。
【0033】
ジルコニアシートは、好ましくは、ナノシートであり、より好ましくは、アモルファスジルコニアの単層(アモルファスジルコニアナノシート)から成る。
【0034】
ジルコニアシートの厚みは、好ましくは、略1nm以下である。
【0035】
ジルコニアシートのラテラルサイズ(lateral size、水平方向の大きさ)は、好ましくは、100nm~5μmである。
【0036】
(2)ジルコニアシートの比表面積
本発明のジルコニアシートは、理論的な比表面積は、好ましくは、100m2/g~500m2/g程度であり、より好ましくは、400m2/g(350m2/g~450m2/g)である。
【0037】
比表面積は、例として、ジルコニアナノシートの厚みを0.9nm、ジルコニアの密度を5.7g/cm3として理論的に算出する事が出来る。
【0038】
(3)ジルコニアシートを含むコロイド溶液
本発明は、好ましくは、ジルコニアシートを含む、コロイド溶液である。
【0039】
本発明のジルコニアシート(アモルファスジルコニアナノシート)は、シーズ材料として、ナノシートの比表面積が高い事から、助触媒、触媒担体、燃料電池触媒等への用途に有用である。
【0040】
[2]アモルファスジルコニアナノシートの合成技術(図1)
本発明のジルコニアシートの製造方法は、
(1)溶媒中(好ましくは、酸性水溶液)で、ジルコニウム化合物、界面活性剤、及び加水分解により塩基を放出する化合物を混合し、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を製造する工程、及び
(2)前記界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する工程、
を含む。
【0041】
本発明のジルコニアシートの製造方法は、アモルファスジルコニアナノシートを、効率的に、選択性が良く合成する方法である。本発明のアモルファスジルコニアナノシートは、アモルファスジルコニアの大部分が表面に露出している。
【0042】
図1は、本発明の界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム等)を鋳型に利用して、アモルファスジルコニアナノシートを合成する方法を表す。
【0043】
その界面活性剤は、水溶液(塩酸等の酸性水溶液)中で、ジルコニウム系化合物と相互作用して自己集合する。更に、徐々に塩基が供給される事で、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を形成する。この際、ジルコニア層として、厚さ1nm以下のアモルファスジルコニアナノシートを合成する事が出来る。
【0044】
次いで、得られた界面活性剤とジルコニアとの複合体(界面活性剤-ジルコニア複合体)を溶媒(DMSO等)中おいて、超音波剥離する事に依り、アモルファスジルコニアナノシートのコロイド溶液を得る事が出来る。
【0045】
本発明は、アモルファスジルコニアナノシートの、分散安定性の高いコロイド溶液を得る事が出来る。
【0046】
本発明は、更に、基板上に、そのアモルファスジルコニアナノシートを転写する事に依り、二次元集積膜を作製する事も可能である。
【0047】
(2-1)工程(1)溶媒中で、ジルコニウム化合物、界面活性剤、及び加水分解により塩基を放出する化合物を混合し、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を製造する工程
本発明のジルコニアシートの製造方法(アモルファスジルコニアナノシートの合成ステップ)は、先ず、(1)溶媒中で、ジルコニウム化合物、界面活性剤、及び加水分解により塩基を放出する化合物を混合し、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体(層状アモルファスジルコニア)を製造する工程を含む。
【0048】
工程(1)は、溶媒(塩酸の酸性水溶液等)中で、加水分解により塩基を放出する化合物(ヘキサメチレンテトラミン等)の存在下、ジルコニウム化合物(オキシ塩化ジルコニウム、ZrOCl2等)と界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム等)とを混合する工程である。
【0049】
工程(1)では、層状構造の界面活性剤とジルコニアとの複合体(界面活性剤-ジルコニア複合体)を作製する。
【0050】
ジルコニウム化合物は、アモルファスジルコニアナノシートと成る部分である。ジルコニウム化合物(オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)等)は、溶媒(酸性水溶液)中で、[Zr4(OH)8(H2O)16]8+等のクラスターと成った後に、アモルファスジルコニアナノシートと成る部分である。
【0051】
界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム等)は、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体の鋳型と成る部分である。界面活性剤の親水部分は、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体のアモルファジルコニアナノシート側に位置する。界面活性剤の疎水部分は、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体の鋳型の内側に位置する。
【0052】
溶媒
工程(1)では、溶媒は、好ましくは、酸性水溶液(酸性化合物を含む水溶液)である。酸性水溶液は、好ましくは、塩酸(HCl)、硝酸、硫酸等の酸性化合物を用いる酸性水溶液である。加熱による分解を通じて塩基を放出する化合物の存在下、ジルコニウム化合物と界面活性剤を混合し、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を製造する溶媒は、好ましくは、酸性水溶液であり、より好ましくは、塩酸を含む酸性水溶液である。
【0053】
酸性水溶液は、これらの酸性化合物を一種単独で用いても良く、或は二種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0054】
酸性水溶液は、ジルコニウム化合物のZrカチオンは、低いpHの酸性水溶液中で安定であるという理由から、好ましくは、pH1~pH6程度であり、より好ましくは、pH1~pH4程度であり、更に好ましくは、pH2~pH3程度である。
【0055】
ジルコニウム化合物
工程(1)では、ジルコニウム化合物は、好ましくは、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)、ジルコニウムアルコキシド等を用いる。
【0056】
ジルコニウムアルコキシドは、例えば、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラt-ブトキシド等を好ましく用いる。
【0057】
オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)は、酸性水溶液中で、[Zr4(OH)8(H2O)16]8+等のクラスターを形成した後に、アモルファスジルコニアナノシートと成る。ジルコニウム化合物は、より好ましくは、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)を用いる。
【0058】
ジルコニウム化合物は、これらのジルコニウム化合物を一種単独で用いても良く、或は二種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0059】
界面活性剤
工程(1)では、界面活性剤は、溶媒(酸性水溶液)中で、イオンを形成するという理由から、好ましくは、陰イオン性界面活性剤であり、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(NaDS、SDS)、オクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム等を好ましく用いる。界面活性剤は、より好ましくは、ドデシル硫酸ナトリウム(NaDS)を用いる。
【0060】
界面活性剤は、これらの界面活性剤を一種単独で用いても良く、或は二種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0061】
加水分解により塩基を放出する化合物
工程(1)では、加水分解により塩基を放出する化合物は、加熱すると、アンモニアを生成し、反応溶液(反応系全体)のpHを上げ、水熱合成に好ましいという理由から、好ましくは、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、尿素等を用いる。反応溶液では、それらヘキサメチレンテトラミ等が分解し、反応系全体で均一にアンモニアを生成し、反応系全体で均一にpHを上げる事が出来る(均一沈殿法)。反応溶液を、それらヘキサメチレンテトラミン、尿素等の分解温度で、加熱して、反応を進める事が好ましい。これらの化合物は、より好ましくは、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)を用いる。
【0062】
例えば、尿素を用いた均一沈殿法では、尿素を含む水溶液を加熱する事に依り、(NH2)2CO+H2O→2NH3+CO2の化学反応で、尿素が加水分解して、アンモニアが生じ、反応溶液全体のpHを均一に上昇させて、沈殿をゆっくり析出させる事が出来る。
【0063】
これらの加水分解により塩基を放出する化合物は、これらの化合物を一種単独で用いても良く、或は二種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0064】
工程(1)は、好ましくは、塩酸(HCl)の酸性水溶液中で、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)の存在下、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)、及びドデシル硫酸ナトリウム(NaDS)とを混合し、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体(層状の界面活性剤-ジルコニア複合体)を製造する。
【0065】
水熱合成
工程(1)では、好ましくは、溶媒中で、ジルコニウム化合物、界面活性剤、及び加水分解により塩基を放出する化合物を混合し、水熱合成に依り、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を製造する。
【0066】
水熱合成は、好ましくは、反応溶液を耐圧容器(オートクレーブ等の密閉耐熱容器)に入れ、自己発生圧力下、又は気体加圧下で、撹拌下、又は静置状態で行う。
【0067】
水熱合成の反応温度は、反応速度を高めるという理由から、好ましくは、80℃~140℃程度、より好ましくは、90℃~120℃程度、更に好ましくは、100℃程度で行う。
【0068】
水熱合成の反応時間は、好ましくは、1日間~4日間程度、より好ましくは、1日間~3日間程度、更に好ましくは、2日間程度で行う。
【0069】
水熱合成は、好ましくは、オートクレーブ等の密閉耐熱耐圧容器を用いて、加圧して、100℃程度で、2日間程度で行う。
【0070】
反応溶液の態様(モル比)
工程(1)は、好ましくは、塩酸(HCl)の酸性水溶液中で、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)の存在下、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)、及びドデシル硫酸ナトリウム(NaDS)とを混合し、オートクレーブ等の密閉耐熱耐圧容器を用いて、加圧して、100℃程度で、2日間程度で、水熱合成に依り、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体(層状の界面活性剤-ジルコニア複合体)を製造する。
【0071】
反応溶液は、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム(NaDS)等)、ジルコニウム化合物(オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)等)、加水分解により塩基を放出する化合物(ヘキサメチレンテトラミン(HMT)等)、及び酸性化合物(塩酸(HCl)等)を、モル比(界面活性剤:ジルコニウム化合物:加水分解により塩基を放出する化合物:酸性化合物)で、好ましくは、0.5~1.4:0.5~2:1~3:2~4の割合で、より好ましくは、0.8~1.2:1.0~1.4:1.5~2.5:3~4の割合で、更に好ましくは、1:1.2:2.1:3.5の割合で、調整し、反応を進める。
【0072】
反応溶液は、特に好ましくは、NaDS:ZrOCl2:HMT:HClを、モル比で、1:1.2:2.1:3.5の割合で、調整し、反応を進める事に依り、良好に、界面活性剤-ジルコニア複合体を合成する事ができる。
【0073】
(2-2)工程(2)界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する工程
本発明のジルコニアシートの製造方法(アモルファスジルコニアナノシートの合成ステップ)は、工程(1)の後、(2)前記界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する工程を含む。界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体から、アモルファスジルコニアナノシートを剥離する。
【0074】
工程(2)は、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する工程である。界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する事に依り、アモルファスジルコニアナノシートの分散液(コロイド溶液)を得る事が出来る。
【0075】
溶媒
工程(2)は、好ましくは、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を、濾過に依り回収し、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を、溶媒中で、超音波処理を施し、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体を剥離する。
【0076】
工程(2)では、溶媒は、好ましくは極性溶媒であり、より好ましくは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトニトリル(ACN)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等であり、更に好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等であり、特に好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)等である。
【0077】
溶媒(極性溶媒)は、これらの溶媒を一種単独で用いても良く、或は二種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0078】
超音波処理
工程(2)は、超音波処理は、好ましくは、28kHz、45kHz、100kHzの三種類の周波数で30分間程度、超音波処理を施す。
【0079】
本発明のジルコニアシートの製造方法は、溶媒(DMSO等)中で、超音波剥離する事に依り、厚みは略1nm以下であるアモルファスジルコニアナノシートを得る事が出来る合成技術である。界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体から、アモルファスジルコニアナノシートを剥離して、アモルファスジルコニアナノシートの分散液(コロイド溶液)を得る事が出来る。
【0080】
本発明のジルコニアシートの製造方法は、界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体から、鋳型(界面活性剤層)を除去する事に依っても、或はアモルファスジルコニアナノシートを剥離する事に依っても、アモルファスジルコニアナノシートの分散液を調製する事が出来る。
【0081】
(2-3)ジルコニアシートのコロイド溶液(分散液)を得る方法(図1、図5)
本発明のジルコニアシートの製造方法は、好ましくは、ジルコニアシートのコロイド溶液を得る事である。
【0082】
工程(2)の後、得られた界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体(界面活性剤-ジルコニア複合体)を、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に分散させ、30分程度、超音波処理をする事に依り、ジルコニア層1枚(アモルファスジルコニアナノシート)が剥離した分散液を得る事が出来る。得られる分散液は、夫々の(1枚の)アモルファスジルコニアナノシートを含み、アモルファスジルコニアナノシートの厚みは、略1nm以下であり、好ましくは、0.9nm程度であり、ナノシートと言える厚みである。
【0083】
得られるコロイド溶液には界面活性剤が含まれるが、遠心分離によりナノシートを選択的に凝集させ、上澄み溶媒を取り除く事で、界面活性剤のみを除去する事が出来る。界面活性剤除去後には、ナノシートは様々な溶媒に再分散し、水やアルコールを含む一般的な溶媒に分散させる事も可能になる。
【0084】
本発明のジルコニアシート(アモルファスジルコニアナノシート)は、シーズ材料として、ナノシートの比表面積が高い事から、助触媒、触媒担体、燃料電池触媒等への用途に有用である。
【0085】
本発明のアモルファスジルコニアナノシートを用いて、集積を制御する事に依り、二次元集積膜、高比表面積の粉末を作製する事が出来る。本発明のアモルファスジルコニアナノシートは、触媒、イオン伝導率等として実装が可能なナノシート集合体の作製に有用である。
【実施例0086】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明する。
【0087】
但し、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0088】
(1)アモルファスジルコニアナノシート
(1-1)アモルファスジルコニアナノシートの合成(図1)
工程(1)
オートクレーブ(密閉耐熱耐圧容器)を用いて、塩酸(HCl)を含む酸性水溶液(pH2~pH3)(溶媒)中で、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)(加水分解により塩基を放出する化合物)の存在下、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl
2)(ジルコニウム化合物)とドデシル硫酸ナトリウム(NaDS)(界面活性剤)とを混合し、水熱合成(100℃、2日間)を行い、界面活性剤-ジルコニア複合体(界面活性剤-アモルファスジルコニア層状複合体、層状アモルファスジルコニア)を製造した。
【0089】
反応溶液は、NaDS:ZrOCl2:HMT:HClを、モル比で、1:1.2:2.1:3.5の割合に調整した。
【0090】
工程(2)
次いで、得られた界面活性剤-ジルコニア複合体を、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に分散させ、30分間程度、超音波処理を施す事に依り、ジルコニア層1層が剥離した分散液を得た。
【0091】
この分散液中は、夫々の(1枚の)アモルファスジルコニアナノシートを含む。遠心分離処理に依り、未剥離物質を除去し、厚みは略1nm以下(0.9nm程度)の厚みを有するアモルファスジルコニアナノシートを製造した。アモルファスジルコニアナノシートの厚みは、ナノシートの厚みを表す。
【0092】
(1-2)アモルファスジルコニアナノシートの評価(図2~4)
図2は、界面活性剤とジルコニアとの複合体(界面活性剤-ジルコニア層状複合体)の評価を表す。
【0093】
界面活性剤-ジルコニア複合体のXRDパターンから、θ=2.1および4.2 °にメソ構造に起因するピークが得られた。それぞれd=4.1 nmおよび2.0 nmと算出され、ラメラ構造の形成が確認された。また、界面活性剤-ジルコニア複合体のTEM観察からも、メソスケールの規則構造が観察され、層状物質である事が示唆される。
【0094】
図3は、界面活性剤-ジルコニア複合体の剥離体の評価を表す。得られたナノシートコロイド溶液は、透明性が高く、動的光散乱測定で単分散の流体力学的直径分布が得られた。この動的光散乱測定により評価した流体力学的直径の分布が1ヶ月の静置後にも変化しなかったことから、分散安定性の高いコロイド溶液が得られている事が判る。
【0095】
ナノシートコロイド溶液をTEMグリットに転写し、TEM観察を行った処、シート状の物質が観察された。SAEDパターンからはスポット、パターン等は確認されなかった。この事から、得られたシート状物質がアモルファスである事が示唆された。同視野のEDSスペクトルからZrに帰属されるピークが得られていることから、観察したシート状物質は目的物質であることが明らかである。さらに、シート状物質の組成を評価するためにXPS測定を行った処、4価のジルコニウム由来のピークが得られ、ジルコニアの結合エネルギーとおおよそ一致した。以上の分析より、アモルファスジルコニアの合成を確認した。
【0096】
図4は、剥離後のナノシートの厚みの測定を表す。ナノシートコロイド溶液をシリコン基板に転写して、わずかに残存する界面活性剤を除去する為に、焼成した。AFM観察に依り、基板上に横幅3μm、厚み0.9nm程のシート状物質を観察した事から、厚さ1nm以下のナノシートが合成された事を確認した。
【0097】
(1-3)ナノシートの二次元集積膜の作製(図5)
図5は、得られたナノシートの二次元集積膜の作製を表す。
【0098】
ナノシートコロイド溶液をシャーレに展開し、ラングミュア膜を作製した。その後、親水化したシリコン基板(Si基板)で、ラングミュア膜を、ゆっくりと掬い上げる様に、引き上げる事で転写し、二次元集積膜を作製した。
【0099】
作製した二次元集積膜の共焦点レーザー顕微鏡から、シリコン基板(Si基板)にナノシート(集積膜)が広範囲に亘って膜を形成している事が判る。さらに、AFM観察を行った処、ナノシートが密に詰まった様子を確認出来た事から、ジルコニアナノシートの二次元集積膜の作製に成功した。
【0100】
(2)アモルファスジルコニアナノシートの有用性
本発明のアモルファスジルコニアナノシート(コロイダルジルコニアナノシート)は、シーズ材料として、ナノシートの比表面積が高い事から、助触媒、触媒担体、燃料電池触媒等への用途に有用である。
【0101】
本発明のアモルファスジルコニアナノシートを用いて、集積を制御する事に依り、二次元集積膜、高比表面積の粉末を作製する事が出来る。本発明のアモルファスジルコニアナノシートは、触媒、イオン伝導率等として実装が可能なナノシート集合体の作製に有用である。