(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036919
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】X線管装置
(51)【国際特許分類】
H01J 35/16 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
H01J35/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141475
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 豪
(57)【要約】
【課題】 電気絶縁性の低下を防止できる信頼性の高いX線管装置を提供する。
【解決手段】 電子を放出するフィラメントを備える陰極と、フィラメントから放出された電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットを備える陽極と、X線を取り出すX線取出し窓を有し、前記陰極及び前記陽極を収容して真空に維持するセラミックス製の真空外囲器と、を備えるインサートX線管と、インサートX線管を収納するハウジングと、インサートX線管と前記ハウジングとの間に充填される電気絶縁性のモールド材と、インサートX線管の前記陽極に接続する高電圧供給ケーブルと、を備えるX線管装置であって、
ハウジング内に、モールド材の主成分の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数の部材であり、モールド材の応力を緩和する応力緩和部材を設けている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出するフィラメントを備える陰極と、前記フィラメントから放出された電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットを備える陽極と、前記X線を取り出すX線取出し窓を有し、前記陰極及び前記陽極を収容して真空に維持するセラミックス製の真空外囲器と、を備えるインサートX線管と、
前記インサートX線管を収納するハウジングと、
前記インサートX線管と前記ハウジングとの間に充填される電気絶縁性のモールド材と、
前記インサートX線管の前記陽極に接続する高電圧供給ケーブルと、
を備えるX線管装置であって、
前記ハウジング内に、前記モールド材の主成分の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数の部材であり、前記モールド材の応力を緩和する応力緩和部材を設けたX線管装置。
【請求項2】
前記応力緩和部材は、前記高電圧供給ケーブルの周囲に設けてある請求項1に記載のX線管装置。
【請求項3】
前記応力緩和部材は、前記ケーブルの周囲を囲む環状部材であり、前記環状部材には、
溶融状態のモールド材をハウジング内に注入するときに、前記溶融状態のモールド材が通過可能なモールド材通過孔が形成されている請求項2に記載のX線管装置。
【請求項4】
前記応力緩和部材は、インサートX線管の周囲に設けてある請求項1に記載のX線管装置。
【請求項5】
前記応力緩和部材は、前記インサートX線管の側面を囲む環状部材であり、前記環状部材には、溶融状態のモールド材をハウジング内に注入するときに、前記溶融状態のモールド材が通過可能なモールド材通過孔が形成されている請求項4に記載のX線管装置。
【請求項6】
前記モールド材の主成分はシリコーン樹脂であり、前記応力緩和部材は、フェノール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン及びポリテトラフルオロエチレンの群から選択される少なくとも1つの樹脂材を含む請求項1に記載のX線管装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管装置として、X線管に高電圧を供給する高電圧供給ケーブルと、X線管とを分割できるように接続して、メンテナンスし易くしているものがある。
かかるX線管装置は、電子を放出するフィラメントを備える陰極と、フィラメントから放出された電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットを備える陽極と、X線取出し窓を有すると共に陰極及び陽極を収容して真空に維持するセラミック真空外囲器とを備えるインサートX線管と、インサートX線管を収納するハウジングとで構成し、インサートX線管の陽極に高電圧供給ケーブルを接続している。
インサートX線管とハウジングとの間には、電気絶縁性のモールド材を充填している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高電圧供給ケーブルは、芯線の周囲を絶縁性の高いシリコーン樹脂、フッ素樹脂等の被覆材で覆われている。
一方、インサートX線管とハウジングとの間に充填されるモールド材は、例えば主成分がシリコーン樹脂であるが、シリコーン樹脂は他の樹脂との密着性が低い為、モールド材と高電圧供給ケーブルの被覆材との密着性が低く、使用中の熱収縮や高電圧供給ケーブル取り扱い時に発生する外力により、密着が損なわれ空乏が発生してしまうことがあった。
【0005】
更に、X線管装置の製造時において、モールド材の加熱硬化後に室温もしくは動作温度に戻った際に発生する収縮応力により、モールド材内部に微小空洞などが存在すると応力集中により、モールド材の材料強度以上の応力によりモールド材内部破壊により亀裂が発生することがある。
そして、亀裂部分の空乏に高電圧を印加すると、絶縁抵抗が低下するため放電が発生し、インサートX線管の電気絶縁が低下してしまう問題があった。
【0006】
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、電気絶縁性の低下を防止できる信頼性の高いX線管装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、一実施形態は、電子を放出するフィラメントを備える陰極と、前記フィラメントから放出された電子が照射されることによりX線を放出する陽極ターゲットを備える陽極と、前記X線を取り出すX線取出し窓を有し、前記陰極及び前記陽極を収容して真空に維持するセラミックス製の真空外囲器と、を備えるインサートX線管と、
前記インサートX線管を収納するハウジングと、
前記インサートX線管と前記ハウジングとの間に充填される電気絶縁性のモールド材と、
前記インサートX線管の前記陽極に接続する高電圧供給ケーブルと、
を備えるX線管装置であって、
前記ハウジング内に、前記モールド材の主成分の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数の部材であり、前記モールド材の応力を緩和する応力緩和部材を設けたX線管装置である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るX線管装置の概略的構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るX線管装置の断面図であって、モール材の注入工程の図である。
【
図4】
図4は、従来技術との比較において、モールド材の応力とひずみとの関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係るX線管装置の概略的構成を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係るX線管として固定陽極型X線管について詳細に説明する。なお、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0010】
図1に示すように、X線管装置1は、インサートX線管3と、ハウジング5と、高電圧供給ケーブル7とを備えており、ハウジング5内には、モールド材9と、応力緩和部材11とが設けられている。
インサートX線管3は、陰極13と、陽極15と、陰極13及び陽極15を収納した真空外囲器19とを備えている。
【0011】
陰極13には、電子を放出するフィラメント21が設けられており、陽極15には先端部15aに陽極ターゲット23が設けられている。
フィラメント21は、陽極ターゲット23の外周側に配置されており、陽極ターゲット23とフィラメント21との間には、収束電極25が設けてある。
【0012】
真空外囲器19は、陰極側真空外囲器19aと陽極側真空外囲器19bとから構成されている。
陰極側真空外囲器19aは、内部を真空保持しており、先端外径が徐々に細くした筒状であり、先端面の平坦部にX線を透過するX線取出し窓17が設けられている。
X線取出し窓17は、陰極側真空外囲器19aの先端側に形成されており、X線の減衰が少ない材料、例えばベリリウム(Be)で形成されている。
【0013】
陰極側真空外囲器19a内の中心部には、陽極15の先端部15aが配置されている。陽極15の先端部15aは収束電極25の内周側に配置されるとともに先端で陽極ターゲット23を支持している。陽極15の後端部15bは、セラミックス製の陽極側真空外囲器19bの後端から後側に突設してあり、陽極側真空外囲器19bと陽極15との間が封止状態で結合されている。
【0014】
陽極側真空外囲器19bの先端側は、外周に向けて突設した鍔部31が形成されており、この鍔部31がハウジング5の先端部5aに重ねてハウジング5に取り付けられている。これにより、陽極側真空外囲器19bは、鍔部31を除く全体がハウジング5内に配置される。
また、鍔部31の先端面27には金属膜29が形成してあり、金属膜29にフィラメント21を支持する陰極側真空外囲器19aがろう付けされている。
【0015】
陽極15には、その後端部15bに陽極ターゲット23に高電圧を印加するための高電圧供給ケーブル7が接続されている。
高電圧供給ケーブル7は、ハウジング5の外部からケーブル挿入口33を介してハウジング5内に導入されている。
【0016】
高電圧供給ケーブル7は、芯線7aと、被覆材7bとから構成されており、芯線7aは接続線8を介して陽極15の後端部15bに接続されている。
被覆材7bとしては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂やニトリルゴムが用いられる。
ケーブル挿入口33には、ケーブル支持部品35が設けられており、高電圧供給ケーブル7はケーブル支持部品35に挿通されていると共に、ケーブル支持部品35でケーブル挿入口33が蓋をされている。
【0017】
ハウジング5内には、モールド材9と応力緩和部材11とが設けられている。
モールド材9はハウジング5内に充填されており、応力緩和部材11はハウジング5の軸線X方向に沿って間隔をあけて設けている。
応力緩和部材11は、モールド材9の変形を防止するものであり、モールド材9が加熱後に常温に戻った際に変形しにくい状態になることを目的としており、変形量が少なくなることで、微小亀裂部分等によるモールド材9の亀裂の進行を抑制することができる。
【0018】
モールド材9は、電気絶縁性を有する熱硬化樹脂であり、例えば主成分がシリコーン樹脂(熱膨張係数が2~4x10-4/K)である。モールド材9の充填方法については、後述する。
応力緩和部材11は、本実施形態では、設置位置及び大きさの異なるものが3種類用いられている。即ち、ケーブル挿入口33において、高電圧供給ケーブル7の周囲に設けた第1応力緩和部材11aと、ケーブル挿入口33とインサートX線管3との間で、高電圧供給ケーブル7の周囲に設けた第2応力緩和部材11bと、インサートX線管3の周囲に設けた第3応力緩和部材11cとである。
【0019】
応力緩和部材11の材質は、絶縁材があることが必要であるが、モールド材9の加熱硬化時に発生する熱膨張・熱収縮による応力によって異なるが、加熱温度とモールド材の熱膨張係数により決まる。
【0020】
係る応力緩和部材11の一例としては、フェノール樹脂(熱膨張係数3x10-5/K)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:熱膨張係数5x10-5/K)、ポリテトラフルオロエチレン(熱膨張係数12x10-5/K)等が挙げられる。
【0021】
図2に示すように、第1応力緩和部材11aは環状を成しており、中央孔41と、環状部分(環状部材)43の周方向に間隔を空けて設けたモールド材通過孔45とが形成されている。第1応力緩和部材11aでは、中央孔41に高電圧供給ケーブル7が挿通されている。モールド材通過孔45は後述するが、溶融モールド材9の通過孔となっている。
図1に参照されるように、第1応力緩和部材11aの外周縁はネジ等の固定部材でケーブル挿入口33に固定されている。
【0022】
第2応力緩和部材11b及び第3応力緩和部材11cは、第1応力緩和部材11aと寸法は異なるが、同様な形状を成しており、それぞれ中央孔41と、環状部分43に設けたモールド材通過孔45とが形成されている。尚、
図1では、第3応力緩和部材11cのモールド材通過孔45を省略している。
第2応力緩和部材11bは、ハウジング5内に設けてあり、中央孔41には、高電圧供給ケーブル7の先端部及び接続線8が挿通されている。
第3応力緩和部材11cは、中央孔41にインサートX線管3が挿通されている。
【0023】
第2及び第3応力緩和部材11b、11cにおいて、モールド材通過孔45は、第1応力緩和部材11aと同様に溶融したモールド材9の通過孔となっている。また、第2及び第3応力緩和部材11b、11c外周縁は、ネジ等の固定部材でハウジング5の内周面に固定されている。
【0024】
次に、X線管装置1の製造方法について説明する。
ハウジング5内に各応力緩和部材11a~11cを配置して、固定する。
次に、ハウジング5にインサートX線管3を挿入して固定する。
【0025】
その後、
図3に示すように、インサートX線管3を下に向け、ケーブル挿入口33を上に向けて配置し、ケーブル挿入口33から溶融したモールド材9を注入する。注入された溶融モールド材9は重力により落下し、各応力緩和部材11a~11cのモールド材通過孔45や中央孔41の隙間を介して、ハウジング5内に充填される。
次に、溶融モールド材9を加熱硬化し、その後ケーブル支持部品35でケーブル挿入口33に蓋をして、
図1に示すX線管装置1を得る。
【0026】
本実施形態に係るX線管装置1の作用効果について説明する。
X線管装置1の製造時において、モールド材9の加熱硬化後に室温もしくは動作温度に戻った際に発生する収縮応力により、モールド材9の内部に微小空洞などが発生し、更に応力集中により、亀裂が発生しようとする。
しかし、
図1に示すように、ハウジング5内にモールド材9に対する応力緩和部材11を設けて、ハウジング5内を区切っているので、収縮応力を低減でき、亀裂の発生を防止できると共に亀裂が生じた場合でも亀裂を小さくできる。
【0027】
特に、第1及び第2応力緩和部材11a、11bを設けて、高電圧供給ケーブル7の被覆材7bと密着性の低いモールド材9について、ハウジング5内における高電圧供給ケーブル7がある付近に第1応力緩和部材11a及び第2応力緩和部材11bを設けているので、高電圧供給ケーブル7付近で生じ易い亀裂の発生を防止できると共に亀裂が生じた場合でも亀裂を小さくできる。
応力緩和部材11は、ハウジング5の長手軸線X方向に沿って複数設けているので、高電圧供給ケーブル7から長手軸線方向に生じ易い長い亀裂の発生を防止できる。
【0028】
即ち、本実施形態に係るX線管装置1によれば、
図4に示すように、モールド材9の応力(a)は、応力緩和部材11のない従来品E1と、本実施形態品E2とでほとんど変わらないが、ひずみ(ε)を従来品E1よりも低減できる。
【0029】
各応力緩和部材11a、11b、11cは、環状部分43に周方向に間隔をあけて形成したモールド材通過孔45を設けているので、ハウジング5内に溶融モールド材9を充填する製造時に、溶融モールド材9をハウジング5内の全体に行き渡らせることができる。
【0030】
以下に他の実施の形態について説明するが、以下に説明する実施の形態において、上述した第1実施の形態と同一の作用効果を奏する部分には、同一の符号を付して、その部分の詳細な説明を省略する。
図5を参照して、第2実施の形態について説明する。
この第2実施形態では、高電圧供給ケーブル7の付近にのみ応力緩和部材11を設けている。即ち、第1実施形態における第1応力緩和部材11a及び第2応力緩和部材11bのみをハウジング5内に設けており、第3応力緩和部材11を設けていないことが第1実施形態と異なっている。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0031】
この第2実施形態によれば、高電圧供給ケーブル7の被覆材7bと密着性の低いモールド材9について、高電圧供給ケーブル7付近で生じ易い亀裂の発生を防止できると共に亀裂が生じた場合でも亀裂を小さくできる。
応力緩和部材11は、ハウジング5の長手軸線X方向に沿って複数設けているので、高電圧供給ケーブル7から長手軸線方向に生じ易い長い亀裂の発生を防止できる。
【0032】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1…X線管装置、3…インサートX線管、5…ハウジング、7…高電圧供給ケーブル、9…モールド材、11…応力緩和部材、11a…第1応力緩和部材、11b…第2応力緩和部材、11c…第3応力緩和部材、13…陰極、15…陽極、17…X線取出し窓、19…真空外囲器、21…フィラメント、23…陽極ターゲット。