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  • 特開-電解槽 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036879
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】電解槽
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/02 20060101AFI20240311BHJP
   C25C 3/04 20060101ALI20240311BHJP
   C25C 7/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C25C7/02 308Z
C25C3/04
C25C7/00 302B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141415
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】由良 真悟
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058BA05
4K058CB03
4K058CB30
4K058ED02
4K058ED10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、溶融塩浴に対する炭素電極の濡れ性を改善し、溶融塩電解槽の稼働初期において電圧上昇や短絡が生じやすくなる時間をできるだけ短くすることにある。
【解決手段】本発明に係る電解槽100は、陽極110および陰極120を備える。そして、この陽極は、炭素電極である。また、この陽極は、初期状態において2μm以上12μm以下の範囲内の算術平均表面粗さRaを有する。また、初期状態の陽極の算術平均表面粗さRaは、2μm以上8μm以下の範囲内であることが好ましく、2μm以上4μm以下の範囲内であることがより好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と
陰極と
を備え、
前記陽極は、炭素電極であり、初期状態において2μm以上12μm以下の範囲内の算術平均表面粗さRaを有する、電解槽。
【請求項2】
前記初期状態の算術平均表面粗さRaは2μm以上8μm以下の範囲内である
請求項1に記載の電解槽。
【請求項3】
前記初期状態の算術平均表面粗さRaは2μm以上4μm以下の範囲内である
請求項2に記載の電解槽。
【請求項4】
少なくとも一つの複極をさらに備え、
前記複極は、炭素電極であり、少なくとも陽極側の表面が初期状態において2μm以上12μm以下の範囲内の算術平均表面粗さRaを有する
請求項1から3のいずれか1項に記載の電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物を含有する溶融塩電解質を電解して金属を回収するための電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「電解室とメタル回収室とからなり、電解室内の電解セル単位中に細孔容積が0.12mL/g以下のグラファイトで構成された複極を少なくとも1つ有する溶融塩電解槽」が提案されている(例えば、特開2018-70924号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-70924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような溶融塩電解槽では、稼働開始からしばらくの間、グラファイト電極(炭素電極)に対して溶融塩浴が十分に浸透しないままで電解が行われる。このように溶融塩浴が十分浸透していないグラファイト電極は溶融塩浴に対する濡れ性が特に悪いため、グラファイト電極の反応面が、そのグラファイト電極で発生する気体に覆われやすい。そして、その気体は溶融塩浴に比べて電気抵抗が著しく大きいため、グラファイト電極の反応面がその気体に覆われると、稼働中の常時にわたり電解電圧が上昇して電力コストが増大してしまう。また、溶融塩浴が十分に浸透していない間に溶融塩電解槽に溶融塩を補充すると、上述の気体の発生量に変化が生じ、溶融塩浴の流れが変わってしまう場合がある。かかる場合、電極間へ異物が侵入したりして短絡が生じる場合がある。このように短絡が発生すると、電力コストが大幅に悪化する。また、稼働中の溶融塩電解槽では短絡要因や短絡場所の特定や解消が非常に困難であるため、短絡したまま溶融塩電解槽を稼働し続けることを余儀なくされる。すなわち、上述のような溶融塩電解槽では、稼働開始からしばらくの間、電圧上昇や短絡が生じやすくなり、実際に電圧上昇や短絡が生じると電力コストの増大等の弊害が生じてしまう。
【0005】
本発明の課題は、溶融塩浴に対する炭素電極の濡れ性を改善し、溶融塩電解槽の稼働初期において電圧上昇や短絡が生じやすくなる時間をできるだけ短くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る電解槽は、陽極および陰極を備える。そして、この陽極は、炭素電極である。また、この陽極は、初期状態において2μm以上12μm以下の範囲内の算術平均表面粗さRaを有する。
【0007】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の算術平均表面粗さRaを有する炭素電極は、表面未処理の炭素電極に比べて、溶融塩浴に対する濡れ性が良好となり、溶融塩電解槽の稼働初期において電圧上昇や短絡が生じやすくなる時間を短くすることができることが確認された。
【0008】
本発明の第2局面に係る電解槽は第1局面に係る電解槽であって、初期状態の算術平均表面粗さRaは2μm以上8μm以下の範囲内である。
【0009】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の算術平均表面粗さRaを有する炭素電極は、第1局面に係る炭素電極に比べて、溶融塩浴に対する濡れ性がより良好となり、溶融塩電解槽の稼働初期において電圧上昇や短絡が生じやすくなる時間をより短くすることができることが確認された。
【0010】
本発明の第3局面に係る電解槽は第1局面に係る電解槽であって、初期状態の算術平均表面粗さRaは2μm以上4μm以下の範囲内である。
【0011】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の算術平均表面粗さRaを有する炭素電極は、第2局面に係る炭素電極に比べて、溶融塩浴に対する濡れ性がさらに良好となり、溶融塩電解槽の稼働初期において電圧上昇や短絡が生じやすくなる時間をさらに短くすることができることが確認された。
【0012】
本発明の第4局面に係る電解槽は第1局面から第3局面のいずれか一局面に係る電解槽であって、少なくとも一つの複極をさらに備える。この複極は、炭素電極である。そして、この複極は、少なくとも陽極側の表面が初期状態において2μm以上12μm以下の範囲内の算術平均表面粗さRaを有する。
【0013】
このため、この電解槽では、敷地面積当たりの金属回収量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽100は、本実施形態の溶融塩電解槽は、例えば、クロール法で副生した塩化マグネシウム(MgCl)から金属マグネシウムを再生するためのマルチポーラ型式のMg電解槽であって、図1に示されるように、主に、槽本体105、陽極110、陰極120、複極130および電源140から構成されている。以下、これらの構成要素について詳述する。
【0016】
(1)槽本体
槽本体105は、略直方体状の容器体である。図1に示されているように、この槽本体105には、陽極110と陰極120とが設けられていると共に、陽極110と陰極120の間に複数の複極130が設けられている。また、この槽本体105には、電気分解の対象である溶融塩MSが投入される。なお、ここにいう溶融塩MSとは、例えば、塩化マグネシウム等を含む溶融塩である。なお、塩化マグネシウムから金属マグネシウムを回収しようとする場合、その溶融塩には塩化カルシウム(CaCl)や、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化カルシウム(CaF)などが混合されてもかまわない。
【0017】
(2)陽極
陽極110は、多孔質構造を有する炭素電極である。なお、この炭素電極は、炭素原料(例えば、黒鉛、コークス、ピッチなど)を成形した後に焼成することによって作製される。また、本発明の実施の形態においてこの炭素電極の算術平均表面粗さRaは、2μm以上12μm以下の範囲内とされる。なお、ここにいう算術平均表面粗さRaは、JISB0601に規定されている。この算術平均表面粗さRaは、2μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましく、2μm以上8μm以下の範囲内であることがより好ましく、2μm以上6μm以下の範囲内であることがさらに好ましく、2μm以上4μm以下の範囲内であることが特に好ましい。炭素電極の算術平均表面粗さRaがこの数値範囲内であることにより、加工コストを著しく増大させることなく、炭素電極への溶融塩浴の浸透時間を有効に短縮することができるからである。そして、これにより、溶融塩電解槽100の稼働初期において陽極110を覆うガスの面積が減少し、陽極効果による電圧上昇を低減することができる。
【0018】
ところで、炭素電極の算術平均表面粗さRaを上記数値範囲内に収めることができる表面加工手法としては、例えば、旋盤やマシニングセンタ(MC)等を用いた機械加工や、やすり仕上げ、バフ研磨等の機械研磨加工、化学表面処理などが挙げられる。
【0019】
(3)陰極
陰極120は、例えば、鋼陰極である。
【0020】
(4)複極
複極130は、例えば、導電性を有する金属から成る電極であって、上述の通り、陽極110と陰極120との間に複数配設されている。なお、この複極130は、陽極110と同一であってもよく、陽極110と同様に表面加工処理が施されてもよい。かかる場合、陽極反応面のみに対して表面加工処理が施されてもよい。
【0021】
(5)電源
電源140は、図1に示されるように銅線等を介して陽極110および陰極120に接続されている。
【0022】
次に、本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽100を用いて塩化マグネシウムから金属マグネシウムを生成する方法について説明する。
【0023】
溶融塩MSとしての塩化マグネシウムを槽本体105内に満たした状態で、陽極110と陰極120との間に所定の電圧を印加して溶融塩MSを電気分解することにより、金属マグネシウムが生成される。
【0024】
<本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽の特徴>
本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽100では、陽極110として算術平均表面粗さRaが2μm以上12μm以下の範囲内である炭素電極が用いられる。本願発明者らの鋭意検討により、溶融塩電解槽100の稼働初期の炭素電極の表面を平滑化し、溶融塩への濡れ性を向上させることで、溶融塩浴が炭素電極に速やかに浸透することが明らかとされた。これにより、本発明の実施の形態に係る溶融塩電解槽100では、従前の炭素電極を有する溶融塩電解槽の稼働初期において溶融塩に対する炭素電極の濡れ性の悪さによる電解不良が早期に解消されて短絡リスクを軽減することができる。
【0025】
<変形例>
(A)
先の実施の形態ではマルチポーラ型式の溶融塩電解槽100に本願発明が適用されたが、複極が設けられていないもの、すなわち、陽極110と陰極120のみから成る溶融塩電解槽に本願発明が適用されてもよい。
【0026】
(B)
先の実施の形態ではクロール法で副生した塩化マグネシウムから金属マグネシウムを再生するための溶融塩電解槽100に本願発明が適用されたが、他の金属化合物から純金属を再生する溶融塩電解槽に本願発明が適用されてもよい。
【0027】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例0028】
1.溶融塩電解槽の組立
陽極および複極として炭素電極を、負極として鋼電極を採用し、複極式の溶融塩電解槽を組み立てた後に、その溶融塩電解槽に溶融塩として塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウムおよびフッ化カルシウムの混合物を投入し、その混合物を加熱しながらその混合物に対して塩化マグネシウムの理論電解電圧以上の電圧を印可して電気分解を行った。なお、炭素電極は、初期算術平均表面粗さRaが10μmとなるまでマシニングセンタで機械表面加工された。また、炭素電極の算術平均表面粗さRaは、JISB0601に規定されている方法に従って測定された。
【0029】
2.溶融塩電解槽の特性
2-1.初期浸透期間の測定
溶融塩電解槽の稼働開始時から溶融塩電解槽の電圧を計測し始め、稼働初期の電圧からその電圧が1~0.1%程度にまで下がった後に定常値まで戻った日(以下、「定常値復帰日」という。)を記録し、「溶融塩電解槽の稼働開始日」から「定常値復帰日」までの日数を初期浸透期間とした。本実施例に係る溶融塩電解槽の初期浸透期間は205日であった(表1参照)。
【0030】
2-2.初期短絡発生率の測定
以下の(1)および(2)の異常が生じた際に短絡が生じたと判定される。
(1)溶融塩電解槽の稼働中の電圧が3分以内に3%以上降下し、かつ降下が10分以上持続する
(2)複数組の電極に対し本来は均等な電流量が流れるはずが、特定の一組に3%以上偏って流れていることが観測される
【0031】
そして、「上述の(1)または(2)が発生した日の数」を「初期浸透期間」で除した値に100を乗じた値を初期短絡発生率とした。本実施例に係る溶融塩電解槽の初期短絡発生率は4%であった。
【0032】
2-3.相対電力原単位の導出
本実施例に係る溶融塩電解槽において金属マグネシウム1トンを製造するのに必要な電力量を計測した。そして、この電力量を、以下に示される比較例1に示される溶融塩電解槽の電力原単位で除して相対電力原単位を求めたところ、その値は99%となった(表1参照)。
【実施例0033】
炭素電極の初期算術平均表面粗さRaが5.5μmとなるまでマシニングセンタで機械表面加工された以外は、実施例1に示される方法と同様の方法で複極式の溶融塩電解槽が組み立てられ、実施例1に示される方法と同様の方法で溶融塩電解槽の特性が求められた。その結果、本実施例に係る溶融塩電解槽の初期浸漬期間は130日であり、初期短絡発生率は1%であり、相対電力原単位は97%であった。
【実施例0034】
炭素電極の初期算術平均表面粗さRaが3.5μmとなるまでマシニングセンタで機械表面加工された以外は、実施例1に示される方法と同様の方法で複極式の溶融塩電解槽が組み立てられ、実施例1に示される方法と同様の方法で溶融塩電解槽の特性が求められた。その結果、本実施例に係る溶融塩電解槽の初期浸漬期間は70日であり、初期短絡発生率は0%であり、相対電力原単位は94%であった。
【0035】
(比較例)
炭素電極に対して機械表面加工を施さなかったこと以外は、実施例1に示される方法と同様の方法で複極式の溶融塩電解槽が組み立てられ、実施例1に示される方法と同様の方法で溶融塩電解槽の特性が求められた。その結果、本実施例に係る溶融塩電解槽の初期浸漬期間は250日であり、初期短絡発生率は5%であり、相対電力原単位は100%であった。
【0036】
【表1】
【0037】
(まとめ)
上記実施例1~3および比較例1で示された各種特性の測定結果から炭素電極の算術平均表面粗さRaが小さくなればなるほど、溶融塩の浸透時間が短くなると共に初期短絡発生率が低下し、相対電力原単位が小さくなることが明らかとなった。すなわち、炭素電極の算術平均表面粗さRaが小さくなればなるほど、炭素電極に対する溶融塩浴の濡れ性が向上し、溶融塩電極槽の特性が向上することが実証された。
【符号の説明】
【0038】
100 溶融塩電解槽
110 陽極
120 陰極
130 複極
図1