(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036855
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141375
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】南 風香
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA05
4E137AA10
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA21
4E137CA24
4E137EA01
4E137GA03
4E137GA08
4E137GA15
4E137GB03
(57)【要約】
【課題】湾曲した凸条部を形成する際のスプリングバックを抑制できるプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の一態様は、凹ビードが設けられた凸条部を有すると共に、側方から視て天板が凸条部の突出方向に膨出するように凸条部が湾曲したプレス成形品を得るためのプレス成形品の製造方法である。プレス成形品の製造方法は、予備凸条部を有する中間成形品を予備成形する工程と、中間成形品のプレスによりプレス成形品を本成形する工程と、を備える。予備成形する工程では、予備凸条部の天板において予備凸条部の突出方向に膨出すると共に、プレス成形品の凹ビードとなる凹ビード予定領域よりも予備凸条部の幅方向の外側に頂点が配置された膨出部を形成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板において長手方向に沿って凹ビードが設けられた凸条部を有すると共に、前記凸条部の側方から視て前記天板が前記凸条部の突出方向に膨出するように前記凸条部が湾曲したプレス成形品を得るためのプレス成形品の製造方法であって、
平板状のブランク材のプレスにより、予備凸条部を有する中間成形品を予備成形する工程と、
前記中間成形品のプレスにより前記プレス成形品を本成形する工程と、
を備え、
前記予備成形する工程では、前記予備凸条部の前記天板において前記予備凸条部の突出方向に膨出すると共に、前記プレス成形品の前記凹ビードとなる凹ビード予定領域よりも前記予備凸条部の幅方向の外側に頂点が配置された少なくとも1つの膨出部を形成する、プレス成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記予備成形する工程では、前記少なくとも1つの膨出部として、第1膨出部及び第2膨出部を形成し、
前記第1膨出部の頂点と前記第2膨出部の頂点とは、前記予備凸条部の幅方向において前記凹ビード予定領域を挟むように配置される、プレス成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記予備成形する工程では、前記予備凸条部のうち前記凹ビード予定領域よりも前記予備凸条部の幅方向外側の領域のみに、前記予備凸条部の突出方向に膨出する頂点を形成する、プレス成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記予備成形する工程では、前記予備凸条部の前記凹ビード予定領域を前記プレス成形品の前記凹ビードよりも前記予備凸条部の突出方向に膨出させる、プレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板のプレス加工(つまり絞り加工)によって長手方向に湾曲した凸条部を有するプレス成形品を製造する方法が公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のプレス成形品では、凸条部における湾曲の内側領域の長手方向における長さが、湾曲の外側領域の長手方向における長さよりも小さいため、プレス加工時に湾曲の内側に引張応力が発生する。したがって、プレス成形品をダイから取り出すと、残留応力によって湾曲の内側が伸びるスプリングバックが発生する。その結果、製品の寸法精度が低下する。
【0005】
本開示の一局面は、湾曲した凸条部を形成する際のスプリングバックを抑制できるプレス成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、天板において長手方向に沿って凹ビードが設けられた凸条部を有すると共に、凸条部の側方から視て天板が凸条部の突出方向に膨出するように凸条部が湾曲したプレス成形品を得るためのプレス成形品の製造方法である。プレス成形品の製造方法は、平板状のブランク材のプレスにより、予備凸条部を有する中間成形品を予備成形する工程と、中間成形品のプレスによりプレス成形品を本成形する工程と、を備える。
【0007】
予備成形する工程では、予備凸条部の天板において予備凸条部の突出方向に膨出すると共に、プレス成形品の凹ビードとなる凹ビード予定領域よりも予備凸条部の幅方向の外側に頂点が配置された少なくとも1つの膨出部を形成する。
【0008】
このような構成によれば、予備凸条部の天板における凹ビード予定領域の外側に頂点がある膨出部が本成形において潰されることで、凹ビードにおける圧縮応力が分散される。その結果、凸条部における残留応力が低減されるため、プレス成形品のスプリングバックが抑制される。
【0009】
本開示の一態様では、予備成形する工程では、少なくとも1つの膨出部として、第1膨出部及び第2膨出部を形成してもよい。第1膨出部の頂点と第2膨出部の頂点とは、予備凸条部の幅方向において凹ビード予定領域を挟むように配置されてもよい。このような構成によれば、本成形において凹ビードの両側に圧縮応力が分散されるため、プレス成形品のスプリングバックの抑制効果が促進される。
【0010】
本開示の一態様では、予備成形する工程では、予備凸条部のうち凹ビード予定領域よりも予備凸条部の幅方向外側の領域のみに、予備凸条部の突出方向に膨出する頂点を形成してもよい。このような構成によれば、凹ビードへの圧縮応力の集中を抑制できるため、プレス成形品のスプリングバックの抑制効果が促進される。
【0011】
本開示の一態様では、予備成形する工程では、予備凸条部の凹ビード予定領域をプレス成形品の凹ビードよりも予備凸条部の突出方向に膨出させてもよい。このような構成によれば、予備凸条部の周長の増加を抑制できるため、予備凸条部の周長とプレス成形品における凸条部の周長との差が低減される。その結果、プレス成形品の寸法精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは、実施形態におけるプレス成形品の製造方法で得られるプレス成形品の模式的な平面図であり、
図1Bは、
図1Aのプレス成形品の模式的な側面図であり、
図1Cは、
図IAのIC-IC線での模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態におけるプレス成形品の製造方法のフロー図である。
【
図3】
図3Aは、予備凸条部の模式的な断面図であり、
図3Bは、予備凸条部の模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
<プレス成形品>
図1A、
図1B及び
図1Cに示すプレス成形品1は、ブランク材のプレス加工により得られる金属製の成形品である。プレス成形品1は、凸条部2と、第1フランジ部3と、第2フランジ部4と、凹ビード5とを有する。
【0014】
凸条部2は、プレス成形品1の長手方向に沿って形成されている。凸条部2の長手方向と垂直な断面はU字状である。凸条部2は、天板21と、第1側板22と、第2側板23とを有する。
【0015】
天板21は、プレス成形品1の長手方向に沿って延びる帯状の部位である。天板21は、
図1Bに示すように、凸条部2の側方から視て凸条部2の突出方向に膨出している。つまり、凸条部2は、凸条部2の側方から視て天板21が膨出するように湾曲しており、天板21は、第1フランジ部3及び第2フランジ部4に対し、凸条部2の曲げの外側に位置する。
【0016】
第1側板22及び第2側板23は、それぞれ天板21の幅方向(つまり長手方向と直交する方向)における2つの端部に接続されており、互いに対向している。第1側板22及び第2側板23の板面は、天板21の板面と交差している。
【0017】
第1フランジ部3及び第2フランジ部4は、それぞれ凸条部2の幅方向外側に凸条部2と連続して配置されると共に、プレス成形品1の幅方向の端部を構成している。具体的には、第1フランジ部3は、凸条部2の第1側板22の端部から凸条部2とは反対側に延伸している。第2フランジ部4は、凸条部2の第2側板23の端部から凸条部2とは反対側に延伸している。
【0018】
凹ビード5は、凸条部2の天板21において凸条部2の長手方向に沿って設けられた溝である。凹ビード5は、凸条部2の突出方向とは反対方向に(つまり第1フランジ部3及び第2フランジ部4に向かって)凹んでいる。凹ビード5は、凸条部2の幅方向において、第1側板22及び第2側板23それぞれから離れた位置に配置されている。
【0019】
プレス成形品1の用途は限定されないが、プレス成形品1は、自動車の骨格を構成する部材(例えば、フロントピラー、センターピラー等)として好適に使用される。プレス成形品1を用いることで、高い強度と寸法精度とが求められる自動車の骨格において、材料を制限せずにスプリングバックを抑制できる。
【0020】
<プレス成形品の製造方法>
図2に示すように、本実施形態のプレス成形品の製造方法は、予備成形工程S10と、本成形工程S20とを備える。
【0021】
<予備成形工程>
本工程では、平板状のブランク材を板厚方向にダイで挟んでプレスすることにより、
図3Aに示す中間成形品101を予備成形する。なお、中間成形品101は、数回のプレスによって成形されてもよい。
【0022】
中間成形品101は、予備凸条部102と、第1フランジ部3及び第2フランジ部4を有する。予備凸条部102は、本成形工程S20で凸条部2に成形される部位である。予備凸条部102は、天板121と、第1側壁122と、第2側壁123とを有する。
【0023】
天板121は、本成形工程S20においてプレス成形品1の凹ビード5となる凹ビード予定領域Rを有する。また、天板121には、第1膨出部124及び第2膨出部125が設けられている。
【0024】
第1膨出部124及び第2膨出部125は、それぞれ、天板121において予備凸条部102の突出方向(つまり外側)に膨出している。第1膨出部124及び第2膨出部125は、予備凸条部102の幅方向に並んで配置されている。
【0025】
また、
図3Bに示すように、第1膨出部124は、予備凸条部102の長手方向において複数の部位に分割されている。第2膨出部125も同様である。ただし、第1膨出部124及び第2膨出部125は、凹ビード予定領域Rの全体にわたって連続して設けられていてもよい。
【0026】
第1膨出部124の頂点P1は、凹ビード予定領域Rよりも予備凸条部102の幅方向の外側の領域のうち第1側壁122に近い部分に配置されている。第2膨出部125の頂点P2は、凹ビード予定領域Rよりも予備凸条部102の幅方向の外側の領域のうち第2側壁123に近い部分に配置されている。
【0027】
本実施形態では、第1膨出部124の頂点P1は、予備凸条部102の長手方向に沿って延伸する第1膨出部124の稜線の中の一点である。また、第2膨出部125の頂点P2は、予備凸条部102の長手方向に沿って延伸する第2膨出部125の稜線の中の一点である。第1膨出部124の稜線及び第2膨出部125の稜線は、それぞれ凹ビード予定領域Rよりも予備凸条部102の幅方向の外側に位置する。
【0028】
第1膨出部124の頂点P1と第2膨出部125の頂点P2とは、予備凸条部102の幅方向において凹ビード予定領域Rを挟むように配置されている。本実施形態では、第1膨出部124の頂点P1及び第2膨出部125の頂点P2のプレス成形品1における天板21からの高さ(つまり膨出量)は同じである。
【0029】
第1膨出部124の一部及び第2膨出部125の一部は、凹ビード予定領域Rに設けられている。具体的には、第1膨出部124と第2膨出部125との連結部分(つまり谷)は、凹ビード予定領域Rに存在する。そのため、凹ビード予定領域Rは、プレス成形品1における凹ビード5よりも予備凸条部102の外側に膨出している。一方、凹ビード予定領域Rには、膨らみの頂点は存在しない。
【0030】
このように、本工程では、予備凸条部102の天板121の一部として第1膨出部124及び第2膨出部125を形成する。また、本工程では、凹ビード予定領域R内には予備凸条部102の突出方向に膨出する頂点を形成しない。つまり、本工程では、予備凸条部102のうち凹ビード予定領域Rよりも予備凸条部102の幅方向外側の領域のみに、予備凸条部102の突出方向に膨出する頂点を形成する。さらに、本工程では、予備凸条部102の凹ビード予定領域Rをプレス成形品1の凹ビード5よりも予備凸条部102の突出方向に膨出させる。
【0031】
<本成形工程>
本工程では、中間成形品101をさらにダイで挟んでプレスすることによりプレス成形品1を本成形する。具体的には、第1膨出部124及び第2膨出部125を潰すように予備凸条部102をプレスすることで、凸条部2及び凹ビード5を形成する。
【0032】
予備凸条部102の天板121は、第1膨出部124及び第2膨出部125が潰されることで、圧縮応力を分散させながら、幅方向中央に凹ビード5が設けられた天板21に成形される。
【0033】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)予備凸条部102の天板121における凹ビード予定領域Rの外側に頂点がある膨出部124,125が本成形において潰されることで、凹ビード5における圧縮応力が分散される。その結果、凸条部2における残留応力が低減されるため、プレス成形品1のスプリングバックが抑制される。
【0034】
(1b)第1膨出部124の頂点P1と第2膨出部125の頂点P2とが凹ビード予定領域Rを挟むように配置されることで、本成形において凹ビード5の両側に圧縮応力が分散されるため、プレス成形品1のスプリングバックの抑制効果が促進される。
【0035】
(1c)凹ビード予定領域R内に予備凸条部102の突出方向に膨出する頂点を形成しないことで、凹ビード5への圧縮応力の集中を抑制できるため、プレス成形品1のスプリングバックの抑制効果が促進される。
【0036】
(1d)予備凸条部102の周長の増加を抑制できるため、予備凸条部102の周長とプレス成形品1における凸条部2の周長との差が低減される。その結果、プレス成形品1の寸法精度を高めることができる。
【0037】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0038】
(2a)上記実施形態のプレス成形品の製造方法において、予備成形工程では必ずしも2つの膨出部を形成しなくてもよい。例えば、
図4A及び
図4Bに示すように、予備成形工程において1つの膨出部124のみを形成してもよい。つまり、1つの頂点P1のみが凹ビード予定領域Rの外側に設けられてもよい。
【0039】
なお、
図4Bでは、第1膨出部124の頂点P1は、天板121の幅方向中央に位置しているが、凹ビード予定領域Rが幅方向中央からずれているため、凹ビード予定領域Rに頂点P1は配置されていない。
【0040】
(2b)上記実施形態のプレス成形品の製造方法において、予備成形工程で凹ビード予定領域内に予備凸条部の突出方向に膨出する頂点を形成してもよい。例えば、
図5Aに示すように、予備成形工程において、頂点P3が凹ビード予定領域Rに配置された第3膨出部126を形成してもよい。
【0041】
(2c)上記実施形態のプレス成形品の製造方法において、予備成形工程では必ずしも凹ビード予定領域をプレス成形品の凹ビードよりも予備凸条部の突出方向に膨出させなくてもよい。例えば、
図5Bに示すように、予備成形工程で凹ビード予定領域Rを凹ビード5と同形としてもよい。
【0042】
(2d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0043】
1…プレス成形品、2…凸条部、3…第1フランジ部、4…第2フランジ部、
5…凹ビード、21…天板、22…第1側板、23…第2側板、101…中間成形品、
102…予備凸条部、121…天板、122…第1側壁、123…第2側壁、
124…第1膨出部、125…第2膨出部、126…第3膨出部、
P1,P2,P3…頂点、R…凹ビード予定領域。