(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036881
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】オイル増粘剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/90 20060101AFI20240311BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20240311BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
A61K8/90
A61K8/31
C09K3/00 103G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141418
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】黒川 洋
(72)【発明者】
【氏名】寺谷 聡一郎
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC011
4C083AC021
4C083AD021
4C083BB13
4C083DD41
(57)【要約】
【課題】高温に加熱することなく、オイル系材料に対して溶解し、増粘効果に優れたオイル増粘剤を提供すること。
【解決手段】炭化水素油と、水添ブロック共重合体と、を含み、前記水添ブロック共重合体は、ジブロック構造の共重合体であり、前記炭化水素油と前記水添ブロック共重合体との合計質量に対して、15~40質量部含有されている、オイル増粘剤である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素油と、水添ブロック共重合体と、を含み、
前記水添ブロック共重合体は、
ジブロック構造の共重合体であり、
前記炭化水素油と前記水添ブロック共重合体との合計質量に対して、15~40質量部含有されている、
オイル増粘剤。
【請求項2】
前記水添ブロック共重合体は、前記炭化水素油と前記水添ブロック共重合体との合計質量に対して、20~35質量部含有されている、
請求項1に記載のオイル増粘剤。
【請求項3】
前記水添ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物からなる重合体ブロック(B)とからなるジブロック共重合体の水素添加物である、
請求項1または請求項2に記載のオイル増粘剤。
【請求項4】
前記水添ブロック共重合体は、ポリスチレンブロックと、ポリ(エチレン-プロピレン)ブロックとを含むブロック共重合体である、
請求項1または請求項2に記載のオイル増粘剤。
【請求項5】
前記炭化水素油は、流動パラフィンである請求項1または請求項2に記載のオイル増粘剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイル増粘剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品やトイレタリー用品等の流体製品において、製品の粘度は、使用感や取り扱いやすさに大きな影響を与える。このため製品の粘度を調整することが望まれる。粘度調整のために、増粘剤やゲル化剤が使用される。一般にゲルとは、ゲル形成能力を有する物質によって形成された三次元網目構造中や三次元紐状構造中に流体が含まれている構造体である。流体が水であるものは、ハイドロゲルと称される。オイルや有機溶媒等、水以外の有機液体が流体であるゲルはオイルゲルやオルガノゲルと称される。
【0003】
オイルゲルとして、例えば特許文献1は、ポリスチレンセグメントと不飽和ゴムセグメントとを有するブロック共重合体1~50重量%と、天然油99~50重量%とのブレンドを含む組成物を開示している。特許文献1は、具体的な構成として、80重量部のダイズ油を100℃~200℃に加熱し、次いで、20重量部の不飽和ゴムブロック共重合体を混合して得た、透明な植物油ゲル組成物を開示している。
【0004】
例えば特許文献2は、オイルゲル化剤として、デキストリン脂肪酸エステルからなるオイルゲル化剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010-506036号公報
【特許文献2】特開2005-145851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなオイルゲルやオイルゲル化剤が提案されている。他方、化粧品やトイレタリー用品では、揮発性の香料等の耐熱性の低い成分を含むことがある。このような場合、高温に加熱しながら原料を混合することは許容されず、常温や常温に近い温度域でゲル化させることが望まれる。また、オイルやオイルを含む組成物に対する相溶性が高く、増粘効果にも優れたオイル増粘剤が望まれる。そこで、本発明は、高温に加熱することなく、オイル系材料に対して溶解し、増粘効果に優れたオイル増粘剤を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従ったオイル増粘剤は、炭化水素油と、水添ブロック共重合体と、を含み、
前記水添ブロック共重合体は、ジブロック構造の共重合体であり、前記炭化水素油と前記水添ブロック共重合体との合計質量に対して、15~40質量部含有されている。
【発明の効果】
【0008】
上記オイル増粘剤によれば、高温に加熱することなくオイル系材料に対して溶解し、増粘効果に優れたオイル増粘剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、オイル増粘剤における水添ブロック共重合体の含有割合と、オイル増粘剤を15%配合したミネラルオイルの粘度およびTI値のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
最初に、本開示にかかるオイル増粘剤の実施の形態を列挙して説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0011】
本開示に従ったオイル増粘剤は、炭化水素油と、水添ブロック共重合体と、を含み、
前記水添ブロック共重合体は、ジブロック構造の共重合体であり、前記炭化水素油と前記水添ブロック共重合体との合計質量に対して、15~40質量部含有されている。
【0012】
化粧品分野等において、チキソトロピー性を有するオイルゲルが利用されている。例えば、ポンプ容器に充填されたクレンジングオイルやヘアオイルは、容器から吐出される時には低粘度となって飛び散り難く、手に取った後やポンプの吐出口では高粘度となって液だれを防止できることが好ましいためである。ただし、オイルベースの製品を増粘(ゲル化)させるためのオイル増粘剤は限定的であった。
【0013】
例えば、特許文献1は、100~200℃の加熱下で植物油と不飽和ゴムブロック共重合体とを混合して、オイルゲルを得ることを開示している。しかしながら、多くの成分が混合された化粧品等では、例えば香料や香気成分など耐熱性の低い成分が含有されることがあり、このような場合、高温下で混合を行うことができない。
【0014】
一方、特許文献2に開示されるデキストリン脂肪酸エステルは、100℃未満でオイルに溶解することが記載されている。しかしながら、この種のオイル増粘剤は、高極性のオイルに対する溶解度が必ずしも充分ではなかった。また、水素結合によって増粘効果を得るものであることから、エステル油や界面活性剤等の極性化合物を含む組成物に対しては、増粘効果が充分に発揮されない場合があった。
【0015】
この状況に鑑み、高温に加熱することなくオイル系材料に対して溶解可能であり、増粘効果に優れたオイル増粘剤が検討された。増粘機能を有する成分(以下、増粘成分ということがある)があらかじめオイル成分に溶解された増粘剤を構成することによって、他のオイル成分に対して添加された際の相溶性を向上させるという着想の下、検討が進められた。そして、増粘成分として水添ブロック共重合体を用いることによれば、極性に影響されない増粘機能を得られること、さらに、オイル成分として炭化水素油を用いるとともに、炭化水素油中に特定の組成を有する水添ブロック共重合体を特定の範囲で含有する組成物によれば、高温に加熱することなくオイル系材料に対して溶解し、増粘効果に優れ、また、極性材料の影響を受けることなく増粘効果が得られる増粘剤となることが見出された。
【0016】
本開示にかかるオイル増粘剤は、水添ブロック共重合体として、ジブロック構造の共重合体を含有する。水添ジブロック共重合体を用いることで、増粘効果が高く、チキソトロピー性を有するオイルゲルが得られる。また、ジブロック構造の水添ブロック共重合体は、炭化水素油と水添ブロック共重合体との合計質量に対して、15~40質量部含有されている。この範囲であるとき、被添加オイルに対する相溶性と増粘効果が両立され、加熱することなく被添加オイルに対して溶融可能で、化粧品等の製造において利用しやすく、増粘効果に優れた増粘剤が得られる。
【0017】
前記オイル増粘剤において、前記水添ブロック共重合体は、前記炭化水素油と前記水添ブロック共重合体との合計質量に対して、20~35質量部含有されてもよい。この範囲であるとき、前述の効果がより確実に得られる。
【0018】
前記オイル増粘剤において、前記水添ブロック共重合体は、ポリスチレンブロックと、ポリ(エチレン-プロピレン)ブロックとを含むブロック共重合体であってよい。ポリスチレンブロックとポリ(エチレン-プロピレン)ブロックとを含むジブロック共重合体は、一般的に、SEPと称される。SEPは、熱可塑性エラストマーとして汎用される材料であり、安定性に優れ、極性・非極性を問わずオイル系溶剤に対する相溶性が高い。
【0019】
[実施形態の具体例]
以下、より具体的に本開示にかかるオイル増粘剤を説明する。
【0020】
(オイル増粘剤)
本開示にかかるオイル増粘剤は、炭化水素油と水添ブロック共重合体とを含む。本開示にかかるオイル増粘剤は、オイルやオイルを含む組成物に添加され、それらの粘度を上昇させる。本明細書では、説明の便宜のため、オイル増粘剤が添加されるオイル(オイルを含む組成物も含む)を「被添加オイル」ということがある。
【0021】
(オイル増粘剤の構成:炭化水素油)
本開示にかかるオイル増粘剤は、炭化水素油を基油として含む。炭化水素油は、典型的には25℃で液状の炭化水素油である。炭化水素油として、具体的には例えば、流動パラフィン、流動イソパラフィン、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、イソドデカン、イソヘキサデカンおよびスクワランからなる群から選択される少なくとも1種、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
炭化水素油としては、より具体的には、炭素数4~155のパラフィン系化合物、好ましくは炭素数4~50のパラフィン系化合物を含むものが挙げられる。炭化水素油が含むパラフィン系化合物としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘンエイコサン、ドコサン、トリコサン、テトラコサン、ペンタデコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、トリアコンタン、ヘントリアコンタン、ドトリアコンタン、ペンタトリアコンタン、ヘキサコンタン、およびヘプタコンタン等のn-パラフィン、イソペンタン、イソヘキサン、イソヘプタン、ネオヘキサン、2,3-ジメチルブタン、各種メチルヘキサン、3-エチルペンタン、各種ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、3-メチルヘプタン、各種ジメチルヘキサン、各種トリメチルペンタン、イソノナン、2-メチルノナン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカン、イソトリデカン、イソテトラデカン、イソペンタデカン、イソオクタデカン、イソナノデカン、イソエイコサン、および4-エチル-5-メチルオクタン等のイソパラフィン、これらの飽和炭化水素の誘導体等が挙げられる。
【0023】
炭化水素油として流動パラフィンを用いる場合、公知の市販品を用いることができる。市販品としては例えば、MORESCO社製の製品名「モレスコホワイト」シリーズ、製品名「モレスコバイオレス」シリーズ等が挙げられる。流動パラフィンは、リキッドパラフィン、ミネラルオイル、ホワイトミネラルオイル等とも称される。
【0024】
炭化水素油として流動パラフィンを用いる場合、流動パラフィンとしては、例えば、JIS K2283で規定される37.8℃の動粘度が3.0~130mm2/秒の範囲のものを用いることができ、30~80mm2/秒のものが好ましい。また、流動パラフィンの好ましい数平均分子量の範囲は200~550であり、より好ましくは300~500である。数平均分子量は、例えばガスクロマトグラフィーを用い、流動パラフィンの高分子1分子の平均値をとることで求められる。この粘度範囲あるいはこの分子量範囲の流動パラフィンを用いる場合、増粘成分である水添ブロック共重合体を高濃度で溶解することが可能で、安定したオイル増粘剤を構成できるとともに、被添加オイルに対する相溶性も良好となる。
【0025】
(オイル増粘剤の構成:増粘成分)
本開示にかかるオイル増粘剤は、被添加オイルを増粘させる機能を有する成分(増粘成分)として、ジブロック体である水添ブロック共重合体を含む。ジブロック体である水添ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物に由来する構造単位を主体とする重合体ブロック(B)とからなる、ジブロック共重合体の水素添加物である。
【0026】
重合体ブロック(A)の由来となる芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン等が挙げられる。重合体ブロック(B)の由来となる共役ジエン化合物としては、例えば、共役ジエン化合物としては、例えば、炭素数12以下の共役ジエン化合物である。炭素数12以下の共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。
【0027】
水添ブロック共重合体は、典型的には、スチレン/ブタジエン共重合体やスチレン/イソプレン共重合体のうち、ポリブタジエンブロック単位やポリイソプレンブロック単位が水添(水素化)されたものである。本開示にかかるオイル増粘剤が含む水添ブロック共重合体は、ポリスチレンブロックと、ポリ(エチレン-プロピレン)ブロックとからなるジブロック体であることが好ましい。
【0028】
本開示にかかるオイル増粘剤が含む水添ブロック共重合体の粘度は、特に制限されないが、ISO1133に準拠した温度200℃、荷重98.06Nで測定したメルトフローレート(MFR)値として、0(No Flow)~10g/10分の範囲内のものを用いることができる。水添ブロック共重合体の粘度がこの範囲であるとき、オイル増粘剤の基油である炭化水素油に溶解し、安定なオイル増粘剤を構成できる。
【0029】
本開示にかかるオイル増粘剤が含む水添ブロック共重合体は、水添ブロック共重合体中の重合体ブロック(A)の含有量が15~40質量%であるものを用いることができる。重合体ブロック(A)の含有量が前記範囲内であると、被添加オイルに添加するオイル増粘剤として取り扱い易い粘度となるとともに、被添加オイルに対して適度なチキソトロピー性を付与できる。
【0030】
水添ブロック共重合体の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば100,000~300,000であってよく、好ましくは110,000~270,000である。この範囲であれば、オイル増粘剤として取り扱い易い粘度に調整することが可能となるとともに、水添ブロック共重合体を基油に溶解するのに要する時間が短くなり、オイル増粘剤を合理的な工程によって製造できる。なお、ここでいう重量平均分子量は、一般的な測定方法で測定した重量平均分子量であり、具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した重量平均分子量等である。
【0031】
ジブロック体である水添ブロック共重合体としては、公知の市販品を用いることができる。市販品としては例えば、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、(株)クラレ製「セプトン(登録商標)」のうちジブロック体であるもの、旭化成(株)製「タフテック(登録商標)」のうちジブロック体であるもの等が挙げられる。
【0032】
(オイル増粘剤の構成:含有割合)
本開示にかかるオイル増粘剤は、炭化水素油と水添ブロック共重合体の合計質量に対して、ジブロック体である水添ブロック共重合体を、15~40質量部含有する。ジブロック体である水添ブロック共重合体の含有割合は、20~35質量部であることがより好ましい。オイル増粘剤における増粘成分の含有割合が低いと、増粘効果を得るために多量のオイル増粘剤を用いなくてはならない場合がある。この点、ジブロック体である水添ブロック共重合体の含有割合が15質量部以上であれば、被添加オイルに対するオイル増粘剤の添加量を抑えつつ、被添加オイルにおいて増粘効果を得ることができる。ジブロック体である水添ブロック共重合体の含有割合が40質量部以下であれば、被添加オイルに対する相溶性が高く、例えば常温でオイル増粘剤を被添加オイルに溶解できる。
【0033】
オイル増粘剤において、基油である炭化水素油の含有割合が高ければ、被添加オイルに対する相溶性が向上すると考えられる。一方で、増粘成分である水添ブロック共重合体の含有割合が低いと、所望する増粘効果を得るために被添加オイルに対するオイル増粘剤の添加量を多くせざるを得ない場合がある。しかしながら、多くの成分が配合される化粧品やトイレタリー用品において、オイル増粘剤の占める割合が多くなることは許容されがたいことがある。本開示にかかるオイル増粘剤は、特定構造の水添ブロック共重合体を増粘成分として含むともに、オイル増粘剤における増粘成分の含有割合を15質量%以上とすることで、被添加オイルに対する相溶性と増粘効果とを両立できる。
【0034】
(オイル増粘剤の物性)
本開示にかかるオイル増粘剤の粘度は、特に制限されないが、オイル増粘剤としての取り扱い易さの観点から、例えば70,000mPa・s以上であってよく、好ましくは200,000mPa・s以上であってよい。また、被添加オイルに対する溶解しやすさの観点から、3,500,000mPa・s以下であってよく、好ましくは2,000,000mPa・s以下であってよい。なお、ここでの粘度は、回転式粘度計(60℃、60rpm、300s)によって測定する値である。
【0035】
また、本開示にかかるオイル増粘剤は、チキソトロピー性を有するゲルであることが好ましい。チキソトロピー性は例えば、高せん断速度条件における粘度と、低せん断速度条件における粘度との粘度比で表される。高せん断速度条件における粘度としては、上記の粘度である。低せん断速度条件における粘度としては、回転式粘度計を用いて、60℃、6rpm、300sの条件で測定する粘度が、例えば600,000mPa・s以上であってよく、好ましくは1,000,000mPa・s以上であってよい。また、19,000,000mPa・s以下であってよく、好ましくは8,000,000mPa・s以下であってよい。
【0036】
チキソトロピー性は、高せん断速度条件(60rpm)における粘度に対する低せん断速度条件(6rpm)における粘度の比であるTI値(チキソトロピックインデックス)で表すことができる。本開示にかかるオイル増粘剤のTI値は特に制限されないが、3以上、9以下であることが好ましい。オイル増粘剤のTI値は、例えば、オイル増粘剤に含まれる水添ブロック共重合体の組成によって変更できる。
【0037】
本開示にかかるオイル増粘剤は、典型的には無色透明のゲル組成物である。無色透明であるため、被添加オイルに対して添加した際に、被添加オイルの色に影響を与えることが少ない。ただし、オイル増粘剤の色度は、特に制限されるものではない。
【0038】
(オイル増粘剤におけるその他の成分)
本開示にかかるオイル増粘剤は、前述の炭化水素油および前述のジブロック体である水添ブロック共重合体からなることが好ましい。オイル増粘剤の全質量に対する炭化水素油の含有割合は、60~85質量部であってよい。また、本開示にかかるオイル増粘剤は、炭化水素油およびジブロック体である水添ブロック共重合体以外の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、界面活性剤、流動点降下剤、防腐剤等である。オイル増粘剤の全質量に対する添加剤の含有割合は、5質量部以内である。
【0039】
酸化防止剤としては、トコフェロール(ビタミンE)、アスコルビン酸(ビタミンC)、カテキン等の天然系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、スルフィド系酸化防止剤、および有機リン酸系酸化防止剤等の合成系酸化防止剤を挙げることができる。酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明のオイル増粘剤が酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤の含有量は、オイル増粘剤の全量に対して、0.01~1質量部であってよく、好ましくは0.05~0.2質量部であってよい。
【0040】
(オイル増粘剤の製造方法)
本開示にかかるオイル増粘剤の製造方法は、本分野において周知の製造方法を用いて製造でき、特に制限されない。例えば、炭化水素油に水添ブロック共重合体を溶解させて製造できる。具体的には、一例として、前記の炭化水素油、前記のジブロック体である水添ブロック共重合体、および必要に応じてその他の添加剤を混合することによって製造することができる。混合は、周知の混合装置を用いて行うことができる。より具体的には、前記の各成分を、空気または窒素雰囲気下で、減圧または常圧において、120~200℃で2~6時間混合し、必要に応じて真空下にした後、冷却することにより製造できる。材料の熱劣化を抑制する観点から、通常は減圧下で混合を行う。オイル増粘剤は、ゲル組成物として得られる。
【0041】
(オイル増粘剤の使用方法)
本開示にかかるオイル増粘剤は、本分野において周知の方法で使用でき、使用方法は特に制限されない。例えば、被添加オイルに対して所定の分量を添加し、攪拌することによって、オイル増粘剤を被添加オイルに溶解させる。本開示にかかるオイル増粘剤は、常温(25℃)あるいは加熱することなく被添加オイルに溶解させることができる。また、被添加オイルの性質に応じて、また、溶解時間を短縮する目的で、あるいはその他の目的で、加熱下でオイル増粘剤の添加を行うこともできる。加熱しながらオイル増粘剤を添加する場合、オイル増粘剤および/または被添加オイルを50℃~100℃に加熱してもよい。本開示にかかるオイル増粘剤は相溶性に優れることから、短時間で溶解させることが可能である。このため、オイル増粘剤および/または被添加オイル、さらにその他の成分を添加して加熱する場合でも、加熱下で維持される時間を短縮できる。このため、オイル増粘剤、被添加オイル(その他の成分を含む)の熱劣化を抑制できる。
【0042】
(被添加オイル)
本開示にかかるオイル増粘剤が添加される被添加オイルは、特に制限されないが、例えば、炭化水素油、エステル油、植物油、シリコンオイル等のオイル成分が挙げられる。炭化水素油としては例えば、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。エステル油としては例えば、オキシコハク酸ジイソステアリル、2-エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、イソノナン酸イソデシル、ジオレイン酸ポリグリセリル、トリオレイン酸グリセリル、トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール等が挙げられる。植物油としては例えば、ヒマシ油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、サフラワー油、オリーブ、アボカド油、ゴマ油、月見草油、小麦胚芽油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、ローズヒップ油、メドウフォーム油、ティーツリー油、ハッカ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、綿実油、大豆油、落花生油、コメヌカ油、液状シア脂、ホホバ油等が挙げられる。シリコンオイルとしては例えば、ジメチルポリシロキサン、シクロペンタシロキサン、メチルポリシクロシロキサン、ポリエーテル変性メチルポリシロキサン、アミノ酸変性ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。被添加オイルは、1種類のオイルからなっていてもよく、2種類以上のオイルを含んでもよい。
【0043】
被添加オイルは、オイル成分以外の成分、例えば、界面活性剤等を含んでもよい。被添加オイルに含みうる界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤である。非イオン界面活性剤としては、例えば、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリグリコシド、アルキルグルコシド等が挙げられる。陰イオン界面活性剤としては例えば、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン脂肪アミン硫酸塩、アシルN-メチルタウリン塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、N-アシルアミノ酸塩等が挙げられる。陽イオン界面活性剤類としては、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等が挙げられる。両性界面活性剤類としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシ-N-ヒドロキシイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種類または2種類以上が含まれてよい。
【0044】
被添加オイルに界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有割合は特に制限されないが、例えば、被添加オイルの全量(界面活性剤その他の成分を含む)に対して、界面活性剤の含有割合が1質量部~25質量部であってよい。本開示にかかるオイル増粘剤は、被添加オイルが界面活性剤を含有する場合でも相溶性が高く、被添加オイルを増粘させることができる。
【0045】
被添加オイルには、例えば、酸化防止剤、流動点降下剤、消泡剤、ゲル化剤、粘度指数向上剤、吸水剤、フィラー、チキソトロープ剤、石油ワックス、金属不活性化剤等のその他の成分を含有していてもよい。
【0046】
(増粘の効果)
本開示にかかるオイル増粘剤による増粘の効果は、被添加オイルの組成によって幅広く変化するため、特に限定されるものではないが、一例としては、本開示にかかるオイル増粘剤をミネラルオイルに対して15質量部となるよう添加した場合、添加後のミネラルオイルの粘度(ブルックフィールド粘度計で測定、25℃、30rpm、60s)は、添加前の粘度に対して、20倍以上、好ましくは30倍以上、より好ましくは50倍以上となる。また、本開示にかかるオイル増粘剤をミネラルオイルに対して15質量部となるよう添加した場合、TI値(ブルックフィールド粘度計で測定、25℃、60s、3rpm/30rpm)が、2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上となる。なお、増粘効果は被添加オイルの組成、物性、条件、オイル増粘剤の添加量等に影響されるため、本開示にかかるオイル増粘剤の増粘効果は上記の範囲に限定されない。
【0047】
(オイル増粘剤の用途)
本開示にかかるオイル増粘剤の用途は特に制限されないが、例えば、オイルベースの化粧品やトイレタリー用品の粘度調整のために好適に使用されうる。化粧品として具体的には例えば、口紅、液体リップ、リップグロス、ファンデーション、アイシャドウ、ブラッシャー、コンシーラー、コンパクトパウダー、メイクアップベース等が挙げられる。トイレタリー用品としては、クレンジングオイル、洗顔フォーム、シャンプー、ヘアジェル、ローション、スタイリング剤、ワセリンクリーム、ハンドクリーム等が挙げられる。さらに、本開示にかかるオイル増粘剤は、塗料、インキ、接着剤、粘着剤、樹脂改質剤、相容化剤、シーリング材、コーティング材等の工業製品にも適用できる。
【0048】
[実施例]
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0049】
[オイル増粘剤の作成]
炭化水素油(モレスコホワイトP-70、MORESCO株式会社製)と下記に示す水添ブロック共重合体とを用いて、[表1]、[表2]に示す組成のオイル増粘剤を作成した。[表1]、[表2]における組成の単位はいずれも質量部である。増粘剤1~8は、本開示にかかるオイル増粘剤の範囲内であり、実施例である。増粘剤9~12は、本開示にかかるオイル増粘剤の範囲外であり、比較例である。
【0050】
(水添ブロック共重合体の構造の略称)
SEP:スチレン-エチレン-プロピレン ジブロック構造
SEPS:スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン トリブロック構造
SEEPS:スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン トリブロック構造
(使用した水添ブロック共重合体)
水添ブロック共重合体1:クラレ社製セプトン1020(SEP、MFR:1.8g/10min(200℃,10kg)、スチレン%=36、Mn=24.2万、Mw=25.4万、Mz=26.2万、Mw/Mn=1.05)
水添ブロック共重合体2:クレイトンポリマー社製クレイトンG1701(SEP、スチレン%=37、Mn=11.5万、Mw=11.3万、Mz=12.6万、Mw/Mn=1.08)
水添ブロック共重合体3:クレイトンポリマー社製クレイトンG1702(SEP、スチレン%=28、Mn=14.0万、Mw=14.9万、Mz=15.9万、Mw/Mn=1.07)
水添ブロック共重合体4:クラレ社製セプトン2002(SEPS、MFR:100g/10min(200℃,10kg)、スチレン%=30、Mn=10.3万、Mw=12.5万、Mz=13.3万、Mw/Mn=1.21)
水添ブロック共重合体5:クラレ社製セプトン2006(SEPS、MFR:No flow(200℃、10kg)、スチレン%=35、Mn=17.7万、Mw=20.7万、Mz=22.6万、Mw/Mn=1.17)
水添ブロック共重合体6:クラレ社製セプトン4044(SEEPS、MFR:No flow(200℃、10kg)、スチレン%=32、Mn=11.4万、Mw=13.4万、Mz=14.5万、Mw/Mn=1.17)
なお、上記の記載において、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、Mw/Mnは、島津製作所社製高速液体クロマトグラフシステム(GPCとして利用)によって、標準ポリスチレン換算値として求めた。測定条件は以下の通りである。
・カラム:ResiPore PL1113-6300、7.5x300mm(Agilent Technologies社製)
・溶媒:クロロホルム(和光純薬株式会社製、高速液体クロマトグラフ用)
・試料濃度:20mg/mL
・流速:1.0mL/min
・測定温度:40℃
【0051】
【0052】
【0053】
表1,2に示すオイル増粘剤の作成は、次の手順で行った。
炭化水素油、水添ブロック共重合体を表1,2(質量部)に示す配合量となるように攪拌混錬機中に投入し、圧力は-0.1kPa、攪拌速度は30rpmで攪拌した。次いで、170℃で撹拌した。その際、可能な限り、組成物が充分に溶解できるまで攪拌を行う必要がある。撹拌、減圧、加熱を止め、ゲル状組成物(オイル増粘剤)を回収した。
【0054】
[性能評価1:ミネラルオイルに対する増粘性能]
実施例1~8、比較例1~4のオイル増粘剤を[表3]、[表4]に示す配合でミネラルオイルに添加し、増粘効果、チキソトロピー性および相溶性を評価した。
ミネラルオイルとして、「モレスコホワイトP-70」(MORESCO株式会社製、粘度17mPa・s(25℃、30rpm、60s))を用いた。
【0055】
ミネラルオイルに対するオイル増粘剤の添加は、次の手順で行った。
300mLビーカーに、オイル増粘剤を全量投入し、オイル増粘剤に対して等倍のミネラルオイルを投入した。攪拌翼としてディスパーを用いて、常温で攪拌した。溶解したことを確認した後、さらに等倍のミネラルオイルを投入した。この工程を、ミネラルオイルが全量投入できるまで繰り返した。
【0056】
増粘性能の評価は、次の方法および評価基準で行った。
低温循環恒温槽(NCB-1210A)を25℃に設定し、ブルックフィールドB型粘度計(HAD V2T)を用いて粘度を測定した。試料をサンプルチャンバーに6.7mL投入し、25℃で10分間静置した後、粘度測定を行った。25℃、3rpmおよび30rpm、60s地点の粘度値を採用した。
なお、特に記載のない限り、以下に記載する評価においても同様の方法・条件で粘度を行った。
【0057】
増粘効果は、オイル増粘剤添加前のミネラルオイルの粘度(17mPa・s)に対する、オイル増粘剤添加後の粘度(25℃、30rpm、60s)の比(倍率)によって、下記の基準で評価した。
◎:粘度比が50倍以上
〇:粘度比が20倍以上50倍未満
×:粘度比が20倍未満
-:オイル増粘剤が溶解せず、測定不可
【0058】
また、オイル増粘剤が添加されたミネラルオイルについて、30rpmでの粘度に対する3rpmの粘度の比率を、TI値とした。TI値が1に近いほどニュートン流体になり、1から遠いほど非ニュートン流体となる。TI値が大きいほど、チキソトロピー性が高い。
【0059】
相溶性の評価は次の手順および評価基準で行った。
ミネラルオイルに対するオイル増粘剤の添加方法にならってオイル増粘剤を常温においてミネラルオイルで希釈した時に要した攪拌時間で評価した。評価基準は次のとおりとした。
◎:6時間以内に溶解可能
〇:6時間~12時間以内で溶解可能
×:12時間以内に溶解不可能
【0060】
【0061】
【0062】
粘度の測定結果、増粘効果、チキソトロピー性および相溶性の評価結果を[表3]、[表4]に示す。実施例1~8のオイル増粘剤を添加した試料No.1~9は、増粘効果が〇または◎、TI値が1.15以上、相溶性が〇または◎となった。特に、実施例3、4、5、7のオイル増粘剤を用いた試料(試料No.3、4、5、7)は、粘度が50倍以上(◎)となった。実施例2のオイル増粘剤を20質量部用いた試料No.8も、粘度が50倍以上(◎)となった。
一方、オイル増粘剤中の水添ブロック共重合体の含有割合が45%である比較例1のオイル増粘剤を用いた試料No.10は、ミネラルオイルに対して常温で溶解せず、相溶性の評価が×となった。水添ブロック共重合体としてトリブロック構造の共重合体を用いた比較例2、3(試料No.11、12)、水添ブロック共重合体としてランダム構造の共重合体を用いた比較例4(試料No.13)も、ミネラルオイルに対して常温で溶解せず、相溶性の評価が×となった。
【0063】
[
図1]に、オイル増粘剤における水添ブロック共重合体の含有割合(横軸)と、オイル増粘剤を15%配合したミネラルオイルの粘度(左縦軸)およびTI値(右縦軸)のグラフを示す。
図1に示されるとおり、オイル増粘剤における水添ブロック共重合体の含有割合が高いほど、ミネラルオイルに対する増粘効果が高かった。また、オイル増粘剤における水添ブロック共重合体の含有割合が高いとき、ミネラルオイルに対して高いチキソトロピー性を付与した。
【0064】
[性能評価2:エステル油および/または界面活性剤を含むオイルに対する溶解性]
[表5]、[表6]に示す組成のエステル油および/または界面活性剤を含むミネラルオイルに実施例2のオイル増粘剤を添加し、溶解の可否を評価した。比較例として、デキストリン脂肪酸エステル由来の市販増粘剤を用いた。
配合の手順は次のとおりとした。
実施例2のオイル増粘剤を用いた試料No.15~19は、常温(25℃)にて、500mLビーカーにオイル増粘剤を全量投入後、増粘剤に対し等倍のミネラルオイルを投入し、ディスパー攪拌翼で混ぜ合わせ、溶解したことを確認し、さらに等倍のミネラルオイルを投入し、攪拌した。この工程を、ミネラルオイルが全量投入されるまで繰り返した。その後、増粘剤と基油の配合物と、エステル油、界面活性剤を必要量スクリュー管に投入し、混合した。常温(25℃)で溶解したものは、90℃でも溶解すると判断した。
オイル増粘剤としてデキストリン脂肪酸エステルを用いた試料No.20~24は、300mLビーカーにミネラルオイルと、エステル油をそれぞれ全て配合し、常温(25℃)で攪拌した。この混合オイル中にデキストリン脂肪酸エステル増粘剤(粉末)を添加した。その後、25℃もしくは90℃で加熱したサンドバスにビーカーをセットし、攪拌させてデキストリン脂肪酸エステル増粘剤を混合した。溶液が透明になれば、常温になるまで静置し回収した。
【0065】
【0066】
【表6】
なお、溶解可否の評価は次の評価基準で行った。
・表5(試料No.15~19)
〇:25℃で30分以内、または90℃で20分以内に溶解した
×:上記条件で溶解しなかった
・表6(試料No.20~24)
〇:25℃で60分以内、または90℃で30分以内に溶解した
×:上記条件で溶解しなかった
【0067】
表5に示されるとおり、実施例2のオイル増粘剤は、増粘対象オイルにエステル油や界面活性剤を含む場合にも、常温(25℃)では30分で溶解可能、90℃では20分で溶解可能であった(試料No.15~19)。一方、表6に示されるとおり、増粘剤としてデキストリン脂肪酸エステルを用いる場合、90℃に加熱すると30分以内で溶解したが、常温ではミネラルオイルに対して1時間以内には溶解できなかった(試料No.20)。ミネラルオイルにエステル油や界面活性剤を含む場合も、90℃では30分以内に溶解したが、常温では1時間以内に溶解できなかった(試料No.21~24)。
【0068】
[性能評価3:エステル油および/または界面活性剤を含むオイルに対する増粘性能]
[表7]に示す組成のエステル油および/または界面活性剤を含むミネラルオイルに実施例2のオイル増粘剤を添加した配合物について、増粘剤添加前後の粘度および外観を測定し、増粘効果およびチキソトロピー性を評価した。
【0069】
【0070】
表7に示されるとおり、実施例2のオイル増粘剤は、エステル油および/または界面活性剤を含むミネラルオイルに対しても、粘度を10倍以上に上昇させた。また、TI値も上昇させ、チキソトロピー性を付与できた。
【0071】
[性能評価4:エステル油を含むオイルに対する増粘後粘度の維持]
エステル油を含むミネラルオイルに対して実施例2のオイル増粘剤を添加した配合物について、溶解可否および増粘後の粘度の経時変化を評価した。[表8]に、配合物の組成、溶解可否および1日後、1週間後、2週間後、1ヶ月後の配合物粘度を示す。
【0072】
【0073】
表8に示されるとおり、実施例2のオイル増粘剤は、エステル油とミネラルオイルとを含有する増粘対象オイルに対して、常温(25℃)、100℃のいずれでも溶解した。また、30rpm粘度は、1日後、1週間後、2週間後、1ヶ月後ともに粘度の変動はわずかであり、粘度安定性が高いことが確認された。
【0074】
[性能評価5:熱劣化の防止効果]
化粧品に使用される成分には耐熱性の低く、熱劣化しやすいものがある。そこで、熱劣化しやすい成分を含むオイル(ごま油とミネラルオイルの配合オイル)に対して実施例2のオイル増粘剤を添加した配合物について、粘度、色調、酸化度、臭気を評価した。組成と評価結果を[表9]に示す。
【0075】
【0076】
表9に示す配合物において、ミネラルオイルは「モレスコホワイトP-70」を用いた。熱劣化しやすい成分の疑似物質として、ごま油は「太白胡麻油」(竹本油脂株式会社製)を用いた。配合は次の手順で行った。
300mLビーカーに、ミネラルオイル15g、オイル増粘剤15gを投入し、ディスパー攪拌翼を用いて攪拌を行った。増粘剤がミネラルオイルに溶解したことを確認後、ミネラルオイルを15gずつ追加投入し、攪拌した。この操作をミネラルオイルが全量投入されるまで繰り返した。最後に、ごま油7.5gを投入し攪拌して配合物を得た。配合は室温で実施した。
【0077】
比較例として、オイル増粘剤を用いず、水添ブロック共重合体をミネラルオイルおよびごま油に直接添加した配合物についても、溶解性の確認、粘度、色調、酸化度、臭気を評価した。配合は次の手順で行った。
500mLセパラブルフラスコに、水添ブロック共重合体(セプトン1020、株式会社クラレ製)3.75g、ミネラルオイル(モレスコホワイトP-70)93.75g、ごま油7.5gを投入した。攪拌翼にディスパーを用いて、セパラブルフラスコのふたを閉めオイルバスに入れ、撹拌機にセットした。あらかじめオイルバスは任意の温度に設定し、目標温度に到達後オイルバスにセパラブルフラスコを入れた。撹拌機の回転数は200rpmに設定し、1時間攪拌し、外観(溶け残り、色)、粘度、セーボルト、全酸価を確認した。比較例は室温で溶解しなかったため、溶解温度は、100℃、120℃、150℃、170℃の各温度とした。
組成と評価結果を[表10]に示す。
【0078】
【0079】
表10に示されるとおり、100℃、120℃、150℃の各温度では、水添ブロック共重合体がオイル成分に対して溶解しなかった。170℃では溶解したものの、実施例2のオイル増粘剤を常温で配合した試料No.26と比較して、粘度、セーボルト、全酸価が上昇し、臭気が発生した。溶解温度を170℃とした場合、配合成分の熱劣化が生じ、オイルの性質が損なわれたと考えられた。これに対して、実施例2のオイル増粘剤を用いた試料No.26は熱劣化が生じず、オイルの性質を損なうことがなく増粘できることが確認された。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。