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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003683
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/22 20060101AFI20240105BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20240105BHJP
   B23B 27/16 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B23B27/22
B23B27/14 C
B23B27/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102999
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 章裕
(72)【発明者】
【氏名】森下 貴規
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 章二
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲司
(72)【発明者】
【氏名】向田 慎二
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健宏
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046AA00
3C046CC01
3C046CC06
3C046CC08
3C046JJ13
3C046JJ14
(57)【要約】
【課題】切りくずの流出方向を安定させることが可能な切削工具を提供する。
【解決手段】切削工具10は、被削物Wに対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物を旋削する工具である。切削工具10は、ホルダ部20と、ホルダ部20に固定されるチップ部30と、を備える。チップ部30は、一面に設けられるすくい面31と、すくい面31に連なる逃げ面32と、すくい面31と逃げ面32の間に位置する刃稜線部33と、刃稜線部33からすくい面31に流出する切りくずを案内する案内溝34と、を含む。案内溝34の溝深さは、案内溝34の溝幅の半分以上であり、且つ、切り取厚さの半分である第1基準値から切取り厚さに第1基準値を加算した第2基準値までの範囲に設定されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて前記被削物を旋削する切削工具であって、
ホルダ部(20)と、
前記ホルダ部に固定されるチップ部(30)と、を備え、
前記チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31)と、
前記すくい面に連なる逃げ面(32)と、
前記すくい面と前記逃げ面の間に位置する刃稜線部(33)と、
前記刃稜線部から前記すくい面に流出する切りくずを案内する案内溝(34)と、を含み、
前記被削物の切取り厚さの半分を第1基準値とし、前記切取り厚さに前記第1基準値を加算した値を第2基準値としたとき、
前記案内溝の溝深さは、前記案内溝の溝幅の半分以上であり、且つ、前記第1基準値から前記第2基準値までの範囲に設定されている、切削工具。
【請求項2】
前記すくい面は、前記案内溝の延在方向と直交する方向に湾曲している、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記案内溝は、前記被削物の加工時に前記案内溝によって生ずる削り残し部分の高さが前記切取り厚さ以下となるように構成されている、請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記案内溝は、前記被削物の加工時に前記案内溝によって生ずる削り残し部分の高さが前記被削物の仕上げ面に求められる基準高さ以下となるように構成されている、請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項5】
前記刃稜線部は、刃先(331)の全体が丸く湾曲している、請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項6】
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて前記被削物を旋削する切削工具であって、
ホルダ部(20)と、
前記ホルダ部に固定されるチップ部(30)と、を備え、
前記チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31)と、
前記すくい面に連なる逃げ面(32)と、
前記すくい面と前記逃げ面の間に位置する刃稜線部(33)と、
前記刃稜線部から前記すくい面に流出する切りくずを案内する案内溝(34)と、を含み、
前記案内溝の溝深さが、前記案内溝の溝幅の半分以上であり、
前記すくい面は、前記案内溝の延在方向と直交する方向に湾曲している、切削工具。
【請求項7】
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて前記被削物を旋削する切削工具であって、
ホルダ部(20)と、
前記ホルダ部に固定されるチップ部(30)と、を備え、
前記チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31)と、
前記すくい面と前記すくい面に連なる逃げ面(32)と、
前記すくい面と前記逃げ面の間に位置する刃稜線部(33)と、
前記刃稜線部から前記すくい面に流出する切りくずを案内する案内溝(34)と、を含み、
前記案内溝は、前記案内溝の溝深さが前記案内溝の溝幅の半分以上であり、且つ、前記被削物の加工時に前記案内溝によって生ずる削り残し部分の高さが前記被削物の切取り厚さ以下となるように構成されている、切削工具。
【請求項8】
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて前記被削物を旋削する切削工具であって、
ホルダ部(20)と、
前記ホルダ部に固定されるチップ部(30)と、を備え、
前記チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31)と、
前記すくい面に連なる逃げ面(32)と、
前記すくい面と前記逃げ面の間に位置する刃稜線部(33)と、
前記刃稜線部から前記すくい面に流出する切りくずを案内する案内溝(34)と、を含み、
前記案内溝は、前記案内溝の溝深さが前記案内溝の溝幅の半分以上であり、且つ、前記被削物の加工時に前記案内溝によって生ずる削り残し部分の高さが前記被削物の仕上げ面に求められる基準高さ以下となるように構成されている、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被削物に対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物を旋削する切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具として、刃稜線部からすくい面に流出する切りくずを案内するための円弧状の案内溝が設けられたスローアウェイチップが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-212704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の切削工具は、案内溝の溝深さが案内溝の溝幅の1/5以下となる浅溝形状になっている。このように、案内溝が浅溝形状になっていると、被削物の削り始めの切りくずの厚みが薄く、切りくずの流出方向が安定しない。切りくずの流出方向が不安定となることは、被削物に切りくずの残留や設備内に堆積する切りくずの量の増加を招く要因となることから好ましくない。
【0005】
本開示は、切りくずの流出方向を安定させることが可能な切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物を旋削する切削工具であって、
ホルダ部(20)と、
ホルダ部に固定されるチップ部(30)と、を備え、
チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31)と、
すくい面に連なる逃げ面(32)と、
すくい面と逃げ面の間に位置する刃稜線部(33)と、
刃稜線部からすくい面に流出する切りくずを案内する案内溝(34)と、を含み、
被削物の切取り厚さの半分を第1基準値とし、切取り厚さに第1基準値を加算した値を第2基準値としたとき、
案内溝の溝深さは、案内溝の溝幅の半分以上であり、且つ、第1基準値から第2基準値までの範囲に設定されている。
【0007】
このように、案内溝の溝深さが溝幅の半分以上となる深溝形状になっていれば、切りくずが曲がり難い断面形状(例えば、波形状)になることで切りくずの剛性を確保できるので、切りくずの流出方向を安定させることができる。加えて、案内溝の溝深さが、被削物の切取り厚さと関連付けて規定される第1基準値から第2基準値までの範囲になっていれば、切りくずの厚み方向の幅を確保して切りくずの流出方向を充分に安定させることができる。
ここで、“切りくずの厚み方向”は、すくい面に対して直交する方向である。また、“切りくずの厚み方向の幅”は、切りくずの断面において、最もすくい面に近い位置と最もすくい面から離れた位置との切りくずの厚み方向における距離である。
【0008】
請求項6に記載の発明は、
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物を旋削する切削工具であって、
ホルダ部(20)と
ホルダ部に固定されるチップ部(30)と、を備え、
チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31)と、
すくい面に連なる逃げ面(32)と、
すくい面と逃げ面の間に位置する刃稜線部(33)と、
刃稜線部からすくい面に流出する切りくずを案内する案内溝(34)と、を含み、
案内溝の溝深さが、案内溝の溝幅の半分以上であり、
すくい面は、案内溝の延在方向と直交する方向に湾曲している。
【0009】
このように、案内溝が深溝形状になっていれば、切りくずの剛性を確保できる。加えて、すくい面が案内溝の延在方向と直交する方向に湾曲していれば、切りくずの断面形状がすくい面の形状に合わせて湾曲した形状となる。これらによると、切りくずの剛性が向上し、切りくずのカールが抑制されるので、切りくずの流出方向を安定させることができる。
【0010】
請求項7に記載の発明は、
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物を旋削する切削工具であって、
ホルダ部(20)と
ホルダ部に固定されるチップ部(30)と、を備え、
チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31)と、
すくい面とすくい面に連なる逃げ面(32)と、
すくい面と逃げ面の間に位置する刃稜線部(33)と、
刃稜線部からすくい面に流出する切りくずを案内する案内溝(34)と、を含み、
案内溝は、案内溝の溝深さが案内溝の溝幅の半分以上であり、且つ、被削物の加工時に案内溝によって生ずる削り残し部分の高さが被削物の切取り厚さ以下となるように構成されている。
【0011】
このように、案内溝が深溝形状になっていれば、切りくずの剛性を確保できる。加えて、案内溝は、削り残し部分の高さが被削物の切取り厚さ以下となるように構成されているので、被削物の加工時に切りくずが幅方向に分割され難くなる。したがって、切りくずの流出方向を安定させることができる。
【0012】
請求項8に記載の発明は、
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物を旋削する切削工具であって、
ホルダ部(20)と
ホルダ部に固定されるチップ部(30)と、を備え、
チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31)と、
すくい面に連なる逃げ面(32)と、
すくい面と逃げ面の間に位置する刃稜線部(33)と、
刃稜線部からすくい面に流出する切りくずを案内する案内溝(34)と、を含み、
案内溝は、案内溝の溝深さが案内溝の溝幅の半分以上であり、且つ、被削物の加工時に案内溝によって生ずる削り残し部分の高さが被削物の仕上げ面に求められる基準高さ以下となるように構成されている。
【0013】
このように、案内溝が深溝形状になっていれば、切りくずの剛性を確保できるので、切りくずの流出方向を安定させることができる。加えて、案内溝は、削り残し部分の高さが被削物の仕上げ面に求められる基準高さ以下となるように構成されているので、被削物の仕上げ面の品質を確保することが可能となる。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る切削工具および被削物の模式図である。
図2】切削工具の模式的な側面図である。
図3】案内溝を説明するための説明図である。
図4】切りくずの曲がり難さを説明するための説明図である。
図5】案内溝の溝深さ、溝幅、切りくずの最小カール径との関係を説明するための説明図である。
図6】案内溝なしの切削工具による切りくずの断面二次モーメントを説明するための説明図である。
図7】案内溝ありの切削工具による切りくずの断面二次モーメントを説明するための説明図である。
図8】案内溝を設けたことによって生ずる被削物の削り残しを説明するための説明図である。
図9】第2実施形態に係る切削工具の模式的な斜視図である。
図10】第2実施形態の切削工具による切りくずを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態について、図1図8を参照しつつ説明する。図1に示す切削工具10は、被削物Wに対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物Wを旋削する工具である。図1では、略円柱形状の物体を被削物Wとし、被削物Wの外周を切削工具10によって旋削するものを例示している。なお、図1では、突っ切り加工によって被削物Wの外周に溝を形成するものを例示しているが、加工形態は、別のものであってもよい。また、被削物Wは、略円柱形状の物体に限定されず、略円柱形状以外のものであってもよい。
【0018】
図示しないが、切削工具10は、加工装置の工具台に取り付けられる。加工装置は、被削物Wを保持した状態で回転する主軸と、互いに直交する2軸方向に移動可能な工具台、工具台を主軸の軸方向に所定の加工送り量で移動させる送り機構等を備える。
【0019】
図2に示すように、切削工具10は、工具台に固定されるホルダ部20、ホルダ部20に固定されるチップ部30と、を備える。切削工具10は、ホルダ部20とチップ部30とが完成バイトとして一体に構成されていてもよいし、チップ部30が交換可能に別体で構成されていてもよい。
【0020】
チップ部30は、一面に設けられるすくい面31、すくい面31に連なる逃げ面32と、すくい面31と逃げ面32との間に位置する刃稜線部33と、刃稜線部33からすくい面31に流出する切りくずCHを案内する案内溝34とを備える。
【0021】
チップ部30は、刃稜線部33に刃先331が設けられている。刃先331は、その全体が丸く湾曲している。換言すれば、刃先331は、R形状になっている。なお、チップ部30は、1つの刃先331を有しているものに限らず、複数の刃先331を有するものであってもよい。
【0022】
チップ部30のすくい面31は、平坦面となっている。このすくい面31には、案内溝34が1つ形成されている。案内溝34は、刃先331における頂となる先端部331aから刃稜線部33から離れる方向に線状に延びている。案内溝34は、すくい面31から案内溝34の底部341までの距離である溝深さGdが略一定となっている。この場合の溝深さGdは、最大値、最小値、平均値のいずれで解釈してもよい。なお、案内溝34は、先端部331aから離れるにともなって次第に案内溝34の底部341までの距離が小さくなってすくい面31に至る形状になっていてもよい。この場合の溝深さGdは、切りくずCHに影響を与える部分でのすくい面31から案内溝34の底部341までの距離の最大値として解釈することができる。また、案内溝34は、すくい面31に対して複数形成されていてもよい。
【0023】
被削物Wの加工時に、案内溝34は、例えば、図3に示すように、切りくずCHの一部を入り込ませて切りくずCHを案内溝34の延在方向に案内する溝である。切りくずCHは、その一部が案内溝34に入り込むことで、案内溝34の幅方向への変形(すなわち、横カール)が抑制される。また、切りくずCHには、案内溝34の形状に対応する凸部BPが形成される。
【0024】
案内溝34は、案内溝34の幅方向の寸法である溝幅Gwが、切りくずCHの幅CHwよりも小さくなっている。案内溝34は、その断面形状は、略円弧状の形状になっている。案内溝34の溝幅Gwは、切りくずCHに影響を与える部分での幅方向の寸法の最大値として解釈することができる。案内溝34は、研削加工、放電加工、レーザ加工等によって形成される。具体的には、案内溝34の形成方法は、チップ部30が超硬材で構成される場合は研削加工が適しており、チップ部30がダイヤモンド焼結体PCD(Poly-crystalline Diamond)で構成される場合は放電加工やレーザ加工が適している。なお、案内溝34の断面形状は、台形状や楕円形状等であってもよい。また、案内溝34は、チップ部30を製造するための金型に案内溝34とは逆の形状を設け、チップ部30の焼成時に形成されるようになっていてもよい。
【0025】
ここで、図4は、切りくずCHの曲がり難さを説明するための説明図であって、横軸が被削物Wの加工を開始してからの経過時間を示し、縦軸が、案内溝34によって一部が変形された状態(すなわち、凸部BPを有する状態)の切りくずCHの曲がり難さを示している。本実施形態では、“切りくずCHの曲がり難さ”を、切りくずCHの断面二次モーメントを切削抵抗で除した値で定義している。
【0026】
図4によれば、チップ部30に案内溝34が形成されている場合、チップ部30に案内溝34がない場合に比べて、被削物Wの切りくずCHが曲がり難くなることが判る。加えて、案内溝34の溝深さGdが大きくなるにともなって、切りくずCHが曲がり難くなることも判る。
【0027】
ところで、本発明者らの検討によると、案内溝34が浅溝形状になっていると、被削物Wの削り始めの切りくずCHの幅が小さく、切りくずCHにカールが生じ易くなることで、切りくずCHの流出方向が不安定となることが判った。
【0028】
例えば、図5の第3検討例Wcの如く、案内溝34の溝深さGdが溝幅Gwの1/5程度となる浅溝形状になっている場合、切りくずCHの最小カール径が、案内溝34のない第1検討例Waよりも小さく、切りくずCHの流出方向が不安定となり易い。
【0029】
また、図5の第4検討例Wdの如く、案内溝34の溝深さGdが溝幅Gwの2/7程度となる浅溝形状になっている場合も、切りくずCHの最小カール径が、第1検討例Waよりも小さく、切りくずCHの流出方向が不安定となり易い。
【0030】
一方、図5の第2検討例Wb、第4検討例We、第5検討例Wfの如く、案内溝34の溝深さGdが溝幅Gwの半分以上となっている場合、切りくずCHの最小カール径が、第1検討例Waの2倍以上大きく、切りくずCHの流出方向が安定し易い。
【0031】
特に、本実施形態の如く、刃先331が丸まっていると、削り始めの切りくずCHの幅が小さくなるため、案内溝34の溝幅Gwを小さく、溝深さGdを大きくすることで、案内溝34によるカール抑制効果を得ることが期待できる。
【0032】
これらの知見を踏まえて、本実施形態の切削工具10は、案内溝34の溝深さGdが案内溝34の溝幅Gwの半分以上の大きさとされている。案内溝34は、例えば、溝深さGdが0.04mm、溝幅Gwが0.04mmとされる。
【0033】
このことに加えて、本発明者らは、切りくずCHの断面二次モーメントを考慮して案内溝34の溝深さGdの範囲を規定した。案内溝34のない切削工具10による切りくずCHの断面二次モーメントIは、例えば、図6に示す数式F1に基づいて求めることができる。また、案内溝34のある切削工具10による切りくずCHの断面二次モーメントIは、例えば、図7に示す数式F2に基づいて求めることができる。なお、切りくずCHの断面二次モーメントを求めるための数式は切りくずCHの断面形状によって変わる。
【0034】
本発明者らの知見によれば、案内溝34のある切削工具10による切りくずCHの剛性(縦向きカールに対する曲げ剛性)が、案内溝34のない切削工具10による切りくずCHの剛性の1.5倍以上において、案内溝34によるカール抑制効果が充分に大きくなることが判っている。そして、図7の数式F2において、仮に、X=4Yとすると、案内溝34によるカール抑制効果が充分に大きくなるのはZ>Y/2となる場合である。また、切りくずCHの厚みYは、せん断角によって多少異なるが、概ね切削工具10による被削物Wの切取り厚さの1~3倍である。なお、図7の数式F2におけるZは、案内溝34の溝深さGdに対応している。
【0035】
これらを考慮すると、案内溝34は、溝深さGdが、切削工具10による被削物Wの切取り厚さの1/2~3/2となる範囲に設定することが望ましい。本実施形態の案内溝34は、溝深さGdが、被削物Wの切取り厚さの半分である第1基準値から切取り厚さに第1基準値を加算した第2基準値までの範囲に設定されている。なお、第1基準値は、切取り厚さの“1/2”である。また、第2基準値は、切取り厚さの“3/2”である。なお、切りくずCHについてX=4Yとしたが、例えば、X=8Y等の場合は、案内溝34を2本設けることで、案内溝34によるカール抑制効果が充分に得られる。
【0036】
上記の切取り厚さは、切削工具10の刃先331の形状および加工送り量等の加工条件に応じて定まる。刃先形状がR形状になっている場合等は、切取り厚さが一様でないことがある。このような場合、“切取り厚さ”は、案内溝34に対応する位置での切取り厚さと解釈すればよい。なお、例えば、突っ切り加工では、切取り厚さは、加工送り量や切込み量CAと同様の値となる。すなわち、突っ切り加工では、切取り厚さを加工送り量や切込み量CAとして解釈することができる。なお、切込み量CAは、被削物Wの中心方向に食い込ませる距離である。突っ切り加工では、被削物Wにチップ部30の刃先331が当たり始めた瞬間の切込み量CAは略ゼロとなる。このため、切込み量CAは、被削物Wの加工時に被削物Wが一回転した後の値(すなわち、2回転目以降の値)である。
【0037】
ところで、刃稜線部33の刃先331に案内溝34があると、図8に示すように、刃先331と案内溝34の底部341との間に高低差(すなわち、段差)が生ずることで、被削物Wの表面に削り残し部分LOが生ずる。この削り残し部分LOの高さHは、以下の数式F3で表すことができる。
H=sinβ×Gd/cos(α+β) ・・・(F3)
但し、数式F3における“α”は、被削物Wの切削方向に直交する垂直面に対するすくい面31の角度(すなわち、すくい角)である。また、数式F3における“β”は、被削物Wの切削方向に対する逃げ面32の角度(すなわち、逃げ角)である。
【0038】
削り残し部分LOの高さHが被削物Wの切取り厚さを上回っている場合、切りくずCHが幅方向に分割されてしまう。このことは、切りくずCHの流出方向が不安定となる要因になることから好ましくない。
【0039】
そこで、案内溝34は、被削物Wの加工時に案内溝34によって生ずる削り残し部分LOの高さHが被削物Wの切取り厚さ以下となるように構成されている。換言すれば、案内溝34の溝深さGdは、以下の数式F4を満たすように設定されている。
Gd≦TH×cos(α+β)/sinβ ・・・(F4)
但し、数式F4における“TH”は、被削物Wの切取り厚さである。
【0040】
また、削り残し部分LOの高さHが、被削物Wの仕上げ面に求められる基準高さRHを上回っている場合、被削物Wの仕上げ面の品質が大きく低下する。この基準高さは、例えば、設計上許容される凹凸の寸法の最大値とされる。
【0041】
そこで、案内溝34は、被削物Wの加工時に案内溝34によって生ずる削り残し部分LOの高さHが被削物Wの仕上げ面に求められる基準高さRH以下となるように構成されている。換言すれば、案内溝34の溝深さGdは、以下の数式F5を満たすように設定されている。
Gd≦RH×cos(α+β)/sinβ ・・・(F5)
【0042】
次に、被削物Wの加工時の動作について簡単に説明する。被削物Wを保持する主軸が回転された状態で、工具台に取り付けられた切削工具10が被削物Wの切削開始位置に移動されると、切削加工が開始される。この切削工程では、被削物Wに対して所定の加工送り量で切削工具10を相対移動させることで、被削物Wが所望の形状に旋削される。
【0043】
具体的には、チップ部30の刃先331が被削物Wの外周部分に接触することで、被削物Wの外周部分が旋削される。この際、被削物Wの切りくずCHの一部が、チップ部30に形成された案内溝34に入り込むことで、切りくずCHが案内溝34の延在方向に沿って流出する。
【0044】
ここで、被削物Wの削り始めは、刃先331と被削物Wの接触幅が小さく、切りくずCHの幅が小さい。このため、案内溝34が浅溝形状になっていると、切りくずCHに縦カールが生じ易く、切りくずCHの流出方向が安定しない。
【0045】
これに対して、本実施形態の切削工具10は、案内溝34の溝深さGdが溝幅Gwの半分以上となる深溝形状になっている。これによれば、切りくずCHが曲がり難い断面形状になることで切りくずCHの剛性を確保できるので、切りくずCHの流出方向を安定させることができる。
【0046】
これに加えて、本実施形態の切削工具10は、以下の特徴を有する。
【0047】
(1)案内溝34の溝深さGdは、切取り厚さの半分である第1基準値から切取り厚さに第1基準値を加算した第2基準値までの範囲に設定されている。これによると、切りくずCHの厚み方向の幅を充分に確保して、案内溝34によるカール抑制効果を充分に得ることができる。
【0048】
(2)案内溝34は、被削物Wの加工時に案内溝34によって生ずる削り残し部分LOの高さHが被削物Wの切取り厚さ以下となるように構成されている。これによれば、切りくずCHの流出方向を安定させることが可能となる。
【0049】
(3)案内溝34は、被削物Wの加工時に案内溝34によって生ずる削り残し部分LOの高さHが被削物Wの仕上げ面に求められる基準高さRH以下となるように構成されている。これによれば、切りくずCHの流出方向を安定させつつ、被削物Wの仕上げ面の品質を確保することが可能となる。
【0050】
(4)チップ部30の刃稜線部33は、刃先331の全体が丸く湾曲している。このように構成される切削工具10は、被削物Wの削り始めの切りくずCHの幅が小さく、切りくずCHの剛性が低くなりがちであるが、案内溝34が深溝形状となっていれば、切りくずCHが曲がり難い断面形状になることで切りくずCHの剛性を確保することができる。
【0051】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図9図10を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0052】
図9に示すように、チップ部30のすくい面31は、案内溝34の延在方向と直交する方向に湾曲している。すなわち、すくい面31は、案内溝34の幅方向に湾曲している。具体的には、すくい面31は、案内溝34の幅方向において上方に突き出る凸面となっている。
【0053】
このように構成される切削工具10は、切りくずCHの形状がすくい面31に合わせて湾曲した形状となる。具体的には、切りくずCHは、図10に示すように、一部が円弧状に湾曲していることで、断面二次モーメントが大きくなるので、充分なカール抑制効果を得ることができる。
【0054】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の切削工具10は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0055】
(1)本実施形態のチップ部30のすくい面31は、案内溝34の延在方向と直交する方向に湾曲している。これによれば、切りくずCHの断面形状がすくい面31の形状に合わせて湾曲した形状となり、切りくずCHの剛性が向上し、切りくずCHのカールが抑制されるので、切りくずCHの流出方向を安定させることができる。
【0056】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態のチップ部30のすくい面31は、案内溝34の幅方向において上方に突き出る凸面となっているが、これに限定されない。すくい面31は、例えば、案内溝34の幅方向において下方に窪んだ凹面になっていてもよい。なお、すくい面31は、例えば、案内溝34の延在方向に湾曲していてもよい。
【0057】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0058】
上述の実施形態の如く、案内溝34は、溝深さGdが第1基準値から第2基準値までの範囲に設定されていることが望ましいが、これに限らず、そのようになっていなくてもよい。
【0059】
上述の実施形態の如く、案内溝34は、被削物Wの加工時に案内溝34によって生ずる削り残し部分LOの高さHが被削物Wの切取り厚さ以下となるように構成されていることが望ましいが、これに限らず、そのようになっていなくてもよい。
【0060】
上述の実施形態の如く、案内溝34は、被削物Wの加工時に案内溝34によって生ずる削り残し部分LOの高さHが被削物Wの仕上げ面に求められる基準高さRH以下となるように構成されている。
【0061】
上述の実施形態では、チップ部30の刃先331の全体が丸く湾曲しているものを例示したが、チップ部30の刃先331は、これに限定されない。チップ部30の刃先331は、例えば、角張った形状になっていてもよい。
【0062】
上述の実施形態では、切削工具10によって被削物Wの外周部分を旋削するものを例示したが、これ限らず、例えば、被削物Wの内周部分や被削物Wの端面を旋削するようになっていてもよい。
【0063】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0064】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0065】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【符号の説明】
【0066】
10 切削工具
20 ホルダ部
30 チップ部
31 すくい面
32 逃げ面
33 刃稜線部
34 案内溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10