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特開2024-36902屋内塵性ダニ類防除用組成物、屋内塵性ダニ類防除用エアゾール、及びこれらの処方設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036902
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】屋内塵性ダニ類防除用組成物、屋内塵性ダニ類防除用エアゾール、及びこれらの処方設計方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 53/08 20060101AFI20240311BHJP
   A01P 7/02 20060101ALI20240311BHJP
   A01N 25/06 20060101ALI20240311BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240311BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
A01N53/08 110
A01P7/02
A01N25/06
A01N25/02
D06M13/224
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141445
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】前田 崇彰
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋子
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【テーマコード(参考)】
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AC04
4H011BB15
4H011DA21
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA21
(57)【要約】
【課題】布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得る屋内塵性ダニ類防除用組成物を提供する。
【解決手段】布帛に噴霧して使用される屋内塵性ダニ類防除用組成物であって、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有し、下記条件1を満たす屋内塵性ダニ類防除用組成物:(条件1)前記屋内塵性ダニ類防除用組成物10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ前記調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛に噴霧して使用される屋内塵性ダニ類防除用組成物であって、
有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有し、
下記条件1を満たす屋内塵性ダニ類防除用組成物:
(条件1)前記屋内塵性ダニ類防除用組成物10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ前記調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【請求項2】
前記条件1における前記調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-9mol/L以上1×10-2.5mol/L以下である請求項1に記載の屋内塵性ダニ類防除用組成物。
【請求項3】
前記布帛は、動物繊維を含む請求項1又は2に記載の屋内塵性ダニ類防除用組成物。
【請求項4】
ピレスロイド系化合物用共力剤をさらに含有する請求項1又は2に記載の屋内塵性ダニ類防除用組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の屋内塵性ダニ類防除用組成物と、噴射剤とを耐圧容器に封入してなり、
下記条件2を満たす屋内塵性ダニ類防除用エアゾール:
(条件2)前記屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ前記調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【請求項6】
前記噴射剤は、炭酸ガスである請求項5に記載の屋内塵性ダニ類防除用エアゾール。
【請求項7】
布帛に噴霧して使用される屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方を設計する処方設計方法であって、
前記屋内塵性ダニ類防除用組成物は、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有し、
前記屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方を、下記条件1を満たすように設計する処方設計方法:
(条件1)前記屋内塵性ダニ類防除用組成物10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ前記調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【請求項8】
布帛に噴霧して使用される屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方を設計する処方設計方法であって、
前記屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有する屋内塵性ダニ類防除用組成物と、噴射剤とを耐圧容器に封入してなり、
前記屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方を、下記条件2を満たすように設計する処方設計方法:
(条件2)前記屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ前記調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内塵性ダニ類を防除するために布帛に噴霧して使用される屋内塵性ダニ類防除用組成物、屋内塵性ダニ類防除用エアゾール、及びこれらの処方設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、居住環境の変化により、屋内にコナダニ、ヒョウヒダニ、ホコリダニ、ツメダニ等の屋内塵性ダニ類が発生し、居住者に不快感を与えるばかりでなく、アレルギー性喘息や皮疹を惹起する等の問題が生じている。
【0003】
このため、屋内塵性ダニ類が潜伏するカーペットや寝具等を噴霧処理するための屋内塵性ダニ類防除剤が要望されているが、屋内においては、屋内塵性ダニ類防除剤が直接肌に接触するような使用場面が多いため、より安全性の高い薬剤の開発が必要とされている。
【0004】
そこで、本出願人らは、屋内ダニ防除用殺ダニ防除剤において、屋内で安全に使用し得る屋内塵性ダニ類防成分としてのフェノトリンと、害虫忌避成分としてのN,N-ジエチル-m-トルアミド(以下、「ディート」と呼ぶ。)とを併用し、ディートの配合量をフェノトリンの配合量よりも多くすることによって、コナダニ、ヒョウヒダニ、ホコリダニ等の屋内に生息するダニ類に対し、高い殺ダニ効果を達成し得ることを見出した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-137710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の屋内ダニ防除用殺ダニ剤は、フェノトリンの配合量を抑えつつ、高い屋内塵性ダニ類防除効果を達成できる点において優れた技術であるといえるものの、カーペットや寝具等の布帛に使用すると、ディートを含むため、布帛に収縮、変質等の劣化を引き起こすおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得る屋内塵性ダニ類防除用組成物、屋内塵性ダニ類防除用エアゾール、及びこれらの処方設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る屋内塵性ダニ類防除用組成物の特徴構成は、
布帛に噴霧して使用される屋内塵性ダニ類防除用組成物であって、
有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有し、
下記条件1を満たすことにある:
(条件1)前記屋内塵性ダニ類防除用組成物10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ前記調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【0009】
本構成の屋内塵性ダニ類防除用組成物によれば、上記条件1を満たすことによって、上記希釈液の水素イオン濃度は、布帛に噴霧した直後においてpH10以下に相当する値となる。これは、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物が過度なアルカリ性ではないことを示す。また、噴霧から1時間経過後においては、上記希釈液の水素イオン濃度は、大きく変化していない値となる。このように、噴霧した直後、及び噴霧から1時間経過後までにおいて液性が適切に維持されるため、有効成分としてのピレスロイド系化合物を含有する当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得るものとなる。
【0010】
本発明に係る屋内塵性ダニ類防除用組成物において、
前記条件1における前記調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-9mol/L以上1×10-2.5mol/L以下であることが好ましい。なお、1×10-2.5は、3.16×10-3に相当する。
【0011】
本構成の屋内塵性ダニ類防除用組成物によれば、噴霧した直後の液性がより適切なものとなり、これに伴って、噴霧から1時間経過後において液性もより適切に維持されるため、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化をより引き起こし難いものとなる。
【0012】
本発明に係る屋内塵性ダニ類防除用組成物において、
前記布帛は、動物繊維を含むことが好ましい。
【0013】
動物繊維は、pH10超のアルカリ性の環境下において劣化し易く、このため、動物繊維を含む布帛も、上記アルカリ性の環境下において劣化し易いものである。しかし、本構成の屋内塵性ダニ類防除用組成物によれば、上述したように、上記希釈液中の水素イオン濃度がpH10以下に相当する値であるため、動物繊維を含む布帛に噴霧しても、劣化を引き起こし難い。よって、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、布帛が動物繊維を含む場合に、優位性が高められたものとなる。
【0014】
本発明に係る屋内塵性ダニ類防除用組成物において、
ピレスロイド系化合物用共力剤をさらに含有することが好ましい。
【0015】
本構成の屋内塵性ダニ類防除用組成物によれば、ピレスロイド系化合物用共力剤をさらに含有することによって、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、屋内塵性ダニ類防除効果が高められたものとなる。
【0016】
上記課題を解決するための本発明に係る屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、
上述した当該屋内塵性ダニ類防除用組成物と、噴射剤とを耐圧容器に封入してなり、
下記条件2を満たすことにある:
(条件2)前記屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ前記調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【0017】
本構成の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールによれば、上記条件2を満たすことによって、上記希釈液の水素イオン濃度は、布帛に噴霧した直後においてpH10以下に相当する値となる。これは、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液が過度なアルカリ性ではないことを示す。また、噴霧から1時間経過後においては、上記希釈液の水素イオン濃度は、大きく変化していない値となる。このように、噴霧した直後、及び噴霧から1時間経過後までにおいて液性が適切に維持されるため、有効成分としてのピレスロイド系化合物を含有する当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得るものとなる。また、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールによれば、上述した当該屋内塵性ダニ類防除用組成物(原液)と、噴射剤とを耐圧容器に封入してなることによって、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを布帛に噴霧処理した際に、有効成分としてのピレスロイド系化合物を布帛の表面のより広い領域に、より深く到達させることができるため、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、屋内塵性ダニ類防除効果が高められたものとなる。
【0018】
本発明に係る屋内塵性ダニ類防除用エアゾールにおいて、
前記噴射剤は、炭酸ガスであることが好ましい。
【0019】
本構成の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールによれば、噴射剤が炭酸ガスであることによって、炭酸ガスを含有する分、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液の液性が酸性に近づき(過度にアルカリ性となることをより回避することができる)、さらに炭酸ガス自体も布帛を傷めないため、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化をより引き起こし難いものとなる。
【0020】
上記課題を解決するための本発明に係る処方設計方法の特徴構成は、
布帛に噴霧して使用される屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方を設計する処方設計方法であって、
前記屋内塵性ダニ類防除用組成物は、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有し、
前記屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方を、下記条件1を満たすように設計することにある:
(条件1)前記屋内塵性ダニ類防除用組成物10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ前記調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【0021】
本構成の処方設計方法によれば、上記条件1を満たすように屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方を設計することによって、上述したように、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得る屋内塵性ダニ類防除用組成物を得ることができる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明に係る処方設計方法の特徴構成は、
布帛に噴霧して使用される屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方を設計する処方設計方法であって、
前記屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有する屋内塵性ダニ類防除用組成物と、噴射剤とを耐圧容器に封入してなり、
前記屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方を、下記条件2を満たすように設計することにある:
(条件2)前記屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ前記調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【0023】
本構成の処方設計方法によれば、上記条件2を満たすように屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液の処方を設計することによって、上述したように、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得る屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の屋内塵性ダニ類防除用エアゾール(屋内塵性ダニ類防除用組成物)を設計するにあたり、本発明者らは、布帛に噴霧処理した際でも、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を有する屋内塵性ダニ類防除用組成物について、以下のように検討した。
【0025】
有機溶剤を含有する屋内塵性ダニ類防除用組成物は、pH(すなわち、水素イオン濃度)を測定し難いため、pHと、布帛の劣化との相関を評価することが困難である。しかし、この屋内塵性ダニ類防除用組成物を純水に混合して希釈液とすることで、pHと、布帛の劣化との相関を評価し得ることが判明した。ただし、pHよりも、このpHの算出に使用される水素イオン濃度を指標とした方が、布帛の劣化との相関を精度良く評価し得る。
【0026】
そこで、水素イオン濃度に着目してさらに検討を行ったところ、上記希釈液の水素イオン濃度が所定の範囲を超えて小さくなり過ぎる(液性が過度にアルカリ性である)と、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物を布帛に噴霧した際、布帛が劣化する傾向にあった。
【0027】
そして、この知見に基づき、上記希釈液中の水素イオン濃度を、上記希釈液中に含まれる屋内塵性ダニ類防除用組成物の液性(酸性の程度、又はアルカリ性の程度)の指標とし、この指標が特定の条件を満たすように屋内塵性ダニ類防除用組成物を処方することによって、布帛の劣化を引き起こし難くし、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得ることを突き止め、本発明の屋内塵性ダニ類防除用組成物、屋内塵性ダニ類防除用エアゾール、及びこれらの処方設計方法を完成するに至った。
【0028】
以下、本発明の屋内塵性ダニ類防除用組成物、屋内塵性ダニ類防除用エアゾール、及びこれらの処方設計方法の実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に記載される構成に限定されることを意図しない。なお、本明細書において数値範囲を示す表記「~」がある場合、その数値範囲には、「~」を挟む各数値が上限値及び下限値として含まれることを意味し、また、各上限値及び各下限値を適宜組み合わせて数値範囲としてもよい。また、本明細書において、含有量の単位「w/v%」は、「g/100mL」と同義である。
【0029】
[屋内塵性ダニ類防除用組成物]
本実施形態の屋内塵性ダニ類防除用組成物は、布帛に噴霧して使用される屋内塵性ダニ類防除用組成物であって、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有する。
【0030】
<ピレスロイド系化合物>
ピレスロイド系化合物は、屋内塵性ダニ類を防除するために配合される有効成分である。ここで、「防除」による効果には、ノックダウン効果、致死効果、忌避効果、増殖抑制効果、及び行動停止効果等が含まれる。
【0031】
ピレスロイド系化合物としては、例えばフェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、エトフェンプロックス、イミプロトリン、シラフルオフェン、フタルスリン、モンフルオロトリン、アレスリン、プラレトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、テラレスリン、フラメトリン、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシラート、ピレトリンI、ピレトリンII、シネリンI、シネリンII、ジャスモリンI、ジャスモリンII、天然ピレトリン類(ピレトリンI、ピレトリンII、シネリンI、シネリンII、ジャスモリンI、ジャスモリンIIの混合物)等が挙げられる。これらのうち、屋内塵性ダニ類防除効果の持続性を高め得るとの観点から、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、エトフェンプロックス、イミプロトリン、シラフルオフェン、フタルスリン等の難揮散性ピレスロイド系化合物が好ましく、これらのうち、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、イミプロトリン、フタルスリンがより好ましい。上記化合物が化学構造中に不斉炭素あるいは二重結合等を含み、これに基づく光学異性体や幾何異性体等が存在する場合は、これらの各異性体を単独で使用しても、これらの異性体の任意の混合物を使用してもよい。これらのピレスロイド系化合物は、市販品や公知の方法による合成品を使用してもよい。ピレスロイド系化合物は、一種を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0032】
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物中のピレスロイド系化合物の配合量は、例えば0.05~10.0w/v%であることが好ましく、0.1~7.0w/v%がより好ましく、0.2~5.0w/v%がさらに好ましい。ピレスロイド系化合物の配合量を上記範囲内とすることによって、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、屋内塵性ダニ類防除効果が高められたものとなる。
【0033】
<有機溶剤>
有機溶剤としては、例えばエタノール、及びイソプロパノール(IPA)等の炭素数が2~3の低級アルコール、ノルマルパラフィン、及びイソパラフィン等の炭化水素系溶剤、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)、ラウリン酸ヘキシル等の炭素数が16~20の高級脂肪酸エステル、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、へキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~10のグリコール系溶剤、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の炭素数3~10のグリコールエーテル系溶剤、並びにアセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、等が挙げられる。これらの中でも、処理後のべたつきといった使用感の観点から、炭素数が2~3の低級アルコールを含有することが好ましく、エタノールを含有することがより好ましい。有機溶剤は、一種を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0034】
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物中の有機溶剤の含有量は、例えば60~99.5w/v%が好ましく、70~99.5w/v%がより好ましい。また、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物中の有機溶剤の含有量は、例えば20~99.5w/v%であることが好ましく、30~99.5w/v%がより好ましい。
【0035】
<他の成分>
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、ピレスロイド系化合物以外の成分として、必要に応じて、ピレスロイド系化合物以外の他の屋内塵性ダニ類防除成分、水、pH調整剤、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ピレスロイド化合物用共力剤、防カビ剤、抗菌剤、殺菌剤、芳香剤等を含有してもよく、この他、ブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、クエン酸、クエン酸塩、エデト酸ナトリウム、アスコルビン酸等の安定化剤、タルクや珪酸等の無機粉体、消臭剤、色素、感触付与剤、UV吸収抑制剤、帯電防止剤、消泡剤、及び賦形剤等を含有してもよい。
【0036】
他の屋内塵性ダニ類防除成分としては、例えばジクロルボス、及びフェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド、及びクロチアニジン等のネオニコチノイド系化合物、ブロフラニリド、フィプロニル、インドキサカルブ、アミドフルメト、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ベンジル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジブチル、p-メンタン-3,8-ジオール、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート、IR3535、イカリジン、メトキサジアゾン等が挙げられる。
【0037】
水としては、例えばイオン交換水や逆浸透膜水等の精製水や、通常の水道水や工業用水、海洋深層水等が挙げられる。当該屋内塵性ダニ類防除用組成物中の水の含有量は、例えば40w/v%以下であることが好ましく、20w/v%以下がより好ましく、5w/v%以下がさらに好ましく、1w/v%以下が一層好ましく、0.5w/v%以下がより一層好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0038】
ノニオン界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(POE硬化ヒマシ油)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(POEアルキルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(POEアルキルフェニルエーテル)、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル(POE高級脂肪酸エステル)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(POEソルビタン脂肪酸エステル)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル(POEグリセリン脂肪酸エステル)、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(POEPOPアルキルエーテル)、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0039】
アニオン界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられる。
【0040】
カチオン界面活性剤としては、例えば塩化ベンザルコニウム、ベンザルコニウムメトサルフェート、ベンザルコニウム有機酸塩等のベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ベンゼトニウムメトサルフェート、ベンゼトニウム有機酸塩等のベンゼトニウム塩、塩化セチルピリジニウム、セチルピリジニウムメトサルフェート、セチルピリジニウム有機酸塩等のセチルピリジニウム塩、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェート等のジデシルジメチルアンモニウム塩、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、ジラウリルジメチルアンモニウムメトサルフェート等のジラウリルジメチルアンモニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、ジステアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート等のジステアリルジメチルアンモニウム塩、及び1,4-ビス[3,3´-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイド、1,4-ビス[3,3´-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジクロライド、1,4-ビス[3,3´-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジメトサルフェート等の1,4-ビス[3,3´-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩等が挙げられる。
【0041】
ピレスロイド系化合物用共力剤としては、例えばN-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]-ヘプタ-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(MGK-264)、ピペロニルブトキシド等が挙げられる。当該屋内塵性ダニ類防除用組成物中の上記共力剤の配合量は、例えば0.5~10.0w/v%であることが好ましく、0.7~7.0w/v%がより好ましく、1.0~5.0w/v%がさらに好ましい。ピレスロイド系化合物用共力剤の配合量を上記範囲内とすることによって、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物の屋内塵性ダニ類防除効果を高めることができる。
【0042】
防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤としては、例えばヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、及びオルト-フェニルフェノール等が挙げられる。芳香剤としては、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α-ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分等が挙げられる。
【0043】
<屋内塵性ダニ類防除用組成物の調製>
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、ピレスロイド系化合物と、必要に応じて、任意の他の成分とを混合することによって調製することができる。
【0044】
<屋内塵性ダニ類防除用組成物の噴霧形態>
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、そのまま液状の形態として調整することができ、この場合、そのまま手動式のスプレー容器に収容してスプレー製品として用いることができる。また、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、噴射剤と共に耐圧容器に充填して、後述するようにエアゾール製品として用いることもできる。これらの中でも、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、エアゾール製品として用いることが好ましい。
【0045】
(スプレー製品)
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物をスプレー製品として使用する場合、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物を噴霧するための噴射部材の形状としては、例えばトリガー部を備えたトリガータイプ、プッシュダウン部を備えたフィンガーポンプタイプ等が挙げられる。これらの噴射部材の噴口の大きさは、例えば直径0.05~1.0mmであり、噴口は1つでも複数でもよい。ディップチューブの内径は、例えば1~10mmであり、1~5mmが好ましい。1回噴霧当たりの噴霧量は、例えば0.05~3.0mLであり、0.05~1.5mLが好ましい。蓄圧式ポンプの場合、1回当たりの噴霧量は、例えば0.1~5.0gである。
【0046】
上記スプレー製品から噴霧された噴霧粒子の平均粒子径は、適宜設定することができる。例えば噴口から50cm離れた位置における噴霧粒子の50%体積平均粒子径(Dv50)は、30~150μmであることが好ましく、50~140μmがより好ましく、70~130μmがさらに好ましい。噴霧粒子の50%体積平均粒子径(Dv50)は、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物の組成、噴口の形状等により適宜調整することができる。
【0047】
噴霧粒子の50%体積平均粒子径(Dv50)は、体積積分分布に基づく噴霧粒子の50%粒子径(Dv50)であり、粒度分布測定装置により測定され、自動演算処理装置により解析された50%粒子径(Dv50)を意味する。具体的には、50%粒子径(Dv50)は、25℃において、レーザー粒度分布測定装置(SPRAYTEC model STP5321、Malvern社製)を用い、レーザー光発光部より受光部に照射されるレーザービームと、スプレー製品の噴口との距離が50cmとなるように、かつ、噴霧粒子がレーザービームを垂直に通過するように、スプレー製品の位置を調整する。そして、噴口から当該屋内塵性ダニ類防除用組成物を噴霧しながら、噴霧中に測定を行い、噴霧粒子の粒度分布を自動演算処理装置によって解析することにより、体積積分分布に基づく噴霧粒子の50%粒子径(Dv50)を得ることができる。
【0048】
上記スプレー製品は、例えば当該屋内塵性ダニ類防除用組成物をスプレー用の容器(スプレー容器)に充填し、噴射部材により開口を閉止することによって作製される。スプレー容器としては、公知のものを使用可能である。
【0049】
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物を布帛に噴霧すると、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、主として布帛を構成する繊維の表面に付着し、一部が布帛を構成する繊維間の奥部に到達する。一方、屋内塵性ダニ類は、夜行性を有し、日中は布帛の繊維の奥部に潜み、夜間になると、繊維の奥部から表面に移動し、餌を求めて布帛の表面や、布帛以外の場所を徘徊する。このため、例えば、日中に、布帛の表面に当該屋内塵性ダニ類防除用組成物を噴霧し、その表面に付着させておくと、夜間に布帛の表面に移動した屋内塵性ダニ類が当該屋内塵性ダニ類防除用組成物と接触することになるため、防除効果を発揮することができる。また、布帛の繊維間に屋内塵性ダニ類が未だ潜んでいない場合には、布帛の表面に当該屋内塵性ダニ類防除用組成物を付着させておくと、布帛の繊維間に屋内塵性ダニ類が侵入することを抑制することができる。
【0050】
<屋内塵性ダニ類防除用組成物の液性>
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、下記条件1を満たすものである:
(条件1)屋内塵性ダニ類防除用組成物10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下であり、0.8以上1.8以下が好ましく、0.9以上1.6以下がさらに好ましい。
【0051】
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、上記条件1を満たすことによって、布帛に噴霧した直後、及び噴霧から1時間経過後において液性が適切に維持されるため、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得るものとなる。
【0052】
上記条件1における調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-9mol/L以上1×10-2.5(3.16×10-3)mol/L以下であることが好ましい。
【0053】
調製直後の水素イオン濃度(A0)を上記範囲内とすることによって、噴霧した直後の液性がより適切なものとなり、これに伴って、噴霧から1時間経過後において液性もより適切に維持されたものとなるため、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化をより引き起こし難いものとなる。
【0054】
上記水素イオン濃度(A0)及び(A1)は、25℃の室温条件下で保管された希釈液を、通常の方法で校正されたpH測定器によって測定される値である。具体的には、例えばメトラー・トレド株式会社製のpH測定器(Seven2Goモデル)を用い、pH4.01フタル酸塩pH標準液と、pH9.18ホウ酸塩pH標準液とで2点校正を行った後に測定を実施する。
【0055】
「布帛の劣化」としては、布帛のシミ、変色、収縮、布帛の構成原料の分解等が挙げられる。
【0056】
当該屋内塵性ダニ類防除用組成物との混合(希釈)に使用する純水は、電気伝導率が1mS/m以下の水である。
【0057】
<屋内塵性ダニ類防除用組成物の劣化抑制性>
ピレスロイド系化合物を含有する当該屋内塵性ダニ類防除用組成物の布帛を劣化させない性能(布帛劣化抑制性)は、同量のディートを含有する場合よりも優れていることが好ましい。この性能は、例えば、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物における布帛を劣化させる作用と、ピレスロイド系化合物の代わりにディートを含有させた場合における布帛を劣化させる作用とを比較することによって示される。このような布帛を劣化させる作用としては、収縮の程度等が挙げられ、例えば収縮の程度が大きい程、布帛を劣化させる作用が大きいことになる。
【0058】
<布帛>
布帛としては、例えばカーペット、カーテン、寝具といった屋内家具、テーブルクロスといった屋内小物等に使用される布帛等が挙げられる。このような布帛としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維、木綿等の植物繊維、絹、羊毛(ウール)、馬毛、羽毛等の動物繊維等を含む繊維で形成されている布帛が挙げられ、このうち、絹、羊毛(ウール)、馬毛、羽毛等の動物繊維で形成されている布帛が好ましく、羊毛(ウール)を含む繊維で形成されている布帛がより好ましい。
【0059】
上述したように、動物繊維を含む布帛は、pH10超のアルカリ性の環境下において劣化し易いが、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、上記希釈液中の水素イオン濃度がpH10以下に相当する値であるため、動物繊維を含む布帛に噴霧した際、劣化を引き起こし難い。よって、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、布帛が動物繊維を含む場合に、優位性が高められたものとなる。
【0060】
<防除対象>
本発明の屋内塵性ダニ類防除用組成物の防除対象となる屋内塵性ダニ類としては、コナダニ、ヒョウヒダニ、ホコリダニ、ツメダニ等が挙げられる。
【0061】
[屋内塵性ダニ類防除用エアゾール]
本実施形態の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、上述した当該屋内塵性ダニ類防除用組成物をエアゾール製品として使用する場合に相当するものであり、上述した当該屋内塵性ダニ類防除用組成物(原液)と、噴射剤とを耐圧容器に封入してなる。当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールにおいて、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、エアゾール原液である。
【0062】
当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物と、噴射剤とを耐圧容器に封入してなることによって、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを布帛に噴霧処理した際に、有効成分としてのピレスロイド系化合物を布帛の表面のより広い領域に、より深く到達させることができるため、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、屋内塵性ダニ類防除効果が高められたものとなる。
【0063】
<噴射剤>
噴射剤としては、例えばプロパン、ノルマルブタン、イソブタン等の液化石油ガス(LPG)、ノルマルペンタン、イソペンタン、ジメチルエーテル(DME)、及びHFO1234ze等のハイドロフルオロオレフィン等の液化ガス、並びに窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、及び圧縮空気等の圧縮ガスが挙げられる。これらのうち、噴射剤は、圧縮ガスが好ましく、このうち、炭酸ガスがより好ましい。噴射剤として圧縮ガスを使用することによって、噴霧処理時の霧の飛散、付着効率を改善すると共に、噴霧粒子の粒子径を粗くすることができ、また、火気に対する安全性の点で有利となる。また、噴射剤が炭酸ガスであることによって、炭酸ガスを含有する分、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液の液性が酸性に近づき(過度にアルカリ性となることをより回避することができる)、さらに炭酸ガス自体も布帛を傷めないため、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化をより引き起こし難いものとなる。
【0064】
なお、液化ガスは、ゲージ圧(20℃)を0.10~0.70MPaに調整して使用することが好ましい。また、圧縮ガスは、エアゾール容器の内圧が、好ましくは0.30~0.80MPa、より好ましくは0.40~0.70MPa、さらに好ましくは0.50~0.70MPaとなるように調整して使用すればよい。なお、必要に応じて、噴射圧を調整するために、ジメチルエーテルや液化石油ガス(LPG)を混合してもよい。上記噴射圧を上記範囲内とすることによって、噴霧粒子の粒子径がより適切な範囲内に調整されたものとなるため、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、布帛の劣化をより引き起こし難いものとなり、また、屋内塵性ダニ類防除により優れたものとなる。
【0065】
当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールが噴射剤として圧縮ガスを含有する場合、屋内塵性ダニ類防除成分[(A)とする]の、圧縮ガス[(B)とする]対する配合重量比[(A)/(B)]は、0.04≦(A)/(B)≦0.28が好ましく、0.07≦(A)/(B)≦0.25がより好ましく、0.08≦(A)/(B)≦0.16がさらに好ましい。配合重量比[(A)/(B)]を上記範囲内とすることによって、噴霧粒子の粒子径がより適切な範囲内に調整されたものとなる。
【0066】
当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを噴霧するための噴射部材としては、メカニカルブレークアップ機構を有する噴射ボタンを用いることが好ましい。噴射部材として、メカニカルブレークアップ機構を有するボタンを用いることによって、より少ない当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液の量で均一に広範囲に噴霧処理を行うことができる。
【0067】
メカニカルブレークアップ機構を有する噴射ボタンは、例えば噴口径が0.2~0.9mm程度であることが好ましい。また、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液を旋回させるための溝は、3~6本程度であることが好ましい。ミスト状に噴霧された噴霧粒子の平均粒子径は、適宜設定することができる。例えば噴口から50cm離れた位置における噴霧粒子の50%体積平均粒子径(Dv50)は、30~150μmが好ましく、50~140μmがより好ましく、70~130μmがさらに好ましい。噴霧粒子の50%体積平均粒子径(Dv50)は、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物の組成、噴射剤の成分、噴射剤の配合量、容器の内圧、噴口の形状等により適宜調整することができる。なお、噴霧粒子の50%体積平均粒子径(Dv50)は、上述と同様にして測定することができる。
【0068】
当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの噴霧量は、例えば3.0~20.0g/10秒が好ましく、4.0~15.0g/10秒がより好ましく、5.0~10.0g/10秒がさらに好ましい。上記噴霧量を上記範囲内とすることによって、より適切に当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを噴霧することができる。
【0069】
<屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの作製>
当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、例えば当該屋内塵性ダニ類防除用組成物(原液)と、噴射剤とからなるエアゾール組成物をエアゾール用の耐圧容器に充填し、エアゾールバルブにより開口を閉止し、エアゾールバルブに、噴口を有する噴射ノズルを備えたアクチュエーターを取り付けることによって作製される。あるいは、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物をエアゾール用の耐圧容器(エアゾール缶等)に充填し、エアゾールバルブにより開口を閉止し、続いて噴射剤を充填し、エアゾールバルブに、噴口を有する噴射ノズルを備えたアクチュエーターを取り付けることによって作製される。耐圧容器としては、エアゾール缶等の公知のもの使用可能である。
【0070】
当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを布帛に噴霧すると、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液は、主として布帛を構成する繊維の表面に付着し、一部が布帛を構成する繊維間の奥部に到達する。一方、屋内塵性ダニ類は、夜行性を有し、日中は布帛の繊維の奥部に潜み、夜間になると、繊維の奥部から表面に移動し、餌を求めて布帛の表面や、布帛以外の場所を徘徊する。このため、例えば、日中に、布帛の表面に当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを噴霧し、原液をその表面に付着させておくと、夜間に布帛の表面に移動した屋内塵性ダニ類が当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液と接触するため、防除効果を発揮することができる。また、布帛の繊維間に屋内塵性ダニ類が未だ潜んでいない場合には、布帛の表面に当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液を付着させておくと、布帛の繊維間に屋内塵性ダニ類が侵入することを抑制することができる。
【0071】
<屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの液性>
当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、下記条件2を満たすものである:
(条件2)屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【0072】
当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、上記条件2を満たすことによって、布帛に噴霧した直後、及び噴霧から1時間経過後において液性が適切に維持されるため、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得るものとなる。
【0073】
上記条件2における調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-9mol/L以上1×10-2.5(3.16×10-3)mol/L以下であることが好ましい。
【0074】
調製直後の水素イオン濃度(A0)を上記範囲内とすることによって、噴霧した直後の液性がより適切なものとなり、これに伴って、噴霧から1時間経過後において液性もより適切に維持されたものとなるため、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化をより引き起こし難いものとなる。
【0075】
上記水素イオン濃度(A0)及び(A1)は、上述した方法によって測定される値である。
【0076】
「布帛の劣化」としては、上述したように、シミ、変色、布帛の収縮、布帛の構成原料の分解等が挙げられる。
【0077】
当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液との混合(希釈)に使用する純水は、上述と同様、電気伝導率が1mS/m以下の水である。
【0078】
<屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの劣化抑制性>
ピレスロイド系化合物を含有する当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの布帛を劣化させない性能(布帛劣化抑制性)は、同量のディートを含有する場合よりも優れていることが好ましい。この性能は、例えば、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物における布帛を劣化させる作用と、ピレスロイド系化合物の代わりにディートを含有させた場合における布帛を劣化させる作用とを比較することによって示される。このような布帛を劣化させる作用としては、収縮の程度等が挙げられ、例えば収縮の程度が大きい程、布帛を劣化させる作用が大きいことになる。
【0079】
<布帛>
布帛としては、上述した当該屋内塵性ダニ類防除用組成物が適用される布帛と同様の布帛が挙げられる。また、上述と同様、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、布帛が動物繊維を含む場合に、優位性が高められたものとなる。
【0080】
<防除対象>
本発明の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの防除対象となる屋内塵性ダニ類としては、上述した当該屋内塵性ダニ類防除用組成物の防除対象と同様、コナダニ、ヒョウヒダニ、ホコリダニ、ツメダニ等が挙げられる。
【0081】
[屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方設計方法]
本実施形態の屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方設計方法は、上述した当該屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方を設計する方法である。上述したように、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物は、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有する。また、当該処方設計方法は、当該屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方を、上述したように、下記条件1を満たすように設計する方法である:
(条件1)屋内塵性ダニ類防除用組成物10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【0082】
具体的には、例えば、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤と、任意の他の成分とを含有する暫定的な屋内塵性ダニ類防除用組成物を探索用試料として調製し、この探索用試料10mLを、純水90mLに混合して希釈を調製し、得られた希釈液の調製直後、及び調製から1時間経過後の水素イオン濃度を測定し、得られた結果が上記条件1を満たすか否かを判定する。上記条件1を満たす場合には、探索用試料に用いた処方を、屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方と決定する。一方、上記条件1を満たさない場合には、ピレスロイド系化合物の種類及び配合量、並びに他の成分の種類及び配合量を、上記条件1を満たすように適宜調整し、調整後の処方を、屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方と決定する。
【0083】
当該処方設計方法によれば、上記条件1を満たすように屋内塵性ダニ類防除用組成物の処方を設計することによって、上述したように、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得る屋内塵性ダニ類防除用組成物を得ることができる。
【0084】
[屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方設計方法]
本実施形態の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方設計方法は、上述した当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方を設計する方法である。上述したように、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤とを含有する当該屋内塵性ダニ類防除用組成物(原液)と、噴射剤とを耐圧容器に封入してなる。また、当該処方設計方法は、当該屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方を、上述したように、下記条件2を満たすように設計する方法である:
(条件2)屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液10mLを、純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、当該希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である。
【0085】
具体的には、例えば、有効成分としてのピレスロイド系化合物と、有機溶剤と、任意の他の成分とを含有する暫定的な屋内塵性ダニ類防除用組成物(原液)と、暫定的な噴射剤との混合物(エアゾールの内容物)を探索用試料として調製し、この探索用試料を、原液の量が10mLとなる量で、純水90mLに混合して希釈液を調製し、得られた希釈液の調製直後、及び調製から1時間経過後の水素イオン濃度を測定し、得られた結果が上記条件2を満たすか否かを判定する。上記条件2を満たす場合には、探索用試料に用いた処方を、屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方と決定する。一方、上記条件2を満たさない場合には、ピレスロイド系化合物の種類及び配合量、他の成分の種類及び配合量、噴射剤の種類及び配合量を、上記条件2を満たすように適宜調整し、調整後の処方を、屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方と決定する。
【0086】
当該処方設計方法によれば、上記条件2を満たすように屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの処方を設計することによって、上述したように、布帛に噴霧処理した際に、布帛の劣化を引き起こし難く、かつ優れた屋内塵性ダニ類防除効果を発揮し得る屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得ることができる。
【実施例0087】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実施例1~5、比較例1]液剤(スプレー製品)
表1に示すように、フェノトリン0.7g(0.7w/v%)、及びN-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]-ヘプタ-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(以下「MGK-264」と記載する。)2.0g(2.0w/v%)を、溶剤である無水エタノール(水の含有量0.5w/v%以下)に溶解して、実施例1の屋内塵性ダニ類防除用組成物100mLを調製し、これをスプレー容器に封入してスプレー製品を得た。
【0089】
表1に示す処方に従い、安定化剤としてのクエン酸又はトリエタノールアミンをさらに添加したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~5、及び比較例1の屋内塵性ダニ類防除用組成物100mLを調製し、これらを夫々スプレー容器に封入してスプレー製品を得た。
【0090】
実施例1~5、及び比較例1の屋内塵性ダニ類防除用組成物(液剤)を用い、この10mLを、電気伝導率が1mS/m以下の精製水(純水)90mLに対して噴霧することにより混合して、希釈液を調製した。この希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)、及び調製から1時間経過後の水素イオン濃度(A1)を、上述した方法によって測定し、比(A1/A0)を算出した。また、各水素イオン濃度を測定する際、同時に、希釈液の調製直後のpH(pH(0))、及び調製から1時間経過後のpH(pH(1))を併せて測定し、差[pH(0)-pH(1)]を算出した。結果を表1に示す。
【0091】
[実施例6~11、比較例2~5]エアゾール剤(エアゾール製品)
表2に示すように、フェノトリン0.7g(0.7w/v%)、及びMGK-264 2.0g(2.0w/v%)を、溶剤である無水エタノール(水の含有量0.5w/v%以下)に溶解して、屋内塵性ダニ類防除用組成物(原液)100mLを調製し、エアゾール容器に投入した。さらに、噴射剤である炭酸ガスをエアゾール容器の内圧が0.65MPaとなるように充填して、実施例6の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得た。
【0092】
表2に示す処方に従い、安定化剤としてのクエン酸をさらに添加したこと以外は実施例6と同様にして、実施例7の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得た。
【0093】
表2に示す処方に従い、水をさらに添加したこと以外は実施例6と同様にして、実施例8の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得た。表2に示す処方に従い、水をさらに添加すると共に、安定化剤としてのクエン酸又はトリエタノールアミンをさらに添加したこと以外は実施例6と同様にして、実施例9及び10の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得た。
【0094】
表2に示す処方に従い、噴射剤として炭酸ガスに代えて液化石油ガス(LPG)を使用したこと以外は実施例6と同様にして、実施例11の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得た。
【0095】
表3に示す処方に従い、安定化剤としてのトリエタノールアミンをさらに添加したこと以外は実施例6と同様にして、比較例2の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得た。
【0096】
表3に示す処方に従い、フェノトリンに代えてディートを添加したこと以外は実施例6と同様にして、比較例3の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得た。表3に示す処方に従い、フェノトリンに代えてディートを添加すると共に、安定化剤としてのクエン酸又はトリエタノールアミンをさらに添加したこと以外は実施例6と同様にして、比較例4及び5の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを得た。
【0097】
実施例6~11、及び比較例2~5の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールを用いること以外は実施例1~5と同様にして、希釈液の水素イオン濃度(A0)、(A1)を測定し、比(A1/A0)を算出すると共に、希釈液のpH(0)、pH(1)を測定し、差[pH(0)-pH(1)]を算出した。なお、希釈においては、各エアゾールを、原液の量が10mLとなるように、精製水90mLに対して噴霧した。結果を表2及び3に示す。
【0098】
[試験例1]布帛の劣化抑制性の評価
実施例1~11、及び比較例1~5で得られた希釈液を用い、以下のように、布帛の劣化抑制性として、収縮度を評価した。
【0099】
20cm×20cmのガラスシャーレに、10cm×10cmの正方形状に切り取った羊毛製の布帛(初期面積F0:100cm、目付:92.8g/m)を設置し、この布帛に対して実施例1の希釈液を注ぎ、布帛全体を浸漬させた。希釈液中の成分が揮散しないように、シャーレの開口をアルミホイルで覆い、この状態にて40℃の環境下に72時間保管した。保管後、シャーレから布帛を取り出し、乾燥させた後、布帛の各辺の長さを測定し、得られた各辺の長さから、72時間保管後の布帛の面積F1(cm)を算出した。得られた面積F1の初期面積F0に対する比率を、下記式(1)を用いて算出することによって、布帛の収縮度X(%)を得た。そして布帛の収縮度(すなわち、布帛の構成原料である繊維の収縮度)を、下記の判定基準で評価した。結果を表1に示す。
X=(F1/F2)×100 ・・・(1)
【0100】
(判定基準)
A:Xが95%以上(X≧95%) (極めて良好)
B:Xが90%以上95%未満(90%≦X<95%)(良好)
C:Xが90%未満(X<90%) (不良)
【0101】
実施例2~11、及び比較例1~5についても実施例1と同様にして試験を行い、布帛の収縮度を評価した。結果を表1~3に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
表1~3に示すように、屋内塵性ダニ類防除用組成物及び屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液の夫々10mLを純水90mLに混合して希釈液を調製したとき、希釈液の希釈調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L以上であり、かつ調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する、調製から1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下である実施例1~11は、何れも布帛の収縮度がB以上となり、劣化抑制性に優れたものであること、すなわち布帛に劣化を引き起こし難いものであることが示された。特に、上記希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-9mol/L以上1×10-2.5(3.16×10-3)mol/L以下である実施例1~4、6~9及び11は、何れも布帛の収縮度がAとなり、劣化抑制性により優れたものであること、すなわち布帛に劣化をより引き起こし難いものであることが示された。
【0106】
これに対し、希釈液の調製直後の水素イオン濃度(A0)が1×10-10mol/L未満である比較例1、及び調製直後の水素イオン濃度(A0)に対する1時間経過後の水素イオン濃度(A1)の比(A1/A0)が0.70以上2以下の範囲外である比較例2は、布帛の収縮度がCとなり、劣化抑制性に劣るものであること、すなわち布帛に劣化を生じさせ易いものであることが示された。比較例1は、調製直後、及び1時間経過後においてpHが10を超えていた。比較例2は、調製直後においてはpHが10を超えていないものの、調製直後に対して1時間経過後の方が、pHが比較的大きく増加し、1時間経過後においてpHが10を超えていた。また、フェノトリンに代えてディートを使用した比較例3~5は、布帛の収縮度がCとなり、劣化抑制性に劣るものであることが示された。
【0107】
上記のように、試験例1の結果は、実施例1~11、及び比較例1~5の各屋内塵性ダニ類防除用組成物及び屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液を純水で希釈した後、布帛を浸漬させて劣化抑制性を評価した結果である。ここで、各屋内塵性ダニ類防除用組成物及び屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液の濃度が高い程、布帛に及ぼす劣化の程度は大きくなる。このため、各屋内塵性ダニ類防除用組成物及び屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液の夫々を純水で希釈した場合の劣化の程度よりも、希釈前の場合の方が、劣化の程度が大きくなる。従って、上記試験例1の結果は、希釈前のものである実施例1~11、及び比較例1~5の各屋内塵性ダニ類防除用組成物及び屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液の劣化の程度を、より精度良く評価した試験結果であるといえる。なお、純水で希釈していない実施例1~4の屋内塵性ダニ類防除用組成物に、上記と同様にして布帛を浸漬させて布帛の劣化抑制性を評価したところ、評価が「A」であった。従って、実施例1~11、及び比較例1~5の結果によれば、屋内塵性ダニ類防除用組成物、及び屋内塵性ダニ類防除用エアゾールの原液について、純水に混合して調製した希釈液の特定の水素イオン濃度が特定の条件を満たすように、有効成分であるピレスロイド化合物、有機溶剤、噴射剤、及び任意の成分の種類及び配合量(すなわち、処方)を設計することによって、布帛に対して優れた劣化抑制性を発揮し得る屋内塵性ダニ類防除用組成物、及び屋内塵性ダニ類防除用エアゾールが得られることが示された。
【0108】
[試験例2]効力試験(屋内塵性ダニ類防除効果)
実施例1の屋内塵性ダニ類防除用組成物(スプレー製品)を、リビングのカーペットに対して1mあたり4プッシュ(屋内塵性ダニ類防除用組成物の噴霧量として4mL)した。その結果、約1カ月間にわたり、イエダニ類、マダニ類、及び屋内塵性ダニ類がカーペットに寄り付くことがなく、これにより、実施例1のスプレー製品は、屋内塵性ダニ類防除効果に優れるものであることが示された。
【0109】
実施例6の屋内塵性ダニ類防除用エアゾール(エアゾール製品)を、リビングのカーペットに対して1mあたり5秒間噴霧(屋内塵性ダニ類防除用組成物と噴射剤との混合物の噴霧量として4g)した。その結果、約1カ月間にわたり、イエダニ類、マダニ類、及び屋内塵性ダニ類がカーペットに寄り付くことがなく、これにより、実施例6の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、屋内塵性ダニ類防除効果に優れるものであることが示された。
【0110】
実施例11の屋内塵性ダニ類防除用エアゾール(エアゾール製品)を、リビングのカーペットに対して1mあたり5秒間噴霧(屋内塵性ダニ類防除用組成物と噴射剤との混合物の噴霧量として4g)した。その結果、約1カ月間にわたり、イエダニ類、マダニ類、及び屋内塵性ダニ類がカーペットに寄り付くことがなく、これにより、実施例11の屋内塵性ダニ類防除用エアゾールは、屋内塵性ダニ類防除効果に優れるものであることが示された。
【0111】
また、実施例1、6、及び11の結果を鑑みれば、実施例2~5、及び7~10においても、実施例1、6、及び11と同等の屋内塵性ダニ類防除効果が得られるものと、合理的に推察される。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の屋内塵性ダニ類防除用組成物、屋内塵性ダニ類防除用エアゾール、及びこれらの処方設計方法は、屋内において布帛の繊維の奥に潜む習性を有する塵性ダニ類を防除する用途に利用可能である。